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特表2022-550936混合炭酸塩または混合(オキシ)水酸化物を沈殿させる方法
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  • 特表-混合炭酸塩または混合(オキシ)水酸化物を沈殿させる方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-06
(54)【発明の名称】混合炭酸塩または混合(オキシ)水酸化物を沈殿させる方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 53/00 20060101AFI20221129BHJP
   H01M 4/52 20100101ALI20221129BHJP
   H01M 4/50 20100101ALI20221129BHJP
【FI】
C01G53/00 A
H01M4/52
H01M4/50
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022518368
(86)(22)【出願日】2020-09-03
(85)【翻訳文提出日】2022-03-22
(86)【国際出願番号】 EP2020074623
(87)【国際公開番号】W WO2021063624
(87)【国際公開日】2021-04-08
(31)【優先権主張番号】19200858.9
(32)【優先日】2019-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【弁理士】
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【弁理士】
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【弁理士】
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】バイアーリンク,トルシュテン
(72)【発明者】
【氏名】ケスペ,ミヒャエル,アンドレアス
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AA08
4G048AB02
4G048AC06
4G048AD04
4G048AE05
5H050AA07
5H050AA08
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050GA10
5H050GA12
5H050HA12
(57)【要約】
混合炭酸塩または混合(オキシ)水酸化物を沈殿させる方法
ニッケル塩を含む水溶液からニッケルを含む混合炭酸塩または混合(オキシ)水酸化物を沈殿させる方法であって、この方法は、(A)容器本体と、(B)ドラフトチューブおよびガイドベーンから選択される1つ以上の要素と、(C)圧力ゾーンが要素(B)(単数または複数)の中または間にある少なくとも1つの撹拌機と、を備えた容器で実施され、
前記方法は、要素(B)(単数または複数)の中または間のニッケル塩を含む前記溶液と、要素(B)(単数または複数)の中または間または外のアルカリ金属炭酸塩または水酸化物の溶液とを同時に添加する工程を含む、方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル塩を含む水溶液からニッケルを含む混合炭酸塩または混合(オキシ)水酸化物を沈殿させる方法であって、この方法は、
(A)容器本体と、
(B)ドラフトチューブおよびガイドベーンから選択される1つ以上の要素と、
(C)圧力ゾーンが要素(B)(単数または複数)の中または間にある少なくとも1つの撹拌機と、
を備えた容器で実施され、
前記方法は、要素(B)(単数または複数)の中または間のニッケル塩を含む前記溶液と、要素(B)(単数または複数)の中または間または外のアルカリ金属炭酸塩または水酸化物の溶液とを同時に添加する工程を含む、方法。
【請求項2】
圧力ゾーンを有する2つの攪拌機(C)が、要素(B)(単数または複数)の中または間に配置される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
そのような撹拌器(C)の撹拌要素が、ピッチブレードタービン、プロペラ、および水中翼から選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
