(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-18
(54)【発明の名称】フェノール系副産物の分解方法
(51)【国際特許分類】
C07C 37/74 20060101AFI20221011BHJP
C07C 39/04 20060101ALI20221011BHJP
【FI】
C07C37/74
C07C39/04
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022504560
(86)(22)【出願日】2021-06-15
(85)【翻訳文提出日】2022-01-31
(86)【国際出願番号】 KR2021007491
(87)【国際公開番号】W WO2022014876
(87)【国際公開日】2022-01-20
(31)【優先権主張番号】10-2020-0088698
(32)【優先日】2020-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カン、ミン スク
(72)【発明者】
【氏名】リー、サン ボム
(72)【発明者】
【氏名】ソン、ジ ヒャン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン、チ ヒュン
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AD11
4H006AD16
4H006BD84
4H006FE13
(57)【要約】
本発明はフェノール系副産物の分解方法に関し、より詳細には、フェノール系副産物ストリームを分解装置に供給して熱分解するステップと、前記分解装置において有効成分を含む上部排出ストリームと高沸点物質を含む下部排出ストリームを分離するステップと、前記分解装置の下部排出ストリーム、分解装置の側面排出ストリーム及び工程水ストリームを混合装置に供給して混合するステップと、前記混合装置の排出ストリームを層分離装置に供給して油相及び水相を分離するステップと、を含むフェノール系副産物の分解方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノール系副産物ストリームを分解装置に供給して熱分解するステップと、
前記分解装置において有効成分を含む上部排出ストリームと高沸点物質を含む下部排出ストリームを分離するステップと、
前記分解装置の下部排出ストリーム、分解装置の側面排出ストリーム及び工程水ストリームを混合装置に供給して混合するステップと、
前記混合装置の排出ストリームを層分離装置に供給して油相及び水相を分離するステップと、を含む、フェノール系副産物の分解方法。
【請求項2】
前記フェノール系副産物は、フェノール製造工程で発生するフェノール系副産物及びビスフェノールA製造工程で発生するフェノール系副産物のうちいずれか1つ以上を含む、請求項1に記載のフェノール系副産物の分解方法。
【請求項3】
前記フェノール系副産物は、フェノール製造工程で発生するフェノール系副産物及びビスフェノールA製造工程で発生するフェノール系副産物の混合物である、請求項1に記載のフェノール系副産物の分解方法。
【請求項4】
前記フェノール系副産物は、ビスフェノールA、フェノール、α-メチルスチレン、アセトフェノン、クミルフェノール及びα-メチルスチレンダイマーからなる群から選択された1種以上を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載のフェノール系副産物の分解方法。
【請求項5】
前記フェノール系副産物内に含まれた工程水の含量は2重量%以下である、請求項1から4のいずれか一項に記載のフェノール系副産物の分解方法。
【請求項6】
前記層分離装置から排出される油相ストリームから高沸点物質を回収する、請求項1から5のいずれか一項に記載のフェノール系副産物の分解方法。
【請求項7】
前記層分離装置から排出される水相ストリームの一部のストリームは前記混合装置に供給し、残りのストリームは塩を含む廃水として排出する、請求項1から6のいずれか一項に記載のフェノール系副産物の分解方法。
【請求項8】
前記有効成分は、ビスフェノールA、フェノール、α-メチルスチレン及びクメンからなる群から選択された1種以上を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載のフェノール系副産物の分解方法。
【請求項9】
前記分解装置の側面排出ストリームは、アセトフェノンを40重量%以上含む、請求項1から8のいずれか一項に記載のフェノール系副産物の分解方法。
【請求項10】
前記分解装置の下部排出ストリーム及び分解装置の側面排出ストリームは混合ストリームを形成し、前記混合ストリームが混合装置に供給される、請求項1から9のいずれか一項に記載のフェノール系副産物の分解方法。
【請求項11】
前記混合ストリームは、混合装置に投入する前に冷却器を経る、請求項10に記載のフェノール系副産物の分解方法。
【請求項12】
