(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-11
(54)【発明の名称】優れた特性を有する三次元パーツを実現するための積層造形法
(51)【国際特許分類】
B29C 64/124 20170101AFI20221228BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20221228BHJP
B29C 64/277 20170101ALI20221228BHJP
B29C 64/268 20170101ALI20221228BHJP
B29C 64/379 20170101ALI20221228BHJP
B29C 64/393 20170101ALI20221228BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20221228BHJP
B29C 64/118 20170101ALI20221228BHJP
B33Y 40/20 20200101ALI20221228BHJP
B33Y 50/02 20150101ALI20221228BHJP
【FI】
B29C64/124
B33Y10/00
B29C64/277
B29C64/268
B29C64/379
B29C64/393
B33Y80/00
B29C64/118
B33Y40/20
B33Y50/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022522812
(86)(22)【出願日】2020-10-19
(85)【翻訳文提出日】2022-06-15
(86)【国際出願番号】 US2020056250
(87)【国際公開番号】W WO2021077065
(87)【国際公開日】2021-04-22
(32)【優先日】2019-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】391008825
【氏名又は名称】ヘンケル・アクチェンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト・アウフ・アクチェン
【氏名又は名称原語表記】Henkel AG & Co. KGaA
【住所又は居所原語表記】Henkelstrasse 67,D-40589 Duesseldorf,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【氏名又は名称】伊藤 克博
(72)【発明者】
【氏名】トークン、 ニック
(72)【発明者】
【氏名】ヒノテ、 ステファン
【テーマコード(参考)】
4F213
【Fターム(参考)】
4F213AA44
4F213AB04
4F213AR06
4F213WA25
4F213WA54
4F213WA83
4F213WA86
4F213WB01
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4F213WL03
4F213WL06
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4F213WL32
4F213WW05
4F213WW34
4F213WW38
(57)【要約】
優れた特性を有する三次元パーツを達成するための積層造形法を本明細書で提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光硬化性組成物を使用して積層造形を行い、三次元パーツを形成する方法であって、前記三次元パーツは、所定のパターンを示すデータに従って作製され、以下のステップ、
A.非流動性状態の光硬化性組成物をリザーバーに提供すること、
B.光硬化性組成物を流動性の状態にするのに好ましい条件に光硬化性組成物をさらすこと、
C.三次元印刷パーツが、所定のパターンを示すデータに従って作製されるように、流動性光硬化性組成物を、その重合を開始するのに適切な電磁スペクトルの放射線に曝すこと
を含む方法。
【請求項2】
ステップBにおいて、光硬化性組成物が、約45℃から約160℃の間の温度に曝される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップBにおいて、光硬化性組成物が、約60℃から約120℃の間の温度に曝される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ステップBにおいて、光硬化性組成物が、約1mmHg未満の蒸気圧を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ステップBにおいて、光硬化性組成物が、約0.1mmHg未満の蒸気圧を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ステップBにおいて、光硬化性組成物が、約0.01mmHg未満の蒸気圧を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
ステップCにおいて、光硬化性組成物が、約1mmHg未満の蒸気圧を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
ステップCにおいて、光硬化性組成物が、約0.1mmHg未満の蒸気圧を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
ステップCにおいて、光硬化性組成物が、約0.01mmHg未満の蒸気圧を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
ステップBにおいて、光硬化性組成物が、約45℃から約160℃の温度に加熱されるリザーバ内に維持される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
ステップBにおいて、光硬化性組成物が、約60℃から約120℃の温度に加熱されるリザーバ内に維持される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
ステップCにおいて、光硬化性組成物が、約45℃から約160℃の温度に曝される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
ステップCにおいて、光硬化性組成物が、約60℃から約120℃の温度に曝される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
ステップCにおいて、光硬化性組成物が、光硬化性組成物を流動可能にする温度に維持される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
ステップBにおいて、光硬化性組成物が、室温よりも約30℃から約120℃高い温度で分配される、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
ステップCにおいて、光硬化性組成物が、室温よりも約30℃から約120℃高い温度で印刷される、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
ステップCにおいて、光硬化性組成物が、355nmから405nmの範囲の電磁スペクトルの放射線に曝される、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
ステップCにおいて、光硬化性組成物が、LED源から放出される電磁スペクトルの放射線に曝される、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
