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特表2022-541321リチウム及び他の金属を廃棄リチウムイオン電池から回収する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-22
(54)【発明の名称】リチウム及び他の金属を廃棄リチウムイオン電池から回収する方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 7/00 20060101AFI20220914BHJP
   C22B 26/12 20060101ALI20220914BHJP
   C22B 23/00 20060101ALI20220914BHJP
   C22B 23/02 20060101ALI20220914BHJP
   C22B 1/00 20060101ALI20220914BHJP
   C22B 1/02 20060101ALI20220914BHJP
   C22B 3/04 20060101ALI20220914BHJP
   H01M 10/54 20060101ALI20220914BHJP
【FI】
C22B7/00 C
C22B26/12
C22B23/00 102
C22B23/02
C22B1/00 601
C22B1/02
C22B3/04
H01M10/54
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022504519
(86)(22)【出願日】2020-07-24
(85)【翻訳文提出日】2022-03-23
(86)【国際出願番号】 EP2020071017
(87)【国際公開番号】W WO2021018788
(87)【国際公開日】2021-02-04
(31)【優先権主張番号】20151754.7
(32)【優先日】2020-01-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】19188696.9
(32)【優先日】2019-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ローデ,ヴォルフガング
(72)【発明者】
【氏名】ゲルケ,ビルギット
(72)【発明者】
【氏名】シーレ-アルント,ケルスティン
(72)【発明者】
【氏名】フォーゲス,マティーアス
(72)【発明者】
【氏名】フォーゲルサング,レギーナ
(72)【発明者】
【氏名】ゼーラー,ファビアン
(72)【発明者】
【氏名】スミス,ガレス
(72)【発明者】
【氏名】アデルマン,トルベン
【テーマコード(参考)】
4K001
5H031
【Fターム(参考)】
4K001AA02
4K001AA07
4K001AA09
4K001AA10
4K001AA16
4K001AA19
4K001AA34
4K001BA19
4K001BA22
4K001CA01
4K001CA02
4K001CA03
4K001CA04
4K001CA05
4K001CA09
4K001CA15
4K001CA16
4K001DA05
4K001DB01
4K001DB03
4K001DB04
4K001DB05
4K001DB06
4K001DB07
4K001DB08
4K001DB09
4K001DB11
4K001DB17
4K001DB21
4K001DB22
4K001DB23
4K001DB26
4K001DB36
4K001GA02
4K001GA06
4K001GA16
4K001GA19
4K001HA01
4K001HA09
4K001HA11
4K001KA06
4K001KA13
5H031EE01
5H031EE03
5H031EE04
5H031HH06
5H031HH09
5H031RR02
(57)【要約】
1種以上の遷移金属及びリチウムを、廃リチウムイオン電池又はそのパーツから回収する方法を開示する。(a)遷移金属化合物及び/又は遷移金属を含有する微粒子状材料であり、遷移金属がNi及びCoからなる群から選択され、さらに、存在する場合、該Ni及び/又はCoの少なくとも一部分が+2よりも低い酸化状態、例えば金属状態にあり、微粒子状材料がリチウム塩をさらに含有する、材料を準備するステップ、(b)ステップ(a)において準備した材料を、極性溶媒、及び場合により、アルカリ土類水酸化物によって処理するステップ、(c)固体を液体から分離し、場合によりその後に、固体-固体分離を行うステップ、並びに(d)遷移金属を含有する固体を溶解炉において処理して、Ni及び/又はCoを含有する金属溶融物を得るステップを含む方法は、合金としての遷移金属及び高純度のリチウムの良好な分離を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種以上の遷移金属、及びLi塩としてリチウムを、典型的には廃リチウムイオン電池又はそのパーツを含む材料から回収する方法であって、
(a)遷移金属化合物及び/又は遷移金属を含有する微粒子状材料であり、遷移金属がNi及びCoからなる群から選択され、前記Ni及び/又はCoの少なくとも一部分が+2よりも低い酸化状態にあり、微粒子状材料がリチウム塩をさらに含有する、材料を準備するステップ、
(b)ステップ(a)において準備した材料を、極性溶媒、典型的にはプロトン性溶媒によって処理するステップ、
(c)遷移金属を含有する固体残留物を液体から分離し、場合によりその後に、遷移金属、例えばNiを取り出すために、前記固体残留物を固体-固体分離に供するステップ、並びに
(d)遷移金属を含有する固体を溶解炉において処理して、Ni及び/又はCoを含有する金属溶融物を得るステップを含み、
ただし、ステップ(c)において分離した固体残留物を、本ステップ(d)を行う前に、遷移金属、例えばNiを取り出すための前記固体-固体分離に供する場合、ステップ(b)において使用する極性溶媒がアルカリ土類水酸化物を含有する、方法。
【請求項2】
ステップ(a)において準備する微粒子状材料が、使用済みリチウムイオン電池、とりわけそのセル材料、及び/又はリチウムイオン電池の生産から得られるスクラップ材料、若しくはリチウムイオン正極活物質から得られ、乾燥粉末、湿潤粉末又は液体中の粒子の懸濁液の形態で準備される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(a)において準備する微粒子状材料が、ISO 13320 EN:2009-10に従って検出した場合、1μm~2mmの範囲内の平均粒子直径D50を有する粒子を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(a)において準備する微粒子状材料が含有する遷移金属化合物並びに/又は+2よりも低い酸化状態の遷移金属Ni及び/又はCoが、金属状態のNi及び/又はCoを含み、ステップ(a)において準備する微粒子状材料が含有する遷移金属化合物及び/又は遷移金属が、好ましくは、粉末x線回折法(Cu-k-アルファ-1放射線)によって検出可能な量で存在する、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(a)において準備する微粒子状材料が含有するリチウム塩が、LiOH、LiF、Li2O、Li2CO3、LiHCO3、アルミン酸リチウム、リン酸リチウム塩のうちの1種以上の塩;LiとNi、Co、Mn、Fe、Al、Cuのうちの1種以上との混合酸化物を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ステップ(b)が、アルカリ土類水酸化物の存在下で行われ、好ましくは、
i)固体として、アルカリ土類水酸化物及び/若しくはアルカリ酸化物、又はプロトン性溶媒中、典型的には水性液体中の懸濁液若しくは溶液として、アルカリ土類水酸化物を含む混合物、並びにステップ(a)において準備した微粒子状材料を同時に、プロトン性溶媒、好ましくは水性液体、例えば水である、極性溶媒に加えること
によって、あるいは
ii)ステップ(a)において準備した微粒子状材料を、プロトン性溶媒、好ましくは水性液体、例えば水である、極性溶媒に加えて懸濁液を得、続いて、固体として、アルカリ土類水酸化物及び/若しくはアルカリ酸化物、又はプロトン性溶媒、例えば水性液体中の懸濁液若しくは溶液として、アルカリ土類水酸化物を含む混合物を加えること
によって、あるいは
iii)固体として、又は極性溶媒中の固体の懸濁液として、アルカリ土類水酸化物及び/又はアルカリ酸化物を、水性液体、例えば水に加えて、典型的には水性液体中の懸濁液又は溶液として、アルカリ土類水酸化物を含む混合物を得、続いて、前記混合物を、ステップ(a)において準備した微粒子状材料と合わせること
によって、あるいは
iv)固体として、アルカリ土類水酸化物及び/又はアルカリ酸化物を、ステップ(a)において準備した微粒子状材料に加えて固体の混合物を得、続いて、プロトン性溶媒、好ましくは水性液体、例えば水である、極性溶媒を加えること
によって、あるいは
v)ステップ(a)において準備した微粒子状材料を、プロトン性溶媒、好ましくは水性液体、例えば水である、極性溶媒に加えて懸濁液を得た後、濾過して濾液を得、続いて、固体として、アルカリ土類水酸化物及び/若しくはアルカリ酸化物、又は典型的には、極性溶媒、好ましくは水性液体中の懸濁液若しくは溶液として、アルカリ土類水酸化物を含む混合物を、濾液に加えること
によって行われる、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(b)における極性溶媒が水酸化カルシウムを含有し、水酸化カルシウムは、それ自体で前記極性溶媒に加えられる、又は酸化カルシウムとプロトン性溶媒、例えば水性液体若しくは水から選択される極性溶媒とが接触するとin situで形成される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ステップ(a)において準備する微粒子状材料が、不活性条件又は還元条件下で、80~900℃、とりわけ200~800℃の範囲内の温度に加熱する予備ステップ(i)を行った後の廃リチウムイオン電池から得られる材料を含み、予備ステップ(i)を、典型的には、リチウムイオン電池を放電し、解体及び/又は破砕した後に行う、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
加熱するステップ(i)を、炭素、並びに/又は水素及び一酸化炭素から選択される還元ガスの存在を含む還元条件下で実施する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
予備ステップ(i)において、加熱温度が350~500℃、とりわけ350~450℃の範囲内であり、ステップ(i)を35体積%以上の水素の存在下で実施する、又は予備ステップ(i)において、加熱温度が500~850℃、とりわけ600~800℃の範囲内であり、ステップ(i)を、最大20体積%の酸素を含有する雰囲気において、炭素の存在下で実施する、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
ステップ(a)において準備する微粒子状材料が、ケーシング、配線又は回路を機械的に除去し、放電させた後のリチウムイオン電池から得られ、前記材料が、本ステップ(a)に供する前に、酸化条件下で400℃以上の温度に曝露されない、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
ステップ(c)において得た固体を、固体-固体分離、例えば磁気分離に供する追加ステップを含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
遷移金属を含有する固体を、5重量%未満、好ましくは1重量%未満の残留液体含有率まで乾燥させ、及び/又はステップ(d)に導入する前にペレット化する、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
ステップ(d)において、採取点における炉内温度が、1200℃及び1600℃の間であり、炉が、連続モード又はバッチモードにおいて運用される、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
ステップ(d)において処理した固体が、元素である銅、鉄及びマンガンの1種以上をさらに含有する、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
リチウムを水酸化リチウムとして、ステップ(c)において得られる液体から結晶化によって回収する、又はリチウムを炭酸リチウムとして、ステップ(c)において得られる液体に二酸化炭素を加えた後に回収し、形成された炭酸リチウムを単離する、追加ステップを含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
請求項1から15のいずれか一項に記載の方法のステップ(d)において得た溶融物を冷却した際に得られる、固体合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム及び他の金属を、遷移金属であるニッケル、マンガン及びコバルトの少なくとも1種を含有する、使用済みリチウムイオン電池又は生産廃棄物から回収する方法であって、詳細には、リチウムを水酸化リチウムとして、リチウムイオン電池、特にそのセル材料から得られる微粒子状材料から、典型的には、高温で放電、破砕及び還元の後に、抽出すること、並びに精錬プロセスにおいて、該抽出ステップ後の残留物から他の金属、例えばニッケル、マンガン及び/又はコバルトを回収することによって、リチウムを望ましくない不純物から分離することに関係する、方法を対象とする。
【背景技術】
【0002】
電気エネルギーの貯蔵は、関心が高まっている対象である。電気エネルギーを効率的に貯蔵することで、有利な場合に、必要な時間及び場所で、電気エネルギーを発生させることができる。二次リチウム電池は、リチウムの小さな原子量及び大きなイオン化エネルギーに起因して、高いエネルギー密度を提供すること、並びに多くの携帯型電子機器、例えば、携帯電話、ラップトップコンピュータ、ミニカメラ等のためだけでなく、電気自動車のための電力供給源として広く使用されるようになっているため、エネルギー貯蔵のための特別な関心事である。とりわけ、原材料、例えば、リチウム、コバルト及びニッケルへの需要の増大は、将来における課題を生じるであろう。
【0003】
リチウムイオン電池の寿命は、無制限ではない。そのため、ますます多くの使用済みリチウムイオン電池が発生することが予想される。リチウムイオン電池は重要な遷移金属、例えば、限定するものではないが、コバルト及びニッケル、並びにこれらに加えてリチウムを含有するため、使用済みリチウムイオン電池は、リチウムイオン電池を新たに製造するための価値のある原材料の供給源を形成し得る。この理由のため、中古リチウムイオン電池から、又は仕様及び要件を満たさない電池若しくはそのパーツ(このような仕様外材料及び生産廃棄物は、同様に原材料の供給源となり得る)から、遷移金属及びリチウムを再生利用することを目標に、ますます多くの研究活動が実行されている。
【0004】
