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特表2023-505682保護コーティングを有する光学素子、その製造方法及び光学装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-10
(54)【発明の名称】保護コーティングを有する光学素子、その製造方法及び光学装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/08 20060101AFI20230203BHJP
   G02B 1/14 20150101ALI20230203BHJP
   G02B 5/26 20060101ALI20230203BHJP
【FI】
G02B5/08 A
G02B1/14
G02B5/26
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022534843
(86)(22)【出願日】2020-11-16
(85)【翻訳文提出日】2022-07-21
(86)【国際出願番号】 EP2020082272
(87)【国際公開番号】W WO2021115733
(87)【国際公開日】2021-06-17
(31)【優先権主張番号】102019219177.0
(32)【優先日】2019-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503263355
【氏名又は名称】カール・ツァイス・エスエムティー・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100147692
【弁理士】
【氏名又は名称】下地 健一
(72)【発明者】
【氏名】コンスタンチーン フォルヒト
(72)【発明者】
【氏名】アレクセイ ポーコヴォワ
【テーマコード(参考)】
2H042
2H148
2K009
【Fターム(参考)】
2H042DA02
2H042DA08
2H042DA12
2H042DA18
2H042DB02
2H042DB06
2H042DC02
2H042DC03
2H042DE00
2H148FA05
2H148FA18
2H148FA24
2K009AA15
2K009BB04
2K009CC03
2K009DD01
(57)【要約】
本発明は、基板(2)と、基板(2)に施された、100nm~700nm、好ましくは100nm~300mm、より好ましくは100nm~200nmの第1波長域(Δλ)の放射線を反射する反射コーティング(3)と、反射コーティング(3)に施された保護コーティング(4)とを備えた光学素子(1)に関する。基板(2)は、第1波長域(Δλ)の放射線(5)に対して透明な材料から形成される。反射コーティング(3)は、基板の背面(2b)に施され、反射コーティング(3)まで基板(2)を通過する放射線(5)を反射するよう設計される。本発明は、少なくとも1つの上記光学素子(1)を備えた光学装置及び上記光学素子(1)を製造する方法にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学素子(1)であって
基板(2)と、
該基板(2)に施された、100nm~300mm、好ましくは100nm~200nmの第1波長域(Δλ)の放射線を反射する反射コーティング(3)と、
該反射コーティング(3)に施された保護コーティング(4)と
を備えた光学素子において、
前記基板(2)は、前記第1波長域(Δλ)の前記放射線(5)に対して透明なフッ化物材料から形成され、且つ前記反射コーティング(3)は、前記基板の背面(2b)に施され、前記反射コーティング(3)まで前記基板(2)を通過する放射線(5)を反射するよう設計されることを特徴とする光学素子。
【請求項2】
請求項1に記載の光学素子において、前記保護コーティング(4)は、50nm以上、好ましくは90nm以上、特に120nm以上の厚さを有する光学素子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光学素子において、前記保護コーティング(4)は、Al、SiO、MgO、BeO、HfO、Sc、Y、Yb、及びそれらの組合せを含む群から選択されることが好ましい酸化物材料の少なくとも1つの層を有する光学素子。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の光学素子において、前記保護コーティング(4)は、前記第1波長域(Δλ)に対して不透明な材料の少なくとも1つの層を有する光学素子。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の光学素子において、前記反射コーティング(3)は、金属材料、特にアルミニウム又はアルミニウム合金の少なくとも1つの層を有する光学素子。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載の光学素子において、前記反射コーティングは、異なる屈折率(n、n)を有する材料、特に誘電体材料から構成された複数の交互層(6a、6b)を有する多層コーティング(3、3a)を含むか、又は該多層コーティング(3)からなる光学素子。
