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特表2022-541932コンピュータ実装された金型キャビティへの充填プロセスのシミュレーション方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-28
(54)【発明の名称】コンピュータ実装された金型キャビティへの充填プロセスのシミュレーション方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/76 20060101AFI20220920BHJP
   G06F 30/23 20200101ALI20220920BHJP
   B29C 45/26 20060101ALI20220920BHJP
   G06F 111/10 20200101ALN20220920BHJP
   G06F 113/22 20200101ALN20220920BHJP
【FI】
B29C45/76
G06F30/23
B29C45/26
G06F111:10
G06F113:22
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022504606
(86)(22)【出願日】2020-07-23
(85)【翻訳文提出日】2022-03-17
(86)【国際出願番号】 EP2020070858
(87)【国際公開番号】W WO2021013958
(87)【国際公開日】2021-01-28
(31)【優先権主張番号】19188138.2
(32)【優先日】2019-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【弁理士】
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【弁理士】
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【弁理士】
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】グラザー,シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】ヴォニシュ,アンドレアス
【テーマコード(参考)】
4F202
4F206
5B146
【Fターム(参考)】
4F202AB25
4F202AM23
4F202CA11
4F202CB01
4F202CD28
4F206AB25
4F206AM23
4F206JA07
4F206JL09
4F206JP30
4F206JQ81
4F206JQ90
5B146AA06
5B146DJ07
5B146DJ14
5B146DL08
(57)【要約】
コンピュータ実装方法、コンピュータ実装方法を実行するように構成されたコンピュータシステム(132)、コンピュータ又はコンピュータシステム(132)によってプログラムが実行されたときに、コンピュータ又はコンピュータシステム(132)に前記方法を実行させる命令を有するコンピュータプログラム、前記方法に使用されるデータベース(128)が開示されている。
プラスチック材料を用いた射出成形法における金型キャビティ(112)の充填プロセスをシミュレーションするためのコンピュータ実装方法であって、前記方法は:
i) 金型キャビティ(112)の少なくとも一部を複数のセル(116)に離散化するステップと;
ii) キャビティ射出点(114)を規定するステップと;
iii)各セル(116)について、最も近いキャビティ表面(125)に垂直な表面法線方向(124)を決定するステップと;
iv) - 流れ方向(120)に平行な第1主方向(118)と、
- 法線方向(124)に平行な第3主方向(122)と
- 第1主方向(118)及び第3主方向(122)に垂直な第2主方向(126)と、
によって規定された、各セル(116)のセル座標系を決定するステップと;
v) 各セル(116)の成形フローの流れ方向(120)を決定するステップと、
を含む。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック材料を用いた射出成形法における金型キャビティ(112)の充填プロセスをシミュレーションするためのコンピュータ実装方法であって、前記方法は:
i) 前記金型キャビティ(112)の少なくとも一部を複数のセル(116)に離散化するステップと;
ii) キャビティ射出点(114)を規定するステップと;
iii)各セル(116)について、最も近いキャビティ表面(125)に垂直な表面法線方向(124)を決定するステップと;
iv) - 流れ方向(120)に平行な第1主方向(118)と、
- 前記法線方向(124)に平行な第3主方向(122)と
- 前記第1主方向(118)及び前記第3主方向(122)に垂直な第2主方向(126)と、
によって規定された、各セル(116)のセル座標系を決定するステップと;
v) 各セル(116)の成形フローの前記流れ方向(120)を決定するステップと、
を含む、コンピュータ実装方法。
【請求項2】
前記プラスチック材料が繊維強化プラスチック材料である場合に、前記方法が:
vi) 前記繊維強化プラスチック材料の繊維配向を決定するステップ、
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ステップvi)が:
vi.1) データベース(128)を提供するステップであって、前記データベース(128)は、少なくとも1つのダミー要素(130)についての前記繊維強化プラスチック材料の繊維配向に関する情報を含む、ステップを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記データベース(128)に含まれる前記情報は、繊維配向に関するシミュレーションデータ又は経験的に取得されたデータの一方又は両方を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ステップvi)は:
vi.2) 前記セル(116)のセル位置を用いて前記データベース(128)から各セル(116)の繊維配向に関する情報を取得し、セル座標系における前記セル(116)の繊維配向を決定するステップ、をさらに含む、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記ステップvi.2)は、前記金型キャビティ(112)と前記ダミー要素(130)との間の類似性の考慮を用いて実行される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記類似性の考慮は、前記金型キャビティ(112)のセル(116)と前記ダミー要素(130)の座標系の類似性の定義を使用することによって、前記金型キャビティ(112)内と前記ダミー要素(130)内のそれぞれ同一の相対的位置については、前記金型キャビティ(112)内の繊維配向は前記ダミー要素(130)内の繊維配向と同一であるという仮定に基づく、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記方法は、前記複数のセルの各個別セル(116)の隣り合うセル(184)を決定することをさらに含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記方法は、前記隣り合うセル(184)に関する情報を用いて、セル充填シーケンスを決定することをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記方法は、各個別セル(116)について前記隣り合うセル(184)からのプラスチック材料の溶融質量の流入量を再帰的に決定することを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記方法は、隣り合うセル(184)からの流入量と隣り合うセル(184)への流出量を考慮することによって、各個別セル(116)の連続方程式を再帰的に解くことを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記データベース(128)は、複数の繊維強化プラスチック材料の繊維配向に関する情報を含む、請求項3~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記方法は、具体的にはステップv)を実行する前に、より具体的にはステップiv)とv)の間に、前記複数のセルの前記セル毎の壁厚情報を決定することをさらに含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記方法の少なくともステップi)~v)を実行するには、処理時間Tを要し、ここで、0秒<T≦300秒、具体的には0秒<T≦120秒、より具体的には0秒<T≦60秒、特に0秒<T≦30秒である、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記方法は:
vii) 少なくとも1つのビジュアリゼーション(142)を出力するステップであって、前記ビジュアリゼーション(142)は、少なくとも1つのインターフェース(140)又はポートを介して出力される、ステップをさらに含む、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
物体(110)の設計を検証するための方法であって、
前記方法は:
I. 前記物体(110)のCADデータを提供するステップと;
II. 前記物体(110)のCADデータを、前記物体(110)を射出成形するための対応する金型キャビティ(112)のCADデータに変換するステップと;
III.少なくとも1つのプラスチック材料と少なくとも1つの射出点(114)を選択するステップと;
IV. 請求項1~15いずれか1項に記載の方法を用いて、前記金型キャビティ(112)の充填プロセスをシミュレーションするステップと;
V. ステップIVで得られたシミュレーション結果を評価するステップと;
を含む、方法。
【請求項17】
前記ステップVで評価されたシミュレーション結果は、少なくとも1つのインターフェース(140)又はポートを介して出力された少なくとも1つのビジュアリゼーション(142)である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
請求項16に記載の充填プロセスをシミュレーションするコンピュータ実装方法を実行するように構成された、少なくとも1つのプロセッサ(134)を含むコンピュータシステム(132)。
【請求項19】
プログラムがコンピュータ又はコンピュータシステム(132)によって実行されたときに、前記コンピュータ又は前記コンピュータシステム(132)に、請求項1~17のいずれか1項に記載の方法を実行させる命令を含むコンピュータプログラム。
【請求項20】
請求項1~17のいずれか1項に記載の方法で使用されるデータベース(128)であって、前記データベース(128)は、少なくとも1つのダミー要素(130)について繊維強化プラスチック材料の繊維配向に関する情報を含む、データベース(128)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形法における金型キャビティの充填プロセスをシミュレーションするためのコンピュータ実装方法、物体の設計を検証する方法、コンピュータシステム、コンピュータ実装方法で使用するためのコンピュータプログラム及びデータベースに関する。このような方法、システム、装置は、一般的には、例えば、射出成形法の開発段階における技術的設計又は構成の目的のために採用されることができる。しかし、さらなる適用が可能である。
【背景技術】
【0002】
