(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-15
(54)【発明の名称】多孔質ポリマー膜並びに関連したフィルタ及び方法
(51)【国際特許分類】
B01D 69/06 20060101AFI20221208BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
B01D69/06
B01D69/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022520961
(86)(22)【出願日】2020-10-08
(85)【翻訳文提出日】2022-06-03
(86)【国際出願番号】 US2020054818
(87)【国際公開番号】W WO2021072102
(87)【国際公開日】2021-04-15
(32)【優先日】2019-10-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】505307471
【氏名又は名称】インテグリス・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ボンヤディ, シーナ
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA02
4D006MA03
4D006MA25
4D006MA26
4D006MC22
4D006MC23
4D006MC29
4D006MC54
4D006MC62
4D006NA04
4D006NA10
4D006NA16
4D006PA01
4D006PB13
4D006PC01
(57)【要約】
2つの互いに逆側にある面を備え、膜の厚さ全体にわたって変化する細孔構造を有する多孔質ポリマー膜;この種類の多孔質ポリマー膜を備えるフィルタ部品及びフィルタ;膜、フィルタ部品、及びフィルタを作製する方法;並びにポリマーろ過膜、フィルタ部品、又はフィルタを使用する方法が記載される。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一体型押出多孔質ポリマーシート膜であって、
第1の表面、第2の表面、及び第1の表面と第2の表面との間の厚さ、
第1の表面と厚さ方向の膜の部分とを含む第1の厚さ領域、
第2の表面と厚さ方向の膜の部分とを含む第2の厚さ領域、並びに
第1の厚さ領域と第2の厚さ領域との間の厚さ方向に延びる第3の厚さ領域を備え、
第1の厚さ領域の平均細孔径及び第2の厚さ領域の平均細孔径が両方とも、第3の厚さ領域の平均細孔径よりも小さい、膜。
【請求項2】
膜が第1の表面と第2の表面との間に中心線を有し、
第1の厚さ領域が、第1の表面と中心線との間の位置に最小細孔径を有し、
第2の厚さ領域が、第2の表面と中心線との間の位置に最小細孔径を有する、請求項1に記載の膜。
【請求項3】
第1の最小細孔径が1ナノメートル~10ミクロンの範囲であり、
第2の最小細孔径が1ナノメートル~10ミクロンの範囲である、請求項2に記載の膜。
【請求項4】
第1の最小細孔径が、第1の表面から厚さ3分の1の深さにあり、
第2の最小細孔径が、第2の表面から厚さ3分の1の深さにある、請求項2から4のいずれか一項に記載の膜。
【請求項5】
少なくとも5の非対称度を有し、非対称度(D)が、
D=(第3の厚さ領域の平均細孔径)/A
[式中、Aは、第1の領域の平均細孔径;第2の領域の平均細孔径;第1の最小細孔径、又は第2の最小細孔径のうちの1つである。]
として定義される、請求項1から4のいずれか一項に記載の膜。
【請求項6】
膜が、ポリエーテルスルホン及びポリアミドイミドから選択されるポリマーを含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の膜。
【請求項7】
40~300ミクロンの範囲の厚さを有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の膜。
【請求項8】
非溶媒誘起相分離の工程によって調製され、該工程により、第1の厚さ領域、第2の厚さ領域及び第3の厚さ領域が同じ相分離工程を使用して形成される、請求項1から7のいずれか一項に記載の膜。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の膜を備える、フィルタ。
【請求項10】
流体をろ過する方法であって、流体を、一体型押出多孔質ポリマーシート膜に通すことを含み、膜は、
第1の表面、第2の表面、及び第1の表面と第2の表面との間の厚さ、
第1の表面と厚さ方向の膜の部分とを含む第1の厚さ領域、
第2の表面と厚さ方向の膜の部分とを含む第2の厚さ領域、並びに
第1の厚さ領域と第2の厚さ領域との間の厚さ方向に延びる第3の厚さ領域を備え、
第1の厚さ領域の平均細孔径及び第2の厚さ領域の平均細孔径が両方とも、第3の厚さ領域の平均細孔径よりも小さい、方法。
【請求項11】
流体が、半導体フォトリソグラフィ溶媒、洗浄液、又はエッチング液である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
流体が、プロピレングリコールメチルエーテル(PGME)、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(PGMEA)、シクロヘキサノン、n-ブチルアセテートから選択される、請求項10又は請求項11に記載の方法。
【請求項13】
流体が、水酸化アンモニウム、過酸化水素、塩酸、HF、硫酸、過酸化物溶液又はそれらの組み合わせを含む希薄又は濃縮溶液を含む、請求項10から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
一体型押出多孔質ポリマーシート膜を作製する方法であって、
溶媒中にポリマーを含むポリマー含有液体を形成すること、
ポリマー含有液体を押出ダイに通して、ポリマー含有液体の押出フィルムを形成すること、及び
押出フィルムの両面を、フィルムの両面でポリマーの凝固が引き起こされる条件にさらすことを含み、
一体型押出多孔質ポリマーシート膜が、
第1の表面、第2の表面、及び第1の表面と第2の表面との間の厚さ、
第1の表面と厚さ方向の膜の部分とを含む第1の厚さ領域、
第2の表面と厚さ方向の膜の部分とを含む第2の厚さ領域、並びに
第1の厚さ領域と第2の厚さ領域との間の厚さ方向に延びる第3の厚さ領域を備え、
第1の厚さ領域の平均細孔径及び第2の厚さ領域の平均細孔径が両方とも、第3の厚さ領域の平均細孔径よりも小さい、方法。
【請求項15】
熱誘起相分離技術によって、押出フィルムの両面で凝固を引き起こすことをさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
非溶媒誘起相分離技術によって、押出フィルムの両面で凝固を引き起こすことをさらに含む、請求項14又は請求項15に記載の方法。
【請求項17】
押出フィルムの両面を湿気にさらすことによって、押出フィルムの両面で凝固を引き起こすことをさらに含む、請求項14から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
押出フィルムの両面で液体を蒸発させることによって、押出フィルムの両面で凝固を引き起こすことをさらに含む、請求項14から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
第1の表面及び第2の表面を凝固浴と接触させることによって、押出フィルムの両面で凝固を引き起こすことをさらに含む、請求項14から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
押出フィルムがダイ開口部から押出ダイを出て、
ダイ開口部が凝固液に浸漬される、請求項14から19のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
以下の記載は、2つの互いに逆側にある面を備え、膜の厚さ全体にわたって変化する細孔構造を有する多孔質ポリマーろ過膜;さらに、この種類の多孔質ポリマーろ過膜を備えるフィルタ部品及びフィルタ;多孔質ポリマーろ過膜、フィルタ部品、及びフィルタを作製する方法;並びに、多孔質ポリマーろ過膜、フィルタ部品、又はフィルタを使用して、液体化学物質などの流体をろ過し、流体から不要な物質を除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ろ過膜の主な用途は、有用な流体の流れから不要な物質を除去することである。環境大気、飲料水、液体工業溶媒及び処理流体、製造又は加工(例えば、半導体製造)に使用される産業ガス並びに医療又は医薬品用途の液体を含む、産業における多くの気体及び液体流体は、フィルタを使用して処理される。流体から除去される不要な物質には、粒子、微生物、溶解した化学種などの不純物及び夾雑物が含まれる。ろ過膜の不純物除去用途の詳細な例には、医薬品産業における治療液からの粒子又はバクテリアの除去、マイクロエレクトロニクス及び半導体加工で使用するための超純水溶液及び有機溶媒溶液の処理、並びに空気及び水の精製プロセスにおけるろ過膜の使用が含まれる。
