IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピアの特許一覧

特表2022-5485124,4’-ジクロロジフェニルスルホンを得る方法
<>
  • 特表-4,4’-ジクロロジフェニルスルホンを得る方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-21
(54)【発明の名称】4,4’-ジクロロジフェニルスルホンを得る方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 315/06 20060101AFI20221114BHJP
   C07C 315/02 20060101ALI20221114BHJP
   C07C 317/14 20060101ALI20221114BHJP
【FI】
C07C315/06
C07C315/02
C07C317/14
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022513492
(86)(22)【出願日】2020-08-20
(85)【翻訳文提出日】2022-04-27
(86)【国際出願番号】 EP2020073371
(87)【国際公開番号】W WO2021037680
(87)【国際公開日】2021-03-04
(31)【優先権主張番号】19193688.9
(32)【優先日】2019-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】20155783.2
(32)【優先日】2020-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【弁理士】
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【弁理士】
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【弁理士】
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】ハーマン,イェシカ ナディネ
(72)【発明者】
【氏名】メッツガー,ルーカス
(72)【発明者】
【氏名】ブライ,シュテファン
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AB84
4H006AC62
4H006AD15
4H006AD16
4H006AD17
4H006BA66
4H006BB17
4H006BB31
4H006BC51
4H006BC52
4H006BD32
4H006BD41
4H006BD42
4H006BE03
4H006BE32
4H006BE60
4H006TA02
(57)【要約】
本発明は、4,4’-ジクロロジフェニルスルホンおよび有機溶媒としての直鎖C~C10カルボン酸を含む有機混合物から4,4’-ジクロロジフェニルスルホンを得る方法に関し:
(a)前記有機混合物を
(a1a)前記有機混合物を結晶化容器内で水と混合し、液体混合物を得るステップ;
(a1b)(a1a)で得られた液体混合物を、
(i)結晶化容器内を、水が蒸発し始める圧力まで減圧するステップ、
(ii)蒸発した水を冷却して凝縮させるステップ、
(iii)結晶化容器内の液体混合物に凝縮水を混合するステップ
により4,4’-ジクロロジフェニルスルホンの飽和点を下回る温度まで冷却するステップであって、結晶化した4,4’-ジクロロジフェニルスルホンを含む懸濁液を得るステップ;
または
(a2)前記有機混合物を少なくとも1つの冷却可能な表面と接触させ、それによって10~30℃の範囲の温度に達するまで5~50K/hの範囲の冷却速度で前記有機混合物の温度を下げるステップであって、有機混合物および少なくとも1つの冷却可能な表面が、冷却プロセス全体にわたって1~30Kの範囲に保たれる温度差を維持し、結晶化した4,4’-ジクロロジフェニルスルホンを含む懸濁液を得るステップ
により冷却する工程
(b)(a1b)または(a2)で得られた懸濁液を固液分離し、生成物として残留水分を含む固体の4,4’-ジクロロジフェニルスルホンおよび有機溶剤と水とを含む母液を得る工程
を含む方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
4,4’-ジクロロジフェニルスルホンと有機溶媒として直鎖C~C10カルボン酸とを含む有機混合物から4,4’-ジクロロジフェニルスルホンを得る方法であって、
(a)前記有機混合物を
(a1a)前記有機混合物を結晶化容器内で水と混合し、液体混合物を得るステップ;
(a1b)(a1a)で得られた液体混合物を、
(i)前記結晶化容器内を、前記水が蒸発し始める圧力まで減圧するステップ、
(ii)蒸発した水を冷却して凝縮させるステップ、
(iii)前記結晶化容器内の前記液体混合物に凝縮水を混合するステップ
により4,4’-ジクロロジフェニルスルホンの飽和点を下回る温度まで冷却するステップであって、結晶化した4,4’-ジクロロジフェニルスルホンを含む懸濁液を得るステップ;
または、
(a2)前記有機混合物を少なくとも1つの冷却可能な表面と接触させ、それによって0~30℃の範囲の温度に達するまで5~50K/hの範囲の冷却速度で前記有機混合物の温度を下げるステップであって、前記有機混合物および前記少なくとも1つの冷却可能な表面が、冷却プロセス全体にわたって1~30Kの範囲に保たれる温度差を維持し、結晶化した4,4’-ジクロロジフェニルスルホンを含む懸濁液を得るステップ
により冷却する工程
(b)(a1b)または(a2)で得られた懸濁液を固液分離し、生成物として残留水分を含む固体の4,4’-ジクロロジフェニルスルホンおよび有機溶剤と水とを含む母液を得る工程
を含む方法。
【請求項2】
(a1a)で前記有機混合物に混合する水の量が、前記液体混合物の総量に対して10~60質量%の範囲の前記液体混合物中の水の量となるようにする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(i)で、懸濁液が10~30℃の範囲の温度に冷却されるまで減圧する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
(i)で、段階的に、または連続的に減圧する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
(a1b)で、前記液体混合物の温度が50~20℃の範囲の温度まで低下した後、追加冷却を開始する、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記結晶化容器が、前記追加冷却のための冷却可能な表面を備える、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記冷却可能な表面が、冷却ジャケット、冷却コイル、ハーフパイプコイルまたは冷却バッフルを含む、請求項1または6に記載の方法。
【請求項8】
(a1b)での冷却ステップ終了後、方法を終了し、圧力を周囲圧力にする、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
(a2)で前記有機混合物を少なくとも1つの冷却可能な表面と接触させる前に、前記得られた混合物が10~60質量%の水を含むように前記有機混合物を水と混合する、請求項1または7に記載の方法。
【請求項10】
前記水が40~100℃の範囲の温度を有する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記有機溶媒を含む前記母液を、水相と前記有機溶媒を含む有機相とに分離する、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記有機混合物を、前記有機溶媒中で行う、4,4’-ジクロロジフェニルスルホキシドと酸化剤、好ましくは濃度70~85質量%の過酸化水素水溶液、との酸化反応によって得る、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記有機相を前記酸化反応に再利用する、請求項11および12に記載の方法。
【請求項14】
前記直鎖C~C10カルボン酸が、n-ヘキサン酸、n-ヘプタン酸またはそれらの混合物である、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
4,4’-ジクロロジフェニルスルホンの結晶化を初期化するために、ステップ(i)で減圧する前に以下のステップ
-前記液体混合物中の水の沸点が80~100℃の範囲にあるように、前記結晶化容器内の圧力を低下させるステップ;
-固体の初期形成が生じるまで水を蒸発させるステップ;
-前記容器内の圧力を上昇させ、前記結晶化容器内の前記液体混合物をDCDPSの飽和点を1~10℃下回る範囲の温度へと加熱するステップ
を実行する、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
4,4’-ジクロロジフェニルスルホンおよび有機溶媒を含む有機混合物から4,4’-ジクロロジフェニルスルホンを得る方法における結晶化容器としてのガス密閉容器の使用方法であって
-前記ガス密閉容器内で前記有機混合物を水と混合し、液体混合物を得る工程;
-前記液体混合物を
(i)前記結晶化容器内の圧力を水が蒸発し始める圧力まで低下させるステップ、