前記混合装置に供給される分解装置の下部排出ストリーム、分解装置の側面排出ストリーム及び工程水ストリームの流量比は1:0.2~0.8:1~3である、請求項1から11のいずれか一項に記載のフェノール系副産物の分解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年07月17日付けの韓国特許出願第10-2020-0088698号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示されたすべての内容は、本明細書の一部として組み込まれる。
【0002】
本発明は、フェノール系副産物の分解方法に関し、より詳細には、エネルギー損失なしに分解装置のリボイラー内のファウリングの発生を低減させ、フェノール系副産物から有効成分と高沸点物質を分離し、分離された高沸点物質を脱塩して前記高沸点物質の活用を容易にする方法に関する。
【背景技術】
【0003】
世界中で使用されているフェノールの約95%は、一般的にホック工程(Hock process)によって生産される。前記ホック工程は、(1)ベンゼンをプロピレンでアルキル化してクメンを形成するステップ、(2)クメンを酸素と結合させてクメンヒドロパーオキシド(Cumene Hydroperoxide、CHP)に酸化させるステップ、及び(3)クメンヒドロパーオキシドを酸触媒下で酸分解反応によりフェノールとアセトンに分解させるステップの3ステップで実施される。
【0004】
ここで、前記(2)ステップであるクメンの酸化ステップでは、クメンヒドロパーオキシド以外にも、アセトフェノン(Acetophenone、AP)、ジメチルベンジルアルコール(Dimethyl benzyl alcohol、DMBA)、ジクミルパーオキシド(Dicumylperoxide、DCP)及びジクメン(Dicumene、DC)などの副産物(By-product)が生成される。
【0005】
また、前記(3)ステップであるクメンヒドロパーオキシドの酸分解反応では、フェノール及びアセトン以外にも、ヒドロキシアセトン(Hydroxy acetone、HA)、2-メチルベンゾフラン(2-Methylbenzofuran、2-MBF)、α-メチルスチレン(Alpha-methyl styrene、AMS)、メシチルオキシド(Mesityl oxide、MO)、α-メチルスチレンダイマー(AMS dimer)及びクミルフェノール(Cumyl phenol、CP)などが副産物(By-product)として生成される。
【0006】
したがって、前記のような反応工程を通じて生成された生成物ストリームは、フェノール、アセトン、及び様々な副産物が混合された状態で存在するため、生成物ストリームからフェノールを分離するための一連の分離工程が必要である。
【0007】
前記生成物ストリームは別途の分離装置に投入され、未反応のクメン、アセトン、α-メチルスチレン及びヒドロキシアセトンなどを含むアセトン系混合物は分離装置の塔頂で分離され、フェノールと一部のα-メチルスチレン、2-メチルベンゾフラン及びその他の副産物などを含むフェノール系混合物は分離装置の塔底で分離される。
【0008】
前記分離装置の塔底で分離されたフェノール系混合物はフェノールカラムに投入され、フェノールはフェノールカラムの塔頂で分離され、ジクミルパーオキシド、クミルフェノール、α-メチルスチレンダイマー及びタール(tar)などのようなフェノール系副産物は前記フェノールカラムの塔底で分離される。
【0009】
また、一般的にビスフェノールA(Bisphenol A、BPA)を生産する工程は、前記ホック工程から生産されたフェノール及びアセトンを酸性触媒またはカチオン交換樹脂の存在下で縮合反応させてビスフェノールAを製造する工程である。
【0010】
これにより、前記ビスフェノールAの反応生成物ストリーム内には、ビスフェノールAの他にも、未反応フェノール、未反応アセトン、トリスフェノール(Trisphenol、BPX)及びタール(Tar)などが副産物として生成される。
【0011】
前記フェノール工程及びビスフェノールAの製造工程で発生する副産物は、別途の分解装置を介してフェノール、クメン、α-メチルスチレンのような有効成分を回収することができ、効率的に有効成分を回収可能な分解工程及び分解装置に対する研究が進められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明で解決しようとする課題は、前記発明の背景となる技術で述べた問題を解決するために、フェノール系副産物を分解する際、分解装置のリボイラー内のファウリングの発生を低減させ、高付加価値の有効成分を得て、高沸点物質を分離して脱塩させることにより、活用を容易にする方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記の課題を解決するための本発明の一実施例によれば、本発明は、フェノール系副産物ストリームを分解装置に供給して熱分解するステップと、前記分解装置において有効成分を含む上部排出ストリームと高沸点物質を含む下部排出ストリームを分離するステップと、前記分解装置の下部排出ストリーム、分解装置の側面排出ストリーム及び工程水ストリームを混合装置に供給して混合するステップと、前記混合装置の排出ストリームを層分離装置に供給して油相及び水相を分離するステップと、を含むフェノール系副産物の分解方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るフェノール系副産物の分解方法に従って、フェノール系副産物を分解する場合、高付加価値の有効成分と燃料等として活用される高沸点物質を得ることができる。
