IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ DIC株式会社の特許一覧

特表2022-551131板状アルミナ粒子、及び板状アルミナ粒子の製造方法
<>
  • 特表-板状アルミナ粒子、及び板状アルミナ粒子の製造方法 図1
  • 特表-板状アルミナ粒子、及び板状アルミナ粒子の製造方法 図2
  • 特表-板状アルミナ粒子、及び板状アルミナ粒子の製造方法 図3
  • 特表-板状アルミナ粒子、及び板状アルミナ粒子の製造方法 図4
  • 特表-板状アルミナ粒子、及び板状アルミナ粒子の製造方法 図5
  • 特表-板状アルミナ粒子、及び板状アルミナ粒子の製造方法 図6
  • 特表-板状アルミナ粒子、及び板状アルミナ粒子の製造方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-07
(54)【発明の名称】板状アルミナ粒子、及び板状アルミナ粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01F 7/021 20220101AFI20221130BHJP
【FI】
C01F7/021
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022520967
(86)(22)【出願日】2019-10-09
(85)【翻訳文提出日】2022-04-06
(86)【国際出願番号】 CN2019110133
(87)【国際公開番号】W WO2021068128
(87)【国際公開日】2021-04-15
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100215935
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 茂輝
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100188673
【弁理士】
【氏名又は名称】成田 友紀
(72)【発明者】
【氏名】ヤン シャオエイ
(72)【発明者】
【氏名】林 正道
(72)【発明者】
【氏名】沖 裕延
(72)【発明者】
【氏名】森光 太郎
(72)【発明者】
【氏名】袁 建軍
(72)【発明者】
【氏名】村田 泰斗
(72)【発明者】
【氏名】リュウ チェン
(72)【発明者】
【氏名】チョウ ウエイ
【テーマコード(参考)】
4G076
【Fターム(参考)】
4G076AA02
4G076AA18
4G076AB02
4G076BA38
4G076BF08
4G076CA08
4G076CA21
4G076CA33
4G076CA34
4G076FA02
(57)【要約】
着色成分を含む、板状アルミナ粒子を提供する。モリブデン、ケイ素、及び着色成分を含む板状アルミナ粒子。アルミニウム元素を含むアルミニウム化合物と、モリブデン元素を含むモリブデン化合物と、ケイ素又はケイ素化合物と、着色成分と、を混合して混合物とし、前記混合物を焼成することを含む、前記板状アルミナ粒子の製造方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モリブデン、ケイ素、及び着色成分を含む板状アルミナ粒子。
【請求項2】
前記着色成分が、第4周期に属する少なくとも1種以上の遷移金属である、請求項1に記載の板状アルミナ粒子。
【請求項3】
前記着色成分が、クロム、鉄、チタン、ニッケル、バナジウム、及びコバルトからなる群から選択される1種以上である、請求項1又は2に記載の板状アルミナ粒子。
【請求項4】
光反射スペクトルの360~740nmの範囲内に、少なくとも一つの反射率のピークを有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の板状アルミナ粒子。
【請求項5】
XPS分析において、Alに対するSiのモル比[Si]/[Al]が0.001以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の板状アルミナ粒子。
【請求項6】
XRD分析により得られる回折ピークの、(104)面に相当するピークの半値幅から算出される(104)面の平均結晶子径が150nm以上である、請求項1~5のいずれか一項に記載の板状アルミナ粒子。
【請求項7】
XRD分析により得られる回折ピークの、(113)面に相当するピークの半値幅から算出される(113)面の平均結晶子径が200nm以上である、請求項1~6のいずれか一項に記載の板状アルミナ粒子。
【請求項8】
形状が六角板状である、請求項1~7のいずれか一項に記載の板状アルミナ粒子。
【請求項9】
単結晶である、請求項1~8のいずれか一項に記載の板状アルミナ粒子。
【請求項10】
アルミニウム元素を含むアルミニウム化合物と、モリブデン元素を含むモリブデン化合物と、ケイ素又はケイ素化合物と、着色成分と、を混合して混合物とし、前記混合物を焼成することを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の板状アルミナ粒子の製造方法。
【請求項11】
アルミニウム元素を含むアルミニウム化合物と、モリブデン元素を含むモリブデン化合物と、カリウム元素を含むカリウム化合物と、ケイ素又はケイ素化合物と、着色成分と、を混合して混合物とし、前記混合物を焼成することを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の板状アルミナ粒子の製造方法。
【請求項12】
酸化物換算した原料全量を100質量%とした際に、Al換算で10質量%以上の前記アルミニウム化合物と、MoO換算で20質量%以上の前記モリブデン化合物と、KO換算で1質量%以上の前記カリウム化合物と、SiO換算で1質量%未満の前記ケイ素又は前記ケイ素化合物と、
アルミニウム化合物のアルミニウム元素に対する前記着色成分の着色成分元素のモル比(着色成分元素/アルミニウム元素)が、0.0001~0.1となる量の前記着色成分と、
を混合して前記混合物とし、前記混合物を焼成することを含む、請求項11に記載の板状アルミナ粒子の製造方法。
【請求項13】
前記焼成後の混合物から板状アルミナ粒子を取り出し、該板状アルミナ粒子を更に焼成することを含む、請求項10~12のいずれか一項に記載の板状アルミナ粒子の製造方法。
【請求項14】
前記混合物が、さらにイットリウム元素を含むイットリウム化合物を含む、請求項10~13のいずれか一項に記載の、板状アルミナ粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着色成分を含む板状アルミナ粒子、及び該板状アルミナ粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無機フィラーであるアルミナ粒子は、様々な用途で利用されている。なかでも、板状アルミナ粒子は、球状のアルミナ粒子に比べて熱的特性及び光学特性等に特に優れており、更なる性能の向上が求められている。
【0003】
近年、自然や生物に学ぶ無機材料合成研究が盛んに行われている。その中でフラックス法は、自然界で結晶(鉱物)が創り出される知恵を活かして、高温で無機化合物や金属の溶液から結晶を析出させる方法である。このフラックス法の特長として、目的結晶の融点よりもはるかに低い温度で結晶を育成できること、欠陥の極めて少ない結晶が成長すること、粒子形状制御ができることなどが挙げられる。
【0004】
従来、このようなフラックス法によりα-アルミナを製造する技術が報告されている。例えば、特許文献1には、実質的に六角小板状単結晶である、α-アルミナのマクロ結晶であって、小板の直径が2~20μm、厚みが0.1~2μmであり、直径対厚みの比は5~40であることを特徴とするα-アルミナのマクロ結晶に係る発明が記載されている。特許文献1には、上記α-アルミナは、遷移アルミナまたは水和アルミナ及びフラックスから製造できることが記載されている。この際使用されるフラックスは、800℃以下の融点を有し、化学結合したフッ素を含有し、かつ溶融状態で遷移アルミナまたは水和アルミナを融解させるものであることが記載されている。
【0005】
板状アルミナの製造に当たり、結晶制御剤としてケイ素又はケイ素元素を含むケイ素化合物を用いる板状アルミナの製造方法(特許文献2)が知られている。特許文献3の技術は、大粒子径の八面体状アルミナに関するものである。
【0006】
一方、アルミナ粒子に着色を施すことができれば、高輝度顔料、化粧料などの領域での利用価値をより一層高めることができる。特許文献4には、六角両錐形を基本形状とする種結晶を含有し、特定の結晶面を有し、六角両錐形の結晶に由来するものであり、着色成分として、ニッケルのみ;バナジウムのみ;コバルトのみ;クロムのみ;鉄およびチタン;ニッケル、チタンおよび鉄;クロムおよびニッケル;クロム、ニッケルおよび鉄;またはクロム、チタンおよび鉄;が添加されていることを特徴とする人工コランダム結晶が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平03-131517号公報
【特許文献2】特開2016-222501号公報
【特許文献3】国際公開第2018/112810号
【特許文献4】特開2011-207761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1~3に示される従来の板状アルミナ粒子は着色されておらず、特許文献4の人工コランダム結晶は六角両錐形であって板状ではないため、板状形状に起因する種々の特性が発揮されない。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、着色成分を含む板状アルミナ粒子の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は以下の態様を有する。
【0010】
(1)モリブデン、ケイ素、及び着色成分を含む板状アルミナ粒子。
(2)前記着色成分が、第4周期に属する少なくとも1種以上の遷移金属である、前記(1)に記載の板状アルミナ粒子
(3)前記着色成分が、クロム、鉄、チタン、ニッケル、バナジウム、及びコバルトからなる群から選択される1種以上である、前記(1)又は(2)に記載の板状アルミナ粒子。
(4)光反射スペクトルの360~740nmの範囲内に、少なくとも一つの反射率のピークを有する、前記(1)~(3)のいずれか一つに記載の板状アルミナ粒子。
(5)XPS分析において、Alに対するSiのモル比[Si]/[Al]が0.001以上である、前記(1)~(4)のいずれか一つに記載の板状アルミナ粒子。
(6)XRD分析により得られる回折ピークの、(104)面に相当するピークの半値幅から算出される(104)面の平均結晶子径が150nm以上である、前記(1)~(5)のいずれか一つに記載の板状アルミナ粒子。
(7)XRD分析により得られる回折ピークの、(113)面に相当するピークの半値幅から算出される(113)面の平均結晶子径が200nm以上である、前記(1)~(6)のいずれか一つに記載の板状アルミナ粒子。
(8)形状が六角板状である、前記(1)~(7)のいずれか一つに記載の板状アルミナ粒子。
(9)単結晶である、前記(1)~(8)のいずれか一つに記載の板状アルミナ粒子。
(10)アルミニウム元素を含むアルミニウム化合物と、モリブデン元素を含むモリブデン化合物と、ケイ素又はケイ素化合物と、着色成分と、を混合して混合物とし、前記混合物を焼成することを含む、前記(1)~(9)のいずれか一つに記載の板状アルミナ粒子の製造方法。
(11)アルミニウム元素を含むアルミニウム化合物と、モリブデン元素を含むモリブデン化合物と、カリウム元素を含むカリウム化合物と、ケイ素又はケイ素化合物と、着色成分と、を混合して混合物とし、前記混合物を焼成することを含む、前記(1)~(9)のいずれか一つに記載の板状アルミナ粒子の製造方法。
(12)酸化物換算した原料全量を100質量%とした際に、Al換算で10質量%以上の前記アルミニウム化合物と、MoO換算で20質量%以上の前記モリブデン化合物と、KO換算で1質量%以上の前記カリウム化合物と、SiO換算で1質量%未満の前記ケイ素又は前記ケイ素化合物と、
アルミニウム化合物のアルミニウム元素に対する前記着色成分の着色成分元素のモル比(着色成分元素/アルミニウム元素)が、0.0001~0.1となる量の前記着色成分と、
を混合して前記混合物とし、前記混合物を焼成することを含む、前記(11)に記載の板状アルミナ粒子の製造方法。