(ii)蒸発した水を冷却して凝縮させるステップ、
(iii)凝縮水を前記結晶化容器内の前記液体混合物と混合し、結晶化した4,4’-ジクロロジフェニルスルホンを含む懸濁液を得るステップ
により4,4’-ジクロロジフェニルスルホンの飽和点を下回る温度へと冷却する工程
によって4,4’-ジクロロジフェニルスルホンおよび有機溶媒を含む有機混合物を冷却することを含む、使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4,4’-ジクロロジフェニルスルホンと有機溶剤として直鎖のC~C10カルボン酸とを含む有機混合物から4,4’-ジクロロジフェニルスルホンを得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
4,4-ジクロロジフェニルスルホン(以下、DCDPS)は、例えば、ポリエーテルスルホンもしくはポリスルホンなどのポリマーを調製するためのモノマーとして、または医薬品、染料、および殺虫剤の中間体として、使用される。
【0003】
DCDPSは、例えば、触媒(例えば、塩化アルミニウム)の存在下での出発物質としての塩化チオニルおよびクロロベンゼンのフリーデル・クラフツ反応によって得られる4,4’-ジクロロジフェニルスルホキシドの酸化によって製造される。
【0004】
CN-A 108047101、CN-A 102351758、CN-B 104402780およびCN-A 104557626は、第1段階でフリーデル・クラフツアシル化反応を行い4,4’-ジクロロジフェニルスルホキシドを製造し、第2段階で4,4’-ジクロロジフェニルスルホキシドを過酸化水素存在下で酸化しDCDPSを得る2段階のプロセスを開示する。これによる酸化反応は、酢酸の存在下で行われる。このように、第1段階で4,4’-ジクロロジフェニルスルホキシドを製造し、第2段階で過酸化水素を過剰に用い、且つ酢酸を溶媒としてDCDPSを得るプロセスもまた、SU-A 765262に記載されている。
【0005】
さらに、第1段階でクロロベンゼンと塩化チオニルをフリーデル・クラフツ反応で反応させて4,4’-ジクロロジフェニルスルホキシドを得て、第2段階で酸化剤としての過酸化水素および溶媒としてのジクロロメタンまたはジクロロプロパンを用いて4,4’-ジクロロジフェニルスルホキシドを酸化させることによりDCDPSを得るプロセスがCN-A 102351756およびCN-A 102351757で開示されている。
【0006】
少なくとも1種の過酸化物の存在下で有機スルホンのそれぞれのスルホキシドを酸化して有機スルホンを製造する方法が、WO-A 2018/007481に開示されている。それにより、反応は、溶媒としてのカルボン酸中で行われ、カルボン酸は40℃で液体であり、40℃、大気圧下で水と混和性のギャップを有する。
【0007】
これらのすべての方法では、固体のDCDPSを沈殿させ、混合物から固体のDCDPSを分離させるために、反応終了後にDCDPS含有反応生成物が冷却される。
【0008】
このような固体DCDPSを得る方法は、例えば、当業者には周知の方法であり、且つ一般に有機物質の精製に用いられる結晶化である。アクリル酸やテレフタル酸のような有機化合物を精製するための結晶化プロセスは、例えば、DE-A 198 32 962またはUS-A 2002/0198405に開示されており、結晶化のために、有機物質を含む溶液を蒸発させ、蒸発した溶媒を濃縮させる。この方法により飽和点が移動し、結晶化が開始する。しかし、これらの方法は、有機物質が悪影響を受けないプロセス条件で蒸発させることができる溶媒に基づく溶液に対してのみ使用することができる。
【0009】
有機化合物を得るための別の結晶化方法が、US-A 2009/0112040に開示されている。ここでは、結晶化のための冷却は吸収(absorption)によって行われ、冷却された溶媒は結晶化装置に再利用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】CN-A 108047101
【特許文献2】CN-A 102351758
【特許文献3】CN-B 104402780
【特許文献4】CN-A 104557626
【特許文献5】SU-A 765262
【特許文献6】CN-A 102351756
【特許文献7】CN-A 102351757
【特許文献8】WO-A 2018/007481
【特許文献9】DE-A 198 32 962
【特許文献10】US-A 2002/0198405
【特許文献11】US-A 2009/0112040
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、DCDPSおよび有機溶媒を含む有機混合物から4,4’-ジクロロジフェニルスルホンを得る方法であって、DCDPSを有機溶媒から効率よく分離でき、収率がよく、環境の持続可能性があり、且つエネルギー効率もよい方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的は、DCDPSと有機溶媒として直鎖C~C10カルボン酸とを含む有機混合物からDCDPSを得る方法であって、
(a)前記有機混合物を
(a1a)前記有機混合物を結晶化容器内で水と混合し、液体混合物を得るステップ;
(a1b)(a1a)で得られた液体混合物を、
(i)結晶化容器内を、水が蒸発し始める圧力まで減圧するステップ、
(ii)蒸発した水を冷却して凝縮させるステップ、
(iii)結晶化容器内の液体混合物に凝縮水を混合するステップ
によりDCDPSの飽和点を下回る温度まで冷却するステップであって、結晶化したDCDPSを含む懸濁液を得るステップ;
または、
(a2)前記有機混合物を少なくとも1つの冷却可能な表面と接触させ、それによって0~30℃の範囲の温度に達するまで5~50K/hの範囲の冷却速度で前記有機混合物の温度を下げるステップであって、有機混合物および少なくとも1つの冷却可能な表面が、冷却プロセス全体にわたって1~30Kの範囲に保たれる温度差を維持し、結晶化したDCDPSを含む懸濁液を得るステップ
により冷却する工程
(b)(a1b)または(a2)で得られた懸濁液を固液分離し、生成物として残留水分を含む固体のDCDPSおよび有機溶剤と水とを含む母液を得る工程
を含む方法により達成される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】減圧により水を蒸発させ、冷却により水を凝縮させ、凝縮水を再利用してそれを液体混合物に混合することによってDCDPSを結晶化するための結晶化容器を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
飽和点とは、DCDPSが結晶化し始める液体混合物の温度を示す。この温度は、液体混合物中のDCDPSの濃度に依存する。液体混合物中のDCDPSの濃度が低いほど、結晶化が始まる温度は低くなる。
【0015】
冷却開始前の有機混合物の温度は、液体混合物中に含まれるDCDPSが完全に溶解するような温度でなければならない。したがって、有機混合物の温度は、好ましくはその飽和点を超えており、有機混合物がDCDPSOと酸化剤との酸化反応における反応生成物として得られる場合、冷却前の有機混合物の温度は、酸化反応において得られる反応混合物の温度に相当する。
【0016】
水を加えて冷却し、減圧して水を蒸発させ、冷却により水を凝縮させ、凝縮した水を再利用して液体混合物に混合することで、特に冷却工程の開始時に結晶化したDCDPSが蓄積し、固体層を形成する表面を冷却することなくDCDPSを含む有機混合物の冷却が可能となる。これにより、冷却工程の効率を向上させることができる。また、この固体層を再び除去するための追加的な労力を回避することができる。驚くべきことに、得られたDCDPSはより良いカラーインデックスを有することがさらに示されている。カラーインデックスは、ASTM D1209:2019に従ってAPHA数として表現され、この方法によって製造されたDCDPSについては、DCDPSの製造に使用される4,4’-ジクロロジフェニルスルホキシドが100超のAPHA数を有していても、APHA数は常に40未満である。
【0017】
特に、1barで150℃超の沸点を持つ有機溶媒、例えばカルボン酸を使用する場合、減圧して有機溶媒を蒸発させ、蒸発した有機溶媒を冷却して凝縮し、凝縮した有機溶媒を再び結晶化容器に再利用するには、必要な低い圧力を達成するために高いエネルギー消費を必要とする。一方で、DCDPSが結晶化するように飽和点を移動させるために、有機溶媒を蒸発させる温度を高くすると、DCDPSに悪影響を与える。特にDCDPSの色の変化を排除できない。有機混合物を水と混合し、蒸発させ、凝縮し、そして凝縮水を再利用することで、高温で有機溶媒を蒸発させるか、または非常にエネルギーを消費させて圧力を非常に小さい値に低下させることなく冷却することにより飽和点を移動させることができる。驚くべきことに、水を添加し、減圧して水を蒸発させ、冷却により水を凝縮し、そして凝縮水を再利用することによるDCDPSの冷却および結晶化は、水への溶解度が低いカルボン酸を溶媒として用いた場合でも、実施することができる。水を蒸発させるための減圧を可能にするため、有機混合物の水との混合による冷却および結晶化のための結晶化容器は、気密密閉容器である。
【0018】
