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特表2022-538350Ru-PNN錯体存在下でのエステルのアルコールへの水素化
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-01
(54)【発明の名称】Ru-PNN錯体存在下でのエステルのアルコールへの水素化
(51)【国際特許分類】
   C07C 29/149 20060101AFI20220825BHJP
   C07C 33/26 20060101ALI20220825BHJP
   C07C 33/22 20060101ALI20220825BHJP
   C07C 33/02 20060101ALI20220825BHJP
   C07C 31/08 20060101ALI20220825BHJP
   C07C 31/125 20060101ALI20220825BHJP
   C07C 33/46 20060101ALI20220825BHJP
   C07C 43/23 20060101ALI20220825BHJP
   C07C 41/18 20060101ALI20220825BHJP
   C07C 31/20 20060101ALI20220825BHJP
   B01J 31/24 20060101ALI20220825BHJP
   C07D 213/803 20060101ALI20220825BHJP
   C07D 307/33 20060101ALI20220825BHJP
   C07C 33/05 20060101ALI20220825BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20220825BHJP
【FI】
C07C29/149
C07C33/26
C07C33/22
C07C33/02
C07C31/08
C07C31/125
C07C33/46
C07C43/23 A
C07C41/18
C07C31/20 Z
B01J31/24 Z
C07D213/803
C07D307/33 100
C07C33/05 C
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021577923
(86)(22)【出願日】2020-06-24
(85)【翻訳文提出日】2022-02-21
(86)【国際出願番号】 EP2020067683
(87)【国際公開番号】W WO2021001240
(87)【国際公開日】2021-01-07
(31)【優先権主張番号】19184178.2
(32)【優先日】2019-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】20171976.2
(32)【優先日】2020-04-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シェルヴィース,マティアス
(72)【発明者】
【氏名】シュヴァーベン,ヨーナス
(72)【発明者】
【氏名】パチェロ,ロッコ
【テーマコード(参考)】
4C055
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4C055AA01
4C055BA01
4C055CA02
4C055CA57
4C055CB02
4C055DA01
4G169AA06
4G169BA27A
4G169BA27B
4G169BC70A
4G169BC70B
4G169BE01A
4G169BE01B
4G169BE13A
4G169BE15A
4G169BE15B
4G169BE16A
4G169BE16B
4G169BE18A
4G169BE25A
4G169BE27A
4G169BE27B
4G169BE34A
4G169BE36B
4G169BE37A
4G169BE37B
4G169BE38A
4G169BE46B
4G169CB02
4G169CB70
4H006AA02
4H006AC41
4H006BA23
4H006BA48
4H006BA61
4H006BA81
4H006BA82
4H006BC34
4H006BE20
4H006FC32
4H006FC50
4H006FC52
4H006FE11
4H006FG29
4H039CA60
4H039CB20
4H039CB40
4H039CH70
(57)【要約】
本発明は、エステルを、ルテニウム錯体(I)の存在下で分子状水素を用いて対応するアルコールに水素化する方法であって、前記錯体が、一般式(II)の三座配位子Lを含み、n及びmがそれぞれ独立して、0又は1であり、実線-破線の二重線が単結合又は二重結合を表し、ただし、n=1の場合、両方の実線-破線の二重線が単結合を表し、mが1であり、n=0の場合、一方の実線-破線の二重線が単結合を表し、もう一方の実線-破線の二重線が二重結合を表し、フェニル環に面する側に二重結合がある場合、m=1であり、ピリジル環に面する側に二重結合がある場合、m=0であるか、又は両方の実線-破線の二重線が単結合を表し、mが1である方法に関する。
【化1】
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エステルを、5又は6配位ルテニウム錯体(I)の存在下、50から200℃の温度及び0.1から20MPa absの圧力で分子状水素を用いて水素化して対応するアルコールを得る方法であって、ルテニウム錯体は架橋されてダイマーを形成していてもよく、ルテニウム錯体が一般式(II)の三座配位子L
【化1】
(式中、
R1、R2はそれぞれ独立して、1から8個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素基、6個若しくは10個の炭素原子を有する芳香族炭化水素基、又は7から12個の炭素原子を有する芳香脂肪族炭化水素基であり、指定された炭化水素基は置換されていないか又は1から3個のメトキシ、チオメトキシ、若しくはジメチルアミノ基で置換されており、2つの基R1及びR2は互いに結合して、リン原子を含む5から10員環を形成していてもよく、
R3、R4、R5、R6、R10、R11はそれぞれ独立して、水素、直鎖状C1からC4-アルキル、分岐状C3からC4-アルキル、メトキシ、ヒドロキシル、トリフルオロメチル、ニトリル又はアルキル基1個あたり1から4個の炭素原子をそれぞれ独立して有するジアルキルアミノであり、
R7、R8、R9はそれぞれ独立して、水素、直鎖状C1からC4-アルキル、又は分岐状C3からC4-アルキルであり、
n、mはそれぞれ独立して、0又は1であり、
実線-破線の二重線は単結合又は二重結合であり、ただし、
n=1の場合、両方の実線-破線の二重線は単結合を表し、mは1であり、
n=0の場合、一方の実線-破線の二重線は単結合を表し、もう一方の実線-破線の二重線は二重結合を表し、フェニル環に面する側に二重結合がある場合、m=1であり、ピリジル環に面する側に二重結合がある場合、m=0であるか、又は両方の実線-破線の二重線は単結合を表し、mは1である)
を含む、方法。
【請求項2】
(i)n及びmがいずれの場合も1であり、2つの実線-破線の二重線が単結合を表すか、又は
(ii)nが0であり、mが1であり、フェニル環に面する実線-破線の二重線が二重結合を表し、ピリジル環に面する実線-破線の二重線が単結合を表し、
R1及びR2の両方の基が、フェニル、p-トリル、3,5-ジメチル-4-メトキシフェニル、イソブチル又はシクロヘキシルであり、
R3、R4及びR6基が水素であり、
R5及びR10基が、水素、メチル又はtert-ブチルであり、
R11基が、水素、メチル又はメトキシであり、
R7、R8及びR9基が水素又はメチルである配位子L(II)が使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ルテニウム錯体(I)が酸化状態+2又は+3のルテニウムを含み、一般式(IA)
[Ru(L)XaYb]pZ(p・c) (IA)
(式中、
Xはいずれの場合も独立して、中性単座配位子であり、2つの配位子Xは結合して中性二座配位子を形成していてもよく、
Yはいずれの場合も独立して、「-1」の電荷を有するアニオン性単座配位子であり、
Y及びXは、一緒になって「-1」の電荷を有するアニオン性二座配位子であってもよく、
Zはいずれの場合も独立して、「-1」の電荷を有する非配位性アニオンであり、2つの配位子Zは結合して「-2」の電荷を有する非配位性アニオンを形成していてもよく、
a、b及びcはそれぞれ独立して、0、1、2又は3であり、
pは1又は2であり、
ただし、
a+b+cは、1、2、3、4、5又は6に等しく、
b及びcは、ルテニウム錯体(IA)が総電荷「0」を有するように決定される)
を有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ルテニウム錯体(I)が、配位子(II)とRu前駆体錯体(IV)とを反応させることによって得られる、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
一般式(III)のエステル
【化2】
(式中、Ra及びRb基はそれぞれ独立して、炭素含有有機、直鎖状又は分岐状、非環式又は環式、飽和又は不飽和、脂肪族、芳香族又は芳香脂肪族基であり、この基は、置換されていないか又はヘテロ原子若しくは官能基で中断又は置換されており、15から10000g/molのモル質量を有し、2つの基Ra及びRbは互いに結合していてもよい)
がエステルとして使用される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ルテニウム錯体(I)が、Ru前駆体錯体(IV)及び配位子L(II)からin situで形成される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ルテニウム錯体(I)が、
(a)一般式(Va)のアルデヒド又はケトンと
【化3】
一般式(Vb)のアミンとを
【化4】
及び/又は
(b)一般式(VIa)のアミンと
【化5】
一般式(VIb)のアルデヒド又はケトンとを
【化6】
反応させて配位子L(II)を得(式中、R1からR11基は、上記で定義された意味をそれぞれ有する)、その後その単離又は精製を伴わずに、形成された配位子L(II)とRu前駆体錯体(IV)とを反応させることによってin situで形成される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
エステルとルテニウム錯体(I)との間のモル比1から100000が使用される、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
水素化が塩基の存在下で行われる、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
アルコキシド又はアミドが塩基として使用される、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エステルを、三座PNN配位子を有するルテニウム錯体の存在下、分子状水素を用いて水素化して、対応するアルコールを得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルコールは重要な溶媒であるだけではなく、例えば、医薬品、植物防護剤又は香料を製造するための重要な中間体及び合成単位でもある。所望のアルコールのタイプ及び対応する出発材料の入手可能性に応じて、対応するエステルの水素を用いた直接的な水素化又は還元剤を用いた還元が多くの場合に選択される方法である。
【0003】
エステルからのアルコールの合成は、金属水素化物、例えば、LiAlH4又はNaBH4の使用を介し、水素を用いた不均一系接触水素化によって又は水素を用いた均一系接触水素化によって通常達成される。水素を用いた均一系接触水素化は、反応条件を激しくさせることはなく、同時に優れた選択性を伴うことが多い。先行技術によればこの点において、特に多座配位リン、硫黄及び窒素含有配位子を有するルテニウム錯体の使用で達成されることが立証されている。
【0004】
例えば、米国特許第8,013,193号では、ラクトン及びエステルの水素化におけるトリホス配位子、例えば1,1,1-トリス(ジフェニルホスフィノメチル)エタンを有するRu錯体の使用が記載されている。しかし、言及された錯体ははるかに低い反応速度を示す。許容される反応速度は、極めて特定の活性化溶媒(2,2,2-トリフルオロエタノール)を使用することによってのみ達成することができる。しかし次いで、添加された溶媒は生成物から再び分離しなければならない。
【0005】
トリホス配位子の別の欠点は、リン/ルテニウムモル比が3と高いことである。ホスフィン配位子は製造するのが複雑である。更に3つのホスフィノ基は、使用されることになる錯体配位子及びRu錯体のモル質量を比較的高くする。モル質量が高いことは、一般的な取り扱いの観点から基本的に不利である。更に多くの塊を廃棄しなくてはならず、更にリン含有成分は特別な廃棄を必要とするため、使用済みのRu錯体のその後の廃棄には費用がかかる。
