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特表2022-540355充電式リチウムイオン電池用正極活物質としてのリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-15
(54)【発明の名称】充電式リチウムイオン電池用正極活物質としてのリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20220908BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20220908BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20220908BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
C01G53/00 A
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2021577596
(86)(22)【出願日】2020-07-02
(85)【翻訳文提出日】2022-02-21
(86)【国際出願番号】 EP2020068718
(87)【国際公開番号】W WO2021001498
(87)【国際公開日】2021-01-07
(31)【優先権主張番号】19184165.9
(32)【優先日】2019-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】19184186.5
(32)【優先日】2019-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501094270
【氏名又は名称】ユミコア
(71)【出願人】
【識別番号】517107151
【氏名又は名称】ユミコア・コリア・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】マキシム・ブランジェロ
(72)【発明者】
【氏名】キョンスブ・ジュン
(72)【発明者】
【氏名】ビン-ナ・ユン
(72)【発明者】
【氏名】オレシア・カラクリナ
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AA07
4G048AB02
4G048AB04
4G048AC06
4G048AD04
4G048AD06
4G048AE05
5H050AA07
5H050AA08
5H050AA15
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB12
5H050EA11
5H050EA12
5H050FA17
5H050FA18
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA27
5H050HA00
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA04
5H050HA05
5H050HA07
5H050HA14
5H050HA20
(57)【要約】
リチウムイオン電池に好適な正極活物質粉末を提供する。粉末は、リチウム遷移金属系酸化物粒子を含み、粒子は、コア及び表面層を含み、表面層は、コアの上にあり、粒子は、元素:Li、金属M’、及び酸素を含み、金属M’は、式:M’=(Ni(Ni0.5Mn0.5Co1-kを有し、Aは、ドーパントであり、0.60≦z<0.86、0.05≦y≦0.20、0.05≦x≦0.20、x+y+z+k=1、及びk≦0.01であり、正極活物質粉末が、5μm~15μmの範囲の中央粒径D50、及び10nm~200nmの範囲の表面層厚を有し、表面層は、正極活物質粉末の総重量に対して、0.150重量%以上0.375重量%以下の含有量の硫黄と、正極活物質粉末の総重量に対して、0.05重量%以上0.15重量%以下の含有量のアルミニウムと、を含み、リチウム遷移金属系酸化物粒子の表面層は、LiAlO相及びLiM’’1-aAl相を含み、M’’は、Ni、Mn、及びCoを含み、当該LiAlO相は、正極活物質粉末中のM’の総原子含有量に対して、0.10原子%以上0.30原子%以下の含有量で表面層に存在し、当該LiM’’1-aAl相は、正極活物質粉末中のM’の総原子含有量に対して、0.14原子%未満の含有量で表面層に存在する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池用の正極活物質粉末であって、
前記正極活物質粉末はリチウム遷移金属系酸化物の粒子を含み、前記粒子はコア及び表面層を含み、前記表面層は前記コア上にあり、前記粒子はLi、金属M’及び酸素を含み、前記金属M’は式M’=(NiMnCo1-kを有し、Aはドーパントであり、0.60≦z<0.86、0.05≦x≦0.20、x+y+z+k=1、及びk≦0.01であり、前記正極活物質粉末は、5μm~15μmの範囲内の中央粒径D50、及び10nm~200nmの範囲内の表面層厚を有し、
前記表面層は、
前記正極活物質粉末の総重量に対して0.150重量%以上0.375重量%以下の含有量の硫黄と、
前記正極活物質粉末の総重量に対して0.05重量%以上0.15重量%以下の含有量のアルミニウムと、を含み、
前記リチウム遷移金属系酸化物の粒子の表面層はLiAlO相及びLiM”1-aAl相を含み、M”はNi、Mn、及びCoを含み、前記LiAlO相は前記正極活物質粉末中のM’の総原子含有量に対して0.10原子%以上0.30原子%以下の含有量で前記表面層に存在し、前記LiM”1-aAl相は前記正極活物質粉末中のM’の総原子含有量に対して0.14原子%未満の含有量で前記表面層に存在する、正極活物質粉末。
【請求項2】
前記粒子がLi、金属M’及び酸素を含み、M’は式M’=NiMnCoを有し、Aはドーパントであり、0.70≦z≦0.86、0.05≦y≦0.20、0.05≦x≦0.20、x+y+z+k=1、及びk≦0.01である、請求項1に記載の正極活物質粉末。
【請求項3】
前記リチウム遷移金属系酸化物の粒子が、100以上のAl表面被覆率A1/A2を有し、A1は、前記表面層に含有される元素Al、Ni、Mn、Co、及びSの原子比Al/(Ni+Mn+Co+Al+S)であり、前記原子比A1は、XPSスペクトル分析によって得られ、A2は、ICPによって得られる原子比Al/(Ni+Mn+Co+Al+S)である、請求項1又は2に記載の正極活物質粉末。
【請求項4】
200ppm未満の炭素含有量を有する請求項1から3のいずれか一項に記載の正極活物質粉末。
【請求項5】
0.96以上1.05以下のLi/(Ni+Mn+Co+A)原子比又はLi/(Ni+Mn+Co+A+Al)原子比を有する請求項1から4のいずれか一項に記載の正極活物質粉末。
【請求項6】
前記表面層が73.0±0.2eV~74.5±0.2eV、好ましくは73.6±0.2eV~74.1±0.2eVの範囲内の結合エネルギーで最大ピーク強度を有するAl2pピークを示し、前記最大ピーク強度がXPSスペクトル分析によって得られる、請求項3から5のいずれか一項に記載の正極活物質粉末。
【請求項7】
前記リチウム遷移金属系酸化物の粒子の表面層が4500ppm以上11250ppm以下の含有量の硫酸イオン(SO 2-)を有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の正極活物質粉末。
【請求項8】
前記リチウム遷移金属系酸化物の粒子が0.85より大きく1.00以下である硫酸イオン表面被覆率S1/S2を有し、S1が、前記表面層に含有される硫酸イオンの量であり、S2が前記粒子中の硫酸イオンの総量である、請求項1から7のいずれか一項に記載の正極活物質粉末。
【請求項9】
一般式Li1+a’((Niz’y’Cox’Al1-k1-aを有し、Aのみがドーパントであり、0.60≦z’<0.86、0.05≦y’≦0.20、0.05≦x’≦0.20、及びx’+y’+z’+v+w+k=1、0.0018≦v≦0.0053、0.006≦w≦0.012、-0.05≦a’≦0.05、及びk≦0.01である、請求項1から8のいずれか一項に記載の正極活物質粉末。
【請求項10】
Aが、Al、B、S、Mg、Zr、Nb、W、Si、Ba、Sr、Ca、Zn、Cr、V、Y、及びTiのうちの1つ以上であり、前記Aの元素のそれぞれの量が、前記正極活物質粉末の総重量に対して、100ppmよりも多い、請求項1から9のいずれか一項に記載の正極活物質粉末。
【請求項11】
前記表面層の厚さがD(nm)=LS1-LS2として定義される最小距離Dに対応し、
S1が、粒子の中心にある第1の点の位置であり、LS2が、前記第1の点の位置と前記粒子の幾何学的中心との間に定義された線における第2の点の位置であり、
Sの含有量が、前記第2の点の位置LS2においてTEM‐EDSによって測定され、前記第1の点の位置で測定されたSの含有量の0原子%以上5.0原子%未満であり、
前記第2の点でのSの含有量(S)が、S2(原子%)=S±0.1原子%として定義され、
が、前記線の第3の点の位置(LS)でのSの含有量(原子%)であり、前記第3の点が、前記粒子の前記幾何学的中心と前記第2の点の位置LS2との間の位置に位置している、請求項1から10のいずれか一項に記載の正極活物質粉末。
【請求項12】
-S≧10.0原子%である、請求項11に記載の正極活物質粉末。
【請求項13】
Alが、l(mol%)=(Al/MICP×(Alsurface/Altotal)で定義される含有量lで前記表面層に存在し、
(Al/MICPは、ICPによって測定された粉末中のM含有量に対するAl含有量の原子比であり、
【数1】
であり、
Alsurfaceは、EDSによって測定された前記表面層のAlの含有量(原子%)であり、
Altotalは、EDSによって測定された粉末の前記粒子中のAlの総含有量(原子%)であり、
Area1は、Dにわたる断面TEM‐EDSによって測定された前記Al/M含有量の積分であり、
【数2】
であり、
Al(x)は、断面TEM EDSによって測定された断面粒子の点xでのAlの原子含有量であり、