射出成形法は、近年の小規模及び大規模の製造業において一般的な製造方法である。一般的な射出成形法では、熱可塑性材料、熱硬化性材料、エラストマー材料などのプラスチック材料は、通常は加熱プロセスで溶融され、次いで、例えば、加圧下で空のダイに射出される。次いで、プラスチック材料は、ダイによって与えられた形を維持するために、通常、冷却又は硬化プロセスにおいて硬化され、それによって製品となる。それによってダイによって形成された製品を大量に再現することができる。ダイの設計及び構成はコストが高いため、ダイは射出成形中に何らかの問題が発生した場合に容易に変更することができない。したがって、生産コスト及び廃棄を最小限に抑えるために、ダイ又は金型キャビティの充填プロセスは、一般的なシミュレーション方法を使用する前に、通常、シミュレーションされる。
【0003】
射出成形法における金型キャビティの充填プロセスをシミュレーションする様々な方法が知られている。しかし、一般的にそのような方法を実行することは非常に時間がかかり、複雑である。特に、そのような方法は、通常、複雑な計算、例えば、微分方程式の複雑なシステムの数値解法の性能を必要とする。そのため、そのような方法は一般に大きな記憶容量と計算能力を必要とする。
【0004】
射出成形シミュレーション結果セットの生成に必要な時間とリソースを削減するために、例えば、EP2612266B1は、射出成形モデルを相互作用的にシミュレーションするための、方法、システム、及びコンピュータ記憶媒体にコード化されたコンピュータプログラムを含む装置を記載している。射出成形キャビティを表す3次元CADモデルが特定される。金型キャビティは、少なくとも1つのゲートの位置を含む。材料の射出成形キャビティへの射出潜在的に可能な充填パターンが決定される。決定された充填パターンは、モデル化された金型キャビティの形状と寸法、及び少なくとも1つのゲートの位置に少なくとも部分的に基づいている。CADモデルのストリップモデルが、決定された充填パターンに少なくとも部分的に基づいて生成される。ストリップモデルは、射出成形金型キャビティ内の材料射出をシミュレーションするストリップ解析を行うために使用される。
【0005】
さらに、一例として、EP1376415A2は、3次元キャビティを規定する金型への流体の射出をモデル化する方法を記載している。その方法は:キャビティを規定する3次元コンピュータモデルを提供することと;モデルに基づいて解領域を離散化することと;境界条件を指定することと;質量保存の法則、運動量保存則、及び解領域の少なくとも一部のエネルギー保存の法則を用いてプロセス変数を解くことと、を含む。解を離散化するステップは、複数のノードによって規定された複数の接続された要素に、モデルを細分化することによって、モデルに基づく有限要素メッシュを生成するステップと;材料特性の変動が小さい第2方向よりも材料特性の変動が大きい第1方向に多くのノードが存在するように、メッシュを異方的にリファインするステップとを含むことができ、リファインはノードから境界までの距離を計算するサブステップの少なくとも1つと;ノード層の番号システムを使用することと、を含むことができる。
【0006】
さらに、US9919465B1は、金型キャビティと;複数の繊維を有する高分子材料を含む複合成形樹脂で金型キャビティを充填するように構成された成形機と;成形機に接続されたコンピューティング装置と;コンピューティング装置に接続されたコントローラと、有する金型を含む成形システムを記載している。コンピューティング装置は、成形機の成形条件に基づいた金型キャビティ内の繊維の前回の配向分布と、繊維の前回の配向分布に基づいた繊維の回転拡散分布と、繊維の回転拡散分布に基づいた繊維の更新された配向分布と、を生成するように構成されたプロセッサを含む。コントローラは、成形機を制御して、金型キャビティの少なくとも一部に複合成形樹脂を射出するための成形条件で実際の成形を行うように構成されている。
【0007】
さらに、US2008/221845A1は、ハイブリッドモデルを用いてプロセスシミュレーション及び構造解析を行うための装置及び方法を記載している。例えば、本発明の方法は、プラスチック部品又は金型キャビティの表現を、2つの部分(簡略化された解析が可能な部分と、より複雑な解析が必要な部分)に分割することによって、ハイブリッド解の領域を自動的に規定する。本方法は、部品又は金型の表面を表す任意の形式のCADデータを入力として使用することができる。さらに、本発明は、ハイブリッド解領域を自動的に作成し、その領域を自動的に離散化し、解領域内のプロセス変数の分布を解くことによって、金型キャビティ内の流体の流れをシミュレーションする方法を提供する。
【0008】
US9862133B1は、成形機に接続された制御モジュールによって制御される成形機を用いて、射出成形された繊維強化複合材物品を調製する方法を記載している。本方法は、制御モジュールで実行される成形シミュレーションを行って、シミュレーション領域における複合成形樹脂のせん断速度分布を生成する。続いて、本方法は、繊維間相互作用に対するせん断速度の影響、及び/又は、繊維の応答速度低下に対するせん断速度の影響を考慮して、制御モジュールで実行して、複合成形樹脂中の繊維の配向分布を生成する。次に、コントローラは、成形条件で成形機を制御して、金型キャビティの少なくとも一部に複合成形樹脂を射出する実際の成形を行う。
【0009】
最近の射出成形法のシミュレーション方法の利点に拘わらず、いくつかの技術的課題が残っている。例えば、充填プロセスのシミュレーションは非常に時間がかかり複雑であり得、必要な計算能力も高くなりすぎてしまうことが未だある。さらに、充填パターンや製造可能性に加えて、製造される製品の特性も考慮する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、射出成形法における金型キャビティの充填プロセスをシミュレーションするという上記の技術的課題に対処する手段及び方法を提供することが望ましい。具体的には、当技術分野で知られている装置、方法、システムと比較して、射出成形法における金型キャビティの充填プロセスをシミュレーションする性能をさらに向上させるための方法、システム、プログラム、データベースが提案される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この問題は、独立請求項の特徴を備えた方法、システム、プログラム、データベースによって対処される。独立した方式で、又は任意の組み合わせで実現され得る有利な実施形態は、従属請求項に記載されている。
【0012】
以下で使用される場合、「有する」、「備える」、又は「含む」という用語、又はそれらの任意の文法上の変形は、非排他的な方法で使用される。したがって、これらの用語は、これらの用語によって導入された特徴の他に、この文脈で説明されている実体にさらなる特徴が存在しない状況と、1つ以上のさらなる特徴が存在する状況の両方を指し得る。一例として、「AはBを有する」、「AはBを備える」、及び「AはBを含む」という表現は、B以外にAに他の要素が存在しない状況(つまり、Aは専らかつ排他的にBを構成する状況)と、Bに加えて、1つ以上の要素、例えば要素C、要素CとD、又はさらに要素などが実体Aに存在する状況の双方を指し得る。
【0013】
さらに、「少なくとも1つ」、「1つ以上」という用語、又は、特徴もしくは要素が1回以上存在し得ることを示す同様の表現は、典型的には、それぞれの特徴又は要素を導入するときに1回だけ使用されることに留意されたい。以下では、ほとんどの場合、それぞれの特徴又は要素を参照するときに、「少なくとも1つ」又は「1つ以上」という表現は、それらの特徴又は要素が1回以上現れ得るという事実にもかかわらず、繰り返されないことに留意されたい。
【0014】
さらに、以下で使用される場合、「好ましくは」、「より好ましくは」、「特に」、「より特に」、「具体的に」、「より具体的に」という用語、又は、同様の用語は、代替の可能性を制限することなく、任意の特徴に関連して使用される。したがって、これらの用語によって導入される特徴は、任意の特徴であり、如何なる意味でも特許請求の範囲を限定することを意図するものではない。本発明は、当業者であれば認識するように、代替的特徴を用いて実施することができる。同様に、「本発明の一実施形態では」又は同様の表現によって導入される特徴は、本発明の代替実施形態に関するいかなる制限もなく、本発明の範囲に関するいかなる制限もなく、及び、そのような方法で導入される特徴を本発明の他の任意の又は非任意の特徴と組み合わせる可能性に関するいかなる制限もなく、任意の特徴であることが意図されている。
【0015】
本発明の第1態様では、プラスチック材料を用いた射出成形法における金型キャビティの充填プロセスをシミュレーションするためのコンピュータ実装方法が開示されている。本コンピュータ実装方法は、方法又はシミュレーション方法とも呼ばれる。コンピュータ実装方法は、以下のステップを含み、該ステップは所定の順序で実行され得る。ただし、異なる順序も可能である。さらに、1つ、2つ以上、あるいはすべての方法ステップを1回又は繰り返し実行することができる。さらに、方法ステップは、時間的に重複して実行されてよく、又は並行して実行されてもよい。該方法は、列挙されていない追加の方法ステップをさらに含んでよい。
【0016】
本コンピュータ実装方法は、以下のステップ:
i) 金型キャビティの少なくとも一部を複数のセルに離散化するステップと;
ii) キャビティ射出点を規定するステップと;
iii)各セルについて、最も近いキャビティ表面に垂直な表面法線方向を決定するステップと;
iv) - 流れ方向に平行な第1主方向と、
- 前記法線方向に平行な第3主方向と
- 前記第1主方向及び前記第3主方向に垂直な第2主方向と、
によって規定される、各セルのセル座標系を決定するステップと;
v) 各セルの成形フローの流れ方向を決定するステップと、
を含む。
【0017】
本明細書で使用される「充填プロセス」という用語は、広義の用語であり、当業者にとって通常で慣用的な意味を与えられるべきであり、特別な意味又はカスタマイズされた意味に限定されるべきではない。この用語は、具体的には、限定されることなく、少なくとも1つの材料、具体的には液体又は溶融材料などの形態のない材料を、型などの任意の収集器又は容器に注入、圧入、又は吸入する手順を指し得る。したがって、「金型キャビティの充填プロセス」という用語は、液体又は材料の溶融質量など形態のない材料を、ダイ又はフォームの任意の空隙に充填する手順を指し得る。特に、金型キャビティ、例えば、ダイ又はフォームの空隙は、形態のない材料に形状又は形を転写するように構成されていてよい。具体的には、「射出成形法における金型キャビティの充填プロセス」とは、液体又は材料の溶融質量など形態のない材料を、射出によって、具体的には形態のない材料に圧力を加えることによって、金型キャビティに、例えば、ダイ又はフォームの空隙に充填する手順であってよい。具体的には、形態のない物体として、プラスチック材料の溶融質量を用いることができる。
【0018】
本明細書で使用される「プラスチック材料」という用語は、広義の用語であり、当業者にとって通常で慣用的な意味を与えられるべきであり、特別な意味又はカスタマイズされた意味に限定されるべきではない。この用語は、具体的には、限定されることなく、任意の熱可塑性材料、熱硬化性材料、又はエラストマー材料を指し得る。特に、プラスチック材料は、モノマー及び/又はポリマーを含む物質の混合物であってよい。具体的には、プラスチック材料は、熱可塑性材料であってよく、又は熱可塑性材料を含んでいてもよい。追加的に又は代替的に、プラスチック材料は、熱硬化性材料であってよく、又は熱硬化性材料を含んでよい。追加的に又は代替的に、プラスチック材料は、エラストマー材料を含んでよい。
【0019】
プラスチック材料は、例えば、プラスチック材料内に分散された充填材料などのさらなる物質を含んでいてよい。特に、さらなる物質は、例えば、少なくとも1つの強化繊維などの任意の繊維の1つ以上であってよい。具体的には、プラスチック材料は、繊維強化プラスチック材料であってよい。一例として、プラスチック材料内に分散している繊維は、0mm<L≦50mm、具体的には0mm≦L≦10mm、より具体的には0.05mm≦L≦1mmの長さLを有する繊維であり得る。
