(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-12
(54)【発明の名称】4,4’-ジクロロジフェニルスルホンの精製方法
(51)【国際特許分類】
C07C 315/06 20060101AFI20221205BHJP
C07C 317/22 20060101ALI20221205BHJP
【FI】
C07C315/06
C07C317/22
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022513498
(86)(22)【出願日】2020-08-20
(85)【翻訳文提出日】2022-04-27
(86)【国際出願番号】 EP2020073375
(87)【国際公開番号】W WO2021037683
(87)【国際公開日】2021-03-04
(32)【優先日】2019-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】ハーマン,イェシカ ナディネ
(72)【発明者】
【氏名】バイ,オリファー
(72)【発明者】
【氏名】デッケルト,ペトラ
(72)【発明者】
【氏名】メルツァー,アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】シュッツ,クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】ブライ,シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】トルン,フラウケ
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AD16
4H006AD17
4H006BB17
4H006BB31
4H006BD35
4H006BD53
4H006BD84
4H006TA02
4H006TB13
(57)【要約】
本発明は、
(a)カルボン酸中に粒子状4,4'-ジクロロジフェニルスルホンを含む懸濁液を提供する工程と、
(b)懸濁液を固液分離して、残留水分含有4,4'-ジクロロジフェニルスルホン、及びカルボン酸を含む濾過液を得る工程と、
(c)残留水分含有4,4'-ジクロロジフェニルスルホンを、水性塩基で洗浄し、その後に水で洗浄する工程と、
(d)洗浄に使用した後の水性塩基を強酸と混合するか、又は洗浄に使用した後の水性塩基、カルボン酸を含む濾過液及び強酸を混合する工程と、
(e)相分離を行って、水相、及びカルボン酸を含む有機相を得る工程と
を含む、4,4'-ジクロロジフェニルスルホンを精製する方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)カルボン酸中に粒子状4,4'-ジクロロジフェニルスルホンを含む懸濁液を提供する工程と、
(b)前記懸濁液を固液分離して、残留水分含有4,4'-ジクロロジフェニルスルホン、及びカルボン酸を含む濾過液を得る工程と、
(c)前記残留水分含有4,4'-ジクロロジフェニルスルホンを、水性塩基で洗浄し、その後に水で洗浄する工程と、
(d)洗浄に使用した後の水性塩基を強酸と混合するか、又は洗浄に使用した後の水性塩基、カルボン酸を含む前記濾過液及び強酸を混合する工程と、
(e)相分離を行って、水相、及びカルボン酸を含む有機相を得る工程と
を含む、4,4'-ジクロロジフェニルスルホンを精製する方法。
【請求項2】
前記カルボン酸が直鎖C
6~C
10カルボン酸である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記カルボン酸が、n-ヘキサン酸及びn-ヘプタン酸からなる群から選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記水性塩基が水性アルカリ金属水酸化物である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記水性アルカリ金属水酸化物が、水性アルカリ金属水酸化物の総量に基づいて1~50質量%のアルカリ金属水酸化物を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
洗浄に使用される水性塩基の量が、1kgの乾燥4,4'-ジクロロジフェニルスルホン当たり0.5~10kgの範囲である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記水性塩基で洗浄した後の洗浄に使用される水の量が、1kgの乾燥4,4'-ジクロロジフェニルスルホン当たり0.5~10kgの範囲である、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
固液分離工程(b)及び洗浄工程(c)が1つの装置で行われる、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記強酸が硫酸又はアルカンスルホン酸である、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
カルボン酸を含む前記濾過液及び前記強酸と混合された水性塩基が、混合され後、相分離工程(e)に供される、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
カルボン酸を含む前記濾過液及び洗浄に使用した後の水性塩基が、前記強酸と混合される前に混合される、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
相分離工程(e)で得られた水相の少なくとも一部が、水性塩基と強酸との混合工程(d)に再循環される、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
洗浄に使用した後の水の少なくとも一部が水性塩基の製造に使用される、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
工程(e)で得られたカルボン酸の少なくとも一部が、カルボン酸の存在下で4,4'-ジクロロジフェニルスルホキシドを酸化させることにより4,4'-ジクロロジフェニルスルホンを製造する方法に使用される、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
4,4'-ジクロロジフェニルスルホンが、スルホンポリマー、特にポリアリーレン(エーテル)スルホンを製造するための出発物質として使用される、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボン酸中に4,4'-ジクロロジフェニルスルホンを含む懸濁液を固液分離し、固液分離で得られた湿潤4,4'-ジクロロジフェニルスルホンを洗浄することにより、4,4'-ジクロロジフェニルスルホンを精製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
4,4’-ジクロロジフェニルスルホン(以下、DCDPS)は、例えば、ポリエーテルスルホン又はポリスルホンのようなポリマーを調製するためのモノマーとして、又は医薬品、染料及び農薬の中間体として使用されている。
【0003】
DCDPSは、例えば、触媒、例えば塩化アルミニウムの存在下で、出発材料としてのチオニルクロリド及びクロロベンゼンのフリーデル・クラフツ反応によって得ることができる4,4’-ジクロロジフェニルスルホキシドの酸化により製造される。
【0004】
CN-A 108047101、CN-A 102351758、CN-B 104402780及びCN-A 104557626は2段階プロセスを開示しており、ここで、第1段階では、フリーデル・クラフツアシル化反応を行って4,4'-ジクロロジフェニルスルホキシドを製造し、第2段階では、過酸化水素の存在下で4,4'-ジクロロジフェニルスルホキシドを酸化させてDCDPSを得る。これによる酸化反応は、酢酸の存在下で行われる。このように、第1段階で4,4'-ジクロロ-ジフェニルスルホキシドを製造し、第2段階で過剰の過酸化水素及び溶媒としての酢酸を用いてDCDPSを得るプロセスは、SU-A 765262にも記載されている。
【0005】
さらに、第1段階でクロロベンゼン及びチオニルクロリドをフリーデル・クラフツ反応で反応させて4,4'-ジクロロジフェニルスルホキシドを得、第2段階で酸化剤としての過酸化水素、及び溶媒としてのジクロロメタン又はジクロロプロパンを用いて4,4'-ジクロロジフェニルスルホキシドを酸化させることにより、DCDPSを得るためのさらなるプロセスがCN-A 102351756及びCN-A 102351757に開示されている。
【0006】
少なくとも1種の過酸化物の存在下でそれぞれのスルホキシドを酸化することにより有機スルホンを製造するプロセスは、WO-A 2018/007481に開示されている。それにより、反応は、溶媒としてのカルボン酸中で行われ、このカルボン酸は、40℃で液体であり、40℃及び大気圧で水との混和性ギャップを有する。
【0007】
すべてのこれらのプロセスにおいて、反応が完了した後、DCDPS含有反応生成物を冷却して、固体DCDPSを沈殿させ、固体DCDPSを混合物から分離する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】CN-A 108047101
【特許文献2】CN-A 102351758
【特許文献3】CN-B 104402780
【特許文献4】CN-A 104557626
【特許文献5】SU-A 765262
【特許文献6】CN-A 102351756
【特許文献7】CN-A 102351757
【特許文献8】WO-A 2018/007481
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、高純度のDCDPSが達成され、環境的に持続可能である、DCDPSを精製する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的は、
(a)カルボン酸中に粒子状4,4'-ジクロロジフェニルスルホンを含む懸濁液を提供する工程と、
(b)懸濁液を固液分離して、残留水分含有4,4'-ジクロロジフェニルスルホン、及びカルボン酸を含む濾過液を得る工程と、
(c)残留水分含有4,4'-ジクロロジフェニルスルホンを、水性塩基で洗浄し、その後に水で洗浄する工程と、
(d)洗浄に使用した後の水性塩基を強酸と混合するか、又は洗浄に使用した後の水性塩基、カルボン酸を含む濾過液の少なくとも一部及び強酸を混合する工程と、
(e)相分離を行って、水相、及びカルボン酸を含む有機相を得る工程と
を含む、4,4'-ジクロロジフェニルスルホンを精製する方法によって達成される。
【0011】