2つの主なプロセスが、原材料回収の対象となっている。1つの主なプロセスは、電池スクラップ材料の直接湿式冶金プロセスである。原理は、国際公開第2017/091562号及びJ. Power Sources、2014、262、255 ffに開示されている。このような湿式冶金プロセスは遷移金属を水溶液として、例えば硫酸塩溶液として、又は沈殿形態において、例えば水酸化物として、別々に、又は既に、新しい正極活物質を作製するのに望ましい化学量論(stoichiometries)で供給することになる。後者の場合、単一の金属成分を加えることによって、金属塩溶液の組成を所望の化学量論に調整してもよい。
【0005】
国際公開第2017/091562号には、遷移金属の共沈殿が記載されている。国際公開第2014/180743号には、アンモニア又はアミンを使用する共沈殿のプロセスが記載されている。
【0006】
典型的には、電池は、まずモジュールに、又はさらにはセルに解体される。直接湿式冶金プロセスの場合、電池スクラップは機械的に加工されて、ケーシング及び配線から大きなパーツが分離される。電極活物質、すなわち、いくらかの不純物とともに、アノードからの場合はグラファイト、カソードからの場合はリチウム遷移金属酸化物は、後続の湿式冶金プロセスステップの供給物を構成する微細な粉末、いわゆる黒色塊(black mass)又は黒色粉末を形成する。いくつかのプロセスでは、電池スクラップは、スクラップ中に含有する遷移金属の融点を十分に下回る温度で実行される、熱処理又は熱分解ステップに供され、この点において、この処理は、スクラップ中に含有する遷移金属の融点を上回る温度で運用される精錬プロセスとは異なる。
【0007】
このように熱処理された黒色塊は、廃棄物焼却オーブンにおける電池の処理から得ることができる。廃電池、又は電池モジュール若しくは電池セルは、焼却オーブンに供給され、ここで電池供給物が部分的に燃焼する。この処理の生成物は、冷却され、金属画分を粉末状黒色塊から分離するのに好適な任意の種類の破砕又は粉砕装置を使用して、機械的に処理される。これらの黒色塊は、通常条件下では反応性が低い材料であり、したがって、容易に輸送することができる。
【0008】
廃リチウムイオン電池、又はこれらの種類の電池の電極活物質を含有する部品の400℃超の高温における熱処理は、複数の著者によって記載されている。このような熱処理によって、電池が含有する電解質溶媒は完全に蒸発し、ポリマー成分は分解する。このような熱処理から得られる材料は、アノードからの電極活物質、すなわちグラファイト、及びカソードからの電極活物質、すなわちリチウム含有遷移金属材料を主に含む、異なる金属画分及び粉末物質を分離するために、異なる機械的処理及び分離操作に供してもよい。これらの粉末はしばしば、「黒色塊」若しくは「黒色粉末」、又は「活性塊(active masses)」と呼ばれる。反応条件に応じて、後者の材料はしばしば、少なくとも部分的に還元され、これによって、金属Ni相及び金属Co相、酸化マンガン相、並びにLiOH、Li2CO3、LiF、LiAlO2、Li3PO4のようなリチウム塩を含有する。還元は、熱処理中の還元条件により、水素若しくは一酸化炭素のような還元ガスを導入すること、又は500℃超の温度では、廃電池材料が含有する炭素質材料、すなわち、グラファイト及びすすのいずれかによって起こる。J. Li et al.、J. Hazard. Mat. 2016、302、97 ffには、使用済みLiCoO2/グラファイト電池からコバルト、炭酸リチウム及びグラファイトを再生利用するための、酸素不含焙焼/湿式磁気分離プロセスが開示されている。
【0009】
特開2012-229481号公報では、廃電池は、導電性電解質塩において電池が含有するフッ素、通常はLiPF6、及びバインダーポリマー、通常はポリフッ化ビニリデン(PVDF)を結合する方法で複数のステップにおいて処理される。これは、まず廃電池を水性水酸化カルシウム(消石灰)溶液で処理して、導電性塩を加水分解させ、フッ化物をフッ化カルシウムとして沈殿させることによって達成される。LiCoO2のようなモデル物質を用いた変換実験から開始して、特開2012-229481号公報には、予備浸漬ステップ、これに続く高温酸化、還元焙焼、濾過を用いた水性処理(aqueous treatment)、並びに濾液から炭酸リチウムの回収及び残留物から遷移金属の回収を含む、使用済みリチウムイオン電池から金属を回収する方法が開示されている。
【0010】
他の主な方法は、対応する電池スクラップの直接精錬に基づく(例えば欧州特許出願公開第1589121号明細書)。これによって、Ni及びCoを含有する金属合金が得られる一方で、リチウムはスラグに失われ、ここから回収するのは非常に困難である。得られた金属合金を湿式冶金によって加工して、金属、例えば遷移金属を抽出することができる。特開2012-112027号公報には、溶融物からの蒸発によるリチウム及びコバルトの分離が記載されており、したがって、このような方法は、コバルトの沸騰温度超(すなわち2870℃超)で運用するものと想定される。
有価金属
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2017/091562号
【特許文献2】国際公開第2014/180743号
【特許文献3】特開2012-229481号公報
【特許文献4】欧州特許出願公開第1589121号明細書
【特許文献5】特開2012-112027号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】J. Power Sources、2014、262、255 ff
【非特許文献2】J. Li et al.、J. Hazard. Mat. 2016、302、97 ff
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
価値のある材料を回収する公知の方法は、典型的には、使用済み電池、すなわち、その中にありこれらの材料の大部分を含有するセルが、高レベルのフッ素及び/又はリンの化合物のような不純物を含有し、新しいセルの生産に使用できる純度で所望の材料(電池グレード材料)を回収するためには、不純物を除去しなければならないという問題に直面している。そのため、電池スクラップが含有する有価金属、すなわち、リチウム、ニッケル並びに存在する場合、コバルト及びマンガンを容易に回収できる方法を提供することが、本発明の目的である。さらなる元素、例えばグラファイトとしての炭素及びフッ化物を回収する方法を提供することが、本発明の別の目的である。高価なステップ及び/又はエネルギーを消費するステップの数を減少させる経済的な方法を提供することが、本発明のさらなる目的である。該遷移金属又はその化合物を高純度で、とりわけ、低含有量の銅並びにAg、Au及び白金族金属のような貴金属とともに、並びに高純度のリチウム又はその化合物を、低含有量のフッ素及び/若しくはリン、又は他の金属不純物とともに回収する方法を提供することが、本発明のさらなる目的である。典型的には、回収された金属又は金属化合物は、対応する遷移金属塩、しばしば硫酸塩、並びに炭酸リチウム及びしばしば水酸化リチウムに変換される。
【0014】
フッ化物を結合する公知の方法は、典型的には複雑であり、複数のプロセスステップが必要となる。したがって、Ni及び/又はCoを含有し、Ni及び/又はCoの少なくとも10%は+2よりも低い酸化状態、例えば金属状態で存在し、加えてリチウム塩も含有する、少なくとも部分的に還元された黒色塊から、Ni、Co及び水酸化リチウムを回収することに関する、上述の問題を解決することが、本発明の目的である。このような黒色塊は、しばしば強磁性である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
したがって、冒頭で定義する方法が見出されており、以下、本発明の方法又は本発明の再生利用方法とも称する。本発明の方法は、以下、ステップ(a)、ステップ(b)、ステップ(c)、ステップ(d)等とも称する、下により詳細に定義するステップを含む。
【0016】
したがって、本発明は主として、1種以上の遷移金属、及びLi塩としてリチウムを、廃リチウムイオン電池又はそのパーツを含む材料から回収する方法であって、
(a)リチウムイオン電池又はそのパーツから得られる微粒子状材料であり、Ni及びCoからなる群から選択される遷移金属化合物及び/又は遷移金属を含有し、さらに、該Ni及び/又はCoの少なくとも一部分が+2よりも低い酸化状態にあり、微粒子状材料がリチウム塩をさらに含有する、材料を準備するステップ、
(b)ステップ(a)において準備した材料を、極性溶媒、典型的には水性溶媒によって処理するステップ、
(c)1種以上の遷移金属を含有する固体を液体から分離し、場合によりその後に、遷移金属、例えばNiを取り出すために、該固体を固体-固体分離に供するステップ、並びに
(d)1種以上の遷移金属の大部分を含有する、該固体、場合により固体-固体分離からの遷移金属濃縮物を、溶解炉(smelting furnace)において処理して、Ni及び/又はCoを含有する金属溶融物を得るステップ
を含む、方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】グラファイト、コバルト、酸化マンガン-II、酸化コバルト及びニッケルの参照回折像(reference diffractograms)を含む、実施例1において得られ、実施例2aに使用する、加熱/還元処理後の廃リチウムイオン電池からの還元塊のX線粉末回折像(Mo Ka)である。
図2】グラファイト、アルミン酸リチウム及び炭酸リチウムの参照回折像を含む、実施例1において得られ、実施例2aに使用する、加熱/還元処理後の廃リチウムイオン電池からの還元塊のX線粉末回折像(Mo Ka)である。
図3】グラファイト、コバルト、酸化マンガン-II、酸化コバルト及びニッケルの参照回折像を含む、実施例1において得られ、実施例2aに使用する、加熱/還元処理後の廃リチウムイオン電池からの還元塊のX線粉末回折像(Cu Ka)である。
図4】グラファイト、アルミン酸リチウム及び炭酸リチウムの参照回折像を含む、実施例1において得られ、実施例2aに使用する、加熱/還元処理後の廃リチウムイオン電池からの還元塊のX線粉末回折像(Cu Ka)である。
図5】実施例5において得られる、LiOH一水和物のX線粉末回折像(Cu Ka)である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
ステップ(a)において準備する微粒子状材料は、リチウム含有遷移金属酸化物材料から得られ、この材料は、典型的には、不純物としてフッ素化合物及び/又はリンの化合物を含有する、使用済み電池、生産からの廃電池材料及び仕様外材料、並びにリチウムと、このような不純物を含まない該遷移金属とを含有するさらなる材料、例えば生産廃棄物からの正極活物質を含めた、リチウムイオン電池(電池廃棄物)に由来し得る。予備ステップ(i)について下により詳細に記載するように、本ステップ(a)の前に、材料を還元ステップに供して、例えば還元ガス、例えばCO又は水素を使用して、例えばH2の存在下で、該材料を200~900℃の範囲内の温度に加熱することによって、遷移金属Ni及び/又はCoを、+2よりも低い酸化状態又は金属状態に変換する。
【0019】
上に述べたように、ステップ(c)において分離した固体残留物を、本ステップ(d)を行う前に、遷移金属、例えばNiを取り出すための固体-固体分離にさらに供してもよく、この場合、ステップ(b)において使用する極性溶媒は、アルカリ土類水酸化物を含有する。
【0020】
ステップ(c)の固体-液体分離には、場合による該固体-固体分離が続いてもよく、又はステップ(b)から得たスラリーを固体-固体分離に供して、得られた画分を、続いて固体-液体分離に供する。場合による固体-固体分離(ステップd1として、さらに下により詳細に記載する)は、遷移金属、とりわけニッケル及び/又はコバルトが豊富な固体残留物、並びに遷移金属が欠乏した第2の固体残留物を生じる。本方法は、溶液からの回収が可能となる形態にリチウム塩を保つという利点をもたらし、したがって、リチウム及び遷移金属の良好な回収を提供する。
【0021】
本方法のステップ(b)において使用する極性溶媒は、ステップ(a)において準備した材料からリチウム塩を浸出させ、これによって固体残留物中に残留した遷移金属からの液相中のリチウムの望ましい分離が提供される。極性溶媒は、典型的には、水、アルコール、ケトン、エステル、有機カーボネート、ポリエーテル、ニトリル及びこれらの混合物から選択される。アルカリ土類水酸化物、例えば、水酸化カルシウムを少なくとも部分的に、例えば水と同様に、又はさらにはより良好に溶解させることができる極性溶媒が、とりわけ好ましい。このような溶媒の例は、グリコール、グリセロール又はポリエチレングリコールのようなポリオール、及びこれらの混合物である。
【0022】
水酸化リチウムの回収についての浸出の結果を改善するために、アルカリ土類水酸化物又はアルカリ土類酸化物をスラリーに加えてもよく、アルカリ土類酸化物、例えば酸化カルシウムの場合、ステップ(b)において使用する極性溶媒は、有利にはin situでアルカリ土類水酸化物を形成するプロトン性溶媒、例えば水である。
【0023】
特別に技術的に重要な方法では、ステップ(a)において準備した微粒子状材料(PM)を処理するためにステップ(b)において使用する浸出液体は、アルカリ土類水酸化物(AEH)、例えば水酸化カルシウムを含有する。このステップでアルカリ土類水酸化物を加えると、フッ化物と結合するという利点が生じ、炭酸塩、リン酸塩、アルミン酸塩のような溶解性が低いリチウム塩を形成可能な他のアニオンが、さらにスラグ化の改善をもたらし、ステップ(d)において得られる生成物から金属又は金属合金を分離するのが単純化される。
【0024】
したがって、本発明は好ましくは、1種以上の遷移金属、及びLi塩としてリチウムを、廃リチウムイオン電池又はそのパーツを含む材料から回収する方法であって、
(a)廃リチウムイオン電池又はそのパーツから得られる微粒子状材料であり、Ni及びCoからなる群から選択される遷移金属化合物及び/又は遷移金属を含有し、さらに、該Ni及び/又はCoの少なくとも一部分が+2よりも低い酸化状態にあり、微粒子状材料がリチウム塩をさらに含有する、材料を準備するステップ、
(b)ステップ(a)において準備した材料を、極性溶媒、典型的には水性溶媒及びアルカリ土類水酸化物によって処理するステップ、
(c)1種以上の遷移金属を含有する固体を液体から分離し、場合によりその後に、遷移金属、例えばNiを取り出すために、該固体を固体-固体分離に供するステップ、並びに
(d)遷移金属の大部分を含有する、1種以上の遷移金属を含有する該固体、場合により固体-固体分離からの遷移金属濃縮物を、溶解炉において処理して、Ni及び/又はCoを含有する金属溶融物を得るステップ
を含む、方法に関係する。
【0025】
PMは好ましくは、ニッケル及び場合によりさらなる遷移金属、例えばCoを含有する。
【0026】
プロトン性溶媒は、下に詳細に述べるように、主に水、アルコール及びこれらの混合物である。水性媒体、例えば水性溶媒又は水性液体は、主として(すなわち、50重量%(% b.w.)以上、特定的には80重量%以上、より特定的には90重量%以上)水を含有し、これには水及び水と1種以上のアルコールとの混合物が含まれ、重要である含水率が上に与えた範囲の1つ以上以内に維持される限り、さらなる溶存物質を含有してもよい。
【0027】
