IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピアの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-24
(54)【発明の名称】有機硫黄化合物の精製方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 327/04 20060101AFI20221017BHJP
【FI】
C07D327/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022508763
(86)(22)【出願日】2020-08-13
(85)【翻訳文提出日】2022-03-23
(86)【国際出願番号】 EP2020072722
(87)【国際公開番号】W WO2021028522
(87)【国際公開日】2021-02-18
(31)【優先権主張番号】19191798.8
(32)【優先日】2019-08-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ティール,アンドル
(72)【発明者】
【氏名】ヴルム,トーマ,マキシミリアン
(72)【発明者】
【氏名】ルドルフ,ペーター
(57)【要約】
有機硫黄化合物の精製方法であって、有機硫黄化合物が液相中にあり、これを周期系のVIIb族若しくはVIIIb族の金属の酸化物、及びIa族からIIIa族の金属の酸化物と、又は代わりに、それらの混合酸化物と、少なくとも1分間の接触時間にわたって接触させ、その後に酸化物と有機硫黄化合物を分離させる、方法が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機硫黄化合物の精製方法であって、
- 有機硫黄化合物が液相中にあり、これを周期系のVIIb族若しくはVIIIb族の金属の酸化物、及びIa族からIIIa族の金属の酸化物と、又は代わりに、それらの混合酸化物と、
少なくとも1分間の接触時間にわたって接触させ、
- その後に酸化物と有機硫黄化合物を分離させる、
方法。
【請求項2】
有機硫黄化合物が、略してモノチオカーボネート化合物と称される、少なくとも1個の5員環式モノチオカーボネート基を有する化合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
モノチオカーボネート化合物が、式(I):
【化1】
[式中、R1a~R4aは互いに独立して、水素又は50個までの炭素原子を有する有機基を表し、或いは、R2a、R4a及びモノチオカーボネート基の2個の炭素原子は一緒になって、5~10員炭素環を形成してもよい]
の化合物、
若しくは式(II):
【化2】
[式中、R1b~R4bは互いに独立して、水素又は50個までの炭素原子を有する有機基を表し、或いは、R2b、R4b及びモノチオカーボネート基の2個の炭素原子は一緒になって、5~10員炭素環を形成してもよく、基R1b~R4bのうちの1つはZへの連結基であり、nは少なくとも2の整数を表し、Zはn価の有機基を表す]
の化合物、
又はこれらの混合物
である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
モノチオカーボネート化合物が、
- 少なくとも1個のエポキシ基又は少なくとも1個のハロヒドリン基を有する化合物を、ホスゲン又はギ酸アルキルと反応させて、付加物を得ること、及び
- 次いで、付加物を、アニオン性硫黄を含む化合物と反応させること、
- 場合により、続いて、得られた粗生成物を抽出又は蒸留によって更に処理すること
を含む方法により生成物として得られる、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
VIIb族又はVIIIb族の金属の酸化物が酸化鉄である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
Ia族からIIIa族の金属の酸化物が、酸化ナトリウム又は酸化カリウムである、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
回分法で操作される、請求項1から6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
酸化物が、有機硫黄化合物の1重量部当り0.05~1重量部の総量で使用される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
酸化物と有機硫黄化合物の接触が、10~150℃において行われる、請求項1から8のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
接触時間が5分間から12時間である、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記方法により得られる有機硫黄化合物が、臭気が低減されている、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の目的は、有機硫黄化合物の精製方法であって、