驚くべきことに、有機混合物を少なくとも1つの冷却可能な表面と接触させることによる冷却工程において、有機混合物中の温度を、0~30℃の範囲の温度に達するまで5~50K/hの範囲の冷却速度で低下させ、冷却工程全体にわたって、有機混合物と少なくとも1つの冷却可能な表面との温度差を1~30Kの範囲に維持することで、冷却可能な表面上での固体層の形成も減少または回避し得ることがわかった。
【0019】
DCDPSを結晶化させるために、結晶核を提供することが好ましい。結晶核を提供するために、液体混合物に添加される乾燥結晶を使用すること、または結晶核として粒子状DCDPSを含む懸濁液を添加することが可能である。乾燥結晶を使用するが結晶が大きすぎる場合は、結晶を結晶核として使用できる小さい粒子に粉砕することができる。また、液体混合物に超音波を適用することにより、必要な結晶核を提供することも可能である。
【0020】
もし、冷却が水の混合、減圧による水の蒸発、冷却による水の凝縮、および凝縮水の再利用、およびその液体混合物への混合により実施される場合、結晶核は好ましくはその場で初期化ステップで生成される。初期化ステップは、好ましくは、ステップ(i)での減圧の前に以下のステップ
‐液体混合物中の水の沸点が80~95℃の範囲にあるように、結晶化容器内を減圧するステップ;
‐固体の初期形成が生じるまで水を蒸発させるステップ;
‐結晶化容器内の圧力を上げ、結晶化容器内の液体混合物をDCDPSの飽和点より1~10℃低い範囲の温度まで加熱するステップ
を含む。
【0021】
水が80~95℃の範囲の、より好ましくは83~92℃の範囲の温度で蒸発し始めるように結晶化容器内を減圧することにより、続く水の蒸発がDCDPSの飽和溶液および沈殿をもたらす。その後昇圧し、DCDPSの飽和点より1~10℃低い範囲の温度へと結晶化容器内の液体混合物を加熱することにより、固化したDCDPSが再び部分的に溶解し始める。これは、結晶核の数が減少し、より少量で大きなサイズの結晶が得られるという効果がある。さらに、結晶化容器内に初期量の結晶核が残ることが保証される。冷却、特に減圧による冷却は、生成した結晶核の完全な溶解を避けるために、上記範囲内で予め設定された温度に達した後、直ちに開始することができる。しかしながら、あらかじめ設定した温度で、例えば0.5~1.5時間の滞留時間の後に冷却を開始することも可能である。
【0022】
初期化ステップで結晶核を生成するために、固体の初期形成が生じるまで水だけを蒸発させることも可能である。また、蒸発した水を冷却して完全に凝縮させ、凝縮した水をすべて結晶化容器に戻すことも可能である。後者は、結晶化容器内の液体混合物が冷却され、固体が形成されるという効果がある。また、蒸発し、凝縮した水の一部のみを結晶化容器に戻す、両者の混合アプローチも実行可能である。
【0023】
減圧、水の蒸発、冷却による水の凝縮、および凝縮水の液体混合物への混合による液体混合物を冷却するステップ(a1b)は、バッチ式、半連続式または連続式で実施することができる。
【0024】
特に冷却ステップ(a1b)がバッチ式で行われる場合、水を蒸発させ、それによって液体混合物を冷却するための減圧は、例えば段階的または連続的に行うことができる。減圧が段階的である場合、予め定められた温度低下の速度が観察されるまで、特に、予め定められた速度が「0」、すなわち、それ以上の温度低下が生じなくなるまで、一段階で圧力を保持することが好ましい。この状態が達成された後、次の圧力値まで減圧される。この場合、減圧するための段階はすべて同じであってもよいし、異なっていてもよい。異なる段階で減圧する場合、圧力低下の段階の大きさを小さくすることが好ましい。好ましくは、圧力低下の段階は、10~800mbarの範囲、より好ましくは30~500mbarの範囲、特に30~300mbarの範囲にある。
【0025】
減圧(ii)が連続的である場合、減圧は例えば直線的、双曲線的、放物線的または他の任意の形状とすることができ、ここで、圧力の非直線的な低下のために、圧力の低下とともに減圧が減少するように減圧することが好ましい。圧力を連続的に減少させる場合、130~250mbar/hの速度で、特に180~220mbar/hの速度で減圧させることが好ましい。さらに、圧力は、プロセス制御システム(PCS)の使用によってバルク温度制御され、それによって段階的な線形冷却プロファイルが実現されることが可能である。
【0026】
好ましくは、減圧(ii)は、固体含有量の増大とともに一定の過飽和に近似させ、それゆえ、成長のためのより結晶性の表面のために、5~25K/hの段階的な冷却プロファイルで温度制御される。
【0027】
もし冷却(a1b)、ひいては結晶化が半連続プロセスで実施される場合、圧力は好ましくは段階的に低減され、ここにおいて、半連続プロセスは、例えば、それぞれの温度ステップで、各圧力ステップのための少なくとも1つの結晶化容器を用いることにより実現することができる。液体混合物の冷却のために、液体混合物は高い温度を有する第1の結晶化容器に供給され、第1の温度へと冷却される。次に、液体混合物が第1の結晶化容器から取り出され、より低い圧力を有する第2の結晶化容器に供給される。このプロセスは、液体混合物が最も低い圧力を有する結晶化容器に供給されるまで繰り返される。液体混合物が1つの結晶化容器から引き出されるとすぐに、新鮮な液体混合物をその結晶化容器に供給することができ、この場合、結晶化容器内の圧力は好ましくは一定に保たれる。この文脈における「一定」とは、それぞれの結晶化容器への液体混合物の取出しおよび供給に依存する圧力の変動を、技術的に可能な限り低く保つことができるが、排除することができないことを意味する。
【0028】
冷却(a1b)をバッチ式または半連続式で行う他に、冷却(a1b)を連続的に行うことも可能である。もし冷却(a1b)、ひいてはDCDPSの結晶化を連続的に行う場合、冷却および結晶化を少なくとも2段階、特に2~3段階で段階的に操作することが好ましく、各段階において少なくとも1つの結晶化容器が使用される。冷却および結晶化を2段階で行う場合、第1段階では、好ましくは液体混合物を40~90℃の範囲の温度まで冷却し、第2段階では、好ましくは-10~50℃の範囲の温度まで冷却する。冷却が2より多い段階で行われる場合、好ましくは、第1の段階は40~90℃の範囲の温度で、最後の段階は-10~30℃の範囲の温度で操作される。追加の段階は、これらの範囲の間の温度で、段階から段階へ温度を下げながら操作される。冷却と結晶化が3段階で行われる場合、例えば第2段階は10~50℃の範囲の温度で操作される。
【0029】
冷却(a1b)および結晶化が連続的に行われる場合、懸濁液の流れは、最後の結晶化容器から連続的に取り出される。その後、懸濁液は固液分離器(b)に供給される。結晶化容器内の液面を所定の範囲内に保つために、DCDPS、有機溶媒および水を含む新鮮な液体混合物を、それぞれの結晶化容器から取り出された懸濁液の量に相当するまたは実質的に相当する量で、それぞれの結晶化容器に供給することができる。新鮮な液体混合物は、結晶化容器内の最小液面レベルに達するたびに、連続的またはバッチ式に添加することができる。
【0030】
バッチ式または連続的に行われることとは無関係に、減圧して水を蒸発させ、冷却して水を凝縮させ、凝縮水を再利用して液体混合物に混合することによる結晶化は、好ましくは、結晶化の最後のステップにおける懸濁液中の固形分含有量が懸濁液の質量に基づいて5~50質量%、より好ましくは5~40質量%、特に20~40質量%の範囲になるまで継続される。
【0031】
懸濁液中のこの固形分含有量を達成するために、冷却によって得られる懸濁液が10~30℃の範囲の、好ましくは15~30℃の範囲の、特に20~30℃の範囲の温度に冷却されるまで(i)において減圧することが好ましい。
【0032】
この温度が達成される圧力は、液体混合物中の水の量に依存する。好ましくは、(a)における有機混合物に混合される水の量は、液体混合物中の水の量が、液体混合物の総量に対して10~60質量%の範囲となるような量である。より好ましくは、(a)における有機混合物に混合される水の量は、液体混合物中の水の量が液体混合物の総量に対して10~50質量%の範囲となるような量であり、および特に、(a)における有機混合物に混合される水の量は、液体混合物中の水の量が液体混合物の総量に対して15~35質量%の範囲となるような量である。
【0033】
冷却(a1b)および結晶化は、連続的またはバッチ式で行うことができるにもかかわらず、冷却(a1b)および結晶化をバッチ式で行うことが好ましい。バッチ式の冷却および結晶化は、操作窓および結晶化条件に関してより高い柔軟性を許容し、プロセス条件の変動に対してより強くなる。
【0034】
液体混合物の冷却を支援するために、減圧して水を蒸発させ、冷却して水を凝縮し、凝縮した水を再利用してそれを液体混合物に混合することによって冷却を行う場合、追加冷却のために結晶化容器に冷却可能な表面を備えさせることがさらに可能である。冷却可能な表面は、例えば、冷却ジャケット、冷却コイル、ハーフパイプコイル、またはいわゆる「パワーバッフル」のような冷却バッフルであることができる。驚くべきことに、液体混合物の温度が20~60℃の範囲、より好ましくは20~50℃の範囲、特に20~40℃の範囲の温度に低下した後に追加冷却を開始すれば、冷却可能な表面への沈殿物および汚れの形成を回避することができるか、あるいは少なくともかなり低減することができる。
【0035】
