(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-13
(54)【発明の名称】多孔質炭素質真空チャンバライナ
(51)【国際特許分類】
H01J 5/10 20060101AFI20220906BHJP
H01J 37/18 20060101ALI20220906BHJP
H01J 37/317 20060101ALI20220906BHJP
H01J 37/16 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
H01J5/10
H01J37/18
H01J37/317 Z
H01J37/16
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022500928
(86)(22)【出願日】2020-07-08
(85)【翻訳文提出日】2022-02-04
(86)【国際出願番号】 US2020041199
(87)【国際公開番号】W WO2021007319
(87)【国際公開日】2021-01-14
(32)【優先日】2019-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505307471
【氏名又は名称】インテグリス・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】スコギンス、トロイ
(72)【発明者】
【氏名】シェパード、レックス ジー.
(72)【発明者】
【氏名】ラシェド、アブアゲラ エイチ.
(72)【発明者】
【氏名】ハート、アメリア エイチ.シー.
【テーマコード(参考)】
5C101
【Fターム(参考)】
5C101AA25
5C101BB01
5C101CC01
5C101CC11
5C101FF02
(57)【要約】
説明されるのは真空チャンバで使用される多孔質保護ライナであり、ライナは無機炭素質材料からなるとともに多孔質表面を有し、好ましくは細孔が開放細孔構造である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバと、
前記真空チャンバの内部空間に曝される表面を有するライナと、を備え、前記表面は多孔質無機炭素質材料からなる、装置。
【請求項2】
前記多孔質無機炭素質材料は、開放細孔構造を有する、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記表面は、10ミクロンを超える細孔サイズを有するマクロポーラス表面開口を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記多孔質無機炭素質材料は、500から1,000ミクロンの範囲の厚さを有する、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記多孔質無機炭素質材料は、18から97パーセントの範囲の多孔度を有する、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記ライナは、
前記ライナの第1面上の前記表面と、
前記ライナの第2面上の第2の表面と、
前記第1の表面と前記第2の表面との間の厚さと、を含み、
前記多孔質無機炭素質材料は、開放細孔構造を有し、前記開放細孔構造は、前記第1の表面から前記第2の表面まで延びる、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記多孔質無機炭素質材料は、織られた炭素又はグラファイト繊維である、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記多孔質無機炭素質材料は、無機炭素質発泡体である、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記多孔質無機炭素質材料は、グラファイト発泡体である、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記多孔質無機炭素質材料は、炭化ケイ素発泡体である、請求項1に記載の装置。
【請求項11】
内部及び前記内部のライナを含む真空チャンバであって、前記ライナは前記内部に曝される表面を有し、前記表面は多孔質無機炭素質材料からなる、真空チャンバ。
【請求項12】
前記多孔質無機炭素質材料は、開放細孔構造を有する、請求項11に記載の真空チャンバ。
【請求項13】
前記表面は、10ミクロンを超える細孔サイズを有するマクロポーラス表面開口を含む、請求項11に記載の真空チャンバ。
【請求項14】
前記ライナは、
前記ライナの第1面上の前記表面と、
前記ライナの第2面上の第2の表面と、
前記第1の表面と前記第2の表面との間の厚さと、を含み、
