(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-14
(54)【発明の名称】表面改質膜
(51)【国際特許分類】
B01D 69/02 20060101AFI20221207BHJP
B01D 61/24 20060101ALI20221207BHJP
B01D 61/36 20060101ALI20221207BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20221207BHJP
B01D 71/40 20060101ALI20221207BHJP
B01D 71/78 20060101ALI20221207BHJP
B01D 71/82 20060101ALI20221207BHJP
C02F 1/44 20060101ALI20221207BHJP
B01D 61/46 20060101ALI20221207BHJP
C08J 5/22 20060101ALI20221207BHJP
H01M 8/1067 20160101ALI20221207BHJP
H01M 8/1018 20160101ALI20221207BHJP
H01M 8/1053 20160101ALI20221207BHJP
H01M 8/1072 20160101ALI20221207BHJP
H01M 8/18 20060101ALI20221207BHJP
H01G 9/02 20060101ALI20221207BHJP
H01G 9/022 20060101ALI20221207BHJP
H01G 11/52 20130101ALI20221207BHJP
H01G 11/54 20130101ALN20221207BHJP
【FI】
B01D69/02
B01D61/24
B01D61/36
B01D69/12
B01D71/40
B01D71/78
B01D71/82
C02F1/44 A
B01D61/46 500
C08J5/22 101
C08J5/22 CER
C08J5/22 CEZ
H01M8/1067
H01M8/1018
H01M8/1053
H01M8/1072
H01M8/18
H01G9/02
H01G9/022
H01G11/52
H01G11/54
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022513119
(86)(22)【出願日】2020-07-21
(85)【翻訳文提出日】2022-04-19
(86)【国際出願番号】 GB2020051735
(87)【国際公開番号】W WO2021038186
(87)【国際公開日】2021-03-04
(32)【優先日】2019-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】509077761
【氏名又は名称】フジフィルム・マニュファクチュアリング・ヨーロッパ・ベスローテン・フエンノートシャップ
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100120754
【氏名又は名称】松田 豊治
(72)【発明者】
【氏名】アルハディディ,アブドゥルサラム
(72)【発明者】
【氏名】フエルタ・マルティネス,エリサ
【テーマコード(参考)】
4D006
4F071
5E078
5H126
【Fターム(参考)】
4D006GA17
4D006GA27
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5H126JJ06
(57)【要約】
成分(a)および(b):
(a)イオン性基、2つの向かい合う表面、および場合によって多孔性支持体を含む膜層、
(b)膜層(a)の少なくとも2つの向かい合う表面のうちの少なくとも1面に結合されたスルホ基を含む層
を含む、複合イオン交換膜であって、
スルホ基を含む層が、厚さ100nm未満を有し、複合イオン交換膜が、表面ゼータ電位0から-7.5mVを有する、複合イオン交換膜。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(a)および(b)、
(a)イオン性基、2つの向かい合う表面、および場合によって多孔性支持体を含む膜層、
(b)前記膜層(a)の少なくとも2つの向かい合う表面のうちの少なくとも1面に結合されたスルホ基を含む層
を含む、複合イオン交換膜であって、
スルホ基を含む前記層が、厚さ100nm未満を有し、
複合イオン交換膜が、表面ゼータ電位0から-7.5mVを有する、複合イオン交換膜。
【請求項2】
複合カチオン交換膜である、請求項1に記載の複合イオン交換膜。
【請求項3】
前記層(b)が、前記膜層(a)に共有結合される、請求項1または2に記載の複合イオン交換膜。
【請求項4】
前記複合イオン交換膜の表面ゼータ電位が、好ましくは前記複合イオン交換膜がpH4を有する蒸留水中の塩化カリウム溶液の25mMの溶液中で16時間貯蔵された後で、界面動電分析装置を使用して測定された通りである、請求項1から3のいずれか一項に記載の複合イオン交換膜。
【請求項5】
前記層(b)が、XPSによって特定された硫黄/炭素原子比0.010から0.050を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の複合イオン交換膜。
【請求項6】
前記層(b)が、XPSによって特定された硫黄/窒素原子比0.30から0.50を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の複合イオン交換膜。
【請求項7】
前記層(b)が、XPSによって特定された硫黄/酸素原子比0.07から0.13を有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の複合イオン交換膜。
【請求項8】
硝酸イオン/硫酸イオン選択性比3.0未満を有する、請求項1から7のいずれか一項に記載の複合イオン交換膜。
【請求項9】
25℃でNaClの2Mの水溶液を使用して、電気抵抗2オーム・cm
2未満を有する、請求項1から8のいずれか一項に記載の複合イオン交換膜。
【請求項10】
前記膜層(a)が、向かい合う表面として表側面および裏側面を含み、表側面および裏側面のうちの一方のみが、前記層(b)に結合される、請求項1から9のいずれか一項に記載の複合イオン交換膜。
【請求項11】
前記膜層(a)が、向かい合う表面として表側面および裏側面を含み、表側面および裏側面の両方が、前記層(b)に結合される、請求項1から9のいずれか一項に記載の複合イオン交換膜。
【請求項12】
前記層(b)が、
i)アニオン(陰性)基を有する(1つまたは複数の)エチレン性不飽和のモノマー、4から35部、
ii)(1つまたは複数の)中性モノマー、0から30部、
iii)(1種または複数の)不活性溶媒、40から92部、および
iv)(1種または複数の)光開始剤、0から10部
を含む硬化性組成物から得られる、請求項1から11のいずれか一項に記載の複合イオン交換膜。
【請求項13】
前記層(b)が、コーティング層である、請求項1から12のいずれか一項に記載の複合イオン交換膜。
【請求項14】
(i)少なくとも1つの重合可能な基およびスルホ基を含むモノマー、ならびに
(ii)場合によって、中性モノマー
を含む硬化性組成物と、表面に反応性基を有する膜層を反応させるステップを含む、複合イオン交換膜を調製する方法。
【請求項15】
前記硬化性組成物が、
i)スルホ基を有する(1つまたは複数の)エチレン性不飽和のモノマー、4から35部、
ii)(1つまたは複数の)中性モノマー、0から30部、
iii)(1種または複数の)不活性溶媒、40から92部、および
iv)(1種または複数の)光開始剤、0から10部
を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記層(b)が、前記膜層(a)の表面からグラフト重合される、請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
水性液体の処理のための、請求項1から13のいずれか一項に記載の複合イオン交換膜の使用。
【請求項18】
請求項1から13のいずれか一項に記載の1つまたは複数の膜を含む、電気透析もしくは逆電気透析ユニット、電気脱イオンモジュール、フロースルーキャパシタ、拡散透析装置、膜蒸留モジュール、レドックスフロー電池、微生物脱塩セル、または膜電極アセンブリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン交換膜ならびにその調製のための方法および使用に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン交換膜は、電気透析、逆電気透析、電気分解、拡散透析、電池、およびいくつかの他の用途で使用される。典型的に、膜を通じたイオンの輸送は、イオン濃度勾配あるいは電位勾配などの駆動力の影響下で起こる。
