(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-06
(54)【発明の名称】RF用途を目的とした複合構造のためのハンドル基板を形成するためのプロセス
(51)【国際特許分類】
H01L 21/02 20060101AFI20230130BHJP
【FI】
H01L27/12 B
H01L21/02 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022528160
(86)(22)【出願日】2020-11-25
(85)【翻訳文提出日】2022-05-13
(86)【国際出願番号】 FR2020052171
(87)【国際公開番号】W WO2021111062
(87)【国際公開日】2021-06-10
(32)【優先日】2019-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】598054968
【氏名又は名称】ソイテック
【氏名又は名称原語表記】Soitec
【住所又は居所原語表記】Parc Technologique des fontaines chemin Des Franques 38190 Bernin, France
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】キム, ヤン‐ピル
(72)【発明者】
【氏名】デルプラット, ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】カペッロ, ルシアナ
(72)【発明者】
【氏名】ベルトラン, イザベル
(72)【発明者】
【氏名】アリベール, フレデリック
(57)【要約】
本発明は、複合構造のためのハンドル基板(100)であって、
10~500Ω・cmの抵抗率を有する、チョクラルスキー引き上げ法によって得られる単結晶シリコンウェハ(1)上のエピタキシャルシリコン層(2)から成るベース基板(12)であって、上記エピタキシャルシリコン層(2)が、2000Ω・cmよりも大きい抵抗率及び2~100マイクロメートルに及ぶ厚さを呈する、ベース基板(12)と、
エピタキシャルシリコン層(2)上にあり、エピタキシャルシリコン層(2)と接しているパッシベーション層(3)であって、上記パッシベーション(3)層が、非晶質又は多結晶である、パッシベーション層(3)と、
パッシベーション層(3)上にあり、パッシベーション層(3)と接している電荷トラップ層(4)と
を備える、ハンドル基板(100)に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合構造のためのハンドル基板(100)であって、
10~500Ω・cmの抵抗率を有する、チョクラルスキー引き上げ法によって得られる単結晶シリコンウェハ(1)上のエピタキシャルシリコン層(2)から形成されるベース基板(12)であって、前記エピタキシャルシリコン層(2)が、2000Ω・cmよりも大きい抵抗率及び2~100マイクロメートルに及ぶ厚さを呈する、ベース基板(12)と、
前記エピタキシャルシリコン層(2)上にあり、前記エピタキシャルシリコン層(2)と接しているパッシベーション層(3)であって、非晶質又は多結晶であるパッシベーション層(3)と、
前記パッシベーション層(3)上にあり、前記パッシベーション層(3)と接している電荷トラップ層(4)と、
を備え、
前記ハンドル基板(100)が、
前記パッシベーション層(3)が、前記エピタキシャルシリコン層(2)の表面の炭化によって形成される炭化ケイ素の層であること、又は
前記パッシベーション層(3)が、前記エピタキシャルシリコン層(2)の表面の窒化によって形成される窒化ケイ素の層であること、
を特徴とする、ハンドル基板(100)。
【請求項2】
無線周波数用途のための複合構造(110)であって、
請求項1に記載のハンドル基板(100)と、
前記電荷トラップ層(4)上にあり、前記電荷トラップ層(4)と接している誘電体層(5)と、
無線周波数デバイスに適した、前記誘電体層(5)上の薄膜(6)と、