残留水分含有DCDPS(以下、「湿潤DCDPS」と称する)を水性塩基で洗浄し、続いて水で洗浄することにより、湿潤DCDPSに含まれるカルボン酸、及び結晶化したDCDPSOの表面に付着している可能性のある不純物を除去することができる。水性塩基で洗浄することにより、カルボン酸のアニオンが水性塩基のカチオンと反応し、有機塩を生成する。この有機塩の一部は、水性塩基で洗浄する間に、水性塩基とともに除去される。残りの有機塩は湿潤DCDPS中に残り、その後に水で洗浄することにより湿潤DCDPSから除去される。
【0012】
プロセスから取り出されて廃棄されるカルボン酸の量を減らすために、洗浄に使用した後の水性塩基を強酸と混合するか、又は洗浄に使用した後の水性塩基、及びカルボン酸を含む濾過液の少なくとも一部を強酸と混合する。洗浄に使用した後の水性塩基を強酸と混合するか、又は洗浄に使用した後の水性塩基を、カルボン酸を含む濾過液の少なくとも一部及び強酸と混合することにより、有機塩のアニオンが強酸のカチオンと反応し、有機塩のカチオンが強酸のアニオンと反応し、それによって、カルボン酸及び無機塩が生成される。これにより、水性塩基で洗浄する間に有機塩を生成したカルボン酸の一部も廃棄する必要がなく、分離した後に再利用することができるため、廃棄するカルボン酸の量を低減することができる。また、洗浄後に強酸を添加し、したがって、カルボン酸及び無機塩を生成し、カルボン酸を再利用することのさらなる利点は、水相中の全有機炭素(TOC)が減少し、したがって、水相の廃棄がより容易になることである。好ましくは、洗浄に使用される水性塩基の量、及び水性塩基を洗浄に使用した後に添加する強酸の量は等モルである。
【0013】
カルボン酸に粒子状DCDPSを含む懸濁液(以下、「懸濁液」と称する)は、例えば、結晶化プロセスに由来するものであり得、この結晶化プロセスでは、DCDPS及びカルボン酸を含む有機混合物を、有機混合物中のDCDPSの飽和点未満の温度まで冷却し、冷却によりDCDPSが結晶化し始める。
【0014】
飽和点とは、DCDPSが結晶化し始める有機混合物の温度を表す。この温度は、有機混合物中のDCDPSの濃度に依存する。有機混合物中のDCDPSの濃度が低いほど、結晶化が開始する温度は低くなる。
【0015】
結晶化プロセスに加えて、懸濁液は、粒子状DCDPS及びカルボン酸を混合することによって製造することもできる。このような混合は、例えば、粒子状DCDPSをさらに精製する場合に行われてもよい。
【0016】
DCDPSを結晶化するための冷却は、任意の結晶化装置、又は有機混合物の冷却を可能にする任意の他の装置、例えば、冷却することができる表面を備える装置、例えば冷却ジャケット、冷却コイル又はいわゆる「パワーバッフル」のような冷却バッフルを備えた容器又はタンクで行うことができる。
【0017】
DCDPSの結晶化のための有機混合物の冷却は、連続的に又はバッチ式で行うことができる。冷却された表面に沈殿及び汚れを避けるために、気密性密閉容器で有機混合物と水を混合して液体混合物を得、
(i)気密性密閉容器の圧力を、水が蒸発し始める圧力に低減させること、
(ii)冷却によって蒸発した水を凝縮させること、
(iii)気密性密閉容器中の液体混合物に凝縮した水を混合して、結晶化した4,4'-ジクロロジフェニルスルホンを含む懸濁液を得ること
によって、液体混合物を4,4'-ジクロロジフェニルスルホンの飽和点未満の温度まで冷却することにより、冷却を行うことが好ましい。
【0018】
このプロセスにより、特に冷却プロセス開始時に結晶化したDCDPSが蓄積して固体層を形成する冷却された表面がなしてDCDPSを含む有機混合物を冷却することを可能にする。これは、冷却プロセスの効率を向上する。また、この固体層を除去するための追加の努力を回避することができる。
【0019】
このプロセスに従って冷却を行う場合、固液分離に供される懸濁液は、結晶化したDCDPS及びカルボン酸に加えて、水をさらに含有する。
【0020】
特に、1バールで150℃超の沸点を有するカルボン酸を溶媒として使用する場合、減圧して溶媒を蒸発させ、蒸発した溶媒を冷却して凝縮し、凝縮した溶媒を再び気密性密閉容器にリサイクルするには、必要な低圧を達成するために高いエネルギー消費が必要である。一方、DCDPSが結晶化するように飽和点を変えるために、溶媒を蒸発させるためにより高い温度を使用すると、DCDPSに悪影響を与え、特にDCDPSの色の変化を排除することはできない。反応混合物と水を混合し、蒸発し、凝縮させ、凝縮した水をリサイクルすることにより、高温で溶媒を蒸発させずに冷却して飽和点を変えること、又はエネルギーを消費する非常に低い値まで減圧することが可能である。驚いたことには、水への溶解度が低いカルボン酸を溶媒として使用する場合でも、水を添加し、減圧して水を蒸発させ、冷却して水を凝縮させ、凝縮した水をリサイクルして反応混合物中に混合することにより、冷却及びDCDPSの結晶化を行うことができる。
【0021】
DCDPSを結晶化させるためには、結晶核を提供することが好ましい。結晶核を提供するためには、有機混合物に添加される乾燥結晶を使用するか、又は粒子状DCDPSを含む懸濁液を結晶核として添加することが可能である。乾燥結晶を使用するが、結晶が大きすぎる場合は、結晶を、結晶核として使用することができるより小さな粒子に粉砕することが可能である。さらに、液体混合物に超音波を適用することにより、必要な結晶核を提供することも可能である。好ましくは、結晶核は、初期化ステップでその場で生成される。初期化ステップは、好ましくは、ステップ(i)で減圧を設定する前に、以下を含む:
- 液体混合物中の水の沸点が80~95℃の範囲であるように、気密性密閉容器中の圧力を低下させること;
- 固体の初期形成が起こるまで水を蒸発させること;
- 容器中の圧力を上げ、気密性密閉容器中の液体混合物をDCDPSの飽和点より1~10℃の範囲低い温度に加熱すること。
【0022】
80~95℃の範囲、より好ましくは83~92℃の範囲の温度で水が蒸発し始めるように容器中の圧力を低下することにより、水が蒸発した後、飽和溶液及びDCDPSの沈殿が得られる。次の圧力上昇、及び気密性密閉容器中の有機混合物をDCDPSの飽和点より1~10℃の範囲低い温度に加熱することにより、固化したDCDPSは再び部分的に溶解し始める。これは、結晶核の数が減少し、より大きなサイズの結晶を少量製造することを可能にするという効果がある。さらに、初期量の結晶核が気密性密閉容器中に残ることが保証される。製造された結晶核の完全な溶解を避けるために、事前に設定した上記の範囲の温度に達した直後に、特に減圧による冷却を開始することができる。しかしながら、事前に設定した温度で例えば0.5~1.5時間の滞留時間の後に冷却を開始させることも可能である。
【0023】
初期化ステップで結晶核を生成するために、固体の初期生成が起こるまで水のみを蒸発させることが可能である。また、蒸発した水を冷却して完全に凝縮させ、凝縮した水をすべて気密性密閉容器に戻すことも可能である。
【0024】
後者は、気密性密閉容器中の有機混合物が冷却され、固体が形成されるという効果がある。また、蒸発及び凝縮した水の一部のみを気密性密閉容器に戻す、両方のアプローチの混合も可能である。
【0025】
減圧による有機混合物の冷却、水の蒸発、冷却による蒸発した水の凝縮、凝縮した水の液体混合物との混合は、バッチ式で、半連続的に、又は連続的に行うことができる。
【0026】
特にバッチ式プロセスにおいて、減圧、水の蒸発、及びそれによって有機混合物の冷却は、例えば段階的又は連続的に行うことができる。減圧が段階的である場合、温度減少の予め定められた速度が観察されるまで、特に予め定められた速度が「0」、すなわちそれ以上温度減少が生じなくなるまで、圧力を一段階で保持することが好ましい。この状態が達成された後、次の圧力値まで減圧される。この場合、圧力を下げるステップはすべて同じであってもよいし、異なっていてもよい。異なるステップで減圧する場合、減圧に伴ってステップの大きさを低減することが好ましい。好ましくは、減圧ステップは、10~800ミリバールの範囲、より好ましくは30~500ミリバールの範囲、特に30~300ミリバールの範囲である。
【0027】
減圧が連続的である場合、減圧は、例えば直線的、双曲線的、放物線的又は他の任意の形状とすることができ、ここで、非線形減圧の場合は、圧力の減少に伴って圧力が低下するように減圧することが好ましい。圧力を連続的に減少させる場合、130~250ミリバール/hの速度で、特に180~220ミリバール/hの速度で圧力を減少させることが好ましい。さらに、圧力は、プロセス制御システム(PCS)の使用によって制御されるバルク温度に圧力を減少させることができ、それによって段階的な線形冷却プロファイルが実現される。
【0028】
好ましくは、減圧は、固形分の増加とともに一定の過飽和度を近似し、したがって、成長のためのより多くの結晶表面を得るために、5~25K/hの段階的な冷却プロファイルで制御される温度である。
【0029】
冷却、及びそれによって結晶化が半連続プロセスで行われる場合、圧力は好ましくは段階的に減少し、ここで、半連続プロセスは、例えば、各圧力ステップ、それぞれ温度ステップにおいて少なくとも1つの気密性容器を使用することによって実現することができる。有機混合物を冷却するために、有機混合物は、最も高い温度を有する第1気密性容器に供給され、第1温度まで冷却される。次に、有機混合物は第1気密性容器から取り出され、より低い圧力を有する第2気密性容器に供給される。このプロセスは、液体混合物が最も低い圧力を有する気密性容器に供給されるまで繰り返される。液体混合物が1つの容器から取り出されるとすぐに、新しい有機混合物をその容器に供給することができ、ここで、容器中の圧力は好ましくは一定に維持される。この文脈における「一定」とは、液体混合物の取出し及びそれぞれのタンクへの供給に依存する圧力の変動が、技術的に可能な限り低く維持されるが、除外することはできないことを意味する。
【0030】
バッチ式で又は半連続的にプロセスを行う以外に、プロセスを連続的に行うことも可能である。冷却及びしたがってDCDPSの結晶化を連続的に行う場合、冷却及び結晶化を少なくとも2つのステップ、特に2つ~3つのステップで段階的に行うことが好ましく、ここで、各ステップにおいて少なくとも1つの気密性密閉容器を使用する。冷却及び結晶化を2つのステップで行う場合、第1ステップでは、好ましくは有機混合物を40~90℃の範囲の温度に冷却し、第2ステップでは、好ましくは-10~50℃の範囲の温度に冷却する。冷却が2つ超のステップで行われる場合、第1ステップは、好ましくは40~90℃の範囲の温度で行われ、最後のステップは-10~30℃の範囲の温度で行われる。さらなるステップは、これらの範囲の間の温度で、ステップからステップへ温度を下げながら行われる。冷却及び結晶化が3つのステップで行われる場合、例えば第2ステップは10~50℃の範囲の温度で行われる。
【0031】
冷却及び結晶化を連続的に行う場合、懸濁液のストリームは、最後の気密性容器から連続的に取り出される。その後、懸濁液は、固液分離(b)に供給される。気密性密閉容器中の液体レベルを所定の範囲内に維持するために、DCDPS、カルボン酸及び水を含む新鮮な有機混合物を、それぞれの気密性密閉容器から取り出された懸濁液の量に対応する又は本質的に対応する量で各気密性密閉容器に供給することができる。新鮮な有機混合物は、気密性密閉容器中の最小液体レベルに到達するたびに、連続的又はバッチ式で添加することができる。