(x)は、断面TEM EDSによって測定された断面粒子の点xでのNi、Mn、Co、Al、及びSの原子含有量であり、
xは、前記第1の点の位置と第2の点の位置との間のTEMによって測定されたnmで表される距離であり、
Area2は、距離Cにわたる断面SEM‐EDSによって測定された前記Al/M含有量の積分であり、
【数3】
であり、
Al(x)は、断面TEM EDSによって測定された断面粒子の点xでのAlの原子含有量であり、
(x)は、断面TEM EDSによって測定された断面粒子の点xでのNi、Mn、Co、Al、及びSの原子含有量であり、
xは、nmで表される距離であり、前記第1の点の位置(x=0nm)と前記粒子の前記幾何学的中心(x=C)との間をTEMによって測定され、Cが好ましくは2.5μm~7.5μmの範囲である、請求項11又は12に記載の正極活物質粉末。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか一項に記載の正極活物質粉末を製造する方法であって、
a)リチウム遷移金属系酸化物化合物を作製する工程と、
b)前記リチウム遷移金属系酸化物化合物をサルフェート源及び水と混合することによって、混合物を得る工程と、
c)前記正極活物質粉末を得るように、1時間~10時間の間の時間、前記混合物を炉内の酸化雰囲気中で350℃~500℃未満、好ましくは最大450℃の温度で加熱する工程と、を順に含む方法。
【請求項15】
請求項1から13のいずれか一項に記載の正極活物質粉末を含む電池。
【請求項16】
電気自動車又はハイブリッド電気自動車における請求項15に記載の電池の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コアと、コアの(上部に)表面層とを備えるリチウム遷移金属系酸化物粒子を含む、電気自動車(EV)及びハイブリッド電気自動車(HEV)用途に好適なリチウムイオン二次電池(LIB)用のリチウムニッケル(マンガン)コバルト系酸化物正極活物質粉末に関する。表面層は、硫酸イオン(SO 2-)を含む。粒子は、元素:Li、金属M’、及び酸素を含み、金属M’は、式:M’=(NiMnCo1-kを有し、Aは、ドーパントであり、0.60≦z<0.86、0.05≦y≦0.20、0.05≦x≦0.20、x+y+z+k=1、及びk≦0.01である。
【背景技術】
【0002】
正活物質は、正極において電気化学的に活性である材料として定義される。活物質とは、所定の時間にわたって電圧変化にさらされたときにLiイオンを捕捉及び放出することができる材料であると解釈されるものである。
【0003】
特に、本発明は、高ニッケル(マンガン)コバルト系酸化物正極活物質(以降、「hN(M)C化合物」と称される)、すなわち、hN(M)C化合物に関し、Ni対M’の原子比は、少なくとも50.0%(又は50.0原子%)、好ましくは少なくとも55.0%(又は55.0原子%)、より好ましくは少なくとも60.0%(又は60.0原子%)である。
【0004】
本発明のフレームワークにおいて、原子%(at%)は、原子パーセントを意味する。所与の元素の濃度表現としての原子%又は「原子百分率」は、請求項記載の化合物中の全ての原子のうち何パーセントが当該元素の原子であるかを意味する。
【0005】
物質中の第1元素E(Ewt1)の重量パーセント(重量%)は、次式:
【数1】
を適用することにより、当該物質中の当該第1元素E(Eat1)の所与の原子パーセント(原子%)から変換でき、Eat1とEaw1の積(Eaw1は第1元素Eの原子量(又は分子量))を、物質内の他の元素のEati×Eawiの合計で除算する。nは、物質に含まれる様々な元素の数を表す整数である。
【0006】
EV及びHEVの開発に伴い、これらの用途に適したリチウムイオン電池が求められるようになり、hN(M)C化合物は、比較的安価なコスト(リチウムコバルト系酸化物などの代替品に関して)、及びより高い動作電圧でのより高い容量から、LIBの正極活物質としての使用が確実に見込まれる候補としてますます開発が進められている。
【0007】
このようなhN(M)C化合物は、例えば、特許文献1や特許文献2から既に知られている。
【0008】
特許文献1は、粒子の表面層における、SO 2-(例えば、特許文献1の表現によると硫酸ラジカル)を有するhN(M)C化合物を開示しており、hN(M)C化合物は、1000ppm~4000ppmの範囲の含有量である。特許文献1は、硫酸ラジカルの量が上記範囲内にあると、化合物の容量保持率及び放電容量特性が増加することを説明している。しかしながら、硫酸ラジカルの量が上記範囲未満であると容量保持率が低下し、この量が上記範囲を超えると放電容量が低下する。
【0009】
特許文献2は、一次粒子にサルフェートコーティング、特にリチウムサルフェートコーティングを適用すると、当該サルフェートでコーティングされた一次粒子の凝集から生じる二次粒子を設計でき、当該二次粒子から作製されたhN(M)C化合物に、より高いサイクル耐久性及びより高い初期放電容量を与えることを可能にする特定の細孔構造をもたせることができることを教えている。更に、特許文献2は、このような特定の細孔構造は、当該硫酸塩コーティングを洗浄して除去すると達成されると説明している。
【0010】
hN(M)C化合物は上記の利点に関し有望であるが、また、Ni含有量の増加に伴うサイクル安定性の低下などの欠点もある。
【0011】
これらの欠点の例として、従来技術のhN(M)C化合物は、180mAh/g(特許文献1)を超えない低い第1の放電容量又は最大86%の制限された容量保持(特許文献2)のいずれかを有する。
【0012】
したがって、現状では、本発明によれば、(H)EV用途に適したLIBにおいてそのようなhN(M)C化合物を使用するための前提条件である、少なくとも4.0Vの動作電圧で必要な低い不可逆容量(すなわち、第1のサイクルの11%以下)を維持しながら、十分に高い第1の放電容量(すなわち、少なくとも200mAh/g)及びサイクル寿命(すなわち、LIBが約80%の保持容量に達するまで、25℃で少なくとも450サイクル、45℃で少なくとも350サイクル)を有するhN(M)C化合物を達成する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許第5584456号公報
【特許文献2】特許第5251401号公報
【特許文献3】国際公開第2019/185349号
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Chem. Mater. Vol.19, No.23, 5748-5757, 2007
【非特許文献2】J. Electrochem. Soc., 154 (12) A1088-1099, 2007
【非特許文献3】Chem. Mater. Vol.21, No.23, 5607-5616, 2009.
【非特許文献4】J.F. Moulder, Handbook of XPS, Perkin-Elmer, 1992
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、リチウムイオン二次電池で使用するのに十分安全でありながら、本発明の分析方法によって得られた、25℃で80%の容量保持及び最大11%の改善された不可逆容量(IRRQ)を備えた、少なくとも450サイクルの改善されたサイクル寿命を有する正極活物質粉末を提供することである。本発明はまた、NiとM’との原子比が78原子%~85原子%の間(例えば、EX1の場合は80原子%)の場合、少なくとも200mAh/g、及びNiとM’との原子比が85原子%~90原子%の間(例えば、EX3の場合は86原子%)の場合、少なくとも210mAh/gの、改善された第1の充電容量を有する正極活物質粉末を提供する。
【0016】
【表1】
【0017】
本発明のフレームワークにおいて、安全な正極活物質粉末は、当該安全な物質を含むLIBの厚さの、90℃で25%を超えない増加に関連している(以下に記載される膨らみ試験条件による)。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この目的は、
‐ 正極活物質粉末の総重量に対して、0.150重量%以上0.375重量%以下の含有量の硫黄と、
‐ 正極活物質粉末の総重量に対して、0.05重量%以上0.15重量%以下の含有量のアルミニウムと、を有する表面層を含む、請求項1に記載の正極活物質化合物を提供することによって達成される。
【0019】
更に、リチウム遷移金属系酸化物粒子の当該表面層は、LiAlO及びLiM”1-aAlを含み、M”は、Ni、Mn、及びCoを含み、当該LiAlO原子含有量は、正極活物質粉末中のM’の総原子含有量に対して、0.10原子%以上0.30原子%以下であり、当該LiM”1-aAl原子含有量は、正極活物質粉末中のM’の総原子含有量に対して、0.14原子%未満である。
【0020】
本発明のフレームワークにおいて、ppmは、濃度の単位に対する百万分率を意味し、1ppm=0.0001重量%を表す。
【0021】
本発明による正極活物質粉末は、中央粒径D50が5μm~15μmの範囲であり、表面層厚が5nm~200nm、好ましくは10nm~200nmの範囲である。
【0022】
実際、表3.2及び表4に示されている結果に示されているように(以下のセクションHの結果を参照)、25℃で80%の容量保持及び200mAh/gを超える改善された第1の放電容量を備え、460サイクルを超える改善されたサイクル寿命が、以下の特徴を有するEX1による正極活物質粉末で達成されることが観察されている:
‐粉末の総重量に対して、それぞれ0.28重量%及び0.11重量%の表面層の硫黄含有量及びアルミニウム含有量、
‐LiAlO相含有量は、粉末のM’の総原子含有量に対して、0.15原子%である、
‐LiM’’1-aAl相含有量は、粉末のM’の総原子含有量に対して、0.09原子%である。
【0023】
EX1の粉末の粒子は、平均100nmの厚さを有する表面層を有し、それらのサイズ分布は、12μmのD50によって特徴付けられる。
