IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エルジー・ケム・リミテッドの特許一覧

特表2022-554083リチウムモリブデン化合物がコーティングされたリチウム二次電池用の正極活物質及びその製造方法
<>
  • 特表-リチウムモリブデン化合物がコーティングされたリチウム二次電池用の正極活物質及びその製造方法 図1
  • 特表-リチウムモリブデン化合物がコーティングされたリチウム二次電池用の正極活物質及びその製造方法 図2
  • 特表-リチウムモリブデン化合物がコーティングされたリチウム二次電池用の正極活物質及びその製造方法 図3
  • 特表-リチウムモリブデン化合物がコーティングされたリチウム二次電池用の正極活物質及びその製造方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-28
(54)【発明の名称】リチウムモリブデン化合物がコーティングされたリチウム二次電池用の正極活物質及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/36 20060101AFI20221221BHJP
   H01M 4/505 20100101ALN20221221BHJP
   H01M 4/525 20100101ALN20221221BHJP
【FI】
H01M4/36 C
H01M4/36 D
H01M4/505
H01M4/525
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022523028
(86)(22)【出願日】2021-08-25
(85)【翻訳文提出日】2022-04-15
(86)【国際出願番号】 KR2021011404
(87)【国際公開番号】W WO2022065712
(87)【国際公開日】2022-03-31
(31)【優先権主張番号】10-2020-0124455
(32)【優先日】2020-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ノ-ウ・クァク
(72)【発明者】
【氏名】ジ-ヘ・キム
(72)【発明者】
【氏名】ナ-リ・パク
(72)【発明者】
【氏名】ジュン-ホ・オム
(72)【発明者】
【氏名】ソ-ジュン・ヨ
(72)【発明者】
【氏名】ジュン-ウォン・イ
(72)【発明者】
【氏名】チェ-ジン・リム
(72)【発明者】
【氏名】ビョン-フン・ジュン
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA01
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB08
5H050FA17
5H050FA18
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA12
5H050GA22
5H050GA27
5H050HA00
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA14
(57)【要約】
高出力及び高安定性が得られるリチウム二次電池用の正極活物質及びその製造方法を提供する。本発明による正極活物質は、リチウム二次電池用の正極活物質粉体の表面にコーティング層を含み、コーティング層は、リチウムモリブデン化合物を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム二次電池用の正極活物質粉体の表面にコーティング層を含み、前記コーティング層はリチウムモリブデン化合物を含むことを特徴とする、正極活物質。
【請求項2】
前記コーティング層が、リチウムホウ素化合物をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
前記リチウムモリブデン化合物が、リチウムモリブデン酸化物であることを特徴とする、請求項1または2に記載の正極活物質。
【請求項4】
前記リチウムモリブデン化合物は、ToF‐SIMSスペクトルにおけるピーク強度比が、LiMoO :LiMoO =1:0.2~0.8であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項5】
