(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-22
(54)【発明の名称】ジエステル系組成物の連続製造工程での反応制御方法
(51)【国際特許分類】
C07C 67/08 20060101AFI20221115BHJP
C07C 69/82 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
C07C67/08
C07C69/82 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022518289
(86)(22)【出願日】2021-06-03
(85)【翻訳文提出日】2022-03-22
(86)【国際出願番号】 KR2021006961
(87)【国際公開番号】W WO2021246809
(87)【国際公開日】2021-12-09
(31)【優先権主張番号】10-2020-0068019
(32)【優先日】2020-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チュー、イオン ウク
(72)【発明者】
【氏名】ジョン、ジェ フン
(72)【発明者】
【氏名】リー、ソン キュ
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC48
4H006BC10
4H006BC11
4H006BC31
4H006BD81
(57)【要約】
本発明は、反応器内に投入されるフィードと反応器内で生成される生成水の流量から反応の転化率を予想することができ、これにより、反応器の転化率を容易に制御することができる反応制御方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸とアルコールを反応させてジエステル系組成物を製造するジエステル系組成物の連続製造工程であって、
反応器に投入される前記ジカルボン酸および前記アルコールのフィード流量と前記反応器内で生成される生成水流量をモニタリングするステップ(S1)と、
モニタリング結果得られた前記フィード流量および前記生成水流量と前記反応器内の圧力を用いて、前記反応器内の予想転化率を計算するステップ(S2)と、
計算した前記予想転化率が目標転化率に近づくように前記反応器の温度および圧力を制御するステップ(S3)とを含むジエステル系組成物の連続製造工程での反応制御方法。
【請求項2】
前記予想転化率は、下記数学式1~4により計算される、請求項1に記載の反応制御方法。
[数学式1]
EC=A*FR
2+B*FR+C
[数学式2]
A=7.365P+10.415
[数学式3]
B=-1.3163P+19.461
[数学式4]
C=0.0609P+0.0435
前記数学式1~4中、
ECは、予想転化率であり、
FRは、ジカルボン酸およびアルコールのフィード流量に対する生成水流量の比(生成水流量/フィード流量)であり、
Pは、反応器内の圧力(kg/cm
2g)である。
【請求項3】
前記反応器の温度および圧力の制御後に変化した前記フィード流量および前記生成水流量を再モニタリングするステップ(S4)をさらに含む、請求項1または請求項2に記載の反応制御方法。
【請求項4】
再モニタリング結果得られたフィード流量および生成水流量を前記S2のステップの変数として使用する、請求項3に記載の反応制御方法。
【請求項5】
ジカルボン酸とアルコールとのモル比は1:1.5~1:4である、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の反応制御方法。
【請求項6】
前記連続製造工程は、直列連結された複数個の反応器を備える、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の反応制御方法。
【請求項7】
前記反応器内の温度は180~240℃である、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の反応制御方法。
【請求項8】
前記反応器内の温度は200~220℃である、請求項7に記載の反応制御方法。
【請求項9】
前記Pは0.1~1.0kg/cm
2gである、請求項2に記載の反応制御方法。
【請求項10】
前記Pは0.2~0.8kg/cm
2gである、請求項9に記載の反応制御方法。
【請求項11】
前記ジカルボン酸は、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸およびシクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸からなる群から選択される1種以上である、請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の反応制御方法。