有機混合物を少なくとも1つの冷却可能な表面と接触させることによる冷却(a2)は、通常、所望の終了温度に達するまで結晶化容器内でバッチ式で実施される。有機混合物を冷却可能な表面と接触させることによって有機混合物を冷却する場合、0~30℃の範囲の温度に達するまで、好ましくは15~30℃の範囲の温度に達するまで、特に20~30℃の範囲の温度に達するまで、冷却を継続させる。
【0036】
有機混合物を少なくとも1つの冷却可能な表面と接触させることにより冷却するための冷却可能な表面はまた、冷却ジャケット、冷却コイル、ハーフパイプコイルまたは冷却バッフルであり得る。少なくとも1つの冷却可能な表面を冷却するために、冷却液は、冷却ジャケット、冷却コイル、ハーフパイプコイルまたは冷却バッフルを通って流れる。冷却液は、当業者に知られている各冷却液とすることができる。好適な冷却液は、例えば、水、グリコール、C10/13アルキル化ベンゼン(例えば、Therminol(登録商標)ADX-10として入手可能)、水素化ターフェニル(例えば、Therminol(登録商標)66として入手可能)、ジベンゼントルエン(例えば、Marlotherm(登録商標)SHとして入手可能)またはシリコンオイル(例えばKorasilon(登録商標)オイルM10として入手可能)である。
【0037】
冷却液の温度は、有機混合物と少なくとも1つの冷却可能な表面との間の温度差が1~30K、より好ましくは5~20Kの範囲、および特に5~15Kの範囲に維持されるように選択される。有機混合物と少なくとも1つの冷却可能な表面との温度差をこの範囲に維持するために、有機混合物の冷却に対応する冷却および結晶化(a2)の間、冷却液の温度を下げることが必要である。
【0038】
それにより、冷却は、冷却液の温度を段階的に下げることによって、または冷却液の温度を連続的に下げることによって実施することができる。冷却液の温度を段階的に低下させる場合、冷却液の温度を予め定められた温度に達するまで低下させ、その後、予め定められた時間その温度に維持する。この時間が経過した後、冷却液の温度を次の予め定められた温度まで下げ、その温度で維持する。これを予め定められた温度に達するまで繰り返す。冷却液の温度の段階的または連続的な低下とは無関係に、冷却液の温度は、有機混合物が5~50K/hの範囲、より好ましくは10~30K/hの範囲、特に15~25K/hの範囲の冷却速度で冷却されるように低下させる。冷却液の段階的な温度低下のために、冷却速度は、冷却液の温度低下の開始時から所定温度で冷却液を維持する所定時間が経過するまでの時間に基づき、冷却液の温度低下の開始時の有機混合物の温度と所定温度で冷却液を維持する所定時間が経過した後の有機混合物の温度との差によって決定される。
【0039】
冷却液の冷却には、例えば、外部熱交換器を使用することができる。さらに、冷却(a2)を開始する前に、有機混合物と少なくとも1つの冷却可能な表面との間の温度差を達成するために、冷却液を加熱することが必要である。加熱のためには、好ましくは冷却と同じ熱交換器が使用される。しかし、冷却液を開始温度へと加熱するために1つの熱交換器を使用し、第二の熱交換機を冷却(a2)の間に冷却液を冷却するために使用することもまた可能である。
【0040】
また、冷却(a2)のために、冷却(a2)を開始する前に有機混合物と水とを混合することが好ましい。水の量は、混合物を少なくとも1つの冷却可能な表面と接触させる前に、得られた混合物が10~60質量%の水を含むような量であることが好ましい。より好ましくは、水の量は、混合物を少なくとも1つの冷却可能な表面と接触させる前に、得られた混合物が10~50質量%の水を含むような、特に得られた混合物が15~35質量%の水を含むような量である。
【0041】
有機混合物に混合される水は、好ましくは40~100℃の範囲、より好ましくは60~100℃の範囲、特に80~100℃の範囲の温度を有する。
【0042】
減圧により水を蒸発させ、冷却によって水を凝縮させ、そして凝縮水を再利用してそれを液体混合物と混合することによる冷却の際のように、驚くべきことに、少なくとも1つの冷却可能な表面を用いた冷却によってもまた、有機混合物が水と混合される場合には得られたDCDPSがより良いカラーインデックス有することが示された。
【0043】
冷却および結晶化を完了した後、この工程は終了するが、もし冷却および結晶化が減圧して水を蒸発させ、冷却によって水を凝縮させ、そして凝縮水を再利用してそれを液体混合物と混合することにより実施される場合、好ましくは、圧力は再び周囲圧力に設定される。冷却および結晶化に続いて、結晶化容器内での液体混合物の冷却によって形成された懸濁液が固液分離に供される。固液分離工程において、冷却によって形成された固体のDCDPSが液相から分離される。
【0044】
冷却および結晶化が、減圧して水を蒸発させ、冷却により水を凝縮させ、凝縮水を再利用してそれを液体混合物に混合することによって実行されるか、または有機相を少なくとも1つの冷却可能な表面に接触させることによって実行されるかとは無関係に、冷却および結晶化によって得られた懸濁液は、好ましくは、冷却(a)により形成した結晶の沈殿を回避するために、結晶化容器内で撹拌することが好ましい。撹拌のために、結晶化容器に撹拌のための装置、例えば撹拌機を設け、結晶化容器内の懸濁液を撹拌することが可能である。撹拌は、好ましくは、撹拌によるエネルギー入力が、結晶を懸濁させるのに十分に高いが、それらの破損を防ぐ最小限のレベルに保たれるように操作される。この目的のために、平均エネルギー入力は、好ましくは0.2~0.8W/kgの範囲、特に0.25~0.5W/kgの範囲である。さらに、結晶を摩滅から防ぐために、高い局所的なエネルギー散逸入力を示さない撹拌装置が使用される。好適な撹拌装置は、例えば、斜め刃撹拌機もしくはクロスアーム撹拌機のような軸方向に搬送する撹拌機、または平刃撹拌機のような径方向に搬送する撹拌機である。撹拌機は、少なくとも2枚の羽根を有していてもよく、より好ましくは少なくとも4枚の羽根を有する。特に好ましいのは、4~8枚羽根、例えば6枚羽根を有する撹拌機である。
【0045】
冷却および結晶化を連続的に行うかバッチ式に行うかとは無関係に、または、冷却および結晶化を、減圧して水を蒸発させ、冷却により水を凝縮させ、凝縮水を再利用してそれを液体混合物に混合することにより、もしくは有機相を少なくとも1つの冷却可能な表面と接触させることにより行うかとは無関係に、固液分離(b)は連続的にまたはバッチ式で行うことができ、好ましくは連続的に行うことができる。
【0046】
冷却および結晶化(a)がバッチ式で行われ、且つ固液分離が連続的に行われる場合、少なくとも1つのバッファー容器が用いられ、そこに結晶化容器から取り出された懸濁液が充填される。懸濁液の供給のために、少なくとも1つのバッファー容器から連続した流れを引き出し、固液分離装置へ供給する。少なくとも1つのバッファー容器の容量は、好ましくは、結晶化容器の内容物がバッファー容器に供給される2回の充填サイクルの間に、各バッファー容器が完全に空にならないような容量である。1つ以上のバッファー容器が使用される場合、別のバッファー容器の内容物が取り出されて固液分離に供給される間に、1つのバッファー容器を充填することが可能である。この場合、少なくとも2つのバッファー容器は並列に接続される。バッファー容器の並列接続は、さらに、1つのバッファー容器が充填された後に、懸濁液をさらなるバッファー容器に充填することを可能にする。少なくとも2つのバッファー容器を使用する利点は、バッファー容器が1つのバッファー容器のみよりも小さな容積を有することができることである。このように容積を小さくすることで、結晶化したDCDPSの沈殿を避けるために、懸濁液をより効率的に混合することができる。懸濁液を安定に保ち、バッファー容器内の固体のDCDPSの沈殿を避けるために、バッファー容器に懸濁液を撹拌するためのデバイス、例えば撹拌機を設け、バッファー容器内の懸濁液を撹拌することが可能である。撹拌は好ましくは、撹拌によるエネルギー入力が、結晶を懸濁させるのに十分な高さであるが結晶の破損を防ぐ最小限のレベルに保たれるように操作される。この目的のために、平均のエネルギー入力は、好ましくは0.2~0.8W/kgの範囲であり、特に0.25~0.5W/kgの範囲にある。さらに、結晶の摩滅から防ぐために、高い局所的なエネルギー散逸入力を示さない撹拌装置が使用される。
【0047】
冷却および結晶化(a)ならびに固液分離(b)がバッチ式で実行される場合、固液分離装置が結晶化容器の内容物を全て引き受けることができる大きさである限り、結晶化容器の内容物をそのまま固液分離装置に投入することができる。この場合、バッファー容器を省略することが可能である。また、冷却および結晶化ならびに固液分離を連続的に実行するときにもまた、バッファー容器を省略することが可能である。この場合も、懸濁液は直接固液分離装置に供給される。固液分離装置が小さすぎて結晶化容器の内容物を全て取り込めない場合は、バッチ式操作のために、結晶化容器を空にして新しいバッチを開始できるように、少なくとも1つの追加のバッファー容器が必要である。
【0048】
冷却および結晶化(a)を連続的に行い、固液分離(b)をバッチ式に行う場合は、結晶化容器から取り出した懸濁液をバッファー容器に供給し、固液分離のための各バッチをバッファー容器から取り出し、固液分離装置に供給する。
【0049】