前記リチウムモリブデン化合物は、ToF‐SIMSスペクトルにおけるピーク強度比がLiMoO :LiMoO13 =1:0.03~0.3であることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項6】
前記リチウムモリブデン化合物は、ToF‐SIMSスペクトルにおけるピーク強度比が、LiMoO13 :LiMoO13:LiMoO13 :LiMoO13 :LiMoO13 =1:0.5~0.9:0.5~0.9:0.1~0.5:0.3~0.7であることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項7】
前記リチウムモリブデン化合物とホウ素が複合コーティングされていることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項8】
前記リチウム二次電池用の正極活物質粉体は、平均粒径が相異なる二種以上の正極活物質を含み、前記二種以上の正極活物質のうち平均粒径が大きい正極活物質をより多く含むことを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項9】
リチウム二次電池用の正極活物質粉体にMo含有ソースとB含有ソースを混合した後に熱処理することで、前記正極活物質粉体の表面にリチウムモリブデン化合物をコーティングする段階を含む、正極活物質の製造方法。
【請求項10】
前記Mo含有ソースがMoOであり、B含有ソースがHBOであることを特徴とする、請求項9に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項11】
前記リチウム二次電池用の正極活物質粉体にMo含有ソースとB含有ソースを混合する前に、前記リチウム二次電池用の正極活物質粉体の表面に残留するリチウムを水洗する段階をさらに含み、水洗に際し、正極活物質:水の重量比を1:0.5~1:2にすることを特徴とする、請求項9または10に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項12】
前記Mo含有ソースとB含有ソースの量は、Mo重量/正極活物質の重量=200~5,000ppmになり、B重量/正極活物質の重量=200~2,000ppmになるようにする量であることを特徴とする、請求項9から11のいずれか一項に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項13】
前記熱処理は、空気中または酸素雰囲気で、150~800℃で行われることを特徴とする、請求項9から12のいずれか一項に記載の正極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用の正極活物質及びその製造方法に関する。
【0002】
本出願は、2020年9月25日出願の韓国特許出願第10-2020-0124455号に基づく優先権を主張し、該当出願の明細書及び図面に開示された内容は、すべて本出願に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
反復的な充電と放電の可能なリチウム二次電池が化石エネルギーの代替手段として脚光を浴びている。リチウム二次電池は、携帯電話、ビデオカメラ、電動工具のような伝統的なハンドヘルドデバイスに主に使用されていた。しかし、最近では、電気で駆動される自動車(EV、HEV、PHEV)、大容量の電力貯蔵装置(ESS)、無停電電源装置(UPS)などにその適用分野が次第に増加しつつある。
【0004】
リチウム二次電池は、活物質が集電体にコーティングされた正極板と負極板が分離膜を挟んで配置された構造を有する単位セルが集合した電極組立体と、この電極組立体を電解液と共に密封して収納する外装材、即ち、電池ケースを備える。リチウム二次電池の正極材には、リチウム複合転移金属酸化物が用いられ、その中でもLiCoOのリチウムコバルト酸化物、リチウムマンガン酸化物(LiMnOまたはLiMnなど)、リチウムリン酸鉄化合物(LiFePO)またはLiNiOなどが主に使われている。また、LiNiOの優秀な可逆容量は維持しながらも低い熱安定性を改善するための方法として、ニッケルの一部を熱安定性に優れたマンガンで置き換えたニッケルマンガン系リチウム複合金属酸化物及びマンガンとコバルトで置き換えたNCMが使われている。