(13)前記焼成後の混合物から板状アルミナ粒子を取り出し、該板状アルミナ粒子を更に焼成することを含む、前記(10)~(12)のいずれか一つに記載の板状アルミナ粒子の製造方法。
(14)前記混合物が、さらにイットリウム元素を含むイットリウム化合物を含む、前記(10)~(13)のいずれか一つに記載の、板状アルミナ粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、着色成分を含む板状アルミナ粒子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1で得られた板状アルミナ粒子の顕微鏡観察画像である。
図2】実施例3で得られた板状アルミナ粒子の顕微鏡観察画像である。
図3】実施例6で得られた板状アルミナ粒子の顕微鏡観察画像である。
図4】実施例1で得られた板状アルミナ粒子の反射率のスペクトルデータである。
図5】実施例3で得られた板状アルミナ粒子の反射率のスペクトルデータである。
図6】実施例6で得られた板状アルミナ粒子の反射率のスペクトルデータである。
図7】比較例2で得られた板状アルミナ粒子の反射率のスペクトルデータである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の板状アルミナ粒子、及び板状アルミナ粒子の製造方法の実施形態を説明する。
【0014】
≪板状アルミナ粒子≫
実施形態の板状アルミナ粒子は、モリブデン、ケイ素、及び着色成分を含む。さらに、実施形態に係る板状アルミナ粒子は、本発明の効果を損なわない限り、原料などに由来する不純物を含んでもよい。なお、板状アルミナ粒子はさらに有機化合物等を含んでいてもよい。
【0015】
実施形態に係るα-アルミナに基づく板状アルミナ粒子は、モリブデン、ケイ素、及び着色成分を含みさえすれば、どの様な製造方法に基づいて得られたものであってもよいが、よりアスペクト比が高く、光輝性に優れる板状アルミナ粒子を製造可能であるという点で、アルミニウム化合物と、モリブデン化合物と、ケイ素又はケイ素化合物と、着色成分と、を混合して混合物とし、前記混合物を焼成することにより得られるものであることが好ましい。また、よりアスペクト比が高く、より一層光輝性に優れる板状アルミナ粒子を製造可能であるという点で、アルミニウム化合物と、モリブデン化合物と、カリウム化合物と、ケイ素又はケイ素化合物と、着色成分と、を混合して混合物とし、前記混合物を焼成することにより得られるものであることが好ましい。また後記するが、前記混合物が、さらに金属化合物を含むことが好ましい。この金属化合物は併用してもしなくても良いが、併用することで、より簡便に結晶制御を行うことができるようになる。金属化合物としては、得られるα型の板状アルミナ粒子が、結晶形状や大きさ等の点で揃ったものとなるように、結晶成長をより好適に進行させるためにイットリウム化合物を使用するのがよい。また、前記混合物は、ケイ素又はケイ素化合物以外の形状制御剤として、さらにナトリウム化合物を含むことが好ましい。
【0016】
上記製造方法において、モリブデン化合物はフラックス剤として用いられる。本明細書中では、以下、フラックス剤としてモリブデン化合物を用いたこの製造方法を単に「フラックス法」ということがある。フラックス法については、後に詳記する。なお、フラックス剤としてモリブデン化合物及びカリウム化合物をフラックス剤として用いる場合、かかる焼成により、モリブデン化合物とカリウム化合物が反応してモリブデン酸カリウムが形成される。同時に、モリブデン化合物がアルミニウム化合物と反応してモリブデン酸アルミニウムを形成した後、モリブデン酸カリウムの存在下でモリブデン酸アルミニウムが分解し、ケイ素又はケイ素化合物の存在下で結晶成長することで粒子サイズが大きく且つ板状のアルミナ粒子を得ることができる。すなわち、モリブデン酸アルミニウムという中間体を経由してアルミナ粒子を製造する際に、モリブデン酸カリウムが存在すると粒子サイズの大きいアルミナ粒子が得られる。また、結晶成長する際に、モリブデン化合物が板状アルミナ粒子内に取り込まれるものと考えられる。上記に示したフラックス法はフラックス徐冷法の一種であり、液相のモリブデン酸カリウム中で結晶成長すると考えられる。さらにモリブデン酸カリウムは、水、アンモニア水、水酸化ナトリウム水溶液やカリウム水溶液など無機塩基水溶液の洗浄により、容易に回収して再利用することもできる。
また、モリブデン化合物を用いることで、PbやF等を含む毒性のあるフラックス剤を使用せずとも上記フラックス法を実施でき、工業化が容易であるという利点がある。
【0017】
上記製造方法において、ケイ素又はケイ素化合物は形状制御剤として用いられ、アルミナの板状結晶成長に重要な役割を果たす。
【0018】
前記板状アルミナ粒子の製造において、モリブデン化合物と、カリウム化合物と、ケイ素又はケイ素化合物を活用することにより、アルミナ粒子は高いα結晶率を有し、粒子サイズが大きく、板状形状を持つことから、優れた分散性と機械強度、光輝性を実現することができる。
【0019】
本実施形態の板状アルミナ粒子における着色成分は、それを配合しない場合と比べて、それを配合した場合に酸化アルミニウムの結晶の色を変化させる機能を有するものである。
着色成分としては、例えば第4周期に属する少なくとも1種以上の遷移金属が好ましい。着色成分については、後に詳述する。
【0020】
板状アルミナ粒子の形状は、モリブデン化合物と、カリウム化合物と、ケイ素又はケイ素化合物等の使用割合によって制御可能であるが、特にモリブデン化合物及びケイ素又はケイ素化合物の使用割合によって制御可能である。
板状アルミナ粒子の色は、着色成分の種類と使用割合によって、制御可能である。
板状アルミナ粒子に含まれるモリブデン量及びケイ素量や、各原料の好ましい使用割合については、後に詳記する。
【0021】
実施形態に係る板状アルミナ粒子の結晶型は、後記する様にα型(コランダム結晶)であることが好ましい(α-アルミナであることが好ましい。)。
【0022】
実施形態に係る板状アルミナ粒子の形状は、板状である。本発明でいう「板状」とは、アルミナ粒子の長径を厚みで除したアスペクト比が2以上であることを指す。
実施形態に係る板状アルミナ粒子が、板状であることにより、入射光を効率よく反射することが可能となり、光輝性に優れたものとできる。
【0023】
実施形態に係る板状アルミナ粒子の形状は、長径が30μm以上であり、厚みが3μm以上であり、厚みに対する長径の比率であるアスペクト比が2~50であることが好ましい。
【0024】
特許文献1~3に示される従来の板状アルミナ粒子は、上記長径、厚み及びアスペクト比の要件を満たさないものであった。そのため従来のアルミナ粒子は、おそらく板状でないか粒子サイズが小さいために、光輝感に乏しいものであった。
また、特許文献3及び特許文献4に示される、板状とは異なる晶癖のアルミナ粒子(さらには晶相の異なるアルミナ粒子)は、実施形態に係る板状アルミナ粒子と略同一粒子径のもの同士で比較したとき、著しく光輝性が劣ったものとなる。これは多面体状のアルミナは、入射光が板状のようには全反射せずに、幾つかの面で反射する(乱反射が起こる)ためと推察できる。
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、上記の長径、厚み及びアスペクト比の特徴を備えることにより、より一層光輝性に優れるものとできる。
【0025】
上記の実施形態の板状アルミナ粒子は、板状で且つ粒子サイズが大きいことから、光の反射面が大きく、強い光輝性を発揮できるものと考えられる。なお、本明細書における「粒子サイズ」は、長径及び厚みの値を考慮するものとする。「光輝性」とは、アルミナ粒子が光を反射することにより生じる、キラキラとした光の視認可能状態の高さをいう。
【0026】
なお、本明細書において、「アルミナ粒子の厚み」は、顕微鏡により得られたイメージから、無作為に選出された少なくとも50個のアルミナ粒子について測定された厚みの算術平均値とする。「アルミナ粒子の長径」は顕微鏡により得られたイメージから、無作為に選出された少なくとも50個の板状アルミナ粒子について測定された長径の算術平均値とする。「長径」は、アルミナ粒子の輪郭線上の2点間の距離のうち、最大の長さとする。
【0027】
実施形態に係る板状アルミナ粒子の形状は、長径が30μm以上であり、厚みが3μm以上であり、厚みに対する長径の比率であるアスペクト比が2~50であることが好ましい。板状アルミナ粒子の長径が30μm以上であることで、優れた光輝感を発揮できる。板状アルミナ粒子の厚みが3μm以上であることで、優れた光輝感を発揮できるとともに、機械的強度に優れたものとできる。板状アルミナ粒子のアスペクト比が2以上であると、優れた光輝感を発揮できるとともに2次元の配合特性を有し得る。板状アルミナ粒子のアスペクト比が50以下であることで、機械的強度に優れたものとできる。実施形態に係る板状アルミナ粒子は、より形状や大きさ等が揃うことにより、より優れた光輝感と機械強度、二次元の配合特性をより有し得るため、長径が50~200μmであることが好ましく、厚みが5~60μmであることが好ましく、厚みに対する長径の比率であるアスペクト比が3~30であることが好ましい。
【0028】
上記の好ましいアルミナ粒子の形状について、厚み、平均粒子径、及びアスペクト比の条件は、それが板状である範囲で、どの様に組み合わせることもできる。
【0029】
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、円形板状や楕円形板状であってもよいが、粒子形状は、例えば、多角板状であることが、光学特性や、取り扱い性、製造のし易さ等の点から好ましく、六角板状であることが、特に優れた光輝性を発揮できる点からより好ましい。
【0030】
ここで六角板状の板状アルミナ粒子とは、アスペクト比が2以上であり、最長辺の長さ1に対する長さが0.6以上の辺(最長辺も含む)の数が6個であり、且つ外周の長さ1Lに対する前記長さが0.6以上の辺の長さの合計が0.9L以上である粒子とする。なお、粒子の観察条件上、粒子に欠けが生じたために、辺が直線状でなくなったことが明らかである場合には、当該辺を直線に補正して計測してよい。同様に、六角形の角にあたる部分が、若干丸くなっている場合にも、当該角を直線同士の交差点として補正して計測してよい。六角板状の板状アルミナ粒子において、アスペクト比は3以上であることが好ましい。
【0031】
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、前記六角板状のアルミナ粒子を含むことが好ましく、前記六角板状のものの割合が、板状アルミナ粒子の全個数100%に対して、個数計算で、30%以上であることが好ましく、80%以上であることが、六角板状による規則的な光反射の増加により、光輝性をより発揮できるため特に好ましい。
【0032】
実施形態に係る板状アルミナ粒子の(104)面の平均結晶子径は、150nm以上であることが好ましく、200nm以上であることがより好ましく、300nm以上であることがさらに好ましい。
当該平均結晶子径の上限値は特に制限されるものではなく、実施形態に係る板状アルミナ粒子の(104)面の平均結晶子径は、一例として、150~700nmであってよく、200~600nmであってもよく、300~600nmであってもよい。
ここで、(104)面の結晶ドメインの大きさの平均値が(104)面の平均結晶子径に相当する。当該平均結晶子径が大きいほど光の反射面も大きいものとなり、高い光輝性を発揮できると考えられる。なお、板状アルミナ粒子の(104)面の結晶子径は、後述する製造方法の条件を適宜設定することで制御することができる。また、本明細書において「(104)面の平均結晶子径」の値は、X線回析(XRD)を用いて測定された(104)面に帰属されるピーク(2θ=35.2度付近に出現するピーク)の半値幅からシェラー式を用いて算出された値を採用するものとする。
【0033】
また、実施形態に係る板状アルミナ粒子の(113)面の平均結晶子径は、200nm以上であることが好ましく、250nm以上であることがより好ましく、300nm以上であることがさらに好ましい。
当該平均結晶子径の上限値は特に制限されるものではなく、実施形態に係る板状アルミナ粒子の(113)面の平均結晶子径は、200~1000nmであってよく、250~500nmであってよく、300~500nmであってよい。