【0020】
本明細書で使用される「離散化」という用語は、広義の用語であり、当業者にとって通常で慣用的な意味を与えられるべきであり、特別な意味又はカスタマイズされた意味に限定されるべきではない。この用語は、具体的には、限定されることなく、二次元又は三次元の形態などの任意の事前定義された空間を、有限数の実体又は部分空間に分割する過程を指してよい。具体的には、金型キャビティの少なくとも一部が複数のセルに離散化されてよい。
【0021】
本明細書で使用される「セル」という用語は、広義の用語であり、当業者にとって通常で慣用的な意味を与えられるべきであり、特別な意味又はカスタマイズされた意味に限定されるべきではない。この用語は、具体的には、限定されることなく、任意の形状の実体又は空間、具体的には部分空間を指し得る。セルは、複数の平坦な表面からなる表面を有していてよく、該複数の平坦な表面のそれぞれは、同時に少なくとも1つの隣接した又は隣り合うセルの平坦な表面を形成してもよい。具体的には、セルは、四面体、立方体又は八面体の形状又は形態を有し得る。湾曲したエッジを有するセル形態も可能である。一例として、複数のセルの全てのセルは、セルの体積、形態又は形状など、セルの少なくとも1つの特性において互いに等しくてよい。したがって、一例として、金型キャビティの少なくとも一部が、四面体の形態を有する複数のセルに離散化されていてよい。
【0022】
本明細書で使用される「キャビティ射出点」という用語は、広義の用語であり、当業者にとって通常で慣用的な意味を与えられるべきであり、特別な意味又はカスタマイズされた意味に限定されるべきではない。この用語は、具体的には、限定されることなく、充填プロセスにおいて材料がキャビティに通って入る入口の位置を指し得る。特に、キャビティ射出点は、形態のない材料例えばプラスチック材料の溶融質量が、そこを通って金型キャビティ内に金型キャビティに射出されることができるキャビティ壁にある少なくとも1つの孔の位置であってもよく、それを有していてもよい。具体的には、例えばプラスチック材料などの材料の金型キャビティへの流れは、キャビティ射出点から始まってよい。
【0023】
本明細書で使用される「表面法線方向」という用語は、広義の用語であり、当業者にとって通常で慣用的な意味を与えられるべきであり、特別な意味又はカスタマイズされた意味に限定されるべきではない。この用語は、具体的には、限定されることなく、直線に平行なコースを指し得、ここで、直線は表面に直交している。特に、ステップiii)で各セルについて決定された表面法線方向は、最も近いキャビティ表面の表面法線方向であり得る。具体的には、複数のセルのうちの各セルについて、最も近いキャビティ表面に垂直な表面法線方向が決定されてよい。このように、各セルについて、セルに最も近い金型キャビティの表面に垂直なセルの法線方向が決定されてよい。
【0024】
ステップiv)で決定されるセル座標系は、複数のセルの各セルに割り当てられてよい。本明細書で使用される「セル座標系」という用語は、広義の用語であり、当業者にとって通常で慣用的な意味を与えられるべきであり、特別な意味又はカスタマイズされた意味に限定されるべきではない。この用語は、具体的には、限定されることなく、セルに割り当てられたデカルト座標系を指し得る。したがって、セル座標系は、互いに直角に整合された3つの主方向を含むデカルト座標系であってよく、ここで、第1主方向は、流れ方向、具体的にはセルの流れ方向に平行であり、第3の主方向は、法線方向、具体的にはセルの法線方向、より具体的にはセルの最も近い表面又は表面セルの法線方向に平行であり、第2主方向は、第1主方向及び第3主方向に垂直である。
【0025】
本明細書で使用される「流れ方向」という用語は、広義の用語であり、当業者にとって通常で慣用的な意味を与えられるべきであり、特別な意味又はカスタマイズされた意味に限定されるべきではない。この用語は、具体的には、限定されることなく、任意の材料が移動しているか、又は移動をしようとしているライン又はコースを指し得る。特に、流れ方向は、例えば充填プロセスにおいて、プラスチック材料の溶融質量が移動している局所的な方向を指し得る。流れの方向は、具体的には、例えば充填プロセスにおいて、プラスチック材料の溶融質量の平均質量流れの局所的な方向を指し得る。したがって、セル座標系の第1主方向は、プラスチック材料の溶融質量がセル内又はセルを通って移動する方向に平行であり得る。特に、セル座標系の第1主方向は、プラスチックの溶融質量が、特に充填プロセスにおいて、最初にセルに入るときのセル内の又はセルを通って移動する初期方向に平行であり得る。
【0026】
プラスチック材料が繊維強化プラスチック材料である場合、本方法は:
vi) 繊維強化プラスチック材料の繊維配向を決定するステップ、
をさらに含んでよい。
【0027】
本明細書で使用される「繊維配向」という用語は、広義の用語であり、当業者にとって通常で慣用的な意味を与えられるべきであり、特別な意味又はカスタマイズされた意味に限定されるべきではない。この用語は、具体的には、限定されることなく、空間における繊維の空間的な配向を記述する少なくとも1つの情報項目を指し得る。したがって、一例として、繊維配向は、少なくとも1つの座標系又は角度座標系に対する繊維の繊維軸の配向を表す少なくとも1つの角度を含んでよい。追加的に又は代替的に、少なくとも1つの情報項目は、繊維の繊維軸に平行に配向した単位ベクトルなどのベクトルを含んでよい。
【0028】
特に、ステップvi)は、射出成形法で使用されるプラスチック材料を評価することと、射出成形法で使用されるプラスチック材料が繊維強化プラスチック材料である場合には、繊維強化プラスチック材料の繊維配向を決定することとをさらに含んでよい。
【0029】
ステップvi)は、データベースを提供するサブステップvi.1)、をさらに含んでよい。特に、データベースは、少なくとも1つのダミー要素について、繊維強化プラスチック材料の繊維配向に関する情報を含んでいてよい。
【0030】
本明細書で使用される「データベース」という用語は、広義の用語であり、当業者にとって通常で慣用的な意味を与えられるべきであり、特別な意味又はカスタマイズされた意味に限定されるべきではない。この用語は、具体的には、限定されることなく、少なくとも1つのデータ記憶装置に記憶された情報など、任意の情報の集まりを指し得る。データベースはまた、そこに記憶された情報を有する少なくとも1つのデータ記憶装置を含んでいてよい。特に、データベースは、任意の情報の集まりを含んでいてよい。一例として、データベースは、繊維強化プラスチック材料の繊維配向に関する情報を含んでいてよい。
【0031】
本明細書で使用される「ダミー要素」という用語は、広義の用語であり、当業者にとって通常で慣用的な意味を与えられるべきであり、特別な意味又はカスタマイズされた意味に限定されるべきではない。この用語は、具体的には、限定されることなく、分析又はテストに使用される任意の物体を指し得る。特に、ダミー要素は、少なくとも、ダミー要素の特性を分析又は決定する目的で創出され又は作られてよい。具体的には、ダミー要素は、情報、例えば、ダミー要素の少なくとも1つの特性に関する情報を提供するように構成されてよい。ダミー要素は、例えば、少なくとも1つの繊維強化プラスチック材料を含むことができ、また、繊維配向に関する情報、具体的には、ダミー要素内の繊維配向に関する情報を提供するように構成されることができる。ダミー要素内の繊維配向に関する情報は、データベースに記憶され得る。
【0032】
データベースに含まれる情報は、例えば、繊維配向に関するシミュレーションデータ又は経験的に取得されたデータの一方又は両方を含んでよい。具体的には、データベースに含まれる情報は、少なくとも1つのダミー要素を用いて取得されたデータなどの、繊維配向に関する経験的に取得されたデータを含んでよい。追加的に又は代替的に、データベースは、例えば、有限要素法(FEM)シミュレーションに基づくシミュレーションツールなど、当業者に知られている1つ以上のシミュレーションツールを用いて取得された繊維配向に関するデータなどの、繊維配向に関するシミュレーションデータを含んでよい。
【0033】
ステップvi)は、セルのセル位置を用いてデータベースから各セルの繊維配向に関する情報を取得し、セル座標系におけるセルの繊維配向を決定するサブステップvi.2)をさらに含んでよい。
【0034】
データベースは、各セルの繊維配向に関する情報が、セルの位置に関する情報を介して取得可能又はアクセス可能となるように構成されてよい。具体的には、データベースは、セルの位置に関する情報が繊維配向に関する情報にリンクされ得るように構成されていてよい。
【0035】
セルの位置は、例えば、
- 金型キャビティの中心面からのセルの距離と;
- 金型キャビティの中心軸からのセルの距離と;
- 最も近いキャビティ表面からのセルの距離と;
- キャビティ射出点からのセルの距離と、
からなる群から選択される少なくとも1つの距離を含んでよい。
【0036】
距離は、相対的な単位及び/又は絶対的な単位で与えられ得る。そのため、距離は、例えばセル数などの相対的な距離単位で与えられてよい。例えば、距離は、金型キャビティの中心面からの、金型キャビティの中心軸からの、最も近いキャビティ表面からの、及び/又は、キャビティ射出点からのセル数で与えられ得る。
【0037】
ステップvi.2)は、特に、金型キャビティとダミー要素との間の類似性の考慮を使用して実行されてよい。具体的には、ステップvi.2)は、金型キャビティの形状とダミー要素の形状の類似性を考慮して実行されてよい。
【0038】
本明細書で使用される「類似性の考慮」という用語は、広義の用語であり、当業者にとって通常で慣用的な意味を与えられるべきであり、特別な意味又はカスタマイズされた意味に限定されるべきではない。この用語は、具体的には、限定されることなく、少なくとも2つの対象物間の任意の類似性又は対応性の考察又は評価を指し得る。これにより、例えば、類似性の考慮により、既知の物体の特性が未知の物体に転写されることができる。具体的には、類似性、例えば類似性又は対応性は、金型キャビティとダミー要素間などの2つの対象物間で考慮されことができる。具体的には、少なくとも2つの対象物間、例えば、金型キャビティとダミー要素間の類似性は、少なくとも2つの対象物のそれぞれの少なくとも1つの特性、例えば、形状、形態、広がりなどを比較することによって考慮され得る。
【0039】
特に、類似性の考慮は、金型キャビティのセルとダミー要素の座標系の類似の定義を用いることによって、金型キャビティ内とダミー要素内でそれぞれ同一の相対的位置については、金型キャビティ内の繊維配向はダミー要素内の繊維配向と同一であるという仮定に基くことができる。
【0040】
本方法は、複数のセルの表面セルを決定することをさらに含んでよい。特に、本方法は、本方法のステップiii)を実行する前に、複数のセルの表面セルを決定することを含んでよい。具体的には、本方法は、本方法のステップi)及びii)の間に、複数のセルの表面セルを決定することを含んでよい。
【0041】
本明細書で使用される「表面セル」という用語は、広義の用語であり、当業者にとって通常で慣用的な意味を与えられるべきであり、特別な意味又はカスタマイズされた意味に限定されるべきではない。この用語は、具体的には、限定されることなく、任意の物体の最外部に位置し又は配置された任意のセルを指し得る。特に、表面セルは、任意の物体の形状又は形態の外側の境界に位置していてよい。したがって、一例として、金型キャビティを離散化する複数のセルの表面セルは、例えば、金型キャビティの表面に位置し得る。具体的には、金型キャビティを離散化する複数のセルの表面セルは、金型キャビティの表面に位置する任意の数のセルを含むことができる。
【0042】
