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特表2022-554131電極活物質、及び当該電極活物質の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-28
(54)【発明の名称】電極活物質、及び当該電極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20221221BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20221221BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20221221BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20221221BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20221221BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 A
H01M4/131
H01M4/62 Z
C01G53/00 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022523696
(86)(22)【出願日】2020-10-15
(85)【翻訳文提出日】2022-06-17
(86)【国際出願番号】 EP2020079059
(87)【国際公開番号】W WO2021078626
(87)【国際公開日】2021-04-29
(31)【優先権主張番号】19204614.2
(32)【優先日】2019-10-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【弁理士】
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【弁理士】
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【弁理士】
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヨン,チン
(72)【発明者】
【氏名】シオス,ジェームズ,エー
(72)【発明者】
【氏名】ハーグ,ジェイコブ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァシララス,プロジア
(72)【発明者】
【氏名】ランパート,ジョーダン
(72)【発明者】
【氏名】ロン,ブランドン,レイ
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AB02
4G048AB06
4G048AC06
4G048AD03
4G048AE05
5H050AA07
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA08
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050DA09
5H050DA10
5H050EA08
5H050EA12
5H050GA02
5H050GA10
5H050HA00
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA14
(57)【要約】
(A)一般式Li1+x1TM1-x1(式中、TMは、Niと、Mn、Co及びAlのうちの少なくとも1種と、任意にMg、Ti、Zr、Nb、Ta、及びWから選択される少なくとも1種のさらなる金属との組み合わせであり、x1は-0.05~0.2の範囲である)によるコア材、及び
(B)コバルト化合物(単数又は複数)、チタン化合物(単数又は複数)、ジルコニウム化合物(単数又は複数)及びアルミニウム化合物(単数又は複数)の粒子であって、コバルトの平均酸化状態が+II超~+III未満であり、前記粒子中のリチウムのコバルトに対するモル比が0~1の範囲であり、前記粒子がコア材の表面に付着している、粒子
を含む、電極活物質。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)一般式Li1+x1TM1-x1(式中、TMは、Niと、Mn、Co及びAlのうちの少なくとも1種と、任意にMg、Ti、Zr、Nb、Ta、及びWから選択される少なくとも1種のさらなる金属との組み合わせであり、x1は-0.05~0.2の範囲である)によるコア材、及び
(B)コバルト化合物(単数又は複数)、及びアルミニウム化合物(単数又は複数)及びチタン化合物(単数又は複数)又はジルコニウム化合物(単数又は複数)の粒子であって、前記粒子中のリチウムのコバルトに対するモル比が0~1未満の範囲であり、前記粒子が前記コア材の表面に付着している、粒子
を含む、電極活物質。
【請求項2】
TMが、一般式(I)

(NiaCobMnc)1-dMd (I)

(式中、aは、0.6~0.95の範囲であり、
bは、0.025~0.2の範囲であり、
cは、0.025~0.2の範囲であり、
dは、0~0.1の範囲であり、
Mは、Al、Mg、Ti、Zr、Nb、Ta、W、及び前記の少なくとも2種の組み合わせから選択され、
a+b+c=1である)
による金属の組み合わせである、請求項1に記載の電極活物質。
【請求項3】
コバルトの平均酸化状態が、+II超~+III未満である、請求項1又は2に記載の電極活物質。
【請求項4】
前記粒子(B)がCoを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の電極活物質。
【請求項5】
粒子(B)がTi、Zr及びAlよりも多くのコバルトを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の電極活物質。
【請求項6】
コア(A)と粒子(B)の質量比が1000:1~1:1の範囲である、請求項1から5のいずれか一項に記載の電極活物質。
【請求項7】
粒子(B)が10nm~10μmの範囲の平均直径(D50)を有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の電極活物質。
【請求項8】
以下の工程、
(a)一般式Li1+x2TM1-x2(式中、TMは、Niと、Mn、Co及びAlのうちの少なくとも1種と、任意にMg、Ti、Zr、Nb、Ta、及びWから選択される少なくとも1種のさらなる金属との組み合わせであり、x2は0~0.25の範囲である)による材料を提供する工程と、
(b)前記材料を、コバルトの酸化物又は(オキシ)水酸化物、及びAl及びTi又はZrそれぞれの少なくとも1種の酸化物又は水酸化物又はオキシ水酸化物と接触させる工程と、
