(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-16
(54)【発明の名称】高濃縮タンパク質製剤中の粘度低減剤としてのカンファースルホン酸およびそのカチオン性賦形剤との組み合わせ
(51)【国際特許分類】
A61K 38/00 20060101AFI20221109BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20221109BHJP
A61K 47/20 20060101ALI20221109BHJP
A61K 47/18 20060101ALI20221109BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20221109BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20221109BHJP
C07K 16/18 20060101ALN20221109BHJP
【FI】
A61K38/00
A61K39/395 A
A61K39/395 H
A61K47/20
A61K47/18
A61P37/02
A61K9/08
C07K16/18
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022517150
(86)(22)【出願日】2020-09-16
(85)【翻訳文提出日】2022-05-13
(86)【国際出願番号】 EP2020075840
(87)【国際公開番号】W WO2021053001
(87)【国際公開日】2021-03-25
(32)【優先日】2019-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2019-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591032596
【氏名又は名称】メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D-64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】ローゼンクランツ,トビアス
(72)【発明者】
【氏名】ギュベリ,ラファエル ヨハネス
(72)【発明者】
【氏名】ヘンツラー,タンヤ
(72)【発明者】
【氏名】クローグ,アレクサンドラ
(72)【発明者】
【氏名】ヒルデブラント,クリスティアン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA11
4C076CC07
4C076DD49
4C076DD50
4C076DD51
4C076DD57
4C076DD57G
4C076FF17
4C076FF36
4C084AA01
4C084AA03
4C084AA30
4C084BA03
4C084MA05
4C084MA16
4C084NA03
4C084NA14
4C084NA20
4C084ZB07
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB31
4C085CC22
4C085CC23
4C085DD11
4C085EE01
4C085EE05
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、低減された粘度を示す高度に濃縮されたタンパク質の組成物に関し、これは、少なくともカンファースルホン酸の添加によって誘導される。調製される製剤に含有されるタンパク質は、凝集および変性に対して安定化されており、およびしたがって、患者への投与まで十分に保管安定性である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも50mg/mlから300mg/mlまでの範囲の濃度のタンパク質を含む液体組成物の粘度を低減するための方法であって、液体組成物を、賦形剤としての少なくともカンファースルホン酸と、粘度低減効果を有する濃度で、併用するステップを含む、前記方法。
【請求項2】
液体組成物を、カンファースルホン酸および少なくとも1つのカチオン性賦形剤と併用するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも1つのカチオン性賦形剤が、アルギニン、メグルミン、オルニチンおよびカルニチンを含むリストから選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
カンファースルホン酸を含まない同一の液体組成物と比較して、または、カンファースルホン酸ならびに、好ましくはアルギニン、メグルミン、オルニチン、およびカルニチンからなる群から選択される、少なくとも1つのカチオン性賦形剤を含まない同一の液体組成物と比較して、粘度が低減している、請求項1、2または3に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも1つのカチオン性賦形剤がアルギニンである、請求項2~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
液体組成物が、液体医薬製剤であり、および、タンパク質が薬学的に活性なタンパク質である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
タンパク質は、抗体、抗体フラグメント、ミニボディー、ナノボディー、改変された抗体、抗体様分子、抗体-薬物抱合体および融合タンパク質の群から選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
液体組成物の粘度は、少なくとも12%、好ましくは少なくとも50%低減される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
タンパク質の濃度は、90mg/ml~250mg/mlの間である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
カンファースルホン酸の濃度は、約500mM未満、とくに200mM未満である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
液体組成物のpHは、約3~約8の範囲であり、緩衝液を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
賦形剤を含まない、または、賦形剤の組み合わせを含まない同一の液体組成物と比較して、低減した粘度を有する、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法によって得られる液体組成物。
【請求項13】
バイオプロセスにおける請求項1~11のいずれか一項に記載の方法の使用。
【請求項14】
濾過ステップにおける液体組成物の透過流束は、カンファースルホン酸を含まない同一の液体組成物と比較して、または、カンファースルホン酸ならびに、好ましくはアルギニン、メグルミン、オルニチン、およびカルニチンからなる群から選択される、少なくとも1つのカチオン性賦形剤を含まない同一の液体組成物と比較して、増加している、請求項13に記載の方法の使用。
【請求項15】
濾過ステップにおける緩衝液交換および容積低減後のタンパク質回収率は、カンファースルホン酸を含まない同一の液体組成物と比較して、または、カンファースルホン酸ならびに、好ましくはアルギニン、メグルミン、オルニチン、およびカルニチンからなる群から選択される、少なくとも1つのカチオン性賦形剤を含まない同一の液体組成物と比較して、増加している、請求項13または14に記載の方法の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低減された粘度を示す高度に濃縮されたタンパク質製剤の組成物に関し、低減された粘度は、少なくともカンファースルホン酸の添加によって誘導される。調製された製剤中の含有タンパク質は、凝集および変性に対して安定化されており、よって、患者への投与まで、充分に保管安定性である。
【背景技術】
【0002】
技術水準
開発中のほとんどの生物治療用タンパク質産物は、モノクローナル抗体(mAb)または二重特異性抗体または抗体フラグメントなどの関連するフォーマットである。かかる産物の治療用量は、しばしば、臨床的に重要な適応症の広範にわたって高い。
【0003】
しかしながら、ペプチドおよびタンパク質分子は、既存の有機および無機薬物の分子よりも、より大きくかつより複雑である(すなわち、これらは、複雑な三次元構造に加えて、複数の官能基を有する)。かかるタンパク質の製剤化は、製造者(formulator)にとって具体的な問題を提示する。これらの問題のうちの1つは、特に高濃度における、タンパク質製剤の増大した粘度である。
【0004】
しかしながら、後者は、具体的な問題である。なぜなら、患者の利便性、コンプライアンス、および、医療費全体の視点から、結果として生じる産物が、低容積の皮下注射を介して送達されることが高度の所望されているためである。
【0005】
しかし、高治療用量および高度に所望される低注射容積の組み合わせは、しばしば、活性成分の極めて高濃縮の製剤の必要性に繋がる。生物治療法の安定した水性製剤を高濃度で達成することは、並外れて困難であり得ることが周知であり、しばしば、凝集、粒子形成の速度、および、粘度の相当な増加に繋がる。高粘度は、産物の注射可能性を顕著に制限するので、許容し得ない。
【0006】
抗体および他のタンパク質治療法は、静脈内(IV)、筋肉内(IM)または皮下(SC)ルートによってなどの非経口的に投与され得る。皮下注射は、患者投与を単純化するその潜在力(速い低容積の注射)および低減した処置費用(より短い医療支援)に起因して、タンパク質治療法の送達のための増大する注目を集めてきた。患者コンプライアンスを保証するために、皮下注射剤形は、等張性であり、および、小さい注射容積(注射部位あたり<2.0ml)を包含することが所望される。注射容積を低減するために、タンパク質は、しばしば、1mg/ml~150mg/mlの範囲内で投与される。
【0007】
よって、主に、皮下投与のためのタンパク質製剤の開発は、しばしば、粘度の問題に関連する。容積制限(<2ml)および用量要件(大抵>100mg投与)は、しばしば、高度に濃縮されたタンパク質製剤を要求する。しかし、高濃度において、すでに述べたとおり、タンパク質は、高度に粘性の溶液を形成する傾向があり、および、安定性は、可溶性および不溶性のタンパク質-タンパク質凝集物の形成に起因して解決が困難となり得る。したがって、粘度は、
a) 製造プロセス、および、
b) 患者への投与
についての重大なチャレンジである。
【0008】
製造プロセスにおいて、高度に粘性の高度に濃縮されたタンパク質製剤は、プロセシングにおいて、具体的には限外濾過および滅菌濾過において、困難を提示する。さらにまた、増大した粘度は、タンパク質に増大したずり応力を生じ、これは、産物の喪失を頻繁に生じる。
【0009】
mAbベースの治療は、大抵、延長された期間にわたり繰り返して投与され、および、数(several)mg/kgの投薬を必要とする。抗体溶液または懸濁液は、静脈内(IV)注入、および皮下(SC)または筋肉内(IM)注射によるなどの、非経口ルートを介して投与され得る。ここで、注射溶液において、高粘度は問題である。この問題を解決するために、および、溶液の安定性を改善するために、高濃度の添加剤および賦形剤は、大抵、同様に添加される。筋肉内または皮下投与が意図される製剤化のための所望のタンパク質濃度において、高濃度の安定化剤(スクロースおよび塩化ナトリウムなど)は、長期タンパク質安定を達成するために必要とされる。その結果得られる溶液は、しばしば、高い注射の力および組織損傷に起因する注射疼痛を引き起こす。
【0010】
したがって、高タンパク質濃度製剤の安定性およびモル浸透圧濃度のための安定剤の必要な量のバランスをとることが重要である。
結果として、粘度に起因する技術的困難性は、しばしば、皮下送達のためのタンパク質製剤を開発することの失敗へ繋がる。
【0011】
皮下製剤の開発における成功率を増加させるために、化学的な方法による粘性の低減および制御は、近年、相当な注目を集めている。
多数の刊行物および特許出願が、塩(ほとんどNaCl)および特別なアミノ酸のファミリー(好ましくはアルギニン、ヒスチジンおよびプロリン)からの賦形剤を参照し、これらは、ある高濃度タンパク質治療法の粘度を低下させることにおいて効率的であることが示されている。
【0012】
残念ながら、粘度を低下させるためのこれらの周知のアプローチは、タンパク質製剤の粘度が様々な分子間力の結果であるという事実に起因して、普遍的に適用可能ではない。タンパク質分子およびその製剤化条件に依存して、分子クラウディング、双極子-双極子または双極子-電荷相互作用、または、疎水性または荷電基の間の相互作用などの、異なる相互作用が、粘度に影響し得る。その結果として、医薬産業は、とくに、上に言及されたNaClおよびアミノ酸に基づく標準的な溶液が失敗するときの代替選択肢としての、粘度低減賦形剤の強い必要性を有している。
【0013】
非常に多数の粘度低下添加剤および賦形剤が過去に研究されている。しかしながら、現在のところ、高濃度で粘度問題を示す全ての治療用タンパク質溶液が、公知の粘度低下賦形剤によって適正に対処できるわけではない。
【0014】
バイオプロセスの間、溶液は、チュービングおよびクロマトグラフィーカラムを通って、汲み出す必要がある。高粘度において、かかるカラムを通る流速は、より長い処理時間、クロマトグラフィーの間の顕著なタンパク質喪失に繋がるか、または、タンパク質溶液の完全な非プロセス可能性に繋がり得る、該粘度によって制限されている。さらにまた、狭いチューブからより狭くないカラムへとコネクタを通過するとき、ずり応力が発生し得る。ずり応力は、タンパク質が変性し、および、潜在的に凝集する典型的な理由であり、および、それによってプロセスの収率を低減する。明らかに、凝集を誘導したかかるずり応力は、プロセス経済に悪影響を有する。その上、クロマトグラフィーカラム内のゲルベッドは、高圧によって損傷し得る。
【0015】
加えて、いくつかのタンパク質は、タンジェンシャルフローフィルトレーション(FFF)を通して高濃度に製剤化される。溶液の粘度が重大となる場合、ゲル様層は、膜の近くに形成され得る。とくに膜流束は、顕著に減少し、増大したプロセシング時間を生じ、およびしたがって、顕著に高い製造コストを生じる。前に考察したとおり、TFFの間にまた、ずり応力が発生し、不溶性タンパク質凝集物および低減した収率を生じ得る。
【0016】
一般に、高度に粘性の溶液は、ある粘着性を発生し、容器から、チューブから完全に溶液を回収すること、または、プロセシング系から全物質を取り出すことを困難にすることが観察されている。この物質の喪失は、プロセス経済学に自明な弊害を有し、有意に低減した産物収率を生じる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的
医薬用途について意図されたタンパク質製剤(例として、モノクローナル抗体、融合タンパク質等々)は、大抵、望ましくない凝集に対する、および、物理的または化学的な分解を防止するための、安定剤を必要とする。これらの問題は、高いタンパク質濃度において悪化するが、しかしながら、これらは、このクラスの分子の治療的な投与にしばしば所望される。
【0018】
高濃度において、タンパク質は、自己会合する傾向があり、高粘度製剤を結果として生じ、および、例として、これらのタンパク質溶液の注射による投与を複雑にし、しかしまた、製造プロセスを複雑化し、この製造プロセスにおいて、タンジェンシャルフローフィルトレーションは、しばしば、緩衝液交換のため、および、タンパク質濃度の増加のために使用される。濾過および注射の間の、背圧およびずり応力を増大することにより、治療用タンパク質は、潜在的に不安定化されるか、または、プロセス期間の時間は、過度に延長される。結果的に、生物医薬産業内で、粘度低下特性を有する、製剤化添加剤および賦形剤、または、それらの組み合わせの高い必要性が存在する。しかしながら、モノクローナル抗体のようなタンパク質を製剤化することは、タンパク質変性および生物活性の喪失を避けるために、製剤化添加剤および/または賦形剤の慎重な選択を必要とする。
【0019】
