(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-21
(54)【発明の名称】4,4’-ジクロロジフェニルスルホンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 315/02 20060101AFI20221114BHJP
C07C 317/14 20060101ALI20221114BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20221114BHJP
【FI】
C07C315/02
C07C317/14
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022513489
(86)(22)【出願日】2020-08-20
(85)【翻訳文提出日】2022-04-27
(86)【国際出願番号】 EP2020073365
(87)【国際公開番号】W WO2021037677
(87)【国際公開日】2021-03-04
(32)【優先日】2019-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】ハーマン,イェシカ ナディネ
(72)【発明者】
【氏名】ブライ,シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】バイ,オリファー
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AB84
4H006AC62
4H006AD17
4H006BA66
4H006BB17
4H006BB31
4H006BC10
4H006BC11
4H006BC19
4H006BD32
4H006BD52
4H006BE03
4H006BE32
4H006BE60
4H006TA02
4H039CA80
4H039CC60
(57)【要約】
本発明は、4,4’-ジクロロジフェニルスルホキシド及び溶媒としての少なくとも1種の直鎖C6~C10カルボン酸を含む溶液を酸化剤と反応させて4,4’-ジクロロジフェニルスルホンを含む粗反応生成物を得ることを含む、4,4’-ジクロロジフェニルスルホンを製造する方法に関し、ここで、反応混合物中の水の濃度が5質量%未満に維持され、この方法が:
(a)第1工程において、80~105℃の範囲の温度で1.5~5時間かけて、1モルの4,4’-ジクロロジフェニルスルホキシド当たり0.9~1.05モルの酸化剤を溶液に均一に分散するように添加して、反応混合物を得ることと、
(b)第1工程の完了後に、酸化剤を添加することなく、反応混合物を第1工程の温度で5~30分間かき混ぜることと、
(c)第2工程において、80~105℃の範囲の温度で40分未満かけて、1モルの4,4’-ジクロロジフェニルスルホキシド当たり0.05~0.2モルの酸化剤を反応混合物に添加することと、
(d)第2工程の完了後に、酸化剤を添加することなく、反応混合物を第2工程の温度で10~30分間かき混ぜることと、
(e)反応混合物を95~110℃の範囲の温度に加熱し、この温度を10~90分間保持して、4,4’-ジクロロジフェニルスルホンを含む粗反応生成物を得ることと
を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
4,4’-ジクロロジフェニルスルホキシド及び溶媒としての少なくとも1種の直鎖C
6~C
10カルボン酸を含む溶液を酸化剤と反応させて4,4’-ジクロロジフェニルスルホンを含む粗反応生成物を得ることを含む、4,4’-ジクロロジフェニルスルホンを製造する方法であって、反応混合物中の水の濃度が5質量%未満に維持され、この方法が:
(a)第1工程において、80~105℃の範囲の温度で1.5~5時間かけて、1モルの4,4’-ジクロロジフェニルスルホキシド当たり0.9~1.05モルの酸化剤を溶液に均一に分散するように添加して、反応混合物を得ることと、
(b)第1工程の完了後に、酸化剤を添加することなく、反応混合物を第1工程の温度で5~30分間かき混ぜることと、
(c)第2工程において、80~105℃の範囲の温度で40分未満かけて、1モルの4,4’-ジクロロジフェニルスルホキシド当たり0.05~0.2モルの酸化剤を反応混合物に添加することと、
(d)第2工程の完了後に、酸化剤を添加することなく、反応混合物を第2工程の温度で10~30分間かき混ぜることと、
(e)反応混合物を95~110℃の範囲の温度に加熱し、この温度を10~90分間保持して、4,4’-ジクロロジフェニルスルホンを含む粗反応生成物を得ることと