を備える、複合構造(110)。
【請求項3】
複合構造のためのハンドル基板(100)を形成するためのプロセスであって、
a)10~500Ω・cmの抵抗率を有する、チョクラルスキー引き上げ法によって得られる単結晶シリコン(1)を提供する段階と、
b)ベース基板(12)を形成するために、チョクラルスキー引き上げ法によって得られる前記単結晶シリコンウェハ(1)上に、エピタキシャルシリコン層(2)を成長させる段階であって、前記エピタキシャルシリコン層(2)が、2000Ω・cmよりも大きい抵抗率及び2~100マイクロメートルに及ぶ厚さを呈する、エピタキシャルシリコン層(2)を成長させる段階と、
c)前記エピタキシャルシリコン層(2)上にパッシベーション層(3)を形成する段階であって、前記パッシベーション(3)層が、非晶質又は多結晶である、パッシベーション層(3)を形成する段階と、
d)前記パッシベーション層(3)上に多結晶電荷トラップ層(4)を成長させる段階と、
を含み、
段階c)が
多結晶炭化ケイ素のパッシベーション層(3)を形成するように、前記エピタキシャルシリコン層(2)の表面を炭化させること、又は
窒化ケイ素のパッシベーション層(3)を形成するように、前記エピタキシャルシリコン層(2)の表面を窒化させること、
を含むことを特徴とする、プロセス。
【請求項4】
段階c)の前記炭化させることが、前記エピタキシャルシリコン層(2)の表面上に、少なくとも5nmの、多結晶炭化ケイ素のパッシベーション層(3)を形成するために、大気圧を下回る圧力において前記ベース基板(12)を単一の炭素前駆体に暴露することを含む、請求項3に記載のプロセス。
【請求項5】
前記単一の炭素前駆体が、700℃~1200℃の温度を呈する、請求項4に記載のプロセス。
【請求項6】
前記パッシベーション層(3)が、少なくとも10nmの厚さを呈する、請求項3~5のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記電荷トラップ層(4)が、5又は10マイクロメートルよりも大きい厚さを有する、請求項3~6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
前記電荷トラップ層(4)が、多結晶シリコンから作製される、請求項3~7のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項9】
段階b)、段階c)及び段階d)がすべて、エピタキシ機器内でin situで連続的に実行される、請求項3~8のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項10】
段階b)が第1のリアクタ内で実行され、段階c)及び段階d)が第2のリアクタ内で実行され、前記第1のリアクタから前記第2のリアクタへの前記ベース基板(12)の移送が、真空を損なうことなく実行される、請求項9に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高性能RF用途と適合する複合基板のためのハンドル基板に関する。本発明はまた、ハンドル基板を形成するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高抵抗率(HR)シリコン基板は、RFデバイスを作成するために最も一般的に使用されているハンドル基板である。HRシリコン基板は通常、1000Ω・cmよりも高い抵抗率、より一般的には、5000Ω・cmよりも高い抵抗率を呈する。
【0003】
ハンドル基板と埋め込み酸化物との間に電荷トラップ層を備えるか又は備えない、HRシリコンハンドル基板を有するSOI(シリコンオンインシュレータ)などの複合構造が、無線周波数(RF)の分野においてよく知られている。特に、電荷トラップ層を有する複合構造は、その構造が、例えば、構造の製造中又はRFデバイスの製造中に高い温度に暴露されるときに、電荷トラップ層が損傷を受けないことを条件として、上記構造上に製造されるRFデバイスの高い性能品質を保証する。例えば、ポリシリコンの電荷トラップ層が、たとえ部分的にでも再結晶すると、複合構造及びその構造上に形成される集積デバイスは影響を受け、これは明らかに望ましいものではない。
