(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-11
(54)【発明の名称】ポリロタキサンを含有する熱可塑性ポリマー組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20221104BHJP
C08J 5/00 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
C08L101/00
C08J5/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022512323
(86)(22)【出願日】2020-08-28
(85)【翻訳文提出日】2022-04-08
(86)【国際出願番号】 JP2020032509
(87)【国際公開番号】W WO2021039942
(87)【国際公開日】2021-03-04
(32)【優先日】2019-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)事業「超薄膜化・強靭化「しなやかなタフポリマー」の実現」、「環動高分子・ブロックコポリマーを用いたタフポリマーの創成と破壊の分子論的機構の解明」産業技術力強化法第17条の適用を受けるもの
(71)【出願人】
【識別番号】510162539
【氏名又は名称】ザ テキサス エーアンドエム ユニバーシティ システム
【氏名又は名称原語表記】THE TEXAS A&M UNIVERSITY SYSTEM
【住所又は居所原語表記】3369 TAMU College Station, Texas 77843-3369, United States of America
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シュエ フン ジュエ
(72)【発明者】
【氏名】ツァイ チア イン
(72)【発明者】
【氏名】モレロ グランディマー エス.
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 耕三
(72)【発明者】
【氏名】眞弓 晧一
(72)【発明者】
【氏名】上沼 駿太郎
(72)【発明者】
【氏名】安藤 翔太
【テーマコード(参考)】
4F071
4J002
【Fターム(参考)】
4F071AA33
4F071AA77
4F071AF13Y
4F071AF15Y
4F071AF18Y
4F071AF20Y
4F071AF21Y
4F071BA01
4F071BB03
4F071BC01
4F071BC12
4J002AA002
4J002AA011
4J002AB012
4J002AB022
4J002AB032
4J002AB052
4J002AC032
4J002AC062
4J002AC072
4J002AC082
4J002AD012
4J002AD022
4J002BB032
4J002BB122
4J002BB182
4J002BC031
4J002BC062
4J002BD032
4J002BE022
4J002BE062
4J002BG051
4J002BG092
4J002BG132
4J002BJ002
4J002BN152
4J002CF001
4J002CF061
4J002CG001
4J002CG002
4J002CH002
4J002CK012
4J002CK022
4J002CL002
4J002CM012
4J002CN022
4J002CQ012
4J002GL00
4J002GN00
4J002GP01
4J002GQ00
(57)【要約】
組成物は、熱可塑性ポリマーと、ポリロタキサンとを含有する。ポリロタキサンは、複数の環状分子と、串刺し状に複数の環状分子を貫通する鎖状ポリマーとを有し、複数の環状分子の各々の水酸基の少なくとも一部が、疎水基で置換されており、熱可塑性ポリマーに対するポリロタキサンの混和性を増強する基が、複数の環状分子の各々の前記疎水基の少なくとも一部に結合されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリマーと、ポリロタキサンとを含有する組成物であって、前記ポリロタキサンは、複数の環状分子と、串刺し状に前記複数の環状分子を貫通する鎖状ポリマーとを有し、前記複数の環状分子の各々の水酸基の少なくとも一部が、疎水基で置換されており、熱可塑性ポリマーに対するポリロタキサンの混和性を増強する基が、前記複数の環状分子の各々の前記疎水基の少なくとも一部に結合されている、組成物。
【請求項2】
ポリロタキサンが熱可塑性ポリマーと結合している請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
ポリロタキサンを含有する粒子の複数の不連続相が、熱可塑性ポリマーの連続相中に存在する構造を前記組成物が有し、前記複数の不連続相の一部又は全部が、透過型電子顕微鏡による5×5μm
2の視野において熱可塑性ポリマー中にポリロタキサンの粒子が分散されている構造を有する請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
複数の環状分子の水酸基の総数のうち20%よりも多い水酸基が前記疎水基と置換されている請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
串刺し状に前記複数の環状分子を貫通する鎖状ポリマーが、20,000以下の重量平均分子量を有する請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
10重量%以下のポリロタキサンを含有する請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
熱可塑性ポリマーが、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリスチレン、またはそれらの組み合わせを含む請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
熱可塑性ポリマーが、ポリメタクリル酸メチル、ポリプロピレン、またはポリ(エチレンテレフタレート)を含む請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記環状分子がシクロデキストリンを含む請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記疎水基がポリエステル、アルキル、ポリエーテル、または不飽和炭化水素を含む請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
熱可塑性ポリマーに対するポリロタキサンの混和性を増強する基が、熱可塑性ポリマーのモノマーを含む請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
ASTM D7023-13/ISO19252:2008スクラッチ試験に従って1mmのスクラッチチップで測定した場合の、厚さが1mmである組成物のクラック開始点の荷重が、80N以上である請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
シングル・エッジ・ノッチ三点曲げ(SEN-3PB)試験における前記組成物のモードI臨界応力強度(K
IC)が、1.5MPa・m
1/2以上である請求項1~12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
1mmの膜厚で400から700nmの範囲の波長で少なくとも85%の光透過率を有する請求項1~12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか一項に記載の組成物を含有する成形品。
【請求項16】
請求項1~14のいずれか一項に記載の組成物を含有するフィルム。
【請求項17】
熱可塑性ポリマーと、ポリロタキサンとを含有する組成物を製造する方法であって、
ポリロタキサンを提供することであって、前記ポリロタキサンは、複数の環状分子と、串刺し状に前記複数の環状分子を貫通する鎖状ポリマーとを有し、前記複数の環状分子の各々の水酸基の少なくとも一部が、疎水基で置換されており、熱可塑性ポリマーに対するポリロタキサンの混和性を増強する基が、前記複数の環状分子の各々の前記疎水基の少なくとも一部に結合されていること、および
熱可塑性ポリマーとポリロタキサンを混合すること
を含む方法。
【請求項18】
前記混合は、熱可塑性ポリマーとポリロタキサンを溶融混合することを含む請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記混合は、熱可塑性ポリマーとポリロタキサンを溶媒中で混合することを含み、前記方法は、混合する工程の後で溶媒を除去することをさらに含む請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記混合する工程の後で、熱可塑性ポリマーとポリロタキサンの混合物を成形することをさらに含む請求項17~19のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は熱可塑性ポリマーとポリロタキサンとを含有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
軽量で、耐衝撃性を有する透明樹脂が、自動車のレンズ、電子ディスプレイ、および板ガラス代替物のような適用に使用されている。そのような透明樹脂の代表例は、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)およびポリカーボネートなどのポリアクリレートを含有する熱可塑性樹脂である。
【0003】
ポリアクリレートは、(メタノール、エタノール、ブタノールなどの)アルコールと、アクリル酸またはメタクリル酸とのエステルである。ポリアクリレートはポリカーボネートに比べて光学特性と耐久性が優れているが、衝撃強度が低く、スクラッチ耐性(スクラッチ抵抗とも、scratch resistance)に乏しい。
【0004】
PMMAのようなポリアクリレートのための耐傷添加剤は文献に記載されている。例えば、アクリルゴムと、「シリコン含有滑剤」との組み合わせが、PMMAの耐傷性を改善することが示されている(非特許文献1)。脂肪酸アミドも使用されている(非特許文献2)。これらの添加剤には、ポリアクリレートの透明性を低減するという欠点がある。
【0005】