【0003】
ろ過機能を実施するために、フィルタ製品は、流体から不要な物質を除去する役割を担うろ過膜を備える。ろ過膜は、必要に応じて、(例えば、らせん状に)巻かれている、又はプリーツをつけられているなどしてもよい平らなシートの形態であり得る。あるいは、ろ過膜は、中空繊維の形態であり得る。ろ過されている流体が入口を通って入り、出口を通過する前にろ過膜を通過するように、入口及び出口を備えるハウジング内にろ過膜を入れることができる。
【0004】
ろ過膜は、フィルタの予想される用途、すなわちフィルタを使用して実施されるろ過の種類に基づいて選択できる平均細孔径を有する多孔質ポリマーフィルムで構築することができる。典型的な細孔径は、ミクロン又はサブミクロンの範囲、例えば、約0.001ミクロン~約10ミクロンである。平均細孔径が約0.001~約0.05ミクロンの膜は、限外ろ過膜として分類されることがある。細孔径が0.05~10ミクロンの膜は、微多孔膜として分類されることがある。
【0005】
商業用のろ過膜は、効率的に製造してフィルタ製品に組み立てることができる種類のものであるべきである。膜は効率的に製造できる必要があり、ろ過膜がフィルタカートリッジ又はフィルタの形態への組み立てに耐えることができる強度及び柔軟性などの機械的性質を有する必要がある。機械的性質に加えて、膜は高性能ろ過に適した化学的機能性及び微細構造を有するべきである。
【0006】
多孔質ろ過膜を形成するためのさまざまな技術が公知である。例示的な技術には、とりわけ、溶融押出(例えば、メルトキャスティング)技術及び浸漬キャスティング(転相)技術が含まれる。多孔質材料を形成するための異なる技術により、膜内に形成される細孔径及び分布の観点において異なる多孔質膜構造が生成され得る。すなわち、異なる技術により、異なる細孔径並びに膜構造(モルフォロジーと呼ばれることがあり、これは膜内の細孔の一様性、形状及び分布を意味する)が生成される。
【0007】
膜のモルフォロジーの例には、均一(等方性)及び非対称(異方性)が含まれる。膜全体に一様に分布した実質的に一様なサイズの細孔を有する膜は、多くの場合、等方性又は「均一」と呼ばれる。異方性(「非対称」としても知られる)膜は、膜全体に細孔径勾配が存在するモルフォロジーを有すると考えることができる。例えば、膜は、一方の膜表面に比較的大きな細孔を有し、他方の膜表面に比較的小さな細孔を有し、細孔構造が膜の厚さに沿って変化する多孔質構造を有し得る。「非対称」という用語は、多くの場合、「異方性」という用語と同じ意味で使用される。多くの場合、(膜の他の領域と比較して)比較的小さな細孔を有する膜の部分は、「タイト」領域と呼ばれる。より大きな細孔を有する膜の部分は、多くの場合「オープン」領域と呼ばれる。
【0008】
半導体材料及びマイクロエレクトロニクスデバイスの作製及び加工産業を含む、フィルタを使用する産業は、捕捉性能の改善など、性能が改善された新しいフィルタ製品を含む、改善されたろ過膜及びフィルタの発見に継続的な関心を有している。新しいフィルタは、効率的でかつ費用対効果の高い、例えば収益性の高い方法で製造できるべきである。
【発明の概要】
【0009】
マイクロエレクトロニクスデバイス加工分野(例えば、マイクロエレクトロニクス及び半導体デバイス製造)では、マイクロエレクトロニクスデバイスの性能(例えば、速度及び信頼性)の対応する着実な改善を維持するために、処理材料及び方法の着実な改善を必要とする。マイクロエレクトロニクスデバイスの製造を改善する機会は、製造中に使用される液体材料をろ過する方法及びシステムを含む、製造プロセスのすべての側面に存在する。
【0010】
商業的ろ過膜製造の2つの重要な側面は、効率的で費用対効果の高い製造、及び、ろ過膜が流体の流れから除去できる粒子の量に関連する、捕捉性能の観点における性能の高さである。
【0011】
捕捉性能を改善するのに効果的な技術は、2つの膜のろ過面を一緒に積み重ねて接触させ、流体に両方の膜を連続して通過させるなど、複数の膜を連続させて使用することである。これは、多層膜を形成するためのろ過膜の「層化」又は「積層」と呼ばれることもある。それぞれが「タイト」領域及び「オープン」領域を有する非対称膜を使用して層化技術を実施する場合、2つの膜を通過する流体は両方の「タイト」領域を通過する必要があり、膜の捕捉性能が向上し得る。
【0012】
層化技術は実施可能で、場合により効果的であるが、2つの層状膜を使用すると、膜の材料コストが2倍になる。したがって、2つの膜、すなわち2層の積層膜の構造を、単一の膜形成工程によって作製される単一の一体型膜で再現すること、すなわち、単一の製造工程を使用して、2つのタイト層を備える単一の一体型膜、例えば「ダブルタイト」膜を製造することは興味深い。膜の2つのタイト層は、好ましくは、別の工程を使用して調製され、次いで組み合わされるものではない。例えば、膜は、2つの別の膜を組み合わせて多層膜にすることによって作製されるものではない。
【0013】
したがって、本明細書は、2つのタイト領域及び少なくとも1つのオープン領域を備えるように単一の形成工程で一体型に形成される膜、該膜を調製する方法、並びに該膜を組み込んだろ過膜及びフィルタ製品として該膜を使用する方法に関する。そのような多孔質膜は、ポリマー溶液を、ポリマー溶液フィルムの形態でダイを通して押出し、続いてフィルムの両面でフィルム中のポリマーを凝固させる条件、特に、凝固したフィルムの両面でタイトモルフォロジーを生成する条件に、フィルムの互いに逆側にある両面をさらすという新規かつ発明的な方法によって調製することができる。
【0014】
記載されるモルフォロジーを有する、記載される膜を調製するために有用な方法の例として、膜は、溶媒に溶解又は懸濁された非凝固又は部分凝固ポリマーを含有する液体ポリマー溶液の押出された液膜を形成し、フィルムにおける2つの互いに逆側にある両表面を、溶解したポリマーの凝固がフィルムの両面で引き起こされる条件(例えば、温度、非溶媒、湿度、蒸発)に、実質的に同じ時間及び同じ方法で、同時にさらすことによって、ポリマーをフィルム内で凝固させることによって形成され得る。一例では、凝固を引き起こす技術は、非溶媒誘起相分離(NIPS)技術によるものである。別の例では、ポリマーの凝固は、熱誘起相分離(TIPS)によって引き起こされてもよい。別の例では、ポリマーの凝固は、押出フィルムを湿気にさらすことによって引き起こされてもよい。別の例では、ポリマーの凝固は、押出フィルムからの溶媒蒸発によって引き起こされてもよい。
【0015】
一態様において、押出多孔質ポリマーシート膜は、第1の表面、第2の表面、及び第1の表面と第2の表面との間の厚さ、第1の表面と厚さ方向の膜の部分とを含む第1の厚さ領域、第2の表面と厚さ方向の膜の部分とを含む第2の厚さ領域、並びに第1の厚さ領域と第2の厚さ領域との間の厚さ方向に延びる第3の厚さ領域を備える。第1の厚さ領域の平均細孔径及び第2の厚さ領域の平均細孔径は両方とも、第3の領域の平均細孔径よりも小さい。
【0016】
別の態様において、互いに逆側にある第1及び第2の表面、互いに逆側にある表面の間における厚さ、並びに非一様な細孔径を有する細孔を有する押出多孔質ポリマーシート膜を作製する方法は、溶媒中にポリマーを含むポリマー含有液体を形成すること;ポリマー含有液体を押出ダイに通して、ポリマー含有液体の押出フィルムを形成すること;及び押出フィルムの両面を、フィルムの両面でポリマーの凝固が引き起こされる条件にさらすことを含む。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2A-B】本明細書における例示的な方法及びシステムを示す図(概略的であり、必ずしも一定の縮尺ではない)である。
【
図3A-B】本明細書における例示的な方法及びシステムを示す図(概略的であり、必ずしも一定の縮尺ではない)である。
【
図4】本明細書における例示的なろ過膜の性能データを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下の記載は、ろ過膜として効果的であり得る押出多孔質ポリマー膜、ろ過膜を備えるフィルタ製品、並びに多孔質膜を調製及び使用する関連した方法に関する。