【0004】
RFデバイスの製造の増大と並行してますます制限されるようになっている、HR基板の供給から、別の問題が生じる。結果として、材料はますます高価になっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、高性能RFデバイスを上に製造することができる複合構造、並びに、供給及び製造プロセスの促進に適したハンドル基板を提供するための代替的な解決策を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目標を達成することを視野に入れて、本発明の主題は、複合構造のためのハンドル基板であって、
10~500Ω・cmの抵抗率を有する、Cz型の、すなわち、チョクラルスキー引き上げ法によって得られる単結晶シリコンウェハ上のエピタキシャルシリコン層から形成されるベース基板であって、上記エピタキシャルシリコン層が、2000Ω・cmよりも大きい抵抗率及び2~100マイクロメートルに及ぶ厚さを呈する、ベース基板と、
エピタキシャルシリコン層上にあり、エピタキシャルシリコン層と接しているパッシベーション層であって、非晶質又は多結晶であるパッシベーション層と、
パッシベーション層上にあり、パッシベーション層と接している電荷トラップ層と
を備える、ハンドル基板を提案する。
【0007】
本発明の他の有利で非限定的な特性によれば、以下が個々に又は任意の技術的に達成可能な組み合わせに従って採用される。
【0008】
パッシベーション層が、エピタキシャルシリコン層の表面の炭化によって形成される炭化ケイ素の層である。
【0009】
パッシベーション層が、エピタキシャルシリコン層の表面の窒化によって形成される窒化ケイ素の層である。
【0010】
本発明はまた、無線周波数用途のための複合構造であって、
上記のようなハンドル基板と、
パッシベーション層上にあり、パッシベーション層と接している誘電体層と、
無線周波数デバイスに適した、誘電体層上の薄膜と
を備える、複合構造にも関する。
【0011】
最後に、本発明は、複合構造のためのハンドル基板を形成するためのプロセスであって、
a)10~500Ω・cmの抵抗率を有する、チョクラルスキー引き上げ法によって得られる単結晶シリコンを提供することと、
b)ベース基板を形成するために、チョクラルスキー引き上げ法によって得られる単結晶シリコンウェハ上に、エピタキシャルシリコン層を成長させることであって、上記エピタキシャルシリコン層が、2000Ω・cmよりも大きい抵抗率及び2~100マイクロメートルに及ぶ厚さを呈する、エピタキシャルシリコン層を成長させることと、
c)エピタキシャルシリコン層上にパッシベーション層を形成することであって、上記パッシベーション層が、非晶質又は多結晶である、パッシベーション層を形成することと、
d)パッシベーション層上に多結晶電荷トラップ層を成長させることと
を含む、プロセスに関する。
【0012】
本発明の他の有利で非限定的な特性によれば、以下が個々に又は任意の技術的に達成可能な組み合わせに従って採用される。
【0013】
段階c)が、多結晶炭化ケイ素のパッシベーション層を形成するように、エピタキシャルシリコン層の表面を炭化させることを含む。
【0014】
段階c)の炭化させることが、エピタキシャルシリコン層の表面上に、厚さが少なくとも5nmの、多結晶炭化ケイ素のパッシベーション層を形成するために、大気圧を下回る圧力においてベース基板を単一の炭素前駆体に暴露することを含む。
【0015】
上記単一の炭素前駆体が、700℃~1200℃の温度を呈する。
【0016】
段階c)が、非晶質窒化ケイ素のパッシベーション層を形成するように、エピタキシャルシリコン層の表面を窒化させることを含む。
【0017】
パッシベーション層が、少なくとも10nmの厚さを呈する。
【0018】
電荷トラップ層が、5又は10マイクロメートルよりも大きい厚さを有する。
【0019】
