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特表2022-543502電池の負極に使用するための粉末及びかかる粉末を含む電池
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  • 特表-電池の負極に使用するための粉末及びかかる粉末を含む電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-12
(54)【発明の名称】電池の負極に使用するための粉末及びかかる粉末を含む電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20221004BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/36 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022521459
(86)(22)【出願日】2020-10-05
(85)【翻訳文提出日】2022-04-08
(86)【国際出願番号】 EP2020077860
(87)【国際公開番号】W WO2021069381
(87)【国際公開日】2021-04-15
(31)【優先権主張番号】62/912,730
(32)【優先日】2019-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】19202728.2
(32)【優先日】2019-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】19202741.5
(32)【優先日】2019-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501094270
【氏名又は名称】ユミコア
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ボアズ・ムーレマンス
(72)【発明者】
【氏名】クン・フェン
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャル・トゥロドジエキ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-セバスチャン・ブライデル
(72)【発明者】
【氏名】ニコラス・マルクス
(72)【発明者】
【氏名】スタイン・プット
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA07
5H050BA17
5H050CA08
5H050CB11
5H050HA01
5H050HA05
5H050HA06
5H050HA07
(57)【要約】
電池の負極に用いる粉末であって、当該粉末が粒子を含み、粒子が、炭素質マトリックス材料と、炭素質マトリックス材料中に分散されたケイ素系ドメインとを含み、粒子が細孔を更に含み、粉末の断面に含まれる細孔の少なくとも1000個の断面が、サイズ及びサイズ分布の最適化された条件を満たし、このような粉末を含む電池が、優れたサイクル寿命を達成することを可能にする、粉末及びかかる粉末の製造方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池の負極に使用するための粉末であって、粒子を含み、前記粒子が、炭素質マトリックス材料と、前記炭素質マトリックス材料中に分散されたケイ素系ドメインとを含み、前記粒子が、細孔を更に含み、前記粒子は、前記粉末の断面において、前記断面が細孔の少なくとも1000個の個別断面を含むことを特徴とする、すなわち、
細孔の前記少なくとも1000個の個別断面のそれぞれが、最大フェレット径xFmax、最小フェレット径xFmin、及び面積を有し、xFmax、xFmin、及び面積が、前記粉末の前記断面の少なくとも1つの電子顕微鏡画像の画像解析によって測定され、かつ、
細孔の前記少なくとも1000個の個別断面が、d50値及びd95値を有する最大フェレット径の数に基づく分布を有し、d95≦150nm、かつ比d95/d50≦3.0であることを特徴とし、
前記粉末が、重量パーセント(重量%)で表されるケイ素含有量Cを更に有し、3×10-4×C≦F≦4×10-3×Cであり、F=Sp/Scであり、Spが、細孔の前記少なくとも1000個の個別断面の各面積の合計であり、Scが、細孔の前記少なくとも1000個の個別断面を含む粒子の前記断面の各面積の合計であり、Sc及びSpが、前記粉末の前記断面の同一の前記少なくとも1つの電子顕微鏡画像上で測定される、粉末。
【請求項2】
重量パーセント(重量%)で表されるケイ素含有量Cを有し、10重量%≦C≦60重量%である、請求項1に記載の粉末。
【請求項3】
細孔の前記少なくとも1000個の個別断面のそれぞれが、最大フェレット径xFmax、最小フェレット径xFmin、及び比xFmax/xFminを有し、細孔の前記少なくとも1000個の個別断面の前記比xFmax/xFminの平均値が、最大で2.0である、請求項1又は2に記載の粉末。
【請求項4】
細孔の前記少なくとも1000個の断面の前記比xFmax/xFminの平均値が、最大で1.5である、請求項3に記載の粉末。
【請求項5】
前記d95値が、90nm以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項6】
少なくとも90重量%、好ましくは少なくとも95重量%の前記粒子を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項7】
前記ケイ素系ドメインが、少なくとも65重量%のケイ素、好ましくは少なくとも80重量%のケイ素を有する化学組成を有し、好ましくは前記ケイ素系ドメインが、Si及びO以外の他の元素を含まない、請求項1~6のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項8】
ケイ素含有量C及び酸素含有量Dを有し、両方とも重量パーセント(重量%)で表され、D≦0.15C、好ましくはD≦0.12Cである、請求項1~7のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項9】
最大で15m/g、好ましくは最大で12m/gのBET表面積を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項10】
前記粒子が、0.1μm~10μmのd10、2~20μmのd50、及び3~30μmのd90を有する体積に基づく粒径分布を有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項11】
前記マトリックス材料が、以下の化合物:ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、スクロース、コールタールピッチ、石油ピッチ、リグニン、樹脂のうちの少なくとも1つの熱分解の生成物であることを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項12】
