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特表2022-548260充電式リチウムイオン電池用の正極材料の調製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-17
(54)【発明の名称】充電式リチウムイオン電池用の正極材料の調製方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20221110BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20221110BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20221110BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
C01G53/00 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022516354
(86)(22)【出願日】2020-09-11
(85)【翻訳文提出日】2022-03-14
(86)【国際出願番号】 EP2020075538
(87)【国際公開番号】W WO2021048399
(87)【国際公開日】2021-03-18
(31)【優先権主張番号】19197345.2
(32)【優先日】2019-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501094270
【氏名又は名称】ユミコア
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】テ-ヒョン・キム
(72)【発明者】
【氏名】ジェンス・ポールセン
(72)【発明者】
【氏名】カスペル・ランブライ
(72)【発明者】
【氏名】ランディ・デ・パルマ
(72)【発明者】
【氏名】リアン・ジュ
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AB02
4G048AC06
4G048AD04
4G048AD06
4G048AE05
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA08
5H050GA02
5H050HA14
5H050HA20
(57)【要約】
本発明は、充電式リチウムイオン電池用の正極活物質を調製するための方法を提供する。本方法は、焼結時間が短い焼結工程を含む。これにより、生産スループットが改善される。より具体的には、本方法は、一般式Li(1+a)(NiMnCoMe(1-a)[式中、Meは、Al、Mg、Ti、Zr、W、Nb、B、及びSrからなる群の少なくとも1種の元素からなり、-0.1≦a≦0.1、0.33≦x≦0.95、0≦y≦0.35、0<z≦0.35、0≦c≦0.05であり、かつx+y+z+c=1である]を有する正極活物質粉末に適用される。焼結工程は、0.3≦t≦6.0であり、1140+50Log10(6/t)-580x≦T≦1245+50Log10(6/t)-580xとなるように、時間数で表される所定の焼結時間tと、℃で表される所定の温度Tで行われる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池用の正極材料を調製するための方法であって、
-工程(i) 炉内で、200℃未満の温度から温度Tまで、リチウムと、ニッケルと、コバルト、マンガン、及びアルミニウムから選択される少なくとも1種の金属とを含む混合金属化合物pMを加熱する、又は、A1:ニッケルと、コバルト、マンガン、及びアルミニウムから選択される少なくとも1種の金属とを含む混合金属化合物P1、及びB1:リチウム化合物L1、を含む第1の混合物M1を加熱する、工程と、
-工程(ii) 前記混合金属化合物pM又は前記第1の混合物を、前記温度Tで0.3時間~6.0時間の時間tの熱処理に供し、それによって熱処理された混合金属化合物Mを得る工程であって、前記温度T及び前記時間tは、式:1140+50.log10(6/t)-580.x≦T≦1200[式中、xは、前記混合金属化合物pM又は前記第1の混合物中のニッケル、コバルト、マンガン及びアルミニウムの総量に対するニッケルの原子による割合であり、0.30≦x≦0.99であり、300℃.h≦T.t<3000℃.hである]に従って関係する、工程と、
-工程(iii) 工程(ii)で得られた前記熱処理された混合金属化合物Mを冷却する工程と、を含み、
工程(i)及び工程(ii)の合計時間が0.3時間~12.0時間である、方法。
【請求項2】
工程(i)及び工程(ii)の合計時間が0.5時間~8.0時間である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(i)及び工程(ii)の合計時間が1.0時間~3.0時間である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
が0.5時間~2.0時間である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
300℃.h≦T.t≦2800℃.h、好ましくは300℃.h≦T.t≦2700℃.h、より好ましくは300℃.h≦T.t≦2600℃.h、更に好ましくは300℃.h≦T.t≦2400℃.h、最も好ましくは300℃.h≦T.t≦1000℃.hである、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程(i)において前記混合金属化合物pMを加熱する時間tが、0.3時間~6時間である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