しかしながら、依然として、非常に多数の新興の新しい抗体および抗体フォーマットは、好適な革新的な粘度低下添加剤および/または賦形剤の、または、特定の添加剤/賦形剤の組み合わせの、または、標的化製剤化ストラテジーの開発を必要とする。タンパク質製剤は非経口的(これは、静脈内、筋肉内、腹腔内、皮内または皮下ルートを包含する)に投与されるので、これらの添加剤/賦形剤は、薬学的に安全である必要がある。結果的に、これらの製剤中に使用され得る添加剤は、生理学的に相溶性でなければならず、および、望ましくない副作用を有していてはならず、および、いかなる状況でも、アレルギー反応に繋がってはならない;とりわけ、これらは、いずれのアナフィラキシー様副作用も引き起こしてはならない。
【0020】
さらにまた、解決すべき課題は、タンパク質溶液の粘度を有効に低減する賦形剤の組み合わせを提供することである。
【0021】
もう1つの解決すべき課題は、関係のある濃度で使用される多くの粘度低減賦形剤が、タンパク質安定性に不利に影響し得ることである。ゆえに、さらなる解決すべき課題は、タンパク質溶液の粘度を有効に低減し、および、組み合わせと比較して同様の粘度低減を結果として生じる、より高い濃度で単独で使用される1つの粘度低減賦形剤と比較して改善されたタンパク質安定性を示す、賦形剤組み合わせの提供である。
【0022】
高粘度のタンパク質溶液は、バイオプロセシングにおいて無数の困難を引き起こす。対応するタンパク質溶液において粘度を低減するためにこれまでに使用された公知の添加剤は、多くの場合に充分な粘度低減効果に繋がらないので、本発明の目的は、新しい可能性を見出し、これにより、対応する粘度低下効果は改善され得、および、プロセス経済学に対する弊害が低減され得る。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の主題
予想外なことに、高度に濃縮されたタンパク質製剤を製剤化するための実験において、賦形剤は、単独で、または、他の賦形剤と組み合わせて、粘度を実質的に低下させるのに好適であることが見出された。
【0024】
本発明は、少なくとも50mg/mlから300mg/mlまでの範囲の濃度のタンパク質を含む液体組成物の粘度を低減するための方法を指し、液体組成物を、粘度低減効果を有する濃度の賦形剤としての、少なくともカンファースルホン酸と併用するステップを含む。
【0025】
本発明に従って、以下に列挙される分子の群から選択される、賦形剤または賦形剤の組み合わせは、最適化された濃度の高度に濃縮されたタンパク質液体製剤に添加される。それにより、タンパク質を含む液体組成物の粘度は、実質的に低減される。
【0026】
好ましくは、液体タンパク質組成物は、カンファースルホン酸および少なくとも1つのカチオン性賦形剤と組み合わされる。良好な粘度の低減は、カンファースルホン酸が、アルギニン、メグルミン、オルニチン、およびカルニチン(carnithine)からなる群より選択される少なくとも1つのカチオン性賦形剤と組み合わせて、タンパク質を含む液体組成物に添加されるときに達成される。
【0027】
驚くべきことに、本発明の賦形剤の組み合わせは、液体タンパク質組成物の粘度を相乗的に低減し、および、任意に同時にタンパク質の安定性を増大させることができる。
驚くべきことに、1つのみの粘度低減賦形剤が使用されるときと比較して、本発明の賦形剤組み合わせを使用するとき、粘度低減潜在力に関係して、タンパク質安定性は、負に影響されることが少ない。
【0028】
タンパク質は、治療的または薬学的に活性なタンパク質であり得、および、抗体、抗体フラグメント、ミニボディー、ナノボディー、改変された抗体、抗体様分子、抗体-薬物抱合体および融合タンパク質の群から選択されるタンパク質であり得る。これにより、製剤の粘度は、少なくとも12%、好ましくは少なくとも50%低減されている。
結果的に、本発明の目的は、液体タンパク質組成物であるか、または、 賦形剤なしのまたは賦形剤なしの同一の製剤と比較して粘度が低減された液体医薬製剤は、この方法によって生産される。
【0029】
良好な粘度低減は、少なくとも40mg/mlから250mg/mlまでの濃度の、好ましくは少なくとも90mg/mlから250mg/mlまでの濃度の、タンパク質、好ましくは治療用タンパク質を含む液体医薬製剤を用いて、および、少なくともカンファースルホン酸が粘度低減賦形剤として添加される場合、達成される。特に良好な粘度低減効果は、賦形剤の濃度が、液体医薬組成物中、約500mM未満、とくに200mM未満である場合に達成され、液体医薬組成物は、約3~約8、好ましくは4.5~約8.0の範囲、より好ましくは約4.7~約7.5の範囲、とくに好ましくは約5~約7.2の範囲のpHを示し、緩衝液を含む。該製剤は、リン酸緩衝液または酢酸緩衝液を含んでもよい。さらに、製剤は、安定剤を含んでもよい。この安定剤は、スクロース、リソルベート、好ましくはポリソルベート80またはポロキサマーなどの、糖または界面活性剤であり得る。
【0030】
本発明に従って調製された粘度低減医薬製剤は、凍結乾燥された粉末として調製され得る。このような凍結乾燥された粉末は、治療用タンパク質およびカンファースルホン酸を含み、ここで、カンファースルホン酸またはカンファースルホン酸とカチオン性賦形剤との組み合わせは、再構成の際に、500mM未満、好ましくは200mM未満の濃度を生じるのに充分な量で存在し、および、タンパク質は、少なくとも40mg/mlから250mg/mlまで、好ましくは、少なくとも90mg/mlから250mlまでの濃度を生じる。この粉末の再構成は、滅菌された水性の希釈剤を添加するステップを含む。
【0031】
よって、本発明の目的は、本明細書で特徴づけられる方法であり、ここで、製剤が調製され、ここで、治療用タンパク質は、抗体、抗体フラグメント、ミニボディー、ナノボディー、改変された抗体、抗体様分子および融合タンパク質の群から選択され、好ましくは、治療用タンパク質は、抗体、抗体フラグメント、ミニボディー、ナノボディー、改変された抗体、抗体様分子および融合タンパク質の群から選択され、およびとくに好ましくは、治療用タンパク質は、抗体、抗体フラグメント、ミニボディー、ナノボディー、改変された抗体、抗体様分子および融合タンパク質の群から選択される。
【0032】
本発明の追加の対象は、バイオプロセスにおいて液体タンパク質組成物の粘度を低減する方法であり、液体タンパク質組成物を、液体タンパク質組成物中で粘度低減効果を有する濃度の賦形剤としての少なくともカンファースルホン酸とを併用するステップを含む。好ましくは、液体タンパク質組成物は、カンファースルホン酸および少なくとも1つのカチオン性賦形剤と組み合わされる。良好な粘度の低減は、カンファースルホン酸が、アルギニン、メルグミン、オルニチン、およびカルニチンの群から選択される少なくとも1つのカチオン性賦形剤と組み合わせて、液体タンパク質組成物に添加されるときに達成される。
本発明の主題はまた、以前に特徴付けられた医薬製剤、または、所定の態様の凍結乾燥粉末を含むキットである。このキットは、言及された方法によって得られ、および、使用に先立ち溶液調製物に製造され得る、医薬組成物の、凍結乾燥されたかまたは噴霧乾燥された調製物を含み得る。よって、対応するキットは、96ウェルプレート中に位置する、すぐに使える凍結乾燥したかまたは噴霧乾燥した製剤を含み得る。キットはまた、容器、シリンジおよび/または針の有無にかかわらない他の投与デバイス、注入ポンプ、ジェット式注射器(jet injector)、ペン型デバイス、経皮的注射器、または他の無針注射器および該キットの適用の必要性に応じて指示書を含有し得る。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】
図1は、リン酸緩衝液pH7.2中に製剤化されたmAbCのメグルミン、L-オルニチン、L-カルニチン、アルギニンおよびカンファースルホン酸の粘度低減効果を示す。
【
図2】
図2は、酢酸緩衝液pH5.0中で製剤化されたmAbDのメグルミン、L-オルニチン、L-カルニチン、アルギニンおよびカンファースルホン酸の粘度低減効果を示す。
【
図3】
図3は、酢酸緩衝液pH5.5中で製剤化したmAbEの、メグルミン、L-オルニチン、L-カルニチン、アルギニンおよびカンファースルホン酸の粘度低減効果を示す。
【
図4】
図4は、リン酸緩衝液pH7.2中に製剤化されたmAbCの、カンファースルホン酸と組み合わせたときの、メグルミン、L-オルニチン、L-カルニチンの粘度低減効果を示す。
【
図5】
図5は、酢酸緩衝液pH5.0中で製剤化したmAbDの、カンファースルホン酸と組み合わせたときの、メグルミン、L-オルニチン、L-カルニチンの粘度低減効果を示す。
【
図6】
図6は、酢酸緩衝液pH5.5中で製剤化されたmAbEの、カンファースルホン酸と組み合わせたときの、メグルミン、L-オルニチン、L-カルニチンの粘度低減効果を示す。
【
図7】
図7は、リン酸緩衝液pH7.2中で製剤化したmAbCの、カンファースルホン酸と組み合わせたときの、L-アルギニンの相乗的粘度低減効果を示す。
【
図8】
図8は、40℃/75%rHで28日間保管された、賦形剤の有無にかかわらない、リン酸緩衝液pH7.2中の、およそ80mg/mL mAbCを含む溶液の残余モノマー含量を示す。
【
図9】
図9~
図11は、増加した透過流束によって指し示されるプロセス改善を強調する。
【
図10】
図9~
図11は、増加した透過流束によって指し示されるプロセス改善を強調する。
【
図11】
図9~
図11は、増加した透過流束によって指し示されるプロセス改善を強調する。
【
図12】
図12~
図14は、夫々、75mMカチオン性またはアニオン性賦形剤を使用して達成することができる、プロセス時間の減少を示す。
【
図13】
図12~
図14は、夫々、75mMカチオン性またはアニオン性賦形剤を使用して達成することができる、プロセス時間の減少を示す。
【
図14】
図12~
図14は、夫々、75mMカチオン性またはアニオン性賦形剤を使用して達成することができる、プロセス時間の減少を示す。
【
図15】
図15および
図16は、タンパク質回収率に対する、夫々、75mMカチオン性および/またはアニオン性賦形剤の効果を示す。
【
図16】
図15および
図16は、タンパク質回収率に対する、夫々、75mMカチオン性および/またはアニオン性賦形剤の効果を示す。
【
図18】
図18は、製剤の容積が、10mlまで低減される時間の測定結果を示す。
【
図19】
図19は、撹拌された細胞からのタンパク質回収率の形態のプロセス収率を示す。
【
図20】
図20は、およそ0.5mlの容積に達するまでのプロセシング時間を示す。
【
図21】
図21は、およそ0.5mlの容積に達するまでのプロセシング時間を示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の詳細な記載
上に概略されるとおり、高タンパク質濃度は、液体製剤中のタンパク質の物理的および化学的安定性に関するチャレンジ、ならびに、該タンパク質製剤の製造、保管および投与に関する困難性を提示する。主要な問題は、タンパク質が、プロセシングおよび/または保管の間に凝集し、および粒子を形成する傾向であり、これは、さらなるプロセシングおよびまたは投与の間の操作を困難とする。濃度依存性の分解および/または凝集は、より高濃度の液体タンパク質製剤を開発する際の主要なチャレンジである。非ネイティブなタンパク質の凝集および粒子形成の潜在力に加えて、水性溶液中の可逆的自己会合が生じ得、これは、とりわけ、注射による送達を複雑にする粘度の増大に寄与する。
【0035】
定義
用語「タンパク質」は、本明細書で一般的に使用されるとき、少なくとも検出可能な3次構造を生成するのに充分な鎖長のペプチドを形成するように、ペプチド結合によってお互いに連結されたアミノ酸のポリマーを指す。約100kDaよりも大きい分子量(kDaで表され、ここで、「Da」は、「ダルトン」を表し、および1kDa=1,000Daである)を有するタンパク質は、「高分子量タンパク質」と命名され得、これに対し、約100kDa未満の分子量を有するタンパク質は、「低分子量タンパク質」と命名され得る。用語「低分子量タンパク質」は、タンパク質と考えられるのに必要な少なくとも3次元構造の必須要件を欠く低分子ペプチドを除外する。タンパク質分子量は、これらに限定されないが、質量分析(例として、ESI、MALDI)または公知のアミノ酸配列およびグリコシル化からの計算を包含する、当業者に公知の標準的な方法を使用して決定され得る。タンパク質は、天然に存在するかまたは非天然に存在する、合成または半合成であり得る。
【0036】
「本質的に純粋なタンパク質(単数または複数)」および「実質的に純粋なタンパク質(単数または複数)」は、本明細書で互換的に使用され、および、少なくとも約90重量%純粋なタンパク質、好ましくは少なくとも約95重量%純粋なタンパク質を含む組成物を指す。「本質的に均一な」および「実質的に均一な」は、本明細書で互換的に使用され、および、存在するタンパク質の少なくとも約90重量%、好ましくは少なくとも約95%が、モノマーおよび可逆的なジ-およびオリゴマーの会合体(associates)(不可逆の会合体ではない)の組み合わせである組成物を指す。
【0037】
用語「抗体」は、本明細書で一般的に使用されるとき、mAb(免疫グロブリンFc領域を有する完全長抗体を包含する)、エピトープ特異性を有する抗体組成物、二重特異性抗体、二重特異性抗体、および単鎖抗体分子、ならびに抗体フラグメント(例として、Fab、Fab’、F(ab’)2、およびFv)、単一ドメイン抗体、多価単一ドメイン抗体、Fab融合タンパク質、およびそれらの融合体を広くカバーする。
【0038】
用語「モノクローナル抗体」または「mAb」は、本明細書で一般的に使用されるとき、実質的に均一な抗体の集団から得られた抗体、すなわち、少量で存在し得る可能性のある天然に存在する突然変異を除いて同一である集団を構成する個々の抗体を指す。モノクローナル抗体は、高度に特異的であり、単一のエピトープに向けられている。これらは、典型的には、Kohler et al. (Nature 256: 495, 1975)によって記載されるようなハイブリドーマ細胞を培養することによって合成されるか、または、組換えDNA方法(例として、米国特許第4,816,567号を参照)によって作成されてもよく、または、例えば、Clackson et al. (Nature 352: 624-628, 1991)およびMarks et al. (J. Mol. Biol. 222: 581-597, 1991)において記載される技法を使用してファージ抗体ライブラリーから単離されてもよい。
【0039】
本明細書に使用されるとき、「mAb」は、具体的に言うと、誘導体化された抗体、抗体-薬物抱合体、および「キメラ」抗体(ここで、重鎖および/または軽鎖の一部が、具体的な種に由来するかまたは具体的な抗体クラスまたはサブクラスに所属する抗体における対応する配列と同一であるかまたは相同であるが、鎖(単数または複数)の残りは、別の種に由来するかまたは別の抗体クラスまたはサブクラスに所属する抗体における対応する配列と同一であるかまたは相同である)、ならびにかかる抗体のフラグメント(これらが所望される生物活性を示す限り)を包含する(米国特許第4,816,567;Morrison et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:6851-6855, 1984)。
【0040】
「抗体フラグメント」は、無傷の抗体の抗原結合および/または可変領域を包含する、無傷の抗体の一部を含む。抗体フラグメントの例は、Fab、Fab’、F(ab’)2、およびFvフラグメント;二重特異性抗体;線状抗体(米国特許第5,641,870;Zapata et al., Protein Eng. 8:1057-1062, 1995を参照);単鎖抗体分子;多価単一ドメイン抗体;および抗体フラグメントから形成された多特異的抗体を包含する。
【0041】
「ヒト化」形態の非ヒト(例として、マウス)抗体は、ほとんどヒト配列の、キメラ免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖、またはそれらのフラグメント(Fv、Fab、Fab’、F(ab’)2、または抗体の他の抗原結合サブ配列など)であり、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小限の配列を含有する(例として、Jones et al., Nature 321:522-525, 1986;Reichmann et al., Nature 332:323-329, 1988;およびPresta, Curr. Op. Struct. Biol. 2:593-596, 1992)。
【0042】