ステップCにおいて、光硬化性組成物が、レーザー、複数のレーザー、プロジェクター、または複数のプロジェクターから選択されるLED源から放出される電磁スペクトルの放射線に曝される、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
ステップCにおいて、光硬化性組成物が、光硬化性組成物が含まれるリザーバの下から適用されるLED源から放出される電磁スペクトルの放射線に曝される、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
ステップCにおいて、光硬化性組成物が、光硬化性組成物が含まれるリザーバーの上から適用されるLED源から放出される電磁スペクトルの放射線に曝される、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
ステップCにおいて、光硬化性組成物の重合が、単一の反応機構を介して起こる、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
ステップAにおいて、光硬化性組成物が固体官能化材料を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
ステップAにおいて、光硬化性組成物が固体官能化材料を含み、固体官能化材料が、(メタ)アクリレート、α-オレフィン、N-ビニル、ビニルアミド、シアノアクリレート、(メタ)アクリルアミド、アクリロイル、スチレン、エポキシド、チオール、1,3-ジエン、ビニルハライド、アクリロニトリル、ビニルエステル、マレイミド、ナジミド、イタコンイミド、ビニルエーテル、ビニルカーボネート、およびビニルカルバメートから選択される少なくとも1つの官能基を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
ステップAにおいて、光硬化性組成物が、約400ダルトンを超える分子量を有する固体官能化成分を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
ステップAにおいて、光硬化性組成物が、約800ダルトンを超える分子量を有する固体官能化成分を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
ステップAにおいて、光硬化性組成物が、約1200ダルトンを超える分子量を有する固体官能化成分を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
ステップAにおいて、光硬化性組成物が、約25℃以上の温度で結晶構造を含む固体官能化成分を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項29】
ステップAにおいて、固体官能化成分を含む光硬化性組成物が、DSCによって20分間にわたって測定された5℃の温度上昇内で固体から液体への相変化を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項30】
ステップAにおいて、光硬化性組成物が、スルホン、スチレン、イソシアヌレート、シアネートエステル、マレイミド、ナジイミド、イタコナミド、アダマンチル、ビフェニル、ノボラック、ノルボルニル、トリアジン、カーボネート、アミド、ウレタン、尿素、ポリエステルおよびそれらの組み合わせから選択される骨格を有する固体官能化成分を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項31】
ステップAにおいて、光硬化性組成物が、固体官能化成分および光開始剤を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項32】
ステップAにおいて、光硬化性組成物が、熱開始剤が添加されていない固体官能化成分を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項33】
電磁スペクトルの放射線への曝露に加えて、ステップCにおいて、光硬化性組成物が、光硬化性組成物を流動性にするためにステップBで使用される高温条件よりも高い温度条件に曝露される、請求項2に記載の方法。
【請求項34】
ステップCで形成された三次元パーツが、少なくともステップBの高温と同じくらい高い(0.455MPaでの)熱たわみ温度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項35】
ステップCで形成された三次元パーツが、少なくともステップCの高温と同じくらい高い(0.455MPaでの)熱たわみ温度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項36】
ステップD、
D.三次元パーツを溶剤または洗浄液と接触させること、
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項37】
ステップE、
E.ステップCで形成された三次元パーツを高温条件にさらすこと、
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項38】
ステップE、
E.ステップCで形成された三次元パーツを高温条件にさらすこと、
をさらに含む、請求項36に記載の方法。
【請求項39】
ステップE、
E.ステップCで形成された三次元パーツを高温条件にさらすこと、
をさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項40】
ステップEにおいて、高温条件が、ステップBにおいて光硬化性組成物がさらされる高温条件よりも高い温度条件である、請求項37に記載の方法。
【請求項41】
ステップEにおいて、高温条件は、ステップBの温度条件から少なくとも1つのより高い温度条件まで所定の速度で傾斜することによって達成される、請求項37に記載の方法。
【請求項42】
ステップEにおいて、高温条件が、少なくとも160℃である、請求項37に記載の方法。
【請求項43】
ステップEにおいて、光硬化性組成物の重合が、単一の反応機構を介して起こる、請求項37に記載の方法。
【請求項44】
ステップF、
F.ステップCで形成された三次元パーツを、ステップCで使用された電磁スペクトルの放射線とは異なる波長の電磁スペクトルの放射線に曝すこと、
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項45】
ステップFにおいて、三次元パーツが、LED光源または広帯域光源から選択された光源から放出される電磁スペクトルの放射線に曝される、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
ステップFにおいて、三次元パーツが電磁スペクトルにおける第2の形態の放射線に曝される、請求項44に記載の方法。
【請求項47】
ステップFにおいて、三次元パーツが、ガンマ線照射、電子ビームまたはマイクロ波照射から選択される電磁スペクトルの第2の形態の放射線に曝される、請求項44に記載の方法。
【請求項48】
ステップCの後に形成された三次元パーツが、その極限強度、その極限剛性、およびその極限熱たわみ温度の少なくとも1つの少なくとも約50%を達成する、請求項39に記載の方法。
【請求項49】
ステップEの後に形成された三次元パーツが、その極限強度、その極限剛性、およびその極限熱たわみ温度の少なくとも1つの約100%を達成する、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