【0024】
本発明は、以下の実施形態に関する。
【0025】
実施形態1
第1の態様では、本発明は、リチウム遷移金属系酸化物粒子を含む、リチウムイオン電池に好適な正極活物質粉末に関し、当該粒子は、コア及び表面層を含み、当該表面層は、コアの上にあり、当該粒子は、元素:
Li、金属M’、及び酸素を含み、金属M’は、式:M’=(NiMnCo1-kを有し、Aは、ドーパントであり、0.60≦z<0.86、0.05≦y≦0.20、0.05≦x≦0.20、x+y+z+k=1、及びk≦0.01であり、当該正極活物質粉末は、5μm~15μmの範囲の中央粒径D50、及び5nm~200nmの範囲、好ましくは少なくとも10nm~200nm以下の表面層厚を有し、
好ましくは、表面層は、50nm~200nm、より好ましくは100nm~200nm、最も好ましくは10nm~150nmの範囲の厚さを有する。
【0026】
より好ましくは0.70≦z≦0.86である。
【0027】
当該表面層は、
‐ 正極活物質粉末の総重量に対して、0.150重量%以上0.375重量%以下の含有量の硫黄と、
‐ 正極活物質粉末の総重量に対して、0.05重量%以上0.15重量%以下の含有量のアルミニウムと、を含み、
リチウム遷移金属系酸化物粒子の当該表面層は、LiAlO相及びLiM”1-aAl相を含み、Alは、部分的にM”を置換し、M”は、Ni、Mn、及びCoを含む。LiAlO相は、正極活物質粉末中のM’の総原子含有量に対して、0.10原子%以上0.30原子%以下の含有量で表面層に存在する。LiM”1-aAl相は、正極活物質粉末中のM’の総原子含有量に対して、0.14原子%より少ない含有量で表面層に存在する。
【0028】
本発明のフレームワークにおいて、相が化合物に関連することを理解されたい。このような文脈において、表面層に含まれるアルミニウムの含有量の少なくとも19原子%及び最大56原子%は、当該表面層のLiAlO相中に含有され、したがって、LiAlO化合物を構成する元素として当該表面層に存在することを意味する。
【0029】
また、表面層に含まれるアルミニウムの含有量の最大26原子%は、当該表面層のLiM”1-aAl相に含有されており、この相では、当該相を構成するLiM”1-aAl化合物中のM”は、部分的にAlで置換されている。
【0030】
Aの供給源は、前駆体作製の共沈工程中にスラリーに供給され得る、又はその後、作製された前駆体とブレンドされ、続いて加熱され得る。例えば、Aの供給源は、これらの例に限定されるものではないが、硝酸塩、酸化物、硫酸塩、又は炭酸塩化合物であり得る。ドーパントは、一般に、リチウム拡散を支持するため、又は電解質との副反応を抑制するためなど、正極活物質の性能を向上させるために添加される。ドーパントは、一般的に、コア内に均質に分散される。正極活物質中のドーパントは、誘導結合プラズマ(ICP)法及びTEM‐EDS(透過型電子顕微鏡‐エネルギー分散X線分光法)(セクションE参照)の組み合わせなどの分析方法の組み合わせによって特定される。
【0031】
好ましくは、当該リチウム遷移金属系酸化物粒子は、モノリシック又は多結晶形態を有する。モノリシック形態は、走査型電子顕微鏡(SEM)のような適切な顕微鏡技術で観察される、単一粒子又は2つ若しくは3つの一次粒子からなる二次粒子の形態を表す。粉末は、SEMによって提供される、視野内の粒子数の80%以上が少なくとも45μm×少なくとも60μm(すなわち、少なくとも2700μm)、好ましくは:少なくとも100μm×少なくとも100μm(すなわち、少なくとも10000μm)の場合、モノリシック粉末と呼ばれ、モノリシック形態を有する。多結晶形態は、3つ以上の一次粒子からなる二次粒子の形態を表す。モノリシック及び多結晶の形態を有する粒子のSEM画像の例をそれぞれ図1.1及び図1.2に示す。
【0032】
実施形態2
第2の実施形態では、好ましくは第1の実施形態に従い、当該リチウム遷移金属系酸化物粒子は、73.0±0.2eV~74.5±0.2eV、好ましくは73.6±0.2eV~74.1±0.2eVの結合エネルギーの範囲における最大Al2pピーク強度を有し、当該強度は、XPSスペクトル分析によって得られる。
【0033】
範囲内のAl2pピークの最大ピーク強度は、表面層の主要なAl形態がLiAlOであることを示す。73.0eVから、好ましくは73.6eV~74.5eV、好ましくは74.1eVまでの範囲でAl2pピークの最大ピーク強度を有するhN(M)C化合物は、表3.2及び表3.4に示すように、電池に使用される場合、より高い比容量及びより良好なサイクル寿命を示す。
【0034】
実施形態3
第3の実施形態では、好ましくは実施形態1又は2に従い、リチウム遷移金属系酸化物粒子は、100以上のAl表面被覆率A1/A2を有し、A1は、表面層に含有される元素Al、Ni、Mn、Co、及びSの原子比Al/(Ni+Mn+Co+Al+S)であり、原子比A1は、XPSスペクトル分析によって得られ、A2は、ICPによって得られる原子比Al/(Ni+Mn+Co+Al+S)である。
【0035】
A1は、以下の工程を含む以下の方法によって得られる:
1)リチウム遷移金属系酸化物粒子のXPSスペクトルを取得する工程、
2)それぞれ、LiM”1-aAl(Alピーク1;area_1)、LiAlO(Alピーク2;area_2)、及びAl(Alピーク3;area_3)化合物に割り当てられた3つのそれぞれの領域(area_1、area_2、area_3)を有する、3つの個々のピーク(Alピーク1、Alピーク2、及びAlピーク3)を識別するように、当該XPSスペクトルをデコンボリューションする工程、
3)当該3つの個々のピークの領域(_1~_3)を合計することによって、総Al2pピーク面積値を計算する工程、及び
4)Al2pピーク面積の当該値を、原子比A1(原子%/原子%)=(Al/(Ni+Mn+Co+Al+S))に変換する工程。
【0036】
工程4)は、以下の工程を含む以下の方法に従って得られる:
a)スマートバックグラウンド機能を備えたThermo Scientific Avantage softwareを使用して、Ni、Mn、Co、及びSの一次XPSピークをフィッティング、各元素のピーク面積を取得する工程、
b)Thermo Scientific Avantage software及びScofield相対感度ライブラリを使用して、工程4 a)で得られたNi、Mn、Co、及びSのピーク面積及び工程3)で得られたAlピーク面積を原子%に変換する工程、
c)Al原子%の値をNi、Mn、Co、Al、及びSの原子%の合計で割ることにより、当該Al2p原子%をA1に変換する工程。
【0037】
少なくとも100のAl表面被覆率A1/A2の値は、表面層に含有されるAlの均一な空間分布がコアの上に存在することを示す。EX1に示すように、表3.2及び表3.4に示すように、Alが表面層に均一に分布しているhN(M)C化合物は、より高い比容量及びより優れた電池のサイクル寿命を示す。
【0038】
実施形態4
第4の実施形態では、好ましくは実施形態1~3のいずれか1つに従い、リチウム遷移金属系酸化物粒子の表面層は、4500ppm以上11250ppm以下の含有量の硫酸イオン(SO 2-)を有する。
【0039】
表3.1及び表3.2に示すように、リチウム遷移金属系酸化物粒子の表面層にある4500ppm~11250ppmの硫酸イオンは、高い比容量及び低い不可逆性など、改善された電気化学的性能を示す。
【0040】
実施形態5
第5の実施形態では、好ましくは実施形態1~4のいずれか1つに従い、当該正極活物質粉末は、0.85より大きく1.00以下である硫酸イオン表面被覆率S1/S2を有するリチウム遷移金属系酸化物粒子を含み、S1は、リチウム遷移金属系酸化物粒子の表面層に含有される硫酸イオンの量であり、S2は、正極活物質粉末中の硫酸イオンの総量である。
【0041】
少なくとも0.85の硫酸イオン表面被覆率S1/S2の値は、表面層に含有されるSの均一な空間分布がコアの上に存在することを示す。EX1に示すように、表3.1及び表3.2に示すように、Sが表面層に均一に分布しているhN(M)C化合物は、より高い比容量及びより優れた電池のサイクル寿命を示す。
【0042】
実施形態6
第6の実施形態では、好ましくは実施形態1~5のいずれか1つに従い、当該正極活物質粉末は、200ppm未満の炭素含有量を有する。
【0043】
高い炭素含有量(例えば、200ppmより高い)は、正極活物質粉末が電池の電解質と接触しているときのサイクリング中の副反応に関係するため、より低い炭素含有量(例えば、200ppm以下)のhN(M)C化合物は、電池でサイクルした場合、良好な不可逆容量などの電気化学的性能の向上につながるが、それに限定される(表3.1及び表3.2を参照)。
【0044】
実施形態7
第7の実施形態では、好ましくは実施形態1~6のいずれか1つに従い、正極活物質粉末は、一般式:Li1+a’((Niz’Mny’Cox’Al1-k1-a’を有し、Aのみが、ドーパントであり、0.60≦z’<0.86、0.05≦y’≦0.20、0.05≦x’≦0.20、x’+y’+z’+v+w+k=1、0.0018≦v≦0.0053、0.006≦w≦0.012、-0.05≦a’≦0.05、及びk≦0.01である。
【0045】
より好ましくは0.70≦z’<0.86である。
【0046】
実施形態8
第8の実施形態では、好ましくは実施形態1~7のいずれか1つに従い、Aは、Al、B、S、Mg、Zr、Nb、W、Si、Ba、Sr、Ca、Zn、Cr、V、Y、及びTiのうちの1つ以上である。別の実施形態では、Aの各元素の量は、正極活物質粉末の総重量に対して100ppm超である。
【0047】
実施形態9
第9の実施形態では、好ましくは実施形態1~8のいずれか1つに従い、表面層の(最小)厚さは、粒子の断面の周辺に位置する第1の点と、当該第1の点と当該粒子の幾何学的中心(又は重心)との間に定義される線上に位置する第2の点との間の最短距離として定義され、TEM‐EDS(セクションE参照)によって第2の点の位置(S)及び当該第2の点の位置と粒子の中心との間の任意の位置で測定されたSの含有量は、0原子%±0.1原子%である。