「ハードコート」は、噴霧工程またはプラズマ蒸着を用いて薄層コーティングを加えることを含む、完成品を保護するプロセスである(非特許文献3)。これらは許容できる透明性がある場合もあるが、追加の製造オペレーションが必要であるため、適用するには高価である。また、これらは、層間接着が弱いため、層剥離に関する問題を有し得る。さらには、複雑な形を一様にコーティングすることは困難である場合がある。
【0006】
他方、ポリロタキサンが、ポリラクチド、不透明ポリエステル熱可塑性樹脂 (非特許文献4)、エポキシ熱硬化性樹脂(非特許文献5)、ならびにメタ (アクリレート)(特許文献1)に添加されている。
【0007】
特許文献1は、多官能性(2以上の官能性の)メタ (アクリレート)、ポリロタキサン、微粒子シリカ、および光重合開始剤を含有する光硬化性組成物であって、多官能性のメタ (アクリレート)の含有量がX質量部、ポリロタキサンの含有量がY質量部、微粒子シリカの含有量がZ質量部である場合に、4つの式の関係が満たされる光硬化性組成物を開示している。このような光硬化性組成物の提供により、硬化膜の表面硬度における改善が取り組まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Kim, B. -C. et al, Tribology International, 44 (2011) 2035-2041
【非特許文献2】Mansha, M., Wear 271 (2011) 671-679
【非特許文献3】S. Sepeur, et al, Thin Solid Films 351 (1999) 216-219
【非特許文献4】K. Ito et al, Polymer 55 (2014) 4313-4323
【非特許文献5】S. Pruksawan, et al, Macromolecules 52 (2019) 2464-2475
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
係数およびガラス転移温度を妥協せず、ポリアクリレートなどの熱可塑性ポリマーの破壊(fracture)および/またはスクラッチ耐性を改善することができる、熱可塑性ポリマーとポリロタキサンとを含有する組成物が必要とされている。そのような組成物は、ポリロタキサンがベースポリマーの光学的透明性を著しくは低減しないため、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、および低結晶性ポリ(エチレンテレフタレート)などの透明プラスチックに特に有用である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本開示は以下の態様を包含する。
【0012】
第1の態様では、熱可塑性ポリマーと、ポリロタキサンとを含有する組成物が提供される。ポリロタキサンは、複数の環状分子と、串刺し状に複数の環状分子を貫通する鎖状ポリマーとを有する。複数の環状分子の各々の水酸基の少なくとも一部は、疎水基で置換されている。熱可塑性ポリマーに対するポリロタキサンの混和性を増強する基が、複数の環状分子の各々の疎水基の少なくとも一部に結合されている。
【0013】
第2の態様では、熱可塑性ポリマーと、ポリロタキサンとを含有する組成物を製造する方法が提供される。方法は、ポリロタキサンを提供すること、および熱可塑性ポリマーとポリロタキサンとを混合することを含む。ポリロタキサンは、複数の環状分子と、串刺し状に複数の環状分子を貫通する鎖状ポリマーとを有する。複数の環状分子の各々の水酸基の少なくとも一部が、疎水基で置換されている。熱可塑性ポリマーに対するポリロタキサンの混和性を増強する基が、複数の環状分子の各々の前記疎水基の少なくとも一部に結合されている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)とポリロタキサンとを含有する組成物のサンプルの調製を示す略図である。
【
図2】
図2は、サンプルのパラメーターの変化(例えばポリロタキサンの濃度、サンプル厚さ、および加工温度)である。
【
図3】
図3は、スクラッチ(傷を指す、scratch)の視認性を評価する手順の概要である。
【
図4】
図4(A)は、厚さが0.2mmである4つの異なるサンプルのクラック(割れを指す、crack)形成の臨界荷重のグラフである。
図4(B)は、垂直荷重に対するスクラッチ摩擦係数(scratch coefficient of friction, SCOF)のグラフである。
【
図5】
図5は、共焦点レーザー走査共焦点顕微鏡法による
図4(A)の4つのサンプルの画像を含む。
【
図6】
図6(A)は、厚さが0.4mmである4つの異なるサンプルのクラック形成の臨界荷重のグラフである。
図6(B)は垂直荷重に対するスクラッチ摩擦係数(SCOF)のグラフである。
図6(C)-(F)は、共焦点レーザー走査共焦点顕微鏡検法による
図6 (A)の4つのサンプルの画像である。
【
図7】
図7(A)は、厚さが1mmである4つの異なるサンプルのクラック形成の臨界荷重のグラフである。
図7(B)は垂直荷重に対するスクラッチ摩擦係数(SCOF)のグラフである。
図7(C)-(F)は、共焦点レーザー走査共焦点顕微鏡法による
図7(A)の4つのサンプルの画像である。
【
図8】
図8(A)は、厚さが1mmである4つの異なるサンプルを処理するか、または190℃で熱処理した場合の、サンプルのクラック形成の臨界荷重のグラフである。
図8(B)は垂直荷重に対するスクラッチ摩擦係数(SCOF)のグラフである。
図8(C)-(F)は、共焦点レーザー走査共焦点顕微鏡法による
図8(A)の4つのサンプルの画像である。
【
図9】
図9(A)は、厚さが1mmの4つのサンプルに視認できるクラックが生じたときの開始点の荷重を示すグラフである。
図9(B)は、
図9(A)の4つのサンプルの画像である
【
図10】
図10(A)は、厚さが1mmである4つのサンプルを処理するか、または190℃で熱処理した場合の、サンプルに視認できるクラックが生じたときの開始点の荷重を示すグラフである。
図10(B)は、
図10(A)の4つのサンプルの画像である。
【
図11】
図11(A)は、厚さが0.2mmである4つのサンプルに垂直荷重を加えた場合のレーザー共焦点顕微鏡法により測定された深さのグラフである。
図11(B)は、50Nの垂直荷重を加えた場合の、1重量%ポリロタキサンを含有するサンプルのレーザー共焦点顕微鏡法による三次元画像を示す。
図11(C)は、50Nの垂直荷重を加えた場合の、Neat PMMAのレーザー共焦点顕微鏡法による三次元画像を示す。
【
図12】
図12は、ポリロタキサン間の架橋反応のスキームを示す。
【
図13】
図13(A)は、PMMA_CD1%と名付けられた、ポリカプロラクトンがグラフトされたシクロデキストリン(PCLグラフトCD)を1重量%含有するPMMAの略図である。
図13(B)は、PMMA_uPR1%と名付けられた、PCLがグラフトされたCDから成る未修飾のポリロタキサンを1重量%含有するPMMAの略図である。
図13(C)は、PMMA_mPR1%と名付けられた、PCLがグラフトされたCDから成る未修飾のポリロタキサンを1重量%含有するPMMAの略図である。
図13(D)は、
図13(B)の組成物に使用されたポリロタキサンの物性である。
図13(E)は、
図13(C)の組成物に使用されたポリロタキサンの物性である。
【
図14】
図14は、160℃でホットプレスしたPMMA_CD1%のサンプル、160℃でホットプレスしたPMMA_uPR1%のサンプル、160℃でホットプレスしたPMMA_mPR1%のサンプル、及び190℃でホットプレスしたPMMA_mPR1%のサンプルの粒度分布を示すグラフである。
【
図15】
図15(A)は、160℃でホットプレスしたPMMA_mPR1%のサンプルの透過型電子顕微鏡画像である。
図15(B)は、190℃でホットプレスしたPMMA mPR1%のサンプルの透過型電子顕微鏡画像である。
【
図16】
図16(A)は、160℃でホットプレスしたPMMA_mPR1%のサンプルのより高い倍率での透過型電子顕微鏡画像である。
図16(B)は、190℃でホットプレスしたPMMA_mPR1%のサンプルのより高い倍率での透過型電子顕微鏡画像である。
【
図17】
図17は、160℃でホットプレスしたPMMA_uPR1%のサンプルの透過型電子顕微鏡画像である。
【
図18】
図18は、160℃でホットプレスしたPMMA_CD1%のサンプルの透過型電子顕微鏡画像である。
【
図19】
図19は、160℃でホットプレスした、厚さが1.0mmであるNeat PMMA、PMMA_CD1%、PMMA_uPR1%、およびPMMA_mPR1%のサンプルの各々にクラックが生じる開始点の荷重を示すグラフである。
【
図20】
図20は、Neat PMMA、PMMA_CD1%、PMMA_uPR1%、およびPMMA_mPR1%の各サンプルの400~800nmの波長の範囲の透過率を示すグラフである。
【
図21】
図21(A)は、Neat PMMA、PMMA_CD1%、PMMA_uPR1%、およびPMMA_mPR1%のサンプルの荷重対変位のグラフである。
図21(B)は各サンプルに対するK
IC値を示す表である。
【
図22】
図22は、クラック状態を示す顕微鏡画像である。(A) Neat PMMA、(B)190℃でホットプレスしたPMMA_uPR1%、(C)160℃でホットプレスしたPMMA_mPR1%、および(D)190℃でホットプレスしたPMMA_mPR1%。(A)および(B)中の白色矢印は、クラックチップ付近のクレーズを示す。スケールバーは50マイクロメートルを示す。
【
図23】
図23(A)は、160℃でホットプレスしたPMMA_mPR1%のサンプルの透過型電子顕微鏡画像である。
図23(B)は、
図23(A)の四角で囲んだ部分の拡大画像である。
【
図24】
図24(A)は、160℃でホットプレスしたサンプル中の、ポリロタキサンの粒子が熱可塑性ポリマーに分散された構造の拡大画像である。
図24(B)は、190℃でホットプレスしたサンプル中の、ポリロタキサンの粒子が熱可塑性ポリマーに分散された構造の拡大画像である。
図24(C)は、2つのサンプルの残留クレーズ厚さ(nm)の表である。
【
図25】
図25は、損失弾性率 (E′)とtan δ曲線である。
【
図26】
図26は、Neat PMMA、PMMA_uPR1%、およびPMMA_mPR1%の誘電損失を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書において、出願時英文明細書の用語「a」「an」、「the」、ならびに本発明について説明する文脈における同様の指示物は、本明細書に別途記載がない限り、あるいは文脈と明らかに不一致である場合を除き、単数と複数の両方を含むものとして解釈されるものとする。