【0032】
バッチ式で又は連続的に行われることにかかわらず、結晶化の最後のステップにおいて懸濁液中の固形分が、懸濁液の質量に基づいて、5~50質量%の範囲、より好ましくは5~40質量%の範囲、特に20~40質量%の範囲になるまで、好ましくは結晶化を継続する。
【0033】
懸濁液中のこの固形分を達成するために、冷却によって得られる懸濁液が10~30℃の範囲、好ましくは15~30℃の範囲、特に20~30℃の範囲の温度に冷却されるまで、(i)において減圧することが好ましい。
【0034】
この温度が達成される圧力は、有機混合物中の水の量に依存する。好ましくは、有機混合物と混合される水の量は、有機混合物中の水の量が有機混合物の総量に基づいて10~60質量%の範囲であるような量である。より好ましくは、有機混合物と混合される水の量は、有機混合物中の水の量が有機混合物の総量に基づいて10~50質量%の範囲であるような量であり、特に、有機混合物と混合される水の量は、有機混合物中の水の量が有機混合物の総量に基づいて15~35質量%の範囲であるような量である。
【0035】
冷却及び結晶化を連続的に又はバッチ式で行うことができるが、バッチ式で冷却及び結晶化を行うことが好ましい。バッチ式で冷却及び結晶化を行うことにより、操作ウィンドウ(operating window)及び結晶化条件に関して高い柔軟性が得られ、プロセス条件の変動に対してより堅牢である。
【0036】
液体混合物の冷却をサポートするために、気密性密閉容器にさらなる冷却のための冷却可能な表面を設けることがさらに可能である。冷却可能な表面は、例えば冷却ジャケット、冷却コイル、又はいわゆる「パワーバッフル」のような冷却バッフルであることができる。驚いたことには、有機混合物の温度が20~60℃の範囲、より好ましくは20~50℃の範囲、特に20~40℃の範囲の温度に低下される前にさらなる冷却を開始すれば、冷却可能な表面上の沈殿及び汚れの形成は回避されるか、又は少なくともかなり減少することができる。
【0037】
DCDPS及びカルボン酸を含む有機混合物は、当業者に知られている任意のプロセスにより得ることができる。例えば、この有機混合物は、例えば本発明の方法によるDCDPSの精製において、DCDPS及びカルボン酸を混合することにより製造することができる。好ましくは、この有機混合物は、4,4’-ジクロロジフェニルスルホキシドと酸化剤との酸化反応によって得られ、この酸化反応は、溶媒としてのカルボン酸で行われる。
【0038】
有機混合物が酸化反応によって得られる場合、4,4’-ジクロロジフェニルスルホキシド及び有機溶媒としての少なくとも1種のC6~C10カルボン酸を含む溶液を酸化剤と反応させて、4,4’-ジクロロジフェニルスルホンを含む粗反応生成物を得ることによりDCDPSを製造することが特に好ましく、ここで、反応混合物中の水の濃度が5質量%未満に維持される。
【0039】
水の濃度を5質量%未満に維持することにより、健康被害が少なく、生分解性の良い直鎖C6~C10カルボン酸を使用することが可能である。
【0040】
直鎖C6~C10カルボン酸を使用する別の利点は、直鎖C6~C10カルボン酸が、低温で水との分離性が良いため、生成物にダメージを与えることなく直鎖C6~C10カルボン酸を分離することができ、さらに直鎖C6~C10カルボン酸を溶媒として酸化プロセスにリサイクルすることができることである。
【0041】
DCDPSの製造方法では、4,4'-ジクロロジフェニルスルホキシド(以下、DCDPSOとも呼ぶ)及び少なくとも1種のC6~C10カルボン酸(以下、カルボン酸とも呼ぶ)を含む溶液が提供される。この溶液では、カルボン酸が溶媒として機能する。好ましくは、DCDPSOとカルボン酸の比は、1:2~1:6の範囲、特に1:2.5~1:3.5の範囲である。DCDPSOとカルボン酸のこのような比は、通常、反応温度でDCDPSOをカルボン酸に完全に溶解させ、DCDPSを形成するDCDPSOのほぼ完全な変換を達成し、さらにできるだけ少ないカルボン酸を使用することに十分である。酸化剤を添加する前に、DCDPSO及びカルボン酸を含む溶液は、好ましくは70~110℃の範囲の温度、より好ましくは80~100℃の範囲、特に85~95℃の範囲の温度、例えば86、87、88、89、90、91、92、93、94℃に加熱される。
【0042】
溶液を提供するために、DCDPSO及びカルボン酸を別々に反応器に供給し、反応器中でDCDPSOとカルボン酸を混合することが可能である。あるいは、DCDPSO及びカルボン酸を別の混合装置で混合して溶液を得、その溶液を反応器に供給することも可能である。さらなる代替態様では、DCDPSOとカルボン酸の一部を混合物として反応器に供給し、カルボン酸の残りを反応器に直接供給し、DCDPSOとカルボン酸の一部との混合物及びカルボン酸の残りを反応器中で混合することによって溶液を得る。
【0043】
反応に使用される少なくとも1種のカルボン酸は、好ましくは、有機混合物及び(a)で提供される懸濁液に溶媒として使用されるものと同じであり、1種のカルボン酸のみ、又は少なくとも2種の異なるカルボン酸の混合物であり得る。好ましくは、カルボン酸は少なくとも1種の脂肪族カルボン酸である。少なくとも1種の脂肪族カルボン酸は、少なくとも1種の直鎖脂肪族カルボン酸又は少なくとも1種の分岐状脂肪族カルボン酸であってもよく、1種以上の直鎖脂肪族カルボン酸と1種以上の分岐状脂肪族カルボン酸との混合物であってもよい。好ましくは、脂肪族カルボン酸はC6~C9カルボン酸であり、それによって、少なくとも1種のカルボン酸は脂肪族モノカルボン酸であることが特に好ましい。したがって、少なくとも1種のカルボン酸は、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸又はデカン酸、又は前記酸の1種以上の混合物であってもよい。例えば、少なくとも1種のカルボン酸は、n-ヘキサン酸、2-メチル-ペンタン酸、3-メチル-ペンタン酸、4-メチル-ペンタン酸、n-ヘプタン酸、2-メチル-ヘキサン酸、3-メチル-ヘキサン酸、4-メチル-ヘキサン酸、5-メチル-ヘキサン酸、2-エチル-ペンタン酸、3-エチル-ペンタン酸、n-オクタン酸、2-メチル-ヘプタン酸、3-メチル-ヘプタン酸、4-メチル-ヘプタン酸、5-メチル-ヘプタン酸、6-メチル-ヘプタン酸、2-エチル-ヘキサン酸、4-エチル-ヘキサン酸、2-プロピルペンタン酸、2,5-ジメチルヘキサン酸、5,5-ジメチル-ヘキサン酸、n-ノナン酸、2-エチル-ヘプタン酸、n-デカン酸、2-エチル-オクタン酸、3-エチル-オクタン酸、4-エチル-オクタン酸であってもよい。また、カルボン酸は、前記酸のうちの1種の異なる構造異性体の混合物であってもよい。例えば、少なくとも1種のカルボン酸は、3,3,5-トリメチル-ヘキサン酸、2,5,5-トリメチル-ヘキサン酸及び7-メチル-オクタン酸の混合物を含むイソノナン酸、又は7,7-ジメチルオクタン酸、2,2,3,5-テトラメチル-ヘキサン酸、2,4-ジメチル-2-イソプロピルペンタン酸及び2,5-ジメチル-2-エチルヘキサン酸の混合物を含むネオデカン酸であってもよい。しかしながら、特に好ましくは、カルボン酸は直鎖C6~C10カルボン酸、特にn-ヘキサン酸又はn-ヘプタン酸である。
【0044】
DCDPSO及びカルボン酸を含む溶液の加熱は、粗反応生成物を得るための反応が行われる反応器中、又は反応器に供給される前の他の任意の装置中で行うことができる。特に好ましくは、DCDPSO及びカルボン酸を含む溶液は、反応器に供給される前にそれぞれの温度まで加熱される。溶液の加熱は、例えば、反応器に供給される前に溶液が流れる熱交換器中で、又はより好ましくは、反応器に供給される前に溶液が貯蔵されるバッファ容器中で行うことができる。このようなバッファ容器を使用する場合、バッファ容器は、DCDPSOとカルボン酸を混合して溶液を得るための混合ユニットとしても機能することができる。
【0045】
プロセスを連続的に運転する場合は、例えば熱交換器を使用することができる。バッファ容器中の溶液の加熱は、連続的に運転されるプロセスでも、バッチ式で運転されるプロセスでも行うことができる。溶液の加熱に熱交換器を使用する場合、任意の好適な熱交換器、例えばシェルアンドチューブ熱交換器、プレート熱交換器、スパイラルチューブ熱交換器、又は当業者に知られている任意の他の熱交換器を使用することができる。それにより、熱交換器は、向流、共流、又は交差流で運転することができる。
【0046】
通常、熱交換器で又はダブルジャケット又は加熱コイルの加熱に使用される加熱流体を使用することによる加熱に加えて、電気加熱又は誘導加熱も溶液の加熱に使用することができる。
【0047】
バッファ容器中で溶液を加熱する場合、容器中の内容物を加熱できる任意の好適な容器を使用することができる。好適な容器は、例えば、ダブルジャケット又は加熱コイルを備えた容器である。バッファ容器がさらにDCDPSOとカルボン酸を混合するために使用される場合、バッファ容器は混合ユニット、例えば攪拌機をさらに含む。
【0048】
反応を行うために、好ましくは、溶液は、反応器に提供される。この反応器は、反応器に供給された成分を混合し、反応させることができる任意の反応器であり得る。好適な反応器は、例えば、攪拌タンク反応器、又は強制循環を有する反応器、特に外部循環及び循環液体を供給するためのノズルを有する反応器である。攪拌タンク反応器を使用する場合、任意の攪拌機を使用することができる。好適な攪拌機は、例えば斜めブレード攪拌器又はクロスアーム攪拌機のような軸方向に搬送する攪拌機、又はフラットブレード攪拌器のような半径方向に搬送する攪拌器である。攪拌機は、少なくとも2枚のブレード、より好ましくは少なくとも4枚のブレードを有してもよい。4~8枚のブレード、例えば6枚のブレードを有する攪拌機が特に好ましい。プロセスの安定性及びプロセスの信頼性の理由から、反応器は、軸方向に搬送する攪拌機を有する攪拌タンク反応器であることが好ましい。
【0049】
反応器の温度を制御するために、熱交換装置、例えばダブルジャケット又は加熱コイルを有する反応器を使用することがさらに好ましい。これにより、反応中に追加の加熱又は熱放散が可能となり、温度を一定に又は反応が行われる所定の温度範囲に維持することができる。好ましくは、反応温度は、70~110℃の範囲、より好ましくは80~100℃、特に85~95℃の範囲、例えば86、87、88、89、90、91、92、93、94℃に維持される。
【0050】
DCDPSを得るためには、DCDPSO及びカルボン酸を含む溶液を酸化剤で酸化する。したがって、好ましくは、酸化剤を溶液に添加して、反応混合物を得る。この反応混合物から、DCDPSを含む粗反応生成物を得ることができる。
【0051】
