(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-04
(54)【発明の名称】粒子状物質、その製造方法及び使用方法
(51)【国際特許分類】
C01G 53/00 20060101AFI20221027BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20221027BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20221027BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20221027BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20221027BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
C01G53/00 A
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/131
H01M4/36 C
H01M4/62 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022513494
(86)(22)【出願日】2020-08-20
(85)【翻訳文提出日】2022-04-21
(86)【国際出願番号】 EP2020073366
(87)【国際公開番号】W WO2021037678
(87)【国際公開日】2021-03-04
(32)【優先日】2019-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヨン,チン
(72)【発明者】
【氏名】シオス,ジェームス,エー
(72)【発明者】
【氏名】トイフル,トビアス,マクシミリアン
(72)【発明者】
【氏名】ランパート,ジョーダン,ケー
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AB02
4G048AC06
4G048AD04
4G048AE05
5H050AA08
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB11
5H050FA17
5H050FA18
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA12
5H050GA14
5H050GA27
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA08
5H050HA14
5H050HA15
5H050HA19
(57)【要約】
組成物Li1+xTM1-xO2の粒子状物質であって、xは0.1~0.2の範囲であり、TMは、一般式(I)による元素の組み合わせであり、
(NiaCobMnc)1-dM1
d (I)
(式中、aは0.30~0.38の範囲であり、
bは0~0.05の範囲であり、
cは0.60~0.70の範囲であり、
dは0~0.05の範囲であり、
M1は、Al、Ti、Zr、Mo、Mg、B、及び上記の少なくとも2種の組み合わせから選択され、
a+b+c=1である)
前記粒子状物質が2~20μmの範囲の平均粒径D50を有し、前記粒子状物質が2.75~3.1g/cm3の範囲の圧縮密度を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物Li
1+xTM
1-xO
2の粒子状物質であって、xは0.1~0.2の範囲であり、TMは、一般式(I)による元素の組み合わせであり、
(Ni
aCo
bMn
c)
1-dM
1
d (I)
(式中、aは0.30~0.38の範囲であり、
bは0~0.05の範囲であり、
cは0.60~0.70の範囲であり、
dは0~0.05の範囲であり、
M
1は、Al、Ti、Zr、Mo、Mg、B、及び上記の少なくとも2種の組み合わせから選択され、
a+b+c=1である)
前記粒子状物質が2~20μmの範囲の平均粒径D50を有し、前記粒子状物質が2.75~3.2g/cm
3の範囲の圧縮密度を有する、粒子状物質。
【請求項2】
bがゼロであり、M
1が前記粒子状物質の粒子の外側に富んでいる、請求項1に記載の粒子状物質。
【請求項3】
dがゼロより大きい、請求項1又は2に記載の粒子状物質。
【請求項4】
M
1がAlである、請求項1から3のいずれか一項に記載の粒子状物質。
【請求項5】
体積エネルギー密度が2,750~3,100W・h/lの範囲である、請求項1から4のいずれか一項に記載の粒子状物質。
【請求項6】
前記圧縮密度が2.85~3.10g/cm
3の範囲である、請求項1から5のいずれか一項に記載の粒子状物質。
【請求項7】
以下の工程:
(a)マンガンと、ニッケルと、任意にCo及びM
1の少なくとも1つとの粒子状水酸化物、酸化物又はオキシ水酸化物を提供する工程と、
(b)リチウム源を添加する工程と、
(c)工程(b)から得られた混合物を熱処理する工程と、
(d)得られたリチウム化酸化物を鉱酸又はM
1の化合物の水溶液又はそれらの組み合わせと接触させる工程と、
(e)水を除去する工程と、
(f)得られた固体残留物を熱処理する工程と
を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の粒子状物質を製造する方法。
【請求項8】
工程(c)が、650~1000℃の範囲の最高温度で行われる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
工程(e)が固液分離工程によって行われる、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
マンガンと、ニッケルと、任意にCo及びM
1の少なくとも1つとの前記粒子状水酸化物、酸化物又はオキシ水酸化物が、塩基として水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムを用いた共沈により製造される、請求項7から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
工程(f)が、300~500℃の範囲の温度で行われる、請求項7から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
工程(d)及び(e)を同時に行う、請求項7から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
(A)少なくとも1種の請求項1から6のいずれか一項に記載の物質、
(B)導電状態の炭素、及び
(C)バインダー、
を含有する、電極。
【請求項14】
(1)少なくとも1つの請求項13に記載の電極、
(2)少なくとも1つのアノード、及び
(3)電解質
を含有する、二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物Li1+xTM1-xO2の粒子状物質に関し、ここで、xは0.1~0.2の範囲であり、TMは、一般式(I)による元素の組み合わせであり、