【0003】
イオン交換膜は、優勢な電荷に応じて、カチオン交換膜またはアニオン交換膜として一般的に分類される。カチオン交換膜は、カチオンを通過させるがアニオンを拒絶する、負に荷電した基を含み、その一方で、アニオン交換膜は、アニオンを通過させるがカチオンを拒絶する、正に荷電した基を含む。
【0004】
特性を改質するために逆荷電種でイオン交換膜を表面処理することが知られている。例えば、WO2014165984は、(i)(メタ)アクリロキシ基、(メタ)アクリルアミド基、およびビニルベンジル基から選択される1つまたは複数のエチレン基を有する、荷電したイオン性モノマー、(ii)(メタ)アクリロキシ基、(メタ)アクリルアミド基、およびビニルベンジル基から選択される2つ以上のエチレン基を有する、疎水性架橋剤、(iii)フリーラジカル開始剤、ならびに(iv)溶媒媒体を含む、重合可能な溶液によるイオン交換膜の表面処理を記載している。WO2014165984の実施例3において、負電荷を含むカチオン交換膜は、モル比約0.86で4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアクリルアミド)架橋剤および正に荷電した(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリドを含む組成物を使用して、表面改質された。Gulerら、J.of Membrane Science、455、254~270ページ、2014は、アニオン交換膜が、モル比0.54に相当する2wt%のN,N’-メチレンビスアクリルアミド(MBA)および5wt%の2-アクリロイルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(AMPS)を含む組成物でコーティングされる例を記載している。
【0005】
Nebavskayaら、Membranes2019、9、13、3から5ページは、グラフト重合されていない高密度の可視層(SEMにより5μm)であるNafionをベースにしたカチオン交換高分子電解質でコーティングされた、均質および不均質のアニオン交換膜を記載している。
【0006】
Vaselbehaghら、Desalination332(2014)126~133ページは、ポリドーパミンコーティングによるアニオン交換膜の改良された防汚性を記載している。ポリドーパミンは、膜に共有結合されなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特性、例えば、良好な選択透過率、低い電気抵抗、および実際の使用における長寿命を有する膜の提供が望まれる。特に、汚れに対する親和性が低いまたは親和性がないイオン交換膜が望まれる。
【0008】
イオン交換膜は、そのイオンの性質に起因して、供給流中に存在する逆に荷電した成分に対する強い親和性を有する。供給流中に存在する、多くのコロイド性材料(有機または無機)および微生物は、負の表面電荷を有する。したがって、かかる負に荷電した成分は、カチオン性に荷電した膜表面に沈着する傾向がある。イオン交換膜上へのフミン酸などの成分の吸着は、典型的に、膜表面の色を変化させ、その他のイオンの通過を遮断して膜の電気抵抗を上げることにより、膜性能を低下させる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によって、成分(a)および(b):
(a)イオン性基、2つの向かい合う表面、および場合によって多孔性支持体を含む膜層、
(b)膜層(a)の少なくとも2つの向かい合う表面のうちの少なくとも1面に結合されたスルホ基を含む層
を含む、複合イオン交換膜であって、
スルホ基を含む層が、厚さ100nm未満を有し、複合イオン交換膜が、表面ゼータ電位0から-7.5mVを有する、複合イオン交換膜が提供される。
【0010】
表面ゼータ電位は、好ましくは、下に記載された方法によって測定される。
本文書(特許請求の範囲を含む)において、動詞「含む(comprise)」およびその活用形は、非限定的意味において使用されて、この語に続く項目が包含されるが、具体的に言及されない項目も除外されないことを意味する。さらに、不定冠詞「a」または「an」による要素への言及は、文脈が要素の1つおよび1つのみがあることを明確に要求しない限り、複数の要素が存在する可能性を除外しない。したがって、不定冠詞「a」または「an」は、通常、「少なくとも1つ」を意味する。
【0011】
本明細書において簡潔にするために、本発明者らは、成分(a)を「未処理膜」と呼ぶことが多々ある。したがって、用語「未処理膜」および「イオン性基、2つの向かい合う表面、および場合によって多孔性支持体を含む膜層」および「膜層(a)」は、置き換え可能であり、前者は、本発明の複合イオン交換膜に転換される前の膜層の通常の呼び方であり、後者の2つは、複合イオン交換膜に転換された後の膜層の通常の呼び方である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の複合イオン交換膜は、WO2014165984に記載された膜より非常に低いゼータ電位を有する。これは、本膜が、供給溶液中に典型的に見られる負に荷電した混入物質(例えば、汚れ)に対して低い親和性を有し、一価および多価の両方のイオンに対して透過性であるという利点を有する。結果として、本発明の膜は、使用中に汚れる傾向が低い。さらに、本発明の複合イオン交換膜が低い電気抵抗を有することは、好都合である。
【0013】
多孔性支持体が存在する場合、これを含む複合イオン交換膜の厚さは、好ましくは250μm未満、より好ましくは5から200μm、最も好ましくは10から150μm、例えば、約20、約50、約75、または約100μmである。
【0014】
複合イオン交換膜は、(水和)イオンが膜を通過し、(遊離)水分子が膜を容易に通過しないように、好ましくは、低い水透過率を有する。好ましくは、複合イオン交換膜の水透過率は、1.10-9m3/m2.s.kPa未満、より好ましくは1.10-10m3/m2.s.kPa未満、最も好ましくは5.10-11m3/m2.s.kPa未満、特に3.10-11m3/m2.s.kPa未満である。
【0015】
好ましくは、複合イオン交換膜は、小さいカチオン(例えば、(Na+)またはアニオン(例えば、Cl-)に対する選択透過率90%超、より好ましくは95%超を有する。
好ましくは、複合イオン交換膜は、電気抵抗8オーム・cm2未満、より好ましくは5オーム・cm2未満、最も好ましくは3オーム・cm2未満、特に2オーム・cm2未満を有する。電気抵抗は好ましくは、25℃でNaClの2Mの水溶液を使用して、下に記載された方法によって測定されてよい。ある種の適用例のために、特に、選択透過率が非常に高い、例えば95%を超える場合、ならびに例えば、超純水および/または飲料用水を生産するために使用されるシステムなどの低い伝導率流で作動する方法のために水透過が低い場合、高い電気抵抗は許容可能であり得る。電気抵抗は、下の実施例の節に記載された方法によって特定されてよい。
【0016】
膜層(a)は、好ましくは、優勢な電荷に応じて、カチオン交換膜またはアニオン交換膜である。カチオン交換膜は、カチオンを通過させる、負に荷電した基を含む。アニオン交換膜は、アニオンを通過させる、正に荷電した基を含む。
【0017】
典型的に、膜層(a)は、(i)少なくとも1つの重合可能な基およびイオン性基を有する、1つまたは複数のモノマー、ならびに場合によって(ii)イオン性基を含まない架橋剤を含む、硬化性組成物の重合を含む方法によって得られた。膜層(a)は、市販のもの、例えば、富士フイルム株式会社から得られてよい。
【0018】
少なくとも1つの重合可能な基およびアニオン基を有する好ましいモノマーは、好ましくは、酸性基、例えば、スルホ、カルボキシおよび/またはホスファト基、特に、スルホ基を含む。
【0019】
少なくとも1つの重合可能な基およびカチオン基を有する好ましいモノマーは、好ましくは、第四級アンモニウム基を含む。
好ましくは、膜層(a)は、カチオンに荷電した膜、例えば、アニオン交換膜である。好ましくは、膜層(a)は、(多孔性支持体が存在する場合、これを含む)膜の総乾燥重量に対して、少なくとも0.1meq/g、より好ましくは少なくとも0.3meq/g、特に0.6meq/g超、さらには1.0meq/g超のイオン交換容量を有する。イオン交換容量は、Dlugoleckiら、J.in Membrane Science、319(2008)、217ページの方法によって、本発明の複合イオン交換膜に転換される前に、膜層(a)の滴定によって測定されてよい。