【0019】
多孔質ポリマー膜は、2つの互いに逆側にある表面(又は互いに逆側にある「面」)、及び2つの互いに逆側にある表面の間における厚さを有する。多孔質膜の細孔は、流体から粒子又は汚染物質を除去しながら、流体が膜の一方の面から、膜の厚さを通って膜の逆側の面へと至り、該逆側の面を通って流れることが可能となるように、膜の厚さ全体に配置されている。したがって、膜は、液体などの流体に対して透過性である。この種類の膜は、「閉気孔」の膜と比較して、「開気孔」の膜と呼ばれることがある。開気孔膜は、比較的一様な厚さ、及び三次元の空隙構造又は細孔である多数の開孔「セル」を画成するポリマーマトリックスを含む開気孔多孔質構造を有する、押出された多孔質ポリマー材料の薄膜又はシートの形態であり得る。開孔セルは、液体流体などの流体が膜の一方の面からもう一方の面へと膜の厚さを通って流れることが可能となるように隣接するセル間で広く相互接続されている、開口部、細孔、チャネル又は通路と呼ばれることがある。
【0020】
記載される多孔質膜は、異なる細孔径の細孔を含み、膜内の細孔径は、膜の厚さに沿って変化する。本明細書で使用される場合、「細孔径」は、膜の2つの異なる深さの間に位置する厚さ領域、又は膜の厚さに対して定義された、膜における特定の深さなどの、膜の領域(又は「部分」)内における細孔径(例えば、平均径)を指す。例えば、膜の領域は、膜の表面と特定の深さとの間における膜の部分、例えば、表面下10ミクロンの深さであり得る。別の例として、膜の領域は、膜の厚さの中央3分の1に位置する膜の部分など、2つの異なる深さの間に位置する部分であり得る。
【0021】
記載される多孔質膜は、細孔径に関して、膜の厚さ全体にわたって非一様(非等方性、不均一)であるモルフォロジーを有する。非一様なモルフォロジーは、膜の厚さに沿った異なる位置に、細孔径が異なる複数の(例えば、少なくとも3つの)領域を有する「可変」モルフォロジーと呼ばれることがある。本明細書における文脈中、「可変細孔構造」を有する膜は、膜の2つの互いに逆側にある表面の間における膜の厚さにわたって異なるサイズの細孔を備える構造である。細孔径は、膜の厚さ(深さに基づく)にわたって段階的に変化する場合もあれば、非段階的に変化する場合もある。(例えば、
図2A、
図2B、
図3A、及び
図3Bを参照のこと。)
【0022】
本明細書における膜は、より詳細には、2つの「タイト」領域と、2つの「タイト」領域の間に位置する少なくとも1つの「オープン」領域とを含む。これらの膜は、本明細書において、「ダブルタイト」膜、又は「ダブルタイト」モルフォロジーを有する膜と呼ばれる。膜の1つの領域は、「タイト領域」と呼ばれ得る領域であり、これは、膜の厚さ全体にわたって相対的により小さな細孔を有する領域を意味する。膜の第2の領域は、膜の厚さ全体にわたって同じく相対的により小さな細孔を有する第2のタイト領域である。膜の内部(又は「中間」)には、2つの互いに逆側にあるタイト領域の間に位置する「オープン領域」がある。「オープン」領域は、2つのタイト領域両方における細孔よりも比較的大きい細孔を備える厚さ部分である。この構成、すなわち、2つのタイト領域及び2つのタイト領域の間における膜の内部のオープン領域を備えるため、記載される膜は、「可変」細孔径を有する「ダブルタイト」多孔質膜と呼ばれることがある。
【0023】
2つのタイト領域と内部のオープン領域とを有する多孔質膜は「一体型」と見なされる。詳細には、膜の全体の厚さ及び互いに逆側にある両表面は、単一の形成工程、例えば、フィルムの押出及びフィルムのポリマーの凝固を含む単一の工程(マルチスロットダイを使用する共押出を含む)によって、構造的に単一で連続した膜として一緒に形成及び構築される。
【0024】
記載される一体型多孔質膜とは対照的に、他の種類の公知の多孔質膜は非一体型であり得る。これらには、それぞれが異なるモルフォロジー又は化学組成を有する2つの別の膜層を、対向する表面に組み合わせ又は配置し、任意で一緒に付着又は接着することによって調製される、多層又は「複合」膜と呼ばれることがある膜が含まれる。そのような複合膜は、1つの形成工程で形成され、第1の(例えば、より大きな細孔径)モルフォロジーを有する第1の多孔質膜層と、第1の多孔質層を形成する工程とは異なる第2の形成工程で形成される第2の多孔質膜層とを組み合わせることによって形成される多層構造を備え得る。複数の工程で作製された複数の別のフィルムから形成されるこの種類の多層又は「複合」膜構造は、「一体型」膜とは見なされない。
【0025】
本明細書によれば一体型であるとは見なされない膜の他の例は、片面又は両表面にコーティングされた多孔質膜、すなわち、膜形成工程中に作製された基膜、及び後続のコーティング工程で基膜の1つ又は複数の表面に塗布された1種又は複数のコーティング(例えば、1種又は複数のポリマーコーティング)を含む膜である。例示的な膜は、全体にわたって比較的一様な(又は非一様な)細孔径を有し、形成された後、片面又は両表面がポリマーでコーティングされた均一な(又は不均一な)基膜であり得る。ポリマーコーティングは、基膜のポリマーと同じであっても異なっていてもよい。ポリマーコーティングにより、1つ又は2つのコーティングされた表面の細孔径が小さくなる場合がある。
【0026】
本明細書における膜は、10~300ミクロンの範囲、例えば、25又は40ミクロン~最大250又は200ミクロンの範囲の厚さなど、任意の有用な厚さを有し得る。
【0027】
膜は、長さ方向及び幅方向の両方に延びる2つの互いに逆側にある比較的平行な表面と、第3の方向に延び、2つの互いに逆側にある表面の間に位置する厚さとを備える。2つの表面の中間における位置は、膜の厚さを二等分する、すなわち、2つの互いに逆側にある表面のそれぞれから等距離で長さと幅の方向に延びる架空の「中心線」と見なされる。
【0028】
膜の「厚さ領域」は、膜の厚さにおける一定の部分にわたって膜の長さ及び幅の次元で延びる膜の部分である。本明細書及び特許請求の範囲に関して、膜は、少なくとも3つの厚さ領域、すなわち、第1のタイト領域、1つのオープン領域及び第2のタイト領域を備えると見なすことができる。オープン領域は、2つのタイト領域の間に位置する。一方又は両方のタイト領域は膜の表面を含んでもよいが、どちらのタイト領域も、表面を含む必要はない。
【0029】
特定の実施例において、膜は、膜の第1の表面を含み、第1の表面下の深さまで延びるが、膜の中心線までは延びない第1の厚さ領域;膜の第2の表面を含み、第2の表面下の深さまで延びるが、膜の中心線までは延びない第2の厚さ領域;並びに、第1の厚さ領域と第2の厚さ領域との間の、膜の厚さにおける残りの部分にわたって延び、任意で及び通常中心線を含む第3の厚さ領域を含む、厚さ領域を備え得る。膜の総厚さに対する第1の厚さ領域のサイズ(厚さ)を画成する、膜の第1の表面下における有用な深さの例には、膜の総厚さの2、5、10、20、25、30、又は33%に等しい深さが含まれる。同様に、膜の総厚さに対する第2の厚さ領域のサイズ(厚さ)を画成する、膜の第2の表面下における有用な深さの例には、膜の総厚さの2、5、10、20、25、30、又は33%に等しい深さが含まれる。
【0030】
例示的な膜によれば、ダブルタイトモルフォロジーは、オープン領域における比較的大きい細孔径と比較して、2つの各タイト領域における比較的小さい平均細孔径という観点から定義することができる。タイト領域の平均細孔径は、有用なろ過膜のタイト部分における任意の平均細孔径であり得、これには、1ナノメートル~10ミクロンの範囲、例えば、1ナノメートル~5ミクロン、又は10ナノメートル~1又は2ミクロンの範囲の平均細孔径が含まれるが、これらに限定されない。第1のタイト領域及び第2のタイト領域は、それぞれ独立して、同じ又は同じではない平均細孔径を有し得、両方の平均細孔径が規定された範囲の1つの中にある。オープン領域の平均細孔径は、有用なろ過膜のオープン部分における任意の平均細孔径であり得、これには、10ミクロンを超える、例えば、20ナノメートル~10ミクロン、又は50ナノメートル~1、2、又は5ミクロンなど、5ナノメートル~50ミクロンの範囲の平均細孔径が含まれるが、これらに限定されない。代替的又は追加的に、オープン領域の平均細孔径はまた、一方又は両方のタイト領域の平均細孔径よりも少なくとも10、20、50、又は100%、又はそれ以上の量大きいサイズであってもよい。すなわち、オープン領域の平均細孔径は、両方のタイト領域における平均細孔径の平均細孔径よりも少なくとも10、20、50、又は100%大きくてもよい。