(NiaCobMnc)1-dM1
d (I)
(式中、aは0.30~0.38の範囲であり、
bは0~0.05の範囲であり、
cは0.60~0.70の範囲であり、
dは0~0.05の範囲であり、
M1は、Al、Ti、Zr、Mo、Mg、B、及び上記の少なくとも2種の組み合わせから選択され、
a+b+c=1である)
前記粒子状物質が2~20μmの範囲の平均粒径D50を有し、前記粒子状物質が2.75~3.2g/cm3の範囲の圧縮密度(pressed density)を有する。
【背景技術】
【0002】
リチウム化した遷移金属酸化物は、現在、リチウムイオン電池の電極活物質として使用されている。充電密度、比エネルギーなどの特性だけでなく、リチウムイオン電池の寿命又は適用性に悪影響を及ぼすサイクル寿命の低下及び容量損失などの別の特性も向上させるために、過去数年間に渡って広範な研究開発が行われてきた。製造方法を改善するために、さらなる努力が行われている。
【0003】
現今議論されている多くの電極活物質は、リチウム化ニッケル-コバルト-マンガン酸化物(「NCM物質」)又はリチウム化ニッケル-コバルト-アルミニウム酸化物(「NCA物質」)のタイプのものである。
【0004】
リチウムイオン電池のためのカソード物質の典型的な製造方法において、まず、遷移金属を炭酸塩、酸化物として、又は好ましくは塩基性であってもなくてもよい水酸化物として共沈させることにより、いわゆる前駆体を形成する。次に、この前駆体を、リチウム塩、例えばLiOH、Li2O、又は特にLi2CO3(これらに限定されるものではない)と混合して、高温でか焼(焼成)する。リチウム塩(単数又は複数)は、水和物(単数又は複数)として、又は脱水形態で使用することができる。一般に前駆体の熱処理又は加熱処理とも称されるか焼又は焼成は通常、600~1,000℃の範囲の温度で行われる。熱処理中に、固相反応が起こり、電極活物質を形成する。水酸化物又は炭酸塩を前駆体として使用する場合、固相反応の後に水又は二酸化炭素を除去する。熱処理は、オーブン又はキルンの加熱ゾーンで実行される。
【0005】
カソード活物質のさまざまな特性、例えばエネルギー密度、容量低下などの充放電性能などの向上に関する広範な研究が行われてきた。しかしながら、多くのカソード活物質は、限られたサイクル寿命及び電圧低下に悩まされている。これは、特に多くのMnリッチカソード活物質に当てはまる。
【0006】
EP 3 486 980では、高いエネルギー密度保持率を有する特定の高マンガン物質が開示されている。しかしながら、開示されたカソード活物質は、それ自体、限られたエネルギー密度に悩まされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は、高いエネルギー密度と高いエネルギー密度保持率との両方を有するカソード活物質を提供することであった。本発明のさらなる目的は、高いエネルギー密度と高いエネルギー密度保持率との両方を有するカソード活物質の製造方法を提供することであった。本発明のさらなる目的は、高いエネルギー密度と高いエネルギー密度保持率との両方を有するカソード活物質の利用を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって、以下で本発明の物質又は本発明による物質とも称される、冒頭で定義された粒子状物質が見出された。以下、本発明の物質を詳細に説明する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の物質は、組成物Li1+xTM1-xO2であり、ここで、xは0.1~0.2の範囲であり、TMは、一般式(I)による元素の組み合わせであり、
(NiaCobMnc)1-dM1
d (I)
(式中、aは0.30~0.38の範囲であり、
bは0~0.05の範囲であり、好ましくは、bは0であり、
cは0.60~0.70の範囲であり、
dは0~0.05の範囲であり、
a+b+c=1であり、
M1は、Al、Ti、Zr、Mo、Mg、B、及び上記の少なくとも2種の組み合わせから選択され、好ましくはAlである)
前記粒子状物質が、2.75~3.2g/cm3、好ましくは2.75~3.1g/cm3、より好ましくは2.80~3.10g/cm3、さらにより好ましくは2.85~3.10g/cm3の範囲の圧縮密度を有する。
【0011】
本発明の物質は、2~20μm、好ましくは5~16μmの範囲の平均粒径D50を有する。平均粒径は、例えば光散乱又はレーザー回折又は電気音響分光法(electroacoustic spectroscopy)によって決定することができる。粒子は通常、一次粒子からの凝集体から構成され、上記の粒径は二次粒子の粒径を指す。
【0012】
本発明の一実施態様において、本発明の電極活物質は、0.7~4.0m2/g又はさらに6m2/g以下の範囲の、DIN-ISO 9277:2003-05に従って決定された表面積(BET)を有し、1.7~3.8m2/g又はさらに3.0~5.5m2/gが好ましい。
【0013】
ナトリウム、カルシウム又は亜鉛などの一部の金属は遍在しており、微量のそれらは事実上どこにでも存在するが、そのような微量は本発明の明細書では考慮されない。この文脈における微量とは、TMの全金属含有量に対して、0.05モル%以下の量を意味する。
【0014】
M1は、本発明の物質の粒子に均一に又は不均一に分散されてもよい。好ましくは、M1は、本発明の物質の粒子に不均一に分布し、さらにより好ましくは勾配として分布し、外殻におけるM1の濃度は粒子の中心よりも高い。
【0015】
本発明の一実施態様において、本発明の物質は、球形形状を有する粒子である球形粒子から構成される。球形粒子には、正確に球形であるものだけでなく、代表サンプルの少なくとも90%(数平均)の最大直径及び最小直径が10%以下異なる粒子も含まれる。
【0016】
本発明の一実施態様において、本発明の物質は、一次粒子の凝集体である二次粒子から構成される。好ましくは、本発明の物質は、一次粒子の凝集体である球状二次粒子から構成される。さらにより好ましくは、本発明の物質は、プレートレット一次粒の凝集体である球状二次粒子から構成される。
【0017】
本発明の一実施態様において、本発明の物質の前記一次粒子は、1~2000nm、好ましくは10~1000nm、特に好ましくは50~500nmの範囲の平均直径を有する。一次粒子の平均直径は、例えば、SEM又はTEMによって決定することができる。SEMは走査型電子顕微鏡の略称であり、TEMは透過型電子顕微鏡の略称である。
【0018】
本発明の一実施態様において、体積エネルギー密度(volumetric energy density)は、2,750~3,100W・h/lの範囲である。VEDは、以下のように定義される:VED=第1サイクルの放電容量×平均電圧×圧縮密度。
【0019】
本発明の一実施態様において、本発明の物質は、単峰性の粒径分布を有する。代替の実施態様において、本発明の物質は、例えば3~6μmの範囲での最大値、及び9~12μmの範囲での別の最大値を有する、二峰性の粒径分布を有する。