を含む、方法。
【請求項2】
水の濃度を5質量%未満に維持するために、水が反応混合物からストリッピングされる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記酸化剤が、50~85質量%の濃度の水性過酸化水素である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記酸化剤が、1分ごとに1モルの4,4’-ジクロロジフェニルスルホキシド当たり0.002~0.01モルの供給速度で連続的に添加される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
第2工程における温度が、第1工程における温度よりも3~8℃高い、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
第1工程及び第2工程の間に反応混合物が均質化される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
反応が、10~900ミリバール(abs)の範囲の圧力で行われる、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
酸化剤を添加する前に、溶液が70~110℃の範囲の温度に加熱される、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
直鎖C
6~C
10カルボン酸がn-ヘキサン酸及び/又はn-ヘプタン酸である、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
酸性触媒が反応混合物に添加され、この酸性触媒が好ましくは、硫酸又はメタンスルホン酸である、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
反応混合物に添加される酸性触媒の量が、1モルの4,4’-ジクロロジフェニルスルホキシド当たり0.001~0.3モルの範囲である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
反応混合物をワークアップして、4,4’-ジクロロジフェニルスルホン及びカルボン酸を含む粗反応生成物を得る、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
カルボン酸を反応にリサイクルする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
バッチ式で行われる、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶媒としてのカルボン酸中で4,4'-ジクロロジフェニルスルホキシドを酸化剤で酸化させることによって、4,4’-ジクロロジフェニルスルホンを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
4,4’-ジクロロジフェニルスルホン(以下、DCDPS)は、例えば、ポリエーテルスルホン又はポリスルホンのようなポリマーを調製するためのモノマーとして、又は医薬品、染料及び農薬の中間体として使用されている。
【0003】
DCDPSを得るためのいくつかの方法が知られている。例えば、DCDPSは、4,4’-ジクロロジフェニルスルホキシド(以下、DCDPSOとも称する)の酸化によって製造される。後者は、例えば、触媒、例えば塩化アルミニウムの存在下で、出発物質としてのチオニルクロリド及びクロロベンゼンのフリーデル・クラフツ反応によって得ることができる。
【0004】
少なくとも1種の過酸化物の存在下でそれぞれのスルホキシドを酸化することによって有機スルホンを製造するプロセスは、WO-A 2018/007481に開示されている。それにより、反応は、溶媒としてのカルボン酸中で行われ、カルボン酸は、40℃で液体であり、40℃及び大気圧で水との混和性ギャップを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、不純物、特にDCDPSに変換されなかった4,4’-ジクロロジフェニルスルホキシドの残留物を低減した、4,4’-ジクロロジフェニルスルホンを製造するための、信頼性及びエネルギー効率の高い方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的は、4,4’-ジクロロジフェニルスルホキシド及び溶媒としての少なくとも1種の直鎖C6~C10カルボン酸を含む溶液を酸化剤と反応させて4,4’-ジクロロジフェニルスルホンを含む粗反応生成物を得ることを含む、4,4’-ジクロロジフェニルスルホンを製造する方法により達成され、ここで、反応混合物中の水の濃度が5質量%未満に維持され、この方法が:
(a)第1工程において、80~105℃の範囲の温度で1.5~5時間かけて、1モルの4,4’-ジクロロジフェニルスルホキシド当たり0.9~1.05モルの酸化剤を溶液に均一に分散するように添加して、反応混合物を得ることと、
(b)第1工程の完了後に、酸化剤を添加することなく、反応混合物を第1工程の温度で5~30分間かき混ぜることと、
(c)第2工程において、80~105℃の範囲の温度で40分未満かけて、1モルの4,4’-ジクロロジフェニルスルホキシド当たり0.05~0.2モルの酸化剤を反応混合物に添加することと、
(d)第2工程の完了後に、酸化剤を添加することなく、反応混合物を第2工程の温度で10~30分間かき混ぜることと、
(e)反応混合物を95~110℃の範囲の温度に加熱し、この温度を10~90分間保持して、4,4’-ジクロロジフェニルスルホンを含む粗反応生成物を得ることと
を含む。
【発明を実施するための形態】
【0008】
驚いたことには、反応混合物中の水の濃度を5質量%未満に維持することにより、DCDPSを形成する4,4’-ジクロロジフェニルスルホキシドの変換率を向上できることが示された。さらに、水の濃度を5質量%未満に維持することにより、健康被害が少なく、生分解性の良い直鎖C6~C10カルボン酸を使用することができる。
【0009】
直鎖C6~C10カルボン酸を使用する別の利点は、直鎖C6~C10カルボン酸が、低温で水との分離性が良いため、生成物にダメージを与えることなく直鎖C6~C10カルボン酸を分離することができ、さらに直鎖C6~C10カルボン酸を溶媒として酸化プロセスにリサイクルすることができることである。
【0010】
特に、この方法によって、DCDPS及びDCDPSOの合計に基づいて、1000ppm未満のDCDPSOを含有するDCDPSを含む粗反応生成物を得ることが可能である。
【0011】
DCDPSの製造方法では、DCDPSO及び少なくとも1種の直鎖C6~C10カルボン酸(以下、カルボン酸とも呼ばれる)を含む溶液が提供される。この溶液では、カルボン酸が溶媒として機能する。好ましくは、DCDPSOとカルボン酸の比は、1:2~1:6の範囲、特に1:2.5~1:3.5の範囲である。DCDPSOとカルボン酸のこのような比は、通常、反応温度でDCDPSOをカルボン酸に完全に溶解させ、DCDPSを形成するDCDPSOのほぼ完全な変換を達成し、さらにできるだけ少ないカルボン酸を使用することに十分である。酸化剤を添加する前に、DCDPSO及びカルボン酸を含む溶液は、好ましくは70~110℃の範囲の温度、より好ましくは80~100℃の範囲、特に85~95℃の範囲の温度、例えば86、87、88、89、90、91、92、93、94℃に加熱される。
【0012】
溶液を提供するために、DCDPSO及びカルボン酸を別々に反応器に供給し、反応器中でDCDPSOとカルボン酸を混合することが可能である。あるいは、DCDPSOとカルボン酸を別の混合装置で混合して溶液を得、その溶液を反応器に供給することも可能である。さらなる代替態様では、DCDPSOとカルボン酸の一部を混合物として反応器に供給し、カルボン酸の残りを反応器に直接供給し、DCDPSOとカルボン酸の一部との混合物及びカルボン酸の残りを反応器中で混合することによって溶液を得る。
【0013】
直鎖C6~C10カルボン酸は、1種のカルボン酸のみ、又は少なくとも2種の異なるカルボン酸の混合物であり得る。好ましくは、カルボン酸は少なくとも1種の脂肪族カルボン酸である。好ましくは、脂肪族カルボン酸は脂肪族モノカルボン酸である。したがって、少なくとも1種のカルボン酸は、n-ヘキサン酸、n-ヘプタン酸、n-オクタン酸、n-ノナン酸又はn-デカン酸、又は前記酸の1種以上の混合物であってもよい。しかしながら、特に好ましくは、カルボン酸はn-ヘキサン酸又はn-ヘプタン酸である。
【0014】
DCDPSO及びカルボン酸を含む溶液の加熱は、粗反応生成物を得るための反応が行われる反応器中、又は反応器に供給される前の他の任意の装置中で行うことができる。特に好ましくは、DCDPSO及びカルボン酸を含む溶液は、反応器に供給される前にそれぞれの温度まで加熱される。溶液の加熱は、例えば、反応器に供給される前に溶液が流れる熱交換器中で、又はより好ましくは、反応器に供給される前に溶液が貯蔵されるバッファ容器中で行うことができる。このようなバッファ容器を使用する場合、バッファ容器は、DCDPSOとカルボン酸を混合して溶液を得るための混合ユニットとしても機能することができる。