DCDPSを得るためのDCDPSOを酸化することに使用される酸化剤は、好ましくは、少なくとも1種の過酸化物である。少なくとも1種の過酸化物は、少なくとも1種の過酸、例えば1種の過酸又は2種以上、例えば3種以上の過酸の混合物であってもよい。好ましくは、本明細書に開示される方法は、1種又は2種、特に1種の過酸の存在下で行われる。少なくとも1種の過酸は、置換されていない、又は例えば直鎖又は分岐状のC1~C5アルキル又はハロゲン、例えばフッ素によって置換されるC1~C10過酸であってもよい。その例としては、過酢酸、過ギ酸、過プロピオン酸、過カプリオン酸、過吉草酸又は過トリフルオロ酢酸が挙げられる。特に好ましくは、少なくとも1種の過酸は、C6~C10過酸、例えば2-エチルヘキサン過酸である。少なくとも1種の過酸が水に可溶である場合、少なくとも1種の過酸を水溶液として添加することが有利である。さらに、少なくとも1種の過酸が水に十分に溶解しない場合、少なくとも1種の過酸がそれぞれのカルボン酸に溶解していることが有利である。最も好ましくは、少なくとも1種の過酸は、その場で生成される直鎖C6~C10過酸である。
【0052】
特に好ましくは、過酸化水素(H2O2)を酸化剤として使用することにより、その場で過酸を生成する。添加されたH2O2の少なくとも一部は、カルボン酸と反応して過酸を形成する。H2O2は、好ましくは水溶液として、例えば、それぞれ水溶液の総量に基づいて、1~90質量%の溶液、例えば、20、30、40、50、60又は70質量%の溶液、好ましくは30~85質量%の溶液、特に50~85質量%の溶液として添加される。H2O2の高濃度水溶液、特に水溶液の総量に基づいて50~85質量%、例えば70質量%の溶液を使用すると、反応時間を短縮することができる。また、少なくとも1種のカルボン酸のリサイクルを促進することができる。
【0053】
特に好ましくは、少なくとも1種の過酸は、その場で生成される直鎖C6又はC7過酸である。さらに反応時間を短縮し、反応混合物に少量の水のみを添加するために、C6~C10カルボン酸がn-ヘキサン酸又はn-ヘプタン酸であり、過酸化水素が50~85質量%の溶液であることが特に好ましい。
【0054】
酸化剤の蓄積を回避し、DCDPSOの酸化を一定にするために、1分ごとに1モルのDCDPSO当たり0.002~0.01モルの供給速度で酸化剤を連続的に添加することが好ましい。より好ましくは、1分ごとに1モルのDCDPSO当たり0.003~0.008モルの供給速度で、特に1分ごとに1モルのDCDPSO当たり0.004~0.007モルの供給速度で酸化剤を添加する。
【0055】
酸化剤は、一定の供給速度で、又は変化する供給速度で添加することができる。酸化剤を変化する供給速度で添加する場合、例えば、上記の範囲内で反応を進めながら添加速度を低減させることが可能である。さらに、酸化剤の添加を複数のステップに分けて、その間に酸化剤の添加を停止することも可能である。酸化剤を添加する各ステップにおいて、酸化剤は一定の供給速度で、又は変化する供給速度で添加することができる。反応の進行に伴って供給速度を低減させる以外に、供給速度を増加させたり、供給速度の増加と減少を切り替えたりすることも可能である。供給速度を増加又は低減させる場合、供給速度の変化は連続的又は段階的であることができる。特に好ましくは、酸化剤を少なくとも2つのステップで添加し、ここで、各ステップの供給速度が一定である。
【0056】
酸化剤が少なくとも2つのステップで供給される場合、酸化剤を2つのステップで添加することが好ましく、ここで、酸化剤を溶液に添加することは、好ましくは:
(A)第1ステップで、70~110℃の範囲の温度で1.5~5時間にわたって、1モルの4,4'-ジクロロジフェニルスルホキシド当たり0.9~1.05モルの酸化剤を溶液に均一に分散するように添加して反応混合物を得ることと、
(B)第1ステップの完了後、酸化剤を添加せずに、第1ステップの温度で反応混合物を5~30分かき混ぜることと、
(C)第2ステップで、80~110℃の範囲の温度で40分未満の期間にわたって、1モルの4,4'-ジクロロジフェニルスルホキシド当たり0.05~0.2モルの酸化剤を反応混合物に添加することと、
(D)第2ステップの完了後、酸化剤を添加せずに、第2ステップの温度で反応混合物を10~30分かき混ぜることと、
(E)反応混合物を95~110℃の範囲の温度に加熱し、この温度を10~90分維持して、4,4'-ジクロロジフェニルスルホンを含む粗反応生成物を得ることと
を含む。
【0057】
DCDPSOの酸化を少なくとも2つのステップで行う場合、DCDPSOをDCDPSに変換するために、第1ステップ及び第2ステップでDCDPSO及びカルボン酸を含む溶液に酸化剤を添加することにより、DCDPSOを酸化させる。
【0058】
第1ステップでは、70~110℃の温度で1.5~5時間にわたって、1モルの4,4'-ジクロロジフェニルスルホキシド当たり0.9~1.05モルの酸化剤を溶液に均一に分散するように添加する。そのような期間にわたって酸化剤を添加することにより、酸化剤の蓄積を回避することができる。
【0059】
この文脈における「均一に分散する」とは、酸化剤を一定の供給速度で連続的に、又は周期的に変化する供給速度で添加することができることを意味する。周期的に変化する供給速度は、連続的に周期的に変化する供給速度に加えて、不連続に周期的に変化する供給速度、例えば酸化剤を一定時間添加した後、酸化剤を一定時間添加せず、この添加と非添加を第1ステップの酸化剤の全量が添加されるまで繰り返すような供給速度も含む。酸化剤を添加する期間は、1.5~5時間の範囲、より好ましくは2~4時間の範囲、特に2.5~3.5時間の範囲である。このような期間にわたって酸化剤を溶液に均一に分散するように添加することにより、反応混合物に酸化剤が蓄積して、爆発性混合物となることを回避することができる。さらに、このような期間にわたって酸化剤を添加することにより、プロセスのスケールアップが容易になり、スケールアップしたプロセスでは、プロセスからの熱を放散させることも可能になる。一方、このような添加量により、過酸化水素の分解が回避され、したがって、プロセスで使用される過酸化水素の量を最小限に抑えることができる。
【0060】
第1ステップを行う温度は、70~110℃の範囲、好ましくは85~100℃の範囲、特に90~95℃の範囲である。この温度範囲において、カルボン酸中のDCDPSOの高い溶解度で、高い反応速度を達成することができる。これにより、カルボン酸の量を最小限に抑えることができ、これにより反応を制御することができる。
【0061】
第1ステップでの酸化剤の添加終了後、酸化剤を添加せずに、第1ステップの温度で反応混合物を5~30分かき混ぜる。酸化剤の添加終了後に反応混合物をかき混ぜることにより、まだ反応していないDCDPSOを酸化剤と接触させ、DCDPSを生成する反応を継続させ、反応混合物中に不純物として残存するDCDPSOの量を低減させることができる。
【0062】
反応混合物中のDCDPSOの量をさらに減少させるために、酸化剤を添加せずにかき混ぜを完了した後、第2ステップでは、1モルのDCDPSO当たり0.05~0.2モルの酸化剤、好ましくは1モルのDCDPSO当たり0.06~0.15モルの酸化剤、特に1モルのDCDPSO当たり0.08~0.1モルの酸化剤を反応混合物に添加する。
【0063】
第2ステップでは、酸化剤は、好ましくは1~40分の期間、より好ましくは5~25分の期間、特に8~15分の期間で添加される。第2ステップにおける酸化剤の添加は、第1ステップと同様にして行うことができる。さらに、第2ステップの酸化剤の全部を一度に添加することも可能である。
【0064】
第2ステップの温度は、80~110℃の範囲、より好ましくは85~100℃の範囲、特に93~98℃の範囲である。さらに、第2ステップにおける温度は、第1ステップにおける温度よりも3~10℃高いことが好ましい。より好ましくは、第2ステップにおける温度は、第1ステップにおける温度よりも4~8℃高く、特に好ましくは、第2ステップにおける温度は、第1ステップにおける温度よりも5~7℃高い。第2ステップのより高い温度により、より高い反応速度を達成することが可能である。
【0065】
第2ステップにおける酸化剤の添加後、反応混合物を第2ステップの温度で10~20分かき混ぜて、DCDPSを生成するDCDPSOの酸化反応を継続させる。
【0066】
酸化反応を完了させるために、酸化剤を添加せずに第2ステップの温度でかき混ぜた後、反応混合物を95~110℃の範囲、より好ましくは95~105℃の範囲、特に98~103℃の範囲の温度に加熱し、この温度で10~90分、より好ましくは10~60分、特に10~30分保持させる。
【0067】
酸化プロセスにおいて、特に酸化剤としてH2O2を使用する場合、水が生成される。さらに、酸化剤と一緒に水を添加してもよい。本発明によれば、反応混合物中の水の濃度は5質量%未満、より好ましくは3質量%未満、特に2質量%未満に維持される。70~85質量%の濃度の水性過酸化水素を使用することにより、酸化反応中の水の濃度を低く抑えることができる。また、70~85質量%の濃度の水性過酸化水素を使用することにより、水を除去することなく、酸化反応中の反応混合物中の水の濃度を5質量%未満に維持することも可能である。
【0068】
さらに又はあるいは、反応混合物中の水の濃度を5質量%未満に維持するために、プロセスから水を除去することが必要である場合もある。プロセスから水を除去するために、例えば、反応混合物から水をストリッピングすることが可能である。それによって、好ましくは、不活性ガスをストリッピング媒体として使用することによってストリッピングが行われれる。70~85質量%の濃度の水性過酸化水素を使用する場合、反応混合物中の水の濃度が5質量%未満に維持されていれば、水をストリッピングして濃度をさらに低減する必要はない。しかしながら、この場合でも、水をストリッピングして濃度をさらに低減することは可能である。
【0069】
水をストリップするために使用することができる好適な不活性ガスは、非酸化性ガスであり、好ましくは窒素、二酸化炭素、アルゴンのような希ガス又はこれらのガスの任意の混合物である。特に好ましくは、不活性ガスは窒素である。
【0070】
水をストリッピングするために使用される不活性ガスの量は、好ましくは0~2Nm3/h/kgの範囲、より好ましくは0.2~1.5Nm3/h/kgの範囲、特に0.3~1Nm3/h/kgの範囲である。Nm3/h/kgで表示するガス流量は、相対ガス流量としてDIN 1343,1990年1月に従って決定することができる。不活性ガスでの水のストリッピングは、プロセス全体にわたって行われてもよいし、プロセスの少なくとも一部にわたって行われてもよい。水のストリッピングがプロセスの少なくとも一部にわたって行われる場合、各部の間で水のストリッピングが中断される。水のストリッピングの中断は、酸化剤が添加されるモードとは無関係である。例えば、酸化剤を中断することなく添加し、中断して水をストリッピングすることも、酸化剤を少なくとも2つのステップで添加し、水を連続的にストリッピングすることも可能である。さらに、酸化剤の添加中にのみ水をストリッピングすることも可能である。特に好ましくは、反応混合物中に不活性ガスを連続的にバブリングすることにより水をストリッピングする。