【0048】
第2の点の位置でのSの含有量(S)は一定であり、第1の点の位置でのSの第1の含有量(S)の0原子%超である可能性があって5.0原子%以下である必要があり、当該Sの第2の含有量は、当該線の第3の点位置におけるSの含有量(S)に等しく、当該第3の点は、当該粒子の幾何学的中心と第2の点の位置との間の任意の位置に位置している。
【0049】
換言すれば、表面層の厚さは、
D(nm)=LS1-LS2として定義される最小距離Dに対応し、
S1は、粒子の周辺にある第1の点の位置であり、LS2は、図2に示すように、当該第1の点の位置と当該粒子の幾何学的中心との間に定義された線における第2の点の位置であり、
Sの第2の含有量は、第2の点の位置LS2においてTEM‐EDSによって測定され、第1の点の位置で測定されたSの第1の含有量(S)の0原子%以上5.0原子%以下であり、Sの当該第2の含有量(S)は、
(原子%)=S±0.1原子%として定義され、及び所望により、
-S≧10.0原子%であり、
は、当該線の第3の点の位置(LS)でのSの含有量(原子%)であり、当該第3の点は、当該粒子の幾何学的中心と第2の点の位置LS2との間の任意の位置に位置している。
【0050】
及びSが0.0原子%超である場合、Sの第2及び第3の含有量は、本発明による粒子のコアにドーパントとして存在する、TEM‐EDSによって測定されたSの含有量に対応する。
【0051】
TEM‐EDSプロトコルは次のように適用される:
1)リチウム遷移金属系酸化物粒子の断面TEMラメラは、Gaイオンビームを使用して粒子サンプルを切断することにより抽出され、作製されたサンプルが得られる。
2)作製されたサンプル(粒子の断面)は、TEM/EDSラインスキャンで、表面層の外縁からリチウム遷移金属系酸化物粒子の中心までスキャンされ、断面の定量的元素分析を提供する。
3)EDSによって検出されたAl含有量及びS含有量は、Mによって正規化され、ここで、Mは、スキャンされたラメラ内のNi、Mn、Co、Al、及びSの総原子含有量である。
4)次いで、Al/M及びS/Mの測定されたラインスキャンが、当該粒子の断面における直線距離の関数としてプロットされる。
【0052】
前述の工程1)~4)は、分析する粒子の数だけ繰り返される。
【0053】
前述のTEM‐EDS測定は、少なくとも1つの粒子に対して実施される。2つ以上の粒子が測定される場合、Al/M及びS/Mは、数値的に平均化される。
【0054】
実施形態10
第10の実施形態では、好ましくは実施形態10に従い、Alが、以下のように定義された含有量lで表面層に存在し、
【数2】
式中、
【数3】
は、ICPによって測定された粉末中のM含有量に対するAl含有量の原子比であり、Mは、Ni、Mn、Co、Al、及びSの総原子含有量であり、
【数4】
であり、式中、
‐ Alsurfaceは、EDSによって測定された表面層のAlの含有量(原子%)であり、
‐ Altotalは、EDSによって測定された粉末の粒子中のAlの総含有量(原子%)であり、
‐ Area1は、Dにわたって断面TEM-EDSによって測定されたAl/M含有量の積分であり、
【数5】
‐ Al(x)は、断面TEM EDSによって測定された断面粒子の点xでのAlの原子含有量であり、
‐ M(x)は、断面TEM EDSによって測定された断面粒子の点xでのNi、Mn、Co、Al、及びSの原子含有量であり、
‐ xは、第1の点の位置と第2の点の位置との間のTEMによって測定されたnmで表される距離であり、
‐ Area2は、距離C上の断面SEM-EDSによって測定されたAl/M含有量の積分であり、
【数6】
‐ Al(x)は、断面TEM EDSによって測定された断面粒子の点xでのAlの原子含有量であり、
‐ M(x)は、断面TEM EDSによって測定された断面粒子の点xでのNi、Mn、Co、Al、及びSの原子含有量であり、
‐ xは、nmで表される距離であり、第1の点の位置(x=0nm)と粒子の幾何学的中心(x=C)との間をTEMによって測定され、Cは、好ましくは2.5μm~7.5μmの範囲である。
【0055】
上記実施形態1~10のいずれも、組み合わせ可能である。
【0056】
本発明は、電池における前述の実施形態1~10のいずれかに記載の正極活物質粉末の使用に関する。
【0057】
本発明はまた、前述の実施形態1~10のいずれかによる正極活物質粉末の製造方法を含み、その製造方法は、
‐ 遷移金属系酸化物化合物を作製する工程と、
‐ 当該リチウム遷移金属系酸化物化合物をサルフェート源、好ましくはAl(SO、及び水と混合し、それにより混合物を得る工程と、
‐ 本発明による正極活物質粉末を得るために、1時間~10時間の間の時間、混合物を炉内の酸化雰囲気中で350℃~500℃未満、好ましくは最大450℃の温度で加熱する工程と、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0058】
図1図1.1は、モノリシック形態を有する粒子のSEM画像である。図1.2は、多結晶形態を有する粒子のSEM画像である。
図2】本発明による正極活物質粒子の断面の概略画像であり、LS1は、粒子の断面の周辺にある第1の点の位置であり、LS2は、当該粒子の幾何学的中心とLS1との間の仮想線上に位置する第2の点の位置である。Dは、LS1とLS2との間の距離として定義される表面層の厚さである(実施形態9参照)。
図3図3.1は、フィッティングプロセス前のEX1のXPS Alピークデコンボリューション(x軸:結合エネルギー、y軸:カウント)である。図3.2は、フィッティングプロセス後のEX1のXPS Alピークデコンボリューション(x軸:結合エネルギー、y軸:カウント)である。
図4図4.1は、EX1、CEX1、及びCEX3のAl2p及びNi3p XPSスペクトル(x軸:結合エネルギー、y軸:カウント)である。図4.2は、LiM”1-aAl、LiAlO、及びAl相の各々の、Al2p3 XPSピークの結合エネルギー範囲。垂直の破線はCEX1のAl2p3 XPSピーク位置を示し、一方、垂直の実線は、EX1のAl2p3 XPSピーク位置を示す。
図5】25℃及び45℃で2.7V~4.2Vの範囲のEX1、CEX1、及びCEX3のフルセル試験結果(x軸:サイクル数、y軸:容量保持率)である。
図6図6.1は、EX1のSのTEM‐EDS分析結果(x軸:0を表面層の開始点とする距離、y軸:原子比における元素)である。図6.2は、EX1のAlのTEM‐EDS分析結果(x軸:0を表面層の開始点とする距離、y軸:原子比における元素)である。
【発明を実施するための形態】
【0059】
本発明の実施を可能にするために、図面及び以下の発明を実施するための形態において、好ましい実施形態を記載する。本発明は、これらの特定の好ましい実施形態を参照して説明されているが、本発明は、これらの好ましい実施形態に限定されないことが理解されよう。本発明は、以下の詳細な説明及び付随する図面の考察から明らかである多くの代替、修正、及び同等物を含む。
【0060】
A)ICP分析
正極活物質粉末のLi、Ni、Mn、Co、Al、及びS含有量は、Agillent ICP720‐ESを使用することにより、誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma,ICP)法を用いて測定する。三角フラスコ中で、2gの製品粉末試料を10mLの高純度塩酸に溶解させる。前駆体を完全に溶解させるまで、フラスコをガラスでカバーし、380℃のホットプレート上で加熱する。室温まで冷却した後、三角フラスコの溶液を250mLのメスフラスコに注ぐ。その後、メスフラスコの250mLの標線まで脱イオン水で充填し、続いて、完全に均質化させた。ピペットで適切な量の溶液を取り出し、2回目の希釈のために250mLメスフラスコに移し、メスフラスコの250mLの標線まで内部標準物質及び10%塩酸を充填した後、均一化させる。最後に、この50mL溶液をICP測定に使用する。Alの、Ni、Mn、Co、Al、及びSの総量に対する原子比(Al/(Ni+Mn+Co+Al+S)(原子%))は、A2と名づけられる。
【0061】
S2と名づけられた粉末全体中の硫酸イオン(SO 2-)の量は、以下の等式によって得られる:
【数7】
MWSO4/MWは、SOの分子量をSの分子量で割ったものであり、2.996の値になる。
【0062】
本発明によるリチウム遷移金属系酸化物粒子の表面中のS含有量を調査するために、洗浄及び濾過プロセスが実施される。ビーカー内で5gの正極活物質粉末及び100gの超純水を測定する。電極活物質粉末を、電磁撹拌器を使用して25℃で5分間水に分散させる。分散液を真空濾過し、濾過した溶液を上記のICP測定によって分析して、表面層に存在するSの量を測定する。洗浄及び濾過プロセス後の洗浄粉末中の残りのSの量は、ドーパント(コア中に存在するSの含有量に対応するもの)として定義され、洗浄及び濾過プロセス後の洗浄粉末から除去されたSの量は、表面層に存在するSの量として定義される。粒子表面層の硫酸イオン(SO 2-)の量は、この分析からのSの量に2.996及び10000ppmを掛けることによって得られる。これをS1と名づける。硫酸イオン表面被覆率S1/S2は、S1をS2で割ることによって計算される。
【0063】
B)X線光電子分光法測定
本発明では、X線光電子分光法(XPS)を使用して、本発明によるカソード材料粒子の表面層に存在する各Al系化合物又は相の含有量(原子%)を同定及び決定する。
【0064】
このような同定には、以下を実施することが含まれる:i)XPSによって同定されたAl2pピークのフィッティング(セクションB2‐XPSピーク処理を参照)、続いてii)Al2pピークのフィッティングによって同定された各化合物の含有量を計算することによる定量的相分析(セクションB3‐Al系化合物の含有量を参照)。
【0065】
また、XPSは、本発明のフレームワークにおいて、本発明による粒子の表面層における当該Al分布の均一性の程度を示すAl表面被覆率値を測定するために使用される。