ここで、当該(113)面の結晶ドメインの大きさの平均値が(113)面の平均結晶子径に相当する。当該平均結晶子径が大きいほど光の反射面も大きいものとなり、高い光輝性を発揮できると考えられる。なお、板状アルミナ粒子の(113)面の結晶子径は、後述する製造方法の条件を適宜設定することで制御することができる。また、本明細書において「(113)面の平均結晶子径」の値は、X線回析(XRD)を用いて測定された(113)面に帰属されるピーク(2θ=43.4度付近に出現するピーク)の半値幅からシェラー式を用いて算出された値を採用するものとする。
【0034】
XRD分析は、後述する実施例に記載の測定条件と同一の条件、又は同一の測定結果が得られる互換性のある条件のもと実施されるものとする。
【0035】
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、単結晶であることが好ましい。単結晶とは、単位格子が整然と並んでいる単一の組成から成る結晶粒のことを言う。良質の結晶であれば、多くの場合、透明かつ反射光を生じる。もし、結晶の一部が階段状であったり、鋭角な面でくびれていたりする場合は、複数の結晶成分が重なっている多結晶と推察される。粒子の単結晶測定は、後述する実施例に記載の測定条件と同一の条件、又は同一の測定結果が得られる互換性のある条件のもと実施されるものとする。実施形態に係る板状アルミナ粒子は、前記単結晶のアルミナ粒子を含むことが好ましい。板状アルミナ粒子が単結晶であることは、粒子が高品質であることを意味し、光輝性にも優れると推察される。
【0036】
実施形態に係る板状アルミナ粒子における、その厚み、長径、アスペクト比、形状、結晶子径等は、後述する原料の、アルミニウム化合物と、モリブデン化合物と、カリウム化合物と、ケイ素又はケイ素化合物と、金属化合物の使用割合等を選択することにより、制御することができる。
【0037】
[アルミナ]
実施形態に係る板状アルミナ粒子に含まれる「アルミナ」は、酸化アルミニウムであり、例えば、γ、δ、θ、κ、δ等の各種の結晶形の遷移アルミナであっても、または遷移アルミナ中にアルミナ水和物を含んでいてもよいが、より機械的な強度または光輝性に優れる点で、基本的にα結晶形(α型)であることが好ましい。α結晶形がアルミナの緻密な結晶構造であり、本発明の板状アルミナの機械強度または光輝性の向上に有利となる。
【0038】
α結晶化率は、100%にできるだけ近いほうが、α結晶形本来の性質を発揮しやすくなるので好ましい。実施形態に係る板状アルミナ粒子のα結晶化率は、例えば90%以上であり、95%以上であることが好ましく、99%以上であることがより好ましい。
【0039】
[モリブデン]
また、実施形態に係る板状アルミナ粒子は、モリブデンを含む。当該モリブデンは、フラックス剤として用いたモリブデン化合物に由来するものである。
【0040】
モリブデンは触媒機能、光学的機能を有する。また、モリブデンを活用することにより、後述するように製造方法において、優れた光輝性を有する板状アルミナ粒子を製造することができる。さらに、モリブデンの使用量を多くすることで、粒子サイズ及び結晶子径が大きく、六角板状のアルミナ粒子が得られやすく、得られたアルミナ粒子の光輝性がさらに優れたものとなる傾向がある。また、板状アルミナ粒子に含まれたモリブデンの特性を利用して、酸化反応触媒、光学材料の用途に適用することが可能となりうる。
【0041】
当該モリブデンとしては、特に制限されないが、モリブデン金属の他、酸化モリブデンや一部が還元されたモリブデン化合物、モリブデン酸塩等が含まれる。モリブデンは、モリブデン化合物のとりうる多形のいずれか、または組み合わせで板状アルミナ粒子に含まれてよく、α-MoO、β-MoO、MoO、MoO、モリブデンクラスター構造等として板状アルミナ粒子に含まれてもよい。
【0042】
モリブデンの含有形態は、特に制限されず、板状アルミナ粒子の表面に付着する形態で含まれていても、アルミナの結晶構造のアルミニウムの一部に置換された形態で含まれていてもよいし、これらの組み合わせであってもよい。
【0043】
実施形態に係る板状アルミナ粒子100質量%に対するモリブデンの含有量は、三酸化モリブデン換算で、好ましくは、10質量%以下であり、焼成温度、焼成時間、モリブデン化合物の昇華速度を調整する事で、より好ましくは0.1~5質量%であり、板状アルミナ粒子の発色を適度に向上させるとの観点から、より好ましくは0.1~2質量%であり、さらに好ましくは、0.3~1質量%である。モリブデンの含有量が10質量%以下であると、アルミナのα単結晶品質を向上させることから好ましい。モリブデンの含有量が0.1質量%以上であると、得られる板状アルミナ粒子の形状が、光輝性を向上させることから好ましい。
【0044】
上記モリブデンの含有量はXRF分析により求めることができる。XRF分析は、後述する実施例に記載の測定条件と同一の条件、又は同一の測定結果が得られる互換性のある条件のもと実施されるものとする。
【0045】
[ケイ素]
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、モリブデンの他に、更にケイ素を含む。当該ケイ素は、原料として用いたケイ素又はケイ素化合物に由来するものである。ケイ素を活用することにより、後述するように製造方法において、優れた光輝性を有する板状アルミナ粒子を製造することができる。さらに、ケイ素の使用量をある程度少なくすることで、粒子サイズ及び結晶子径が大きく、六角板状のアルミナ粒子が得られやすく、得られたアルミナ粒子の光輝性がさらに優れたものとなる傾向がある。好ましいケイ素の使用量については後述する。
【0046】
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、ケイ素を表層に含んでいてもよい。ここで「表層」とは実施形態に係る板状アルミナ粒子の表面から10nm以内のことをいう。この距離は、実施例において計測に用いたXPSの検出深さに対応する。
【0047】
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、ケイ素が表層に偏在していてもよい。ここで「表層に偏在」するとは、前記表層における単位体積あたりのケイ素の質量が、前記表層以外における単位体積あたりのケイ素の質量よりも多い状態をいう。ケイ素が表層に偏在していることは、XPSによる表面分析と、XRFによる全体分析の結果を比較することで判別できる。
【0048】
実施形態に係る板状アルミナ粒子が含むケイ素は、ケイ素単体であってもよく、ケイ素化合物中のケイ素であってもよい。実施形態に係る板状アルミナ粒子は、ケイ素又はケイ素化合物として、Si、SiO、SiO、及びアルミナと反応して生成したケイ酸アルミニウムからなる群から選択される少なくとも一種を含んでいてもよく、上記物質を表層に含んでいてもよい。
【0049】
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、表層にケイ素を含むことから、XPS分析によってSiが検出される。実施形態に係る板状アルミナ粒子は、XPS分析において取得された、Alに対するSiのモル比[Si]/[Al]の値が、0.001以上であることが好ましく、0.01以上であることがより好ましく、0.02以上であることがさらに好ましい。板状アルミナ粒子の表面は、全部がケイ素又はケイ素化合物で被覆されていてもよく、板状アルミナ粒子の表面の少なくとも一部がケイ素又はケイ素化合物で被覆されていてもよい。
【0050】
前記XPS分析のモル比[Si]/[Al]の値の上限は特に限定されるものではないが、0.4以下であることが好ましく、0.3以下であることがより好ましく、0.2以下であることがさらに好ましい。
【0051】
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、XPS分析において取得された、Alに対するSiのモル比[Si]/[Al]の値が、0.001以上0.4以下であることが好ましく、0.01以上0.3以下であることがより好ましく、0.02以上0.2以下であることがさらに好ましい。
【0052】
前記XPS分析において取得された、前記モル比[Si]/[Al]の値が、上記範囲である板状アルミナ粒子は、表層に含まれるSi量が適当であり、板状で且つ粒子サイズが大きく、より光輝性に優れたものとなり好ましい。
【0053】
XPS分析は、後述する実施例に記載の測定条件と同一の条件、又は同一の測定結果が得られる互換性のある条件のもと実施されるものとする。
【0054】
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、その製造方法で用いたケイ素又はケイ素化合物に対応した、ケイ素を含むものである。XRF分析において取得された、板状アルミナ粒子100質量%に対するケイ素の含有量は、二酸化ケイ素換算で、好ましくは、10質量%以下であり、より好ましくは、0.001~3質量%であり、さらに好ましくは、0.01~1質量%であり、特に好ましくは、0.03~0.3質量%である。ケイ素の含有量が上記範囲内である板状アルミナ粒子は、Si量が適当であり、板状で且つ粒子サイズが大きく、より光輝性に優れたものとなり好ましい。
【0055】
XRF分析は、後述する実施例に記載の測定条件と同一の条件、又は同一の測定結果が得られる互換性のある条件のもと実施されるものとする。
【0056】
[カリウム]
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、カリウムを含有していてもよい。
【0057】
カリウムは、後述の板状アルミナ粒子の製造方法においてカリウムが使用される場合、その原料のカリウム化合物に由来するものであってよい。
【0058】
当該カリウムとしては、特に制限されないが、カリウム金属の他、酸化カリウムや一部が還元されたカリウム化合物等が含まれる。
【0059】
カリウムの含有形態は、特に制限されず、実施形態に係る板状アルミナ粒子の表面に付着する形態で含まれていても、アルミナの結晶構造のアルミニウムの一部に置換された形態で含まれていてもよいし、これらの組み合わせであってもよい。
【0060】
XRF分析において取得された、板状アルミナ粒子100質量%に対するカリウムの含有量が、KO換算で、0.01質量%以上であってもよく、0.01~5質量%であってもよく、0.05~3質量%であってもよく、0.05~1質量%であってもよい。
【0061】
XRF分析は、後述する実施例に記載の測定条件と同一の条件、又は同一の測定結果が得られる互換性のある条件のもと実施されるものとする。
【0062】
[着色成分]
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、モリブデン、ケイ素の他に、更に着色成分を含む。
着色成分は、周期律表の第4周期に属する少なくとも1種以上の遷移金属であることが好ましい。着色成分は、クロム、鉄、チタン、ニッケル、バナジウム、及びコバルトからなる群から選択される1種以上であることがより好ましい。
着色成分として、周期律表の第4周期に属する少なくとも1種以上の遷移金属を用いることで、製造される結晶中のアルミニウム元素の一部が遷移金属元素と置き換わり、遷移金属元素が結晶構造中に組み込まれる。アルミニウムの一部が遷移金属に置換された結晶構造をとることで、遷移金属(着色成分)の流出が防止され、安全性が高く、退色も生じ難い板状アルミナ粒子が得られるという利点がある。この場合、着色成分は、その発色原理から、板状アルミナ粒子内部に均質に存在していることが好ましい。
モリブデンに基づく着色を考慮せずに説明すると、一般的には、着色成分に相当する層厚がアルミナ自体の層厚に比べて大きくなるほど、アルミナ自体に含有される着色成分の濃度が高くなるほど、特定の色の濃淡における色の濃さは増していく傾向にある。後記する反射スペクトルのピーク強度についても、左記と同様の傾向がある。着色成分の層厚や濃度に基づく色の濃さの変化は、層厚や濃度の増減に伴って連続的に少しずつ変化する場合もあるし、ある特定層厚や特定濃度を境に、臨界的に、急激に変化する場合もある。一般的知見をベースに、モリブデンの存在と後記する発色原理等を考慮して、特定の色かつ所望の濃さの色を発色するアルミナを提供することが出来る。
実施形態に係る板状アルミナ粒子に含まれる遷移金属の種類や量を変えることで、板状アルミナ粒子を異なった色合いで発色させることができる。例えば、板状アルミナ粒子が着色成分としてクロムを含む場合には、肉眼で識別される板状アルミナ粒子の色は、赤又はピンク色である。板状アルミナ粒子が着色成分としてコバルトを含む場合、肉眼で識別される板状アルミナ粒子の色は、青である。板状アルミナ粒子が着色成分として鉄及びチタンを含む場合、肉眼で識別される板状アルミナ粒子の色は、青である。板状アルミナ粒子が着色成分としてニッケルを含む場合、肉眼で識別される板状アルミナ粒子の色は、緑色である。