前記多孔質無機炭素質材料は、開放細孔構造を有し、前記開放細孔構造は、前記第1の表面から前記第2の表面まで延びる、請求項11に記載の真空チャンバ。
【請求項15】
ライナを含む真空チャンバを有する装置を使用する方法であって、前記方法は、
前記真空チャンバ内でイオンビームを生成すること、又は
前記真空チャンバ内で破片粒子を生成すること、又は
前記真空チャンバ内でイオンビーム及び破片粒子を生成すること、を含み、
前記ライナは前記真空チャンバの内部空間に曝される表面であって、多孔質無機炭素質材料からなる表面を有し、
前記装置を使用する前記方法の間、前記イオンビーム又は前記破片粒子は前記ライナの表面に接触する、方法。
【請求項16】
前記イオンビームは前記ライナに直交して向けられており、前記ライナ表面に衝突するイオンは粒子破片を生成し、
前記イオンによって生成される粒子破片の量は、多孔質無機炭素質材料からなる前記表面を有さないライナに衝突する前記イオンによって生成される粒子破片の量よりも少ない、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記方法は、前記真空チャンバの前記内部空間に入る粒子破片を生成することを含み、
前記粒子破片は前記ライナに接触し、前記ライナによって捕捉され、前記真空チャンバの前記内部空間から除去される、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記ライナは、多孔質表面を有さないライナによって除去される粒子破片の量よりも多い量の粒子破片を前記内部空間から除去する、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
イオンを基板に注入することを含み、前記基板は基板表面にフォトレジストを含み、前記方法は、前記イオンビームによって前記フォトレジストに由来する粒子破片を生成するように、前記イオンビームを前記フォトレジストに向けることを含む、請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空チャンバで使用される多孔質保護ライナに関するものであり、ライナは無機炭素質材料からなるとともに多孔質表面を有し、好ましくは細孔が開放細孔構造(open-pore structure)であるものである。
【背景技術】
【0002】
真空チャンバは、真空中で材料や装置を処理するのに有用である。真空チャンバを要する1つのプロセスはイオン注入であり、これによってワークピースの表面がイオンに曝されることで、イオンが表面に浸透する。
【0003】
真空チャンバ内での処理中、真空チャンバの内部空間及び雰囲気は低圧でなければならず、かつ所望の処理ステップに有用なイオンを含む。イオン注入プロセスでは、処理雰囲気に存在する有用な材料の純度を非常に高くする必要がある。雰囲気は、基板に注入できるイオン、あるいはプロセスに有用な又は必要な関連材料のいずれでもない不純物や汚染物質を可能な限りなくすべきである。
【0004】
残念ながら、処理のために真空チャンバを使用中、汚染物質及び不純物は、通常、真空チャンバ内に導入される、又は真空チャンバ内で生成される。例えば注入プロセス中に、粒子サイズの汚染物質が生成され、真空チャンバ内に堆積する可能性がある。この影響を低減又は望ましくは排除するために、さまざまなタイプの不活性保護ライナが、注入プロセス中の粒子の生成を低減又は最小限に抑えるように真空チャンバ内に配置される。
【発明の概要】
【0005】
本明細書は、真空チャンバの側壁又は他の内面を保護するためのライナ、及び関連する方法に関する。任意で取り外し可能かつ交換可能なライナは、使用中の真空チャンバ内での粒子汚染物質の生成を低減するために、側壁の表面を覆うように真空チャンバの内部に配置される。ライナは、真空チャンバの内部空間に曝されるとともに、好ましくはオープンセル(open cell)構造を含む多孔質無機炭素質材料からなる表面を有する。真空チャンバ内の粒子汚染を低減するために、ライナを、ワークピース又はイオン(例えば、イオンビーム)に曝される真空チャンバの内面に配置することができる。ライナは、i)真空チャンバの使用中にイオンがライナの表面と衝突した場合に、粒子汚染物質の形成又は放出に抵抗する、ii)真空チャンバの作動中にライナに接触する粒子汚染物質を捕捉するなどして、真空チャンバのバルク雰囲気から粒子汚染物質を除去する、又はiii)好ましくはこれらの両方を行うような、材料からなるとともに構造を有する表面を含むことができる。
【0006】
一態様では、本発明は、真空チャンバと、真空チャンバの内部に曝される表面を有し、表面が多孔質無機炭素質材料からなるライナとを含む装置に関する。