【0071】
DCDPSOの異なる変換率、したがって異なる収率及び不純物の量をもたらす可能性のある異なる組成の領域が反応器内に形成されることを避けるために、第1ステップ及び第2ステップの間に反応混合物を均質化することが好ましい。反応混合物の均質化は、当業者に知られている任意の方法、例えば、反応混合物をかき混ぜることによって行うことができる。反応混合物をかき混ぜるために、反応混合物を攪拌することが好ましい。攪拌には、任意の好適な攪拌機を使用することができる。好適な攪拌機は、例えば、斜めブレード攪拌器又はクロスアーム攪拌機のような軸方向に搬送する攪拌機、又はフラットブレード攪拌器のような半径方向に搬送する攪拌器である。攪拌機は、少なくとも2枚のブレード、より好ましくは少なくとも4枚のブレードを有してもよい。4~8枚のブレード、例えば6枚のブレードを有する攪拌機が特に好ましい。プロセスの安定性及びプロセスの信頼性の理由から、反応器は、軸方向に搬送する攪拌機を有する攪拌タンク反応器であることが好ましい。
【0072】
プロセス中の反応混合物の温度は、例えば、テンパリング媒体(tempering medium)をその中に流すことができる反応器内部のパイプを設けることによって設定することができる。反応器のメンテナンスの容易さ及び/又は加熱の均一性の観点から、好ましくは、反応器は、テンパリング媒体を流すことができるダブルジャケットを含む。反応器内部のパイプ又はダブルジャケットに加えて、反応器のテンパリングは、当業者に知られている各方法で、例えば反応器から反応混合物のストリームを引き出し、このストリームがテンパリングされる熱交換器に通過させ、テンパリングされたストリームを反応器に戻してリサイクルすることによりによって行うことができる。
【0073】
酸化反応をサポートするために、反応混合物に少なくとも1種の酸性触媒をさらに添加することがさらに有利である。酸性触媒は、少なくとも1種、例えば1種以上、例えば2種又は3種のさらなる酸の混合物であってもよい。この文脈におけるさらなる酸とは、溶媒として機能するカルボン酸ではない酸のことである。さらなる酸は、無機酸であっても有機酸であってもよく、さらなる酸は、好ましくは、少なくとも1種の強酸である。好ましくは、強酸は、水中で、-9~3、例えば-7~3のpKa値を有する。当業者は、そのような酸解離定数値Kaが、例えば、IUPAC、Compendium of Chemical Terminology、第2版「Gold Book」、バージョン2.3.3、2014-02-24、23頁のような編集物で見出すことができることを理解している。当業者は、そのようなpKa値がKa値の負の対数値に関連することを理解している。少なくとも1種の強酸が、水中で、-9~-1又は-7~-1のような負のpKa値を有することがより好ましい。
【0074】
少なくとも1種の強酸である無機酸の例としては、硝酸、塩酸、臭化水素酸、過塩素酸、及び/又は硫酸が挙げられる。特に好ましくは、1種の強無機酸、特に硫酸が使用される。少なくとも1種の強無機酸を水溶液として使用することも可能であるが、少なくとも1種の無機酸がそのまま使用されることが好ましい。例えば、好適な強有機酸は有機スルホン酸であり、それによって、少なくとも1種の脂肪族スルホン酸又は少なくとも1種の芳香族スルホン酸又はそれらの混合物が使用されることが可能である。少なくとも1種の強有機酸の例としては、パラ-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸又はトリフルオロメタンスルホン酸が挙げられる。特に好ましくは、強有機酸はメタンスルホン酸である。少なくとも1種の無機強酸又は少なくとも1種の有機強酸のいずれかを使用することに加えて、少なくとも1種の無機強酸と少なくとも1種の有機強酸の混合物を酸性触媒として使用することも可能である。このような混合物は、例えば、硫酸及びメタンスルホン酸を含んでもよい。
【0075】
酸性触媒は、好ましくは、触媒量で添加される。したがって、使用される酸性触媒の量は、1モルのDCDPSO当たり0.1~0.3モルの範囲、より好ましくは1モルのDCDPSO当たり0.15~0.25モルの範囲である。しかしながら、酸性触媒は、1モルのDCDPSO当たり0.1モル未満の量、例えば1モルのDCDPSO当たり0.001~0.08モルの量、例えば1モルのDCDPSO当たり0.001~0.03モルの量で使用することが好ましい。特に好ましくは、酸性触媒は、1モルのDCDPSO当たり0.005~0.01モルの量で使用される。
【0076】
DCDPSを得るための酸化反応は、バッチ式プロセスとして、半連続プロセスとして、又は連続プロセスとして行うことができる。好ましくは、酸化反応はバッチ式で行われる。酸化反応は、常圧、又は常圧未満又は常圧を超える圧力、例えば、10~900ミリバール(abs)の範囲の圧力で行うことができる。好ましくは、酸化反応は、200~800ミリバール(abs)の範囲、特に400~700ミリバール(abs)の範囲の圧力で行われる。
【0077】
酸化反応は、常圧又は不活性雰囲気下で行うことができる。酸化反応を不活性雰囲気下で行う場合、DCDPSO及びカルボン酸を供給する前に、反応器を不活性ガスでパージすることが好ましい。酸化反応を不活性雰囲気下で行い、酸化反応中に生成した水を不活性ガスでストリッピングする場合、不活性雰囲気を提供するために使用される不活性ガスと、水をストリッピングするために使用される不活性ガスとが同じであることがさらに好ましい。不活性雰囲気を用いると、酸化反応中の成分の分圧、特に水の分圧が低下することがさらに有利である。
【0078】
酸化反応により、少なくとも1種のカルボン酸に溶解した4,4’-ジクロロジフェニルスルホキシドを含む有機混合物が得られる。したがって、固液分離で分離される懸濁液のカルボン酸は、上記プロセスでDCDPSの製造に使用したものと同じである。
【0079】
減圧による冷却及び結晶化が終了した後、プロセスを終了し、好ましくは、圧力を再び常圧に設定する。常圧に達した後、気密性密閉容器中の液体混合物を冷却することにより形成された懸濁液を固液分離に供する。固液分離プロセスでは、冷却により形成された固体DCDPSは、カルボン酸及び水から分離される。
【0080】
冷却及び結晶化を連続的に行うか、又はバッチ式で行うかにかかわらず、固液分離(b)を、連続的に又はバッチ式で、好ましくは連続的に行うことができる。
【0081】
冷却及び結晶化をバッチ式で行い、固液分離を連続的に行う場合は、気密性密閉容器から取り出された懸濁液が充填された少なくとも1つのバッファ容器を使用する。懸濁液を提供するために、連続流が少なくとも1つのバッファ容器から取り出され、固液分離装置に供給される。少なくとも1つのバッファ容器の容量は、好ましくは、気密性密閉容器の内容物がバッファ容器に供給される2つの充填サイクルの間に、各バッファ容器が完全に空にならないようにする。複数のバッファ容器を使用する場合、別のバッファ容器の内容物を取り出して固液分離装置に供給されている間に、1つのバッファ容器を充填することが可能である。この場合、少なくとも2つのバッファ容器は並列に接続される。バッファ容器の並列接続は、1つのバッファ容器が満たされた後に、さらに別のバッファ容器に懸濁液を充填することを可能にする。少なくとも2つのバッファ容器を使用することの利点は、バッファ容器の容量が1つのバッファ容器のみの場合よりも小さい場合があることである。このより小さな容量は、懸濁液をより効率的に混合して、結晶化したDCDPSの沈降を避けることを可能にする。懸濁液を安定に維持し、バッファ容器中の固体DCDPSの沈降を避けるために、バッファ容器に懸濁液をかき混ぜるための装置、例えば撹拌機を提供し、バッファ容器中の懸濁液をかき混ぜることが可能である。かき混ぜは、好ましくは、撹拌によるエネルギー入力が、結晶を懸濁させるのに十分な高さでありながら、結晶の破損を防ぐことができる最小レベルに維持されるように行われる。この目的のために、エネルギー入力は、好ましくは0.2~0.5W/kgの範囲、特に0.25~0.4W/kgの範囲である。さらに、結晶の消耗を防ぐために、高い局所エネルギー散逸入力を示さない攪拌装置が使用される。
【0082】
冷却及び結晶化と固液分離をバッチ式で行う場合、固液分離装置が気密性密閉容器の全内容物を取り込むのに十分な大きさであれば、気密性密閉容器の内容物を固液分離装置に直接供給することができる。この場合、バッファ容器を省略することが可能である。また、冷却及び結晶化と固液分離を連続的に行う場合は、バッファ容器を省略することも可能である。この場合も、懸濁液を固液分離装置に直接供給する。固液分離装置が小さすぎて、気密性密閉容器の全内容物を取り込むことができない場合は、バッチ式実行の場合でも、気密性密閉容器を空にして新しいバッチを開始できるように、少なくとも1つのさらなるバッファ容器が必要である。
【0083】
冷却及び結晶化を連続的に行い、固液分離をバッチ式で行う場合は、気密性密閉容器から取り出した懸濁液をバッファ容器に供給し、固液分離のための各バッチをバッファ容器から取り出して固液分離装置に供給する。
【0084】
固液分離は、例えば、濾過、遠心分離又は沈降を含む。好ましくは、固液分離は濾過である。固液分離では、固体DCDPSからカルボン酸及び水を含む液体母液を除去し、残留水分含有DCDPS(以下、「湿潤DCDPS」とも称する)が生成物として得られる。固液分離が濾過である場合、湿潤DCDPSOは「濾過ケーキ」と呼ばれる。
【0085】
連続的に行うか、又はバッチ式で行うかにかかわらず、固液分離は、好ましくは室温又は室温未満の温度、好ましくは室温で行われる。例えば、ポンプを使用することにより、又は高圧の不活性ガス、例えば窒素を使用することにより、高圧で懸濁液を固液分離装置に供給することは可能である。固液分離が濾過であり、懸濁液を高圧で濾過装置に供給する場合は、濾過プロセスに必要な差圧は、濾過装置の濾過物側に常圧を設定することによって実現される。懸濁液を常圧で濾過装置に供給する場合は、濾過装置の濾過物側に減圧を設定して、必要な差圧を実現する。さらに、濾過装置の供給側に常圧を超える圧力、及び濾過物側に常圧未満の圧力を設定することが可能であり、又は濾過装置のフィルターの両側に常圧未満の圧力を設定することも可能であり、この場合も濾過物側の圧力が供給側よりも低くなければならない。さらに、濾過プロセスにおいてフィルター上の液体層の静圧を使用することのみにより濾過を行うことも可能である。好ましくは、供給側と濾過物側との圧力差、従って濾過装置における差圧は、100~6000ミリバール(abs)の範囲、より好ましくは300~2000ミリバール(abs)の範囲、特に400~1500ミリバール(abs)の範囲であり、ここで、差圧は固液分離(b)で使用されるフィルターにも依存する。