また、前記フェノール系副産物内に工程水がほとんど存在せず、分解装置のリボイラー内のファウリングの発生を防止することができる。
また、前記高沸点物質が分離される分解装置の下部排出ストリーム内に含まれた塩を分解装置の側面排出ストリームを用いて除去することにより、塩除去効率を向上させ、塩が除去された高沸点物質を燃料として用いることにより、装置内のファウリングの発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施例に係る、フェノール系副産物の分解方法に対する工程フローチャートである。
【
図2】比較例に係るフェノール系副産物の分解方法に対する工程フローチャートである。
【
図3】比較例に係るフェノール系副産物の分解方法に対する工程フローチャートである。
【
図4】比較例に係るフェノール系副産物の分解方法に対する工程フローチャートである。
【
図5】比較例に係るフェノール系副産物の分解方法に対する工程フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の説明及び特許請求の範囲で使用される用語や単語は、通常的または辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者はその自分の発明を最も最良の方法で説明するために用語の概念を適切に定義することができるという原則に則って、本発明の技術的思想に符合する意味及び概念として解釈されるべきである。
【0017】
本発明において、「ストリーム(stream)」という用語は、工程内の流体(fluid)の流れを意味するものであってもよく、かつ、配管内で流れる流体自体を意味するものであってもよい。具体的に、前記「ストリーム」は、各装置を連結する配管内で流れる流体自体及び流体の流れを同時に意味するものであってもよい。また、前記流体は気体(gas)または液体(liquid)を意味してもよい。
【0018】
以下、本発明に対する理解を助けるために、本発明を
図1を参照してさらに詳細に説明する。
本発明によれば、フェノール系副産物の分解方法が提供される。前記フェノール系副産物の分解方法は、フェノール系副産物ストリームを分解装置に供給して熱分解するステップと、前記分解装置において有効成分を含む上部排出ストリームと高沸点物質を含む下部排出ストリームを分離するステップと、前記分解装置の下部排出ストリーム、分解装置の側面排出ストリーム及び工程水ストリームを混合装置に供給して混合するステップと、前記混合装置の排出ストリームを層分離装置に供給して油相及び水相を分離するステップと、を含むことができる。
【0019】
本発明の一実施例によれば、前記フェノール系副産物は、フェノール製造工程で発生するフェノール系副産物及びビスフェノールA製造工程で発生するフェノール系副産物のうちいずれか1つ以上を含むことができる。例えば、前記フェノール系副産物は、フェノール製造工程で発生するフェノール系副産物、ビスフェノールA製造工程で発生するフェノール系副産物またはフェノール製造工程で発生するフェノール系副産物及びビスフェノールA製造工程で発生するフェノール系副産物の混合物であってもよい。より具体的に、前記フェノール系副産物は、フェノール製造工程で発生するフェノール系副産物及びビスフェノールA製造工程で発生するフェノール系副産物の混合物であってもよい。
【0020】
前記フェノール製造工程は、前述のホック工程(Hock process)を通じて行われることができる。具体的に、フェノール製造工程は、クメンの酸化反応により製造されたクメンヒドロパーオキシドを分解及び精製して、フェノール及びアセトンを分離するステップを通じて行われることができる。前記クメンの酸化反応により製造されたクメンヒドロパーオキシドを分解及び精製して、フェノール及びアセトンを分離するステップは、クメン精製工程とフェノール/アセトン精製工程を用いるステップであって、まず、プロピレン(propylene)及びベンゼン(benzene)をアルキル化反応させてクメンを製造した後、精製工程を通じて重質(heavy)/軽質(light)副産物を排出させ、クメンは精製分離する。次いで、精製されたクメンを酸化反応させてクメンヒドロパーオキシド(cumene hydro peroxide、CHP)を製造した後、硫酸(H2SO4)など、通常の酸触媒下で前記クメンヒドロパーオキシド(CHP)を分解反応させ、フェノール、アセトン、α-メチルスチレン(α-methyl stylene、AMS)及び重質(heavy)副産物などを生成し、精製工程を通じてα-メチルスチレン(AMS)及び重質副産物は排出させ、フェノール及びアセトンは精製分離する。