(c)工程(b)の中間体を焼成する工程と
を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の電極活物質を製造する方法。
【請求項9】
工程(c)が500~850℃の範囲の温度で行われる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
工程(b)がミキサーで行われる、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
工程(b)が、コバルトの酸化物又は(オキシ)水酸化物、及びAl及びTi又はZrそれぞれの少なくとも1種の酸化物又は水酸化物又はオキシ水酸化物の水性スラリーを工程(a)で提供された前記材料に添加し、その後に混合することにより行われる、請求項8から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
(A)少なくとも1種の請求項1から7のいずれか一項に記載の電極活物質、
(B)導電状態の炭素、及び
(C)バインダー、
を含有する、電極。
【請求項13】
(1)少なくとも1つの請求項12に記載の電極、
(2)少なくとも1つのアノード、及び
(3)電解質
を含有する、二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、
(A)一般式Li1+x1TM1-x1(式中、TMは、Niと、Mn、Co及びAlのうちの少なくとも1種と、任意にMg、Ti、Zr、Nb、Ta、及びWから選択される少なくとも1種のさらなる金属との組み合わせであり、x1は-0.05~0.2の範囲である)によるコア材、及び
(B)コバルト化合物(単数又は複数)、アルミニウム化合物(単数又は複数)及びチタン化合物(単数又は複数)又はジルコニウム化合物(単数又は複数)の粒子であって、前記粒子中のリチウムのコバルトに対するモル比が0~1の範囲であり、前記粒子がコア材の表面に付着している、粒子
を含む電極活物質に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、エネルギーを貯蔵するための最新の装置である。携帯電話及びラップトップコンピュータなどの小型の装置からカーバッテリー及び他のE-モビリティ(e-mobility)用バッテリーまで、多くの応用分野が考えられてきた。電解質、電極材料及びセパレータなどの様々な電池の構成要素は、電池の性能に関して重要な役割を有する。カソード材料は特に注目されている。いくつかの材料、例えばリチウム鉄ホスフェート、リチウムコバルトオキシド、及びリチウムニッケルコバルトマンガンオキシドが提案されてきた。広範な研究調査が行われてきているが、これまでに見出された解決策は未だに改善の余地がある。
【0003】
現在、いわゆるNiリッチ(Niの量が多い)電極活物質、例えば、総TM含有量に対して、60モル%以上のNiを含有する電極活物質への特定の関心が観察される。
【0004】
リチウムイオン電池、特にNiリッチ電極活物質の1つの問題は、電極活物質の表面での望ましくない反応に起因する。このような反応は、電解質又は溶媒又はその両方の分解であり得、電気化学セル中のガス発生(Gassing)につながる可能性がある。したがって、充電及び放電中のリチウム交換を妨げることなく、表面を保護することが試みられた。例は、例えばアルミニウムオキシド又はカルシウムオキシドで電極活物質をコーティングする試みである(例えば、US 8,993,051参照)。
【0005】
他の理論では、表面の遊離LiOH又はLiCO、又は水性媒体での抽出によって決定することができるいわゆる反応性リチウムに望ましくない反応が割り当てられる。電極活物質を水で洗浄することにより、そのような遊離のLiOH又はLiCO又は反応性リチウムを除去する試みがなされてきた(例えば、JP 4,789,066 B、JP 5,139,024 B、及びUS2015/0372300参照)。しかしながら、場合によっては、得られた電極活物質の特性が改善されないか、又は悪化することが観察された。
【0006】
US 6,921,609では、特定のカソード活物質をLiNO及びCo(NO六水和物の水溶液で処理し、その後、焼成する。著者らは、LiCoOの勾配が形成されることを主張している。しかしながら、残留リチウム又は抽出可能なリチウムに起因する問題は解決されていない。
【0007】
時には、電極活物質と導電性カーボンとバインダーとのスラリーはゲル化する傾向がある。前記ゲル化は、集電体への前記スラリーの適用を困難にするので、避けるべきである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】US 8,993,051
【特許文献2】JP 4,789,066 B
【特許文献3】JP 5,139,024 B
【特許文献4】US2015/0372300
【特許文献5】US 6,921,609
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、優れた電気化学特性を有し、かつゲル化傾向が低い、Ni含有、特にNiリッチ電極活物質の製造方法を提供することであった。また、本発明の目的は、優れた電気化学特性を有するNiリッチ電極活物質を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
したがって、以下で本発明の電極活物質とも称される、冒頭で定義された電極活物質が見出された。本発明の電極活物質は、
(A)一般式Li1+x1TM1-x1(式中、TMは、Niと、Mn、Co及びAlのうちの少なくとも1種と、任意にMg、Ti、Zr、Nb、Ta、及びWから選択される少なくとも1種のさらなる金属との組み合わせであり、x1は-0.05~0.2の範囲である)によるコア材(以下、「コア(A)」とも称される)、及び
(B)コバルト化合物(単数又は複数)、アルミニウム化合物(単数又は複数)及びチタン化合物(単数又は複数)又はジルコニウム化合物(単数又は複数)の粒子であって、前記粒子中のリチウムのコバルトに対するモル比が0~1の範囲であり、前記粒子がコア材の表面に付着している、粒子(以下、「粒子(B)」とも称される)
を含む。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、コア(A)及び粒子(B)について詳しく説明する。
【0012】
本発明の一実施態様において、コア(A)は、3~20μm、好ましくは5~16μmの範囲の平均粒径(D50)を有する。平均粒径は、例えば光散乱又はレーザー回折又は電気音響分光法(electroacoustic spectroscopy)によって決定することができる。粒子は通常、一次粒子からの凝集体から構成され、上記の粒径は二次粒子の粒径を指す。
【0013】