【0031】
膜の厚さに沿った厚さ領域のサイズを考慮する場合、本発明は、領域の平均細孔径が記載される通りであり、第1の厚さ領域が、中心線の片側に第1の最小細孔径の深さ位置を備え、第2の厚さ領域が、中心線の第2の片側に第2の最小細孔径の深さ位置を備え、第3の領域の最小細孔径は、第1の最小細孔径よりも大きく、かつ第2の最小細孔径よりも大きいことを除き、各領域の特定のサイズ又は領域の相対的なサイズを必要としない。
【0032】
より詳細には、ダブルタイトモルフォロジーは、代替的又は追加的に、それぞれが独立して膜の特定の深さに位置し、それぞれが膜の中心線の逆側にある2つの異なる「最小」細孔径(測定された最小の細孔径)の存在という観点から定義することができる。「最小」細孔径は、中心線の片側で測定された最小の細孔径であり、膜の表面下における単一の一様な深さで、膜の領域の少なくとも一部にわたって測定される。記載されるこれらの膜によれば、膜は、中心線の片側における特定の深さに第1の最小細孔径を有し、中心線の第2の片側における特定の深さに第2の最小細孔径を有する。第1の最小細孔径の、第1の表面からの深さは、第2の最小細孔径の、第2の表面からの深さと比較して同じであっても異なっていてもよい。第1の最小細孔径は、中心線と第1の表面との間における特定の深さに存在する最小細孔径である。第2の最小細孔径は、中心線と第2の表面との間における特定の深さに存在する最小細孔径である。これらの2つの最小細孔径は、膜における2つの最小の細孔径であり、膜には、より小さな平均細孔径が存在する他の深さはない。
【0033】
特定の例示的実施形態によれば、最小細孔径(第1の最小細孔径又は第2の最小細孔径)は、表面(第1の表面又は第2の表面)(最小細孔径の位置の深さが0である)、又は表面付近、例えば、表面から膜の厚さ2、5、10、又は20%以内に位置し得る。
【0034】
第1の最小細孔径及び第2の最小細孔径の各位置は、独立して、表面又は表面からの深さにあり得る。例えば、第1の最小細孔径の位置は、第1の表面(深さ0)にあり、第2の最小細孔径の位置は、第2の表面にあり得る;第1の最小細孔径の位置は第1の表面下にあり、第2の最小細孔径の位置は第2の表面下にあり得る;第1の最小細孔径の位置は第1の表面にあり、第2の最小細孔径の位置は第2の表面下にあり得る;又は、第1の最小細孔径の位置は第1の表面下にあり、第2の最小細孔径の位置は第2の表面にあり得る。
【0035】
膜の領域、又は膜の特定の深さにおける平均細孔径は、走査型電子顕微鏡(SEM)によって作成された画像の手動又は電子的な視覚的検証を含む、任意の有用な技術によって測定することができる。これらの方法の例によって、コンピュータソフトウェアプログラムを使用して、膜の領域又は深さにおける細孔径を評価することができる。他の例では、SEM顕微鏡写真のハードコピーを視覚的に検査して、膜の領域又は深さにおける細孔径を測定することができる。
【0036】
例示的な膜は、オープン領域における細孔径のサイズと、タイト領域における細孔径のサイズとの間の関係である非対称度の観点から説明することができる。記載される膜の非対称度(D)は、次のように定義できる:
D=(第3の厚さ領域の平均細孔径)/A
Aは、第1の領域の平均細孔径;第2の領域の平均細孔径;第1の最小細孔径、又は第2の最小細孔径のうちの1つとして定義できる。
【0037】
本明細書における有用で好ましい膜は、群Aの異なる可能な細孔径の以上を使用して計算した場合、少なくとも5、例えば、少なくとも10、20又は30の非対称度(D)を有し得る。
【0038】
図1Aを参照すると、表面12、第2の表面14、及びこれら2つの表面の間における厚さを有する、例示的な多孔質膜10の断面が示されている。中心線50は、表面12と表面14との間の中間に位置する。第1の厚さ領域20は、表面12と第1の深さD
1との間の厚さ領域に位置する。第2の厚さ領域40は、第2の表面14と第2の深さD
2との間の厚さ領域に位置する。第3の厚さ領域30は、第1の厚さ領域20と第2の厚さ領域40との間の厚さ領域に位置する。第1の厚さ領域20、第2の厚さ領域40、及び第3の厚さ領域50のそれぞれにおける平均細孔径は、各領域の3次元の厚さにわたって測定することができる。本明細書によれば、第1の厚さ領域における細孔の平均細孔径は、第3の厚さ領域における細孔の平均細孔径より実質的に(例えば、測定可能に)小さく、第2の厚さ領域における細孔の平均細孔径は、第3の厚さ領域における細孔の平均細孔径より実質的に小さい。
【0039】
図1Aはまた、中点50の片側における深さに位置する第1の最小細孔径の深さ22を示す。図示されるように、第1の最小細孔径の深さ22は、深さ0であり、これは、第1の最小細孔径が表面12に位置することを意味する。
図1Aはまた、中点50の第2の片側に位置し、第2の表面14のわずかに下の深さに位置する第2の最小深さとして深さ42を示す。第1の最小細孔径及び第2の最小細孔径は、表面12及び表面14のそれぞれに、又はその下にある各深さに位置し、各深さは、膜の長さ及び幅に沿って続く細孔が、中点50の同じ側、すなわち、表面12と中点50との間の膜10内(深さ22)、及び表面14と中点50との間の膜10内(深さ42)におけるすべての細孔に対して、最小の平均細孔径を有する膜の深さとして測定される。各最小細孔径は、中心線の各片側にある任意の特定の深さにおける最小の平均細孔径であり、中心線に対する膜の各片側には、最小細孔径よりも小さい平均細孔径を有する他の深さがない。
【0040】
図1Bを参照すると、表面12、第2の表面14、及びこれら2つの表面の間における厚さを有する、多孔質膜10の断面が示されている。中心線50は、表面12と表面14との間の中間に位置する。第1の厚さ領域20は、表面12と第1の深さD
1との間の厚さ領域に位置する。第2の厚さ領域40は、第2の表面14と第2の深さD
2との間の厚さ領域に位置する。第3の厚さ領域30は、第1の厚さ領域20と第2の厚さ領域40との間の厚さ領域、例えば深さD
1と深さD
2との間に位置する。第1の厚さ領域20、第2の厚さ領域40、及び第3の厚さ領域50のそれぞれ全体にわたる細孔の平均細孔径は、3次元の厚さ領域にわたって測定することができる。本明細書によれば、第1の厚さ領域における細孔の平均細孔径は、第3の厚さ領域における細孔の平均細孔径より実質的に小さく、第2の厚さ領域における細孔の平均細孔径は、第3の厚さ領域における細孔の平均細孔径より実質的に小さい。
【0041】
図1Bはまた、中点50の片側における膜10の表面に対する深さ又は表面の深さに位置する第1の最小細孔径の深さ22、及び中点50の第2の片側における膜10の第2の表面に対する深さ又は第2の表面の深さに位置する第2の最小細孔径の深さ42を示す。図示される膜では、第1の最小細孔径22の位置及び第2の最小細孔径42の位置は、それぞれ表面12及び表面14、又はその付近にある。2つの最小細孔径のそれぞれは、中心線に対する膜の片側における最小の平均細孔径であり、膜の各片側には、最小細孔径よりも小さい平均細孔径を有する他の深さがない。
【0042】
記載される多孔質フィルムは、新規かつ発明的な方法を含むポリマー押出フィルムを形成する方法によって調製することができ、該方法は、フィルムのポリマーを凝固させる条件にフィルムの両表面をさらすことを含み、条件は、両表面に同じ方法で適用される同じ条件である。押出フィルムの両表面が、凝固を引き起こす同じ条件に、同じ方法及び同じタイミングでさらされるため、記載される方法は、同じ凝固工程により同時に形成される細孔を有する、2つの互いに逆側にある表面を備える凝固フィルムを形成するのに効果的であり得る;2つの互いに逆側にある各表面における細孔は、「ダブルタイト」膜を生成するために、膜の内部領域における細孔よりも小さい場合がある;2つの互いに逆側にある表面における細孔は、実質的に同じ又は類似の凝固誘起条件及びタイミングに基づいて各表面が凝固を受けるため、互いに同等のモルフォロジーであり得る。得られる凝固フィルムは、中心線の両側に1つずつ、類似の、同等の、又は実質的に同じモルフォロジーを有する2つの互いに逆側にある(タイト)表面又は厚さ領域を備え、また、2つの表面のモルフォロジーとは異なる(オープン)モルフォロジーを有する内部領域を備える。例示的な膜は、比較的小さな細孔径を有するモルフォロジーを有する一方の表面又は領域、同様に比較的小さな細孔径を有するモルフォロジーを有する第2の(逆側の)表面又は領域、並びに第1及び第2の表面と比較して比較的大きな細孔径を備えるモルフォロジーを有する、2つの表面又は領域の間の内側部分を有し得る。