【請求項7】
請求項6に記載の光学素子において、前記多層コーティング(3、3a)は、AlF、LiF、BaF、NaF、MgF、CaF、LaF、GdF、HoF、YbF、YF、LuF、ErF、NaAlF、NaAl14、ZrF、HfF及びそれらの組合せを含む群から選択されることが好ましいフッ化物材料の少なくとも1つの層を有する光学素子。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の光学素子において、アルミニウム又はアルミニウム合金から形成されることが好ましい金属材料の少なくとも1つの層(3b)が、前記多層コーティング(3a)に施される光学素子。
【請求項9】
請求項6又は7に記載の光学素子において、前記保護コーティング(4)は、異なる屈折率(n、n)を有する材料、特に誘電体材料の複数の交互層(7a、7b)を有する多層コーティングの形態をとる光学素子。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の光学素子において、直接接合により、特にダイレクトボンディングにより前記保護コーティング(4)の表面(4a)に接合される表面(8a)が形成される別の基板(9)を備え、前記保護コーティング(4)の前記表面(4a)に接合された前記表面(8a)は、前記別の基板(9)に施されたコーティング(8)の上に形成されることが好ましい光学素子。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の光学素子において、前記基板(2)は、5mm未満、好ましくは1mm未満の厚さ(D)を有する光学素子。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の光学素子において、前記基板(2)、前記別の基板(9)、前記保護コーティング(4)、前記反射コーティング(3)及び好ましくは前記別の基板(9)の前記コーティング(8)は、前記第1波長域とは異なる第2波長域(Δλ)に対して透明であり、該第2波長域(Δλ)は、前記第1波長域(Δλ)よりも大きな波長を有することが好ましく、より好ましくは200nm~2000nm、特に200nm~1000nmである光学素子。
【請求項13】
請求項10~12のいずれか1項に記載の光学素子において、前記基板(2)の熱膨張率(α)及び前記別の基板(9)の熱膨張率(α)の差が、5×10-6-1以下である光学素子。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に記載の光学素子において、前記別の基板(9)は、CaF、MgF、LiF、LaF、BaF、及びSrFを含む群から選択されることが好ましいフッ化物材料から形成される光学素子。
【請求項15】
光学装置(20)、特にウェーハ検査装置であって、
100nm~700nm、好ましくは100nm~300mm、より好ましくは100nm~200nmの第1波長域の放射線(5)を発生する放射源(21)と、
請求項1~14のいずれか1項に記載の少なくとも1つの光学素子(24、26)と
を備え、前記放射源(21)から基板(2)の前面(2a)に前記放射線(5)を向けるよう設計された光学装置。
【請求項16】
請求項15に記載の光学装置において、前記放射源(21)又は別の放射源(10)は、第1波長域とは異なる少なくとも第2波長域(Δλ)の別の放射線(5a)を発生するよう設計され、前記第2波長域(Δλ)は、前記第1波長域(Δλ)よりも大きい波長を有することが好ましく、より好ましくは200nm~2000nm、特に200nm~1000nmであり、光学装置(20)は、前記第2波長域(Δλ)の前記別の放射線(5a)を前記基板(2)の前記前面(2a)又は背面(2b)に向けるよう設計される光学装置。
【請求項17】
特に請求項1~14のいずれか1項に記載の反射光学素子(1)を製造する方法であって、