電荷トラップ層が、多結晶シリコンから作製される。
【0020】
段階b)、段階c)及び段階d)がすべて、エピタキシ機器内でin situで連続的に実行される。
【0021】
段階b)が第1のリアクタ内で実行され、段階c)及び段階d)が第2のリアクタ内で実行され、第1のリアクタから第2のリアクタへのベース基板の移送が、真空を損なうことなく実行される。
【0022】
本発明の他の特性及び利点が、添付の図面を参照する、下記の本発明の詳細な説明から明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【発明を実施するための形態】
【0024】
説明部分において、図面内の同じ参照符号が、同じタイプの要素を示すために使用され得る。図面は、読みやすくすることを目的として原寸に比例しない、図式的表現である。特に、z軸に沿った層の厚さは、x軸及びy軸に沿った横方向寸法に対して原寸に比例せず、互いに対する層の厚さは必ずしも図面において配慮されていない。
【0025】
図1は、本発明による複合基板のためのハンドル基板100を図式的に表す。ハンドル基板100は、例えば、直径200mm又は300mm、実際にはさらに450mmなどの、標準化されたサイズの円形スライスの形態で提供することができる。しかしながら、本発明は、決して、上記寸法又は形状に限定されない。
【0026】
ハンドル基板100は、シリコンウェハ1上に配置されているエピタキシャルシリコン層2によって形成されるベース基板12を備える。上記シリコンウェハ1は、概して、数百マイクロメートルの厚さを有し、10~500Ω・cmに及ぶ標準的な抵抗率を呈する。上記シリコンウェハは、優先的には、広く利用可能なタイプの材料である、チョクラルスキー引き上げ法によって得られる単結晶シリコンを対象としてもよい。
【0027】
エピタキシャルシリコン層2は、2000Ω・cmよりも大きい、優先的には2000Ω・cm~20,000Ω・cmの抵抗率を呈する。上記のように、エピタキシャルシリコン層内で移動する傾向にある電荷、正孔又は電子の密度は限られている。上記エピタキシャル層2は、2~100マイクロメートルに及ぶ厚さを有する。
【0028】
ハンドル基板100はまた、ベース基板12上に、電荷トラップ層4も備える。電荷トラップ層4の機能は、ハンドル基板100内に存在する可能性がある任意の電荷担体をトラップし、電荷担体の移動を制限することである。
【0029】
入手性及び費用の理由から、電荷トラップ層4は、優先的には、多結晶シリコンから作製される。しかしながら、電荷トラップ層は、別の半導体及び多結晶材料から形成されてもよく、又は、別の半導体及び多結晶材料から作製される部分を含んでもよい。材料は、例えば、ゲルマニウム、シリコンゲルマニウムなどを対象としてもよい。
【0030】
すべての場合において、多結晶電荷トラップ層4は、概して3000Ω・cmよりも大きい、高い抵抗率を呈する。抵抗率を高めるために、電荷トラップ層は、意図的にドーピングされない、すなわち、電荷トラップ層は、1014atoms/cm3未満のドーパント濃度を呈する。電荷トラップ層は、電荷トラップ層の抵抗率特性を向上させるために、窒素又は炭素に富むようにすることができる。
【0031】
多結晶電荷トラップ層4は、0.5マイクロメートルよりも大きい、又は5マイクロメートルよりも大きい、実際にはさらに10マイクロメートルよりも大きい厚さを有することができる。電荷トラップ層の厚さが上記限界よりも大きいか又は小さいかにかかわらず、電荷トラップ層4は、10nm~1000nmのサイズを有する粒子から構成することができる。
【0032】
ハンドル基板100はまた、ベース基板12と多結晶電荷トラップ層4との間に配置される非晶質又は多結晶パッシベーション層3も備える。パッシベーション層3は、エピタキシャルシリコン層2の直上に形成され、パッシベーション層上に多結晶電荷トラップ層4を成長させることを可能にする。パッシベーション層は、電荷トラップ層4が高温処理中に再結晶するのを防止するために必要である。
【0033】