【0021】
前記のような反応工程を通じて生成された生成物ストリームは、フェノール、アセトン及び様々な副産物が混合された状態で存在するため、生成物ストリームからフェノールを分離するための一連の分離工程が必要である。
【0022】
前記生成物ストリームは別途の分離装置に投入され、未反応のクメン、アセトン、α-メチルスチレン及びヒドロキシアセトンなどを含むアセトン系混合物は分離装置の塔頂で分離され、フェノールと一部のα-メチルスチレン、2-メチルベンゾフラン及びその他の副産物などを含むフェノール系混合物は分離装置の塔底で分離される。
【0023】
前記分離装置の塔底で分離されたフェノール系混合物は、フェノールカラムに投入され、フェノールはフェノールカラムの塔頂で分離され、ジクミルパーオキシド、クミルフェノール、α-メチルスチレンダイマー及びタール(tar)等のようなフェノール系副産物は前記フェノールカラムの塔底で分離される。結果的に、フェノール製造工程で発生するフェノール系副産物は、フェノール、クメン及びα-メチルスチレンなどのような一部の有効成分とタールを含むことができる。
【0024】
また、前記ビスフェノールA製造工程は、前述のホック工程により製造されたフェノールとアセトンとを反応させてビスフェノールAを製造し、前記反応生成物からビスフェノールAを回収する方法で行われることができる。具体的に、前記ビスフェノールA製造工程は、クメンの酸化反応により製造されたクメンヒドロパーオキシドを分解及び精製して、フェノール及びアセトンを分離するステップと、前記分離されたフェノール及びアセトンを反応させて製造されたビスフェノールAを分離し、分離されていないビスフェノールAを含むストリームをアルカリ水溶液下で分解するステップと、前記分解反応による反応生成物、フェノール系副産物及びアセトン系副産物を分離するステップと、を通じて行われることができる。
【0025】
前記クメンの酸化反応により製造されたクメンヒドロパーオキシドを分解及び精製して、フェノール及びアセトンを分離するステップは、クメン精製工程とフェノール/アセトン精製工程を用いる工程であって、まず、プロピレン(propylene)及びベンゼン(benzene)をアルキル化反応させてクメンを製造した後、精製工程を通じて重質(heavy)/軽質(light)副産物を排出させ、クメンは精製分離する。次いで、精製されたクメンを酸化反応させてクメンヒドロパーオキシド(cumene hydro peroxide、CHP)を製造した後、硫酸(H2SO4)など、通常の酸触媒下で前記クメンヒドロパーオキシド(CHP)を分解反応させて、フェノール、アセトン、α-メチルスチレン(α-methyl stylene、AMS)及び重質(heavy)副産物などを生成し、精製工程を通じてα-メチルスチレン(AMS)及び重質副産物は排出させ、フェノール及びアセトンは精製分離する。
【0026】
前記分離されたフェノール及びアセトンを反応させて製造されたビスフェノールAを分離し、分離されていないビスフェノールAを含むストリームをアルカリ水溶液下で分解するステップは、ビスフェノールA(bisphenol A、BPA)精製工程を用いる工程であって、まず、前記精製分離されたフェノール及びアセトンを反応させてビスフェノールA、より正確には、粗(crude)ビスフェノールAを製造した後、結晶化工程を経て純度が向上したビスフェノールAが製造される。このように製造されたビスフェノールAはBPA精製工程を経て分離され、分離されていないビスフェノールAを含む副産物はNaOH、KOH及びLiOHのような塩基の性質を有する過剰のアルカリ水溶液下で分解される。
【0027】
前記分解反応による反応生成物、フェノール系副産物及びアセトン系副産物を分離するステップは、前記分解反応が完了したストリームを分離装置に供給して、アセトン系混合物は分離装置の塔頂で分離され、反応生成物は分離装置の塔底で分離されることができる。前記反応生成物は、ビスフェノールAのフェノールカラムに投入され、ビスフェノールAは塔頂で分離され、ビスフェノールA、フェノール、ジクミルパーオキシド、クミルフェノール、α-メチルスチレンダイマー及びタール(tar)などのようなフェノール系副産物は前記塔底で分離される。この際、前記フェノール系副産物には、不純物であるタール以外にも、生成物であるビスフェノールAと、クメン及びα-メチルスチレンなどのような有効成分を含んでいる。
【0028】
結果的に、ビスフェノールA製造工程で発生するフェノール系副産物は、フェノール、クメン、及びα-メチルスチレンなどのような一部の有効成分とタールのような高沸点物質を含むことができる。
【0029】