これに関連して、用語「治療的に活性なタンパク質」、「薬学的に活性なタンパク質」または「治療用タンパク質」は、上に定義されるとおりの、疾患または医学的状態の処置または予防の目的で対象に投与されるタンパク質またはペプチドを指す。とりわけ、対象は、哺乳動物またはヒトであり得る。治療用タンパク質は、欠損したかまたは正常でないタンパク質を置き換えるため、既存の経路を増強するため、新規な機能または活性を提供するため、分子または生物と相互作用するため、および、他の化合物またはタンパク質(放射性核種、細胞毒性薬物、またはエフェクタータンパク質など)を送達するため、のような異なる目的で投与され得る。
【0043】
治療用タンパク質は、抗体ベースの薬物、Fc融合タンパク質、抗凝固薬、血液因子、骨形態形成タンパク質、改変された足場タンパク質、酵素、成長因子、ホルモン、インターフェロン、インターロイキン、抗体薬物抱合体(ADC)および血栓溶解薬を包含する。治療用タンパク質は、天然に存在するタンパク質または組換えタンパク質であり得る。それらの配列は、天然または改変され得る。
【0044】
「レオロジー」は、物質(matter)の変形およびながれの研究を指し、および「粘度」は、物質(substance)(典型的には液体)の流れに対する抵抗を指す。粘度は、ずり応力の概念に関する;それは、ずり応力を発揮する液体の異なる層の、互いに対する、または、他の表面に対する、それらが互いに対抗して移動するときの、効果として理解され得る。数個の粘度基準が存在する。粘度の単位は、パスカル秒(Pa-s)としても知られる、Ns/m2である。粘度は、「運動学的」または「絶対的(absolute)」であってもよい。運動学的な粘度は、運動量が流体を通して伝わる速度の基準である。それは、ストークス(St)で測定される。運動学的な粘度は、重力の影響下で、流体の流れ抵抗の基準である。
【0045】
等しい容積および異なる粘度の2つの流体は、同一のキャピラリー粘度計に配置され、および、重力によって流れることが可能となると、より粘度の高い流体は、より粘度の低い流体がキャピラリーを通って流れるよりも、長い時間がかかる。もし、例えば、1つの流体が、その流れを完了するのに200秒(s)かかり、および、別の流体が400sかかるのであれば、第二の流体は、運動学的粘度スケールで、第一のものよりも2倍粘度が高い。運動学的な粘度の寸法は、長さ2/時間である。一般的に、運動学的な粘度は、センチストークス(cSt)で表される。運動学的な粘度のSI単位は、mm2/sであり、これは、1cStに等しい。「絶対的粘度」(ときには「動的粘度」または「単純粘度」と呼ばれる)は、運動学的粘度および流体密度の産物である。絶対的粘度は、センチポイズ(cP)の単位で表される。絶対的粘度のSI単位は、ミリパスカル-秒(mPa-s)であり、ここで、1cP=1mPa-sである。
【0046】
粘度は、例えば、所定のせん断速度または複数のせん断速度で粘度計を使用して測定することができる。「推定ゼロせん断」粘度は、絶対的粘度 対 せん断速度のプロットに関する、4つの最も高いせん断地点の、最も適合した線を作成することによって、および、粘度をゼロせん断に線形外挿することによって、決定することができる。代替的に、ニュートン流動のために、粘度は、複数のせん断速度で、粘度値を平均化することによって決定することができる。粘度はまた、単一または複数のせん断速度(流速とも呼ばれる)でマイクロ流体粘度計を使用することによって測定することができ、ここで、絶対粘度は、チャネルを通って液体が流れるときの圧力の変化に由来する。粘度は、せん断速度に対するずり応力に等しい。
【0047】
マイクロ流体粘度計を用いて測定された粘度は、いくつかの態様において、外挿されたゼロせん断粘度(例えば、円錐平板粘度計を使用して複数のせん断速度で測定された粘度から外挿されたもの)と直接比較することができる。本発明に従う、組成物および製剤の粘度は、少なくとも1つの上記方法が、粘度低下効果を示すときに、低減されている。好ましくは、粘度は、mVROC(商標)技術を使用して測定される。より好ましくは、粘度は、20℃で、mVROC(商標)技術を称して測定される。最も好ましくは、粘度は、20℃でmVROC(商標)技術を使用して、および500μlシリンジ、せん断速度3000s-1または2000s-1および容積200μlを使用して測定される。当業者は、特に上記パラメータを選択する、mVROC(商標)技術を使用する粘度測定に精通している。詳細な仕様、方法および設定は、901003.5.1-mVROC_User’s_Manualにおいて見出すことができる。
【0048】
「せん断速度」は、1つの流体の層が、隣接する層を通過する速度の変化率を指す。速度勾配は、プレートからの距離を伴う、速度の変化率である。この単純なケースは、(CM/SEC)/(CM)=1/secの単位で、せん断速度(v1-v2)/hを有する、均一な速度勾配を示す。ゆえに、せん断速度単位は、逆数の秒、または、一般に逆数の時間である。マイクロ流動粘度計について、圧力および流速における変化は、せん断速度に関連している。「せん断速度」は、材料が変形するスピードである。タンパク質および粘度低下剤を含有する製剤は、典型的には、目的の試料の粘度範囲の粘度を正確に測定するために当業者によって適切に選択される、円錐平板粘度計およびスピンドルを使用して測定されるとき、約0.5s-1から約200s-1までの範囲のせん断速度で測定される(すなわち、20cPの試料は、DV2T粘度計(Brookfield)に固定されたCPE40スピンドルで最も正確に測定される);マイクロ流動粘度計を使用して測定されるとき、約20s-1~約3,000s-1よりも大きい。
【0049】
古典的な「ニュートン」流体は、本明細書で一般に使用されるとき、粘度は、本質的にせん断速度とは無関係である。しかしながら、「非ニュートン流体」について、粘度は、増大するせん断速度とともに、減少するかまたは増加するかのいずれかである(例として、流体は、夫々「ずり流動化」または「ずり増粘」である)。濃縮(すなわち、高濃度)タンパク質溶液の場合、これは、偽塑性ずり流動化挙動(すなわち、せん断速度とともに速度の低下)として明らかとなり得る。
【0050】
用語「化学安定性」は、本明細書で一般に使用されるとき、製剤中のタンパク質構成要素の、酸化、脱アミド化または加水分解などの、化学的経路を介する分解に対抗する能力を指す。タンパク質製剤は、典型的には、構成要素の約5%未満が、4℃で24か月後に分解するとき、化学的に安定であるとみなされる。
【0051】
用語「物理的な安定性」は、本明細書で一般に使用される場合、タンパク質製剤の、凝集などの物理的な劣化に抵抗する能力を指す。物理的に安定である製剤は、生物活性タンパク質剤の許容可能なパーセンテージの不可逆の凝集(例として、ダイマー、トリマー、または他の凝集物)のみを形成する。凝集物の存在は、動的光散乱を用いて製剤中のタンパク質の平均粒子サイズを測定することを含む、いくつかの様式で査定され得る。製剤は、約5%未満の不可逆の凝集体が4℃で24か月後に形成される場合、物理的に安定であるとみなされる。許容し得るレベルの凝集した夾雑物は、理想的には、約2%未満であろう。約0.2%の低いレベルは、達成可能であるが、およそ1%は、より典型的である。
【0052】
用語「安定した製剤」は、本明細書で一般に使用される場合、製剤が、化学的に安定し、および、物理的に安定していることを意味する。安定した製剤は、生物活性タンパク質分子の約95%が、4℃で24か月の保管後に、または、40℃で1か月の保管などの、高温での等価な溶液状態で、製剤の生物活性を保持する製剤であり得る。タンパク質安定性を測定するための様々な分析技法は、当該技術分野において利用可能であり、および、例えば、Peptide and Protein Drug Delivery, 247-301, Vincent Lee, Ed., Marcel Dekker, Inc., New York, N.Y. (1991)およびJones, A., Adv. Drug Delivery Revs. 10:29-90, 1993において概説されている。安定性は、選択される温度である期間測定され得る。迅速なスクリーニングのために、例えば、製剤は、40℃で、2週から1か月まで維持され得、この時点で、残余生物活性は、測定され、および、安定性を査定するために、最初の条件と比較される。
【0053】
製剤は、2~8℃で保存されるべきとき、一般に、製剤は、30℃または40℃で少なくとも1か月、および/または、2℃~8℃で少なくとも2年、安定すべきである。製剤は、室温にて、約25℃で保管されるべきとき、一般に、製剤は、少なくとも2年、約25℃で安定すべきである、および/または、40℃で少なくとも約6か月安定すべきである。凍結乾燥および保管後の凝集の程度は、タンパク質安定性の指標として使用され得る。いくつかの態様において、安定性は、製剤中のタンパク質の粒子サイズを測定することによって査定される。いくつかの態様において、安定性は、当業者の能力の十分に範囲内の、標準的な生物活性または結合アッセイを使用して、製剤の活性を測定することにより、査定することができる。
【0054】
用語タンパク質「粒子サイズ」は、本明細書で一般に使用される場合、周知である粒子サイズ分類器械、例えば、動的光散乱、SEC(サイズ排除クロマトグラフィー)、または当業者に公知の他の方法を使用して決定される、製剤中の、生物活性分子粒子の支配的な集団の平均直径、または、その粒子サイズ分布を意味する。
【0055】
用語「濃縮された」または「高濃度」は、本明細書で一般に使用される場合、少なくとも1mg/ml、とくに約10mg/mLを超える、好ましくは約50mg/mLを超える、より好ましくは約100mg/mLを超える、さらにより好ましくは約200mg/mLを超える、または最も好ましくは約250mg/mLを超える、タンパク質の最終濃度を有する液体タンパク質製剤を説明する。
【0056】
「再構成された製剤」は、本明細書で一般に使用される場合、タンパク質が投与のための水性溶液に溶解または分散されるように、乾燥粉末の、凍結乾燥された、噴霧乾燥の、または溶媒沈殿させたタンパク質を、希釈剤に溶解することによって調製された製剤を指す。
【0057】
「保護剤(lyoprotectant)」は、タンパク質と組み合わされたときに、凍結乾燥および/またはこれに続く保管の際に、タンパク質の化学的および/または物理的に非安定性を有意に低減する、物質である。保護剤は、一般に、「保護量」で凍結乾燥前の製剤に添加される。これは、保護量の保護剤の存在下でタンパク質の凍結乾燥後に、タンパク質が、その物理的および化学的安定性および完全性を本質的に保持することを意味する。
【0058】
「希釈剤」または「担体」は、本明細書で一般に使用される場合、凍結乾燥後に再構成される水性製剤などの、液体製剤の調製のための、薬学的に許容し得る(すなわち、ヒトまたは別の哺乳動物への投与に安全および非毒性)および有用な成分である。例示の希釈剤は、滅菌水、注射(BWFI)のための静菌水、pH緩衝液(例として、リン酸緩衝生理食塩水)、滅菌生理食塩水、リンガー溶液、またはデキストロース溶液、およびそれらの組み合わせを包含する。
【0059】
「防腐剤」は、細菌、真菌、または別の感染因子による混入および/または作用を低減するために、本明細書の製剤に添加され得る化合物である。防腐剤の添加は、例えば、複数回使用(multi-use)(複数用量)製剤の産生を容易にし得る。
【0060】
「増量剤」は、本明細書で一般に使用される場合、質量を増やすために凍結乾燥された混合物に添加され、および、凍結乾燥されたケーキの物理的構造に寄与する化合物である(例として、孔の開いた構造を維持する、本質的に一様に凍結乾燥されたケーキの産生を容易にする)。
【0061】
「治療的に有効な量」は、いずれかの症状または具体的な状態または障害の測定可能な改善または予防を有効にするため、測定可能な平均余命の強化を有効にするため、または、患者の生活の質を一般的に改善するために、要求される最小の濃度である。治療的に有効な量は、特定の生物学的に活性な分子および処置される特定の状態または障害に依存している。治療的に有効な量の多くのタンパク質(本明細書に記載のmAbなど)は、当該技術分野において周知である。いまだ確立していない、または、追加の障害を処置するために臨床的に適用される公知のタンパク質(mAbなど)を用いる特定の障害を処置するための、タンパク質の治療的に有効な量は、医者などの当業者の技能の十分な範囲内である標準的な技法によって決定され得る。
【0062】
用語「注射可能性(injectability)」または「シリンジ可能性(syringeability)」は、本明細書で一般に使用される場合、18~32ゲージ針、任意に薄壁を備えたシリンジを通る医薬製剤の注射実施を指す。注射可能性は、注射に必要な圧力または力、流れの均一性、吸引性能、および、目詰まりからの自由などの因子に依存する。液体医薬製剤の注射可能性は、粘度低下剤を添加されていない標準的な製剤と、粘度低減製剤の注射力を比較することによって、査定され得る。粘度低減剤を含有する製剤の注射力の低減は、その製剤の改善された注射可能性を反映する。
【0063】
粘度低減製剤は、粘度低下剤をほぼ同じ濃度の適切な緩衝液と置き換えたことを除き、他は同じ条件下での同じ濃度のタンパク質を有する標準的な製剤と比較して、注射力が、少なくとも10%、好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも50%、および最も好ましくは少なくとも75%低減するとき、改善された注射可能性を有する。代替的に、液体医薬製剤の注射可能性は、シリンジが同じ力で抑制されるとき、異なる液体タンパク質製剤の同じ容積(0.5mL、またはより好ましくは約1mLなど)を注射するのに必要な時間を比較することによって査定され得る。
【0064】
用語「注射力」は、本明細書で一般に使用される場合、所定の注射スピードで所定の針ゲージを備えた所定のシリンジを通って、所定の液体製剤を押すのに必要とされる力を指す。注射力は、典型的には、ニュートンで報告される。例えば、注射力は、250mm/min注射スピードで0.50インチ27ゲージ針を備えた0.25インチの内径を有する1mLプラスチックシリンジを通って液体製剤を押しだすのに必要とされる力として測定され得る。試験機器は、注射力を測定するために使用され得る。同じ条件下で測定される場合、より低い粘度を有する製剤は、一般的に、全体的により低い注射力を必要とする。
【0065】
用語「粘度低減製剤」は、本明細書で一般に使用される場合、粘度低下添加剤(単数または複数)または剤(単数または複数)を含有しない対応する製剤と比較して、粘度を低下させる1以上の添加剤の存在によって修飾される、高濃度の高分子量タンパク質(mAbなど)または低分子量タンパク質を有する液体製剤を指す。
【0066】
用語「粘度低下剤」は、本明細書に使用されるときは、粘度低下剤の非存在下の溶液の粘度と比べて、溶液の粘度を低減させるように作用する化合物を指す。粘度低下剤は、単一の化合物であってもよし、1以上の化合物の混合物であってもよい。粘度低下剤が、2以上の化合物の混合物である場合、列挙される濃度は、別様に特定されない限り、各々個々の剤の濃度を指す。一例として、粘度低下剤として、約0.25Mメグルミンベンゼンスルホナートを含有する製剤は、0.25Mの濃度のベンゼンスルホン酸、および0.25Mの濃度のメグルミンを有する溶液である。
【0067】
ある粘度低下剤は、酸性のまたは塩基性の官能基を含有し、および、親水性および疎水性領域を示してもよく、これらは、一緒に、溶液のタンパク質を含む相互作用特徴に影響する。官能基が十分にまたは部分的にイオン化しているかどうかは、これらが存在する製剤のpHに依存する。別様に特定されない限り、イオン化可能な官能基を有する粘度低下剤を含有する製剤への参照は、親化合物およびいずれかの実行可能なイオン化状態の両方を包含する。
【0068】
用語「液体製剤」または「製剤」は、本明細書に使用されるとき、許容し得る医薬希釈剤中に提供されるか、または、患者への投与に先立ち許容し得る医薬希釈剤中に再構成されるかのいずれかのタンパク質である。
【0069】
バイオシミラーは、微生物の細胞(原核生物、真核生物)、ヒトまたは動物起源の細胞株(例として、哺乳類の動物、鳥類、昆虫)、または動物または植物に由来する組織によって生産され得る。提案されるバイオシミラー生成物のための発現コンストラクトは、一般に、その参照産物と同じ一次アミノ酸配列をコードするだろう。安全性、純度または効能に影響しないだろうN末またはC末トランケーションなどのマイナーな改変は、存在し得る。
【0070】