ステップ(b)は主として、極性溶媒中の微粒子状材料の懸濁液を提供し、好ましくは加熱しながら行われ、アルカリ土類水酸化物による処理は、典型的には60~200℃、好ましくは70~150℃の範囲内の温度で行われる。極性溶媒の沸点を超える場合、溶媒又は少なくともその一部分が保持される圧力下で、液体状態において処理が行われる。水の沸点付近の温度範囲、すなわち、約70~150℃が特別に技術的に重要であり、この場合、水性液体又は水を使用して、常圧又はわずかに高い圧力(例えば最大5bar)において処理を達成することができる。あるいは、本ステップ(b)は、より高い温度及び圧力、例えば、150~300℃及び1.5~100barの適用によって行うこともできる。
【0028】
処理は典型的には、ある量のアルカリ土類水酸化物(AEH)を微粒子状材料(PM)と、その重量の少なくとも5%、典型的には100%以下に対応するように、例えば1kgのPMに対して50~1000gのAEH、好ましくは100~1000gのAEH、より好ましくは1kgのPMに対して200~1000gのAEHで組み合わせることによって行われる。極性溶媒の量は、典型的には、成分の混和性が確保されるように選択され、例えば、1重量部の合わせる固体(PM及びAEH)に対して、0.5~95、好ましくは約2.5~21重量部の極性溶媒、又はある特定の場合、1~20、例えば約2~10重量部の極性溶媒を使用する。
【0029】
本発明の一実施形態では、ステップ(b)は、強塩基に対して保護された容器、例えば、モリブデン及び銅が豊富な鋼合金、ニッケル系合金、二相ステンレス鋼、あるいはガラスで内張りされた、又はエナメル若しくはチタンでコーティングされた鋼において行われる。さらなる例は、耐塩基性ポリマー製、例えば、ポリエチレン、例えばHDPE及びUHMPE、フッ素化ポリエチレン、ペルフルオロアルコキシアルカン(「PFA」)、ポリテトラフルオロエチレン(「PTFE」)、PVdF並びにFEP製のポリマー内張り及びポリマー容器である。FEPは、フッ素化エチレンプロピレンポリマー、すなわち、テトラフルオロエチレン及びヘキサフルオロプロピレンによるコポリマーを表す。
【0030】
処理は、良好な混合を達成するため、及び不溶性成分の沈降を回避するために、典型的には混合装置、例えば撹拌機を使用して、典型的には1kgの懸濁液当たり最大10W、例えば0.5~10W/kgの出力を適用して、及び/又はポンプにより循環させて行われる。バッフルを利用することによって、剪断をさらに改善することができる。さらに、ステップ(b)において得たスラリーを、有利には、例えばボールミル又は撹拌ボールミルにおいて、磨砕処理に供してもよく、このような磨砕処理によって、微粒子状のリチウム含有遷移金属酸化物材料に、極性溶媒がより良好に接近し得る。適用する剪断及び粉砕装置は、典型的には十分な耐腐食性があり、容器について上記のものと同様の材料及びコーティングから生産され得る。
【0031】
本発明の一実施形態では、ステップ(b)は、20分~24時間、好ましくは1~10時間の範囲内の継続時間を有する。
【0032】
一実施形態では、ステップ(b)は、水酸化リチウム又はリチウム塩の最適な回収に達するまで、少なくとも2回実行される。各処理の間には、固体-液体分離を実行する。得られるリチウム塩溶液は、固体リチウム塩を回収するために、組み合わせてもよく、別々に処理してもよい。
【0033】
本発明の一実施形態では、ステップ(b)及び(c)はバッチモードにおいて実行される。本発明の一実施形態では、ステップ(b)及び(c)は連続モードにおいて、例えば、撹拌容器のカスケード(ステップb)において、及び/又は撹拌容器に遠心分離機を加えたカスケード(ステップc)において実行される。
【0034】
本発明の一実施形態では、本ステップ(b)における極性溶媒は水性媒体であり、水性媒体とステップ(a)において準備した材料との重量比は、1:1~99:1、好ましくは5:1~20:1の範囲内である。
【0035】
アルカリ土類水酸化物は一般に、Mg、Ca、Sr及びBaの水酸化物から選択され、水酸化カルシウム、水酸化バリウム及びこれらの混合物が好ましく、水酸化カルシウムが最も好ましい。本ステップ(b)において使用するアルカリ土類水酸化物は、それ自体で使用してもよく、酸化物の形態、又は酸化物及び水酸化物の混合物で加え、上に述べたプロトン性溶媒から選択された極性溶媒と接触すると、アルカリ土類水酸化物を形成してもよい。
【0036】
ステップ(a)において準備する微粒子状材料は一般に、リチウム含有遷移金属酸化物材料、例えば不活性条件又は還元条件下で、80~900℃、例えば200~850℃、とりわけ200~800℃の範囲内の温度に加熱する予備ステップ(i)を行った後のリチウムイオン電池廃棄物から得られる材料を含む。下でより詳細に説明するように、予備ステップ(i)は典型的には、リチウムイオン電池を放電、解体及び/又は破砕した直後に行われる。いくつかの適用では、破砕及び/又は解体は、予備ステップ(i)の後に行われる。使用するリチウムイオン電池、したがってステップ(a)において準備する微粒子状材料は、典型的には炭素を、例えばグラファイトの形態で含有する。
【0037】
例えば本ステップ(i)における材料の処理について、高温が述べられる場合、指示されるならば曝露時間は、該高温に加熱されている反応器又は炉内での合計滞留時間を規定し、材料の温度は、少なくとも該滞留時間のうちのわずかの間に、与えられた範囲の温度に達するはずである。
【0038】
別段の明記がない限り、任意の物質に対する「含有」とは、一般に、典型的にはx線粉末回折によって依然として検出可能な量、例えば1重量%以上のそのような物質が存在することを意味し、又は典型的には好適な温浸後のICPによって検出可能な量、例えば10重量ppm以上のそのような構成要素が存在することを意味する。本ステップ(a)において準備する微粒子状材料は、典型的には、元素について、約1~10%のリチウム、約3~30%の遷移金属元素、コバルト及び/又はニッケルの組合せ、並びに約4~40%のあらゆるコバルト、ニッケル、マンガン、銅及び鉄を含めた全部の遷移金属元素を含有する(すべて、ステップ(a)において準備する乾燥微粒子状材料の重量百分率)。
【0039】
以下において、ステップ(a)において準備する微粒子状材料、及びステップ(i)に供する材料は、代替的に、リチウム含有遷移金属酸化物材料として集約する。
【0040】
炭素含有物は、上記の還元の前処理において、還元剤として使用され得る。この予備ステップ(i)のための還元ガス流を提供するのに有用な他の還元剤は、特開2012-229481に記載されている通りであり、水素及び/又は一酸化炭素が好ましい。したがって、本発明は、上記のステップ(i)並びに(a)、(b)及び(c)及び(d)を含む方法を含み、加熱するステップ(i)は、炭素、並びに/又は水素、メタン及び一酸化炭素から選択される還元ガスの存在を含む還元条件下で実施される。
【0041】
ステップ(i)方法1
還元ガスとして水素を使用する場合、予備ステップ(i)は好ましくは、以下のように行われる:(i)リチウム含有遷移金属酸化物材料を、H2の存在下で、200~900℃の範囲内の温度に、又は上に指示されるように加熱する。
【0042】
典型的には、ステップ(i)において加熱するリチウム含有遷移金属酸化物材料は、リチウムイオン電池に由来し、リチウム含有遷移金属酸化物材料の重量に対して、典型的には1重量%(% by weight)~8重量%の範囲内のフッ素、及び/又は0.2重量%~2重量%の範囲内のリンを含有し得る。
【0043】
水素を用いて行われるステップ(i)は、リチウム含有遷移金属酸化物材料を、200~900℃、好ましくは300~600℃、より好ましくは350~500℃の範囲内の温度に加熱することを含む。強い加熱では、とりわけ酸化条件下では、より小さい程度では還元性雰囲気下でも、不溶性種(例えばLiMnO2)の形成が増加する傾向があるため、一般に、リチウム含有遷移金属酸化物材料を500℃以上の温度に曝露しないことが好ましい。その結果、ステップ(i)における温度を500℃未満に保つことが好ましく、本方法の一実施形態では、ステップ(i)は、水素を使用して、350~450℃、例えば380~450℃、とりわけ380~440℃の範囲内の温度で行われる。還元を行うために使用する雰囲気は、この実施形態によれば、0.1体積%~100体積%の水素を含有し、残りは非酸化性ガス、好ましくは窒素、アルゴン、水蒸気、一酸化炭素、二酸化炭素、又はこれらのガスの少なくとも2種の混合物である。好ましい非酸化性ガスは、窒素及び水蒸気、並びに窒素と水蒸気との混合物である。好ましい実施形態では、本方法のステップ(i)は、主に水素下で、例えば35~100体積%、好ましくは50~100体積%(通常条件)の水素を含有し、存在する場合、残りは非酸化性ガスである雰囲気下で行われる。本発明の該実施形態では、ステップ(i)は、10分~30時間、好ましくは20分~8時間、より好ましくは30分~4時間の範囲内の継続時間(滞留時間)を有する。好ましくは水素が存在する、20~90分間続くステップ(i)の継続時間は、特別な技術的関心事である。
【0044】
還元雰囲気中の水素の濃度及び反応時間は、互いに依存する。通常、低濃度の水素では、より長い還元時間が必要となり、逆もまた同様である。
【0045】
したがって、本発明の好ましい方法では、ステップ(i)は、リチウム含有遷移金属酸化物材料を、350~450℃の範囲内の温度に、35体積%超、とりわけ50~100体積%のH2の存在下で、20~90分の期間、加熱することによって行われる。本発明内では、特に好ましい方法は、ステップ(b)においてとりわけ効率的な方法でLiを回収するために、ステップ(i)を400℃と450℃の間、例えば400℃と420℃の間の温度で最大2.5時間、35体積%以上の水素を使用して実施するが、適用する温度が高すぎると収率が低くなる場合があり、継続時間が長いと、否定的な効果は生じないが空時収量が低下する傾向があり、35体積%以上のH2濃度は2.5時間以下の短い反応時間につながるため好ましく、最適な空時収量は、80体積%超の水素を使用して達成することができる。
【0046】
材料は熱処理の後、オーブンから冷却ユニットに移される。材料はここで、好ましくは100℃以下の温度に冷却される。冷却は周囲条件において、例えば、熱い材料を、チャンバ若しくは容器中に、又は熱処理が実行されて熱が環境に伝わり得る、ロータリーキルンの最後の非加熱パート又は冷却パートであってもよい回転管に貯蔵することによって行うことができる。好ましくは、冷却搬送スクリューによって、熱い材料を冷却及び搬送することができる。ガスを導入し、このガスが熱材料床を通過した後に熱交換器に供給され得ることによって、より迅速な冷却を得ることができる。このようなガスによる冷却は、固定床、移動床又は流動床として設計することができる。使用するガスは、好ましくは、窒素、アルゴン又は二酸化炭素のような不活性ガスである。好ましくは、冷却期間の初期に、材料がまだオーブン温度に近い温度にある時点で還元のために使用される、還元ガスを利用することもできる。その後で、より低温ではガス組成を不活性ガスに変化させてもよく、さらには空気のような酸素含有ガス、又は空気及び不活性ガスの混合物を利用してもよい。
【0047】
あるいは、ガス雰囲気中、乾燥条件下で冷却するため、熱い材料を液体によってクエンチすることもできる。クエンチは、液体が蒸発し、材料が事実上乾燥したままとなる量(蒸発による冷却)、又は材料のスラリーが形成される、より多い量のいずれかで、熱い材料に冷却液体を噴霧することによって行うことができる。液体による冷却は、得られる冷却された材料又はスラリーを、この発明のステップ(b)に直接利用できる場合に、とりわけ好ましい。したがって、好ましいクエンチ液体は十分に温度安定な極性溶媒であり、水が最も好ましい。液体は、熱交換器にポンプ注入し、冷却容器に戻して再生利用することができる。
【0048】
ステップ(i)方法2
還元剤として炭素系材料、例えば炭素を使用する場合、予備ステップ(i)は好ましくは、以下のように行われる:(i)該炭素系材料、例えば炭素の存在下で、例えばグラファイトの存在下で、リチウム含有遷移金属酸化物材料を、200~900℃の範囲内の温度に加熱する。本発明の好ましい実施形態では、黒色塊が含有するグラファイトが、還元剤として使用される。
【0049】
下でより詳細に説明するように、典型的には、ステップ(i)において加熱するリチウム含有遷移金属酸化物材料は、リチウムイオン電池に由来し、典型的な不純物、例えばフッ素を含有し得る。
【0050】
還元剤として炭素系材料、例えば炭素を用いて行われるステップ(i)は、リチウム含有遷移金属酸化物材料を、200~900℃、好ましくは300~850℃、より好ましくは500~850℃の範囲内の温度に加熱することを含む。
【0051】
還元を実施するために使用する雰囲気は、この実施形態によれば、酸素を含有しないか、又は最大20体積%の酸素を含有するかのいずれかであり、残りは非酸化性ガス、好ましくは窒素、アルゴン、水蒸気、一酸化炭素、二酸化炭素、又はこれらのガスの少なくとも2種の混合物である。好ましい非酸化性ガスは、窒素及び一酸化炭素、並びに窒素と一酸化炭素との混合物である。好ましい実施形態では、本方法のステップ(i)は、空気下又は希釈空気下で、例えば1~20体積%、好ましくは1~10体積%(通常条件)の酸素を含有し、存在する場合、残りは非酸化性ガスである雰囲気下で行われる。本発明の該実施形態では、ステップ(i)は、10分~30時間、好ましくは20分~8時間、より好ましくは30分~4時間の範囲内の継続時間を有する。好ましくは炭素が存在する、20~120分、とりわけ30~120分続くステップ(i)の継続時間は、特別な技術的関心事である。
【0052】
材料は熱処理の後、オーブンから冷却ユニットに移される。材料はここで、好ましくは100℃以下の温度に冷却される。冷却は周囲条件において、例えば、熱い材料を、チャンバ若しくは容器中に、又は熱処理が実行されて熱が環境に伝わり得る、ロータリーキルンの最後の非加熱パート又は冷却パートであってもよい回転管に貯蔵することによって行うことができる。好ましくは、冷却搬送スクリューによって、熱い材料を冷却及び搬送することができる。ガスを導入し、このガスが熱材料床を通過した後に熱交換器に供給され得ることによって、より迅速な冷却を得ることができる。このようなガスによる冷却は、固定床、移動床又は流動床として設計することができる。使用するガスは、好ましくは、窒素、アルゴン又は二酸化炭素のような不活性ガスである。好ましくは、冷却期間の初期に、材料がまだオーブン温度に近い温度にある時点で還元のために使用される、還元ガスを利用することもできる。その後で、より低温ではガス組成を不活性ガスに変化させてもよく、さらには空気のような酸素含有ガス、又は空気及び不活性ガスの混合物を利用してもよい。
【0053】
あるいは、ガス雰囲気中、乾燥条件下で冷却するため、熱い材料を液体によってクエンチすることもできる。クエンチは、液体が蒸発し、材料が事実上乾燥したままとなる量(蒸発による冷却)、又は材料のスラリーが形成される、より多い量のいずれかで、熱い材料に冷却液体を噴霧することによって行うことができる。液体による冷却は、得られる冷却された材料又はスラリーを、この発明のステップ(b)に直接利用できる場合に、とりわけ好ましい。したがって、好ましいクエンチ液体は十分に温度安定な極性溶媒であり、水が最も好ましい。液体は、熱交換器にポンプ注入し、冷却容器に戻して再生利用することができる。
【0054】