別の態様では、本発明は、内部及び内部のライナを含む真空チャンバに関する。ライナは内部に曝される表面を有しており、表面は多孔質無機炭素質材料からなる。
【0007】
別の態様では、本発明は、ライナを含む真空チャンバを有する装置を使用する方法に関する。この方法は、真空チャンバ内でイオンビームを生成すること、又は真空チャンバ内で破片粒子を生成すること、又は真空チャンバ内でイオンビーム及び破片粒子を生成することを含む。ライナは真空チャンバの内部空間に曝される表面を有しており、表面は多孔質無機炭素質材料からなる。装置を使用する方法の間、イオンビーム又は破片粒子はライナの表面に接触する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図3C】説明される多孔質表面の繊維の写真である。
【
図4】本説明のライナを有する真空チャンバを含む、説明される装置の図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下の説明は、高真空環境でワークピースを処理するための低圧(「真空」)の内部を含む真空チャンバに関する。この説明はまた、説明される真空チャンバを使用する方法に関する。
【0010】
真空チャンバは、半導体材料(例えば、半導体ウェハ)、マイクロエレクトロニクスデバイス、又はマイクロエレクトロニクスデバイスの前駆体であるワークピースを処理する(例えばワークピースの表面に材料を蒸着させる、又はワークピースの表面に材料を注入するなど)のために使用することができる。真空チャンバは、例えば真空チャンバに向けられたイオンビームの形態で、注入のためのイオンの供給によって供給される真空チャンバを含むイオン注入装置などのより大きな装置の一部として含まれ得る。より大きな装置又はシステムの一部としての真空チャンバの非限定的な一例は、半導体基板の表面の材料に、例えばドーパントとして、イオンを注入するためのイオン注入装置である。
【0011】
本説明によれば、真空チャンバは、真空チャンバの内部を規定する側壁を含む。任意で取り外し可能かつ交換可能な1以上のライナは、1つ以上の側壁を覆うように真空チャンバの内部に配置される。1つ以上のライナは、真空チャンバの内部空間、例えばワークピース、イオン、又はその両方に曝されるライナ表面を有する。ライナ表面は、オープンセル構造を有する多孔質無機炭素質材料からなっていてもよい。
【0012】
本発明の一実施形態では、真空チャンバは、真空チャンバ全体にわたって、25torr(約3333Pa)未満、5torr(約667Pa)、1torr(133Pa)、又は0.1torr(約13Pa)未満などの低圧に保持される。真空チャンバは、真空チャンバ内でのワークピースの処理を容易にするために、ワークピース(例えば「半導体ウェハ」、又は他の基板、例えばマイクロエレクトロニクスデバイス又はその前駆体)を収容するとともに支持するために使用される空間を含む。真空チャンバはまた、イオンビームなどの処理用に、真空チャンバに材料を供給するために必要な隣接する空間を含み得る。一例として、イオン注入装置は、ワークピースへのイオンの注入中にワークピース(例えば、半導体ウェハ)を配置及び支持するための場所であるエンドステーションを含み得る。イオン注入装置はまた、イオンビームを生成又は供給し、イオンビームをエンドステーションに向けるためのスペースを含む。これらの空間は、使用中は低圧に保たれており、例えばイオン注入装置の真空チャンバの一部である。
【0013】
イオン注入は、半導体ウェハなどのワークピースに導電率を変化させる不純物を導入するための標準的な技術である。このプロセスは、エンドステーション及びイオンビーム源を含む真空チャンバを含むイオン注入装置を使用して実行される。真空チャンバは、非常に低い圧力になっている。しかし、非常に低い圧力であっても、真空チャンバは微量の望ましくない汚染物質を含む。汚染物質は、さまざまな異なる方法のいずれかで真空チャンバ内で生成又は真空チャンバ内に存在する可能性があり、それらの物理的形態(例えば、微粒子、ナノ粒子、化学的(分子)蒸気)が変化する可能性があり、さまざまな化学組成である可能性がある。
【0014】
真空チャンバ内の汚染粒子の存在は、ワークピースの処理に悪影響を及ぼす。一部のタイプの汚染物質、例えば粒子汚染物質は、真空チャンバ内で実行されるプロセス中に生成され得る。例えば半導体ウェハのイオンドーピング、すなわち「イオン注入」中に、ワークピース上のフォトレジスト材料の表面に衝突するイオンビーム(入力)からのイオンは、フォトレジスト材料と反応して破片粒子をフォトレジストから真空チャンバの雰囲気中に放出させる可能性がある。粒子は、ワークピースの開いた表面に配置される可能性があり、その位置で粒子は汚染物質になる。別の例として、粒子汚染物質は、真空チャンバの内面の材料、例えば側壁又は他の機能構造に衝突するイオンビームのイオンなどの高エネルギ粒子によって、真空チャンバ内で生成され得る。この粒子汚染物質の発生源は、「イオンスパッタリング」と呼ばれることがある。生成されたイオンは、汚染物質として真空チャンバの雰囲気中に放出される。真空チャンバの他の内面に衝突するイオンもまた、粒子汚染物質を生成し得る。