したがって、前記ビスフェノールA製造工程で発生するフェノール系副産物とフェノール製造工程で発生するフェノール系副産物の混合物は、ビスフェノールA、フェノール、α-メチルスチレン、アセトフェノン、クミルフェノール及びα-メチルスチレンダイマーからなる群から選択された1種以上を含むことができる。具体的な例として、フェノール系副産物は、ビスフェノールA、フェノール、α-メチルスチレン、アセトフェノン、クミルフェノール及びα-メチルスチレンダイマーからなる群から選択された2種以上、またはこれらを全て含むものであってもよい。
【0030】
前記フェノール系副産物は、ビスフェノールA製造工程で発生するフェノール系副産物とフェノール製造工程で発生するフェノール系副産物を1:2~10の流量比で含むことができる。例えば、前記フェノール系副産物は、ビスフェノールA製造工程で発生するフェノール系副産物とフェノール製造工程で発生するフェノール系副産物を1:2~10、1:4~10、または1:6~10の流量比で含むことができる。このように、ビスフェノールA製造工程で発生するフェノール系副産物に比べて、フェノール製造工程で発生するフェノール系副産物の含量の高いフェノール系副産物を分解することが分解装置100への負荷を防止し、工程におけるエネルギー使用量を節減する面で好ましい。
【0031】
本発明の一実施例によれば、前記フェノール系副産物ストリームを分解装置100に供給して熱分解することができる。前記分解装置100で実施される分解は熱分解であってもよく、これを実施するための分解装置100は熱分解装置(thermal cracker)であってもよい。具体的な例として、前記熱分解装置100は、反応器-蒸留塔の一体型分離装置であってもよい。
【0032】
前記分解装置100の上部から有効成分を分離し、下部からタールを含む高沸点物質を効果的に分離するために、前記分解装置100は260℃~370℃、290℃~370℃または300℃~350℃の温度及び0.1bar~3bar、0.1bar~2barまたは0.1bar~1.0barの圧力で運転することができる。
【0033】
前記分解装置100では、上部排出ストリームから有効成分を分離することができる。前記有効成分は、例えば、フェノール、α-メチルスチレン及びクメンからなる群から選択された1種以上を含むことができる。また、前記分解装置100の下部排出ストリームはタール(tar)を含むストリームであって、回収されてボイラーなどの燃料として再使用することができる。
【0034】
前記フェノール系副産物は、フェノール製造工程及びビスフェノールA製造工程から排出されるフェノール系副産物を含んでいるため、前述のクメンヒドロパーオキシドの酸分解反応により微量の塩を含むことができる。前記塩は、タールのような高沸点物質が分離される分解装置100の下部排出ストリーム内に含まれて分離されることができるため、塩が含まれた高沸点物質をボイラーなどの燃料として使用する場合、ボイラー内のファウリングを誘発する可能性がある。
【0035】
前記フェノール系副産物内の塩を除去するために、前記フェノール系副産物ストリームを分解装置100に供給する前に脱塩工程を経て、前記脱塩工程を通じて塩が除去された油相をフェノール系副産物として分解装置に供給して熱分解することができるが、この場合、脱塩工程で分離される油相内に工程水が約2.5重量%~5重量%残存するようになる。このようにフェノール系副産物内に残存する工程水は、以後のフェノール系副産物から有効成分を収得するためのフェノール系副産物の分解時、分解装置100のリボイラー110を通過するときに、一部が蒸発して水溶性塩の沈殿によるファウリングが発生するという問題がある。また、この場合は、フェノール製造工程及びビスフェノール製造工程で発生する高温のフェノール系副産物を脱塩させるために冷却しなければならず、脱塩工程を経た低温の油相ストリームを分解装置100に供給して加熱するためのエネルギー使用量が増加するという問題がある。さらに、前記分解装置100において加熱のためのエネルギーを節減するために別途の予熱器を備えることができるが、工程が複雑となり、投資費と設備メンテナンスコストが増加するという問題がある。
【0036】
したがって、本発明では、工程水の含量が2.0重量%以下、0.01重量%~1.5重量%または0.01重量%~0.5重量%であり、工程水がほとんど存在しないフェノール製造工程及びビスフェノールA製造工程から排出されるフェノール系副産物を直ちに分解装置100に供給して分解することができる。これにより、分解装置100のリボイラー110でファウリングが発生することを防止することができ、前記高沸点物質を含む分解装置100の下部排出ストリームを脱塩させることにより、以後、高沸点物質をボイラーなどの燃料として使用するときに、ボイラーで発生するファウリングの発生も防止することができる。
【0037】
本発明の一実施例によれば、前記分解装置100の下部排出ストリームは脱塩工程を経ることができる。具体的に、前記分解装置100の下部排出ストリームは混合装置200に供給され、前記混合装置200において分解装置100の側面排出ストリーム及び工程水と混合されることができる。
【0038】