【0020】
好ましくは、膜層(a)は、100%未満、より好ましくは75%未満、最も好ましくは60%未満の水中での膨張を示す。膨張の度合いは、架橋剤の量、非硬化性化合物の量によって、および硬化ステップにおける好適なパラメータの選択によって、さらに(存在する場合)多孔性支持体の特性によって、制御できる。
【0021】
水中の膜層(a)の選択透過率(PS)および膨張%は、Dlugoleckiら、J.of Membrane Science、319(2008)、217~218ページに記載された方法によって、本発明の複合イオン交換膜に転換される前に、測定されてよい。
【0022】
典型的に、膜層(a)は、例えば、小分子によって含浸可能な膨張状態において、実質的に非多孔性である。膜は、好ましくは、その全てが標準の走査電子顕微鏡(SEM)の検出限界より小さい孔を有する。したがって、日本電子株式会社JSM-6335F電界放出形SEM(加速電圧2kV、作動距離4mm、絞り4、厚さ1.5nmのPtでコーティングされた試料、拡大率100,000x、3°傾斜ビューを適用する)を使用して、平均孔径は、一般的に2nmより小さい、特に1nmより小さい。
【0023】
好ましくは、膜層(a)は、多孔性支持体を含む(すなわち、膜層中に含まれる前は多孔性である)。膜層(a)中に含まれてよい多孔性支持体の例として、織および不織の合成繊維ならびに押出フィルムが言及されてよい。例としては、湿式および乾式不織材料、スパンボンドおよびメルトブロー繊維、ならびに、例えば、ガラス繊維、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリアミド、およびそれらのコポリマーから作られたナノファイバー織物が挙げられる。多孔性支持体は、多孔性膜、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、ポリアクリレート、セルロースアセテート、ポリプロピレン、ポリ(4-メチル-1-ペンテン)、ポリビニリデンフルオリド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、およびポリクロロトリフルオロエチレンの膜であってもまたよい。
【0024】
好ましくは、多孔性支持体は、膜層中に含まれる前の多孔度30および95%を有する。支持体の多孔度は、例えば、ドイツのIB-FT GmbHからのPorolux(商標)1000の気孔計によって特定されてよい。
【0025】
存在する場合、多孔性支持体は、例えば、45mN/m超、好ましくは55mN/m超の値に表面エネルギーを変更するために、処理されてよい。適切な処理としては、例えば、多孔性支持体の湿潤性および粘着性を改良する目的のために、コロナ放電処理、プラズマグロー放電処理、火炎処理、紫外線照射処理、化学処理等が挙げられる。
【0026】
市販の多孔性支持体は、複数の供給源、例えば、Freudenberg Filtration Technologies(Novatexx materials)、Lydall Performance Materials、Celgard LLC、APorous Inc.、SWM(Conwed Plastics,DelStar Technologies)、帝人株式会社、廣瀬製紙株式会社、三菱製紙株式会社、およびSefar AGから入手可能である。
【0027】
一実施形態において、支持体は、1つまたは複数の芳香族モノマー、例えば、芳香族ポリアミド(アラミド)、(スルホン化)ポリフェニレンスルホン、ポリ(フェニレンスルフィドスルホン)、ポリフェニレンスルフィド、およびそれらの2つ以上を含む組合せに由来する。
【0028】
スルホ基を含む層(b)は、好ましくは、コーティング層である。層(b)は、反発層を提供するために含まれてよく、すなわち、表面汚染を避けるまたは複合イオン交換膜が使用において汚れる程度を低減する機能をもたらす。したがって、層(b)は、例えば、硬化により、例えば、膜層(a)の表面に結合したアニオンに荷電した層(b)を提供することによって、アニオン交換膜の膜層(a)(未処理膜)の表面上の正の電荷を逆転させるのに、特に有用である。
【0029】
本明細書において簡潔にするために、スルホ基を含む層(b)は、層(b)ともまた呼ばれる。
層(b)は好ましくは、膜層(a)上で、重合可能な基およびアニオン基を含むモノマーを含む、硬化性組成物を重合することによって得られる。代替方法として、層(b)は、膜層(a)に共有結合する必要はなく、代わりに、Vaselbehaghらによって、Desalination332(2014)126~133ページに記載された一般的な方法によって調製された層(b)としてのポリマー層を使用してよい。
【0030】
定義されたゼータ電位を持つ層(b)を有する複合イオン交換膜を提供する、さらなる選択肢は、膜層(a)の表面が、例えば、負に荷電した化合物を膜層(a)の表面と反応させることによって、負の電荷を得るように、膜層(a)をプラズマ、好ましくは大気プラズマで処理することである。
【0031】
必要に応じて、膜層(a)の表面は、コロナ放電処理、プラズマグロー放電処理、例えばプラズマ励起化学蒸着、マイクロ波プラズマ処理、火炎処理、紫外線照射処理、化学処理、例えば、ナトリウム、ホルムアルデヒド、Ce(IV)イオン、またはオゾンによる処理、ガンマ線またはイオンビーム照射処理によって、より反応性を高くすることができる。
【0032】
層(b)の厚さは、好ましくは10nm未満、特に5nm未満である。層(b)は、膜層(a)上に連続層を形成する必要はない。しかし、層(a)が、複合イオン交換膜の表面に実質的に均一な表面ゼータ電位を提供することが好ましい。層(b)の表面ゼータ電位は、好ましくは、複合イオン交換膜が一価イオン対多価イオンの選択性比3未満(例えば、1から3未満)を有する程の表面ゼータ電位である。選択性比は、下に記載された方法によって測定されてよい。選択性P硝酸イオン/硫酸イオンは、好ましくは、10×10cm2膜面積の10個のセル対のEDスタックにおいて測定され、線流速4.6cm/秒で供給物として5.65mmol/L塩化ナトリウム、1.04mmol/L硫酸ナトリウム、および1.61mmol/L硝酸ナトリウムの水溶液を使用し、定電流0.11AをEDスタック全体に連続的に加える。
【0033】
層(b)は、イオンによることを含むいずれかの適切な手段によって、より好ましくは共有結合によって、膜層(a)の向かい合う表面に結合されてよい。例えば、層(b)を形成するために使用される成分は、例えば、層(b)を形成することと、層(b)を膜層(a)に結合することの、両方を行う重合方法を用いて、膜層(a)と反応させて、膜層(a)と層(b)の間に共有結合を形成してよい。好ましい実施形態において、層(b)を形成するために使用される成分の1つまたは複数は、重合可能な基、例えば、エチレン性不飽和基を含有し、この基は、膜層(a)が調製された後に残った、膜層(a)の表面上に存在する基と反応する。一実施形態において、膜層(a)の表面に層(b)を塗布した後で硬化させることによって、層(b)は、膜層(a)の表面からグラフト重合される。したがって、オリゴマー鎖が溶液中で形成し、その後、膜層(a)の表面と反応するのではなく、好ましくは、グラフト重合は膜層(a)の表面から出発し、グラフト重合反応の間、グラフト鎖が膜層(a)の表面から成長する。適切なグラフト重合方法は、M.Stamm(編)によってPolymer Surfaces and Interfaces、「Grafting on Solid Surfaces:“Grafting to”and“Grafting from”Methods」と題する論文、215~216ページに概略が記載されている。
【0034】
好ましくは、層(b)は、以下の式を満足させる分子量(MW)を有する、重合可能な基およびアニオン基を含むモノマーを含む、硬化性組成物の重合から得られる。
MW<(300+300n)
式中、
MWは、モノマーの分子量であり、
nは、1、2、3、または4の値を有し、モノマー中に存在するイオン性基の数である。
【0035】
上の式において、MWは、より好ましくは<(250+250n)、さらに好ましくは<(200+200n)、特に<(150+200n)であり、MWおよびnは、上文に定義された通りである。
【0036】