【0015】
真空チャンバ内の汚染量を低減するために、ライナを、ワークピース又はイオン(例えば、イオンビーム)に曝される真空チャンバの内面に配置することができる。ライナは、i)真空チャンバの使用中にイオンがライナの表面と衝突した場合に、粒子汚染物質の形成又は放出に抵抗する、ii)真空チャンバの作動中にライナに接触する粒子汚染物質を捕捉するなどして、真空チャンバのバルク雰囲気から粒子汚染物質を除去する、又はiii)好ましくはこれらの両方を行うために有効であるような、材料からなるとともに構造を有する表面を含むことができる。
【0016】
「ライナ」という用語は、長さ方向と幅方向の両方にそれぞれ延びる2つの対向する主面を有し、2つの対向する面の間に厚さ寸法を有する実質的に二次元のシート又は膜を指す。厚さ寸法の大きさは、長さ及び幅の両方よりも大幅に小さい。ライナは、ライナの材料の種類などの要因、及び構造(例えば織布又は「スポンジ」)、厚さ、多孔度(porosity)、並びに細孔サイズなどのライナの物理的特徴に応じて、柔軟又は硬質であってもよい。
【0017】
説明されるライナは、オープンセル構造を有する多孔質無機炭素質材料からなる少なくとも1つの表面を含むことができる。例示的なライナは、真空チャンバ条件下でライナが化学的な耐性を有する、例えば真空チャンバ内で実行されるプロセスのプロセス材料と接触したときの化学変化又は材料粒子の放出に対する耐性を有する材料及び構造のものであり得る。例示的なライナは、スパッタリング、すなわち真空チャンバの内部で粒子汚染物質になる可能性のある材料粒子の放出に対する耐性を有し得る、非晶質炭素、グラファイト、又は炭化ケイ素などの比較的不活性な多孔質無機炭素質材料からなる。化学的な耐性及びスパッタリングに対する耐性に加えて、説明されるライナはまた、真空チャンバの雰囲気中の汚染粒子を捕捉して、同雰囲気から粒子を除去することが可能な開口を含む表面を有し得る。また、好ましくは、多孔質表面は、イオンビームに曝されたときに、直交するビームの衝撃の数が減少するという追加の利点を有してもよい。
【0018】
無機炭素質材料は、無機物で、大量の炭素からなる、あるいは実質的又は主に炭素からなる固体材料を指す。無機炭素質材料は、例えば、少なくとも50重量パーセントの炭素、あるいは少なくとも60、70、80、90、95、又は99重量パーセントの炭素を含んでもよい。無機炭素質材料は、水素、酸素、又は窒素原子に共有結合した炭素原子からなる有機化合物を少量又はわずかな量(例えば5、1、0.5、又は0.1重量パーセント未満)含む。
【0019】
無機炭素質材料いくつかの例は、主に非晶質又は結晶質(例えば、グラファイト)のいずれかの形態の炭素原子からなっていてもよく、例えば非晶質又は結晶質のいずれかの形態の、少なくとも90、95、98、又は99原子パーセントの炭素を含み得る。
【0020】
無機炭素質材料の他の例は、主に炭素及びケイ素原子を含んでもよく、一般に炭化ケイ素(SiC)と呼ばれる材料を含む。有用な又は好ましい炭化ケイ素材料は、総量の少なくとも80、90、95、98、又は99原子パーセントのケイ素及び炭素を含んでもよく、好ましくは、酸素又は水素などの他の材料を少量又はわずかな量以下、例えば5、3、1、又は0.5原子パーセント未満のトータルの酸素及び水素を含んでもよい。例示的な炭化ケイ素の形態には、結晶質の形態及び部分的に非晶質の形態が含まれる。例示的な炭化ケイ素材料は、40から90原子パーセントの炭素、10から60原子パーセントのケイ素、及び2又は1原子パーセント以下の他の材料、例えば0.5原子パーセント以下の酸素、水素、又は酸素と窒素の組み合わせを含んでもよい。多孔質炭化ケイ素材料は、グラファイトを炭化ケイ素に変換する既知の方法を含む、任意の方法によって作成できる。別の方法として、炭化ケイ素コーティングは、化学気相蒸着法(CVD)、化学気相浸透法(CVI)、又は他の関連する形態の蒸着などによって多孔質炭素発泡体(porous carbon foam)上に蒸着され、その後、炭素を除去するための酸化ステップが続くことがある。
【0021】
これらの無機炭素質材料のうち、多孔質の物理的形態に関連する、特定のより具体的な例には、開放細孔発泡体を含む構造を有する薄い多孔質ライナに形成することが可能な異なる形態の結晶性グラファイト、開放細孔発泡体を含む構造を有する薄い多孔質ライナに形成することが可能な非晶質炭素材料、多孔質発泡体の形態の炭化ケイ素、及び織る、編む、又はその他の方法で多孔質繊維状布のライナに形成することができる繊維に形成できる非晶質炭素材料と結晶性グラファイト材料が含まれる。