【0020】
本発明の一実施態様において、本発明の物質の圧縮密度は、250MPaの圧力で決定され、2.75~3.1g/cm3の範囲であり、2.85~3.10g/cm3が好ましい。
【0021】
本発明の一実施態様において、本発明の物質は、メスシリンダーで2,000回タップした後に決定される、1.20~1.80g/cm3の範囲タップ密度を有する。
【0022】
本発明の物質は、特に、高いエネルギー密度と高いエネルギー密度保持率との両方を示すため、カソード活物質として非常に適している。
【0023】
本発明のさらなる態様は、少なくとも1つの本発明のカソード活物質を含む電極である。これらは、特にリチウムイオン電池に有用である。本発明による電極の少なくとも1つを含むリチウムイオン電池は、非常に良好な放電及びサイクル挙動を示し、それらは良好な安全挙動を示す。
【0024】
本発明の一実施態様において、本発明のカソードは、
(A)少なくとも1種の上述した本発明の物質、
(B)導電状態の炭素、及び
(C)バインダー、
(D)集電器
を含有する。
【0025】
本発明の好ましい実施態様において、本発明のカソードは、(A)、(B)及び(C)の合計に基づいて、
(A)80~99質量%の本発明の物質、
(B)0.5~19.5質量%の炭素、
(C)0.5~9.5質量%のバインダー物質、
を含有する。
【0026】
本発明によるカソードは、簡単に言えば、炭素(B)とも呼ばれる導電性修飾の炭素を含有する。炭素(B)は、すす、活性炭、カーボンナノチューブ、グラフェン、及びグラファイトから選択することができる。炭素(B)は、本発明による電極物質の調製中にそのまま添加することができる。
【0027】
本発明による電極は、さらなる構成要素を含むことができる。それらは、集電器(D)、例えばアルミニウムホイル(これに限定されるものではない)を含むことができる。それらはさらに、以下でバインダー(C)とも呼ばれるバインダー物質(C)を含んでいる。集電器(D)については、ここでは、これ以上説明しない。
【0028】
好適なバインダー(C)は、好ましくは、有機(コ)ポリマーから選択される。好適な(コ)ポリマー、すなわち、ホモポリマー又はコポリマーは、例えば、アニオン(共)重合、触媒(共)重合又はフリーラジカル(共)重合により得ることができる(コ)ポリマーから、特にポリエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリブタジエン、ポリスチレン、並びに、エチレン、プロピレン、スチレン、(メタ)アクリロニトリル及び1,3-ブタジエンから選択される少なくとも2種のコモノマーのコポリマーから選択することができる。ポリプロピレンも適する。ポリイソプレン及びポリアクリレートはさらに適している。ポリアクリロニトリルが特に好ましい。
【0029】
本発明の文脈において、ポリアクリロニトリルは、ポリアクリロニトリルホモポリマーだけでなく、アクリロニトリルと1,3-ブタジエン又はスチレンとのコポリマーも意味すると理解される。ポリアクリロニトリルホモポリマーが好ましい。
【0030】
本発明の文脈において、ポリエチレンは、ホモポリエチレンだけでなく、少なくとも50モル%の共重合されたエチレン、及び50モル%以下の少なくとも1つのさらなるコモノマー、例えばα-オレフィン、例えばプロピレン、ブチレン(1-ブテン)、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-ペンテン、及びまたイソブテン、ビニル芳香族のもの、例えばスチレン、及びまた(メタ)アクリル酸、ビニルアセテート、ビニルプロピオネート、(メタ)アクリル酸のC1~C10-アルキルエステル、特にメチルアクリレート、メチルメタアクリレート、エチルアクリレート、エチルメタアクリレート、n-ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、n-ブチルメタアクリレート、2-エチルヘキシルメタアクリレート、及びまたマレイン酸、無水マレイン酸及び無水イタコン酸を含むエチレンのコポリマーも意味すると理解される。ポリエチレンはHDPE又はLDPEであり得る。
【0031】
本発明の文脈において、ポリプロピレンは、ホモポリプロピレンだけでなく、少なくとも50モル%の共重合されたプロピレン、及び50モル%以下の少なくとも1つのさらなるコモノマー、例えばエチレン、及びα-オレフィン、例えばブチレン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン及び1-ペンテンを含むプロピレンのコポリマーも意味すると理解される。ポリプロピレンは、好ましくはイソタクチックポリプロピレン又は本質的にイソタクチックポリプロピレンである。
【0032】
本発明の文脈において、ポリスチレンは、スチレンのホモポリマーだけでなく、アクリロニトリル、1,3-ブタジエン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸のC1~C10-アルキルエステル、ジビニルベンゼン、特に1,3-ジビニルベンゼン、1,2-ジフェニルエチレン及びα-メチルスチレンとのコポリマーも意味すると理解される。
【0033】
別の好ましいバインダー(C)は、ポリブタジエンである。
【0034】
他の好適なバインダー(C)は、ポリエチレンオキシド(PEO)、セルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリイミド及びポリビニルアルコールから選択される。
【0035】
本発明の一実施態様において、バインダー(C)は、50,000g/molから、1,000,000g/molまで、好ましくは500,000g/molまでの範囲の平均分子量MWを有する(コ)ポリマーから選択される。
【0036】
バインダー(C)は、架橋された又は架橋されていない(コ)ポリマーであってもよい。
【0037】
本発明の特に好ましい実施態様において、バインダー(C)は、ハロゲン化(コ)ポリマー、特にフッ素化(コ)ポリマーから選択される。ハロゲン化又はフッ素化(コ)ポリマーは、1個の分子当たり少なくとも1個のハロゲン原子又は少なくとも1個のフッ素原子、より好ましくは1個の分子当たり少なくとも2個のハロゲン原子又は少なくとも2個のフッ素原子を有する少なくとも1つの(共)重合された(コ)モノマーを含む(コ)ポリマーを意味すると理解される。例としては、ポリビニルクロリド、ポリビニリデンクロリド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオリド(PVdF)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、ビニリデンフルオリド-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVdF-HFP)、ビニリデンフルオリド-テトラフルオロエチレンコポリマー、ペルフルオロアルキルビニルエーテルコポリマー、エチレン-テトラフルオロエチレンコポリマー、ビニリデンフルオリド-クロロトリフルオロエチレンコポリマー、及びエチレン-クロロフルオロエチレンコポリマーが挙げられる。