重合可能な基およびアニオン基を含むモノマーは、好ましくは、1つまたは複数のエチレン性不飽和基を含む。硬化性組成物のpHに応じて、イオン性基は、部分的にまたは全体的に対イオンを有する塩の形態であり得る。
【0037】
重合可能な基およびアニオン基を含むモノマー中に存在し得る、好ましいエチレン性不飽和基は、(メタ)アクリル、アリル、またはスチレン基である。(メタ)アクリル基は、好ましくは、(メタ)アクリレートまたは(メタ)アクリルアミド基、より好ましくは、アクリル基、例えば、アクリレートまたはアクリルアミド基である。
【0038】
モノマーのMWを計算する場合、対イオンの分子量は、モノマーが全体的にまたは部分的に対イオンを有する塩の形態である場合でさえも、水素に等しいと考えられる。
重合可能な基およびアニオン基を含むモノマーの例としては、アクリル酸、ベータカルボキシエチルアクリレート、マレイン酸、無水マレイン酸、ビニルスルホン酸、ホスホノメチル化アクリルアミド、(2-カルボキシエチル)アクリルアミド、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、およびそれらの2つ以上を含む混合物が挙げられる。
【0039】
場合によって、層(b)は、スルホ基に加えて1つまたは複数のアニオン基を含む。
好ましくは、層(b)は、硫黄/炭素原子比0.010から0.050、より好ましくは0.012から0.040、特に0.015から0.035を有する。硫黄/炭素原子比は、下に記載された方法によって測定されてよい。
【0040】
好ましくは、層(b)は、下に明示された方法にしたがって測定された場合、硫黄/窒素原子比0.30から0.50を有する。
好ましくは、層(b)は、硫黄/酸素原子比0.07から0.13、より好ましくは0.08から0.12を有する。硫黄/酸素原子比は、下に記載された方法によって測定されてよい。
【0041】
層(b)の硫黄/炭素、硫黄/窒素、および硫黄/酸素の原子比は、X線光電子分光法(「XPS」)によって、好ましくは、放出電流25mAおよび加速電圧12kVのAlフィラメントの電源設定で、Kratos AnalyticalからのAmicus機器を使用することによって、特定されてよい。
【0042】
好ましくは、層(b)は、4から35wt%、より好ましくは5から35wt%、例えば、10または20wt%の重合可能な基およびスルホ基を含むモノマーを含む、硬化性組成物を重合することによって得られる。硬化性組成物の残りの成分は、好ましくは、溶媒、ラジカル開始剤、中性モノマー、非イオン性架橋剤、およびさらなる添加剤から選択される。
【0043】
硬化性組成物は、重合可能な基およびスルホ基を含む、1つまたは複数のモノマーを含んでよい(好ましくは、1つのモノマーまたは2から5つのモノマー、それぞれが重合可能な基およびスルホ基を含む)。
【0044】
硬化性組成物は、スルホ基を有さないモノマー、すなわち、スルホ以外のイオン性基を有するイオン性モノマーおよび中性モノマーを、さらに含んでよい。かかるさらなるモノマーは、エチレン性不飽和基などの重合可能な基の1つまたは複数、好ましくは、ただ1つを含んでよい。中性モノマーは、硬化性組成物の塗布および硬化の後、表面に残っている電荷の量を希釈するのに有効であり得る。好ましくは、中性モノマーは、硬化性組成物の総重量に対して、0から30wt%、より好ましくは0から20wt%の量で存在する。中性モノマーの1つが、複数の重合可能な基を含む場合、すなわち、非イオン性架橋剤である場合、好ましくは、少量で存在する。
【0045】
存在する場合、(1種または複数の)非イオン性架橋剤は、好ましくは、それぞれ独立して、2から6つのエチレン性不飽和基、より好ましくは2または3つ、特に2つのエチレン性不飽和基を有する。
【0046】
2から6つのアクリルアミド基を有する非イオン性架橋剤の例としては、N,N’-メチレンビス(メタ)アクリルアミド、N,N’-エチレンビス(メタ)アクリルアミド、N,N’-プロピレンビス(メタ)アクリルアミド、N,N’-ブチレンビス(メタ)アクリルアミド、N,N’-(1,2-ジヒドロキシエチレン)ビス-(メタ)アクリルアミド、1,4-ジアクリロイルピペラジン、1,4-ビス(アクリロイル)ホモピペラジン、トリアクリロイル-トリス(2-アミノエチル)アミン、トリアクロイルジエチレントリアミン、テトラアクリロイルトリエチレンテトラミン、1,3,5-トリアクリロイルヘキサヒドロ-1,3,5-トリアジン、および/または1,3,5-トリメタクリロイルヘキサヒドロ-1,3,5-トリアジンが挙げられる。用語「(メタ)」は、「メタ」が任意であることを意味する省略であり、例えば、N,N’-メチレンビス(メタ)アクリルアミドは、N,N’-メチレンビスアクリルアミドおよびN,N’-メチレンビスメタクリルアミドのための省略である。
【0047】
好ましくは、硬化性組成物は、0から3wt%、より好ましくは0から1wt%、特に0から0.1wt%の非イオン性架橋剤を含む。非イオン性架橋剤が硬化性組成物中に存在する場合、非イオン性架橋剤対少なくとも1つの重合可能な基およびアニオン基を有するモノマーのモル比は、好ましくは、0.04未満である。比は、0であってもまたよい。ゼロの比は、硬化性組成物が非イオン性架橋剤を含まないことを意味する。
【0048】
層(b)を形成するために使用される硬化性組成物は、場合によって、不活性溶媒をさらに含む。任意の不活性溶媒は、工程の間、モノマーと共重合しない、いずれかの溶媒であってよい。不活性溶媒を含めることは、硬化性組成物の粘度および/または表面張力を削減するのに有用であり、いくつかの点で製造工程をより容易にすることができる。
【0049】
一実施形態において、不活性溶媒は、不活性溶媒の総量に対して、少なくとも50wt%の水、より好ましくは少なくとも70wt%の水を含む。したがって、不活性溶媒は、好ましくは、30wt%未満の不活性有機溶媒を含み、残りの不活性溶媒はいずれも水である。一実施形態において、硬化性組成物は、不活性有機溶媒が含まれず、(揮発性)不活性有機溶媒の完全な不在に起因して、環境保全上の利点をもたらす。
【0050】
好ましくは、層(b)は、40から92wt%、より好ましくは60から90wt%の不活性溶媒を含む、硬化性組成物から得られる。
膜層(a)への層(b)の結合は、好ましくは、熱によって(例えば、硬化性組成物に赤外線を照射することによってまたは加熱することによって)、より好ましくは、前述の硬化性組成物に紫外線または電子ビームを照射することによって、達成される。膜層(a)は、硬化性組成物が膜層(a)と接触している間、硬化性組成物に照射することおよび/または硬化性組成物を加熱することを含む方法によって、層(b)を作るために使用される硬化性組成物と反応させてよい。
【0051】
熱反応のために、層(b)を作るために使用される硬化性組成物は、好ましくは、1種または複数の熱反応性フリーラジカル開始剤を含む。熱反応性フリーラジカル開始剤の例としては、有機過酸化物、例えば、エチルペルオキシドおよび/またはベンジルペルオキシド;ヒドロペルオキシド、例えば、メチルヒドロペルオキシド、アシロイン、例えば、ベンゾイン;ある種のアゾ化合物、例えば、α,α’-アゾビスイソブチロニトリルおよび/またはγ,γ’-アゾビス(γ-シアノ吉草酸);過硫酸塩;ペルアセテート、例えば、メチルペルアセテートおよび/またはtert-ブチルペルアセテート;ペルオキサレート、例えば、ジメチルペルオキサレートおよび/またはジ(tert-ブチル)ペルオキサレート;二硫化物、例えば、ジメチルチウラムジスルフィド、ならびにケトンペルオキシド、例えば、メチルエチルケトンペルオキシドが挙げられる。約30℃から約150℃の範囲の温度が、赤外線硬化のために一般的に使用される。より頻繁に使用されるのは、約40℃から約110℃の範囲の温度である。
【0052】
好ましくは、層(b)は、1種または複数のフリーラジカル開始剤を含む硬化性組成物から得られる。好ましくは、層(b)を作るために使用される硬化性組成物は、0または0.01から10wt%、より好ましくは0.05から5wt%、特に0.1から2wt%のフリーラジカル開始剤を含む。好ましいフリーラジカル開始剤は、光開始剤である。
【0053】