前記混合金属化合物pMが、A2:ニッケルと、コバルト、マンガン及びアルミニウムから選択される少なくとも1種の金属とを含む混合金属化合物P2、及びB2:リチウム化合物L2、を含む第2の混合物M2を加熱することによって得られる、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
工程(ii)で得られた前記熱処理された混合金属化合物Mが、工程(iii)の前に前記炉から排出される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
工程(ii)で得られた前記熱処理された混合金属化合物Mが、4℃/分~20℃/分の平均冷却速度で冷却される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記混合金属化合物pMが、粉末として、好ましくは70nmよりも低い結晶化度を有する粉末として、工程(i)で提供される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
≦1745+50.log10(6/t)-580.xである、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
1170+50.log10(6/t)-580.x≦T、好ましくは1200+50.log10(6/t)-580.x≦Tである、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
34nm~46nmの結晶子サイズを有する正極活物質粉末を調製するための、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
一般式Li(1+a)(NiMnCoMe(1-a)[式中、Meは、Al、Mg、Ti、Zr、W、Nb、B、及びSrからなる群の少なくとも1種の元素からなり、-0.1≦a≦0.1、0.33≦x≦0.95、0≦y≦0.35、0<z≦0.35、0≦c≦0.05、かつx+y+z+c=1である]を有する正極活物質粉末を調製するための方法であって、所定の焼結時間及び所定の焼結温度を有する焼結工程を含み、時間数で表される所定の時間tは、0.3≦t≦6.0であり、℃で表される所定の温度Tは、1140+50Log10(6/t)-580.x≦T≦1245+50Log10(6/t)-580.xである、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか一項に記載の方法により得られた正極活物質を含む二次リチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製品の電気化学的性能を維持したままで、非常に短い焼結時間を実現し、かつ全体のエネルギー入力が低減されたリチウムイオン電池用の正極材料を調製するための方法に関するものである。
【0002】
はじめに
本発明は、充電式リチウムイオン電池用の粉末状正極活物質を調製するための方法に関するものである。より具体的には、本方法は、焼結時間が短い焼結工程を含む。これにより、生産スループットが改善される。
【0003】
Schmuchら(Nature Energy,2018,Vol.3,pp.267-278,Fig.7)によると、リチウムニッケルマンガンコバルト金属酸化物(以下、NMCと呼ぶ)をベースにした正極活物質が、リチウムイオン電池の価格のうちおよそ50%を占めている。したがって、このような材料の製造プロセスをできるだけコスト効率よく行うことが重要である。
【0004】
国際公開第2018/158078(A1)号には、粉末状NMC材料を製造するための最先端の工業プロセスが記載されている。製造例1では、遷移金属水酸化物粉末とLi含有粉末との混合物を、800℃以上まで10時間以上加熱する従来の直接焼成プロセスを説明している。製造例3では、二重焼成プロセスを教示している。どちらの例でも、焼結時間が10時間以上と長いことによる生産スループットの制限を示している。
【0005】
完全な焼成プロセスは、典型的には、加熱工程、反応工程、焼結工程、及び冷却工程で構成されている。上述のように、ボトルネックとなるのは焼結工程であり、通常は10時間以上の滞留時間が必要となる。この長い滞留時間は、主に、製品のバルク全体で温度を均一にする必要があることに併せて、NMC粉末の熱伝導率が低いことが原因であると判明している。
【0006】
欧州特許第3054508号には、カソード活物質を調製するための方法が記載されている。この方法では、水酸化物前駆体に水酸化リチウム水和物を添加して、Li:(Ni、Co、Mn)のモル比が101:99の混合粉末を調製する。この粉末を成形し、空気雰囲気中で常圧下、常温から750℃まで10時間かけて昇温し、750℃で4時間焼結してペレットを得る。焼結後、加熱器の電源を切り、炉内に放置したまま自然冷却し、5時間後に炉内温度を約200℃まで下げる。更に24時間冷却して炉の温度を100℃以下にした後に破砕する。
【0007】
欧州特許第2523240号には、リチウム二次電池の正極材料として使用され、コストの削減、安全性の向上、負荷特性の向上をもたらし、更には高電圧特性の改善と、バルク密度の改善による粉末の取り扱い性の改善とをもたらす材料が開示されている。この技術は、リチウム二次電池の正極材料用のリチウム遷移金属化合物粉末に関するものであり、該リチウム遷移金属化合物粉末は、2種類以上の組成を有する一次粒子から構成された二次粒子と、リチウムイオンの挿入及び放出が可能な機能を有するリチウム遷移金属化合物とを含み、粉末は、細孔半径80nm以上800nm以下にピークを有する細孔分布曲線を示し、二次粒子は、As、Ge、P、Pb、Sb、Si、Snからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む構造式で表される化合物の一次粒子を含み、化合物の一次粒子が二次粒子の少なくとも内部に存在する。