【0005】
現在使用されている正極活物質は、通常、ホウ素(B)を単独コーティングした正極活物質である。自動車用リチウム二次電池用の正極活物質は、高出力特性及び高温におけるガス発生低減特性が求められる。そこで、高出力及び高安定性が得られるリチウム二次電池用の正極活物質の開発が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高出力及び高安定性が得られるリチウム二次電池用の正極活物質及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を達成するため、本発明による正極活物質は、リチウム二次電池用の正極活物質粉体の表面にコーティング層を含み、コーティング層はリチウムモリブデン化合物を含む。
【0008】
コーティング層は、リチウムホウ素化合物をさらに含み得る。
【0009】
リチウムモリブデン化合物は、リチウムモリブデン酸化物であり得る。
【0010】
リチウムモリブデン化合物は、ToF‐SIMSスペクトルにおけるピーク強度比(peak intensity ratio)が、LiMoO :LiMoO =1:0.2~0.8であり得る。
【0011】
リチウムモリブデン化合物は、ToF‐SIMSスペクトルにおけるピーク強度比がLiMoO :LiMoO13 =1:0.03~0.3であり得る。
【0012】
リチウムモリブデン化合物は、ToF‐SIMSスペクトルにおけるピーク強度比が、LiMoO13 :LiMoO13:LiMoO13 :LiMoO13 :LiMoO13 =1:0.5~0.9:0.5~0.9:0.1~0.5:0.3~0.7であり得る。
【0013】
リチウムモリブデン化合物とホウ素が複合コーティングされたものであり得る。
【0014】
リチウム二次電池用の正極活物質粉体は、平均粒径D50が相異なる二種以上の正極活物質を含み、二種以上の正極活物質のうち平均粒径が大きい正極活物質をより多く含み得る。
【0015】
上記の課題を達成するため、本発明による正極活物質の製造方法は、リチウム二次電池用の正極活物質粉体にMo含有ソースとB含有ソースを混合した後に熱処理することで、正極活物質粉体の表面にリチウムモリブデン化合物をコーティングする工程を行う段階を含む。
【0016】
ここで、Mo含有ソースがMoOであり、B含有ソースがHBOであり得る。
【0017】
リチウム二次電池用の正極活物質粉体にMo含有ソースとB含有ソースを混合する前に、リチウム二次電池用の正極活物質粉体の表面に残留するリチウムを水洗する段階をさらに含み、水洗に際し、正極活物質:水の重量比を1:0.5~1:2にし得る。
【0018】
Mo含有ソースとB含有ソースの量は、Mo重量/正極活物質の重量=200~5,000ppmになり、B重量/正極活物質の重量=200~2,000ppmになるようにする量であり得る。
【0019】
熱処理は、空気中または酸素雰囲気で、150~800℃で行われ得る。
【発明の効果】
【0020】
本発明によると、リチウム二次電池用の正極材の表面にリチウムモリブデン化合物とホウ素を複合コーティングして出力特性を改善し、示差走査熱量計(DSC)による熱安定性を改善することができる。
【0021】
本明細書に添付される次の図面は、本発明の望ましい実施例を例示するものであり、発明の詳細な説明とともに本発明の技術的な思想をさらに理解させる役割をするため、本発明は図面に記載された事項だけに限定されて解釈されてはならない。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】比較例2と実施例2のDSCグラフである。
図2】比較例1と実施例1のToF‐SIMSスペクトルの分析結果である。
図3】比較例1と実施例1のToF‐SIMSスペクトルの分析結果である。