【0038】
好適なバインダー(C)は、特に、ポリビニルアルコール及びハロゲン化(コ)ポリマー、例えばポリビニルクロリド又はポリビニリデンクロリド、特にフッ素化(コ)ポリマー、例えばポリビニルフルオリド及び特にポリビニリデンフルオリド及びポリテトラフルオロエチレンである。
【0039】
本発明の電極は、成分(A)、炭素(B)及びバインダー(C)の合計に対して、0.5~9.5質量%のバインダー(単数又は複数)(C)を含んでもよい。
【0040】
本発明のさらなる態様は、
(1)本発明の物質(A)、炭素(B)及びバインダー(C)を含む少なくとも1つのカソード、
(2)少なくとも1つのアノード、及び
(3)少なくとも1つの電解質
を含有する電池である。
【0041】
カソード(1)の実施態様は、すでに上記で詳細に記載されている。
【0042】
アノード(2)は、少なくとも1種のアノード活物質、例えばカーボン(グラファイト)、TiO2、酸化リチウムチタン、シリコン又はスズを含有してもよい。アノード(2)は、集電器、例えば銅ホイルなどの金属ホイルをさらに含有してもよい。
【0043】
電解質(3)は、少なくとも1種の非水性溶媒、少なくとも1種の電解質塩、及び任意に添加剤を含んでもよい。
【0044】
電解質(3)のための非水性溶媒は、室温で液体又は固体であり得、好ましくは、ポリマー、環状又は非環状エーテル、環状及び非環状アセタール、及び環状又は非環状有機カーボネートから選択される。
【0045】
好適なポリマーの例は、特に、ポリアルキレングリコール、好ましくはポリ-C1~C4-アルキレングリコール、及び特にポリエチレングリコールである。ここでは、ポリエチレングリコールは、最大20モル%の1種以上のC1~C4-アルキレングリコールを含むことができる。ポリアルキレングリコールは、好ましくは、2個のメチル又はエチル末端キャップを有するポリアルキレングリコールである。
【0046】
好適なポリアルキレングリコール、及び特に好適なポリエチレングリコールの分子量MWは、少なくとも400g/molであり得る。
【0047】
好適なポリアルキレングリコール、及び特に好適なポリエチレングリコールの分子量MWは、最大5,000,000g/mol、好ましくは最大2,000,000g/molであり得る。
【0048】
好適な非環状エーテルの例は、例えば、ジイソプロピルエーテル、ジ-n-ブチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタンであり、好ましくは1,2-ジメトキシエタンである。
【0049】
好適な環状エーテルの例は、テトラヒドロフラン及び1,4-ジオキサンである。
【0050】
好適な非環状アセタールの例は、例えば、ジメトキシメタン、ジエトキシメタン、1,1-ジメトキシエタン及び1,1-ジエトキシエタンである。
【0051】
好適な環状アセタールの例は、1,3-ジオキサン、及び特に1,3-ジオキソランである。
【0052】
好適な非環状有機カーボネートの例は、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート及びジエチルカーボネートである。
【0053】
好適な環状有機カーボネートの例は、一般式(II)及び(III)、
【0054】
【0055】
(式中、R1、R2及びR3は、同一又は異なることができ、水素及びC1~C4-アルキル、例えばメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル及びtert-ブチルから選択され、好ましくは、R2及びR3の両方ともがtert-ブチルであることはない)
の化合物である。
【0056】
特に好ましい実施態様において、R1はメチルであり、R2及びR3はそれぞれ水素であるか、又はR1、R2及びR3はそれぞれ水素である。
【0057】
別の好ましい環状有機カーボネートは、式(IV)のビニレンカーボネートである。
【0058】
【0059】
好ましくは、溶媒又は複数の溶媒は、水を含まない状態で、すなわち、例えば、カールフィッシャー滴定によって決定することができる1ppm~0.1質量%の範囲の含水量で使用される。
【0060】
電解質(3)は、少なくとも1種の電解質塩をさらに含む。好適な電解質塩は、特にリチウム塩である。好適なリチウム塩の例は、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiC(CnF2n+1SO2)3、リチウムイミド、例えばLiN(CnF2n+1SO2)2(式中、nは1~20の範囲の整数である)、LiN(SO2F)2、Li2SiF6、LiSbF6、LiAlCl4、及び一般式(CnF2n+1SO2)tYLiの塩である
(式中、Yが酸素及び硫黄から選択される場合、t=1であり、
Yが窒素及びリンから選択される場合、t=2であり、
Yが炭素及びケイ素から選択される場合、t=3である)。
【0061】
好ましい電解質塩は、LiC(CF3SO2)3、LiN(CF3SO2)2、LiPF6、LiBF4、LiClO4から選択され、特に好ましくはLiPF6及びLiN(CF3SO2)2である。
【0062】
本発明の好ましい実施態様において、電解質(3)は、少なくとも1種の難燃剤を含有する。有用な難燃剤は、トリアルキルホスフェート(前記アルキルは異なるか又は同一である)、トリアリルホスフェート、アルキルジアルキルホスホネート、及びハロゲン化トリアルキルホスフェートから選択することができる。トリ-C1~C4-アルキルホスフェート(前記C1~C4-アルキルは異なるか又は同一である)、トリベンジルホスフェート、トリフェニルホスフェート、C1~C4-アルキル、ジ-C1~C4-アルキルホスホネート、及びフッ素化トリ-C1~C4-アルキルホスフェートが好ましい。
【0063】
好ましい実施態様において、電解質(3)は、トリメチルホスフェート、CH3-P(O)(OCH3)2、トリフェニルホスフェート、及びトリス-(2,2,2-トリフルオロエチル)-ホスフェートから選択される少なくとも1種の難燃剤を含む。
【0064】
電解質(3)は、電解質の総量に基づいて1~10質量%の難燃剤を含有してもよい。
【0065】
本発明の一実施態様において、本発明による電池は、それによって電極が機械的に分離される1つ以上のセパレータ(4)を含む。好適なセパレータ(4)は、金属リチウムに対して非反応性であるポリマーフィルム、特に多孔性ポリマーフィルムである。セパレータ(4)のための特に好適な物質は、ポリオレフィン、特にフィルム形成の多孔性ポリエチレン及びフィルム形成の多孔性ポリプロピレンである。
【0066】
ポリオレフィン、特にポリエチレン又はポリプロピレンから構成されるセパレータ(4)は、35~50%の範囲の多孔率を有することができる。好適な細孔径は、例えば、30~500nmの範囲である。