【0008】
欧州特許第2202828号には、速度や出力特性などの負荷特性の改善と高密度化を両立できるリチウム二次電池正極材料用のリチウム遷移金属系化合物粉末が記載されている。該リチウム遷移金属系化合物粉末は、リチウムイオンの脱離及び挿入を可能にする機能を有し、かつ層構造に属する結晶構造を含む、リチウム遷移金属系化合物を主成分として含有し、一次粒子が凝集して二次粒子を形成しており、二次粒子のメジアン径Aの平均径(平均一次粒子径B)に対する比A/Bが8~100、0.01・FWHM(110)・0.5の範囲にある。FWHM(110)は、CuK±線を用いた粉末X線回折分析において、回折角2が64.5°の付近に存在する(110)回折ピークの半値幅である。
【0009】
焼結時間又は温度が不十分だと、結晶子サイズの不足又は一次粒子の不均一な成長のいずれかに起因して、電池の電気化学的性能が不十分になる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、請求項1に記載の充電式リチウムイオン電池用の正極材料を調製するための方法を提供することにより、上述の問題の少なくとも1つの解決策を提供する。かかる方法では、製品の電気化学的性能を維持したままで、焼結時間が非常に短く、全体のエネルギー入力が低減するという利点がある。同時に、本発明は、生産スループットを改善する方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
特に定義されていない限り、技術用語及び科学用語を含む、本発明の開示に使用される全ての用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解される意味を有する。更なるガイダンスによって、本発明の教示をよりよく理解するために、用語の定義が含まれる。
【0012】
本明細書で使用される場合、以下の用語は以下の意味を有する:
本明細書で使用される「a」、「an」、及び「the」は、文脈が別途明確に指示しない限り、単数形及び複数形の両方の指示対象を指す。例として、「コンパートメント(a compartment)」は、1つ又は2つ以上のコンパートメントを指す。
【0013】
本明細書で使用される場合、パラメータ、量、時間長などの測定可能な値を指す「約」は、開示された発明で実行するのに適している限りにおいて、指定された値から±20%以下、好ましくは±10%以下、より好ましくは±5%以下、更により好ましくは±1%以下、なおより好ましくは±0.1%以下の変動を包含することを意味する。但し、「約」という修飾語が指す値自体も具体的に開示されていることを理解されたい。
【0014】
本明細書で使用される「含む(comprise)」、「含むこと(comprising)」、及び「で構成される(comprised of)」は、「含む(include)」、「含む(includes)又は「含有する(contain)」、「含有すること(containing)」、「含有する(contains)」と同義であり、包括的又はオープンエンドの用語であり、例えば構成要素などの後に続くものの存在を指定するものであり、当技術分野で知られている、又はそこに開示されている、追加の、記載されていない構成要素、特徴、要素、部材、工程の存在を除外又は排除するものではない。
【0015】
端点による数値範囲の列挙には、列挙された端点だけでなく、その範囲に包含される全ての数値及び分数が含まれる。全てのパーセンテージは、他に定義されていない限り、又はその使用及び使用されている文脈から当業者にとって異なる意味が明らかでない限り、「重量%」と略記される重量パーセント、又は「体積%」と略記される体積パーセントとして理解される。
【0016】
方法
第1の態様では、本発明は、リチウムイオン電池用の正極材料を調製するための方法であって、
-工程(i)炉内で、200℃未満の温度から温度Tまで、リチウムと、ニッケルと、コバルト、マンガン、及びアルミニウムから選択される少なくとも1種の金属とを含む混合金属化合物pMを加熱する、又は、A1:ニッケルと、コバルト、マンガン、及びアルミニウムから選択される少なくとも1種の金属とを含む混合金属化合物P1、及びB1:リチウム化合物L1、を含む第1の混合物M1を加熱する、工程と、
-工程(ii)当該混合金属化合物pM又は当該第1の混合物を、当該温度Tで0.3時間~6.0時間の時間tの熱処理に供し、それによって熱処理された混合金属化合物Mを得る工程であって、当該温度T及び当該時間tは、式:1140+50.log10(6/t)-580.x≦T≦1200[式中、xは、当該混合金属化合物pM又は当該第1の混合物中のニッケル、コバルト、マンガン及びアルミニウムの総量に対するニッケルの原子による割合であり、0.30≦x≦0.99であり、300℃.h≦T.t<3000℃.hである]に従って関係する、工程と、
-工程(iii)工程(ii)で得られた当該熱処理された混合金属化合物Mを冷却する工程と、を含み、
工程(i)及び工程(ii)の合計時間が0.3時間~12.0時間である、方法を提供する。
【0017】
本発明は、製品の電気化学的性能を維持したままで、焼結時間が非常に短く、かつ全体のエネルギー入力が低減された正極活物質を調製するための方法を提供する。同時に、本発明は生産スループットを改善させる方法を提供する。