要素(B)が前記容器の内面に取り付けられる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
要素(B)が、前記容器の蓋と前記容器の側壁との間に取り付けられる、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記容器がタンク反応器である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記反応器が、前記工程で形成されたスラリーから母液を抜き出す(D)固液分離装置をさらに含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記方法が、3から16μmの範囲の平均粒径(D 50)を有するNi、CoおよびMnから選択される少なくとも2種の異なる遷移金属を含む混合水酸化物またはオキシ水酸化物を沈殿させる方法である、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記方法が、3から16μmの範囲の平均粒径(D 50)を有するNi、CoおよびMnから選択される少なくとも2種の異なる遷移金属を含む混合炭酸塩を沈殿させる方法である、請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記方法が連続プロセスである、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル塩を含む水溶液からニッケルを含む混合炭酸塩または混合(オキシ)水酸化物を沈殿させる方法であって、この方法は、
(A)容器本体と、
(B)ドラフトチューブおよびガイドベーンから選択される1つ以上の要素と、
(C)圧力ゾーンが要素(B)(単数または複数)の中または間にある少なくとも1つの撹拌機と、
を備えた容器で実施され、
前記方法は、要素(B)(単数または複数)の中または間のニッケル塩を含む前記溶液と、要素(B)(単数または複数)の中または間または外のアルカリ金属炭酸塩または水酸化物の溶液とを同時に添加する工程を含む、方法に関する。
【0002】
リチウムイオン二次電池は、エネルギーを貯蔵するための現代の装置である。携帯電話およびラップトップコンピュータなどの小型デバイスから、自動車のバッテリおよびエレクトロモビリティ用の他のバッテリまで、多くの応用分野が考えられてきた。電池の様々な構成要素は、電解質、電極材料、およびセパレータなどの電池の性能に関して決定的な役割を有する。カソード材料に特に注意が払われてきた。リン酸鉄リチウム、コバルト酸リチウム、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物などのいくつかの材料が提案されている。広範な研究が行われてきたが、これまでに見出された解決策には依然として改善の余地がある。
【0003】
電極材料は、リチウムイオン電池の特性にとって極めて重要である。リチウム含有混合遷移金属酸化物、例えばスピネルおよび層状構造の混合酸化物、特にニッケル、マンガンおよびコバルトのリチウム含有混合酸化物は、特に重要性を得ている。例えば、EP1 189 296を参照されたい。しかしながら、電極材料の化学量論だけでなく、形態および表面特性などの他の特性も重要である。
【0004】
対応する混合酸化物は、一般に2段階プロセスを用いて調製される。第1の段階では、遷移金属(単数または複数)の難溶性塩を、溶液、例えば炭酸塩または水酸化物から沈殿させることによって調製する。この難溶性塩は、多くの場合、前駆体とも呼ばれる。第二段階では、遷移金属(単数または複数)の沈殿した塩をリチウム化合物、例えばLi 2 CO 3、LiOHまたはLi 2 Oと混合し、高温、例えば600から1100°Cで焼成する。
【0005】
既存のリチウムイオン電池は、特にエネルギー密度に関して、依然として改善の可能性がある。この目的のために、カソード材料は高い比容量を有するべきである。カソード材料を単純な方法で処理して20μm~200μmの厚さの電極層を得ることができる場合も有利であり、これは最大エネルギー密度(単位体積当たり)および高いサイクル安定性を達成するために高密度を有するべきである。
【0006】
WO 2009/024424は、3つの工程からなる塩基性遷移金属水酸化物の調製方法を開示している。これらは、以下のように特徴付けることができる。