【0015】
プロセスを連続的に運転する場合は、例えば熱交換器を使用することができる。バッファ容器中の溶液の加熱は、連続的に運転されるプロセスでも、バッチ式に運転されるプロセスでも行うことができる。溶液の加熱に熱交換器を使用する場合、任意の好適な熱交換器、例えばシェルアンドチューブ熱交換器、プレート熱交換器、スパイラルチューブ熱交換器、又は当業者に知られている任意の他の熱交換器を使用することができる。それにより、熱交換器は、向流、共流、又は交差流で運転することができる。
【0016】
通常、熱交換器で又はダブルジャケット又は加熱コイルの加熱に使用される加熱流体を使用することによる加熱に加えて、電気加熱又は誘導加熱も溶液の加熱に使用することができる。
【0017】
バッファ容器中で溶液を加熱する場合、容器中の内容物を加熱できる任意の好適な容器を使用することができる。好適な容器は、例えば、ダブルジャケット又は加熱コイルを備えた容器である。バッファ容器がさらにDCDPSOとカルボン酸を混合するために使用される場合、バッファ容器は混合ユニット、例えば攪拌機をさらに含む。
【0018】
反応を行うために、好ましくは、溶液は、反応器に提供される。この反応器は、反応器に供給された成分を混合し、反応させることができる任意の反応器であり得る。好適な反応器は、例えば、攪拌タンク反応器、又は強制循環を有する反応器、特に外部循環及び循環液体を供給するためのノズルを有する反応器である。攪拌タンク反応器を使用する場合、任意の攪拌機を使用することができる。好適な攪拌機は、例えば斜めブレード攪拌器又はクロスアーム攪拌機のような軸方向に搬送する攪拌機、又はフラットブレード攪拌器のような半径方向に搬送する攪拌器である。攪拌機は、少なくとも2枚のブレード、より好ましくは少なくとも4枚のブレードを有してもよい。4~8枚のブレード、例えば6枚のブレードを有する攪拌機が特に好ましい。プロセスの安定性及びプロセスの信頼性の理由から、反応器は、軸方向に搬送する攪拌機を有する攪拌タンク反応器であることが好ましい。
【0019】
反応器の温度を制御するために、熱交換装置、例えばダブルジャケット又は加熱コイルを有する反応器を使用することがさらに好ましい。これにより、反応中に追加の加熱又は熱放散が可能となり、温度を一定に又は反応が行われる所定の温度範囲に維持することができる。好ましくは、反応温度は、70~110℃の範囲、より好ましくは80~100℃、特に85~95℃の範囲、例えば86、87、88、89、90、91、92、93、94℃に維持される。
【0020】
DCDPSを得るためには、DCDPSO及びカルボン酸を含む溶液中のDCDPSOを酸化剤で酸化する。したがって、酸化剤を溶液に添加して、反応混合物を得る。この反応混合物から、DCDPSを含む粗反応生成物を得ることができる。
【0021】
DCDPSを得るためのDCDPSOを酸化することに使用される酸化剤は、好ましくは、少なくとも1種の過酸化物である。少なくとも1種の過酸化物は、少なくとも1種の過酸、例えば1種の過酸又は2種以上、例えば3種以上の過酸の混合物であってもよい。好ましくは、本明細書に開示される方法は、1種又は2種、特に1種の過酸の存在下で行われる。少なくとも1種の過酸は、置換されていない、又は例えば直鎖又は分岐状のC1~C5アルキル又はハロゲン、例えばフッ素によって置換されるC1~C10過酸であってもよい。その例としては、過酢酸、過ギ酸、過プロピオン酸、過カプリオン酸、過吉草酸又は過トリフルオロ酢酸が挙げられる。特に好ましくは、少なくとも1種の過酸は、C6~C10過酸、例えば2-エチルヘキサン過酸である。少なくとも1種の過酸が水に可溶である場合、少なくとも1種の過酸を水溶液として添加することが有利である。さらに、少なくとも1種の過酸が水に十分に溶解しない場合、少なくとも1種の過酸がそれぞれのカルボン酸に溶解していることが有利である。最も好ましくは、少なくとも1種の過酸は、その場で生成される直鎖C6~C10過酸である。
【0022】
特に好ましくは、過酸化水素(H2O2)を酸化剤として使用することにより、その場で過酸を生成する。添加されたH2O2の少なくとも一部は、カルボン酸と反応して過酸を形成する。H2O2は、好ましくは水溶液として、例えば、それぞれ水溶液の総量に基づいて、1~90質量%の溶液、例えば、20、30、40、50、60、70又は80質量%の溶液、好ましくは30~85質量%の溶液、特に50~85質量%の溶液として添加される。H2O2の高濃度水溶液、特に水溶液の総量に基づいて50~85質量%、例えば70質量%の溶液を使用すると、反応時間を短縮することができる。また、少なくとも1種のカルボン酸のリサイクルを促進することができる。