【0018】
好ましくは、本発明は、本発明の第1の態様による方法であって、工程(i)及び工程(ii)の合計時間が0.5時間~8.0時間、好ましくは1.0時間~6.0時間、より好ましくは1.0時間~3.0時間、更により好ましくは1.0時間~2.5時間、最も好ましくは、工程(i)及び工程(ii)の合計時間が1.0時間~2.0時間で、当該焼結工程(ii)の時間tが0.3時間~1.5時間、特に好ましくは、当該焼結工程(ii)の時間tが0.5時間~3.0時間、更には0.5時間~2.0時間である、方法を提供する。
【0019】
好ましくは、本発明は、本発明の第1の態様による方法であって、工程(ii)において、300℃.h≦T.t≦2800℃.h、好ましくは300℃.h≦T.t≦2700℃.h、より好ましくは300℃.h≦T.t≦2600℃.h、最も好ましくは300℃.h≦T.t≦2400℃.hである、方法を提供する。
【0020】
より好ましくは、本発明は、本発明の第1の態様による方法であって、工程(ii)において、300℃.h≦T.t≦1600℃.h、好ましくは、300℃.h≦T.t≦1000℃.h、より好ましくは、300℃.h≦T.t≦600℃.hである、方法を提供する。
【0021】
好ましくは、本発明は、本発明の第1の態様による方法であって、工程(i)において、当該混合金属化合物pMを、200℃未満、好ましくは100℃未満、より好ましくは室温の温度から、焼結温度Tまで加熱する時間tが、0.3時間~6時間、好ましくは0.5時間~2時間であり、好ましくは、当該混合金属化合物pMが、工程(i)において、少なくとも5℃/分、好ましくは少なくとも8℃/分、より好ましくは少なくとも10℃/分の加熱速度で加熱される、方法を提供する。加熱速度を上げることにより、スループットを高めることができる。好ましくは、当該化合物を最大で50℃/分、好ましくは最大で25℃/分の速度で加熱する。加熱速度を下げることにより、混合金属化合物pM材料層内の温度差を制限することができる。
【0022】
好ましくは、本発明は、本発明の第1の態様による方法であって、当該混合金属化合物pMが、A2:ニッケルと、コバルト、マンガン及びアルミニウムから選択される少なくとも1種の金属とを含む混合金属化合物P2、及びB2:リチウム化合物L2、を含む第2の混合物(M2)を加熱することによって得られ、当該混合物が、400℃~1200℃の温度Tで1時間~24時間の時間tで、好ましくは600℃~1000℃の温度Tで2時間~10時間の時間tで、より好ましくは2時間~6時間の時間tで熱処理される、方法を提供する。
【0023】
より好ましくは、当該混合金属化合物pMは、本明細書に記載された1種以上の混合金属化合物pMと1種以上のリチウム化合物Lとを含む混合物として提供され、好ましくは、当該混合金属化合物pMは、当該熱処理の前に所定の量のリチウム化合物Lと混合されて混合物を形成し、当該混合物の熱処理時に一般式Li1+aM’1-a[式中、aは、-0.5~0.5、好ましくは-0.2~0.2、より好ましくは-0.1~0.1、最も好ましくは-0.05~0.05であり、M’は、本明細書に記載された混合金属化合物のカチオン部分である]によるカソード活物質が形成される。好ましくは、混合金属化合物pMは、好ましくは乾式混合工程で、少なくとも1種のリチウム化合物と混合される。当該リチウム化合物は、好ましくは、LiO、LiOH、及びLiCOから選択され、それぞれそれ自体で、又はその水和物として、例えば、LiOH・HOとして選択される。また、2種類以上のリチウム化合物を組み合わせることも可能である。混合金属化合物pMとリチウム化合物との混合に適した装置の例としては、タンブラーミキサー、プラウシェアミキサー、フリーフォールミキサーなどがある。本発明の方法における熱処理工程の後、粒子状物質は支持体から容易に除去することができ、更なるプロセス工程、例えば、冷却、篩い分け、又は製品の粉砕と篩い分けの組み合わせに供することができる。
【0024】
好ましい実施形態では、本発明は、本発明の第1の態様による方法であって、当該混合物が、Zr、Ti、W、及び特にAlの金属酸化物、金属水酸化物、及び金属オキシ水酸化物から選択される化合物を更に含む、方法を提供する。
【0025】
好ましくは、本発明は、本発明の第1の態様による方法であって、工程(ii)から得られた当該熱処理された混合金属化合物Mが、工程(iii)の前に当該炉から排出される、方法を提供する。これにより、生産時の冷却速度が速くなり、スループットを高めることができる。好ましくは、本発明は、本発明の第1の態様による方法であって、工程(ii)から得られた当該熱処理された混合金属化合物Mが、2℃/分~100℃/分の平均冷却速度で、好ましくは4℃/分よりも高い冷却速度で、より好ましくは10℃/分よりも高い冷却速度で冷却される、方法を提供する。
【0026】
好ましくは、本発明は、本発明の第1の態様による方法であって、当該混合金属化合物pMが、粉末として工程(i)で提供される、方法を提供する。好ましくは、当該粉末は、一般式Li(i+a)(NiMnCoMe(1-a)を有し、70nm未満、好ましくは50nm未満の結晶化度を有する。
【0027】
好ましくは、本発明は、本発明の第1の態様による方法であって、当該焼結温度が、T≦1745+50.log10(6/t)-580.x、好ましくは、当該T≦1445+50.log10(6/t)-580.x、より好ましくは、当該T≦1345+50.log10(6/t)-580.xである、方法を提供する。最も好ましくは、当該焼結温度T≦1245+50.log10(6/t)-580.xである。
【0028】