負極を有する電池であって、前記負極が請求項1~11のいずれか一項に記載の粉末を含む、電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
背景技術
本発明は、電池の負極に使用するための粉末及びかかる粉末を含む電池に関する。
【0002】
リチウムイオン(Liイオン)電池は、現在、最も高性能の電池であり、既に携帯型電子デバイスの標準となっている。加えて、これらの電池は、既に自動車及び蓄電などの他の産業において浸透しかつ急激に普及している。かかる電池の実現可能な利点は、良好な電力性能と組み合わされた高エネルギー密度である。
【0003】
Liイオン電池は、典型的には、いくつかのいわゆるLiイオンセルを含み、そのセルは、カソードとも称される正極と、アノードとも称される負極と、セパレータとを含み、それらは電解質に浸漬されている。携帯用途に最も頻繁に使用されるLiイオンセルは、カソードにリチウムコバルト酸化物又はリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物のような電気化学的に活性な粉末を使用し、アノードに天然又は人工の黒鉛を使用して、開発されている。
【0004】
電池の性能、特に電池のエネルギー密度に影響を及ぼす重要な制限因子のうちの1つが、アノードにおける活性粉末であることが知られている。そのため、エネルギー密度を改善するために、負極にケイ素を含む電気化学的に活性な粉末を使用することが長年にわたって研究されてきた。
【0005】
アノードにケイ素系の電気化学的に活性な粉末を使用する1つの欠点は、充電中のその大きな体積膨張であり、例えば、合金化又は挿入によって、リチウムイオンが、アノードの活性粉末中に完全に組み込まれるとき(しばしばリチオ化と称されるプロセス)、体積膨張は300%と高い。リチウム組み込み中のケイ素系材料の大きな体積膨張によって、ケイ素系粒子中に応力を誘発することがあり、それによりケイ素系材料の機械的な劣化が生じる場合がある。Liイオン電池の充電及び放電中に周期的に繰り返されることで、電気化学的に活性なケイ素粉末の繰り返される機械的な劣化により、電池の寿命は、許容できないレベルにまで低下し得る。
【0006】
更に、ケイ素と関連のある悪影響は、厚いSEI、すなわち固体電解質界面が、アノード上に形成され得ることである。SEIは、電解質とリチウムの複合反応生成物であり、したがって、電気化学反応のためのリチウムの利用可能性が失われるため、サイクル性能が悪化し、充電-放電サイクルあたりの容量が失われる。更に、厚いSEIは、電池の電気抵抗を大きくしてしまうことがあり、それによって、達成可能な充電及び放電の速度が制限されることがある。
【0007】
原理的に、SEI形成は、「不動態化層」がケイ素系材料の表面上に形成されるとすぐに停止する自己終結プロセスである。しかし、ケイ素系粒子の体積膨張のため、放電(リチオ化)及び充電(脱リチオ化)の際にケイ素系粒子とSEIの両方が損傷を受ける場合があり、それによって、新しいケイ素表面があらわになり、新しいSEI生成が始まる。
【0008】
上記の欠点を解決するために、通常、電解質の分解からケイ素系ドメインを保護し、体積変化に対応するため、ケイ素系ドメインが少なくとも1つの成分と混合された、活性粉末が使用される。このような成分は、炭素系材料であり得、好ましくはマトリックスを形成する。
【0009】
このような活性粉末は、例えば国際公開第2018/165610号に記載されており、多孔質足場材料の細孔容積にケイ素を堆積させた複合材料が製造される。米国特許第10424786号では、多孔質炭素構造と、多孔質炭素構造のミクロ細孔及び/又はメソ細孔内に位置するケイ素とを含む複合材料が開示されている。中国特許第103840140号では、多孔質炭素と、多孔質炭素の細孔壁に付着したケイ素粒子とを含む多孔質炭素ケイ素複合材料が開示されている。
【0010】
このような活性粉末を使用しているにもかかわらず、Si系活性粉末を含む電池の性能にはまだ改善の余地がある。
【0011】
当技術分野では、Si系活性粉末を含む電池の性能は、概ね、いわゆるフルセルのサイクル寿命で定量化され、これは、そのような材料を含むセルが初期放電容量の80%に達するまで充放電できる回数又はサイクル数として定義される。そのため、ケイ素系活性粉末に関するほとんどの研究が、当該サイクル寿命の改善に焦点を当てている。
【0012】
本発明の目的は、安定した活性粉末を提供することであり、当該粉末を電池の負極に使用することにより、アノードの体積膨張を抑え、電池のサイクル寿命を改善できるという点で有利である。
【発明の概要】
【0013】
この目的は、請求項1に記載の粉末を提供することによって達成され、当該粉末を電池の負極に使用することにより、比容量を損なうことなく、アノードの体積膨張を抑え、電池のサイクル寿命を改善できる。
【0014】
本発明は、以下の実施形態に関する。
【0015】
実施形態1
第1の態様では、本発明は、電池の負極に使用するための粉末であって、粒子を含み、当該粒子が、炭素質マトリックス材料と、当該炭素質マトリックス材料中に分散されたケイ素系ドメインとを含み、当該粒子が、細孔を更に含み、当該粒子が、当該粉末の断面において、細孔の少なくとも1000個の個別断面を含む当該断面を特徴とする、すなわち、
細孔の当該少なくとも1000個の個別断面のそれぞれが、最大フェレット径xFmax、最小フェレット径xFmin、及び面積を有し、xFmax、xFmin、及び面積が、当該粉末の当該断面の少なくとも1つの電子顕微鏡画像の画像解析によって測定され、かつ、
細孔の当該少なくとも1000個の個別断面が、d50値及びd95値を有する最大フェレット径の数に基づく分布を有し、d95≦150nm、かつ比d95/d50≦3.0であることを特徴とする、粉末に関する。
【0016】
本発明による粉末の断面を作製する場合、粉末は平面で交差し、そのため同一平面は、粉末に含まれる多数の粒子、粒子に含まれる多数のケイ素系ドメイン、及び粒子に含まれる多数の細孔と交差する。したがって、本発明による断面は、3次元物体(当該3次元物体は、例えば、粉末、粒子、ケイ素系ドメイン、細孔である)とこの平面との交点を表す。したがって、結果として得られる物体は、例えば、円、楕円体のような2次元の物体、又は実質的に規則的若しくは不規則な形状を持つ任意の2次元の物体である。
【0017】
言い換えれば、本発明による粉末の断面は、粒子の断面、ケイ素系ドメインの断面、及び細孔の断面を含む。
【0018】
本発明の構造では、3次元物体と平面との交点は、当該平面における断面の境界を形成する連続した線である外周によって区切られる領域によって画定される。
【0019】
したがって、個別断面は、同一平面上に含まれる他の個別断面の領域及び外周とは異なる又は分離された、個々の領域及び外周によって画定される。
【0020】