図4】実施例1のToF‐SIMSイメージの分析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付された図面を参照して本発明の望ましい実施例を詳しく説明する。これに先立ち、本明細書及び特許請求の範囲に使われた用語や単語は通常的や辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者自らは発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義できるという原則に則して本発明の技術的な思想に応ずる意味及び概念で解釈されねばならない。したがって、本明細書に記載された実施例及び図面に示された構成は、本発明のもっとも望ましい一実施例に過ぎず、本発明の技術的な思想のすべてを代弁するものではないため、本出願の時点においてこれらに代替できる多様な均等物及び変形例があり得ることを理解せねばならない。
【0024】
後述する説明において、本願の一部を形成する添付図面を参照する。詳細な説明に記述された具現例、図面及び請求項は、制限しようとする意図がない。ここに開示された主題物の精神と範囲から外れることなく他の実施例を活用することができ、他の変更も可能である。ここに一般的に記述され、図面によって説明されたような本発明の様相は、多様な他の構成で配列、代替、組合せ、分離及びデザインされ得、その全てがここで確かに考慮されたということを理解することができるであろう。
【0025】
他の方式で定義されない限り、本明細書において使用されたあらゆる技術的・科学的用語は、本発明が属する技術分野における通常の知識を持つ者(以下、「当業者」とする。)に共通して理解されるものと同じ意味を有する。
【0026】
本発明は、本願に説明された特定の実施例によって限定されない。当業者に明白であるように、本発明の精神と範囲から外れることなく多様な変更と修正が可能である。ここに列挙したものに加え、本願の範囲内で機能的に均等な方法が前述した説明から当業者に明白になるであろう。そのような変更と修正は、添付の特許請求の範囲内にある。このような請求項が資格を付与する均等物の全体範囲と共に、本発明は、請求項のみによって限定される。本発明が、勿論、変化され得る特定の方法に限定されることではないという点を理解しなければならない。ここに使用された専門用語は、特定の実施例を説明するための目的としてのみ使用されているだけで、制限しようとする意図ではない。
【0027】
本発明によるリチウム二次電池用の正極活物質は、以下のようである。
【0028】
本発明による正極活物質は、リチウム二次電池用の正極活物質粉体の表面にコーティング層を含み、コーティング層は、リチウムモリブデン化合物を含む。例えば、正極活物質はNCMであり得る。その中でも特に、ニッケルの含量が80%以上である高含量ニッケルのNCMの場合、サイクル駆動環境における安定性を増加させるために電解液との反応性を減少させる必要がある。本発明による正極活物質は、リチウムモリブデン化合物を含むコーティング層を含む。このコーティング層は、電解液との反応性を減少させることができ、高温におけるガス発生が低減される。
【0029】
コーティング層は、リチウムホウ素化合物をさらに含み得る。例えば、正極活物質の表面にLi‐B化合物とLi‐Mo化合物が均一に分布し得る。例えば、Li‐B化合物は、LiBO、LiBO、Li、LiB、Liのうち一つ以上であり、Li‐Mo化合物は、LiMoOであり得る。そして、リチウムモリブデン化合物とホウ素が複合コーティングされたものであり得る。言い換えれば、リチウムホウ素化合物でコーティングされたものであり得る。
【0030】
リチウムモリブデン化合物は、リチウムモリブデン酸化物であり得る。リチウムモリブデン酸化物はLiMoOであり得る。
【0031】
望ましくは、リチウムモリブデン化合物はToF‐SIMSスペクトルにおけるピーク強度比(peak intensity ratio)がLiMoO :LiMoO =1:0.2~0.8であり得る。ピーク強度比は、熱処理温度、時間、量によって変わるため、のように1:0.2~0.8のような範囲を有するようになる。リチウムモリブデン化合物は、ToF‐SIMSスペクトルにおけるピーク強度比がLiMoO :LiMoO13 =1:0.03~0.3であり得る。リチウムモリブデン化合物は、ToF‐SIMSスペクトルにおけるピーク強度比がLiMoO13 :LiMoO13:LiMoO13 :LiMoO13 :LiMoO13 =1:0.5~0.9:0.5~0.9:0.1~0.5:0.3~0.7であり得る。このようなピーク強度比は、LiMoO物質と同一である。
【0032】