【0006】
一連のさまざまな刊行物では、エステルをアルコールに水素化するための四座PNNP配位子を有するRu錯体が記載されている。例えば、Saudanらは、Angewandte Chemie International Edition 2007年、46巻、7473~7476頁、米国特許第7,989,665号、米国特許第8,124,816号、米国特許第8,524,953号及び米国特許第9,193,651号において、とりわけ
【0007】
【化1】
のタイプの配位子(式中、破線はいずれの場合も任意の二重結合を表す)の使用を開示している。6配位Ru錯体における更なる配位子は、特に、Cl、H、BH4、CO、OH、アルコキシ、カルボキシ及びモノホスフィンである。二座及び四座P及びN含有配位子を有するRu錯体に関する一連の試験に基づいて、Saudanらは、前述の物品において、Ru錯体では2つのアミノ-ホスフィノ架橋配位子がエステルをアルコールに水素化するために必要とされることを指摘している。これらは、Ru錯体においてPNNP配位子又は2つのPN配位子の形態であってもよい。
【0008】
1つのPNNP配位子又は2つのPN配位子を有するRu錯体を使用することの欠点は、リン/ルテニウムモル比が2と高いことである。すでに上述のように、ホスフィン配位子は製造するのが複雑である。更にこれらはRu錯体のモル質量が比較的高くなることにつながり、このことは、同じ触媒活性を有する小さな触媒錯体と比較して、その低い原子経済性(触媒錯体あたりの質量がより大きい)に起因して不利である。
【0009】
リン含有量が高いことの欠点は、米国特許第8,471,048号において記載されている一般的な構造の三座PNP配位子
【0010】
【化2】
によっても示されており、そこでは、エステル及びケトン及びラクトンのアルコールへのRu触媒水素化に関しても以前に記載されている。
【0011】
この配位子の欠点は、ビス(2-クロロエチル)アンモニウム塩化物を介した複雑な合成、並びにそれとジフェニルホスフィン及びカリウムtert-ブトキシドとの反応、その後のHClを用いた後処理である(Whitesidesら、J. Org. Chem. 1981年、46巻、2861~2867頁を参照のこと)。
【0012】
Milsteinらは、Angewandte Chemie International Edition 2006年、45巻、1113~1115頁において、エステルをアルコールに水素化するためのPNNタイプのいわゆるピンサー配位子を有するRu錯体の使用を記載している。記載されている三座ピンサー配位子は、骨格としてピリジル基、及びドナー基として低分子量アルキル基をそれぞれ有するホスフィノ及びアミノ基を有する。ここで、名称で言及されるものは、(2-(ジ-tert-ブチルホスフィノメチル)-6-(ジエチルアミノメチル)ピリジンの使用である。
【0013】
【化3】
【0014】
エステルをアルコールに水素化するためのPNNタイプの同様のピンサー配位子は、米国特許第8,178,723号及び米国特許第2017/0,283,447号においても記載されている。
【0015】
言及されたPNNタイプのピンサー配位子を使用することの欠点は、2,6-ジメチルピリジンから出発し、それとN-ブロモスクシンイミド及びジエチルアミンとを反応させて2-ジエチルアミノメチル-6-メチルピリジンを得、その後ブチルリチウムとの反応によってそのメチル基を活性化し、ジ-tert-ブチルホスフィンと反応させることによってPtBu2基を最終的に付加する、最新の試薬を使用したその複雑で多段階合成である。
【0016】
米国特許第2014/0,328,748号では、窒素含有複素環、アミン窒素への脂肪族架橋、及びここからホスフィノ基への少なくとも2つの炭素長を有する更なる脂肪族架橋によって特徴付けられるPNN配位子を有するRu錯体によって触媒されるエステル及びラクトンのアルコールへのRu触媒水素化を教示している。このカテゴリーの典型的な代表として挙げられるものは構造
【0017】
【化4】
のPNN配位子(式中、Rは、アルキル基、例えば、イソプロピル若しくはtert-ブチル、又はフェニル基である)である。
【0018】
この配位子も、-NH-CH2CH2-PR2単位による複雑な合成によってのみアクセス可能である。例えば、合成単位H2N-CH2CH2-PR2は、HPR2と入手困難な2-クロロエチルアミン及びHClとを反応させることによって通常生成される。更に構造単位-CH2CH2-PR2(式中、R=iPr)を有するホスフィンは酸化に対して比較的感受性があり、このことは、配位子の貯蔵安定性が低いこと又は保護ガス雰囲気の使用によって取り扱いにおける費用が高価であることに起因して負の影響を及ぼす。
【0019】
Chemistry An Asian Journal 2016年、11巻、2103~2106頁、Zhangら、では、エステルをアルコールに水素化するための触媒として四座ビピリジン配位子を有するRu錯体の使用が開示されている。特に、そこでは2つのPNNN配位子
【0020】
【化5】
が扱われている。
【0021】
著者らは、ビピリジンフラグメントは高い触媒活性に必須であり、NH基の高酸性度を達成するのに適切であることを教示している。
【0022】
これらの配位子も重大な欠点を有する。例えば、一般的な合成単位からのその合成は、ビピリジンフラグメントに起因して複雑である。2-ブロモピリジン及び2-(ジフェニルホスファネイル)エチルアミン又は(2-(ジフェニルホスファネイル)フェニル)メチルアミンから出発すると、それぞれがn-ブチルリチウムを使用した4段階合成を必要とする。-CH2C6H4-PPh2単位を有する上記で示した配位子も比較的高いモル質量を有する。モル質量が高いことの負の影響は上記ですでに言及している。更に引用された参考文献における触媒の調査では、-CH2C6H4-PPh2単位を有する配位子は、溶媒としてのトルエン中、また塩基としてのナトリウムアルコキシドの存在下でのみ、60%を超える収率を可能にすることが示されている。
【0023】
Organometallics 2007年、26巻、5636~5642頁、Rigoら、では、2-プロパノールを用いたケトンの、対応する第2級アルコール及びアセトンへの移動水素化における、構造
【0024】
【化6】
の三座PNN配位子の、そのRuCl2(PPh3)3との対応するRu錯体への反応後の使用が教示されている。したがって、移動水素化において、還元試薬は水素ではなく、還元性化合物、例えば、第2級アルコール又はHCOOH/アミンが使用される。しかし、ケトンからアルコールへの移動水素化に十分適した触媒は、エステルのアルコールへの水素化において通常十分な活性を示さないことは既知である。ケトン用の移動水素化触媒は、構造的にも、その反応性の点でもエステル用の水素化触媒とは異なる。
【0025】
例えば、Journal of the American Chemical Society 1996年、118巻、2521-2522頁では、ケトンのアルコールへの移動水素化に非常に好適なRu錯体、特に(R)-RuCl[(1S,2S)-p-TsNCH(C6H5)CH-(C6H5)NH2](η-メシチレン)は、ケトンの移動水素化において99%の収率を容易に達成するが、水素を用いた水素化においてはわずか5%の収率しか可能にしないことが示されている。更にNoyoriらは、ケト官能基に加えてエステル官能基も有する基質の場合、移動水素化においてケト官能基のみが対応するアルコールに還元されるが、エステル官能基は還元されないことを示している。
【0026】
国際公開第2017/134,618号では、対応するアルコールを得るための、ケトン及びアルデヒドの移動水素化並びに水素を用いたケトン及びアルデヒドの水素化におけるルテニウム及びオスミウムのモノカルボニル錯体の使用が開示されており、このモノカルボニル錯体は窒素及びリン含有配位子も含んでいる。言及された多数の窒素及びリン含有配位子の中でもまた開示されているものは、とりわけ構造
【0027】
【化7】
の三座PNN配位子である。
【0028】
国際公開第2017/134,618号では、ケトンの移動水素化において高収率を達成するRu錯体触媒が、水素を用いた水素化においては顕著に低い変換率を有することが多くの例によって確認されている。例えば、1-フェニルエタノールを得るための2-プロパノールを用いたアセトフェノンの移動水素化において、番号16、20及び22を有するRu錯体触媒は、100%の変換率をそれぞれ示すが、水素を用いたアセトフェノンの水素化では同じRu錯体触媒でもわずか25から63%の変換しか可能にすることができない。前述のPNN配位子(番号39を有する[Ru(OAc)2(CO)(PNN)])を用いたRu錯体触媒は、2-プロパノールを用いたアセトフェノンの1-フェニルエタノールへの移動水素化において96%の変換率を達成するにすぎず、水素を用いたアセトフェノンの水素化において試験は行われていない。
【0029】
要約すると、均一に触媒されるエステルのアルコールへの水素化に関する先行技術において記載されている配位子は、モル質量が比較的高く、及び/又は生成するのに比較的複雑で手間がかかり、及び/又は比較的低い化学的安定性のみを有することを明言することができる。更にケトンのアルコールへの移動水素化において非常に良好な結果をもたらす配位子は、水素を用いた水素化においては還元剤として通常あまり好適ではなく、特にエステルの水素化において大抵の場合不向きであることは一般的に既知である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
本発明の目的は、エステルを対応するアルコールに均一に触媒する水素化方法であって、先行技術に記載された欠点がないか又はほんのわずかな程度であり、必要とされる装置及び反応条件に関して実施が容易であり、可能な限り最も高い空時収率を可能にする方法を見い出すことであった。
【0031】
特に、触媒活性を有する錯体は、容易に利用可能な原料から直接調製可能であり、エステルのアルコールへの水素化において高い活性を有し、最終的に過度の費用をかけずに使い捨てできるべきである。この文脈において、錯体形成配位子は特に重要なものである。可能な限り少ない触媒質量で管理するために、好ましい配位子は、同等の触媒活性を有する可能な限り最も低いモル質量を、また調製の点で同等の費用を有していなければならない。更に特に複雑な手段を講じることなく使用前に貯蔵安定性を示し、また使用中も安定なままとなるように、配位子の化学的安定性が高いことが望ましい。
【0032】
更に触媒活性を有する錯体は、そのモル質量及び更なる構造にかかわらず、多数のエステルを水素化するために使用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0033】
驚くことに、エステルを、5又は6配位ルテニウム錯体(I)の存在下、50から200℃の温度及び0.1から20MPa absの圧力で分子状水素を用いて水素化して対応するアルコールを得る方法であって、ルテニウム錯体は架橋されてダイマーを形成していてもよく、ルテニウム錯体が一般式(II)の三座配位子L
【0034】
【化8】
(式中、
R1、R2はそれぞれ独立して、1から8個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素基、6個若しくは10個の炭素原子を有する芳香族炭化水素基、又は7から12個の炭素原子を有する芳香脂肪族(araliphatic)炭化水素基であり、指定された炭化水素基は置換されていないか又は1から3個のメトキシ、チオメトキシ若しくはジメチルアミノ基で置換されており、2つの基R1及びR2は互いに結合して、リン原子を含む5から10員環を形成していてもよく、
R3、R4、R5、R6、R10、R11はそれぞれ独立して、水素、直鎖状C1からC4-アルキル、分岐状C3からC4-アルキル、メトキシ、ヒドロキシル、トリフルオロメチル、ニトリル又はアルキル基1個あたり1から4個の炭素原子をそれぞれ独立して有するジアルキルアミノであり、
R7、R8、R9はそれぞれ独立して、水素、直鎖状C1からC4-アルキル又は分岐状C3からC4-アルキルであり、
n、mはそれぞれ独立して、0又は1であり、
実線-破線の二重線は単結合又は二重結合であり、ただし、
n=1の場合、両方の実線-破線の二重線は単結合を表し、mは1であり、
n=0の場合、一方の実線-破線の二重線は単結合を表し、もう一方の実線-破線の二重線は二重結合を表し、フェニル環に面する側に二重結合がある場合、m=1であり、ピリジル環に面する側に二重結合がある場合、m=0であるか、又は両方の実線-破線の二重線は単結合を表し、mは1である)
を含む方法が見い出されている。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明による方法の核心は、エステルを、分子状水素を用いて水素化して対応するアルコールを得ることにおける、一般式(II)の三座配位子Lを含む5又は6配位ルテニウム錯体(I)の使用である。