前記工程水は、フェノール系副産物ストリーム内の塩を溶解して除去するためのものであって、蒸留水以外にも、酸性を示す水溶液、塩基性を示す水溶液など、各種の水溶液を全て含む意味であってもよい。
【0039】
前記工程水は、pHが3.5~7、3.5~5.5または3.5~4.5であってもよく、この範囲内で混合装置200及び層分離装置300の腐食を防止しながらも、塩の溶解度を向上させ、層分離装置内で油相と水相の分離時に相分離能力を向上させる効果がある。
【0040】
前記混合装置200は、分解装置100の下部排出ストリーム、分解装置100の側面排出ストリーム及び工程水ストリームを混合するための混合器であってもよい。具体的な例として、前記混合器は、前記分解装置100の下部排出ストリーム、分解装置100の側面排出ストリーム及び工程水ストリームの混合を容易に実施するためにラインミキサー(line mixer)又はスタティックミキサー(static mixer)を備えたものであってもよい。
【0041】
前記分解装置100の側面排出ストリームは、分解装置100の総段数の25%~90%、40%~90%または50%~90%の段から排出されるものであってもよい。この場合、アセトフェノンが分解装置100の上部排出ストリームに排出されることを著しく低減させる効果がある。
【0042】
前記分解装置100の側面排出ストリームは、アセトフェノンを40重量%以上含むことができる。例えば、前記分解装置100の側面排出ストリームは、アセトフェノンを40重量%~99重量%、55重量%~99重量%または60重量%~99重量%で含むものであってもよい。前記アセトフェノンは、フェノール系副産物ストリームに含まれている有機物であって、フェノール系副産物の分解反応により収得される有効成分と対比して不純物として作用するため、有効成分内のアセトフェノンの含量を最小化することが好ましい。したがって、本発明に従って前記分解装置100の側面排出ストリームがアセトフェノンを40重量%以上含む場合、分解装置100の側面排出ストリームを分離することにより、フェノール系副産物の分解反応により収得される有効成分内のアセトフェノンの含量を最小化することができ、有効成分の収得の面で有利な効果がある。また、前記アセトフェノンの含量の高い分解装置100の側面排出ストリームを混合装置200に供給して、分解装置100の下部排出ストリームの脱塩工程の補助剤として使用することにより、油相と塩を含む水相との相分離を活性化させ、油相内に塩が残存することを最小化することができる。
【0043】
また、前記分解装置100の側面排出ストリームと分解装置100の下部排出ストリームは混合ストリームを形成し、前記混合ストリームが混合装置200に供給されてもよい。この場合、タールの含量が高くて流れ性の悪い分解装置100の下部排出ストリームの流れ性を改善することができる。具体的に、前記分解装置100の側面排出ストリームを用いて前記分解装置100の下部排出ストリームの粘度を下げて流れ性を改善することができる。
【0044】
前記分解装置100の側面排出ストリームと分解装置100の下部排出ストリームの混合ストリームは、高温で運転される分解装置100から排出されるストリームであり、高温であってもよい。したがって、前記混合ストリームを混合装置200に供給する前に工程水の気化を防止するためには、前記混合ストリームを冷却させる必要がある。具体的に、前記混合ストリームは別途の冷却器400を用いて冷却させた後、混合装置200に供給されて工程水と混合されることができる。
【0045】
前記分解装置100の下部排出ストリームの一部のストリームは、リボイラー110を通過して分解装置100に循環され、残りのストリームは混合装置200に供給されてもよい。
【0046】
本発明の一実施例によれば、前記混合装置200に供給される分解装置100の下部排出ストリーム、分解装置100の側面排出ストリーム及び工程水ストリームの流量比は、1:0.2~0.8:1~3、1:0.3~0.7:1.2~2.8または1:0.4~0.6:1.3~1.8であってもよい。前記分解装置100の下部排出ストリーム、分解装置100の側面排出ストリーム及び工程水ストリームの流量比を前記範囲に制御することにより、分解装置100の下部排出ストリーム、分解装置100の側面排出ストリーム及び工程水ストリームの混合はもちろん、後述する層分離装置300における油相及び水相の相分離能力が向上し、分解装置100の下部排出ストリーム内に含まれた塩除去効率が向上する効果がある。
【0047】
本発明の一実施例によれば、前記混合装置200の排出ストリームは、層分離装置300に供給され、前記層分離装置300で油相及び水相に相分離することができる。具体的に、前記層分離装置300は、前記分解装置100の下部排出ストリーム内に含まれた塩を除去し、塩が除去された高沸点物質を含む油相と、塩を含む水相とに相分離するものであってもよい。
【0048】