【0016】
本開示の組成物は、1または複数の熱可塑性ポリマーと、ポリロタキサンとの混合物(blend)である。組成物は、熱可塑性ポリマー分子と、ポリロタキサン分子との混合物として表わすことができる。ポリロタキサンは熱可塑性ポリマーのためのスクラッチ耐性添加剤として作用する。
【0017】
熱可塑性ポリマーには、ポリメタクリル酸メチルなどのポリアクリレート;ビスフェノール-ポリカーボネートなどのポリカーボネート;ポリエチレン、ポリプロピレン、およびポリメチルペンテンなどのポリオレフィン;ポリスチレン;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリアルキルエンテレフタラート;PETG (ポリエチレンテレフタレートグリコール修飾);ポリオキシメチレン;ポリ塩化ビニル、およびそれらの組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。
【0018】
いくつかの実施形態では、熱可塑性ポリマーは、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリ(エチレンテレフタレート)、またはそれらの組み合わせである。別の実施形態では、熱可塑性ポリマーは、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリスチレン、またはそれらの組み合わせである。また別の実施形態では、熱可塑性ポリマーは、ポリメタクリル酸メチル、ポリプロピレン、もしくはポリ(エチレンテレフタレート)、またはそれらのそれらの組み合わせである。 耐衝撃性と光学特性の点では、熱可塑性ポリマーはポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、またはそれらの組み合わせを含むことが好ましい。
【0019】
本明細書では、ポリアクリレートとは、アクリル酸またはメタクリル酸のいずれかとのアルコールのエステルを指す。ポリアクリレートは、一般に2よりも大きい多分散性を与えるバルクまたは懸濁のいずれかでラジカル重合を用いて一般に調製される。ポリアクリレートは、小さい (<1.2)多分散性を生成物を与えるべくアニオン重合開始剤を用いて調製することもできる。
【0020】
ポリカーボネートは、塩基の存在下で、ビスフェノールAのようなジオールとホスゲンから一般に調製される。代わりに、ジオールを炭酸ジメチルと反応させて、ポリカーボネートとメタノールを形成することもできる。
【0021】
ポリアクリレート(例えばPMMA)およびポリカーボネートのような熱可塑性ポリマーの分子量は特に限定されないが、組成物の破壊および/またはスクラッチ挙動の改善の点では、5,000~500,000であってよく、好ましくは10,000~500,000であってよく、より好ましくは50,000~500,000であってよい。好ましい実施形態では、組成物中の熱可塑性ポリマーは互いにさらに重合されていない。すなわち、組成物中の熱可塑性ポリマーは、ポリロタキサンとの混合後に、さらに重合されない。言い換えると、組成物中の熱可塑性ポリマーは、重合開始剤又は光照射によって熱可塑性ポリマーをさらに重合することにより製造された熱可塑性樹脂を除く。特定の実施形態では、組成物中の熱可塑性ポリマーの総数のうち、95%以上の熱可塑性ポリマーが互いに重合されていない。
【0022】
ポリロタキサンは、少なくとも1つの環状分子を含有し、かつ該環状分子に鎖状ポリマーが挿通され、該鎖状ポリマーが該環状分子の開口部を通り抜けることができないほどに大きい末端基を有する分子である。言い換えると、ポリロタキサンは、少なくとも1つの環状分子と、該環状分子を貫通し、該環状分子により包接された鎖状ポリマーとを備えている。環状分子中の水酸基の全部または一部は、1つ以上の疎水基により修飾される。
【0023】
環状分子としては、シクロデキストリン、クラウンエーテル、ピラーアレン、カリックスアレン、シクロファン、ククルビトリル、およびそれらの誘導体が含まれるが、それらに限定されない。好ましくは、環状分子はシクロデキストリンである。シクロデキストリンはα-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、及びそれらの誘導体を含んでよい。誘導体としては、メチル化α-シクロデキストリン、メチル化β-シクロデキストリン、メチル化γ-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル化α-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル化β-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル化γ-シクロデキストリン、グリコシルシクロデキストリンなどが挙げられるが、それらに限定されない。
【0024】
1つのポリロタキサン分子中の環状分子は、1種類であってもよいし、または2種類以上であってもよい。組成物中の環状分子は、1種類であってもよいし、または2種類以上であってもよい。
【0025】
鎖状ポリマーは、それが串刺し状に環状分子を貫通する鎖状ポリマーである限り、特に限定されない。鎖状ポリマーは直線状であってもよいし、または分岐していてもよい。鎖状ポリマーは、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、セルロース(カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなど)、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアセタール、ポリビニルメチルエーテル、ポリアミン、ポリエチレンイミン、カゼイン、ゼラチン、デンプン、ポリエチレン、ポリプロピレン、および他のオレフィンモノマーとの共重合体樹脂のようなポリオレフィン、ポリカプロラクトンなどのポリエステル、 ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合体樹脂のようなポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、(メタ)アクリレートの共重合体、アクリロニトリル-メチルアクリレート共重合体などのアクリレート、ポリカーボネート、ポリウレタン、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラールなど、ポリイソブチレン、ポリテトラヒドロフラン、ポリアニリン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリアミド、ポリイミド、ポリイソプレン、ポリブタジエンなどのポリジエン、ポリジメチルシロキサンなどのポリシロキサン、ポリスルホン、ポリイミン、ポリカルボン酸無水物、ポリ尿素、ポリスルフィド、ポリホスファゼン、ポリケトン、ポリフェニレン、ポリハロオレフィン、およびそれらの誘導から成る群から選択されてもよい。鎖状ポリマーとして、ポリエステル、ポリエチレングリコール、およびポリプロピレングリコールが特に好ましい。
【0026】
ポリロタキサンの鎖状ポリマーは、端部にキャッピング基、すなわち環状分子が鎖状ポリマーから外れるのを防止する基を有する。したがって、鎖状ポリマーの両端は、大きすぎて環状分子を通過できず、環状分子は、鎖状ポリマーが串刺し状に環状分子を貫通する状態で鎖状ポリマー上に保持される。
【0027】
キャッピング基は、それが鎖状ポリマーの末端に配置され、環状分子の脱離を防止することができる限り、特に限定されない。例えば、キャッピング基は、アダマンタン基; 2,4-ジニトロフェニルおよび3,5-ジニトロフェニルなどのジニトロフェニル基;ジアルキルフェニル;シクロデキストリン;トリチル基;フルオレセイン;ピレン;アルキルベンゼン、アルキルオキシベンゼン、フェノール、ハロベンゼン、シアノベンゼン、安息香酸、アミノベンゼンなどの置換ベンゼン;置換されていてもよい多環式芳香族;ステロイド;及びそれらの誘導体からなる群から選択されてもよい。好ましくは、キャッピング基は、アダマンタン基;ジニトロフェニル基;シクロデキストリン;トリチル基;フルオレセイン;及びピレンからなる群から選択されてよく、より好ましくはアダマンタン基である。
【0028】
鎖状ポリマー(ポリロタキサン中の鎖状ポリマーの部分)の重量平均分子の量は、特に限定されず、例えば、1,000~500,000であってよい。いくつかの実施形態では、鎖状ポリマー、(ポリロタキサン中の鎖状ポリマーの部分)の重量平均分子量はは、20,000以下である。
【0029】
鎖状ポリマーの重量平均分子量は、例えば、標準試薬として既知の分子量を有する鎖状ポリマーを使用して溶出時間と分子量から作成された標準曲線に基づいて、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定されてもよい。
【0030】
鎖状ポリマーが環状分子を串刺し状に貫通する場合、鎖状ポリマーを包接する環状分子の、鎖状ポリマーを包接する環状分子の最大量に対する比は、好ましくは0.001:0.6であり、より好ましくは0.01:0.5であり、さらにより好ましくは0.05:0.4である。
【0031】
環状分子に由来するポリロタキサンは、エステル化およびエーテル化により完全にまたは部分的に改変可能なペンダント水酸基を有する。これは熱可塑性ポリマーとのポリロタキサンの相互作用を調整するのに有用であり得る。そのようなポリロタキサンの修飾の例が、米国特許第7,622,527号に記載されている。
【0032】
したがって、複数の環状分子の各々の水酸基の全部又は一部が、疎水基と置換される。
【0033】
疎水基は、カプロラクトンなどのポリエステル;プロピル、ブチル、ヘプチル、ヘキシルなどのアルキル;ポリプロピレングリコールなどのポリエーテル; ポリブタジエンなどの不飽和炭化水素;などのポリマ鎖またはオリゴマーであってよい。1つのポリロタキサン分子中の疎水基は1種類であってもよいし、または2種類以上であってもよい。組成物中の疎水基は、1種類であってもよいし、または2種類以上であってもよい。
【0034】
本発明のいくつかの実施形態では、複数の環状分子の各々の疎水基のうちの一部または全部が、熱可塑性ポリマーに対するポリロタキサンの混和性を増強または増大させる基を有する。したがって、熱可塑性ポリマーに対するそのようなポリロタキサンの混和性は、熱可塑性ポリマーに対するポリロタキサンの混和性を増強または増大させる基を有しないポリロタキサンの混和性と比較すると、増強されるかまたは増大する。熱可塑性ポリマーにおけるポリロタキサンの混和性は、ヒルデブラント溶解度パラメーター(δ、または単にSPと称される)として測定することができる。δは凝集エネルギー密度の平方根であり、以下のように表わすことができる:
δ = (E/V)1/2
式中、Eはモル凝集エネルギー(cal)であり、Vはモル体積(cm3/mol)である。
【0035】
熱可塑性ポリマーに対するポリロタキサンの混和性を増強する基の位置は、特に限定されないが、好ましくは、疎水基の端部に結合される。いくつかの実施形態では、熱可塑性ポリマーに対するポリロタキサンの混和性を増強する基は、熱可塑性ポリマーのモノマーである。モノマーが疎水基に結合された後、モノマーに由来するモノマー単位は疎水基に存在する。したがって、そのような基は熱可塑性ポリマーの種類に応じて適切に選択することができ、また、疎水基の水酸基の酸によるエステル化および疎水基の疎水ラジカルの熱可塑性ポリマーのモノマーによる置換といったような当該技術分野における公知の方法により、当業者は、そのような基を熱可塑性ポリマーと結合することができる。例えば、熱可塑性プラスチックポリマーがPMMAである場合、混和性を増強する基はメタクリロイルおよびアクリロイルであり得る。熱可塑性プラスチックポリマーがポリカーボネートである場合、混和性を増強する基はカーボネート基であり得る。熱可塑性プラスチックポリマーがポリエステルである場合、混和性を増強する基は、アルキルエステルまたはカルボン酸エステルのようなエステル基であり得る。熱可塑性プラスチックポリマーがポリ(エチレンテレフタレート)である場合、混和性を増強する基はテレフタラート基であり得る。熱可塑性プラスチックポリマーがポリスチレンである場合、混和性を増強する基はスチレン基であり得る。
【0036】
疎水基による環状分子の水酸基の修飾の程度は、特に限定されないが、複数の環状分子の水酸基の総数のうち、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上、より好ましくは40%以上の水酸基が疎水基と置換される。
【0037】
熱可塑性ポリマーに対するポリロタキサンの混和性を増強する基の程度は、特に限定されないが、例えば複数の環状分子の疎水基の総数のうち、20%以上、より好ましくは30%以上、より好ましくは40%、より好ましくは50%以上の水酸基が、好ましくは各疎水基の末端に、混和性を増強する基を有する。
【0038】
本発明のいくつかの実施形態では、ポリロタキサンが部分的に熱可塑性ポリマーと結合または反応して、ポリロタキサンと熱可塑性ポリマーの間で新たな結合を形成する。そのような結合には、共有結合、水素結合、イオン結合、または摩擦相互作用が含まれる。いかなる理論によっても束縛されることを望まないが、環状分子の水酸基の疎水基による置換と、熱可塑性ポリマーに対するポリロタキサンの混和性を増強する基のさらなる結合は、組成物のスクラッチ性能及び破壊靭性の改善に寄与すると考えられる。発明者らは、ポリロタキサン中のメタクリレートで官能化されたシクロデキストリンがPMMAと相互作用し、DMAおよび誘電分光を使用して観察したときにPMMA分子が有意により大きな力学緩和を示すことを発見した。これとは対照的に、官能化されないシクロデキストリンは、PMMAとの分子スケールの移動度の関連を示さなかった。これは、ポリロタキサンの中のメタクリレートで官能化されたシクロデキストリンがPMMAと相互作用し、DMAおよび誘電分散を使用して観察したときに、PMMA分子が、有意により大きな力学緩和を示すことを示している。官能化されたポリロタキサンのPMMAまたは他のポリマーマトリクスとの部分的な相互作用は、シクロデキストリンに導入された官能基の量および種類に依存して、以下で説明する完全混和性または相分離につながり得る。官能化されたポリロタキサンとポリマーマトリクスとの間のそのような分子間相互作用は、組成物の特性の大きな改善の要点である。
【0039】
複数の環状分子と、複数の環状分子を串刺し状に貫通する鎖状ポリマーとを有し、複数の環状分子の水酸基の全部または一部が疎水基により置換され、かつ熱可塑性ポリマーに対するポリロタキサンの混和性を増強する基が複数の環状分子の各々の疎水基の全部または一部に結合されているポリロタキサンは、Advanced Softmaterials Incから利用可能であるし、またはJun Araki, et al. Soft Matters, 4, 245-249(2008)に開示された方法によっても、ポリロタキサンのシクロデキストリンへのラクトンをグラフトし、ラクトン中の水酸基を疎水性基と置換することにより製造することができる。
【0040】
任意選択で、熱可塑性ポリマーとの反応性を増強する点では、疎水基の全部または一部が官能基を有してもよい。架橋剤が使用されない場合、そのような官能基は、使用される溶媒に応じて適切に変更してよい。他方、架橋剤が使用される場合、そのような官能基は、使用される架橋剤に応じて変更してよい。官能基の例としては、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、エポキシ基、イソシアネート基、チオール基、アルデヒド基などが挙げられるが、それらに限定されない
【0041】
いくつかの実施形態では、環状分子の疎水基は、熱可塑性ポリマーに対するポリロタキサンの混和性を増強する基以外に、熱可塑性ポリマーに反応性の官能基を有さず、また、組成物中の熱可塑性ポリマーと環状分子は本質的に架橋していない。すなわちいくつかの実施形態では、組成物中の熱可塑性ポリマーの総数のうちの95%以上の熱可塑性ポリマーが、ポリロタキサンと架橋されていない。他の実施形態では、組成物中の熱可塑性ポリマーの総数のうち、98%以上の熱可塑性ポリマーが、ポリロタキサンと架橋されていない。さらなる実施形態では、組成物中の熱可塑性ポリマーの総数のうち、100%の熱可塑性ポリマーが、ポリロタキサンと架橋されていない。そのような組成物は、靭性および/またはスクラッチ耐性が優れている。
【0042】
ポリロタキサンは、上述の種々の鎖状ポリマーと環状分子を使用して調製することができる。適切なポリロタキサンについて記載した文献は、例えばJ. Araki et al., Soft Matter 2007, 3, 1456-1473; G. Wenz, et al., Chem. Rev., 2006, 106, 782-817 およびA. Harada et al, Chem. Rev., 109, 5974-6023である。
【0043】
一般的に言うと、ポリロタキサンは、1種または2種以上の鎖状ポリマーを環状分子と混合することにより調製される。そのうち、環状分子は、紐の上の輪のように鎖状ポリマーの各々の上を通り、ポリロタキサンを形成する。鎖状ポリマーが環状分子から解離するのを防止するために、キャッピング反応が使用される。例えば、ポリエチレングリコールとシクロデキストリンが混合される。もつれた直鎖ともつれていない直鎖の平衡濃度が生じる。その後、ポリエチレングリコールの水酸基の末端基が、ジニトロベンゾアート、1,1,1-トリフェニルアセテートおよびアダマンチルカルボキシラートのような嵩高い酸でエステル化される。このキャッピングプロセスにより、鎖状ポリマーが環状分子から解離することが防止される。
【0044】
上記化学の生成物は、ポリロタキサンと絡み合っていない鎖状ポリマーと環状分子との混合物である。ポリロタキサンは、選択的沈殿のような標準法により分離することができる。しかしながら、不純混合物も要求される。この合成アプローチは可変性が高く、共重合体も含めた様々な分子量と組成の鎖状ポリマーを有するポリロタキサンを形成することができる。鎖状ポリマーは、1つより多くの環状分子を貫通していてもよい。
【0045】
特に、直鎖状分子としてポリエーテルと、環状分子としてシクロデキストリンとを有するよう調製されたポリロタキサンは、それらが安価であり、多くの変更型が利用可能であり、優れた効率でポリロタキサンが形成されるという点で、魅力的である。そのようなポリロタキサンが例えば米国特許第6,828,378号に記載されている。
【0046】
本発明の組成物のいくつかの実施形態では、ポリロタキサンが、熱可塑性ポリマーに完全には溶解しない。結果として、ポリロタキサンの少なくとも一部が、顕微鏡法を使用して観察することが可能な分離した相に存在する。例えば、通常5μmまたはそれより小さな範囲の、熱可塑性マトリックスに包囲されたポリロタキサンの相を明らかにするために、透過型電子顕微鏡(TEM)を使用することができる。いくつかの実施形態では、ポリロタキサン相/粒子は、それらのサイズが約100-200nmである。
【0047】
驚くべきことに、本開示の熱可塑性ポリマーとポリロタキサンとを含有する組成物では、ポリロタキサン中の複数の環状分子の水酸基の全部又は一部を疎水基により修飾し、かつ熱可塑性ポリマーに対するポリロタキサンの混和性を増強または増大させる基の疎水基への導入することにより、透過型電子顕微鏡による5×5μm2の視野で、固有の構造が観察される。具体的には、本開示の熱可塑性ポリマーとポリロタキサンとを含有する組成物は、ポリロタキサンを含む粒子の複数の不連続相が、熱可塑性ポリマーの連続相中に存在し、当該複数の不連続相の一部または全部がポリロタキサンの粒子であって熱可塑性ポリマー中に分散された構造を有する。この構造は、ポリロタキサンの粒子が熱可塑性ポリマー中に分散された多相構造であり、少なくとも20℃かつ1気圧の状態で観察することができる。この多層は、ポリロタキサンが熱可塑性ポリマーに完全には溶けないことを意味する。用語「完全には溶解しない(not completely dissolved)」は、「完全に可溶性というわけではない(not completely soluble)」と互換的に使用することができる。本明細書で使用する場合、「完全に可溶性というわけではない」とは、透過型電子顕微鏡で観察されたときに熱可塑性ポリマーおよびポリロタキサンが20℃かつ1気圧で分離した相として少なくとも部分的に観察される状態を指す。
【0048】
対照的に、ポリロタキサンの環状分子の水酸基が疎水基で修飾されていない組成物の場合、ポリロタキサンは熱可塑性ポリマーに可溶である。したがって、上記の固有の構造は観察されない。
【0049】
本発明者らは、この多相構造が靭性および/またはスクラッチ抵抗の観察される改善にとって重要であると仮定する。さらに、ポリロタキサンが熱可塑性ポリマーに溶解しないため、熱可塑性プラスチックの顕著なガラス転移温度の低下が観察されない(DMAプロット)。熱可塑性プラスチックの特性はガラス転移温度に関して劇的に変わるため、このことは重要である。
高いガラス転移温度は、光学的用途にとって望ましい場合が多い。
【0050】