【0086】
固液分離(b)を行うために、当業者に知られている任意の固液分離装置を使用することができる。好適な固液分離装置としては、例えば、撹拌式圧力ヌッチェ、回転式圧力フィルター、ドラムフィルター、ベルトフィルター又は遠心分離機が挙げられる。固液分離装置に使用されるフィルターの細孔径は、好ましくは1~1000μmの範囲、より好ましくは10~500μmの範囲、特に20~200μmの範囲である。
【0087】
固液分離装置、特に濾過装置は、好ましくは、ニッケルベース合金又はステンレス鋼から作られる。さらに、コーティングされた鋼を使用することも可能であり、ここで、コーティングは、腐食に対して耐性がある材料で作られている。固液分離が濾過である場合、濾過装置は、好ましくは、良好又は非常に良好な耐薬品性を有する材料から作られるフィルター要素を含んでいる。そのような材料は、使用される装置について上述したように、ポリマー材料又は耐薬品性金属であることができる。フィルター要素は、例えば、フィルターカートリッジ、フィルター膜、又はフィルタークロスであり得る。フィルター要素がフィルタークロスである場合、好ましい材料はさらに、可撓性があり、特に織物に製造することができるものなどの可撓性ポリマー材料である。これらは、例えば、繊維に引き伸ばされたり紡糸されたりすることができるポリマーであり得る。フィルター要素の材料として特に好ましいものとしては、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミド(PA)、又はフッ素化ポリアルキレン、例えばエチレンクロロトリフルオロエチレン(ECTFE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニリデンフルオリド(PVDF)、フッ素化エチレン-プロピレン(FEP)が挙げられる。
【0088】
特に好ましくは、冷却及び結晶化をバッチ式で行い、固液分離を連続的に行う。
【0089】
固液分離が濾過である場合、濾過が連続的に行われるか、又はバッチ式で行われるかにかかわらず、濾過装置における濾過ケーキの次の洗浄を行うことが可能である。洗浄後、濾過ケーキは生成物として取り出される。
【0090】
連続的な固液分離プロセスでは、湿潤DCDPSを固液分離装置から連続的に取り出し、その後、湿潤DCDPSを洗浄することができる。固液分離が濾過であり、連続ベルトフィルターを使用する場合、懸濁液を濾過し、こうして生じた濾過ケーキをフィルターベルト上で輸送し、同じ濾過装置の別の位置で濾過ケーキを洗浄することが好ましい。しかしながら、固液分離が連続的に行われる濾過である場合、固液分離及びその後の洗浄を同じ装置で行うことが好ましい。
【0091】
固液分離が濾過プロセスである場合、濾過を半連続的に行うこともさらに可能である。この場合、懸濁液を連続的に濾過装置に供給し、濾過は所定のプロセス時間で行われる。その後、濾過中に製造された濾過ケーキは、同じ濾過装置で洗浄される。例えば、濾過を行うためのプロセス時間は、差圧に依存してもよい。濾過ケーキの増加に伴い、濾過装置における差圧が増大する。濾過のためのプロセス時間を決定するために、例えば、第1濾過装置において濾過が行われるまでの目標差圧を定義することが可能である。その後、懸濁液は、濾過が継続される第2又はさらなる濾過装置に供給される。これにより、濾過を連続的に行うことが可能になる。濾過が完了したそれらの装置では、濾過ケーキを洗浄し、洗浄終了後に取り出すことができる。必要に応じて、濾過ケーキを取り出した後に、濾過装置を洗浄することができる。濾過ケーキを取り出し、必要に応じて濾過装置を洗浄した後、その濾過装置を再び濾過に使用することができる。濾過ケーキの洗浄及び任意の濾過装置の洗浄が、1つの濾過装置での濾過の時間よりも多くの時間を必要とする場合、少なくとも2つの濾過装置を使用して、濾過装置で懸濁液を連続的に供給することができるようにし、他の装置では濾過ケーキが洗浄され、又は濾過装置が洗浄される。
【0092】
半連続プロセスの各濾過装置では、濾過がバッチ式で行われる。したがって、濾過及び洗浄をバッチ式で行う場合、このプロセスは、上述の半連続プロセスの1つの装置でのプロセスに対応する。
【0093】
固液分離が完了した後、湿潤DCDPSを洗浄して、カルボン酸の残留物及びさらなる不純物、例えばDCDPSの製造プロセス中に形成された望ましくない副生成物を除去する。
【0094】
これによる洗浄は、少なくとも2つの段階で行われる。第1段階では、湿潤DCDPSを水性塩基で洗浄し、その後、第2段階では水で洗浄する。
【0095】
湿潤DCDPSからカルボン酸の残留物を除去するために、好ましくは、第1段階の洗浄に使用される水性塩基は、水性アルカリ金属水酸化物、例えば水性水酸化カリウム又は水酸化ナトリウム、特に水酸化ナトリウムである。水性塩基としてアルカリ金属水酸化物を使用する場合、水性アルカリ金属水酸化物は、好ましくは水性アルカリ金属水酸化物の総量に基づいて1~50質量%のアルカリ金属水酸化物、より好ましくは水性アルカリ金属水酸化物の総量に基づいて1~20質量%のアルカリ金属水酸化物、特に水性アルカリ金属水酸化物の総量に基づいて2~10質量%のアルカリ金属水酸化物を含む。この量は、湿潤DCDPSを適切に洗浄するのに十分な量である。
【0096】
水酸化アルカリ金属を使用することにより、カルボン酸のアニオンが水酸化アルカリ金属のカチオンと反応し、有機塩及び水が生成される。一般に水に溶解しないカルボン酸とは異なり、またカルボン酸によっては水と混合しない場合もあるが、水性塩基との反応により生成した有機塩は水溶性であり、したがって、水性アルカリ金属水酸化物で除去されない残留物及び反応により生成した水は、水で洗浄することにより湿潤DCDPSから除去することができる。これにより、1質量%未満、好ましくは0.7質量%未満、特に0.5質量%未満の有機不純物を含有するDCDPSを生成物として達成することが可能になる。
【0097】
このような有機不純物の含有量が少ないDCDPSを得るためには、第1段階の洗浄に使用される水性塩基、特にアルカリ金属水酸化物の量は、好ましくは1kgの乾燥DCDPS当たり0.5~10kgの範囲、より好ましくは1kgの乾燥DCDPS当たり1~6kgの範囲、特に1kgの乾燥DCDPS当たり2~5kgの範囲である。
【0098】
水性塩基の水、及び塩基のアニオンとカルボン酸との反応によって生成する水は、一般に有機塩のすべてを除去するには十分ではなく、水性塩基のさらなる一部が湿潤DCDPSに留まることがあるので、第2段階において湿潤DCDPSは水で洗浄される。水で洗浄することにより、有機塩及び反応しなかった水性塩基の残りが除去される。その後、当業者に知られている通常の乾燥プロセスにより、DCDPSから水を容易に除去して、乾燥DCDPSを生成物として得ることができる。あるいは、水で洗浄した後に得られる水湿潤DCDPSをその後のプロセスステップで使用することも可能である。
【0099】
第2段階の洗浄に使用される水の量は、好ましくは、水性塩基で洗浄した後にDCDPS中に残存する水性塩基が除去されるように選択される。これは、例えば、湿潤DCDPSのpH値を測定することによって達成することができる。洗浄は、DCDPSが6.5~7.5の範囲、好ましくは6.8~7.2の範囲、特に6.9~7.1の範囲のpH値を意味する中性になるまで継続される。これは、水性塩基で洗浄した後に、好ましくは1kgの乾燥DCDPS当たり0.5~10kgの範囲、より好ましくは1kgの乾燥DCDPS当たり1~7kgの範囲、特に1kgの乾燥DCDPS当たり1~5kgの範囲である量の洗浄用水を使用することにより達成することができる。第2段階での洗浄のためにこのような量の水を使用することは、プロセスから取り出され、浄化プラントへ渡されなければならない廃水の量を非常に低いレベルに維持することができるという利点を有する。
【0100】
第2段階における水での洗浄は、好ましくは、2つの洗浄ステップで行われる。この場合、第2洗浄ステップでは真水を洗浄に使用し、第1洗浄ステップでは第2洗浄ステップで使用した水を使用することが特に好ましい。これにより、洗浄に使用する水の量を全体として低く維持することができる。
【0101】
固液分離が濾過である場合、濾過が連続的に行われるか、又はバッチ式で行われるかにかかわらず、濾過装置において濾過ケーキの次の洗浄を行うことが可能である。洗浄後、濾過ケーキは生成物として取り出される。
【0102】
濾過及び濾過ケーキの洗浄を1つの装置で行う以外に、濾過ケーキを濾過装置から取り出し、後続の洗浄装置で洗浄することも可能である。濾過がベルトフィルターで行われる場合、フィルターベルト上の濾過ケーキを洗浄装置中に輸送することが可能である。この目的のために、フィルターベルトは、濾過装置から出て洗浄装置に入るように設計されている。フィルターベルト上の濾過ケーキを濾過装置から洗浄装置中に輸送する以外にも、好適なコンベヤーで濾過ケーキを集めて、コンベヤーから濾過ケーキを洗浄装置に供給することも可能である。濾過ケーキが好適なコンベヤーで濾過装置から取り出される場合、濾過ケーキは、全体として、又は塊(chunks)又は粉状などのより小さな断片で、濾過装置から取り出すことができる。例えば、塊は、濾過ケーキが濾過装置から取り出されるときに壊れた場合に生じる。粉末状に達成するためには、通常、濾過ケーキを粉砕する必要がある。濾過ケーキの状態にかかわらず、洗浄において濾過ケーキを水性塩基と接触させ、続いて水と接触させる。例えば、濾過ケーキを洗浄装置の好適なトレイに置き、水性塩基をトレイ及び濾過ケーキに通って流すことができる。さらに、濾過ケーキを小さな塊又は粒子にして、この塊又は粒子を水性塩基と混合することも可能である。続いて、濾過ケーキの塊又は粒子と水性塩基とのこのようにして製造された混合物を濾過して水性塩基を除去する。洗浄が個別の洗浄装置で行われる場合、洗浄装置は任意の好適な装置であり得る。好ましくは、洗浄装置は、より少量の水性塩基を使用し、1つの装置のみで水性塩基を固体DCDPSから分離することができるフィルター装置である。しかしながら、洗浄装置として、例えば攪拌タンクを使用することも可能である。この場合、次のステップで、例えば濾過又は遠心分離により、水性塩基を洗浄されたDCDPSから分離する必要がある。水性塩基で洗浄した後、同様に水での洗浄を行う。これにより、水性塩基での洗浄及び水での洗浄において、1つの装置を使用することができるか、又は水性塩基での洗浄及びその後の水での洗浄を異なる装置で行うことができる。
【0103】
固液分離(b)を遠心分離により行う場合、遠心分離機によっては、湿潤DCDPSを洗浄するために別個の洗浄装置を使用する必要がある。しかしながら、通常、分離ゾーン及び洗浄ゾーンを含む遠心分離機を使用することができるか、又は遠心分離機で遠心分離した後に洗浄を行うことができる。
【0104】