【0043】
記載されるモルフォロジーを有する、記載される膜を調製するために有用な方法の例として、膜は、溶媒に溶解(又は懸濁)された非凝固(任意で、一定量の凝固又は部分凝固も)ポリマーを含有する液体ポリマー溶液の押出された液膜を形成し、フィルムの2つの互いに逆側にある両表面を、フィルムの2つの互いに逆側にある両表面でポリマーを並行して又は同時に凝固させる条件(例えば、温度、非溶媒、湿度、溶媒蒸発)に、並行して又は同時にさらすことによって、ポリマーをフィルム内で凝固させることによって形成され得る。一例では、凝固を引き起こす技術は、非溶媒誘起相分離(NIPS)技術によるものである。別の例では、ポリマーの凝固は、熱誘起相分離(TIPS)によって引き起こされてもよい。
【0044】
従来の非溶媒誘起相分離(NIPS)では、通常、溶媒に溶解又は懸濁されたポリマーを含有するポリマー溶液を押出し、支持層(例えば、支持ポリマーフィルム)上にキャストして、キャストフィルムを形成する。キャストフィルムは、支持層と接触して覆われる一方の表面と、露出又は開放されている別の(逆側の)表面とを有する。次いで、支持層と、押出及びキャストされたフィルムを、「非溶媒」、つまりポリマーが実質的に可溶性でない液体を含有する凝固浴に浸漬させる。キャストフィルムを非溶媒に浸漬させると、該露出されている一方の表面において、非溶媒浴と押出フィルムポリマー溶液の溶媒との間で溶媒と非溶媒の交換が起こる。溶媒交換により、非溶媒がキャストフィルム中でポリマーと共に存在し、ポリマーをキャストポリマー溶液フィルムから支持層上に析出させる。ポリマーは、凝固浴の非溶媒(例えば、水性液体)との接触時にポリマーが効率的に析出又は凝固するように、ポリマー溶液の溶媒に高溶解性、かつ浴の「非溶媒」に実質的に不溶性である必要がある。
【0045】
これらの技術によれば、液体非溶媒は、キャストポリマー溶液フィルムの露出面である一方の表面にのみ接触するが、支持層と接触している、フィルムの逆側の表面には接触しない。非溶媒はキャストフィルムの一方の表面にのみ接触し、溶媒交換はキャストフィルムの該一方の表面を介してのみ起こるため、凝固したポリマーフィルムは不均一な、例えば非対称のモルフォロジーであり、フィルムの一方の面がフィルムのもう一方の面と比較して異なるモルフォロジーを示す。通常、フィルムは、凝固後、膜の一方の面における第1のモルフォロジー、膜の第2の面における実質的に異なる第2のモルフォロジー、及びフィルムの厚さ全体にわたって変化する、2つの面の間における中間モルフォロジー、例えば、一方の表面における細孔径と第2の表面における細孔径との間である細孔径の範囲にわたって段階的に変化する細孔径を備える、非対称モルフォロジーを有する。例として、一方の表面の平均細孔径が比較的小さく、逆側の面の平均細孔径が比較的大きく、2つの表面の間におけるすべての位置(深さ)の平均細孔径が、互いに逆側にある表面における2つの平均細孔径の間である場合がある。任意で、一方の表面は「タイト」モルフォロジーを示すと考えることができ、第2の表面は「オープン」モルフォロジーを示すと考えることができる。
【0046】
従来の熱誘起相分離(TIPS)技術を使用すると、同等の効果が得られる。従来のTIPS技術では、通常、溶媒中に非凝固ポリマー(及び任意で部分凝固ポリマー)を含有するポリマー含有液体を、スロットダイを通して押出し、押出フィルムを形成する。従来のTIPS法では、例えば、低温の「冷却ロール」と接触させることにより、押出フィルムの一方の面を低温にし、これにより、押出フィルムのポリマーを凝固させる。
【0047】
この技術により、押出フィルムの一方の表面が低温にさらされる。逆側の表面は、直接又は間接的に低温にさらされないため、逆側の表面と比較して、押出フィルムの一方の表面におけるポリマーの凝固の仕方に違いが生じる。フィルムの一方の面のみが低温にさらされるため、凝固したポリマーフィルムは、不均一なモルフォロジーであり、フィルムの一方の面がフィルムのもう一方の面と比較して実質的に異なるモルフォロジーを示す。通常、フィルムは、凝固後、フィルムの一方の面における第1のモルフォロジー、フィルムの第2の面における実質的に異なるモルフォロジー、及び2つの面の間における中間モルフォロジーを含む非対称モルフォロジーを有する。例として、一方の表面の平均細孔径が比較的小さく、逆側の面の平均細孔径が比較的大きく、2つの表面の間におけるすべての位置(深さ)の平均細孔径が、互いに逆側にある表面における2つの平均細孔径の間である場合がある。任意で、一方の表面は「タイト」モルフォロジーを示すと考えることができ、第2の表面は「オープン」モルフォロジーを示すと考えることができる。
【0048】
本明細書における例示的な方法は、少なくとも、本明細書で記載される例示的な方法が、押出(共押出を含む)フィルムの両表面を、凝固を引き起こす同一又は同等の条件に、比較的同じ又は同等の程度さらすため、多孔質ポリマー膜を形成するために使用される先行する相分離技術とは異なる。該条件は、液体「非溶媒」との接触であってもよく、低温条件、例えば、低温の液体浴であってもよい。記載される押出フィルム法と比較して、本発明の方法は、ポリマー溶液の押出フィルムを支持層(例えば、ポリマーフィルム若しくは剥離ライナー)にキャストする工程、又は押出フィルムの一方の面のみを(例えば、支持層によって)冷却ロールなどの冷却された表面と接触するよう配置する工程を必要とせず、好ましくは含まないことができる。本発明の方法によれば、押出フィルムの両表面は、凝固を引き起こすのに効果的な同じ条件に同じ時間、任意で同程度に(例えば、各表面のポリマーの同一性に応じて)、例えば同時にさらされる。押出フィルムの両表面を同じ又は同等の方法で同じ凝固誘起条件にさらすことにより、条件はフィルムの両面に類似の方法で影響を及ぼし、フィルムの両面に凝固効果を引き起こし、凝固時には、膜の内部領域に対して、それぞれがタイトモルフォロジーを有する2つの互いに逆側にある表面又は面、任意で2つの互いに逆側にある同等又は同一のモルフォロジーを含む膜が生成される。
【0049】
記載される膜を調製するための実施例及び好ましい実施形態によれば、ポリマーを溶媒と組み合わせて(例えば、溶媒に完全に溶解して)、液体としてシート状に押出することができる、非凝固又は部分凝固形態のポリマーを含有するポリマー含有液体(本明細書において、「ポリマー溶液」又は「ポリマー含有液体」と呼ばれる)を形成することができ、その後、浸漬析出法、例えばTIPS法若しくはNIPS法、又は湿気へさらす、若しくは溶媒蒸発などの別の方法を使用するなどして、シートの両面で凝固を引き起こすことができる。単一のポリマー含有液体を使用してもよく、又は複数のポリマー含有液体を共押出フィルムに使用してもよい。
【0050】
一般的な方法は、溶媒に溶解又は懸濁された、多孔質ポリマー膜を調製するためのポリマーを含む1種又は複数のポリマー含有液体を形成又は別の方法で準備すること;ダイから1種又は複数のポリマー含有液体を押出し(共押出を含む)、ポリマー含有液体を含む押出(共押出を含む)シート又はフィルムを形成すること;ポリマー含有液体のポリマーを、ポリマー含有液体から凝固(例えば、析出)させて、凝固した多孔質ポリマー膜(「多孔質ポリマー膜」)を形成すること;及び任意で、形成された多孔質ポリマー膜を乾燥又は別の方法でさらに加工することを含む、1つ又は複数の工程を使用して実施することができる。
【0051】
そのような方法の実施例は、1種又は複数のポリマー含有液体をフィルムとして押出すための押出ダイの使用を含んでもよい。押出ダイは、シングルスロットダイ又はマルチスロットダイであり得る。単一のポリマー含有液体のみを使用してフィルムを形成する場合は、シングルスロットダイを使用することができる。フィルムが2種以上の異なるポリマータイプ又はポリマー含有液体を使用して形成される場合は、マルチスロットダイを使用することができる。マルチスロットダイが使用され、2種以上の異なるポリマー又はポリマー含有液体が使用される場合、押出フィルムは、ポリマーの組成が化学的又は物理的に異なっていても、押出された際に単一の押出フィルムと見なされる;共押出フィルムは、単一の一体型フィルムと見なされる。マルチスロットダイからの共押出フィルムは、2つの互いに逆側にある表面でのみ凝固誘起条件にさらされ、結果として生じる凝固フィルム膜は、単一の押出工程で形成されると見なされ、一体型膜であると見なされる。
【0052】