一部の元素は遍在するものである。本発明の文脈において、不純物としてのナトリウム、カルシウム、鉄又は亜鉛などの微量の遍在する金属は、本発明の明細書では考慮されない。この文脈における微量とは、それぞれ、TM又は粒子(B)の総金属含有量に対して、0.05モル%以下の量を意味する。
【0014】
好ましくは、コア(A)はニッケルリッチの電極活物質である。コア中のニッケルの割合は、TM中の全金属に対して、50モル%以下、例えば40モル%であってもよいが、コア材中のニッケルのモル割合が少なくとも60モル%であることが好ましい。
【0015】
上記式中のTMは、Mn、Co及びAlのうちの少なくとも1種、好ましくは少なくとも2種、例えばCoとMn、CoとAl、又はさらにMnとCoとAlを含有する。
【0016】
任意に、TMは、Mg、Ti、Nb、Ta、及びWから選択される少なくとも1種のさらなる金属を含有してもよい。
【0017】
本発明の一実施態様において、TMは、一般式(I)による金属の組み合わせである

(NiaCobMnc)1-dMd (I)

(式中、aは、0.6~0.95、好ましくは0.75~0.95、より好ましくは0. 80~0.91の範囲であり、
bは、0.025~0.2、好ましくは0.025~0.1の範囲であり、
cは、0.025~0.2、好ましくは0.025~0.1、より好ましくは0.04~0.1の範囲であり、
dは、0~0.1の範囲であり、
Mは、Al、Mg、Ti、Zr、Nb、Ta、W、及び前記の少なくとも2種の組み合わせから、好ましくはAl及びAlと前記の少なくとも1種との組み合わせから選択され、
a+b+c=1である)。
【0018】
本発明の別の実施態様において、変数TMは、一般式(Ia)に対応する

(Nia*Cob*Ale*)1-d*M2 d* (I a)

(式中、a+b+e=1であり、
は、0.75~0.95、好ましくは0.88~0.95の範囲であり、
は、0.025~0.2、好ましくは0.025~0.1の範囲であり、
は、0.01~0.2、好ましくは0.015~0.04の範囲であり、
は、0~0.1、好ましくは0~0.02の範囲であり、
は、W、Mo、Ti又はZrのうちの少なくとも1つである)。
【0019】
本発明の一実施態様において、TMは一般式(I)に対応し、x1は、-0.05~0.2、好ましくは0~0.1、さらにより好ましくは0.01~0.05の範囲である。
【0020】
本発明の一実施態様において、TMは一般式(Ia)に対応し、x1は-0.05~0の範囲である。
【0021】
粒子(B)は、酸化コバルト化合物を含み、ここで、前記粒子中のリチウムのコバルトに対するモル比が0~1未満の範囲であり、前記粒子がコア材、ひいてはコア(A)の表面に付着している。粒子(B)中のコバルトの酸化状態は、X線光電子分光法(「XPS」)により決定されてもよく、コア(A)に付着しているという性質は、透過電子顕微鏡(「TEM」)及び走査電子顕微鏡(「SEM」)等の画像処理により決定されてもよい。粒子(B)の相の種類は、高分解能X線粉末回折(「XRD」)により決定されてもよい。好ましい実施態様において、粒子(B)中のリチウムのコバルトに対する平均モル比は、0~1未満の範囲である。
【0022】
粒子(B)は、コア(A)の細孔に全部又は部分的に組み込まれてもよいか、又は外表面に付着していてもよい。
【0023】
本発明の一実施態様において、粒子(B)中のコバルトの平均酸化状態は、+2~+3、好ましくは+2~3、さらにより好ましくは2.5~3.0の範囲である。
【0024】
本発明の別の実施態様において、粒子(B)中のコバルトの平均酸化状態は、+III~+IV、好ましくは3.0~3.5の範囲、さらにより好ましくは3.5である。
【0025】
粒子(B)中のリチウムのコバルトに対するモル比は、0~1、好ましくは0超~1未満の範囲である。
【0026】
好ましい実施態様において、粒子(B)は、定義された化合物ではなく、いくつかのコバルト含有酸化物の混合物、例えば、任意成分としてのLiCoO及びCoを有する、準化学量論的なリチウムコバルト酸化物化合物、さらにCo又はLiCo、から構成されている。
【0027】
本発明の一実施態様において、コア(A)と粒子(B)の質量比は、1000:1~10:1、好ましくは100:1~20:1の範囲である。
【0028】
本発明の一実施態様において、粒子(B)は、10nm~10μm、好ましくは10nm~1μmの範囲の平均直径(D50)を有する。平均直径(D50)は、TEM又はSEMなどの画像処理によって決定することができる。
【0029】
粒子(B)は、コバルトと、リチウムと、Alと、追加元素としてTi及びZrのうちの少なくとも1つを含み、粒子(B)は、Al、Ti及びZrのいずれよりもCoを多く含んでいることが好ましい。粒子(B)がAlと、Ti及びZrから選択される少なくとも1つの追加元素を含む実施態様において、個々の粒子(B)は、Li及びCoの両方と、Ti、Zr及びAlのうちの少なくとも1つを含んでもよいが、他の実施態様では、個々の粒子がコバルト、又はTi、Zr又はAlのいずれかを含む。
【0030】
本発明の一実施態様では、粒子(B)において、CoとAl及びZr又はTiの合計とのモル比は、2:1~50:1の範囲である。
【0031】
本発明の一実施態様において、本発明の電極活物質は、0.1~0.8m/gの範囲の、DIN-ISO 9277:2003-05に従って決定された、表面積(BET)を有する。
【0032】
本発明のさらなる態様は、少なくとも1種の本発明による電極活物質を含む電極に関する。それらは、リチウムイオン電池に特に有用である。少なくとも1つの本発明による電極を含むリチウムイオン電池は良好な放電挙動を示す。少なくとも1種の本発明による電極活物質を含む電極は、以下で本発明のカソード又は本発明によるカソードとも称される。
【0033】
本発明によるカソードは、さらなる構成要素を含むことができる。それらは、集電器、例えばアルミホイル(これに限定されない)を含むことができる。それらは、導電性炭素及びバインダーをさらに含むことができる。
【0034】
好適なバインダーは、好ましくは、有機(コ)ポリマーから選択される。好適な(コ)ポリマー、すなわち、ホモポリマー又はコポリマーは、例えば、アニオン(共)重合、触媒(共)重合又はフリーラジカル(共)重合により得ることができる(コ)ポリマーから、特にポリエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリブタジエン、ポリスチレン、並びに、エチレン、プロピレン、スチレン、(メタ)アクリロニトリル及び1,3-ブタジエンから選択された少なくとも2種のコモノマーのコポリマーから選択することができる。ポリプロピレンも適する。ポリイソプレン及びポリアクリレートはさらに適している。ポリアクリロニトリルが特に好ましい。