固液分離は、例えば、濾過、遠心分離、または沈殿を含む。好ましくは、固液分離は濾過である。固液分離では、有機溶媒および水を含む液体の母液が固体のDCDPSから除去され、残留水分を含むDCDPS(以下、「湿潤DCDPS」ともいう)が生成物として得られる。固液分離が濾過である場合、湿潤DCDPSは「ろ過ケーキ」と呼ばれる。
【0050】
水および/または有機溶媒を再利用できるように、固液分離(b)で得られた母液が有機溶媒と水を含む場合、有機溶媒と水を含む母液を、水相と有機溶媒を含む有機相に分離することが好ましい。冷却および結晶化において水を添加しない場合、母液は有機相のみを含んでいてもよい。ただし、有機相に水を混合しない場合でも、有機相がDCDPSを形成する酸化反応の間に添加された水、または酸化反応で副産物として形成された水を含んでいてもよい。それゆえ、追加の水を有機相に混合しない場合でも、母液を相分離に供し、有機溶媒を含む有機相と水相を得ることが好ましい。
【0051】
水相および/または有機相から不純物、例えば水相中の有機残留物または有機相中の残留水を除去するために、次の精製工程、例えば1回以上の洗浄工程または蒸留工程で水相および/または有機相をさらに精製することが可能である。特に好ましくは、有機溶媒は、有機混合物を得るための工程、特にDCDPSが製造される酸化反応に再利用される。
【0052】
DCDPSと有機溶媒を含む有機混合物は、当業者に知られている任意の方法によって得ることができる。この有機混合物は、例えば、本発明の方法によってDCDPSを精製するために、例えば、DCDPSと有機溶媒を混合することによって製造することができる。好ましくは、この有機混合物は、有機溶媒中で行われる、4,4’-ジクロロジフェニルスルホキシドと酸化剤との酸化反応によって得られる。この場合、有機混合物の有機溶媒は、DCDPSを製造する工程で使用された有機溶媒である。
【0053】
有機混合物が酸化反応によって得られる場合、DCDPSは、4,4’-ジクロロジフェニルスルホキシドと有機溶媒として少なくとも1種のC~C10カルボン酸とを含む溶液を酸化剤と反応させ(反応混合物中の水の濃度は5質量%未満に維持される)、4,4’-ジクロロジフェニルスルホンを含む粗反応生成物を得ることにより製造されることが特に好ましい。
【0054】
水の濃度を5質量%未満に維持することで、健康被害が少なく、生分解性の良い直鎖C~C10カルボン酸を使用することができる。
【0055】
直鎖C~C10カルボン酸を使用する他の利点は、直鎖C~C10カルボン酸は低温で水との良好な分離性を示し、このことが生成物に損傷を与えることなく直鎖C~C10カルボン酸と水との分離を可能とし、さらに溶媒としての直鎖C~C10カルボン酸の酸化工程への再利用を可能とすることである。
【0056】
DCDPSの製造工程では、4,4’-ジクロロジフェニルスルホキシド(以下、DCDPSOという)および少なくとも1種のC~C10カルボン酸(以下、カルボン酸という)を含む溶液が供給される。この溶液では、カルボン酸が溶媒として機能する。好ましくは、DCDPSOとカルボン酸の比は、1:2~1:6の範囲、特に1:2.5~1:3.5の範囲である。DCDPSOとカルボン酸のこのような比率は、通常、反応温度でDCDPSOをカルボン酸中で完全に溶解させ、DCDPSを形成するDCDPSOのほぼ完全な変換を達成し、およびさらに可能な限り少ないカルボン酸の使用のために十分である。DCDPSOとカルボン酸を含む溶液は、酸化剤の添加の前に、好ましくは70~110℃の範囲の温度、より好ましくは80~100℃の範囲の温度、特に85~95℃の範囲の温度、例えば86、87、88、89、90、91、92、93、94℃に加熱される。
【0057】
溶液を提供するために、DCDPSOとカルボン酸を別々に反応器に供給し、反応器内でDCDPSOとカルボン酸を混合することが可能である。あるいは、DCDPSOとカルボン酸を別の混合装置で混合して溶液を得て、その溶液を反応器に供給することも可能である。さらなる代替案では、DCDPSOとカルボン酸の一部を混合物として反応器に供給し、カルボン酸の残りを直接反応器に供給し、DCDPSOとカルボン酸の一部の混合物とカルボン酸の残りを反応器中で混合することによって溶液を得る。
【0058】
少なくとも1種のカルボン酸は、1種のカルボン酸のみであってもよいし、少なくとも2種の異なるカルボン酸の混合物であってもよい。好ましくは、カルボン酸は、少なくとも1種の脂肪族カルボン酸である。少なくとも1種の脂肪族カルボン酸は、少なくとも1種の直鎖または少なくとも1種の分岐鎖脂肪族カルボン酸であってもよく、または1種以上の直鎖および1種以上の分岐鎖脂肪族カルボン酸の混合物であってもよい。好ましくは、脂肪族カルボン酸はC~Cカルボン酸であり、それゆえ、少なくとも1種のカルボン酸が脂肪族モノカルボン酸であることが特に好ましい。したがって、少なくとも1種のカルボン酸は、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸もしくはデカン酸、または前述の酸の1種以上の混合物であってもよい。例えば、少なくとも1種のカルボン酸は、n-ヘキサン酸、2-メチルペンタン酸、3-メチルペンタン酸、4-メチルペンタン酸、n-ヘプタン酸、2-メチルヘキサン酸、3-メチルヘキサン酸、4-メチルヘキサン酸、5-メチルヘキサン酸、2-エチルペンタン酸、3-エチルペンタン酸、n-オクタン酸、2-メチルヘプタン酸、3-メチル-ヘプタン酸、4-メチル-ヘプタン酸、5-メチル-ヘプタン酸、6-メチル-ヘプタン酸、2-エチル-ヘキサン酸、4-エチル-ヘキサン酸、2-プロピルペンタン酸、2,5-ジメチルヘキサン酸、5,5-ジメチルヘキサン酸、n-ノナン酸、2-エチルヘプタン酸、n-デカン酸、2-エチルオクタン酸、3-エチルオカント酸(3-ethyl-ocantoic acid)、4-エチルオクタン酸が挙げられる。また、カルボン酸は前記酸の1種の異なる構造異性体の混合物であってもよい。例えば、少なくとも1種のカルボン酸は、3,3,5-トリメチルヘキサン酸、2,5,5-トリメチルヘキサン酸および7-メチルオクタン酸の混合物を含むイソノナン酸、または7,7-ジメチルオクタン酸、2,2,3,5-テトラメチルヘキサン酸、2,4-ジメチル-2-イソプロピルペンタン酸および2,5-ジメチル-2-エチルヘキサン酸の混合物を含むネオデカン酸であってもよい。しかし、特に好ましくは、カルボン酸は直鎖C~C10カルボン酸であり、特にn-ヘキサン酸またはn-ヘプタン酸である。
【0059】
DCDPSOとカルボン酸を含む溶液の加熱は、粗反応生成物を得るための反応が行われる反応器内、または反応器に供給される前の他の任意の装置で行うことができる。特に好ましくは、DCDPSOとカルボン酸を含む溶液が、反応器に供給される前にそれぞれの温度へと加熱される。溶液の加熱は、例えば、反応器に供給される前に溶液が流れる熱交換器内で行うことができ、またはより好ましくは、反応器に供給される前に溶液が貯蔵されるバッファー容器内で行うことができる。そのようなバッファー容器が使用される場合、バッファー容器は、DCDPSOとカルボン酸とを混合して溶液を得るための混合ユニットとしても機能し得る。
【0060】
本工程を連続的に運転する場合には、例えば熱交換器を使用することができる。バッファー容器内の溶液の加熱は、バッチ式で運転される工程と同じく、連続式で運転される工程でも実施可能である。溶液の加熱のために熱交換器を用いる場合、任意の適切な熱交換器を用いることができ、例えばシェル&チューブ熱交換器、プレート熱交換器、スパイラルチューブ熱交換器、または当業者に知られている任意の他の熱交換器を使用することができる。それによって、熱交換器は、向流、並流、または交差流で運転することができる。
【0061】
熱交換器内で、またはダブルジャケットもしくは加熱コイル内で通常使用される流体の加熱を使用した加熱の他に、電気加熱または誘導加熱を溶液の加熱のために使用することができる。
【0062】
バッファー容器内で溶液を加熱する場合、容器内の内容物を加熱できる任意の好適な容器を使用することができる。好適な容器は、例えば、ダブルジャケットまたは加熱コイルを備える。バッファー容器がさらにDCDPSOおよびカルボン酸を混合するために使用される場合、バッファー容器はさらに混合ユニット、例えば撹拌機を含む。
【0063】
反応を実施するために、溶液は好ましくは反応器に供給される。この反応器は、反応器に供給された成分を混合し、反応させることができる任意の反応器であり得る。好適な反応器は、例えば、撹拌槽反応器または強制循環を有する反応器、特に外部循環と循環液を供給するノズルとを有する反応器である。撹拌槽反応器を使用する場合、任意の撹拌機を使用することができる。好適な撹拌機は、例えば、斜め刃撹拌機もしくはクロスアーム撹拌機のような軸方向に搬送する撹拌機、または平刃撹拌機のような径方向に搬送する撹拌機である。撹拌機は、少なくとも2枚の羽根を有していてもよく、より好ましくは少なくとも4枚の羽根を有する。特に好ましいのは、4~8枚羽根、例えば6枚羽根を有する撹拌機である。工程の安定性および工程の信頼性の理由から、反応器は、軸方向に搬送する撹拌機を有する撹拌槽反応器であることが好ましい。
【0064】
反応器内の温度を制御するために、熱交換装置、例えば、ダブルジャケットまたは加熱コイルを有する反応器を使用することがさらに好ましい。これは、反応の間に追加の加熱または熱放散を可能とし、温度を一定または反応が行われる所定の温度範囲に保つ。好ましくは、反応温度は70~110℃、より好ましくは80~100℃、特に85~95℃の範囲、例えば86、87、88、89、90、91、92、93、94℃に保たれる。