【請求項12】
前記アルコールは、C4~C12アルコールである、請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の反応制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年6月5日付けの韓国特許出願第10-2020-0068019号に基づく優先権の利益を主張し、該当韓国特許出願の文献に開示されている全ての内容は、本明細書の一部として組み込まれる。
【0002】
本発明は、ジエステル系組成物の連続製造工程で反応器内の転化率が目標転化率に達するように制御する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
フタレート系可塑剤は、20世紀まで世界の可塑剤市場の92%を占めており(Mustafizur Rahman and Christopher S.Brazel 「The plasticizer market an assessment of traditional plasticizers and research trends to meet new challenges」 Progress in Polymer Science 2004,29,1223-1248参照)、主に、ポリ塩化ビニル(以下、PVCとする)に柔軟性、耐久性、耐寒性などを与え、溶融時に粘度を下げて加工性を改善するために使用される添加物であり、PVCに様々な含量で投入されて、硬いパイプのような硬質製品から、柔らかく伸びやすくて食品包装材および血液バッグ、床材などに使用可能な軟質製品に至るまで、如何なる材料よりも実生活と密接な関連性を有して人体との直接な接触が不可避な用途で広く使用されている。
【0004】
しかし、フタレート系可塑剤は、PVCとの相溶性および優れた軟質付与性にもかかわらず、最近、フタレート系可塑剤が含有されたPVC製品を実生活で使用する際、製品の外部に少しずつ流出され、内分泌系障害(環境ホルモン)推定物質および重金属水準の発癌物質として作用し得るという有害性論難が提起されている(N.R.Janjua et al.「Systemic Uptake of Diethyl Phthalate,Dibutyl Phthalate,and Butyl Paraben Following Whole-body Topical Application and Reproductive and Thyroid Hormone Levels in Humans」 Environmental Science and Technology 2007,41,5564-5570参照)。特に、1960年代の米国でフタレート系可塑剤のうちその使用量が最も多いジエチルヘキシルフタレート(di-(2-ethylhexyl)phthalate、DEHP)がPVC製品の外部に流出されるという報告が発表されてから、1990年代に入って環境ホルモンに関する関心が高まり、フタレート系可塑剤の人体有害性に関する様々な研究をはじめ、汎世界的な環境規制が行われ始めた。
【0005】
これに対し、多数の研究陣は、フタレート系可塑剤の流出による環境ホルモンの問題および環境規制に対応すべく、フタレート系可塑剤の製造時に使用される無水フタル酸が排除された新たな非フタレート系代替可塑剤を開発するか、フタレート系可塑剤の流出を抑制することで、人体為害性を著しく低減することは言うまでもなく、環境基準にも適合することができる流出抑制技術を開発するための研究を行っている。
【0006】
一方、非フタレート系可塑剤として、テレフタレート系可塑剤は、フタレート系可塑剤とは物性的な面で同等水準であるだけでなく、環境的な問題から自由な物質として脚光を浴びており、各種のテレフタレート系可塑剤が開発されている状況である。また、優れた物性を有するテレフタレート系可塑剤を開発する研究は言うまでもなく、このようなテレフタレート系可塑剤を製造するための設備に関する研究も活発に行われており、工程設計の面でより効率的且つ経済的であり、簡素な工程の設計が求められている。特に、既存の回分式反応器を用いていた工程から脱して、連続反応器を用いることで、可塑剤組成物の製造が連続的および効率的に行われるようにする工程に関する研究が活発に行われており、連続工程をより効率的および経済的に運転するための方法に関する研究も必要な状況である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】韓国登録特許第10-1354141号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Mustafizur Rahman and Christopher S.Brazel 「The plasticizer market an assessment of traditional plasticizers and research trends to meet new challenges」 Progress in Polymer Science 2004,29,1223-1248