湿潤DCDPSの洗浄は、好ましくは室温で行われる。また、湿潤DCDPSを、室温とは異なる温度、例えば室温を超える温度で洗浄することも可能である。洗浄が濾過装置で行われる場合、濾過ケーキを洗浄するためには、差圧を確立しなければならない。これは、例えば、濾過ケーキを洗浄するために第1段階の水性塩基及び第2段階の水を常圧を超える圧力で供給し、水性塩基及び水が供給される圧力未満の圧力、例えば常圧で濾過ケーキを通過させた後に水性塩基及び水をそれぞれに取り出すことによって可能である。さらに、濾過ケーキを洗浄するための水性塩基及び水を常圧で供給し、濾過ケーキを常圧未満の圧力で通過させた後に水性塩基及び水を取り出すことも可能である。
【0105】
特に、湿潤DCDPSの洗浄に使用された水性塩基は、カルボン酸又はカルボン酸の有機塩のいずれかを含有する。水と一緒に取り出され、精製プラントで精製に供され、それによって完全に除去されるカルボン酸の量を減らすために、本発明によれば、1つの代替態様では、洗浄に使用された後の水性塩基を強酸と混合することができる。
【0106】
第2代替態様において、洗浄に使用した後の水性塩基を、(b)で得られたカルボン酸を含む濾過液の少なくとも一部及び強酸と混合する。この場合、まず洗浄に使用した後の水性塩基とカルボン酸を含む濾過液の少なくとも一部を混合し、その後にこの混合物と強酸を混合すること、又は洗浄に使用した後の水性塩基とカルボン酸を含む濾過液の少なくとも一部及び強酸を同時に混合することも可能である。
【0107】
強酸と混合することにより、水性塩基での洗浄時に生成した有機塩が強酸と反応し、有機塩のアニオンからカルボン酸が生成され、強酸のアニオンから第2の塩が生成される。強酸は、好ましくは、生成される第2の塩が水への溶解性が良好で、カルボン酸への溶解性が低いように選択される。この文脈において、「溶解性が良好」とは、100gの溶媒あたり少なくとも20gが溶解することができることを意味し、「溶解性が低い」とは、100gの溶媒あたり5g未満が溶解することができることを意味する。
【0108】
第2の塩のカルボン酸への溶解性が低いため、回収できるカルボン酸は、カルボン酸の総質量に基づいて3ppm質量%未満の不純物を含むという効果がある。これにより、さらなる精製ステップがなく、カルボン酸をさらに使用することができる。
【0109】
湿潤DCDPSの洗浄に使用される水性塩基に応じて、強酸は、好ましくは、硫酸、又はパラトルエンスルホン酸若しくはアルカンスルホン酸のようなスルホン酸、例えばメタンスルホン酸である。水性塩基がアルカリ金属水酸化物である場合、強酸は特に好ましくは硫酸である。
【0110】
洗浄に使用された後の水性塩基と強酸を混合すること、又は水性塩基、カルボン酸を含む濾過液の少なくとも一部及び強酸を混合することは、当業者に知られている任意のミキサーで行うことができる。洗浄に使用あれた後の水性塩基と強酸を混合するのに適したミキサーは、例えば、静的ミキサー、チューブ、動的ミキサー、例えば混合ポンプ、又は攪拌容器である。第1ステップにおいて、水性塩基とカルボン酸を含む濾過液の少なくとも一部を混合し、その後にこの混合物を強酸と混合する場合、第1ミキサーは、水性塩基及びカルボン酸を含む濾過液を混合するために使用することができ、第2ミキサーは、この混合物を強酸と混合するために使用することができる。特に、攪拌容器を使用する場合、まず水性塩基及びカルボン酸を含む濾過液を添加し、攪拌を開始させ、その後に強酸を添加することが可能である。水性塩基、カルボン酸の少なくとも一部及び強酸を同時に混合する場合は、3つの成分すべてが同時に同じミキサーに添加される。また、混合に攪拌容器を使用する場合は、攪拌容器に成分を供給し、全ての成分を供給した後に混合を開始することも可能である。
【0111】
カルボン酸の再利用を可能にするために、カルボン酸を水相から分離する必要がある。これは、相分離(e)で行われる。相分離(e)によって分離されたカルボン酸は、それぞれのカルボン酸が使用される任意のプロセスで使用することができる。しかしながら、このカルボン酸をDCDPSの製造プロセスにリサイクルすることが特に好ましい。カルボン酸が(e)で分離された後に不純物を含有する場合、カルボン酸を洗浄又は蒸留などのさらなる精製ステップに供して、高沸点又は低沸点の不純物を除去することが、さらに可能である。
【0112】
強酸と混合された後に水性塩基中のカルボン酸の量は比較的少ないため、カルボン酸の少なくとも一部、又はカルボン酸を含む濾過液の一部のみが水性塩基と混合されていない場合、相分離を行う前に、強酸と混合された水性塩基にカルボン酸を含む濾過液の少なくとも一部を添加することが可能である。これにより、相分離の効率を向上させることができる。
【0113】
特に、気密性密閉容器で、水を添加すること、及び減圧することにより、冷却及び結晶化を行う場合、カルボン酸を含む濾過液は、さらに水を含有する。この場合にもカルボン酸を再利用できるために、濾過液を相分離に供する必要がある。この場合、強酸と混合した水性塩基とカルボン酸を含む濾過液を混合すること、又は水性塩基、カルボン酸を含む濾過液及び強酸を混合することは、水相から有機カルボン酸を分離するための相分離を1回だけ行えばよいというさらなる利点を有する。
【0114】
有機相及び水相の量及び相分離に使用されるプロセスによっては、混合物中の水相の量を増やすことが必要な場合がある。これは、例えば、水相の少なくとも一部を相分離装置及び混合装置によって循環させることにより達成することができる。好ましくは、相分離装置及び混合装置は1つの装置、特にミキサー-沈降タンク(mixer-settler)に組み合わされ、水相の少なくとも一部はミキサー-沈降タンクによって循環される。水相の少なくとも一部を相分離装置及び混合装置、好ましくはミキサー-沈降タンクに循環させるために、水相の少なくとも一部は、相分離装置から取り出された全水相から分離され、カルボン酸を含む濾過液及び強酸と混合した水性塩基と混合してからこの混合物を再び相分離に供する。
【0115】
カルボン酸を含む濾過液を、強酸と混合された水性塩基、及び該当する場合に循環される水相の一部と混合することは、別の混合装置で、又は好ましくは相分離も行われるミキサー-沈降タンクの混合部で行うことができる。混合及び相分離は、バッチ式で又は連続的に行うことができる。混合及び相分離が連続的に行われ、混合物がミキサー沈降タンクに通過させる場合、複数の流れを混合するために、好ましくは合体助剤(coalescing aid)がミキサー-沈降タンクの混合部に配置される。このような合体助剤は、例えば、構造化パッキング又はランダムパッキングのようなパックされた層である。さらに、ニットメッシュ又はコアレッサを合体助剤として使用することもできる。ランダムパッキングに使用される充填体は、例えばPall(登録商標)-ring、Raschig(登録商標)-ring、又はサドルであり得る。
【0116】
粒子の目詰まりを防ぐため、濾過後、母液はフィルターの水性塩基用の排出口をフラッシュすることに使用することができる。
【0117】
相分離をバッチ式で行う場合、全ての流れを別々にミキサー-沈降タンクに供給し、例えば攪拌のようにかき混ぜることによってそれらを混合し、その後に撹拌を止めて相分離させることが可能である。相分離が完了した後、水相及び有機相を別々にミキサー-沈降タンクから取り出すことができる。
【0118】
さらに、相分離をバッチ式で又は連続的に行うことにかかわらず、相分離装置に供給する前に流れを混合することも可能である。この場合、混合は、流れが添加される静的又は動的ミキサーで、又は好ましくは、すべての流れを1つのチューブに供給し、流れの乱れから混合を生じさせることにより、行うことができる。静的ミキサーを使用する場合、ミキサーは上記のような合体助剤を含有してもよい。
【0119】
カルボン酸を含む濾過液及び強酸と混合された後の水性塩基と混合する前又はその後に、循環のために分離させた水相の一部を相分離装置に供給する以外に、水相の一部を水性塩基と強酸との混合に再循環させることも可能である。
【0120】
さらに又はあるいは、水性塩基で洗浄した後に第2段階で洗浄に使用した水の少なくとも一部を相分離に供給することにより、水相の量を増加させることも可能である。この水の少なくとも一部を相分離に供給することにより、水性塩基で洗浄した後にDCDPSに残存する微量の有機不純物、特にカルボン酸を回収することがきる。
【0121】
また、廃棄される水の量を減らすために、第2段階で湿潤DCDPSの洗浄に使用した水の少なくとも一部を、第1段階で湿潤DCDPSの洗浄に使用する水性塩基の製造に使用することがさらに可能であり、好ましい。
【0122】
この精製方法によって得られたDCDPSは、例えば、スルホンポリマー、特にポリアリーレン(エーテル)スルホンを製造するための出発物質として使用することができる。
【0123】
上記の各プロセスは、装置の大きさ及び添加する化合物の量に応じて、1つの装置のみで、又は複数の装置で行うことができる。複数の装置をプロセスステップに使用する場合、装置は同時に、又は特にバッチ式で行うプロセスで異なる時間に運転することができる。これにより、例えば、ある装置でプロセスステップを実行しながら、同時に同じプロセスステップのための別の装置をメンテナンス(例えば洗浄)することができる。さらに、すべての成分を添加した後に装置の内容物が一定時間残る工程プロセスステップ、例えば酸化反応又は冷却ステップでは、1つの装置にすべての化合物を供給した後、最初の装置でのプロセスを継続したまま、別の装置に成分を供給することが可能である。しかしながら、すべての装置に同時に成分を添加し、この装置でプロセスステップを同時に行うことも可能である。
【0124】
本発明の例示的な実施態様を図に示し、以下の説明でより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【
図1】
図1は、本発明の方法の実施態様のフロー図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0126】
図1では、DCDPSを含む懸濁液を精製する方法をフロー図で示している。
【0127】
カルボン酸中に固体DCDPSを及び任意に水を含む懸濁液1は、固液分離装置3、例えば濾過装置に供給される。濾過装置は、撹拌式圧力ヌッチェ、回転式圧力フィルター、ドラムフィルタ又はベルトフィルタであり得る。濾過装置以外に、固液分離装置は、遠心分離機であることもできる。
【0128】
固液分離装置3において、懸濁液は、湿潤DCDPSと、カルボン酸及び任意に水を含む濾過液5に分離され、この濾過液5が固液分離装置から取り出される。
【0129】
固液分離が完了した後、湿潤DCDPSを2段階に分けて洗浄する。第1段階では、湿潤DCDPSを水性塩基7で洗浄し、水性塩基での洗浄が終了した後、第2段階では、湿潤DCDPSを水9で洗浄する。第1段階における洗浄のための水性塩基は、好ましくは、水性アルカリ金属水酸化物、特に水酸化ナトリウムである。水性塩基及び水で洗浄した後の湿潤DCDPSは、固液分離装置3から生成物ストリーム10として取り出される。