バイオシミラーmAbは、安全性および効き目の両方の点で、生理化学的または生物学的に参照mAbに類似する。バイオシミラーmAbは、標的抗原(単数または複数)への結合;Fcガンマ受容体のアイソフォーム(FcγRI、FcγRII、およびFcγRIII)、FcRn、および補体(C1q)への結合;Fab関連機能(例として可溶性リガンドの中和、受容体活性化または遮断);またはFc関連機能(例として、抗体依存性の細胞媒介細胞毒性、補体依存性の細胞毒性、補体活性化)を詳細に説明するアッセイを包含する、1以上のインビトロ研究を使用して参照mAbに対して評価することができる。インビトロ比較は、薬物動態、薬理学的、および/または安全性の類似性を実証するインビボデータと組み合わせられ得る。
【0071】
参照mAbに対するバイオシミラーmAbの臨床評価は、薬物動態特性(例としてAUC0-inf、AUC0-t、Cmax、tmax、Ctrough);薬力学的エンドポイント;または臨床有効性の類似性(例として、無作為化した、並列グループの比較臨床試験を使用する)の比較を包含し得る。バイオシミラーmAbと参照mAbとの間の性質比較は、“Guideline on similar biological medicinal products containing biotechnology-derived proteins as active substance: Quality issues”(EMEA/CHMP/BWP/49348/2005)、および“Guideline on development, production, characterization and specifications for monoclonal antibodies and related substances”(EMEA/CHMP/BWP/157653/2007)に記載されるものを包含する、確立した手順を使用して評価され得る。
【0072】
バイオシミラーmAbと参照mAbとの間の相違は、翻訳後修飾(例として、mAbに、ホスファートなどの他の生化学的基、様々な脂質および炭水化物を付着させることによる;翻訳語のタンパク分解的切断による;アミノ酸の化学的性質を変更することによる(例として、ホルミル化);または多くの他の機構による)を包含し得る。他の翻訳後修飾は、製造プロセス操作の結果であり得 - 例えば、糖化は、生成物を還元糖に暴露して生じ得る。他のケースにおいて、保管条件は、酸化、脱アミド化、または凝集などのある分解経路について許容され得る。これら全ての産物に関するバリアントは、バイオシミラーmAbに包含され得るためである。
【0073】
本明細書に使用されるとき、用語「薬学的に許容し得る塩」は、薬学的に許容し得る非毒性の酸および塩基(無機酸および塩基を包含する)、および有機酸および塩基から調製される塩を指す。
【0074】
本明細書に使用されるとき、用語「アルキル基」は、直鎖、分枝鎖および環状の炭化水素基を指す。別途特定されない限り、用語アルキル基は、1以上の二重または三重結合を含有する炭化水素基を包含する。少なくとも1の環系を含有するアルキル基は、「シクロアルキル」基である。少なくとも1の二重結合を含有するアルキル基は、「アルケニル基」であり、および、少なくとも1の三重結合を含有するアルキル基は、「アルキニル基」である。
【0075】
本明細書に使用されるとき、用語「アリール」は、縮合された環系を包含する、芳香族炭素環系を指す。「アリール」基において、環を形成する原子の各々は、炭素原子である。
【0076】
本明細書に使用されるとき「ヘテロアリール」は、縮合された環系を包含する、芳香環系を指し、ここで、環を形成する原子少なくとも1つは、ヘテロ原子である。さらにまた、本明細書に使用されるとき、用語「ヘテロ環」は、芳香族ではない、縮合された環系を包含する、環系を指し、ここで、環を形成する原子の少なくとも1つは、ヘテロ原子である。
【0077】
本明細書に使用されるとき、用語「ヘテロ原子」は、いずれかの非炭素または非水素原子である。好ましいヘテロ原子は、酸素、硫黄、および窒素を包含する。
【0078】
用語「バイオプロセス」は、治療用細胞製造プロセスを指し、これは、上流プロセスおよび下流プロセスにわけることができる。上流プロセスは、細胞性化合物からタンパク質を分離するのに先立つ全体プロセスとして定義される。上流プロセスは、初期の細胞単離および培養から、最終的な収穫までの、細胞バンク(banking)および細胞増殖を含む。下流の一部のバイオプロセスは、標的タンパク質が上流のフィード(feed)から精製され、および、純度および品質要件を満たすように加工される部分を指す。いくつかのタイプの細胞は、下流プロセスに入る際に破壊される必要がある。さらなる他の細胞は、標的タンパク質を培地に分泌することができ、および、濾過を介して取り除く必要がある。さらなる下流のプロセシングは、大抵、主要なセクション:精製セクションおよび研磨セクションに分けられる。バイオプロセスは、バッチプロセスまたは半連続的または連続的プロセスであり得る。
【0079】
用語「透過流束」は、ある期間内、典型的には分のオーダーで、既定のフィルターを通過する容積を指す。
【0080】
用語「濾過ステップ」は、サイズに基づく材料の分離を可能にする既定の孔サイズを有する材料を、液体が通過するプロセスを指す。いくつかのフィルターについては、孔サイズは、ナノメートルで規定される。さらに、他のフィルターについては、孔サイズは、直接的には規定されず、保留されるべき分子の重量が付与される。濾過材料は、濾過デバイスの断面をブロックする様式で配置され得る(デッドエンド濾過)。さらに、濾過材料は、濾過される溶液が、該材料の表面を通過して接戦方向に流れる様式で配置される(例として、タンジェンシャルフローフィルトレーション)。濾過材料は、膜、ガラスフィルター、金属フィルターまたは樹脂であり得る。樹脂は、クロマトグラフィーカラム中に保持され得る。樹脂は、カチオン性またはアニオン性交換樹脂、親和性樹脂(プロテインAまたはグルタチオン樹脂など)、または疎水性または親水性樹脂であり得る。
【0081】
緩衝液交換および容積低減後の、用語「タンパク質回収(率)」は、プロセスステップ後に回収されるタンパク質の画分を指す。
【0082】
用語「タンジェンシャルフローフィルトレーション」または「TFF」は、溶液が既定のフィルターを接線方向に通過する濾過方法を指す。フィルター孔よりも小さい物質は、溶液流速、粘度、温度および他の因子から生じる圧力によって、フィルターを通る溶液からフォースアウト(forced out)される。
【0083】
製剤
生体適合性の、低粘度タンパク質溶液(mAbのものなど)は、治療的に有効な量のタンパク質を、皮下(SC)および筋肉内(IM)注射に有用な容積で、典型的にはSCについて約2ml以下、および、IMについて約5ml以下、より好ましくはSCについて約1ml以下、および、IMについて約3ml以下で、送達するために使用され得る。タンパク質は、一般に、任意の分子量を有するが、いくつかの態様において高分子量のタンパク質が好ましい。他の態様においてタンパク質は、低分子量タンパク質である。
【0084】
ここで、本発明は、タンパク質を含む液体組成物の粘度を低減する、および、任意に安定性を改善する方法を提供し、液体組成物を、少なくとも1つの適切なカチオン性賦形剤と組み合わせられ得る賦形剤としての、粘度低減量のカンファースルホン酸と併用するステップを含む。このカチオン性賦形剤は、アルギニン、メグルミン、オルニチン、およびカルニチン、またはそれらの混合物の群から選択され得る。これらの賦形剤は、製剤に好適な量で添加される。好ましくは、これらは、等モル量で、液体タンパク質組成物に添加される。溶液のpH値、液体タンパク質組成物の濃度、タンパク質の性質、その結果得られる添加された賦形剤(単数または複数)の濃度およびその(それらの)化学的性質に依存して、粘度低減効果は、変化する。具体的な態様において液体組成物は、液体医薬製剤であり、および、タンパク質は、治療用タンパク質である。
【0085】
とりわけ、カンファースルホン酸および少なくとも1のカチオン性賦形剤が、等モル量で、濃縮液体タンパク質組成物に、例えば(mAbC、mAbDおよびmAbE)の溶液に添加されるとき、具体的に良好な粘度低減が達成される。本発明に従って、mAbCは、モノクローナル抗体インフリキシマブを表し、mAbDは、モノクローナル抗体エボロクマブを表し、およびmAbEは、モノクローナル抗体レスリズマブを表す。
【0086】
予想外には、実験により、カンファースルホン酸と、アルギニン、メグルミン、オルニチン、およびカルニチンまたはそれらの混合物の群から選択されるカチオン性酸との組み合わせの混合物(特定の等モル混合物として)は、モノクローナル抗体または融合タンパク質の高度に濃縮されたタンパク質液体製剤の粘度を有意に低減する。
【0087】
さらにまた、カンファースルホン酸と、アルギニン、メグルミン、オルニチン、およびオルニチンの群から選択されるカチオン性酸との混み合わせの混合物は、相乗的に、タンパク質を含む組成物および製剤中の粘度を低減、および/または安定性を増加できることが見出された。本明細書に定義されるとおり、「相乗的に」は、構成要素の組み合わせの作用が、構成要素の各々単独の作用の合計よりも、大きい効果を指す。
【0088】
本発明はさらに、少なくとも50mg/mlから300mg/mlまでの範囲の濃度で、タンパク質を含む液体組成物または薬学的に活性なタンパク質を含む液体製剤の粘度を相乗的に低減する方法を提供し、液体タンパク質組成物を、少なくとも賦形剤としてのカンファースルホン酸と、粘度低減効果を有する濃度の、アルギニン、メグルミン、オルニチン、およびカルニチンの群から選択されるカチオン性酸とを組み合わせて併用するステップを含む。具体的な態様において、粘度は、カンファースルホン酸およびアルギニンの組み合わせによって相乗的に低減される。好ましくは、粘度は、カンファースルホン酸およびアルギニンの1:1の濃度比率の組み合わせによって相乗的に低減される。
【0089】
さらにまた、驚くべきことに、アルギニン、メグルミン、オルニチン、およびカルニチンの群から選択されるカチオン性酸の、カンファースルホン酸への添加により、カンファースルホン酸単独と比較して、タンパク質の安定性の改善を結果として生じることが見出された。
【0090】
本発明はさらに、少なくとも50mg/mlから300mg/mlまでの範囲の濃度の、液体組成物中のタンパク質、または、液体製剤中の薬学的に活性なタンパク質を安定化するための方法を提供し、液体タンパク質組成物を、少なくとも賦形剤としてのカンファースルホン酸と、粘度低減効果を有する濃度の、アルギニン、メグルミン、オルニチン、およびカルニチンの群から選択されるカチオン性酸と組み合わせて併用するステップを含む。具体的な態様において、タンパク質は、カンファースルホン酸およびアルギニンまたはカンファースルホン酸およびオルニチンの組み合わせによって安定化される。
【0091】
好ましくは、タンパク質は、カンファースルホン酸およびアルギニンまたはカンファースルホン酸およびオルニチンの、1:1の濃度比率の組み合わせによって安定化される。好ましくは薬学的に活性なタンパク質の安定性は、少なくとも50 mg/mlから300mg/mlまでの範囲の濃度の、タンパク質を含む液体組成物または薬学的に活性なタンパク質を含む液体製剤と比較して、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%または75%改善されており、液体タンパク質組成物と、賦形剤としてのカンファースルホン酸を併用するステップを含む。
【0092】
本発明はさらに、少なくとも50mg/mlから300mg/mlまでの範囲の濃度の、タンパク質を含む液体組成物、または、薬学的に活性なタンパク質を含む液体製剤の粘度を相乗的に低減させる方法を低減し、賦形剤としてのカンファースルホン酸を有する、液体タンパク質組成物を、粘度低減効果を有する濃度のアルギニンと組み合わせて併用するステップを包含し、ここで、薬学的に活性なタンパク質の安定性は、少なくとも50mg/mlから300mg/mlまでの範囲の濃度で、タンパク質を含む液体組成物、または、薬学的に活性なタンパク質を含む液体製剤と比較して、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%または75%改善されており、液体タンパク質組成物を、賦形剤としてのカンファースルホン酸と併用するステップを含む。
【0093】
例示の態様において、タンパク質または治療用タンパク質は、上に記載のとおりの高タンパク質濃度で存在する。いくつかの態様において、粘度の低減は、粘度低減剤溶液の代わりに同量の緩衝液が液体タンパク質組成物に添加された対照製剤と比較して、少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%または70%である。
【0094】
例示の態様において、タンパク質または治療用タンパク質は、上に記載のとおりの、少なくとも50mg/ml、好ましくは75mg/mlを超える、より好ましく100mg/mlを超える高タンパク質濃度で存在する。本明細書で試験されおよび開示された製剤は、150~280mg/mlの範囲のタンパク質濃度を有する。いくつかの態様において、粘度の低減は、対照製剤と比較して、少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%または75%またはこれ以上である。
【0095】
別の側面において、本発明は、治療用タンパク質および賦形剤としてのカンファースルホン酸、ならびに、アルギニン、メグルミン、オルニチン、およびカルニチンまたはそれらの混合物からなる群より選択される少なくともさらなるカチオン性賦形剤を含む、液体溶液を提供し、ここで、製剤は、対照製剤と比較して低減した粘度を示す。例示の態様において、治療用タンパク質は、上に記載の通りの、高タンパク質濃度で存在し、および、本明細書に記載の賦形剤(単数または複数)は、粘度低減濃度で存在する。カンファースルホン酸およびその賦形剤(単数または複数)は、それらの可溶性制限までの濃度で使用され得る。かかる溶液はさらに、粘度を有意に増加させることなく、安定性を改善し、凝集を低減し、および/または製剤を等張性にするのに有効な量で、他の添加剤を含み得る。
【0096】
さらなる態様において、賦形剤としてのカンファースルホン酸の濃度は、約500mM未満、とくに200mM未満である。好ましくはカンファースルホン酸の濃度は、少なくとも約50mM~約300mM、または少なくとも約100mM~約250mM、または少なくとも約140mM~約200mMである。例示の態様において、賦形剤の濃度は、少なくとも約50、100、105、110、115、120、125、130、135、140、145、150、155、160、165、170、175、180、185、190、195、200、210、220、250、または300mMまたはそれ以上である。アルギニン、メグルミン、オルニチン、およびカルニチンまたはそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1のカチオン性賦形剤の濃度は、少なくとも約50mM~約300mM、または少なくとも約100mM~約250mM、または少なくとも約140mM~約200mMである。
【0097】
例示の態様において、少なくとも1のカチオン性賦形剤の濃度は、少なくとも約50、100、105、110、115、120、125、130、135、140、145、150、155、160、165、170、175、180、185、190、195、200、210、220、250、または300mMまたはこれ以上である。カンファースルホン酸の好ましい濃度は、単独でまたは少なくとも1のカチオン性賦形剤と組み合わせて使用されるとき、25mMと250mMとの間、より好ましくは50mMと200mMとの間、最も好ましくは75mMと150mMとの間である。組み合わせて使用されるとき、少なくとも1のカチオン性賦形剤の濃度は、好ましくは25mMと250mMとの間、より好ましくは50mMと200mMとの間、最も好ましくは75mMと150mMとの間である。カンファースルホン酸は、アルギニン、カルニチン、メグルミンおよびオルニチンの群から選択されるカチオン性賦形剤と組み合わせて使用されるとき、カンファースルホン酸とカチオン性賦形剤との間のモル比は、好ましくは1:3~3:1、より好ましくは1:2~2:1、最も好ましくは1:1である。
【0098】