【非特許文献2】N.R.Janjua et al.「Systemic Uptake of Diethyl Phthalate,Dibutyl Phthalate,and Butyl Paraben Following Whole-body Topical Application and Reproductive and Thyroid Hormone Levels in Humans」 Environmental Science and Technology 2007,41,5564-5570
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ジエステル系組成物の連続製造工程で反応器に投入されるフィードの流量と反応器内で生成される生成水の流量から反応器の転化率を簡単に予測し、予測した転化率により、製造工程での各反応器別の反応と全体的な反応を制御することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明は、ジカルボン酸とアルコールを反応させてジエステル系組成物を製造するジエステル系組成物の連続製造工程であって、
反応器に投入されるジカルボン酸およびアルコールのフィード流量と反応器内で生成される生成水流量をモニタリングするステップ(S1)と、モニタリング結果得られたフィード流量および生成水流量と反応器内の圧力を用いて、反応器内の予想転化率を計算するステップ(S2)と、計算した予想転化率が目標転化率に近づくように反応器の温度および圧力を制御するステップ(S3)とを含むジエステル系組成物の連続製造工程での反応制御方法を提供する。
【0011】
また、本発明は前記反応制御方法において、前記予想転化率は、下記数学式1~4により計算される反応制御方法を提供する。
[数学式1]
EC=A*FR2+B*FR+C
[数学式2]
A=7.365P+10.415
[数学式3]
B=-1.3163P+19.461
[数学式4]
C=0.0609P+0.0435
前記数学式1~4中、
ECは、予想転化率であり、
FRは、ジカルボン酸およびアルコールのフィード流量に対する生成水流量の比(生成水流量/フィード流量)であり、
Pは、反応器内の圧力(kg/cm2g)である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の反応制御方法を用いる場合、ジエステル系組成物の連続製造工程、特に複数個の反応器が直列連結されて各反応器での工程変数制御が重要な場合において、最初投入時のフィード流量と反応器内で生成される生成水の流量から簡単に反応器の転化率を制御することができ、これにより、全体的な工程での反応制御および最適化を可能にすることができる。また、複数個の反応器が直列連結された場合、各反応器での目標転化率を適切に設定することで、無駄に損失されるエネルギーまたは原料を最小化して、環境にやさしいとともに経済的な工程運転を可能にすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0014】
本明細書および特許請求の範囲にて使用されている用語や単語は、通常的または辞書的な意味に限定して解釈してはならず、発明者らは、自分の発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適宜定義することができるという原則に則って、本発明の技術的思想に合致する意味と概念に解釈すべきである。
【0015】
フタレート系可塑剤として例示されることができるエステル系可塑剤化合物は、従来の回分式反応器により製造されることが一般的であった。具体的には、回分式反応器に、反応原料となるカルボン酸とアルコールの全量を完全に投入した後、追加の反応原料の投入なしに目的とする最終転化率に至るまで反応を行い、最終製品に該当する可塑剤組成物は、非-連続的に1回に全量取得された。
【0016】
このような従来方法の場合、安定的に1回に多量の可塑剤組成物を取得することができる利点があったが、反応終了の後、反応器の水洗などをはじめ追加の処理が必要であるため、反応器が実際に稼働されない時間が長く、そのため、実際の工程設備を100%稼働することができないという欠点があった。したがって、既存の回分式反応器を用いた非-連続製造工程をより効率的な連続製造工程に変更する必要があった。