【0065】
DCDPSを得るために、DCDPSOおよびカルボン酸を含む溶液を酸化剤で酸化する。したがって、好ましくは、酸化剤を溶液に添加し、反応混合物を得る。この反応混合物から、DCDPSを含む粗反応生成物を得ることができる。
【0066】
DCDPSを得るためのDCDPSOを酸化するために用いられる酸化剤は、好ましくは、少なくとも1種の過酸化物である。少なくとも1種の過酸化物は、少なくとも1種の過酸、例えば、3種以上の過酸などの、1種のまたは2種以上の混合物であってもよい。好ましくは、本明細書に開示される工程は、1種または2種の存在下で、特に1種の過酸の存在下で実施される。少なくとも1種の過酸は、C~C10過酸であってよく、これは非置換であっても、例えば、直鎖または分岐鎖C~Cアルキルもしくはフッ素などのハロゲンによって置換されていてもよい。その例としては、過酢酸、過ギ酸、過プロピオン酸、過カプリオン酸、過吉草酸または過トリフルオロ酢酸が挙げられる。特に好ましくは、少なくとも1種の過酸は、C~C10の過酸、例えば2-エチル-ヘキサン過酸である。少なくとも1種の過酸が水に可溶である場合、少なくとも1種の過酸を水溶液として添加することが有利である。さらに、少なくとも1種の過酸が水に十分に溶解しない場合、少なくとも1種の過酸がそれぞれのカルボン酸に溶解していることが有利である。最も好ましくは、少なくとも1種の過酸は、その場で生成される直鎖C~C10過酸である。
【0067】
特に好ましくは、過酸は、酸化剤として過酸化水素(H)を使用することにより、その場で生成される。添加されたHの少なくとも一部は、カルボン酸と反応して過酸を形成する。Hは、好ましくは水溶液として、それぞれ水溶液の総量を基準として、例えば、1~90質量%溶液、例えば、20、30、40、50、60または70質量%溶液、好ましくは30~85質量%溶液、特に50~85質量%溶液として添加される。高濃度のH水溶液、特に水溶液の総量を基準として50~85質量%、例えば70質量%の溶液の使用が、反応時間を短縮する場合がある。それはまた、少なくとも1種のカルボン酸の再利用を容易にし得る。
【0068】
特に好ましくは、少なくとも1種の過酸は、その場で生成される直鎖CまたはC過酸である。さらに反応時間を短縮し、反応混合物に少量の水のみ添加するために、C~C10カルボン酸がn-ヘキサン酸またはn-ヘプタン酸であり、過酸化水素が50~85質量%溶液であることが特に好ましい。
【0069】
酸化剤の蓄積を避け、DCDPSOの一定の酸化を達成するために、酸化剤を0.002~0.01mol/(mol DCDPSO・分)の供給速度で連続的に添加することが好ましい。より好ましくは、酸化剤は0.003~0.008mol/(mol DCDPSO・分)の供給速度で、特に0.004~0.007mol/(mol DCDPSO・分)の供給速度で添加される。
【0070】
酸化剤は、一定の供給速度で添加することもできるし、供給速度を変化させることもできる。酸化剤を供給速度を変化させて添加する場合、例えば、上記の範囲内で反応を進めながら供給速度を減少させることが可能である。さらに、酸化剤の添加を数段階に分けて、その段階の間に酸化剤の添加を停止することも可能である。酸化剤を添加する間の各段階において、酸化剤は一定の供給速度で添加することも、供給速度を変化させながら添加することも可能である。反応の進行に伴って供給速度を減少させることの他に、供給速度を増加させたり、供給速度の増加と減少を切り替えたりすることもまた可能である。供給速度を増加または減少させる場合、供給速度の変化は連続的または段階的であることができる。特に好ましくは、酸化剤を少なくとも2段階で添加し、各段階の供給速度が一定であることである。
【0071】
酸化剤を少なくとも2段階で供給する場合、酸化剤を2段階で添加することが好ましく、酸化剤を溶液に添加することは、好ましくは:
(A)70~110℃の範囲の温度で、1.5~5時間の時間で、均一に分配された0.9~1.05mol/mol DCDPSO の酸化剤を溶液に添加し、反応混合物を得る第1段階;
(B)第1段階の完了後の反応混合物を、酸化剤を添加することなく、第1工程の温度で5~30分間撹拌する段階;
(C)80~110℃の範囲の温度で40分未満の時間で、0.05~0.2mol/mol DCDPSO の酸化剤を反応混合物に添加する第2段階;
(D)第2段階の完了後の反応混合物を、酸化剤を添加することなく、第2段階の温度で10~30分間撹拌する段階;
(E)反応混合物を95~110℃の範囲の温度に加熱し、この温度を10~90分間保持することにより、DCDPSを含む粗反応生成物を得る段階
を含む。
【0072】
DCDPSOの酸化を少なくとも2段階で行う場合、DCDPSOをDCDPSに変換するために、DCDPSOとカルボン酸を含む溶液に、第1段階および第2段階で酸化剤を添加することによりDCDPSOを酸化する。
【0073】
第1段階では、0.9~1.05mol/mol DCDPSO の酸化剤を70~110℃の温度範囲で1.5~5時間の時間で均一に分散させて添加する。そのような時間で酸化剤を添加することにより、酸化剤の蓄積を回避することができる。
【0074】
この文脈において「均一に分散」とは、酸化剤を一定の供給速度で連続的に、または供給速度を周期的に変化させて添加し得ることを意味する。周期的に変化する連続的な供給速度の他に、周期的に変化する供給速度は、例えば、酸化剤を規定時間添加し、次に酸化剤を規定時間添加せず、この添加と非添加を第1段階のための酸化剤の全量が添加されるまで繰り返す供給速度など、非連続的に周期的に供給速度を変化させることも含む。酸化剤を添加する時間は、1.5~5時間の範囲、より好ましくは2~4時間の範囲、および特に2.5~3.5時間の範囲である。そのような時間で均一に分散させて酸化剤を添加することにより、爆発性の混合物を結果としてたらす、反応混合物に酸化剤が蓄積することを回避することができる。さらに、そのような時間で酸化剤を添加することにより、プロセスのスケールアップが容易になり、これにより、スケールアップしたプロセスにおいて、プロセスからの熱を放散させることも可能になる。一方、このような量により過酸化水素の分解が回避されるため、プロセスで使用する過酸化水素の量を最小にすることができる。
【0075】
第1段階が実施される温度は、70~110℃の範囲、好ましくは85~100℃の範囲、特に90~95℃の範囲である。この温度範囲であれば、カルボン酸に対するDCDPSOの溶解度が高い状態で、高い反応速度を達成することができる。これは、カルボン酸の量を最小限に抑えることを可能にし、これによって制御された反応を達成することができる。
【0076】
第1段階での酸化剤の添加が完了した後、酸化剤を添加せずに第1段階の温度で5~30分間反応混合物を撹拌する。酸化剤の添加終了後に反応混合物を撹拌することで、まだ反応していない酸化剤とDCDPSOを接触させてDCDPSを生成する反応を継続させ、反応混合物に不純物として残存するDCDPSOの量を低減させることができる。
【0077】
反応混合物中のDCDPSOの量をさらに減少させるために、酸化剤を添加せずに撹拌を完了した後、第2段階で0.05~0.2mol/mol DCDPSOの酸化剤、好ましくは0.06~0.15mol/mol DCDPSOの酸化剤、特に0.08~0.1mol/mol DCDPSOの酸化剤を反応混合物に添加する。
【0078】
第2段階では、酸化剤は、好ましくは1~40分、より好ましくは5~25分、特に8~15分の時間で添加される。第2段階における酸化剤の添加は、第1段階と同様にして行うことができる。さらに、第2段階の酸化剤の全部を一度に添加することも可能である。
【0079】
第2段階の温度は、80~110℃の範囲であり、より好ましくは85~100℃の範囲であり、特に93~98℃の範囲である。さらに、第2段階の温度は、第1段階の温度よりも3~10℃高いことが好ましい。より好ましくは、第2段階の温度は、第1段階の温度よりも4~8℃高く、特に好ましくは、第2段階の温度は、第1段階の温度よりも5~7℃高い。第2段階の温度が高いことにより、より高い反応速度を達成することができる。
【0080】
第2段階での酸化剤の添加後、第2段階の温度で10~20分間反応混合物を撹拌し、DCDPSを形成するDCDPSOの酸化反応を継続させる。
【0081】
酸化反応を完了するために、酸化剤を添加せずに第2段階の温度で撹拌した後、反応混合物を95~110℃の範囲、より好ましくは95~105℃の範囲、特に98~103℃の範囲の温度に加熱し、この温度で10~90分、より好ましくは10~60分、および特に10~30分保持させる。
【0082】
酸化工程では、特に酸化剤としてHを使用する場合、水が生成する。さらに、酸化剤と一緒に水を添加してもよい。本発明によれば、反応混合物中の水の濃度は、5質量%未満、より好ましくは3質量%未満、特に2質量%未満に保たれる。70~85質量%の濃度の過酸化水素水を使用することで、酸化反応中の水分濃度を低く抑えることができる。また、70~85質量%の濃度の過酸化水素水を使用することにより、水を除去することなく、酸化反応中の反応混合物中の水の濃度を5質量%未満にすることさえも可能である。
【0083】