したがって、パッシベーション層3は、ハンドル基板100を製造し、後に、複合構造110及びRFデバイスを製造するのに必要な高温プロセスの実施の持続時間全体を通じて、非晶質又は多結晶形態のままとすることができる。概して、ハンドル基板100が耐える必要がある熱収支は、950℃~1200℃に及ぶ温度において数時間~10時間程度である。
【0034】
パッシベーション層3は、異なる性質のものであってもよい。有利には、パッシベーション層は、エピタキシャルシリコン層2の自由表面の炭化によって形成される多結晶炭化ケイ素の層から成る。代替的に、パッシベーション層は、エピタキシャルシリコン層の表面の窒化によって形成される窒化ケイ素の層から成ってもよい。
【0035】
当然ながら、マイクロエレクトロニクスの要件を満たし、RFデバイスの完成までの大域的な熱平衡後にパッシベーション層が非晶質又は多結晶構造を維持することを条件として、異なる性質の他の材料をパッシベーション層3に使用してもよい。
【0036】
概して、パッシベーション層3は、少なくとも2nmの厚さ、好ましくは少なくとも10nmの厚さを有することができる。
【0037】
したがって、ハンドル基板100は、単結晶シリコンウェハ1上に配置されているエピタキシャルシリコン層2によって形成されるベース基板12、エピタキシャルシリコン層2と直に接しているパッシベーション層3、及び、パッシベーション層3上にあり、パッシベーション層と直に接している多結晶電荷トラップ層4から成る。提案されているハンドル基板100の特性を改変する可能性がある他の層、特に電気絶縁層を組み込むことは意図されていない。
【0038】
ハンドル基板100は、任意選択的に、電荷トラップ層4の直上に配置されている誘電体層5を備えてもよい。任意選択である上記誘電体層5は、ハンドル基板100を別の基板と併せて組み立てるのを容易にすることができる。誘電体層5は、例えば、酸化ケイ素又は窒化ケイ素から作製されてもよい。
【0039】
図2は、上述したようなハンドル基板100を備える、本発明による複合構造110を表す。
図2から非常に明確になるように、複合構造は、ハンドル基板100上の誘電体層5と、誘電体層5上の、好ましくは単結晶材料から作製される薄膜6とを備える。例えば、限定ではなく、薄膜6は、シリコンなどの半導体材料から、又は、タンタル酸リチウム(LiTaO
3)、ニオブ酸リチウム(LiNbO
3)、酸化リチウムアルミニウム(LiAlO
3)、チタン酸バリウム(BaTiO
3)、チタン酸ジルコン酸鉛(PbZrTiO
3)、ニオブ酸カリウム(KNbO
3)、ジルコン酸バリウム(BaZrO
3)、チタン酸カルシウム(CaTiO
3)、チタン酸鉛(PbTiO
3)、カリウムタンタライト(KTaO
3)などのような圧電材料から作製することができる。
【0040】
図2の複合構造110は、ハンドル基板100からいくつかの方法で形成することができるが、有利には、この形成は、薄膜6をハンドル基板100に移送する段階を含む。自ずからよく分かるように、移送は、概して、ハンドル基板100上にドナー基板の面を組み立てることによって実行される。組み立ては、誘電体層5の有無にかかわらず実行することができる。
【0041】
薄膜6が誘電体材料から作製される場合、薄膜の結晶配向は、意図される用途に応じて選択される。タンタル酸リチウムLiTaO3から作製される表面弾性波フィルタの場合、30°~60°XY又は40°~50°XYの配向を選択することが通例である。ニオブ酸リチウムLiNbO3の場合、約128°XYの配向を選択することが一般的である。しかしながら、本発明は、決して、圧電薄膜の特定の結晶配向に限定されない。ドナー基板は、ドナー基板が選択される結晶配向を呈するように、強誘電材料から作製されるインゴットから引き出されていてもよい。代替的に、ドナー基板は、支持基板と併せて組み立てられる強誘電材料から作製される厚い層を備えてもよい。
【0042】
組み立て段階の後、ドナー基板の厚さは、薄膜6を形成するために縮小される。縮小段階は、機械的又は化学的薄化によって実行することができる。縮小段階はまた、例えば、Smart Cut(商標)技術の原理に従って、ドナー基板に事前に導入されている脆弱領域において破砕することによって実行することもできる。