本方法は、複数のセルの各個別セルの隣り合うセルを決定することをさらに含んでよい。具体的には、本方法は、本方法のステップv)を実行する前に、複数のセルの隣り合うセルを決定することを含んでよい。より具体的には、本方法は、本方法のステップi)及びiii)の間に、複数のセルの各個別セルの隣り合うセルを決定することを含んでよい。
【0043】
本明細書で使用される「隣り合うセル」という用語は、広義の用語であり、当業者にとって通常で慣用的な意味を与えられるべきであり、特別な意味又はカスタマイズされた意味に限定されるべきではない。この用語は、具体的には、限定されることなく、任意の隣のセル又は隣接したセルを指し得る。特に、複数のセルの個別セルの隣り合うセルは、個別のセルに隣接して位置されたセルであってよい。具体的には、複数のセルの各個別のセルは、複数の隣り合うセルを有していてよい。
【0044】
本方法は、隣り合うセルに関する情報を用いて、セル充填シーケンスを決定することをさらに含み得る。特に、複数のセルの各個別セルの隣り合うセルを決定することによって収集された隣り合うセルに関する情報は、セル充填シーケンスを決定するために使用され得る。特に、セル充填シーケンスは、開始セルから開始することができ、開始セルは、キャビティ射出点に位置している。
【0045】
本方法は、各個別セルの隣り合うセルからのプラスチック材料の溶融質量の流入量を再帰的に決定することをさらに含み得る。したがって、特に、複数のセルの各個別セルの隣り合うセルからのプラスチック材料の溶融質量の流入量が再帰的に決定されてよい。一例として、質量又は質量流れのバランスは反復的に計算されることができる。
【0046】
さらに、本方法は、隣り合うセルからの流入量及び隣り合うセルへの流出量を考慮することによって、各個別セルの連続方程式を再帰的に解くことを含んでよい。具体的には、複数のセルの各個別セルについて、連続方程式が、例えば、隣り合うセルからの流入量及び隣り合うセルへの流出量を考慮することによって、再帰的に解かれてよい。本明細書で使用される「連続方程式」という用語は、広義の用語であり、当業者にとって通常で慣用的な意味を与えられるべきであり、特別な意味又はカスタマイズされた意味に限定されるべきではない。この用語は、具体的には、限定されることなく、任意の量の輸送を表す方程式又は式を指し得る。特に、連続方程式は、物理学の保存の原理に基づいてよい。具体的には、連続方程式は、質量保存の原理に基づくことができる。したがって、連続方程式は質量バランスを考慮することができる。例えば、連続方程式では、任意のセルについて、隣り合うセルへのプラスチック材料の溶融質量の流出量は、隣り合うセルからそのセルへの流入量から、そのセル自体に残っているプラスチック材料の溶融質量を差し引いた値に等しいと考えることができる。
【0047】
本方法は、複数のセルの各セルの壁厚情報を決定することをさらに含んでよい。具体的には、本方法は、ステップv)を実行する前に壁厚を決定することを含み得る。より具体的には、本方法は、ステップiv)及びv)の間に、壁厚を決定することを含んでよい。本明細書で使用される「壁厚」という用語、具体的には「壁厚情報」という用語は、広義の用語であり、当業者にとって通常で慣用的な意味を与えられるべきであり、特別な意味又はカスタマイズされた意味に限定されるべきではない。この用語は、具体的には、限定されることなく、要素の表面の法線方向への任意の要素の局所的な延長を指し得る。具体的には、金型キャビティの壁厚は、金型キャビティの表面の法線方向への金型キャビティの延長に関する情報であってもよく、又はそれらを含んでいてもよい。追加的に又は代替的に、金型キャビティの壁厚は、流れ方向、具体的には、金型キャビティの充填プロセスにおけるプラスチック材料の溶融質量の流れ方向に垂直な方向への金型キャビティの延長に関する情報であってもよく、又はそれらを含んでいてもよい。例えば、複数のセルの、具体的には、金型キャビティを離散化する複数のセルのあるセルに関する壁厚情報は、金型キャビティの表面の法線方向へのそのセルの延長であってよい。追加的に又は代替的に、複数のセルの、具体的には、金型キャビティを離散化する複数のセルのあるセルに関する壁厚情報は、流れ方向に垂直な方向、特にプラスチック材料の溶融質量の流れ方向に垂直な方向へのセルの延長であってよい。一例として、複数のセルのあるセルに関する壁厚情報は、金型キャビティの表面の法線方向への延長であってよく、該延長はさらにプラスチック材料の溶融質量の流れ方向に対して垂直に配向されている。
【0048】
本方法は、フローフロントの前進を決定することをさらに含んでよい。特に、プラスチック材料の溶融質量のフローフロントの進行又は前進が決定されてよい。具体的には、金型キャビティ内のプラスチック材料の溶融質量のフローフロントの前進が決定されることができる。本明細書で使用される「フローフロント」という用語は、広義の用語であり、当業者にとって通常で慣用的な意味を与えられるべきであり、特別な意味又はカスタマイズされた意味に限定されるべきではない。この用語は、具体的には、限定されることなく、流体又は溶融材料を移動又は前進させる最前線を指し得る。特に、フローフロントは、例えば充填プロセスにおいて、金型キャビティ内を前進するプラスチック材料の溶融質量の最前線であってよく、又はそれを含んでいてもよい。本明細書で使用される「フローフロントの前進」という用語は、広義の用語であり、当業者にとって通常で慣用的な意味を与えられるべきであり、特別な意味又はカスタマイズされた意味に限定されるべきではない。この用語は、具体的には、限定されることなく、フローフロントの進行を指し得る。特に、フローフロントの前進は、充填プロセスにおける金型キャビティ内で移動又は前進するプラスチック材料の溶融質量の最前線の進行など、フローフロントの前方走行の進行であってよく、又はそれを含んでいてもよい。
【0049】
フローフロントの前進を決定するステップは、具体的には、フローフロント速度を決定することを含んでよい。一例として、フローフロント速度は、以下の式:
【0050】
【数1】
を用いて計算され得、式中、hはセルの壁厚を示し得る。具体的に、壁厚は、例えば、金型キャビティの例えば上側と下側の対応する表面セル又は要素間の距離、具体的には、表面セルの法線方向の距離であってよく、又はそれを含んでいてもよい。具体的には、ηは、プラスチック材料の溶融質量の粘度を示し得る。具体的に、pはプラスチック材料の溶融質量の充填圧力を示し得、pは金型キャビティ内の雰囲気圧力を示し得る。例えば、Iはキャビティ射出点からのフローフロントの距離を示し得る。Qは、プラスチック材料の体積流量を示し得る。Aは、充填された表面積、具体的には、プラスチック材料で充填された表面積を示し得る。具体的に、フローフロントの圧力は、金型キャビティ内の雰囲気圧力に等しいと仮定することができる。したがって、金型キャビティ内の雰囲気圧力p0は、プラスチック材料の溶融質量のフローフロントにおける金型キャビティ内の局所圧力に等しいと推定することができる。
【0051】
決定された圧力レベルが所定の圧力閾値よりも高い場合、フローフロントの前進は停止し得る。したがって、決定された圧力レベル、例えば計算された圧力レベルが所定の圧力閾値を超えた場合、フローフロントの前進は終了し得る。所定の圧力閾値は、例えば、射出成形法中にプラスチック材料の溶融質量に作用する最大圧力、具体的には達成可能な圧力の最大値に類似し得る。
【0052】
決定された圧力レベルは、射出成形法で使用されるプラスチック材料の溶融質量の特性及び金型形状のうちの1つ以上に依存し得る。具体的に、決定された圧力レベルは、射出成形法で使用されるプラスチック材料の溶融質量の特性、例えばプラスチック材料の溶融質量の少なくとも1つの粘度、及び、例えば少なくとも1つの壁厚又は少なくとも1つの流路長などの金型の形状、のうちの1つ以上に依存し得る。
【0053】
本方法は、プラスチック材料の溶融質量で金型キャビティを完全に充填するための最小圧力要求を決定することをさらに含み得る。例えば、プラスチック材料が繊維強化プラスチック材料である場合、本方法は、金型キャビティを繊維強化プラスチック材料で完全に充填するための最小圧力要求を決定することを含み得る。具体的には、最小圧力要求を決定することは、金型キャビティをプラスチック材料の溶融質量で完全に充填するのに適した最小圧力値を特定することであってよく、又は特定することを含んでいてもよい。
【0054】
データベースに含まれる情報は、例えば、所定の厚さを有する少なくとも1つのダミー要素における繊維配向に関するデータを有してよい。特に、繊維配向は、ダミー要素内の位置の関数としてデータベースに与えられてよい。
【0055】
繊維配向に関する情報は:
- ダミー要素の中心面からの距離と;
- ダミー要素の中心軸からの距離と;
- ダミー要素の最も近いキャビティ表面からの距離と;
- ダミー要素の射出点からの距離と、
からなる群から選択される少なくとも1つの距離の関数としてデータベースに与えられてよい。
【0056】
距離は、例えば、相対的単位で与えられ得る。したがって、距離は、例えばセル数などの相対的な距離単位で与えられてよい。例えば、距離は、ダミー要素の中心面からの、ダミー要素の中心軸からの、ダミー要素の最も近いキャビティ表面からの、及び/又は、ダミー要素の射出点からの、セル数で与えられ得る。
【0057】
繊維配向に関する情報は、具体的には、繊維配向の方向及び繊維配向の角度の少なくとも1つを含み得る。特に、繊維配向に関する情報は、繊維配向の方向、及び繊維配向の角度、具体的には各主方向における繊維配向の角度、のうちの1つ以上を含み得る。
【0058】
さらに、繊維配向に関する情報は、ダミー要素のダミー座標系における繊維配向の方向を含んでいてよい。一例として、ダミー座標系は:
- ダミー要素内の流れ方向に平行な、特にダミー要素の中心軸に平行な第1主方向と;
- ダミー要素の表面に垂直、具体的にはスラブ状のダミー要素の表面に垂直な、又はスラブ状のダミー要素の延長面に垂直な第3主方向と;
- 第1主方向及び第3主方向に垂直な第2主方向と、
によって規定され得る。
【0059】
少なくとも1つのダミー要素は、具体的には、少なくとも2つの平行な表面を有する少なくとも1つのスラブ状の要素を含んでよい。具体的には、ダミー要素の少なくとも一部は、平坦な形状、例えば平坦な長方形のようなプレート形状又はスライス形状を有し得る。具体的には、スラブ状要素は、厚さを超える幅を有する矩形断面を有することができる。特に、スラブ状要素は、幅が厚さを少なくとも2倍上回る、矩形断面を有することができる。より具体的には、スラブ状要素は、幅が厚さを少なくとも3倍又は少なくとも4倍上回る、矩形断面を有することができる。
【0060】
データベースは、複数の繊維強化プラスチック材料の繊維配向に関する情報を具体的に含んでいてよい。このように、データベースには、少なくとも2つ、好ましくは2つ以上の繊維強化プラスチック材料の繊維配向に関する情報を含むことができる。さらに、データベースは、同一のダミー要素に対する複数の繊維強化プラスチック材料の繊維配向に関する情報を含んでいてよい。
【0061】
本方法は、複数のセルのウェルドラインセルを決定することをさらに含んでよく、そこでは少なくとも2つのフローフロントがウェルドラインセルのそれぞれで会う。
【0062】
ウェルドラインセルの繊維配向に関する情報は、例えば、本方法のステップvi.1)で提供されるデータベースから取得されることができる。
【0063】
本方法は、充填圧力、流路長、せん断速度、収縮、及び各セルについての臨界厚さ、具体的には質量蓄積量のうちの1つ以上を決定することをさらに含むことができる。
【0064】
一例として、本方法の少なくともステップi)~v)を実行することは処理時間Tを要し、ここで、0秒<T≦300秒、具体的には0秒<T≦120秒、より具体的には0秒<T≦60秒、特に0秒<T≦30秒である。
【0065】
本方法は:
vii) 繊維配向、具体的には繊維配向の方向;繊維配向角度、具体的には少なくとも1つの主方向における繊維配向角度;充填状態、具体的には所定時間後の充填状態;圧力状態、具体的には所定時間後の圧力状態;せん断速度分布、具体的には所定時間後のせん断速度分布状態;質量蓄積状態;流路長状態;収縮状態、からなる群から選択される少なくとも1つのビジュアリゼーションを出力すること、をさらに含むことができる。
【0066】
特に、ビジュアリゼーションは、少なくとも1つのインターフェース又はポートを介して出力されることができる。本明細書で使用される「インターフェース」という用語は、広義の用語であり、当業者にとって通常で慣用的な意味を与えられるべきであり、特別な意味又はカスタマイズされた意味に限定されるべきではない。この用語は、具体的には、限定されることなく、情報を転送するように構成された境界を形成するアイテム又は要素を指し得る。特に、インターフェースは、計算装置、例えばコンピュータから、例えば別の装置に情報を送信又は出力するように、情報を転送するように構成されてよい。追加的に又は代替的に、インターフェースは、計算装置、例えばコンピュータに、例えば情報を受信するように、情報を転送するように構成されてよい。インターフェース又はポートは、特に、情報を転送又は交換するための手段を提供してよい。特に、インターフェースは、例えばBluetooth(登録商標)、NFC、誘導カップリングなどのデータ転送接続を提供することができる。一例として、インターフェース又はポートは、ネットワーク又はインターネットポート、USBポート及びディスクドライブのうちの1つ以上であってよく、又はそれらを含んでよい。ビジュアリゼーションは、視覚的ディスプレイに表示することもできる。
【0067】
本発明のさらなる態様では、物体の設計を検証するための方法が開示される。本方法は、検証方法とも呼ばれ得る。本方法は、以下のステップを含み、該ステップは所定の順序で実行され得る。ただし、異なる順序も可能である。さらに、1つ、2つ以上、あるいはすべての方法ステップを1回又は繰り返し実行することができる。さらに、方法ステップは、時間的に重複して実行されてよく、又は並行して実行されてもよい。該方法は、列挙されていない追加の方法ステップをさらに含んでよい。
【0068】
本方法は、以下のステップ:
I. 物体のCADデータを提供するステップと;
II. 前記物体のCADデータを、前記物体を射出成形するための対応する金型キャビティのCADデータに変換するステップと;
III.少なくとも1つのプラスチック材料と少なくとも1つの射出点を選択するステッ
IV. 上記した又は以下でさらに詳細に説明する方法、具体的にはシミュレーション方法を用いて、金型キャビティの充填プロセスをシミュレーションするステップと;
V. ステップIVで得られたシミュレーション結果を評価するステップと;
を含む。
【0069】
本明細書で使用される「設計」という用語は、広義の用語であり、当業者にとって通常で慣用的な意味を与えられるべきであり、特別な意味又はカスタマイズされた意味に限定されるべきではない。この用語は、具体的には、限定されることなく、物体又はプロセスの計画及び/又は仕様を指し得る。一例として、設計は、物体の形状及び/又は計画で与えられる他の技術的な詳細を含んでよい。
【0070】
本明細書で使用される「検証」という用語は、広義の用語であり、当業者にとって通常で慣用的な意味を与えられるべきであり、特別な意味又はカスタマイズされた意味に限定されるべきではない。この用語は、具体的には、限定されることなく、製品、サービス又はシステムが規制上又は技術上の基準を満たしていることを確立及び文書化するなどのために、製品又はプロセスが1つ以上の前提条件又は基準に準拠しているかどうかを検討、検査又はテストすることの1つ以上のプロセスを指し得る。具体的には、設計の検証は、設計が意図された用途に適しているかどうか、例えば、物体の設計が射出成形などの所望の製造プロセスに対応しているかどうかを、例えば、シミュレーション及び/又はテストすることによって評価することを含み得る。
【0071】
検証方法は、具体的には本方法のステップIVにおいて、上述したような又は以下にさらに詳細に説明するようなシミュレーション方法を使用することを含む。したがって、本明細書で使用される用語のほとんどの可能な定義については、本発明の第1態様で開示されたシミュレーション方法の説明を参照することができる。
【0072】
ステップIIIでは、少なくとも1つのプラスチック材料と少なくとも1つの射出点が、例えばアルゴリズムによって自動的に選択されることができる。あるいは、しかしながら、少なくとも1つのプラスチック材料は、少なくとも1人のユーザによって、特に検証方法を使用するユーザによって選択されてよい。
【0073】
ステップVで評価されたシミュレーション結果は、例えば、少なくとも1つのビジュアリゼーションであってよく、及び、少なくとも1つのインターフェース又はポートを介して出力されてよい。
【0074】
本発明のさらなる態様では、コンピュータシステムが開示される。コンピュータシステムは、充填プロセスをシミュレーションするためのコンピュータ実装方法、例えば上述したような又は以下にさらに詳細に説明されるようなシミュレーション方法を実行するように構成された少なくとも1つのプロセッサを備える。
【0075】
本明細書で使用される「プロセッサ」という用語は、広義の用語であり、当業者にとって通常で慣用的な意味を与えられるべきであり、特別な意味又はカスタマイズされた意味に限定されるべきではない。この用語は、具体的には、限定されることなく、コンピュータ又はシステムの基本的な動作を実行するように構成された任意の論理回路を指し得る。特に、プロセッサは、コンピュータ又はシステムを駆動する基本的な命令を処理するように構成されることができる。一例として、プロセッサは、少なくとも1つの算術論理ユニット(ALU)、数学コプロセッサ又は数値コプロセッサなどの少なくとも1つの浮動小数点ユニット(FPU)、複数のレジスタ、具体的には、ALUにオペランドを供給し、演算結果を記憶するように構成されたレジスタ、ならびに、L1及びL2キャッシュメモリなどのメモリとを含み得る。特に、プロセッサは、マルチコアプロセッサであってよい。具体的には、プロセッサは、中央処理装置(CPU)であってよく、又はそれを含んでいてもよい。追加的に又は代替的に、プロセッサはマイクロプロセッサであってよく、又はマイクロプロセッサを備えていてよく、したがって、具体的には、プロセッサの要素が1つ集積回路(IC)チップに含まれていてよい。
【0076】
一例として、コンピュータシステムは、データストレージ又はデータベースを記憶するためのメモリの少なくとも一方又は両方をさらに含むことができる。特に、コンピュータシステムは、データストレージ及び/又は上述のデータベースを記憶するためのメモリを含むことができる。
【0077】
特に、データストレージ又はメモリは、内部データストレージ、例えば内部ドライブ又はメモリ;外部データストレージ、例えば外部ドライブ、クラウドサーバーなどの外部データサーバー;ポータブルメモリ、例えばメモリスティック又はポータブルドライブ、からなる群から選択されることができる。
【0078】
さらに、コンピュータシステムは、少なくとも1つのインターフェース又はポートを備えることができる。一例として、インターフェース又はポートは、射出成形法に関する情報を受信することであって、そこでは情報は使用される金型キャビティの形状及びプラスチック材料の一方又は両方に関する、情報を受信すること;及び、シミュレーション結果に関する情報を出力することであって、具体的には少なくとも1つのビジュアリゼーションを出力すること、のうち1つ以上のために構成されることができる。
【0079】
具体的には、少なくとも1つのインターフェース又はポートは、ネットワーク又はインターネットポート、例えばコンピュータマウス又はキーボードによって情報を入力するためのUSBポート;ディスクドライブ、からなる群から選択されることができる。
【0080】
本発明のさらなる態様では、コンピュータプログラムが開示されている。コンピュータプログラムは、プログラムがコンピュータ又はコンピュータシステムによって実行されているときに、コンピュータ又はコンピュータシステムに、上述したような又は以下にさらに詳細に説明されるようなシミュレーション方法を実行させる命令を含む。特に、上述のようなシミュレーション方法の方法ステップi)~v)のうちの1つ、2つ以上、あるいはすべてを、コンピュータ又はコンピュータネットワークを使用することにより、好ましくはコンピュータプログラムを使用することによって実行することができる。したがって、本明細書で使用される用語のほとんどの可能な定義については、本発明の第1態様で開示されたシミュレーション方法の説明を参照することができる。
【0081】
本発明のさらなる態様では、検証コンピュータプログラムが開示されている。検証コンピュータプログラムは、プログラムがコンピュータ又はコンピュータシステムによって実行されているときに、コンピュータ又はコンピュータシステムに、上述したような又は以下にさらに詳細に説明されるような検証方法の少なくともステップII、IV及びVを実行させる命令を含む。したがって、具体的には、コンピュータ又はコンピュータシステムに検証方法のステップIVを実行させるために、検証コンピュータプログラムは、上述したような又は以下にさらに詳細に説明されるようなコンピュータプログラムを含む。
【0082】
具体的には、コンピュータプログラム及び検証コンピュータプログラムの一方又は両方は、コンピュータ可読データキャリア及び/又はコンピュータ可読記憶媒体に記憶されてもよい。本明細書で使用される「コンピュータ可読データキャリア」及び「コンピュータ可読記憶媒体」という用語は、具体的には、コンピュータ実行可能な命令を記憶したハードウェア記憶媒体などの非一過性のデータ記憶手段を指し得る。コンピュータ可読データキャリア又は記憶媒体は、具体的には、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び/又は読み出し専用メモリ(ROM)などの記憶媒体であってよく、又はそれらを含んでいてもよい。
【0083】
本明細書でさらに開示及び提案されるのは、プログラムがコンピュータ又はコンピュータネットワーク上で実行されたときに、本明細書に開示される1つ以上の実施形態における本発明によるシミュレーション方法及び検証方法の一方又は両方を実行するための、プログラムコード手段を有するコンピュータプログラム製品である。具体的には、プログラムコード手段は、コンピュータ可読データキャリア及び/又はコンピュータ可読記憶媒体に記憶されてよい。
【0084】
本明細書でさらに開示及び提案されるのは、そこに記憶されたデータ構造を有するデータキャリアであって、該データキャリアは、コンピュータ又はコンピュータネットワークに、例えばコンピュータ又はコンピュータネットワークのワーキングメモリ又はメインメモリにロードされた後に、本明細書に開示される1つ以上の実施形態によるシミュレーション方法及び検証方法の一方又は両方を実行し得る。
【0085】
本明細書でさらに開示及び提案されるのは、プログラムがコンピュータ又はコンピュータネットワーク上で実行されたときに、本明細書に開示される1つ以上の実施形態によるシミュレーション方法及び検証方法の一方又は両方を実行するための、機械可読キャリアに記憶されたプログラムコード手段を備えたコンピュータプログラム製品である。本明細書で使用される場合、コンピュータプログラム製品は、取引可能な製品としてのプログラムを指す。製品は、一般に、任意の形式で存在してよく、例えば紙形式又はコンピュータ可読データキャリア上に存在してもよい。具体的には、コンピュータプログラム製品は、データネットワーク上で配布されることができる。
【0086】
本発明のさらなる態様では、シミュレーション方法で使用されるデータベースが開示されている。データベースは、少なくとも1つのダミー要素について繊維強化プラスチック材料の繊維配向に関する情報を含む。具体的には、データベースは、シミュレーション方法のステップvi.1)で提供されるようなデータベースであってよい。したがって、本明細書で使用される用語のほとんどの可能な定義については、本発明の第1態様で開示されたシミュレーション方法の説明を参照することができる。