【0035】
本発明の文脈において、ポリアクリロニトリルは、ポリアクリロニトリルホモポリマーだけでなく、アクリロニトリルと1,3-ブタジエン又はスチレンとのコポリマーも意味すると理解される。ポリアクリロニトリルホモポリマーが好ましい。
【0036】
本発明の文脈において、ポリエチレンは、ホモポリエチレンだけでなく、少なくとも50モル%の共重合されたエチレン、及び50モル%以下の少なくとも1つのさらなるコモノマー、例えばα-オレフィン、例えばプロピレン、ブチレン(1-ブテン)、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-ペンテン、及びまたイソブテン、ビニル芳香族のもの、例えばスチレン、及びまた(メタ)アクリル酸、ビニルアセテート、ビニルプロピオネート、(メタ)アクリル酸のC~C10-アルキルエステル、特にメチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、n-ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、n-ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、及びまたマレイン酸、無水マレイン酸及び無水イタコン酸を含むエチレンのコポリマーも意味すると理解される。ポリエチレンはHDPE又はLDPEであり得る。
【0037】
本発明の文脈において、ポリプロピレンは、ホモポリプロピレンだけでなく、少なくとも50モル%の共重合されたプロピレン、及び50モル%以下の少なくとも1つのさらなるコモノマー、例えばエチレン、及びα-オレフィン、例えばブチレン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン及び1-ペンテンを含むプロピレンのコポリマーも意味すると理解される。ポリプロピレンは、好ましくはイソタクチックポリプロピレン又は本質的にイソタクチックポリプロピレンである。
【0038】
本発明の文脈において、ポリスチレンは、スチレンのホモポリマーだけでなく、アクリロニトリル、1,3-ブタジエン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸のC~C10-アルキルエステル、ジビニルベンゼン、特に1,3-ジビニルベンゼン、1,2-ジフェニルエチレン及びα-メチルスチレンとのコポリマーも意味すると理解される。
【0039】
別の好ましいバインダーは、ポリブタジエンである。
【0040】
他の好適なバインダーは、ポリエチレンオキシド(PEO)、セルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリイミド及びポリビニルアルコールから選択される。
【0041】
本発明の一実施態様において、バインダーは、50,000g/molから、1,000,000g/molまで、好ましくは500,000g/molまでの範囲の平均分子量Mを有する(コ)ポリマーから選択される。
【0042】
バインダーは、架橋された又は架橋されていない(コ)ポリマーであり得る。
【0043】
本発明の特に好ましい実施態様において、バインダーは、ハロゲン化(コ)ポリマー、特にフッ素化(コ)ポリマーから選択される。ハロゲン化又はフッ素化(コ)ポリマーは、1個の分子当たり少なくとも1個のハロゲン原子又は少なくとも1個のフッ素原子、より好ましくは1個の分子当たり少なくとも2個のハロゲン原子又は少なくとも2個のフッ素原子を有する少なくとも1つの(共)重合された(コ)モノマーを含む(コ)ポリマーを意味すると理解される。例としては、ポリビニルクロリド、ポリビニリデンクロリド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオリド(PVdF)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、ビニリデンフルオリド-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVdF-HFP)、ビニリデンフルオリド-テトラフルオロエチレンコポリマー、ペルフルオロアルキルビニルエーテルコポリマー、エチレン-テトラフルオロエチレンコポリマー、ビニリデンフルオリド-クロロトリフルオロエチレンコポリマー、及びエチレン-クロロフルオロエチレンコポリマーが挙げられる。
【0044】
好適なバインダーは、特に、ポリビニルアルコール及びハロゲン化(コ)ポリマー、例えばポリビニルクロリド又はポリビニリデンクロリド、特にフッ素化(コ)ポリマー、例えばポリビニルフルオリド及び特にポリビニリデンフルオリド及びポリテトラフルオロエチレンである。
【0045】
本発明のカソードは、電極活物質に対して、1~15質量%のバインダー(単数又は複数)を含んでもよい。他の実施態様において、本発明のカソードは、0.1質量%から1質量%未満のバインダー(単数又は複数)を含んでもよい。
【0046】
本発明のさらなる態様は、本発明の電極活物質、カーボン及びバインダーを含む少なくとも1つのカソード、少なくとも1つのアノード、及び少なくとも1つの電解質を含有する電池である。
【0047】
本発明のカソードの実施態様は、すでに上記で詳細に記載されている。
【0048】
前記アノードは、少なくとも1種のアノード活物質、例えばカーボン(グラファイト)、TiO、酸化リチウムチタン、シリコン又はスズを含有してもよい。前記アノードは、集電器、例えば銅ホイルなどの金属ホイルをさらに含有してもよい。
【0049】
前記電解質は、少なくとも1種の非水性溶媒、少なくとも1種の電解質塩、及び任意に添加剤を含んでもよい。
【0050】
電解質のための非水性溶媒は、室温で液体又は固体であり得、好ましくは、ポリマー、環状又は非環状エーテル、環状及び非環状アセタール、及び環状又は非環状有機カーボネートから選択される。
【0051】
好適なポリマーの例は、特に、ポリアルキレングリコール、好ましくはポリ-C~C-アルキレングリコール、及び特にポリエチレングリコールである。ここでは、ポリエチレングリコールは、20モル%以下の1種以上のC~C-アルキレングリコールを含むことができる。ポリアルキレングリコールは、好ましくは、2個のメチル又はエチル末端キャップを有するポリアルキレングリコールである。
【0052】
好適なポリアルキレングリコール、特に好適なポリエチレングリコールの分子量Mは、少なくとも400g/molであり得る。
【0053】
好適なポリアルキレングリコール、特に好適なポリエチレングリコールの分子量Mは、最大5000000g/mol、好ましくは最大2000000g/molであり得る。
【0054】