押出フィルムの有用な延伸速度、ポリマー含有液体の有用な流速、ダイと凝固浴との間のエアギャップ距離(存在する場合)、エアギャップ領域(存在する場合)における空気の湿度、並びに有用な、任意で従来の種類及びサイズのダイを含む、任意の効果的な押出条件及び加工パラメータを使用することができる。ダイを通過するポリマー含有液体の流速、及び押出フィルムの延伸速度を使用して、押出フィルムの厚さに影響を与えることができる。
【0053】
押出された後、フィルムの両面は、押出フィルムに含有されるポリマーを凝固させる条件にさらされる。例えば、押出フィルムは、押出フィルムよりも低温の液体を含むか、若しくは「非溶媒」を含有する、又はその両方である凝固浴に接触させて、押出フィルムに含有されるポリマーを凝固させることができる。TIPS法の凝固浴の例は、押出フィルムのポリマー含有液体から溶解した(非凝固)ポリマーを凝固させる温度を有する水などの液体浴、例えば、30、20、又は10℃未満の温度を有する液体であり得る。NIPSの凝固浴の例は、非溶媒、例えば、水、又は水とポリマー溶液溶媒を溶解することができる有機液体との混合物で作製された浴であり得る。
【0054】
これらの種類の膜形成技術における特定のより詳細な例によれば、押出(非凝固又は部分凝固ポリマーを伴う)フィルムは、凝固浴に直接押出されてもよく、あるいは凝固浴の外(例えば、垂直上方)に押出され、次いで押出後すぐに凝固浴に入れてもよい。後者の例では、フィルムは、ダイから押出された後、押出(非凝固)フィルムが凝固浴の液体に接触する前に空気にさらされる。フィルムが凝固浴に入る前に、押出フィルムを空気にさらすこと(「エアギャップ」)は任意である。エアギャップが存在する場合、押出フィルムが凝固浴と接触する前に空気にさらされる時間は、所望の通り、例えば、2秒未満、1秒未満、又は0.5秒未満であり得る。他の例示的な方法では、押出フィルムは、凝固浴に接触する前に空気に接触せず、凝固浴内で直接押出される。
【0055】
ポリマー溶液及び得られる多孔質ポリマー膜のポリマーの種類は、NIPS又はTIPS技術による多孔質膜の形成に使用することが公知である、又は公知となる任意の種類のポリマーであり得る。特にNIPS法の場合、現在公知である又は好ましいポリマーの例には、とりわけ、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミド-ポリイミド、ポリエーテルスルホン又はポリフェニルスルホンなどのポリスルホン、及びポリビニリデンフルオリドなどのフルオロポリマーが含まれる。特にTIPS法の場合、現在公知である又は好ましいポリマーの例には、とりわけ、ポリエチレン及びポリプロピレンなどのポリオレフィン、ペルフルオロアルコキシ(PFA)などのフッ素化ポリマーが含まれる。シングルスロットダイを使用する方法では、単一のポリマー及び単一のポリマー溶液のみが必要であるが、ポリマー混合物も使用できる。マルチスロットダイ、例えば、2スロット又は3スロットのダイを使用する方法では、異なるポリマータイプ、又は同じポリマーであるが異なる組成のポリマー溶液を、異なるスロットを通して流すことができる。一例として、第1の種類のポリマー及び第1のポリマー溶液は、フィルム表面を形成するスロットで使用することができ、1種以上の異なるポリマー(又はポリマー溶液)は、フィルムの内部領域を形成する1つ以上のスロットで使用することができる。
【0056】
ここで
図2A、
図2B、
図3A、及び
図3Bを参照すると、記載される例示的なポリマー膜を調製するのに効果的である例示的な押出システムの一部が示されている。
図2A及び
図3Aは例示的なシステムの正面図であり、
図2B及び
図3Bは例示的なシステムの側面図を示す。
【0057】
図2A及び
図2Bを参照すると、システム100は押出ダイ120を備え、これは、例えば、従来、コートハンガーマニホールドダイと呼ばれる種類のシート押出ダイであり得る。ダイ120は、ダイの底部にスロット122を備えたシングルスロット押出ダイである。ポリマー溶液130は、ダイ120のマニホールド内部を通過し、次いでスロット122を通過し、その後、押出されたポリマー溶液は、押出フィルム140aを形成し、該フィルムは、支持されずに、ダイ120の下で垂直方向に下方に延びて移動する。上面又は「バスライン(bathline)」152を有する液体凝固浴150は、ダイ120の下に位置する。
【0058】
ポリマー溶液130の供給源(図示せず)は、ダイ120を通って連続的に流れるように、ポンプ又は他の流通装置によって一定かつ規則的な速度で供給される。スロット122を下方向に出た後、押出フィルム140aは凝固浴150中の液体に入り、浸漬される。押出フィルム140aは、ポリマー溶液中に存在する非凝固ポリマーを有するポリマー溶液130の薄い連続フィルムとしてダイスロット122を出る。フィルム140aのポリマー溶液130の溶解したポリマーを凝固させるために、非凝固ポリマーを有するフィルム140aを、次いで、凝固浴150の液体と接触させる。
【0059】
凝固浴150の液体は、バスライン152から開始して、フィルム140aにおける2つの互いに逆側にある両表面に接触し、フィルム140aの両表面で溶解したポリマーを凝固させる。フィルム140aのポリマーは、溶液から析出(例えば、凝固)して、凝固形態のポリマーを含有する多孔質ポリマーフィルム膜140bを形成する。凝固浴150の液体が、フィルム140aの2つの互いに逆側にある両表面に同時に接触するため、両表面は、液体によるポリマーを凝固させる影響を等しく受けて、同等又は同一のモルフォロジーを有する2つの互いに逆側にある表面を有するフィルム140bが製造される。
【0060】
任意で、
図2A及び
図2Bに示すように、非凝固ポリマー溶液130で作製されたフィルム140aは、ダイスロット122を出た後、凝固浴150の液体に接触する前に、空間(「エアギャップ」)を通過する。凝固浴150に入ると、凝固浴150の液体により、ポリマー溶液130に相分離が生じ、ろ過膜140bが形成される。あるいは、例えば
図3A及び
図3Bに示すような他の例示的なシステム及び方法によれば、ダイスロット122と凝固浴150の液体との間にエアギャップは存在せず、フィルム140aのポリマーの相分離(凝固)は、ポリマー溶液130がダイスロット122を出ると、凝固浴150内で直ちに起こり、膜140bが形成される。
【0061】
これらの図は、シングルスロットダイを使用して単一のポリマー溶液から形成された押出フィルムを示していることに留意されたい。別の方法及びシステムでは、2種以上の異なるポリマー溶液(任意で1種又は2種以上の異なる種類のポリマー)を、マルチスロット押出ダイの異なるスロットを通して流すことができる。
【0062】
1つ又は複数の任意の後続工程として、洗浄タンク、加熱工程、乾燥工程、又は巻き取りセクションを使用して、膜140bをさらに処理又は加工することができる。例えば、凝固浴150内での相分離(凝固)工程後、膜140bが洗浄タンクを通るよう誘導し、残留溶媒を抽出することができる。その後、洗浄された(まだ湿っている)膜140bは、任意で後処理乾燥工程の前又は後に、ロール上に収集され得る。
【0063】
図2A、
図2B、
図3A、及び
図3Bに示されるように、押出フィルムは、ダイを出た直後に、フィルムの幅、フィルムの厚さ、又はその両方の減少を受ける。この現象は、「ネッキング」と呼ばれることもある。すなわち、フィルムがダイを出てダイから離れた後、フィルムは幅、厚さ、又はその両方が減少するよう「ネックダウン」する。あるいは、この現象は「ドッグボーン」効果と呼ばれることもある。このネッキング効果により、フィルムの幅全体及びフィルムの端で測定した押出フィルムの厚さは、一様性の低下も示す場合がある-フィルムの厚さはより一様でなくなる場合がある。すなわち、幅方向全体及び端において増加した可変性を示す場合がある。一様性が低下した特定の位置がフィルムの両端(末端)で発生する可能性があり、各末端において(犬の骨のように)厚さが増す。本システム及び方法のさらなる潜在的な利点は、末端を含む、フィルムの幅全体にわたるフィルムの厚さにおける所望通りの高い一様性、すなわち、ドッグボーン効果の低減である。
【0064】
記載されるろ過膜は、液体にろ過膜を通過させて、液体から1種又は複数の夾雑物を除去することによって、ろ過された液体を生成するのに有用であり得る。ろ過された液体は、液体がろ過膜を通過する前の液体中に存在する夾雑物又は粒子のレベルと比較して、減少したレベルの1種又は複数の夾雑物又は粒子物質を含有する。
【0065】