a)少なくとも第1の出発溶液および第2の出発溶液を提供する工程と、
b)少なくとも前記第1の出発溶液および前記第2の出発溶液を反応器内で組み合わせて、少なくとも2ワット/リットルの比機械的動力入力(specific mechanical power input)を有する均一に混合された反応ゾーンを生成し、不溶性生成物と、過剰のアルカリを設定することによって過飽和化され、10から12のpHを有する母液とを含む生成物懸濁液を生成する工程と、
c)母液を沈殿生成物から部分的に分離して、清澄化要素または濾過要素によって懸濁液中に少なくとも150 g/lの固形分を設定する工程。
【0007】
しかしながら、大量の溶液または懸濁液への比較的大量の機械的エネルギーの均一な導入は、装置の観点から困難である。
【0008】
WO 2012/095381およびWO 2013/117508には、区画を有する容器が使用される、水酸化物または炭酸塩の沈殿方法が開示されている。多くのエネルギーがそれぞれの区画(単数または複数)に導入される。しかし、商業規模で前記方法を実施することは困難である。
【0009】
本発明の目的は、均質な形態を有する混合水酸化物を高スループットで沈殿させる方法を提供することであった。
【0010】
したがって、冒頭で定義された方法が見出され、以下「本発明の方法」または「(本)発明による方法」とも呼ばれる。本発明の方法は、バッチ法として、または連続または半連続法として実施することができ、連続法が好ましい。
【0011】
本発明の方法は、ニッケル塩の水溶液からニッケルを含む炭酸塩または(オキシ)水酸化物を沈殿させる方法に関する。
【0012】
本発明の好ましい実施形態では、本発明の方法に従って沈殿した炭酸塩または(オキシ)水酸化物は、マンガンおよびコバルトから選択される少なくとも1種以上の遷移金属を含む。
【0013】
本発明による方法は、炭酸塩または(オキシ)水酸化物の調製に関する。本発明の文脈において、「水酸化物」は水酸化物を指し、化学量論的に純粋な水酸化物だけでなく、特に遷移金属カチオンおよび水酸化物イオンと同様に、水酸化物イオン以外のアニオン、例えば酸化物イオンおよび炭酸イオン、および/または遷移金属カチオン以外のカチオンも有する化合物も含む。
【0014】
本発明の一実施形態において、水酸化物は、アニオンの総数に基づいて、水酸化物イオン以外のアニオンを0.01~45モル%、好ましくは0.5~40モル%有していてもよい。水酸化物以外の好ましいアニオンは炭酸塩である。硫酸塩が出発材料として使用された実施形態では、硫酸塩も不純物として存在し得る。
【0015】
本発明の文脈において、「炭酸塩」は、化学量論的に純粋な炭酸塩だけでなく、特に金属カチオンおよび炭酸イオンと同様に、炭酸塩以外のアニオン、例えば酸化物イオンおよび水酸化物イオンも有する化合物も含む。本発明の文脈において、「炭酸塩」では、炭酸塩のモル量は、他のすべてのアニオンのモル量の合計よりも高く、例えば60モル%、好ましくは少なくとも80モル%である。
【0016】
本発明の一実施形態では、炭酸塩は、アニオンの総数に基づいて、炭酸イオン以外のアニオンを0.01から45モル%、好ましくは0.5から40モル%含む種を指し得る。炭酸塩以外の好ましいアニオンは、酸化物である。硫酸塩が出発材料として使用された実施形態では、硫酸塩も不純物として存在し得る。
【0017】
本発明の文脈において、オキシ水酸化物は、1:10から10:1の任意のモル比の酸化物アニオンおよび水酸化物アニオンを有し得、酸化物および水酸化物の合計は、酸化物および水酸化物以外のアニオンのモル合計よりも大きい。
【0018】
本発明の方法に従って製造された炭酸塩または(オキシ)水酸化物は、ニッケルを含む。好ましい実施形態では、本発明に従って製造された炭酸塩または(オキシ)水酸化物は、ニッケルと、CoおよびMnから選択される少なくとも1種の金属とを含む。NiおよびCoおよびAlからの組み合わせ、ならびにNiおよびCoおよびMnからの組み合わせが好ましい。
【0019】
本発明の一実施形態において、(オキシ)水酸化物又は炭酸塩は、遷移金属カチオンの含有量に基づいて、遷移金属カチオン以外のカチオンを0.01~20モル%、好ましくは0.2~15.0モル%有する。好ましい非遷移金属カチオンはAl 3+である。
【0020】
本発明の一実施形態において、(オキシ)水酸化物は、一般式(I)NiaM 1 bMncOx(OH)y(CO 3t(I)に対応し、ここで、変数はそれぞれ以下のように定義される。