【0087】
本発明の方法、システム、プログラム、及びデータベースは、当該技術分野で知られている方法、システム、プログラム、及びデータベースよりも多くの利点を有する。特に、本明細書に開示されている方法、システム、プログラム、及びデータベースは、当該技術分野で知られている装置、方法、及びシステムと比較して、射出成形法における金型キャビティの充填プロセスをシミュレーションする性能を改善させることができる。具体的には、本発明により、処理時間、例えば実行時間を大幅に短縮することができる。さらに、本発明は、現在最新の射出成形法シミュレーション方法よりも、より少ない計算能力及びより少ないメモリ要求を必要とし得る。また、シミュレーションモデルを用意するのにかかる労力も少なくて済む。
【0088】
特に、プラスチック材料を用いた射出成形法における金型キャビティの充填プロセスをシミュレーションするためのコンピュータ実装方法のステップiv)で決定されるような、セル座標系を各セルに割り当てることで、計算時間を大幅に短縮することができる。特に、各セルついて決定されるセル座標系は、そのまま繊維配向テンソルを決定するために必要な時間を大幅に短縮することができる。
【0089】
要約すると、及びさらに可能な実施形態を除外することなく、以下の実施形態が想定され得る:
実施形態1:プラスチック材料を用いた射出成形法における金型キャビティの充填プロセスをシミュレーションするためのコンピュータ実装方法であって、前記方法は:
i) 前記金型キャビティの少なくとも一部を複数のセルに離散化するステップと;
ii) キャビティ射出点を規定するステップと;
iii)各セルについて、最も近いキャビティ表面に垂直な表面法線方向を決定するステップと;
iv) - 流れ方向に平行な第1主方向と、
- 前記法線方向に平行な第3主方向と
- 前記第1主方向及び前記第3主方向に垂直な第2主方向と、
によって規定された、各セルのセル座標系を決定するステップと;
v) 各セルの成形フローの前記流れ方向を決定するステップと、
を含む、方法。
実施形態2:前記プラスチック材料が繊維強化プラスチック材料である場合に、前記方法が:
vi) 前記繊維強化プラスチック材料の繊維配向を決定するステップ、
をさらに含む、先行する実施形態による方法。
実施形態3:前記ステップvi)が:
vi.1) データベースを提供するステップであって、前記データベースは、少なくとも1つのダミー要素についての、前記繊維強化プラスチック材料の繊維配向に関する情報を含む、ステップを含む先行する実施形態による方法。
実施形態4:前記データベースに含まれる前記情報は、繊維配向に関するシミュレーションデータ又は経験的に取得されたデータの一方又は両方を含む、先行する実施形態による方法。
実施形態5:前記ステップvi)は:
vi.2) 前記セルのセル位置を用いて前記データベースから各セルの繊維配向に関する情報を取得し、セル座標系における前記セルの繊維配向を決定するステップ、をさらに含む、先行する2つの実施形態のいずれか1つによる方法。
実施形態6:前記セルの位置は、
- 前記金型キャビティの中心面からの前記セルの距離と;
- 前記金型キャビティの中心軸からの前記セルの距離と;
- 前記最も近いキャビティ表面からの前記セルの距離と;
- 前記キャビティの射出点からの前記セルの距離と、
からなる群から選択される少なくとも1つの距離を含む、先行する実施形態による方法。
実施形態7:前記距離は、相対的な単位で与えられる、先行する実施形態による方法。
実施形態8:前記ステップvi.2)は、前記金型キャビティと前記ダミー要素との間の類似性の考慮、具体的には、前記金型キャビティの形状と前記ダミー要素の形状の類似性の考慮を用いて実行される、先行する3つの実施形態のいずれか1つによる方法。
実施形態9:前記類似性の考慮は、前記金型キャビティのセルと前記ダミー要素の座標系の類似性の定義を使用することによって、前記金型キャビティ内と前記ダミー要素内のそれぞれ同一の相対的位置については、前記金型キャビティ内の繊維配向は前記ダミー要素内の繊維配向と同一であるという仮定に基づく、先行する実施形態による方法。
実施形態10:前記方法は、具体的にはステップiii)を実行する前に、より具体的には、ステップi)とii)の間に、複数のセルの表面セルを決定することをさらに含む、先行する実施形態のいずれか1つによる方法。
実施形態11:前記方法は、具体的にはステップv)を実行する前に、より具体的にはステップi)とiii)の間に、前記複数のセルの各個別セルの隣り合うセルを決定することをさらに含む、先行する実施形態のいずれか1つによる方法。
実施形態12:前記方法は、前記隣り合うセルに関する情報を用いて、セル充填シーケンスを決定することをさらに含む、先行する実施形態による方法。
実施形態13:前記セル充填シーケンスは、開始セルから開始し、前記開始セルは、前記キャビティ射出点に位置する、先行する実施形態による方法。
実施形態14:前記方法は、各個別セルについて隣り合うセルからのプラスチック材料の溶融質量の流入量を再帰的に決定することを含む、先行する2つの実施形態のいずれか1つによる方法。
実施形態15:前記方法は、隣り合うセルからの流入量と隣り合うセルへの流出量を考慮することによって、各個別セルの連続方程式を再帰的に解くことを含む、先行する実施形態による方法。
実施形態16:前記方法は、具体的にはステップv)を実行する前に、より具体的にはステップiv)とv)の間に、前記複数のセルの前記セル毎の壁厚情報を決定することをさらに含む、先行する実施形態のいずれか1つによる方法。
実施形態17:前記方法は、フローフロントの前進を決定することをさらに含む、先行する実施形態のいずれか1つによる方法。
実施形態18:前記フローフロントの前進を決定するステップは、フローフロント速度を決定することを含む、先行する実施形態による方法。
実施形態19:前記フローフロント速度vは、以下の式:
【0090】
【数2】
を用いて計算され、式中hはセルの壁厚を示し、式中ηは、前記プラスチック材料の溶融質量の粘度を示し、式中pは前記プラスチック材料の溶融質量の充填圧力を示し、式中pは前記金型キャビティ内の雰囲気圧力を示し、式中Iは前記キャビティ射出点からの前記フローフロントの距離を示し、式中Qは、前記プラスチック材料の体積流量を示し、式中Aは、充填された表面積、具体的には、前記プラスチック材料で充填された表面積を示す、先行する3つの実施形態のいずれか1つによる方法。
実施形態20:決定された圧力レベルが所定の圧力閾値よりも高い場合、前記フローフロントの前進は停止する、先行する3つの実施形態のいずれか1つによる方法。
実施形態21:前記決定された圧力レベルは、射出成形法で使用される前記プラスチック材料の溶融質量の特性、具体的には前記プラスチック材料の溶融質量の少なくとも1つの粘度;及び、金型形状のうちの1つ以上に依存し、具体的には少なくとも1つの壁厚又は少なくとも1つの流路長に依存する、先行する実施形態による方法。
実施形態22:前記金型キャビティを、前記プラスチック材料の溶融質量、例えば繊維強化プラスチック材料で完全に充填するための最小圧力要求を決定することをさらに含む、先行する2つの実施形態のいずれか1つによる方法。
実施形態23:前記データベースに含まれる情報は、所定の厚さを有する少なくとも1つのダミー要素における繊維配向に関するデータを含み、前記繊維配向は、前記ダミー要素内の位置の関数としてデータベースに与えられる、先行する20個の実施形態のいずれか1つによる方法。
実施形態24:前記繊維配向に関する情報は:
- 前記ダミー要素の中心面からの距離と;
- 前記ダミー要素の中心軸からの距離と;
- 前記ダミー要素の最も近いキャビティ表面からの距離と;
- 前記ダミー要素の射出点からの距離と、
からなる群から選択される少なくとも1つの距離の関数としてデータベースに与えられる、先行する21個の実施形態のいずれか1つによる方法。
実施形態25:前記距離は、相対的な単位で与えられる、先行する実施形態による方法。
実施形態26:前記繊維配向に関する情報は、繊維配向の方向と、繊維配向角度、具体的には各主方向における繊維配向角度のうちの少なくとも1つ以上を含む、先行する23個の実施形態のいずれか1つによる方法。
実施形態27:前記繊維配向に関する情報は、前記ダミー要素のダミー座標系における繊維配向の方向を含む、先行する実施形態による方法。
実施形態28:前記ダミー座標系は:
- 前記ダミー要素内の流れ方向、特に前記ダミー要素の中心軸に平行な第1主方向と;
- 前記ダミー要素の表面に垂直な、具体的にはスラブ状ダミー要素の表面に垂直な、又は前記スラブ状ダミー要素の延長面に垂直な第3主方向と;
- 前記第1主方向及び前記第3主方向に垂直な第2主方向と、
によって規定される、先行する実施形態による方法。
実施形態29:前記少なくとも1つのダミー要素は、少なくとも2つの平行な表面を有する少なくとも1つのスラブ状要素を含む、先行する26個の実施形態のいずれか1つによる方法。
実施形態30:前記スラブ状要素は、幅が厚さを少なくとも2倍上回り、より好ましくは、幅が厚さを少なくとも3倍又は少なくとも4倍上回る、矩形断面を有する、先行する実施形態による方法。
実施形態31:前記データベースは、複数の繊維強化プラスチック材料の繊維配向に関する情報を含む、先行する28個の実施形態のいずれか1つによる方法。
実施形態32:前記データベースは、同一のダミー要素に対する複数の繊維強化プラスチック材料の繊維配向に関する情報を含む、先行する29個の実施形態のいずれか1つによる方法。
実施形態33:前記方法は、前記複数のセルのウェルドラインセルを決定することをさらに含み、そこでは、少なくとも2つのフローフロントが前記ウェルドラインセルのそれぞれで会う、先行する実施形態のいずれか1つによる方法。
実施形態34:前記ウェルドラインセルの繊維配向に関する情報は、前記ステップvi.1)で提供されるデータベースから取得される、実施形態33および実施形態3による方法。
実施形態35:前記方法は、充填圧力、流路長、せん断速度、収縮、及び各セルの臨界厚さ、具体的には質量蓄積量のうちの1つ以上を決定することをさらに含む、先行する実施形態のいずれか1つによる方法。
実施形態36:前記方法の少なくともステップi)~v)を実行するには、処理時間Tを要し、ここで、0秒<T≦300秒、具体的には0秒<T≦120秒、より具体的には0秒<T≦60秒、特に0秒<T≦30秒である、先行する実施形態のいずれか1つによる方法。
実施形態37:前記方法は:
vii) 繊維配向、具体的には繊維配向の方向;繊維配向角度、具体的には少なくとも1つの主方向における繊維配向角度;充填状態、具体的には所定時間後の充填状態;圧力状態、具体的には所定時間後の圧力状態;せん断速度分布、具体的には所定時間後のせん断速度分布状態;質量蓄積状態;流路長状態;収縮状態、からなる群から選択される少なくとも1つのビジュアリゼーションを出力すること、をさらに含む、先行する実施形態のいずれか1つによる方法。
実施形態38:前記ビジュアリゼーションは、少なくとも1つのインターフェース又はポートを介して出力される、先行する実施形態による方法。
実施形態39:物体の設計を検証するための方法であって、
前記方法は:
I. 前記物体のCADデータを提供するステップと;
II. 前記物体のCADデータを、前記物体を射出成形するための対応する金型キャビティのCADデータに変換するステップと;
III.少なくとも1つのプラスチック材料と少なくとも1つの射出点を選択するステップと;
IV. 先行する実施形態のいずれか1つによる方法を用いて、前記金型キャビティの充填プロセスをシミュレーションするステップと;
V. ステップIVで得られたシミュレーション結果を評価するステップと;
を含む、方法。
実施形態40:前記ステップVで評価されたシミュレーション結果は、少なくとも1つのインターフェース又はポートを介して出力された少なくとも1つのビジュアリゼーションである、先行する実施形態による方法。