【0130】
固液分離及び2つの洗浄段階は、1つの装置で、又は固液分離及び洗浄のための別々の装置で行うことことができる。固液分離及び洗浄に連続ベルトフィルターを使用する場合、湿潤DCDPSは固液分離から洗浄が行われる位置までベルト上で搬送される。湿潤DCDPSをフィルター上で搬送できない固液装置を使用する場合、固液分離及び洗浄を同じ装置内で連続して行うことができる。この場合、固液分離及び洗浄段階が終了した後、フィルターケーキとなった湿潤DCDPSをフィルターから取り出す。
【0131】
洗浄に使用された後、水性塩基11は、容器13に供給される。使用後の水は、排水ライン15によってプロセスから取り出される。さらに、使用後の水の少なくとも一部を水性塩基7の希釈に使用することも可能である。これは、破線16で例示的に示されている。
【0132】
湿潤DCDPSを水性塩基で洗浄することにより、残ったカルボン酸が塩基と反応してカルボキシル酸塩を形成する。廃棄物の量を減らし、還元できるカルボン酸の量を増やすために、洗浄に使用した後、水性塩基が強酸17と混合される。強酸はカルボン酸塩と反応して、塩及びカルボン酸を生成する。使用後の水性塩基と強酸の混合は、攪拌タンク、チューブ又は静的ミキサーで行うことができる。図による実施態様では、水性塩基が容器13に供給されるラインにおいて、水性塩基に強酸が添加される。容器13は、容器13に供給された成分をかき混ぜる、特に攪拌する攪拌タンクである。したがって、水性塩基中のカルボン酸塩と強酸との反応は、容器13中で行われる。
【0133】
図に示している実施態様によれば、濾過液5も容器13に供給され、強酸及び水性塩基と混合される。
【0134】
代替態様として、水性塩基11、強酸17及び濾過液5を別々の供給ラインを介して容器13に添加することも可能である。これにより、第1段階で水性塩基11と濾過液5を混合し、この混合物に強酸17を添加することが可能である。
【0135】
図に示している実施態様に加えて、濾過液も供給されるバッファ容器に供給する前に、強酸及び水性塩基中のカルボン酸塩の反応を完了させることも可能である。好ましくは、バッファ容器は、水性塩基及び濾過液を混合するための混合装置を備えている。
【0136】
相分離を改善するために、濾過液5を熱交換器29で加熱することができる。好ましくは、濾過液5は、30~50℃の範囲の温度に加熱される。濾過液5をこのような温度に加熱することのさらなる利点は、固形物の沈殿を回避できることである。
【0137】
容器13又は代替的にバッファ容器から、濾過液と水性塩基との混合物は、相分離装置19に供給される。相分離装置19において、この混合物は、カルボン酸を含む有機相21、及び強塩基のアニオンと水性塩基のカチオンから生成される塩が溶解した水相23に分離される。有機相21は相分離装置19から取り出され、カルボン酸は再利用することができる。必要に応じて、カルボン酸を再利用する前に、有機相をさらなる精製ステップに供することも可能である。
【0138】
有機相の量に比べて水相の量が少ないため、相分離を促進するために、水相の一部は再循環ライン25を介して容器13にリサイクルされる。容器13にリサイクルすることに加えて、あるいは、水相を相分離装置19に直接リサイクルすることも可能である。水相23のリサイクルされない部分は、任意に精製された後、プロセスから取り出され、廃棄される。
【0139】
図に示しているように、連続運転される相分離装置19における相分離を促進するために、合体助剤27が提供される。合体補助剤は、例えば、ランダムパッキング、例えばPall(登録商標)-ring、Raschig(登録商標)-ring又はサドルの層、又は構造化パッキングである。
【実施例】
【0140】
実施例1
1547gの結晶化したDCDPS、811gの水及び2544gのn-ヘプタン酸を含む懸濁液4902gを実験室ヌッチェに充填した。ヌッチェの濾過液側に500ミリバール(abs)の圧力を60秒間かけて設定し、濾過を行った。濾過終了後、得られた濾過ケーキを乾燥空気で30秒間乾燥させた。
【0141】
その後、濾過ケーキを2kgの5%希釈NaOHで洗浄した。洗浄のために、ヌッチェの濾過液側に750ミリバール(abs)の圧力を設定した。
【0142】
希釈NaOHで洗浄した後、1.5kgの水で洗浄した。水で洗浄するために、ヌッチェの濾過液側に500ミリバール(abs)の圧力を設定した。続いて、濾過ケーキを空気で30秒間乾燥させた。
【0143】
洗浄及び乾燥した後、濾過ケーキ中のカルボン酸の含有量は0.24質量%であった。最終的な濾過ケーキの質量は1369gであった。
【0144】
濾過プロセスで得られた母液を、相分離に供した。相分離により、482gの水相及び2712gの有機相を得た。
【0145】
実施例2
1000gの100のAPHA番号を有するDCDPSOを3000gのn-ヘプタン酸に溶解した。この溶液を90℃に加熱した。その後、1.3gの硫酸及び197gのH2O2を3時間40分かけて添加し、DCDPSOを酸化してDCDPSを得た。酸化反応によって得られた溶液に、794gの水を添加した。
【0146】
水を添加した後、このようにして得られた溶液を冷却して、酸化反応で得られたDCDPSを結晶化させた。冷却のために、5時間かけて連続的に減圧した。減圧により水が蒸発し始めた。蒸発した水を凝縮し、溶液に戻した。このプロセスにより、温度は83K低下した。この冷却プロセスにより、DCDPSが結晶化し、懸濁液を形成した。固液分離により、この懸濁液をDCDPS含有濾過ケーキ及び母液に分離した。
【0147】
濾過ケーキを1.3kgの5%希釈NaOHで洗浄した。希釈NaOHで洗浄した後、濾過ケーキをそれぞれ1.3kgの水で2回洗浄した。洗浄後、DCDPSを60℃で16時間乾燥させた。こうして得られたDCDPSは、APHA数が30であり、0.16質量%のn-ヘプタン酸を含有した。
【0148】
固液分離及び洗浄ステップを行う際の圧力及び操作時間は、実施例1に記載したものと同じであった。
【0149】
洗浄に使用した後、希釈NaOHを固液分離によって得られた母液と混合した。希釈NaOHと母液との混合物に50%の硫酸175.2gを添加した。こうして得られた液体混合物を相分離に供して、水相及び有機相を得た。水相と水洗浄ステップの廃水を混合した。これにより、主にカルボン酸である有機化合物13gに相当する2700mg/LのTOCを有する累積廃水4.8Lが得られる。これは、DCDPSOを溶解するために使用したカルボン酸の0.43%のみが、廃水によってプロセスから取り出されたことを示している。
【0150】
ヘプタン酸の精製のために、本質的にヘプタン酸を含む有機相をワークアップし、ヘプタン酸をDCDPSの製造プロセスにリサイクルした。
【符号の説明】
【0151】
1 懸濁液
3 固液分離装置
5 濾過液
7 水性塩基
9 水
10 生成物ストリーム
11 洗浄に使用した後の水性塩基
13 容器
15 排水ライン
17 強酸
19 相分離装置
21 有機相
23 水相
25 再循環ライン
27 合体助剤
【手続補正書】
【提出日】2021-07-29
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)カルボン酸中に粒子状4,4'-ジクロロジフェニルスルホンを含む懸濁液を提供する工程と、
(b)前記懸濁液を固液分離して、残留水分含有4,4'-ジクロロジフェニルスルホン、及びカルボン酸を含む濾過液を得る工程と、
(c)残留水分含有4,4'-ジクロロジフェニルスルホンを、水性塩基で洗浄し、その後に水で洗浄する工程と、
(d)洗浄に使用した後の水性塩基を強酸と混合
した後、カルボン酸を含む前記濾過液の少なくとも一部を強酸と混合された水性塩基と混合するか、又は洗浄に使用した後の水性塩基、カルボン酸を含む前記濾過液
の少なくとも一部及び強酸を混合する工程と、
(e)相分離を行って、水相、及びカルボン酸を含む有機相を得る工程と
を含む、4,4'-ジクロロジフェニルスルホンを精製する方法。
【請求項2】
前記カルボン酸が直鎖C
6~C
10カルボン酸である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記カルボン酸が、n-ヘキサン酸及びn-ヘプタン酸からなる群から選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記水性塩基が水性アルカリ金属水酸化物である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記水性アルカリ金属水酸化物が、水性アルカリ金属水酸化物の総量に基づいて1~50質量%のアルカリ金属水酸化物を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
洗浄に使用される水性塩基の量が、1kgの乾燥4,4'-ジクロロジフェニルスルホン当たり0.5~10kgの範囲である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
水性塩基で洗浄した後の洗浄に使用される水の量が、1kgの乾燥4,4'-ジクロロジフェニルスルホン当たり0.5~10kgの範囲である、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
固液分離工程(b)及び洗浄工程(c)が1つの装置で行われる、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記強酸が硫酸又はアルカンスルホン酸である、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法
。
【請求項10】
カルボン酸を含む前記濾過液及び洗浄に使用した後の水性塩基が、前記強酸と混合される前に混合される、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
相分離工程(e)で得られた水相の少なくとも一部が、水性塩基と強酸との混合工程(d)に再循環される、請求項1から
10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
洗浄に使用した後の水の少なくとも一部が水性塩基の製造に使用される、請求項1から
11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
工程(e)で得られたカルボン酸の少なくとも一部が、カルボン酸の存在下で4,4'-ジクロロジフェニルスルホキシドを酸化させることにより4,4'-ジクロロジフェニルスルホンを製造する方法に使用される、請求項1から
12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
4,4'-ジクロロジフェニルスルホンが、スルホンポリマー、特にポリアリーレン(エーテル)スルホンを製造するための出発物質として使用される、請求項1から
13のいずれか一項に記載の方法。
【国際調査報告】