アクリルアミド、ジアクリルアミド、およびより高次のアクリルアミドのために、I型光開始剤が好ましい。I型光開始剤の例は、WO2007/018425、14ページ23行目から15ページ26行目までに記載されている通りであり、参照によって本明細書に組み込まれる。特に好ましい光開始剤としては、アルファ-ヒドロキシアルキルフェノン、例えば、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オンおよび2-ヒドロキシ-2-メチル-1-(4-tert-ブチル-)フェニルプロパン-1-オン、アシルホスフィンオキシド、例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルホスフィンオキシドおよびビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキシド、ならびにフェニルホスフィネート、例えば、エチル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィネートおよびリチウムフェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィネートが挙げられる。
【0054】
フリーラジカル開始剤が、層(b)を作るために使用される硬化性組成物中に存在する場合、好ましくは、重合防止剤もまた(例えば、2wt%未満の量で)含まれる。これは、例えば貯蔵の間、硬化性組成物の早期硬化を防ぐのに有用である。適切な防止剤としては、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、4-t-ブチル-カテコール、フェノチアジン、4-オキソ-2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジノールオキシ、フリーラジカル、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジノールオキシ、フリーラジカル、2,6-ジニトロ-sec-ブチルフェノール、トリス(N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミン)アルミニウム塩、Omnistab(商標)IN510、およびそれらの2種以上を含む混合物が挙げられる。
【0055】
一実施形態において、層(b)を作るために使用される硬化性組成物に、フリーラジカル開始剤が含まれない。硬化性組成物にフリーラジカル開始剤が含まれない場合、硬化性組成物は、硬化性組成物に電子ビーム放射線を照射することを含む方法によって、膜層(a)と反応させてよい。
【0056】
所望の場合、界面活性剤または界面活性剤の組合せが、例えば、湿潤剤としてまたは表面張力を調整するために、層(b)を作るために使用される硬化性組成物中に含まれてよい。放射線硬化性界面活性剤を含む、市販の界面活性剤が、使用されてよい。硬化性組成物中の使用に適切な界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、およびそれらの組合せが挙げられる。好ましい界面活性剤は、WO2007/018425、20ページ15行目から22ページ6行目までに記載されている通りであり、参照によって本明細書に組み込まれる。フッ素系界面活性剤は特に好ましく、特に、Zonyl(登録商標)FSNおよびCapstone(登録商標)フッ素系界面活性剤(E.I.Du Pontによって生産)が好ましい。また好ましいのは、ポリシロキサンをベースにした界面活性剤、特に、Air ProductsからのSurfynol、DowCorningからのXiameter界面活性剤、EvonikからのTegoPrenおよびTegoGlide界面活性剤、SiltechからのSiltechおよびSilsurf界面活性剤、ならびに住友化学株式会社からのMaxx organosilicone界面活性剤である。
【0057】
典型的に、膜層(a)は、向かい合う表面として表側面および裏側面を含み、表側面および裏側面のうちの一方のみを、層(b)を作るために使用される硬化性組成物と反応させる、または表側面および裏側面の両方を、層(b)を作るために使用される硬化性組成物と反応させる。表側面および裏側面の両方が、層(b)を作るために使用される硬化性組成物と反応させられる場合、それぞれの側に使用される硬化性組成物は、互いに同じであっても、異なっていてもよい。したがって、層(b)を作るために使用される硬化性組成物は、膜層(a)の1つまたは両方の側に塗布されて、対称または非対称の複合イオン交換膜を達成する。好ましい実施形態において、反応は、膜層(a)上に存在する、層(b)を作るために使用される硬化性組成物に、電子ビームまたは紫外線照射を照射することを含む。
【0058】
膜層(a)および/または複合膜は、例えば、湿潤性および粘着性を改良する目的のために、コロナ放電処理、プラズマグロー放電処理、火炎処理、紫外線照射処理、化学処理等を受けてよい。
【0059】
好ましい実施形態において、層(b)を作るために使用される硬化性組成物は、
i)スルホ基を有する(1つまたは複数の)エチレン性不飽和のモノマー、4から35部、
ii)(1つまたは複数の)中性モノマー、0から30部、
iii)(1種または複数の)不活性溶媒、40から92部、および
iv)(1種または複数の)光開始剤、0から10部
を含む。
【0060】
i)、ii)、iii)、およびiv)の部は、重量によるものであり、好ましくは、i)+ii)+iii)+iv)の部数は、合計すると100になる。
本発明の第二の態様によれば、
(i)少なくとも1つの重合可能な基およびスルホ基を含むモノマー、ならびに
(ii)場合によって、中性モノマー
を含む硬化性組成物と、膜層(a)(好ましくは、表面に反応性基を有する)を反応させるステップを含む、複合イオン交換膜を調製する方法が提供される。
【0061】
好ましくは、層(b)を作るために使用される硬化性組成物は、定義された通りであり、本発明の第一の態様に関して上に記載されている通りで好ましい。
好ましくは、層(b)は、膜層(a)に共有結合され、好ましくは、層(b)を作るために使用される化合物の1種または複数は、膜層(a)の表面上に存在する基と反応性である。こうして、(a)と(b)の層の間に非常に強い結合を形成し得る。
【0062】
本発明の方法は、所望の場合、さらなるステップ、例えば、結果として得られた複合イオン交換膜を洗浄するステップおよび/または乾燥するステップを含有してよい。
複合イオン交換膜が洗浄される場合、洗浄後、複合イオン交換膜上に存在する、層(b)を作るために使用される硬化性組成物に由来するイオン性基の量は、層(b)を作るために使用される硬化性組成物が塗布された膜層(a)(すなわち、未処理膜)の特性によって、特に、層(b)を作るために使用される硬化性組成物と反応させることが可能な未処理膜中に存在する残りの反応性(すなわち、エチレン性不飽和)基の量によって、ある程度、決定される。また、膜層(a)の膨張の程度は、層(b)を作るために使用される硬化性組成物に由来するイオン性基の残りの量に影響を与え得る。層(b)を作るために使用される硬化性組成物が塗布される膜層(a)上に存在する残りの反応性基の量および膨張の程度は、硬化性組成物の選択および膜層(a)(すなわち、未処理膜)の調製のために使用される硬化条件によって制御できる。例えば、架橋剤の相対量を削減することによってまたは膜層(a)(すなわち、未処理膜)を作るために使用される硬化ステップにおける放射線量を削減することによって、膨張の程度は上昇し、膜層(a)中への層(b)を作るために使用される硬化性組成物のより高い浸透という結果をもたらし得る。放射線量が減少する場合、硬化後に残る反応性基の相対数の上昇が起こり得る。膜層(a)に適用されるこれらの変更は、洗浄後に存在する層(b)を作るために使用される硬化性組成物に由来するイオン性基の量に影響を与え、結果として得られた複合イオン交換膜の特性を微調整するのに使用されてよい。さらに、層(b)を作るために使用される硬化性組成物および膜層(a)(すなわち、未処理膜)に塗布される量を、調整して、所望の特性を有する複合イオン交換膜を調製してよい。
【0063】
好ましくは、方法は、さらに、複合イオン交換膜から、層(b)を作るために使用される未反応の硬化性組成物を洗浄するステップを含む。当発明者らの実験は、硬化性組成物の大部分が膜層(a)と反応せず、かかる洗浄ステップにおいて除去されることを示した。この手順は、厳密な計量が要求されないので層(b)を膜層(a)に結合させるために使用される工程をはるかに容易にし、複合イオン交換膜を調製するのに極めて多様なコーティング技術を許容する。この知見にしたがって、当発明者らは、層(b)を作るために使用される硬化性組成物が、濃縮しすぎない、すなわち、高い割合の溶媒を含有する場合、特に良好な結果が達成できることを見出した。
【0064】
静止した未処理膜を使用してバッチ方式で本発明の複合イオン交換膜を調製することが可能である一方で、移動する未処理膜を使用して連続方式で複合イオン交換膜を調製することの方が、はるかに好ましい。未処理膜は、連続的にほどけるロールの形状であってよく、または未処理膜は、連続的に駆動するベルト上に置かれてよい(または、これらの方法の組合せが使用されてよい)。かかる技術を使用して、層(b)を作るために使用される硬化性組成物は、連続方式で未処理膜に塗布でき、または大きなバッチ方式で塗布できる。