【0023】
酸化剤の蓄積を回避し、DCDPSOの酸化を一定にするために、制御された供給速度、例えば1分ごとに1モルのDCDPSO当たり0.002~0.01モルの供給速度で酸化剤を連続的に添加することが好ましい。より好ましくは、1分ごとに1モルのDCDPSO当たり0.003~0.008モルの供給速度で、特に1分ごとに1モルのDCDPSO当たり0.004~0.007モルの供給速度で酸化剤を添加する。
【0024】
酸化剤は、一定の供給速度で、又は変化する供給速度で添加することができる。酸化剤を変化する供給速度で添加する場合、例えば、上記の範囲内で反応を進めながら添加速度を低減させることが可能である。酸化剤の添加を複数の工程に分けて、その間に酸化剤の添加を停止することも可能である。酸化剤を添加する各工程において、酸化剤は一定の供給速度で、又は変化する供給速度で添加することができる。反応の進行に伴って供給速度を低減させる以外に、供給速度を増加させたり、供給速度の増加と減少を切り替えたりすることも可能である。供給速度を増加又は低減させる場合、供給速度の変化は連続的又は段階的であることができる。特に好ましくは、酸化剤を少なくとも2つの工程で添加し、ここで、各工程の供給速度が一定である。
【0025】
DCDPSOの酸化を少なくとも2つの工程で行う場合、DCDPSOをDCDPSに変換するために、第1工程及び第2工程でDCDPSO及びカルボン酸を含む溶液に酸化剤を添加することにより、DCDPSOを酸化させる。
【0026】
第1工程では、70~110℃の温度で1.5~5時間にわたって、1モルの4,4'-ジクロロジフェニルスルホキシド当たり0.9~1.05モルの酸化剤を溶液に均一に分散するように添加する。そのような期間にわたって酸化剤を添加することにより、酸化剤の蓄積を回避することができる。
【0027】
この文脈における「均一に分散する」とは、酸化剤を一定の供給速度で連続的に、又は周期的に変化する供給速度で添加することができることを意味する。周期的に変化する供給速度は、連続的に周期的に変化する供給速度に加えて、不連続に周期的に変化する供給速度、例えば酸化剤を一定時間添加した後、酸化剤を一定時間添加せず、この添加と非添加を第1工程の酸化剤の全量が添加されるまで繰り返すような供給速度も含む。酸化剤を添加する期間は、1.5~5時間の範囲、より好ましくは2~4時間の範囲、特に2.5~3.5時間の範囲である。このような期間にわたって酸化剤を溶液に均一に分散するように添加することにより、反応混合物に酸化剤が蓄積して、爆発性混合物となることを回避することができる。さらに、このような期間にわたって酸化剤を添加することにより、プロセスのスケールアップが容易になり、スケールアップしたプロセスでは、プロセスからの熱を放散させることも可能になる。一方、このような添加量により、過酸化水素の分解が回避され、したがって、プロセスで使用される過酸化水素の量を最小限に抑えることができる。
【0028】
第1工程を行う温度は、70~110℃の範囲、好ましくは85~100℃の範囲、特に90~95℃の範囲である。この温度範囲において、カルボン酸中のDCDPSOの高い溶解度で、高い反応速度を達成することができる。これにより、カルボン酸の量を最小限に抑えることができ、これにより反応を制御することができる。
【0029】
第1工程での酸化剤の添加終了後、酸化剤を添加せずに、第1工程の温度で反応混合物を5~30分かき混ぜる。酸化剤の添加終了後、反応混合物をかき混ぜることにより、まだ反応していないDCDPSOを酸化剤と接触させ、DCDPSを生成する反応を継続させ、反応混合物中に不純物として残存するDCDPSOの量を低減させることができる。
【0030】
反応混合物中のDCDPSOの量をさらに減少させるために、酸化剤を添加せずにかき混ぜを完了した後、第2工程では、1モルのDCDPSO当たり0.05~0.2モルの酸化剤、好ましくは1モルのDCDPSO当たり0.06~0.15モルの酸化剤、特に1モルのDCDPSO当たり0.08~0.1モルの酸化剤を反応混合物に添加する。
【0031】
第2工程では、酸化剤は、好ましくは1~40分の期間、より好ましくは5~25分の期間、特に8~15分の期間で添加される。第2工程における酸化剤の添加は、第1工程と同様にして行うことができる。さらに、第2工程の酸化剤の全部を一度に添加することも可能である。
【0032】