ステップEの後に形成された三次元パーツが、パーツのどこで測定が行われるかに関係なく、サイズ、形状、内部の複雑さ、または表面に関係なく、その体積全体にわたって実質的に均一な強度、剛性、および熱たわみ温度を示す、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
ステップEの後に形成された三次元パーツが、三次元パーツの引張伸び>=降伏強度を示す、請求項49に記載の方法。
【請求項52】
ステップEの後に形成された三次元パーツが、少なくとも約6%の引張伸びを示す、請求項49に記載の方法。
【請求項53】
ステップEの後に形成された三次元パーツが、少なくとも約10%の引張伸びを示す、請求項49に記載の方法。
【請求項54】
ステップEの後に形成される三次元パーツが、100℃を超える(0.455MPaでの)熱たわみ温度を示す、請求項49に記載の方法。
【請求項55】
ステップEの後に形成された三次元パーツが、120℃を超える(0.455MPaでの)熱たわみ温度を示す、請求項49に記載の方法。
【請求項56】
ステップEの後に形成された三次元パーツが、160℃を超える(0.455MPaでの)熱たわみ温度を示す、請求項49に記載の方法。
【請求項57】
光硬化性組成物を使用して積層造形を行い、ビルド基板上に三次元パーツを形成する方法であって、前記三次元パーツは、所定のパターンを示すデータに従って作製され、改良は、
A.光硬化性組成物を流動性にするのに好ましい条件に光硬化性組成物をさらすこと、
B.三次元印刷パーツが、所定のパターンを示すデータに従って作製されるように、その重合を開始するのに適切な電磁スペクトルの放射線に光硬化性組成物を曝露すること
を含む方法。
【請求項58】
光硬化性組成物が、チップ、ペレット、粉末、ワイヤー、スプール、または他の顆粒固体形態因子として提供される、請求項1に記載の方法。
【請求項59】
光硬化性組成物をホッパーシステム内で約45℃から約160℃の間の高温に曝して、それを流動性状態にする、請求項2に記載の方法。
【請求項60】
光硬化性組成物が、ノズル、加熱されたコア、ホットエンド、加熱された押出機または同様の装置を介して、連続的に高温に曝される、請求項2に記載の方法。
【請求項61】
光硬化性組成物が、表面積対体積比が0.5:1を超える物理的形態因子で提供される、請求項1に記載の方法。
【請求項62】
光硬化性組成物を用いて積層造形を行い、優れた物性を有する三次元パーツを形成する方法であって、前記三次元パーツは、所定のパターンを示すデータに基づいて作製され、以下のステップ、
非流動性状態の光硬化性組成物をリザーバーに提供すること、
光硬化性組成物を流動性の状態にするのに好ましい条件に光硬化性組成物をさらすこと
三次元印刷パーツが、所定のパターンを示すデータに従って作製されるように、流動性光硬化性組成物を、その重合を開始するのに適切な電磁スペクトルの放射線に曝すこと、
ステップCで形成された三次元パーツを高温条件にさらすこと
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、優れた特性を有する三次元パーツ(three dimensional parts)を実現するための積層造形法に関する。
【背景技術】
【0002】
<関連技術の簡単な説明>
単一の反応機構であるエネルギー重合性樹脂は、硬化すると、従来の熱可塑性プラスチックと比較した場合、一般に機械的特性が低下する。衝撃強度、伸び、引張強度など、多くのエンジニアリング熱可塑性材料の靭性は、単一の反応機構であるエネルギー重合材料よりもはるかに高くなる。さらに、従来のエネルギー重合性樹脂は、より高い熱たわみ温度(HDT)を達成するように配合されると、さらに低い靭性を示す。
【0003】
単一反応機構の機械的特性性能を改善する試みであるエネルギー重合材料は、高分子量多官能性エネルギー重合可能なオリゴマーを使用することである。これらのオリゴマーは、重合すると架橋密度が低くなるが、全体的な鎖の分子量は高くなる。しかし、高分子量のオリゴマーには粘度が高いため、インクジェット印刷、ステレオリソグラフィー(SLA)、デジタルライトプロセッシング(DLP)、3次元プリンティング(3DP)などの粘度制限アプリケーションでの使用が制限される。
【0004】
従来の積層造形技術では、3次元パーツの構築は段階的またはレイヤーバイレイヤー方式で実行される。特に、層形成は、一般に、可視光またはUV光照射に曝された光硬化性樹脂の固化によって行われる。
【0005】
成長パーツの上面に新しい層が形成される場合、各照射ステップの後、建設中のパーツは樹脂の「プール」に下げられ、新しい樹脂の層がその上にコーティングされ、新しい照射ステップが行われる。このような「トップダウン」技術の欠点は、液体樹脂の(潜在的に深い)プール内に成長する対象物を水没させ、液体樹脂の正確な上層を再構成する必要があることである。
【0006】
成長する対象物の底に新しい層が形成される場合、各照射ステップの後、建設中の対象物は製造ウェルの底板から離れるように移動される。このような「ボトムアップ」技術は、対象物を比較的浅いウェルまたはプールから代わりに持ち上げることによって、対象物が水没する深いウェルの必要性を排除する可能性を有する。粘度が、2000cPs未満の流体は、通常、上部または下部の界面で一貫した層が必要になるため、これらの積層技術の両方の制約は粘度でもある。さらに、ボトムアップ技術の方法は、最終パーツの一貫した層-層配置と表面仕上げを保証するために、より剛性の高い材料よりも優先される。エネルギー開始がない場合に発生する可能性のある重合は、パーツの欠陥または槽全体を固化させる可能性があるため、ポットライフの安定性もすべての技術にとって重要な考慮事項である。このような重合反応の例は、CE220、CE221、EPU40、EPX81、FP50、RPU60、RPU61、およびRPU70などのCarbon Inc.が提供する多くの二重反応機構材料で発生する可能性がある。
【0007】
単一反応機構であるエネルギー重合性樹脂は、米国特許第10,239,255号に記載されており、配合ストラテジーを通じてそのような樹脂の機械的特性を改善する。’255特許は、フリーラジカル重合性液体を対象とし、請求している。フリーラジカル重合性液体は、反応性オリゴマーを含み、反応性オリゴマーは、少なくとも1つの(i)多官能性メタクリレートオリゴマー、および(ii)多官能性アクリレートオリゴマー;反応性単官能性モノマー、反応性単官能性モノマーは、(i)単官能性N-ビニルモノマー、(ii)単官能性ビニルエーテルモノマー、(iii)単官能性ビニルエステルモノマー、(iv)単官能性ビニルアミドモノマー、(v)スチレンモノマー、(vi)単官能性アクリルアミドモノマー、(vii)単官能性(メタ)アクリレートモノマー、(viii)シアノアクリレートモノマー、(ix)単官能性ビニルカーボネートモノマー、(x)単官能性アクリロイルモノマー、および(xi)単官能性ビニルカルバメートモノマーの少なくとも1つであって、反応性単官能性種の反応性エチレン性不飽和基と反応性多官能性種の反応性エチレン性不飽和基とのモル結合比は、少なくとも10:1であり、モル結合比の計算における反応性単官能性種の総重量%は、重合性液体の少なくとも25%であり、モル結合比の計算における反応性多官能性種の総重量%は、少なくとも重合性液体の25%であり、フリーラジカル重合性液体は、フォトプラスチック材料を形成する単一の反応機構によって硬化可能なエネルギー重合性液体である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