【0065】
層(b)を作るために使用される硬化性組成物は、いずれかの適切な方法によって、例えば、カーテンコーティング、ブレードコーティング、エアーナイフコーティング、ナイフオーバーロールコーティング、スライドコーティング、ニップロールコーティング、フォワードロールコーティング、リバースロールコーティング、マイクロロールコーティング、ディップコーティング、フーラードコーティング、キスコーティング、ロッドバーコーティング、またはスプレーコーティングによって、未処理膜(すなわち、膜層(a))に塗布されてよい。
【0066】
層(b)を作るために使用される硬化性組成物は、典型的に、膜層(a)上に連続フィルム層を形成するが、これは、上述の通り必須ではない。複数層のコーティングは、同時にまたは逐次的に行うことができる。複数層をコーティングする場合、層(b)を作るために使用される硬化性組成物は、同じまたは異なってよい。
【0067】
したがって、塗布ステップは、各塗布の間に実施される硬化の有無にかかわらず、複数回、実施されてよい。異なる側に塗布される場合、結果として得られた複合イオン交換膜は、対称または非対称であってよい。
【0068】
したがって、好ましい方法において、層(b)を作るために使用される硬化性組成物は、好ましくは、1つまたは複数の硬化性組成物塗布ステーション、硬化性組成物を硬化するための1つまたは複数の照射源、複合イオン交換膜収集ステーション、および(1つまたは複数の)硬化性組成物塗布ステーションから(1つまたは複数の)照射源および膜収集ステーションへ(塗布された層(b)を有する)未処理膜を移動させるための手段を含む、製造ユニットを用いて、移動する未処理膜に連続的に塗布される。
【0069】
(1つまたは複数の)硬化性組成物塗布ステーションは、(1つまたは複数の)照射源に対して上流の位置に置かれてよく、(1つまたは複数の)照射源は、膜収集ステーションに対して上流の位置に置かれる。
【0070】
高速コーティング機による塗布にとって十分な流動性を有する硬化性組成物を生成するために、層(b)を作るために使用される硬化性組成物は、35℃で測定される場合、5000mPa.s未満、より好ましくは、35℃で測定される場合、1から1500mPa.sの粘度を有することが好ましい。最も好ましくは、層(b)を作るために使用される硬化性組成物の粘度は、35℃で測定される場合、2から500mPa.sである。適切なコーティング技術によって、層(b)を作るために使用される硬化性組成物は、1m/分超、例えば5m/分、好ましくは10m/分超、より好ましくは15m/分超の速度で移動する未処理膜に塗布されてよい。
【0071】
未処理膜と層(b)を作るために使用される硬化性組成物との反応は、好ましくは、ラジカル重合によって、好ましくは電磁放射線を使用して、実施される。放射線源は、硬化性組成物を硬化するのに必要な放射線の波長および強度を提供するいずれかの供給源であってよい。硬化のためのUV線源の典型的な例は、Fusion UV Systemsによって供給される600ワット/インチ(240W/cm)の出力を有するDバルブである。代わりとなるものは、同じ供給元からのVバルブおよびHバルブである。
【0072】
光開始剤が、層(b)を作るために使用される硬化性組成物中に含まれない場合、硬化性組成物は、電子ビーム露光によって、例えば、50から300keVの露光を使用して、硬化できる。反応は、プラズマまたはコロナ露光によってもまた達成できる。
【0073】
反応の間に、(1つまたは複数の)モノマーは、典型的に、重合して、膜層(a)上にアニオンに荷電した材料の非常に薄い層を形成する。一般的に、目に見えてはっきりした層は形成されないが、膜層(a)の表面は、層(b)を作るために使用される硬化性組成物との反応によって、改質される(例えば、「表面改質される」)。反応(または硬化)は、いずれかの適切な手段によって、例えば、照射および/または加熱によって、引き起こされてよい。好ましくは、反応は、十分急速に起こって、30秒以内に複合イオン交換膜を形成する。所望の場合、さらなる硬化を、その後に適用して、終了してよいが、一般的に、これは必要ない。
【0074】
好ましくは、層(b)を作るために使用される硬化性組成物の硬化は、硬化性組成物が膜層(a)に塗布された後、3分以内、より好ましくは60秒以内に始まる。
好ましくは、硬化は、層(b)を作るために使用される硬化性組成物に、30秒未満、より好ましくは10秒未満、特に3秒未満、さらには2秒未満、照射することによって達成される。連続方法において、照射は連続的に起こり、硬化性組成物が照射のビームを通って移動する速度は、主に、硬化の時間を決定するものである。露光時間は、集中ビームによる照射時間によって決定され、迷「光」は、一般的に、弱すぎて有意な効果をもたらさない。
【0075】
好ましくは、硬化は、紫外線を使用する。適切な波長は、層(b)を作るために使用される硬化性組成物中に含まれる、いずれかの光開始剤の吸収波長に一致するという条件で、例えば、UV-A(390から320nm)、UV-B(320から280nm)、UV-C(280から200nm)、およびUV-V(445から395nm)である。
【0076】
適切な紫外線源は、水銀アークランプ、炭素アークランプ、低圧水銀ランプ、中圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、渦流プラズマアークランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、タングステンランプ、ハロゲンランプ、レーザー光、および紫外線発光ダイオードである。特に好ましいのは、中圧または高圧の水銀蒸気型の紫外線発光ランプである。ほとんどの場合、200から450nmの間の発光極大を有するランプが、特に適切である。
【0077】
照射源のエネルギー出力は、好ましくは、20から1000W/cm、好ましくは40から500W/cmであるが、所望の露光線量が実現できる限り、より高くてもまたはより低くてもよい。露光強度は、膜の最終構造に影響する硬化の程度を制御するのに使用できるパラメータの1つである。好ましくは、露光線量は、高エネルギーUV放射計(EIT,IncからのUV PowerMap(商標))を使用して、この装置によって示されたUV-AおよびUV-B領域において測定された、少なくとも40mJ/cm2、より好ましくは40から1500mJ/cm2の間、最も好ましくは70から900mJ/cm2の間である。
【0078】
高いコーティング速度で所望の露光線量に到達するために、硬化性組成物が複数回照射されるように、複数個のUVランプが使用されてよい。
光開始剤は、上述の通り、硬化性組成物中に含まれてよく、硬化がUVまたは可視光線放射を使用する場合、通常必要とされる。
【0079】
本発明の第三の態様によれば、水性液体の処理のために、特に脱塩のために、本発明の第一の態様による複合イオン交換膜の使用が提供される。
本発明の膜は、水性液体の処理(例えば、連続電気脱イオン(CEDI)および電気透析反転(EDR)を含む、電気脱イオンまたは電気透析による脱塩、例えばフロースルーキャパシタ(FTC)において使用される、容量性脱イオン、例えばフッ化物除去または酸の回収のための、ドナンまたは拡散透析(DD))、例えば水性脱塩または選択的イオン除去のための、容量性電気透析(CED)における使用を第一に意図されるが、本発明の膜はまた、イオン性基を有する膜を必要とするその他の目的のためにも、例えば、有機溶媒の脱水のための浸透気化、燃料電池、水のまたはクロールアルカリ製造のための電気分解(EL)、ならびに、例えば逆電気透析(RED)またはレドックスフロー電池による、エネルギーの発生および/または貯蔵のためにも使用されてよい。
【0080】
本発明の第四の態様によれば、本発明の第一の態様による1つまたは複数の膜を含む、電気透析または逆電気透析ユニット、電気脱イオンモジュール、フロースルーキャパシタ、拡散透析装置、膜蒸留モジュール、レドックスフロー電池、微生物脱塩セル、または膜電極アセンブリが提供される。電気脱イオンモジュールは、好ましくは、連続電気脱イオンモジュールである。
【0081】
好ましくは、電気透析もしくは逆電気透析ユニットまたは電気脱イオンモジュールまたはフロースルーキャパシタは、少なくとも1つのアノード、少なくとも1つのカソード、および2つ以上の本発明の第一の態様による膜を含む。
【0082】