好ましくは、本発明は、本発明の第1の態様による方法であって、当該焼結温度が、1170+50.log10(6/t)-580.x≦T、好ましくは1200+50.log10(6/t)-580.x≦Tによるものである、方法を提供する。
【0029】
好ましくは、本発明は、本発明の第1の態様による方法であって、34nm~46nmの結晶子サイズを有する正極活物質粉末が得られる調製のための、方法を提供する。
【0030】
好ましくは、本発明は、一般式Li(1+a)(NiMnCoMe(1-a)[式中、Meは、Al、Mg、Ti、Zr、W、Nb、B、及びSrからなる群の少なくとも1種の元素からなり、-0.1≦a≦0.1、0.33≦x≦0.95、0≦y≦0.35、0<z≦0.35、0≦c≦0.05、かつx+y+z+c=1である]を有する正極活物質粉末を調製するための、本発明の第1の態様による方法であって、所定の焼結時間及び所定の焼結温度を有する焼結工程を含み、時間数で表される所定の時間tは、0.3≦t≦6.0であり、℃で表される所定の温度Tは、1140+50Log10(6/t)-580.x≦T≦1245+50Log10(6/t)-580.xである、方法を提供する。好ましくは、本発明は、本発明の第1の態様による方法であって、時間数で表される所定の時間tが、0.5≦t≦5.0である、方法を提供する。好ましくは、本発明は、一般Li(1+a)(NiMnCoMe(1-a)[式中、-0.01≦a≦0.05、0.60≦x≦0.95、0≦y≦0.20、0<z≦0.20、0≦c≦0.05、かつx+y+z+c=1である]を有する正極活物質粉末の調製のための、本発明の第1の態様による方法であって、℃で表される所定の温度Tは、1175+50Log10(6/t)-580x≦T≦1245+50Log10(6/t)-580xである、方法を提供する。好ましくは、本発明は、本発明の第1の態様による方法であって、34nm~46nmの結晶子サイズを有する正極活物質粉末が得られる調製のための、方法を提供する。
【0031】
混合金属化合物pM
一実施形態では、本発明は、本発明の第1の態様による方法であって、当該混合金属化合物pMが、工程(i)において、粉末などの粒状材料の形態で、又は0.5mm~10.0mm、好ましくは1.0mm~5.0mmの寸法を有するペレットの形態で提供される、方法を提供する。
【0032】
好ましい実施形態では、本発明は、本発明の第1の態様による方法であって、当該混合金属化合物pMが、レーザー粒径分布測定法で求めたメジアン粒径d50が最大で100μm、好ましくは最大で50μm、より好ましくは0.5μm~25.0μm、最も好ましくは1μm~15μmの粒子状物質で構成されている、方法を提供する。本発明の好ましい一実施形態では、当該混合金属化合物pMの平均粒子直径(d50)は、4~14μm、好ましくは7~10μmの範囲である。化合物のメジアン粒径(PD50又はd50)は、レーザー粒径分布測定法によって得られる。本明細書では、レーザーの粒径分布は、粉末を水性媒体中に分散させた後、Hydro 2000MU湿式分散体アクセサリを有するMalvern Mastersizer 2000を使用して測定される。水性媒体中の粉末の分散を改良するために、十分な超音波照射(通常、12の超音波変位のために1分)、及び撹拌が適用され、適切な界面活性剤が導入される。
【0033】
好ましい実施形態では、本発明は、本発明の第1の態様による方法であって、当該混合金属化合物pMが、粒子状物質で構成され、0.4g/cmよりも高い見かけの密度、好ましくは0.6g/cmよりも高い密度、好ましくは0.8g/cmよりも高い密度、好ましくは1.0g/cmよりも高い密度、好ましくは1.4g/cmよりも高い密度、更には1.5g/cmよりも高い密度で提供される、方法を提供する。好ましくは、当該混合金属化合物pMは粒子状物質で構成され、2.3g/cm未満、好ましくは2.1g/cm未満、更には2.0g/cm未満の密度で提供される。
【0034】
本発明は、本発明の第1の態様による方法であって、当該混合金属化合物pMが、リチウムと、ニッケルと、コバルト、マンガン及びアルミニウムから選択される少なくとも1種の金属とを含む、方法を提供する。好ましい実施形態では、当該混合金属化合物pMは、当該混合金属化合物pM中のニッケル、コバルト、マンガン及びアルミニウムの総含有量に対して、少なくとも50モル%、好ましくは少なくとも60モル%、より好ましくは60モル%~99モル%の量でNiを含む。最も好ましくは、当該混合金属化合物pMは、60モル%~95モル%、更により好ましくは、80モル%~95モル%、例えば、80モル%、85モル%、90モル%、95モル%、及びその間の全ての値の量でNiを含む。
【0035】
好ましい実施形態では、本発明は、本発明の第1の態様による方法であって、当該混合金属化合物pMが、混合金属水酸化物、炭酸塩、オキシ水酸化物及び/又は酸化物を含み、当該混合金属化合物pMは、好ましくは、Ba、Al、Ti、Zr、W、Fe、Cr、Mo、Nb、Mg及びVから選択される1種以上の金属を更に含み、より好ましくは、Al、Ti、Zr、W及びMgから選択される、方法を提供する。
【0036】
本発明の好ましい一実施形態では、当該混合金属化合物pMは、Ni、Co及びAlを含む。本発明の別の好ましい実施形態では、当該混合金属化合物pMは、Ni、Co及びMnを含む。
【0037】
本発明の好ましい実施形態では、当該混合金属化合物pMは、一般式(I)によるものであり、明確にするためにリチウム及び(複数の)対イオンは省略されている。
NiM”CO (I)