それにもかかわらず、例えばインクジェット印刷、SLA、DLP、または3DPによって製造された多くの三次元パーツでは、物理的特性(高い熱たわみ温度での靭性など)のさらなる改善が依然として望まれている。これまで、これらの改善はまだ実現されていない。したがって、そのようなパーツで求められている特性を達成する方法の必要性は依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
<概要>
その必要性はここで満たされる。
【0010】
大体において、その必要性は、室温で流動性のない官能化された材料の使用を含む方法技術によって満たされる。
【0011】
本明細書で提供されるのは、光硬化性組成物を使用して積層造形を行い、三次元パーツ(three-dimensional part)を形成するための方法である。通常、積層造形はビルド基板上で行われる。そして、3次元パーツは、所定のパターンを示すデータに基づいて作成される。この方法は、以下のステップ、
A.ホッパー、コンテナまたは容器などのリザーバーに、非流動性状態の光硬化性組成物を提供すること、
B.光硬化性組成物を流動性の状態にするのに好ましい条件に光硬化性組成物をさらすこと、
C.三次元印刷パーツが、所定のパターンを示すデータに従って作製されるように、流動性光硬化性組成物を、その重合を開始するのに適切な電磁スペクトルの放射線に曝すこと、
を含む。
【0012】
一実施形態では、重合された場合、光硬化性組成物は、その後の電磁スペクトルの放射線への追加の曝露によるエネルギー重合条件を変化させることによって調整可能な機械的特性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<詳細な説明>
上記のように、本明細書で提供されるのは、光硬化性組成物を使用して積層造形を行い、三次元パーツを形成するための方法である。通常、積層造形はビルド基板上で行われる。そして、3次元パーツは、所定のパターンを示すデータに基づいて作成される。この方法は、以下のステップ、
A.非流動状態の光硬化性組成物をリザーバーに提供すること、
B.光硬化性組成物を流動性の状態にするのに好ましい条件に光硬化性組成物をさらすこと、
C.三次元印刷パーツが、所定のパターンを示すデータに従って作製されるように、流動性光硬化性組成物を、その重合を開始するのに適切な電磁スペクトルの放射線に曝すこと
を含む。
【0014】
光硬化性組成物は、室温で固体または非流動性である官能化された成分を含む。固体官能化成分は、(メタ)アクリレート、α-オレフィン、N-ビニル、ビニルアミド、シアノアクリレート、(メタ)アクリルアミド、アクリロイル、スチレン系、エポキシド、チオール、1,3-ジエン、ビニルハライド、アクリロニトリル、ビニルエステル、マレイミド、ナジミド、イタコンイミド、ビニルエーテル、ビニルカーボネート、およびビニルカルバメートから選択される少なくとも1つ、望ましくは、少なくとも2つの官能基を有するべきである。望ましくは、官能基は(メタ)アクリレートである。そして、望ましくは、少なくとも2つの(メタ)アクリレート官能基が存在する。
【0015】
一態様では、光硬化性組成物は、スルホン、スチレン、イソシアヌレート、シアネートエステル、マレイミド、ナジミド、イタコンイミド、ビシクロアルキル(例えば、アダマント、フェンチルまたはノルボルニル)、ビフェニル、ノボラック、トリアジン、カーボネート、アミド、ウレタン、尿素、ポリエステル、およびそれらの組み合わせから選択される骨格を有する、室温で固体または非流動性の官能化された成分を含む。「骨格」という用語は、官能基が結合している、またはその間に官能基が結合している化学部分を指すことを意図している。
【0016】
室温で固体または非流動性官能化成分の適切な選択には、Dymax Corporation,Torrington,CTのたとえばBR-571、Sartomer Inc.,Exton,PAのたとえば、CN9788、Huntsman Corporationのたとえば多くのビスマレイミド、およびEvonikのたとえばCompimideMDABおよびCompimide200などの市販のものが含まれる。
【0017】
いくつかの実施形態では、光硬化性組成物は、約1、2または5重量パーセントから20、30、40、90または99重量パーセントまでの、室温で固体または非流動性の官能化された材料を含む。
【0018】
望ましくは、固体官能化成分は、光硬化性組成物に基づいて、約90から約99重量パーセントの量で使用されるべきである。
【0019】
光硬化性組成物は、それぞれダルトンで測定して、約400Mnを超える分子量、望ましくは約800Mnを超える分子量、より望ましくは約1200を超える分子量を有するべきである、室温で固体または非流動性の官能化された成分を含む。
【0020】
光硬化性組成物は、一態様では約25℃(通常は室温と見なされる)以上の温度で結晶構造を含む、室温で固体または非流動性の官能化された成分を含む。
【0021】
結晶構造における室温で固体または非流動性の官能化成分の適切な選択には、スルホン、スチレン、イソシアヌレート、シアネートエステル、マレイミド、ナジミド、イタコナミド、ビシクロアルキル(例えば、アダマンチル、フェンチルまたはノルボルニル)、ビフェニル、ノボラック、トリアジン、カーボネート、アミド、ウレタン、尿素、ポリエステル、およびそれらの組み合わせが含まれる。
【0022】
光硬化性組成物は、室温で固体または非流動性の官能化成分を含み、別の態様では、DSCによって測定された温度の上昇で、20分の期間にわたって1℃から10℃、例えば5℃以内の固体から液体への相変化を示す。
【0023】
光硬化性組成物は、多くの場合、光開始剤も含むべきである。適切な光開始剤には、トリアジン、ケトン、過酸化物、ジケトン、アジド、アゾ誘導体、ジスルフィド誘導体、ジシラン誘導体、チオール誘導体、ジセレニド誘導体、ジフェニルジテルリド誘導体、ジゲルマン誘導体、ジスタンナン誘導体、カーボンゲルマニウム化合物、カーボンシリコン誘導体、硫黄カーボン誘導体、硫黄シリコン誘導体、ペレスター、バートンエステル誘導体、ヒドロキサム酸およびチオヒドロキサム酸およびエステル、有機ホウ酸塩、有機金属化合物、チタノセン、クロム錯体、アルミン酸塩錯体、カーボン-硫黄または硫黄-硫黄イニファーター化合物、オキシアミン、アルデヒド、アセタール、シラン、リン含有化合物、ボラン錯体、チオキサントン誘導体、クマリン、アントラキノン、フルオレノン、およびフェロセニウム塩が含まれる。特に望ましい光開始剤には、ベンゾフェノン、アントラキノン、およびフルオロエノンが含まれる。
【0024】
使用する場合、光開始剤は、約0.01重量パーセントから約15重量パーセントの量で存在する必要がある。
【0025】
光硬化性組成物は、熱開始剤を含み得るが、それを必要としない。
【0026】
本発明の方法のステップBにおいて、光硬化性組成物は、約45℃から約160℃の間、望ましくは約60℃から約120℃の間の温度に曝されるべきである。
【0027】
本発明の方法のステップBにおいて、光硬化性組成物は、約1mmHg未満、望ましくは約0.1mmHg未満、より望ましくは約0.01mmHg未満の蒸気圧を有するべきである。
【0028】
そして、本発明の方法のステップCにおいて、光硬化性組成物は、約1mmHg未満、望ましくは約0.1mmHg未満、より望ましくは約0.01mmHg未満の蒸気圧を有するべきである。
【0029】
本発明の方法のステップBにおいて、光硬化性組成物は、約45℃から約160℃、望ましくは約60℃から約120℃の温度に加熱されるリザーバー内に維持される。
【0030】
そして、本発明の方法のステップCにおいて、光硬化性組成物は、約45℃から約160℃、望ましくは約60℃から約120℃の組成物の温度に加熱されるリザーバー内に維持される。