細孔の少なくとも1000個の個別断面とは、粉末と交差する平面に含まれる細孔の少なくとも1000個の単一の、重なり合わない断面を意味する。
【0021】
当該細孔の当該少なくとも1000個の個別断面は、当該粉末と交差する平面に含まれる細孔の個別断面の総数を表するものとみなされ得る。
【0022】
最大及び最小のフェレット径は、当業者にはよく知られている概念であるが、本発明の枠組みでは、以下のように意味する。フェレット径とは、細孔の断面の外周に任意の角度で接した2本の平行線の間の距離を意味する。最大フェレット径xFmaxは、フェレット径が最も大きくなる接線の角度におけるフェレット径であり、細孔の断面の外周にある2点間の最大直線距離に相当するものである。同様に、最小フェレット径xFminは、フェレット径が最も小さくなる接線の角度におけるフェレット径である。このフェレット径の定義を図1に示す。
【0023】
電池の負極に使用するのに適した粉末とは、電池の負極のリチオ化及び脱リチオ化の際に、それぞれリチウムイオンを貯蔵及び放出することができる、電気化学的に活性な粒子を含む電気化学的に活性な粉末を意味する。このような粉末は、同等に「活性粉末」と呼ばれることがある。
【0024】
明確にするために、ケイ素系ドメインは、マトリックス材料全体に広がる、分離した小容積のケイ素、ケイ素系合金、又は部分的に酸化されたケイ素若しくはケイ素系合金として、炭素質マトリックス材料中に分散されることに留意されたい。これらの小容積のものは、離散粒子である場合もあれば、ケイ素含有液体又はガス状前駆体からマトリックス材料の中でin situで堆積物として形成される場合もある。
【0025】
ケイ素系ドメインは、任意の形状、例えば、実質的に球状を有し得るが、不規則な形状、棒状、板状なども有し得る。
【0026】
このようなケイ素系ドメインの平均ケイ素含有量は、ケイ素系ドメインの総重量に対して、好ましくは65重量%以上、より好ましくは80重量%以上である。
【0027】
概ね、細孔を含まないケイ素系活性粉末は、電池の充放電サイクル中に、当該アノードの体積膨張又は膨潤を引き起こし、その結果、当該電池の膨潤をもたらす。この活性粉末の膨潤は、通常、破断又は亀裂の形成につながり、アノード全体に伝播する。これらの破断又は亀裂は、接触の喪失及び/又は追加のSEI形成につながり、電池のサイクル寿命が極端に低下する。
【0028】
活性粉末に細孔が存在することにより、電池の充放電のサイクル中に、当該細孔内のケイ素系ドメインの膨張が可能になる。これにより、電池自体の対応する膨潤が減少し、活性粉末、ひいてはアノード内の機械的応力及び破断が減少するため、より多くの充放電サイクルで電池を使用することができ、電池の寿命を延ばすことができる。
【0029】
しかし、多孔性は、高すぎると、電池の体積容量が減少するため、回避する必要がある。
【0030】
本発明において、実施形態1による細孔の個別断面は、最大フェレット径xFmaxの数に基づく分布のd95値が、150nm以下、好ましくは90nm以下であり得、最大フェレット径xFmaxの数に基づく分布のd95値のd50値に対する比(d95/d50)が、3.0以下であり得る。その理由は、大きな細孔が、そのサイズに比例して、電池の膨潤を抑えることにはあまり寄与しないが、電池の体積容量を大幅に減少させるからであり得る。これは、ケイ素系ドメインの膨張をマトリックスが吸収するという現象が、限られた範囲でしか働かない局所的なものであり、大きな細孔が、存在するケイ素系ドメインによって実際に局所的に容易に利用できる容量よりもはるかに大きい理論上の吸収容量を有することが原因であると本発明者らは考えている。
【0031】
本発明の構造において、本発明による粉末を使用した負極を含む電池では、同等のケイ素含有量の従来の活性粉末を使用した電池と比較して、膨潤が低減され、サイクル寿命が延びることが確認された。
【0032】
実際に、i.)アノードの膨潤を低減しつつ、ii.)高い比容量を維持するとともに、iii.)当該粉末を負極として使用する電池のサイクル寿命を向上させることは、粉末の断面に含まれるケイ素系ドメインにおける細孔の少なくとも1000個の個別断面について、特許請求されたd95値とd95/d50比との組み合わせによって達成できることが確認された。
【0033】
実施形態2
実施形態1による第2の実施形態では、粉末の断面は、粒子の断面を含み、粉末は、重量パーセント(重量%)で表されるケイ素含有量Cを有し、3x10-4×C≦F≦4×10-3×Cであり、F=Sp/Scであり、Spは、細孔の少なくとも1000個の個別断面の各面積の合計であり、Scは、細孔の少なくとも1000個の個別断面を含む粒子の断面の各面積の合計であり、Sc及びSpは、当該粉末の当該断面の同一の当該少なくとも1つの電子顕微鏡画像上で測定される。細孔の断面が占める面積の合計の割合と粉末のケイ素含有量との相関関係により、ケイ素の膨張をかなりの割合で吸収するのに十分な多孔性が確保されるが、過剰な多孔性があって、ただし体積容量が不均衡に減少するほどではない。
【0034】
好ましくは、当該割合Fは少なくとも4×10-4×Cである。好ましくは、当該割合Fは最大で3×10-3×Cである。
【0035】
Fの計算の例として、平均ケイ素含有量Cが15重量%の粉末を取り上げる。粉末の断面の顕微鏡画像を可視化する際には、少なくとも1000個の断面、この場合は1264個の断面の総数になるように3つの画像が選択される。
【0036】
3つの画像のそれぞれについて、細孔の断面が占める面積の合計(Sp)の、粒子の断面が占める面積の合計(Sc)に対する割合を、適切な画像解析ソフトウェアを用いて求める。得られた3つの割合は、0.022(2.2%)、0.023(2.3%)、0.024(2.4%)である。
【0037】
Fはその3つの割合の平均値なので、F=0.023(2.3%)となる。3×10-4×15≦0.023≦4×10-3×15なので、3×10-4C≦F≦4×10-3Cの要件が満たされる。
【0038】
実施形態3
実施形態1又は2に記載の第3の実施形態では、粉末は、重量パーセント(重量%)で表されるケイ素含有量Cを有し、10重量%≦C≦60重量%である。
【0039】
実施形態4
実施形態1~3のいずれか1つに記載の第4の実施形態では、細孔の少なくとも1000個の個別断面のそれぞれは、最大フェレット径xFmax、最小フェレット径xFmin、及び比xFmax/xFminを有し、細孔の少なくとも1000個の個別断面の比xFmax/xFminの平均値は、最大で2.0、好ましくは最大で1.5である。xFmax/xFminの比が大きい断面をもたらす非常に細長い細孔は、そのような細孔が、小さな亀裂と見なすことができ、応力集中原因及び亀裂発生原因となるため、実際に粒子の機械的強度を低下させる可能性があると考えられる。したがって、断面が等方的な形状を有する、すなわち、全ての方向でほぼ同じ寸法を有する断面をもたらす細孔が好ましい。
【0040】
粉末の断面の少なくとも1つの電子顕微鏡画像の画像解析により、細孔の少なくとも1000個の断面のそれぞれについて、xFmax及びxFminの値を測定し、細孔の少なくとも1000個の断面のそれぞれについて、比xFmax/xFminを算出し、得られたxFmax/xFminの比の平均値を求める。