【0066】
B1)XPS測定条件
リチウム遷移金属系酸化物粒子の表面分析では、XPS測定は、ThermoK‐α+(Thermo Scientific)分光計を使用して実施される。単色Al Kα放射線(hν=1486.6eV)は、400μmのスポットサイズ及び45°の測定角度で使用される。表面に存在する元素を特定するための広範な調査スキャンは、200eVのパスエネルギーで実施される。284.4eVに最大強度(又は中心)を有するC1sピークは、データ収集後のキャリブレーションピーク位置として使用される。その後、同定された各元素に対して、50eVにて正確なナロースキャンが少なくとも10回実施され、正確な表面組成が決定される。
【0067】
B2)XPSピーク処理
XPS測定では、信号は、サンプル表面層の最初の数ナノメートル(例えば、1nm~10nm)から取得される。したがって、XPSによって測定される全ての元素は、表面層に含有されている。表面層は、特定された相の均質な分布を有すると仮定される。
【0068】
XPS生データの定量的相分析は、XPSピークのデコンボリューションにつながるXPS信号の処理と、デコンボリューションされたピークへの既存のAl系化合物の寄与の決定とに基づく。
【0069】
XPSピークデコンボリューションは、調査対象の正極活物質粒子の表面層におけるLiM”1-aAl、LiAlO、及びAlを含む原子Al系化合物の様々な寄与を得るために実施される。Al化合物は、最初に焼結されたリチウム遷移金属系酸化物化合物のリチウムと反応しなかったAl(SOを加熱することにより生じる。
【0070】
本発明による正極活物質粉末について測定されたXPSピークは、本質的に、狭い範囲の結合エネルギー内に位置する複数のサブピークの組み合わせである。70eV~79eVまでの結合エネルギーの範囲で現れる(又は中心にある)最大強度を有するAl2pピークは、様々なAl含有化合物の様々なサブピークからの寄与で構成される。各サブピークの位置(最大強度の場所)はそれぞれ異なる。
【0071】
本発明におけるXPSピークデコンボリューションプロセスを含むXPS信号処理は、以下に提供される工程に従う。
工程1)線形関数によるバックグラウンドの除去、
工程2)フィッティングモデルの方程式を決定、
工程3)フィッティングモデルの方程式の変数の制約を決定、
工程4)計算前に変数の初期値を決定、
工程5)計算を実施
【0072】
工程1)線形関数によるバックグラウンドの除去
本発明では、XPS信号処理が、65±0.5eV~85±0.5eVの範囲のAl2pナロースキャンのスペクトルを使用して実施され、スペクトルは、70eV~85eVの範囲の最大強度を有する(又は中心にある)Al2pピークを含み、Ni3pピークと重なり、これらのピークのそれぞれは、65eV~71eVの範囲で最大強度を有する(又は中心にある)。測定されたデータポイントのバックグラウンドは、65.0±0.5eV~81.5±0.5eVの範囲で線形にベースライン化される。
【0073】
工程2)フィッティングモデルの方程式を決定
Ni3pピークには4つのサブピークがあり、Al2pピークには3つのサブピークがあり、最大強度は65.0±0.5eV~81.5±0.5eVの範囲である。ピークには、Ni3p1、Ni3p1サテライト、Ni3p2、Ni3p2サテライト、Alピーク1、Alピーク2、及びAlピーク3のラベルが付けられている。サテライトピークは、その一次ピークよりも数eV高い結合エネルギーで現れるわずかな付随するピークである。これは、XPS装置のアノード材料からのフィルタリングされていないX線源に関連付けられる。Alピーク1~3は、粒子表面層に存在する化合物に対応し、それぞれが、i)LiM”1-aAl、ii)LiAlO、及びiii)Al相に各々関連する。
【0074】
表1.1は、LiM”1-aAl、LiAlO、及びAl相の最大ピーク強度の位置範囲の基準を示す。Alピーク1の結合エネルギーの範囲は、構造中にドープされたAlの量によって異なる。
【0075】
【表2】
【0076】
フィッティングモデルの方程式は、XPSピークフィッティングに一般的に使用されるガウス関数及びローレンツ関数の組み合わせである疑似フォークト方程式に従う。その式は、以下のとおりである。
【数8】
=オフセット、x=サブピークの中心場所、A’=サブピークの面積、w=サブピークの幅(半値全幅又はFWHM)、及びm=プロファイル形状係数。
【0077】
工程3)フィッティングモデルの方程式の変数の制約を決定
5つの変数(y、x、A’、w、m)の制約を以下に説明する。
‐ y(オフセット):
全ての7つのサブピークのyは0である。
‐ x(サブピークの中心位置):
Ni3p1のX≧66.0eV;
Ni3p1のX≦Ni3p1サテライトのX-0.7eV;
Ni3p1サテライトのX≦Ni3p2のX-0.7eV;
Ni3p2のX≦72eV
Ni3p2のX≦Ni3p2サテライトのX-0.7eV;
72.3eV≦Alピーク1のX≦73.3eV;
73.3eV≦Alピーク2のX≦73.9eV;及び
73.9eV≦Alピーク3のX≦74.3eV。
【0078】
Alピーク1~3のXの範囲は、非特許文献1、非特許文献2及び非特許文献3から決定される。
【0079】
‐ A’(サブピークの面積):
Ni3p1のA’×0.1≦Ni3p1サテライトのA’×1.2≦Ni3p1のA’;
Ni3p2のA’×0.1≦Ni3p2サテライトのA’;及び
全ての7つのサブピークのA’は1.0超である。
【0080】
‐ w(サブピークの幅):
1.2≦w≦1.8
【0081】
‐ M(プロファイル形状係数):
0.1≦m≦0.9
【0082】
工程4)計算前に変数の初期値を決定
変数の初期値が次の手順に従って取得されると、サブピークをフィッティングるための計算が再現可能になる。
1)y、w、mの初期値は、それぞれ0、1.5、0.7に設定される。
2)サブピークNi3p1、Ni3p1サテライト、Ni3p2、Ni3p2サテライト、Alピーク1、Alピーク2、及びAlピーク3のxの初期値は、それぞれ、67.0eV、68.0eV、69.0eV、70.0eV、73.0eV、73.7eV、及び74.3eVである。
3)サブピークNi3p1、Ni3p1サテライト、Ni3p2、及びNi3p2サテライトのA’の初期値は、次の手順で取得される。
3.A)Ni3p1のサブピークのA’は、Ni3pピークの最大ピーク強度に1.5の係数を掛けたものであり、ピークの形状は、底辺が3eVである三角形として推定される。
3.b)Ni3p2のサブピークのA’は、Ni3p1のA’の60%である。
3.c)Ni3p1サテライトのサブピークのA’は、Ni3p1のA’の80%である。
3.d)Ni3p2サテライトのサブピークのA’は、Ni3p2のA’の80%である。
4)Alピーク1、Alピーク2、及びAlピーク3のサブピークA’の初期値は、以下の手順で取得される。
4.a)Al2pの3つのサブピークのA’値は、次の式に従って計算される。
A’=分画係数(FF)×推定面積×正規化係数(NF)
分画係数(FF)は、x~xまでの範囲のAl2pの3つのサブピークのxの関数であり、x=72.8eV及びx=74.6eVである。Alピーク1の強度は、xからxまで直線的に減少する。
4.b)Alピーク3の強度は、xからxまで直線的に増加する。したがって、Alピーク1とAlピーク3との間に位置するAlピーク2の強度は、その中心73.7eVで最も高い強度を有する。各サブピークの分画係数(FF)は、次の式に従って計算される。
【数9】
推定面積は、Al2pピークの最大ピーク強度×2.5であり、ピークの形状は、底辺が5eVである三角形として推定される。
4.c)正規化係数(NF)が追加され、サブピークが合計されたときに計算されたピークの合計から重複領域が差し引かれる。ピーク面積(A’)の式の最初の2つの要素(分画係数及び推定面積)には、計算された強度を過度に高くするいくつかの重複領域が含まれているため、重要である。計算方法では、サブピークは、高さt及び底辺bの三角形とみなされるように単純化される。
【0083】
最大強度の位置は、Alピーク1、Alピーク2、及びAlピーク3について、それぞれ72.8eV、74.0eV、及び74.6eVである。全てのサブピークは、ベースbと同じサイズ及び形状を有すると仮定され、1.8eVに設定される。各サブピークの正規化係数は、以下のように計算される。
【数10】
【0084】
表1.2に、EX1の変数の初期値の例を示す。
【0085】
【表3】
【0086】
工程5)計算を実施
ピークデコンボリューションプロセスは、Microsoft Excel(登録商標)ソフトウェアバージョン1808に組み込まれたソルバーツールによって支援される。ソルバー計算の目的として、ターゲットセルの最小値が設定される。ターゲットセルは、測定された曲線と計算された曲線との差の2乗の合計を返す。測定された曲線と計算された曲線との相関係数が99.5%以上になると計算を終了する。数値が100%に近づくと、計算された曲線の形状が測定された曲線の形状と厳密に一致していることを示す。それ以外の場合、目的の最小値に到達するまで、反復が続く。
【0087】
フィッティングプロセス前後のEX1のAl2pピークを、それぞれ、図3.1(x軸:結合エネルギー、y軸:カウント)及び図3.2(x軸:結合エネルギー、y軸:カウント)に示す。計算された変数の結果を表1.3に示す。
【0088】
【表4】
【0089】
B3)同定されたAlサブピーク1~3にリンクされたAl系化合物の含有量
各AlサブピークのA’(面積)の比率は、各Alサブピークの面積を全ての3つのAlサブピークの総面積で割ることによって、表面層の対応するAl化合物間の相対原子比に直接変換される。次いで、LiM’’1-aAl、LiAlO、及びAlの量が、正極活物質粉末中のM’の総原子含有量に対して提供される。
【0090】