反射コーティング(3)をフッ化物材料から形成された基板(2)の背面(2b)に施すステップであり、前記反射コーティング(3)は、100nm~300nm、好ましくは100nm~200nmの第1波長域(Δλ)の放射線(5)を反射するよう設計され、且つ好ましくは、前記反射コーティング(3)まで前記基板(2)を通過する、前記第1波長域とは異なる第2波長域(Δλ)の別の放射線(5a)を透過するよう設計され、前記基板(2)は、前記第1波長域(Δλ)の前記放射線(5)及び好ましくは前記第2波長域(Δλ)の前記別の放射線(5a)に対して透明な材料から形成されるステップと、
50nm以上、好ましくは90nm以上、特に120nm以上の厚さ(d)を有することが好ましい保護コーティング(4)を前記反射コーティング(3)に施すステップと
を含む方法。
【請求項18】
請求項17に記載の方法において、前記保護コーティング(4)の表面(4a)を別の基板(9)に形成された表面(8a)に、好ましくは前記基板(9)に施されたコーティング(8)に直接接合するステップ
をさらに含む方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法において、少なくとも前記表面(4a)における前記保護コーティング(4)は、好ましくは酸化物材料から形成され、前記別の基板(9)に形成された前記表面(8a)は、前記保護コーティング(4)の前記表面(4a)に形成された材料と同じ好ましくは酸化物材料を含む方法。
【請求項20】
請求項17~19のいずれか1項に記載の方法において、
前記基板(2)の厚さ(D)を減らすために前記基板(2)の前面(2a)上の材料を除去するステップ
をさらに含む方法。
【請求項21】
請求項17~20のいずれか1項に記載の方法において、前記保護コーティング(4)は、原子層堆積により前記反射コーティング(3)に施される方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の参照]
本願は、2019年12月9日の独国特許出願第10 2019 219 177.0号の優先権を主張し、その全開示を参照により本願に援用する。
【0002】
本発明は、基板と、基板に施された、100nm~700nm、好ましくは100nm~300mm、より好ましくは100nm~200nmの第1波長域(DIN5031 Part7に規定されるVUV波長域)の放射線を反射する反射コーティングと、反射コーティングに施された、特に反射コーティングを酸化から保護する保護コーティングとを備えた光学素子に関する。本発明は、少なくとも1つの上記光学素子を備えた光学装置、及び上記光学素子を製造する方法にも関する。
【背景技術】
【0003】
例えば100nmの波長からのVUV波長域に適した光学装置又は光学系は、主に反射光学素子(ミラー)からなる。このような方法でのみ、軸上色収差により結像品質を制限されない光学系を製造することが可能である。軸上色収差は、屈折光学系がビーム経路で用いられる場合に、任意の既知の光学系材料、例えばフッ化マグネシウムの分散により引き起こされる。例えばウェーハの検査に用いられるような光学系のミラー(例えば、特許文献1参照)には、各使用波長域に適した反射コーティングを設けなければならない。
【0004】
本願に関して、第1波長域の放射線を反射する反射コーティングは、第1波長域の少なくとも1つのサブレンジの又は第1波長域全体の放射線に対して60%を超える反射率を有するコーティングを意味すると理解される。第1波長域は、特に1つ又は複数の不連続なサブレンジから構成され得る。例えば、使用放射線に加えて、約700nmの波長域の放射線をビーム経路に入射させることも可能であり、これが反射コーティングで反射される。例えば、さらなる測定装置用に、例えばオートフォーカス装置用に、付加的な放射線を利用することができる。よって、反射コーティングが第1波長域全体で60%を超える反射率を有することが可能だが、必ずしもそうである必要はない。
【0005】
100nm以上のVUV波長域用の反射コーティング(反射率>60%)は、通常は1つ又は複数のフッ化物層により保護されたアルミニウム層からなる(例えば、特許文献2、又は非特許文献1参照)。特に、広い波長域にわたって、例えば約100nm~約1000nmで高い反射性が必要な場合、これは好ましい解決手段である。
【0006】
例えば100nm~300nm又は100nm~200mmのVUV波長域用の反射コーティングの実施についてさらに可能なのは、金属層を一切用いずに誘電体材料から構成された多層コーティングの使用である。この場合、放射線が反射される波長域は、アルミニウム層の場合よりもはるかに小さい(例えば、非特許文献2参照)。反射コーティングの実施についてのさらなる可能性は、例えば特許文献3に記載のような、特定の波長域に関する光学素子の反射率を特に高めるために誘電体多層コーティングが施される金属層、特にアルミニウム層にある。
【0007】