【0041】
実施形態5
実施形態1~4のいずれか1つに記載の第5の実施形態では、粉末は、粉末の総重量に対して、少なくとも90重量%、好ましくは少なくとも95重量%の当該粒子を含む。
【0042】
実施形態6
実施形態1~5のいずれか1つに記載の第6の実施形態では、ケイ素系ドメインは、少なくとも65重量%のケイ素を有する、好ましくは少なくとも80重量%のケイ素を有する化学組成を有し、好ましくは、ケイ素系ドメインは、Si及びO以外の他の元素を含まない。
【0043】
実施形態7
実施形態1~6のいずれか1つに記載の第7の実施形態では、粉末は、ケイ素含有量C及び酸素含有量Dを有し、両方とも重量パーセント(重量%)で表され、D≦0.15C、好ましくはD≦0.12Cである。
【0044】
実施形態8
実施形態1~7のいずれか1つに記載の第8の実施形態では、粉末は、最大で15m/g、好ましくは最大で12m/gであるBET表面積を有する。
【0045】
この実施形態8では、BET表面積は、好ましくは最大で5m/gであり得る。
【0046】
実施形態9
実施形態1~8のいずれか1つに記載の第9の実施形態では、粉末に含まれる粒子は、0.1μm~10μmのd10、2~20μmのd50、及び3~30μmのd90を有する体積に基づく粒径分布を有する。
【0047】
実施形態10
実施形態1~9のいずれか1つに記載の第10の実施形態では、粒子に含まれるマトリックス材料は、以下の化合物:ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、スクロース、コールタールピッチ、石油ピッチ、リグニン、樹脂のうちの少なくとも1つの熱分解の生成物である。
【0048】
これらの化合物は、マトリックス前駆体と呼ばれることもある。
【0049】
この実施形態10では、マトリックス前駆体は、好ましくは石油ピッチであり得る。
【0050】
実施形態11
実施形態1~10のいずれか1つに記載の第11の実施形態では、粉末は、黒鉛も含み、黒鉛は、マトリックス材料に埋め込まれていない。
【0051】
実施形態12
実施形態1~11のいずれか1つに記載の第12の実施形態では、本発明は更に、上記で定義された粉末の変形のいずれかを含み、好ましくは、負極を有し、粉末が負極に存在する、電池に関する。
【0052】
実施形態13
実施形態1~12のいずれかによる第13の実施形態では、本発明は更に、粉末が負極に存在する、負極を含む電池を備えた電子デバイスに関する。
【0053】
第2の態様では、本発明は、実施形態1~11のいずれか1つに記載の粉末を調製するための方法に関する。
【0054】
実施形態14
第14の実施形態では、本発明は、電池の負極で使用するための粉末を調製するための方法であって、連続した工程:
a.ケイ素ナノ粉末を準備し、500℃未満の軟化温度で軟化することができ、500℃を超える分解温度で炭素に完全に分解することができるマトリックス前駆体粉末を準備し、マトリックス前駆体粉末の軟化温度を超える温度で1つ以上のガス状化合物を生成することができる細孔形成剤粉末を準備する工程と、
b.ケイ素ナノ粉末、マトリックス前駆体粉末、及び細孔形成剤粉末を、0.05~0.6の細孔形成剤粉末対ケイ素ナノ粉末の重量比で、最終粉末において炭素対ケイ素の重量比が0.5~5であるようなマトリックス前駆体粉末対ケイ素ナノ粉末の重量比で、混合する工程と、
c.得られた混合物を、均質な混合物が得られるまでブレンドする工程と、
d.均質な混合物を、無酸素雰囲気下で、マトリックス前駆体粉末の軟化温度を超えるが、細孔形成剤による1つ以上のガス状化合物の生成温度を下回る温度で加熱し、均質な分散液が得られるまで撹拌する工程と、
e.均質な分散液を、無酸素雰囲気下で固体の状態になるまで冷却し、得られた固体を粉砕して中間生成物にする工程と、
f.不活性雰囲気下で、マトリックス前駆体が完全に分解する温度を超える温度で、中間生成物を熱処理する工程と、
g.熱処理された中間生成物を不活性雰囲気下で冷却し、最終粉末に粉砕する工程と、を含む、方法に関する。
【0055】
細孔形成剤は、マトリックス前駆体粉末の軟化温度を超える温度で1つ以上のガス状化合物を生成して、軟化したときにマトリックス前駆体が形成されたばかりの細孔を満たすことを回避することが重要である。
【0056】
ケイ素ナノ粉末とは、金属純度が少なくとも98%であり、d50が200nm以下の粒径分布を有する粉末を意味する。
【0057】
マトリックス前駆体が完全に分解する温度とは、窒素雰囲気下で行われる当該マトリックス前駆体粉末のTGA分析において、重量損失が停止する500℃を超える温度を意味する。
【0058】
均質な混合物とは、ケイ素ナノ粉末、マトリックス前駆体粉末、及び細孔形成剤粉末の各構成要素が、肉眼では視覚的に区別できない混合物を意味する。
【0059】
均質な分散液とは、肉眼で1つの相だけが視覚的に識別できる分散液を意味する。
【0060】
好ましくは、粉砕工程後の中間生成物は、その全体が400メッシュのふるいを通過するのに十分に微細である。
【0061】
好ましくは、粉砕工程後の最終粉末は、その全体が325メッシュのふるいを通過するのに十分に微細である。
【0062】
この実施形態14において、細孔形成剤は、以下の化合物:金属粉末、金属酸化物粉末、有機ポリマー粉末のうちの少なくとも1つの化合物であり得、好ましくは、亜鉛粉末又は酸化亜鉛粉末であり得る。
【0063】
第3の態様では、本発明は、実施形態1~11による粉末を調製するための代替方法に関する。
【0064】
実施形態15
第15の実施形態では、本発明は、電池の負極で使用するための粉末を調製するための代替方法であって、連続した工程:
a.ケイ素ナノ粉末を準備し、500℃未満の軟化温度で軟化することができ、500℃を超える分解温度で炭素に完全に分解することができるマトリックス前駆体粉末を準備し、マトリックス前駆体の軟化温度を超える温度で1つ以上のガス状化合物を生成することができる細孔形成剤粉末を準備する工程と、
b.マトリックス前駆体にケイ素ナノ粉末及び細孔形成剤粉末を分散させた中間生成物を準備する工程と、
c.マトリックス前駆体が完全に分解する温度を超える温度で、中間生成物を熱処理する工程と、を含む、代替方法に関する。
【0065】
実施形態16
実施形態14又は15に記載の第16の実施形態では、本発明は更に、実施形態14に記載の方法又は実施形態15に記載の方法から得られる粉末にも関する。
【0066】
実施形態17
実施形態14又は15に記載の第17の実施形態では、本発明は、最終的に、実施形態14に記載の方法又は実施形態15に記載の方法から得られる、実施形態1~11のいずれか1つに記載の粉末に関する。
【図面の簡単な説明】
【0067】
図1】最大フェレット径(xFmax)と最小フェレット径(xFmin)の概念を示す概略図である。