- 有機硫黄化合物が液相中にあり、これを周期系のVIIb族若しくはVIIIb族の金属の酸化物、及びIa族からIIIa族の金属の酸化物と、又は代わりに、それらの混合酸化物と、少なくとも1分間の接触時間にわたって接触させ、
- その後に酸化物と有機硫黄化合物を分離させる、
方法である。
【背景技術】
【0002】
有機硫黄化合物は、硫黄の含有量により引き起こされる様々な所望の特性を有する貴重な化合物である。これらは、反応物としてメルカプタン、硫黄又は硫化物の使用を伴う化学反応によって得ることができる。
【0003】
しかし、得られる有機硫黄化合物は、多くの場合に悪臭を有し、このことは、おそらくメルカプト基の形態で硫黄を含む望ましくない副産物の含有、又は硫黄原子を有する任意の未反応出発物質の含有に起因する。
【0004】
有機硫黄化合物の一例は、環式モノチオカーボネートである。環式モノチオカーボネートの適切な合成は、WO2019/034469A1に記載されている。しかし、得られるモノチオカーボネートは、硫黄含有副産物により引き起こされる不快又は嫌な臭いを有する。
【0005】
米国特許出願公開第2002/0082168A1号は、ガスから臭気化合物を除去するための活性炭-金属酸化物マトリックスを開示する。吸着剤としての酸化鉄粒子の使用は、DE10129306A1により知られている。Sehnaz Sule Kaplan Bekarogluらは、酸化鉄コーティング軽石を使用する水からの天然有機物の吸着的及び酸化的除去について、Journal of Chemistry, vol. 2016, article ID 3108034, http://dx.doi.org/10.1155/2016/3108034に記載している。従来技術は、精製されるべき生成物及び除去されるべき副産物が両方とも硫黄を含む系を精製すること、又は系の臭気を低減することについて開示していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、臭気が低減された有機硫黄化合物をもたらす、有機硫黄化合物の容易で経済的な精製方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
臭気が低減された有機硫黄化合物は、特定の金属酸化物を使用する方法により得ることができることが、今回見出された。
【0008】
したがって、本発明は、有機硫黄化合物の精製方法であって、
- 有機硫黄化合物が液相中にあり、これを周期系のVIIb族若しくはVIIIb族の金属の酸化物、及びIa族からIIIa族の金属の酸化物、又は代わりに、それらの混合酸化物と、少なくとも1分間の接触時間にわたって接触させ、
- その後に酸化物と有機硫黄化合物を分離させる、
方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
有機硫黄化合物
有機硫黄化合物は、好ましくは最大で5,000g/mol、より好ましくは最大で1000g/mol、最も好ましくは最大で500g/molの分子量を有する化合物である。
【0010】
有機硫黄化合物は、脂肪族化合物又は芳香族化合物であり得る。これらは、例えば1個を超える硫黄原子を含むことができる。好ましくは、これらは1~10個、より好ましくは1~5個、最も好ましくは1~3個の硫黄原子を含む。
【0011】
硫黄原子は、例えば、チオエーテル基の一部、又は1若しくは2個、好ましくは1個の硫黄原子を含む環系の一部であってもよく、この環系は5~8員環であってもよく、環形成原子は置換されていてもよい。
【0012】
好ましくは、有機硫黄化合物は、そのような環系の一部である。
【0013】
特に好ましい有機硫黄化合物は、略して「モノチオカーボネート化合物」と称される、少なくとも1個の5員環式モノチオカーボネート基を有する化合物である。
【0014】
「モノチオカーボネート化合物」への任意の言及は、特に記述のない限り又は文脈から明白ではない限り、異なるモノチオカーボネート化合物の混合物を含む。
【0015】
5員環式モノチオカーボネート基は、好ましくは5員を有する環系であり、そのうちの3員はモノチオカーボネート-O-C(=O)-S-のものであり、更に2員は5員環を閉環する炭素原子である。
【0016】
モノチオカーボネート化合物は、例えば、1000個まで、特に500個まで、好ましくは100個までの5員環式モノチオカーボネート基を含むことができる。
【0017】
好ましい実施形態において、モノチオカーボネート化合物は、1~10個、とりわけ1~5個の5員環式モノチオカーボネート基を含む。最も好ましい実施形態において、モノチオカーボネート化合物は、1~3個、特に1又は2個の5員環式モノチオカーボネート基を含む。
【0018】