【0021】
M 1は、CoまたはCoとTi、Zr、AlおよびMgから選択される少なくとも1種の元素との組み合わせであり、
aは、0.15から0.95、好ましくは0.5から0.9の範囲の数であり、
bは、0.05から0.75、好ましくは0.1から0.4の範囲の数であり、
cは、0から0.8、好ましくは0.05から0.65の範囲の数であり、
式中、a+b+c=1.0であり、
0≦x<1、好ましくは0.3<x<1、
1<y≦2.2、好ましくは1<y<2、
0≦t≦0.3である。
【0022】
他の実施形態では、0.5≦t≦1.0、0≦y≦1.0、および0≦x<0.2である。
【0023】
多くの元素が偏在している。例えば、ナトリウム、銅および塩化物は、実質的にすべての無機材料において特定の非常に小さい割合で検出可能である。本発明の文脈において、0.01質量%未満のカチオンまたはアニオンの割合は無視される。したがって、0.01質量%未満のナトリウムを含む本発明の方法に従って得られた任意の(オキシ)水酸化物又は炭酸塩は、本発明の文脈においてナトリウムを含まないと考えられる。
【0024】
本発明の一実施形態では、本発明の方法は、光散乱によって測定して3から16μm、好ましくは4から6または8から12μmの範囲の平均粒径(D 50)を有する混合水酸化物またはオキシ水酸化物を沈殿させる方法である。他の実施形態では、平均粒径(D 50)は、12から14μmの範囲である。
【0025】
本発明の一実施形態において、本発明の方法は、光散乱によって測定して3から16μm、好ましくは4から6または8から12μmの範囲の平均粒径(D 50)を有する混合炭酸塩を沈殿させる方法である。他の実施形態では、平均粒径(D 50)は、12から14μmの範囲である。
【0026】
本発明による方法は、少なくとも2種の異なる金属塩の少なくとも1種の水溶液を、少なくとも1種のアルカリ金属水酸化物または(水素)炭酸塩の少なくとも1種の水溶液と組み合わせることによって実施される。
【0027】
本発明の文脈において、ニッケルと、-任意に-マンガンおよびコバルトから選択される少なくとも1種以上の遷移金属と、-任意に-Al 3+またはMg 2+などの少なくとも1種以上のカチオンとの水溶液は、略して遷移金属塩の水溶液とも呼ばれる。
【0028】
金属塩の水溶液遷移は、ニッケル塩を含む。ニッケル塩の例は、特に水溶性ニッケル塩、すなわち、室温で測定して蒸留水中で少なくとも25 g/l、好ましくは少なくとも50 g/lの溶解度を有するニッケル塩である。ニッケルの好ましい塩は、例えば、ニッケルのカルボン酸塩、特に酢酸塩、および硫酸塩、硝酸塩、ハロゲン化物、特に臭化物または塩化物の塩であり、ニッケルはNi+2として存在する。
【0029】
遷移金属塩の水溶液は、少なくとも1種のさらなる遷移金属塩、好ましくは2または3種のさらなる遷移金属塩、特に2または3種の遷移金属の塩、またはコバルトおよびアルミニウムの塩を含み得る。適切な遷移金属塩は、特に、遷移金属(単数または複数)の水溶性塩、すなわち、室温で決定される蒸留水中で少なくとも25 g/l、好ましくは少なくとも50 g/lの溶解度を有する塩である。好ましい遷移金属塩、特にコバルトおよびマンガンの塩は、例えば、遷移金属のカルボン酸塩、特に酢酸塩、ならびに硫酸塩、硝酸塩、ハロゲン化物、特に臭化物または塩化物であり、遷移金属(単数または複数)は好ましくは+2酸化状態で存在する。このような溶液は、好ましくは2から7の範囲、より好ましくは2.5から6の範囲のpHを有する。しかし、Tiおよび/またはZrは、該当する場合、+4の酸化状態で存在する。アルミニウムは、+3の酸化状態に存在し、例えば、アルミン酸ナトリウムとして、またはアルミニウムの酢酸塩もしくは硫酸塩として導入され得る。
【0030】
本発明の一実施形態では、水と同様に、1種以上の有機溶媒、例えばエタノール、メタノールまたはイソプロパノールを含む金属塩の水溶液から開始し、例えば水に対して最大15%の体積までであってもよい。本発明の別の実施形態は、水に対して0.1%未満、または好ましくは有機溶媒を含まない遷移金属塩の水溶液から開始する。
【0031】