即ち、本発明による正極活物質のコーティング層は、ToF‐SIMS分析によって得られるLiMoO 、LiMoO ピークが存在するだけでなく、これらのピークの間で所定のピーク強度比を有することを特徴とする。そして、本発明による正極活物質のコーティング層は、ToF‐SIMS分析によって得られるLiMoO 、LiMoO13 ピークが存在するだけでなく、これらのピークの間で所定のピーク強度比を有することを特徴とする。また、本発明による正極活物質のコーティング層は、ToF‐SIMS分析によって得られるLiMoO13 、LiMoO13、LiMoO13 、LiMoO13 、LiMoO13 ピークが存在するだけでなく、これらのピークの間で所定のピーク強度比を有することを特徴とする。このような正極活物質をリチウム二次電池の正極に用いる場合、高出力及び高安定性を図ることができる。
【0033】
他の例で、リチウム二次電池用の正極活物質粉体は、平均粒径が相異なる二種以上の正極活物質を含み、二種以上の正極活物質のうち平均粒径が大きい正極活物質をより多く含み得る。例えば、10μmサイズの正極活物質と5μmサイズの正極活物質を、8:2の重量比で混合した正極活物質であり得る。
【0034】
正極活物質の平均粒径は、2μm以上50μm以下の範囲内に収まることが望ましい。正極活物質の平均粒径が2μm未満であると、正極の製作に際し、プレス工程で正極活物質が集電体から剥離されやすく、また正極活物質の表面積が大きくなるため、導電材またはバインダーなどの添加量を増加させる必要があることから単位質量当たりのエネルギー密度が小くなるためであり、これに対し、50μmを超過すると、正極活物質の分離膜を貫通して短絡を起こしてしまう可能性が高くなるためである。
【0035】
本発明によるリチウム二次電池用の正極活物質の製造方法は、以下のようである。
【0036】
リチウム二次電池用の正極活物質粉体の表面に残留するリチウムを水洗する。リチウム二次電池用の正極活物質は、例えば、NCMである。原料物質として、ニッケル化合物、コバルト化合物、マンガン化合物の水溶液と塩基性溶液を共に混合して反応させることで反応沈殿物を得て、当該沈殿物を乾燥及び熱処理して活物質前駆体を製造した後、活物質前駆体をリチウム化合物と混合した後に熱処理することで正極活物質を製造し得る。このような正極活物質には、リチウム化合物、例えば、LiOHが残留し得るため、水洗段階を必要とし得る。水洗に際し、正極活物質:水の重量比を1:0.5~1:2にする。水洗時、LiOHまたはLiMoOのような添加剤を投入してもよい。水洗は省略可能である。望ましくは、正極活物質はNCMであるが、リチウム二次電池に使用される正極活物質であれば、いずれも使用可能である。
【0037】
水洗されたリチウム二次電池用の正極活物質粉体に、Mo含有ソースとB含有ソースを混合した後に熱処理し、正極材の表面にリチウムモリブデン化合物をコーティングする工程を行う。この際、Mo含有ソースとB含有ソースは、Mo重量/正極活物質の重量を200~5,000ppmになる量にし得る。また、B重量/正極活物質の重量を200~2,000ppmになるようにする量にし得る。
【0038】
Mo重量/正極活物質の重量が200ppmより少ないと、コーティングの効果がない。Mo重量/正極活物質の重量が5,000ppmを超えると、過量のコーティング層が生成されることがあり、このような過量のコーティング層は、容量と抵抗の面で望ましくない。同様に、B重量/正極活物質重量が200ppmよりも少ないと、コーティングの効果がない。B重量/正極活物質の重量が2,000ppmを超えると、過量のコーティング層が生成されることがあり、このような過量のコーティング層は、容量と抵抗の面で望ましくない。ここで、Mo含有ソースは、モリブデン酸(HMoO)の外のMoソースであることが望ましい。例えば、Mo含有ソースは、MoO、MoO、MoB、MoC、MoB、LiBOであり得る。B含有ソースは、HBO、BC、Bであり得る。
【0039】
リチウム二次電池用の正極活物質粉体にMo含有ソースとB含有ソースを混合する方法は、Mo含有ソースとB含有ソースをリチウム二次電池用の正極活物質粉体に固相または液相の方式で行われ得る。固相または液相方式としては、混合(mixing)、ミリング(milling)、噴霧乾燥(spray drying)、グラインディング(grinding)などの方法を用い得る。
【0040】