モノチオカーボネート化合物は、例えば、500,000g/molまでの分子量を有することができる。好ましいモノチオカーボネート化合物は、最大で5000g/mol、より好ましくは最大で1000g/molの分子量を有する。最も好ましいモノチオカーボネート化合物は、最大で500g/molの分子量を有する。
【0019】
好ましい実施形態において、モノチオカーボネート化合物は、いずれの第一級又は第二級アミノ基も含まない。
【0020】
特に好ましい実施形態において、モノチオカーボネート化合物は、モノチオカーボネート基、カルボン酸エステル基又はエーテル基以外の他の官能基を含まない。
【0021】
1個の5員環式モノチオカーボネート基を有する適切なモノチオカーボネート化合物は、WO2019/034470A1に開示されている。1個の5員環式モノチオカーボネート基を有する好ましいモノチオカーボネート化合物は、式(I):
【0022】
【化1】
[式中、R1a~R4aは互いに独立して、水素又は50個までの炭素原子を有する有機基を表し、或いは、R2a、R4a及びモノチオカーボネート基の2個の炭素原子は一緒になって、5~10員炭素環を形成してもよい]
の化合物である。
【0023】
1個を超える5員環式モノチオカーボネート基を有する適切なモノチオカーボネート化合物は、例えばWO2019/034473A1に開示されている。1個を超える5員環式モノチオカーボネート基を有する好ましいモノチオカーボネート化合物は、式(II):
【0024】
【化2】
[式中、R1b~R4bは互いに独立して、水素又は50個までの炭素原子を有する有機基を表し、或いは、R2b、R4b及びモノチオカーボネート基の2個の炭素原子は一緒になって、5~10員炭素環を形成してもよく、基R1b~R4bのうちの1つはZへの連結基であり、nは少なくとも2の整数を表し、Zはn価の有機基を表す]
の化合物である。
【0025】
様々な方法が、モノチオカーボネート化合物の調製について知られている。
【0026】
米国特許第3,072,676号及び米国特許第3,201,416号によると、エチレンモノチオカーボネートは2工程方法により調製することができる。第1の工程では、メルカプトエタノール及びクロロカルボキシレートを反応させて、ヒドロキシエチルチオカーボネートを得、これを第2の工程において金属塩触媒の存在下で加熱して、エチレンモノチオカーボネートにする。
【0027】
米国特許第3,517,029号によると、アルキレンモノチオカーボネートは、メルカプトエタノール及びカーボネートジエステルをトリウムの触媒活性塩の存在下で反応させることによって得られる。
【0028】
米国特許第3,349,100号に開示されている方法によると、アルキレンモノチオカーボネートは、エポキシドを硫化カルボニルと反応させることによって得られる。
【0029】
ホスゲンを出発物質として使用する合成は、米国特許第2,828,318号によって知られている。ホスゲンをヒドロキシメルカプタンと反応させる。
【0030】
好ましくは、上記に定義された精製方法に使用されるモノチオカーボネート化合物は、
- 少なくとも1個のエポキシ基又は少なくとも1個のハロヒドリン基を有する化合物を、ホスゲン又はギ酸アルキルと反応させて、付加物を得ること、及び
- 次いで、付加物を、アニオン性硫黄を含む化合物と反応させること、
- 場合により、続いて、得られた粗生成物を抽出又は蒸留によって更に処理すること
を含む方法により生成物として得られる化合物である。
【0031】
上記の方法は、WO2019/034469A1(第1工程の反応にエポキシ化合物を用いる)及び出願番号PCT/EP2020/051110号のPCT特許出願(第1工程の反応にハロヒドリンを用いる)に開示されている。
【0032】
得られるモノチオカーボネート化合物は、通常、ある含有量の硫黄を有する副産物を含む。そのような副産物は、非常に嫌な臭いを引き起こす。多くの場合にそのような副産物は、方法工程、例えば、蒸留又は1回以上の抽出、とりわけNaHCO3による抽出を伴う標準的な処理によって完全に除去することができない。モノチオカーボネート化合物の臭気は、通常、そのような標準的な処理の後でも依然として悪いものである。
【0033】
有機硫黄化合物、とりわけ、本方法に使用されるモノチオカーボネート化合物は、液相中にある。
【0034】
上記の調製方法により得られるモノチオカーボネート化合物は、21℃、1バールで液体又は固体であり得る。
【0035】
21℃、1バールで液体であるモノチオカーボネート化合物は、溶媒を用いることなく、そのまま使用することができる。
【0036】
21℃、1バールで固体であるモノチオカーボネート化合物は、好ましくは溶液の形態で使用される。
【0037】
固体モノチオカーボネート化合物に適した溶媒は、とりわけ非プロトン性溶媒である。
【0038】
非プロトン性溶媒は、疎水性溶媒、例えば、芳香族炭化水素及び塩素化炭化水素を含む炭化水素、例えば、トルエン、クロロベンゼン又はジクロロベンゼン、クロロホルムであってもよく、或いは親水性溶媒、例えば、アセトニトリル又はジメチルスルホキシド、若しくはエステル、又はテトラヒドロフラン、ジオキサン、ポリエーテル若しくはグリムのようなエーテルであってもよい。