特許文献2は、アルミニウム製であり得る第1層が施された基板を有する、真空紫外(VUV)波長域用のミラーを記載している。さらに2つのフッ化物層がアルミニウム層に施される。
【0008】
特許文献4は、フッ化物の保護層を有する反射面を有する光学素子を記載している。光学素子は、VUV波長域用に設計され得る。反射面は、基板のコーティングとして設計され得ると共に金属層を有し得るものであり、金属層は特にアルミニウム又はアルミニウム合金の層である。
【0009】
非特許文献3は、金属層、特にアルミニウム層を有するVUV波長域用の反射層と、フッ化物及び酸化物の保護層とを記載している。この文献に記載のミラーの反射コーティングは、保護層があるにも関わらず、慣習的な周囲条件下で数ヶ月にわたる100nm以上の波長域の1W/cmを超えるハイパワーの照射下で安定でないことが分かった。慣習的な周囲条件は、酸素5ppm未満及び水5ppm未満の不活性ガス(例えば、N、Ar)である。反射コーティングの劣化は、光学素子の反射の著しい悪化及び散乱光の増加につながる。反射光学素子の環境中の酸素又は水分が多いほど、反射コーティングの寿命がさらに短くなることが明らかであろう。
【0010】
劣化現象の分析では、特にアルミニウムが長期照射で酸化することが分かった。さらに、保護層のフッ化物も化学的に変質し得る。保護コーティングを通した酸素及び水の拡散を十分に減らすために保護コーティングを改良する試みには、問題があることが分かっており、又は保護コーティングの厚さを、反射コーティングの反射率を明確に低下させるほど大きく選択する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許出願公開第2016/0258878号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2017/0031067号明細書
【特許文献3】独国特許出願公開第10 2015 218 763号明細書
【特許文献4】独国特許出願公開第10 2018 211 498号明細書
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】S. Wilbrandt, O. Stenzel, H. Nakamura, D. Wulff-Molder, A. Duparre, and N. Kaiser, "Protected and enhanced aluminum mirrors for the VUV," Appl. Opt. 53, A125-A130 (2014)
【非特許文献2】Luis Rodriguez-de Marcos, Juan I. Larruquert, Jose A. Mendez, and Jose A. Aznarez "Multilayers and optical constants of various fluorides in the far UV", Proc. SPIE 9627, Optical Systems Design 2015: Advances in Optical Thin Films V, 96270B (September 23, 2015)
【非特許文献3】Minghong Yang, Alexandre Gatto, and Norbert Kaiser "Highly reflecting aluminum-protected optical coatings for the vacuum-ultraviolet spectral range", Appl. Opt. 45, 178-183 (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、反射コーティングの劣化からの効果的な保護を可能にする、光学素子、当該光学素子を備えた光学装置、及び光学素子を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的は、基板が第1波長域の放射線に対して透明な材料から形成され、且つ反射コーティングが基板の背面に施されて、反射コーティングまで基板を通過する放射線を反射するよう設計された、上述のタイプの光学素子により達成される。したがって、前面から基板を通過する放射線は、最初に保護コーティングではなく反射コーティングに当たる。
【0015】
本発明によれば、反射光学素子が背面ミラー(マンジャンミラー)として設計されることで保護コーティングの保護効果を改善することが提案される。このようなミラーの場合、保護コーティングは、反射コーティングのうち基板から遠い側に施され、保護コーティングを第1波長域の放射線に対して透明にする必要がなくなる。
【0016】