熱処理は、空気中でまたは酸素雰囲気で行い得る。コーティング温度は、150~800℃であり得る。150℃未満では、十分な反応が起こらないことがある。800℃を超えると、コーティング物質が正極材の内部へドープされる恐れがあり、800℃を超えないことが望ましい。1,000℃を超える温度の場合には、正極活物質の熱分解によって性能の劣化が発生する恐れがある。
【0041】
このような方法によって、リチウム二次電池用の正極材の表面にリチウムモリブデン化合物とホウ素が複合コーティングされる。
【0042】
本発明によると、リチウムモリブデン化合物を正極活物質の表面にコーティングすることで、リチウム二次電池の正極における正極活物質の表面抵抗値を低下させることができる。リチウムモリブデン化合物がコーティング層に含まれた正極材は、これが含まれていない正極活物質に比べて、高出力特性が発現できる。リチウムモリブデン化合物がコーティング層に含まれた正極材は、これが含まれていない正極活物質に比べて、ガス発生量の低減特性が発現できる。したがって、リチウムモリブデン化合物を正極活物質の表面にコーティングすることで、高温で正極活物質の熱安定性を改善することができる。
【0043】
以下では、実験例を通じて本発明をさらに詳しく説明する。
【0044】
比較例1
1次焼成された10μmサイズのNCM(88:5:7)リチウム二次電池正極活物質粉体の表面に残留するリチウムを水洗した後、HBO(B重量/正極活物質の重量=1,000ppm)を混合した後、300℃の酸素雰囲気で4時間のコーティング工程を行った。
【0045】
比較例2
1次焼成された10μmサイズのNCM(88:5:7)リチウム二次電池正極活物質粉体の表面に残留するリチウムを水洗した後、HBO(B重量/正極活物質の重量=1,000ppm)を混合した後、300℃酸素雰囲気で4時間コーティング工程を行った。1次焼成された5μmサイズのNCM(88:5:7)リチウム二次電池正極活物質に対しても同じコーティング工程を行い、最終的に10μmサイズのNCM正極活物質と5μmサイズのNCM正極活物質の重量比を8:2で混合した正極活物質を製造した。
【0046】
実施例1
1次焼成された10μmサイズのNCM(88:5:7)リチウム二次電池正極活物質粉体の表面に残留するリチウムを水洗した後、MoO(Mo重量/正極活物質の重量=1,000ppm)とHBO(B重量/正極活物質の重量=500ppm)を混合した後、350℃の酸素雰囲気で4時間コーティング工程を行った。
【0047】
実施例2
1次焼成された10μmサイズのNCM(88:5:7)リチウム二次電池正極活物質粉体の表面に残留するリチウムを水洗した後、MoO(Mo重量/正極活物質の重量=1,000ppm)とHBO(B重量/正極活物質の重量=500ppm)を混合した後、350℃の酸素雰囲気で4時間コーティング工程を行った。1次焼成された5μmサイズのNCM(88:5:7)リチウム二次電池正極活物質に対しても同じコーティング工程を行い、最終的に10μmサイズのNCM正極活物質と5μmサイズのNCM正極活物質の重量比を8:2で混合した正極活物質を製造した。
【0048】
コインハーフセルの特性評価
実施例1-2及び比較例1-2で製造された各々の正極活物質と、カーボンブラック導電材と、PVdFバインダーとを、N‐メチルピロリドン(NMP)溶媒中に96:2:2の重量比で混合して正極スラリーを製造し、それをアルミニウム集電体の一面に塗布した後、100℃で乾燥した後に圧延して正極を製造した。負極には、リチウムメタルを使用した。
【0049】
このように製造された正極と負極との間に多孔性ポリエチレン分離膜を介在して電極組立体を製造し、電極組立体をケースの内部に位置させた後、ケースの内部に電解液を注入することでリチウム二次電池を製造した。この際、電解液は、エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート/ジエチルカーボネート/(EC/EMC/DECの混合体積比=3/4/3)からなった有機溶媒に1.0M濃度のリチウムヘキサフルオロホスフェート(LiPF)を溶解して製造した。
【0050】
このように製造された各リチウム二次電池ハーフセルに対し、25℃でCC‐CVモードで、0.2Cで4.25Vになるまで充電し、0.2Cの定電流で3.0Vまで放電して充放電実験を行ったときの充電容量、放電容量、効率、DCIRを測定した。