好ましい実施形態において、ユニットは、少なくとも1、より好ましくは、少なくとも5、例えば、36、64、200、600、または1500以下の本発明の第一の態様による膜のペアを含み、膜の数は、適用例に依存する。膜は、例えば、平板と枠もしくは積み重ねた円盤の形状で、またはらせん状にねじれた設計で使用されてよい。
【0083】
複合膜の表面ゼータ電位は、実施例において例証された通り、界面動電分析装置、例えば、Anton Paar SurPASS Electrokinetic Analyzerを使用して測定されてよい。測定は、層(b)が膜層(a)に結合されるとき、層(b)上で実施されてよい。このデバイスは、それゆえに、複合膜の表面のアニオン基の存在および量を特定するのに適切である。表面ゼータ電位(mV)は、複合膜の表面に存在するイオン性基の量に相関する。複合イオン交換膜は、好ましくは、-1mVから-6mVの表面ゼータ電位を有する。
【0084】
好ましくは、複合イオン交換膜の表面ゼータ電位は、複合イオン交換膜がpH4を有する蒸留水中の塩化カリウム溶液の25mM溶液中で16時間貯蔵された後で測定された通りである。pH4は、塩化カリウム溶液中に塩酸を含むことによって達成されてよい。ゼータ電位は、電解液として、milli-Q超純水中のpH4の25mMのKCl溶液を使用し、Anton Paar SurPASS Electrokinetic Analyzerを使用して室温(23℃)で、好ましくは測定される。
【0085】
本発明は、一価イオンおよび多価イオンの両方に対する良好な選択透過率を有する複合イオン交換膜を提供する。多くの適用例において、イオン交換膜が高い一価イオン選択性、すなわち、多価イオンより一価イオンに対するはるかに高い選択性を有することは望ましくない。一価イオン選択性は、硫酸イオンに対する硝酸イオンの複合膜の輸率(
【0086】
【0087】
)の観点から表現されてよい。好ましくは、本発明の複合イオン交換膜は、3.0未満、より好ましくは2.8未満、特に2.0未満の
【0088】
【0089】
を有する。本発明の複合イオン交換膜の一価イオン選択性は、下の実施例に記載された方法によって特定されてよい。
先行技術のイオン交換膜は、電気透析デバイスの高いスタック抵抗の一因となる、大きな電気抵抗を有することが多い。好ましくは、本発明の複合イオン交換膜は、面積10×10cm2の本発明による複合イオン交換膜の10個のセル対を含有するモデルスタックの電気抵抗が、200オーム未満、より好ましくは150オーム未満、特に100オーム未満であるような膜である。
【実施例】
【0090】
本発明は、別段の定めがない限り全ての部およびパーセンテージが重量による、非限定的実施例によって、ここに例証される。
実施例において、以下の特性が、下に記載された方法によって測定された。
【0091】
表面ゼータ電位の測定
層(b)の表面ゼータ電位測定は、複合イオン交換膜の各試料に対して3回実施され、下に引用された結果は、3回の結果の平均を表す。
【0092】
試験下の複合イオン交換膜の試料は、表面ゼータ電位を測定する前に、少なくとも一晩の間、室温(23℃)でKCl溶液(25mM、pH=4、0.05MのHClを使用して調整)中で貯蔵された。
【0093】
表面ゼータ電位測定は、以下の設定を使用し、ソフトウエアAttract2.0を備えたAnton Paar SurPASS Electrokinetic Analyzerを使用して、室温(23℃)で実施された。
セル: 可変ギャップセル
試料サイズ: 20×10mm
タイプ: 単一測定
自動測定のためのパラメータ設定:
準備: すすぎ
すすぎ目標圧力/mbar: 300
制限時間/秒: 900
ランプ目標圧力/mbar: 400
最大ランプ時間/秒: 20
測定: 流動電流
電解液: KCl溶液(25mM、milli-Q超純水中でpH=4)
試料を、各セルに充填した後、約10分間すすいだ。すすぎ期間の終わりに、ギャップの高さを、100±2μmに調整した。フローチェックを、400mbarで実施し、測定を開始した。
清浄手順を、各測定後に実施した。
層(b)の表面組成物の測定および硫黄/炭素原子比、硫黄/窒素原子比、および硫黄/
【0094】
酸素原子比の計算
複合イオン交換膜中に存在する層(b)の表面元素分析を、Kratos Analytical AMICUS XPS機器(ソフトウエア、Windows用Vision2 Software)を使用して、XPS分析によって実施した。
【0095】
以下の設定を適用した。
アノード: Mg
放出電流: 25mA
加速電圧: 12kV
測定サイクル: 4(調査のために1)
【0096】
【0097】
定量化は、完全な領域(ピークの高さではない)に基づき、結果は95%の信頼性で報告された。分析は、複合イオン交換膜表面の3か所の位置で行われ、4サイクル繰り返されて、結果として、各試料につき12のデータポイントを得た。値を、原子%(原子%(i)=Ni/Ntotx100%、式中、Niは目的の原子の数であり、Ntotは原子の総数である)として表した。炭素、硫黄、窒素、および酸素の結果のみを、下の表4に示し、その他の元素は、少量で存在し、示されない。
【0098】
複合イオン交換膜の表面から未反応の材料を除去するために、分析の前に、複合イオン交換膜の試料を、最初に、60℃で60分間milli-Q超純水で予め調整した。その後、複合イオン交換膜の試料を、milli-Q超純水ですすぎ、30℃で17時間、穏やかに乾燥させた。
【0099】
硫黄、炭素、窒素、および酸素の量を測定した後、硫黄/炭素原子比、硫黄/窒素原子比、および硫黄/酸素原子比を、それぞれの元素のために得られた値(原子比(n/m)=原子パーセント(n)/原子パーセント(m))の割合を計算することによって特定した。
【0100】
着色剤への親和性の判定
複合イオン交換膜の着色剤への親和性を、比色法を使用して判定した。フミン酸を含む液体と長時間接触させた後の複合イオン交換膜の色は、かかる着色剤のための膜の親和性の指標である。色が暗ければ暗いほど、荷電した染料に対する親和性は高い。色の増加が少ないことで、複合イオン交換膜にとって望ましい挙動を示した。
【0101】
着色剤(フミン酸)を、以下の通り、色素試験カップを使用して、複合イオン交換膜の表面層に塗布した。
1.着色剤溶液の調製:負に荷電した着色剤を、milli-Q超純水1L中にフミン酸(Sigma Aldrich)100mgを溶解させることによって調製した。溶液を、300rpmで60分間攪拌した。溶液は、清澄で、溶解されない粒子はなかった。
2.複合イオン交換膜試料の調製:複合イオン交換の試料がカップの底に6個のスクリューおよびOリングで固定される、円形の染色用カップを、設計した。染料に曝露された試料の正味の直径は、63.6mmであった。複合イオン交換膜の片側を、着色剤に曝露した。
3.色素試験:ステップ1において調製された着色剤溶液40mlを、円形の染色用カップに加えた。着色剤溶液を、室温(22±1℃)で1時間、複合イオン交換膜の表面上に保持した。実験の間の蒸発を避けるために、染色用カップを、小さい密閉型キャビネットに収納した。
【0102】
着色剤溶液への曝露の前および後の複合イオン交換膜の(380nmでの)UV吸収を、ソフトウエアCary WinUVで作動するLabsphere Inc.によって作られた積分球のモデルDRACA30-Iを備えたCary 100Conv UV可視分光光度計を使用して測定した。UV吸収測定を、独立した2つ組の試料上の3つの異なる位置で実施し、結果は、6つの結果の平均を表す。ブランク試料として、着色剤溶液に曝露させなかった、未使用の複合イオン交換膜試料を使用した。
【0103】
染色用カップから複合イオン交換膜の試料を取り外した後、試料を、milli-Q超純水ですすいだ。その後、試料を、40℃で15分間乾燥させた。
吸収の増加は、着色剤溶液で処理しなかった試料の380nmでの値で、着色剤溶液で処理した試料の380nmでの値を割ることによって計算した。
【0104】
電気抵抗(ER)の測定
複合イオン交換膜の電気抵抗(ER)を、P.Dlugoleckiら、J.of Membr.Sci.319(2008)、217~218ページによって記載されている通り、4個の電極配置を有する6つのコンパートメントを使用して測定した。セルは、ポリカーボネートから作られ、各コンパートメントの溶液体積は、2dm3であった。コンパートメントは、有効面積9.6cm2を有する膜によって分離される。研究中の膜は、中心の膜であり、その他の膜は、以下の通り設置された:カソード-CMX-AMX-参照電極-中心の膜-参照電極-CMX-CMX-アノード、このAMXおよびCMXは、それぞれ、日本の株式会社アストムからの標準アニオン交換膜および標準カチオン交換膜である。アノードおよびカソードの電極は、白金被覆チタン電極であった。参照電極は、MetrohmからのAg/AgCl電極に接続された、Sigma Aldrichからの3MのKClで満たされたハーバー・ルギン毛細管電極であった。電極コンパートメントを通って、流速250ml/分でSigma AldrichからのNa2SO4の0.5Mの溶液を、ポンプで送り出した。