一実施形態において、保護コーティングは、50nm以上、好ましくは90nm以上、特に120nm以上の厚さを有する。前述したように、ここに記載の光学素子では、放射線が保護コーティングを通過可能である必要はない。したがって、保護コーティングは、保護効果を高めるために、非特許文献3に記載の保護コーティングの場合よりもはるかに大きい厚さを有し得る。
【0017】
さらに別の実施形態において、保護コーティングは、Al、SiO、MgO、BeO、La、及びそれらの混合物又は組合せを含む群から選択されることが好ましい酸化物材料の少なくとも1つの層を有する。酸化物材料は、特に高密度で施す又は堆積することができるので、保護コーティングに有利であることが分かった。特に酸化物材料の特に緻密な層の堆積には、原子層堆積(ALD)が有利であることが分かった。例えば、論文"Mirror Coatings with Atomic Layer Deposition: Initial Results" by F. Geer et al., Proc. SPIE 8442, Space Telescopes and Instrumentation 2012: Optical, Infrared and Millimeter Wave, 84421J、論文"Enabling High Performance Mirrors for Astronomy with ALD", ECS Transactions, 50 (13), 141-148 (2012)、又は論文"Study of a novel ALD process for depositing MgF2 thin films", Tero Plivi et al., J. Mater. Chem. 2007, 17, 5077-5083を参照されたい。特に、原子層堆積により施された酸化アルミニウム(Al)が保護コーティングの材料として好適であることが分かった。本願に関して、保護コーティングは、単層又は多層を有し得るコーティングを意味すると理解される。
【0018】
さらに別の実施形態において、保護コーティングは、第1波長域に対して不透明な材料の少なくとも1つの層を有する。前述したように、保護コーティングの材料が第1波長域の、例えばVUV波長域の放射線に対して良好な透過率を有する必要はない。したがって、ここに記載の保護コーティングに用いることができる材料の選択は、反射光学素子の前面に施された保護コーティングの場合よりもはるかに広い。
【0019】
適当な本質的に不透明の材料は、例えば、Y、Yb、HfO、Sc、Nb、Ta、TiO、SnO、ZrO、ZnO、Al、Cr、Ta、Hf、Ti、Sc、Nb、Zr及びそれらの混合物又は組合せを含む。これらの混合物又は組合せは、上記酸化物Al、SiO、MgO、BeO、及びLaも含み得る。
【0020】
さらに別の実施形態において、反射コーティングは、金属材料の、特にアルミニウム又はアルミニウム合金の少なくとも1つの層からなる。前述したように、反射コーティングは、大きな波長域内の、例えば約100nm~約1000nmの放射線を反射するために、1つの層から、又は場合によっては金属材料の複数の層から、具体的にはアルミニウム又はアルミニウム合金から形成され得る。純粋に金属性の反射コーティングの場合、放射線は反射コーティングのうち基板から遠い側又は表面に通常は達しないので、基板から遠い側に保護層を施す必要は必ずしもない。この場合、すなわち金属材料の表面が放射線に事実上曝されない場合、金属材料の劣化は概して少ない。
【0021】
代替的な実施形態において、反射コーティングは、異なる屈折率を有する材料、特に誘電体材料から構成された複数の交互層を有する多層コーティングを含むか、又は当該多層コーティングからなる。多層コーティングは、通常、層間の境界面で放射線が反射すると生じる強め合う干渉により、既定の概して比較的小さな波長域で高い反射性を生じる働きをする。この目的で、多層系は、第1波長域における屈折率の実部が大きい材料と、第1波長域における屈折率の実部が小さい材料とが交互に施された層を通常は有する。交互層の厚さは、反射コーティングが最大反射性を有する波長域に応じて固定される。概して、このような多層コーティングの場合、屈折率の実部が小さい層の厚さと、屈折率の実部が大きい層の厚さとは一定である。概して、反射多層コーティングは、約50対以下の交互層を有する。
【0022】
さらに別の実施形態において、多層コーティングは、AlF、LiF、BaF、NaF、MgF、CaF、LaF、GdF、HoF、YbF、YF、LuF、ErF、NaAlF、NaAl14、ZrF、HfF及びそれらの組合せを含む群から選択されることが好ましいフッ化物材料の少なくとも1つの層を有する。反射コーティングは、ここに記載の群からの異なる2つの材料を特に有し得る。フッ化物材料の使用は、100nm~700nm、好ましくは100nm~300nm、より好ましくは100nm~200nmの波長域で高い反射性を生じるために好適であることが分かった。