好適な非環状エーテルの例は、例えば、ジイソプロピルエーテル、ジ-n-ブチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタンであり、1,2-ジメトキシエタンが好ましい。
【0055】
好適な環状エーテルの例は、テトラヒドロフラン及び1,4-ジオキサンである。
【0056】
好適な非環状アセタールの例は、例えば、ジメトキシメタン、ジエトキシメタン、1,1-ジメトキシエタン及び1,1-ジエトキシエタンである。
【0057】
好適な環状アセタールの例は、1,3-ジオキサン、及び特に1,3-ジオキソランである。
【0058】
好適な非環状有機カーボネートの例は、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート及びジエチルカーボネートである。
【0059】
好適な環状有機カーボネートの例は、一般式(II)及び(III)、
【化1】
(式中、R、R及びRは、同一又は異なることができ、水素及びC~C-アルキル、例えばメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチ、イソブチル、sec-ブチル及びtert-ブチルから選択され、好ましくは、R及びRの両方ともがtert-ブチルであることはない)
による化合物である。
【0060】
特に好ましい実施態様において、Rはメチルであり、R及びRはそれぞれ水素であるか、又はR、R及びRはそれぞれ水素である。
【0061】
別の好ましい環状有機カーボネートは、式(IV)のビニレンカーボネートである。
【0062】
【化2】
【0063】
好ましくは、溶媒又は複数の溶媒は、水を含まない状態で、すなわち、例えば、カールフィッシャー滴定によって決定することができる1ppm~0.1質量%の範囲の含水量で使用される。
【0064】
電解質(C)は、少なくとも1種の電解質塩をさらに含む。好適な電解質塩は、特にリチウム塩である。好適なリチウム塩の例は、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiCFSO、LiC(C2n+1SO、リチウムイミド、例えばLiN(C2n+1SO(式中、nは1~20の範囲の整数である)、LiN(SOF)、LiSiF、LiSbF、LiAlCl、及び一般式(C2n+1SOYLiの塩である
(式中、Yが酸素及び硫黄から選択される場合、t=1であり、
Yが窒素及びリンから選択される場合、t=2であり、
Yが炭素及びケイ素から選択される場合、t=3である)。
【0065】
好ましい電解質塩は、LiC(CFSO、LiN(CFSO、LiPF、LiBF、LiClOから選択され、LiPF及びLiN(CFSOが特に好ましい。
【0066】
本発明の実施態様において、本発明による電池は、それによって電極が機械的に分離される1つ以上のセパレータを含む。好適なセパレータは、金属リチウムに対して反応しないポリマーフィルム、特に多孔性ポリマーフィルムである。セパレータのための特に好適な材料は、ポリオレフィン、特にフィルム形成の多孔性ポリエチレン及びフィルム形成の多孔性ポリプロピレンである。
【0067】
ポリオレフィン、特にポリエチレン又はポリプロピレンから構成されるセパレータは、35~45%の範囲の多孔率を有することができる。好適な細孔径は、例えば30~500nmの範囲である。
【0068】
本発明の他の実施態様において、セパレータは、無機粒子で充填したPET不織布から選択することができる。このようなセパレータは40~55%の範囲の多孔率を有し得る。好適な細孔径は、例えば80~750nmの範囲である。
【0069】
本発明による電池は、任意の形状、例えば、立方体、又は円筒形ディスク又は円筒形缶の形状を有することができるハウジングをさらに含む。一変形態様において、ポーチとして構成された金属ホイルをハウジングとして使用する。
【0070】
本発明による電池は、例えば低温(0℃以下、例えば-10℃以下でさえ)での良好な放電挙動、非常に良好な放電及びサイクル挙動を示す。
【0071】
本発明による電池は、互いに組み合わされている、例えば直列に接続するか、又は並列に接続することができる2つ以上の電気化学セルを含むことができる。直列接続が好ましい。本発明による電池において、少なくとも1つの電気化学セルは少なくとも1つの本発明によるカソードを含有する。好ましくは、本発明による電気化学セルにおいて、電気化学セルの大部分は本発明によるカソードを含有する。さらにより好ましくは、本発明による電池において、すべての電気化学セルは本発明によるカソードを含有する。
【0072】
本発明はさらに、本発明による電池を機器、特にモバイル機器に使用する方法を提供する。モバイル機器の例は、車両、例えば自動車、自転車、航空機、又は水上乗り物、例えばボート又は船である。モバイル機器の他の例は、手動で動くもの、例えばコンピューター、特にラップトップ、電話、又は例えば建築部門における電動手工具、特にドリル、バッテリー式ドライバー又はバッテリー式ステープラーである。
【0073】
本発明はさらに、以下に「本発明の方法」又は「(本)発明による方法」とも称される、本発明の電極活物質の製造方法に関する。
【0074】
本発明の方法は、本発明の文脈においてそれぞれ工程(a)、工程(b)及び工程(c)とも称される3つの工程(a)、(b)及び(c)を含む。工程(a)、(b)及び(c)は、続いて実行される。
【0075】
本発明の方法は、以下の工程、
(a)一般式Li1+x2TM1-x2(式中、TMは、Niと、Mn、Co及びAlのうちの少なくとも1種と、任意にMg、Ti、Zr、Nb、Ta、及びWから選択される少なくとも1種のさらなる金属との組み合わせであり、x2は0~0.25の範囲である)による材料を提供する工程と、
(b)前記材料を、コバルトの酸化物又は(オキシ)水酸化物、及び任意にTi、Zr又はAlの少なくとも1種の酸化物又は水酸化物又はオキシ水酸化物と接触させる工程と、
(c)工程(b)の中間体を焼成する工程と
を含む。
【0076】
以下、工程(a)~(c)をより詳細に説明する。
【0077】
本発明の方法は、一般式Li1+x2TM1-x2による電極活物質から出発し、工程(a)では、一般式Li1+x2TM1-x2(式中、TMは、Niと、Mn、Co及びAlのうちの少なくとも1種と、任意にMg、Ti、Zr、Nb、Ta、及びWから選択される少なくとも1種のさらなる金属との組み合わせであり、x2は0~0.25の範囲である)による材料を提供する。一般式Li1+x2TM1-x2による電極活物質は、以下で「出発物質」とも呼ばれる。
【0078】
本発明の一実施態様において、一般式Li1+x2TM1-x2による電極活物質は、3~20μm、好ましくは5~16μmの範囲の平均粒径(D50)を有する。平均粒径は、例えば光散乱又はレーザー回折又は電気音響分光法によって決定することができる。粒子は通常、一次粒子からの凝集体から構成され、上記の粒径は二次粒子の粒径を指す。