例えば、25mMカルニチンと50mMカンファースルホン酸の組み合わせは、これらの賦形剤の1:2混合の溶液中、75mMの賦形剤濃度を生じる。他の例示の態様は、粘度を有意に増大することなく、製剤を等張性にするのに有効な賦形剤の濃度を包含する。例示の濃度は、約150mM以上でこれらを包含し、さらなる態様において、量は、少なくとも約170mM以上である。しかしながら、選択される濃度は、それが液体タンパク質組成物中の粘度の有効な低減を結果として生じるような濃度である必要があり、および、選択される濃度は、生物にとって安全および許容可能なままである。
【0099】
別の側面において、本発明は、治療用タンパク質、賦形剤としてのカンファースルホン酸、ならびに、アルギニン、メグルミン、オルニチン、およびカルニチンまたはそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つのカチオン性賦形剤を含む、凍結乾燥されたタンパク質製剤を提供し、ここで、推奨される量の希釈剤での再構成の際に、製剤は、対照製剤と比べて低減された粘度を示す。例示の態様において、治療用タンパク質は、上に記載のとおり、高タンパク質濃度で存在する。いくつかの態様において、賦形剤は、希釈剤での再構成の際に粘度を低減するのに有効な量で存在し、例えば、98mg mAbC:150mM賦形剤を含む。かかる製剤は、さらなる添加剤を、粘度を有意に増大することなく、さらに安定性を改善し、凝集を低減し、および/または製剤を等張性にする量で、含み得る。
【0100】
本発明の例示の態様において、賦形剤(単数または複数)および選択される賦形剤の濃度は、治療用タンパク質mgあたり少なくとも約1μgから、治療用タンパク質mgあたり約1.0mgまでである。いくつかの態様において、賦形剤の濃度は、治療用タンパク質mgあたり、少なくとも約1、10、50、100、150、200、250、300、350、400、450、500または550μgである。他の例示の態様において、賦形剤の濃度は、治療用タンパク質mgあたり、約600、650、700、750、800、850、900、950または1000μgまでである。
【0101】
もう1つの態様において、本発明は、本明細書に記載の量または濃度のいずれかで、賦形剤(単数または複数)として、カンファースルホン酸と、アルギニン、メグルミン、オルニチン、およびカルニチンまたはそれらの混合物の群から選択される少なくとも1つのカチオン性賦形剤とを組み合わせて使用することにより、液体製剤中のタンパク質の自己会合を妨げる方法を提供する。
【0102】
本発明はまた、本発明の液体タンパク質製剤、および、その投与のための指示書を含み、任意に、容器、シリンジおよび/または他の投与デバイスを有する、キットを提供する。本発明はさらに、本発明の凍結乾燥されたタンパク質製剤(任意に、容器中)、および、その再構成および投与のための指示書(任意に滅菌希釈剤のバイアルと共に、および任意にシリンジまたは他の投与デバイスと共に)を含むキットを提供する。例示の容器は、バイアル、管、瓶、単一のまたは複数のチャンバーの予め充填されたシリンジ、またはカートリッジ、ならびに、ウェル中に配置したすぐに使える凍結乾燥したまたは噴霧乾燥した製剤を含む96ウェルプレートを含む。例示の投与デバイスは、シリンジ(針の有無にかかわらず)、注入ポンプ、ジェット式注射器、ペン型デバイス、経皮的注射器、または他の無針注射器を包含する。
【0103】
本発明の別の側面は、以下のステップを含む、粘度低減濃度の賦形剤をスクリーニングする方法を提供する:(1)第一の濃度の、賦形剤としてのカンファースルホン酸、および、アルギニン、メグルミン、オルニチン、およびカルニチンまたはそれらの混合物からなる群から選択される好適な賦形剤、ならびに、治療用タンパク質(抗体など)を含む第一の溶液の粘度を査定すること、(2)異なる第二の濃度の賦形剤および治療用タンパク質を含む第二の溶液の粘度を査定すること、および(3)第一の溶液の粘性が低いとき、第二の濃度の賦形剤よりも、第一の濃度の賦形剤がより粘度低減性であると決定すること。粘度は、例として、m-VROC(商標)技術レオメータ(RheoSense, San Ramon, California, USA)またはAries ARG2レオメータまたはBrookfield RV-DVIIIレオメータを使用して決定することができる。
【0104】
賦形剤の凝集低減または安定化濃度のスクリーニングのための同様の方法が提供される。
【0105】
安定性は、広範な温度にわたる(熱安定性)および/または時間期間(貯蔵寿命)および/またはストレス性取り扱い事態(例として物理的な振盪)への暴露後の立体配座変化のモニタリングを包含する、多数の様式で査定され得る。変化する濃度の製剤構成要素を含有する製剤の安定性は、様々な方法を使用して測定され得る。例えば、タンパク質凝集の量は、濁度の視覚的観察によって、特定の波長の吸光度を測定することによって、サイズ排除クロマトグラフィー(ここで、タンパク質の凝集物は、そのネイティブな状態のタンパク質と比較して、異なる画分に溶出する)、HPLC、または他のクロマトグラフ方法によって、測定することができる。示差走査熱量測定(DSC)(例として、変性の温度を決定するため)、または円二色性(CD)(これは、タンパク質のモル楕円率を測定する)を使用することを包含する、立体配座変更を測定する他の方法を使用することができる。
【0106】
蛍光はまた、組成物を分析するために使用することができる。蛍光は、光の放射、これに続く、光の吸収(これは、好適な波長を必要とする)を包含する。潜在的な読み取りは、光の極性特性、光強度、または放射波長における変更である。蛍光放射は、タンパク質に固有であるか、または、例えば、部分的に折りたたまれていないタンパク質の疎水性ポケットに結合する、蛍光レポーター分子に起因してもよい。レポーター分子の結合の増加は、タンパク質試料の蛍光シグナルの検出によってモニタリングすることができる。安定性を測定するための他の手段を使用することができ、および、当業者に周知である。本発明に従う、組成物および製剤の安定性は、上に記載の方法の少なくとも1つが安定化効果を示すときに、増加している。
【0107】
実施される実験において、最初に、粘度低下潜在力のあるカンファースルホン酸単独で、および、抗体(mAbC、mAbD、mAbE)と組み合わせて、試験される。タンパク質の濃度は、高粘度レベルを創出するために、以下の例において与えられるように調整される。
【0108】
すでに上に記載のとおり、これらの製剤のpH値は、それらの有効性および夫々の薬学的に活性なタンパク質の有用性にとって特に重要である。したがって、調査されるタンパク質製剤のpHが、約3と約8との間の範囲、好ましくは、4.5と約8.0との間の範囲で調整されることが所望される。含有タンパク質またはペプチドの性質に応じて、pH値は、好ましくは、約3と約8の間、好ましくは4.5と約5.5との間の範囲、または、約5.0と約8.0との間の範囲で調整される。pHを調整するために使用される緩衝液は、好ましくは、pH5.0の酢酸緩衝液(25mM)、および、pH7.2または7.5のリン酸緩衝生理食塩水(10mM)である。しかしながら、必要ならば、別の緩衝液を使用することができ、これは、含有される薬学的に活性なタンパク質と適合し、および生理学的に許容し得る。
【0109】
粘度低下剤の濃度は、50mM~500mMの範囲で調整される。チップベースの(微小電気機械システム)キャピラリーレオメータ、m-VROC(商標)(RheoSence, San Ramon, CA)を使用して、動的な粘度を測定した。一般に、動的な粘度(これはまた、絶対的粘度と称される)(絶対的粘度の係数)は、高度に濃縮された溶液内のタンパク質分子の自己会合によって決定され得る、内部抵抗の測定値である。
【0110】
決定された粘度は、明確に、ある濃度のカンファースルホン酸を、溶液中の特定の抗体と一緒に適用することにより、高度に濃縮された液体タンパク質組成物の粘度の測定可能に有意な低減を結果として生じる。
【0111】
しかしながら、具体的に予想外には、カンファースルホン酸およびアルギニン、メグルミン、オルニチン、およびカルニチンまたはそれらの混合物の群から選択される賦形剤の組み合わせの添加により、有意に高い粘度低減を導くことが、実験により示された。
【0112】
すでに指摘されるとおり、特に、カンファースルホン酸およびアルギニン、メグルミン、オルニチン、およびカルニチンまたはそれらの混合物の群から選択される賦形剤の混合物は、等モル量で、濃縮された液体タンパク質組成物(例として、mAbC、mAbDおよびmAbEの溶液)に添加されるとき、具体的に良好な粘度低減が達成される。
【0113】
さらなる実験において、試験されるカチオン性賦形剤のいずれか1つと、カンファースルホン酸の組み合わせの混合物の、高度に濃縮された抗体溶液(mAbC、mAbDおよびmAbE)の粘度を低減する潜在力について調査した。これらの研究の各々について、等モル量のこれらの賦形剤の混合物は添加された。等モル量のこれらの賦形剤は好ましい。具体的に良好な結果は、本明細書で、添加された賦形剤の150mMの濃度について見出された。
【0114】
全てのモデル抗体は、かなり高濃度の約100mg/mlで、いくつかは約150mg/ml、とくに200mg/mlを超えて、およびとりわけ220mg/ml(mAbE)で、pH5またはpH5.5の酢酸緩衝液中、またはpH7.2のリン酸緩衝液中で製剤化した。チップベースの(微小電気機械システム)キャピラリーレオメータ、m-VROC(商標)(RheoSence, San Ramon, CA)を使用して、20℃での粘度を測定した。
【0115】
全ての場合において、カチオン性賦形剤の150mMの濃度における、特定の等モル濃度の混合物は、高度に濃縮された抗体溶液中で測定される粘度の有意な低減を示す。
【0116】
さらなる実験において、カンファースルホン酸および上に言及された少なくとも1つのカチオン性賦形剤の組み合わせは、夫々、150mMの総濃度で液体タンパク質組成物に添加されるとき、抗体製剤の粘度を有意に低減することができる。
【0117】
また、mAbDがタンパク質として含有される溶液において、賦形剤としての各 150mMカンファースルホン酸およびカチオン性賦形剤の添加は、粘度における有意な低減を引き起こす。
【0118】
加えて、実行される実験によって示されるとおり、本明細書に言及される補助剤の様々な他の組み合わせは、高濃度抗体溶液の粘度を低減する。したがって、本明細書に言及される賦形剤の組み合わせは、排他的ではなく、対応する結果に繋がる他の実行可能な組み合わせが存在する。
【0119】
この点に関し、様々な液体タンパク質組成物の粘度を低減する試みにより、具体的な溶液に含有されるタンパク質に応じて、異なる添加剤は、最良の安定化および粘度の低減を結果として生じることが示された。
【0120】
これに関連して、タンパク質mAbCについての最良の製剤は、ミリQ水に溶解され、およびpH7.2に調整された、リン酸緩衝液、ポリソルベート80、75mMカンファースルホン酸、および75mMアルギニンを含む組成物である。
【0121】
次に、mAbEについて、最良の製剤は、ミリQ水に溶解され、およびpH5.5に調整された、酢酸緩衝液、0.1g/Lポリソルベート80、75mMカンファースルホン酸および75mMアルギニンを含む組成物である。
【0122】
したがって、本発明の具体的に好ましい態様は、賦形剤としてのカンファースルホン酸を単独で、または、アルギニン、メグルミン、オルニチン、およびカルニチンからなる群から選択される賦形剤としてのカチオン性賦形剤と組み合わせてのいずれかで、上に記載の通りの粘度低減のために、高度に濃縮された液体タンパク質組成物に添加することに本質がある。具体的に好ましくは、カンファースルホン酸の、メグルミンまたはオルニチンまたはカルニチンと組み合わせての添加により、良好な粘度低減に繋がる。本発明の別の好ましい態様において、カンファースルホン酸と賦形剤としてのアルギニンとの組み合わせは、pH7.2のリン酸緩衝液を含む溶液中におけるようにpH5.0の酢酸緩衝液を含む溶液中で同様にとくに良好な粘度低減に繋がる。
【0123】
溶液調製物の製剤化および凍結乾燥は、上に記載の通りの方法によって実行され得る。
【0124】
要約すれば、高度に濃縮された液体タンパク質組成物において、重大な生理学的特性としての粘度は、有利なことに、賦形剤のカンファースルホン酸の添加によって低減され得る。とくに良好な粘度低減効果は、カンファースルホン酸が、アルギニン、メグルミン、オルニチン、カルニチンの群から選択される少なくとも1のカチオン性賦形剤と組み合わされるときに、達成可能である。よって、とくに良好な粘度低減効果は、以下の組み合わせの添加によって達成される:メグルミンとカンファースルホン酸、オルニチンとカンファースルホン酸、カルニチンとカンファースルホン酸およびアルギニンとカンファースルホン酸。
【0125】
一側面において、本発明は、少なくとも50mg/mlから300mg/mlまでの範囲の濃度で、薬学的に活性なタンパク質を含む液体製剤の粘度を低減するための方法を提供し、タンパク質溶液を、タンパク質溶液において粘度低減効果を有する濃度で、少なくとも賦形剤としてのカンファースルホン酸を併用するステップを含む。
【0126】
別の側面において、本発明は、上に言及された方法を提供し、タンパク質溶液を、カンファースルホン酸および少なくとも1つのカチオン性賦形剤と併用するステップを含む。
【0127】
別の側面において、本発明は、上に言及された方法を提供し、ここで、カンファースルホン酸は、L-アルギニン、メグルミン、L-オルニチン、およびL-カルニチンの群から選択される少なくとも1つのカチオン性賦形剤と組み合わせて添加される。
【0128】
別の側面において、本発明は、上に言及された方法を提供し、ここで、治療用タンパク質は、抗体、抗体フラグメント、ミニボディー、ナノボディー、改変された抗体、抗体様分子および融合タンパク質の群から選択される。
【0129】
別の側面において、本発明は、上に言及された方法を提供し、ここで、製剤の粘度は、少なくとも12%低減される。
【0130】
別の側面において、本発明は、上に言及された方法を提供し、ここで、製剤の粘度は、少なくとも50%低減される。
【0131】
別の側面において、本発明は、賦形剤なしまたは賦形剤組み合わせなしの同一の製剤と比較して粘度が低減された、上に言及された方法によって生産された液体医薬製剤を提供する。
【0132】
別の側面において、本発明は、少なくとも90mg/mlから250mg/mlまでの濃度の治療用タンパク質および粘度低減賦形剤としてのカンファースルホン酸を含む、上に言及された液体医薬製剤を提供する。
【0133】
別の側面において、本発明は、上に言及された液体医薬製剤を提供し、ここで、賦形剤の濃度は、約500mM未満、とくに200mM未満である。
【0134】
別の側面において、本発明は、約4.5と約8.0との間の範囲のpHを有し、および、緩衝液を含む、上に言及された液体医薬製剤を提供する。
【0135】
別の側面において、本発明は、約4.5と約7.5との間の範囲のpHを有し、および、緩衝液を含む、上に言及された液体医薬製剤を提供する。
【0136】
別の側面において、本発明は、約5~約7.2のpHを有し、および緩衝液を含む、上に言及された液体医薬製剤を提供する。
【0137】
別の側面において、本発明は、リン酸または酢酸緩衝液を含む、上に言及された液体医薬製剤を提供する。
【0138】
別の側面において、本発明は、安定剤を含む、上に言及された液体医薬製剤を提供する。
【0139】
別の側面において、本発明は、安定剤として糖または界面活性剤を含む、上に言及された液体医薬製剤を提供する。
【0140】
別の側面において、本発明は、安定剤としてスクロースを含む、上に言及された液体医薬製剤を提供する。
【0141】
別の側面において、本発明は、安定剤としてポリソルベートまたはポロキサマー 80を含む、上に言及された液体医薬製剤を提供する。
【0142】
別の側面において、本発明は、上に言及された医薬組成物を凍結乾燥するステップを含む、凍結乾燥された粉末を調製する方法を提供する。
【0143】
別の側面において、本発明は、治療用タンパク質およびカンファースルホン酸を含む、上に言及された凍結乾燥された粉末を提供し、ここで、カンファースルホン酸またはカンファースルホン酸とカチオン性賦形剤の組み合わせは、再構成の際に、500mM未満、好ましくは200mM未満の濃度を生じるのに充分な量で存在する。
【0144】
別の側面において、本発明は、滅菌された水性希釈液を添加するステップを含む、上に言及された凍結乾燥された粉末を再構成するための方法を提供する。
【0145】