【0051】
表1は、コインハーフセルの特性評価結果である。比較例1、2、実施例1、2に対し、充電容量、放電容量、効率及びDCIRを示した。
【0052】
【表1】
【0053】
表1に示したように、比較例1、2に比べて実施例1、2で効率が高くて、DCIRは小さい。したがって、本発明のようにリチウムモリブデン化合物を正極活物質の表面にコーティングすることで、リチウム二次電池の正極における正極活物質の表面抵抗値を低下させることができる。
【0054】
DSC(Differential Scanning Calorimetry)特性評価
このように製造された各リチウム二次電池ハーフセルに対し、25℃でCC‐CVモードで、0.2Cで4.25Vになるまで充電し、0.2Cの定電流で2.5Vまで放電、0.2Cで4.25Vになるまで充電して充放電実験を行った後、セルを分解して正極をDMCで5秒間洗浄した。
【0055】
洗浄された正極を直径3cmで4個を打ち抜いた後、DSCの下板に分けて載せ、電解液を5μL注入した。この際、電解液は、エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート/ジエチルカーボネート/(EC/EMC/DECの混合体積比=3/4/3)からなる有機溶媒に1.0M濃度のリチウムヘキサフルオロホスフェート(LiPF)を溶解して製造した。その後、金プレート(golden plate)、DSCの上板の順に封止した後、DSCを25℃から300℃まで、毎分10℃の昇温速度で測定した。
【0056】
表2と図1は、比較例2と実施例2のDSCデータ及びグラフである。図1で熱の流れをW/g単位として温度の関数に示した。
【0057】
【表2】
【0058】
比較例2は、実施例2に比べてピーク温度が低く、活物質に比べて発熱量が非常に大きい。比較例2と実施例2とのDSCカーブ概形の比較から、リチウムモリブデン化合物を正極活物質の表面にコーティングすることで、高温で正極活物質の熱安定性が改善可能であることを確認することができる。このようにリチウムモリブデン化合物がコーティング層に含まれた正極材は、DSC熱安定性が改善されるので、リチウムモリブデン化合物が含まれていない正極活物質に対してガス発生量の低減特性が発現できる。
【0059】
モノセルの特性評価
正極活物質、導電材、バインダー、添加剤の割合を各々、97.5/1.0/1.35/0.15にして正極スラリーを作る。アルミニウム集電体に正極スラリーをコーティングし、天然黒鉛と人造黒鉛を特定の割合で配合して対極としての負極を準備する。電解液は塩0.7Mで準備し、寿命維持のためにLiFSI(Lithium bis(fluorosulfonyl)imide,0.3M)を添加して使用する。注液量は、電極当たり100μLに算定し、自社製造の分離膜を適正な大きさで正極と負極との間に位置させる。準備されたモノセルに電解液を入れてフォーメーション(formation)を行って初期ガスを除去し、モノセルの評価を準備する。
【0060】
温度25℃の条件で行い、初期容量が終わると、自動にHPPC(Hybrid Pulse Power Characterization)を行う。初期容量の終了後(さらに0.33C放電から0.33C完全充填し)、0.33CでSOC95に放電した後に1.5Cで10秒間の放電パルス、0.33CでSOC95に充電した後に1.5Cで10秒間の充電パルス、0.33CでSOC80に放電した後に2.5Cで30秒間の放電パルス、0.33CでSOC80に充電した後に2.5Cで30秒間の充電パルス、SOC50、20、10、5まで同様の方法でHPPCを行って初期容量及び初期抵抗の測定を完了した後、0.33CでSOC0に放電した後、低温出力のためにSOC30まで充電して準備する。準備されたモノセルは、-10℃でSOC25まで0.4Cで放電させながら電圧降下及び抵抗を測定する。
【0061】
表3は、モノセルデータのうちHPPCの結果である。
【0062】
【表3】
【0063】
比較例1と実施例1に対し、SOC別の放電抵抗を示した。比較例1に比べて実施例1が全てのSOC区間で放電抵抗が低かった。
【0064】
表4は、モノセルデータのうち低温出力の結果である。
【0065】
【表4】
【0066】