【0067】
本発明の別の実施態様において、セパレータ(4)は、無機粒子を充填したPET不織布から選択することができる。このようなセパレータは、40~55%の範囲の多孔率を有することができる。好適な孔径は、例えば、80~750nmの範囲である。
【0068】
本発明による電池は、任意の形状、例えば、立方体又は円筒形ディスクの形状を有することができるハウジングをさらに含むことができる。一変形態様において、ポーチとして構成された金属ホイルをハウジングとして使用する。
【0069】
本発明による電池は、特に高温(45℃以上、例えば最大60℃)において、特に容量損失に関して非常に良好な放電及びサイクル挙動を示す。
【0070】
本発明による電池は、互いに組み合わされている、例えば直列に接続するか、又は並列に接続することができる2つ以上の電気化学セルを含むことができる。直列接続が好ましい。本発明による電池において、少なくとも1つの電気化学セルは少なくとも1つの本発明による電極を含有する。好ましくは、本発明による電気化学セルにおいて、電気化学セルの大部分は本発明による電極を含有する。さらにより好ましくは、本発明による電池において、すべての電気化学セルは本発明による電極を含有する。
【0071】
本発明はさらに、本発明による電池を機器、特にモバイル機器に使用する方法を提供する。モバイル機器の例は、車両、例えば自動車、自転車、航空機、又は水上乗り物、例えばボート又は船である。モバイル機器の他の例は、手動で動くもの、例えばコンピューター、特にラップトップ、電話、又は例えば建築部門における電動手工具、特にドリル、バッテリー式ドライバー又はバッテリー式ステープラーである。
【0072】
本発明の別の態様は、本発明の物質の製造方法に関し、当該方法を「本発明の方法」とも称する。本発明の方法は、以下の工程:
(a)マンガンと、ニッケルと、任意にCo及びM1の少なくとも1つの元素との粒子状水酸化物、酸化物又はオキシ水酸化物を提供する工程と、
(b)リチウム源を添加する工程と、
(c)工程(b)から得られた混合物を熱処理する工程と、
(d)得られたリチウム化酸化物を鉱酸又はM1の化合物の水溶液又はそれらの組み合わせと接触させる工程と、
(e)水を除去する工程と、
(f)得られた固体残留物を熱処理する工程と
を含む。
【0073】
本発明の方法は、本発明の文脈においてそれぞれ工程(a)、工程(b)、工程(c)、工程(d)、工程(e)及び工程(f)とも称される6つの工程(a)、(b)、(c)、(d)、(e)及び(f)を含む。工程(d)及び(e)の開始は、同時であってもよく、好ましくは連続であってもよい。工程(d)及び(e)は、同時に又は連続的に行われてもよく、好ましくは、少なくとも部分的に重なって又は同時に行われてもよい。工程(f)の間、残留水分の形態の一部の水も除去されてもよい。工程(d)は、工程(c)の完了後に行われる。
【0074】
以下、各工程をより詳細に説明する。
【0075】
工程(a)では、マンガンと、ニッケルと、任意にCo及びM1の少なくとも1つの元素との粒子状水酸化物、酸化物又はオキシ水酸化物(以下、「前駆体」とも称される)が提供される。前記前駆体は、マンガンと、ニッケルと、任意にCo及びM1の少なくとも1つの元素との水酸化物を、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムと共沈させることにより、例えばそれぞれの硫酸塩から得られる。
【0076】
本発明の一実施態様において、前駆体は、2~20μm、好ましくは6~15μmの範囲の平均粒径D50を有する。本発明の文脈における平均粒径D50は、例えば光散乱によって決定することができるような、体積に基づく粒径の中央値を指す。
【0077】
本発明の一実施態様において、[(d90-d10)/(d50)直径]として表される前駆体の粒子径分布の幅は、少なくとも0.61、例えば0.61~2、好ましくは0.65~1.5である。
【0078】
本発明の一実施態様において、M1は、前記前駆体中の金属の合計に基づいて0.1~2.5モル%の範囲のMgを含む。
【0079】
本発明の一実施態様において、前記前駆体は、アニオンの総数に基づいて、0.01~10モル%、好ましくは0.3~5モル%水酸化物イオン又は炭酸イオン以外の、例えば硫酸イオンのアニオンを有する。
【0080】
本発明の一実施態様において、前駆体は、マンガンと、ニッケルと、任意にコバルト及びM1との水溶性塩の水溶液(溶液(α))を、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムの水溶液(溶液(β))と組み合わせることによって製造される。
【0081】
マンガン及びニッケルの、又はニッケル及びマンガン以外の金属の水溶性塩という用語は、25℃で25g/l以上の蒸留水中の溶解度を示す塩を指し、塩の量は、結晶水、及びアコ錯体から生じる水を省略した条件で決定される。ニッケル、コバルト及びマンガンの水溶性塩は、好ましくはNi2+及びMn2+のそれぞれの水溶性塩であってもよい。ニッケル及びマンガンの水溶性塩の例としては、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、ハロゲン化物(特に塩化物)が挙げられる。好ましいのは硝酸塩及び硫酸塩であり、中でも硫酸塩がより好ましい。
【0082】
本発明の一実施態様において、溶液(α)の濃度は、広い範囲で選択することができる。好ましくは、総濃度は、合計で、1kgの溶液当たり1~1.8モルの範囲の遷移金属、より好ましくは1kgの溶液当たり1.5~1.7モルの範囲の遷移金属であるように選択される。本明細書で使用される「遷移金属塩」とは、ニッケル及びマンガン、並びに該当する限りコバルト及びM1の水溶性塩を指し、他の金属、例えばマグネシウム又はアルミニウムの塩、又はニッケル及びマンガン以外の遷移金属の塩を含むことができる。
【0083】
水溶性塩の別の例は、ミョウバン、KAl(SO4)2である。
【0084】
溶液(α)は、2~5の範囲のpH値を有してもよい。より高いpH値が望まれる実施態様では、アンモニアが溶液(α)に添加されてもよい。しかしながら、アンモニアを添加しないことが好ましい。
【0085】
溶液(β)は、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムの水溶液である。例えば、水酸化カリウム、及び水酸化ナトリウムと水酸化カリウムとの組み合わせであり、水酸化ナトリウムがさらにより好ましい。
【0086】
溶液(β)は、例えば、溶液又はそれぞれのアルカリ金属水酸化物のエージングにより、ある程度の量の炭酸塩を含んでもよい。
【0087】
溶液(β)のpH値は、好ましくは13以上、例えば14.5である。
【0088】
溶液(α)と(β)を組み合わせる工程では、アンモニアを使用しないことが好ましい。
【0089】
本発明の一実施態様において、溶液(α)と(β)を組み合わせる工程の終了時のpH値は、それぞれ23℃の母液で測定され、8~12、好ましくは10.5~12.0、より好ましくは11.0~12.0の範囲である。