【0031】
本発明の方法のステップCにおいて、光硬化性組成物は、光硬化性組成物が流動性であることができる温度に維持されるべきである。その温度は、ディスペンスまたは印刷を行うことが可能な温度である、室温より約30℃から約120℃高くてもよい。室温は通常約25℃とされる。
【0032】
本発明の方法のステップCにおいて、光硬化性組成物は、355nmから405nmの範囲の電磁スペクトルの放射線に曝される。その放射線は、レーザー、複数のレーザー、プロジェクターまたは複数のプロジェクターから選択され得るLED源から放出することができる。LED源は、光硬化性組成物が含まれているリザーバーの下または上から適用することができる。
【0033】
単一反応機構のエネルギー重合は、エネルギーを使用して、1つの反応機構を介して重合を開始および駆動することを含む。化学線、紫外線、可視光線への曝露による照射。このような例には、UV光(100nm~405nm)、可視光(405nm~700nm)、または電子ビームが含まれる。適切な光源の例には、LED、レーザーダイオード、レーザービーム、ランプ(ハロゲンランプ、Xe、Xe-Hgランプなど)、積層造形で使用されるLEDレーザーまたはLEDプロジェクター、可視光照射LCD、LEDまたはプラズマスクリーン、モバイルまたはタブレットデバイスが含まれる。次に、この重合は、いくつか例を挙げると、フリーラジカル、カチオン、マイケル付加、段階的成長、クリックケミストリーなどの単一の反応機構によって行われる。
【0034】
フォトプラスチック材料は、本発明の方法を実施した後、光硬化性組成物の単一の反応機構によって形成される。既存のフォトポリマーと比較して、フォトプラスチックは熱可塑性プラスチックに匹敵する機械的特性を備えている。
【0035】
米国特許第10,239,255号(Talken)のように、光硬化性組成物の重合は、単一の反応機構を介して起こる。詳細については、’255特許を参照。
【0036】
本発明の方法のステップCにおいて、電磁スペクトルにおける放射線への曝露に加えて、光硬化性組成物は、光硬化性組成物を流動性にするためにステップBで使用される高温条件よりも高い温度条件に曝露され得る。
【0037】
本発明の方法のステップCで形成された三次元パーツは、少なくともステップBまたはステップCの高温と同じくらい高い(0.455MPaでの)熱たわみ温度を有し得る。
【0038】
本発明の方法のステップCで形成された三次元パーツは、その極限強度、その極限剛性、およびその極限熱たわみ温度の少なくとも1つの少なくとも約50%を達成すべきである。
【0039】
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、チップ、ペレット、粉末、ワイヤー、スプール、または他のいくつかの顆粒固体形態因子として光硬化性組成物を使用する。
【0040】
いくつかの実施形態では、光硬化性組成物は、ホッパーシステム内で約45℃から約160℃の間の高温にさらされて、それを流動可能な状態にする。
【0041】
いくつかの実施形態では、光硬化性組成物は、ノズル、加熱されたコア、ホットエンド、加熱された押出機または同様の装置を通して、連続的に高温に曝される。
【0042】
いくつかの実施形態では、光硬化性組成物は、ステップB中の迅速な熱伝達を可能にするために、0.5:1などの高い表面積対体積比を有する物理的形態因子で提供される。
【0043】
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、三次元パーツを溶媒または洗浄液と接触させることを含むステップDを追加する。溶媒または洗浄液は、イソプロパノールなどの低級アルキルアルコール、または穏やかな界面活性剤から選択することができる。
【0044】
ここで使用する溶媒または洗浄液は、高温に加熱することができる。このようにして、パーツの表面上の未反応の材料を流動性にすることができ、溶媒和または超音波処理などの機械的攪拌によって未反応の材料をより容易に除去することができる。
【0045】
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、ステップCで形成された三次元パーツを高温条件に曝すことを含むステップEを追加する。ここでの高温条件は、少なくとも160℃であり得る。ステップEは、ステップCおよびDのいずれかまたは両方に続くことができる。
【0046】
本発明の方法のステップEにおいて、高温条件は、ステップCにおいて光硬化性組成物がさらされる高温条件よりも高い温度条件である。高温条件は、ステップCの温度条件から少なくとも1つのより高い温度条件に所定の速度で傾斜することによって達成されるべきである。より高い温度条件は、ステップCよりも約45℃から約160℃高くすべきである。
【0047】
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、ステップCで形成された三次元パーツをステップCで使用される電磁スペクトルの放射とは異なる波長の電磁スペクトルでの放射に曝すことを含むステップFを追加する。ステップFの放射は、レーザー、複数のレーザー、プロジェクターまたは複数のプロジェクター、または広帯域光源から選択され得るLED光源から選択される光源から放出され得る。ステップFの放射線は、ガンマ線照射、電子ビームまたはマイクロ波照射などの電磁スペクトルにおける第2の形態の放射線であり得る。
【0048】
本発明の方法のステップEの後、形成された三次元パーツは、その極限強度、その極限剛性、およびその極限熱たわみ温度の少なくとも1つの約100%を達成すべきである。
【0049】
実際、いくつかの実施形態では、ステップEの後に形成された三次元パーツは、パーツのどこで測定が行われるかに関係なく、サイズ、形状、内部の複雑さ、または表面に関係なく、その体積全体にわたって実質的に均一な強度、剛性、および熱たわみ温度を示す。
【0050】
ステップEの後に形成された三次元パーツは、三次元パーツの引張伸び>=降伏強度を示してもよく、少なくとも約6%、望ましくは少なくとも約10%の引張伸び、および100℃を超える、望ましくは120℃を超える、より望ましくは160℃を超える(0.455MPaでの)熱たわみ温度を示してもよい。
【0051】
光硬化性組成物は、高温条件への曝露の有無にかかわらず、所定の物理的または機械的特性に達することができる。このような熱暴露は、能動的加熱(例えば、電気、ガス、または太陽熱オーブンなどのオーブン内)、または受動的加熱(例えば、周囲温度で)によって達成され得る。能動加熱は一般に受動加熱よりも速く、いくつかの実施形態では好ましいが、受動加熱-例えば、中間体を周囲温度で十分な時間維持してさらなる重合をもたらすなど-がいくつかの実施形態では好ましい。
【0052】
本発明の方法は、後処理ステップ(すなわち、ステップD、E、および/またはF)のいくつかまたはすべてを実施した後、寸法安定性を有する三次元パーツの形成を可能にする。これは、元の設計/CADモデルと比較した場合、またはステップC後のパーツと比較した場合、200μm、望ましくは、100μmなどの約500μm未満の寸法の不正確さなどの、許容誤差または誤差内にある最終パーツ構造の90%を有することを意味する。
【0053】