図2】電池の膨潤を測定するために使用されるセットアップの概略図である。1.パウチセルから電池試験器への接続部 2.測定デバイス 3.スタンド 4.変位センサ 5.パウチセル 6.金属プレート
図3a】SEM分析時に得られた粉末E1の粒子の断面である。最も明るい領域がケイ素系ドメインの断面であり、灰色の領域が炭素質マトリックスの断面であり、黒い領域が細孔の断面である。
図3b図3aと同じ断面であり、細孔の断面(最も暗い領域)をより見やすくするために、適切な画像解析ソフトウェアを使って明るさ/コントラストを調整した後のものである。
【発明を実施するための形態】
【0068】
本発明の実行を可能にするために、図面及び以下の発明を実施するための形態において、好ましい実施形態を詳細に記載する。本発明は、これらの特定の好ましい実施形態を参照して説明されているが、本発明は、これらの好ましい実施形態に限定されないことが理解されよう。しかし、反対に、本発明は、以下の詳細な説明及び添付の図面を考慮することで明らかになるように、多数の代替物、修正及び等価物を含む。
【0069】
使用した分析方法
ケイ素含有量の測定
実施例及び比較例の粉末のケイ素含有量は、エネルギー20分散型分光器を用いた蛍光X線(XRF)によって測定される。この方法のSiの確率的実験誤差は、±0.3重量%である。
【0070】
酸素含有量の測定
実施例及び比較例中の粉末の酸素含有量を、Leco TC600酸素-窒素分析装置を用い、以下の方法によって測定される。粉末の試料を閉じたスズ製カプセルの中に入れ、これそのものをニッケル製バスケットの中に置いた。そのバスケットを黒鉛製るつぼに入れ、キャリアガスとしてのヘリウム下で、2000℃超まで加熱する。これにより試料は溶融し、酸素がるつぼ由来の黒鉛と反応して、COガス又はCOガスになる。これらのガスを赤外測定セルの中に導く。観察されたシグナルを再計算し酸素含有量を得る。
【0071】
比表面積(BET)の測定
比表面積を測定するには、Micromeritics Tristar3000を使用し、ブルナウアー-エメット-テラー(BET)法による。最初に、分析対象の粉末2gを120℃のオーブン内で2時間乾燥した後、Nパージする。次いで、吸着種を除去するために、粉末を120℃にて真空下で1時間脱気した後、測定する。
【0072】
電気化学的性能の測定
実施例及び比較例における粉末の電気化学的性能は、以下の方法で測定される。欧州特許第3525267号に記載されている手順で、コインセル対リチウムで試験対象の粉末の比容量を求めた後、粉末と黒鉛との混合物の比容量が650mAh/gになるように、粉末を黒鉛粒子と乾式混合する。粉末と黒鉛との混合物を、45μmのふるいを用いてふるい分けし、カーボンブラック、炭素繊維及び水中のナトリウムカルボメチルセルロースバインダー(2.5重量%)と混合する。使用した比率は、粉末と黒鉛との混合物89重量部/カーボンブラック(C65)1重量部/炭素繊維2重量部及びカルボキシメチルセルロース(CMC)8重量部である。
【0073】
これらの成分を、250rpmで30分間、Pulverisette7遊星ボールミル内で混合する。
【0074】
負極には、エタノールで洗浄した銅箔を集電体として使用する。混合成分の厚さ200μmの層を銅箔上でコーティングする。コーティングを70℃の真空中で45分間乾燥させる。乾燥させたコーティング銅箔から13.86cmの長方形の電極を打ち抜き、110℃の真空下で一晩乾燥させ、パウチセルの負極として使用する。
【0075】
正極は、以下のようにして作製する:市販のLiNi3/5Mn1/5Co1/5(NMC 622)粉末を、カーボンブラック(C65)、炭素繊維(VGCF)、及びN-メチル-2-ピロリドン(NMP)中8重量%ポリフッ化ビニリデン(PVDF)のバインダーの溶液と混合する。使用した比率は、市販のNMC 622粉末92重量部/カーボンブラック1重量部/炭素繊維3重量部/PVDF4重量部である。これらの成分をPulverisette 7遊星ボールミル内で、250rpmで30分間混合する。エタノールで洗浄したアルミ箔を正極の集電体として使用する。混合成分の層を、正極容量に対する負極容量の比が1.1になるような厚さで、アルミ箔上にコーティングする。コーティングを70℃の真空中で45分間乾燥させる。乾燥させたコーティングアルミ箔から11.02cmの長方形の電極を打ち抜き、真空下110℃で一晩乾燥させ、パウチセルの正極として使用する。
【0076】
使用した電解液は、EC/DEC溶媒(体積比で1/1)に溶解した1MのLiPFと、2重量%のVCと、10重量%のFEC添加剤とである。全ての試料は高精度電池試験機(Maccor 4000シリーズ)で試験される。
【0077】
次に、組み立てられたパウチセルは、以下の手順で試験され、第1のサイクルは電池の調整に相当し、「CC」は「定電流」を、「CV」は「定電圧」を表す。
【0078】
サイクル1:
休止4時間(初期休止)
理論上のセル容量の15%までC/40で充電。
休止12時間
C/20~4.2VでのCC充電
C/20~2.7VでのCC放電
サイクル2以降:
C/2~4.2VでCC充電、その後C/50までCV充電
C/2~2.7VでのCC放電
【0079】
商業用途を考慮すると、約650mAh/gの比容量を有する活性粉末には、このようなフルセルで少なくとも300サイクルのサイクル寿命が必要であることが十分に認識されている。
【0080】
電池膨潤の判定
以下、「電池」「セル」「パウチセル」は全て同義語である。
【0081】
電池又はアノードの膨潤とは、充電と放電のサイクル中、電池又はアノードの厚さが変化することを意味する。カソードの膨潤は非常に限定されており、この現在の用途で開示されている全ての電池で同じカソードが使用されているため、電池の膨潤はアノードの膨潤と直接相関している。その結果、電池の充電終了時にはアノードの最大リチオ化に対応して膨潤の最大状態(電池の厚みが最大)となり、電池の放電終了時にはアノードの最大脱リチオ化に対応して膨潤の最小状態(組み立て後の初期状態を除いて電池の厚みが最小)となる。
【0082】
実施例及び比較例の粉末を活性粉末として含む電池の膨潤を、以下の方法で判定する。
【0083】
評価対象となる様々な粉末を含むパウチセルは、前述の方法に従って組み立てられる。全てのアノードは、粉末、又は粉末と黒鉛との混合物を、同様の比容量、すなわち約650mAh/gで含む。全てのアノードの担持量及び密度はほぼ同様、すなわちそれぞれ約5.5mg/cm及び1.4g/cmである。これらのパウチセルでは、アノードの粉末の性質だけが変化する。
【0084】
各パウチセル(5)の厚さは、図2で説明されているようにセットアップに導入される前にまず測定される。金属プレート(6)は、測定全体を通して、パウチセルに均一で一定の外部圧力がかかるようにし、全ての測定において、適用される圧力は7psiである。変位センサ(4)を上部の金属プレートに接触させ、測定デバイス(2)の変位値を0μmに設定する。測定デバイス(2)の精度は0.1μmである。パウチセルを、ワニ口クランプ(1)を使って電池試験機に接続する。その後、以下に説明する手順でパウチセルをサイクルする。ここで、「CC」は「定電流」を表し、「CV」は「定電圧」を表す。