本発明の一実施形態では、還元条件は、水素及び/又は炭素/酸素濃度に関するものであり、ステップ(i)の温度及び継続時間は、リチウム含有遷移金属酸化物材料の少なくとも一部が、常磁性、反強磁性、強磁性及び/又はフェリ磁性成分を含有するように選ばれる。リチウム含有遷移金属材料の少なくとも部分的な還元から得られる、強磁性又はフェリ磁性成分の形成が好ましい。還元の程度は、リチウム含有遷移金属材料が含有するニッケルに対して、1~100%の範囲内で変動し得るが、80~100%の範囲が好ましい。
【0055】
したがって、本ステップ(a)において準備する微粒子状材料は、遷移金属化合物及び/又は遷移金属を含有し、遷移金属は、Mn、Ni及び/又はCoからなる群から選択され、さらに、存在する場合、該Ni及び/又はCoの少なくとも一部分は+2よりも低い酸化状態にあり、存在する場合、該Mnの少なくとも一部分は酸化マンガン(II)であり、その中のニッケル及び/又はコバルトは典型的には、少なくとも部分的に、金属状態で存在する。
【0056】
+2よりも低い酸化状態の、例えばNi及び/又はCo、酸化マンガン(II)の形態のMn、並びに金属としてのニッケル及び/又はコバルトの相の存在は、下にさらに記載するように、XRDによって検出することができる。
【0057】
本ステップ(a)において準備する微粒子状材料中に存在するリチウム塩は、下に記載する標準方法によって検出される。ステップ(a)において準備する微粒子状材料が含有するリチウム塩は、典型的には、LiOH、LiF、Li2O、Li2CO3、LiHCO3、アルミン酸リチウム、リン酸リチウム塩(lithium phosphate salts)のうちの1種以上の塩、LiとNi、Co、Mn、Fe、Al、Cuのうちの1種以上との混合酸化物、並びに/又はNi、Co、Mn、Fe、Al、Cuのフッ化物を含む。
【0058】
LiOH、LiF、Li2O、Li2CO3、LiHCO3、アルミン酸リチウム及びリン酸リチウムは、典型的には、存在する全リチウム塩の95重量%以上を占める。ステップ(a)において準備する微粒子状材料がリチウムイオン電池又はそのパーツに由来する場合、LiF、Li2CO3、LiOH及びアルミン酸リチウムは非常にしばしば含有される。存在する場合、フッ化物のより大きな割合、該フッ化物の例えば50重量%以上は、典型的には、フッ化リチウムとして存在する。存在するフッ化物塩は典型的には、かつての電池の電解質塩及びポリマー性バインダーに部分的に由来するため、電池材料の放電又は解体又は乾燥の予備ステップ中にフッ化水素が遊離し、フッ化水素とかつてのセル又は電極材料との急速な反応から得られる他の種のフッ化物塩、例えばフッ化コバルトも同様に存在し得る。
【0059】
本ステップ(a)において準備する微粒子状材料は一般に、リチウム、並びにニッケル及び/又はコバルトを含めた1種以上の遷移金属を含有する電池材料、例えば、リチウムイオン電池又はリチウムイオン電池のパーツ、とりわけそのセル材料に由来する材料である。本ステップ(a)の場合、この材料は、乾燥粉末、湿潤粉末、又は液体中の粒子の懸濁液の形態で準備される。材料は、典型的には、1μm~約2mm、とりわけ1μm~1mmの範囲内の平均粒子直径(ISO 13320 EN:2009-10によるD50)を有する。典型的な方法では、粉末材料中の粒子のサイズの上限は、本ステップ(a)の前又はさらにはステップ(i)の前に、例えば、最大2mmの、とりわけ最大1mmの粒子がメッシュを通過できるふるいを使用して実行される、ふるい分けステップによって与えられる。
【0060】
典型的には、該リチウム含有遷移金属酸化物材料は、ケーシング、配線又は回路を機械的に除去した後に得られ、したがって、典型的には主にセル材料からなる。安全上の理由のため、このようなリチウムイオン電池は、例えば乾燥導電浴(dry conductive bath )、例えば金属細片に浸漬させることによって、完全に放電させ、又は電気的に少なくとも80%(好ましくは90%超、最も好ましくは95%超)放電させ、これによって残留電気エネルギーが回収され得るが、そうしなければ、火災及び爆発の危険要因を構成する短絡を起こし得る。このようなリチウムイオン電池は、分解、穿孔、例えばハンマーミルにおいて粉砕、又は例えば工業用シュレッダーにおいて破砕され得る。好ましくはないが、電池を導電性液体、例えば硫酸ナトリウム等のような金属塩の水溶液に浸漬させることによって、放電させることもできる。液体中、好ましくは水中で破砕を実行することもできる。これには、ダスト形成の予防及び着火性雰囲気の発生を予防するという利点がある。
【0061】
材料を予備ステップ(i)に供する前に、例えば、大気圧以下で、例えば50~250℃の範囲内の温度において乾燥させることによって、電解質、とりわけ有機溶媒又は有機溶媒の混合物を含む電解質を、少なくとも部分的に除去することは有利であり得る。上に述べたように、リチウム含有遷移金属酸化物材料は、好ましくは、本ステップ(a)に供する前に、酸化条件下で高温には(とりわけ400℃以上には)曝露されない。
【0062】
それでも、本発明の一実施形態では、還元ステップ(i)の前に、酸化条件下で熱処理を実行してもよい。この処理は、250~900℃、好ましくは350℃及び800℃の間、例えば300~400℃の温度範囲において行われ得る。酸化条件を達成するために、空気又は酸素含有ガスが反応器に導入され得る。酸化処理は、アルカリ土類水酸化物又は酸化物の存在下で行われ得る。反応は、水蒸気としての水の存在下でも、したがって、熱水条件を適用しても行うことができる。
【0063】
本発明の一実施形態では、該リチウム含有遷移金属酸化物材料は、電池スクラップに由来する。本発明の好ましい実施形態では、該リチウム含有遷移金属酸化物材料は、機械的に処理された電池スクラップに、例えば、ハンマーミル又は工業用シュレッダーにおいて処理された電池スクラップに由来する。この機械的処理は、乾燥条件下又は湿潤条件下、好ましくは水の存在下で行うことができる。
【0064】
本発明の一実施形態では、ステップ(a)の前にステップ(a1)を実行し、該ステップ(a1)は、固体-固体分離法によって、例えば、炭素又は有機ポリマーを除去することを含む。このような固体-固体分離法の例は、電気ソーティング、ふるい分け、磁気分離、浮遊選鉱又は他の分類方法である。固体-固体分離は、乾式で、又は好適な分散媒、好ましくは水の存在下で実行することができる。
【0065】
本発明の一実施形態では、機械的に処理された電池スクラップは、ステップ(a)の前に磨砕される。このような磨砕は、好ましくは、ボールミル又は撹拌ボールミルにおいて実行される。ミル処理は、湿潤又は乾燥条件下で実行することができ、乾燥条件が好ましい。
【0066】
本発明の一実施形態では、ステップ(a)の前に、機械的に処理された電池スクラップを水及び/又は有機溶媒に接触させ、固体-液体分離ステップが続く。
【0067】
一実施形態では、機械的に処理された電池スクラップを、塩基性又は酸性溶液に接触させて、電極箔からの活物質の剥離を促進するが、これは国際公開第2018/192122号に記載されている。
【0068】
本発明の一実施形態では、ステップ(i)の熱処理の前に、リチウム遷移金属酸化物を集電体フィルムに結合するために使用されるポリマー性バインダーを溶解させて分離するために、機械的に処理された電池スクラップを溶媒処理に供する。好適な溶媒は、純粋形態において、又は混合物として、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド及びN-エチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルアミド(hexamethyl phoshoramide)、テトラメチル尿素、トリメチルホスファート並びにトリエチルホスファートである。
【0069】
上記の溶媒処理は、1種以上の溶媒によって、連続ステップにおいて、又は電解質成分及びバインダーポリマーを溶解させることができる溶媒を利用した1ステップにおいて、実行することができる。溶媒は、10℃~200℃の温度範囲において適用される。とりわけ、ポリマーの溶解には、50~200℃、好ましくは100℃及び150℃の間の範囲の高温が必要となり得る。上限温度は、1barよりも高い圧力が適用されない限り、通常は溶媒の沸点によって制限される。
【0070】
一実施形態では、機械的に処理された電池スクラップの洗浄は、湿気の非存在下、例えば、乾燥空気、乾燥窒素のような乾性ガスのもとで、非プロトン性溶媒によって実行される。
【0071】
本発明の典型的な実施形態では、該リチウム含有遷移金属酸化物材料は、電池スクラップ材料、リチウムイオン電池のパーツ若しくはパーツからの材料、純粋な電極材料を含む仕様外材料又はこのような材料の混合物を含む。しかしながら、該リチウム含有遷移金属酸化物材料は、好ましくは、適用できる場合には0.1~80重量%の範囲内の、ニッケル化合物、例えばニッケル/コバルト成分、又はニッケル/コバルト/マンガン若しくはニッケル/コバルト/アルミニウム化合物以外の化合物を含有し、極端な場合には、価値のある材料が少数成分である。このような成分の例は、以下、導電性カーボンとも称する、電気伝導性形態の炭素であり、例えば、グラファイト、すす及びグラフェンである。不純物のさらなる例は、銅及びその化合物、アルミニウム及びアルミニウムの化合物、例えばアルミナ、鉄及び鉄化合物、亜鉛及び亜鉛化合物、ケイ素及びケイ素化合物、例えば、シリカ及び酸化ケイ素SiOy[ゼロ<y≦2]、スズ、ケイ素-スズ合金、並びに有機ポリマー、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、及びフッ素化ポリマー、例えばポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレンポリマー等である。さらなる不純物は、フッ素化合物、例えば無機フッ化物、及び液体電解質に由来し得るリンの化合物、例えば広く利用されるLiPF6及びLiPF6の加水分解に由来する生成物中の不純物である。本発明の方法のための出発材料としての役割を果たす電池スクラップは、複数の供給源に由来する場合があり、そのため、実施形態の大多数において、該リチウム含有遷移金属酸化物材料は、適用できる場合にはニッケル/コバルト化合物、又はニッケル/コバルト/マンガン若しくはニッケル/コバルト/アルミニウム成分以外の化合物を含有し、このような成分の1種は、リチウム含有遷移金属酸化物材料全体に関して2~65重量%の範囲内で、電気伝導性形態の炭素である。
【0072】
本発明の典型的な実施形態では、該リチウム含有遷移金属酸化物材料は、以下のさらなる成分又は不純物の1種以上を含有する:
i)20重量ppm~10重量%、とりわけ20重量ppm~3重量%の範囲内の、金属として又はその化合物の1種以上の形態の銅、
ii)100重量ppm~15重量%の範囲内の、金属として又はその化合物の1種以上の形態のアルミニウム、
iii)100重量ppm~5重量%の範囲内の、金属若しくは合金として又はその化合物の1種以上の形態の鉄、
iv)20重量ppm~2重量%の範囲内の、金属若しくは合金として又はその化合物の1種以上の形態の亜鉛、
v)20重量ppm~2重量%の範囲内の、金属若しくは合金として又はその化合物の1種以上の形態のジルコニウム、
vi)例えばポリマーに結合している有機フッ素と、無機フッ化物の1種以上における無機フッ化物との和として計算して、1重量%~8重量%、とりわけ2重量%~8重量%の範囲内の、フッ素、
vii)0.2重量%~2重量%の範囲内の、1種以上の無機化合物中に現れ得るリン、
viii)100重量ppm~15重量%の範囲内の、金属として又はその化合物の1種以上の形態のマンガン。
【0073】
このような実施形態の例は、上の追加成分の1種若しくは2種、又は追加成分(i)、(ii)及び(iii); (i)、(ii)及び(iv); (i)、(ii)及び(v); (i)、(ii)及び(vi); (i)、(ii)及び(viii); (i)、(iii)及び(iv); (i)、(iii)及び(v); (i)、(iii)及び(vi); (i)、(iii)及び(vii); (i)、(iii)及び(viii); (i)、(iv)及び(v); (i)、(iv)及び(vi); (i)、(iv)及び(vii); (i)、(iv)及び(viii); (i)、(v)及び(vi); (i)、(v)及び(vii); (i)、(v)及び(viii); (i)、(vi)及び(vii); (i)、(vi)及び(viii); (i)、(vii)及び(viii); (i)、(ii)、(iii)及び(iv); (i)、(ii)、(iii)及び(v); (i)、(ii)、(iii)及び(vi); (i)、(ii)、(iii)及び(vii); (i)、(ii)、(iii)及び(viii); (i)、(ii)、(iv)及び(v); (i)、(ii)、(iv)及び(vi); (i)、(ii)、(iv)及び(vii); (i)、(ii)、(iv)及び(viii); (i)、(ii)、(v)及び(vi); (i)、(ii)、(v)及び(vii); (i)、(ii)、(v)及び(viii); (i)、(ii)、(vi)及び(vii); (i)、(ii)、(vi)及び(viii); (i)、(ii)、(vii)及び(viii); (i)、(iii)、(iv)及び(v); (i)、(iii)、(iv)及び(vi); (i)、(iii)、(iv)及び(vii); (i)、(iii)、(iv)及び(viii); (i)、(iii)、(v)及び(vi); (i)、(iii)、(v)及び(vii); (i)、(iii)、(v)及び(viii); (i)、(iii)、(vi)及び(vii); (i)、(iii)、(vi)及び(viii); (i)、(iii)、(vii)及び(viii); (i)、(iv)、(v)及び(vi); (i)、(iv)、(v)及び(vii); (i)、(iv)、(v)及び(viii); (i)、(iv)、(vi)及び(vii); (i)、(iv)、(vi)及び(viii); (i)、(iv)、(vii)及び(viii); (i)、(v)、(vi)及び(vii); (i)、(v)、(vi)及び(viii); (i)、(v)、(vii)及び(viii); (i)、(vi)、(vii)及び(viii); (ii)、(iii)、(iv)及び(v); (ii)、(iii)、(iv)及び(vi); (ii)、(iii)、(iv)及び(vii); (ii)、(iii)、(iv)及び(viii); (ii)、(iii)、(v)及び(vi); (ii)、(iii)、(v)及び(vii); (ii)、(iii)、(v)及び(viii); (ii)、(iii)、(vi)及び(vii); (ii)、(iii)、(vi)及び(viii); (ii)、(iii)、(vii)及び(viii); (ii)、(iv)、(v)及び(vi); (ii)、(iv)、(v)及び(vii); (ii)、(iv)、(v)及び(viii); (ii)、(iv)、(vi)及び(vii); (ii)、(iv)、(vi)及び(viii); (ii)、(iv)、(vii)及び(viii); (ii)、(v)、(vi)及び(vii); (ii)、(v)、(vi)及び(viii); (ii)、(v)、(vii)及び(viii); (ii)、(vi)、(vii)及び(viii); (iii)、(iv)