式中、xは0.15~0.95、好ましくは0.30~0.92、より好ましくは0.50~0.90、最も好ましくは0.60~0.85の範囲であり;yは0.00~0.80、好ましくは0.01~0.60、より好ましくは0.05~0.20の範囲であり;zは0.00~0.40、好ましくは0.01~0.30、より好ましくは0.02~0.10の範囲であり、dは0.00~0.10、好ましくは0.001~0.005の範囲であり;M”は、Mn又はAlの一方又は両方であり;そしてEは、Ba、Al、Ti、Zr、W、Fe、Cr、K、Mo、Nb、Sr、Mg、Na及びV(これらの組み合わせを含む)から選択され、好ましくはBa、Al、Ti、Zr、W、Fe、Cr、Mo、Nb、Sr、Mg及びVから選択され;かつx+y+z+d=1であり、y+z+d≧0.05、好ましくはy+z+d≧0.08、より好ましくはy+z+d≧0.10である。好ましくは、Eは、Al、Mg、W、Ti、Zr及びこれらの組み合わせから選択され、より好ましくは、Eは、Al、Mg、Zr及びこれらの組み合わせから選択される。
【0038】
一般式(I)による混合金属化合物pMの好ましい例は、Ni1/3Co1/3Mn1/3、Ni0.4Co0.2Mn0.4、Ni0.5Co0.2Mn0.3、Ni0.6Co0.2Mn0.2、(Ni0.85Co0.150.98Al0.02、(Ni0.85Co0.150.97Al0.03、(Ni0.85Co0.150.95Al0.05、Ni0.8Co0.1Mn0.1、及び、Ni0.7Co0.2Mn0.1、Ni0.2Co0.1Mn0.7、Ni0.25Co0.15Mn0.6、(Ni0.6Co0.2Mn0.20.997Al0.003、(Ni0.6Co0.2Mn0.20.998AI0.002、(Ni0.7Co0.2Mn0.10.997Al0.003、(Ni0.7Co0.2Mn0.10.998Al0.002、(Ni0.8Co0.1Mn0.10.997Al0.003、(Ni0.8Co0.1Mn0.10.998Al0.002から選択される。
【0039】
当該混合金属化合物pMは、微量の他の金属イオン、例えば、Na、Ca又はZnなどの微量のユビキタス金属を含み得るが、このような微量のものは、本発明の説明では考慮されない。本発明の文脈における「微量」という用語は、当該混合金属化合物pMの総金属含有量に対して、0.05モル%以下の量を指す。
【0040】
当該混合金属化合物pMは、単結晶生成物であってもよいし、多結晶生成物であってもよい。好ましくは、当該混合金属化合物pMは、多結晶構造を有する。混合金属化合物pMは、好ましくは、複数の凝集した一次粒子によって形成された二次粒子を含む。混合金属化合物pMの二次粒子の粒子形状は、好ましくは回転楕円体であり、すなわち球形を有する粒子である。球状回転楕円体とは、正確な球状のものだけでなく、代表的な試料の少なくとも90%(数平均)の最大直径及び最小直径の差が10%以下である粒子も含むものとする。
【0041】
本発明の一実施形態では、混合金属化合物pMは、一次粒子の凝集体である球状の二次粒子として提供される。更により好ましくは、混合金属化合物pMは、球状の一次粒子の凝集体又は小板の凝集体である球状の二次粒子として提供される。
【0042】
第2の態様では、本発明は、本発明の第1の態様による方法によって得られた正極活物質を含む二次リチウムイオン電池を提供する。
【0043】
本発明のこの目的は、一般式Li(1+a)(NiMnCoMe(1-a)[式中、Meは、Al、Mg、Ti、Zr、W、Nb、B、及びSrからなる群の少なくとも1種の元素からなり、-0.1≦a≦0.1、0.33≦x≦0.95、0≦y≦0.35、0<z≦0.35、0≦c≦0.05、かつx+y+z+c=1である]を有する正極活物質粉末を調製するための方法であって、所定の焼結時間及び所定の焼結温度を有する焼結工程を含み、時間数で表される所定の時間tは、0.3≦t≦6.0であり、℃で表される所定の温度Tは、1140+50Log10(6/t)-580.x≦T≦1245+50Log10(6/t)-580.xである、方法を提供することによって達成される。上記の特徴の組み合わせについては、0.33≦x≦0.90の範囲が好ましい。
【0044】
接尾語のa、x、y、z、及びcは原子比で表される。
【0045】
表1のEX1-01に示されているように、製品が以下の方法に従って調製される場合、175mAh/gを超える満足のいく初回放電容量が得られることが実際に観察された:
-焼結時間tは0.33時間であり、
-Ni含有量xは0.60であり、
-焼結温度Tは940℃である。
【0046】
また、一次粒子の凝集体である二次粒子、いわゆる「多結晶NMC」が概ね望ましく存在することが観察されている。
【0047】
焼結温度Tは、℃で表され、焼成段階での最高滞留温度として定義される。滞留温度とは、対象とする粉末が総焼結時間の30%を超えて留まる温度を意味する。
【0048】
焼結時間tは時間数で表され、対象とする粉末が、焼結に同伴しやすい温度(650℃と定義される)超に留まる時間として定義される。
【0049】
粉末状NMC材料の製造プロセスでは、焼結温度と焼結時間の両方が重要なプロセスパラメータである。粉末状NMC材料は、適切な結晶子サイズを有する場合に高い初回放電容量などの良好な電気化学的特性を得ることができる。結晶子サイズは、主に焼結温度と焼結時間によって制御される。
【0050】
焼結温度の範囲は、1140+50Log10(6/t)-580x≦T≦1245+50Log10(6/t)-580xが最適な範囲であり、粉末状NMC材料の電気化学的特性が最も良好になる。本発明における焼結温度の範囲よりも高い又は低い場合、初回放電容量などの電気化学的特性は劣化する。
【0051】