別の側面において、本発明は、上に言及された方法を提供し、ここで、治療用タンパク質は、抗体、抗体フラグメント、ミニボディー、ナノボディー、改変された抗体、抗体様分子および融合タンパク質の群から選択される。
【0146】
別の側面において、本発明は、上に言及された医薬製剤または医薬組成物を提供し、ここで、治療用タンパク質は、抗体、抗体フラグメント、ミニボディー、ナノボディー、改変された抗体、抗体様分子および融合タンパク質の群から選択される。
【0147】
別の側面において、本発明は、上に言及された凍結乾燥された粉末を提供し、ここで、治療用タンパク質は、抗体、抗体フラグメント、ミニボディー、ナノボディー、改変された抗体、抗体様分子および融合タンパク質の群から選択される。
【0148】
別の側面において、本発明は、上に言及された医薬製剤または凍結乾燥された粉末を含むキットを提供する。
【0149】
別の側面において、本発明は、使用に先立ち溶液調製物とすることができる、上に言及された方法によって得られる、医薬組成物の凍結乾燥したまたは噴霧乾燥した調製物を含む、上に言及されたキットを提供する。
【0150】
別の側面において、本発明は、96ウェルプレートに配置される、すぐに使える凍結乾燥したまたは噴霧乾燥した製剤を含む、上に言及されたキットを提供する。
【0151】
別の側面において、本発明は、容器、シリンジおよび/または他の投与デバイス(針の有無にかかわらず)、注入ポンプ、ジェット式注射器、ペン型デバイス、経皮的注射器、または他の無針注射器および指示書を包含する、患者への投与のための、上に言及されたキットを提供する。
【0152】
さらにまた、上に言及された賦形剤および賦形剤の組み合わせは、バイオプロセスにおいて有益であることが見出されている。賦形剤および賦形剤の組み合わせは、クロマトグラフィーカラム上の背圧を低減し、および、より大きい流速を可能にすることが見出された。これは、溶液中のタンパク質を引っ張る、より少ないずり応力に繋がり、および、したがって、凝集は低減されるだろう。一緒になって、より高い収率を得ることができる。これを超えて、プロセスが、より高い流速を使用して実行できるとき、プロセス時間は、有意に低減されるだろう。
【0153】
ここで意味するバイオプロセスにおいて、これらの賦形剤(これらは、粘度低減添加剤として機能する)の添加は、一方で無傷のタンパク質の収量が改善され、他方でプロセスの期間が低減できる点で、改善されたプロセス経済に繋がる。
【0154】
本発明において、行われた実験の基礎は、Amicon(登録商標)遠心濾過研究よって築かれている。これらの実験は、いずれかのプロセスステップと似ており、ここで、溶液は、遠心力によってフィルター膜を通過する。遠心力に対する耐性は、フィルターの特性(これは、この実験の文脈内で一定であると推定される)および溶液の粘度に依存している。最も好ましい溶液を提供する賦形剤および賦形剤の組み合わせは、撹拌された細胞を使用するより複雑な実験について選択される。
【0155】
Amicon(登録商標)撹拌細胞を使用する実験において、窒素ガスは、フィルターを通過した溶液に圧力を適用するために使用される。圧力の耐性は、フィルターの特性(これは、この実験の文脈内で一定であると推定される)および溶液の粘度に依存する。最も好ましい結果を与える賦形剤の組み合わせは、実験室規模のタンジェンシャルフローフィルトレーション(TFF)システムを使用する実験において使用される。
【0156】
これら2つの実験は、デッドエンド濾過アプローチの間の粘度低減剤の有益な効果を強調する。加えて、技術的アプローチにおいて(ここで、溶液は、例として、クロマトグラフ精製の間に、バックエンド圧力により適用される力によってフィルターまたは媒体(ゲルベッドなど)を通過する)、開示された粘度低減賦形剤は、有益な効果を有することが明らかとなった。該濾過ステップが主に下流プロセスにおいて使用されるとき、粘度低減賦形剤はまた、上流プロセスにおいても有益であり得る。タンパク質濃度が、粘度を引き起こすレベルまで上昇すると、溶液がチューブまたはフィルターを通過して細胞材料およびデブリを取り除くときに、圧力の制限およびずり応力の記載された負の影響があり、本発明は、明らかに有益な効果を有するだろう。
【0157】
タンジェンシャルフローフィルトレーション(以前に使用される方法とは対照的に、フィールドの流れの大部分が、フィルターを通過するのではなく、フィルターの表面を接線方向に横断して移動する)におけるプロセス効率を測定するために、実験室規模のTFFシステムを使用した。濾過原理は、これまでに記載された方法の原理とは異なるが、またここで、濾過効率は、膜の耐性(これはまたここで一定のままである)および溶液粘度(これは本発明によって改変される)に依存する。濾過方法は、製剤化緩衝液を交換するか、または、生体分子の濃度を所望されるレベルまでもたらすために、使用される典型的なユニットである。本明細書で使用される撹拌された細胞は、デッドエンドフィルターを代表するものであり、ここで、フィードは、デバイスの他の末端上に濾液を放出する材料の上により大きい分子を保留する濾過材料を通過する。
【0158】
緩衝液を交換し、および、タンパク質を濃縮するための頻出する方法は、タンジェンシャルフローフィルトレーションであり、ここで、これまでに使用される方法とは対照的に、フィールドフローの大部分は、フィルターを通過するのではなく、フィルターの表面を接線方向に横断して移動する。撹拌された細胞がタンジェンシャルフローフィルトレーションにおいて使用される場合と同様に、巨大分子は、より小さい分子を好適なフィルター材料を通過させることにより、該より小さい分子から分離される。撹拌された細胞(これは、デッドエンド濾過の1つの形態を表す)とは対照的に、タンジェンシャルフローフィルトレーションにおいて、フィードのフロー幾何学は、フィルターケーキの形成を避けるために異なっており、および、連続的なプロセスを可能にする。撹拌された細胞が使用されるとき、濾過ケーキの形成は、同様に、撹拌デバイスの使用によって妨げられる。
【0159】
したがって、撹拌された細胞は、フィルターの幾何学的形状における相違に関わらず、タンジェンシャルフローフィルトレーションデバイスと、密接に似ている。両方の方法の効率は、膜耐性に重大に依存している。また、高い粘度は、使用され得る流動速度(flux rate)を低減し、したがって、より高い製造コストを結果として生じる加工時間を増大することが知られている。したがって、低減された粘度がより効率的な濾過プロセスを可能にするが、ずり応力は低いままで、濾液中のより高いタンパク質濃度を生じると予測される。これは、Hung et al.の研究によって強調されており、「濃縮されたモノクローナル抗体製剤のタンジェンシャルフローウルトラフィルトレーション(TFF)による生産の間、高粘度および凝集は、しばしば、広範な膜閉塞、流動腐敗および低産物収率を引き起こす」(Journal of Membrane Science Volume 508, 15 June 2016, Pages 113-126)と述べられている。
【0160】
実験により、カンファースルホン酸は、前に記載のとおりのバイオプロセス経済学を改善するのに好適であることが示された。さらにまた、カンファースルホン酸と、アルギニン、メグルミン、オルニチン、およびカルニチンからなる群から選択される賦形剤としてのカチオン性賦形剤との組み合わせ、ならびに、カルニチンおよび該賦形剤の2つは、バイオプロセス経済学を改善する。とくに、タンパク質溶液に依存する様々な比率の組み合わせは、上に記載のバイオプロセス経済学を改善する。
【0161】
したがって、本発明の別の側面は、少なくとも50mg/mlから300mg/mlまでの範囲の濃度のタンパク質を含む、バイオプロセスにおける液体組成物の粘度を低減するための方法を提供することであり、粘度低減効果を有する濃度の賦形剤としての少なくともカンファースルホン酸を有する液体組成物を、好ましくは少なくとも1のカチオン性賦形剤(より好ましくはアルギニン、メグルミン、オルニチンおよびカルニチンを含むリストから選択される)と、併用するステップを含む。
【0162】
本発明の別の側面は、バイオプロセスにおける、上に記載のとおりの液体組成物の粘度を低減するための方法の使用である。
【0163】
本発明に従って、上に言及されたすべてのパラメータ;例として、賦形剤の濃度、タンパク質の濃度、賦形剤の比率、緩衝液または安定剤などの組成物のさらなる要素、pH値、粘度低減、タンパク質の仕様、タンパク質の分子量もまた、バイオプロセスにおける使用に適用される。
【0164】
バイオプロセスにおける使用のための好ましい態様として、カンファースルホン酸は、75~500mM、より好ましくは75~150mM、最も好ましくは75mMまたは150mMの濃度で使用される。カンファースルホン酸は、アルギニン、カルニチン、メグルミンおよびオルニチンの群から選択されるカチオンと組み合わせて使用されるとき、各賦形剤の濃度は、75~500mM、より好ましくは75~150mM、最も好ましくは75mMまたは150mMである。カンファースルホン酸は、アルギニン、カルニチン、メグルミンおよびオルニチンの群から選択されるカチオンと組み合わせて使用されるとき、比率は、1:3~3:1、より好ましくは1:2~2:1の範囲、最も好ましくは1:1である。例えば、25mMカルニチンと50mMカンファースルホン酸の組み合わせは、これらの賦形剤の1:2の混合の溶液中、75mMの賦形剤濃度を生じる。
【0165】
タンパク質溶液および実行されるバイオプロセスに依存して、異なる緩衝液系が、緩衝液として使用され得る。酢酸塩(酢酸アンモニウム、または酢酸ナトリウムなど)、炭酸塩(重炭酸アンモニウムまたは重炭酸ナトリウム)、またはリン酸塩(リン酸ナトリウムまたは三リン酸エステル)が、バイオプロセスの間の条件に依存して、ここで、使用することができる。
【0166】
本発明の別の側面は、上に言及されたバイオプロセスにおける液体組成物の粘度を低減するための方法を提供することであり、ここで、濾過ステップにおける液体組成物の透過流束は、カンファースルホン酸を含まない同一の液体組成物と比較して、または、カンファースルホン酸および少なくとも1つのカチオン性賦形剤(好ましくは、アルギニン、メグルミン、オルニチン、およびカルニチンからなる群から選択される)を含まない同一の液体組成物と比較して、増大している。
【0167】
本発明の別の側面は、上に言及されたバイオプロセスにおける方法の使用であり、ここで、濾過ステップにおける液体組成物の透過流束は、カンファースルホン酸を含まない同一の液体組成物と比較して、または、カンファースルホン酸および少なくとも1つのカチオン性賦形剤(好ましくは、アルギニン、メグルミン、オルニチン、およびカルニチンからなる群から選択される)を含まない同一の液体組成物と比較して、増大している。
【0168】
透過流束の増加は、少なくとも2%、好ましくは少なくとも5%、より好ましくは少なくとも10%、最も好ましくは10%~100%のパーセント増加を意味する。
【0169】
本発明の別の側面は、上に言及されたバイオプロセスにおいて液体組成物の粘度を低減するための方法を提供することであり、ここで、緩衝液交換後のタンパク質回収率およびフィルターにおける容積低減は、カンファースルホン酸を含まない同一の液体組成物と比較して、または、カンファースルホン酸および少なくとも1つのカチオン性賦形剤(好ましくは、アルギニン、メグルミン、オルニチン、およびカルニチンからなる群から選択される)を含まない同一の液体組成物と比較して、増大している。
【0170】
本発明の別の側面は、上で言及されたバイオプロセスにおける方法の使用であり、ここで、緩衝液交換後のタンパク質回収率およびフィルターにおける容積の低減は、カンファースルホン酸を含まない同一の液体組成物と比較して、または、カンファースルホン酸および少なくとも1つのカチオン性賦形剤(好ましくは、アルギニン、メグルミン、オルニチン、およびカルニチンからなる群から選択される)を含まない同一の液体組成物と比較して、増大している。
【0171】
緩衝液交換後のタンパク質回収率およびフィルターにおける容積低減の増加は、タンパク質回収率の少なくとも1%、好ましくは少なくとも2%、より好ましくは少なくとも5%、最も好ましくは5%~20%のパーセント増加を意味する。
【0172】
本発明の別の側面は、上に言及されたバイオプロセスにおいて液体組成物の粘度を低減するための方法を提供することであり、濾過ステップのプロセス時間(好ましくは、タンパク質が濃縮される濾過ステップ)は、カンファースルホン酸を含まない同一の液体組成物と比較して、または、カンファースルホン酸および少なくとも1つのカチオン性賦形剤(好ましくは、アルギニン、メグルミン、オルニチン、およびカルニチンからなる群から選択される)を含まない同一の液体組成物と比較して、低減している。
【0173】
本発明の別の側面は、上に言及されたバイオプロセスにおける方法の使用であり、ここで、濾過ステップ(好ましくは、タンパク質が濃縮される濾過ステップ)のためのプロセス時間は、カンファースルホン酸を含まない同一の液体組成物と比較して、または、カンファースルホン酸および少なくとも1つのカチオン性賦形剤(好ましくは、アルギニン、メグルミン、オルニチン、およびカルニチンからなる群から選択される)を含まない同一の液体組成物と比較して、低減している。
【0174】
濾過ステップのためのプロセス時間の低減は、少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも25%、最も好ましくは25%~100%のパーセント低減を意味する。
【0175】
本発明の具体的な態様において、濾過ステップは、タンジェンシャルフローフィルトレーション(TFF)である。
【0176】
本発明の他の側面は、本明細書に記載の方法を実施するためのキットを提供することである。一般に、実施のためのキットは、本発明の方法に適合され、および、部分の形態は、それらの意図される機能に依存する。
【0177】
典型的には、キットは、包装されており、および、試薬を含有する槽を包含し、その溶液の容積は、キットが評価される調製物の量に基づいて変化する。槽は、一般には、本発明の方法を実施する際に有用な1以上の試薬を包含する。ある態様において、キットは、区画化されたキットであり、すなわち、キットは、同じまたは別々の槽中に含有される試薬を包含する。槽の例は、これらに限定されないが、小さいガラス容器、プラスチック容器、またはプラスチック紙の条片を包含する。これらまたは他の小さい槽は、1つの区画から別の区画への試薬の効率的な移動を可能にする。
【0178】
かかる溶液は、試験試料を受容する容器、開示のタンパク質またはタンパク質溶液を含有する容器、材料を含有する溶液、洗浄試薬を含有する容器、および/または、キットの適用において有用な試薬を含有する容器を包含し得る。キットは、本明細書に記載のポリペプチドの供給源および濃縮物を包含し得る。より大規模の適用については、キットは、一般には、同様の試薬および溶液を包含するが、より大きい分量で包含するだろう。
【0179】
本発明はまた、本発明の液体タンパク質製剤、その投与のための指示書を、任意に、容器、シリンジ、および/または他の投与デバイスと共に、含むキットを提供する。本発明はさらに、本発明の凍結乾燥されたタンパク質製剤を、任意に容器中に、およびその再構成および投与のための指示書を、任意に滅菌希釈剤のバイアルと共に、および、任意にシリンジまたは他の投与デバイスと共に含むキットを提供する。例示の容器は、バイアル、管、瓶、単一のまたは複数のチャンバーの予め充填されたシリンジ、またはカートリッジを包含するが、ウェル中に配置されたすぐに使える凍結乾燥したかまたは噴霧乾燥した製剤を含む96ウェルプレートもまた包含する。例示の投与デバイスは、シリンジ(針の有無にかかわらず)、注入ポンプ、ジェット式注射器、ペン型デバイス、経皮的注射器、または他の無針注射器を包含する。
【0180】
キットはまた、典型的には、使用のための指示書を包含する。指示書は、一般に、エンドユーザーが、所望される調製またはアッセイを実施することを可能にするのに好適であろう。指示書は、一般に、有形の表現であろう(例として、少なくとも1の調製またはアッセイのための試薬濃度、混合される試薬および試料の相対量などのパラメータ、試薬/試料の混合のための維持またはインキュベーション期間、温度要件または優先度等)。指示書は、キットの包装の外側または内側に印刷されてもよく、キット内の小冊子、カード、または他の紙、および/または、キットに包含される容器または槽の外側表面上に存在する。
【0181】