【0023】
一発展形態において、金属材料の少なくとも1つの層が、アルミニウム又はアルミニウム合金から形成されることが好ましい多層コーティングに施される。この場合、反射コーティングは、誘電体強化金属コーティングである。この場合、保護コーティングは、金属材料の少なくとも1つの層に施される。
【0024】
代替的な発展形態において、保護コーティングは、特に異なる屈折率を有する誘電体材料の複数の交互層を有する多層コーティングの形態をとる。保護コーティング自体が多層コーティングの形態をとる場合、これは、反射コーティングに加えて光学素子の反射性の向上に寄与し得る。これは、例えば250nmを超える波長の場合に反射コーティング自体が十分に高い反射性を提供し得ない第1波長域のサブレンジにおける反射率を向上させるために好適であり得る。ここに記載の実施形態において、反射コーティングは概してフッ化物材料から形成されるが、保護コーティングは酸化物材料から形成される。
【0025】
マンジャンミラー、例えば独国特許出願公開第10 2017 202 802号に記載のレンズを有する既知の光学系の場合、各基板が、表面形態の必要精度を達成し且つ機械的安定性を達成するために約1:15未満の厚さ/直径比を通常有するべきなので、基板内の放射経路は長い。基板の厚さが比較的大きいと、基板内の吸収による放射損失につながる。
【0026】
さらに別の実施形態において、光学素子は、直接接合により、特にダイレクトボンディングにより保護コーティングの表面に接合される表面が形成された別の基板を備え、保護コーティングの表面に接合された表面は、上記別の基板に施されたコーティングの上に形成されることが好ましい。本願に関する直接接合は、接合手段のない、特に例えば接着剤の形態の中間層を挟まない、2つの表面間の接合を意味すると理解される。特にセラミック材料であり得る上記別の基板は、キャリア基板として働き、光学素子の機械的安定性を高める。
【0027】
接続層を用いて薄板ガラスを施されたセラミックシートを有するミラー光学系が、独国特許出願公開第10 2005 052 240号に記載されており、当該出願を参照により本願に援用する。独国特許出願公開第10 2005 052 240号によれば、セラミックシートと薄板ガラスとの間の接合は、特殊接着剤、融着、ガルバニック接合、又は他の何等かの考えられる形態を用いて行うことができる。ここに記載の光学素子では、接合手段、例えば接着剤を用いると長期的な機械的安定性がないことで表面の形状が変わるので、別の基板への接合は直接接合により行われる。直接接合の場合、この問題を回避することができる。
【0028】
ダイレクトボンディングに関して、より具体的には低温ダイレクトボンディングに関して、保護コーティングが好ましくは酸化物材料の少なくとも表面に形成されると、且つ別の基板の表面が保護コーティングが形成される表面と同じ、好ましくは酸化物材料を有すると好適であることが分かった。ダイレクトボンディングに関して、相互に接合される2つの表面が同一の材料からなると概して有利である。別の基板の材料が保護コーティングの材料に対応しない場合、保護コーティングの材料の層又はコーティングを上記別の基板に施すことが可能である。代替として、接着促進層又は別の基板の表面と同じ材料からなる層を保護コーティングに施すことが任意に可能である。
【0029】
2つの表面のダイレクトボンディングは、酸化物系材料の場合に、具体的にはSiOの場合に可能であり、例えば論文"Novel hydrophilic SiO2 wafer bonding using combined surface-activated bonding technique" by Ran He et al., Jpn. J. Appl. Phys. 54, 030218 (2015)を参照されたい。ここに記載のダイレクトボンディング以外のタイプの直接接合も、長期安定性を有する限り、別の基板への接合に用いることができることが明らかであろう。
【0030】
さらに別の実施形態において、基板は、5mm未満、好ましくは1mm未満の厚さを有する。基板は、特に前述した別の基板に固定される場合に特に小さい厚さを有し得る。この場合の別の基板は、キャリア基板として働き、概して基板よりはるかに大きな厚さを有する。基板は、機械加工により、例えばラッピング及び研磨により、基板での吸収が顕著な放射損失につながらなくなる上記厚さまで除去することができる。キャリア基板への接合後の基板材料の機械加工又は除去の代替として、既にラッピング又は研磨された上記厚さを有する基板を用いることが可能である。
【0031】