Niは焼結を促進することがわかっている。したがって、NMC材料がより高いNi含有量を有する場合、最適な結晶子サイズを得るためには、より低い焼結温度で十分である。例えば、焼結時間tを3時間と仮定した場合、LiNi0.34Mn0.33Co0.33による材料組成物の最低焼結温度Tは958℃であるのに対し、LiNi0.60Mn0.20Co0.20の最低焼結温度Tは807℃である。
【0052】
焼結時間を短縮できたのは、
-高温で反応速度がより加速され、かつ依然として電気化学的に性能の高い製品が得られるという洞察、
-Ni含有量に応じた焼結時間の最適化、による。
【0053】
一方、0.3時間未満の焼結時間は望ましくない。このように焼結時間が極端に短い場合は、実際、更に高い焼結温度が必要となる。これにより、Liが蒸発してしまい、望ましくないLiの化学量論が発生する可能性がある。
【0054】
第1の実施形態において、本発明は、一般式Li(1+a)(NiMnCoMe(1-a)[式中、Meは、Al、Mg、Ti、Zr、W、Nb、B、及びSrからなる群の少なくとも1種の元素からなり、-0.1≦a≦0.1、0.33≦x≦0.95、0≦y≦0.35、0<z≦0.35、0≦c≦0.05、かつx+y+z+c=1である]を有する正極活物質粉末を調製するための方法であって、所定の焼結時間及び所定の焼結温度を有する焼結工程を含み、時間数で表される所定の時間tは、0.3≦t≦6.0であり、℃で表される所定の温度Tは、1140+50Log10(6/t)-580.x≦T≦1245+50Log10(6/t)-580.xである、方法を提供する。
【0055】
「所定の」という用語は、プロセスを開始する前に動作温度及び時間が決められていることを意味する。
【0056】
別の実施形態では、上記の方法が適用され、時間数で表される所定の焼結時間tは、0.5≦t≦5.0である。
【0057】
別の実施形態では、上記の方法は、一般式Li(1+a)(NiMnCoMe(1-a)[式中、-0.01≦a≦0.05、0.60≦x≦0.95、0≦y≦0.20、0<z≦0.20、0≦c≦0.05、かつx+y+z+c=1である]を有する正極活物質粉末の調製に適用され、℃で表される所定の温度Tは、1175+50Log10(6/t)-580x≦T≦1245+50Log10(6/t)-580xである。
【0058】
別の実施形態では、上記の方法は、34nm~46nmの結晶子サイズを有する正極活物質粉末が得られる調製に適用される。
【0059】
以下の測定法は、X線回折に関するものである。
【0060】
Rigaku X線回折計(Ultima IV)を用いて、1.5418Åの波長で放射するCu Ka放射線源(40kV,40mA)で粉末試料のX線回折パターンを収集する。機器の構成は、1°のソーラースリット(Soller slit、SS)、10mmの発散高さ制限スリット(divergent height limiting slit、DHLS)、1°の発散スリット(divergence slit、DS)、及び0.3mmの受光スリット(reception slit、RS)に設定する。ゴニオメータの直径は185mmである。回折パターンは、15°~85°の20の範囲で得られ、スキャン速度は0.1°/分、ステップサイズは0.02°/スキャンである。
【0061】
nmで表される結晶子サイズは、シェラーの式を使用して、X線回折パターンから得た(104)面に対応するピークの回折角及び半値全幅(full width at half maximum、FWHM)から計算する。
結晶子サイズ(nm)=Kλ/(βcosθ)、式中、
-Kはシェラー定数(K=0.9)であり、
-λはX線の波長(CuKa=1.5418Å)であり、
-βはFWHMであり、°で表され、
-θは2θの半分であり、2θはピークの中心であり、rad(ラジアン)で表される。
【0062】
X線回折パターンにおいて、空間群R-3mの結晶構造に割り当てられた(104)面のピークが、約44.5±1°で観測された。θ及びβは、Origin 9.1の非線形カーブフィッティング法により、43°~46°の2θの範囲でローレンツモデルを用いて求めた。Kα-2の寄与は差し引いていない。
【0063】
LaB(六ホウ化ランタン)は、機器による回折ピークの広がりを校正するための標準物質として使用される。LaB粉末の28°~32°の範囲にある(011)ピークは、βが0.1264°、2θ(ピークの中心)が30.3719°である。LaB6粉末の36°~39°の範囲にある(111)ピークは、βが0.1357°、2θ(ピークの中心)が37.4318°である。したがって、LaB粉末の(011)ピークと(111)ピークから計算された結晶子サイズは、それぞれ65.2nmと61.9nmとなる。機器のピークの広がりはβ(FWHM)に大きく影響するため、上記のLaB粉末の結晶子サイズが得られるように機器を校正する必要がある。
【0064】
以下の評価方法は、コインセルの作製に関するものである。
【0065】
粉末状NMC材料、導体(Super P、Timcal)及びバインダー(KF#9305、Kureha)を90:5:5の重量比で配合した固体含有スラリーと、溶媒(NMP、Sigma-Aldrich)とを高速ホモジナイザで混合し、均質化されたスラリーを得る。均質化されたスラリーを、230μmのギャップを有するドクターブレードコーターを用いてアルミニウム箔の片面に広げる。スラリーコーティングされたアルミニウム箔を、120℃のオーブンで乾燥した後、カレンダーツールを用いてプレスし、真空オーブンで再度乾燥して溶媒を完全に除去する。
【0066】