【0036】
三座配位子Lは一般式(II)のいわゆるPNN配位子である
【0037】
【化9】
(式中、
R1、R2はそれぞれ独立して、1から8個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素基、6個若しくは10個の炭素原子を有する芳香族炭化水素基、又は7から12個の炭素原子を有する芳香脂肪族炭化水素基であり、指定された炭化水素基は置換されていないか又は1から3個のメトキシ、チオメトキシ、若しくはジメチルアミノ基で置換されており、2つの基R1及びR2は互いに結合して、リン原子を含む5から10員環を形成していてもよく、
R3、R4、R5、R6、R10、R11はそれぞれ独立して、水素、直鎖状C1からC4-アルキル、分岐状C3からC4-アルキル、メトキシ、ヒドロキシル、トリフルオロメチル、ニトリル又はアルキル基1個あたり1から4個の炭素原子をそれぞれ独立して有するジアルキルアミノであり、
R7、R8、R9はそれぞれ独立して、水素、直鎖状C1からC4-アルキル又は分岐状C3からC4-アルキルであり、
n、mはそれぞれ独立して、0又は1であり、
実線-破線の二重線は単結合又は二重結合であり、ただし、
n=1の場合、両方の実線-破線の二重線は単結合を表し、mは1であり、
n=0の場合、一方の実線-破線の二重線は単結合を表し、もう一方の実線-破線の二重線は二重結合を表し、フェニル環に面する側に二重結合がある場合m=1であり、ピリジル環に面する側に二重結合がある場合、m=0であり、又は両方の実線-破線の二重線は単結合を表し、m=1である)。
【0038】
三座配位は、配位子L(II)がルテニウム錯体(I)において3つの配位部位を占めることを意味する。3つの配位子ドナー原子はP及び2つのN原子であり、PNN配位子という名称の由来である。
【0039】
中央ドナー原子の環境に関しては、配位子は4つの異なるサブ構造を原理上有することができ、これらは以下でより詳細に説明する。
【0040】
(1)n=1の場合、両方の実線-破線の二重線は単結合を表し、mは1である。これによって一般式(IIa)が得られる。配位子(IIa)は中性であり、そのため電荷は「0」である。
【0041】
【化10】
【0042】
n=0の場合、合計3つの異なるサブ構造が存在する。
【0043】
(2)n=0であり、フェニル環に面する実線-破線の二重線が二重結合であり、ピリジル環に面する実線-破線の二重線が単結合である場合、mは1に等しい。これによって一般式(IIb)が得られる。配位子(IIb)は中性であり、そのため電荷は「0」である。
【0044】
【化11】
【0045】
(3)n=0であり、ピリジル環に面する実線-破線の二重線が二重結合であり、フェニル環に面する実線-破線の二重線が単結合である場合、mは0に等しい。これによって一般式(IIc)が得られる。配位子(IIc)は中性であり、そのため電荷は「0」である。
【0046】
【化12】
【0047】
(4)第4の変形物においてもn=0であるが、両方の実線-破線の二重線は単結合であり、mは1である。その結果、N原子は陰性電荷を有する。これによって一般式(IId)が得られる。したがって配位子(IId)は「-1」の電荷を有する。
【0048】
【化13】
【0049】
配位子(II)のR1及びR2基は大きく変化する場合があり、それぞれ独立して、1から8個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素基、6個若しくは10個の炭素原子を有する芳香族炭化水素基、又は7から12個の炭素原子を有する芳香脂肪族炭化水素基であり、指定された炭化水素基は、置換されていないか又は1から3個のメトキシ、チオメトキシ若しくはジメチルアミノ基で置換されていてもよく、2つの基R1及びR2は互いに結合して、リン原子を含む5から10員環を形成していてもよい。
【0050】
1つの脂肪族炭化水素基の場合、これは、非分岐状若しくは分岐状又は直鎖状若しくは環式であってもよい。脂肪族炭化水素基は好ましくは1から6個の炭素原子、特に好ましくは1から4個の炭素原子、特に好ましくは1から2個の炭素原子を有する。言及され得る特定の例は、メチル、エチル、イソプロピル、n-プロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル(tBuとも称される)及びシクロヘキシル(Cyとも称される)である。
【0051】
1つの芳香族炭化水素基の場合、これは、フェニル(Phとも称される)、1-ナフチル又は2-ナフチルである。
【0052】
芳香脂肪族炭化水素基は、脂肪族又は芳香族基を介して配位子Lにおけるリン原子に結合しているかどうかにかかわらず、芳香族及び脂肪族要素を含む。芳香脂肪族炭化水素基は、好ましくは7から10個の炭素原子、特に好ましくは7から9個の炭素原子を有する。言及され得る特定の例は、o-トリル、m-トリル、p-トリル及びベンジルである。
【0053】
リン原子を含む1つの環の場合、それは好ましくはリン原子を含む5から6個の原子を有する環である。言及され得る例は、ブタン-1,4-ジイル、ペンタン-1,5-ジイル及び2,4-ジメチルペンタン-1,5-ジイルである。
【0054】
言及される脂肪族、芳香族及び芳香脂肪族炭化水素基は、互いに結合してリン原子を含む環を形成していてもよく、置換されていないか又は1から3個のメトキシ、チオメトキシ又はジメチルアミノ基で置換されていてもよい。上記で指定された個々の炭化水素基の炭素原子の数は、メトキシ、チオメトキシ又はジメチルアミノ基の炭素原子を含むものとして理解されるべきである。言及され得る特定の例は、3,5-ジメチルフェニル、3,5-ジメチル-4-メトキシフェニル、3,5-ジメチル-4-チオメトキシフェニル及び3,5-ジメチル-4-(ジメチルアミノ)フェニルである。
【0055】
R1及びR2基は、特に好ましくはフェニル、p-トリル、o-トリル、4-メトキシフェニル、2-メトキシフェニル、シクロヘキシル、イソブチル、tert-ブチル、3,5-ジメチル-4-メトキシフェニル、3,5-tert-ブチル-4-メトキシフェニル及び3,5-ジメチルフェニル、特に好ましくはフェニル、p-トリル、3,5-ジメチル-4-メトキシフェニル、イソブチル及びシクロヘキシルであり、好ましくは両方の基が同じである。
【0056】
R3、R4、R5、R6、R10及びR11基はそれぞれ独立して、水素、直鎖状C1からC4-アルキル、分岐状C3からC4-アルキル、メトキシ、ヒドロキシル、トリフルオロメチル、ニトリル又はアルキル基1個あたり1から4個の炭素原子をそれぞれ独立して有するジアルキルアミノである。直鎖状C1からC4-アルキルとして言及されることになるものは、メチル、エチル、n-プロピル及びn-ブチルであり、分岐状C3からC4-アルキルとして言及されることになるものは、イソプロピル、sec-ブチル及びtert-ブチルである。ジアルキルアミノとして、特に同一のアルキル基を有するアミノ基、特にジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジ-n-プロピルアミノ及びジ-n-ブチルアミノが言及されるべきである。
【0057】
R3及びR4基は、好ましくはそれぞれ独立して、水素又はメチル、特に好ましくは水素である。
【0058】
R5基は、好ましくは水素、メチル、イソプロピル、sec-ブチル、tert-ブチル、メトキシ、ヒドロキシル又はジアルキルアミノ、特に好ましくは水素、メチル又はヒドロキシル及び特に好ましくは水素である。
【0059】
R6基は好ましくは水素である。
【0060】
R10基は、好ましくは水素、メチル、イソプロピル、sec-ブチル、tert-ブチル又はメトキシ、特に好ましくは水素、メチル又はtert-ブチル、特に好ましくは水素である。
【0061】
R11基は、好ましくは水素、メチル、エチル、メトキシ、エトキシ又はイソプロピルオキシ、特に好ましくは水素、メチル又はメトキシである。
【0062】
特に好ましいものは、
- R3、R4、R5、R6、R10及びR11が水素であり、
- R3、R4、R5、R6及びR10が水素であり、R11がメチルであり、
- R3、R4、R5、R6及びR10が水素であり、R11がメトキシであり、
- R3、R4、R6、R10及びR11が水素であり、R5がメチルであり、
- R3、R4、R6、R10及びR11が水素であり、R5がtert-ブチルであり、
- R3、R4、R5、R6及びR11が水素であり、R10がメチルであり、
- R3、R4、R5、R6及びR11が水素であり、R10がtert-ブチルであり、
- R3、R4、R5及びR6が水素であり、R10及びR11がメチルである、配位子(II)である。
【0063】
R7、R8及びR9基はそれぞれ独立して、水素、直鎖状C1からC4-アルキル又は分岐状C3からC4-アルキルである。直鎖状C1からC4-アルキルとして言及されることになるものは、メチル、エチル、n-プロピル及びn-ブチルであり、分岐状C3からC4-アルキルとして言及されることになるものは、イソプロピル、sec-ブチル及びtert-ブチルである。
【0064】
R7、R8及びR9基は、好ましくはそれぞれ独立して、水素、メチル、エチル又はn-プロピル、特に好ましくは水素又はメチル、特に好ましくは水素である。
【0065】
特に好ましいものは、
- R7、R8及びR9が水素であり、
- R7及びR9が水素であり、R8がメチルであり、
- R7が水素であり、R8及びR9がメチルであり、
- R7がメチルであり、R8及びR9が水素であり、
- R7及びR8がメチルであり、R9が水素である、配位子(II)である。
【0066】
本発明による方法において特に有利なものは、
(i)n及びmがいずれの場合も1であり、2つの実線-破線の二重線が単結合を表すか(構造(IIa))、又は
(ii)nが0であり、mが1であり、フェニル環に面する実線-破線の二重線が二重結合を表し、ピリジル環に面する実線-破線の二重線が単結合を表し(構造(IIb)、
- R1及びR2の両方の基が、フェニル、p-トリル、3,5-ジメチル-4-メトキシフェニル、イソブチル又はシクロヘキシルであり、
- R3、R4及びR6基が水素であり、
- R5及びR10基が、水素、メチル又はtert-ブチルであり、
- R11基が、水素、メチル又はメトキシであり、
- R7、R8及びR9基が水素又はメチルである、配位子(II)の使用である。
【0067】
配位子(II)は、対応するアミンと対応するアルデヒド又はケトンとを縮合させ(配位子(IIb)及び(IIc))、可能であればその後還元し(配位子(IIa))、可能であればその後塩基性条件下で脱プロトン化する(配位子(IId))ことによって単純な様式で得ることができる。
【0068】
縮合には原理上2つの異なる可能性が存在する。第1に、アミン成分として2-ピコリルアミン又はその対応する誘導体、及びアルデヒド又はケトン成分として適切に置換されたホスファニルベンズアルデヒド又は対応するケトンを使用することが可能である。
【0069】
【化14】
【0070】
しかし第2に、アミン成分として適切に置換されたホスファニルフェニルメタンアミン及びアルデヒド又はケトン成分としてピコリンアルデヒド又はその対応する誘導体を使用することも可能である。
【0071】
【化15】
【0072】
対応する出発化合物(アミン、ケトン又はアルデヒド)は一般に市販されているか、又は一般的に既知の方法を使用して合成することができる。配位子(IIb)及び(IIc)の合成は、保護ガス雰囲気下で通常行われる。2つの成分は、典型的には溶媒中、50から200℃の温度で互いに反応させる。好適な溶媒としては、例えば、脂肪族アルコール、例えば、メタノール、エタノール又はイソプロパノール、及び芳香族炭化水素、例えば、トルエン又はキシレンがある。2つの出発化合物は化学量論量で使用してもよい。しかし、例えば、もう一方の成分の変換を高めるために、2つの成分のうちの1つを過剰に使用することも可能である。これはもう一方の成分へのアクセスが困難な場合に特に有用である。過剰量を使用する場合、2つの出発化合物のモル比は、一般的に1超から2以下の範囲である。反応時間は、典型的には数分から数時間の範囲である。言及され得る典型的な反応時間は10分から5時間、好ましくは30分から3時間である。反応混合物は、後処理してもよく、配位子は通常の方法によって単離した。しかし、添加する溶媒及び水は減圧下で有利には除去される。
【0073】
配位子(IIb)及び(IIc)を使用してルテニウム錯体(I)を調製することができる。
【0074】
特に手際のよい、その結果好ましくもある変形物は、ワンポット反応での配位子(IIb)及び(IIc)の合成とルテニウム錯体(I)の調製とが一緒になったものである。この目的のために、出発化合物(アミン及びケトン又はアルデヒド)を上述のように互いに最初に反応させるが、その後の後処理及び単離は行わず、代わりに対応するルテニウム前駆体、場合により触媒活性を有するルテニウム錯体(I)を形成するための塩基を得られた反応混合物に添加する。水素化条件を調整し、水素化するためのエステルを添加することによって、その結果、ワンポット反応で配位子(II)を調製し、次いでそこからルテニウム錯体(I)を直接調製し、次いでエステルの水素化を直接行うことも非常に容易である。