【0105】
その他のコンパートメントを通って、流速250ml/分でSigma AldrichからのNaClの2Mの溶液を、ポンプで送り出した。イージーロードIIモデル77200-62歯車ポンプを備えたCole Parmarのマスターフレックスコンソールドライブ(77521-47)が、全てのコンパートメントのために使用された。研究中の膜は、17時間、2MのNaCl溶液中で平衡化された。
【0106】
測定は、25±0.2℃の温度で実施された。MetrohmからのAutolabガルバノスタット電源が、6つのコンパートメントセルに電流を供給するために使用された。Ag/AgCl電極が、様々な電流(0から1Aの間)で研究中の膜上で電位差を測定するために使用された。
【0107】
総抵抗(溶液および膜抵抗)は、印加電流密度対電圧の曲線の傾きによって得られた。
純粋な膜抵抗(ER)を得るために、得られた値を、膜試料のないブランク抵抗測定の値を差し引いて、溶液抵抗のために修正した。
【0108】
選択性の測定
【0109】
【0110】
選択性P硝酸イオン/硫酸イオンを、面積10×10cm2の複合イオン交換膜の10個のセル対を含有するモデルスタックを使用して測定した。試験供給溶液を、純水10リットル中にNaCl(3.3g、5.65mmol/L)、Na2SO4(1.48g、1.04mmol/L)、およびNaNO3(1.37g、1.61mmol/L)を溶解することによって作った。試験供給溶液を、スタックの希釈および濃縮の両方のコンパートメントに供給した。電極溶液を、純水1リットル中にK3[Fe(CN)6](16.5g)およびK4[Fe(CN)6].3H2O(21.1g)を溶解することによって作り、この電極溶液を、電極コンパートメントを通じて循環させた。
【0111】
試験供給溶液を、流速250cm3/分(線流速4.6cm/秒に相当する)で、希釈および濃縮コンパートメントの入口を通じてスタック内へ供給し、希釈および濃縮コンパートメントから出る溶液を、別々に収集した。
【0112】
上述の試料供給溶液が、スタックの希釈および濃縮コンパートメントの両方を通ったので、0.11Aの定電流が、モデルスタック全体に連続的に印加された。希釈および濃縮コンパートメントから出る溶液の試料を、出発後10、15、および20分に、別々に収集した。参照試料(すなわち、未処理の供給溶液)を含む複合イオン交換膜の全ての試料を、イオンクロマトグラフィーによって分析して、存在する、硝酸イオン(NO3
-)、硫酸イオン(SO4
2-)、および塩素イオン(Cl-)の濃度を定量化した。イオンクロマトグラフィー系は、AG1 9ガードカラムおよびAS19分析カラム(Dionex)を備えたICS5000(Dionex)であり、検出は、伝導率によって行われた。溶離液ジェネレーターで調製されたKOHグラジェント溶液を、分離のために使用した。硝酸イオン除去率を、以下の通り、希釈コンパートメントにおける濃度低下および濃縮コンパートメントにおける濃度上昇を計算することによって、未処理の供給溶液との比較に基づいて計算した。
希釈試料について:
[100%-(処理された希釈液中の分析済みNO3
-濃度)/(未処理の供給溶液中のNO3
-濃度)]。
濃縮試料について:
[(処理された濃縮液中の分析済みNO3
-濃度)/(未処理の供給溶液中のNO3
-濃度)-100%]。
【0113】
(希釈および濃縮試料の両方について10、15、および20分での)6つの値の全てを、計算し、平均した]。
硫酸イオン除去率は、測定された硫酸イオン濃縮物のために、硝酸イオン除去率用に使用されたものと類似の方法によって、計算した。
【0114】
選択性
【0115】
【0116】
を、計算[硝酸イオン除去率/硫酸イオン除去率]を実施することによって計算した。同じ方法を使用して、参照膜の選択性を特定した。
以下の成分を使用して、複合イオン交換膜を調製した。
MBAは、 Sigma AldrichからのN,N’-メチレンビスアクリルアミドである。
AMPSは、 Hang-Zhou(中国)からの2-アクリロイルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸である。
LiSSは、 日本の東ソー株式会社からのリチウムp-スチレンスルホネートである。
HEMAは、 Sigma Aldrichからの2-ヒドロキシエチルメタクリレートである。
DMAPAA-Qは、 Kohjinからの3-アクリルアミドプロピル-トリメチルアンモニウムクロリドの75wt%水溶液である。
Darocur(商標)1173は、 BASF Resins,Paint&Coatingsからの光開始剤、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オンである。
MeHQは、 Merckからの重合防止剤、ヒドロキノンモノメチルエーテルである。
IPAは、 Shellからの2-プロパノール(不活性有機溶媒)である。
LiNO3は、 Sigma Aldrichからの硝酸リチウムである。
LiOH.H2Oは、 Chemetallから水酸化リチウム一水和物である。
Viledon(登録商標)Novatexx2223-10は、 Freudenberg Filtration Technologiesからの不織ポリオレフィン多孔性支持体である。
PWは、 純水(不活性溶媒)である。
界面活性剤は、 ChemoursからのCapstone(登録商標)フッ素系界面活性剤である。
AMXは、 表面ゼータ電位-3mVを有する、日本の株式会社アストムからの市販の膜である。
ACSは、 表面ゼータ電位-20mVを有する、日本の株式会社アストムからの市販の一価アニオン選択性膜である。
【0117】
膜層(a)(未処理膜、「UM1」)の調製
全ての量が組成物の総重量に対するwt%である、表1に示された成分を含有する組成物を、およそ5m/分の速度で、150μmのワイヤーが巻かれたバーを使用して手作業でアルミニウム基材担体に塗布し、続いて、Viledon(登録商標)Novatexx2223-10不織支持体に塗布した。過剰組成物を、ワイヤーバー(RK Print Coat Instruments Ltdによる直径0.05mmワイヤーを有する標準Kバー0番)を使用して、そぎ落とし、含浸された支持体を、一方の側に線量0.43J/cm2およびその後にもう一方の側に0.43J/cm2でのUV光線(Dバルブ)による照射によって、硬化させた。
【0118】
【0119】
結果として得られた膜UM1を、室温で密封した袋に貯蔵した。
層(b)を調製するために使用される硬化性組成物の調製
硬化性組成物A、B、C、およびDを、下の表2に示された成分を混合することによって調製した。
【0120】
【0121】
複合イオン交換膜の調製
表2に示された硬化性組成物を、キスコーティングによって未改質膜UM1の試料の片側にそれぞれ独立して塗布し、続いて、ワイヤーバー(RK Print Coat Instruments Ltdによる直径0.31mmワイヤーを有する標準Kバー3番)を使用し、過剰硬化性組成物を除去して、ウエット厚24μmをもたらした。硬化性組成物に、UV(Hバルブ、0.4J/cm2)を使用して照射し、次に、オーブンにおいて10秒間140℃で乾燥させた。
【0122】
次に、結果として得られた複合イオン交換膜を、一晩、25℃で0.5MのNaCl中に浸漬することによって洗浄して、未反応の硬化性組成物を除去し、各評価の前に純水で洗浄した。
【0123】
本発明の結果として得られた複合イオン交換膜(硬化性組成物、Comp.B、Comp.C、およびComp.Dのそれぞれに由来する実施例1、2,および3)およびその特性を、表3および下の4に示した。
【0124】
CEx1は、本請求の範囲外の表面ゼータ電位を有する層(b)を提供する、大量のAMPSを含有するComp.Aに由来する。CEx1は、参照のための比較例として含まれる。
【0125】
CEx2は、層(b)を欠き、参照のための比較例として含まれる。
CEx3は、上に定義されたAMX(参照のために含まれる市販のイオン交換膜)である。
【0126】
CEx4は、上に定義されたASC(参照のために含まれる市販のイオン交換膜)である。
【0127】
【0128】
【国際調査報告】