【0090】
本発明の一実施態様において、共沈は、10~85℃の範囲の温度、好ましくは20~60℃の範囲の温度で行われる。
【0091】
本発明の一実施態様において、共沈は、不活性ガス、例えばアルゴンのような希ガス、又はN2下で行われる。
【0092】
本発明の一実施態様において、わずかに過剰、例えば0.1~10モル%の水酸化物が適用される。
【0093】
溶液(α)と(β)の組み合わせ中にスラリーが形成される。固体は、固液分離法、例えばデカンテーション、濾過により、及び遠心分離機の手段により分離されてもよく、濾過が好ましい。前駆体が得られる。その後、前駆体は、例えば空気下、100~120℃の範囲の温度で乾燥される。好ましくは、前駆体の残留水分含有量は、1質量%以下、例えば0.01~0.5質量%である。
【0094】
工程(b)では、リチウム源を前駆体に添加する。本発明の方法の工程(b)を行うために、手順は、例えば、前駆体をLi2O、LiOH及びLi2CO3から選択される少なくとも1種のリチウム化合物と混合することであり、結晶化の水は本発明の文脈では無視される。好ましいリチウム源は、Li2CO3である。
【0095】
工程(b)を行うために、前駆体及びリチウム源の量は、所望の本発明の物質の化学量論が得られるように選択される。好ましくは、前駆体及びリチウム化合物(単数又は複数)の源は、リチウムとすべての遷移金属及び任意のMの合計とのモル比が、1.275:1~1.42:1、好ましくは1.30:1~1.38:1、さらにより好ましくは1.32:1~1.36:1の範囲であるよう選択される。
【0096】
工程(b)は、例えば、プラウシェアミキサー、又はタンブルミキサーで行うことができる。実験室規模の実験では、ローラーミルを適用することも可能である。
【0097】
本発明の方法の工程(c)を行うために、工程(c)に従って得られた混合物を、650~1000℃、好ましくは875~950℃の範囲の温度でか焼される。
【0098】
本発明の方法の工程(c)は、炉、例えば回転管状炉、マッフル炉、振り子炉、ローラーハース炉、又はプッシュスルー炉で行うことができる。また、前記の炉の2つ以上の組み合わせも可能である。
【0099】
本発明の方法の工程(c)は、30分~24時間、好ましくは3~12時間かけて行うことができる。工程(c)は、温度レベルで行うことができるか、又は温度プロフィールを実行することができる。
【0100】
本発明の一実施態様において、工程(c)は、酸素含有雰囲気中で行われている。酸素含有雰囲気は、空気、純酸素、酸素と空気との混合物、及び窒素のような不活性ガスで希釈された空気の雰囲気を含む。工程(c)では、酸素の雰囲気、又は空気又は窒素で希釈した酸素の雰囲気が好ましく、酸素の最小含有量は21体積%である。
【0101】
本発明の一実施態様において、工程(b)と(c)の間で、少なくとも1つの予備か焼工程(c*)が行われている。工程(c*)は、工程(b)で得られた混合物を、300~700℃の範囲の温度で2~24時間加熱することを含む。
【0102】
温度変化の間、1K/分~10K/分の加熱速度を得ることができ、2~5K/分が好ましい。
【0103】
工程(c)の後、得られた物質を室温まで冷却することが好ましい。
【0104】
工程(d)において、前記粒子状物質は、鉱酸又はM1の化合物の水溶液又はそれらの組み合わせ、好ましくは無機アルミニウム化合物の水溶液で処理される。前記水溶液は、1~8、好ましくは少なくとも2、より好ましくは2~7の範囲のpH値を有してもよい。工程(d)の終了時に、水相のpH値は、好ましくは3~6の範囲であることが観察される。
【0105】
鉱酸の例は、例えば0.01M~2M、好ましくは0.1~1.5Mの濃度の、硝酸、特に硫酸である。
【0106】
工程(d)で使用される前記水溶液の水硬度、特にカルシウムは、少なくとも部分的に除去されることが好ましい。脱塩水を使用することが好ましい。
【0107】
このようなM1の化合物は、水に容易に溶解する。この文脈における「容易に溶解する」とは、25℃で、1リットルの水当たり少なくとも10gのM1の化合物の溶解度を意味する。
【0108】
好適なアルミニウム化合物の例は、Al2(SO4)3、KAl(SO4)2、及びAl(NO3)3である。
【0109】
好適なチタン化合物の例は、Ti(SO4)2である。好適なジルコニウム化合物の例は、実験式Zr(NO3)4の硝酸ジルコニウムである。
【0110】
好適なモリブデン化合物の例は、MoO3、Na2MoO4、及びLi2MoO4である。
【0111】
好適なマグネシウム化合物の例は、MgSO4、MgCl2、及びMg(NO3)2である。
【0112】
好適なホウ素化合物の例は、実験式H3BO3のホウ酸である。
【0113】
本発明の一実施態様において、M1の化合物の量は、TMに対して0.01~5.0モル%の範囲であり、0.1~2.0モル%が好ましい。
【0114】
本発明の一実施態様において、前記処理は、鉱酸中のM1の化合物の溶液、例えば水性H2SO4中のAl2(SO4)3の溶液を用いて行われる。
【0115】
工程(d)における処理は、工程(c)のカソード活物質に鉱酸又はM1の溶液を添加し、得られた混合物を相互作用させることによって行うことができる。このような相互作用は、攪拌によって促進されてもよい。
【0116】
本発明の一実施態様において、工程(d)は、5~85℃の範囲の温度で行われ、10~60℃が好ましい。室温が特に好ましい。
【0117】
本発明の一実施態様において、工程(d)は、常圧で行われる。しかしながら、工程(d)を高圧下、例えば常圧より10ミリバール~10バール高い圧力、又は吸引で、例えば常圧より50~250ミリバール低い圧力、好ましくは常圧より100~200ミリバール低い圧力で行うことが好ましい。
【0118】
本発明の一実施態様において、工程(d)は、攪拌機付きフィルタ装置、例えば攪拌機付き圧力フィルタ又は攪拌機付き吸引フィルタで行われる。
【0119】
工程(c)から得られた物質をM1の化合物で処理する持続時間は、2~60分間の範囲であってよく、10~45分間が好ましい。
【0120】
本発明の一実施態様において、工程(c)から得られた物質と、鉱酸又はM1の化合物の溶液とのそれぞれの体積比は、1:1~1:10、好ましくは1:1~1:5の範囲である。
【0121】
本発明の一実施態様において、工程(d)~(e)は、同じ容器、例えば攪拌機付きフィルタ装置、例えば攪拌機付き圧力フィルタ又は攪拌機付き吸引フィルタで実施される。
【0122】
本発明の一実施態様において、工程(d)は、例えば1回~10回、繰り返される。好ましい実施態様において、工程(d)は1回のみ行われる。
【0123】
工程(e)では、水を除去する。前記水の除去は、蒸発によって、又は好ましくは固液分離法、例えばデカンテーションによって、又はあらゆるタイプの濾過によって、例えばバンドフィルター又はフィルタープレスによって行われてもよい。工程(e)は、水の完全除去又は部分的除去を含んでもよく、部分的除去が好ましい。水とともに、鉱酸及び/又は沈澱していないM1の化合物及び/又はリチウム塩が除去されてもよい。0.01~5質量%の残留水分を含有ことができる残留物が得られる。