【0039】
酸化物
有機硫黄化合物を、上記に定義された2種の異なる酸化物又はそれらの混合酸化物と接触させる。
【0040】
第1の選択肢において、接触は、周期系のVIIb族又はVIIIb族の金属の酸化物、加えて、Ia族からIIIa族の金属の酸化物を用いるものである。
【0041】
好ましくは、VIIb族又はVIIIb族の金属の酸化物は、鉄、コバルト若しくはニッケルの酸化物、又はそれらの混合物である。
【0042】
最も好ましくは、VIIb族又はVIIIb族の金属の酸化物は、酸化鉄、特に鉄が少なくとも3の酸化度を有する酸化鉄であり、最も好ましい酸化鉄はFe2O3である。
【0043】
好ましくは、Ia族からIIIa族の金属の酸化物は、アルカリ若しくはアルカリ土類金属の酸化物、又はアルミナの酸化物である。
【0044】
より好ましくは、Ia族からIIIa族の金属の酸化物は、酸化ナトリウム(Na2O)又は酸化カリウム(K2O)であり、最も好ましくは酸化カリウムである。
【0045】
周期系のVIIb族又はVIIIb族の金属の酸化物及びIa族からIIIa族の金属の酸化物を、別々に又は混合物の形態で使用することができる。酸化物は、方法が連続的に実施される場合、順次に使用することもできる。
【0046】
第2の選択肢において、接触は上記に記述された酸化物の混合酸化物を用いるものである。金属に関する好ましい実施形態は、第1の選択肢のものに相当する。
【0047】
混合酸化物は、触媒の分野において良く知られている。混合酸化物は、様々な方法において非担持触媒として使用される。混合酸化物は、個々の金属酸化物の混合物を溶融又は焼結することによって得ることができる。そのような方法では、他の構成成分、とりわけ他の金属酸化物を使用してもよい。
【0048】
好ましい実施形態において、本発明の方法における混合酸化物は、少なくとも50重量%、より好ましくは少なくとも70重量%、最も好ましくは少なくとも90重量%の、周期系のVIIb族又はVIIIb族の金属の酸化物及びIa族からIIIa族の金属の酸化物のみから形成される。すなわち、混合金属酸化物は、少なくとも50重量%、より好ましくは少なくとも70重量%、最も好ましくは少なくとも90重量%のVIIb族又はVIIIb族の金属の酸化物から形成される。
【0049】
個々の金属酸化物又は混合酸化物を含む市販の触媒を、本発明の方法に使用することができる。そのような触媒は、例えば脱水素化方法において知られている。本発明の方法では、長時間の操作後に脱水素化反応器から除去された触媒を、任意の再生を用いて又は用いることなく使用することができる。
【0050】
混合酸化物の適切な例は、例えば、KFeO2、K-Mn3O4、K-Fe3O4、KMn4O8、KMn8O16及びK2Fe22O34である。
【0051】
本方法に使用される金属酸化物又は混合酸化物を、再生し、次いで他の方法に、例えば触媒方法に使用することができる又は本発明の方法自体に再使用することができる。
【0052】
本発明の最も好ましい実施形態では、混合酸化物が使用される。
【0053】
上記の酸化物又は混合酸化物は、好ましくは成形体、とりわけ、押出又はタブレット成形によって得ることができる成形体の形態で使用される。
【0054】
方法
一般用語「酸化物」は、下記に使用されるとき、明確な記述のない限り又は文脈から明白ではない限り、混合酸化物を含む。
【0055】
酸化物は有機硫黄化合物と任意の適切な方法で接触させることができる。
【0056】
本発明の方法は、回分法、半連続法又は連続法であり得る。連続法では、全ての出発物質が反応器に連続的に供給され、全ての生成物が連続的に取り出され、それにより酸化物が通常の手段によって、例えば、場合に応じて蒸留、濾過又は沈殿によって生成物流から分離され得る。
【0057】
好ましい実施形態において、方法は回分法である。そのような回分法において、酸化物は、液相中にある有機硫黄化合物に添加される。
【0058】
回分法において、酸化物は、有機硫黄化合物、とりわけモノチオカーボネート化合物の1重量部当り0.05~1重量部の総量で好ましく使用される。
【0059】
連続法において、酸化物は、反応器に取り付けられた固定床の形態で好ましく使用される。有機硫黄化合物の連続流が固定床を通過する。
【0060】
有機硫黄化合物と酸化物の接触は、好ましくは10~150℃、より好ましくは20~100℃、特に20~50℃、最も好ましくは20~35℃において行われる。
【0061】
接触時間は、好ましくは5分間から12時間、より好ましくは10分間から8時間、特に30分間から5時間、最も好ましくは30分間から3時間である。
【0062】
接触時間の後、酸化物と有機硫黄化合物、とりわけモノチオカーボネート化合物は、例えば濾過によって分離される。
【0063】
有機硫黄化合物、個々にモノチオカーボネート化合物と組み合わせて使用される任意の溶媒は、例えば濾過によって除去することができる。
【0064】