本発明を詳細に記載すると、添付の請求項に定義される発明の範囲から逸脱することなく、改変およびバリエーションが実行可能であることが明らかであろう。さらにまた、本開示の全ての例は、非制限例として提供されることが理解されるべきである。
【0182】
溶液調製物の製剤化および凍結乾燥は、当業者に公知の方法によって実施することができる。
【0183】
本発明の記載は、当業者が本発明を包括的に実施することを可能にする。さらなるコメントなしでも、当業者は、最も広い範囲で上記記載を利用できるであろうと推定される。
【0184】
本発明は、好ましい態様と関連して記載されているが、様々な改変、付加、および変更が、添付の請求項に定義された発明の精神および範囲から逸脱することなく、当業者によって本発明になされ得ることが理解されるべきである。とりわけ、発明思想は、例に示される特定のタンパク質に限定されないが、上に定義されるとおりの全ての他のタンパク質に移すことができる。
【0185】
何かが不明確であれば、引用され、および、当業者に公知の、刊行物および特許文献が、参照されるべきことが理解される。結果的に、引用される文献は、本発明の記載の開示内容の一部とみなされるべきであり、および、参照により本明細書に組み込まれる。
【0186】
より良い理解のため、および、本発明を説明するために、例は、以下に提示され、これらは、本発明の保護の範囲内である。これらの例はまた、実行可能なバリアントを説明するように機能する。
【0187】
さらにまた、付与される例において、および、記載の残りにおいてもまた、組成物に存在する構成要素の量は、常に、組成物全体に基づいて、100重量%またはモル%までのみ添加され、および、より高い値が指示されるパーセント範囲から生じ得るとしても、このパーセンテージを超えることができない。別様に明記されない限り、%データは、したがって重量%またはモル%であるが、容積データで示される比率は例外とする。
【0188】
本発明はさらに、タンパク質を含む液体組成物の粘度を低減する方法を提供し、ここで、タンパク質は、インフリキシマブである。本発明において、インフリキシマブは、略語「mAbC」によって参照される。好ましくは、医薬製剤中のインフリキシマブ濃度は、122mg/mlと185mg/mlとの間である。
【0189】
Janssen Biotech, Inc.によって開発されたインフリキシマブ(REMICADE(登録商標))、およびBiogenによって開発されたそのバイオシミラー薬物(FUXABI(登録商標))、Celltrionによって開発された(Inflectra)は、リウマチ性関節炎、成人潰瘍性大腸炎、尋常性乾癬、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎、成人&小児クローン病の処置のために使用される(用量/投薬量:5mg/kg)。インフリキシマブは、自己免疫疾患を処置するために使用される腫瘍壊死因子アルファ(TNF-a)に対するmAbである。インフリキシマブは、TNFaの可溶性および膜貫通形態に高い親和性で結合することによって、TNFaの生物学的活性を中和し、および、TFNaのその受容体への結合を阻害する。
【0190】
それは、米国でJanssen Global Services, LLC (「Janssen」)、日本でMitubishi Tanabe Pharma、中国でXian Janssen、および、その他でMerck Sharp & Dohme (「MSD」)により商品名REMICADE(登録商標)で市販されている。いくつかの態様において、製剤は、REMICADE(登録商標)のバイオシミラー(REMSIMA(商標)またはINFLECTRA(商標)など)を含有する。Celtrion, Inc. (“Celltion”)によって開発されたREMSIMA(商標)およびHospira Inc., UKによって開発されたINFLECTRA(商標)の両方。インフリキシマブは、目下、約3mg/kgから約10mg/kgまでの範囲の用量で静脈内注入を介して投与されている。
【0191】
本発明はさらに、タンパク質を含む液体組成物の粘度を低減する方法を提供し、ここで、タンパク質は、エボロクマブである。本発明において、エボロクマブは、略語「mAbD」によって参照される。好ましくは、医薬製剤中のエボロクマブの濃度は、163mg/mlと204mg/mlとの間である。
【0192】
Amgenによって開発されたエボロクマブ(REPATHA(登録商標))は、PCSK9(プロタンパク質転換酵素サブチリシン・ケキシン9型)を標的とすることにより、HeFH、CVDの処置、低密度リポタンパク質コレステロール(LDL-C)の低減において使用される(毎月用量/投薬量:420mg)。
【0193】
本発明はさらに、タンパク質を含む液体組成物の粘度を低減するための方法を提供し、ここで、タンパク質は、レスリズマブである。本発明において、レスリズマブは、略語「mAbE」によって参照される。好ましくは、医薬製剤中のレスリズマブ濃度は、178mg/mlと224mg/mlとの間である。
【0194】
レスリズマブ(CINQAIR(登録商標))は、Teva Pharmaceuticalsによって開発され、および、重症喘息発作(増悪)において使用されている(用量/投薬量:3mg/kg)。
【0195】
例:
例において、以下の略語が、mAbについて使用される:
mAbC:インフリキシマブ
mAbD:エボロクマブ
mAbE:レスリズマブ
【0196】
例1
メグルミン、L-オルニチン、L-カルニチンおよびカンファースルホン酸の、高度に濃縮されたタンパク質溶液に対する効果:
例1a)は、L-アルギニン、L-カルニチンおよびカンファースルホン酸(しかしながら、L-オルニチンおよびメグルミンではない)が、夫々、98mg/mlおよび148mg/mlでmAbCの粘度を低減することを示す。
例1b)は、メグルミン、L-オルニチン、L-カルニチンおよびカンファースルホン酸が、170mg/mlおよび190mg/mlで、mAbDの粘度を低減することを示す。
例1c)は、メグルミン、L-オルニチン、L-カルニチンおよびカンファースルホン酸が、179mg/mlおよび223mg/mlで、mAbEの粘度を低減することを示す。全ての場合の対照試料は、粘度低減賦形剤なしで、夫々のmAbの市販製剤である。
【0197】
例1a
L-アルギニン、L-カルニチンおよびカンファースルホン酸(しかしながら、L-オルニチンおよびメグルミンではない)の粘度低減効果は、pH7.2のリン酸緩衝液中で製剤化されたmAbCの粘度を低減する。
【0198】
緩衝液調製
5mMリン酸緩衝液を、リン酸二水素ナトリウムおよびリン酸水素二ナトリウムを適切に混合してpH7.2を生じ、および、該混合物を超純水に溶解することにより、調製した。該比率は、ヘンダーソン・ハッセルバルヒ式を使用して決定した。pHは、必要であれば、HClおよびNaOHを使用して調整した。
50mg/mlスクロースおよび0.05mg/mlポリソルベート80は、安定剤として添加した。
【0199】
試料調製
150mM L-オルニチン、L-アルギニン、L-カルニチン、メグルミン、およびカンファースルホン酸の賦形剤溶液を、夫々、リン酸緩衝液pH7.2中に調製した。pHは、必要であれば、HCLまたはNaOHを使用して調整した。
所望される賦形剤を含有する濃縮されたmAb溶液は、遠心フィルター(Amicon, 30 kDA MWCO)を使用して調製し、元の緩衝液を、関係のある賦形剤を含有する緩衝液と交換し、および、溶液の容積を低減させた。タンパク質は、続いて、夫々、98mg/mlおよび148mg/mlに希釈した。
【0200】
粘度測定
mVROC(商標)技術(Rheo Sense, San Ramon, California USA)を、粘度測定のために使用した。
測定は、500μlシリンジおよびせん断速度3000s
-1を使用して20℃で実施した。200μlの容積を使用した。すべての試料は、三連で測定した。
図1は、リン酸緩衝液pH7.2中に製剤化されたmAbCのメグルミン、L-オルニチン、L-カルニチン、アルギニンおよびカンファースルホン酸の粘度低減効果を示す(例1a)。
【0201】
例1b
メグルミン、L-オルニチン、L-カルニチンおよびカンファースルホン酸は、170mg/mlおよび190mg/mlで、mAbDの粘度を低減する。
【0202】
緩衝液調製
20mM酢酸緩衝液は、1.2mg/ml氷酢酸を超純水と混合することによって調製した。pHは、必要な場合、HClおよびNaOHを使用して5.0に調整した。0.1mg/mlポリソルベート80を、安定剤として添加した。
【0203】
試料調製
150mM L-オルニチン、L-アルギニン、L-カルニチン、メグルミン、およびカンファースルホン酸の賦形剤溶液を、夫々、酢酸緩衝液pH5.0中で調製した。pHは、必要であれば、HCLまたはNaOHを使用して調整した。
所望される賦形剤を含有する濃縮されたmAb溶液を、遠心フィルター(Amicon, 30 kDA MWCO)を使用して調製し、元の緩衝液を関係のある賦形剤を含有する緩衝液と交換し、および、溶液の容積を低減した。タンパク質は、続いて、夫々、169 mg/mlおよび190mg/mlに希釈した。
【0204】
粘度測定
mVROC(商標)技術(Rheo Sense, San Ramon, California USA)を粘度測定のために使用した。
測定は、500μlシリンジおよび169mg/mlのタンパク質溶液について3000s
-1のせん断速度および190mg/mlのタンパク質溶液について2000s
-1のせん断速度を使用して、20℃で実施した。200μlの容積を使用した。すべての試料は、三連で測定した。
図2は、酢酸緩衝液pH5.0中で製剤化されたmAbDのメグルミン、L-オルニチン、L-カルニチン、アルギニンおよびカンファースルホン酸の粘度低減効果を示す(例1b)。
【0205】
例1c
メグルミン、L-オルニチン、L-カルニチンおよびカンファースルホン酸は、179mg/mlおよび223mg/mlで、mAbEの粘度を低減する。
緩衝液調製
20mM酢酸緩衝液を、酢酸ナトリウムおよび氷酢酸を超純水と、pH5.5の緩衝液を生じる比率で混合することによって調製した。酢酸ナトリウムおよび氷酢酸の比率は、ヘンダーソン・ハッセルバルヒ式を使用して計算した。pHは、必要であれば、HClおよびNaOHを使用して調整した。70mg/mlスクロースを安定剤として添加した。
【0206】
試料調製
150mM L-オルニチン、L-アルギニン、L-カルニチン、メグルミン、およびカンファースルホン酸の賦形剤溶液を、夫々、酢酸緩衝液pH5.5中で調製した。pHは、必要であれば、HCLまたはNaOHを使用して調整した。
所望される賦形剤を含有する濃縮されたmAb溶液を、元の緩衝液を関係のある賦形剤を含有する緩衝液と交換し、および、溶液の容積を低減するために、遠心フィルター(Amicon, 30 kDA MWCO)を使用して調製した。タンパク質を、続いて、夫々179mg/mlおよび223mg/mlに希釈した。
【0207】
粘度測定
mVROC(商標)技術(Rheo Sense, San Ramon, California, USA)を粘度測定のために使用した。
測定は、500μlシリンジおよび3000s
-1のせん断速度を使用して20℃で実施した。200μlの容積を使用した。すべての試料は、三連で測定した。
図3は、酢酸緩衝液pH5.5中で製剤化したmAbEの、メグルミン、L-オルニチン、L-カルニチン、アルギニンおよびカンファースルホン酸の粘度低減効果を示す(例1c)。
【0208】
例2
L-アルギニン、L-カルニチン、L-オルニチン、およびメグルミンと、カンファースルホン酸との組み合わせの効果。
例2a)は、メグルミン、L-オルニチン、L-カルニチンは、カンファースルホン酸と組み合わせたとき、夫々、98mg/mlおよび148mg/mlでmAbCの粘度を低減することを示す。
例2b)は、メグルミン、L-オルニチン、L-カルニチンは、カンファースルホン酸と組み合わせたとき、170mg/mlおよび190mg/mlでmAbCの粘度を低減することを示す。
例2c)は、メグルミン、L-オルニチン、L-カルニチンは、カンファースルホン酸と組み合わせたとき、179mg/mlおよび223mg/mlでmAbEの粘度を低減することを示す。
例2d)は、リン酸緩衝液pH7.2中で製剤化されたmAbCに対する、L-アルギニンとカンファースルホン酸との併用による、相乗的な粘度低減を示す。
【0209】
例2a
緩衝液調製
5mMリン酸緩衝液を、リン酸二水素ナトリウムおよびリン酸水素二ナトリウムを適切に混合して、7.2のpHを生じ、および、超純水に該混合物を溶解することによって、調製した。該比率は、ヘンダーソン・ハッセルバルヒ式を使用して決定した。pHは、必要な場合、HClおよびNaOHを使用して調整した。50mg/mlスクロースおよび0.05mg/mlポリソルベート80を、安定剤として添加した。
【0210】
試料調製
追加の75mMカンファースルホン酸を補充した、75mM L-オルニチン塩酸塩、L-アルギニン、L-カルニチン、メグルミンの賦形剤溶液を、夫々、リン酸緩衝液pH7.2中に調製した。pHは、必要な場合、HCLまたはNaOHを使用して調整した。
所望される賦形剤を含有する濃縮されたmAb溶液を、元の緩衝液を関係のある賦形剤を含有する緩衝液と交換し、および、溶液の容積を低減するために、遠心フィルター(Amicon, 30 kDA MWCO)を使用して調製した。タンパク質は、続いて、夫々、98mg/mlおよび148mg/mlに希釈した。
【0211】
粘度測定
mVROC(商標)技術(Rheo Sense, San Ramon, California USA)を、粘度測定のために使用した。
測定は、500μlシリンジおよび3000s
-1のせん断速度を使用して20℃で実施した。200μlの容積を使用した。すべての試料は、三連で測定した。
図4は、リン酸緩衝液pH7.2中に製剤化されたmAbCの、カンファースルホン酸と組み合わせたときの、メグルミン、L-オルニチン、L-カルニチンの粘度低減効果を示す(例2a)。
【0212】
例2b
緩衝液調製
20mM酢酸緩衝液は、1,2mg/ml氷酢酸を超純水と混合することによって調製した。pHは、必要な場合、HClおよびNaOHを使用して5.0に調整した。0.1mg/mlポリソルベート80を安定剤として添加した。
【0213】
試料調製
追加の75mMカンファースルホン酸を補充された、75mM L-オルニチン塩酸塩、L-アルギニン、L-カルニチン、メグルミンの賦形剤溶液は、夫々、酢酸緩衝液pH5.0中で調製した。pHは、必要な場合、HCLまたはNaOHを使用して調整した。
所望される賦形剤を含有する濃縮したmAb溶液は、元の緩衝液を関係のある賦形剤を含有する緩衝液と交換するために、および、溶液の容積を低減するために、遠心フィルター(Amicon, 30 kDA MWCO)を使用して調製した。タンパク質は、続いて、夫々169mg/mlおよび190mg/mlに希釈した。
【0214】
粘度測定
mVROC(商標)技術(Rheo Sense, San Ramon, California USA)を、粘度測定のために使用した。
測定は、500μlシリンジおよび169mg/mlのタンパク質溶液について3000s
-1のせん断速度および190mg/mls
-1のタンパク質濃度について2000s
-1のせん断速度を使用して、20℃で実施した。200μlの容積を使用した。すべての試料は、三連で測定した。
図5は、酢酸緩衝液pH5.0中で製剤化したmAbDの、カンファースルホン酸と組み合わせたときの、メグルミン、L-オルニチン、L-カルニチンの粘度低減効果を示す(例2b)。
【0215】
例2c
緩衝液調製
20mM酢酸緩衝液は、酢酸ナトリウムおよび氷酢酸を超純水と、pH5.5の緩衝液を生じる比率で混合することによって調製した。酢酸ナトリウムおよび氷酢酸の比率は、ヘンダーソン・ハッセルバルヒ式を使用して計算した。pHは、必要な場合、HClおよびNaOHを使用して調整した。70mg/mlスクロースは、安定剤として使用した。
【0216】
試料調製
追加の75mMカンファースルホン酸を補充した、75mM L-オルニチン、L-アルギニン、L-カルニチン、メグルミンの賦形剤溶液を、夫々、酢酸緩衝液pH5.5中で調製した。pHは、必要な場合、HCLまたはNaOHを使用して調整した。
所望される賦形剤を含有する濃縮されたmAb溶液を、元の緩衝液を関係のある賦形剤を含有する緩衝液と交換し、および、溶液の容積を低減するために、遠心フィルター(Amicon, 30 kDA MWCO)を使用して調製した。タンパク質は、夫々、179mg/mlおよび223mg/mlに希釈した。
【0217】
粘度測定