【0063】
酸化アルミニウムからなる結晶は、本来、無色透明であるので、測色計で測定された各波長の反射率を示す反射スペクトルは、明確なピークを有さない。一方、上記の着色成分を含む板状アルミナ粒子は、反射スペクトルにおいてピークを確認できる。
【0064】
例えば、実施形態に係る板状アルミナ粒子は、反射スペクトルにおいて、波長360~740nmの範囲内に、少なくとも一つの反射率のピークを有するものであってよく、440~740nmの範囲に少なくとも一つの反射率のピークを有するものであってよい。
反射率のピークとは、例えば、波長範囲内に反射率の高低差が5%以上で極大のあるものをピークとみなすことができ、ピーク変曲点を基準にベースラインをとって、ピーク形状を判断できる。ピークの波長範囲としては、半値幅の波長範囲を採用することができる。
【0065】
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、例えば、反射スペクトルにおいて、少なくとも1つの反射率のピークを有するものであってよく、下記のピーク波長(ピークトップ、即ちピークにおける極大値)のうちの少なくとも一つを有することが好ましい。
【0066】
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、波長690~710nmの範囲内に反射率のピーク波長を有することが好ましく、前記範囲内に反射率30%以上のピーク波長を有することが好ましく、反射率80%以上のピーク波長を有することがより好ましく、反射率100%以上のピーク波長を有することがさらに好ましく、反射率150%以上のピーク波長を有することが特に好ましい。反射率が100%を超えるのは、蛍光材料としての機能が発現し、入射した光が他の波長に変換されるためである。
当該ピーク波長を有するピークの半値幅は、例えば10~30nmであってよく、15~25nmであってよい。
【0067】
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、波長620~660nmの範囲内に反射率のピーク波長を有することが好ましく、前記範囲内に反射率30%以上のピーク波長を有することがより好ましく、反射率60%以上のピーク波長を有することがさらに好ましい。
当該ピーク波長を有するピークの半値幅は、例えば20~60nmであってよく、30~50nmであってよい。
【0068】
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、波長380~520nmの範囲内に反射率のピーク波長を有することが好ましく、前記範囲内に反射率20%以上のピーク波長を有することがより好ましく、反射率30%以上のピーク波長を有することがさらに好ましい。
【0069】
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、波長420~520nmの範囲内に反射率のピーク波長を有することが好ましく、前記範囲内に反射率20%以上のピーク波長を有することがより好ましく、反射率30%以上のピーク波長を有することがさらに好ましい。
【0070】
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、波長460~560nmの範囲内に反射率のピーク波長を有することが好ましく、前記範囲内に反射率20%以上のピーク波長を有することがより好ましく、反射率30%以上のピーク波長を有することがさらに好ましい。
【0071】
実施形態に係る板状アルミナ粒子が反射率のピーク波長を有することで、アルミナ粒子の着色が好ましいものとなる。さらに、例えば上記に示した反射率でピーク波長を有することで、発色がより鮮やかな板状アルミナ粒子が得られるため好ましい。
【0072】
実施形態に係る板状アルミナ粒子における着色成分元素の含有量は、着色成分を含まないアルミナ粒子と比較して、着色成分を含むアルミナ粒子で着色が確認できる程度であればよく、一例として、XRF分析において取得された、板状アルミナ粒子100質量%に対する着色成分元素の含有量が、0.01質量%以上であってよく、0.01~10質量%であってよく、0.05~5質量%であってよく、0.1~3質量%であってよい。なかでも、上記着色成分元素の含有量が5質量%以下であると、板状アルミナ粒子の発色を特に良好なものとできるため、好ましい。
なお、着色成分が複数種類の元素から構成される場合、着色成分元素の量は、該複数種類の元素の量を合算した値とする。
【0073】
XRF分析は、後述する実施例に記載の測定条件と同一の条件、又は同一の測定結果が得られる互換性のある条件のもと実施されるものとする。
【0074】
〔不可避不純物〕
板状アルミナ粒子は不可避不純物を含みうる。
【0075】
不可避不純物は、製造で使用する金属化合物に由来したり、原料中に存在したり、製造工程において不可避的に板状アルミナ粒子に混入するものであり、本来は不要なものであるが、微量であり、板状アルミナ粒子の特性に影響を及ぼさない不純物を意味する。
【0076】
不可避不純物としては、特に制限されないが、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、ナトリウム、等が挙げられる。これらの不可避不純物は単独で含まれていても、2種以上が含まれていてもよい。
【0077】
板状アルミナ粒子中の不可避不純物の含有量は、板状アルミナ粒子の質量に対して、10000ppm以下であることが好ましく、1000ppm以下であることがより好ましく、500ppm以下であることがさらに好ましい。
【0078】
(他の原子)
他の原子は、本発明の効果を阻害しない範囲において、機械強度または電気や磁性機能付与を目的として意図的に板状アルミナ粒子に添加されるものを意味する。
【0079】
他の原子としては、特に制限されないが、亜鉛、マンガン、カルシウム、ストロンチウム、イットリウム等が挙げられる。これらの他の原子は単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0080】
板状アルミナ粒子中の他の原子の含有量は、板状アルミナ粒子の質量に対して、5質量%以下であることが好ましく、2質量%以下であることがより好ましい。
【0081】
[有機化合物]
一実施形態において、板状アルミナ粒子は有機化合物を含んでいてもよい。当該有機化合物は、板状アルミナ粒子の表面に存在し、板状アルミナ粒子の表面物性を調節する機能を有する。例えば、表面に有機化合物を含んだ板状アルミナ粒子は樹脂との親和性を向上することから、フィラーとして板状アルミナ粒子の機能を最大限に発現することができる。
【0082】
有機化合物としては、特に制限されないが、有機シラン、アルキルホスホン酸、およびポリマーが挙げられる。
【0083】
前記有機シランとしては、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、iso-プロピルトリメトキシシラン、iso-プロピルトリエトキシシラン、ペンチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン等のアルキル基の炭素数が1~22までのアルキルトリメトキシシランまたはアルキルトリクロロシラン類、3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチル)トリクロロシラン類、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、p-クロロメチルフェニルトリメトキシシラン、p-クロロメチルフェニルトリエトキシシラン類等が挙げられる。
【0084】
前記ホスホン酸としては、例えばメチルホスホン酸、エチルホスホン酸、プロピルホスホン酸、ブチルホスホン酸、ペンチルホスホン酸、ヘキシルホスホン酸、ヘプチルホスホン酸、オクチルホスホン酸、デシルホスホン酸、ドデシルホスホン酸、オクタデシルホスホン酸、2_エチルヘキシルホスホン酸、シクロヘキシルメチルホスホン酸、シクロヘキシルエチルホスホン酸、ベンジルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ドデシルベンゼンホスホン酸が挙げられる。
【0085】
前記ポリマーとしては、例えば、ポリ(メタ)アクリレート類を好適に用いることができる。具体的には、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレート、ポリベンジル(メタ)アクリレート、ポリシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ポリt-ブチル(メタ)アクリレート、ポリグリシジル(メタ)アクリレート、ポリペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート等であり、また、汎用のポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニル酢酸エステル、エポキシ樹脂、ポリエステル、ポリイミド、ポリカーボネート等ポリマーを挙げることができる。
【0086】
なお、上記有機化合物は、単独で含まれていても、2種以上を含んでいてもよい。
【0087】
有機化合物の含有形態としては、特に制限されず、アルミナと共有結合により連結されていてもよいし、アルミナを被覆していてもよい。
【0088】
有機化合物の含有率は、板状アルミナ粒子の質量に対して、20質量%以下であることが好ましく、10~0.01質量%であることがさらに好ましい。有機化合物の含有率が20質量%以下であると、板状アルミナ粒子由来の物性発現が容易にできることから好ましい。
【0089】
以上に説明したように、実施形態の板状アルミナ粒子は、板状形状の形成と着色とが両立された優れたものである。
特に、着色成分が第4周期に属する少なくとも1種以上の遷移金属である場合、その結晶形成に際して結晶構造の形状制御が阻害されず、板状形状の形成と、遷移金属の結晶構造中への取り込みと、が両立されて、着色された板状アルミナ粒子が得られたことは、大変に画期的である。
【0090】
さらには、実施形態の板状アルミナ粒子が、単結晶であることや、所定の平均結晶子径を有すること、モリブデンの含有量が適度であることなどにより、光輝性が向上し、着色の効果がより一層際立った、非常に美観に優れた板状アルミナ粒子を提供できる。
【0091】
実施形態の板状アルミナ粒子は、美観に優れたものであることから、例えば、実施形態の板状アルミナ粒子を含有する化粧料を提供することができる。化粧料の種類としては、メイクアップ化粧料が挙げられ、マニキュア、アイシャドー、ファンデーション、頬紅、口紅、リップグロス等を例示できる。
【0092】
≪板状アルミナ粒子の製造方法≫
実施形態に係る板状アルミナ粒子の製造方法は、特に制限されず、公知の技術が適宜適用されうるが、相対的に低温で高α結晶化率を有するアルミナを好適に制御することができる観点から、好ましくはモリブデン化合物を利用したフラックス法での製造方法が適用され得る。
【0093】
より詳細には、板状アルミナ粒子の好ましい製造方法は、モリブデン化合物と、ケイ素又はケイ素化合物と、着色成分の存在下でアルミニウム化合物を焼成する工程(第1焼成工程)を含んでよい。
板状アルミナ粒子のより好ましい製造方法は、モリブデン化合物と、カリウム化合物と、ケイ素又はケイ素化合物と、着色成分の存在下でアルミニウム化合物を焼成する工程(第1焼成工程)を含んでよい。
第1焼成工程は焼成対象の混合物を得る工程(混合工程)で得られた混合物を焼成する工程であってもよい。前記混合物は、さらに後述の金属化合物を含むことが好ましい。金属化合物としては、イットリウム化合物が好ましい。
なお、フラックス剤として好適な、モリブデンとカリウムとを含有する化合物は、例えば、より安価かつ入手が容易な、モリブデン化合物及びカリウム化合物を原料として焼成の過程で生じさせることができる。ここでは、モリブデン化合物及びカリウム化合物をフラックス剤として用いる場合、モリブデンとカリウムとを含有する化合物をフラックス剤として用いる場合、の両者を合わせて、モリブデン化合物及びカリウム化合物をフラックス剤として用いる場合を例に説明する。
【0094】
[混合工程]
混合工程は、アルミニウム化合物、モリブデン化合物、ケイ素又はケイ素化合物、着色成分等の原料を混合して混合物とする工程である。以下、混合物の内容について説明する。