例えば、表1.2に基づくと、EX1の表面層におけるAlピーク1(LiM”1-aAl):Alピーク2(LiAlO):Alピーク3(Al)の相対原子比は、23.7原子%:40.5原子%:35.8原子%である。アルミニウムの総含有量はEX1の表面層に含有されているものであり、ICP分析によって得られるため、正極活物質粉末のM’の総原子含有量に対するLiM”1-aAl、LiAlO、及びAlの量は、正極活物質粉末中のAl/M’の原子百分率(ICPで測定)及び各Alサブピークの相対原子比(XPSで測定)を乗算することによって得られる。例えば、EX1のLiAlOの量は、0.377(原子%)(Al/M’)×40.5%(LiAlO/(LiM’’1-aAl+LiAlO+Al)=0.1原子%である。
【0091】
B4)XPSピークの積分及び被覆率
Al2pを除く他の元素の全ての一次ピークは、スマートバックグラウンドを備えたThermo Scientific Avantage softwareを使用してフィッティングされる。バックグラウンドはシャーリータイプのベースラインであり、バックグラウンドの強度はデータポイントの強度よりも低くなければならないという制約がある。Al2pピーク積分面積は、B2)XPSデコンボリューションプロセスにおけるAlピーク1、Alピーク2、及びAlピーク3の合計面積として計算される。スコフィールド相対感度ライブラリは、積分されたピーク領域からの原子分率の計算に使用される。Alの、Ni、Mn、Co、Al、及びSの総量に対する原子比(Al/(Ni+Mn+Co+Al+S)(原子%/原子%))は、A1と名づけられている。
【0092】
Al表面被覆率値は、XPSで測定された粒子(A1)の表面のAlの割合を、ICPで測定された粒子(A2)のAlの割合で割ったものとして計算される。
【0093】
Alによる正極活物質の表面被覆率は、次のように計算される。
【数11】
式中、Mは、正極活物質粒子のNi、Mn、Co、Al、及びSの合計原子分率である。
【0094】
Alによる表面被覆率は、アルミニウムによる正極活物質粒子(positive active electrode active material)の被覆率を示す。Al表面被覆率値が高い場合、Al化合物は、均質な分布で表面を被覆する。
【0095】
C)炭素測定
正極活物質粉末の炭素含有量は、Horiba EMIA-320 V炭素/硫黄分析器によって測定される。hNMC粉末1gを、高周波誘導電気炉内のセラミック坩堝の中に置いた。タングステン1.5g及びスズ0.3gを、促進剤として坩堝中に添加する。プログラム可能な温度で粉末を加熱する。次いで、燃焼の間に発生したガスを、4つの赤外線検出器により分析する。低及び高CO及びCOの分析により、炭素濃度を求める。
【0096】
D)PSD測定
粒径分布(PSD)は、水性媒体中に粉末を分散させた後、Hydro MV湿式分散付属品を備えるMalvern Mastersizer 3000を用いて測定する。粉末の分散を改善するために、十分な超音波照射及び撹拌を適用し、適切な界面活性剤を導入する。D10、D50、及びD90は、累積体積%分布の10%、50%、及び90%における粒径として定義される。スパンは、スパン=(D90-D10)/D50として定義される。
【0097】
E)TEM‐EDS測定
リチウム遷移金属系酸化物粒子内のAl分布を調べるため、粒子の断面TEMラメラを、Helios Nanolab 450hp(FEI,USA)デュアルビーム走査型電子顕微鏡集束イオンビーム(SEM‐FIB)によって準備する。Gaイオンビームは、30kVの電圧と30pA~7nAの電流で使用される。エッチングされたサンプルの寸法は5×8μm、厚さは100nmである。準備したサンプルを使用して、リチウム遷移金属系酸化物粒子の上部から中心までの表面特性を、TEM及びエネルギー分散型X線分光法(EDS)によって分析する。TEM‐EDSは、X‐Max80T(Oxford instruments,https://nano.oxinst.com/products/x-max/x-max)を搭載したJEM‐2100F(JEOL,https://www.jeol.co.jp/en/products/detail/JEM-2100F.html)で実施される。リチウム遷移金属系酸化物粒子のEDS分析は、断面の定量的元素分析を提供する。Al及びSは、Mで正規化され、ここで、Mは、Ni、Mn、Co、Al、及びSの合計原子分率である。
【0098】
粒子の断面における直線距離の関数としてAl/M及びS/Mの測定されるラインスキャンは、Origin9.1ソフトウェアを使用して20点のSavitzhky‐Golayフィルターによって、EDSの固有の分析エラーを軽減するために平滑化される。
【0099】
F)コインセル試験
F1)コインセルの作製
正極の作製に関しては、溶媒(NMP,Mitsubishi)中に正極活物質粉末、コンダクタ(Super P,Timcal)、バインダー(KF#9305,Kureha)を、重量比90:5:5の配合で含有するスラリーを、高速ホモジェナイザーによって作製する。均一化したスラリーを、ギャップが230μmであるドクターブレードコータを用いて、アルミニウム箔の片面上に塗り広げる。スラリーでコーティングしたホイルをオーブン内で120℃にて乾燥させて、次にカレンダー工具を使用して加圧する。次に、これを真空オーブン中で再び乾燥させて、電極フィルム内の残留溶媒を完全に除去する。コインセルは、アルゴンを充填させたグローブボックス中で組み立てられる。セパレータ(Celgard2320)を、正極と、負極としてのリチウム箔との間に配置する。EC/DMC(1:2)中の1M LiPFを電解質として使用し、かつセパレータと電極との間に滴下する。次いで、コインセルを完全に密封して、電解質の漏れを防止する。
【0100】
F2)試験方法
試験方法は、従来の「一定カットオフ電圧」試験である。本発明における従来のコインセル試験は、表2に示したスケジュールに従う。各セルを、Toscat‐3100コンピュータ制御ガルバノスタットサイクリングステーション(galvanostatic cycling station)(東洋製)を用いて、25℃でサイクルする。
【0101】
このスケジュールでは、220mA/gの1C電流の定義を使用する。初期充電容量(CQ1)及び放電容量(DQ1)は、4.3V~3.0V/Li金属の範囲域(window range)において、0.1CのCレートで、定電流モード(CC)で測定される。
【0102】
不可逆容量IRRQは、以下のように%で表される。
【数12】
【0103】
【表5】
【0104】
G)フルセル試験
G1)フルセルの作製
650mAhのパウチ型セルを次のように作製する:正極活物質、コンダクタ(Super‐P,Timcal)、正極導電剤としてのグラファイト(KS‐6,Timcal)、及び正極バインダーとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF1710,Kureha)を、分散媒としてのN‐メチル‐2‐ピロリドン(NMP)に加え、それによって、正極活物質粉末、導電剤(super P及びグラファイト)、及びバインダーの質量比が92/3/1/4となるようにした。その後、混合物を混練して正極スラリーを作製する。次いで、得られた正極混合スラリーを厚さ15μmのアルミニウム箔から作製された正極集電体の両面に適用する。適用領域の幅は43mmであり、長さは407mmである。正極活物質の典型的な担持重量は、約11.5±0.2mg/cmである。次いで、電極を乾燥させ、電極密度3.3±0.5g/cmまで120Kgf(1176.8N)の圧力を使用してカレンダー加工する。また、正極の端部には、正極集電体タブとして機能するアルミニウム板がアーク溶接されている。
【0105】
市販の負極が用いられる。要するに、グラファイト、カルボキシ‐メチル‐セルロース‐ナトリウム(carboxy‐methyl‐cellulose‐sodium,CMC)、及びスチレンブタジエンゴム(styrenebutadiene‐rubber、SBR)の重量比96/2/2の混合物を、銅箔の両側に適用する。負極の端部には、負極集電体タブとして機能するニッケル板をアーク溶接する。負極活物質の典型的な充填重量は、8±0.5mg/cmである。
【0106】
エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とジエチルカーボネート(DEC)との体積比1:1:1の混合溶媒中に、1.0モル/Lの濃度にてヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)塩を溶解させることにより、非水電解質を得る。上記の電解質には、1重量%の炭酸ビニレン(VC)、0.5重量%のリチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB)、1重量%のLiPOが添加剤として導入される。
【0107】
螺旋状に巻かれた電極アセンブリを得るために、正極シートと負極シートとそれらの間に差し込まれた厚さ20μmの微多孔性ポリマーフィルム(Celgard(登録商標)2320,Celgard)から作られたセパレータシートとを巻線コアロッドを用いて螺旋状に巻いた。次いで、アセンブリ及び電解質は、-50℃の露点を有する風乾室内で、アルミニウム積層されたパウチ内に入れられ、これにより、平坦なパウチ型のリチウム二次電池が作製される。二次電池の設計容量は、4.2Vに充電されると650mAhである。
【0108】
非水電解液を、室温で8時間含浸させる。電池は、その理論容量の15%まで予備充電し、室温で1日放置する。次いで、-760mmHgの圧力で30秒間、バッテリをガス抜きし、アルミニウムパウチを密閉する。使用するための電池を、以下のように作製する:CCモード(定電流)において0.2C(1C=650mA)の電流を使用して最大4.2V、次いでCVモード(定電圧)においてC/20のカットオフ電流に達するまで、電池を充電し、その後CCモードにおいて0.5Cレートで放電して2.7Vのカットオフ電圧まで下げる。
【0109】
G2)サイクル寿命試験
下記条件下で25℃又は45℃にて、準備したフルセル電池を充電し、かつ数回放電して、それらの充放電サイクルの性能を測定する:
‐ CCモードにて1Cのレートで4.2Vまで、次にCVモードにてC/20に到達するまで、充電を実施する。
‐ 次いで、セルを10分間休止するように設定する。
‐ CCモードにて1Cのレートで、2.7Vに下がるまで放電を行う。
‐ 次いで、セルを10分間休止するように設定する。
‐ 充電-放電サイクルを、電池が約80%の保持容量に到達するまで続けて行う。その際、80%までのサイクル数は「サイクル#80」と表示される。100サイクル毎に、CCモードにおいて0.2のCレートで、2.7Vまでの放電を一度行う。
【0110】
G3)膨張試験
上記の作製方法によって作製した650mAhのパウチ型バッテリを、4.2Vまで完全に充電し、オーブンに入れて90℃まで加熱し、そこで、4時間とどめておく。充電された正極は、90℃で電解質と反応しガスを発生させる。発生したガスが、パウチの膨張を生じさせる。4時間後に、パウチ厚さ((保管後の厚さ-保管前の厚さ))/保管前の厚さ)の増加を測定する。
【0111】
H)結果
本発明を以下の(非限定的な)例において更に説明する。
【0112】
例1
式Li1+a(Ni0.8Mn0.1Co0.11-aを有する多結晶hNMC粉末(CEX1)は、リチウム源と遷移金属源との間の固相反応である二重焼結プロセスを以下のように実施することによって得られる。
1)共沈:大型連続撹拌槽反応器(CSTR)においてニッケル-マンガン-コバルト硫酸塩、水酸化ナトリウム、及びアンモニアを混合する共沈法により、金属組成M’=Ni0.80Mn0.10Co0.1を有する遷移金属系水酸化物前駆体M’O0.24(OH)1.76が作製される。
2)ブレンド:遷移金属系水酸化前駆体と、リチウム源としてのLiOHとを、工業用ブレンド装置中で1.01のリチウム対金属M’(Li/M’)比で均質にブレンドする。
3)1回目の焼結:ブレンドを、酸素雰囲気下、730℃で12時間焼結する。焼結した粉末は、粉砕、分級、及びふるい分けされて、焼結後中間生成物が得られる。
4)2回目の焼結:中間生成物を、酸素雰囲気下、830℃で12時間焼結する。焼結した粉末を粉砕し、分級し、ふるい分けして、式Li1.005M’0.995(a=0.005)、式中、M’=Ni0.8Mn0.10Co0.1のCEX1を得る。CEX1のD50は12.0μm、SPANは1.24である。CEX1は、工程1)の共沈プロセスで金属サルフェート源から得られた微量の硫黄を含む。
【0113】
必要に応じて、ドーパント源を、工程1)の共沈プロセス又は工程2)のブレンドステップで、リチウム源と一緒に加えることができる。例えば、ドーパントを添加して、正極活物質粉末生成物の電気化学的特性を改善することができる。
【0114】
CEX1は、本発明によらない。
【0115】
本発明によるEX1は、以下の手順で作製される。1kgのCEX1は、11.68gのAl(SO・16HO及び29.66mLの脱イオン精製水を使用して作製された、アルミニウム及び硫酸イオン溶液とブレンドされる。作製したブレンドを酸素雰囲気下で、375℃で8時間加熱する。加熱後に、粉末を粉砕し、分級し、ふるい分けして、EX1を得る。したがって、hNMC化合物(EX1)は、EX1の総重量に対して約1000ppmのAlを含有する。CEX1からのEX1の作製は、本発明のフレームワークにおいて、表面処理とも呼ばれる。
【0116】
EX1は、多結晶形態を有する。この形態は、2回目の焼結後に、及びその後の粉砕、分類、ふるい分け工程の前に、次の工程4a及び4b[すなわち、EX1によるCEX1の製造工程の工程4]を適用することにより、モノリシック形態に変更できる。
4a)焼結した中間生成物を湿式ボールミル粉砕工程に供し、それによって、当該凝集した一次粒子を解凝集し、解凝集された一次粒子を含むスラリーを得ること、及び
4b)解凝集した一次粒子をスラリーから分離し、この解凝集した一次粒子を第2の焼結工程(4)の温度よりも300℃から少なくとも200℃低い温度[すなわち、最大630℃]で熱処理して、それにより、単結晶モノリシック粒子を得ること。
【0117】
多結晶粒子をモノリシック粒子に変換するこのような処理は、特許文献3のEX1の20ページの11行目から、20ページの33行目により既知である。
【0118】
本発明によらないCEX2は、アルミニウム及び硫酸イオン溶液が23.36gのAl(SO・16HO及び24.32mLの脱イオン精製水を使用して作製されることを除いて、EX1と同じ方法に従って得られる。したがって、hNMC化合物(CEX2)は、CEX2の総重量に対して約2000ppmのAlを含有する。
【0119】
本発明によらないCEX3は、以下の手順で作製される。1kgのCEX1を2gのAl粉末とブレンドし、更にアルミニウム及び硫酸イオン溶液をブレンドして、12gのNa粉末及び35mLの脱イオン精製水を作製する。ブレンドを酸素雰囲気下で、375℃で8時間加熱する。加熱後に、粉末を粉砕し、分級し、ふるい分けして、CEX3を得る。したがって、hNMC化合物(CEX3)は、CEX3の総重量に対して約1000ppmのAlを含有する。
【0120】
EX1、CEX1、CEX2、及びCEX3のアルミニウム(Al)、硫黄(S)、硫酸イオン(硫酸塩又はSO 2-)、及び炭素(C)の総量は、セクションA)ICP分析及びC)炭素測定で説明されているように調査される。EX1及びCEX3の場合、Al化合物及び表面層へのその分布は、B)XPS測定によって調査される。EX1、CEX1、CEX2、及びCEX3も、セクションF)コインセル試験で説明されているように評価される。分析結果を、表3.1~表3.4、図4.1、図4.2及び図5に示す。
【0121】
【表6】
【0122】
【表7】
【0123】
CEX1の高C含有量は、サイクリング中の電極活物質と電解質との間の副反応により電気化学的性能を低下させることから、EX1は、CEX1と比較して改善された電気化学的性能を示す。表面層における適切な量のSにより、遷移金属系酸化物前駆体又はリチウム源(不純物として)に由来するLiCOなどの不純物の形成が抑制される。製造中のhNMC粉末の空気への曝露はまた、不純物としてのCの量を増加させるようにも働く。
【0124】
EX1の2倍のAl及びSを含有する表面処理源を使用するCEX2の場合、C含有量は更に減少するが、DQ1及びIRRQは損なわれる。この低下は、表面層に存在するAl及びSの含有量が高すぎるため、電池性能が低下することによる。
【0125】
例1で作製されたhNMC化合物の硫酸イオン表面被覆率を把握するために、セクションA)ICP分析で説明したように、粉末全体及び表面層の硫酸イオンの量を調査する。正極活物質粉末の粉末全体のS含有量(又はS含有量)は、ICPにより決定され、Sの量を硫酸イオンの量に変換することによって得られる値は、S2として定義される。また、hNMC粉末と水との混合物からの濾過された溶液はICPによって調査される。この溶液には、リチウム遷移金属系酸化物粒子の表面層から溶解したSが含有される。その結果、溶液から得られるS含有量は、硫酸イオンの量に変換され、S1と名づけられる。最後に、硫酸イオン表面被覆率は、S1をS2で割ることによって決定される。硫酸イオンの表面被覆率S1/S2が0.85以上の場合、正極活物質粉末のコアが硫酸イオンで均一に覆われるため、C含有量が減少し、電気化学的性能が向上する。
【0126】
しかしながら、同様のAl含有量(又はAl含有量)を有するものの、別の表面処理源によって誘導された、より高いS含有量を有するCEX3は、優れた硫酸イオン表面被覆率にも関わらず、容量の低下を示す。したがって、本発明では、hNMC粉末の表面層において、0.150重量%~0.375重量%の間のS含有量が好ましい。換言すれば、hNMC粉末の表面層において、4500ppm~11250ppmの間の硫酸イオン含有量が好ましい。
【0127】
【表8】
【0128】
【表9】
【0129】
表面特性を更に調査するために、セクションB)XPS測定で説明したように、EX1、CEX1、及びCEX3を分析する。図4.1(x軸:結合エネルギー、y軸:カウント)に示すように、XPSスペクトルは、80eV~65eVの範囲で最大強度を有するAl2p及びNi3pのピークを示す。EX1及びCEX3のAl2pの最大ピーク強度は、それぞれ、73.78eV及び74.08eVの結合エネルギーにある。最大強度を有するEX1及びCEX3のAl2pピーク位置を表3.4に示す。非特許文献1に開示されているとおり、Ni3pピーク位置が変化しないのに、Al2pピーク位置がより低い結合エネルギーにシフトする場合、LiAlO化合物の存在を示している。表3.2に示すように、より良い電池性能は、EX1などのLiAlO化合物の存在に対応する、73.6eV~74.1eVの範囲のAl2pピークの出現による寄与を受ける。図4.2は、LiM”1-aAl、LiAlO、及びAl相の各々の、Al2p3 XPSピークの結合エネルギー範囲を示す。垂直の破線はCEX1のAl2p3 XPSピーク位置を示し、一方、垂直の実線は、EX1のAl2p3 XPSピーク位置を示す。
【0130】
Al2pピークには、LiM’’1-aAl、LiAlO、及びAlなどの化合物が含有されており、これらの化合物のそれぞれの量は、セクションB2)XPSピークデコンボリューションで説明されている手順によって定量される。表3.3に、Al化合物のAlピーク位置及び定量を示す。電気化学的性能に優れたEX1の場合、LiAlO相の存在を示すAlピーク2の含有量が、正極活物質粉末のM’の総原子含有量に対して、0.10原子%以上0.30原子%以下であることが確認された。更に、LiM”1-aAl含有量は、正極活物質粉末中のM’の総原子含有量に対して、0.14原子%より少ない。
【0131】
正極活物質粉末におけるAlによる表面被覆率を調査するために、B4)XPSピーク積分及び被覆率によって示されるように、XPS分析からのAl/M”の原子比(A1)をICP分析からのAl/M”の原子比(A2)で割る。Al1/Al2の値が100以上の場合、正極活物質化合物が、表面層に均一に分布したAlを有することを意味する。表3.4に示すように、EX1及びCEX3は、表面処理法に関係なく、表面層に均一なAl分布を有する。