コインセルは、不活性ガス(アルゴン)で満たしたグローブボックス内で組み立てる。放電容量分析では、正極と、負極として使用するリチウム箔片との間に、セパレータ(Celgard)を配置する。EC:DMC(体積で1:2)の1M LiPFを電解質として使用し、セパレータと電極との間に滴下する。次に、コインセルを完全に密封して、電解質の漏れを防止する。
【0067】
初回充放電容量(CQ1及びDQ1)は、0.1Cレートの定電流モードで測定される。ここで、1Cは160mAh/gと定義され、充電カットオフ電圧は4.30V、放電カットオフ電圧は3.0Vである。
【0068】
実施例1
一般式Ni0.60Mn0.20Co0.200.15(OH)1.85で表される混合ニッケルマンガンコバルトオキシ水酸化物粉末(MTH1)は、大型の連続撹拌槽型反応器(CSTR)において、混合ニッケルマンガンコバルト硫酸塩溶液、水酸化ナトリウム溶液、及びアンモニア溶液を用いて共沈法により調製される。MTH1とLiOH-HOを混合して、Li/(Ni+Mn+Co)の原子比が1.01の第1の混合物(M1)を得る。第1の混合物(M1)を、第1のか焼工程(加熱及び反応工程)として酸素の流れの下、800℃で10時間加熱し、第1の中間生成物(INP1)を得る。中間生成物INP1を室温まで冷却する。
【0069】
続いて、中間生成物INP1を室温から940℃まで1時間かけて加熱する。第1の中間生成物(INP1)25gを入れたアルミナるつぼを、940℃(焼結温度T)に加熱した炉で0.33時間(焼結時間t)焼結する。焼結粉末(SP1)を冷却し、粉砕して凝集粒子を分離することで、一般式Li(1+a)(Ni0.60Mn0.20Co0.20(1-a)[式中、a=0.050]の粉末状多結晶NMC材料EX1-01を得る。
【0070】
表1の焼結温度と焼結時間を適用したことを除いて、粉末状NMC材料EX1-02、EX1-03、EX1-04、EX1-05、及びEX1-06は、EX1-01と同様の方法で作製した。
【0071】
EX1-01~EX1-06を調製する方法は、本発明によるものである。
【0072】
比較例1
焼結工程で表1の焼結温度と焼結時間を用いたことを除いて、粉末状NMC材料CEX1-01、CEX1-02、CEX1-03、CEX1-04、CEX1-05、及びCEX1-06は、EX1-01と同じ方法で調製した。
【0073】
CEX1-01~CEX1-06を調製するための方法は、本発明によるものではない。
【0074】
実施例2
大規模な連続撹拌槽型反応器(CSTR)で、混合ニッケルマンガンコバルト硫酸塩溶液、水酸化ナトリウム溶液、アンモニア溶液を用いた共沈法により、一般式Ni1/3Mn1/3Co1/30.33(OH)1.67の混合ニッケルマンガンコバルトオキシ水酸化物粉末(MTH2)を調製する。MTH2とLiOH-HOを混合して、Li/(Ni+Mn+Co)の原子比が1.10の第1の混合物(M2)を得る。第1の混合物(M2)を、第1のか焼工程(加熱及び反応工程)として酸素の流れの下、700℃で10時間加熱し、第1の中間生成物(INP2)を得る。
【0075】
第1の中間生成物(INP2)10gを入れたアルミナるつぼを、990℃(焼結温度T)に加熱した炉内で、990℃で1時間(焼結時間t)焼結する。焼結した粉末(SP2)を冷却し、粉砕して凝集粒子を分離することで、一般式Li(1+a)(Ni1/3Mn1/3Co1/3(1-a)の粉末状NMC材料EX2を得る。
【0076】
EX2を調製する方法は、本発明によるものである。
【0077】
比較例2
焼結工程で表1の焼結時間を用いることを除いて、粉末状NMC材料CEX2は、EX2と同様の方法で調製される。
【0078】
CEX2を調製する方法は、本発明によるものではない。
【0079】
表1は、粉末状NMC材料を調製するための焼結条件と、その物理的、化学的、電気化学的特性を示している。実施例1及び比較例1の粉末状NMC材料(EX1-01~EX1-06、CEX1-01~CEX1-06)は、同じ一般式Li(1+a)(Ni0.60Mn0.20Co0.20(1-a)[式中、a=0.050]を有する。
【0080】
従来の焼結条件に従って、860℃の焼結温度Tで、10時間の焼結時間tを用いて、CEX1-05を調製する。CEX1-05は、174.5mAh/gという良好な放電容量を有し、また40nmという適切な結晶子サイズを有する、満足のいく粉末状NMC材料と見なされる。940℃、910℃、及び880℃でそれぞれ0.33時間(EX1-01)、1時間(EX1-02)、3時間(EX1-05)と、はるかに短い焼結時間で、40±1nmの結晶子サイズを有する粉末状NMC材料を調製できることが実証されている。本発明EX1-01、EX1-02、及びEX1-05に従って調製された粉末状NMC材料は、焼結時間がはるかに短いにもかかわらず、少なくともCEX1-05と同等に高い初回放電容量(DQ1)を有する。
【0081】
粉末状多結晶NMC材料の結晶子サイズの最適範囲は、34nm~46nmである。焼結時間が0.30時間未満の場合(CEX1-01及びCEX1-03の場合)、焼結温度が比較的高いにもかかわらず、結晶子サイズが34nm未満であることが観察される。CEX1-02の焼結温度は、本発明による焼結温度の上限よりも高いため、CEX1-02の結晶子サイズ(50nm)は、最適よりも大きい。
【0082】
実施例2及び比較例2の粉末状NMC材料(EX2及びCEX2)は、同じ一般式Li(1+a)(Ni1/3Mn1/3Co1/3(1-a)[式中、a=0.050]を有する。実施例1では、Ni含有量xがはるかに低いので、本発明によれば、同じ結晶子サイズを有するためには、より高い焼結温度が必要である。CEX2の焼結時間は0.30時間未満であるため、CEX2の結晶子サイズは最適値よりも小さくなる。
【0083】
【表1】
【国際調査報告】