【0085】
安定した厚さの値を得るための24時間の休止段階
サイクル1:
理論上のセル容量の15%までC/40でのCC充電
12時間の休止段階
4.2VまでC/20でCC充電、その後C/100までCV充電
2.7VまでC/20でCC放電
サイクル2~4:
4.2VまでC/5でCC充電、その後C/50までCV充電
2.7VまでC/5でCC放電
サイクル5:
4.2VまでC/10でCC充電、その後C/100までCV充電
【0086】
次に、記録されたデータを抽出し、処理することで、時間の関数でパウチセルの膨潤の変転をプロットする。5サイクル目の充電終了時に測定された変位(膨潤)は、アノードに含まれる粉末の性能を比較するために使用される。例として、サイクル前の電池の厚さが50μmで、5サイクル目の充電終了時の厚さが70μmの場合、電池の膨潤は40%になる。
【0087】
細孔の個別断面におけるサイズ測定
固体粒子に含まれる細孔のサイズを直接、正確に測定することは非常に困難である。水銀ポロシメトリー及びガス吸着などのいくつかの方法では、数学的モデルに基づいて、細孔の容積及びサイズの分布を定義することができる。しかし、このような方法では、細孔のサイズ、細孔の形状(球状か否か、規則性があるか否か)、多孔性の種類(連続か独立か)など、多くのパラメータが得られる結果の精度に影響する(例えば、S.Amziane and F.Collet(eds.),Bio-aggregates Based Building Materials,RILEM Stat-of-the-Art Reports 23,DOI 10.1007/978-94-024-1031-0_2を参照)。
【0088】
したがって、本願では、粉末の断面を作製し、断面を顕微鏡で分析することにした。この方法では、当業者が容易に再現できるように細孔を直接可視化し、適切な画像解析ソフトウェアを用いて画像解析を行うことで、細孔の断面の特性(サイズ、面積、形状)を容易に測定することができる。
【0089】
最大フェレット径xFmax、最小フェレット径xFmin、及び細孔の少なくとも1000個の断面の各面積を、SEMに基づく手順に従って測定するために、評価対象の粉末500mgを、4部のエポキシ樹脂(20-3430-128)と1部のエポキシ硬化剤(20-3432-032)との混合物からなる樹脂(Buehler EpoxiCure 2)7gに埋め込む。得られた直径1インチの試料を、少なくとも8時間乾燥させる。次いで、それを、最大5mmの厚さに達するまでStruers Tegramin-30を使用して最初に機械的に研磨し、次いで、6kVで約6時間、イオンビーム研磨(Cross Section Polisher Jeol SM-09010)によって更に研磨して、研磨面を得る。最後に、この研磨面上に、12秒間、Cressington 208カーボンコーターを使用してカーボンスパッタリングすることによって、カーボンコーティングを適用して、SEMで分析される試料を得る。
【0090】
xFmax、xFmin、及び細孔の少なくとも1000個の断面の各面積をTEMに基づく手順に従って測定するために、評価対象の粉末10mgを集束イオンビーム走査電極顕微鏡(FIB-SEM)装置に入れる。白金層を、粉末の表面の上部に堆積させる。FIBを使用して粉末のラメラを抜き出す。このラメラを、TEM試料ホルダー上に更に配置し、以下に記載した手順に従って分析する。
【0091】
非限定的な方法でxFmax、xFmin、及び細孔の少なくとも1000個の断面の各面積の測定を説明する目的で、以下に示す粉末の実施例1(E1)について、SEMに基づく手順を詳述する。実施例1は、SEMに基づく手順に言及しているが、本発明の範囲内の他の実施形態は、同様のTEMに基づく手順によって特徴付けることができる。
【0092】
1. 樹脂に埋め込まれた粉末の断面の複数のSEM画像を取得する(画像のうちの1つは図3aに示されている)。
【0093】
2. 細孔の断面を容易に視覚化するために、画像のコントラストと明るさの設定を調整する(図3b参照)。
【0094】
3. 適切な画像解析ソフトウェアを用いて、取得したSEM画像の1つ又は複数から、細孔の別の断面と重ならない、細孔の少なくとも1000個の個別断面を選択する。細孔のこれらの個別断面は、所与の粉末の粒子の1つ以上の断面から選択することができる。
【0095】
4. 適切な画像解析ソフトウェアを用いて、xFmax及びxFminの値、並びに細孔の少なくとも1000個の個別断面の各面積を測定する。
【0096】
5. 細孔の断面の最大フェレット径xFmaxの数に基づく分布のd50値及びd95値、及びその結果として得られるd95/d50比を算出する。
【0097】
6. 細孔の少なくとも1000個の個別断面のそれぞれについて、xFmax/xFmin比を算出するとともに、得られたxFmax/xFmin比の平均値を算出する。
【0098】
7. 選択された画像のそれぞれについて、細孔の少なくとも1000個の断面が占める面積の合計の、細孔の少なくとも1000個の断面を含む粒子の断面が占める面積の合計に対する割合を、適切な画像解析ソフトウェアを用いて求め、これらの割合の平均値Fを算出する。
【0099】
粉末の粒子径の測定
粉末の体積に基づく粒径分布をMalvern Mastersizer 2000で測定する。以下の測定条件を選択する:
圧縮範囲、活性ビーム長2.4mm、測定範囲:300RF、0.01~900μm。製造者の説明書に従って、試料の調製及び測定を行う。
【0100】
比較例及び実施例の実験的調製
本発明によらない比較例1(CE1)
プラズマガスとしてアルゴンを使用して50kW無線周波数(RF)誘導結合プラズマ(ICP)を適用することによって、ケイ素ナノ粉末を得て、それに対して、マイクロメートルサイズのケイ素粉末前駆体を約200g/時の速度で注入し、2000Kを超える行きわたった(すなわち、反応ゾーンにおける)温度を得る。この第1のプロセス工程において、前駆体は、完全に気化する。第2のプロセス工程において、ガスの温度を1600K未満まで下げるために、90Nm/時のアルゴン流を、反応ゾーンのすぐ下流で急冷ガスとして使用し、核生成させて金属性でサブミクロンのケイ素粉末とする。最後に、1モル%の酸素を含有するN/O混合物を100L/時で添加することによって、100℃の温度で5分間、不動態化工程を行う。
【0101】
ケイ素ナノ粉末の体積に基づく粒径分布は、d10=63nm、d50=113nm、d90=205nmと測定され、酸素含有量は6.9重量%であった。
【0102】
粉末CE1を作製するために、上記のケイ素ナノ粉末と、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、スクロース、コールタールピッチ、及び石油ピッチの列挙中から選択されたマトリックス前駆体粉末とのブレンドを作製する。マトリックス前駆体粉末対ケイ素ナノ粉末の重量比は、マトリックス前駆体を1000℃で熱分解した後に、炭素対ケイ素の重量比が1になるように選択される。粉末CE1の場合、及び以下の実施例及び比較例の全ての粉末の場合、使用されるマトリックス前駆体は石油ピッチである。