本発明の一実施形態では、使用される遷移金属塩の水溶液は、アンモニア、アンモニウム塩または1種以上の有機アミン、例えばメチルアミンまたはエチレンジアミンを含む。アンモニアまたは有機アミンは、別々に添加することができ、または水溶液中の遷移金属塩の錯塩の解離によって形成することができる。遷移金属塩の水溶液は、好ましくは、遷移金属Mに基づいて、10 モル%未満のアンモニアまたは有機アミンを含む。本発明の特に好ましい実施形態では、遷移金属塩の水溶液は、アンモニアまたは有機アミンのいずれかの測定可能な割合を含まない。
【0032】
好ましいアンモニウム塩は、例えば、硫酸アンモニウムおよび亜硫酸アンモニウムであり得る。
【0033】
遷移金属塩の水溶液は、例えば、0.01~5 モル/lの溶液、好ましくは1~3 モル/lの溶液の範囲の遷移金属(単数または複数)の全濃度を有し得る。
【0034】
本発明の一実施形態では、遷移金属塩の水溶液中の遷移金属のモル比は、前駆体として使用されるカソード材料または混合遷移金属酸化物中の所望の化学量論比に調整される。異なる遷移金属炭酸塩の溶解度が異なり得るという事実を考慮することが必要な場合がある。
【0035】
遷移金属塩の水溶液は、遷移金属塩の対イオンと同様に、1種以上のさらなる塩を含み得る。これらは、好ましくは、Mと難溶性塩を形成しない塩、またはpH変化の場合に炭酸塩の沈殿を引き起こす可能性がある、例えばナトリウム、カリウム、マグネシウムもしくはカルシウムの重炭酸塩である。そのような塩の一例は硫酸アンモニウムである。
【0036】
本発明の別の実施形態では、遷移金属塩の水溶液はさらなる塩を含まない。
【0037】
本発明の一実施形態では、遷移金属塩の水溶液は、殺生物剤、錯化剤、例えばアンモニア、キレート剤、界面活性剤、還元剤、カルボン酸および緩衝剤から選択され得る1種以上の添加剤を含み得る。本発明の別の実施形態では、遷移金属塩の水溶液は添加剤を含まない。
【0038】
遷移金属塩の水溶液中に存在し得る適切な還元剤の例は、亜硫酸塩、特に亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム(NaHSO 3)、亜硫酸カリウム、亜硫酸水素カリウム、亜硫酸アンモニウム、ならびにヒドラジンおよびヒドラジンの塩、例えばヒドラジンの硫酸水素塩、ならびに水溶性有機還元剤、例えばアスコルビン酸またはアルデヒドである。
【0039】
組み合わせは、少なくとも1種のアルカリ金属水酸化物の水溶液を用いて、例えば、アルカリ金属水酸化物の溶液を遷移金属塩の水溶液に添加することによって行われる。特に好ましいアルカリ金属水酸化物は水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムであり、水酸化ナトリウムが最も好ましい。
【0040】
本発明の一実施形態では、沈殿は、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムの水溶液を、遷移金属塩の酢酸塩、硫酸塩または硝酸塩の水溶液に添加することによってもたらされる。
【0041】
(オキシ)水酸化物が沈殿する実施形態では、金属対水酸化物のモル比が1:2.0~1:2.5の範囲内にあるように、塩対水酸化物の化学量論を制御することが好ましい。
炭酸塩が沈殿する実施形態では、金属対炭酸塩のモル比が1:1から1:1.25の範囲内にあるように、塩対炭酸塩の化学量論を制御することが好ましい。
【0042】
アルカリ金属水酸化物の水溶液は、0.1から10 モル/l、好ましくは1から7.5 モル/lの範囲の水酸化物濃度を有し得る。
【0043】
アルカリ金属水酸化物の水溶液は、1種以上のさらなる塩、例えばアンモニウム塩、特に水酸化アンモニウム、硫酸アンモニウムまたは亜硫酸アンモニウムを含み得る。一実施形態では、0.01から0.9、より好ましくは0.08から0.65のNH 3と遷移金属のモル比を確立することができる。
【0044】
本発明の一実施形態では、アルカリ金属水酸化物の前記水溶液は、アンモニアまたは1種以上の有機アミン、例えばメチルアミンを含み得る。
【0045】
本発明の別の実施形態では、1種以上のアンモニウム塩、アンモニアまたは1種以上の有機アミンを反応混合物に別々に添加することができる。
【0046】
組み合わせは、1つ以上の工程で、各場合において連続的またはバッチ式で実行することができる。いくつかの組み合わせた工程が望ましい場合、同様に設計されたまたは同一の連続撹拌タンク反応器のカスケードで本発明の方法を実施することが好ましい。いずれの場合も、ニッケル塩を含む前記水溶液およびアルカリ金属水酸化物またはアルカリ金属炭酸塩を含む水溶液は同時に添加され、すなわち、それらは前記容器内で組み合わされる。