【0022】
ライナは、開放細孔構造を備える、多孔質の少なくとも1つの表面を含むことができる。本明細書で説明される場合、開放細孔構造を備える「多孔質」であるという特徴を有するライナの「表面」は、ライナの露出した表面とともに、露出した表面に近い又は非常に近いライナの三次元領域を指す。「表面」の開放細孔構造の多孔度を考慮する目的で、表面の三次元領域は、表面から500ミクロン下の深さ、代替的に表面から700又は1000ミクロン下の深さなど、表面に非常に近い深さまで延びるとみなすことができる。
【0023】
多孔質表面の「細孔」(又はライナの厚さ全体)は、任意の有効な形状であってもよい。例示的な細孔は、炭素質材料で構成された側壁(例えば、「マトリックス(matrix)」)によって及びそれらの間で規定される、概ね丸みを帯びた又は湾曲したセル構造を有する開口の形態であってもよい。代替的に、多孔質構造の細孔は、織られる、編まれるなどした炭素質材料の繊維の間に存在する隙間の開口(例えば、チャネル、通路)であってもよい。
【0024】
理論にとらわれることなく、多孔質で開放細孔のある表面は、非多孔質の表面や閉鎖孔の表面と比較して、真空チャンバ内の粒子の発生を抑える効果があると考えられるため、ライナの多孔質で開放細孔のある表面は好ましい。開放細孔を有する多孔質の表面は、イオン源、例えばイオンビームの形のイオンに曝された場合、イオンの移動方向に直交する表面に衝突するイオンの量を減らすことができる。多孔質(特に開放細孔構造)のライナの表面に衝突するイオンは、イオンの移動経路に直交する(垂直な)平面内に伸びる位置で表面に直接衝突しにくくなる。代わりに、イオンは、イオンの経路に対して角度を付けられた、又は湾曲した多孔質表面の一部に衝突する可能性がある。イオンの運動方向に対して直交しないライナの位置で多孔質ライナ表面に衝撃を与えると、衝突の結果としてイオンから表面に伝達されるエネルギの量を減らすことができ、表面の材料からの粒子(破片)の形成及び放出の可能性が減少する。
【0025】
本説明の目的のために、表面がライナの多孔度に基づいてわずかに多孔質である場合、ライナの表面は、「多孔質」である、すなわち「多孔質表面」を含むとみなされる。多孔質ライナ(例えば、その表面)は、使用中に真空チャンバのバルク雰囲気内を循環する粒子を収容及び収集することが可能なように十分に多孔質であり得る。ライナの多孔質で開放細孔の表面を含む真空チャンバの雰囲気中を循環する粒子は、粒子がライナの表面に係合する場合、開放細孔の表面の細孔(「セル」)に入り、オープンセル構造内に閉じ込められ得る。粒子は、真空チャンバのバルク内部空間から効果的に分離(除去)され、真空チャンバ内で処理されているワークピースの表面に配置され得る潜在的な粒子汚染物質として排除される。
【0026】
ライナの「表面」での多孔度は、表面に近い又は非常に近い構造の三次元体積の隣接量と同様に、二次元表面を含むライナの三次元部分(体積)の多孔度とみなすことができる。例えば、ライナの「表面の多孔度」は、表面及び表面から表面下500ミクロン(例えば、1000ミクロン)の深さまでの体積を含む体積など、表面の非常に近くに位置するライナの体積の多孔度として測定することができる。
【0027】
説明されるライナなどの三次元多孔質構造の「多孔度」(「空隙率」とも呼ばれる)は、三次元構造内の空隙の(すなわち「空の」)、空隙及び固体率を含む物体の総体積に対する割合である。多孔度は、構造の固体材料及び構造内の空隙の両方を含む構造の総体積に対する構造の空隙の体積の割合として計算される。ゼロパーセントの多孔度を有する構造は完全に固体である。
【0028】
この測定により、ライナの表面は、この方法で測定された多孔度が少なくとも18パーセント(例えば、少なくとも20、30、40、50、60、又は70パーセント)である場合、「多孔質」であるとみなすことができる。例示的なライナは、説明されるように表面で測定された場合、例えば表面から表面下500ミクロン、例えば1,000ミクロンの深さまで延びるライナの体積について測定された場合、18、20、30、40、50、又は60パーセントから最大70、80、90、95、又は97パーセントの範囲の多孔度を有することができる。他の例によれば、ライナは、表面に多孔質で開放細孔構造を有し、ライナの厚さ全体にわたって延びていてもよい。有用な又は好ましいライナの例示的な厚さは、500ミクロンから10,000ミクロンの範囲、例えば、1,000から5,000、7,000、9,000又は10,000ミクロンまでの範囲であり得る。
【0029】