【0043】
研磨段階、還元性若しくは中性雰囲気下での熱処理又は犠牲酸化などの、薄膜6を仕上げる段階は、厚さを縮小する段階の後にともに関連付けることができる。
【0044】
ドナー基板がバルク基板である、すなわち、集積デバイスを含まない場合、本発明によるハンドル基板100を含む「半導体オンインシュレータ」タイプの複合構造110が形成され、薄膜6は、バージン半導体層である。次いで、複合構造110を使用して集積デバイスを形成することができる。
【0045】
集積デバイスを表面上に形成するためにドナー基板が前処理されている場合、上記デバイスを含む薄膜6をハンドル基板100に移送して、本発明によるハンドル基板100上に集積デバイスの層を有する複合構造110を形成することができる。
【0046】
本明細書によるハンドル基板100の製造は、標準的な材料を提供されること、及び、業界の従来のエピタキシ/堆積機器を使用することによって達成可能である。
【0047】
最初に、本方法は、チョクラルスキー引き上げ法によって得られ、10~500Ω・cmに及ぶ抵抗率を有する単結晶シリコンのウェハ1を提供することにある段階a)を含む。
【0048】
後続の段階b)は、ベース基板12を形成するために、シリコンウェハ1上にエピタキシャルシリコン層2を成長させることにある。成長を行うために、シリコンウェハ1は、エピタキシ機器のリアクタ(又はチャンバ)内に配置される。シリコンウェハ1は、シリコンウェハの表面を洗浄し(すなわち、有機若しくは金属ドーパント又は粒子状汚染物質を除去し)、シリコンウェハの表面から自然酸化物の層を除去するために、エピタキシャル成長の前に準備することができる。洗浄は、概して、従来の湿式洗浄処理によって実行される。脱酸は、シリコンウェハ1をリアクタ内に配置する前に、湿式又は乾式化学エッチングによって実行することができ、脱酸はまた、リアクタ内のシリコンウェハ1を、少なくとも900℃の温度の還元性雰囲気に暴露することによって実行することもできる。
【0049】
段階b)は、真性シリコンのエピタキシャル層2を成長させることを目標とする。層の抵抗率は2000Ω・cmよりも大きく、層の厚さは2~100マイクロメートルに及ぶ。
【0050】
有利には、シリコン層のエピタキシャル成長は、トリクロロシラン(TCS)、ジクロロシラン(DCS)又はシラン(SiH4)などの、従来の気体ケイ素源を用いて大気圧又は減圧下で1000℃~1200℃に及ぶ高温において実行される。
【0051】
次いで、本発明によるプロセスは、エピタキシャルシリコン層2上に非晶質又は多結晶パッシベーション層3を形成することにある段階c)を含む。
【0052】
第1の選択肢によれば、上記パッシベーション層3の形成は、エピタキシャル成長に使用されたものと同じリアクタ内で実行される。第1の選択肢は、ベース基板12が制御された雰囲気下でin situのままであるため、有利である。一方、第1の選択肢は、真空が損なわれることを回避し、したがって、プロセスのおおよその処理時間及び全体的な効率を改善し、他方、ベース基板12が、クリーンルームに存在し得るホウ素粒子又は残留物などの、周囲の雰囲気に由来する汚染物質を捕捉することを防止する。したがって、高い抵抗率を有するエピタキシャルシリコン層2とパッシベーション層3との間の界面を保護及び維持することが可能である。
【0053】
第2の選択肢によれば、パッシベーション層3の形成は、真空又はアルゴン若しくは窒素雰囲気下で、エピタキシャル成長に使用された第1のリアクタと同じ移送モジュールを共有する第2のリアクタ内で実行される。第2の選択肢においても、真空は損なわれず、制御された雰囲気下でベース基板12はin situのままであり、ex situ汚染が防止され、エピタキシャルシリコン層2とパッシベーション層3との間の界面が高い抵抗率を呈することが保証される。加えて、第2の選択肢は、リアクタの洗浄を容易にする。