比較例1と実施例1を比較すると、実施例1のΔ電圧と抵抗がいずれも低い。これによって、本発明の実施例のようにリチウムモリブデン化合物がコーティング層に含まれた正極材は、含まれていない正極活物質に比べて高出力特性を発現することを確認することができる。
【0067】
ToF‐SIMS(Time of Flight Secondary Ion Mass Spectrometry:飛行時間型二次イオン質量分析法)分析結果
ToF‐SIMS分析を実施してコーティング層の成分を確認した。通常、材料組成及び結晶構造の確認にはXRD測定を行うが、正極活物質のコーティング層の厚さは、数~数十nmの厚さを有するため、XRD測定ではピークの検出が容易ではない。本発明では、ToF‐SIMS分析によって非常に薄いコーティング層の成分を確認した。ToF‐SIMS分析結果、本発明の実施例において正極活物質の表面にリチウムモリブデン化合物コーティング層を確認した。即ち、本発明の製造方法によって、リチウムモリブデン化合物が形成されたことを確認した。
【0068】
図2は、比較例1と実施例1のToF‐SIMSスペクトルの分析結果である。比較のために、MoOとLiMoOの結果も共に示した。
【0069】
図2を参照すると、実施例1でピーク強度比がLiMoO :LiMoO =1:0.5である。LiMoO は、mass168.9~169.0で検出されたピークである。LiMoO は、mass170.8~171.0で検出されたピークである。mass値は、ToF‐SIMSスペクトルを、H、C、C2、C3ピークに補正(calibration)した後に測定される値である。
【0070】
実施例1でLiMoO とLiMoO のピーク強度比がLiMoO物質と同じである。比較例1では、これらのピークが観測されなかった。
【0071】
また、図3も、比較例1と実施例1のToF‐SIMSスペクトルの分析結果である。比較のためにMoOとLiMoOの結果も共に示した。図3を参照すると、実施例1でピーク強度比がLiMoO13 :LiMoO13:LiMoO13 :LiMoO13 :LiMoO13 =1:0.75:0.75:0.25:0.5である。LiMoO13 、LiMoO13、LiMoO13 、LiMoO13 、LiMoO13 のmassは、各々312.5~313.0、313.5~314.0、314.5~315.0、315.5~316.0、316.5~317.0で検出されるピークである。mass値は、ToF‐SIMSスペクトルを、H、C、C2、C3ピークに補正した後に測定される値である。
【0072】
実施例1で、LiMoO13 、LiMoO13、LiMoO13 、LiMoO13 、LiMoO13 間のピーク強度比が、LiMoO物質と同じである。比較例1では、これらのピークが観測されなかった。
【0073】
図4は、実施例1のToF‐SIMSのイメージ分析結果である。図4によると、正極活物質の表面でLiBO とLiMoO が観測される。イメージにおいて、LiBO は暗い点で示され、LiMoO はそれよりも明るい点で示される。したがって、Li‐B化合物とLi‐Mo化合物が均一に分布している。ToF‐SIMSでは、物質間の結合状態は示されない。そのため、LiBO とLiMoO ピークがコーティング層内の物質をLiBO物質とLiMoO物質に必ずしも限定するものではない。
【0074】
図2図4の結果から、本発明の正極活物質は、既存の正極活物質とは異なり、モリブデンとホウ素が複合的にコーティングされたことが分かる。また、ToF‐SIMS分析から、本発明の正極活物質の表面にLiMoOのようなリチウムモリブデン化合物が形成されたことを確認することができる。そして、このようなリチウムモリブデン化合物が正極活物質の表面に均一にコーティングされていることを確認することができる。
【0075】
このような化合物がコーティング層に含まれた結果、出力特性及びDSC熱安定性が改善されたことを確認した。
【0076】
以上、本発明を限定された実施例と図面によって説明したが、本発明はこれに限定されず、本発明の属する技術分野における通常の知識を持つ者によって本発明の技術思想と特許請求の範囲の均等範囲内で多様な修正及び変形が可能であることは言うまでもない。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】