複数の環状分子の水酸基の全部または一部が疎水基で置換され、熱可塑性ポリマーに対するポリロタキサンの混和性を増強または増大させる基が疎水基と結合されたポリロタキサンが、熱可塑性ポリマーと混合されると、組成物の靭性および/またはスクラッチ耐性が、置換ポリロタキサンを入れない(neat)熱可塑性ポリマー、熱可塑性ポリマーと疎水基で修飾されない水酸基を有する環状分子を備えたポリロタキサンとを含有する組成物、および熱可塑性ポリマーと一部または全部が疎水基で修飾された水酸基を有するが、熱可塑性ポリマーに対するポリロタキサンの混和性を増強または増大させる基が疎水基に結合されていない環状分子を備えたポリロタキサンとを含有する組成物と比べて改善される。
【0051】
驚くべきことに、この多相構造は、組成物の光学的透明性を低減しない。これは、ポリロタキサンと熱可塑性ポリマーの間の屈折率が類似するためか、不溶性のポリロタキサン領域のサイズが、光の波長より小さいためであり得る。
【0052】
組成物中のポリロタキサンの量は特に制限されない。熱可塑性ポリマーの特性を保持し、靭性および/またはスクラッチ耐性を改善する点では、10質量%以下が好ましい。1つの実施形態では、組成物中のポリロタキサンの量が0.1質量%から5質量%までである。別の実施形態では、組成物中のポリロタキサンの量が0.5質量%から5質量%まである。
【0053】
熱可塑性ポリマーおよびポリロタキサンに加えて、それらが本発明の効果を阻害しない限り、公知の添加剤を本開示の組成物に添加してもよい。そのような添加剤としては、変色または黄色化を防止するための酸化防止剤、耐候性を改善するための紫外線吸着剤、分子量を制御するための連鎖移動剤、難燃性を提供するための難燃剤、着色剤、などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0054】
好ましい実施形態では、ポリロタキサンは、ポリエチレングリコールとシクロデキストリンに由来し、水酸基の一部が置換され、熱可塑性ポリマーはポリメタクリル酸メチル(PMMA)を含むか、またはPMMAである。PMMAのようなポリアクリレートは、光学透明性および人生が望ましい、自動車のレンズ、電子ディスプレイ、および窓のグレージングなどの用途に使用される。これらの用途では、永久的な可視傷を残す可能性がある摩耗作用に材料が曝される。添加剤としてのポリロタキサンは、他の特性を低減させずに(特に光学的透明性)、靭性および/またはスクラッチ耐性を改善するよう作用する。
【0055】
本発明の実施形態の組成物はスクラッチ耐性が優れている。スクラッチ耐性は、ポリマー組成物のスクラッチ耐性を測定するための公知の試験により評価することができる。1つの実施形態では、ASTM D7023-13/ISO19252:2008スクラッチ試験に従って1mmのスクラッチチップで測定した場合の、厚さが1mmである組成物のクラック開始点の荷重が、80N以上である。
【0056】
本発明の実施形態の組成物は光学特定が優れている。1つの実施形態では、組成物は1mmの膜厚で400から700nmの範囲の波長で少なくとも85%の光透過率を有する。この実施形態は、可視領域で優れた透明性を示す。
【0057】
本発明の実施形態の組成物は破壊靭性が優れている。1つの実施形態では、シングル・エッジ・ノッチ三点曲げ(SEN-3PB)試験における組成物のモードI臨界応力強度(KIC)が、1.5MPa・m1/2以上である。組成物のKICは、より好ましくは2.0MPa・m1/2以上である。組成物中の熱可塑性ポリマーとしては、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリスチレン、またはそれらの組み合わせが挙げられるが、それらに限定されない。熱可塑性ポリマーは好ましくはPMMAである。
【0058】
熱可塑性ポリマーとポリロタキサンとを含有する組成物を製造する方法は、ポリロタキサンを提供すること、および熱可塑性ポリマーとポリロタキサンを混合することを含む。ポリロタキサンは、複数の環状分子と、串刺し状に複数の環状分子を貫通する鎖状ポリマーとを有する。複数の環状分子の各々の水酸基の少なくとも一部が、疎水基で置換されている。熱可塑性ポリマーに対するポリロタキサンの混和性を増強する基が、前記複数の環状分子の各々の前記疎水基の少なくとも一部に結合されている。
【0059】
混合する工程は、ミキサーおよびエクストルーダーのような従来の混合装置で行なわれてよい。
【0060】
いくつかの実施形態では、複数の環状分子の水酸基の総数のうち20%よりも多い水酸基が、疎水基と置換されている。いくつかの実施形態では、熱可塑性ポリマーとポリロタキサンを混合する工程は、熱可塑性ポリマーとポリロタキサンを溶融混合することを含む。その後、溶融物は、本発明の組成物を得るために冷却される。
【0061】
いくつかの実施形態では、熱可塑性ポリマーとポリロタキサンを混合する工程は、熱可塑性ポリマーとポリロタキサンを溶媒中で混合することを含む。溶媒中での熱可塑性ポリマーとポリロタキサンの混合は、溶媒にポリロタキサンを溶解し、ポリロタキサンを含む溶媒を、熱可塑性ポリマーと、又は熱可塑性ポリマーを別の溶媒に溶解させた溶液と、混合することを含んでよい。
ポリロタキサンを溶解させる溶媒と、熱可塑性ポリマーを溶解させる溶媒は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。好ましくは、2つの溶媒は同じである。そのような溶媒としては、テトラヒドロフラン、クロロホルム、アセトン、メチルエチルケトン、塩化メチレンなどが挙げられるが、それらに限定されない。
【0062】
混合する工程の後、本発明の組成物の固形物を得るために、溶媒が除去される。溶媒を除去する方法としては、オーブンなどの加熱装置で乾燥させること、および減圧下で乾燥させることが含まれる。固形物は1つ以上の最終生成物に製作してもよい。
【0063】
いくつかの実施形態では、方法はさらに、混合する工程の後で、熱可塑性ポリマーとポリロタキサンの混合物を成形することをさらに含む。成形には、プレス成形、押出し成形、射出成形などが含まれる。組成物は、成形により加工され、フィルムまたはシートのような任意の形状の成形品が得られる。本明細書で使用する場合、フィルムとは厚さが250μm未満である薄膜を指す。シートは、厚さが250μm以上の板状部材を指す。
【0064】
さらに、1つ以上の最終生成物の製作に溶融混合プロセスを行なうことも可能である。ポリロタキサン(例えば約0.1~5重量%)と熱可塑性ポリマーが、完成部品を製作するために、射出成形またはダイ押出し操作中に組み合わせられる。これは射出成形プロセスにいくらかの複雑さを加えるが、別個の混合プロセスを回避するという利点を有する。
【0065】
添付の請求項にもかかわらず、本発明および典型的な実施形態が、以下の項により記載される。
【0066】
項1.熱可塑性ポリマーと、ポリロタキサンとを含有する組成物であって、前記ポリロタキサンは、複数の環状分子と、串刺し状に前記複数の環状分子を貫通する鎖状ポリマーとを有し、前記複数の環状分子の各々の水酸基の少なくとも一部が、疎水基で置換されており、熱可塑性ポリマーに対するポリロタキサンの混和性を増強する基が、前記複数の環状分子の各々の前記疎水基の少なくとも一部に結合されている、組成物。
項2.ポリロタキサンが熱可塑性ポリマーと結合している項1に記載の組成物。
項3.ポリロタキサンを含有する粒子の複数の不連続相が、熱可塑性ポリマーの連続相中に存在する構造を前記組成物が有し、前記複数の不連続相の一部又は全部が、透過型電子顕微鏡による5×5μm2の視野において熱可塑性ポリマー中にポリロタキサンの粒子が分散されている構造を有する項1に記載の組成物。
項4.複数の環状分子の水酸基の総数のうち20%よりも多い水酸基が前記疎水基と置換されている項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
項5.串刺し状に前記複数の環状分子を貫通する鎖状ポリマーが、20,000以下の重量平均分子量を有する項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
項6.組成物中の熱可塑性ポリマーの総数のうちの95%以上の熱可塑性ポリマーはポリロタキサンで架橋されていない項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
項7.組成物中の熱可塑性ポリマーの総数のうちの95%以上の熱可塑性ポリマーは互いに重合されていない項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
項8.10重量%以下のポリロタキサンを含有する項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
項9.熱可塑性ポリマーが、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリスチレン、またはそれらの組み合わせを含む項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
項10.熱可塑性ポリマーが、ポリメタクリル酸メチル、ポリプロピレン、またはポリ(エチレンテレフタレート)を含む項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
項11.環状分子がシクロデキストリンを含む項1~10のいずれか一項に記載の組成物。
項12.疎水基がポリエステル、アルキル、ポリエーテル、または不飽和炭化水素を含む項1~11のいずれか一項に記載の組成物。
項13.熱可塑性ポリマーに対するポリロタキサンの混和性を増強する基は、熱可塑性ポリマーのモノマーまたは熱可塑性ポリマーの部分的要素を含む項1~12のいずれか一項に記載の組成物。
項14.熱可EM塑性ポリマーがPMMAを含み、熱可塑性ポリマーに対するポリロタキサンの混和性を増強する基が、メタクリロイル基またはアクリロイル基を含む項1~11のいずれか一項に記載の組成物。
項15.ASTM D7023-13/ISO19252:2008スクラッチ試験に従って1mmのスクラッチチップで測定した場合の、厚さが1mmである組成物のクラック開始点の荷重が、80N以上である項1~14のいずれか一項に記載の組成物。
項16.シングル・エッジ・ノッチ三点曲げ(SEN-3PB)試験における前記組成物のモードI臨界応力強度(KIC)が、1.5MPa・m1/2以上である請求項1~12のいずれか一項に記載の組成物
項17.1mmの膜厚で400から700nmの範囲の波長で少なくとも85%の光透過率を有する項1~16のいずれか一項に記載の組成物。
項18.項1~17のいずれか一項に記載の組成物を含有する成形品.