これは、エピタキシャル成長中に(数マイクロメートル~数十マイクロメートルの)第1のリアクタの内壁に堆積されるエピタキシャルシリコン材料を、材料に炭化又は窒化が実行されていない場合に、より容易に除去することができるためである。第2のリアクタにおける炭化又は窒化によってパッシベーション層3は、シリコン材料上にのみ、すなわち、エピタキシャルシリコン層上にのみ形成される。結果として、炭化及び窒化はソース気体とシリコン表面との間で発生する反応であるため、第2のリアクタ内部に位置する部分に影響はない。別個の第1のリアクタ及び第2のリアクタ内で段階b)及びc)を実行することによって、チャンバの洗浄及び性能品質のより良好な管理が可能になる。
【0054】
当然ながら、第3の選択肢によれば、ベース基板12を、クリーンルームの雰囲気に戻すために、第1のリアクタから除去することができる。そのような場合、ベース基板12は、エピタキシャルシリコン層の表面を洗浄し(すなわち、有機若しくは金属ドーパント又は粒子状汚染物質を除去し)、表面から自然酸化物の層を除去するために、パッシベーション層の形成の前に準備することができる。洗浄は、概して、従来の湿式洗浄処理によって実行することができる。脱酸は、湿式又は乾式エッチングによって実行することができる。脱酸は、代替的に、ベース基板12をリアクタに装填した後に、ベース基板を少なくとも800℃の温度の還元性雰囲気に暴露することによって実行されてもよい。しかしながら、段階は強制ではなく、自然酸化物を保持することができる。これは、層が、1~2nm厚と、将来の熱処理が層を溶解によって完全に消滅させない限り、絶縁効果(トンネル効果による層を通じた伝導)を有しないのに十分に薄いためである。
【0055】
上述の選択肢のいずれか1つによれば、リアクタ内に配置された後、ベース基板12は、パッシベーション層3の形成を受ける。
【0056】
第1の実施形態によれば、段階c)が、多結晶炭化ケイ素のパッシベーション層3を形成するように、エピタキシャルシリコン層2の自由表面を炭化させることを含む。
【0057】
炭化を行うために、ベース基板12、より詳細にはエピタキシャルシリコン層2の自由表面は、例えば、0.01トル~760トルの大気圧を下回る圧力において単一の炭素前駆体ガスに暴露される。炭素前駆体ガスは、メタン(CH4)、エタン(C2H6)、プロパン(C3H8)、アセチレン(C2H2)、エチレン(C2H4)などから構成されてもよい。前駆体ガスは、炭素ベースの実体がエピタキシャルシリコン層2の表面上で核生成を実行するように、700℃~1200℃の温度においてリアクタに導入する(又はリアクタ内部で加熱する)ことができる。搬送ガス(H2など)の流れも同時にチャンバに導入することができるが、炭素前駆体ガス以外の前駆体ガスは、ベース基板12の上を流れない。炭素ベースの実体と第2の前駆体の他の実体との反応を回避することによって、リアクタの壁に炭素ベースの化合物が堆積されることが制限され、粒子の生成が回避される。
【0058】
驚くべきことに、炭化段階が760トル未満の低減した炭素分圧下で実行されると、炭素ベースの実体の核生成は、表面上の隔離されたアイレット上で行われることが観察された。次いで、ベースウェハのケイ素原子が炭素アイレットに拡散し、化学量論的であるか又は3C/6H及び4H型の化学量論の状態に近い炭化ケイ素のアイレットが形成される。アイレットは融合して多結晶炭化ケイ素の相対的に厚い層を形成する。炭素前駆体ガスの流れが数分にわたって維持される場合、多結晶層の厚さは数ナノメートルまで増大する。
【0059】
特定の例において、C3H8の前駆体ガスをH2と180sccm/5slmの比で混合したものが、チャンバに導入され、10トルの圧力において5分間循環され、1000℃まで加熱される。次いで、10nmの厚さを有する炭化ケイ素の多結晶パッシベーション層3が、エピタキシャルシリコン層2の表面上で観察される。
【0060】
炭化段階が、760トルよりも大きい、より高い炭素分圧において実行される場合、完全に異なる現象が、ベース基板12の表面上で発生する。炭素ベースの実体は、表面上でより高い密度で核生成を実行し、表面からのケイ素原子の拡散を阻止する。次いで、炭素の結晶又は部分結晶層が、3C構造において、シリコン格子と整列して表面上に低速で成長する。層は、典型的には、10分間の堆積後に、2nmの厚さを呈する。