製造されるパーツまたは対象物に望まれる特性に応じて、本明細書に記載される様々な実施形態に関連して、任意の適切な充填剤を使用することができる。したがって、充填剤は、固体または液体、有機または無機であり得、反応性および非反応性ゴムであり得る。これらすべての例には、シロキサン、有機ホスフィン酸塩、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、反応性および非反応性熱可塑性プラスチック(ポリ(エーテルイミド)、マレイミド-スチレンターポリマー、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ケイ酸塩(タルク、粘土、シリカ、マイカなど)、ガラス、カーボンナノチューブ、グラフェン、炭素繊維、金属などの無機フィラー、およびセルロースナノクリスタルおよびそれらの組み合わせが含まれる。
【0054】
1以上のポリマーおよび/または無機強化剤を光硬化性組成物に含めることができる。強化剤は、重合生成物中に粒子状で均一に分散していてよい。粒子は、直径5ミクロン(μm)未満であってよい。このような強化剤としては、エラストマー、分岐ポリマー、高分岐ポリマー、デンドリマー、ゴム状ポリマー、ゴム状コポリマー、ブロックコポリマー、コアシェル粒子、酸化物または無機材料、例えば、粘土、多面体オリゴマーシルセスキオキサン(POSS)、炭素質材料(例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーおよびフラーレン)、セラミックおよび炭化ケイ素などが挙げられ、表面が改質または機能化されていても、されていなくてもよい。ブロックコポリマーとしては、例えば、引用により全体内容が本明細書に組み込まれる米国特許第6,894,113号に記載されるコポリマーが挙げられ、また、NANOSTRENGTH SBM(ポリスチレン-ポリブタジエン-ポリメタクリレート)およびAMA(ポリメタクリレート-ポリブチルアクリレート-ポリメタクリレート)が挙げられ、両方共にArkemaにて製造されている。その他の適切なブロックコポリマーとしては、FORTEGRAや引用により全体内容が本明細書に組み込まれる米国特許第7,820,760号に記載される両親媒性ブロックコポリマーが挙げられる。公知のコアシェル粒子としては、例えば、米国特許出願公開第2010/0280151号に組成物が記載されたコアシェル(デンドリマー)粒子が含まれる。例えば引用により全体内容が本明細書に組み込まれる欧州特許出願公開第1632533号および欧州特許出願公開第2123711号に記載される不飽和炭素-炭素結合コアシェルゴム粒子を含む重合性モノマーが重合したコアポリマーにシェルがグラフトされているアミンブランチポリマー;ブタジエン、スチレン、その他の不飽和炭素-炭素結合モノマー、またはこれらの組み合わせなどの重合性モノマーが重合したポリマーコア、およびエポキシ、典型的にはポリメチルメタクリレート、ポリグリシジルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、または以下でさらに説明する類似のポリマーと混合可能なポリマーシェルを有する粒子を有する、粒子/エポキシブレンドであるKaneAce MX製品系列が挙げられる。また、本発明においてブロックコポリマーとして適するものは、JSR株式会社より製造されているカルボキシル化ポリスチレン/ポリビニルベンゼンであるJSR SXシリーズ;ブタジエンアルキルメタクリレートスチレンコポリマーであるKUREHA PARALOID EXL-2655(呉羽化学工業株式会社により製造);それぞれアクリレートメタクリレートコポリマーであるSTAFILOID AC-3355およびTR-2122(両方とも武田薬品工業株式会社によって製造);およびそれぞれブチルアクリレートメチルメタクリレートコポリマーであるPARALOID EXL-2611およびEXL-3387(両方ともDow Chemicalによって製造)が挙げられる。適切な酸化物粒子としては、例えば、Nanoresins AGによって製造されているNANOPOXが挙げられる。これは、官能化ナノシリカ粒子とエポキシとのマスターブレンドである。
【0055】
コアシェルゴムは、ゴム状コアを有する粒子材料(粒子)である。そのような材料は公知であり、引用により全体内容が本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2015/0184039号および米国特許出願公開第2015/0240113号、ならびに米国特許第6,861,475号、7,625,977号、7,642,316号、8,088,245号などに記載されている。
【0056】
いくつかの実施形態において、コアシェルゴム粒子は、ナノ粒子(即ち、1000ナノメートル(nm)未満の平均粒径を有するもの)である。一般的に、コアシェルゴムナノ粒子の平均粒径は500nm未満であり、例えば300nm未満、200nm未満、100nm未満であり、または50nm未満であってもよい。典型的には、このような粒子は球状であるため、粒径は直径となる。しかしながら、粒子が球形でない場合、粒径は粒子の最長寸法と定義される。
【0057】
いくつかの実施形態において、ゴム状コアは、-25℃未満、より好ましくは-50℃未満、さらにより好ましくは-70℃未満のTgを有してよい。ゴム状コアのTgは-100℃よりも大きく低い場合もある。また、コアシェルゴムは少なくとも50℃のTgを有する少なくとも1つのシェル部も有する。「コア」はコアシェルゴムの内部を意味する。コアはコアシェル粒子の中心、またはコアシェルゴムの内部シェルまたは領域を形成してよい。シェルはゴム状コアの外側にあるコアシェルゴムの一部である。シェル部分(複数あってもよい)は典型的にはコアシェルゴム粒子の最も外側の部分を形成する。シェル材料はコアにグラフトされてよく、架橋されてもよい。ゴムコアはコアシェルゴム粒子の全量の50~95重量%または60~90重量%を構成してよい。
【0058】
コアシェルゴムのコアは、ブタジエンなどの共役ジエンのポリマーまたはコポリマー、またはn-ブチル-、エチル-、イソブチル-または2-エチルヘキシルアクリレートなどの低級アルキルアクリレートであってよい。コアポリマーは、さらにスチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル、メタクリル酸メチルなどのその他の共重合されたモノ不飽和モノマーを最大で20重量%含んでもよい。コアポリマーは架橋されていてもよい。コアポリマーは、ジアリルマレエート、モノアリルフマレート、アリルメタクリレートなどの、不均質な2つ以上の反応性不飽和部位(但し、少なくとも1つの反応部位は非共役である)を有する共重合したグラフト結合モノマーを最大5%含んでよい。
【0059】
コアポリマーは、シリコーンゴムであってもよい。この材料は-100℃未満のガラス転移点を有することが多い。シリコーンゴムコアを有するコアシェルゴムとしては、Wacker Chemie, Munich, Germanyから商品名GENIOPERLで市販されているものが挙げられる。
【0060】
ゴム状コアに化学的にグラフトまたは架橋され得るシェルポリマーは、メチルメタクリレート、エチルメタクリレートまたはt-ブチルメタクリレートなどの少なくとも1つの低級アルキルメタクリレートから重合できる。このようなメタクリレートモノマーのホモポリマーを使用してよい。さらに最大でシェルポリマーの40重量%をスチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルなどのその他のモノビニリデンモノマーから形成してよい。グラフトされるシェルポリマーの分子量は20,000~500,000であってよい。
【0061】
1つの適切なタイプのコアシェルゴムは、エポキシ樹脂またはエポキシ樹脂硬化剤と反応できる反応性基をシェルポリマーに有するものである。グリシジル基が適する。グリシジル基はグリシジルメタクリレートなどのモノマーにより与えられる。
【0062】