【0079】
本発明の一実施態様において、一般式Li1+x2TM1-x2による電極活物質は、単峰性の粒径分布を有する。本発明の別の実施態様において、一般式Li1+x2TM1-x2による電極活物質は、二峰性の粒径分布を有する。
【0080】
本発明の一実施態様において、出発物質は、0.1~1.0m/gの範囲の、以下で「BET表面積」とも称される比表面積(BET)を有する。BET表面積は、DIN ISO 9277:2010に従って、200℃で30分以上、及びこれを超えてサンプルをガス放出した後の窒素吸着によって決定することができる。
【0081】
本発明の一実施態様において、出発物質は、20~2,000ppmの範囲の、カールフィッシャー滴定によって決定された含水量を有し、200~1,200ppmが好ましい。
【0082】
好ましくは、コア(A)はニッケルリッチの電極活物質である。コア中のニッケルの割合は、TM中の全金属に対して、50モル%以下、例えば40モル%であってもよいが、コア材中のニッケルのモル割合が少なくとも60モル%であることが好ましい。
【0083】
上記式中のTMは、Mn、Co及びAlのうちの少なくとも1種、好ましくは少なくとも2種、例えばCoとMn、CoとAl、又はさらにMnとCoとAlを含有する。
【0084】
任意に、TMは、Mg、Ti、Nb、Ta、及びWから選択される少なくとも1種のさらなる金属を含有してもよい。
【0085】
本発明の一実施態様において、TMは、一般式(I)による金属の組み合わせである

(NiaCobMnc)1-dMd (I)

(式中、aは、0.6~0.95、好ましくは0.75~0.95、より好ましくは0.80~0.91の範囲であり、
bは、0.025~0.2、好ましくは0.025~0.1の範囲であり、
cは、0.025~0.2、好ましくは0.025~0.1、より好ましくは0.04~0.1の範囲であり、
dは、0~0.1の範囲であり、
Mは、Al、Mg、Ti、Zr、Nb、Ta、W、及び前記の少なくとも2種の組み合わせから、好ましくはAl及びAlと前記の少なくとも1種との組み合わせから選択され、
a+b+c=1である)。
【0086】
本発明の別の実施態様において、変数TMは、一般式(Ia)に対応する

(Nia*Cob*Ale*)1-d*M2 d* (I a)

(式中、a+b+e=1であり、
は、0.75~0.95、好ましくは0.88~0.95の範囲であり、
は、0.025~0.2、好ましくは0.025~0.1の範囲であり、
は、0.01~0.2、好ましくは0.015~0.04の範囲であり、
は、0~0.1、好ましくは0~0.02の範囲であり、
は、W、Mo、Ti又はZrのうちの少なくとも1つである)。
【0087】
工程(a)で提供される出発物質は一般に導電性炭素を含まない、すなわち、出発物質の導電性炭素含有量は、前記出発物質に対して、1質量%未満、好ましくは0.001~1.0質量%である。
【0088】
再び、一部の元素は遍在するものである。本発明の文脈において、不純物としてのナトリウム、カルシウム、鉄又は亜鉛などの微量の遍在する金属は、本発明の明細書では考慮されない。この文脈における微量とは、出発物質の総金属含有量に対して、0.05モル%以下の量を意味する。
【0089】
工程(b)では、前記材料が、コバルトの酸化物又は(オキシ)水酸化物、及び任意に10体積%以下の水、及び任意にTi、Zr又はAlのうちの少なくとも1種の酸化物又は水酸化物又はオキシ水酸化物と接触させる。このような接触は、前記コバルトの酸化物又は水酸化物、及び任意に10体積%以下の水、及び任意にTi、Zr又はAlのうちの少なくとも1種の酸化物又は水酸化物又はオキシ水酸化物を出発物質に添加し、その後に混合することにより達成される。
【0090】
工程(b)では、好ましくは、リチウムの化合物を添加しない。
【0091】
コバルトの酸化物及び水酸化物の例は、CoO、Co、Co(OH)、CoOOH、コバルトの非化学量論的なオキシ水酸化物である。Coが好ましい。
【0092】
任意に添加される、Ti、Zr又はAlの酸化物又は水酸化物又はオキシ水酸化物の例は、TiO、Ti、TiO(OH)2、TiO・aq、Al、AlOOH、Al(OH)、Al・aq、ZrO、Zr(OH)、及びZrO・aqである。
【0093】
本発明の一実施態様において、工程(b)は、コバルトの酸化物又は(オキシ)水酸化物、及び任意にTi、Zr又はAlのうちの少なくとも1種の酸化物又は水酸化物又はオキシ水酸化物の水性スラリーを出発物質に添加し、その後に混合することにより実行される。
【0094】
本発明の一実施態様において、工程(b)は、コバルトの酸化物又は(オキシ)水酸化物、及びTi、Zr及び/又はAlのうちの1種の酸化物又は水酸化物又はオキシ水酸化物の水性スラリーを出発物質に添加し、その後に混合することにより実行され、ここで、Coのモル量が、Ti、Zr又はAlそれぞれのモル量より多い。さらにより好ましくは、Coのモル量は、Ti、Zr及びAlのモル量よりも多い。
【0095】
本発明の一実施態様において、工程(b)は、ミキサー、例えばパドルミキサー、プラウシェアミキサー、自由落下ミキサー、ローラーミル、又は高剪断ミキサーで実行される。自由落下ミキサーは、重力の力を利用して混合を実現するものである。高剪断ミキサーが好ましい。
【0096】
本発明の一実施態様において、工程(b)では、ミキサーが毎分5~500回転(「rpm」)の範囲の速度で運転され、5~60rpmが好ましい。自由落下ミキサーが適用される実施態様では、5~25rpmがより好ましく、5~10rpmがさらにより好ましい。プラウシェアミキサーが適用される実施態様では、50~400rpmが好ましく、100~250rpmがさらにより好ましい。高剪断ミキサーの場合、100~950rpmの撹拌器、及び100~3,750rpmのチョッパーが好ましい。
【0097】
工程(b)は、乾燥状態で、すなわち、水又はグリコールなどの有機溶媒を添加せずに実行される。
【0098】
本発明の一実施態様において、コア(A)と粒子(B)の質量比は、1000:1~10:1、好ましくは100:1~20:1の範囲である。
【0099】
本発明の一実施態様において、工程(b)の持続時間は、1分~2時間の範囲であり、10分~1時間が好ましい。
【0100】
本発明の一実施態様において、工程(b)は、10℃~80℃の範囲の温度で行うことが好ましい。室温がさらにより好ましい。
【0101】
本発明の一実施態様において、工程(b)は、空気雰囲気中、又は窒素などの不活性ガス下で実行される。大気雰囲気が好ましい。
【0102】
工程(b)から、混合物が得られる。水が使用される実施態様では、混合物は湿った粉末の外観を有する。
【0103】