【0061】
結果として、ベース基板12にわたって、低減した炭素分圧において単一の炭素前駆体ガスを循環させることは、多結晶炭化ケイ素の相対的に厚い(5nm又は10nmよりも大きい)層を形成するための非常に効果的な手段であることが明らかになる。したがって、パッシベーション層3は、層の多結晶性によって、層上に成長される電荷トラップ層4の多結晶性の準備及び保存を可能にするため、有利である。加えて、相対的に厚いパッシベーション層は非常に迅速に形成され、ドーピング実体がベース基板12から電荷トラップ層4へと移動するのを防止するための有効な拡散障壁を構成する。
【0062】
加えて、低減した炭素分圧下の炭化段階は、炭化ケイ素のパッシベーション層3にドーパント(ホウ素など)をごくわずかしか組み込まないことが観察されている。測定は、層内の1014atoms/cm3未満のホウ素濃度を示している。ドーパント実体(ベース基板12の表面に存在するか又はベース基板に組み込まれている可能性がある)は、炭化ケイ素層の形成中に炭化ケイ素層から拡散され、前駆体ガス及び搬送ガスとともに堆積チャンバ(又はリアクタ)から排出されると考えられる。
【0063】
第2の実施形態によれば、段階c)が、窒化ケイ素のパッシベーション層3を形成するように、エピタキシャルシリコン層2の自由表面を窒化させることを含む。
【0064】
窒化を行うために、ベース基板12、より詳細にはエピタキシャルシリコン層2の自由表面は、例えば、0.1トル~760トルの圧力において窒素前駆体ガスに暴露される。前駆体ガスはアンモニア(NH3)から構成することができる。前駆体ガスは、窒素ベースの実体がエピタキシャルシリコン層2の表面上で核生成するように、800℃~1300℃の温度においてチャンバに導入する(又はチャンバ内部で加熱する)ことができる。
【0065】
段階c)の後、窒化ケイ素のパッシベーション層が得られる。パッシベーション層は、典型的には、10秒間~60分間の窒化後に、10nm未満の厚さを呈する。
【0066】
したがって、パッシベーション層3は、層のシリコンに対する非エピタキシャル性によって、層上に成長される電荷トラップ層4の多結晶性の準備及び保存を可能にするため、有利である。パッシベーション層3はシリコン上にのみ非常に迅速に形成され、ドーピング種がベース基板12から電荷トラップ層へと移動するのを防止するための有効な拡散障壁を構成する。
【0067】
第1の実施形態及び第2の実施形態のいずれか一方に基づいて、ベース基板12上にパッシベーション層3が成長された後、従来のように多結晶電荷トラップ層4を形成するために、1000℃程度の温度における前駆体ガスの別の流れが、リアクタに通され、これが、本発明によるプロセスの段階d)である。前駆体ガスの循環の持続時間が、多結晶層4の厚さを決定づけ、持続時間は、5マイクロメートル、10マイクロメートル以上の層を成長させるように選択することができる。
【0068】
有利には、パッシベーション層3及び多結晶電荷トラップ層4は、同じリアクタ又はチャンバ内でin situで形成される。in situ形成によって、周囲の雰囲気に由来するドーパント又は汚染物質による層スタックの汚染が回避され、ハンドル基板100の高い抵抗率の特性が保持される。
【0069】
完成させるために、ハンドル基板100に、従来のように堆積される、例えば、酸化ケイ素又は窒化ケイ素などの誘電体層5を提供することができる。上記誘電体層5及び/又は多結晶電荷トラップ層4はまた、薄膜6を上記ハンドル基板100に移送する従来の段階と適合するハンドル基板100の上面を提供するために、研磨することもできる。
【0070】
当然ながら、本発明は、記載の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって画定される本発明の範囲から逸脱することなく、代替の実施形態を本発明に供与することができる。
【国際調査報告】