【0017】
ただし、1個の反応器により連続製造工程を実現する場合、十分な転化率を達成することができないため、連続製造工程では、複数個の反応器を直列連結して使用する必要がある。しかし、複数個の反応器を直列連結して使用する場合には、各反応器別に適切な反応条件を設ける必要があり、各反応器での転化率も適切に制御したときに最終的に製造される可塑剤組成物の優れた物性を確保することができるため、工程運転の難易度が高く、最適の工程条件を見出すまで多くの試行錯誤を重ねなければならないというさらに他の問題が存在した。
【0018】
このような問題に着目して研究を重ねた結果、本発明の発明者らは、連続製造工程の運転時に運転者が簡単に確認し制御することができるフィードおよび生成水の流量から反応器内の転化率を小さな誤差で予測することができ、予測した転化率を用いて、反応器の転化率を実際目標とする値に近く制御することができる本発明を完成するに至った。
【0019】
具体的には、反応器に投入されるジカルボン酸およびアルコールのフィード流量と反応器内で生成される生成水流量をモニタリングするステップ(S1)と、モニタリング結果得られたフィード流量および生成水流量と反応器内の圧力と温度を用いて、反応器内の予想転化率を計算するステップ(S2)と、計算した予想転化率が目標転化率に近づくように反応器の温度および圧力を制御するステップ(S3)とを含むジエステル系組成物の連続製造工程での反応制御方法を提供する。
【0020】
以下で、本発明の反応制御方法についてステップ別に分けて説明する。
【0021】
モニタリングステップ(S1)
本発明を用いて転化率を制御するためには、最初に反応器に投入されるフィード、すなわち、ジカルボン酸とアルコールの流量と当該反応器で生成される生成水の流量をモニタリングしなければならない。本ステップで確認されたジカルボン酸、アルコールおよび生成水の流量は、次のステップで反応器の転化率を予測するための重要な因子になる。
【0022】
具体的には、生成水流量の場合、反応器に備えられた還流装置によりモニタリングすることができる。ジカルボン酸とアルコールとのエステル化反応は、副生成物として水を形成し、エステル化反応が行われる温度は、水の沸点より高い温度であるため、反応途中に気体状態の生成水が発生し続ける。このような生成水は、反応に参加しないが、反応器内部への熱伝達を妨げる要因になるため、反応器の内部から除去される必要があり、気体状態の生成水、すなわち、水蒸気は、反応器の上部に位置するため、反応器の上部に還流装置を備えて生成水を除去することが一般的である。
【0023】
前記還流装置としては、工程技術分野において頻繁に適用されるものなどを使用することができる。例えば、前記還流装置は、反応器の上部と連結されたウォーターストリッパーカラムを含むことができる。反応器の上部を介して還流装置に流入された気体状態の生成水は、カラムでまた液化し、生成水とともに気化した一部の反応原料もともに液化し、この過程で生成された混合液体は、別の設備、例えば、層分離機を介して反応原料と生成水とに分離することができる。分離した反応原料はまた反応器に投入されて再使用することができ、生成水は外部に排出される。本発明でモニタリングする生成水流量は、この過程中に外部に排出される生成水の流量に該当し、流量測定に使用される一般的な設備で前記生成水流量をモニタリングすることができる。
【0024】
一方、生成水のうち一部は気化せず反応器に残存するか、反応原料および反応生成物とともに次の反応器に移送されて外部に流出されないこともあるが、反応が行われる温度は、水の沸点より相当水準の高い温度であるため、外部に流出されない生成水の量は実質的に非常に微小である。したがって、本ステップでモニタリングする生成水流量は、実質的に各反応器で生成される生成水の全量を意味し得る。
【0025】
アルコールとジカルボン酸の流量の場合、工程を運転しようとする者が選択することができる値であり、運転者は、反応器の個数、大きさ、最終的に取得しようとするジエステル系組成物の組成比や量などを考慮して、反応器に投入されるジカルボン酸とアルコールの流量を選択することができる。
【0026】
反応器が1個である時に、前記ジカルボン酸とアルコールの流量はさらに考慮する要素がないが、複数個の反応器が直列連結された場合に対しては、最初に投入されたジカルボン酸とアルコールのうち一部のみが次の反応器に移送されるため、前段反応器で反応して生成物に転換されたジカルボン酸とアルコールの量をさらに考慮しなければならない。具体的には、2番目の反応器の後の反応器に対しては、その前段反応器から予測された転化率により、投入されるアルコールとジカルボン酸の流量を計算してモニタリングすることができる。
【0027】