、(v)及び(vi); (iii)、(iv)、(v)及び(vii); (iii)、(iv)、(v)及び(viii); (iii)、(iv)、(vi)及び(vii); (iii)、(iv)、(vi)及び(viii); (iii)、(iv)、(vii)及び(viii); (iii)、(v)、(vi)及び(vii); (iii)、(v)、(vi)及び(viii); (iii)、(v)、(vii)及び(viii); (iii)、(vi)、(vii)及び(viii); (iv)、(v)、(vi)及び(vii); (iv)、(v)、(vi)及び(viii); (iv)、(v)、(vii)及び(viii); (iv)、(vi)、(vii)及び(viii); (v)、(vi)、(vii)及び(viii); (i)、(ii)、(iii)、(iv)及び(v); (i)、(ii)、(iii)、(iv)及び(vi); (i)、(ii)、(iii)、(iv)及び(vii); (i)、(ii)、(iii)、(iv)及び(viii); (i)、(ii)、(iii)、(v)及び(vi); (i)、(ii)、(iii)、(v)及び(vii); (i)、(ii)、(iii)、(v)及び(viii); (i)、(ii)、(iii)、(vi)及び(vii); (i)、(ii)、(iii)、(vi)及び(viii); (i)、(ii)、(iii)、(vii)及び(viii); (i)、(ii)、(iv)、(v)及び(vi); (i)、(ii)、(iv)、(v)及び(vii); (i)、(ii)、(iv)、(v)及び(viii); (i)、(ii)、(iv)、(vi)及び(vii); (i)、(ii)、(iv)、(vi)及び(viii); (i)、(ii)、(iv)、(vii)及び(viii); (i)、(ii)、(v)、(vi)及び(vii); (i)、(ii)、(v)、(vi)及び(viii); (i)、(ii)、(v)、(vii)及び(viii); (i)、(ii)、(vi)、(vii)及び(viii); (i)、(iii)、(iv)、(v)及び(vi); (i)、(iii)、(iv)、(v)及び(vii); (i)、(iii)、(iv)、(v)及び(viii); (i)、(iii)、(iv)、(vi)及び(vii); (i)、(iii)、(iv)、(vi)及び(viii); (i)、(iii)、(iv)、(vii)及び(viii); (i)、(iii)、(v)、(vi)及び(vii); (i)、(iii)、(v)、(vi)及び(viii); (i)、(iii)、(vi)、(vii)及び(viii); (i)、(iv)、(v)、(vi)及び(vii); (i)、(iv)、(v)、(vi)及び(viii); (i)、(iv)、(v)、(vii)及び(viii); (i)、(iv)、(vi)、(vii)及び(viii); (i)、(v)、(vi)、(vii)及び(viii); (ii)、(iii)、(iv)、(v)及び(vi); (ii)、(iii)、(iv)、(v)及び(vii); (ii)、(iii)、(iv)、(v)及び
(viii); (ii)、(iii)、(iv)、(vi)及び(vii); (ii)、(iii)、(iv)、(vi)及び(viii); (ii)、(iii)、(iv)、(vii)及び(viii); (ii)、(iii)、(v)、(vi)及び(vii); (ii)、(iii)、(v)、(vi)及び(viii); (ii)、(iii)、(v)、(vii)及び(viii); (ii)、(iii)、(vi)、(vii)及び(viii); (ii)、(iv)、(v)、(vi)及び(vii); (ii)、(iv)、(v)、(vi)及び(viii); (ii)、(iv)、(v)、(vii)及び(viii); (ii)、(iv)、(vi)、(vii)及び(viii); (ii)、(v)、(vi)、(vii)及び(viii); (iii)、(iv)、(v)、(vi)及び(vii); (iii)、(iv)、(v)、(vi)及び(viii); (iii)、(iv)、(v)、(vii)及び(viii); (iii)、(iv)、(vi)、(vii)及び(viii); (iii)、(v)、(vi)、(vii)及び(viii); (iv)、(v)、(vi)、(vii)及び(viii); (i)、(ii)、(iii)、(iv)、(v)及び(vi); (i)、(ii)、(iii)、(iv)、(v)及び(vii); (i)、(ii)、(iii)、(iv)、(v)及び(viii); (i)、(ii)、(iii)、(iv)、(vi)及び(vii); (i)、(ii)、(iii)、(iv)、(vi)及び(viii); (i)、(ii)、(iii)、(iv)、(vii)及び(viii); (i)、(ii)、(iii)、(v)、(vi)及び(vii); (i)、(ii)、(iii)、(v)、(vi)及び(viii); (i)、(ii)、(iii)、(v)、(vii)及び(viii); (i)、(ii)、(iii)、(vi)、(vii)及び(viii); (i)、(ii)、(iv)、(v)、(vi)及び(vii); (i)、(ii)、(iv)、(v)、(vi)及び(viii); (i)、(ii)、(iv)、(v)、(vii)及び(viii); (i)、(ii)、(iv)、(vi)、(vii)及び(viii); (i)、(ii)、(v)、(vi)、(vii)及び(viii); (i)、(iii)、(iv)、(v)、(vi)及び(vii); (i)、(iii)、(iv)、(v)、(vi)及び(viii); (i)、(iii)、(iv)、(v)、(vii)及び(viii); (i)、(iii)、(iv)、(vi)、(vii)及び(viii); (i)、(iii)、(v)、(vi)、(vii)及び(viii); (i)、(iv)、(v)、(vi)、(vii)及び(viii); (ii)、(iii)、(iv)、(v)、(vi)及び(vii); (ii)、(iii)、(iv)、(v)、(vi)及び(viii); (ii)、(iii)、(iv)、(v)、(vii)及び(viii); (ii)、(iii)、(iv)、(vi)、(vii)及び(viii); (ii)、(iii)、(v)、(vi)、(vii)及び(viii); (ii)、(iv)、(v)、(vi)、(vii)及び(viii); (iii)、(iv)、(v)、(vi)、(vii)及び(viii); (i)、(ii)、(iii)、(iv)、(v)、(vi)及び(vii); (i)、(ii)、(iii)、(iv)、(v)、(vi)及び(viii); (i)、(ii)、(iii)、(iv)、(v)、(vii)及び(viii); (i)、(ii)、(iii)、(iv)、(vi)、(vii)及び(viii); (i)、(ii)、(iii)、(v)、(vi)、(vii)及び(viii); (i)、(ii)、(iv)、(v)、(vi)、(vii)及び(viii); (i)、(iii)、(iv)、(v)、(vi)、(vii)及び(viii); (ii)、(iii)、(iv)、(v)、(vi)、(vii)及び(viii)を含有するリチウム含有遷移金属酸化物材料である。別の例は、上の追加成分のそれぞれを含有するリチウム含有遷移金属酸化物材料である。
【0074】
上に与えた百分率のそれぞれは、乾燥材料(すなわち、本ステップ(a)において準備するリチウム含有遷移金属酸化物材料)の重量によるものである。
【0075】
特に技術的関心のある実施形態では、ステップ(a)において準備する微粒子状材料は、少量のみのカルシウムを含有するか、又はまったくカルシウムを含有しない。このような遷移金属化合物及び/又は遷移金属を含有する微粒子状材料は、リチウム塩及びフッ化物塩をさらに含有し、場合により、カルシウムとフッ素との元素比が1.7以下又はゼロである限り、カルシウムを含有してもよい。
【0076】
該リチウム含有遷移金属酸化物材料は、典型的には、ニッケル若しくはコバルト、又はニッケル及びコバルトの両方を含有する。リチウム含有遷移金属酸化物材料の例は、リチウム化(lithiated)ニッケルコバルトマンガン酸化物(「NCM」)若しくはリチウム化ニッケルコバルトアルミニウム酸化物(「NCA」)、又はこれらの混合物をベースとし得る。
【0077】
層状ニッケル-コバルト-マンガン酸化物の例は、一般式Li1+x(NiaCobMncM1 d)1-xO2の化合物であり、M1は、Mg、Ca、Ba、Al、Ti、Zr、Zn、Mo、V及びFeから選択され、さらなる変数は以下の通りに定義される:
ゼロ≦x≦0.2
0.1≦a≦0.95、
ゼロ≦b≦0.9、好ましくは0.05<b≦0.5、
ゼロ≦c≦0.6、
ゼロ≦d≦0.1、且つa+b+c+d=1。
【0078】
好ましい実施形態では、一般式(I)による化合物において、
Li(1+x)[NiaCobMncM1 d](1-x)O2 (I)
M1は、Ca、Mg、Zr、Al、Ti及びBaから選択され、
さらなる変数は上の通りに定義される。
【0079】
リチウム化ニッケル-コバルトアルミニウム酸化物の例は、一般式Li[NihCoiAlj]O2+rの化合物である。r、h、i及びjについての典型的な値は、
hは0.8~0.95の範囲内であり、
iは0.02~0.3の範囲内であり、
jは0.01~0.10の範囲内であり、
rはゼロ~0.4の範囲内である。
【0080】
Li(1+x)[Ni0.33Co0.33Mn0.33](1-x)O2、Li(1+x)[Ni0.5Co0.2Mn0.3](1-x)O2、Li(1+x)[Ni0.6Co0.2Mn0.2](1-x)O2、Li(1+x)[Ni0.7Co0.2Mn0.1](1-x)O2、Li(1+x)[Ni0.8Co0.1Mn0.1](1-x)O2(それぞれ、xは上に定義される通りである)、及びLi[Ni0.85Co0.13Al0.02]O2が特に好ましい。
【0081】
該リチウム含有遷移金属酸化物材料は、規則的な形状を有してもよいが、通常は不規則形状を有する。しかしながら、軽質部分、例えば、有機プラスチック製のハウジングパーツ、及びアルミニウム箔又は銅箔を、例えばガスの強制流において、可能な限り除去することが好ましい。
【0082】
一実施形態では、雰囲気の組成をステップ(i)中に変化させるが、これは例えば、不活性雰囲気において取り除かれる揮発性有機化合物が供給中に存在する場合に、雰囲気を還元性雰囲気、例えば水素含有雰囲気に切り替える前に行われ得る。
【0083】
一実施形態では、水素含有雰囲気による還元の前に、20~300℃の温度範囲における酸化性雰囲気が、ステップ(i)において使用される。この実施形態によって、いくらかの不純物成分、すなわち有機成分が燃焼し得るか、又は材料が乾燥する(とりわけ、上でさらに述べたように、最大250℃の温度を利用する。好ましい酸化性ガスは、酸素又は酸素含有ガス、例えば空気である。リチウム、遷移金属酸化物、並びに典型的にはフッ素及び/又はリン化合物を含有する、使用済みリチウムイオン電池セルに由来する材料を、好ましくは、本方法のステップを行う前に300℃超の酸化に供しない。
【0084】
本発明の一実施形態では、ステップ(a)の前にステップ(a1)を実行し、該ステップ(a1)は、乾式固体-固体分離法によって、例えば、炭素又は有機ポリマーを除去することを含む。このような乾式固体-固体分離法の例は、電気ソーティング、ふるい分け、磁気分離又は他の分類方法である。ここで、ステップ(a1)は追加ステップとして導入される。
【0085】
本発明の一実施形態では、ステップ(a)において準備する材料は、異なる固体粒子同士が、例えば残留バインダーポリマーによっていくらか凝集している場合、これらを互いに凝集から解くために、ステップ(b)の前に磨砕される。磨砕は、乾燥条件又は湿潤条件下で実行することができる。好ましくは、磨砕は、連続するステップ(b)においても利用される水性媒体中で行われる。
【0086】
ステップ(b)の最後に、適用できる場合には圧力を解放してもよい。リチウム塩の溶液は、ステップ(c)から液体、典型的にはLiOHを含有する水溶液として得られる。
【0087】
本ステップ(c)の前に、固体残留物は水溶液であり得る極性溶媒に含有され、懸濁液を形成する。Li化合物の抽出が、上記のように2以上のステップにおいて行われる場合、固体残留物は、第2のステップ又は最後のステップのスラリーにそれぞれ含有されることになる。
【0088】
ステップ(c)において得られる固体残留物は、固体-液体分離ステップ(c)によって回収される。このステップは、濾過若しくは遠心分離、又は沈降及びデカンテーションの一種であってもよく、場合により、続いて洗浄ステップを有し、ステップ(b)において洗浄媒体として使用する、それぞれの極性溶媒が適用される。濾液及び洗浄液体は、通常、それぞれのリチウム塩を対象としたさらなる 後処理(work up)の前に混ぜ合わせる。例えば50μm以下の平均直径を有する微細粒子を含有する、このような固体材料を回収するために、凝集剤、例えばポリアクリレートを加えてもよい。
【0089】
ステップ(c)によって得られる固体残留物は、ステップ(b)中に好ましいプロセス条件を適用することから生じる、典型的な元素組成を特徴とする。具体的には、固体残留物は、電池スクラップ材料に典型的である(Li、グラファイト、並びにNi及びCoの少なくとも1種、Mnも存在してもよい)が、(Ni+Co+Mn)とLiとの重量比((Ni + Co + Mn) to Li weight ratio)が有意に高い組成を有することを特徴とする。電池スクラップ材料、とりわけ正極活物質は、(Ni+Co+Mn):Liの重量比が5及び12の間であることを特徴とするため、ステップ(c)の後の固体残留物はLi含有率がより低く、そのため、(Ni+Co+Mn):Liの重量比が13及び100000の間であることを特徴とする。さらに、ステップ(b)における好ましいプロセスには、上に言及したように、ステップ(a)において準備した当初の微粒子状材料では非常に低い(0~0.5重量%)、カルシウム含有率の有意な上昇が伴う。本ステップ(c)の好ましい変形によって得られる固体残留物は、元素Ca重量含有率が2重量%及び50重量%(乾燥固体に対する)の間であることを特徴とする。
【0090】
ステップ(c)によって得ることができるこの固体残留物は、新しい電池の生産に有用な、価値のある材料の供給源であり、このような材料の単離のためのステップを以下に記載する。
【0091】
ステップ(c)によって得られる固体残留物を、続いて、とりわけ、残留物が含有する炭素の量を調整するステップ(d1)に供してもよい。これは、固体-固体分離によって、又は酸素含有ガス、例えば空気中で炭素を燃焼させる熱処理によって、達成することができる。このような燃焼プロセスは、異なる加熱ゾーン及び温度レジームを有するオーブンを利用して、ステップ(d)の精錬プロセスに統合してもよく、例は高炉であり、500~900℃の温度において、炭素質材料の少なくとも一部が燃焼する条件下、材料をオーブンの予備加熱ゾーンに入れる。
【0092】