前記層分離装置300から排出される油相ストリームは、塩が除去された高沸点物質を含むものであって、前記層分離装置300から排出される油相ストリームから高沸点物質を回収することができる。前記回収された高沸点物質は、ボイラー等の燃料として使用することができ、この場合、高沸点物質内の塩が除去されてボイラー内のファウリングの発生を防止することができる。
【0049】
前記層分離装置300から排出される水相ストリームの一部のストリームは、前記混合装置200に供給され、残りのストリームは塩を含む排水として排出される。
【0050】
前記層分離装置300は、油相及び水相を相分離するためのドラム(drum)であってもよい。
【0051】
前記層分離装置300において油相及び水相を相分離するために、前記混合装置200の排出ストリームを層分離装置300内に1時間~10時間、2時間~8時間、または4時間~6時間滞留させるステップを含むことができる。このように、前記混合装置200の排出ストリームを層分離装置300内に滞留させる場合、相分離がより明確に起こることができ、これにより、分解装置100の下部排出ストリーム内の塩を最大限に除去することができる効果がある。
【0052】
本発明の一実施例によれば、フェノール系副産物の分解方法では、必要な場合、蒸留カラム(図示せず)、コンデンサ(図示せず)、リボイラー(図示せず)、バルブ(図示せず)、ポンプ(図示せず)、分離器(図示せず)及び混合器(図示せず)などの装置をさらに設置することができる。
【0053】
以上、本発明に係るフェノール系副産物の分解方法を記載及び図面に示したが、前記の記載及び図面の図示は、本発明を理解するための核心的な構成のみを記載及び図示したものであり、前記記載及び図面に示した工程及び装置以外に、別途に記載及び図示されていない工程及び装置は、本発明に係るフェノール系副産物の分解方法を実施するために適宜応用して使用されることができる。
【0054】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。しかし、下記の実施例は、本発明を例示するためのものであって、本発明の範疇及び技術思想の範囲内で様々な変更及び修正が可能であることは通常の技術者にとって自明なものであり、本発明の範囲はこれらのみに限定されるものではない。
【0055】
実施例
実施例1
図1に示された工程フローチャートを利用しAspen社のAspen Plusシミュレータを用いて、工程をシミュレーションした。具体的に、下記の表1に記載の組成を有する211℃のフェノール系副産物ストリームを1000kg/hrの流量で分解装置100に供給して熱分解し、上部排出ストリームから有効成分を収得した。この際、分解装置100の運転圧力は常圧、運転温度は330℃に制御した。また、前記分解装置100の側面排出ストリーム及び下部排出ストリームの組成は下記の表2に示した。
【0056】
前記分解装置100の下部排出ストリーム、側面排出ストリームは、混合ストリームを形成し、冷却器400を経て90℃に冷却させた後、混合装置200に供給し、前記混合装置200に供給されるpH4の工程水ストリームと混合した。この際、前記分解装置100の下部排出ストリームの一部のストリームは、リボイラー110を経て分解装置100に循環させ、残りのストリームは、分解装置100の側面排出ストリームと混合ストリームを形成し、冷却器400を経て混合装置200に供給した。また、前記混合装置200で混合される分解装置100の下部排出ストリーム:分解装置100の側面排出ストリーム:工程水ストリームの流量比は1:0.5:1.5に制御した。
【0057】
前記混合ストリームの温度は270℃であることを確認し、冷却器400を経て90℃に冷却された後、混合装置200を経て層分離装置300に供給して油相及び水相に分離した。
【0058】
前記層分離装置300で5時間滞留後、排出される油相ストリームからタールを含む高沸点物質を収得し、水相ストリームの一部は混合装置200に循環させ、残りのストリームは廃水として排出した。
【0059】
【0060】
【0061】
実施例2
前記実施例1と同じ工程で行い、前記分解装置100の下部排出ストリーム:分解装置100の側面排出ストリーム:工程水ストリームの流量比を1:0.3:1.3に制御した。
【0062】
比較例
比較例1
図2に示された工程フローチャートを利用しAspen社のAspen Plusシミュレータを用いて、工程をシミュレーションした。具体的に、前記表1に記載の組成を有する211℃のフェノール系副産物ストリームは、1000kg/hrの流量で、分解装置100の側面排出ストリームと混合ストリームを形成した後、冷却器400を通過して90℃に冷却させた後、混合装置200に供給し、前記混合装置200に供給されるpH4の工程水ストリームと混合した。
【0063】
前記混合装置200に投入されるフェノール系副産物ストリーム:分解装置100の側面排出ストリーム:工程水ストリームの流量比は1:0.5:1.5に制御した。
前記混合装置200の排出ストリームは層分離装置300に供給され、層分離装置300で5時間滞留後、排出される油相ストリームは分解装置100に供給した。