本明細書で使用される場合、「開放細孔」(別名「オープンセル」)構造は、構造の他の孔に対して「閉鎖」(接続されていない)ではなく「開放」(接続されている)された、かなりの量の三次元の細孔(開口、セル、開口部、チャネル、通路など)を含むライナ(例えば、膜、フィルム、ライナ、あるいはその一部又は層)の多孔質構造であり得る。開放細孔構造の各細孔は、多孔質発泡体又はスポンジマトリックスの固体(硬質又は柔軟)壁の形態、あるいは織布又はニット布のライナの繊維の表面の形態など、構造の固体材料によって実質的に規定される。細孔は固体材料(壁又は繊維表面)によって部分的に囲まれているが完全には囲まれていないため、細孔は互いに相互接続されており、流体又は粒子が1つの細孔から異なる細孔に移動し得る。
【0030】
開放細孔構造の例には、開放細孔スポンジ、ならびに無機炭素質繊維材料からなる織布、不織布、ニット、フェルト、及び他の布タイプの材料などの繊維ベースの布が含まれる。好ましい開放細孔構造は、流体又は粒子(十分に小さい場合)が細孔の間を通過し得るように、すなわち1つの細孔から少なくとも1つの他の細孔へ通過し得るように、少なくとも過半数(少なくとも50パーセント)の相互接続された細孔、例えば少なくとも60、70、又は80パーセントの相互接続された細孔を有し得る。対照的に、他のタイプの多孔質材料は、「クローズドセル」材料(例えば、「クローズドセル発泡体」)であると理解され、これは、細孔(「セル」)の過半数(又はそれ以上、例えば、70、80、又は90パーセント)が別の細孔に接続されておらず、流体又は粒子は細孔間を通過できない、すなわち例えば細孔は、細孔壁の構造の固体材料によって完全に囲まれていることを意味する。
【0031】
ライナに有用な多孔質で開放細孔の無機炭素質材料の1つの特定の例は、オープンセル発泡体である。例示的な発泡体は、非晶質炭素、炭化ケイ素、又はグラファイトからなっていてもよい。
【0032】
図1A及び
図1Bは、例示的な炭素質発泡体構造、具体的にはオープンセル炭素質発泡体(例えば、グラファイト発泡体)の写真である。図に示されるように、発泡体100は、固体マトリックス104の湾曲した壁によって規定される細孔(「セル」)102を含み、多孔質表面106を含む。細孔102は、実質的に相互接続されており(例えば、「開いた」細孔)、表面106だけでなく、発泡体構造の厚さ全体にわたって存在し得る。細孔の平均サイズは、約100ミクロンから1000ミクロン(0.1から1ミリメートル)までの範囲であり得る。表面106又は発泡体の厚さ全体のいずれかで測定された多孔度を含む、図示の発泡体の多孔度は、少なくとも50パーセント、例えば50又は60から80、90、95、又は97パーセントまでの(又はそれを超える)範囲であり得る。
【0033】
図1Bに示されるように、使用中、イオン110を含むイオンビーム108は、真空チャンバの内部でライナとして使用される発泡体100の表面106に向けられ得る。各イオン110は、発泡体100の略平面に垂直な方向から表面106に接近する。しかし、拡大されたスケールでは、多孔質表面、すなわちマトリックス104の表面は、平坦ではなく、多くの湾曲した、丸みを帯びた、直交しない位置を含む。イオン110は、イオンの経路に対して直交していない、すなわちイオンの経路に対して角度を付けられた表面で、マトリックス104の固体部分に衝突することができる。
【0034】
図2A及び
図2Bは、別の例示的な炭素質発泡体構造、具体的にはオープンセルが低密度の炭化ケイ素発泡体構造の写真である。発泡体は炭化ケイ素からなり、1立方センチメートルあたり約1グラム未満の密度、例えば1立方センチメートルあたり0.8、0.6、又は0.5グラム未満であり得る。図に示されるように、発泡体100は、固体マトリックス104の湾曲した壁によって規定される細孔(「セル」)102を含み、多孔質表面106を含む。細孔102は、実質的に相互接続されており(例えば、「開いた」細孔)、表面106だけでなく、発泡体構造の厚さ全体にわたって存在し得る。細孔の平均サイズは、約1000ミクロンから5000ミクロン(1から5ミリメートル)の範囲であり得る。表面106又は発泡体の厚さ全体のいずれかで測定された多孔度を含む、図示の発泡体の多孔度は、少なくとも50パーセント、例えば50又は60から90、95、又は97パーセントの範囲であり得る。
【0035】
図2Bに示されるように、使用中、イオン110を含むイオンビーム108は、真空チャンバの内部でライナとして使用される発泡体100の表面106に向けられ得る。各イオン110は、発泡体100の略平面に垂直な方向から表面106に接近する。しかし、拡大されたスケールでは、多孔質表面、平坦ではなく、湾曲した、丸みを帯びた、直交しない表面を含み得る。イオン110は、イオンの経路に対して直交していない、すなわちイオンの経路に対して角度を付けられた位置で、固体マトリックス104の表面に衝突することができる。