【0124】
本発明の一実施態様において、フィルタ媒体は、セラミック、焼結ガラス、焼結金属、有機ポリマーフィルム、不織布、及び織物から選択されてもよい。
【0125】
工程(f)では、前記残留物が熱処理される。
【0126】
工程(f)は、任意のタイプのオーブン、例えばローラーハースキルン、プッシャーキルン、ロータリーキルン、振り子キルン、又は実験室規模の試験ではマッフルオーブンで行われてもよい。
【0127】
工程(f)による熱処理の温度は、150~290℃、又は300~500℃の範囲であり得る。
【0128】
300~500℃の温度は、工程(f)の最高温度に対応する。
【0129】
工程(e)から得られた物質を工程(f)に直接供することは可能である。しかしながら、段階的に温度を上げるか、又は温度を上昇させる(ramp up)か、又は工程(e)の後に得られた物質を工程(f)に供する前に、最初に40~80℃の範囲の温度で乾燥させることが好ましい。
【0130】
前記段階的な温度上昇又は昇温は、常圧、又は減圧、例えば1~500ミリバールの圧力下で行うことができる。
【0131】
その最高温度での工程(f)は、常圧下で行うことができる。
【0132】
本発明の一実施態様において、工程(f)は、酸素含有雰囲気、例えば、空気、酸素富化空気又は純酸素の下で行われる。
【0133】
工程(f)の前に100~250℃の範囲の温度での乾燥が行われる実施態様では、そのような乾燥は、10分~12時間の持続時間で行われてもよい。
【0134】
本発明の一実施態様において、工程(f)は、低減されたCO2含有量、例えば、0.01~500質量ppmの範囲の二酸化炭素含有量を有する雰囲気下で行われ、0.1~50質量ppmが好ましい。CO2含有量は、例えば赤外光を使用する光学的方法によって決定することができる。例えば赤外光に基づく光学的方法による二酸化炭素含有量が検出限界未満の雰囲気下で、工程(f)を行うことがさらに好ましい。
【0135】
本発明の一実施態様において、工程(f)は、1~10時間、好ましくは90分~6時間の範囲の持続時間を有する。
【0136】
本発明の一実施態様において、電極活物質のリチウム含有量は、1~5質量%、好ましくは2~4質量%低減される。前記低減は、主に、いわゆる残留リチウムに影響を与える。
【0137】
本発明の方法を行うことにより、優れた電気化学的特性を有する電極活物質が得られる。いかなる理論にも束縛されることを望むことなく、余分なアルミニウムは、電極活物質の表面に堆積したリチウム化合物の捕捉につながると仮定する。
【0138】
いかなる理論にも束縛されることを望むことなく、本発明の方法は、本発明の物質の粒子の表面の変更をもたらすと仮定する。
【0139】
本発明の方法は、さらなる(任意の)工程、例えば、工程(e)の後の洗浄工程、又は工程(f)の後のふるい分け工程を含んでもよい。
【0140】
実施例によって、本発明をさらに説明する。
【実施例】
【0141】
総説:特に明記されていない限り、パーセンテージは質量パーセントである。
【0142】
ICP:誘導結合プラズマ
250MPaで、圧縮密度を測定した。
【0143】
I.本発明の物質の合成
I.1 前駆体の合成
すべての共沈は、N2の雰囲気下で行った。
【0144】
I.1.1 TM-OH.1の合成、工程(a.1)
撹拌タンク反応器に脱イオン水を入れ、45℃に加熱した。その後、水酸化ナトリウム水溶液を添加することにより11.3のpH値を調整した。
【0145】
遷移金属硫酸塩水溶液及び水酸化ナトリウム水溶液を1.9の流量比で同時に供給し、総流量を12時間の平均滞留時間とすることにより、共沈反応を開始させた。遷移金属溶液は、Ni及びMnを1:2のモル比及び1.65mol/kgの合計の遷移金属濃度で含有した。水酸化ナトリウム水溶液は、50質量%の水酸化ナトリウム溶液であった。水酸化ナトリウム水溶液を別に供給することにより、pH値を11.3に維持した。すべての供給の始動から始めて、母液を継続的に取り出した。29時間後、すべての供給流を停止した。得られた懸濁液を濾過し、蒸留水で洗浄し、空気中120℃で乾燥させ、ふるいにかけることにより、混合遷移金属(TM)オキシ水酸化物前駆体を得た。平均粒径(D50)が6μmの前駆体TM-OH.1を得た。
【0146】
I.1.2 TM-OH.2の合成、工程(a.2)
I.1のプロトコルに基本的に従ったが、最初にアンモニア、1kgの水あたり18gの硫酸アンモニウムを添加した。共沈時には、28質量%の水酸化アンモニウム溶液を0.09(1kgの水酸化ナトリウム溶液あたり)の流量比で供給した。平均粒径(D50)が6μmの前駆体TM-OH.2を得た。
【0147】
I.2 未処理のカソード活物質の合成、工程(b)及び(c)
I.2.1 塩基物質BM.1の合成
前駆体TM-OH.1とLi2CO3を1.15のLi/(TM)モル比で混合した。得られた混合物を970℃に加熱し、20%の酸素と80%の窒素(体積比)との混合物の強制流下で5時間保持した。室温まで冷却した後、粉末を脱凝集させ、32μmのメッシュでふるい分けして塩基物質BM.1を得た。表面積(BET)は1.42m2/gで、圧縮密度は2.92g/cm3であった。
【0148】
I.2.2 塩基物質BM.2の合成
前駆体TM-OH.1とLi2CO3を1.14のLi/(TM)モル比で混合した。得られた混合物を875℃に加熱し、20%の酸素と80%の窒素(体積比)との混合物の強制流下で5時間保持した。室温まで冷却した後、粉末を脱凝集させ、32μmのメッシュでふるい分けして塩基物質BM.1を得た。表面積(BET)は1.94m2/gで、圧縮密度は2.88g/cm3であった。
【0149】
I.2.3 塩基物質BM.3の合成
前駆体TM-OH.2とLi2CO3を1.14のLi/(TM)モル比で混合した。得られた混合物を925℃に加熱し、20%の酸素と80%の窒素(体積比)との混合物の強制流下で5時間保持した。室温まで冷却した後、粉末を脱凝集させ、32μmのメッシュでふるい分けして塩基物質BM.3を得た。表面積(BET)は1.14m2/gで、圧縮密度は2.99g/cm3であった。
【0150】
I.2.4 塩基物質BM.4の合成
前駆体TM-OH.2とLi2CO3を1.17のLi/(TM)モル比で混合した。得られた混合物を950℃に加熱し、20%の酸素と80%の窒素(体積比)との混合物の強制流下で5時間保持した。室温まで冷却した後、粉末を脱凝集させ、32μmのメッシュでふるい分けして塩基物質BM.4を得た。表面積(BET)は1.11m2/gで、圧縮密度は3.08g/cm3であった。
【0151】
I.2.5 塩基物質BM.5の合成
前駆体TM-OH.1とLi2CO3を1.16のLi/(TM)モル比で混合した。得られた混合物を950℃に加熱し、20%の酸素と80%の窒素(体積比)との混合物の強制流下で5時間保持した。室温まで冷却した後、粉末を脱凝集させ、32μmのメッシュでふるい分けして塩基物質BM.5を得た。表面積(BET)は1.36m2/gで、圧縮密度は3.05g/cm3であった。