【0075】
配位子(IIb)又は(IIc)を、還元剤、例えば水素化ホウ素ナトリウム若しくは水素化アルミニウムリチウムを用いて還元することによって、又は水素を用いて触媒的に還元することによって、配位子(IIa)を、配位子(IIb)及び(IIc)から簡単な様式で得ることができる。反応は、当業者の一般的な知識を用いて行うことができる。
【0076】
特に有利な合成において、上述の縮合及び配位子(IIa)への還元は、事前に配位子(IIb)及び(IIc)を単離することなくワンポット反応で次々に直接行われる。この目的を達成するために、縮合が完了した後、還元剤を反応混合物に直接添加し、更に一定期間互いに反応させる。ここも、数分から数時間で通常十分である。言及され得る典型的な反応時間は10分から5時間、好ましくは30分から3時間である。次いで反応混合物は後処理してもよく、配位子は通常の方法によって単離される。配位子(IIb)及び(IIc)の後処理及び単離に関して得られる情報ははっきりと言及されている。
【0077】
配位子(IIa)は、配位子(IIb)及び(IIc)から形成され、反応条件下、供給される水素を用いた水素化によってルテニウム錯体(I)においてまた結合する。
【0078】
アニオン性配位子(IId)は、プロトンとしての窒素上の水素原子の脱離の結果として、強塩基を用いた反応によって配位子(IIa)から形成される。好適な強塩基は、例えば、NaOMe又はKOMeである。通常この反応は、遊離配位子(IIa)を用いては特に行われない。むしろ、配位子(IId)は、強塩基の存在下、水素化条件下でルテニウム錯体(I)において形成することができる。
【0079】
本発明による方法において使用されることになるルテニウム錯体(I)は、5又は6配位されている。これらの配位位置のうち3つは、三座配位子(II)によってすでに占有されている。ルテニウム錯体(I)は単核又は二核であってもよく、すなわちダイマーとして架橋されていてもよい。ルテニウム錯体(I)が架橋されてダイマーを形成している場合、これは錯体中に2つのルテニウム原子を有する。
【0080】
本発明による方法において、ルテニウム錯体(I)におけるルテニウムの酸化状態は制限されない。しかし通常は、0(ゼロ)、+2又は+3、好ましくは+2又は+3である。
【0081】
本発明による方法において好ましくは使用されるルテニウム錯体(I)は、酸化状態+2又は+3のルテニウムを含み、一般式(IA)を有する
[Ru(L)XaYb]pZ(p・c) (IA)
(式中、
Xはいずれの場合も独立して、中性単座配位子であり、2つの配位子Xは結合して中性二座配位子を形成していてもよく、
Yはいずれの場合も独立して、「-1」の電荷を有するアニオン性単座配位子であり、
Y及びXは、一緒になって「-1」の電荷を有するアニオン性二座配位子であってもよく、
Zはいずれの場合も独立して、「-1」の電荷を有する非配位性アニオンであり、2つの配位子Zは結合して「-2」の電荷を有する非配位性アニオンを形成していてもよく、
a、b及びcはそれぞれ独立して、0、1、2又は3であり、
pは、1又は2であり、
ただし、
a+b+cは、1、2、3、4、5又は6に等しく、
b及びcは、ルテニウム錯体(IA)が総電荷「0」を有するように決定される)。
【0082】
ルテニウム錯体(IA)において、下付き文字a、b及びcは、1つのルテニウム原子に基づいて、それぞれの配位子X、Y及び非配位性対イオンZの数をそれぞれ指定する。配位子(II)は三座配位であり、ルテニウム錯体(IA)は最大6配位を有するため、下付き文字の最大値はいずれの場合も3である。
【0083】
下付き文字pは、ルテニウム錯体(IA)が単核(p=1)であるか二核(p=2)であるかを示す。
【0084】
更なる境界条件を観察することによって、a、b及びcの合計は、1、2、3、4、5及び6の値しか推測することができない。ルテニウム錯体(IA)は全体的に中性として定義されるため、a、b及びcに関して任意に組み合わせることはできない。
【0085】
完全を期すために、一般式(IA)における下付き文字「(p・c)」は、「p×c」の積であることは明示的に指摘されるべきである。
【0086】
本発明による方法において、好ましいルテニウム錯体(IA)は、
Xがいずれの場合も独立して、CO、NH3、NR3、R2NSO2R、PR3、AsR3、SbR3、P(OR)3、SR2、RCN、RNC、N2、NO、PF3、ピリジン、チオフェン、テトラヒドロチオフェン及び一般式
【0087】
【化16】
のN-複素環式カルベンを含む群から選択される中性配位子であるか、又は2つの配位子Xが一緒になって1,5-シクロオクタジエンであり、
Yがいずれの場合も独立して、H-、F-、Cl-、Br-、I-、OH-、C1からC6-アルコキシ、C1からC6-カルボキシ、メチルアリル、アセチルアセトナト、RSO3 -、CF3SO3 -、CN-及びBH4 -を含む群から選択されるアニオン性配位子であるか、
又は1つのYと1つのXが一緒になって、C1からC6-カルボキシ又はアセチルアセトナトであり、
Zがいずれの場合も独立して、H-、F-、Cl-、Br-、I-、OH-、BF4 -、PF6 -、NO3 -、RCOO-、CF3COO-、CH3SO3 -、CF3SO3 -、BH4 -、NH2 -、RO-、CN-、R2N-、SCN-、OCN-、RS-、R-CONH-、(R-CO)2N-、HCO3 -、HSO4 -、H2PO4 -、アセチルアセトネート、ペンタフルオロベンゾエート、ビス(トリメチルシリル)アミド及びテトラキス[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ボレートを含む群から選択される非配位性アニオンであるか、又は2つの配位子Zが一緒になってCO3 2-、SO4 2-、HPO4 2-、S2-であり、
X、Y及びZの定義におけるR基はそれぞれ独立して、C1からC10-アルキル、CF3、C2F5、C3からC10-シクロアルキル、N、O及びSを含む群から選択される少なくとも1つのヘテロ原子を含むC3からC10-ヘテロシクリル、C5からC10-アリール又はN、O及びSを含む群から選択される少なくとも1つのヘテロ原子を含むC5からC10-ヘタリールである、ルテニウム錯体である。
【0088】
R基は、好ましくはそれぞれ独立して、C1からC4-アルキル、C5からC6-シクロアルキル、o-トリル、p-トリル、キシリル又はメシチル、特に好ましくはメチル、キシリル又はメシチルである。
【0089】
ルテニウム錯体(IA)における中性配位子Xは、好ましくはCO、トリメチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリフェニルホスファイト又はトリメチルホスファイトであるか、又は2つの配位子Xが一緒になってシクロオクタ-1,5-ジエンである。中性配位子Xは特に好ましくはトリフェニルホスフィンである。
【0090】
ルテニウム錯体(IA)におけるアニオン性配位子Yは、好ましくはH-、Cl-、OH-、C1からC4-アルコキシ、C1からC4-カルボキシ、メチルアリル、アセチルアセトナト又はビス(トリメチルシリル)アミドであるか、又は配位子Yと配位子Xが一緒になってC1からC4-カルボキシ又はアセチルアセトナトである。アニオン性配位子Yは、特に好ましくはH-、Cl-、メトキシ又はアセテートである。
【0091】
奇数の炭素原子を介して互いに結合しているアニオン性O-基及び中性O=基を有するアニオン性配位子、例えばカルボキシレート又はアセチルアセトネートは、アセテートアニオンで実証する以下の例のように、単座配位子と二座配位子の両方として機能することができる。
【0092】
【化17】
【0093】
配位子L、X及びYを有する錯体が正荷電を有するべきである場合、ルテニウム錯体(IA)を中性にするために、対応する数の非配位性アニオンZが必要とされる。この場合、Zが、Cl-、OH-、C1からC4-アルコキシド、C1からC4-カルボキシレート、BF4 -若しくはPF6 -であるか、又は2つのZが一緒になってSO4 2-である、アニオンが好ましい。非配位性アニオンZは、特に好ましくはCl-、メトキシド、アセテート、BF4 -又はPF6 -である。
【0094】
特に、ルテニウム錯体(IA)が、
(a)一般式(IAa)のルテニウム錯体(IAa)
[Ru(L)X1+pY2-p]Zp (IAa)
(式中、p=0又は1である);
(b)一般式(IAb)のルテニウム錯体(IAb)
[Ru(L)XpY2-p] Zp (IAb)
(式中、p=0又は1である);
(c)一般式(IAc)のルテニウム錯体(IAc)
[Ru(L)XpY2-p]2Z2p (IAc)
(式中、p=0又は1である);
(d)一般式(IAd)のルテニウム錯体(IAd)
[Ru(L)Xp+1Y1-p]2Z2p (IAd)
(式中、p=0又は1である);
(e)一般式(IAe)のルテニウム錯体(IAe)
[Ru(L)XpY3-p]Zp (IAe)
(式中、p=0又は1である);
(f)一般式(IAf)のルテニウム錯体(IAf)
[Ru(L)XpY2-p]Z1+p (IAf)
(式中、p=0又は1である);及び
(g)一般式(IAg)のルテニウム錯体(IAg)
[Ru(L)Xp-1Y3-p]2Z2p (IAg)
(式中、p=1である);
(h)一般式(IAh)のルテニウム錯体(IAh)
[Ru(L)XpY2-p]2Z2p (IAh)
(式中、p=1である)からなる群から選択される方法が好ましい。
【0095】
ルテニウム錯体(IAa)の好ましい例としては、[Ru(L)(PPh3)Cl2]、[Ru(L)(PPh3)Cl(OAc)]、[Ru(L)(PPh3)(H)(Cl)]、[Ru(L)(PPh3)(OAc)2]、[Ru(L)(PPh3)acac(H)]、[Ru(L)(PPh3)(H)(OMe)]、[Ru(L)(PPh3)(H)2]、[Ru(L)(CO)(H)2][Ru(L)(PPh3)(H)(OAlkyl)]、[Ru(L)(PPh3)(H)(OAc)]、[Ru(L)(P(o-tolyl)3)Cl2]、[Ru(L)(P(o-tolyl)3)Cl(OAc)]、[Ru(L)(P(o-tolyl)3)(H)(Cl)]、[Ru(L)(P(o-tolyl)3)(OAc)2]、[Ru(L)(P(o-tolyl)3)acac(H)]、[Ru(L)(P(o-tolyl)3)(H)(OMe)]、[Ru(L)(P(o-tolyl)3)(H)]OMe、[Ru(L)(P(o-tolyl)3)(H)2]、[Ru(L)(P(o-tolyl)3)(H)(OAlkyl)]、[Ru(L)(P(o-tolyl)3)(H)(OAc)]、[Ru(L)(P(p-tolyl)3)(Cl)2]、[Ru(L)(P(p-tolyl)3)Cl(OAc)]、[Ru(L)(P(p-tolyl)3)(H)(Cl)]、[Ru(L)(P(p-tolyl)3)(OAc)2]、[Ru(L)(P(p-tolyl)3)acac(H)]、[Ru(L)(P(p-tolyl)3)(H)(OMe)]、[Ru(L)(P(p-tolyl)3)H2]、[Ru(L)(P(p-tolyl)3)(H)(OAlkyl)]、[Ru(L)(P(p-tolyl)3)(H)(OAc)]、[Ru(L)(PCy3)Cl2]、[Ru(L)(PCy3)Cl(OAc)]、[Ru(L)(PCy3)(H)(Cl)]、[Ru(L)(PCy3)(OAc)2]、[Ru(L)(PCy3)acac(H)]、[Ru(L)(PCy3)(H)(OMe)]、[Ru(L)(PCy3)H2]、[Ru(L)(PCy3)(H)(OAlkyl)]、[Ru(L)(PCy3)(H)(OAc)]、[Ru(L)(PtBu3)Cl2]、[Ru(L)(PtBu3)Cl(OAc)]、[Ru(L)(PtBu3)(H)(Cl)]、[Ru(L)(PtBu3)(OAc)2]、[Ru(L)(PtBu3)acac(H)]、[Ru(L)(PtBu3)(H)(OMe)]、[Ru(L)(PtBu3)(H)2]、[Ru(L)(PtBu3)(H)(OAlkyl)]、[Ru(L)(PtBu3)(H)(OAc)]、[Ru(L)(P(OR)3)Cl2]、[Ru(L)(CO)(H)(Cl)]、[Ru(L)(CO)(H)(OAlk)]、[Ru(L)(CO)(H)(OMe)]、[Ru(L)(P(OR)3)(H)2]、[Ru(L)(P(OR)3)(H)(Cl)]、[Ru(L)(P(OR)3)(OAc)2](式中、Rは、好ましくはメチル、エチル、イソプロピル、イソブチル、tert-ブチル、フェニル、o-tolyl、p-tolyl、2,4-ジメチルフェニル又は2,4-ジ-tert-ブチルフェニルである)、[Ru(L)(P(OR)3)acac]、[Ru(L)(NHC)Cl2]、[Ru(L)(NHC)(OAc)2]、[Ru(L)(NHC)acac]、[Ru(L)(PPh3)(CO)(H)]Cl、[Ru(L)(PPh3)(CO)(H)]OAc、[Ru(L)(P(o-tolyl)3)(CO)(H)]Cl、[Ru(L)(P(o-tolyl)3)(CO)(H)]OAc、[Ru(L)(P(p-tolyl)3)(CO)(H)]Cl、[Ru(L)(P(p-tolyl)3)(CO)(H)]OAc、[Ru(L)(PCy3)(CO)(H)]Cl、[Ru(L)(PCy3)(CO)(H)]OAc、[Ru(L)(PtBu3)(CO)(H)]Cl、[Ru(L)(PtBu3)(CO)(H)]OAc及び[Ru(L)(CO)Cl2](式中、Lはいずれの場合も、中性配位子(IIa)、(IIb)又は(IIc)である)がある。