例えば、1番目の反応器に投入されるジカルボン酸の流量が100kg/hrであり、アルコールの流量は200kg/hrであり、モニタリング結果測定された1番目の反応器での生成水流量が50kg/hrであり、これと後述する数学式1~4を用いて計算された1番目の反応器での予測転化率が50%であると想定すると、2番目の反応器に投入されるジカルボン酸の流量は、最初に投入されたジカルボン酸流量100kg/hrのうち50%が転換されて残った50%に該当する50kg/hr、2番目の反応器に投入されるアルコール流量は、最初に投入されたアルコール流量200kg/hrのうち50%が転換されて残った100kg/hrである。
【0028】
前記で予想した各反応器に投入されるジカルボン酸およびアルコール流量と反応器から生成され排出される生成水流量を用いて、次のステップで各反応器の予想転化率を求めることができる。
【0029】
一方、ジカルボン酸とアルコールとのモル比は、1:1.5~1:4であることができ、好ましくは1:1.8~1:3.8、特に好ましくは1:1.9~1:3.5であることができる。前記ジカルボン酸とアルコールとの重量比は、ジカルボン酸とアルコールの分子量に応じて変化し得るが、その重量比をモル比に換算した時には、前記範囲であることが好ましい。1分子のジカルボン酸は、2分子のアルコールと反応するため、投入される反応原料の全量が反応生成物に転換され、反応をスムーズに行うために、アルコールが過量投入され得るという観点で、ジカルボン酸とアルコールとのモル比は前記範囲であることが好ましく、前記範囲内である時に、予想転化率と実際転化率との誤差が特に小さいという利点がある。
【0030】
予想転化率計算ステップ(S2)
前記モニタリングステップで確認したジカルボン酸、アルコールおよび生成水の流量と反応器内の温度と圧力から、当該反応器の予想転化率(EC)を計算することができる。具体的には、ジカルボン酸およびアルコールのフィード流量に対する生成水流量の比が大きいほど反応がさらに進められたことを意味するため、前記流量比は、予想転化率を決定する一つの因子になる。また、反応器内の温度と圧力は、反応の平衡を移動させることができるため、各反応器内での予想転化率を決定する因子として作用することができる。
【0031】
より具体的には、前記予想転化率は、下記数学式1~4により計算することができる。
[数学式1]
EC=A*FR2+B*FR+C
[数学式2]
A=7.365P+10.415
[数学式3]
B=-1.3163P+19.461
[数学式4]
C=0.0609P+0.0435
前記数学式1~4中、
ECは、予想転化率であり、
FRは、ジカルボン酸およびアルコールのフィード流量に対する生成水流量の比(生成水流量/フィード流量)であり、
Pは、反応器内の圧力(kg/cm2g)である。
【0032】
前記数学式1は、流量比から予想転化率を計算するための式であり、前記数学式2~4は、数学式1の係数または定数であるA、BおよびCの値が、反応器内の圧力に応じて変化する値であることを示したものである。
【0033】
数学式1において、FRは、ジカルボン酸およびアルコールフィードの流量に対する反応器内で生成された生成水流量の比であり、反応器に投入されるジカルボン酸とアルコールの合算流量に対してどの程度の生成水が生成されたかを示す指標である。本発明の発明者らは、実際転化率が前記FR値を変数とする二次関数の結果値と相関性があることを見出し、前記数学式1を導き出した。また、前記数学式1での係数および定数は、反応器内の圧力に応じて変化することから、数学式2~4を導き出した。
【0034】
前記数学式1~4を用いて予想転化率を計算する場合、実際転化率と非常に近い予想転化率の値が導き出され、これにより、各反応器での転化率を制御することができる。
【0035】
転化率制御ステップ(S3)
先の予想転化率計算ステップで導き出された予想転化率の値を用いて計算した予想転化率が目標転化率に近づくように、反応器の温度および圧力を制御するステップが以降行われることができる。
【0036】
目標転化率の具体的な値は、発明を実施する者が目的とする最終組成物での組成成分および組成比、反応器の個数や大きさ、実際適用される具体的な工程条件に応じて変化することができ、実施者らは、先のステップで実時間で導き出される予想転化率の値が目標転化率に近づくように、各反応器の圧力および/または温度を実時間調節することができる。
【0037】
例えば、圧力調節の場合、先の数学式2~4から確認したように、反応器内の圧力に応じて数学式1での係数および定数が変化するため、圧力を適切に制御することで、予想転化率がより高くなるか、より低くなるように制御することができる。
【0038】