【0095】
(アルミニウム化合物)
アルミニウム化合物は、実施形態に係る板状アルミナ粒子の原料である。
【0096】
アルミニウム化合物としては、熱処理によりアルミナ粒子になるものであれば特に限定されず、例えば、金属アルミニウム、硫化アルミニウム、窒化アルミニウム、フッ化アルミニウム、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、ヨウ化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硫酸ナトリウムアルミニウム、硫酸カリウムアルミニウム、硫酸アンモニウムアルミニウム、硝酸アルミニウム、アルミン酸アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、リン酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、ラウリン酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、シュウ酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、塩基性酢酸アルミニウム、アルミニウムプロポキシド、アルミニウムブトキシド、水酸化アルミニウム、ベーマイト、擬ベーマイト、遷移アルミナ(γ-アルミナ、δ-アルミナ、θ-アルミナなど)、α-アルミナ、二種以上の結晶相を有する混合アルミナ等が挙げられる。これらのうち、遷移アルミナ、ベーマイト、擬ベーマイト、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、およびこれらの水和物を用いることが好ましく、遷移アルミナ、ベーマイト、擬ベーマイト、水酸化アルミニウム用いることがより好ましい。板状アルミナ粒子としてα-アルミナを得る場合には、上記原料として、実質的にα-アルミナを含まないアルミナ、例えば比較的安価である、γ-アルミナを主成分として含有する遷移アルミナを用いることが好ましい。この様に、原料を焼成することで、原料の形状や大きさとは異なる、特異形状や大きさの板状のアルミナ粒子を生成物として得る。
【0097】
なお、上述のアルミニウム化合物は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0098】
アルミニウム化合物は市販品を使用しても、自ら調製してもよい。
【0099】
アルミニウム化合物を自ら調製する場合、例えば、高温において構造安定性の高いアルミナ水和物または遷移アルミナは、アルミニウムの水溶液の中和により調製することができる。より詳細には、前記アルミナ水和物は、アルミニウムの酸性水溶液を塩基で中和することで調製することができ、前記遷移アルミナは、上記で得られたアルミナ水和物を熱処理して調製することができる。なお、これによって得られるアルミナ水和物または遷移アルミナは、高温において構造安定性が高いため、モリブデン化合物およびカリウム化合物の存在下で焼成すると、粒子サイズの大きい板状アルミナ粒子が得られる傾向がある。
【0100】
アルミニウム化合物の形状は、特に制限されず、球状、無定形、アスペクトのある構造体(ワイヤ、ファイバー、リボン、チューブなど)、シートなどのいずれであっても好適に用いることができる。
【0101】
アルミニウム化合物の平均粒径についても、特に制限されないが、5nm~10000μmであることが好ましい。
【0102】
また、アルミニウム化合物は、有機化合物と複合体を形成していてもよい。当該複合体としては、例えば、有機シランを用いて、アルミニウム化合物を修飾して得られる有機無機複合体、ポリマーを吸着したアルミニウム化合物複合体、有機化合物で被覆した複合体等が挙げられる。これらの複合体を用いる場合、有機化合物の含有率としては、特に制限はないが、60質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。
【0103】
アルミニウム化合物のアルミニウム元素に対するモリブデン化合物のモリブデン元素のモル比(モリブデン元素/アルミニウム元素)は、0.01~3.0であることが好ましく、0.1~1.0であることがより好ましく、生産性良く、結晶成長を好適に進行させるために0.30~0.70であることがさらに好ましい。前記モル比(モリブデン元素/アルミニウム元素)が上記範囲内にあると、粒子サイズの大きい板状アルミナ粒子が得られうることから好ましい。
【0104】
(モリブデン化合物)
モリブデン化合物としては、特に制限されないが、金属モリブデン、酸化モリブデン、硫化モリブデン、モリブデン酸リチウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、モリブデン酸カルシウム、モリブデン酸アンモニウム、リンモリブデン酸(HPMo1240)、ケイモリブデン酸(HSiMo1240)等のモリブデン化合物が挙げられる。この際、前記モリブデン化合物は、異性体を含む。例えば、酸化モリブデンは、二酸化モリブデン(IV)(MoO)であっても、三酸化モリブデン(VI)(MoO)であってもよい。また、モリブデン酸カリウムはKMo3n+1の構造式を有し、nは1であっても、2であっても、3であってもよい。これらのうち、三酸化モリブデン、二酸化モリブデン、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸カリウムであることが好ましく、三酸化モリブデンであることがより好ましい。
【0105】
なお、上述のモリブデン化合物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0106】
また、モリブデン酸カリウム(KMo3n+1、n=1~3)は、カリウムを含むため、後述するカリウム化合物としての機能も有しうる。実施形態の製造方法において、モリブデン酸カリウムをフラックス剤として用いることは、モリブデン化合物及びカリウム化合物をフラックス剤として用いることに該当する。
【0107】
(カリウム化合物)
混合工程における混合物は、カリウム化合物を含むことが好ましい。
カリウム化合物としては、特に制限されないが、塩化カリウム、亜塩素酸カリウム、塩素酸カリウム、硫酸カリウム、硫酸水素カリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸水素カリウム、硝酸カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、酢酸カリウム、酸化カリウム、臭化カリウム、臭素酸カリウム、水酸化カリウム、珪酸カリウム、燐酸カリウム、燐酸水素カリウム、硫化カリウム、硫化水素カリウム、モリブデン酸カリウム、タングステン酸カリウム等が挙げられる。この際、前記カリウム化合物は、モリブデン化合物の場合と同様に、異性体を含む。これらのうち、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、酸化カリウム、水酸化カリウム、塩化カリウム、硫酸カリウム、モリブデン酸カリウムを用いることが好ましく、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、塩化カリウム、硫酸カリウム、モリブデン酸カリウムを用いることがより好ましい。
【0108】
なお、上述のカリウム化合物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0109】
また、上記と同様に、モリブデン酸カリウムは、モリブデンを含むため、上述のモリブデン化合物としての機能も有しうる。実施形態の製造方法において、モリブデン酸カリウムをフラックス剤として用いることは、モリブデン化合物及びカリウム化合物をフラックス剤として用いることに該当する。
【0110】
原料仕込み時に用いる又は焼成に当たって昇温過程の反応で生じるカリウム化合物として、水溶性のカリウム化合物、例えばモリブデン酸カリウムは、焼成温度域でも気化することなく、焼成後に洗浄で、容易に回収できるため、モリブデン化合物が焼成炉外へ放出される量も低減され、生産コストとしても大幅に低減することができる。
【0111】
カリウム化合物のカリウム元素に対するモリブデン化合物のモリブデン元素のモル比(モリブデン元素/カリウム元素)は、5以下であることが好ましく、0.01~3であることがより好ましく、0.5~1.5であることが、生産コストをより低減することができるため、さらに好ましい。前記モル比(モリブデン元素/カリウム元素)が上記範囲内にあると、粒子サイズの大きい板状アルミナ粒子が得られうることから好ましい。
【0112】
(ケイ素又はケイ素化合物)
ケイ素又はケイ素元素を含むケイ素化合物としては、特に制限されず、公知のものが使用されうる。ケイ素又はケイ素化合物の具体例としては、金属シリコン、有機シラン、シリコン樹脂、シリカ微粒子、シリカゲル、メソポーラスシリカ、SiC、ムライト等の人工合成シリコン化合物;バイオシリカ等の天然シリコン化合物等が挙げられる。これらのうち、アルミニウム化合物との複合、混合がより均一的に形成できる観点から、有機シラン、シリコン樹脂、シリカ微粒子を用いることが好ましい。なお、ケイ素又はケイ素化合物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0113】
アルミニウム化合物に対するケイ素化合物の添加率は、0.01~1質量%であることが好ましく、0.03~0.4質量%であることがより好ましい。ケイ素化合物の添加率が上記範囲にあることで、厚みが厚く光輝性に優れた板状アルミナ粒子が得られ得ることから好ましい。
【0114】
アルミニウム化合物のアルミニウム元素に対するケイ素又はケイ素化合物のケイ素元素のモル比(ケイ素元素/アルミニウム元素)は、0.0001~0.01であることが好ましく、0.0002~0.005であることがより好ましく、0.0003~0.003であることがさらに好ましい。前記モル比(モリブデン元素/カリウム元素)が上記範囲内にあると、粒子サイズの大きい板状アルミナ粒子が得られうることから好ましい。
【0115】
ケイ素又はケイ素元素を含むケイ素化合物の形状は、特に制限されず、例えば、球状、無定形、アスペクトのある構造体(ワイヤ、ファイバー、リボン、チューブなど)、シートなどを好適に用いることができる。
【0116】
(珪素又は珪素化合物以外の形状制御剤)
実施形態に係る板状アルミナ粒子において、珪素原子及び/又は無機珪素化合物を含むことによる平板状アルミナの形成を阻害しない限りにおいて、必要に応じ、流動性や分散性、機械強度、および平均粒子径や板状アルミナのアスペクト比等を調整する為に、珪素又は珪素化合物以外の形状制御剤を用いても良い。珪素又は珪素化合物以外の形状制御剤はこれらと同様に、モリブデン化合物の存在下でアルミナ化合物を焼成する事による、アルミナの板状結晶成長に寄与する。
【0117】
珪素又は珪素化合物以外の形状制御剤の存在状態は、アルミニウム化合物との接触ができれば、特に制限されない。例えば、形状制御剤とアルミニウム化合物と物理混合物、形状制御剤がアルミニウム化合物の表面または内部に均一または局在に存在した複合体などが好適に用いることができる。
【0118】
また、珪素又は珪素化合物以外の形状制御剤は、アルミニウム化合物に任意に添加しても良いが、アルミニウム化合物中に不純物として含まれていても良い。
【0119】
珪素又は珪素化合物以外の形状制御剤の添加方法に特に制限はなく、粉体として直接添加混合するドライブレンド方式や、混合機を用いた混合、または予め溶媒やモノマー等に分散させ添加する方式を用いても良い。
【0120】
珪素又は珪素化合物以外の形状制御剤の種類については、珪素又は珪素化合物と同様に、モリブデン化合物の存在下、高温焼成中、酸化モリブデンがアルミニウム化合物との反応及び分解を経て、アルミナのそれぞれの結晶方位の生長速度に違いを生じさせ、晶癖の異なった結晶を形成させる過程を含み、板状形態を形成することが出来れば、特に制限されない。より平板状アルミナのアスペクト比が高く、よりアルミナ粒子の流動性や分散性に優れ、より生産性に優れる点で、モリブデン化合物とアルミニウム化合物を除く金属化合物を用いることが好ましい。または、ナトリウム原子及び/又はナトリウム化合物を用いることがより好ましい。
【0121】