【0096】
ルテニウム錯体(IAb)の好ましい例としては、[Ru(L)H2]、[Ru(L)Cl2]、[Ru(L)OAc2]、[Ru(L)H(OMe)]、[Ru(L)H(OAlk)]、[Ru(L)(H)acac]、[Ru(L)(H)(Cl)]、[Ru(L)(H)OAc]、[Ru(L)(PPh3)OAc]Cl、[Ru(L)(PPh3)(OMe)]Cl、[Ru(L)(PPh3)(OMe)]OAc、[Ru(L)(PPh3)(H)]OAc、[Ru(L)(PPh3)(H)]OMe、[Ru(L)(CO)(H)]OMe、[Ru(L)(CO)(H)]OAc及び[Ru(L)(PPh3)Cl]OAc(式中、Lはいずれの場合も、中性配位子(IIa)、(IIb)又は(IIc)である)がある。
【0097】
ルテニウム錯体(IAc)の好ましい例としては、[Ru(L)(PPh3)Cl]2Cl2、[Ru(L)(Cl)2]2、[Ru(L)(OMe)2]2)(式中、Lはいずれの場合も、中性配位子(IIa)、(IIb)又は(IIc)である)があるか、又は[Ru(L)(OMe)2]2、[Ru(L)(Cl)2]2(式中、Lはいずれの場合も、アニオン性配位子(IId)である)もある。
【0098】
ルテニウム錯体(IAd)の好ましい例としては、[Ru(L)(H)(PPh3)]2、[Ru(L)(H)(CO)]2、[Ru(L)(Cl)(CO)]2、[Ru(L)(Cl)(PPh3)]2、[Ru(L)(OMe)(CO)]2(式中、Lはいずれの場合も、アニオン性配位子(IId)である)がある。
【0099】
ルテニウム錯体(IAe)の好ましい例としては、[Ru(L)(PPh3)(Cl)2]BF4、[Ru(L)(PPh3)(Cl)2]PF6、[Ru(L)(PPh3)(Cl)2]OAc、[Ru(L)(PPh3)(Cl)2]acac、[Ru(L)(PPh3)(H)(Cl)]BF4、[Ru(L)(PPh3)(H)(Cl)]PF6、[Ru(L)(PPh3)(H)(Cl)]OAc、[Ru(L)(PPh3)(H)(Cl)]OMe、[Ru(L)(CO)(H)(Cl)]BF4、[Ru(L)(CO)(H)(Cl)]PF6、[Ru(L)(CO)(H)(Cl)]OAc、[Ru(L)(CO)(H)(Cl)]OMe、[Ru(L)(CO)(Cl)2]BF4、[Ru(L)(CO)(Cl)2]PF6、[Ru(L)(CO)(Cl)2]OAc、[Ru(L)(CO)(Cl)2]OMe、[Ru(L)(OAc)2]BF4、[Ru(L)(OAc)2]PF6及び[Ru(L)(OAc)2]OAc(式中、Lはいずれの場合も、中性配位子(IIa)、(IIb)又は(IIc)である)がある。
【0100】
ルテニウム錯体(IAf)の好ましい例としては、[Ru(L)(PPh3)(CF3SO3)](CF3SO3)2、[Ru(L)(CO)(Cl)](OAc)2、[Ru(L)(OAc)2](OAc)及び[Ru(L)(Cl)2](Cl)(式中、Lはいずれの場合も、中性配位子(IIa)、(IIb)又は(IIc)である)がある。
【0101】
ルテニウム錯体(IAg)の好ましい例としては、[Ru(L)(Cl)2]2(BF4)2及び[Ru(L)(Cl)2]2(PF6)2(式中、Lはいずれの場合も、中性配位子(IIa)、(IIb)又は(IIc)である)がある。
【0102】
ルテニウム錯体(IAh)の好ましい例としては、[Ru(L)(PPh3)(Cl)]2(BF4)2、[Ru(L)(PPh3)(Cl)]2(PF6)2、[Ru(L)(PPh3)(Cl)]2(OAc)2、[Ru(L)(PPh3)(Cl)]2(acac)2、[Ru(L)(CO)(Cl)]2(BF4)2、[Ru(L)(CO)(Cl)]2(PF6)2、[Ru(L)(CO)(Cl)]2(OAc)2、[Ru(L)(CO)(Cl)]2(acac)2(式中、Lはいずれの場合も、アニオン性配位子(IId)である)がある。
【0103】
特に好ましいルテニウム錯体(IA)は、ルテニウム錯体(IAa)及び(IAc)である。
【0104】
本発明による方法は、
- 配位子(II)が、配位子(IIa)、(IIb)又は(IIc)であり、
- R1及びR2基はいずれの場合も、フェニル、p-トリル、3,5-ジメチル-4-メトキシフェニル、イソブチル又はシクロヘキシルであり、
- R5及びR10基はそれぞれ独立して、水素、メチル又はtert-ブチルであり、
- R11基はそれぞれ独立して、水素、メチル又はメトキシであり、
- R7、R8及びR9基はそれぞれ独立して、水素又はメチルであり、
- ルテニウム錯体(I)が、[Ru(L)(PPh3)Cl2]、[Ru(L)(PPh3)(H)(Cl)]、[Ru(L)(PPh3)(OAc)2]、[Ru(L)(PPh3)H(acac)]、[Ru(L)(PPh3)(H)(OMe)]、[Ru(L)(PPh3)(H)]OMe、[Ru(L)(P(o-tolyl)3)Cl2]、[Ru(L)(P(o-tolyl)3)Cl(OAc)]、[Ru(L)(P(o-tolyl)3)(H)(Cl)]、[Ru(L)(P(o-tolyl)3)(OAc)2]、[Ru(L)(P(o-tolyl)3)acac]、[Ru(L)(P(o-tolyl)3)(H)(OMe)]、[Ru(L)(P(p-tolyl)3)Cl2]、[Ru(L)(P(p-tolyl)3)Cl(OAc)]、[Ru(L)(P(p-tolyl)3)(H)(Cl)]、[Ru(L)(P(p-tolyl)3)(OAc)2]、[Ru(L)(P(p-tolyl)3)acac]、[Ru(L)(P(p-tolyl)3)(H)(OMe)]、[Ru(L)(PCy3)Cl2]、[Ru(L)(PCy3)Cl(OAc)]、[Ru(L)(PCy3)(H)(Cl)]、[Ru(L)(PCy3)(OAc)2]、[Ru(L)(PCy3)acac]、[Ru(L)(PCy3)(H)(OMe)]、[Ru(L)(PtBu3)Cl2]、[Ru(L)(PtBu3)Cl(OAc)]、[Ru(L)(PtBu3)(H)(Cl)]、[Ru(L)(PtBu3)(OAc)2]、[Ru(L)(PtBu3)acac]、[Ru(L)(PtBu3)(H)(OMe)]、[Ru(L)(P(OR)3)(OAc)2]、[Ru(L)H(OMe)]、[Ru(L)H(OAlk)]、[Ru(L)(P(OR)3)acac]、[Ru(L)(NHC)Cl2]、[Ru(L)(NHC)(OAc)2]、[Ru(L)(NHC)acac]、[Ru(L)(PPh3)OAc]Cl、[Ru(L)(PPh3)(OMe)]Cl、[Ru(L)(PPh3)(OMe)]OAc、[Ru(L)(PPh3)Cl]OAc、[Ru(L)(PPh3)(Cl)]2OAc2、[Ru(L)(PPh3)(Cl)]2Cl2、[Ru(L)(Cl)2]2、[Ru(L)(OAc)2]2、[Ru(L)(OMe)2]2、[Ru(L)(H)(Cl)]2又は[Ru(L)(H)(OAc)]2の組成を有するルテニウム錯体(I)の存在下で特に好ましくは行われる。
【0105】
本発明による方法において使用されることになるルテニウム錯体(I)はさまざまな方法で得ることができる。ルテニウム含有出発材料として、1つの好ましい可能性は、ルテニウムが錯体の形態で既に存在する化合物(以降Ru前駆体錯体(IV)と称する)を使用し、これと配位子Lとを反応させることである。したがって、ルテニウム錯体(I)が、配位子(II)とRu前駆体錯体(IV)とを反応させることによって得られる方法が好ましい。
【0106】
原理上は、非常にさまざまなRu錯体をRu前駆体錯体(IV)として使用してもよい。Ru前駆体錯体(IV)は通常5又は6配位ルテニウム錯体であり、これらが架橋されてダイマー又はトリマーを形成していてもよい。ルテニウムの酸化状態は好ましくは0、+2又は+3である。したがって、Ru前駆体錯体(IV)は、中性及び/又はアニオン性配位子、必要であれば総電荷「0」を達成するための1つ以上の非配位性アニオンを含む。多くの場合、Ru前駆体錯体(IV)が、所望のルテニウム錯体(I)の配位子X及びY並びに非配位性アニオンYをすでに含んでいることを必要としない。配位子X及びY並びに非配位性アニオンYは多くの場合、合成に個別に添加してもよい。合成費用を低く抑えるために、容易にアクセス可能な又は容易に利用可能な錯体が、Ru前駆体錯体(IV)として有利には使用される。そのような錯体は当業者には周知である。当業者は、ルテニウム含有錯体における配位子の交換を熟知している。
【0107】
Ru前駆体錯体(IV)における中性配位子として、原理上は配位子Xですでに記載されている全ての中性配位子が好適であるが、もちろん2つの配位子Xは互いに結合してRu前駆体錯体(IV)において二座配位子を形成していてもよい。更にXで言及されていない他の中性配位子も可能である。ここでの例としては、ベンゼン及びp-シメンがある。Ru前駆体錯体(IV)における好ましい中性配位子としては、トリフェニルホスフィン、CO及びシクロオクタ-1,5-ジエンがある。
【0108】
Ru前駆体錯体(IV)におけるアニオン性配位子として、原理上は配位子Yですでに記載されている全てのアニオン性配位子が好適であるが、もちろんRu前駆体錯体(IV)におけるアニオン性配位子Yは二座であってもよい。更にYで言及されていない他のアニオン性配位子も可能である。ここでの例はメチルアリルである。Ru前駆体錯体(IV)における好ましいアニオン性配位子としては、Cl-、アセチルアセトナト及びメチルアリルがある。
【0109】
Ru前駆体錯体(IV)と配位子Lとの反応は、0.8から20、好ましくは0.9から10、特に好ましくは0.9から1.1のRu/Lモル比で典型的には行われる。可能な限り最高の変換を達成するために、Ru前駆体錯体(IV)と単座及び二座配位子のみとを使用して、三座配位子Lの錯化効果を利用することが有利である。反応は無水であるが、溶媒存在下、保護ガス雰囲気下で通常行われる。好適な溶媒としては、例えば、脂肪族アルコール、例えば、メタノール、エタノール又はイソプロパノール、及び芳香族炭化水素、例えば、トルエン又はキシレンがある。一般的に、Ru前駆体錯体(IV)におけるルテニウムは、その後のルテニウム錯体(I)におけるものと同じ酸化状態を有し、したがって好ましくは酸化状態+2又は+3を有する。
【0110】
ルテニウム錯体(I)は、例えば、沈殿又は結晶化によって得られた反応混合物から単離してもよい。
【0111】
しかし、本発明に従って水素化を行うために、ルテニウム錯体(I)を調製した後に最初に単離することは一般的に必要ではない。むしろ、溶媒存在下でRu前駆体錯体(IV)及び配位子Lから上述のようにルテニウム錯体(I)を調製し、得られた反応混合物中で本発明に従って直接水素化を行うことは、簡易化された手順という意味では有利である。
【0112】
本発明による方法において使用されることになるエステルは多様な性質のものであってもよい。したがって、原理上は、置換されていないか又はヘテロ原子若しくは官能基によって割り込まれた、低分子量から高分子量のさまざまなモル質量の、直鎖状又は分岐状、非環式又は環式、飽和又は不飽和、脂肪族、芳香族又は芳香脂肪族エステルを使用してもよい。
【0113】
使用するエステルは、好ましくは一般式(III)のエステル
【0114】
【化18】
(式中、Ra及びRb基はそれぞれ独立して、炭素含有有機、直鎖状又は分岐状、非環式又は環式、飽和又は不飽和、脂肪族、芳香族又は芳香脂肪族基であり、この基は、置換されていないか又はヘテロ原子若しくは官能基で中断又は置換されており、15から10000g/molのモル質量を有し、2つの基Ra及びRbは互いに結合していてもよい)
である。
【0115】
分岐状Ra及びRb基の場合、これらは1回以上分岐していてもよい。同様に、環式基の場合、これらは単環式又は多環式であってもよい。同様に、不飽和基の場合、これらはモノ又はポリ不飽和であってもよく、ここでは二重結合と三重結合の両方が可能である。ヘテロ原子は、炭素でも水素でもない原子として理解されるべきである。ヘテロ原子の好ましい例としては、酸素、窒素、硫黄、リン、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素があり、特に好ましい例は、酸素、窒素、フッ素、塩素及び臭素である。官能基は、少なくとも1つのヘテロ原子を含む基の別の説明である。例えば、-O-によって割り込まれた炭化水素鎖は、酸素ヘテロ原子によって割り込まれた炭化水素鎖とエーテル基によって割り込まれた炭化水素鎖の両方として考えることができる。他の非限定的な例としては、アミノ基(-NH2、-NH-、-N<)、アルデヒド基(-CHO)、カルボキシル基(-COOH)、アミド基(-CONH2、-CONH-、-CON<)、ニトリル基(-CN)、イソニトリル基(-NC)、ニトロ基(-NO2)、スルホン酸基(-SO3)、ケト基(>CO)、イミノ基(>CNH、>CN-)、エステル基(-CO-O-)、無水物基(-CO-O-CO-)及びイミド基(-CO-NH-CO-、-CO-NR-CO-)がある。もちろん、2つ以上のいわゆる官能基も存在していてもよい。ここでの例としては脂肪がある。