【0047】
本発明の一実施形態では、アルカリ金属水酸化物の水溶液が、それぞれ別々の供給点を介して、塩として本発明による方法の実施に望ましいすべての遷移金属を含む水溶液と共に撹拌容器に供給されるように、組み合わせられる。後者の手順は、異なる遷移金属の濃度比の不均一性をより容易に回避することができるという利点を有する。例えば、アルカリ金属水酸化物の溶液は、1つ以上の供給点を介して、特定の供給点が液面より上または下になるように撹拌容器に供給することができる。より具体的には、撹拌槽反応器内の撹拌機によって生成された圧力ゾーンに計量添加を行うことができる。
【0048】
本発明の一実施形態では、さらに、1つ以上の供給点、例えば最大3つの供給点を介して、特定の供給点が液面より下になるように、撹拌容器内にニッケルを含む水溶液を計量することが可能である。
【0049】
本発明の方法は、要素(単数または複数)(B)の中または間にニッケル塩を含む前記溶液と、要素(B)(単数または複数)の中または間または外、好ましくは要素(単数または複数)(B)の外にアルカリ金属炭酸塩または水酸化物の前記溶液とを同時に添加する工程を含む。
【0050】
本発明の一実施形態では、本発明の方法は、20から90°C、好ましくは30から80°C、より好ましくは35から75°Cの範囲の温度で実施することができる。温度は撹拌容器内で決定される。
【0051】
ニッケル塩を含む水溶液とアルカリ金属水酸化物の少なくとも1種の溶液との組み合わせは、水酸化ニッケルが沈殿するため、ニッケルを含む混合水酸化物の水性懸濁液を生成する。本発明の文脈において母液とも呼ばれる水性連続相は、水溶性塩および場合により溶液中に存在するさらなる添加剤を含む。可能な水溶性塩の例としては、対応するアンモニウム塩、例えば硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウムおよび/またはハロゲン化アンモニウムを含む、遷移金属の対イオンのアルカリ金属塩、例えば酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、ハロゲン化ナトリウム、ハロゲン化カリウムが挙げられる。母液は、最も好ましくは塩化ナトリウム、塩化カリウムまたは塩化アンモニウムを含む。母液は、追加の塩、使用される任意の添加剤および任意の過剰のアルカリ金属水酸化物、ならびに遷移金属塩の形態の非沈殿遷移金属もさらに含み得る。
【0052】
母液のpH値は、母液を23°Cまで冷却した後に測定して、9~13の範囲にあることが好ましく、11~12.7の範囲にあることがより好ましい。
【0053】
ニッケル塩を含む水溶液とアルカリ金属炭酸塩の少なくとも1種の溶液とを組み合わせると、炭酸ニッケルが他の炭酸塩と共に析出するため、ニッケルを含有する混合炭酸塩の水性懸濁液が得られる。本発明の文脈において母液とも呼ばれる水性連続相は、水溶性塩および場合により溶液中に存在するさらなる添加剤を含む。可能な水溶性塩の例としては、対応するアンモニウム塩、例えば硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウムおよび/またはハロゲン化アンモニウムを含む、遷移金属の対イオンのアルカリ金属塩、例えば酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、ハロゲン化ナトリウム、ハロゲン化カリウムが挙げられる。母液は、最も好ましくは塩化ナトリウム、塩化カリウムまたは塩化アンモニウムを含む。母液は、追加の塩、使用される任意の添加剤、および任意の過剰の炭酸アルカリ金属または重炭酸アルカリ金属、およびまた遷移金属塩の形態のニッケルなどの非沈殿遷移金属をさらに含んでもよい。
【0054】
ここで、正極活物質の形態および表面特性は、焼成段階だけでなく、それぞれの前駆体の製造段階においても影響を受け得ることが分かった。前記目的のために、沈殿は、
(A)以下、構成要素(A)とも呼ばれる容器本体と、
(B)以下要素(B)(単数または複数)とも呼ばれるドラフトチューブおよびガイドベーンから選択される1つ以上の要素と、
(C)その圧力ゾーンが要素(B)(単数または複数)の中または間にある少なくとも1つの撹拌機と、を備える容器で実施される。
【0055】
そのような構成要素は、以下でより詳細に説明される。
【0056】