【0152】
I.3 鉱酸での塩基物質の処理、工程(d)、水の除去、工程(e)、及び熱処理、工程(f)
I.3.1 基本プロトコル
一般的な方法、工程(d.1):マグネチックスターラーを備えたタンク反応器に1kgのBM.1を入れた。25.5gのAl2(SO4)3を4リットルの0.1MのH2SO4に溶解し、1リットルの水で希釈して、BM.1に添加した。得られたスラリーを室温で30分間撹拌した、工程(d.1)。
【0153】
その後、濾過によって液相を除去した、工程(e.1)。
【0154】
濾過ケーキを4リットルの水で洗浄した。
【0155】
工程(f.1):得られた濾過ケーキを、まず120℃真空で12時間乾燥し、その後に電気炉で60体積%の酸素(残り:窒素)の雰囲気中400℃で5時間熱処理し、その後に室温まで冷却し、32μmのメッシュでふるい分けて、本発明の物質CAM.1を得た。
【0156】
表1では、プロセスパラメータをまとめた。表2では、物理的及び化学的分析パラメータをまとめた。
【0157】
【0158】
II.カソード活物質の試験
II.1 電極の製造、一般的な手順
正極:PVDFバインダー(Solef(登録商標)5130)をNMP(Merck)に溶解して、10質量%の溶液を作製した。電極の調製では、バインダー溶液(3.5質量%)、グラファイト(KS6、2質量%)及びカーボンブラック(Super C65、2質量%)をNMPに懸濁させた。自転公転攪拌機(ARE-250、株式会社シンキー;日本)を用いて混合した後、本発明のCAM.1~CAM.5のいずれか、又は比較用カソード活物質(92.5質量%)を添加し、懸濁液を再び混合して塊のないスラリーを得た。このスラリーの固形分を62.3%に調整した。このスラリーをエリクセン社製のオートコーターを用いてAlホイル上にコーティングした。さらに使用する前に、すべての電極をカレンダー処理した。カソード物質の厚さは38μmであり、9mg/cm2に相当する。電池組み立ての前に、すべての電極を105℃で12時間乾燥させた。
【0159】
II.2 電解質の製造
1MのLiPF6、1:4(w/w)のフルオロエチレンカーボネート:ジエチルカーボネートを含有する塩基電解質組成物を調製した。
【0160】
II.3 コイン型ハーフセルの製造
II.1で記載されているように調製したカソードと作用極及び対極してのリチウム金属を含むコイン型ハーフセル(直径20mm、厚さ3.2mm)をそれぞれ組み立て、Ar充填グローブボックス内に密封した。さらに、カソードとアノードとセパレータを、カソード//セパレータ//Liホイルの順に重ね合わせて、ハーフコインセルを作製した。その後、このコインセルに、0.15mLの上記(III.2)で記載しているEL塩基1を導入した。
【0161】
IV.セル性能の評価
コイン型ハーフセル性能の評価
製造したコイン型電池を用いて、電池性能を評価した。電池性能について、セルの初期容量及び反応抵抗を測定した。
【0162】
初期性能及びサイクルを以下のように測定した:II.3によるコインハーフセルを、室温、4.8V~2.0Vの間の範囲の電圧で試験した。初期サイクルについては、CC-CVモードで初期リチウム化を行った、すなわち、0.01Cに達するまで0.067Cの定電流(CC)を印加した。5分間の休止時間の後、2.0Vまで0.067Cの定電流で還元リチウム化を行った。その結果を表2にまとめた。
【0163】
【0164】
DC:放電容量
CE:クーロン効率
VED:体積エネルギー密度
n.d.:未定
第1サイクルの充電容量は、BM.2が248mA・h/gであるのに対し、CAM.2は262mA・h/gであった。
【0165】
BM.1、BM.2、BM.3、BM.4、BM.5をそれぞれ比較用物質とした。
【手続補正書】
【提出日】2021-03-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物Li
1+xTM
1-xO
2の粒子状物質であって、xは0.1~0.2の範囲であり、TMは、一般式(I)による元素の組み合わせであり、
(Ni
aCo
bMn
c)
1-dM
1
d (I)
(式中、aは0.30~0.38の範囲であり、
bは0~0.05の範囲であり、
cは0.60~0.70の範囲であり、
0<d≦0.05であり、
M
1は、Al、Ti、Zr、Mo、Mg、B、及び上記の少なくとも2種の組み合わせから選択され、
a+b+c=1である)
前記粒子状物質が2~20μmの範囲の平均粒径D50を有し、前記粒子状物質が2.75~3.2g/cm
3の範囲の
、250MPaの圧力で決定された圧縮密度を有する、粒子状物質。
【請求項2】
bがゼロであり、M
1が前記粒子状物質の粒子の外側に富んでいる、請求項1に記載の粒子状物質
。
【請求項3】
M
1がAlである、請求項
1又は2に記載の粒子状物質。
【請求項4】
体積エネルギー密度が2,750~3,100W・h/lの範囲であ
り、体積エネルギー密度が、第1サイクルの放電容量×平均電圧×圧縮密度として決定される、請求項1から
3のいずれか一項に記載の粒子状物質。
【請求項5】
前記圧縮密度が、
250MPaの圧力で決定され、2.85~3.10g/cm
3の範囲である、請求項1から
4のいずれか一項に記載の粒子状物質。
【請求項6】
以下の工程:
(a)
塩基としての水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムと共沈させることにより作られた、マンガンと、ニッケルと、任意にCo及びM
1の少なくとも1つとの粒子状水酸化物、酸化物又はオキシ水酸化物を提供する工程と、
(b)リチウム源を添加する工程と、
(c)工程(b)から得られた混合物を熱処理する工程と、
(d)得られたリチウム化酸化物を鉱酸又はM
1の化合物の水溶液又はそれらの組み合わせと接触させる工程と、
(e)水を除去する工程と、
(f)得られた固体残留物を熱処理する工程と
を含む、請求項1から
5のいずれか一項に記載の粒子状物質を製造する方法。
【請求項7】
工程(c)が、650~1000℃の範囲の最高温度で行われる、請求項
6に記載の方法。
【請求項8】
工程(e)が固液分離工程によって行われる、請求項
6又は7に記載の方法
。
【請求項9】
工程(f)が、300~500℃の範囲の温度で行われる、請求項
6から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
工程(d)及び(e)を同時に行う、請求項
6から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
(A)少なくとも1種の請求項1から
5のいずれか一項に記載の物質、
(B)導電状態の炭素、及び
(C)バインダー、
を含有する、電極。
【請求項12】
(1)少なくとも1つの請求項
11に記載の電極、
(2)少なくとも1つのアノード、及び
(3)電解質
を含有する、二次電池。
【国際調査報告】