さらに別の実施形態において、基板、別の基板、保護コーティング、反射コーティング、及び好ましくは別の基板のコーティングは、第1波長域とは異なる第2波長域に対して透明であり、第2波長域は、第1波長域よりも大きな波長を有することが好ましく、より好ましくは200nm~2000nm、特に200nm~1000nmである。第2波長域の(別の)放射線は、反射コーティングにより反射されない。
【0032】
第2波長域の放射線は、付加的な機能、例えば基板の加熱又は温度制御を果たすためにここに記載の光学素子に向けられる放射線であり得る。第2波長域の(別の)放射線は、代替的には、ここに記載の装置により、又は光学素子により第1波長域の放射線から分離される、光学的用途に不適切な光であり得る。
【0033】
第2波長域の、例えば1000nmを超えるIR波長域の放射線が、別の基板の背面から入射することができ、基板まで保護コーティング及び反射コーティングを通過するので、この実施形態による光学素子は、温度制御を可能にする。基板は、第2波長域に対して特に透過率が0であるか又は低い透過率しか有しないものであり得るので、第2波長域の放射線が基板により吸収され、所望の温度制御が可能となるか又は単純化される。光学素子又は基板の温度の監視のために、光学素子に又は光学素子の近くに温度センサを取り付けることができる。
【0034】
反射コーティング、保護層、及び存在する場合は別の基板が第2波長域の放射線に対して透明である光学素子は、光学素子をビームスプリッタとして用いる場合にも好適である。この場合、光学素子は、基板の前面に入射した放射線を2つの波長域に分割し、第1波長域の放射線は反射コーティングで反射され、第2波長域の放射線は反射コーティング、保護層、及び存在する場合は別の基板を透過する。
【0035】
原理上、基板、別の基板、保護コーティング、反射コーティング、及び/又は別の基板上にあるコーティングが、第2波長域の別の放射線に対して不透明又は非透明である可能性もある。
【0036】
さらに別の実施形態において、基板の(線)熱膨張率と基板に接合された別の基板の(線)熱膨張率との差は、5×10-6-1以下である。これにより、基板材料の異なる膨張による相互に固定された基板の変形が減る。言及した基準は、特に2つの基板が同じ材料から製造される場合に満たされる。しかしながら、材料の組合せ、例えばMgF(基板として)及びMgO(別の基板として)も可能である。
【0037】
さらに別の実施形態において、基板及び存在する場合は別の基板は、CaF、MgF、LiF、LaF、BaF、及びSrFを含む群から選択されることが好ましいフッ化物材料から形成される。列挙した材料は、100nmを超える(第1)波長域に対して透明である。前述したように、別の基板の材料が第1波長域の放射線に対して透明である必要は必ずしもない。
【0038】
本発明のさらに別の態様は、光学装置、特にウェーハ検査装置であって、100nm~450nm、好ましくは100nm~300mm、より好ましくは100nm~200nmの少なくとも第1波長域の放射線を発生する放射源と、前述した少なくとも1つの光学素子とを備え、放射源から基板の前面に放射線を向けるよう設計された光学装置に関する。かかる装置において、光学素子は、背面ミラーとして用いられ、基板の前面に入射した第1波長域の放射線が基板の背面に施された反射コーティングで反射される。
【0039】
光学装置は、ウェーハ検査システムであってもよく、例えば、論文"Extending Optical Inspection to the VUV", K. Wells, Int. Conf. of Frontiers of Characterization and Metrology for Nanoelectronics, FCMN, 2017, pp. 92-101を参照されたい。代替として、光学装置がマスクの検査用の検査装置又は別の種類の光学装置、例えば(VUV)リソグラフィシステム等である可能性もある。
【0040】
一実施形態において、放射源及び/又は別の放射源は、第1波長域とは異なる少なくとも第2波長域の別の放射線を発生するよう設計され、第2波長域は、第1波長域よりも大きい波長を有することが好ましく、より好ましくは200nm~2000nm、特に200nm~1000nmであり、光学装置は、第2波長域の別の放射線を基板の前面又は背面に向けるよう設計される。
【0041】