本発明の一実施態様において、工程(c)は、450~850℃、好ましくは500~750℃の範囲の温度で行われる。
【0104】
本発明の一実施態様において、450~850℃、好ましくは500~750℃の所望の温度に到達する前に、温度を上昇させる。例えば、最初に工程(b)の混合物を350~550℃の温度に加熱し、その後10分~4時間の時間一定に保持し、その後500~850℃に昇温させる。
【0105】
本発明の一実施態様において、工程(c)の加熱速度は、0.1~10℃/分の範囲である。
【0106】
本発明の一実施態様において、工程(c)は、ローラーハースキルン、プッシャーキルン、又はロータリーキルン、又は前記の少なくとも2つの組み合わせで行われる。ロータリーキルンには、そこで製造された材料の非常に良好な均質化という利点がある。ローラーハースキルン及びプッシャーキルンでは、異なる工程に関する異なる反応条件を極めて容易に設定することができる。実験室規模の試験では、箱型炉、管状炉、及び分割管状炉も使用可能である。
【0107】
本発明の一実施態様において、工程(c)は、酸素含有雰囲気中、例えば窒素-空気の混合物中、希ガス-酸素の混合物中、空気中、酸素中、又は酸素富化空気中で実施される。好ましい実施態様において、工程(b)の雰囲気は、空気、酸素及び酸素富化空気から選択される。酸素富化空気は、例えば、体積比50:50の空気と酸素の混合物であってよい。他の選択肢としては、体積比1:2の空気と酸素の混合物、体積比1:3の空気と酸素の混合物、体積比2:1の空気と酸素の混合物、及び体積比3:1の空気と酸素の混合物が挙げられる。
【0108】
本発明の一実施態様において、工程(c)は、低減されたCO含有量、例えば、0.01~500質量ppmの範囲の二酸化炭素含有量を有する雰囲気下で行われ、0.1~50質量ppmが好ましい。CO含有量は、例えば赤外光を使用する光学的方法によって決定することができる。例えば赤外光に基づく光学的方法での検出限界未満の二酸化炭素含有量を有する雰囲気下で、工程(c)を行うことがさらにより好ましい。
【0109】
本発明の一実施態様において、工程(c)は、1時間~30時間の範囲の持続時間を有する。60分~4時間が好ましい。この文脈では、冷却時間は無視される。
【0110】
工程(c)による熱処理の後、このようにして得られた電極活物質は、さらなる処理の前に冷却される。
【0111】
本発明の方法を実行することにより、優れた特性を有する電極活物質が、簡単なプロセスで得られる。好ましくは、このようにして得られた電極活物質は、0.1~0.8m/gの範囲の、DIN-ISO 9277:2003-05に従って決定された表面積(BET)を有する。
【0112】
いかなる理論にも拘束されることを望むことなく、抽出可能なリチウム、特に残留リチウムは、少なくとも部分的に表面に引き寄せられ、Coと反応してCo-Li含有酸化物種になると仮定される。
【0113】
以下の実施例によって、本発明をさらに説明する。
【実施例
【0114】
特に明記されていない限り、パーセンテージは質量パーセントである。RPM:1分あたりの回転数
I.カソード活物質
I.1.カソード活物質のための前駆体TM-OH.1の調製
脱イオン水、及び1kgの水当たり49gの硫酸アンモニウムを撹拌タンク反応器に入れた。この溶液を55℃に昇温させ、水酸化ナトリウム水溶液を添加することにより12のpH値に調整した。
【0115】
遷移金属硫酸塩水溶液及び水酸化ナトリウム水溶液を1.8の流量比で同時に供給し、総流量を8時間の平均滞留時間とすることにより、共沈反応を開始させた。遷移金属溶液は、Ni、Co及びMnを87:5:8のモル比及び1.65mol/kgの合計の遷移金属濃度で含有した。水酸化ナトリウム水溶液は、6の質量比の、25質量%の水酸化ナトリウム溶液及び25質量%のアンモニア溶液であった。水酸化ナトリウム水溶液を別に供給することにより、pH値を12に維持した。すべての供給の始動から始めて、母液を継続的に取り出した。33時間後、すべての供給流を停止した。得られた懸濁液を濾過し、蒸留水で洗浄し、空気中120℃で乾燥させ、ふるいにかけることにより、混合遷移金属(TM)オキシ水酸化物前駆体TM-OH.1を得た。
【0116】
I.2.カソード活物質(プリスティン、初期)の製造、工程(a)
CAM.P(プリスティン):I.1に従って得られた混合遷移金属オキシ水酸化物前駆体を、0.15モル%のTiO(平均一次粒径14nm)、0.15モル%の非晶質Zr(OH)(両方のモル%はTM-OH.1中のNi、Co及びMnの合計に基づくものである)、及び1.05のLi/(TM)モル比を有するLiOH一水和物と混合させた。この混合物を760℃に加熱し、酸素の強制流下で8時間保持して、電極活物質CAM.Pを得た。
【0117】
Malvern Instruments社のMastersizer 3000装置でレーザー回折の技法を用いて決定したD50は11.2μmであった。230℃で決定した残留水分は214ppmであった。
【0118】
I.3:後処理プロセス
I.3.1:工程(b.1)及び(d.1)
高剪断ミキサー(Earth Technica FS-10 High Speed Mixer)に、3,000のgCAM.P、76.4gのCo、2.4gのAl、及び3.7gのTiO(いずれも直径50nm以下)を入れた。水も有機溶媒も添加しなかった。攪拌器を380rpmに、チョッパーを3000rpmに設定して、10分間攪拌した。その後、混合粉末を得た。
【0119】
箱型炉を用いて酸素中で、この混合粉末を700℃の処理温度で2時間熱処理した。加熱速度は3℃/分であった。その後、得られたCAM.1を常温まで冷却させた。
【0120】
SEM/EDX分析により、それぞれLiとCoのモル比が0:1~1:1のCoを含むサブミクロンサイズのコーティング材粒子(B.1)がCAM.1の表面にコンフォーマルに分布し、大きなミクロンサイズのCo濃度は別の粒子として観察された。さらに、Co、Al、TiOの粒子(B.1)がCAM.1の表面に分布していた。
【0121】
II.カソード活物質の試験
II.1 電極の製造、一般手順
II.1.1 カソードの製造
正極:PVDFバインダー(Solef(登録商標)5130)をNMP(Merck)に溶解し、7.5質量%の溶液を製造した。電極の調製では、バインダー溶液(3質量%)、グラファイト(SFG6L、2質量%)、及びカーボンブラック(Super C65、1質量%)をNMPに懸濁させた。遊星型遠心ミキサー(ARE-250、株式会社シンキー;日本)を用いて混合した後、本発明のCAM.1又は比較用カソード活物質CAM.P(94質量%)を添加し、懸濁液を再び混合して、塊のないスラリーを得た。スラリーの固形分濃度を65%に調整した。ロールツーロールコーターを用いて、このスラリーをAlホイル上にコーティングした。使用前に、すべての電極をカレンダー加工した。カソード材料の厚さは70μmであり、15mg/cmに相当する。すべての電極は、電池組み立ての前に105℃で7時間乾燥させた。