ナトリウム原子及び/又はナトリウム化合物としては、特に制限されず、公知のものが使用されうる。これらの具体例としては、炭酸ナトリウム、モリブデン酸ナトリウム、酸化ナトリウム、硫酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、硝酸ナトリウム、塩化ナトリウム、金属ナトリウム等が挙げられる。これらのうち、工業的に容易入手と取扱いし易さの観点から炭酸ナトリウム、モリブデン酸ナトリウム、酸化ナトリウム、硫酸ナトリウムを用いることが好ましい。なお、ナトリウムあるいはナトリウム原子を含む化合物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0122】
ナトリウム原子及び/又はナトリウム化合物の形状は、特に制限されず、例えば、球状、無定形、アスペクトのある構造体(ワイヤ、ファイバー、リボン、チューブなど)、シートなどを好適に用いることができる。
【0123】
ナトリウム原子及び/又はナトリウム化合物の使用量は特に制限されないが、アルミニウム化合物のアルミニウム金属1モルに対して、ナトリウム金属として0.0001~2モルであることが好ましく、0.001~1モルであることがより好ましい。ナトリウム原子及び/又はナトリウム化合物の使用量が上記範囲にあると、高アスペクト比のアルミナ粒子が得られやすいことから好ましい。
【0124】
(金属化合物)
金属化合物は、後述するように、アルミナの結晶成長を促進する機能を有しうる。当該金属化合物は所望により焼成時に使用されうる。なお、金属化合物は、α-アルミナの結晶成長を促進する機能を有するものであるため、本発明に係る板状アルミナ粒子の製造に必須ではない。
【0125】
金属化合物としては、特に制限されないが、第II族の金属化合物、第III族の金属化合物からなる群から選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0126】
前記第II族の金属化合物としては、マグネシウム化合物、カルシウム化合物、ストロンチウム化合物、バリウム化合物等が挙げられる。
【0127】
前記第III族の金属化合物としては、スカンジウム化合物、イットリウム化合物、ランタン化合物、セリウム化合物等が挙げられる。
【0128】
なお上述の金属化合物は、金属元素の酸化物、水酸化物、炭酸化物、塩化物を意味する。例えば、イットリウム化合物であれば、酸化イットリウム(Y)、水酸化イットリウム、炭酸化イットリウムが挙げられる。これらのうち、金属化合物は金属元素の酸化物であることが好ましい。なお、これらの金属化合物は異性体を含む。
【0129】
これらのうち、第3周期元素の金属化合物、第4周期元素の金属化合物、第5周期元素の金属化合物、第6周期元素の金属化合物であることが好ましく、第4周期元素の金属化合物、又は第5周期元素の金属化合物であることがより好ましく、第5周期元素の金属化合物であることがさらに好ましい。具体的には、マグネシウム化合物、カルシウム化合物、イットリウム化合物、ランタン化合物、を用いることが好ましく、マグネシウム化合物、カルシウム化合物、イットリウム化合物を用いることがより好ましく、イットリウム化合物を用いることが特に好ましい。
【0130】
後述の着色成分としての機能も兼ねるとの観点からは、第4周期元素の金属化合物が好ましい。
【0131】
金属化合物の添加率は、アルミニウム化合物に対して、0.02~20質量%であることが好ましく、0.1~20質量%であることがより好ましい。金属化合物の添加率が0.02質量%以上であると、モリブデンを含むα-アルミナの結晶成長が好適に進行しうることから好ましい。一方、金属化合物の添加率が20質量%以下であると、金属化合物由来の不純物の含有量の低い板状アルミナ粒子を得ることができることから好ましい。
【0132】
・イットリウム
金属化合物として、イットリウム化合物の存在下で、アルミニウム化合物を焼成した場合には、この焼成工程において、結晶成長がより好適に進行し、α-アルミナの結晶内部および表面にイットリウム化合物が生成する。この際に、板状アルミナ粒子であるα-アルミナの表面に存在する該イットリウム化合物を、必要ならば、水、アルカリ水、これらを温めた液体等にて洗浄すること(例えば、イットリウム化合物を遊離させデカンテーションを行うこと)等により、板状アルミナ粒子表面から除去することができる。
【0133】
(着色成分)
着色成分は、添加されることで、酸化アルミニウムの結晶の色を変化させる機能を有するものである。
着色成分としては、焼成工程により、その元素の少なくとも一部がアルミナ粒子に組み込まれるものが好ましい。かかる観点からは、第4周期に属する少なくとも1種以上の遷移金属を含むものを着色成分原料として使用することができ、具体的には、クロム化合物、鉄化合物、チタン化合物、ニッケル化合物、バナジウム化合物、コバルト化合物等を用いることができ、これらの酸化物、水酸化物、金属、金属塩、フッ化物、硝酸化物、硫酸化物、塩化物などが挙げられる。これらは2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0134】
着色成分の使用量は、特に限定されるものではないが、混合物中のアルミニウム化合物のアルミニウム元素に対する着色成分の着色成分元素のモル比(着色成分元素/アルミニウム元素)が、0.0001~0.1であることが好ましく、0.0005~0.05であることがより好ましい。着色成分の添加率が上記範囲にある板状アルミナ粒子では、より優れた発色が得られ好ましい。上記モル比は、(第4周期の遷移金属元素/アルミニウム元素)であることが好ましい。
【0135】
上記のアルミニウム化合物、モリブデン化合物、カリウム化合物、ケイ素又はケイ素化合物、及び着色成分等の使用量は、特に限定されるものではないが、好ましくは、酸化物換算した原料全量を100質量%とした際に、Al換算で10質量%以上のアルミニウム化合物と、MoO換算で20質量%以上のモリブデン化合物と、KO換算で1質量%以上カリウム化合物と、SiO換算で1質量%未満のケイ素又はケイ素化合物と、着色成分とを混合して混合物とし、前記混合物を焼成することができる。
より好ましくは、六角板状のアルミナの含有率をより高めることができる点で、酸化物換算した原料全量を100質量%とした際に、Al換算で20質量%以上70質量%以下のアルミニウム化合物と、MoO換算で30質量%以上80質量%以下のモリブデン化合物と、KO換算で5質量%以上30質量%以下のカリウム化合物と、SiO換算で0.001質量%以上0.3質量%以下のケイ素又はケイ素化合物と、着色成分とを混合して混合物とし、前記混合物を焼成することができる。さらに好ましくは、酸化物換算した原料全量を100質量%とした際に、Al換算で25質量%以上60質量%以下のアルミニウム化合物と、MoO換算で35質量%以上70質量%以下のモリブデン化合物と、KO換算で10質量%以上20質量%以下のカリウム化合物と、SiO換算で0.01質量%以上0.1質量%以下のケイ素又はケイ素化合物と、着色成分とを混合して混合物とし、前記混合物を焼成することができる。六角板状のアルミナの含有率を最も高めることができ、結晶成長をより好適に進行させるために特に好ましくは、酸化物換算した原料全量を100質量%とした際に、Al換算で35質量%以上50質量%以下のアルミニウム化合物と、MoO換算で35質量%以上65質量%以下のモリブデン化合物と、KO換算で10質量%以上20質量%以下のカリウム化合物と、SiO換算で0.02質量%以上0.08質量%以下のケイ素又はケイ素化合物と、着色成分とを混合して混合物とし、前記混合物を焼成することができる。
【0136】
上記の範囲で各種化合物を配合することで、板状で且つ粒子サイズが大きく、より光輝性に優れた板状アルミナ粒子を製造することができる。特に、モリブデンの使用量を多くする傾向とし、ケイ素の使用量をある程度少なくする傾向とすることで、より粒子サイズ及び結晶子径を大きくでき、且つ六角板状のアルミナ粒子が得られやすくなり、上記のさらに好ましい範囲で各種化合物を配合することで、六角板状のアルミナ粒子が得られやすく、それの含有率をより高めることができ、得られたアルミナ粒子の光輝性がさらに優れたものとなる傾向がある。
【0137】
着色成分の使用量は、特に限定されるものではないが、好ましくは、酸化物換算した原料全量を100質量%とした際に、酸化物換算で0.005質量%以上の着色成分を混合物に配合してもよく、酸化物換算で0.05質量%以上5質量%以下の着色成分を混合物に配合してもよく、酸化物換算で0.1質量%以上3質量%以下の着色成分を混合物に配合してもよい。上記の範囲で着色成分を配合することで、得られたアルミナ粒子の発色がさらに優れたものとなる傾向がある。
【0138】
前記混合物が、さらに上記のイットリウム化合物を含む場合、イットリウム化合物の使用量は、特に限定されるものではないが、好ましくは、酸化物換算した原料全量を100質量%とした際に、Y換算で5質量%以下のイットリウム化合物を混合することができる。より好ましくは、酸化物換算した原料全量を100質量%とした際に、Y換算で0.01質量%以上3質量%以下のイットリウム化合物を混合することができる。結晶成長をより好適に進行させるためにさらに好ましくは、酸化物換算した原料全量を100質量%とした際に、Y換算で0.1質量%以上1質量%以下のイットリウム化合物を混合することができる。
【0139】
上記のアルミニウム化合物、モリブデン化合物、カリウム化合物、ケイ素又はケイ素化合物、着色成分及び金属化合物は、各酸化物換算の使用量の合計が100質量%を超えないよう使用される。
【0140】
[焼成工程]
実施形態の焼成工程は、モリブデン化合物、およびケイ素又はケイ素化合物と、着色成分の存在下で、アルミニウム化合物を焼成する工程(第1焼成工程)を含む。第1焼成工程は、前記混合工程で得られた混合物を焼成する工程であってもよい。
なお、本実施形態の製造方法では、前記第1焼成工程で焼成後の混合物から板状アルミナ粒子を取り出し、該板状アルミナ粒子を更に焼成する第2焼成工程を含むことが好ましい。第2焼成工程については後述する。
【0141】
(第1焼成工程)
以下、上記第1焼成工程について説明する。
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、例えば、モリブデン化合物、カリウム化合物、ケイ素又はケイ素化合物、および着色成分の存在下で、アルミニウム化合物を焼成することで得られる。上記した通り、この製造方法はフラックス法と呼ばれる。
【0142】
フラックス法は、溶液法に分類される。フラックス法とは、より詳細には、結晶-フラックス2成分系状態図が共晶型を示すことを利用した結晶成長の方法である。フラックス法のメカニズムとしては、以下の通りであると推測される。すなわち、溶質およびフラックスの混合物を加熱していくと、溶質およびフラックスは液相となる。この際、フラックスは融剤であるため、換言すれば、溶質-フラックス2成分系状態図が共晶型を示すため、溶質は、その融点よりも低い温度で溶融し、液相を構成することとなる。この状態で、フラックスを蒸発させると、フラックスの濃度は低下し、換言すれば、フラックスによる前記溶質の融点低下効果が低減し、フラックスの蒸発が駆動力となって溶質の結晶成長が起こる(フラックス蒸発法)。液相のフラックス剤中で結晶成長させることも好ましい方法であり、溶質およびフラックスは液相を冷却することによっても溶質の結晶成長を起こすことができる(徐冷法)。
【0143】
フラックス法は、融点よりもはるかに低い温度で結晶成長をさせることができる、結晶構造を精密に制御できる、自形をもつ多面体結晶体を形成できる等のメリットを有する。
【0144】
フラックスとしてモリブデン化合物を用いたフラックス法によるアルミナ粒子の製造では、そのメカニズムは必ずしも明らかではないが、例えば、以下のようなメカニズムによるものと推測される。すなわち、モリブデン化合物の存在下でアルミニウム化合物を焼成すると、まず、モリブデン酸アルミニウムが形成される。この際、当該モリブデン酸アルミニウムは、上述の説明からも理解されるように、アルミナの融点よりも低温でアルミナ結晶を成長する。そして、例えば、モリブデン酸アルミニウムの分解、フラックスの蒸発等を経て、結晶成長が加速されることでアルミナ粒子を得ることができる。すなわち、モリブデン化合物がフラックスとして機能し、モリブデン酸アルミニウムという中間体を経由してアルミナ粒子が製造されるのである。
【0145】