【0064】
前記分解装置100の上部排出ストリームから有効成分を収得し、下部排出ストリームの一部のストリームはリボイラー110を経て分解装置100に循環させ、残りのストリームは排出させた。
【0065】
比較例2
図3に示された工程フローチャートを利用しAspen社のAspen Plusシミュレータを用いて、工程をシミュレーションした。具体的に、前記表1に記載の組成を有する211℃のフェノール系副産物ストリームは、1000kg/hrの流量で、第1予熱器510を通過した後、分解装置100の側面排出ストリームの第1ストリームと混合ストリーム形成し、冷却器400を通過して90℃に冷却された状態で混合装置200に供給し、前記混合装置200でpH4の工程水ストリームと混合した。前記混合装置200で混合されるフェノール系副産物ストリーム:分解装置100の側面排出ストリームの第1ストリーム:工程水ストリームの流量比は1:0.5:1.5に制御した。
【0066】
前記混合装置200の排出ストリームは層分離装置300に供給され、層分離装置300で5時間滞留後、排出される油相ストリームは、第1予熱器510を経て136℃で分解装置100に供給した。
【0067】
前記分解装置100の上部排出ストリームから有効成分を収得し、下部排出ストリームの一部のストリームはリボイラー110を経て分解装置100に循環させ、残りのストリームは分解装置100の側面排出ストリームの第2ストリームと混合して排出させた。
【0068】
比較例3
図4に示された工程フローチャートを利用しAspen社のAspen Plusシミュレータを用いて、工程をシミュレーションした。具体的に、前記表1に記載の組成を有する211℃のフェノール系副産物ストリームは、1000kg/hrの流量で、第1予熱器510を通過した後、分解装置100の側面排出ストリームの第1ストリームと混合ストリームを形成し、冷却器400を通過して90℃に冷却された状態で混合装置200に供給し、前記混合装置200でpH4の工程水ストリームと混合した。前記混合装置200で混合されるフェノール系副産物ストリーム:分解装置100の側面排出ストリームの第1ストリーム:工程水ストリームの流量比は1:0.5:1.5に制御した。
【0069】
前記混合装置200の排出ストリームは層分離装置300に供給され、層分離装置300で5時間滞留後、排出される油相ストリームは第1予熱器510及び第2予熱器520を経て190℃の温度で分解装置100に供給した。
【0070】
前記分解装置100の上部排出ストリームから有効成分を収得し、下部排出ストリームの一部のストリームはリボイラー110を経て分解装置100に循環させ、残りのストリームは分解装置100の側面排出ストリームの第2ストリームと混合し、第2予熱器520を通過させて排出させた。
【0071】
比較例4
図5に示された工程フローチャートを利用しAspen社のAspen Plusシミュレータを用いて、工程をシミュレーションした。具体的に、前記の実施例1において、分解装置100の下部排出ストリームを分解装置100の側面排出ストリームと混合せず、下記の表3の組成を有するビスフェノールA製造工程で発生するフェノール系副産物ストリームと混合したことを除いては同様に行った。
【0072】
【0073】
実験例
実験例1
実施例1~2及び比較例1~4において、層分離装置300に供給される混合装置200の排出ストリームと、層分離装置300から塩除去後に排出される油相ストリーム内の塩の含量(ppm)及び塩除去率(%)と、分解装置100で使用されるトン当たりのエネルギー所要量(Mcal/ton)を測定し、下記の表4に示した。
【0074】
【0075】
前記表4を参照すると、本発明に係る方法でフェノール系副産物を分解させた実施例1及び実施例2の場合、分解工程の後段に脱塩工程を設計して塩除去率の変化なしにフェノール系副産物を冷却し、再び加熱することで発生するエネルギー損失を防止することができ、予熱器をさらに備えないことにより、投資費と設備メンテナンスコストを節減することができる。
【0076】
これと比較して、さらなる予熱器の設置なしに脱塩工程を分解工程の前段に設計した比較例1の場合、分解装置100で使用されるトン当たりのエネルギー所要量が著しく増加したことが確認できた。
【0077】
また、比較例2及び3の場合、それぞれさらに予熱器を1基及び2基設置し、脱塩工程を分解工程の前段に設計したものであって、比較例1に比べて分解装置100で使用されるトン当たりのエネルギー所要量が減少したが、実施例と比較しては高いエネルギー消耗を示し、予熱器の設置による投資費と設備メンテナンスコストが増加するという問題がある。
【0078】
また、比較例4の場合、本発明のように分解工程の後段に脱塩工程を設計して、さらなる予熱器の設置による問題及び分解装置100でのエネルギー所要量は更に発生していないが、分解装置100の下部排出ストリームの脱塩工程の際、分解装置100の側面排出ストリームを混合しないことにより、塩除去効率が減少するという問題があった。
【国際調査報告】