実施形態41:実施形態1から38のいずれか1つによる充填プロセスをシミュレーションするコンピュータ実装方法を実行するように構成された、少なくとも1つのプロセッサを含むコンピュータシステム。
実施形態42:前記コンピュータシステムは、データストレージ又はデータベースを記憶するためのメモリの少なくとも一方又は両方を含む、先行する実施形態によるコンピュータシステム。
実施形態43:前記データストレージ又は前記メモリは、内部データストレージ、例えば内部ドライブ又はメモリ;外部データストレージ、例えば外部ドライブ、クラウドサーバーなどの外部データサーバー;ポータブルメモリ、例えばメモリスティック又はポータブルドライブ、からなる群から選択される、先行する実施形態によるコンピュータシステム。
実施形態44:前記コンピュータシステムは、少なくとも1つのインターフェース又はポートを備える、先行する3つの実施形態のいずれか1つによるコンピュータシステム。
実施形態45:前記インターフェース又は前記ポートは、射出成形法に関する情報を受信することであって、前記情報は使用される金型キャビティの形状及びプラスチック材料の一方又は両方に関する、情報を受信すること;及び、シミュレーション結果に関する情報を出力することであって、具体的には少なくとも1つのビジュアリゼーションを出力すること、のうち1つ以上のために構成される、先行する実施形態によるコンピュータシステム。
実施形態46:前記少なくとも1つのインターフェース又はポートは、ネットワーク又はインターネットポート、例えばコンピュータマウス又はキーボードによって情報を入力するためのUSBポート;ディスクドライブ、からなる群から選択される、先行する実施形態によるコンピュータシステム。
実施形態47:プログラムがコンピュータ又はコンピュータシステムによって実行されたときに、前記コンピュータ又は前記コンピュータシステムに、実施形態1から38のいずれか1つによる方法を実行させる命令を含むコンピュータプログラム。
実施形態48:少なくとも1つのダミー要素について繊維強化プラスチック材料の繊維配向に関する情報を含む、実施形態1から38のいずれか1つによる方法で使用するためのデータベース。
【図面の簡単な説明】
【0091】
さらなる任意の特徴及び実施形態は、後続の実施形態の説明において、好ましくは従属請求項に関連して、より詳細に開示される。そこでは、それぞれの任意の特徴は、当業者が理解するように、分離された態様で、また任意の実行可能な組み合わせで実現されてよい。本発明の範囲は、好ましい実施形態によって制限されない。実施形態は、図に概略的に示されている。その中で、これらの図において同一の参照番号は、同一の又は機能的に互換可能な要素を示す。
図1】物体のCADデータの実施形態、及び物体を射出成形するための金型キャビティの対応する実施形態の斜視図を示す。
図2図1に示された、物体のCADデータの実施形態及び金型キャビティの対応する実施形態の一部の断面図を示す。
図3】金型キャビティの異なる実施形態の斜視図を示す。
図4】金型キャビティの異なる実施形態の斜視図を示す。
図5】データベースの実施形態の斜視図を示す。
図6】コンピュータシステムの実施形態の斜視図を示す。
図7図7A及び7Bは、シミュレーション方法の異なる実施形態のフローチャートを示す。
図8】検証方法の一実施形態のフローチャートを示す。
図9】プラスチック材料を使用する射出成形法における金型キャビティの一実施形態の断面図を示す。
図10】プラスチック材料を使用する射出成形法における離散化された金型キャビティの一実施形態の一部の上面図を示す。
図11】プラスチック材料を使用する射出成形法における金型キャビティの一実施形態の充填プロセスの斜視図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0092】
実施形態の詳細説明
図1には、物体110のCADデータの一実施形態、及び物体を射出成形するための金型キャビティ112の対応する実施形態が斜視図で示されている。説明のために、金型キャビティ112の形状に空洞を有する型113が部分的に示されている。キャビティ射出点114が、金型キャビティ112上に規定され得る。図2は、図1に例示した金型キャビティ112の一部の断面図を示す。金型キャビティ112は、複数のセル116に離散化されてよい。各セル116は、セル座標系を含み得る。セル座標系は、図1に例示されているように、流れ方向120に平行な第1主方向118によって規定されてよい。さらに、セル座標系は、図2に例示されているように、表面法線方向124に平行な第3主方向122によって規定されてよく、表面法線方向124は、最も近いキャビティ表面125に対して垂直に配向され得る。最後に、セル座標系は、第1主方向118及び第3主方向122に垂直な第2主方向126によって規定され得る。
【0093】
図3及び図4では、金型キャビティ112の異なる実施形態が、キャビティ射出点114とともに例示されている。特に、各金型キャビティ112は、複数のセル116に離散化されてよい。
【0094】
図5では、データベース128の一実施形態が示されている。データベース128は、少なくとも1つのダミー要素130についての繊維強化プラスチック材料の繊維配向に関する情報を含む。具体的には、図5に示されるように、データベース128は、2つ以上、例えば3つのダミー要素130についての繊維強化プラスチック材料の繊維配向に関する情報を含むことができる。特に、データベース128に含まれる情報は、具体的には、ダミー要素130の繊維強化プラスチック材料についての繊維配向に関するシミュレーションデータ又は経験的に取得されたデータの一方又は両方を含み得る。
【0095】
図6は、コンピュータシステム132の一実施形態及び斜視図を示している。コンピュータシステム132は、充填プロセスをシミュレーションするためのコンピュータ実装方法、例えばシミュレーション方法136を実行するように構成された少なくとも1つのプロセッサ134を備える。充填プロセスをシミュレーションするためのコンピュータ実装方法136、特にシミュレーション方法136の異なる実施形態のフローチャートが、図7A及び7Bに示されている。コンピュータシステム132は、例えばデータベース128を記憶するためのデータストレージ138を備えてよい。さらに、コンピュータシステム132は、少なくとも1つのインターフェース140を備えてよい。インターフェース140は、金型キャビティ112の形状に関連する情報を受信するように構成されてよい。追加的に又は代替的に、インターフェース140は、ビジュアリゼーション142のような、シミュレーション結果に関連する情報を出力するように構成され得る。
【0096】
プラスチック材料を用いた射出成形法における金型キャビティ112の充填プロセスをシミュレーションするためのコンピュータ実装方法136、具体的にはシミュレーション方法136は、以下のステップを含み、該ステップは具体的には所定の順序で実行され得る。ただし、異なる順序も可能である。また、2つ以上の方法ステップを全部又は部分的に同時に実行することができる。さらに、1つ、2つ以上、あるいはすべての方法ステップを1回又は繰り返し実行することができる。該方法は、本明細書に列挙されていない追加の方法ステップをさらに含んでよい。シミュレーション方法136の方法ステップは、以下のステップである:
ステップi) (参照番号144で示される) 金型キャビティ112の少なくとも一部を複数のセル116に離散化するステップ;
ステップii) (参照番号146で示される) キャビティ射出点114を規定するステップ;
ステップiii) (参照番号148で示される) 各セル116について、最も近いキャビティ表面125に垂直な表面法線方向124を決定するステップ;
ステップiv) (参照番号150で示される)
- 流れ方向120に平行な第1主方向118と、
- 法線方向124に平行な第3主方向122と、
- 第1主方向118及び第3主方向122に垂直な第2主方向126と、
によって規定される各セル116のセル座標系を決定するステップ;
ステップv) (参照番号152で示される) 各セル116の成形フローの流れ方向120を決定するステップ。
【0097】
さらに、シミュレーション方法136は、プラスチック材料が繊維強化プラスチック材料である場合、繊維強化プラスチック材料の繊維配向を決定することを含むステップvi)(参照番号154で示される)を含んでよい。
【0098】
図7Bに示されるように、シミュレーション方法136の実施形態は、分岐点156をさらに含み得る。分岐点156は、第1分岐158と第2分岐160との間で決定するなどの条件クエリを示すことができる。例えば、条件クエリは、プラスチック材料が繊維強化プラスチック材料であるかに関する情報など、プラスチック材料に関する情報を利用することができる。第1分岐158は、プラスチック材料が繊維強化プラスチック材料である、又はプラスチック材料が繊維強化プラスチック材料を含むことを示すことができ、したがって、第1分岐は、ステップvi)154に進むことができる。第2分岐160は、プラスチック材料が繊維強化プラスチック材料を含まないことを示すことができる。
【0099】
ステップvi)154は、データベースを提供するサブステップvi.1) (参照番号162で示される)を特に含んでよく、該データベース128は、少なくとも1つのダミー要素130についての繊維強化プラスチック材料の繊維配向に関する情報を含む。ステップvi)154は、セル116のセル位置を用いてデータベース128から各セル116の繊維配向に関する情報を取得し、セル座標系におけるセル116の繊維配向を決定するサブステップvi.2) (参照番号164で示される)をさらに含んでよい。
【0100】
特に、サブステップvi.1)164は、金型キャビティ112とダミー要素130との間の類似性の考慮を用いて実行されてよい。具体的には、サブステップvi.2)164は、金型キャビティ112の形状とダミー要素130の形状の類似性の考慮を用いて実行されてよい。
【0101】
シミュレーション方法136は、少なくとも1つのビジュアリゼーション142を出力するステップvii) (参照番号166で示される)をさらに有することができ、該ビジュアリゼーション142は、繊維配向、具体的には繊維配向の方向;繊維配向角度、具体的には少なくとも1つの主方向における繊維配向角度;充填状態、具体的には所定時間後の充填状態;圧力状態、具体的には所定時間後の圧力状態;せん断速度分布、具体的には所定時間後のせん断速度分布状態;質量蓄積状態;流路長状態;収縮状態、からなる群から選択される。
【0102】
特に、ステップvi)166は、ステップvi)を実行した後に実行されてよい。あるいは、プラスチック材料が繊維強化プラスチック材料を含んでいない場合には、シミュレーション方法136のステップvi)154はスキップされてよい。したがって、一例として、ステップvii)166は、図7Bに示されるように、第2分岐160がシミュレーション方法136のステップvii)166に直接つながることによって、ステップv)152を実行した後に直接実行されてよい。
【0103】
具体的には、シミュレーション方法136を実行することは、処理時間T、例えば、実行時間を要することがある。一例として、表1には、3つの異なる金型キャビティ112の充填シミュレーションを実行するための実行時間の比較が示されている。特に、FEMシミュレーションを使用するなど、当業者に知られている射出成形法シミュレーション方法を用いて充填シミュレーションを実行するために必要な実行時間TState_of_the_artを、本明細書で提案するシミュレーション方法136を実行するために必要な実行時間Tsimと比較することができる。具体的には、表1に示された実行時間の比較では、表1の第2列目に実行時間TState_of_the_artを、第3列目にTsimを示すことができる。実行時間は、3つの異なる金型キャビティ112について、特に、図1図3及び図4に例示された金型キャビティ112の3つの異なる実施形態について比較され得る。充填シミュレーションを実行するのに使用されるメッシュサイズは、3つの金型キャビティ112すべてについて2.0mmであり得る。表1の第4列目には、性能の向上を記載することができ、該性能の向上は、当業者に知られているような射出成形法シミュレーション方法を用いて充填シミュレーションを一度実行するために必要な実行時間TState_of_the_art内でシミュレーション方法136を実行することができる絶対的回数を示すことができる。