ここで、上記フラックス法においてカリウム化合物及びケイ素又はケイ素化合物を併用すると、粒子サイズが大きく且つ板状のアルミナ粒子を製造することが可能となりうる。より詳細には、モリブデン化合物とカリウム化合物とを併用すると、まず、モリブデン化合物とカリウム化合物が反応してモリブデン酸カリウムが形成される。同時に、モリブデン化合物がアルミニウム化合物と反応してモリブデン酸アルミニウムを形成する。そして、例えば、モリブデン酸カリウムの存在下でモリブデン酸アルミニウムが分解し、ケイ素又はケイ素化合物の存在下で結晶成長することで粒子サイズが大きく且つ板状のアルミナ粒子を得ることができる。すなわち、モリブデン酸アルミニウムという中間体を経由してアルミナ粒子を製造する際に、モリブデン酸カリウムが存在すると粒子サイズの大きいアルミナ粒子が得られるのである。
【0146】
つまり、理由は明らかではないものの、モリブデン酸アルミニウムに基づきアルミナ粒子を得る場合と比較して、モリブデン酸アルミニウムに基づきモリブデン酸カリウムの存在下でアルミナ粒子を得る場合の方が、粒子サイズの大きいアルミナ粒子を得ることができる。
【0147】
また、ケイ素又はケイ素化合物は、形状制御剤として板状結晶成長に重要な役割を果たす。一般的に行なわれる酸化モリブデンフラックス法では酸化モリブデンがアルミニウム化合物と反応することでモリブデン酸アルミニウムを形成させ、次いで、このモリブデン酸アルミニウムが分解する過程における化学ポテンシャルの変化が結晶化の駆動力となっているため、自形面(113)の発達した六角両錘型の多面体粒子が形成する。実施形態の製造方法においては、ケイ素又はケイ素化合物が、α-アルミナ成長過程において粒子表面近傍に局在化することで、自形面(113)の生長が著しく阻害される結果、相対的に面方向の結晶方位の生長が速くなり、(006)面が成長し、板状形態を形成することができると考えられる。
【0148】
なお、上記メカニズムはあくまで推測のものであり、上記メカニズムと異なるメカニズムによって本発明の効果が得られる場合であっても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0149】
上述したモリブデン酸カリウムの構成は特に制限されないが、通常、モリブデン原子、カリウム原子および酸素原子を含む。構造式としては、好ましくはKMo3n+1で表される。この際は、nは特に制限されないが、1~3の範囲であると、アルミナ粒子成長促進が効果的に機能することから好ましい。なお、モリブデン酸カリウムには他の原子が含まれていてもよく、当該他の原子としては、ナトリウム、マグネシウム、シリコン、等が挙げられる。
【0150】
第1焼成工程において、上述の焼成は、金属化合物の存在下で行われてもよい。例えば、前記焼成は、モリブデン化合物およびカリウム化合物とともに上述金属化合物が併用されうる。これにより、より粒子サイズの大きいアルミナ粒子が製造されうる。そのメカニズムについては必ずしも明らかではないが、例えば、以下のようなメカニズムによるものと推測される。すなわち、アルミナ粒子の結晶成長の際に、金属化合物が存在することで、アルミナ結晶核の形成の防止もしくは抑制および/またはアルミナの結晶成長に必要なアルミニウム化合物の拡散促進、換言すれば、結晶核の過剰発生の防止および/またはアルミニウム化合物の拡散速度の上昇の機能が発揮され、粒子サイズの大きいアルミナ粒子が得られると考えられる。なお、上記メカニズムはあくまで推測のものであり、上記メカニズムと異なるメカニズムによって本発明の効果が得られる場合であっても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0151】
第1焼成工程の焼成温度は特に制限されないが、最高焼成温度が700℃以上であることが好ましく、900℃以上であることがより好ましく、900~2000℃であることがさらに好ましく、900~1200℃であることが特に好ましい。焼成温度が700℃以上であると、好適にフラックス反応が進行することから好ましく、焼成温度が900℃以上であると、アルミナ粒子の板状結晶成長が好適に進行することからより好ましい。
【0152】
第1焼成工程の焼成時におけるアルミニウム化合物、モリブデン化合物、カリウム化合物、ケイ素又はケイ素化合物、及び金属化合物等の状態は、特に限定されず、これらが混合されていればよい。混合方法としては、粉体を混ぜ合わせる簡便な混合、粉砕機やミキサー等を用いた機械的な混合、乳鉢等を用いた混合等が挙げられる。この際、得られる混合物は、乾式状態、湿式状態のいずれであってもよいが、コストの観点から乾式状態であることが好ましい。
【0153】
第1焼成工程の焼成の時間についても特に制限されないが、0.1~1000時間であることが好ましく、アルミナ粒子の形成を効率的に行う観点から、1~100時間であることがより好ましい。焼成時間が0.1時間以上であると、粒子サイズの大きいアルミナ粒子を得ることができるため好ましい。一方、焼成時間が1000時間以内であると、製造コストが低くなり得ることから好ましい。
【0154】
第1焼成工程の焼成温度までの昇温速度は、特に制限されないが、1~1000℃/時間であることが好ましく、5~500℃/時間であることがより好ましく、50~300℃/時間であることがさらに好ましい。昇温速度が上記の下限値以上であると、製造時間が短縮されうることから好ましい。一方、昇温速度が上記の上限値以下であると、アルミナ粒子の結晶成長効率が適度に向上することから好ましい。
【0155】
第1焼成工程の焼成の雰囲気についても特に限定されないが、例えば、空気や酸素のような含酸素雰囲気、窒素やアルゴンのような不活性雰囲気であることが好ましく、実施者の安全性や炉の耐久性観点から腐食性を有さない含酸素雰囲気、窒素雰囲気であることがより好ましく、コストの観点から、空気雰囲気であることがさらに好ましい。
【0156】
第1焼成工程の焼成時の圧力についても特に制限されず、常圧下であっても、加圧下であっても、減圧下であってもよい。加熱手段としては、特に制限されない、焼成炉を用いることが好ましい。この際使用されうる焼成炉としては、トンネル炉、ローラーハース炉、ロータリーキルン、マッフル炉等が挙げられる。
【0157】
[冷却工程]
本発明の製造方法は、冷却工程を含んでいてもよい。当該冷却工程は、焼成工程において結晶成長したアルミナを冷却する工程である。
【0158】
冷却速度は、特に制限されないが、1~1000℃/時間であることが好ましく、5~500℃/時間であることがより好ましく、50~300℃/時間であることがさらに好ましい。冷却速度が1℃/時間以上であると、製造時間が短縮されうることから好ましい。一方、冷却速度が1000℃/時間以下であると、焼成容器がヒートショックで割れることが少なく、長く使用できることから好ましい。
【0159】
冷却方法は特に制限されず、自然放冷であっても、冷却装置を使用してもよい。
【0160】
[後処理工程]
本発明の製造方法は、後処理工程を含んでいてもよい。当該後処理工程は、板状アルミナ粒子とフラックス剤とを分離し、板状アルミナ粒子からフラックス剤を除去する工程である。後処理工程の操作により、フラックス剤の他、形状制御剤や、それらに由来する成分等も、板状アルミナ粒子から除去され得る。後処理工程は、上述の焼成工程の後に行ってもよいし、上述の冷却工程の後に行ってもよいし、焼成工程および冷却工程の後に行ってもよい。また、必要に応じて、2度以上繰り返し行ってもよい。
【0161】
後処理の方法としては、洗浄が挙げられる。これらは組み合わせて行うことができる。
【0162】
前記洗浄方法としては、特に制限されないが、例えば、水、アンモニア水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、酸性水溶液等で洗浄することが挙げられる。
洗浄の操作により、フラックス剤や、形状制御剤、それらに由来する成分の少なくとも一部を、板状アルミナ粒子表面から除去することができる。
【0163】
この際、洗浄に使用する水、アンモニア水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、酸性水溶液等の濃度、使用量、および洗浄部位、洗浄時間等を適宜変更することで、例えば、板状アルミナ粒子に含有されるモリブデン含有量を制御することができる。フラックス剤に由来して板状アルミナ粒子表面に存在するAlと化学結合を形成していないモリブデンは、板状アルミナ粒子表面から容易に除去される。
なお上記洗浄による、モリブデン以外の成分の挙動について、例えば、形状制御剤に由来して板状アルミナ粒子に含まれ得るケイ素化合物は、水に難溶につき、ケイ素は板状アルミナ粒子表面から溶解除去され難い。また、形状制御剤としてナトリウム化合物を使用する場合や、フラックス剤としてカリウム化合物を使用する場合には、これらに由来して板状アルミナ粒子の表面に存在し得るカリウム化合物及びナトリウム化合物は、水溶性化合物につき、カリウム及びナトリウムは板状アルミナ粒子表面から溶解除去され易い。
【0164】
(第2焼成工程)
第2焼成工程は、第1焼成工程で焼成後の混合物から板状アルミナ粒子を取り出し、該板状アルミナ粒子を更に焼成する工程である。焼成後の混合物から板状アルミナ粒子を取り出す操作とは、アルミナ粒子の周囲からフラックス剤を除去する操作を指し、この操作は、先述の後処理工程で例示した操作により実施することができる。なお、後処理工程において、フラックス剤はアルミナ粒子から完全に除去されなくともよい。
第2焼成工程により、板状アルミナ粒子からフラックス剤を更に除去することができる。
【0165】
第1焼成工程で焼成後の混合物から予め板状アルミナ粒子をとりだすことで、多量のフラックス剤から板状アルミナ粒子を分離でき、第2焼成工程でのフラックス剤の除去効率が高まる。
第2焼成工程は、板状アルミナ粒子の上記洗浄の後に行うことが好ましい。洗浄により、板状アルミナ粒子表面のフラックス剤や形状制御剤、それらに由来する成分が予め除去され、第2焼成工程でのそれらのの除去効率がさらに高まると推察される。
上記の取り出しや、洗浄によっても板状アルミナ粒子の“表面”に存在しAlと化学結合を形成していないフラックス剤等に由来する成分は除去することができるが、第2焼成工程を実施することで、板状アルミナ粒子の局所的な固溶状態における原子交換等により板状アルミナ粒子の“内部”に含有されていたフラックス剤等に由来する成分(例えばモリブデン)が板状アルミナ粒子内から放出されると考えられ、第2焼成工程を経ることで、板状アルミナ粒子の発色を、より鮮やかなものとできる。
【0166】
第2焼成工程の焼成温度、焼成の時間、焼成の雰囲気、焼成時の圧力等の条件は、上記の第1焼成工程で例示した条件が挙げられ、所望の発色が得られるよう、処理条件を適宜選択することができる。
例えば、第2焼成工程の焼成温度は、900~2000℃であることが好ましく、1200~1600℃であることがより好ましい。第2焼成工程の焼成温度は、第2焼成工程の処理により着色成分までもが過度に脱離することを防止する目的で、着色成分の種類に応じて適宜定めることが好ましい。例えば、着色成分としてコバルトを用いる場合には、第2焼成工程の焼成温度は1200℃以下が好ましい。例えば、着色成分とし鉄、チタン、又はニッケルを用いる場合には、第2焼成工程の焼成温度は1400℃以下が好ましい。
【0167】
[粉砕工程]
焼成物は板状アルミナ粒子が凝集して、本発明に好適な粒子径の範囲を満たさない場合がある。そのため、板状アルミナ粒子は、必要に応じて、本発明に好適な粒子径の範囲を満たすように粉砕してもよい。
【0168】
焼成物の粉砕の方法は特に限定されず、ボールミル、ジョークラッシャー、ジェットミル、ディスクミル、スペクトロミル、グラインダー、ミキサーミル等の従来公知の粉砕方法を適用できる。
【0169】
[分級工程]
板状アルミナ粒子は、平均粒子径を調整し、粉体の流動性を向上するため、またはマトリックスを形成するためのバインダーに配合したときの粘度上昇を抑制するために、好ましくは分級処理される。「分級処理」とは、粒子の大きさによって粒子をグループ分けする操作をいう。
【0170】
分級は湿式、乾式のいずれでも良いが、生産性の観点からは、乾式の分級が好ましい。乾式の分級には、篩による分級のほか、遠心力と流体抗力の差によって分級する風力分級などがあるが、分級精度の観点からは、風力分級が好ましく、コアンダ効果を利用した気流分級機、旋回気流式分級機、強制渦遠心式分級機、半自由渦遠心式分級機などの分級機を用いて行うことができる。
【0171】
上記した粉砕工程や分級工程は、後述する有機化合物層形成工程の前後を含めて、必要な段階において行うことができる。これら粉砕や分級の有無やそれらの条件選定により、例えば、得られる板状アルミナ粒子の平均粒子径を調整することができる。
【0172】