【0103】
このブレンドを、N下で、マトリックス前駆体粉末の軟化点よりも20℃高い温度(粉末CE1の場合は350℃の温度に相当)に加熱し、60分間待機した後、1000rpmで動作するCowles溶解機型混合機を用いて、高剪断下で30分間混合する。
【0104】
このようにして得られたマトリックス前駆体中のケイ素ナノ粉末の混合物を、N下で室温まで冷却し、固化してから、粉砕し、400メッシュのふるいでふるい分けする。ケイ素とマトリックス前駆体との得られた混合物に、以下のように熱後処理を施す:すなわち、生成物を管状炉内の石英るつぼに入れ、3℃/分の加熱速度で1000℃に加熱し、その温度で2時間保持し、次いで冷却する。このすべてを、アルゴン雰囲気中で行う。
【0105】
焼成した生成物を、アルミナボールを用いて200rpmで1時間ボールミル処理し、325メッシュのふるいにかけ、最終粉末(更に粉末CE1と呼ばれる)を形成する。
【0106】
粉末CE1中の総ケイ素含有量は、XRFにより50.2重量%と測定され、実験誤差は±0.3重量%である。粉末CE1の酸素含有量は、5.9重量%と測定される。粉末CE1の比表面積は3.5m/gと測定される。粉末CE1の粒子の体積に基づく粒径分布は、d10が3.2μm、d50が8.1μm、d90が18.4μmである。粉末CE1のこれら全ての特性も表1に示す。
【0107】
粉末CE1の断面を作製し、SEMで分析する。結果として得られる顕微鏡画像では多孔性を検出できず、細孔の各断面のxFmax及びxFmin値を測定し、結果として得られるxFmax/xFmin比の平均値、細孔の断面の最大フェレット径xFmaxの数に基づく分布のd50及びd95値、及び結果として得られるd95/d50比を計算することは不可能である。したがって、これらの値は表2にN/Aと記されている。細孔の断面が占める面積の合計の、粒子の断面が占める面積の合計に対する割合の平均値Fは、0である。
【0108】
粉末CE1は、前述の手順を適用して、電池によって達成されるサイクル寿命と電池の膨潤の両方を測定するために、電池で更に評価される。電池は初期容量の80%で257サイクルを達成し、サイクル5の充電終了時の電池の膨潤は30.5%と測定される。これらの値も表2に報告されている。
【表1】

【表2】
【0109】
本発明によらない比較例2(CE2)
粉末CE2の合成には、粉末CE1と同じケイ素ナノ粉末を使用する。粉末CE2を生成するためには、マトリックス前駆体として、前述のケイ素ナノ粉末、亜鉛ナノ粉末、及び石油ピッチ粉末のブレンドを作製する。亜鉛ナノ粉末の体積に基づく粒径分布は、d50が42nm、d95が92nmである。マトリックス前駆体粉末対ケイ素ナノ粉末の重量比は、マトリックス前駆体を1000℃で熱分解した後に、炭素対ケイ素の重量比が1になるように選択される。使用した亜鉛ナノ粉末対ケイ素ナノ粉末の重量比は1である。
【0110】
このブレンドをN下、350℃まで加熱し、60分間の待機時間の後、高剪断下で、1000rpmで動作するCowles溶解機型混合機で30分間混合する。
【0111】
このようにして得られたマトリックス前駆体中のケイ素ナノ粉末と亜鉛ナノ粉末との混合物を、N下で室温まで冷却し、固化してから、粉砕し、400メッシュのふるいでふるい分けする。得られた混合物に次のような熱的後処理を施す:生成物を管状炉内の石英るつぼに入れ、3℃/分の加熱速度で1000℃まで加熱し、その温度で2時間保持した後、冷却する。これらの作業は全てアルゴン雰囲気下で行われる。混合物中に存在する亜鉛ナノ粒子は、1000℃未満で蒸発し(亜鉛の沸点は907℃)、その結果、熱処理中に作製されたカーボンマトリックス内に細孔が残る。
【0112】
焼成した生成物を、アルミナボールを用いて200rpmで1時間ボールミル処理し、325メッシュのふるいにかけ、最終粉末(更に粉末CE2と呼ばれる)を形成する。
【0113】
粉末CE2中の総ケイ素含有量は、XRFにより50.1重量%と測定され、実験誤差は±0.3重量%である。粉末CE2の酸素含有量は、6.0重量%と測定される。粉末CE2の比表面積は18.6m/gと測定される。粉末CE2の粒子の体積に基づく粒径分布は、d10が3.6μm、d50が8.7μm、及びd90が19.3μmである。粉末CE2のこれら全ての特性も表1に示す。
【0114】
粉末CE2の断面を作製し、SEMで分析する。選択された顕微鏡画像の画像解析に基づいて、細孔の各断面のxFmax及びxFmin値が測定され、結果として得られるxFmax/xFmin比の平均値が計算され、この後者は2.12となる。また、同じ画像に基づいて、細孔の断面の最大フェレット径xFmaxの数に基づく分布のd50値及びd95値、及び結果として得られるd95/d50比も算出され、d50値は56nm、d95値は182nmとなる。亜鉛のナノ粒子のd95(92nm)よりも、粉末CE2の細孔の断面のサイズが大きい(xFmax d95=182nm)のは、熱処理前に混合物中に存在する大量の亜鉛に起因して、亜鉛ナノ粒子の凝集体が形成されることによって説明され得る。
【0115】
細孔の断面が占める面積の合計の、粒子の断面が占める面積の合計に対する割合の平均値Fも、同じ画像の分析に基づいて計算され、0.228となる。これらの値を全て表2に報告する。
【0116】
粉末CE2は、前述の手順を適用して、電池によって達成されるサイクル寿命と電池の膨潤の両方を測定するために、電池で更に評価される。電池は初期容量の80%で176サイクルを達成し、サイクル5の充電終了時の電池の膨潤は31.1%と測定される。これらの値も表2に報告されている。前述したように、細孔が多すぎて大きすぎる粒子を含む粉末を含む電池では、粒子に破断又は亀裂が生じ、最終的には炭素構造が崩れて、SEI形成が増加し、サイクル寿命が極端に短くなり、電池の膨潤という点では何の利益もあり得ない。粉末CE2を含む電池の性能が低いのは、これにより説明し得る。
【0117】
本発明による実施例1(E1)
ケイ素ナノ粉末、亜鉛ナノ粉末、及びマトリックス前駆体粉末のブレンドにおいて、亜鉛ナノ粉末対ケイ素ナノ粉末の重量比が1ではなく0.1であることを除いて、粉末E1は、粉末CE2と同じ方法に従って調製される。それ以外の部分は全て同じである。
【0118】
粉末E1のケイ素含有量、酸素含有量、BET、及び体積に基づく粒径分布の値を表1に示す。
【0119】
粉末E1の断面を作製し、SEMで分析する。細孔の断面のxFmax/xFmin比の平均値、細孔の断面の最大フェレット径xFmaxの数に基づく分布のd50及びd95値、及びその結果としてのd95/d50比、並びに細孔の断面が占める面積の合計の、粒子の断面が占める面積の合計に対する割合の平均値Fは、表2に報告されている。
【0120】
粉末E1は、前述の手順を適用して、電池によって達成されるサイクル寿命と電池の膨潤の両方を測定するために、電池で更に評価される。結果を表2に報告する。