【0104】
【表1】
【0105】
図8には、物体110の設計を検証する方法の一実施形態、具体的には検証方法168のフローチャートが示されている。検証方法168は、以下のステップを含み、該ステップは具体的には所定の順序で実行され得る。ただし、異なる順序も可能である。また、2つ以上の方法ステップを全部又は部分的に同時に実行ことができる。さらに、1つ、2つ以上、あるいはすべての方法ステップを1回又は繰り返し実行することができる。該方法は、本明細書に列挙されていない追加の方法ステップをさらに含んでよい。
【0106】
検証方法168の方法ステップは以下の:
ステップI. (参照番号170で示される)物体110のCADデータを提供するステップと;
ステップII. (参照番号172で示される)前記物体110のCADデータを、前記物体110を射出成形するための対応する金型キャビティ112のCADデータに変換するステップと;
ステップIII. (参照番号174で示される)少なくとも1つのプラスチック材料と少なくとも1つの射出点114を選択するステップと;
ステップIV. (参照番号176で示される)シミュレーション方法136を用いて、金型キャビティ112の充填プロセスをシミュレーションするステップと;
ステップV. (参照番号178で示される)ステップIV176で得られたシミュレーション結果を評価するステップ、
である。
【0107】
特にステップVで評価されたシミュレーション結果は、例えば図6に例示したように少なくとも1つのインターフェース140を介して出力される少なくとも1つのビジュアリゼーション142であってよい。
【0108】
図9では、プラスチック材料を用いた射出成形法における金型キャビティ112の一実施形態の断面図が示されている。特に、図9は、式(1)の、例えば上述したような物理方程式の視覚的な導出を示しており、プラスチック材料の溶融質量のフローフロント180の速度vと厚さhの間のリンク、プラスチック材料の溶融質量の粘度η、充填圧力p、雰囲気圧力p、及びフローフロント180からキャビティ射出点114までの距離lとを明示している。
【0109】
図10では、プラスチック材料を用いた射出成形法における離散化された金型キャビティ112の一実施形態の一部が示されている。特に、図10は、充填プロセスのトポロジー的アプローチ、具体的には、図9内の矢印に示されるように、キャビティ射出点114から開始して、1つのセル116から、具体的には開始セル182から、その隣り合うセル184まで広がる、金型キャビティ112を充填するプラスチック材料の溶融質量の充填プロセスのトポロジー的アプローチを示し得る。
【0110】
図11では、プラスチック材料を用いた射出成形法における金型キャビティ112の一実施形態の充填プロセスが斜視図で示されている。特に、射出成形法における金型キャビティ112の4つの充填段階が示されており、図11の下部に時間tの前進を示すx軸によって示されるように、充填段階は左から右に向かって進む。特に、フローフロント180は、トポロジー的アプローチと物理的アプローチの混合によって、金型キャビティ112内を前進することができる。
【符号の説明】
【0111】
110 物体
112 金型キャビティ
113 ダイ
114 キャビティ射出点
116 セル
118 第1主方向
120 流れ方向
122 第3主方向
124 法線方向
125 キャビティ表面
126 第2主方向
128 データベース
130 ダミー要素
132 コンピュータシステム
134 プロセッサ
136 シミュレーション方法
138 データストレージ
140 インターフェース
142 ビジュアリゼーション
144 ステップi)
146 ステップii)
148 ステップiii)
150 ステップiv)
152 ステップv)
154 ステップvi)
156 分岐点
158 第1分岐
160 第2分岐
162 ステップvi.1)
164 ステップvi.2)
166 ステップvii)
168 検証方法
170 ステップI.
172 ステップII.
174 ステップIII.
176 ステップIV.
178 ステップV.
180 フローフロント
182 開始セル
184 隣り合うセル
【0112】
参考文献
EP2612266B1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11
【手続補正書】
【提出日】2021-04-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック材料を用いた射出成形法における金型キャビティ(112)の充填プロセスをシミュレーションするためのコンピュータ実装方法であって、前記方法は:
i) 前記金型キャビティ(112)の少なくとも一部を複数のセル(116)に離散化するステップと;
ii) キャビティ射出点(114)を規定するステップと;
iii)各セル(116)について、最も近いキャビティ表面(125)に垂直な表面法線方向(124)を決定するステップと;
iv) - 流れ方向(120)に平行な第1主方向(118)と、
- 前記法線方向(124)に平行な第3主方向(122)と
- 前記第1主方向(118)及び前記第3主方向(122)に垂直な第2主方向(126)と、
によって規定された、各セル(116)のセル座標系を決定するステップと;
v) 各セル(116)の成形フローの前記流れ方向(120)を決定するステップと、
を含む、コンピュータ実装方法。
【請求項2】
前記プラスチック材料が繊維強化プラスチック材料である場合に、前記方法が:
vi) 前記繊維強化プラスチック材料の繊維配向を決定するステップ、
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ステップvi)が:
vi.1) データベース(128)を提供するステップであって、前記データベース(128)は、少なくとも1つのダミー要素(130)についての前記繊維強化プラスチック材料の繊維配向に関する情報を含む、ステップを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記データベース(128)に含まれる前記情報は、繊維配向に関するシミュレーションデータ又は経験的に取得されたデータの一方又は両方を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ステップvi)は:
vi.2) 前記セル(116)のセル位置を用いて前記データベース(128)から各セル(116)の繊維配向に関する情報を取得し、セル座標系における前記セル(116)の繊維配向を決定するステップ、をさらに含む、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記ステップvi.2)は、前記金型キャビティ(112)と前記ダミー要素(130)との間の類似性の考慮を用いて実行される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記類似性の考慮は、前記金型キャビティ(112)のセル(116)と前記ダミー要素(130)の座標系の類似性の定義を使用することによって、前記金型キャビティ(112)内と前記ダミー要素(130)内のそれぞれ同一の相対的位置については、前記金型キャビティ(112)内の繊維配向は前記ダミー要素(130)内の繊維配向と同一であるという仮定に基づく、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記方法は、前記複数のセルの各個別セル(116)の隣り合うセル(184)を決定することをさらに含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記方法は、前記隣り合うセル(184)に関する情報を用いて、セル充填シーケンスを決定することをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記方法は、各個別セル(116)について前記隣り合うセル(184)からのプラスチック材料の溶融質量の流入量を再帰的に決定することを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記方法は、隣り合うセル(184)からの流入量と隣り合うセル(184)への流出量を考慮することによって、各個別セル(116)の連続方程式を再帰的に解くことを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記データベース(128)は、複数の繊維強化プラスチック材料の繊維配向に関する情報を含む、請求項3~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記方法は、具体的にはステップv)を実行する前に、より具体的にはステップiv)とv)の間に、前記複数のセルの前記セル毎の壁厚情報を決定することをさらに含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記方法の少なくともステップi)~v)を実行するには、処理時間Tを要し、ここで、0秒<T≦300秒、具体的には0秒<T≦120秒、より具体的には0秒<T≦60秒、特に0秒<T≦30秒である、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記方法は:
vii) 少なくとも1つのビジュアリゼーション(142)を出力するステップであって、前記ビジュアリゼーション(142)は、少なくとも1つのインターフェース(140)又はポートを介して出力される、ステップをさらに含む、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
物体(110)の設計を検証するための方法であって、
前記方法は:
I. 前記物体(110)のCADデータを提供するステップと;
II. 前記物体(110)のCADデータを、前記物体(110)を射出成形するための対応する金型キャビティ(112)のCADデータに変換するステップと;
III.少なくとも1つのプラスチック材料と少なくとも1つの射出点(114)を選択するステップと;
IV. 請求項1~15いずれか1項に記載の方法を用いて、前記金型キャビティ(112)の充填プロセスをシミュレーションするステップと;
V. ステップIVで得られたシミュレーション結果を評価するステップと;
を含む、方法。
【請求項17】
前記ステップVで評価されたシミュレーション結果は、少なくとも1つのインターフェース(140)又はポートを介して出力された少なくとも1つのビジュアリゼーション(142)である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
請求項1~15のいずれか1項に記載の充填プロセスをシミュレーションするコンピュータ実装方法を実行するように構成された、少なくとも1つのプロセッサ(134)を含むコンピュータシステム(132)。
【請求項19】
プログラムがコンピュータ又はコンピュータシステム(132)によって実行されたときに、前記コンピュータ又は前記コンピュータシステム(132)に、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法を実行させる命令を含むコンピュータプログラム。
【国際調査報告】