項19.項1~17のいずれか一項に記載の組成物を含有するフィルム。
項20. 熱可塑性ポリマーと、ポリロタキサンとを含有する組成物を製造する方法であって、
ポリロタキサンを提供することであって、前記ポリロタキサンは、複数の環状分子と、串刺し状に前記複数の環状分子を貫通する鎖状ポリマーとを有し、前記複数の環状分子の各々の水酸基の少なくとも一部が、疎水基で置換されており、熱可塑性ポリマーに対するポリロタキサンの混和性を増強する基が、前記複数の環状分子の各々の前記疎水基の少なくとも一部に結合されていること、および
熱可塑性ポリマーとポリロタキサンを混合することを含む方法。
項21.前記混合することは、熱可塑性ポリマーとポリロタキサンを溶融混合することを含む項20に記載の方法。
項22.前記混合することは、熱可塑性ポリマーとポリロタキサンを溶媒中で混合することを含み、前記方法は、混合する工程の後で溶媒を除去することをさらに含む項20に記載の方法。
項23.前記混合する工程の後で、熱可塑性ポリマーとポリロタキサンの混合物を成形することをさらに含む項20~21のいずれか一項に記載の方法。
【実施例】
【0067】
試験例1
これらの実験の目的は、ポリマーのスクラッチ耐性に対するポリロタキサンの影響を決定することである。
【0068】
1. サンプルの調製
一連の16枚のフィルムを以下の方法を使用して調製した。
粉末形態のポリメタクリル酸メチル(PMMA、分子量~120,000)はSigma-Aldrichから購入した。ポリロタキサン(SM1303P、Advanced Softmaterials Inc.)は、各端部がアダマンチル基でキャップされ、シクロデキストリンにより包接され、シクロデキストリンにグラフト重合された水酸基のうち約半分がメタクリル酸との反応によりメチル化されている、二官能性ポリエチレングリコールに由来するポリロタキサンである。
【0069】
図1で示されるように、0.05gのポリロタキサン(PR)を超音波処理を使用して、5mLテトラヒドロフラン(THF)に溶解させた。この溶液をソニケーションおよび油浴加熱 (45℃)して10gのポリメタクリル酸メチル(PMMA)の60mL THF溶液に滴下して加えた。10分後、溶液をアルミニウム箔の型に注ぎ、溶媒を24時間、85℃で真空オーブン中で蒸発させた。このサンプルは、0.5phr(重量部)のPRを含んでおり、PMMA_PR0.5%と名付けた。
同一の実験を0.1gのポリロタキサンを使用して行った。これは1phrのPRを含んでおり、PMMA_PR1%と名付けた。ポリロタキサンを含まないサンプルをコントロールの系として調製し、PMMA_PR0%と名付けた。
【0070】
(160℃に)加熱した液圧プレスを10分間使用して、乾燥試料をフィルムに成形した。 フィルムの最終厚さは0.2mm、0.4mmおよび1.0mmであった。ポリロタキサンなし、0.05gポリロタキサンおよび0.1gポリロタキサンのサンプルを、それぞれPMMA_0% PR、PMMA_0.5% PRおよびPMMA_1% PRとして示す。粉末PMMAを用いてもフィルムを調製した。これをPMMA_POWDERと示す。最後に、1mmフィルムの追加のセットを、190℃でのプレスにより製造した。PRの濃度、フィルム(mm)の最終厚さ、およびプレス温度(℃)に基づくサンプルのバリエーションを、
図2に示す。
【0071】
2. ASTM D7023-13/ISO19252:2008スクラッチ試験
装備されたスクラッチ試験(各フィルム3枚)を、ASTM D7023-13/ISO19252:2008スクラッチ試験を用いて、1mmスクラッチチップ、線形に増加する荷重(1から150N)、定数10mm/秒速、スクラッチ長さ50mmで、各フィルムに対して行った。スクラッチ試験の完了後、レーザー共焦点顕微鏡(キーエンス VK9700 VLSCM)を使用して、10倍の倍率で、ストレッチ変形機構を観察した。
【0072】
図3に示されるように、クラック形成の臨界荷重はVLSCMを使用して観察された。クラック形成は連続的であり、また、スクラッチ経路に沿って荷重の増大とともに周期的に増加する傾向があった。クラック形成は、スクラッチ跡に沿った表面粗さの著しい増加により特徴付けられる。
クラックはさらに放物線であり、スクラッチ方向に対して反対の箇所であり得る。PMMAおよびPMMA/PR複合体中のクラック形成の例を、
図5、
図6C-F、
図7C-F、
図8C-Fに示す。
【0073】
結果
表1および
図4~8は、ASTM D7023-13/ISO19252:2008に従ったスクラッチ試験におけるクラック形成(N)のための臨界荷重を示す。PMMA_PR0.5%およびPMMA_PR1%では、ポリロタキサンの成形温度および濃度にかかわらず、ポリロタキサンを含まない粉末PMMAおよびPMMAフィルムと比較して、クラック形成のための臨界荷重は増大した。フィルムの成形温度および厚さが同じである時、ポリロタキサンの濃度がより高くなるにつれて、クラック形成の臨界荷重は大きかった。成形温度およびポリロタキサンの濃度が同じである場合、フィルムの厚さがより大きくなるにつれて、クラック形成の臨界荷重は大きかった。フィルムの厚さおよびポリロタキサンの濃度が同じである時、クラック形成の臨界荷重は、160℃の成形温度よりも190℃の成形温度で大きかった。しかし、ホットプレスの温度差によるクラック形成の臨界荷重の差は、PMMA_PR1%では本質的に観察されなかった。
【0074】
【0075】
3. スクラッチ視認性のためのスクラッチ試験
スクラッチの視認性を調べるために、
図3に示されるように、サンプルが望ましくない光源から影響を受けるのを防ぐために、フィルムをそれぞれブラックボックス中で撮影し、、蛍光光源を使用して照射した。画像を、高解像度カメラ(EF-S 18-55mm ズームレンズを備えたキャノン EOS REBEL T3i DSLR)を使用して補捉した。カメラとサンプル表面の間の角度は45°であり、カメラとサンプル表面の間の角度は90°であった。撮影された画像は、表面のMachine Systemsにより提供されているTribometrics(著作権)ソフトウェアパッケージを使用して分析した。
3%のコントラストおよび90%の連続性の標準法を選択した。
【0076】
結果
表2および
図9は、視認できるクラック形成の開始点の荷重 (N)を示す。0.5phrのポリロタキサンを含むPMMAフィルムおよび1phrのポリロタキサンを含むPMMAフィルムでは、可視クラック形成の荷重は、粉末PMMAおよびポリロタキサンを含まないPMMAフィルムと比較して、成形温度およびPRの濃度にかかわらず増加した。温度が同じである場合、ポリロタキサンの濃度が高くなるにつれて、可視クラック形成の荷重は大きかった。ポリロタキサンの濃度が同じである時、190℃で成型されたフィルムの可視クラック形成の荷重は、160℃で成形されたフィルムより大きかった(
図10を参照)。
【0077】
【0078】
4. 深さ分析
PMMA_POWDER、PMMA_PR0%、PMMA_0.5%およびPMMA_PR1%スクラッチ深さをレーザー共焦点顕微鏡(LCM)により測定した、サンプルの厚さは0.2mmであり、深さはスクラッチ垂直荷重の関数として測定した。
【0079】
結果
図11(A)は、PMMA_POWDER、PMMA_PR0%、PMMA_0.5%およびPMMA_PR1%のポストスクラッチ深さ対スクラッチ垂直荷重を示す。1phrのポリロタキサンを含むPMMAフィルムは、他の系と比較して、スクラッチ深さが著しく減少している。
図11(B-C)は、PMMA_PR1%(
図11(B))およびPMMA_PR0%(
図11(C))の50Nの垂直荷重における表面プロフィールの三次元画像を示す。溝の形成は、ポリロタキサンのないPMMAフィルムにおいて深刻である。
【0080】
5. 引張挙動の測定
PMMA_powder、PMMA_0% PR、PMMA_0.5% PRおよびPMMA_1% PRの各々のヤング率E(GPa)、引張強度(tensile strength)σ(MPa)および破断点伸びε(%)を測定した。フィルムの厚さは約0.2mmとした。引張試験は動的機械分析装置 (RSA-G2)を使用して行なった。ヤング率Eは応力-ひずみ曲線の線形領域における応力とひずみの比として定義した。引張強度σは破断が生じた時の応力とした。破断点伸びεは破断が生じた時のひずみとした。
【0081】
結果