第2工程の温度は、80~110℃の範囲、より好ましくは85~100℃の範囲、特に93~98℃の範囲である。さらに、第2工程の温度は、第1工程の温度よりも3~10℃高いことが好ましい。より好ましくは、第2工程における温度は、第1工程における温度よりも4~8℃高く、特に好ましくは、第2工程における温度は、第1工程における温度よりも5~7℃高い。第2工程のより高い温度により、より高い反応速度を達成することが可能である。
【0033】
第2工程における酸化剤の添加の後、反応混合物を第2工程の温度で10~20分かき混ぜて、DCDPSを生成するDCDPSOの酸化反応を継続させる。
【0034】
酸化反応を完了させるために、酸化剤を添加せずに第2工程の温度でかき混ぜた後、反応混合物を95~110℃の範囲、より好ましくは95~105℃の範囲、特に98~103℃の範囲の温度に加熱し、この温度で10~90分、より好ましくは10~60分、特に10~30分保持させる。
【0035】
酸化プロセスにおいて、特に酸化剤としてH2O2を使用する場合、水が生成される。さらに、酸化剤と一緒に水を添加してもよい。本発明によれば、反応混合物中の水の濃度は、5質量%未満、より好ましくは3質量%未満、特に好ましくは2質量%未満に維持される。70~85質量%の濃度の水性過酸化水素を使用することにより、酸化反応中の水の濃度を低く抑えることができる。また、70~85質量%の濃度の水性過酸化水素を使用することにより、水を除去することなく、酸化反応中の反応混合物中の水の濃度を5質量%未満に維持することも可能である。
【0036】
さらに又はあるいは、反応混合物中の水の濃度を5質量%未満に維持するために、プロセスから水を除去することが必要である場合もある。プロセスから水を除去するために、例えば、反応混合物から水をストリッピングすることが可能である。それによって、好ましくは、不活性ガスをストリッピング媒体として使用することによってストリッピングが行われれる。70~85質量%の濃度の水性過酸化水素を使用する場合、反応混合物中の水の濃度が5質量%未満に維持されていれば、水をストリッピングして濃度をさらに低減する必要はない。しかしながら、この場合でも、水をストリッピングして濃度をさらに低減することは可能である。
【0037】
水をストリップするために使用することができる好適な不活性ガスは、非酸化性ガスであり、好ましくは窒素、二酸化炭素、アルゴンのような希ガス又はこれらのガスの任意の混合物である。特に好ましくは、不活性ガスは窒素である。
【0038】
水をストリッピングするために使用される不活性ガスの量は、好ましくは0~2Nm3/h/kgの範囲、より好ましくは0.2~1.5Nm3/h/kgの範囲、特に0.3~1Nm3/h/kgの範囲である。Nm3/h/kgで表示するガス流量は、相対ガス流量としてDIN 1343,1990年1月に従って決定することができる。不活性ガスでの水のストリッピングは、プロセス全体にわたって行われてもよいし、プロセスの少なくとも一部にわたって行われてもよい。水のストリッピングがプロセスの少なくとも一部にわたって行われる場合、各部の間で水のストリッピングが中断される。水のストリッピングの中断は、酸化剤が添加されるモードとは無関係である。例えば、酸化剤を中断することなく添加し、中断して水をストリッピングすることも、酸化剤を少なくとも2つの工程で添加し、水を連続的にストリッピングすることも可能である。さらに、酸化剤の添加中にのみ水をストリッピングすることも可能である。特に好ましくは、反応混合物中に不活性ガスを連続的にバブリングすることにより水をストリッピングする。
【0039】
DCDPSOの異なる変換率、したがって異なる収率及び不純物の量をもたらす可能性のある異なる組成の領域が反応器内に形成されることを避けるために、第1工程及び第2工程の間に反応混合物を均質化することが好ましい。反応混合物の均質化は、当業者に知られている任意の方法、例えば、反応混合物をかき混ぜることによって行うことができる。反応混合物をかき混ぜるために、反応混合物を攪拌することが好ましい。攪拌には、任意の好適な攪拌機を使用することができる。好適な攪拌機は、例えば、斜めブレード攪拌器又はクロスアーム攪拌機のような軸方向に搬送する攪拌機、又はフラットブレード攪拌器のような半径方向に搬送する攪拌器である。攪拌機は、少なくとも2枚のブレード、より好ましくは少なくとも4枚のブレードを有してもよい。4~8枚のブレード、例えば6枚のブレードを有する攪拌機が特に好ましい。プロセスの安定性及びプロセスの信頼性の理由から、反応器は、軸方向に搬送する攪拌機を有する攪拌タンク反応器であることが好ましい。
【0040】