温度調節の場合、反応の発熱または吸熱可否やその他の反応条件に応じて温度調節が転化率の調節につながり得、このような点を用いて、予想転化率が目標転化率に近づくように各反応器の温度を調節することができる。
【0039】
本ステップ中に各反応器の温度と圧力を調節する場合や最初に反応器の温度と圧力を設定する場合において、反応器内の温度は、180~240℃であることができ、好ましくは200~220℃であることができる。上述の範囲内の温度が適用される時に、転化率の制御が容易であり、且つ予想転化率と実際転化率との誤差が少ないという利点がある。
【0040】
また、反応器内の圧力、すなわち、数学式1~4でのPは、0.1~1.0kg/cm2gであることができ、好ましくは0.2~0.8kg/cm2gであることができる。温度の場合と同様、上述の範囲内の圧力が適用される時に、転化率の制御が容易であり、且つ予想転化率と実際転化率との誤差が少ないという利点がある。
【0041】
再モニタリングステップ(S4)
本発明の反応制御方法は、反応器の温度および圧力の制御後に変化したフィード流量および生成水流量を再モニタリングするステップ(S4)をさらに含むことができる。
【0042】
本発明の反応制御方法は、1回に制御を完了するものではなく、制御結果による変化を再モニタリングし、そのモニタリング結果をまた制御のための土台として制御を繰り返すことで、制御の誤差を減少させるものであり得る。
【0043】
具体的には、先のステップにより計算された予想転化率を用いて各反応器別の温度と圧力を制御したとしても、各反応器別の転化率が目標転化率にすぐ近似するものではない。したがって、本発明の反応制御方法では、前記再モニタリングステップを経ることで、制御結果を繰り返してフィードバックすることができ、それにより、高い正確度で反応制御を行うことができる。
【0044】
本再モニタリングステップにおいて、再モニタリング結果得られたフィード流量および生成水流量は、S2ステップの変数として使用されることができ、これによって、S2-S3-S4-S2ステップの循環により、より正確度の高い反応制御を行うことができる。
【0045】
本発明の反応制御方法が適用されることができる連続製造工程は、1個の反応器を備えたものであり得るが、好ましくは、直列連結された複数個の反応器を備えたものである。これは、上述のように、連続工程で1個の反応器だけで十分な転化率を達成し難いという点のためであるが、本発明が1個の反応器のみを備えた連続製造工程に適用されることができないことを意味するのではなく、1個の反応器に対しても数学式1~4が有効に適用されることができる。
【0046】
本発明の反応制御方法に適用されることができるジカルボン酸は、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸およびシクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸からなる群から選択される1種以上であることができ、アルコールは、C4~C12アルコールであることができる。ジカルボン酸とアルコールがこのような種類である時に、予想転化率と実際転化率との誤差が特に少ないという利点がある。
【0047】
以下、本発明の理解を容易にするために、好ましい実施例を提示する。しかし、下記の実施例は、本発明を例示するものであって、本発明の範囲を限定するためのものではない。
【0048】
実施例1~20
反応原料としてはテレフタル酸と2-エチルヘキサノールを選択し、シミュレーションプログラムであるASPEN PLUSにより、本発明の反応制御方法が有効性を有することを確認した。具体的には、テレフタル酸と2-エチルヘキサノールの各流量は、13,000kg/hrと8,000kg/hrと設定し、その比率をモル比に換算した時に1:2になるようにした。生成水の流量は転化率から計算した。反応器としては1個のCSTR反応器を使用し、圧力と温度を異ならせた総20個の実施例に対して、実際転化率がどのように異なるかと、その場合、数学式1~4から計算される予想転化率を求め、下記表1としてまとめた。
【0049】
【0050】
【0051】
前記表1から確認することができるように、本発明の数学式1~4により計算した予想転化率は、実際転化率と比較してほぼ類似した値を示し、その誤差範囲も0.01%水準に過ぎず、高い正確性で反応器の転化率を予想することができることを確認した。
【0052】
したがって、本発明により転化率を予想した後、これに基づいて温度および圧力の制御により反応器の転化率を目標転化率に近く変化させることができる。また、温度および圧力の制御の結果、実際転化率が目標転化率に近づいたかも制御後のモニタリングおよび予想転化率の計算により確認することができ、本発明を用いる場合、工程に対する連続したフィードバックを簡単に行うことができる。
【国際調査報告】