本発明のステップ(d1)が固体-固体分離ステップを含む場合、これは、湿式固体-固体分離ステップであってもよい。この固体-固体分離ステップは、炭素及びポリマーのような非溶性成分、又は金属酸化物粒子のような不溶性無機成分を、リチウム含有遷移金属酸化物材料の金属成分又は金属酸化物成分から分離する役割を果たす。ステップ(d1)の該固体-固体分離の後、Ni及び/又はCoの大部分を濃縮された形態で含有する、固体濃縮物画分が得られる。このような固体-固体分離ステップは、機械的に、カラム若しくは圧気によって、又は複合浮遊選鉱によって実行され得る。多くの実施形態では、捕集化合物(collector compounds)をスラリーに加えて、標的成分を疎水性にする。炭素及びポリマー粒子のための典型的な捕集化合物は、炭化水素又は脂肪アルコールであり、これらは、ステップ(c)から得られる1tの固体残留物当たり1g~50kgの量で導入される。浮遊選鉱を反対の意味で、すなわち、特別な捕集物質、例えば脂肪アルコール硫酸エステル又はエステルクワット(esterquats)により、元は親水性の成分を強疎水性成分に変換して、実行することもできる。炭化水素捕集剤、例えば鉱油、ケロシン又はディーゼル油を利用した直接浮遊選鉱が好ましい。炭素及びポリマー粒子に対する浮遊選鉱の選択性を改善するために、起泡相に同伴する金属及び金属酸化物成分の量を減少させる、抑制剤を加えることもできる。使用することができる薬剤は、pH値を3~9の範囲内に制御するために、酸又は塩基であってもよい。金属若しくは金属酸化物表面に吸着するイオン性成分、例えばケイ酸ナトリウム、又は例えばアミノ酸のような双極性成分(bipolar components)であってもよい。浮遊選鉱の効率を上昇させるために、疎水性標的粒子と凝集を形成するキャリア粒子、例えば、ポリマー粒子、炭素質粒子、例えばグラファイト又は石炭を加えることが有利であり得る。磁気キャリア粒子を使用することによって、磁気的に分離することができる磁気凝集物が形成され得る。標的成分が常磁性、反強磁性、フェリ磁性、又は強磁性である場合、これらの成分を、高強度磁気分離器(「WHIMS」)、中強度磁気分離器(「MIMS」)又は低強度磁気分離器(「LIMS」)を利用した磁気分離によって分離することもできる。他の固体-固体分離技法は、固体構成要素の密度差、例えば、グラファイト及び金属又は金属酸化物の間の密度差を使用する。これらの技法は、中間の密度~分離する固体成分の密度の流体を利用する、浮沈法を含む。この部類の別の技法は、重液分離である。密度差に基づくさらなる分離技法は、スパイラル及び液体サイクロンである。
【0093】
前述の固体-固体分離技法の少なくとも2種の組合せも、利用することができる。これらの組合せは、鉱物加工フローシートに典型的な、粗選、清掃選及び精選ステップを含み得る。また、固体-固体分離と炭素燃焼ステップとの組合せも考えることができる。
【0094】
好ましい一実施形態では、ステップ(d1)における固体-固体分離は、磁気分離である。
【0095】
本発明の一実施形態では、ステップ(c)から得られる固体材料は、異なる固体粒子同士が、例えば残留バインダーポリマーによっていくらか凝集している場合、これらを互いから解放するために、ステップ(d1)の前に磨砕される。このような磨砕は、好ましくは、ボールミル又は撹拌ボールミルにおいて実行される。
【0096】
本発明の一実施形態では、ステップ(d1)は、流体として水性媒体、好ましくは水を利用する、湿式固体-固体分離である。このようなステップ(d1)における流体媒体と固体材料との重量比は、典型的には1:1~99:1、好ましくは2:1~9:1の範囲内である。
【0097】
ステップ(d1)の湿式固体-固体分離から2種のスラリーが生じる。標的の遷移金属含有固体材料を含有するスラリーと、炭素質材料及びポリマーのような他の成分、並びに適用できる場合には、いくらかの無機化合物も含有するスラリーとである。固体-固体分離ステップの好適な選択及び必要な場合、組合せによって、Ni及び/又はCoの少なくとも60%が得られ、1つの画分に濃縮される。好ましくは、Ni及び/又はCoの少なくとも80~99%が分離される。金属含有画分中の炭素含有率は、有意に減少するが、典型的には、5重量%以上、例えば5~20重量%である。
【0098】
ステップ(c)又は(d1)において回収される固体材料は、残留液体、例えば水を含有し得る微粒子状材料である。本発明の一実施形態では、この材料を、ステップ(d)に導入する前に、5重量%(% b.w.)未満、好ましくは1重量%未満の残留液体含有率に乾燥させる。別の実施形態では、ステップ(c)において得られる固体残留物は、1~20mm、好ましくは2~8mmの範囲内の直径を有する、球状又は円筒状粒子に凝集することになる。ステップ(d)において溶解オーブンに導入するのに十分に機械的に安定なこのようなペレットを製造するため、微粒子状材料の凝集は、バインダーを加えることによって成し遂げられる。このようなバインダーは、好ましくは、例えばベントナイト若しくはガンマ-アルミナ、又はこれらの材料の少なくとも2種の混合物のような、無機バインダーである。また、有機ポリマー性バインダーは、デンプン、セルロース、糖蜜、リグニン、ポリアクリレート、ワックス又はこれらの材料の少なくとも2種の混合物をベースとして適用することもできる。また、無機バインダー及び有機バインダーの混合物も好適である。これらのバインダーに加えて、石英アルミナ及び/又は石灰石のようなスラグ形成添加剤が、凝集物に既に加えられていることもある。凝集物は、当技術分野において公知のように、押出成形、又はドラム若しくはディスクペレッタイザーにおけるペレット化によって形成することができ、後者の2つが好ましい。スラグ形成添加剤の量及びその比は、好適なスラグ形成が可能となるように選択される。スラグ組成は、市販のソフトウェア、例えばFactSage(登録商標)によってモデル化することができる。通常、ペレット化は水の存在下で実行され、ペレットは形成された後、乾燥及び焼成されて、十分な機械的安定性の硬化焼結体を得る。
【0099】
ステップ(c)又はステップ(d1)からの固体残留物は、好ましくは、ペレット化、乾燥及び焼成の後、溶解炉(smelter furnace)に供給される。典型的には、供給材料は、スラグ形成添加剤及びフラックス(例えばソーダ、カリ、石灰、ホウ砂)と予備混合される。好適な溶解炉は、浴式溶解炉、上吹き転炉、高炉、電気アーク炉、プラズマ炉及び他のものである。採取点(tapping point)における炉内温度は、典型的には、1200℃及び1600℃の間である。炉は、連続モード又はバッチモードにおいて運用することができる。
【0100】
ステップ(c)又は(d1)からの固体残留物は、鉱石から、好ましくはラテライト、とりわけサプロライト鉱石から得たニッケル又はコバルト濃縮物と混合し、精錬ユニットに共供給(co-fed)してもよい。
【0101】
採取した合金は、典型的には、水中微粒化装置、造粒機又は鋳型に供給される(連続又はバッチ)。スラグは典型的には、スラグ冷却プール若しくは水中造粒装置に供給される、又はガスの強い流れによって噴霧され、小さな液滴となって地面までの軌道上で冷却される。
【0102】
炉は、ステップ(c)又は(d1)から得られる固体残留物が含有する炭素質材料が燃焼して、精錬のためのエネルギー及び還元条件を提供するように運用され得る。固体残留物が提供する炭素質材料が十分でない場合、追加の気化燃料(carburant)、例えば重質鉱油をオーブンに供給することができる。このような炉の運用は、乾式冶金の分野において周知である。あるいは、炭素質材料の濃度レベルを制限して、例えば、溶融物を過還元せず、有害成分を合金に引き込むことなく、標的遷移金属の選択的還元を提供してもよい。
【0103】
このようにして精錬(d)から得られる合金は、金属ニッケル及び/又はコバルトを含有し、典型的には、銅、鉄、及びまたいくらかのマンガンもさらに含有し得る。アルミニウムのような卑金属は、ほぼ完全にスラグに分離される。フッ素化合物もスラグにトラップされ、又は煙道ガスに分離され、好適なスクラバー及びフィルターによって、ここからフッ化物を回収することができる。
【0104】
得られる合金材料をさらに、湿式冶金プロセス(銅からニッケル及びコバルトを分離するためのステップ(f))に供してもよい。分離されたニッケル及びコバルト、並びに存在する場合、マンガンは、金属塩に変換することができ、これらを電池材料の生産又は他の用途に使用することができる。
【0105】
本発明の一実施形態では、ステップ(d1)に供給するスラリーの液相は、溶存リチウムを依然として含有する。この場合、ステップ(d1)における固体-固体分離から得られる、一方若しくは他方、又は両方のスラリーを、有利には、リチウム溶液を回収するために固体-液体分離に供する。次いで、リチウム溶液を、ステップ(e)においてさらに処理してもよい。
【0106】
ステップ(e)において、上述のステップのいずれか、例えばステップ(c)及び/又はステップ(d1)から得られる、リチウムを含有する溶液を処理して、水酸化物又は塩として固体材料の形態でリチウムを回収してもよい。
【0107】
本発明の一実施形態では、Li塩、とりわけLiOHは、溶液が含有する水の蒸発(e1)によって回収される。所望の高純度のLi塩を生成するために、この蒸発を、2つ以上の連続ステップ(例えばe2及びe3)で行ってもよい。
【0108】
まず、上述のステップのいずれかからのLi含有溶液を、LiOHの溶解限度に達する点の付近まで濃縮する。このステップには、LiOHよりも低い溶解性を有する不純物の固体形成(例えば結晶化)が伴い、可能な不純物は、限定するものではないが、Ca(OH)2、CaF2、CaCO3、LiFであり得る。これらは、固体-液体分離によって、例えば濾過若しくは遠心分離、又は沈降及びデカンテーションの一種によって、分離される。分離する固体の残留量は少ないため、好ましくはデプスフィルターが適用される。また、2つの固体-液体分離ステップの組合せ、例えば、液体サイクロンに続くデプスフィルターも可能である。この第1の濃縮ステップ(e2)中にLiFが沈殿する場合、固体材料をステップ(b)に再供給することが好ましい。
【0109】
次に、濃縮ステップのうちの1つの後に固体-液体分離から得られる濾液、すなわち、濃縮LiOH溶液を、次の蒸発ステップ(e3)に使用する。高品質のLiOHは、残った水を蒸発させ、LiOHの固体を形成することによって得ることができる。結晶化の場合、再び、固体液体分離によって結晶を残った母液から分離し、場合により洗浄する。不純物を濃縮するために、複数の結晶化ステップと、それに続く洗浄及び固体-液体分離が可能である。結晶化から得られる母液はいずれも、ステップ(b)又は(e1)、(e2)若しくは(e3)に母液を導入することによって、さらなる蒸発及び結晶化、並びに/又は再生利用に供することができる。
【0110】
上述の固化ステップのすべてについて、固体の乾燥が続くと有利である。60℃未満、又は高湿度条件下でより高い温度のいずれかにおける乾燥では、LiOH一水和物が生じ、それ以外では、少なくとも部分的には水不含LiOHが得られる。
【0111】
その場合、記載したステップ(e1)によって、ステップ(c)の後に得られる濾液を、極性溶媒、例えば水の全面的な蒸発によって乾燥させ、高純度(98.5%超)のLiOH(無水物又は一水和物)が得られる。これは、上記のプロセスに特徴的な不純物スペクトル、例えば0.35重量%未満の炭素系不純物を含有する。
【0112】
LiOH一水和物に関しては、特徴的な不純物は、カルシウム、フッ素及びナトリウムである。このLiOH一水和物内の典型的なこれらの量は、以下の通りである
Ca: 100重量ppm~1.29重量%
F: 0.1~1.29重量%
Na: 0.1~1.29重量%。
【0113】
さらに、PMの組成に応じて、有意な量の亜鉛、アルミニウム、カリウム及び塩素が存在することもある。これらの場合、ステップ(e1)の後に得られる、上記のLiOH一水和物における特徴的な量は、以下の範囲内である
Zn: 20重量ppm~1.29重量%
Al: 50重量ppm~1.29重量%
K: 0.1~1.29重量%
Cl: 0.1~1.29重量%。
【0114】
乾燥条件に応じて、一水和物の代わりに無水LiOHが得られる。この場合、一水和物に関する上述の不純物の特徴的な量は、100%水不含LiOHに対して、それぞれ1.75倍(無水物のモル重量で除算した、一水和物のモル重量に対応する)に高濃縮される。
【0115】
ステップ(b)、(c)、(d1)及び(e)を含めた適用するすべてのステップは、好ましくは、不活性雰囲気、例えば窒素、アルゴン中で、又はCO2不含空気中で行われる。
【0116】
本発明の一実施形態では、Liは、ステップ(c)において得られる溶液から、炭酸ナトリウム若しくは炭酸アンモニウムの添加によって、又は好ましくは圧力下で、二酸化炭素の溶解によって形成される炭酸によって、Li炭酸塩として沈殿させることによって回収される(ステップe5)。
【0117】
一実施形態では、CO2をさらに、好ましくは圧力下で溶液に加えることによって、このLi炭酸塩を再び溶解させ、溶存LiHCO3を形成する(e6)。存在し得る不純物は、現状水準の精製技法、例えば、溶媒抽出、沈殿及び/又はイオン交換を使用して分離することができる。場合によるこの精製の後、溶液の温度を上昇させることによってLi炭酸塩を得ることができ、これによればLi炭酸塩の沈殿が直接生じる(e7)。続いて固体-液体分離をすることによって、純粋なLi炭酸塩を得ることができる。
【0118】
本発明の好ましい実施形態では、LiはLiOHとして回収される。
【0119】
得られた固体Li塩及び/又はLiOHは、当技術分野において公知のように、溶解及び再結晶によってさらに精製してもよい。
【0120】
ステップ(d)から得られるNi及び/又はCoを含有する合金を、続いてステップ(f)に供してもよく、ステップ(f)ではNiを抽出すること、並びに適用できる場合にはCo、及び適用できる場合には他の有価金属、例えば銅を抽出することができる。抽出については、酸性又はアンモニア浸出が適用され得る。
【0121】
このようなステップ(f)の過程で、遷移金属材料は浸出剤、好ましくは、硫酸、塩酸、硝酸、メタンスルホン酸、シュウ酸及びクエン酸から選択される酸、又は前述の少なくとも2種の組合せ、例えば硝酸及び塩酸の組合せによって処理され得る。別の好ましい形態では、浸出剤は、
- 無機酸、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、
- 有機酸、例えば、メタンスルホン酸、シュウ酸、クエン酸、アスパラギン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸若しくはグリシン、
- 塩基、例えば、アンモニア、アミン、アンモニア、炭酸アンモニウムの水溶液、若しくはアンモニア及び二酸化炭素の混合物、又は
- キレート剤、例えば、Na4EDTA、Na2H2EDTA、H4EDTA(以下のセクションでは、これら3種のキレート剤をまとめて単にEDTAと書く)若しくはジメチルグリオキシムである。
【0122】
一形態では、浸出剤は水性酸、例えば無機又は有機水性酸を含む。別の形態では、浸出剤は塩基、好ましくはアンモニア又はアミンを含む。別の形態では、浸出剤は錯体形成剤、好ましくはキレート剤を含む。別の形態では、浸出剤は無機酸、有機酸、塩基又はキレート剤を含む。
【0123】