【0122】
II.1.2:ポーチセルアノードの製造
グラファイト及びカーボンブラックを十分に混合した。CMC(カルボキシメチルセルロース)水溶液及びSBR(スチレンブタジエンゴム)水溶液をバインダーとして使用した。グラファイトとカーボンブラックの混合物(カソード活物質:炭素:CMC:SBRの質量比が96:0.5:2:1.5)を、バインダー溶液と混合し、十分量の水を添加して、電極調製に適したスラリーを調製した。ロールコーターを用いて、このようにして得られたスラリーを、銅ホイル(厚さ=10μm)上にコーティングし、常温下で乾燥させた。Cuホイル上の電極の試料増量は、単層ポーチセル試験において10mgcm-2に固定した。
【0123】
II.2:電解質の製造
ELベース1の総質量に基づいて、12.7質量%のLiPF、26.2質量%のエチレンカーボネート(EC)、及び61.1質量%のエチルメチルカーボネート(EMC)を含有するベース電解質組成物(ELベース1)を調製した。このベース電解質製剤に、2質量%のビニレンカーボネート(VC)を添加した(ELベース2)。
【0124】
II.3 試験セルの製造
II.3.1 コイン型ハーフセル
III.1.1で記載されているように調製したカソードと、作用極及び対極としてのリチウム金属を含むコイン型ハーフセル(直径20mm、厚さ3.2mm)をそれぞれ組み立て、Ar充填グローブボックス内に密封した。さらに、カソードとアノードとセパレータを、カソード//セパレータ//Liホイルの順に重ね合わせて、ハーフコインセルを作製した。その後、このコインセルに、0.15mLの上記(III.2)で記載しているELベース1を導入した。
【0125】
II.3.2 ポーチセル
III.1.1で記載されているように調製したアノード及びIII.1.2によるグラファイト電極を含む単層ポーチセル(70mA・h)を組み立て、Ar充填グローブボックス内に密封した。カソードとアノードとセパレータを、カソード//セパレータ//アノードの順に重ね合わせて、多層ポーチセルを作製した。その後、このラミネートポーチセルに0.8mLのELベース2電解質を導入した。
【0126】
III.セル性能の評価
コインハーフセル性能の評価
製造したコイン型電池を用いて、セル性能を評価した。電池性能について、セルの初期容量及び反応抵抗を測定した。初期性能及びサイクルを以下のように測定した:
II.3.1によるコイン型ハーフセルを、室温、4.3V~2.8Vの間の範囲の電圧で試験した。初期サイクルでは、CC-CVモードで初期リチウム化を行った、すなわち、0.01Cに達するまで0.1Cの定電流(CC)を印加した。10分間の休止時間の後、2.8V以下、0.1Cの定電流で還元リチウム化を行った。サイクリングでは、電流密度は1Cである。その結果を表1にまとめている。
【0127】
【表1】
【0128】
ガス発生:
II.3.2による単層ポーチセルを100%充電状態に充電し、80℃で24時間保存し、その後にガス発生を測定した。
【0129】
【表2】
【手続補正書】
【提出日】2021-07-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)一般式Li1+x1TM1-x1(式中、TMは、Niと、Mn、Co及びAlのうちの少なくとも1種と、任意にMg、Ti、Zr、Nb、Ta、及びWから選択される少なくとも1種のさらなる金属との組み合わせであり、x1は-0.05~0.2の範囲である)によるコア材、及び
(B)コバルト化合物(単数又は複数)、及びアルミニウム化合物(単数又は複数)及びチタン化合物(単数又は複数)又はジルコニウム化合物(単数又は複数)の粒子であって、前記粒子中のリチウムのコバルトに対するモル比が0~1未満の範囲であり、粒子(B)において、CoとAl及びZr又はTiの合計とのモル比が2:1~50:1の範囲であり、前記粒子が前記コア材の表面に付着している、粒子
を含む、電極活物質。
【請求項2】
TMが、一般式(I)

(NiaCobMnc)1-dMd (I)

(式中、aは、0.6~0.95の範囲であり、
bは、0.025~0.2の範囲であり、
cは、0.025~0.2の範囲であり、
dは、0~0.1の範囲であり、
Mは、Al、Mg、Ti、Zr、Nb、Ta、W、及び前記の少なくとも2種の組み合わせから選択され、
a+b+c=1である)
による金属の組み合わせである、請求項1に記載の電極活物質。
【請求項3】
コバルトの平均酸化状態が、+II超~+III未満である、請求項1又は2に記載の電極活物質。
【請求項4】
前記粒子(B)がCoを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の電極活物質
【請求項5】
コア(A)と粒子(B)の質量比が1000:1~1:1の範囲である、請求項1からのいずれか一項に記載の電極活物質。
【請求項6】
粒子(B)が10nm~10μmの範囲の平均直径(D50)を有する、請求項1からのいずれか一項に記載の電極活物質。
【請求項7】
以下の工程、
(a)一般式Li1+x2TM1-x2(式中、TMは、Niと、Mn、Co及びAlのうちの少なくとも1種と、任意にMg、Ti、Zr、Nb、Ta、及びWから選択される少なくとも1種のさらなる金属との組み合わせであり、x2は0~0.25の範囲である)による材料を提供する工程と、
(b)前記材料を、コバルトの酸化物又は(オキシ)水酸化物、及びAl及びTi又はZrそれぞれの少なくとも1種の酸化物又は水酸化物又はオキシ水酸化物と接触させる工程と、
(c)工程(b)の中間体を焼成する工程と
を含む、請求項1からのいずれか一項に記載の電極活物質を製造する方法。
【請求項8】
工程(c)が500~850℃の範囲の温度で行われる、請求項に記載の方法。
【請求項9】
工程(b)がミキサーで行われる、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
工程(b)が、コバルトの酸化物又は(オキシ)水酸化物、及びAl及びTi又はZrそれぞれの少なくとも1種の酸化物又は水酸化物又はオキシ水酸化物の水性スラリーを工程(a)で提供された前記材料に添加し、その後に混合することにより行われる、請求項7から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
(A)少なくとも1種の請求項1からのいずれか一項に記載の電極活物質、
(B)導電状態の炭素、及び
(C)バインダー、
を含有する、電極。
【請求項12】
(1)少なくとも1つの請求項11に記載の電極、
(2)少なくとも1つのアノード、及び
(3)電解質
を含有する、二次電池。
【国際調査報告】