【0116】
Ra及びRb基が互いに結合している場合、これらは環式エステルであり、ラクトンとも称される。
【0117】
Ra及びRb基のモル質量は一般的に、15から10000g/mol、好ましくは15から5000g/mol、特に好ましくは15から2000g/molである。
【0118】
本発明による方法において、74から20000g/mol、特に好ましくは74から10000g/mol、特に好ましくは74から5000g/mol、特に74から2000g/mol、特に74から1000g/molのモル質量を有するエステルを使用することが好ましい。
【0119】
本発明による方法において使用されることになる分子状水素(H2)は、希釈せずに又は不活性ガス、例えば窒素で希釈して供給してもよい。可能な限り最高の水素含有量を有する水素含有ガスを供給することが有利である。80体積%以上、特に好ましくは90体積%以上、特に好ましくは95体積%以上、特に99体積%以上の水素含有量が好ましい。
【0120】
本発明による方法の非常に一般的な実施形態において、ルテニウム錯体(I)、水素化されることになるエステル及び水素は、好適な反応装置に供給され、混合物は所望の反応条件下で反応させる。
【0121】
本発明による方法において使用する反応装置は、原理上、指定の温度及び指定の圧力下でのガス/液体反応に原理上好適である任意の反応装置であってよい。ガス/液体及び液体/液体反応系に好適な標準反応器は、例えば、K.D.Henkel、「Reactor Types and Their Industrial Applications"、Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry、2005、Wiley-VCH Verlag GmbH & Co. KGaA、DOI: 10.1002/14356007.b04_087、3.3章「Reactors for gas-liquid reactions」に記載されている。例としては、撹拌タンク型反応器、管状反応器又は気泡塔型反応器がある。耐圧撹拌タンクは通常オートクレーブとも称される。
【0122】
ルテニウム錯体(I)は、すでに合成されたルテニウム錯体(I)の形態で反応装置に直接供給してもよい。しかし、これは事前の合成を必要とし、その後の後処理又は単離及び保護ガス雰囲気下での取り扱いを伴う。
【0123】
ルテニウム錯体(I)は、Ru前駆体錯体(IV)及び配位子L(II)からin situで形成されることがはるかに単純で好ましい。in situは、Ru前駆体錯体(IV)及び配位子L(II)を反応装置に供給することによってルテニウム錯体(I)を形成することを意味する。この目的のために有利には、0.5から5、好ましくは0.8以上、特に好ましくは1以上、好ましくは3以下、特に好ましくは2以下、特に好ましくは1.5以下の、配位子L(II)のルテニウムに対するモル比が使用される。このin situの変形物によって配位子(II)の事前の単離が割愛される。
【0124】
ルテニウム錯体(I)のin situ調製に関するはるかに単純な別の可能性は、Ru前駆体錯体(IV)及び配位子L(II)の合成単位から単離又は精製を伴わずにルテニウム錯体(I)を形成することである。配位子L(II)の合成単位から配位子(II)が最初に形成され、これがルテニウムに配位し、ルテニウム錯体(I)が得られる。したがって、ルテニウム錯体(I)は、
(a)一般式(Va)のアルデヒド又はケトンと
【0125】
【化19】
一般式(Vb)のアミンとを
【0126】
【化20】
及び/又は
(b)一般式(VIa)のアミンと
【0127】
【化21】
一般式(VIb)のアルデヒド又はケトンとを
【0128】
【化22】
反応させて配位子L(II)を得(式中、R1からR11基は、上記で定義された意味をそれぞれ有する)、その後その単離又は精製を伴わずに、形成された配位子L(II)とRu前駆体錯体(IV)とを反応させることによってin situで形成されることが特に好ましい。
【0129】
本発明による方法は、溶媒の存在下で又は非存在下でも行ってもよい。溶媒を使用する場合、これは、例えばルテニウム錯体(I)又はRu前駆体錯体(IV)及び配位子Lを溶解するための役割を果たすが、場合により水素化されるエステルを溶解する役割も果たす。特に低分子量エステルの場合、前記エステルは溶媒としても機能する場合がある。
【0130】
溶媒を使用する場合、反応条件下それ自体は水素化せず、おおむね明白な極性特性を有する溶媒が好ましい。好ましい例としては、脂肪族アルコール、例えば、メタノール、エタノール又はイソプロパノール、及び芳香族炭化水素、例えば、トルエン又はキシレンがある。使用する溶媒の量は広範囲に変更してもよい。しかし、水素化されることになるエステル1gあたり0.1から20gの溶媒、好ましくは水素化されることになるエステル1gあたり0.5から10gの溶媒、特に好ましくは水素化されることになるエステル1gあたり1から5gの溶媒の範囲の量が通常のものである。
【0131】
水素化されることになるエステルは、純粋な未希釈のエステルの形態で直接供給してもよいが、また溶媒で希釈又は溶解してもよい。水素化されることになるエステルが添加される形態の基準は、単に実用的な特質、例えば存在するエステルの性質及びその取扱いであることが一般的に多い。例えば目的は、反応混合物中のエステルが反応条件下で液体形態であることである。
【0132】
水素化されることになるエステルとルテニウム錯体(I)との間のモル比は、本発明による方法において広範囲で変更してもよい。一般的に、水素化されることになる反応混合物において指定されるモル比は、1から100000、好ましくは10から25000、特に好ましくは100から5000、特に好ましくは500から20000である。
【0133】
本発明による方法は、50から200℃の温度で、好ましくは170℃以下で、特に好ましくは150℃以下で行う。この場合、圧力は、0.1から20MPa abs、好ましくは1MPa abs以上、特に好ましくは5MPa abs以上、好ましくは15MPa abs以下、特に好ましくは10MPa abs以下である。
【0134】
反応混合物が反応条件下に存在する反応時間又は平均滞留時間も広範囲に変更してもよいが、典型的には0.1から100時間、好ましくは1時間以上、特に好ましくは2時間以上、好ましくは80時間以下、特に好ましくは60時間以下の範囲である。
【0135】
更に本発明による水素化は、塩基の存在によって一般的にプラスの影響を受け、その結果、最終的に顕著に高い変換が可能になることが示されている。したがって大抵の場合、塩基の存在下で水素化を行うことが有利である。例外的な場合、例えば、出発材料が塩基に不安定であるか、又は反応条件下、二次反応が塩基と起こる場合、反応レジメンは、塩基が無いほうが全体的により有利な場合がある。原理上は、塩基は固体として反応混合物中に存在していてもよいが、反応混合物中に溶解した形態で存在する塩基が好ましい。可能な塩基の例としては、アルコキシド、水酸化物、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の炭酸塩、アミド、塩基性アルミニウム、並びにシリコン化合物、また水素化物がある。使用する塩基は、特に好ましくはアルコキシド又はアミド、好ましくはナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、水酸化ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム又は水素化ナトリウム、特にナトリウムメトキシド及びカリウムメトキシドである。
【0136】
本発明による方法が塩基の存在下で行われる場合、この塩基はルテニウム錯体(I)に対して一般的に過剰に使用される。2から1000、好ましくは10以上、特に好ましくは20以上、特に好ましくは50以上、好ましくは500以下、特に好ましくは250以下の、塩基のルテニウム錯体(I)に対するモル比を使用することが好ましい。
【0137】
本発明による方法は連続で、セミバッチモードで、不連続で、溶媒としての生成物中で逆混合で、又は逆混合されない単一の流路で行ってもよい。ルテニウム錯体、水素化されることになるエステル、水素、場合により溶媒、及び場合により塩基は、同時に又は互いに個別に供給してもよい。
【0138】
不連続様式の操作において、ルテニウム錯体(I)又はRu前駆体錯体(IV)及び配位子L(II)、水素化されることになるエステル、場合により溶媒及び塩基は、典型的には最初に反応装置に入れ、所望の反応条件下での所望の反応圧力は、水素を添加することによって混合することにより設定する。次いで反応混合物は所望の反応条件下に所望の反応時間にわたって置かれる。場合により、追加の水素を計量供給する。所望の反応時間が経過後、反応混合物は冷却するか又は減圧する。対応するアルコールは、その後の後処理によって反応生成物として得てもよい。不連続反応は撹拌タンク中で好ましくは行う。
【0139】
連続的な様式の操作において、ルテニウム錯体(I)又はRu前駆体錯体(IV)及び配位子L(II)、水素化されることになるエステル、場合により溶媒及び塩基は、反応装置に連続的に供給され、相当する量が連続的に引き抜かれて、後処理及び形成された対応するアルコールの単離が行われる。
【0140】
連続的な反応は、撹拌タンク中で又は撹拌タンクカスケードで好ましくは行われる。
【0141】
水素化生成物は、当業者に本質的に既知のプロセスによって、例えば蒸留及び/又はフラッシュ蒸発によって水素化混合物から分離してもよく、残りの触媒は更なる反応において利用される。好ましい実施形態の文脈において、溶媒の添加を避け、変換されることになる基質又は生成物中で、場合により溶解媒体として高沸点副生成物中で挙げられた反応を行うことが有利である。均一触媒の再利用又はリサイクルを伴う連続的な反応レジメンが特に好ましい。
【0142】
本発明によるエステル水素化において、末端-CH2OH及び末端-OH基が-CO-O-エステル基から形成される。したがってエステル(III)の場合、以下の反応式に相当する2つの対応するアルコールRa-CH2OH及びRb-OHが形成される。
【0143】
【化23】
【0144】
環式エステル、いわゆるラクトンを使用する場合、2つの基Ra及びRbが互いに結合した、対応するジオールが形成される。
【0145】
本発明による方法は、均一に触媒されるエステルの水素化によって高収率及び選択性でアルコールの調製を可能にする。水素化は、水素化反応のための従来の実験装置で技術的に行ってもよく、基質としてのさまざまなエステルの使用を可能にする。
【0146】
本発明による方法の特定の利点は、特定の三座PNN配位子に基づく。その三座配位性質に起因して、配位子はルテニウムに密に配位するが、先行技術のその他の三座配位子と比較してモル質量ははるかに低い。例えば、本発明による配位子は1つのリン原子のみを有し、これは生産コストとその後の廃棄の両方の点で有利である。対応するルテニウム錯体を形成した後、本発明による配位子によって、高水素化活性を有する触媒が提供される。更に本発明による配位子は、酸化に対して比較的感受性が低く、その結果、取り扱いの点で有利であり、高貯蔵安定性も有する。
【0147】
本発明による配位子の特定の利点はとりわけ、その容易なアクセス可能性、及び水素原子をさまざまな有機基で置き換えることによる基本的な構造の変更の容易な可能性を含む。配位子は、単純なワンポット合成によって容易に利用可能な原料から一般的に調製できる。配位子を単離することは一般的に必要としない。むしろ配位子の合成及びルテニウム錯体の調製さえ、水素化の前にオートクレーブ中で直接調製することによって(中間体を単離せずに)行ってもよい。容易にアクセス可能で、大量に市販されているルテニウム前駆体錯体をルテニウム含有原料として使用してもよい。
【実施例
【0148】
表1から4に示した略語を以下の実施例に使用する。
【0149】
[実施例1]
実施例1は、実施例1.1から1.8の形態における種々の配位子の調製を記載する。
実施例1.1(配位子1=L1の調製)
【0150】
【化24】
L1をRigoらのOrganometallics、2007年、26巻、5636~5642頁に記載されている通りに調製した。
31P-NMR (203 MHz, CD2Cl2) δ -13.9.