容器本体は、例えば1~3の範囲の高さ対直径比を有する撹拌タンク反応器の外観を有することができる。
【0057】
容器本体(A)は、二相ステンレス鋼、モリブデンおよび銅に富む鋼合金またはニッケル基合金から作製されてもよい。
【0058】
上述の容器は、沈殿が行われるさらなる区画として機能し、好ましくは冒頭で説明した容器よりもはるかに小さい容積を有する1つ以上のポンプ、インサート、混合ユニット、バッフル、湿式粉砕機、ホモジナイザおよび撹拌タンクをさらに含むことができる。特に適切なポンプの例は、遠心ポンプおよび周辺ホイールポンプである。
【0059】
しかしながら、本発明の好ましい実施形態では、そのような容器は、炭酸塩または(オキシ)水酸化物の沈殿が行われる任意の別個の区画、外部ループまたは追加のポンプがない。
【0060】
容器のさらなる構成要素は、ドラフトチューブおよびガイドベーンから選択される1つ以上の要素(B)を含む。このような要素(B)(単数または複数)は、沈殿中および沈殿の結果として形成され、ループ型循環流を誘導するスラリーの水圧流を制御する。
【0061】
ドラフトチューブは、容器本体(A)の内側にあり、その上方リムまたは少なくとも1つの開口部が容器内のスラリーのゲージより下にあるチューブと同等である。したがって、スラリーは、そのようなドラフトチューブを通って循環する。ガイドベーンはまた、スラリーの循環を可能にする。
【0062】
ガイドベーンは、通常、ブレード形状である。
【0063】
本発明の一実施形態では、1つ以上の要素(B)は、容器の内面に取り付けられる。好ましくは、それらは1つ以上のスペーサによって内壁に取り付けられる。
【0064】
本発明の一実施形態では、1つ以上の要素(B)(単数または複数)は、容器の蓋と容器の側壁との間に取り付けられ、例えば容器の内側のバッフルに取り付けられる。
【0065】
ドラフトチューブでは、前記ループ型循環は、好ましくは、そのような要素(単数または複数)の内側を下降し、外側を上昇する。
【0066】
本発明の一実施形態では、ドラフトチューブの直径と容器本体の内径との比は、0.5から0.85の範囲内である。
【0067】
本発明の一実施形態では、ドラフトチューブの高さは、ドラフトチューブの直径の1.0倍から2.5倍の範囲にある。
【0068】
ガイドベーンの配置に応じて、循環は任意の方向であってもよい。
【0069】
撹拌機は、流れを引き起こす撹拌要素(混合要素とも呼ばれる)、例えばプロペラと、撹拌シャフトとを備える。本発明の方法で使用される容器では、圧力ゾーンは、それらの形状に応じて、要素(B)(単数または複数)の中または間にある。例えば、要素(B)がバッフルとして設計されている実施形態では、攪拌機(C)の圧力ゾーンは要素(B)の間にある。要素(B)がドラフトチューブとして設計されている実施形態では、撹拌機(C)の圧力ゾーンはドラフトチューブ内に配置される。
【0070】
攪拌機(C)の圧力ゾーンは、吸引方向とは反対の圧送方向(ドイツ語:Foerderrichtung)のゾーンであり、通常、攪拌要素の真下に位置する。攪拌機が垂直配置で2つ以上の攪拌要素を有する実施形態では、圧力ゾーンは最上部の攪拌要素の下にある。
【0071】
本発明の一実施形態では、撹拌要素(C)は、ピッチブレードタービン、プロペラ、水中翼、撹拌ディスク、ブレード、パドル、および屈曲した切り欠きから選択される。好ましい実施形態では、攪拌要素は、ピッチブレードタービン、プロペラ、水中翼、およびラシュトンタービンなどのタービンから選択される。
【0072】
本発明の一実施形態では、攪拌要素(C)は、同じシャフト上に互いに垂直に配置された2組のプロペラまたはタービンである。そのような実施形態では、圧力ゾーンは、2組のプロペラまたは水中翼またはタービンの間にそれぞれ、例えば半距離で、好ましくは下側撹拌要素よりも上側撹拌要素の近くに、例えば上側30%に位置し、撹拌シャフトの長さを指す。
【0073】
本発明の一実施形態では、撹拌要素(C)は、同じシャフト上に互いに垂直に配置された2組のプロペラまたはタービンであり、2つの撹拌要素(C)間の距離は、それぞれプロペラまたはタービンの直径の50から250%の範囲にある。
【0074】
本発明の方法を実施することにより、高い空間速度および高いスループットを含む効率でニッケルを含む混合炭酸塩または混合(オキシ)水酸化物を沈殿させることが可能である。
【0075】
本発明を実施例および図面によってさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0076】