【0036】
無機炭素質材料からなるライナのさらに別の例が、炭素繊維からなる織布タイプのライナの写真である
図3A、
図3B、及び
図3Cに示されている。ライナ200は、無機炭素質材料、例えば非晶質炭素、グラファイトなどの繊維からなり、繊維206の曲面204によって規定される細孔(「開口、チャネル、又は通路」)202を含み、多孔質表面208を含む。細孔202は、実質的に相互接続されており(例えば、「開いた」細孔)、表面208だけでなく、織物構造の厚さ全体にわたって存在し得る。布の厚さ全体で測定された図示の布の多孔度は、少なくとも40パーセント、例えば40又は50から70、80、又は90パーセントまでの又はそれを超える範囲であり得る。
【0037】
図3Cに示されるように、使用中、イオン110を含むイオンビーム108は、真空チャンバの内部でライナとして使用される発泡体布ライナ200の表面208に向けられ得る。各イオン110は、布ライナ200の略平面に垂直な方向から表面208に接近する。しかし、拡大されたスケールでは、多孔質で繊維質の表面を構成する繊維は、平坦ではなく、多くの湾曲した、丸みを帯びた、直交しない表面を含む。イオン110は、表面204がイオンの経路に直交していないが、イオンの経路に対して角度が付けられている位置で、表面208の繊維206の表面204に衝突することができる。
【0038】
ライナは、一般に、それぞれが露出した表面を有する2つの対向する側面を有する薄いシート又は膜の形態であり、膜は幅、長さ、並びに長さ及び幅よりも大幅に小さい厚さを有し、多孔質炭素材料は露出した表面上にある。ライナは、真空チャンバの側壁に配置される保護ライナとして、単一の材料として単独で使用することができる。代替的に、ライナは、側壁を覆うように配置された多層ライナの1つの層であってもよい。多層ライナの1つ以上の追加の層は、非多孔質グラファイトシートなどの、多孔質のオープンセル材料でない形態を有する、グラファイト層などのベース層であり得る。
【0039】
説明されるライナは、イオン注入装置、特にビームライン注入装置の真空チャンバに関連して特に有用であり得る。しかし、説明されるライナはまた、他のシステム及びプロセス、例えば半導体製造に関与し、真空チャンバ内でイオン又は粒子破片を生成する他のタイプのイオン注入装置、例えばプラズマ処理、加速イオン、又は真空チャンバ内で実行される他のプロセスを含む、他のシステム及びプロセスで有用であり得る。したがって、本発明は、本明細書に記載及び図示された特定の実施形態に限定されない。
【0040】
図4を参照すると、半導体ウェハなどのワークピースを処理(例えば、「ドーピング」)するためのイオンを提供することができるビームラインイオン注入装置200の概略図が示されている。ビームラインイオン注入装置200は、選択された材料(「ワークピース」又は「基板」)にドーピングするためのイオンを提供することができるさまざまなビームラインイオン注入装置の一例である。ビームラインイオン注入装置200は、イオンビーム281を形成するイオンを生成するイオン源280を含む。注入装置200はまた、図示のように、エンドステーション211及び関連するイオンビーム操作機能(例えば、磁石、レンズなど)を含む。これらはすべて、真空内又は「真空チャンバ」内で操作される。
【0041】
イオン源280は、イオンチャンバ283と、イオン化されるガスを含むガスボックスとを含む。ガスは、ガスがイオン化されるイオンチャンバ283に供給される。このガスは、いくつかの実施形態では、As、B、P、H、N、O、He、カルボランC2B10H12、別の高分子化合物、別の希ガス、又はドーパントイオンに対する他の任意の前駆体であってもよく、又はこれを含んでもよい。形成されたイオンは、イオンチャンバ283から抽出されてイオンビーム281を形成し、解像磁石282の極の間に向けられる。電源は、イオン源280の抽出電極に接続されている。イオンビーム281は、抑制電極284及び接地電極285を通過して、質量分析計286に至る。質量分析計286は、解像磁石282と、解像開口部289を有するマスキング電極288を含む。解像磁石282は、所望のイオン種のイオンが解像開口部289を通過するように、イオンビーム281内のイオンを偏向させる。望ましくないイオン種は、解像開口部289を通過せず、マスキング電極288によって遮断される。
【0042】
所望のイオン種のイオンは、解像開口部289を通過して角度補正磁石に至る。角度補正磁石は、所望のイオン種のイオンを偏向させ、イオンビームを発散するイオンビームから、実質的に平行なイオン軌道を有するリボンイオンビーム212に変換する。
【0043】