プロセス中の反応混合物の温度は、例えば、テンパリング媒体(tempering medium)をその中に流すことができる反応器内部のパイプを設けることによって設定することができる。反応器のメンテナンスの容易さ及び/又は加熱の均一性の観点から、好ましくは、反応器は、テンパリング媒体を流すことができるダブルジャケットを含む。反応器内部のパイプ又はダブルジャケットに加えて、反応器のテンパリングは、当業者に知られている各方法で、例えば反応器から反応混合物の流れを引き出し、この流れがテンパリングされる熱交換器に通過させ、テンパリングされた流れを反応器に戻してリサイクルすることによりによって行うことができる。
【0041】
酸化反応をサポートするために、反応混合物に少なくとも1種の酸性触媒をさらに添加することがさらに有利である。酸性触媒は、少なくとも1種、例えば1種以上、例えば2種又は3種のさらなる酸の混合物であってもよい。この文脈におけるさらなる酸とは、溶媒として機能するカルボン酸ではない酸のことである。さらなる酸は、無機酸であっても有機酸であってもよく、さらなる酸は、好ましくは、少なくとも1種の強酸である。好ましくは、強酸は、水中で、-9~3、例えば-7~3のpKa値を有する。当業者は、そのような酸解離定数値Kaが、例えば、IUPAC、Compendium of Chemical Terminology、第2版「Gold Book」、バージョン2.3.3、2014-02-24、23頁のような編集物で見出すことができることを理解している。当業者は、そのようなpKa値がKa値の負の対数値に関連することを理解している。少なくとも1種の強酸が、水中で、-9~-1又は-7~-1のような負のpKa値を有することがより好ましい。
【0042】
少なくとも1種の強酸である無機酸の例としては、硝酸、塩酸、臭化水素酸、過塩素酸、及び/又は硫酸が挙げられる。特に好ましくは、1種の強無機酸、特に硫酸が使用される。少なくとも1種の強無機酸を水溶液として使用することも可能であるが、少なくとも1種の無機酸がそのまま使用されることが好ましい。例えば、好適な強有機酸は有機スルホン酸であり、それによって、少なくとも1種の脂肪族スルホン酸又は少なくとも1種の芳香族スルホン酸又はそれらの混合物が使用されることが可能である。少なくとも1種の強有機酸の例としては、パラ-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸又はトリフルオロメタンスルホン酸が挙げられる。特に好ましくは、強有機酸はメタンスルホン酸である。少なくとも1種の無機強酸又は少なくとも1種の有機強酸のいずれかを使用することに加えて、少なくとも1種の無機強酸と少なくとも1種の有機強酸の混合物を酸性触媒として使用することも可能である。このような混合物は、例えば、硫酸及びメタンスルホン酸を含んでもよい。
【0043】
酸性触媒は、好ましくは、触媒量で添加される。したがって、使用される酸性触媒の量は、1モルのDCDPSO当たり0.001~0.3モルの範囲、例えば1モルのDCDPSO当たり0.1~0.3モルの範囲、より好ましくは1モルのDCDPSO当たり0.15~0.25モルの範囲である。しかしながら、酸性触媒を、1モルのDCDPSO当たり0.1モル未満の量、例えば1モルのDCDPSO当たり0.001~0.08モルの量、例えば1モルのDCDPSO当たり0.001~0.03モルの量で使用することが特に好ましい。特に好ましくは、酸性触媒は、1モルのDCDPSO当たり0.005~0.03モルの量で使用される。
【0044】
DCDPSを得るための本発明の方法は、バッチ式プロセスとして、半連続プロセスとして、又は連続プロセスとして行うことができる。好ましくは、本発明の方法はバッチ式で行われる。本発明の方法は、常圧、又は常圧未満又は常圧を超える圧力、例えば、10~900ミリバール(abs)の範囲の圧力で行うことができる。好ましくは、本発明の方法は、200~800ミリバール(abs)の範囲、特に350~700ミリバール(abs)の範囲、例えば400、500又は600ミリバール(abs)の圧力で行われる。驚いたことには、減圧は、DCDPSの総変換率を高めることができ、したがって、生成物中の残留DCDPSの含有量を非常に低くすることができるというさらなる利点がある。
【0045】
本発明の方法は、大気雰囲気又は不活性雰囲気下で行うことができる。本発明の方法を不活性雰囲気下で行う場合、DCDPSO及びカルボン酸を供給する前に、反応器を不活性ガスでパージすることが好ましい。本発明の方法を不活性雰囲気下で行い、酸化反応中に生成した水を不活性ガスでストリッピングする場合、不活性雰囲気を提供するために使用される不活性ガスと、水をストリッピングするために使用される不活性ガスとが同じであることがさらに好ましい。不活性雰囲気を用いると、本発明の方法における成分の分圧、特に水の分圧が低下することがさらに有利である。