図1】A:容器本体B .1:ドラフトチューブB .2バッフルC:撹拌要素D:ドラフトチューブの外側に投入するための吸気管E:圧力ゾーンに投入するための入口パイプF:撹拌機用エンジン 図面は概念的なものである。図面では、簡略化のためにさらなる詳細は省略されている。
【0077】
実施例1:
図1による50 L撹拌容器に、(NH 42 SO 4の水溶液、25 g/kgの溶液を投入する。容器の容器本体(A)は、バッフル(B .2)と、ドラフトチューブ(B .1)と、ドラフトチューブ(直径0.23 m)の下方に配置された直径0.165 mの2つのプロペラ要素(C)とを備えている。
【0078】
容器容積の温度は45°Cに設定されている。攪拌要素は作動され、毎分500回(「rpm」、~2.7ワット/l)で常に作動される。NiSO 4、CoSO 4およびMnSO 4を含有する水溶液(モル比6:2:2、全金属濃度:1.65 モル/kg)、水酸化ナトリウムを含有する水溶液(25質量%のNaOH)およびアンモニア水溶液(25質量%のアンモニア)を、異なる供給部を通して容器に同時に導入する。ニッケル、コバルトおよびマンガンを含有する水溶液は、入口パイプEを通って供給される。アンモニア対遷移金属のモル比は0.2である。体積流量の合計は、平均滞留時間を8時間に調整するように設定される。NaOHの流量はpH調整回路によって調整され、pH値を12.05の一定値に保つ。装置は、反応槽内の液面を一定に保ちながら連続的に運転される。Ni、CoおよびMnの混合水酸化物は、容器からのフリーオーバーフローによって回収される。得られた生成物スラリーは、平均粒径(D 50)が6μmの約120 g/lの水酸化物前駆体を含有する。水酸化物前駆体は、リチウムイオン電池正極活物質の前駆体として好適であり、スループットが高い。
【0079】
実施例2:
実施例1のプロトコルを以下の変更で繰り返す:ラシュトンタービンスターラの回転速度を300 rpm(約0.6ワット/l)に設定する。得られたスラリーは、7μmの平均粒径(D 50)を有する約120 g/lの水酸化物前駆体を含有する。水酸化物前駆体は、リチウムイオン電池正極活物質の前駆体として好適である。
図1
【手続補正書】
【提出日】2021-01-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル塩と、マンガン塩およびコバルト塩から選択される少なくとも1つ以上の遷移金属とを含む水溶液から、ニッケルを含む混合炭酸塩または混合(オキシ)水酸化物を沈殿させる方法であって、(D)容器本体と、(E)ドラフトチューブおよびガイドベーンから選択される1つまたは複数の要素と、(F)圧力ゾーンが要素(B)内または要素(B)間にある少なくとも1つの撹拌機と、
前記方法は、元素(B)中または元素(B)間のニッケル塩を含む前記溶液と、元素(B)中または元素(B)間または元素(B)外のアルカリ金属炭酸塩または水酸化物の溶液とを同時に添加するステップを含む、方法。
【請求項2】
それらの圧力ゾーンを有する2つの攪拌機(C)が、要素(B)内または要素(B)間に配置される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
そのような撹拌器(C)の撹拌要素が、ピッチブレードタービン、プロペラ、および水中翼から選択される、請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項4】
要素(B)が前記容器の前記内面に取り付けられる、請求項1~3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
要素(B)が、前記容器蓋と前記容器側壁との間に取り付けられる、請求項1~4のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記容器がタンク反応器である、請求項1~6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記反応器が、(D)前記工程で形成されたスラリーから母液を抜き出す固液分離装置をさらに含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
前記プロセスが連続プロセスである、請求項1~4のいずれか一項に記載のプロセス。
【国際調査報告】