浸出剤の濃度は、広い範囲で、例えば0.1~98重量%、好ましくは10%及び80%の間の範囲内で変動し得る。水性酸の好ましい例は硫酸水溶液(aqueous sulfuric acid)であり、例えば10~98重量%の範囲内の濃度を有する。好ましくは、水性酸は、-1~2の範囲内のpH値を有する。酸の量は、遷移金属に関して過剰の酸が維持されるように調整する。好ましくは、ステップ(f)の終了時に得られる溶液のpH値は、-0.5~2.5の範囲内である。浸出剤としての塩基の好ましい例は、好ましくは炭酸イオン又は硫酸イオンも存在する中、1:1~6:1、好ましくは2:1~4:1のNH3と金属(Ni、Co)とのモル比を有する水性アンモニアである。EDTA又はジメチルグリオキシムのような好適なキレート剤は、しばしば1:1~3:1のモル比で適用される。
【0124】
浸出は、酸化剤の存在下で行ってもよい。好ましい酸化剤は、純粋なガスとして、又は不活性ガス、例えば窒素との混合物における、又は空気としての酸素である。他の酸化剤は、酸化性酸、例えば硝酸、又は過酸化水素のような過酸化物である。
【0125】
本発明の一実施形態では、このようなステップ(f)は、ステップ(c)又は(d)において得られる固体Ni濃縮物を、硫酸、塩酸、硝酸、メタンスルホン酸、シュウ酸及びクエン酸から選択される酸に溶解させることによって実行することができる。
【0126】
本発明の一実施形態では、このようなステップ(f)は、ステップ(c)又は(d)において得られる固体Ni濃縮物を、炭酸アンモニウム又は重炭酸アンモニウムの水溶液によって処理することによって実行され得る。このような水溶液は、追加のアンモニアを含有してもよい。
【0127】
本発明の一実施形態では、ステップ(c)又は(d)から得られるNi濃縮物を、ステップ(f)において、硫酸、塩酸、硝酸、メタンスルホン酸、シュウ酸及びクエン酸から選択される酸、又は前述の少なくとも2種の組合せ、例えば硝酸及び塩酸の組合せによって処理する。水性酸の場合、酸の濃度は、広い範囲で、例えば0.1~99重量%、好ましくは10%及び96%の間の範囲内で変動し得る。酸の量は、過剰の酸が維持されるように調整する。好ましくは、ステップ(f)の終了時に得られる溶液のpH値は、-0.5~2の範囲内である。
【0128】
水性酸の好ましい例は硫酸水溶液であり、例えば10~98重量%の範囲内の濃度を有する。
【0129】
ステップ(f)に従った処理は、20~200℃、とりわけ20~130℃の範囲内の温度において実行され得る。100℃超の温度が所望される場合、ステップ(f)は、1bar超の圧力において行われる。そうでなければ、常圧が好ましい。
【0130】
本発明の一実施形態では、ステップ(f)は、強酸に対して保護された容器、例えば、モリブデン及び銅が豊富な鋼合金、ニッケル系合金、二相ステンレス鋼、又はガラスで内張りされた、若しくはエナメル若しくはチタンでコーティングされた鋼において行われる。さらなる例は、耐酸性ポリマー製、例えば、ポリエチレン、例えばHDPE及びUHMPE、フッ素化ポリエチレン、ペルフルオロアルコキシアルカン(「PFA」)、ポリテトラフルオロエチレン(「PTFE」)、PVDF並びにFEP製のポリマー内張り及びポリマー容器である。FEPは、フッ素化エチレンプロピレンポリマー、すなわち、テトラフルオロエチレン及びヘキサフルオロプロピレンによるコポリマーを表す。
【0131】
ステップ(f)から得られるスラリーを、撹拌しても、かき混ぜても、例えばボールミル又は撹拌ボールミルにおいて、磨砕処理に供してもよい。このような磨砕処理によって、しばしば、微粒子状の遷移金属材料に、水又は酸がより良好に接近する。
【0132】
本発明の一実施形態では、ステップ(f)は、10分~10時間、好ましくは1~3時間の範囲内の継続時間を有する。例えば、ステップ(f)における反応混合物を、良好な混合を達成するため、及び不溶性成分の沈降を回避するために、少なくとも0.1W/lの出力において撹拌する、又はポンプにより循環させる。バッフルを利用することによって、剪断をさらに改善することができる。これらの剪断装置はすべて、十分な耐腐食性を適用されている必要があり、容器自体について記載したものと同様の材料及びコーティングから製造されてもよい。
【0133】
ステップ(f)は、空気の雰囲気下、又はN2で希釈された空気下で実行され得る。しかしながら、不活性雰囲気下、例えば、窒素又は希ガス、例えばAr下でステップ(f)を実行することが好ましい。
【0134】
ステップ(f)に従った処理によって、ステップ(b)におけるLiOHの浸出後に残った、炭素及び有機ポリマー以外の不純物を含む金属化合物が溶解する。大多数の実施形態では、スラリーは、ステップ(f)を行った後に得られる。残留するリチウム並びに遷移金属、例えば、限定するものではないが、ニッケル、コバルト、銅、及び適用できる場合にはマンガンは、しばしば、浸出物中に溶解した形態、例えば塩の形態となる。
【0135】
いわゆる酸化性酸をステップ(f)において使用した実施形態では、使用されていない酸化体を除去するために、還元剤を加えることが好ましい。酸化性酸の例は、硝酸、及び硝酸と塩酸との組合せである。本発明の文脈において、塩酸、硫酸及びメタンスルホン酸は、非酸化性酸の好ましい例である。
【0136】
一実施形態では、ステップ(f)は、窒素又はアルゴンのような不活性ガス下で実行される。
【0137】
ステップ(f)において使用する水性酸の濃度及び量に応じて、ステップ(f)において得られる液相は、1~最大25重量%、好ましくは6~15重量%の範囲内の遷移金属濃度を有し得る。遷移金属濃度は、利用した酸に対応する塩の溶解性に依存する。好ましくは、溶液中の高い金属濃度を確保するために、ステップ(f)は、主な金属、例えばNi並びに場合により、Co及びMnの遷移金属濃度が、最も溶解性の低い塩の溶解限度をわずかに下回るように実行される。
【0138】
ステップ(f)におけるNi濃縮物を、連続するステップ(f1)において溶解させたことで、上のスラリー又は溶液のpH値は、2.5~8、好ましくは5.5~7.5、より一層好ましくは6~7に調整され得る。pH値は、従来の手段、例えば電位差滴定によって決定され得るが、これは、20℃における連続液相のpH値を指す。pH値の調整は、水による希釈によって、若しくは塩基の添加によって、又はこれらの組合せによってなされる。好適な塩基の例は、アンモニア及びアルカリ金属水酸化物、例えば、固体形態における、例えばペレットとしての、又は好ましくは水溶液としてのLiOH、NaOH又はKOHである。前述の少なくとも2種の組合せ、例えば、アンモニア及び水性苛性ソーダの組合せも可能である。
【0139】
好ましくは、場合によるステップ(f2)は、場合によるステップ(f1)において形成された、残留するAl、Cu、Fe、Zr、Znの炭酸塩、酸化物、リン酸塩、水酸化物若しくはオキシ水酸化物、又は上述のものの少なくとも2種の組合せの沈殿の除去を含む。該沈殿は、pH値の調整中に形成され得る。リン酸塩は、化学量論的であることも、塩基性リン酸塩であることもある。いかなる理論にも束縛されることを望むものではないが、リン酸塩は、ヘキサフルオロリン酸又は本ステップ(a)において準備する微粒子状材料の前処理中に形成される、その分解生成物の加水分解を通じたリン酸塩形成の場合に発生し得る。該沈殿は濾過によって、又は遠心分離により、又は沈降によって除去することができる。好ましいフィルターは、ベルトフィルター、フィルタープレス、吸引フィルター及びクロスフローフィルターである。固体-液体分離を改善するために、濾過助剤及び/又は凝集剤を加えてもよい。
【0140】
本発明の好ましい実施形態では、ステップ(f2)は、場合によりステップ(f3)を含む。ステップ(f3)は、金属ニッケル、金属コバルト若しくは金属マンガン、又は前述の少なくとも2種の任意の組合せを有する、ステップ(f1)又はステップ(f2)の後に得られる溶液の処理を含む。
【0141】
場合によるステップ(f3)では、ステップ(f2)の後に得られる溶液を、金属ニッケル、コバルト若しくはマンガン、又は前述の少なくとも2種の組合せと、例えばカラム中で接触させる。このような実施形態では、塊又は顆粒の形態において、例えば、固定床として金属ニッケル、金属コバルト若しくは金属マンガン、又は前述の少なくとも2種の組合せを充填したカラムを提供し、溶液流がこのようなカラムの中を流れるようにすることが有利である。
【0142】
本発明の一実施形態では、ステップ(f3)は常圧で実行される。
【0143】
本発明の一実施形態では、ステップ(f3)は、30分~5時間の範囲内の継続時間を有する。ステップ(f3)がカラム中で実行される場合、継続時間は平均滞留時間に対応する。
【0144】
本発明の一実施形態では、ステップ(f3)は、1~6のpH値範囲、好ましくはpH2~5で実行される。ステップ(f3)におけるpH値が低いほど、Ni、Co及びMnから選択される金属が水素形成下で溶解する量が多くなる。
【0145】
ステップ(f3)は、微量の銅を除去するために特に有用である。ステップ(f3)を実行することによって、追加の精製ステップが必要となる新たな不純物が、遷移金属の溶液に導入されなくなる。該金属ニッケル、コバルト又はマンガンが微量の銅を含有する場合であっても、これらは溶解しない。
【0146】
ステップ(f3)における銅の分離は、好ましくは電気化学フィルターセルを利用し、導電性微粒子状材料、例えば黒色塊が含有するグラファイトを電極として利用して、電気分解によって実行してもよい。
【0147】
あるいは、銅は、Al、Fe、Zr及び/又はZnの沈殿の前に、溶媒抽出又はイオン交換によって抽出してもよく、電解採取によって高グレードの銅として回収され得る。
【0148】
当技術分野における公知の手順、例えば、酸化物、水酸化物、炭酸塩又は硫化物としての沈殿、溶媒抽出、イオン交換、電解採取によって、混合Ni、Co及び/又はMn含有溶液から、純粋な金属塩として個々の金属を回収してもよい。これらの純粋な金属塩は、例えば、以下のステップ(g1)及び(g)によって、正極活物質の合成に再導入してもよい。
【0149】
場合によるステップ(g)は、典型的には、ステップ(f)及び場合によるステップ(f1)、(f2)、(f3)に続いて実行され、混合水酸化物又は混合炭酸塩として、好ましくは混合水酸化物として、遷移金属を沈殿させることを含む。
【0150】
本発明の好ましい実施形態では、ステップ(g)は、アンモニア又は有機アミン、例えば、ジメチルアミン若しくはジエチルアミン、好ましくはアンモニア、及び少なくとも1種の無機塩基、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸カリウム若しくは重炭酸カリウム、又は前述の少なくとも2種の組合せを加えることによって実行される。アンモニア及び水酸化ナトリウムを加えることが好ましい。
【0151】
本発明の一実施形態では、ステップ(g)は、10~85℃、好ましくは20~50℃の範囲内の温度で実行される。本発明の一実施形態では、有機アミン(又はアンモニア)の濃度は、0.05~1モル/l、好ましくは0.1~0.7モル/lの範囲内である。この文脈における「アンモニア濃度」という用語は、アンモニア及びアンモニウムの濃度を含む。母液中のNi2+及びCo2+の溶解性が各1000ppm以下、より好ましくは各500ppm以下となるアンモニアの量が、特に好ましい。
【0152】
本発明の一実施形態では、混合は、本発明の方法のステップ(g)中に、例えば、撹拌機、ローターステーターミキサー又はボールミルによる影響を受ける。少なくとも1W/l、好ましくは少なくとも3W/l、より好ましくは少なくとも5W/lの撹拌機出力を、反応混合物に導入することが好ましい。本発明の一実施形態では、25W/l以下の撹拌機出力を、反応混合物に導入することができる。
【0153】
本発明の方法の場合によるステップ(g)は、1種以上の還元剤の存在下で実行しても、非存在の中で実行してもよい。好適な還元剤の例は、ヒドラジン、第一級アルコール、例えば、限定するものではないが、メタノール又はエタノール、さらにはアスコルビン酸、グルコース及びアルカリ金属亜硫酸塩である。ステップ(g)において、いずれの還元剤も使用しないことが好ましい。還元剤若しくは不活性雰囲気、又は両方を組み合わせて使用することは、多量のマンガン、それぞれの正極活物質の遷移金属部分に関して、例えば少なくとも3mol%が遷移金属酸化物材料中に存在する場合に好ましい。
【0154】
本発明の方法のステップ(g)は、例えば窒素又はアルゴン又は二酸化炭素のような不活性ガスの雰囲気下で実行され得る。
【0155】
本発明の一実施形態では、ステップ(g)は、水酸化物の場合には9~13.5の範囲内のpH値、好ましくは11~12.5のpH値において、炭酸塩の場合には7.5~8.5の範囲内のpH値において実行される。pH値は、23℃において決定した、母液におけるpH値を指す。
【0156】
ステップ(g)は、バッチ反応器において、又は(好ましくは)連続的に、例えば、連続撹拌槽反応器において、又は2つ以上のカスケード、例えば2つ若しくは3つの連続撹拌槽反応器において行われ得る。
【0157】
本発明の方法のステップ(g)は、空気下、不活性ガス雰囲気下、例えば希ガス若しくは窒素雰囲気下、又は還元性雰囲気下で実行され得る。還元ガスの例は、例えばSO2である。不活性ガス雰囲気下、とりわけ窒素ガス下で動作することが好ましい。
【0158】
さらなる精製の目的のため、ステップ(g)において回収した固体を分離し、酸、例えば塩酸、又はより好ましくは硫酸に溶解させてもよい。
【0159】
本発明の方法を実行することによって、遷移金属のニッケル及び/又はコバルト、並びに適用できる場合には他の金属を、ニッケル及び/又はコバルトを含有する正極材料から、正極活物質に非常に容易に変換できる形態で回収することができる。特に、本発明の方法によって、不純物、例えば、銅、鉄及び亜鉛を許容可能な微量でのみ、例えば、10ppm未満の銅、好ましくはさらに少なく、例えば1~5ppmで含有する遷移金属、例えばニッケル並びに場合により、コバルト及び/又はマンガンを回収することができる。
【0160】
本発明の一実施形態では、ステップ(g)の前の追加ステップ(g1)において、ニッケル、コバルト及び/又はマンガン塩が、ステップ(f)又は(f1)、(f2)若しくは(f3)からの再生利用金属塩溶液に加えられ、金属の比率が、正極活物質の生産のための前駆体材料として利用され得る、所望の混合金属水酸化物沈殿の組成に調整される。このような沈殿の間に、好ましくはステップ(f)において利用される酸のアニオンの水溶液として、追加の金属塩が加えられてもよく、このような金属の例はアルミニウムであり、硫酸アルミニウムとして加えられ得る。混合金属水酸化物沈殿を、固体-液体分離によって液体から分離し、乾燥させて、10重量%以下の含水率を有する乾燥混合金属水酸化物沈殿が得られ得る。これによって、連続沈殿ステップ(g)において、正極活物質前駆体を直接得ることができる。
【0161】
本発明の一実施形態では、ステップ(d)において得られるNi及び/又はCoを含有する固体合金は、好ましくは微粒化の後に、0.2~30重量%、好ましくは1~20重量%の濃度における水溶液中の(重)炭酸アンモニウムによって処理される。スラリーを、30~150℃の温度に加熱してもよい。混合物の沸点を上回る温度では、圧力下で加熱を実行する。沸点未満では、系内に十分なアンモニア及び二酸化炭素を維持するため、圧力の適用が有利である。
【0162】
(重)炭酸アンモニウムによる処理は、不活性雰囲気下で、又は例えば空気下、酸素の存在下で実行され得る。浸出液又は溶液も、追加のアンモニア及び/又は過酸化水素を含有してもよい。
【0163】