さらに、または代替的に、反応混合物中の水の濃度を5質量%未満に保つために、プロセスから水を除去することが必要である場合がある。プロセスから水を除去するために、例えば、反応混合物から水をストリッピングすることが可能である。それによって、ストリッピングは、好ましくは、ストリッピング媒体として不活性ガスを使用することによって実施される。70~85質量%の濃度の過酸化水素水を使用する場合、反応混合物中の水の濃度が5質量%未満に保たれていれば、水を追加的にストリッピングする必要はない。ただし、この場合でも、さらに濃度を下げるために水をストリッピングすることは可能である。
【0084】
水をストリッピングするために使用できる好適な不活性ガスは、非酸化性ガスであり、好ましくは、窒素、二酸化炭素、アルゴンのような希ガスまたはこれらのガスの任意の混合物からなる群から選択される。特に好ましくは、不活性ガスは窒素である。
【0085】
水をストリッピングするために使用できる好適な不活性ガスは、非酸化性ガスであり、好ましくは、窒素、二酸化炭素、アルゴンのような希ガスまたはこれらのガスの任意の混合物である。特に好ましくは、不活性ガスは窒素である。
【0086】
水をストリッピングするために使用される不活性ガスの量は、好ましくは0~2Nm/h/kgの範囲であり、より好ましくは0.2~1.5Nm/h/kgの範囲であり、特に0.3~1Nm/h/kgの範囲である。単位Nm/h/kgのガス量は、相対ガス流量として1990年1月のDIN 1343にしたがって決定することができる。不活性ガスによる水のストリッピングは、プロセス全体の間、またはプロセスの少なくとも一部の間に行われてもよい。水のストリッピングがプロセスの複数の部分で行われる場合、各部の間で水のストリッピングは中断される。水のストリッピングの中断は、酸化剤が添加される様式とは無関係である。例えば、酸化剤を中断することなく添加し、中断しながら水をストリッピングすることも、酸化剤を少なくとも2段階で添加し、連続的に水をストリッピングすることも可能である。さらに、酸化剤の添加の間にのみ水をストリッピングすることも可能である。特に好ましくは、反応混合物中に不活性ガスを連続的にバブリングすることにより水をストリッピングする。
【0087】
反応器内に異なる組成の領域が形成され、それによってDCDPSOの変換率が異なり、したがって収率および不純物の量が異なることを避けるために、第1段階および第2段階の間に反応混合物を均質化することが好ましい。反応混合物の均質化は、当業者に公知の任意の方法、例えば、反応混合物を撹拌することによって行うことができる。反応混合物を撹拌するには、反応混合物を撹拌することが好ましい。撹拌のために、任意の好適な撹拌機を使用することができる。例えば好適な撹拌機は、例えば、斜め刃撹拌機もしくはクロスアーム撹拌機のような軸方向に搬送する撹拌機、または平刃撹拌機のような径方向に搬送する撹拌機である。撹拌機は、少なくとも2枚の羽根を有していてもよく、より好ましくは少なくとも4枚の羽根を有していてもよい。特に好ましいのは、4~8枚羽根、例えば6枚羽根を有する撹拌機である。プロセスの安定性および工程の信頼性の理由から、反応器は、軸方向に搬送する撹拌子を有する撹拌槽反応器であることが好ましい。
【0088】
プロセス中の反応混合物の温度は、例えば、反応器内にテンパリング媒体を流すことができるパイプを設けることによって設定することができる。反応器のメンテナンスの容易さおよび/または加熱の均一性の観点から、好ましくは、反応器は、テンパリング媒体を流すことができるダブルジャケットを含む。反応器内部のパイプまたはダブルジャケットの他に、反応器のテンパリングは、当業者に知られている各方法で、例えば、反応器から反応混合物の流れを引き出し、流れがテンパリングされる熱交換器にその流れを通し、テンパリングされた流れを反応器に戻して再利用することにより、実施することができる。
【0089】
酸化反応を支援するために、反応混合物に少なくとも1種の酸性触媒を追加的に添加することがさらに有利である。酸性触媒は、1種以上や、2種または3種の追加の酸の混合物などの、少なくとも1種以上であってもよい。この文脈において、追加の酸とは、溶媒として機能するカルボン酸ではない酸である。追加の酸は、無機酸であっても有機酸であってもよく、追加の酸は、好ましくは、少なくとも1種の強酸である。好ましくは、強酸は、水中で-9~3、例えば-7~3のpK値を有する。当業者は、そのような酸解離定数値、Kが、例えば、IUPAC、Compendium of Chemical Terminology、第2版「Gold Book」、バージョン2.3.3、2014-02-24、23頁などの編集物で見つけることができると理解する。当業者は、そのようなpK値がK値の負の対数値に関連することを理解する。少なくとも1種の強酸が、水中で-9~-1または-7~-1のような負のpK値を有することがより好ましい。
【0090】
少なくとも1種の強酸である無機酸の例としては、硝酸、塩酸、臭化水素酸、過塩素酸、および/または硫酸が挙げられる。特に好ましくは、1種の強無機酸、特に硫酸が使用される。少なくとも1種の強無機酸を水溶液として使用することも可能であるが、少なくとも1種の無機酸をきちんと使用することが好ましい。例えば好適な強有機酸は有機スルホン酸であり、それによって少なくとも1種の脂肪族スルホン酸または少なくとも1種の芳香族スルホン酸またはそれらの混合物を使用することが可能である。少なくとも1種の強有機酸のための例は、パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸またはトリフルオロメタンスルホン酸である。特に好ましくは、強有機酸はメタンスルホン酸である。少なくとも1種の強無機酸または少なくとも1種の強有機酸のいずれかを使用することの他に、酸性触媒として少なくとも1種の強無機酸と少なくとも1種の強有機酸の混合物を使用することも可能である。そのような混合物は、例えば、硫酸とメタンスルホン酸を含んでいてもよい。
【0091】
酸性触媒は、好ましくは、触媒量で添加される。したがって、酸性触媒の使用量は、0.1~0.3mol/mol DCDPSO の範囲であってよく、より好ましくは0.15~0.25mol/mol DCDPSO の範囲であってよい。しかしながら、酸性触媒を0.1mol/mol DCDPSO 未満の量、例えば0.001~0.08mol/mol DCDPSO の量、例えば0.001~0.03mol/mol DCDPSO の量で採用することが好ましい。特に好ましくは、酸性触媒は、0.005~0.01mol/mol DCDPSO の量で使用される。
【0092】
DCDPSを得るための酸化反応は、バッチプロセスとして、半連続プロセスとして、または連続プロセスとして行うことができる。好ましくは、酸化反応はバッチ式で行われる。酸化反応は、周囲圧力または周囲圧力より低いもしくは高い圧力で、例えば10~900mbar(abs)の範囲で実施することができる。好ましくは、酸化反応は、200~800mbar(abs)の範囲、特に400~700mbar(abs)の範囲の圧力で実施される。
【0093】
酸化反応は、周囲雰囲気下または不活性雰囲気下で行うことができる。酸化反応を不活性雰囲気下で行う場合、DCDPSOとカルボン酸を投入する前に、反応器を不活性ガスでパージすることが好ましい。また、酸化反応を不活性雰囲気下で行い、酸化反応中に生成した水を不活性ガスでストリッピングする場合、不活性雰囲気を与えるために用いる不活性ガスと、水をストリッピングするために用いる不活性ガスとが同一であることが、さらに好ましい。不活性雰囲気の使用のさらなる利点は、酸化反応中の成分の分圧、特に水の分圧が低下することである。
【0094】
酸化反応により、有機溶媒としての直鎖C~C10カルボン酸に溶解した4,4’-ジクロロジフェニルスルホキシドを含む有機混合物を得る。酸化反応では触媒として強酸を使用するため、それぞれの酸化反応によって得られる有機混合物も不純物として強酸を含む。
【0095】
上記の各工程は、装置の大きさや添加する化合物の量によって、1つの装置で行うことも、2つ以上の装置で行うことも可能である。ある工程の段階に2つ以上の装置が使用される場合、装置は同時に、または-特にバッチ式の操作工程では-異なる時間で操作することができる。これは、例えば、1つの装置で工程の段階を実行しながら、同時に同じ工程の段階のための他の装置を、例えば洗浄など、メンテナンスすることを可能にする。さらに、例えば酸化反応または冷却の段階のように、すべての成分を添加した後に装置の内容物がある時間残る工程の段階では、1つの装置ですべての化合物を供給した後、最初の装置での工程がまだ続いている間にさらなる装置に成分を供給することが可能である。しかし、すべての装置に同時に成分を添加し、装置内の工程の段階を同時に実行することも可能である。
【0096】
本発明の例示的な実施形態を図に示し、以下の説明でより詳細に説明する。
【0097】
図1は、減圧により水を蒸発させ、冷却により水を凝縮させ、凝縮水を再利用してそれを液体混合物に混合することによってDCDPSを結晶化するための結晶化容器を示す。
【0098】
唯一の図は、減圧により水を蒸発させ、冷却により水を凝縮させ、凝縮水を再利用してそれを液体混合物に混合することによってDCDPSを結晶化するための結晶化容器を示す。
【0099】
一実施形態では、DCDPSの結晶化は、気密性の高い密閉容器である結晶化容器100で実施される。DCDPSの冷却とそれによる結晶化は、減圧と、減圧による液体混合物中の水の沸点の低下によって行われる。