記載されるポリマー膜は、性能(「捕捉性能」により測定されるろ過性能)、細孔径又はバブルポイント(細孔径に関連)、流量(flow)、並びに機械的性質(柔軟性及び耐久性、又は脆弱性の低下)を含む、有用な、望ましい、又は有利な物理特性の組み合わせを提供することができる。
【0066】
液体から不要な物質(すなわち、「夾雑物」)を除去する際のろ過膜の有効性のレベルは、ある方法では「捕捉性能」として測定することができる。捕捉性能は、ろ過膜(例えば、記載されるろ過膜)の有効性に関して、一般に、不純物を含有する液体にろ過膜を通過させた際に液体中にあった不純物の総量に対する、液体から除去される不純物の(実際の又は性能試験中の)総量を指す。したがって、ろ過膜の「捕捉性能」値はパーセンテージであり、捕捉性能値が高い(パーセンテージが高い)フィルタは液体から粒子を除去する効果が比較的高く、捕捉性能値が低い(パーセンテージが低い)フィルタは液体から粒子を除去する効果が比較的低い。
【0067】
粒子の捕捉性能は、流体の流れの途中に配置された膜によって流体の流れから除去された試験粒子の数を測定することによって測定することができる。1つの方法では、粒子の補足性能は、8ppmポリスチレン粒子(例えば、公称直径が5~15ナノメートルのG25ポリスチレン丸粒子)を含有する0.1%Triton X-100の水性フィード溶液を十分量通過させ、毎分7ミリリットルの一定流量で直径47ミリメートルの膜試験片を通して1%の単分子層被覆率を達成し、透過液を収集することによって測定できる。透過液中のポリスチレン粒子の濃度は、透過液の吸光度から計算できる。次いで、粒子捕捉性能は次の式を使用して計算される。
【0068】
本明細書において使用される「公称直径」は、光子相関分光法(PCS)、レーザー回折、又は光学顕微鏡法によって決定される粒子の直径である。通常、計算直径、又は公称直径は、粒子の投影画像と同じ投影面積を有する球の直径として表される。PCS、レーザー回折、及び光学顕微鏡技術は当技術分野において周知である(例えば、Jillavenkatesa, A., et al.; “Particle Size Characterization;” NIST Recommended Practice Guide; National Institute of Standards and Technology Special Publication 960-1; January 2001を参照のこと)。
【0069】
記載される膜の好ましい実施形態では、膜は、0.5%、1.0%、1.5%、及び2.0%の単分子層被覆率で90%を超える捕捉性能を示す可能性があり、また、0.5%、1.0%、1.5%、及び2.0%の単分子層被覆率で95、96、又は97%を超える可能性がある。このレベルの捕捉性能により、本発明の膜の、これらの実施例は、UPEで作製された同等のフラットシート及び中空繊維ろ過膜などの現在市販されている多くのろ過膜と比較して、より高い捕捉性能レベルを示す。これらの例示的な膜はまた、有用な、良好な、又は非常に良好な流速(短い流下時間)をもたらし、膜を調製してフィルタカートリッジ又はフィルタ製品に組み立てることが可能となる機械的性質を示す。
【0070】
バブルポイントは、記載される複合ろ過膜を含む多孔質材料における既知の性質である。バブルポイントは細孔径に対応する場合があり、細孔径はろ過性能に対応する場合がある。より小さい細孔径は、高いバブルポイントに関連する可能性があり、場合により、高いろ過性能(高い捕捉性能)に関連する可能性がある。ただし、通常、より高いバブルポイントは、多孔質材料を通る流れの比較的大きい抵抗、及び小さい流束にも関連する。本明細書における特定の例示的なデュアルタイト膜によれば、バブルポイントは、膜を通る流れのいずれかの方向で測定された場合に相当する可能性がある。2つのバブルポイントのうち高い方のバブルポイントが低い方よりも20%超大きくない場合、例えば2つのバブルポイントのうち高い方が低い方よりも10、5、2、又は1%超大きくない場合、一方向で測定されたバブルポイントは、逆方向で測定されたバブルポイントに相当すると見なされる。この方法で相当するバブルポイントにより、フィルムが膜の中心線に対して高度の対称性を有することが示される可能性がある。
【0071】
多孔質材料のバブルポイントを決定する1つの方法では、多孔質材料の試料を、表面張力が公知である液体に浸漬させて濡らし、ガス圧を試料の一方の面に加える。ガス圧は段階的に上昇させる。ガスが試料を通って流れる最小圧力が、バブルポイントと呼ばれる。Novec HFE 7200、IPA、又は水、圧縮空気、若しくは圧縮N2ガスを使用して、20~30℃(通常は25℃)の温度で測定された、記載される多孔質ろ過膜の有用なバブルポイントの例は、2~400psiの範囲、例えば135~185psiの範囲であり得る。
【0072】
本明細書で記載されるろ過膜、又は記載されるろ過膜を含有するフィルタ又はフィルタ部品は、液体化学物質をろ過して液体化学物質を精製する、又は液体化学物質から不要な物質を除去する方法、特に、非常に高純度の化学物質の投入を必要とする工業プロセスにおいて有用な、高純度の液体化学物質を生成する方法において有用であり得る。一般に、液体化学物質は、さまざまな有用な市販の物質のいずれかであり得、任意の用途、任意の工業的又は商業的使用のために有用である又は使用される液体化学物質であり得る。記載されるフィルタの特定の実施例は、半導体又はマイクロエレクトロニクス製造用途で使用される又は有用である液体化学物質を精製するために、例えば、半導体ウェーハ又はマイクロエレクトロニクスデバイスを加工するための半導体フォトリソグラフィ又は洗浄方法若しくは洗浄工程で使用される液体溶媒、又は他の処理液体をろ過するために使用できる。
【0073】
記載されるろ過膜を使用してろ過できる溶媒(洗浄液を含む)の特定の非限定的な例の一部には、n-ブチルアセテート(nBA)、イソプロピルアルコール(IPA)、2-エトキシエチルアセテート(2EEA)、キシレン、シクロヘキサノン、乳酸エチル、メチルイソブチルカルビノール(MIBC)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、イソアミルアセテート、ウンデカン、プロピレングリコールメチルエーテル(PGME)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、又は、PGMEとPGMEAの混合物など、これらのいずれかの混合物;あるいは、濃縮若しくは希釈した水酸化アンモニウム、過酸化水素、塩酸、HF、硫酸、別の過酸化物溶液、又は水酸化アンモニウムと過酸化水素との組み合わせ、若しくは塩酸と過酸化水素との組み合わせなどの、これらの組み合わせが含まれる。
【0074】
膜は、ろ過システムで使用されるフィルタ又はフィルタカートリッジなどのより大きなフィルタ構造内に入れることができる。ろ過システムは、例えば、フィルタ又はフィルタカートリッジの一部として、複合ろ過膜を液体化学物質の流路に配置して、液体化学物質の流れの少なくとも一部に複合ろ過膜のフィルタ層を通過させ、フィルタ層により、液体化学物質から一定量の不純物又は夾雑物が除去されるようにする。フィルタ又はフィルタカートリッジの構造は、流体がフィルタ入口から膜(フィルタ層を含む)を通り、フィルタ出口を通って流れ、それにより、フィルタを通過する際に複合ろ過膜を通過するように、フィルタ内の複合ろ過膜を支持する1つ又は複数のさまざまな追加の材料及び構造を備え得る。
【実施例】
【0075】
図4を参照すると、
図4は、ポリエーテルスルホンでできており、異なる方法で調製され、異なる構造又はモルフォロジーを有する3つのろ過膜の比較を示す。
【0076】
1つの膜は「単層PES膜」である。この膜は、NIPSなどの従来の相分離法で作製された。単層PES膜は非対称の特性を有し、一方の面はタイト表面を有し、逆側の面はオープン表面を有する。
【0077】
1つの膜は「二重層PES膜」である。この膜は、単層PES膜を2つ一緒に積層して作製され、2つの膜を連続させて使用する多層膜である。
【0078】
1つの膜は、本明細書に従って調製された「ダブルタイト層PES膜」である。
【0079】
図4に示すように、本発明のダブルタイト層PES膜は、同じ材料でできているがモルフォロジー又は構造が異なる本発明以外の膜と比較して、大幅に改善された捕捉性能を示す。
【0080】
第1の態様において、一体型押出多孔質ポリマーシート膜は、第1の表面、第2の表面、及び第1の表面と第2の表面との間の厚さ、第1の表面と厚さ方向の膜の部分とを含む第1の厚さ領域、第2の表面と厚さ方向の膜の部分とを含む第2の厚さ領域、並びに第1の厚さ領域と第2の厚さ領域との間の厚さ方向に延びる第3の厚さ領域を備え、第1の厚さ領域の平均細孔径及び第2の厚さ領域の平均細孔径が両方とも、第3の領域の平均細孔径よりも小さい。