エンドステーション211は、上部、下部の複数の側壁によって規定されており、イオンビーム212が通過する側壁292上のビーム開口290を含む。エンドステーション211は、所望の種のイオンがワークピース138に注入されるように、リボンイオンビーム212の経路において、ワークピース138などの1つ以上のワークピースを支持する。エンドステーション211は、ワークピース138を支持するためのプラテン295を含み得る。エンドステーション211はまた、リボンイオンビーム212の断面の長さ寸法に垂直にワークピース138を移動させるためのスキャナ(図示せず)を含んでもよく、それにより、ワークピース138の表面全体にイオンを分配する。リボンイオンビーム212が図示されているが、他の実施形態では、スポットビームを提供してもよい。
【0044】
本説明によれば、エンドステーション211は、オープンセル構造を有する多孔質無機炭素質材料からなる、本明細書に説明されるような1つ以上のライナを含む。図示のように、ライナ300は、ビーム開口290に隣接する側壁292の上流(イオン源に面する)側に配置されている。ライナ320は、ビーム開口290に隣接して、側壁292の下流(基板に面する)側に配置されている。エンドライナ330は、エンドステーション211の端部の側壁に、ワークピース138及びプラテン295を越えて配置されている。サイドライナ332は、エンドステーション211の横方向の側壁に、ワークピース138及びプラテン295に対して横方向に配置されている。追加のライナ(図示せず)を、エンドステーション211の上部又は下部の側壁に配置することもできる。
【手続補正書】
【提出日】2022-02-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバと、
前記真空チャンバの内部空間に曝される表面を有するライナと、を備え、前記表面は多孔質無機炭素質材料からなる、装置。
【請求項2】
前記表面は、10ミクロンを超える細孔サイズを有するマクロポーラス表面開口を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記ライナは、
前記ライナの第1面上の前記表面と、
前記ライナの第2面上の第2の表面と、
前記第1の表面と前記第2の表面との間の厚さと、を含み、
前記多孔質無機炭素質材料は、開放細孔構造を有し、前記開放細孔構造は、前記第1の表面から前記第2の表面まで延びる、請求項1
又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記多孔質無機炭素質材料は、織られた炭素又はグラファイト繊維である、請求項1
~3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記多孔質無機炭素質材料は、炭化ケイ素発泡体である、請求項1
~4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
ライナを含む真空チャンバを有する装置を使用する方法であって、前記方法は、
前記真空チャンバ内でイオンビームを生成すること、又は
前記真空チャンバ内で破片粒子を生成すること、又は
前記真空チャンバ内でイオンビーム及び破片粒子を生成すること、を含み、
前記ライナは前記真空チャンバの内部空間に曝される表面であって、多孔質無機炭素質材料からなる表面を有し、
前記装置を使用する前記方法の間、前記イオンビーム又は前記破片粒子は前記ライナの表面に接触する、方法。
【請求項7】
前記イオンビームは前記ライナに直交して向けられており、前記ライナ表面に衝突するイオンは粒子破片を生成し、
前記イオンによって生成される粒子破片の量は、多孔質無機炭素質材料からなる前記表面を有さないライナに衝突する前記イオンによって生成される粒子破片の量よりも少ない、請求項
6に記載の方法。
【請求項8】
前記方法は、前記真空チャンバの前記内部空間に入る粒子破片を生成することを含み、
前記粒子破片は前記ライナに接触し、前記ライナによって捕捉され、前記真空チャンバの前記内部空間から除去される、請求項
6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記ライナは、多孔質表面を有さないライナによって除去される粒子破片の量よりも多い量の粒子破片を前記内部空間から除去する、請求項
6~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
イオンを基板に注入することを含み、前記基板は基板表面にフォトレジストを含み、前記方法は、前記イオンビームによって前記フォトレジストに由来する粒子破片を生成するように、前記イオンビームを前記フォトレジストに向けることを含む、請求項
6~8のいずれか一項に記載の方法。
【国際調査報告】