【0100】
供給ライン101を介して、DCDPSおよび有機溶媒を含む有機混合物が結晶化容器100に供給される。第2の供給ライン102によって、付加的に水が結晶化容器100に供給される。結晶化容器100は、好ましくは、少なくとも1つの撹拌機103を含む撹拌槽である。撹拌により、水は、微細な液滴の形態で有機混合物に混合され、液体混合物が形成される。さらに、容器内の液体混合物を撹拌することにより、結晶化されたDCDPSは形成懸濁液中に保持され、結晶化されたDCDPSの沈殿、ひいては汚れが回避される。
【0101】
図示のように第2の供給ライン102を介して水を添加することの他に、供給ライン101に水を添加し、有機混合物と水を一緒に結晶化容器100に供給することも可能である。さらに、水および有機混合物も混合装置(図1に示さず)に供給し、混合装置から結晶化容器100に供給することも可能である。
【0102】
減圧により液体混合物中の水の沸点を下げることにより結晶化容器100内の液体混合物を冷却するために、真空ポンプ107に接続される排ガスライン105が設けられる。好適な真空ポンプ107は、例えば、液体リングポンプ、真空蒸気ジェットポンプ、または蒸気ジェットエジェクタである。結晶化容器100と真空ポンプ107の間で、凝縮器109が排ガスライン105に収容される。凝縮器109では、結晶化容器100内の沸騰した液体混合物から蒸発した水が冷却により凝縮される。そして、凝縮水は、ライン111を介して結晶化容器100内に戻される。さらに、結晶化から低沸点物質を除去するために取出しライン113が設けられ、このラインを介して凝縮水および低沸点物質が存在する場合には、工程から除去することができる。
【0103】
ドレンライン115により、結晶化されたDCDPSを含む懸濁液が結晶化容器100から取り出される。ドレンライン115は、好ましくは、固液分離ステップ、例えば、濾過、に接続される。
【0104】
冷却および結晶化のための結晶化容器100は、バッチ式または連続式のいずれでも運転させることができる。冷却および結晶化のための結晶化容器100がバッチ式で運転される場合、第1ステップにおいて、有機混合物および水を結晶化容器100に供給する。このとき、水および有機混合物は、同時にまたは次々に結晶化容器100に供給することができる。予め定めた充填レベルに達した後、有機混合物および水の供給を停止する。次のステップでは、結晶化容器100内の圧力が、液体混合物中の水の沸点が80~95℃の範囲にある圧力に到達するまで、結晶化容器100内の圧力を真空ポンプ107を用いて減圧する。減圧により液体混合物中の水は沸騰を開始し、水および低沸点物質が蒸発する。液体混合物中でDCDPSの飽和点に達すると、結晶化容器100内の圧力が上昇し、液体混合物が85~100℃の温度に加熱されてDCDPSが部分的に溶解され、均質なサイズの結晶核を達成することができる。この加熱段階の後、結晶化容器100内の圧力は再び低下される。この減圧により、液体混合物中の水の沸点が下がり、水が蒸発し、排ガスライン105を介して結晶化容器100から取り出される。凝縮器109では、蒸発した水が冷却により凝縮され、凝縮水は結晶化容器100に再利用される。この水の再利用は、DCDPSOの結晶化に導く、液体混合物の冷却を結果としてもたらす。減圧と液体の蒸発による結晶化容器内の温度低下は、その容器内の温度が10および30℃の間の範囲、好ましくは周囲温度になるまで継続される。
【0105】
この温度に達した後、結晶化容器100内の圧力は、液体混合物を加熱することなく、大気圧になるまで上昇される。したがって、結晶化容器100内で生成された懸濁液は、好ましくは、ドレンライン115を介して結晶化容器100から取り出される前に、周囲温度および周囲圧力を有する。
【0106】
結晶化容器100内の液体を冷却するためのこのプロセスにより、DCDPSが結晶化するであろう冷却された表面を提供する必要がない。したがって、結晶化の間に、壁面への固体堆積物は形成されない。しかしながら、液体混合物の温度が20~60℃の範囲の温度に低下した後に、追加冷却によって液体混合物の冷却を支援することが可能である。この追加冷却のために、例えば冷却可能な表面が提供され得る。これらの冷却可能な表面は、例えば、図に示すような冷却ジャケット117、または代替的にもしくは追加的に冷却コイルもしくは冷却バッフルとすることができる。
【0107】
結晶化容器100を連続的に運転する場合、有機混合物および水を供給ライン101および102を介して結晶化容器100に連続的に供給し、結晶化したDCDPSおよび有機溶媒を含む懸濁液をドレンライン115を介して結晶化容器100から連続的に除去する。連続プロセスでは、好ましくは、直列に接続された少なくとも2つの結晶化容器100が使用される。最初の結晶化容器100では、結晶化容器内の圧力は温度が40~90℃の範囲にある値に常に保たれ、最後の結晶化容器では、圧力は温度が-10~50℃の範囲にあるように保たれる。2より多い結晶化容器を使用する場合、最初と最後の結晶化容器の間の結晶化容器における圧力は、最初と最後の結晶化容器における温度の間にあり、すべての結晶化容器における温度は最初から最後の結晶化容器に向かって低下する。各結晶化容器100では、温度は、排ガスライン105を介して蒸発した溶媒を取出し、凝縮器109で蒸発した溶媒を冷却により凝縮し、凝縮した溶媒をライン111を介して結晶化容器100に戻すことにより設定される。
【0108】
連続運転時に凝縮器109へのガス流を一定に保つために、容器100と凝縮器109の間の排ガスライン105、または凝縮器109と容器100の間のライン111に追加のポンプを配置することが好ましい。
【実施例
【0109】
実施例
実施例1
4,4’-ジクロロジフェニルスルホン(DCDPS)を製造するために、1098gの4,4’-ジクロロジフェニルスルホキシド(DCDPSO)を2917gのn-ヘプタン酸に溶解させた。さらに、7.2gの硫酸を添加した。3時間かけて197gのHを添加し、溶液中のDCDPSOを酸化させた。
【0110】
得られたDCDPSとn-ヘプタン酸を含む有機混合物に、881gの水を97℃の温度で添加した。このようにして得られた混合物を、表1の冷却プロファイルに従って減圧することにより冷却した。
【0111】
【表1】
【0112】
本工程により、n-ヘプタン酸2480gおよびDCDPSを含む懸濁液を得た。
【0113】
この懸濁液を周囲温度で濾過し、約80質量%のDCDPS、16質量%のn-ヘプタン酸、4質量%の水を含む濾過ケーキを得た。濾過工程で濾過ケーキから分離された母液は、約78質量%のn-ヘプタン酸、約20質量%の水、約2.5質量%のDCDPSを含んでいた。懸濁液のろ過には、Sefar(登録商標) Tetex DLW 17-80000-SK 020 Pharmaのろ布で覆われたガラスのヌッチェ(nutsche)を使用した。濾過のために、500mbarの絶対圧をヌッチェの下に設定した。濾過後、濾過ケーキを乾燥空気で30秒間処理した。
【0114】
得られた結晶化物は、99.724質量%の4,4’-ジクロロジフェニルスルホキシド、0.031質量%の2,4’-ジクロロジフェニルスルホキシドおよび0.24質量%のヘプタン酸を含み、カラーインデックス APHA=17であった。
実施例2
DCDPSの製造のために、1000.2gのDCDPSOを3000gのn-ヘプタン酸に溶解させた。さらに、1.2gの硫酸を添加した。3時間40分かけて197.1gのHを添加し、溶液中のDCDPSOを酸化させた。得られたDCDPSを含む有機混合物の温度は93℃であった。
【0115】
DCDPSを分離するために、DCDPSを含む有機混合物を73Kの冷却ランプにより2時間38分間冷却することにより20℃の温度へと冷却し、その後、温度を20℃でさらに2時間34分間維持した。
【0116】
この工程で得られた懸濁液を周囲温度で濾過し、DCDPSを含むろ過ケーキを得た。このろ過ケーキを1.3kgの5%水性NaOHで洗浄し、その後1.3kgの水でそれぞれ2回洗浄した。洗浄したろ過ケーキを60℃の温度で16時間乾燥させ、乾燥したDCDPSを得た。
【0117】
この乾燥したDCDPSは、カラーインデックス APHA=99であり、n-ヘプタン酸の残存量は0.23質量%であった。
実施例3
DCDPSを製造するために、1000.3gのDCDPSOを3000gのn-ヘプタン酸に溶解させた。さらに、1.3gの硫酸を添加した。3時間40分かけて197.1gのHを添加し、溶液中のDCDPSOを酸化させた。得られたDCDPSを含む有機混合物の温度は94℃であった。
【0118】
得られたDCDPSおよびn-ヘプタン酸を含む有機混合物に、794gの水を90℃の温度で添加した。このようにして得られた混合物を、温度が74K下がるように5時間12分かけて減圧することにより、冷却した。冷却の間、有機混合物を撹拌した。
【0119】
この工程により得られた懸濁液を周囲温度で濾過し、DCDPSを含む濾過ケーキを得た。このろ過ケーキを5%NaOH水溶液1.3kgで洗浄し、さらに1.3kgの水でそれぞれ2回洗浄した。洗浄したろ過ケーキを60℃の温度で16時間乾燥させ、乾燥したDCDPSを得た。
【0120】
この乾燥したDCDPSは、カラーインデックス APHA=31であり、n-ヘプタン酸の残存量は0.16質量%であった。
図1
【国際調査報告】