表3および4は、160℃および190℃の温度で成形されたサンプルの測定値をそれぞれ示す。ポリロタキサンの濃度が増加するにつれてヤング率は増加した。破断点伸びもポリロタキサン濃度とともに増加した。従って、ポリロタキサンが加えられると、サンプルフィルムのスチフネスだけでなく破断点伸びもより大きくなる。これはフィルムのスクラッチ耐性の改善の原因であり得る。
【0082】
【0083】
【0084】
6. ガラス転移温度の測定
PMMA_powder、PMMA_0% PR、PMMA0.5%のPR、およびPMMA_1% PRの各々のガラス転移温度を動的機械分析を用いて測定した。フィルムは160℃で成形し、厚さは0.2-1mmとした。
【0085】
結果
160℃の成形温度で成形されたPMMA_powder、PMMA_0% PR、PMMA_0.5% PR、およびPMMA_1% PRのガラス転移温度は、それぞれ119℃、121℃、114℃、および114℃であった。PMMA_0.5% PRおよびPMMA_1% PRのガラス遷移温度は、ポリロタキサンを含まないフィルムと比較して、約5℃減少した。190℃の成形温度で成形されたPMMA_powder、PMMA_0% PR、PMMA_0.5% PR、およびPMMA_1% PRのガラス転移温度は、それぞれ124℃、123℃、126℃、および124℃であった。190℃で成形されたPMMA_0.5% PRおよびPMMA_1% PRのガラス転移温度は、160℃で成型されたPMMA_0.5% PRおよびPMMA_1% PRのガラス転移温度よりも10℃高かった。この理由は、ポリロタキサンの一部がPMMA中で互いに反応していることである可能性がある。
【0086】
7. ホットプレス後のPMMAフィルムの光透過率
160℃で成形された1mm厚のPMMAフィルムの光学透明性を、紫外-可視分光計(島津製作所、UV-3600)を用いて400-700nmの可視波長域で調べた。
【0087】
結果
すべてのサンプルの光線透過率(%)は、実験誤差を伴って400nmの85%から700nmの90%まで上昇した(データ非図示)。
【0088】
8. ポリロタキサンの架橋と分子量
架橋: ポリロタキサンの有機溶液200μLを室温で乾燥させた。続いて、それを140℃で12時間真空状態で乾燥した。得られた材料と200μLのCHCl3とを混合した。
分子量:1mg/mLのPMMA、PR、PMMA/PRサンプルを1mLのCHCl3に溶解した。溶離剤としてCHCl3を使用したサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を、Polymer source, IncからのPEG標準購入品を使用して得られた検量線で島津製作所LC-10ADおよびRID-10を使用して実行した。
【0089】
結果
図12は、ポリロタキサン間の架橋反応のスキームを示す。ポリロタキサンを140℃で12時間加熱した後、材料はCHCl
3に溶解せず、(写真に示されるように)不溶性粒子となった。
ポリロタキサンは加熱前にはCHCl
3に溶解させることができる。これらの結果は、ポリロタキサンが140℃またはそれより高い温度に加熱された場合に、ポリロタキサン同士で架橋している可能性を示唆している。
【0090】
発明者はさらに、165℃と190℃のような異なる温度でホットプレスした後の、PMMAの分子量に対するポリロタキサンの影響について検討した。分子量は異なる温度で処理しても変わらなかった。これらの結果は、PMMAが190℃でプレスしたときでさえ分解せず、PMMAがポリロタキサンと反応しなかったことを示唆している(データ非図示)。
【0091】
試験例2
1. サンプルの準備
ポリロタキサン(0.1g、Advanced Softmaterials Inc.のSM1303P)を10mLのテトラヒドロフラン(THF)に溶解した。その溶液を、50℃に加熱した油浴に漬けた10gのポリメタクリル酸メチル(PMMA)の60mL THF溶液に滴下して加え、10-20分間攪拌した。混合物を15分間超音波で処理し、アルミニウム箔の型に注いだ。溶剤を、少なくとも24時間85℃オーブンに配置することにより除去した。このサンプルは1phrのポリロタキサンを含んでおり、PMMA_mPR1%と名付けた。乾燥した材料を、160℃で10-15分間ホットプレスした。ポリロタキサン(0.1g、Advanced Softmaterials Inc.のSH1300P)を同じ手順に従って調製した。このサンプルは1phrのポリロタキサンを含んでおり、PMMA_uPR1%と名付けた。ポリカプロラクトンでグラフト重合された0.1gのシクロデキストリン(CD)を、同じ手順に従って調製した。この系は1phrのCDを含んでおり、PMMA_CD1%と名付けた。ポリロタキサンもCDも含まないサンプルをコントロールの系として調製し、Neat PMMAと名付けた。フィルムは、約0.2mmのの厚さを有していた。
【0092】
図13A、13Bおよび13Cは、それぞれPMMA_CD1%、PMMA_uPR1%、およびPMMA_mPR1%の略図である。
図13DはSH1300Pの物性である。
図13EはSM1303Pの物性である。
【0093】
2.組成物の顕微鏡観察
160℃でホットプレスしたPMMA_CD1%、PMMA_uPR1%、およびPMMA_mPR1%、ならびに190℃でホットプレスしたPMMA_mPR1%の4つのサンプルの形態を、透過型電子顕微鏡(TEM)により測定した。フィルムはエポキシ樹脂封入体に埋め込み、OsO4結晶で6時間染色し、12時間間水中でリンスした。粒径と粒度分布をImageJソフトウェアを使用して測定した。ポリロタキサンは熱可塑性ポリマーに完全に可溶性というわけではないため、その一部または全部が、熱可塑性ポリマーとは異なって染色される分離相として存在する。これは画像中に観察されるコントラストを生じさせる。
【0094】
結果
図14は、4つのサンプルの粒径および粒度分布を示す。
図15は、160℃(A)および190℃(B)でプレスされたPMMA_mPR1%の形態を示す。
図16は、160℃(A)および190℃(B)でプレスされたPMMA_mPR1%の高倍率TEM画像である。
図17および
図18は、PMMA_uPR1%およびPMMA_CD1%のTEM画像をそれぞれ示す。
【0095】
図15A-Bにおいて、ポリロタキサンを含む複数の粒子の複数の不連続相が、PMMAの連続相中の暗色スポットとして観察される。より高い倍率では、
図16A-Bに示されるように、不連続相(2)がPMMA(1)の連続相中に存在し、ポリロタキサン(4)の粒子がPMMA(3)中に分散されたる構造を有する。この固有の構造は、PMMA_uPR1%フィルム(
図17)またはPMMA_CD1%フィルム(
図18)では観察されなかった。
【0096】
3. ASTM D7023-13/ISO19252:2008に準拠したスクラッチ試験
スクラッチ抵抗を、試験例1のセクション2と同じ方法を使用して、160℃でホットプレスした、Neat PMMA、PMMA_CD1%、PMMA_uPR1%、およびPMMA_mPR1%について調べた。
【0097】
結果
図19は、クラック形成の開始点の荷重(N)を示す。PMMA_uPR1%およびPMMA_mPR1%は、その両方ともポリロタキサンを含んでいるが、可視クラック形成の荷重は、Neat PMMAおよびポリロタキサンを含まないPMMA_CD1%と比較して増加した。
クラック形成荷重はPMMA_uPR1%よりもPMMA_mPR1%で大きかった。これは、CDの水酸基の疎水基による置換ならびに該疎水基への熱可塑性ポリマーに対するポリロタキサンの混和性を増強する基の結合が、スクラッチ中の暗く形成に対する耐性の増加に効果があることを示している。
【0098】
4. 引張挙動の測定
引張試験を、動的機械分析装置 (RSA-G2)を使用して行なった。ヤング率Eは応力-ひずみ曲線の線形領域における応力とひずみの比として定義した。引張強度σは破断が生じた時の応力とした。破断点伸びεは破断が生じた時のひずみとした。
【0099】
結果
表5は、Neat PMMA、PMMA_CD1%、PMMA_uPR1%、およびPMMA_mPR1%の引張強度(Tensile Strength)、破断点伸び(Elongation at Break)、および引張率(Tensile Modulus)を示す。PMMA_CD1%の引張弾性率は、Neat PMMAに対してわずかに減少した。Neat PMMA、PMMA_uPR1%およびPMMA_mPR1%は、同様の引張弾性率を有する。引張強度と破断点伸びは、PMMA_mPR1%およびPMMA_uPR1%の両方で増加している。