(重)炭酸アンモニウム処理によって、Ni及び/又はCo、並びに適用できる場合にはCuが、アンモニウム錯体として溶解する。浸出液体中の金属アンモニウム錯体の濃度は、0.2~30金属重量%(wt% by metal)、好ましくは1~15金属重量%の範囲内であり得る。この処理によって得られる溶液を固体-液体分離に供すると、主にNi並びに適用できる場合にはCo及びCuのアンモニウム錯体を含有する溶液と、主に他の遷移金属、すなわち、適用できる場合にはMn及びFeを含有する、分離された固体残留物が生じる。
【0164】
得られる溶液は加熱することができ、二酸化炭素でパージすることによって、アンモニアを取り除くことができる。これによって、まずNi炭酸塩が、より長い処理の際には、有利にはより高い温度において、Co炭酸塩も沈殿として得られる。これによって、両方の金属を分離することができる。本発明の一実施形態では、Ni及びCoの炭酸塩は、互いに分離されない。沈殿した混合Ni/Co炭酸塩は母液から分離され、これを硫酸又は他の酸に溶解させて、対応するNi塩及び適用できる場合にはCo塩の溶液を得ることができる。この溶液は少量のCu塩も含有し得るが、上記の金属Ni、Co又はMnによる処理によって除去することができる。低濃度で含有され得るFe又はAlのような他の不純物は、同じく上記の、2.5~8のpH値における水酸化物又は炭酸塩沈殿によって除去され得る。
【0165】
精製したNi塩及び/又はCo塩溶液から、Ni水酸化物及びCo水酸化物が共沈殿し得る。
【0166】
本発明の一実施形態では、溶液がさらに処理されて、例えば溶液抽出法によって、Ni塩及びCo塩が別々に抽出される。分離したNi塩及びCo塩から、当技術分野において公知の電気化学的方法を介して、純粋な金属を回収することができる。
【0167】
一実施形態では、ステップ(f1)、(f2)及び(f3)の後の遷移金属の沈殿は、昇圧下で水素によって行われる。これについて、溶液のpH値は、アンモニア及び/又は炭酸アンモニウムの添加によって、塩基性に保たれる。これによって、Ni、Co及びCuを金属として沈殿させることができる。当技術分野において公知の特定の触媒を加えて、この反応を改善してもよい。
【実施例
【0168】
方法の記載
D50の決定を含めた粒子サイズ分布測定は、ISO 13320 EN:2009-10によって実行される。
【0169】
リチウム、カルシウム及びマンガンの元素分析(とりわけ、本ステップ(a)において準備する微粒子状材料のLi、Ca、Mn含有量を決定するために実行される)
試薬は、
脱イオン水、塩酸(36%)、K2CO3-Na2CO3混合物(乾燥)、Na2B4O7(乾燥)、塩酸50体積%(脱イオン水及び塩酸(36%)の1:1混合物)であり、すべての試薬はp.a.グレードである。
【0170】
サンプル調製
本ステップ(a)のための0.2~0.25gの微粒子状材料(典型的には、予備還元ステップ(i)を実行した後の廃リチウムイオン電池から得られる)をPt坩堝に秤量し、K2CO3-Na2CO3/Na2B4O7融解温浸を適用する。非シールド炎においてサンプルを燃焼させ、続いて、マッフル炉において600℃で完全に灰にする。残った灰を、K2CO3-Na2CO3/Na2B4O7(0.8g/0.2g)と混合し、透明な溶融物が得られるまで溶融する。冷却した溶融ケーキを30mLの水に溶解させ、12mLの50体積%塩酸を加える。溶液を、100mLの規定の体積まで満たす。この作業(work up)を独立に3回繰り返し、加えて、参照目的のためにブランクサンプルを調製する。
【0171】
測定
得られた溶液中のLi、Ca、Mnを、誘導結合プラズマを使用した発光分光法(ICP-OES)によって決定する。機器: ICP-OES Agilent 5100 SVDV; 波長: Li 670.783nm; Ca 396.847nm; Mn 257.610nm; 内部標準: Sc 361.383nm; 希釈倍率: Li 100、Ca 10、Mn 100; 較正: 外部。
【0172】
フッ素及びフッ化物の元素分析は、以下の標準化法に従って実行する。総フッ素含有量の決定のためのサンプル調製(廃棄物サンプル)に関するDIN EN 14582:2016-12; 検出方法は、イオン選択性電極測定である。DIN 38405-D4-2:1985-07(水サンプル; 無機固形物の温浸に続く、酸支援蒸留(acid-supported distillation)及びイオン選択性電極を使用したフッ化物決定)。
【0173】
他の金属不純物及びリンは、ICP-OES(誘導結合プラズマ発光分光法)又はICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析法)を使用した元素分析によって、同様に決定する。全炭素は、燃焼後に熱伝導率検出器によって決定する。
【0174】
固体の相組成[本ステップ(a)において準備する微粒子状材料中の酸化マンガン(II)、並びに+2よりも低い酸化状態のNi及びCo(典型的には金属)の識別を含む]は、粉末x線回折(PXRD)によって決定する。この方法は、以下の通りに実行する。
【0175】
サンプルを微細な粉末に磨砕し、サンプルホルダーに充填する。
【0176】
それぞれ個別の放射線源を使用する2つの装置を利用する。
【0177】
(1)Cu放射線を適用する測定: 使用する機器は、オートサンプリングユニットを有するBruker D8 Advance Series 2である。1次側: Cuアノード、ASSによるビーム広がり角開口0.1°; 2次側: 拡散ビーム開口8mm、Ni 0.5mm、ソラー4°、Lynx-Eye (3°開口)。
【0178】
(2)Mo放射線を適用する測定: 使用する機器は、オートサンプリングユニットを有するBruker D8 Discover A25である。1次側:Johanssonモノクロメータを有するMoアノード(Mo-K-アルファ1)、軸ソラー2.5°; 2次側: ASS、ソラー2.5°、Lynx-Eye XE検出器(3.77°開口)。
【0179】
参照文献を使用して、得られた反射パターンとの一致を同定する。すべての関連する相は文献において周知であり、理論回折パターンを計算するために、以下の参照文献を調査し、使用する(下の表1における反射の位置及び強度を見よ):
a) CoxNi1-x: 空間群Fm-3m;
x=0.5: Taylor et al.、J. Inst. Met. (1950) 77、585-594。
x=0: Buschow et al.; J. Magn. Magn. Mater. 1983、38、1-22。
b) Co; 空間群P63/mmc; Buschow et al.; J. Magn. Magn. Mater. 1983、38、1-22。
c) Li2CO3、空間群C2/c; J. Alloys Compd. (2011)、509、7915-7921
d) LiAlO2、空間群R-3m; Marezio et al.、J. Chem. Phys. (1966) 44、3143-3145。
e) MnO、空間群Fm-3m、Locmelis et al.、Z. Anorg. Allg. Chem. 1999、625、1573。
【0180】
【表1】
【0181】
特徴的反射が異なる結晶相(とりわけ、サンプルの最大割合を占めるグラファイト)の反射と重なった場合、代替的な放射線源(例えば、Cu Kアルファの代わりにMo Kアルファ)を利用した追加の測定を実行する。
【0182】
省略形
本発明の文脈において、常圧とは、1atm又は1013mbarを意味する。「通常条件」とは、常圧且つ20℃を意味する。Nlは、通常リットル、すなわち通常条件(1atm、20℃)におけるリットルを表す。PFAは、パーフルオロアルコキシポリマーを表す。
【0183】
百分率は、別段具体的に定義しない限り、重量%を指す。重量%(% by weight及びwt%)という表現は、互換的に使用され得る。言及する場合は常に、「室温」及び「周囲温度」という用語は、約18℃及び25℃の間の温度を表す。XRDは、粉末x線検査(指示される通りの放射線、典型的には、154pmのCu k-アルファ1放射線又は71pmのMo k-アルファ1放射線)を表す。
【0184】
以下の例によって、本発明をさらに説明する。
【0185】
[実施例1]
廃リチウムイオン電池からの還元塊(reduced mass)の準備
ニッケル、コバルト及びマンガン、グラファイト及びすすの形態の有機炭素、並びに残留電解質、並びにとりわけフッ素化合物、リン及びカルシウムを含むさらなる不純物を含有する、使用済み正極活物質を含有する機械的に処理された約1tの量の電池スクラップを、Jia Li et al.、Journal of Hazardous Materials 302 (2016) 97-104に記載されている方法によって処理して、還元塊を得る。焙焼システム内の雰囲気は空気であり、酸素が電池スクラップ中の炭素と反応して一酸化炭素を形成し、処理温度は800℃である。
【0186】
反応させ、周囲温度に冷却した後、熱処理された材料を炉から回収し、機械的に処理して微粒子状材料を得て、X線粉末回折(図1及び2: Mo Ka放射線、図3及び4: Cu Ka放射線)、元素分析(表2)並びに粒子サイズ分布(表3)によって分析する。
【0187】
リチウム含有率は3.6重量%であり、すべてのさらなる浸出例(下を見よ)についての参照として作用する。フッ素は主に、無機フッ化物として表される(88%)。粒子サイズは1mmを十分に下回り、D50は17.36μmと決定される。
【0188】
得られたXRDパターンを計算によるNi(CoxNi1-x、x=0~0.6のパターンと同一である)、Co、Li2CO3及びLiAlO2の参照パターン(表1における参照パターンを見よ)と比較すると、Niは、純粋なNiとして、又はCoとの組合せの合金としてのいずれかで、専ら金属相として存在すると結論づけることができる。明確にするために記すが、この結果は、2種の異なる放射線源を適用することによって確認される。金属ニッケルの存在は、サンプル全体を永久磁性材料と接触させると、典型的な強磁性挙動を示すという定性的観察によって裏付けられる。リチウム塩として、特徴的な回折パターンによってLi2CO3及びLiAlO2が明確に同定される。
【0189】
得られた黒色粉末(PM)の組成を、表2に示す。
【0190】
【表2】
【0191】
【表3】
【0192】
[実施例2]
Ca(OH)2による浸出
5gの量の上述の還元電池スクラップ材料(実施例1に示すように得た)をPFAフラスコに充填し、それぞれ、5、1.5、1.0及び0.5gの固体Ca(OH)2と混合する。200gの水を、撹拌しながら加え、混合物全体を4時間還流させる。
【0193】
4時間後、固形分を濾別し、濾液サンプルを採取し、Li、F、炭酸塩、OH及びCaについて分析する。結果を下の表4にまとめる。
【0194】
【表4】
【0195】
[実施例2a]
Ca(OH)2による浸出、固体を液体に添加
実施例1に示すように得た5gの黒色粉末、及び指定の量の固体Ca(OH)2を同時に、撹拌しながら200gの水に加えることを除いて、実施例2を繰り返す。結果は、表4に報告したものと類似する。
【0196】
[実施例3]
より多くの固形分
10、20及び30gの量の、実施例1に記載した微粒子状材料(PM)を、それぞれPFAフラスコに充填し、PM:Ca(OH)2=3.3:1の固定重量比で固体Ca(OH)2と混合する。各サンプルを6時間還流させることを除き、実施例2に倣って、200gの水を加えてさらに処理する。結果を表5に示す。
【0197】
これらの結果に基づき、本浸出プロセスの効率は、PM固形分による影響を受けないと結論づける。
【0198】
【表5】
【0199】
[実施例4]
パラメータの変動
実施例2aの手順に倣って、固体Ca(OH)2、及び実施例1に記載した微粒子状材料(PM)を、撹拌しながら(3段階クロスビーム撹拌機、直径60mm)、バッフルを有するガラス反応器内の836.8gの予備加熱した水に加える。表6に指示する期間(t)、一定温度で撹拌を継続した後、固体を濾別し、濾液サンプルを分析する。Ca(OH)2及びPMの量、温度、撹拌パラメータ並びに分析結果(%=100gの濾液中に見出されるg)を、やはり表6にまとめる。
【0200】
【表6】
【0201】
[実施例5]
浸出させたリチウム濾液からの固体LiOH
実施例2によるプロセスから得た濾液を、上記のステップ(e1)によってさらに処理して、一水和物として固体LiOHを得る: 0.21重量%リチウムを含有する1Lの濾液を、蒸発(40℃、42mbar)によって濃縮し、40℃及び一定流量の窒素を24時間適用して、最終的に乾燥させる。図5は、微量の不純物であるLi2CO3を含む、得られたLiOH一水和物を示す。Li2CO3は、ほぼすべてのプロセスステップの間に、空気と接触したことによる。元素分析によって、炭素系不純物に次いで、主な不純物(200ppm超)としてのF、Na、Ca、K、並びに微量の不純物(200ppm未満)としてのAl及びZnが明らかとなる。
【0202】
[実施例6]
研究室スケールの精錬
実施例1に記載した微粒子状塊(黒色粉末)を、実施例4に従って6時間浸出させる。濾過後に得られる浸出残留物は、乾燥質量として、およそ2.2%の全フッ素、26.3%の炭素、13.9%のカルシウム、8%のコバルト、2.9%の銅、0.2%のリチウム、4.9%のマンガン、4.8%のニッケル及び0.3%のリンを含有する。4.23kgのこの材料を水においてスラリー化し、0.63kgの微細な石英砂(d50はおよそ80μm)、0.01kgの酸化カルシウム及び0.51kgの糖蜜によって添加剤化(additivated)する。スラリーを濾過し、押出プレスによって6mmストランドに押出成形する。このストランドを乾燥させ、700℃において焼成し、割って長さ1cm未満のピースにする。この材料を、研究室スケール電気アーク炉における精錬実験に供給する。
【0203】
事前に120℃で18時間乾燥させ、続いて515℃で18時間燃焼させた、内壁表面(底部を除く)が厚さ5mmのアルミナペーパーで覆われ、厚さ30mmのクロムコランダム鋳造(87.5%のAl2O3、10.5%のCr2O3、2%のCaO)で内張りされた、内径180mm、高さ210mmのグラファイト坩堝を、研究室スケール電気アーク炉に載置し、グラファイトフェルトを埋め込み、その上を耐火モルタルで封止する。次いで、坩堝にコークスを投入し、直径50mmの上部電極から、35V、100Aにおける開放電気アークによって、オーブンの底部及び周囲の側壁が赤熱するまで予備加熱する(およそ950℃)。次いで、オーブンを傾けることによってコークスを排出する。その後、電気アークのための対電極としての役割を果たす516gの炭素飽和鋳鉄を、250gの供給材料とともにオーブンに充填する。約10分後、材料が溶融し、供給材料の残りを100gずつ、各投入の間に2分おいて炉に投入する。電力を11kW(50V、225A)に上昇させる。投入が完了した後、オーブン内の温度をおよそ1600℃にする。電力を9kW(60V、150A)に低下させ、溶融物を10分保つ。その後、電力をオフにし、オーブンを一晩で周囲温度に冷却する。冷めた坩堝をオーブンから排出し、砕く。坩堝の底部に、主に電池スクラップ材料からのニッケル、コバルト及び銅、並びに鉄を含有する、約1kgの合金。
【0204】
合金の成分を、当技術分野において公知の方法によって分離する。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】