【0121】
本発明による実施例2(E2)
ケイ素ナノ粉末、亜鉛ナノ粉末、及びマトリックス前駆体のブレンドにおいて、亜鉛ナノ粉末対ケイ素ナノ粉末の重量比を1ではなく0.5とし、PSDがわずかに異なる亜鉛ナノ粉末(d50が35nm、d95が51nm)を使用することを除いて、粉末E2は、粉末CE2と同じ方法に従って調製される。それ以外の部分は全て同じである。
【0122】
粉末E2のケイ素含有量、酸素含有量、BET、及び体積に基づく粒径分布の値を表1に示す。
【0123】
粉末E2の断面を作製し、SEMで分析する。細孔の断面のxFmax/xFmin比の平均値、細孔の断面の最大フェレット径xFmaxの数に基づく分布のd50及びd95値、及びその結果としてのd95/d50比、並びに細孔の断面が占める面積の合計の、粒子の断面が占める面積の合計に対する割合の平均値Fは、表2に報告されている。
【0124】
粉末E2は、前述の手順を適用して、電池によって達成されるサイクル寿命と電池の膨潤の両方を測定するために、電池で更に評価される。結果を表2に報告する。
【0125】
本発明によらない比較例3及び4、及び本発明による実施例3及び4
同様の方法を適用して、Si含有量が20.0重量%(±0.3重量%)の4つの粉末を得た。
【0126】
マトリックス前駆体粉末対ケイ素ナノ粉末の重量比が、マトリックス前駆体を1000℃で熱分解した後に、炭素対ケイ素の重量比が1ではなく4になるように選択されることを除いて、粉末CE3、CE4、E3、及びE4は、それぞれ粉末CE1、CE2、E1、及びE2と同様の方法に従って作製される。それ以外の部分は全く同じである。
【0127】
粉末CE3、CE4、E3、及びE4のケイ素含有量、酸素含有量、BET及び体積に基づく粒径分布の値を表3に示す。
【0128】
粉末CE3、CE4、E3、及びE4の断面を作製し、SEMで分析する。細孔の断面のxFmax/xFmin比の平均値、細孔の断面の最大フェレット径xFmaxの数に基づく分布のd50及びd95値、及び結果として得られるd95/d50比、並びに粉末CE3、CE4、E3及びE4について、細孔の断面が占める面積の合計の、粒子の断面が占める面積の合計に対する割合の平均値Fを表4に報告する。
【0129】
粉末CE3、CE4、E3及びE4は、前述の手順を適用して、電池によって達成されるサイクル寿命と電池の膨潤の両方を測定するために、電池で更に評価される。結果を表4に報告する。
【0130】
両方のケイ素含有量(約50重量%及び約20重量%)において、本発明による粉末を含むセルは、本発明によらない粉末を含むセルよりも、膨潤とサイクル寿命の両方の点で著しく良好に機能することが分かる。
【表3】

【表4】
【符号の説明】
【0131】
1 接続部
2 測定デバイス
3 スタンド
4 変位センサ
5 パウチセル
6 金属プレート
図1
図2
図3a
図3b
【手続補正書】
【提出日】2022-05-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池の負極に使用するための粉末であって、粒子を含み、前記粒子が、炭素質マトリックス材料と、前記炭素質マトリックス材料中に分散されたケイ素系ドメインとを含み、前記粒子が、細孔を更に含み、前記粒子は、前記粉末の断面において、前記断面が細孔の少なくとも1000個の個別断面を含むことを特徴とする、すなわち、
細孔の前記少なくとも1000個の個別断面のそれぞれが、最大フェレット径xFmax、最小フェレット径xFmin、及び面積を有し、xFmax、xFmin、及び面積が、前記粉末の前記断面の少なくとも1つの電子顕微鏡画像の画像解析によって測定され、かつ、
細孔の前記少なくとも1000個の個別断面が、d50値及びd95値を有する最大フェレット径の数に基づく分布を有し、d95≦150nm、かつ比d95/d50≦3.0であることを特徴とし、
前記粉末が、重量パーセント(重量%)で表されるケイ素含有量Cを更に有し、3×10-4×C≦F≦4×10-3×Cであり、F=Sp/Scであり、Spが、細孔の前記少なくとも1000個の個別断面の各面積の合計であり、Scが、細孔の前記少なくとも1000個の個別断面を含む粒子の前記断面の各面積の合計であり、Sc及びSpが、前記粉末の前記断面の同一の前記少なくとも1つの電子顕微鏡画像上で測定される、粉末。
【請求項2】
重量パーセント(重量%)で表されるケイ素含有量Cを有し、10重量%≦C≦60重量%である、請求項1に記載の粉末。
【請求項3】
細孔の前記少なくとも1000個の個別断面のそれぞれが、最大フェレット径xFmax、最小フェレット径xFmin、及び比xFmax/xFminを有し、細孔の前記少なくとも1000個の個別断面の前記比xFmax/xFminの平均値が、最大で2.0である、請求項1又は2に記載の粉末。
【請求項4】
細孔の前記少なくとも1000個の断面の前記比xFmax/xFminの平均値が、最大で1.5である、請求項3に記載の粉末。
【請求項5】
前記d95値が、90nm以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項6】
少なくとも90重量%、好ましくは少なくとも95重量%の前記粒子を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項7】
前記ケイ素系ドメインが、少なくとも65重量%のケイ素、好ましくは少なくとも80重量%のケイ素を有する化学組成を有し、好ましくは前記ケイ素系ドメインが、Si及びO以外の他の元素を含まない、請求項1~6のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項8】
ケイ素含有量C及び酸素含有量Dを有し、両方とも重量パーセント(重量%)で表され、D≦0.15C、好ましくはD≦0.12Cである、請求項1~7のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項9】
最大で15m/g、好ましくは最大で12m/gのBET表面積を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項10】
前記粒子が、0.1μm~10μmのd10、2μm~20μmのd50、及び3μm~30μmのd90を有する体積に基づく粒径分布を有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項11】
前記マトリックス材料が、以下の化合物:ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、スクロース、コールタールピッチ、石油ピッチ、リグニン、樹脂のうちの少なくとも1つの熱分解の生成物であることを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項12】
負極を有する電池であって、前記負極が請求項1~11のいずれか一項に記載の粉末を含む、電池。
【国際調査報告】