【0151】
実施例1.2(配位子3=L3の調製)
【0152】
【化25】
(2-(ジフェニルホスファネイル)フェニル)メタンアミン(アミンA、1.00g、3.43mmol)を、室温でピコリンアルデヒド(アルデヒドA、368mg、3.43mmol)のエタノール(10mL)中溶液に加え、得られた混合物を室温で2時間撹拌した。NaBH4(208mg、5.49mmol)を加え、混合物を室温で更に2時間撹拌した。次いで飽和NaHCO3水溶液(15mL)及びCH2Cl2(25mL)を加えた。相分離した後、水相をCH2Cl2(2×25mL)で抽出した。合わせた有機相を乾燥(Na2SO4)し、真空で濃縮した。粗生成物をシリカゲル上でのカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/EtOAc/NEt3、9:1から1:1;10%NEt3のEtOAc中混合物を使用した)により精製し、N-(2-(ジフェニルホスファネイル)ベンジル)-1-(ピリジン-2-イル)メタンアミン(L3)を無色油状物として得た(600mg、収率46%)。
1H NMR (500 MHz, CD2Cl2) δ 8.48-8.46 (m, 1H), 7.57 (td, J = 7.7, 1.8 Hz, 1H), 7.54-7.51 (m, 1H), 7.36-7.30 (m, 7H), 7.28-7.24 (m, 4H), 7.19-7.10 (m, 4H), 6.91 (ddd, J = 7.7, 4.5, 1.4 Hz, 1H), 4.02 (d, J = 1.7 Hz, 2H), 3.79 (s, 2H). 31P NMR (203 MHz, CD2Cl2) δ -15.94. HRMS (ESI) C25H23N2P ([M]+): 計算値: 382.1599; 実測値: 382.1611.
【0153】
実施例1.3(配位子4=L4の調製)
【0154】
【化26】
(2-(ジフェニルホスファネイル)フェニル)メタンアミン(アミンA、1.53g、5.25mmol)を、室温で6-メチルピコリンアルデヒド(アルデヒドB、636mg、5.25mmol)のエタノール(20.0mL)中溶液に加え、得られた混合物を室温で2時間撹拌した。NaBH4(318mg、8.41mmol)を加え、混合物を室温で更に2時間撹拌した。次いで飽和NaHCO3水溶液(50mL)及びCH2Cl2(50mL)を加えた。相分離した後、水相をCH2Cl2(2×25mL)で抽出した。合わせた有機相を乾燥(Na2SO4)し、真空で濃縮した。粗生成物をシリカゲル上でのカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/EtOAc/NEt3、9:1から6:4;10%NEt3のEtOAc中混合物を使用した)により精製し、N-(2-(ジフェニルホスファネイル)ベンジル)-1-(6-メチルピリジン-2-イル)メタンアミン(L4)を無色油状物として得た(1.23mg、3.10mmol、収率59%)。
1H NMR (500 MHz, CD2Cl2) δ 7.54-7.52 (m, 1H), 7.46 (t, J = 7.7 Hz, 1H), 7.36-7.30 (m, 7H), 7.27-7.24 (m, 4H), 7.18-7.15 (m, 2H), 6.98 (d, J = 7.7 Hz, 1H), 6.94 (d, J = 7.7 Hz, 1H), 6.92-6.89 (m, 1H), 4.01 (s, 2H), 3.74 (s, 2H), 2.47 (s, 3H). 31P NMR (203 MHz, CD2Cl2) δ -16.31. HRMS (ESI) C26H2N2P ([M]+): 計算値: 396.1755; 実測値: 396.1777.
【0155】
実施例1.4(配位子5=L5の調製)
【0156】
【化27】
(2-(ジフェニルホスファネイル)フェニル)メタンアミン(アミンA、1.5g、5.14mmol)を、室温で6-メトキシピコリンアルデヒド(アルデヒドC、706mg、5.14mmol)のエタノール(20mL)中溶液に加え、得られた混合物を室温で2時間撹拌した。NaBH4(311mg、8.22mmol)を加え、混合物を室温で更に2時間撹拌した。次いで飽和NaHCO3水溶液(50mL)及びCH2Cl2(50mL)を加えた。相分離した後、水相をCH2Cl2(2×25mL)で抽出した。合わせた有機相を乾燥(Na2SO4)し、真空で濃縮した。粗生成物をシリカゲル上でのカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/EtOAc/NEt3、9:1から6:4;10%NEt3のEtOAc中混合物を使用した)により精製し、N-(2-(ジフェニルホスファネイル)ベンジル)-1-(6-メチルピリジン-2-イル)メタンアミン(L5)を無色油状物として得た(1.67mg、4.06mmol、収率79%)。
1H NMR (500 MHz, CD2Cl2) δ 7.56-7.51 (m, 1H), 7.46 (dd, J = 8.2, 7.2 Hz, 1H), 7.39-7.28 (m, 7H), 7.27-7.22 (m, 4H), 7.17 (td, J = 7.5, 1.4 Hz, 1H), 6.90 (ddd, J = 7.7, 4.4, 1.4 Hz, 1H), 6.71 (m, 1H), 6.56 (m, 1H), 4.01 (d, J = 1.8 Hz, 2H), 3.86 (s, 3H), 3.69 (s, 2H). 31P NMR (203 MHz, CD2Cl2) δ -16.25. HRMS (ESI) C26H25N2P ([M]+): 計算値: 396.1755; 実測値: 396.1767.
【0157】
実施例1.5(配位子6=L6の調製)
【0158】
【化28】
2-ピコリルアミン(アミン1、715mg、6.61mmol)を、室温で2-(ジシクロヘキシルホスファネイル)ベンズアルデヒド(アルデヒド2、2.00g、6.61mmol)のエタノール(50mL)中溶液に加え、得られた混合物を室温で2時間撹拌した。NaBH4(401mg、10.6mmol)を加え、混合物を室温で更に2時間撹拌した。次いで飽和NaHCO3水溶液(100mL)及びCH2Cl2(75mL)を加えた。相分離した後、水相をCH2Cl2(2×50mL)で抽出した。合わせた有機相を乾燥(Na2SO4)し、真空で濃縮した。粗生成物をシリカゲル上でのカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/EtOAc/NEt3、9:1から3:1;10%NEt3のEtOAc中混合物を使用した)により精製し、N-(2-(ジシクロヘキシルホスファネイル)ベンジル)-1-(ピリジン-2-イル)メタンアミン(L6)を無色油状物として得た(1.3g、収率54%)。
1H NMR (500 MHz, C6D6) δ 8.50-8.49 (m, 1H), 7.51-7.79 (m, 1H), 7.44-7.41 (m, 1H), 7.24-7.22 (m, 1H), 7.18-7.17 (m, 1H), 7.14-7.10 (m, 2H), 6.65-6.62 (m, 1H), 4.31 (d, J = 2.1 Hz, 2H), 4.03 (s, 2H), 1.95-1.87 (m, 4H), 1.70-1.53 (m, 9H), 130.-1.00 (m, 11H). 31P NMR (203 MHz, CD2Cl2) δ -16.66. HRMS (ESI) C26H23N2P ([M]+): 計算値: 394.2538; 実測値: 394.2527.
【0159】
実施例1.6(配位子7=L7の調製)
【0160】
【化29】
2-ピコリルアミン(アミン1、532mg、4.92mmol)を、室温で2-(ビス(4-メトキシ-3,5-ジメチルフェニル)ホスファネイル)ベンズアルデヒド(アルデヒド3、2.00g、4.92mmol)のエタノール(50mL)中溶液に加え、得られた混合物を室温で2時間撹拌した。NaBH4(300mg、7.88mmol)を加え、混合物を室温で更に2時間撹拌した。次いで飽和NaHCO3水溶液(50mL)及びCH2Cl2(50mL)を加えた。相分離した後、水相をCH2Cl2(2×25mL)で抽出した。合わせた有機相を乾燥(Na2SO4)し、真空で濃縮した。粗生成物をシリカゲル上でのカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/EtOAc/NEt3、9:1から6:4;10%NEt3のEtOAc中混合物を使用した)により精製し、N-(2-(ビス(4-メトキシ-3,5-ジメチルフェニル)ホスファネイル)ベンジル)-1-(ピリジン-2-イル)メタンアミン(L7)を無色油状物として得た(1.20g、収率50%)。
1H NMR (500 MHz, C6D6) δ 8.45-8.44 (m, 1H), 7.63-7.60 (m 1H), 7.40 (ddd, J = 7.6, 4.4, 1.4 Hz, 1H), 7.27 (s, 2H), 7.25 (s, 2H), 7.18-7.17 (m, 1H), 7.09-7.05 (m, 2H), 7.00-6.98 (m, 1H), 6.63-6.60 (m, 1H), 4.26 (d, J = 1.9 Hz, 2H), 3.89 (s, 2H), 3.89 (s, 2H), 3.29 (s, 6H), 2.05 (s, 12H). 31P NMR (203 MHz, CD2Cl2) δ -17.13. HRMS (ESI) C26H25N2P ([M]+): 計算値: 498.2436; 実測値: 498.2441.