【0132】
この例でhNMC粉末の全セル性能を評価するために、フルセル試験は、セクションG2)サイクル寿命試験で説明したように、25℃及び45℃の両方で2.7V~4.2Vの範囲で実施される。フルセルの安全性を調査するために、G3)膨張試験で説明したように、90℃での膨張試験中に厚さの増加を測定する。EX1、CEX1、及びCEX3のフルセル試験結果を表4及び図5に示す(x軸:サイクル数、y軸:容量保持)。表4において、「サイクル#80%」は、容量保持が80%になるまでに到達したサイクル数を意味する。
【0133】
【表10】
【0134】
表4及び図5に示すように、Al化合物が表面層に均一に分布しているEX1は、より高い比容量及びより良好なサイクル寿命を示す。45℃などの高温でサイクルさせた場合、良好なサイクル安定性を依然として示す。この結果は、表面処理によって厚さの増加が緩和される安全性試験と相関する。
【0135】
例1の表面層は、セクションE)TEM‐EDS測定で説明したように確認され、結果は図6.1と図6.2に示されている(x軸:0を表面層の開始点とする距離、y軸:原子比における元素)。SEM‐FIBで作製した断面サンプルをTEM/EDS装置で調査し、遷移金属、Al、及びSの総量で割って、原子比でのサンプルのAl含有量及びS含有量を得る。
【0136】
図6.1に、粒子の表面層の外縁から100nmの直線距離(又は距離)でS/Mが0原子%に達することを示す。したがって、EX1の粒子の表面層の厚さは、100nmである。
【0137】
図6.2は、アルミニウムの総含有量が、EX1の粒子の100nmの厚さの表面層に含有されることを示す。
【0138】
CEX1の粒子(表面処理前)にはアルミニウムが含有されていないため、これは実際に予想される。
【0139】
図6.1に、粒子の表面層の外縁から100nmの直線距離(又は距離)でS/M比が0原子%に達することを示す。したがって、EX1の粒子の表面層の厚さは、100nmである。
【0140】
図6.2は、アルミニウムの総含有量が、EX1の粒子の100nmの厚さの表面層に含有されることを示す。
【0141】
CEX1の粒子(表面処理前)にはアルミニウムが含有されていないため、これは実際に予想される。
【0142】
コアに存在するドーパントとしてアルミニウムを含有するhNMCの場合、つまり表面処理が適用される前に、本発明によるhNMCの表面処理を適用した後の正極活物質粉末中のアルミニウムの総量(Altotal)に対する表面層のアルミニウムの量(Alsurface)は、以下の手順により得られる。
1)第1に、正極活物質粉末中のアルミニウムの総量(Al/M ICP)をICP分析によって得る。
2)第2に、粒子の断面のラインプロファイルは、EDS及び/又はEELS(電子エネルギー損失分光法)などの技術によって測定される。
3)第3に、表面層の厚さは、粒子の外縁からの距離による硫黄含有量の進展に基づいて決定され(S/M=0又はS/Mが一定の場合の、表面層の外縁から粒子内の一点までの距離)、当該最小距離Dは、次のように定義される:
D(nm)=LS1-LS2
S1は、粒子の縁部にある第1の点の位置であり、LS2は、当該第1の点の位置と当該粒子の幾何学的中心との間に定義された線における第2の点の位置であり、第2の点位置LS2でTEM-EDSによって測定されたSの含有量は、第1の点の位置(LS1)で測定されたSの含有量の0原子%以上5.0原子%以下であり、Sの当該第2の含有量(S)は、次のように定義される:
2(原子%)=S±0.1原子%、
は、当該線の第3の点の位置(LS)でのSの含有量(原子%)であり、当該第3の点は、当該粒子の幾何学的中心と第2の点の位置LS2との間の任意の位置に位置している。
4)第4に、Area1パラメータは、1次元ラインプロファイルの表面層の距離でAl/Mを積分することによって得られ(図6.2参照)、Area2パラメータは、表面層の外縁から粒子の中心までの距離でAl/Mを積分することによって得られる。粒子が球形で表面層が均一であると仮定し、Area1及びArea2を使用して、次式でAlsurface対Altotalの原子比を計算する。
【数13】
【0143】
正極活物質粉末中のM’の総原子含有量に対する表面層のアルミニウムの量は、次式:Al/M ICP Alsurface/Altotalに従って、Al/M ICP比にAlsurface/Altotal比を掛けることによって得られる。
【0144】
【表11】
【0145】
表5は、請求項記載の特徴を達成するための本発明による正極活物質の作製法を要約している。
【0146】
例2
CEX4は、SPANが0.65である金属組成M’=Ni0.80Mn0.10Co0.1の遷移金属系水酸化物前駆体M’O0.24(OH)1.76を、Li源とブレンドする前に、365℃で10時間予熱することを除いて、CEX1と同じ方法で得られる。
【0147】
また、最終的なhNMC粉末のD50は11.7μm、スパンは0.65であり、この値はCEX1の値よりもはるかに低い。CEX4は、本発明によらない。
【0148】
EX2は、CEX1の代わりにSPANが0.65のCEX4が使用され、表面層プロセスでの加熱温度が400℃であることを除いて、EX1と同じ方法で作製される。EX2は、本発明による。
【0149】
CEX5は、表面処理プロセスでの加熱温度が550℃であることを除いて、EX2と同じ方法で作製される。CEX5は、本発明によらない。
【0150】
EX2、CEX4、及びCEX5の電気化学的性能は、例1と同じ方法で評価される。初期放電容量及び不可逆容量を表6.1に示す。EX2、CEX4、及びCEX5の表面上のAl化合物及びその分布は、例1と同じ方法によって調査される。表面特性を表6.2に示す。
【0151】
【表12】
【0152】
【表13】
【0153】
表6.1は、例1におけるEX1のように、0.65などの非常に狭いSPANを有するEX2が、高い放電容量及び優れた可逆性を示すことを示している。表6.2に示すように、550℃などの高温で表面処理された生成物であるCEX5は、400℃で作製されたEX2よりもはるかに高いAlピーク1量を有する。したがって、表面処理中の加熱温度は、500℃以下が好ましい。
【0154】
例3
この例では、NiとM’との原子比が87原子%の多結晶hNMC粉末を作製して、表面処理効果を次のように特定する:
1)共沈:大型連続撹拌槽反応器(CSTR)においてニッケル‐マンガン‐コバルト硫酸塩、水酸化ナトリウム、及びアンモニアを混合する共沈法により、金属組成M’=Ni0.87Mn0.03Co0.1を有する合金系水酸化物前駆体M’O0.26(OH)1.74が作製される。
2)ブレンド:中間生成物を得るために、混合した合金系水酸化物前駆体とリチウム源としてのLiOH・HOとを、工業用ブレンド装置中で0.99のLi/M’比で均質にブレンドする。
3)焼結:ブレンドを、酸素雰囲気下、755℃で12時間焼結する。焼結後に、焼結した粉末を、非凝集型hNMC粉末を得るために分級及びふるい分けする。
【0155】
CEX6と名付けた最終hNMC粉末は、式Li0.995M’1.005を有し、そのD50及びSPANは、それぞれ12.8μm及び1.41である。CEX6は、本発明によらない。
【0156】
CEX7は、CEX1の代わりにCEX6を使用することを除いて、EX1と同じ方法で作製される。CEX7は、本発明によらない。
【0157】
CEX6及びCEX7の電気化学的性能を、例1と同じ方法によって評価する。初期放電容量及び不可逆容量を表7に示す。
【0158】
【表14】
【0159】
表6に示すように、NiとM’との原子比が0.80と高いhNMC化合物(CEX7)は、表面処理にもかかわらず、依然として低い放電容量及び高いIRRQを示す。
【0160】
例4
この例では、式Li1+a(Ni0.86Mn0.04Co0.101-aを有するNiとM’との原子比が86原子%の多結晶hNMC粉末を作製して、表面処理効果を次のように特定する:
1)共沈:CSTRにおいてニッケル‐マンガン‐コバルト硫酸塩、水酸化ナトリウム、及びアンモニアを混合する共沈法により、金属組成M’=Ni0.86Mn0.04Co0.10を有する遷移金属系水酸化物前駆体M’O0.16(OH)1.84が作製される。
2)ブレンド:中間生成物を得るために、工程1)で作製した、混合した遷移金属系前駆体と、リチウム源としてのLiOH・HOとを、工業用ブレンド装置中で1.02のLi/M’比で均質にブレンドする。
3)焼結:ブレンドを、酸素雰囲気下、765℃で12時間焼結する。焼結後に、焼結した粉末を、非凝集型hNMC粉末を得るために分級及びふるい分けする。
【0161】
CEX8と名付けた最終hNMC粉末は、式Li1.002M’0.998を有し、そのD50及びSPANは、それぞれ11.2μm及び0.53である。CEX8は、本発明によらない。
【0162】
EX3は、CEX1の代わりにCEX8を使用することを除いて、EX1と同じ方法で作製される。
【0163】
本発明によるEX3は、次の手順によって作製される:11.68gのAl(SO・16HOを29.66mLの脱イオン水に溶解することにより作製されるアルミニウム及び硫酸イオン溶液と、1kgのCEX8をブレンドする。作製したブレンドを酸素雰囲気下で、375℃で8時間加熱する。加熱後に、粉末を粉砕し、分級し、ふるい分けして、CEX8を得る。したがって、hNMC化合物(EX3)は、EX3の総重量に対して約1000ppmのAlを含有する。
【0164】
EX3及びCEX8の電気化学的性能を、例1と同じ方法によって評価する。初期放電容量及び不可逆容量を表8に示す。
【0165】
【表15】
【0166】
表8に示すように、NiとM’との原子比が0.86と高いhNMC化合物(EX3)は、CEX8と比較してより高いDQ1及びIRRQの改善を示す。この観察結果は、NiとM’との原子比が0.86である組成物に表面処理を適用できることを示す。
図1.1】
図1.2】
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】