本方法により得られる有機硫黄化合物、それぞれモノチオカーボネート化合物は、臭気が大幅に低減されている。
【0065】
[実施例]
略してブタンジオールジチオカーボネート又はBDO-TCと称される、下記式の5-[4-[(2-オキソ-1,3-オキサチオラン-5-イル)メトキシ]ブトキシメチル]-1,3-オキサチオラン-2-オンの合成。
【0066】
【化3】
【0067】
この合成は、WO2019/034469A1に開示されている方法に従って行った。
【0068】
合成の第1の工程では、エポキシドである1,4ブタンジオールジグリシジルエーテルをホスゲンとWO2019/034469A1に記載されているように反応させた。
【0069】
第2の工程では、得られたβ-クロロアルキルクロロホルメート(chloroformiate)([2-クロロ-1-[4-(3-クロロ-2-クロロカルボニルオキシ-プロポキシ)ブトキシメチル]エチル]カルボノクロリデート)(845g、2.1mol)及びジクロロメタン(2.5L)を8リットルの反応器の中に入れた。溶液を0℃に冷却した後、温度を5℃に維持しながらNa2S(2.2当量、15wt%水溶液)をゆっくりと添加した。完全に添加した後、反応混合物を室温に温め、1時間撹拌した。相を分離し、水相をジクロロメタン(1×0.5L)で抽出した。合わせた有機相を水(3×0.5L)で抽出し、Na2SO4で乾燥し、Celite 545(初期クロロホルメート1kg当り300g)で濾過した。溶媒を有機相から減圧下で除去し、所望の生成物を透明な粘稠液体(656g、96%)として得た。
【0070】
上記の合成を2つの異なるグレードの1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテルで行った。
【0071】
1つのグレードは、僅かな含有量で他のエポキシド、とりわけ高分子量のエポキシドを有する比較的純粋なグレード(pure grade)である。
【0072】
もう一方のグレードは、かなりの含有量で他のエポキシドを含む工業グレードであった。
【0073】
したがって、2つの異なる生成物を合成から得た。
【0074】
「純粋BDO-TC」と称される、1つの生成物は、ガスクロマトグラフィーで測定して84.2面積%のBDO-TCの含有量を有する。
【0075】
「工業BDO-TC」と称される、もう1つの生成物は、ガスクロマトグラフィーで測定して61.3面積%のBDO-TCの含有量を有する。
【0076】
精製例1~13
個々のBDO-TC(5g)をトルエン(10g)に溶解し、添加剤(表を参照すること)を、溶液の100重量部に基づいて5重量部の量で添加した。温度は25℃であった。溶液を2時間撹拌した後、添加剤を濾取した。全ての揮発物及びトルエンを有機相から減圧下で除去し、BDO-TCを粘稠液体として得た。
【0077】
試験
得られたBDO-TCの臭気を直後に試験した。試料を3名の異なる人により室温で試験した。参加者は、以下の分類スキームに従って嗅覚評価を報告した。
【0078】
臭気を1から5までのスケールに準じて判断した。
1:無臭
2:僅かなむっとする臭い(stale odor)
3:僅かな「メルカプタン臭」
4:「メルカプタン臭」
5:はっきりとした「メルカプタン臭」
【0079】
添加剤による処理の前に、純粋BDO-TCは分類4の臭気を有した。
【0080】
添加剤による処理の前に、工業BDO-TCは分類5の臭気を有した。
【0081】
異なる添加剤による結果を下記の表に示す。
【0082】
【表1】
【0083】
添加剤:
S6-62(プレスドワイヤー)は、BASFから得た不均一系触媒である。S6-62は、多量の酸化鉄(Fe2O3)及び酸化カリウム(K2O)を含む。触媒は、3mmの厚さを有する押出ワイヤーの形態を有する。
【0084】
NIOは、ナノ酸化鉄粉である(Fe2O3)粉である。
【0085】
SiO2はSupelcoからのクロマトグラフィー用(0.04~0.065mm)シリカゲル60である。
【0086】
Ambersept 900(水浸潤)は強力な塩基陰イオン交換樹脂であり、容積は0.80当量/Lであり、含水率は66~75%であり、pH範囲は0~14である。
【0087】
BASFからのSelexsorb COSは、COS、CO2、H2S及びCS2を除去するための、Al2O3をベースとする触媒であり、Al2O3含有率は93%を超える。
【0088】
Amberlite XAD4は、DOWからの、スチレンジビニルベンゼンマトリックスを有する疎水性多環芳香族樹脂(polyaromatic resin)であり、
20~60メッシュであり、
孔容積は~0.98mL/gであり、平衡孔サイズは100Åであり、
表面積は750m2/gである。
【0089】
A-Norit SX Plus(炭素)は、Noritから得た、内部多孔性で微晶質非グラファイト形態の炭素である粉末活性炭であり、
メチレンブルー吸収は20g/100gであり、
BET表面積は1000m2/g(合計)であり、
バルク密度は200~300kg/m3である。
【国際調査報告】