【0161】
水素化のための一般的手順1~5
手順1(単離した配位子)
【0162】
【化30】
1,4-DMT = メチル1,4-ジメチルテレフタレート
1,4-BDM = 1,4-ベンゼンジメタノール
4-HMBM = メチル4-ヒドロキシメチルベンゾエート
4-HMBA = 4-ヒドロキシメチルベンズアルデヒド
【0163】
選択された配位子(各実施例に示した通り)、選択されたRu前駆体(各実施例に示した通り)、メチル1,4-ジメチルテレフタレート(各実施例に示した通り)及びNaOMe(各実施例に示した通り)を、保護ガス下100mLのオートクレーブ中に最初に仕込み、トルエン40mLを加えた。オートクレーブを密封し、6.0MPa absの水素圧を適用し、(各実施例に示した通り)700rpmで所望の反応温度に加熱した。所望の反応温度に達した後、8.0MPa absの水素圧を設定した。所望の反応時間が所望の反応温度で経過した後、オートクレーブを室温に冷却し、得られた排出物を濃縮し、収率を場合により決定し、排出物をGCにより分析した(試料をジオキサンに溶解)。Optima FFAPカラム(30m×0.25mm/0.5μm;140℃で15分、次いで250℃まで20℃/分;流速:2.0mL/分;キャリアーガスとして水素)。GC面積%により転化率を決定。tR(1,4-BDM)=24.9分;tR(4-HMBM)=23.0分、tR(4-HMBA)=22.5分。
【0164】
手順2(配位子Lの中間体を単離せず)
【0165】
【化31】
選択されたアミン(各実施例に示した通り)及び選択されたアルデヒド(各実施例に示した通り)を、保護ガス下100mLのオートクレーブ中に最初に仕込み、トルエン20mLを加えた。オートクレーブを密封し、110℃に2時間加熱した。次いでオートクレーブを室温に冷却し、Ru前駆体1(各実施例に示した通り)、メチル1,4-ジメチルテレフタレート(各実施例に示した通り)及びNaOMe(各実施例に示した通り)を加えた。トルエン20mLを再度加え、6.0MPa absの水素圧を適用し、混合物を700rpmで130℃に加熱した。内温が130℃に達した後、8.0MPa absの水素圧を設定した。所望の反応時間が130℃で経過した後、オートクレーブを室温に冷却し、得られた排出物を濃縮し、収率を場合により決定し、排出物をGCにより分析した(試料をジオキサンに溶解)。Optima FFAPカラム(30m×0.25mm/0.5μm;140℃で15分、次いで250℃まで20℃/分;流速:2.0mL/分;キャリアーガスとして水素)。GC面積%により転化率を決定。tR(1,4-BDM)=24.9分;tR(4-HMBM)=23.0分、tR(4-HMBA)=22.5分。
【0166】
手順3(塩基を用いる単離した配位子/基質のスクリーニング)
【0167】
選択された配位子(各実施例に示した通り)、選択されたRu前駆体(各実施例に示した通り)、選択されたエステル(各実施例に示した通り)及びKOMe(各実施例に示した通り)を、保護ガス下100mLのオートクレーブ中に最初に仕込み、トルエン20mLを加えた。オートクレーブを密封し、6.0MPa absの水素圧を適用し、(各実施例に示した通り)700rpmで所望の反応温度に加熱した。所望の反応温度に達した後、8.0MPa absの水素圧を設定した。所望の反応時間が所望の反応温度で経過した後、オートクレーブを室温に冷却し、得られた排出物のアリコートをGCにより分析した。HP5カラム(60m×0.25mm/1.0μm;60℃で5分、次いで250℃まで20℃/分;流速:2.0mL/分;キャリアーガスとしてヘリウム)。GCによる収率は、内部標準としてテトラヒドロピラン(THP)を使用して決定した。tR(THP)=8.4分;tR(ベンジルアルコール)=13.0分;tR(メチルベンゾエート)=13.6分。
【0168】
手順4(塩基を用いない単離した配位子/基質のスクリーニング)
手順4は、反応をKOMeを添加せずに行った点が異なる以外は、手順3に相当する。
【0169】
手順5(単離した配位子/基質のスクリーニング)
手順5は、反応を溶媒としてトルエンの代わりにTHF中で、異なる濃度比を用いて行い、NaOMeを塩基として使用した点が異なる以外は、手順3に相当する。
【0170】
選択された配位子(各実施例に示した通り)、選択されたRu前駆体(各実施例に示した通り)、選択されたエステル(各実施例に示した通り)及びNaOMe(各実施例に示した通り)を、保護ガス下100mLのオートクレーブ中に最初に仕込み、THF(40mL)を加えた。オートクレーブを密封し、6.0MPa absの水素圧を適用し、(各実施例に示した通り)700rpmで所望の反応温度に加熱した。所望の反応温度に達した後、8.0MPa absの水素圧を設定した。所望の反応時間が所望の反応温度で経過した後、オートクレーブを室温に冷却し、得られた排出物のアリコートをGCにより分析した。Optima FFAPカラム(30m×0.25mm/0.5μm;140℃で5分、次いで250℃まで15℃/分;流速:2.0mL/分;キャリアーガスとしてヘリウム)。GC面積%により転化率を決定。
【0171】
[実施例2]
実施例2において、手順1に従ってルテニウム錯体の存在下メチル1,4-ジメチルテレフタレート(1,4-DMT)の1,4-ベンゼンジメタノール(1,4-BDM)への水素化を、予め合成し単離した配位子及び種々のRu前駆体を使用して検討した。実施例2.1から2.8のデータを表5に示す。
【0172】
配位子L1、L3及びL4並びにRu前駆体1、2及び3を使用して、>98%までの1,4-DMTの極めて高い転化率及び>98%までの1,4-BDMに対する極めて高い選択率を達成した。
【0173】
[実施例3]
実施例3において、手順2に従って(中間体を単離せずに)ルテニウム錯体の存在下メチル1,4-ジメチルテレフタレート(1,4-DMT)の1,4-ベンゼンジメタノール(1,4-BDM)への水素化を、種々の配位子を調製し、種々のRu前駆体を使用することにより検討した。実施例3.1から3.5のデータを表6に示す。
【0174】
アミン1、2及び3、アルデヒド1(これらから配位子L1、L2及びL8が形成される)並びにRu前駆体1、3及び4を使用して、>98%までの1,4-DMTの極めて高い転化率及び>98%までの1,4-BDMに対する極めて高い選択率を達成した。
【0175】
[実施例4]
実施例4において、Ru錯体1の存在下メチルベンゾエートからベンジルアルコールへの水素化を検討した。P.Rigoら、Organometallics、2007年、26巻、5636~5642頁、表題「Synthesis of trans-[RuCl2(PPh3)(b)](1)]」の実験項に記載されている方法に従って、Ru錯体1を使用した。
【0176】
Ru錯体1 36.7μmol(30mg)、メチルベンゾエート36.7mmol及びKOMe 1.84mmolを、保護ガス下100mLのオートクレーブ中に最初に仕込み、トルエン20mLを加えた。オートクレーブを密封し、6.0MPa absの水素圧を適用し、700rpmで130℃に加熱した。130℃に達した後、8.0MPa absの水素圧を設定した。130℃で16時間後、オートクレーブを室温に冷却し、得られた排出物のアリコートをGCにより分析した。HP5カラム(60m×0.25mm/1.0μm;60℃で5分、次いで250℃まで20℃/分;流速:2.0mL/分;キャリアーガスとしてヘリウム)。GCによる収率は、内部標準としてテトラヒドロピラン(THP)を使用して決定した。tR(THP)=8.4分;tR(ベンジルアルコール)=13.0分;tR(メチルベンゾエート)=13.6分。
【0177】
以下の結果を達成した:
メチルベンゾエートの転化率: >99%
ベンジルアルコールに対する選択率: 99.3%
ベンズアルデヒドに対する選択率: 0.74%
【0178】
予め合成したルテニウム錯体を使用する場合でも、メチルベンゾエートのベンジルアルコールへの水素化において、>99%の極めて高い転化率及びベンジルアルコールに関して>99%の極めて高い選択率を達成した。
【0179】
[実施例5]
実施例5において、手順3、4及び5に従ってルテニウム錯体の存在下種々のエステルの水素化(表7に示した通り)を、予め合成し、単離した種々の配位子並びにRu前駆体2、3及び5を使用して検討した。表7は実施例5.1から5.17のデータを示す。
【0180】
実施例5.1から5.17は、本発明に従う方法は幅広く使用でき、広範な種類のエステルを使用する際にも、Ru前駆体及び配位子は、対応するアルコールに対して高い転化率及び高い選択性を可能にすることを示している。
[実施例6]
【0181】
【化32】
【0182】
実施例6において、(3aR)-(+)-スクラレオリド(sclareolide)のアンブロキシジオール(ambroxdiol)への水素化を検討した。
【0183】
実施例6.1及び6.2において、Ru錯体1(表8に示した通り)、(3aR)-(+)-スクラレオリド(表8に示した通り)及びNaOMe(表8に示した通り)を、保護ガス下100mLのオートクレーブ中に最初に仕込み、テトラヒドロフラン40mLを加えた。オートクレーブを密封し、6.0MPa absの水素圧を適用し、700rpmで所望の反応温度に加熱した(表8に示した通り)。所望の反応温度に達した後、8.0MPa absの水素圧を設定した。所望の反応時間が所望の反応温度で経過した後、オートクレーブを室温に冷却し、得られた溶液をGCにより分析した。Optima FFAPカラム(30m×0.25mm/0.5μm;140℃で15分、次いで250℃まで20℃/分;流速:2.0mL/分;キャリアーガスとしてヘリウム)。tR(スクラレオリド)=29.4分;tR(アンブロキシジオール)=32.5分。
【0184】
実施例6.3において、ルテニウム錯体の存在下(3aR)-(+)-スクラレオリドのアンブロキシジオールへの水素化を検討した。手順は実施例6.1及び6.2においてと同様であったが、実施例6.1及び6.2とは対照的に、配位子L3及びRu前駆体3をRu錯体1の代わりに使用した。
【0185】
表8は実施例6.1から6.3のデータを示す。
【0186】
[実施例7]
【0187】
【化33】
【0188】
実施例7において、イソプロピルホモファルネシレート(isopropyl homofarnesylate)のホモファルネソール(homofarnesol)への水素化を検討した。
【0189】
Ru前駆体5(表9に示した通り)及び配位子L3(表9に示した通り)を、保護ガス下100mLのオートクレーブに最初に仕込み、メタノール30mLを加えた。オートクレーブを密封し、5.0MPa absの水素圧を適用し、700rpmで60℃に1.5時間加熱した。次いで圧を再度短時間で放圧し、NaOMe及びメタノール10mLに溶解したイソプロピルホモファルネシレートを不活性雰囲気下で加える(表9に示した通り)。次いで水素圧を5.0MPaに設定し、オートクレーブを700rpmで所望の反応温度に加熱する(表9に示した通り)。所望の反応温度に達した後、8.0MPa absの水素圧を設定した。指定の反応時間が経過した後、オートクレーブを室温に冷却し、得られた溶液をGCにより分析した。VF-23msカラム(60m×0.25mm/0.25μm;50℃で5分、次いで250℃まで5℃/分;流速:1.0mL/分;キャリアーガスとしてヘリウム)。tR(イソプロピルホモファルネシレート)=34.3分;tR(ホモファルネソール、4つの異性体の合計)=35.1、35.3、35.7、35.8分。
【0190】
表9は実施例7のデータを示す。
【0191】
[実施例8]
実施例8は、蒸留により最初の水素化からの生成物を除去した後での、触媒の再使用を示す(触媒リサイクル)。
【0192】
L3 36.7μmol、Ru前駆体5 12.2μmol及びメチルベンゾエート36.7mmolを、保護ガス下100mLのオートクレーブ中に最初に仕込み、ベンジルアルコール20mLを加えた。オートクレーブを密封し、7.0MPa absの水素圧を適用し、700rpmで130℃に加熱した。反応温度に達した後、8.0MPa absの水素圧を設定した。130℃で反応時間16時間が経過した後、オートクレーブを室温に冷却し、得られた排出物のアリコートをGCにより分析した。HP5カラム(60m×0.25mm/1.0μm;60℃で5分、次いで250℃まで20℃/分;流速:2.0mL/分;キャリアーガスとしてヘリウム)。GCによる収率は、内部標準としてテトラヒドロピラン(THP)を使用して決定した。tR(THP)=8.4分;tR(ベンジルアルコール)=13.0分;tR(メチルベンゾエート)=13.6分。転化率99.3%;選択率95%ベンジルアルコール。
【0193】
得られた排出物を真空で濃縮し、次いでベンジルアルコールで再度希釈して総容量を20mLにした。触媒含有反応溶液を保護ガス下オートクレーブに再度移し、別にメチルベンゾエート36.7mmolを加えた。7.0MPa absの水素圧を適用し、オートクレーブを700rpmで130℃に加熱した。反応温度に達した後、8.0MPa absの水素圧を設定した。130℃で反応時間16時間が経過した後、オートクレーブを室温に冷却し、得られた排出物のアリコートをGCにより分析した(上記した通りの方法)。転化率97.8%;選択率96%ベンジルアルコール。
【0194】
【表1】
【0195】
【表2】
【0196】
【表3】
【0197】
【表4】
【0198】
【表5】
【0199】
【表6】
【0200】
【表7】
【0201】
【表8】
【0202】
【表9】
【国際調査報告】