本発明の板状アルミナ粒子、或いは本発明の製造方法で得る板状アルミナ粒子は、凝集が少ないもの或いは凝集していないものが、本来の性質を発揮しやすく、それ自体の取扱性により優れており、また被分散媒体に分散させて用いる場合において、より分散性に優れる観点から、好ましい。板状アルミナ粒子の製造方法においては、上記した粉砕工程や分級工程は行わずに、凝集が少ないもの或いは凝集していないものが得られれば、左記工程を行う必要もなく、目的の優れた性質を有する板状アルミナを、生産性高く製造することが出来るので好ましい。
【0173】
[有機化合物層形成工程]
一実施形態において、板状アルミナ粒子の製造方法は、有機化合物層形成工程をさらに含んでいてもよい。当該有機化合物層形成工程は、通常、焼成工程の後、またはモリブデン除去工程の後に行われる。
【0174】
有機化合物層を形成する方法としては、特に制限されず、公知の方法が適宜採用されうる。例えば、有機化合物を含む液をモリブデンを含む板状アルミナ粒子に接触させ、乾燥する方法が挙げられる。
【0175】
なお、有機化合物層の形成に使用されうる有機化合物としては、上述したものが用いられうる。
【実施例
【0176】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0177】
≪評価≫
下記の実施例1~6、及び比較例1~2で製造したアルミナ粒子を試料とし、以下の評価を行った。測定方法を以下に示す。
【0178】
[板状アルミナの長径Lの計測]
作製した試料をスライドガラスにのせ、デジタルマイクロスコープ(VHX-6000、株式会社キーエンス製)にて観察し、50個の長径を測定した平均値を採用し、長径L(μm)とした。
【0179】
[板状アルミナの厚みDの計測]
作製した試料をスライドガラスにのせ、デジタルマイクロスコープ(VHX-6000、株式会社キーエンス製)にて観察し、50個の厚みを測定した平均値を採用し、厚みD(μm)とした。
【0180】
[アスペクト比L/D]
アスペクト比は下記の式を用いて求めた。
アスペクト比 = 板状アルミナの長径L/板状アルミナの厚みD
【0181】
[板状アルミナの形状の評価]
デジタルマイクロスコープを用いて、得られた画像から、アルミナ粒子の形状を確認した。形状を確認したアルミナ粒子の全個数100%のうち、六角板状の粒子が個数計算で、5%以上観察された場合には、六角板状のアルミナ粒子が「有」とした。
【0182】
[蛍光X線測定(XRF)による元素分析]
蛍光X線分析装置[株式会社リガク製 ZSX PrimusIV]を用い、作製した試料約70mgをろ紙にとり、PPフィルムをかぶせて組成分析を行った。XRF分析結果により求められるケイ素量、モリブデン量、カリウム量、および着色成分量を、板状アルミナ粒子100質量%に対する二酸化ケイ素換算(質量%)、三酸化モリブデン換算(質量%)、酸化カリウム換算(質量%)、および着色成分元素(質量%)によりそれぞれ求めた。
【0183】
[X線光電子分光法(XPS)による表面元素分析]
X線光電子分光(XPS)装置Quantera SNM(アルバックファイ社)を用い、作製した試料を両面テープ上にプレス固定し、以下の条件で組成分析を行った。
・X線源:単色化AlKα、ビーム径100μmφ、出力25W
・測定:エリア測定(1000μm四方)、n=3
・帯電補正:C1s=284.8eV
XPS分析結果により求められる[Si]/[Al]を板状アルミナ粒子表層のSi量とした。
【0184】
[X線回折法(XRD)による結晶構造・α化率の分析]
作製した試料を0.5mm深さの測定試料用ホルダーにのせ、一定荷重で平らになる様充填し、それを広角X線回折装置(株式会社リガク製 Rint-Ultma)にセットし、Cu/Kα線、40kV/30mA、スキャンスピード2度/分、走査範囲10~70度の条件で測定を行った。α-アルミナと遷移アルミナの最強ピーク高さの比よりα化率を求めた。
【0185】
[X線回折法(XRD)による結晶子径解析]
X線回折装置であるSmartLab(株式会社リガク製)を用い、検出器として高強度・高分解能結晶アナライザ(CALSA)を用い、解析ソフトとしてPDXLを用いて測定を行った。この際、測定方法は2θ/θ法であり、結晶子径解析は2θ=35.2°([104]面)および2θ=43.4°([113]面)付近に出現するピークの半値幅からシェラー式を用いて算出した。測定条件は、スキャンスピード0.05°/分で、スキャン範囲5~70°、ステップ0.002°、装置標準幅は0.027°(Si)とした。
【0186】
[単結晶測定]
単結晶X線構造解析装置Xtalab P200(リガク製)を用い、板状αアルミナの構造解析を実施した。測定条件及び解析に使用した各種ソフトウェアを以下に記載する。
・装置:リガク製XtaLab P200 (検出器: PIRATUS 200K)
・測定条件:線源Mo Kα(λ=0.7107 Å)
X線出力:50kV-24mA
吹き付けガス:N、25℃
カメラ長:30mm
・測定ソフト:CrystalClear
・画像処理ソフト:CrysAlis Pro
・構造解析ソフト:olex2, SHELX
【0187】
作製した複数の結晶の集合から、板状アルミナ1粒を取り出して、単結晶X線構造解析装置にて解析した結果、単結晶構造解析ができ、さらに、数粒を取り出して、走査型電子顕微鏡(SEM)で形状観察した結果、粒子周囲に他の結晶がついていない(双晶のようなものが見られない)ことが確認できたものを単結晶「有」と評価した。
【0188】
[分光測色]
分光測色計CM-5(コニカミノルタ社製)を用い、正反射光除去モード(SCE方式)で反射率を測定した。
・波長範囲360nm~740nm
・波長間隔10nm
・分光手段:平面回折格子
・測定用光源:パルスキセノンランプ
【0189】
≪アルミナ粒子の製造≫
<実施例1>
遷移アルミナ(γ―アルミナを主成分とする)120.8g、二酸化けい素(関東化学株式会社製、特級)0.2g、三酸化モリブデン(太陽鉱工株式会社製)109.3g、炭酸カリウム(関東化学株式会社製、鹿1級)52.5g、炭酸ナトリウム(関東化学株式会社製、特級)0.6g、酸化イットリウム(和光純薬工業株式会社)0.6g、及び酸化クロム(関東化学株式会社製)2.7gを乾式混合し、得られた混合物をこう鉢に入れ、3℃/分の条件で1100℃まで昇温し、電気マッフル炉にて1100℃で24時間焼成(第1焼成)を行なった。その後3℃/分の条件で室温まで降温後、こう鉢から焼成物を取り出し、焼成物251.1gを得た。得られた焼成物を乳鉢にて粗解砕し、10%水酸化ナトリウム水溶液1200mLを加え、25℃で0.5時間攪拌後、ろ過、水洗浄、乾燥を行い、次いで、1500℃で10時間追加焼成(第2焼成)を行ない、赤色アルミナ粒子118.4gを得た。
得られた赤色アルミナ粒子に対し、X線回折法(XRD)にて構造解析・結晶子径測定を行ったところ、コランダムに由来する鋭い回折ピークが表れ、α結晶構造を主成分とするアルミナ結晶であり、その平均結晶子径は、[104]面に帰属されるピークから373nm、[113]面に帰属されるピークから401nmである事を確認した。蛍光X線測定(XRF)結果から、得られた粒子は、粒子100質量%に対し、MoをMoO換算で0.458質量%、SiをSiO換算で0.175質量%、KをKO換算で0.063質量%、Crを2.2質量%含んでいる事を確認した。さらにX線光電子分光法(XPS)でアルミナ粒子表面の[Si]/[Al]は0.124である事を確認した。分光測色計を用いて測色した結果、600nm~730nm付近に反射光が確認され、特に700nm付近で非常に高反射である事を確認した。各原料の配合と各解析の結果を表1~表2に示す。
【0190】
【表1】
【0191】
<実施例2~6>
上記の実施例1において、着色成分の種類及び配合量、さらに第2焼成の温度を、表1のとおり変更したこと以外は、実施例1と同様にして、各色を呈する板状アルミナ粒子を製造した。各原料の配合と各解析の結果を表1~表2に示す。
【0192】
<比較例1>
酸化アルミニウム1.5g、酸化クロム0.008g、酸化モリブデン28.5gおよび炭酸リチウム1.5gを乳鉢で混合した後、白金坩堝に仕込み、蓋をして、電気炉にて昇温速度45℃/h、1100℃で5時間焼成した。焼成終了後、坩堝を温水中に入れ、クロム添加の人工コランダム結晶を分離・回収した。得られた結晶は、赤色の六角両錐形であり、板状粒子は得られなかった。各原料の配合と各解析の結果を表1~表2に示す。
【0193】
<比較例2>
酸化クロムを用いない以外は実施例1と同様に合成を行い、薄いグレーのアルミナ粒子115.5gを得た。
分光測色計を用いて測色した結果、測定した360nm~740nmの範囲にて、全反射に近いスペクトルが観測され、明確なピークは観察されなかった。各原料の配合と各解析の結果を表1~表2に示す。
【0194】
原料化合物の酸化物換算の配合(全体を100質量%とする)と、上記の評価結果を表2に示す。
【0195】
【表2】
【0196】
図1に、実施例1の板状アルミナ粒子の顕微鏡観察画像を示す。図2に、実施例3の板状アルミナ粒子の顕微鏡観察画像を示す。図3に、実施例6の板状アルミナ粒子の顕微鏡観察画像を示す。
【0197】
上記実施例1~6、及び比較例2で得られたアルミナ粒子は、上記表2に記載のカラー、形状、長径、厚み、平均粒子径、及びアスペクト比を有するものであることを確認した。上記比較例1で得られたアルミナ粒子は、上記表2に記載のカラー、及び形状を有するものであることを確認した。
【0198】
原料にSiOを使用して製造された実施例1~6の板状アルミナ粒子は、アスペクト比が2以上の板状であった。
対して、原料にSiOを配合しないで製造された比較例1のアルミナ粒子は、六角両錐状であり、板状構造を有さなかった。
実施例1~6の板状アルミナ粒子は、比較例1のアルミナ粒子と比べ、光輝性に優れるものであった。
【0199】
上記実施例1~6で得られたアルミナ粒子に対し、XRD測定を行ったところ、α-アルミナに由来する鋭い回折ピークが現れ、α結晶構造以外のアルミナ結晶系ピークは観察されなく、緻密な結晶構造を有する板状アルミナであることを確認した。したがって、上記実施例1~6で得られたアルミナ粒子は、α化率が99%以上であることを確認でき、原料にはない強い光の反射を確認できた。
さらに、(104)面平均結晶子径及び(113)面結晶子径の測定結果から、実施例1~6のアルミナ粒子は結晶子径が大きいものであることが確認でき、アルミナ粒子は光輝性に優れるものであった。
【0200】
さらに、上記実施例1~6及び比較例1~2で得られた板状アルミナ粒子に対し単結晶測定を行い、単結晶「有」であることを確認した。
【0201】
図4に、実施例1の板状アルミナ粒子の反射率のスペクトルデータを示す。図5に、実施例3の板状アルミナ粒子の反射率のスペクトルデータを示す。図6に、実施例6の板状アルミナ粒子の反射率のスペクトルデータを示す。図7に、比較例2の板状アルミナ粒子の反射率のスペクトルデータを示す。
【0202】
着色成分を含まない比較例2の板状アルミナ粒子は、測定した360nm~740nmの範囲にて、全反射に近いスペクトルが観測され、明確なピークは観察されず、カラー(目視)は薄灰色であった。
一方、着色成分を含む実施例1~6の板状アルミナ粒子は、光反射スペクトルにおいて、特定の波長の反射が確認され、反射率のピークを有し、カラー(目視)は、表2に示すとおり、それぞれ、赤、ピンク、青、緑であり、美観に優れるものであった。
【0203】
上記実施例1~6で得られたアルミナ粒子に対し、XPS測定及びXRF測定を行い、原料に由来する各種成分の含有を確認した。
また、実施例1~6で得られたアルミナ粒子は、第2焼成工程を経て製造されることでモリブデン含有量が適度に低減され、実施例1のアルミナ粒子と比較例1のアルミナ粒子とを比べると、実施例1のアルミナ粒子のほうが、より鮮やかな赤色を示していた。
【0204】
上記実施例1~6の板状アルミナ粒子において、板状アルミナ結晶が、実質的にα型であることに加え、単結晶であることや、結晶子径が大きいこと、六角板状のものが含有されることなどもあって、粉体由来のキラキラとした強い光の反射を有し、非常に優れた発色と光輝性を確認した。
【0205】
各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本発明は各実施形態によって限定されることはなく、請求項(クレーム)の範囲によってのみ限定される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】