【0100】
【0101】
5. 圧縮強度
ポリロタキサン(0.05g、Advanced Softmaterials Inc.のSM1303P)を10mLのテトラヒドロフラン(THF)に溶解した。その溶液を、50℃に加熱した油浴に漬けた5gのポリメタクリル酸メチル(PMMA)の60mL THF溶液に滴下して加え、10-20分間攪拌した。混合物を15分間超音波で処理し、アルミニウム箔の型に注いだ。溶剤を、少なくとも24時間間85℃オーブンに配置ことにより除去した。このサンプルは1phrのポリロタキサンを含んでおり、PMMA_mPR1%と名付けた。ポリロタキサン(0.05g、Advanced Softmaterials IncのSH1300P)を同じ手順に従って調製した。このサンプルは1phrのポリロタキサンを含んでおり、PMMA_uPR1%と名付けた。ポリカプロラクトンでグラフト重合された0.05gのシクロデキストリン(CD)を、同じ手順に従って調製した。この系は、1phrのCDを含んでおり、PMMA_CD1%と名付けた。PRもCDも含まないサンプルをコントロールの系として調製した。乾燥した材料を、160℃で10-15分間、6mmの厚さの型に入れてホットプレスした。ポリロタキサンもCDも加えられなかったという点を除いて、コントロール試料を同じ条件で調製した。
【0102】
短軸圧縮試験を、ASTM D695-10規格に従って、1.3mm/分のクロスヘッド速度で、MTS Insight (登録商標)万能試験機を使用して行なった。標本をダイヤモンド鋸刃で12mm×6mm×6mmの呼び寸法に切断した。2400グリットの紙やすりを使用して、表面を平らかつ互いに平行にすることを確保した。試験中の摩擦を最小限にするために、圧縮固定具に潤滑剤を塗布した。各標本に対して少なくとも3つのサンプルを試験した。
【0103】
結果
表6は、Neat PMMA、PMMA_CD1%、PMMA_uPR1%、およびPMMA_mPR1%の降伏応力(Yield Stress)、圧縮強度(Compressive Strength)、および圧縮率(Compressive Modulus)を示す。圧縮率はサンプル間で類似している。ポリロタキサンの添加に伴い、降伏応力が増加している。圧縮強度は、PMMAへの1phrの修飾ポリロタキサンの添加により、著しく改善される。
【0104】
【0105】
6.ホットプレス後のPMMAフィルムの光透過率
160℃で成形された1mm厚のPMMAフィルムの光学透明性を、紫外-可視分光計(島津製作所、UV-3600)を400-700nmの可視波長に使用して調べた。
【0106】
結果
図20に示されるように、すべてのサンプルの光線透過率(%)は、実験誤差を伴って400nmの80%から700nmの90%まで上昇した。
【0107】
7. 破断靭性
ポリロタキサン(0.11g、Advanced Softmaterials Inc.のSM1303P)を20mLのテトラヒドロフラン(THF)に溶解した。その溶液を、50℃に加熱した油浴に漬けた11gのポリメタクリル酸メチル(PMMA)の60mL THF溶液に滴下して加え、10-20分間攪拌した。混合物を15分間超音波で処理し、アルミニウム箔の型に注いだ。溶剤を、少なくとも24時間85℃オーブンに配置することにより除去した。乾燥した材料を、160℃で10-15分間、3mm厚の型に入れてホットプレスした。1phrのポリロタキサン(SH1300P)、 (PMMA_uPR1%)、1phrのシクロデキストリン(PMMA_CD1%)、およびポリロタキサンを含まないサンプル(Neat PMMA)についても同じ手順に従った。
【0108】
シングル・エッジ・ノッチ三点曲げ(SEN-3PB)試験を使用して、Neat PMMA、PMMA_CD1%、PMMA_uPR1%、およびPMMA/mPR1%のモードI臨界応力強度(KIC)を得た。試験は、5mm/分のクロスヘッド速度で、MTS Insight (登録商標)万能試験機を使用して行なった。液体窒素で冷却した新しいカミソリ刃で叩くことにより生成された最初のクラックが、試験に先立って親指の爪形のクラック正面を示すことを確実にするために、注意を払った。
少なくとも5つの標本を使用して、PMMA/PR標本のKICを決定した。臨界応力強度因子は、以下の方程式を用いて計算した。
【0109】
【数1】
P
cがクラック発生時の荷重であり、Sはスパン幅であり、Bは標本の厚さであり、f (a/W)はヒンジ係数であり、Wは標本の幅であり、aは初期クラック長さである。
【0110】
結果
図21に示されるように、破壊靭性(K
IC)は、ポリロタキサンの添加と160℃でのプレスにより、1.1±0.1MPa.m
1/2から2.1±0.3MPa.m
1/2に改善した。
【0111】
8. 破砕機構調査 - ダブル・ノッチ四点曲げ(DN-4PB)試験
DN-4PB試験を使用して、強靭になるための機構について調べた。DN-4PB試験の詳細は、Liu Jia, et al, Macromolecules 41.20(2008): 7616-7624.を参照されたい。2つのほぼ同じクラックを、長方形の標本の同じ側の端に切って入れる。一旦荷重されると、クラックのうちの一方が臨界状態に最初に達して伝搬し、それにより、残りのクラックが臨界以下のクラックチップの損傷領域を発達させる。要点となる破壊機構を、停止されたクラックチップの損傷領域にて識別することができる。TEMのための領域は、エポキシ樹脂封入体に埋め込み、OsO4結晶で6時間染色し、12時間間水中でリンスした。
【0112】
結果
図21は光学顕微鏡検査による、サンプルのクラックチップにおける損傷領域を示す。
図22(A-B)は、Neat PMMAおよびPMMA_uPR1%における最小のクレーズ形成を示す。
図22(C-D)は、160℃および190℃でプレスしたPMMA_mPR1%の重要なクレーズ形成を示す。
【0113】
図23Aおよび23Bは、160℃でホットプレスしたPMMA_mPR1%の透過型電子顕微鏡によるクラックチップ付近の損傷領域を示す。巨大なクレーズ形成は、破壊靭性における著しい改善の原因であり得る。
図24Aとおよび24Bは、160℃と190℃でプレスPMMA_mPR1%の残留クレーズ厚さ(Residual Craze Thickness)をそれぞれ示す。残留クレーズ厚さは190℃でホットプレスしたサンプルではより高く、これは160℃で処理されたサンプルと比較して、破壊靭性が改善していることの原因であり得る。
【0114】
9. 動的機械分析(DMA)
DMAは、1Hzの固定周波数および5℃/分の一定のランプ速度で、-120から165℃まで温度領域を使用して、RSA G2装置 (TA Instruments)を使用して行なった。分析には0.05%のシヌソイドひずみ振幅を選択した。貯蔵弾性率(E′)およびtanδ曲線を温度の関数としてプロットした。tanδ曲線中のピークでの温度をTgとして記録した。
【0115】
結果
図25は、温度に対する貯蔵弾性率(E′)およびtanδの曲線を示す。Neat PMMA、PMMA_uPR1%、およびPMMA_mPR1%のTgは、それぞれ121、117および123℃であった。PMMAに未修飾のPRを添加すると、Tgがわずかに減少した。Tgの低下は、PMMA_mPR1%で有意により顕著であった。
【0116】
10. 誘電分散
誘電分光分散計を使用して、周波数の関数として誘電損失を測定した。Neat PMMA、PMMA_uPR1%、およびPMMA_mPR1%の誘電損失を、0.1~1E+07Hzの周波数範囲で30℃にて測定した。
【0117】
結果
図26に示されるように、PMMA_mPR1%の誘電損失は、低周波範囲で、Neat PMMAおよびPMMA_uPR1%より有意に高かったが、これは、PR構造のCDにメタクリル酸塩官能基を導入することにより、mPRとPMMAマトリックスの間により広い範囲の結合があることを示唆している。Neat PMMAおよびPMMA uPR1%の誘電損失は、全周波数範囲の全体にわたって類似している。
【0118】
本発明者らのDMAと誘電損失の測定結果に基づくと、mPRがPMMAマトリックスと広範囲に結合していることは全く明白である。対照的に、uPRは、PMMAとの分子スケールの結合を示さないと思われる。これは、PR中のメタクリレートで官能化されたCDがPMMAと相互作用しておりPMMA分子が大きく力学的に緩和することを示す。これは、非常に改善されたスクラッチ耐性および破壊靭性につながる重要な発見であり得る。
【国際調査報告】