mVROC(商標)技術(Rheo Sense, San Ramon, California USA)を、粘度測定に使用した。
測定は、500μlシリンジおよび3000s
-1のせん断速度を使用して20℃で実施した。200μlの容積を使用した。すべての試料は、三連で測定した。
図6は、酢酸緩衝液pH5.5中で製剤化されたmAbEの、カンファースルホン酸と組み合わせたときの、メグルミン、L-オルニチン、L-カルニチンの粘度低減効果を示す(例2c)。
【0218】
例2d
緩衝液調製、試料調製および粘度測定は、例1a)および2a)に従って実施した。
図7は、リン酸緩衝液pH7.2中で製剤化したmAbCの、カンファースルホン酸と組み合わせたときの、L-アルギニンの相乗的粘度低減効果を示す(例2d)。「予測される粘度組み合わせ」は、各賦形剤、L-オルニチンおよびL-アルギニンの75mMで単独での、推定相加効果に対応する。測定された組み合わせは、これら2つの賦形剤の間で、mAbCに対して、148mg/mLで、相乗作用を示す、さらに低い粘度を表した。
【0219】
例3
例3は、mAbCのタンパク質安定性に対する、カンファースルホン酸およびそのL-オルニチンまたはL-アルギニンとの組み合わせの効果を示す。
緩衝液調製
5mMリン酸緩衝液は、リン酸二水素ナトリウムおよびリン酸水素二ナトリウムを適切に混合して7.2のpHを生じ、および、該混合物を超純水に溶解することによって調製した。該比率は、ヘンダーソン・ハッセルバルヒ式を使用して計算した。pHは、必要な場合、HClおよびNaOHを使用して調整した。50mg/mlスクロースおよび0.05mg/mlポリソルベート80を、安定剤として使用した。
【0220】
試料調製
150mM L-オルニチン、L-アルギニンまたはカンファースルホン酸を含有する賦形剤溶液を、リン酸緩衝液pH7.2中で調製した。また、追加の75mMカンファースルホン酸を補充した、75mM L-オルニチン塩酸塩またはL-アルギニンを、夫々、リン酸緩衝液pH7.2中で調製した。pHは、必要な場合、HCLまたはNaOHを使用して調整した。
所望される賦形剤を含有する濃縮されたmAbC溶液を、元の緩衝液を関係のある賦形剤を含有する緩衝液と交換するため、および、溶液の容積を低減するために、遠心フィルター(Amicon, 30 kDA MWCO)を使用して調製した。タンパク質は、続いて、およそ80mg/mlまで希釈した。
試料は、シリンジフィルター(Millex GV, 0,22μm, PVDF, Art.No.: SLGV013SL)を使用して滅菌し、および、これまでにリンスおよび滅菌した圧着バイアル中にアリコートした。バイアルは、圧着し、および、40℃/75%rHで28日間保管した。
【0221】
モノマー含量分析
モノマー含量は、Agilent 1290 Infinity UHPLC系に接続したAquity UPLCタンパク質BEH SECカラムを使用するサイズ排除クロマトグラフィーによって決定した。サイズ分離は、30℃で、10%有機溶媒を含有するカリウム塩溶離液を用いて均一濃度で実施した。標準(100%)として、ストレス無負荷のmAbC試料(1mg/mL)を使用した。試料は、分析のために1mg/mLに希釈した。
図8は、40℃/75%rHで28日間保管された、賦形剤の有無にかかわらない、リン酸緩衝液pH7.2中の、およそ80mg/mL mAbCを含む溶液の残余モノマー含量を示す。タンパク質安定性は、酸が唯一の賦形剤であるときの代わりに、カンファースルホン酸とL-アルギニンまたはL-オルニチンとの組み合わせが使用されるときに、負の影響はより少なかった。
【0222】
例4:遠心フィルターユニットについての利益
緩衝液調製
10mMクエン酸緩衝液を、クエン酸一水和物を使用して、それを超純水に溶解して、調製した。pHは、必要な場合、HClおよびNaOHを使用して5.5に調整した。0,25mg/mLポリソルベート80を安定剤として添加した。
カンファースルホン酸(CSAcid)、オルニチン(OrnまたはOM)、アルギニン(ArgまたはAG)、カルニチン(Car)およびメグルミン(MegまたはMG)の賦形剤溶液を、150mMの濃度で、クエン酸緩衝液pH5.5中で調製した。これら賦形剤の2つを含有する組み合わせを、各75mMまたは各150mMの濃度で調製した。
【0223】
試料調製
およそ14.7mg/mlを含有するセツキシマブ溶液を、出発材料として使用した。その後、充分な容積を計算して、500μL試料中、120mg/mlを超える最終濃度を達成し、20%までの試料喪失が推定された。
【0224】
タンパク質濃度測定
タンパク質濃度を、ランベルト・ベールの法則を適用する、吸収分光法を使用して決定した。賦形剤自体が280nmにて強い吸光度を有するとき、ブラッドフォードアッセイを使用した。
濃縮されたタンパク質溶液を、それらの予測濃度が、測定値が0.3と1.0mg/mLとの間に存在するように、希釈した。
吸収分光法のために、280nmでの吸光度を、タンパク質吸光係数A0.1%、280nm=1.4で、BioSpectrometer(登録商標)速度論(Eppendorf, Hamburg, Germany)を使用して、280nmで測定した。
【0225】
280nmで光を吸収した賦形剤について、タンパク質濃度を、ブラッドフォードアッセイを使用して決定した。したがって、Thermo Scientific(商標)(Thermo Fisher, Waltham, Massachusetts, USA) からのキット、ならびにランベルト・ベールの法則を適用する吸収分光学を使用して調製されたセツキシマブ標準を使用した。吸収は、Multiskan(商標)Wellplatereader (Thermo Fisher, Waltham, Massachusetts, USA)を使用して、595nmで測定した。タンパク質濃度は、125から1500μg/mLまでの標準曲線の適切な多項式回帰によって決定した。
【0226】
容積測定
透過容積を、適切なサイズのメスフラスコを使用して測定した。
Amicon(登録商標)遠心フィルターユニットについて、透過物(permeate)を、遠心分離後にメスフラスコに移した。Amicon(登録商標)撹拌細胞実験のために、透過物を、かかるものに直接回収した。
濃縮されたタンパク質溶液の容積は、適切なサイズのMultipette(登録商標)E3X(Eppendorf, Hamburg, Germany)およびCombitips advanced(登録商標)を使用して測定した。
【0227】
緩衝液交換および容積低減
30kDa MWCOを有するAmicon(登録商標)遠心フィルターを使用して、元の緩衝液を、関係のある賦形剤を含有する緩衝液と交換し、および、溶液の容積を低減した。
5ダイア容量を使用して、元の緩衝液を、関係のある賦形剤を含有する緩衝液と交換した。
透過流束を測定するために、Amicon(登録商標)遠心フィルターを、2000xgで15分間遠心分離して、および、上に記載の通り、容積を測定した(4回反復し、および、平均を計算した)。
最終的な濃度を達成するために、Amicon(登録商標)遠心フィルターを、短い時間ステップで遠心分離し、および、500μLのマークに達する際に蓄積期間を注記した。
【0228】
図9~
図11は、増加した透過流束によって指し示されるプロセス改善を強調する。
150mMの各賦形剤は、該実験条件下で、フロースルーを増加することが見出された。75mMのCSAcidおよびよりカチオン性の賦形剤を含む組み合わせを使用すると、フロースルーは増加する(とりわけ組み合わせAG/CSAcid)。
個々の賦形剤の濃度が150mMまで増大するとき、すべての試験した組み合わせは、有意に、フロースルーを増大させる。
【0229】
Amicon(登録商標)遠心フィルターを使用するプロセスの利益を特徴づけるための別の側面は、ある容積に達するのに必要な時間である。この側面は、平均透過流束に関係があるが、これとは異なる。なぜなら、本明細書では、より高いタンパク質濃度での賦形剤の効果は、このパラメータに対して強い影響を有するためである。
【0230】
図12~
図14は、夫々、75mMカチオン性またはアニオン性賦形剤を使用して達成することができる、プロセス時間の減少を示す。
低減したプロセシング時間は、列挙した賦形剤の各々について観察することができる。
図13および14は、プロセス時間に対する、賦形剤組み合わせの効果を強調する。
列挙された各組み合わせは、プロセシング時間を低減し、および、したがって、プロセス経済学に対して有益な効果を有する。
【0231】
プロセシング時間以外の、プロセス経済学に重大な別の側面は、プロセス効率である。このパラメータは、タンパク質の回収率により、この実験設定において査定することができる。回収率は、溶液の容積が0.5mlに低減された後に、Amiconフィルターから回収することができるタンパク質画分として定義される。
【0232】
図15および
図16は、タンパク質回収率に対する、夫々、75mMカチオン性および/またはアニオン性賦形剤の効果を示す。
すべての試験条件下で、回収率は、本発明に従う、粘度低減剤の添加により改善された。
【0233】
例5:撹拌された細胞の利益
Amicon(登録商標)遠心フィルターを用いるプロセシングにおいて肯定的な効果を有していた賦形剤および組み合わせを、Amicon(登録商標)撹拌細胞濾過において使用した。Amicon(登録商標)スピンカラム濃縮器(concentrator)は、遠心力によって駆動され、撹拌細胞は、窒素または気流の形態で溶液に適用される、背圧によって操作される。このモデル系は、溶液の加工可能性を試験するために頻繁に使用され、および、これまでに使用されたAmicon(登録商標)遠心フィルターと比較して、より密接なモデル系である。
【0234】
緩衝液調製
例1を参照
試料調製
抗体貯蔵溶液の容積を計算して、25mg/mLセツキシマブを含む、少なくとも10mLの溶液を得て、20%までの喪失が推定された。
タンパク質濃度測定
例1を参照
容積測定
例1を参照
【0235】
緩衝液交換および容積低減
撹拌された細胞設定のために、50mLまでを含有するモデルは、30kDaの NMWLおよび13.4cm2の活性膜面積を有する限外濾過ディスクフィルターを備えた。
夫々の容積のセツキシマブ貯蔵溶液を、撹拌細胞中に充填し、および、夫々の緩衝液を、50mLマークまで添加した。
5ダイア容量を、元の緩衝液を関係のある賦形剤または組み合わせと交換するために、使用した。
【0236】
透過流束を測定するために、4バールの圧力を、Amicon(登録商標)撹拌細胞に、200rpm(磁気撹拌プレートを使用する)の混合速度で30分間(4回)適用した。
最終的な濃縮時間のために、細胞は、再び、50mLマークまで、夫々の緩衝液で充填し、および4バールの圧力を、200rpm撹拌スピードで適用した。10mLマークに達するとき、期間を注記し、プロセスを停止し、および、その結果得られた抗体溶液の容積ならびに濃度を、上に記載のとおり測定した。
先のセクションにおけるとおり、製剤の平均透過流束に対する効果を、最初に査定した。結果は、以下の
図17に描写する。
使用された賦形剤および賦形剤の組み合わせの各々について、改善された透過流束が観察された。
【0237】
分析される次のパラメータは、プロセス時間である。ここで、製剤の容積が、10mlまで低減される時間を測定した。結果を、
図18に描写する。
本明細書で使用される各賦形剤および賦形剤の組み合わせについて、プロセシング時間の低減を観察した。最終的に、撹拌された細胞からのタンパク質回収率の形態のプロセス収率を決定し、および、
図19に示す。
全ての試験条件について、改善された回収率が観察された。
【0238】
例5:Amiconを用いるプロセシング:インフリキシマブ
緩衝液調製
5mMリン酸緩衝液を、7.2のpHを生じるようにリン酸二水素ナトリウムおよびリン酸水素二ナトリウムを適切に混合すること、および、該混合物を超純水に溶解することによって調製した。該比率は、ヘンダーソン・ハッセルバルヒ式を使用して決定した。pHは、必要な場合、HClおよびNaOHを使用して調整した。50mg/mlスクロースおよび0.05mg/mlポリソルベート80を、安定剤として添加した。
【0239】
試料調製
1つの化合物を有する賦形剤溶液を、他に規定されない限り、150mMの濃度で、リン酸緩衝液pH7.2中に調製した。葉酸を、12mM濃度で調製した。チアミンピロリン酸を、75mM濃度で調製した。pHは、必要な場合、HCLまたはNaOHを使用して調整した。
2つの賦形剤を組み合わせて、夫々の化合物を、各75mMの濃度で調製した。葉酸を、12mMで組み合わせて使用した。
【0240】
所望される賦形剤を含有する濃縮されたインフリキシマブ溶液を、元の緩衝液を関係のある賦形剤を含有する緩衝液と交換するため、および、溶液の容積を低減するために、遠心フィルター(Amicon, 30 kDA MWCO)を使用して調製した。
貯蔵材料として、10mg/mlインフリキシマブを含有する溶液を使用して、および、少なくとも160mg/mlの濃度が0.5mlで達成されるように、出発容積を計算した。
【0241】
タンパク質濃度測定
タンパク質濃度は、ブラッドフォードアッセイを使用して決定した。
したがって、Thermo Scientific(商標)(Thermo Fisher, Waltham, Massachusetts, USA)からのキットならびにランベルト・ベールの法則を適用する吸収分光法を使用することによって調製されたインフリキシマブ標準を使用した。吸光度は、Multiskan(商標)Wellplatereader (Thermo Fisher, Waltham, Massachusetts, USA)を使用して595nmで測定した。タンパク質濃度は、125から1500μg/mLまでの標準曲線の適切な多項式回帰によって決定した。
【0242】
およそ0.5mlの容積に達するまでのプロセシング時間を、
図20および
図21に描写する。
この研究において使用される各賦形剤を用いて、プロセシング時間は、少なくとも20分、いくつかの場合90分まで低減することができる。賦形剤の組み合わせ(各75mM)で達成することができる時間低減は、
図21に描写される。
粘度低減賦形剤の組み合わせの使用は、Amiconフィルターがモデルと使用されるとき、インフリキシマブについてのプロセシング時間を低減する。これまでに記載されるように、本明細書に示すプロセスは、より現実的なモデル、例としてTFFが使用されるときでさえも、改善されたプロセス可能性に翻訳することができる。
【0243】
以下が見出された
・高度に濃縮されたタンパク質溶液の粘度は、L-アルギニン、L-オルニチン、L-カルニチン、メグルミン、およびカンファースルホン酸によって低減される。
・高度に濃縮されたタンパク質溶液の粘度は、カンファースルホン酸を、L-アルギニン、L-オルニチン、L-カルニチン、メグルミンと併用することにより、低減される。
・粘度は、両方の賦形剤単独の和によって達成される理論上の低減よりも、L-アルギニンおよびカンファースルホン酸の組み合わせによって、強く低減される(相乗的な組み合わせ)。
【0244】
・粘度低減潜在力に関係して、タンパク質安定性は、カンファースルホン酸が唯一の賦形剤であるときと比較して、カンファースルホン酸を、L-アルギニンまたはL-オルニチンと組み合わせて使用するとき、負に影響されることは少なかった。
・Amicon(登録商標)遠心フィルターを使用する透過流束は、カンファースルホン酸、および、カンファースルホン酸とL-オルニチン、L-アルギニン、L-カルニチンおよびメグルミンの組み合わせによって、増加する。Amicon(登録商標)遠心フィルターにおける透過流束を増加する賦形剤および組み合わせはまた、Amicon(登録商標)撹拌細胞におけるこの流束を増大することができる。
【0245】
・最終タンパク質濃度が達成されるまでの期間は、カンファースルホン酸およびカンファースルホン酸とL-オルニチン、L-アルギニン、L-カルニチンおよびメグルミンの組み合わせによって、賦形剤なしの試料と比較して、低減することができる。
・緩衝液交換および容積低減後の抗体の回収率は、カンファースルホン酸およびカンファースルホン酸とL-オルニチン、L-アルギニン、L-カルニチンおよびメグルミンの組み合わせによって、賦形剤なしの試料と比較して、増加させることができる。Amicon(登録商標)遠心フィルターでの緩衝液交換および容積低減後の、タンパク質回収率を同大させる賦形剤および組み合わせはまた、Amicon(登録商標)撹拌細胞においてもこれを増大させることができる。
【国際調査報告】