【0081】
膜が第1の表面と第2の表面との間に中心線を有し、第1の厚さ領域が、中心線の第1の片側に最小細孔径を有する深さ位置を含み、第2の厚さ領域が、中心線の第2の片側に最小細孔径を有する深さ位置を含む、第1の態様に従う第2の態様。
【0082】
第1の最小細孔径が1ナノメートル~10ミクロンの範囲であり、第2の最小細孔径が1ナノメートル~10ミクロンの範囲である、第2の態様に従う第3の態様。
【0083】
第1の最小細孔径は、第1の表面と、第1の表面から厚さ3分の1の深さとの間における位置にあり、第2の最小細孔径は、第2の表面と、第2の表面から厚さ3分の1の深さとの間における位置にあり、第3の厚さ領域の平均細孔径は、厚さの中央3分の1で測定される、第2又は第3の態様に従う第4の態様。
【0084】
少なくとも5の非対称度を有し、対称度(D)が、
D=(第3の厚さ領域の平均細孔径)/A
[式中、Aは、第1の領域の平均細孔径;第2の領域の平均細孔径;第1の最小細孔径、又は第2の最小細孔径のうちの1つである]
として定義される、第1の態様から第4の態様のいずれか1つに従う第5の態様。
【0085】
膜が、ポリエーテルスルホン及びポリアミドイミドから選択されるポリマーを含む、第1の態様から第5の態様のいずれか1つに従う第6の態様。
【0086】
40~300ミクロンの範囲の厚さを有する、第1の態様から第6の態様のいずれか1つに従う第7の態様。
【0087】
公称直径が5~15ナノメートルのG25ポリスチレン丸粒子を使用した1%単分子層に基づいて測定した際に少なくとも90%の捕捉性能を有する、第1の態様から第7の態様のいずれか1つに従う第8の態様。
【0088】
非溶媒誘起相分離の工程によって調製され、該工程により、第1の厚さ領域、第2の厚さ領域、及び第3の厚さ領域が同じ相分離工程を使用して形成される、第1の態様から第8の態様のいずれか1つに従う第9の態様。
【0089】
第1及び第2の表面、表面の間における厚さ、第1の厚さ領域、第2の厚さ領域、並びに第3の厚さ領域を有する押出多孔質ポリマーシート膜から本質的になる、第1の態様から第9の態様のいずれか1つに従う第10の態様。
【0090】
第1及び第2の表面、表面の間における厚さ、第1の厚さ領域、第2の厚さ領域、並びに第3の厚さ領域を有する押出多孔質ポリマーシート膜からなる、第1の態様から第10の態様のいずれか1つに従う第11の態様。
【0091】
第12の態様において、フィルタは、第1の態様から第11の態様のいずれか1つに記載の膜を備える。
【0092】
プリーツ構成でハウジングに入っている膜を備える、第13の態様。
【0093】
第14の態様において、流体をろ過する方法は、流体を、第11の態様のフィルタに通すことを含む。
【0094】
流体が半導体フォトリソグラフィ溶媒、洗浄液、又はエッチング液である、第14の態様に従う第15の態様。
【0095】
流体が、プロピレングリコールメチルエーテル(PGME)、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(PGMEA)、シクロヘキサノン、n-ブチルアセテートから選択される、第15の態様に従う第16の態様。
【0096】
流体が、水酸化アンモニウム、過酸化水素、塩酸、HF、硫酸、過酸化物溶液又はそれらの組み合わせを含む希薄又は濃縮溶液を含む、第15の態様に従う第17の態様。
【0097】
第18の態様において、互いに逆側にある第1及び第2の表面、互いに逆側にある表面の間における厚さ、並びに非一様な細孔径を有する細孔を有する押出多孔質ポリマーシート膜を作製する方法は、溶媒中にポリマーを含むポリマー含有液体を形成すること、ポリマー含有液体を押出ダイに通して、ポリマー含有液体の押出フィルムを形成すること、及び押出フィルムの両面を、フィルムの両面でポリマーの凝固が引き起こされる条件にさらすことを含む。
【0098】
熱誘起相分離技術によって、押出フィルムの両面で凝固を引き起こすことをさらに含む、第18の態様に従う第19の態様。
【0099】
非溶媒誘起相分離技術によって、押出フィルムの両面で凝固を引き起こすことをさらに含む、第18の態様に従う第20の態様。
【0100】
押出フィルムの両面を湿気にさらすことによって、押出フィルムの両面で凝固を引き起こすことをさらに含む、第18の態様に従う第21の態様。
【0101】
押出フィルムの両面で液体を蒸発させることによって、押出フィルムの両面で凝固を引き起こすことをさらに含む、第18の態様に従う第22の態様。
【0102】
押出フィルムの第1の表面及び第2の表面を凝固浴と接触させて、ポリマー溶液の溶解したポリマーを凝固させ、ポリマー溶液の凝固ポリマーを含む、押出多孔質ポリマー膜を形成することを含む、第18の態様に従う第23の態様。
【0103】
膜が、第1の表面、第2の表面、及び第1の表面と第2の表面との間の厚さ、第1の表面と厚さ方向の膜の部分とを含む第1の厚さ領域、第2の表面と厚さ方向の膜の部分とを含む第2の厚さ領域、並びに第1の厚さ領域と第2の厚さ領域との間の厚さ方向に延びる第3の厚さ領域を備え、第1の厚さ領域の平均細孔径及び第2の厚さ領域の平均細孔径が両方とも、第3の領域の平均細孔径よりも小さい、第18の態様から第23の態様のいずれか1つに従う第24の態様。
【0104】
押出フィルムがダイ開口部からダイを出て、ダイ開口部が凝固液に浸漬されている、第23又は第24の態様に従う第25の態様。
【手続補正書】
【提出日】2022-06-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一体型押出多孔質ポリマーシート膜であって、
第1の表面、第2の表面、及び第1の表面と第2の表面との間の厚さ、
第1の表面と厚さ方向の膜の部分とを含む第1の厚さ領域、
第2の表面と厚さ方向の膜の部分とを含む第2の厚さ領域、並びに
第1の厚さ領域と第2の厚さ領域との間の厚さ方向に延びる第3の厚さ領域を備え、
第1の厚さ領域の平均細孔径及び第2の厚さ領域の平均細孔径が両方とも、第3の厚さ領域の平均細孔径よりも小さい、膜。
【請求項2】
膜が第1の表面と第2の表面との間に中心線を有し、
第1の厚さ領域が、第1の表面と中心線との間の位置に最小細孔径を有し、
第2の厚さ領域が、第2の表面と中心線との間の位置に最小細孔径を有する、請求項1に記載の膜。
【請求項3】
少なくとも5の非対称度を有し、非対称度(D)が、
D=(第3の厚さ領域の平均細孔径)/A
[式中、Aは、第1の領域の平均細孔径;第2の領域の平均細孔径;第1の最小細孔径、又は第2の最小細孔径のうちの1つである。]
として定義される、請求項1
または2に記載の膜。
【請求項4】
一体型押出多孔質ポリマーシート膜を作製する方法であって、
溶媒中にポリマーを含むポリマー含有液体を形成すること、
ポリマー含有液体を押出ダイに通して、ポリマー含有液体の押出フィルムを形成すること、及び
押出フィルムの両面を、フィルムの両面でポリマーの凝固が引き起こされる条件にさらすことを含み、
一体型押出多孔質ポリマーシート膜が、
第1の表面、第2の表面、及び第1の表面と第2の表面との間の厚さ、
第1の表面と厚さ方向の膜の部分とを含む第1の厚さ領域、
第2の表面と厚さ方向の膜の部分とを含む第2の厚さ領域、並びに
第1の厚さ領域と第2の厚さ領域との間の厚さ方向に延びる第3の厚さ領域を備え、
第1の厚さ領域の平均細孔径及び第2の厚さ領域の平均細孔径が両方とも、第3の厚さ領域の平均細孔径よりも小さい、方法。
【請求項5】
熱誘起相分離技術によって、押出フィルムの両面で凝固を引き起こすことをさらに含む、請求項
4に記載の方法。
【請求項6】
非溶媒誘起相分離技術によって、押出フィルムの両面で凝固を引き起こすことをさらに含む、請求項
4に記載の方法。
【請求項7】
押出フィルムの両面を湿気にさらすことによって、押出フィルムの両面で凝固を引き起こすことをさらに含む、請求項
4に記載の方法。
【請求項8】
押出フィルムの両面で液体を蒸発させることによって、押出フィルムの両面で凝固を引き起こすことをさらに含む、請求項
4に記載の方法。
【請求項9】
第1の表面及び第2の表面を凝固浴と接触させることによって、押出フィルムの両面で凝固を引き起こすことをさらに含む、請求項
4に記載の方法。
【請求項10】
押出フィルムがダイ開口部から押出ダイを出て、
ダイ開口部が凝固液に浸漬される、請求項
4から9のいずれか一項に記載の方法。
【国際調査報告】