適切なコアシェルゴムの1例として、引用により全体内容が本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2007/0027233号に記載されるタイプのものがある。ここに記載した通りコアシェルゴム粒子は、ほとんどの場合、架橋したブタジエンのコポリマーである架橋ゴムコアと、好ましくはスチレン、メチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、および場合によりアクリロニトリルのコポリマーであるシェルを含む。コアシェルゴムは、文献に記載されているように、好ましくはポリマーまたはエポキシ樹脂に分散されている。限定されるものではないが、適切なコアシェルゴムとしては、株式会社カネカによるKane Aceという名称で販売されているもの、例えばKane Ace15および120シリーズの製品、例えばKane Ace MX120、Kane Ace MX153、Kane Ace MX154、Kane Ace MX156、Kane Ace MX170、およびKane Ace MX257、およびKane Ace MX120コアシェルゴム分散体、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0063】
光硬化性組成物に適した樹脂には、光硬化性シリコーンが含まれる。SILIOPREN(登録商標)UV重合性シリコーンゴムおよびLOCTITE重合性シリコーン接着剤シーラントなどのUV重合性シリコーンゴム。用途としては、光学機器、医療および外科用機器、外部照明およびエンクロージャ、電気コネクタ/センサー、光ファイバー、ガスケット、および金型が挙げられる。
【0064】
光硬化性組成物用の生分解性樹脂は、生分解性スクリューおよびステントのような薬物を伝達するための埋め込み型デバイスまたは一時的機能の用途にとって特に重要である(引用により全体内容が本明細書に組み込まれる米国特許第7,919,162号および6,932,930号)。乳酸とグリコール酸の生分解性コポリマー(PLGA)をPEGジ(メタ)アクリレートに溶解して、使用に適した透明樹脂が得られる。ポリカプロラクトンとPLGAオリゴマーをアクリル基またはメタクリル基で官能化して、使用において効果的な樹脂とすることができる。
【0065】
光硬化性組成物に適した別の樹脂には、光硬化性ポリウレタン(ポリ尿素、およびポリウレタンとポリ尿素のコポリマー(例、ポリ(ウレタン-尿素))など)である。(1)脂肪族ジイソシアネート、ポリ(ヘキサメチレンイソフタレートグリコール)および任意に1,4-ブタンジオールに基づくポリウレタンと、(2)多官能性アクリル酸エステルと、(3)光開始剤と、(4)酸化防止剤を含む光硬化性ポリウレタン/ポリ尿素組成物を、硬質、耐摩耗性、耐汚染性の材料となるよう調製できる(引用により全体内容が本明細書に組み込まれる米国特許第4,337,130号)。光硬化性熱可塑性ポリウレタンエラストマーには、連鎖延長剤として光反応性ジアセチレンジオールが組み込まれる。
【0066】
光硬化性組成物は、製造される製品の特定の目的に応じて、顔料、染料、造影化合物(例えば、蛍光、リン光および放射性)、充填剤、光吸収剤、または重合の阻害剤などの可溶化または分散される追加成分を有してよい。
【0067】
いくつかの実施形態において、例えば、熱および/またはマイクロ波照射中に未反応となり得る二重結合の反応を促進するために、有機過酸化物を単一反応機構のエネルギー重合性液体または樹脂に含めることができる。このような有機過酸化物を、0.001または0.01または0.1重量%~1、2または3重量%など、任意の適切な量で樹脂または重合性液体中に含めることができる。限定されるものではないが、適切な有機過酸化物としては、例えば、2,5-ビス(tert-ブチルペルオキシ)-2,5-ジメチルヘキサン(例えば、LUPEROX 101)、過酸化ジラウロイル(例えば、LUPEROX LP)、過酸化ベンゾイル(例えば、LUPEROX A98)、ビス(tert-ブチルジオキシイソプロピル)ベンゼン(例えば、VulCUP R)が挙げられる。そのような有機過酸化物は、限定されるものではないがArkema Incなどの様々な供給業者から入手可能である。
【0068】
本発明の方法が、ジェットフュージョンおよびインクジェット方法を含む広範囲の積層造形技術において有用であることは、当業者には明らかであろう。
【0069】
光硬化性組成物は、例えば’255特許に記載されている連続液相間印刷(continuous liquid interface printing)技術などのボトムアップ積層造形技術や本明細書に記載される他の積層造形技術で使用できる。
【0070】
本発明の方法および工程により製造される3次元物体は、最終製品、完成品または実質的な完成品であってよく、また表面処理、レーザー切断、放電加工などのさらなる製造工程にかけられる中間製造物であってもよい。中間製造物には、同じ装置または異なる装置でさらに積層造形を行うことができる製品が含まれる。例えば、最終製品の1つの領域を停止するために、または単に最終製品の特定の領域または「構造(build)」が他よりも脆弱であるために、重合域の傾斜を乱し、回復させることによって、進行中の「構造(build)」に意図的に断層線または割線を導入することができる。
【0071】
ラージスケールモデルまたはプロトタイプ、小さなカスタム製品、ミニチュアまたはマイクロミニチュア製品またはデバイスの多数の種々の製品を本発明の方法および装置により製造できる。例えば、補聴器、ステント、薬物送達デポー剤、機能構造物、マイクロニードルアレイ、導波管などのファイバーおよびロッド、マイクロメカニカルデバイスおよびマイクロ流体デバイスなどの医療機器や埋め込み型医療機器が挙げられる。
【0072】
下にさらに記載するように、いくつかの実施形態において、製造物は、そこに形成される少なくとも1つ、または複数の孔または溝を有する。
【0073】
本明細書に記載のプロセスにより様々な種々の特性を有する製造物を製造できる。いくつかの実施形態において製造物は剛性があり、他のいくつかの実施形態において製造物は柔軟で弾力性がある。いくつかの実施形態において、製造物は固体である。他の実施形態において、製造物はヒドロゲルなどのゲルである。いくつかの実施形態において、製造物は形状記憶を有する(即ち、構造破損点まで変形されない限りは変形後に前の形状に概ね戻る)。いくつかの実施形態において、製造物は単体である(すなわち、1つの単一の反応機構エネルギー重合性液体から形成される)。いくつかの実施形態において、製造物は複合体である(即ち、2つ以上の異なる単一反応機構のエネルギー重合性液体から形成される)。特定の特性は、使用される単一反応機構のエネルギー重合性液体の選定などの要素によって決定される。
【0074】
いくつかの実施形態において、作製される製造物または物品は、2つの支持体間の架橋要素、または1つの実質的に垂直な支持体から突出する片持ち梁要素など、少なくとも1つの突出部(または「突出」)を有する。各層が重合して実質的に完成し、次のパターンが曝露される前に実質的な時間間隔が生じる場合に断層線または開裂線が層間に形成されるという問題が、本プロセスのいくつかの実施形態の一方向性で連続的な特性により大幅に低減する。従って、いくつかの実施形態において、この方法は、物品と同時に製造されるそのような突出部の支持構造の数を減らす、または無くすのに特に有利である。
【0075】
いくつかの実施形態では、光硬化性組成物を使用して積層造形を行い、改善された物理的特性を有する三次元パーツを形成するための本発明の方法は、三次元印刷パーツが所定のパターンを示すデータに従って作製される場合、以下のステップ;