【0046】
本発明の方法により、少なくとも1種のカルボン酸に溶解した4,4’-ジクロロジフェニルスルホンを含む反応混合物が得られる。反応混合物からDCDPSを得るために、反応混合物はさらにワークアップされてもよい。反応混合物をワークアップすることにより、DCDPS及びカルボン酸を含む粗反応生成物が得られる。DCDPSをカルボン酸から分離するために、当業者に知られている任意のプロセスを使用することができる。粗反応生成物をワークアップするための好適なプロセスは、例えば、蒸留又は結晶化プロセスである。
【0047】
反応混合物から分離されたカルボン酸は、好ましくは溶媒としてプロセスで再使用され、したがって反応にリサイクルされる。
【0048】
上記プロセスは、装置の大きさ及び添加する化合物の量に応じて、1つの装置のみで、又は複数の装置で行うことができる。複数の装置を使用する場合、装置は同時に、又は特にバッチ式で行うプロセスで異なる時間に運転することができる。これにより、例えば、ある装置でプロセスを実行しながら、同時に別の装置をメンテナンス(例えば洗浄)することができる。さらに、ある装置で化合物を供給した後、最初の装置でのプロセスを継続したまま、別の装置に成分を供給することも可能である。しかしながら、すべての装置に同時に成分を添加し、この装置でプロセスを同時に行うことも可能である。
【実施例】
【0049】
H2O2の分割投与がない反応の実施例
1000.1gの4,4'-ジクロロジフェニルスルホキシドを3000gのn-ヘプタン酸に溶解し、90℃に加熱した。この溶液に1.2gの硫酸を添加した。3時間15分かけて188gのH2O2を一定の供給速度で溶液に添加した。反応中、容器内の温度を壁面冷却によって90℃に制御し、それによって決定した反応器内の温度は96~98℃であった。H2O2添加の完了後、こうして得られた反応混合物の温度を98℃に上昇させた。反応混合物を98℃の温度で25分間攪拌した。これにより、500ミリバール(abs)の圧力で反応を行い、水をストリッピングするために12NL/hの窒素を反応混合物に通した。
【0050】
続いて、反応混合物を20℃に冷却し、これによって4,4'-ジクロロジフェニルスルホンが結晶化し、4,4'-ジクロロジフェニルスルホン結晶及び母液を含む懸濁液を形成した。この懸濁液を濾過し、4,4'-ジクロロジフェニル結晶を含む濾過ケーキ及び濾液としての母液2999gを得た。
【0051】
得られた、4,4'-ジクロロジフェニルスルホン結晶中の4,4'-ジクロロジフェニルスルホキシドの含有量は1050ppm(ガスクロマトグラフィーによって決定した)であった。
【0052】
固液分離により得られた母液は、3.15gの4,4'-ジクロロジフェニルスルホキシドを含有した。したがって、4,4'-ジクロロジフェニルスルホキシドの変換率は99.68%であった。
【0053】
H2O2の添加を分割した反応の実施例
1111gの4,4'-ジクロロジフェニルスルホキシドを2900gのn-ヘプタン酸に溶解し、90℃に加熱した。この溶液に7.2gの硫酸を添加した。3時間5分かけて197gの70%のH2O2を一定の供給速度で溶液に添加した。反応中、容器内の温度を壁面冷却により90℃に制御し、これにより決定した反応器内の温度は97~99℃であった。この工程を終えた後、こうして得られた反応混合物を97℃の温度で15分間攪拌した。その後、10mlの第2量のH2O2を10分以内に添加した。H2O2添加の完了後、反応混合物の温度を103℃に上昇させた。反応混合物をこの温度で20分間攪拌した。これにより、650ミリバール(abs)の圧力で反応を行い、水をストリッピングするために、10NL/hの窒素を反応混合物に通した。
【0054】
続いて、反応混合物を20℃に冷却し、これによって4,4'-ジクロロジフェニルスルホンが結晶化し、4,4'-ジクロロジフェニルスルホン結晶及び母液を含む懸濁液を形成した。この懸濁液を濾過し、4,4'-ジクロロジフェニル結晶を含む濾過ケーキ及び濾液としての母液2900gを得た。
【0055】
得られた、4,4'-ジクロロジフェニルスルホン結晶中の4,4'-ジクロロジフェニルスルホキシドの含有量は検出限界未満(ガスクロマトグラフィーによって決定した)であった。
【0056】
固液分離により得られた母液は、0.5807gの4,4'-ジクロロジフェニルスルホキシドを含有した。したがって、4,4'-ジクロロジフェニルスルホキシドの変換率は99.95%であった。
【国際調査報告】