非流動性状態の光硬化性組成物をリザーバーに提供すること、光硬化性組成物を流動性の状態にするのに好ましい条件に光硬化性組成物をさらすこと、流動性光硬化性組成物が、所定のパターンを示すデータに従って三次元印刷パーツが作製されるように、その重合を開始するのに適切な電磁スペクトルの放射線に曝すこと、ステップCで形成された三次元パーツを高温条件にさらすことを含む。
【0076】
三次元パーツの物理的または構造的特性は、三次元印刷パーツが形成される光硬化性組成物の特性と一緒に選択されて、三次元印刷パーツに広範囲の特性を提供することができる。本発明の方法を使用して、広範囲の三次元パーツを形成するために、所望の材料特性を有する複雑な形状を形成することができる。
【0077】
いくつかの実施形態において、三次元印刷パーツは剛性であってよく、例えば、約800~4500の範囲またはこれに包含される任意の範囲のヤング率(MPa)、約30~250の範囲またはこれに包含される任意の範囲の引張強度(MPa)、約1~100の範囲またはこれに包含される任意の範囲の破断伸度(%)、および/または10~200J/mまたはこれに包含される任意の範囲のノッチ形状によるIZOD衝撃強さを有してよい。このような剛性な三次元パーツの例としては、ファスナー;電子機器ハウジング;歯車、プロペラ、およびインペラー;車輪、機械装置ハウジング;ツール、およびその他の剛性三次元印刷パーツを挙げることができる。
【0078】
いくつかの実施形態において、三次元印刷パーツは半剛性であってよく、例えば、約300~3500の範囲またはこれに包含される任意の範囲のヤング率(MPa)、約20~90の範囲またはこれに包含される任意の範囲の引張強度(MPa)、約20~300または600の範囲またはこれに包含される任意の範囲の破断伸度(%)、および/または約30~400J/mまたはこれに包含される任意の範囲のノッチ形状によるIZOD衝撃強さを有してよい。このような半剛性な三次元印刷パーツの例としては、構造要素;リビングヒンジなどのヒンジ;ボートと船舶の船体とデッキ;車輪;ボトル、瓶、その他の容器;パイプ、液体管およびコネクタ、およびその他の半剛性三次元印刷パーツを挙げることができる。
【0079】
いくつかの実施形態において、三次元印刷パーツは、エラストマーであってよく、例えば、約0.25~300の範囲またはこれに包含される任意の範囲のヤング率(MPa)、約0.5~30の範囲またはこれに包含される任意の範囲の引張強度(MPa)、約50~1500の範囲またはこれに包含される任意の範囲の破断伸度(%)、および/または約10~200kN/mまたはこれに包含される任意の範囲の引裂強度を有してよい。このようなエラストマーの三次元印刷パーツの例としては、履物のソール、ヒール、インナーソール、ミッドソールを挙げることができる。
【0080】
光硬化性組成物を変更するためにパーツの製造を1回以上停止または中断してよい。本発明の方法によって作製された三次元パーツは、硬化されると異なる引張強度を達成する能力を有する複数の光硬化性組成物を含み得る。中断により断層線や断層面が中間体に形成される場合があるが、光硬化性組成物が、その第2の重合性材料において、最初のものと反応性であれば、その後、中間体の2つの異なるセグメントが、第2の重合中に(例えば、熱やマイクロ波照射により)交差反応し、互いに共有結合する。したがって、パーツは、異なる引張特性を有する複数の別個のセグメントを有する一方で、異なるセグメントが互いに共有結合している単一の製品でありながら、本発明の方法によって形成することができる。いくつかの実施形態において、三次元パーツは、異なる材料および特性を有する複数の領域から形成できる。例えば、三次元パーツは、約30~100の範囲またはここに包含される任意の範囲の引張強度(MPa)を有する第1の材料または1つ以上の材料の第1の群から形成される1つ以上の領域、および/または約20~70の範囲またはここに包含される任意の範囲の引張強度(MPa)を有する第2の材料または1つ以上の材料の第2の群から形成される1つ以上の領域、および/または約0.5~30の範囲またはここに包含される任意の範囲の引張強度(MPa)を有する第3の材料または1つ以上の材料の第3の群から形成される1つ以上の領域、またはこれらの何れかの組み合わせを有してよい。例えば、三次元パーツは、上記の材料および引張強度の何れかから選択される種々の引張強度を有する1~10またはそれ以上(またはこれに包含される任意の範囲)の異なる領域を有してよい。例えば、ヒンジを形成してよく、三次元中間体の形成中に単一反応機構のエネルギー重合性液体を順次変更することにより、ヒンジは、剛性セグメント、これに結合された第2の弾性セグメント、これに結合された第3の剛性セグメントを含んでよい。緩衝器または振動減衰器を、同様の方法で形成してよく、第2のセグメントは弾性または半剛性のいずれかあってよい。単一の剛性漏斗と柔軟なホースアセンブリを同様の方法で形成することができる。
【0081】
いくつかの実施形態において、1以上の単一反応機構のエネルギー重合性樹脂を含む光硬化性組成物を使用して、同一のフォトプラスチック材料(またはそこから作成されるパーツ)の範囲内でも機械特性を調整可能とすることができる。これはフォトプラスチック材料のエネルギー重合を変更することにより達成でき、系の反応活性または反応機構を変更することができる。例えば、光照射、光エネルギー、光波長を変更することや電子ビームを使用することにより、重合反応機構および重合反応速度を変更できる。これは、樹脂に含まれる異なる重合性官能基およびこれらの同一の官能基または異なる官能基との反応性または非反応性にある程度は起因し、これらにより最終のポリマーの分子量やネットワークを変更できる。これはまた、フォトプラスチック材料中のすべての官能基を重合することが可能である同じタイプの開始にある程度は起因する。
【0082】
いくつかの実施形態では、本発明の方法によって形成された三次元パーツは、V-1またはV-0のUL94定格を満たす。そして、いくつかの実施形態では、本発明の方法によって形成された三次元パーツは、公表されているAirbus StandardのFST(AITM2)を満たす。
【0083】
さらに、種々のポリマーネットワーク、分子量、液体-固体、固体-固体溶解性または相分離は、上記のプロセスパラメータにより調整可能であり制御可能である。このため、フィルムにおけるピクセル単位またはパーツにおけるボクセル単位の何れにおいても、1つの樹脂の機械特性を大きく変えることが可能である。具体的には、積層造形において、レーザー、プロジェクターまたはスクリーン光源によりVAT重合が一般的に生じる。これらおよび次世代の各光源は、ピクセル単位でより低いワット数またはより低いエネルギーを放出するように制御できる。このため、ボクセル重合の3次元制御が可能であり、3次元空間で種々の機械特性を持つ物体を作製できる。
【0084】
本発明は、ステレオリソグラフィー、マテリアルジェッティング、またはインクジェットプリントにより好ましく実施されるが、いくつかの実施形態において、layer-by-layer製造など、ボトムアップまたはトップダウン三次元製造用の別の方法および装置を使用してよい。限定されるものではないが、このような方法および装置としては、例えば、引用により全体内容が本明細書に組み込まれる米国特許第5,236,637号、米国特許第5,391,072号、5,529,473号、米国特許第7,438,846号、米国特許第7,892,474号、米国特許第8,110,135号、米国特許出願公開第2013/0292862号および2013/029521号、国際公開WO2015/164234号に記載されているものが挙げられる。
【国際調査報告】