この実施形態は、基板、反射コーティング、及び保護コーティングが第1波長域とは異なる第2波長域で透明でない光学素子の場合に特に有利である。この場合、別の放射線が、例えばIR波長域の加熱放射の形態で、任意に別の基板を通して基板の背面に放射又は出射結合される場合、第2波長域の加熱放射線は、基板又は光学素子の温度の制御をもたらすことができる。第2波長域の放射線が前面から放射され、反射コーティング、保護コーティング、及び基板が第2波長域の放射線に対して透明である場合、光学素子はビームスプリッタとして働き得る。この場合、放射源又は任意に複数の放射源が発生した放射線は、光学素子で2つの波長域に分割されることができ、そのうちの一方は使用放射線として反射され、他方は例えばビームトラップ等に捕捉される。
【0042】
本発明は、特に前述したタイプの反射光学素子を製造する方法であって、反射コーティングを基板の背面に施すステップであり、反射コーティングは、100nm~700nm、好ましくは100nm~300nm、より好ましくは100nm~200nmの第1波長域の放射線を反射するよう設計され、且つ好ましくは反射コーティングまで基板を通過する第1波長域とは異なる第2波長域の別の放射線を透過するよう設計され、基板は第1波長域の放射線及び好ましくは第2波長域の別の放射線に対して透明な材料から形成されるステップと、50nm以上、好ましくは90nm以上、特に120nm以上の厚さを有することが好ましい保護コーティングを反射コーティングに施すステップとを含む方法にも関する。
【0043】
特に反射コーティングが多層コーティングを有するか又は多層コーティングからなる場合、光学素子の背面に施されて反射コーティングまで基板を通過する放射線を反射する働きをする反射コーティングは、基板の前面に施されて基板の前面又はそこに形成された反射コーティングに当たる放射線を反射する働きをする反射コーティングとは異なる。
【0044】
このような反射コーティングの設計は、反射コーティングと環境との間の境界面に形成される光学媒質に応じて変わる。背面に施された反射コーティングは、この光学媒質の場合、基板の材料(1.0より大きい屈折率n)だが、前面に施された反射コーティングは、周囲媒質の場合、空気又は真空環境(屈折率n=1.0)である。
【0045】
一変形形態において、本方法は、保護コーティングの表面を別の基板に形成された表面に、好ましくは基板に施されたコーティングに直接接合するステップを含む。前述したように、別の基板は、特に、光学素子の機械的安定性を高め且つ基板の厚さの低減を可能にするキャリア基板であり得る。
【0046】
この変形形態の発展形態において、少なくとも表面における保護コーティングは、好ましくは酸化物材料から形成され、別の基板の表面は、保護コーティングの表面に形成された材料と同じ好ましくは酸化物材料を含む。いかなる接合手段も必要としない接合の達成のために、2つの同一の材料、例えば2つの酸化物の使用が好適であることが分かった。直接接合は、例えば前述した表面活性化ダイレクトボンディングにより達成することができる。しかしながら、直接接合が形成される2つの表面が同じ材料から形成される必要は必ずしもない。特に、別の基板自体が酸化物材料である場合、これは、場合によっては保護コーティングの表面に直接、すなわち酸化物材料の層を施すことなく接合され得る。
【0047】
さらに別の変形形態において、本方法は、基板の厚さを減らすために基板の前面から材料を除去するステップを含む。除去は、例えばラッピング及び/又は研磨により行うことができる。材料は通常、基板を通過する放射線の顕著な吸収損失につながらなくなる厚さが得られるまで基板から除去される。これは特に、基板が前述した(キャリア)基板に施される場合に可能である。
【0048】
有利な変形形態において、保護コーティングは、原子層堆積により反射コーティングに施される。原子層堆積による、基板の背面への例えば酸化物の形態の保護コーティングの堆積は、特に緻密な層の堆積を可能にするので、この方法が好適であることが分かった。原子層堆積の代わりに、保護コーティング及び反射コーティングを従来の堆積法により、例えば物理蒸着(PVD)又は化学蒸着(CVD)により施すことも可能である。
【0049】
本発明のさらなる特徴及び利点は、本発明に必須の詳細を示す図面の図を参照して以下の本発明の実施形態の説明から、また特許請求の範囲から明らかである。個々の特徴は、単独で個別に、又は本発明の一変形形態において任意の所望の組合せで複数としてそれぞれ実現することができる。
【0050】
例示的な実施形態を概略図に示し、以下の説明において説明する。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1a】保護コーティング及び反射コーティングを背面に有する、VUV波長域の放射線を反射する光学素子の概略図である。
図1b】保護コーティング及び反射コーティングを背面に有する、VUV波長域の放射線を反射する光学素子の概略図である。
図1c】保護コーティング及び反射コーティングを背面に有する、VUV波長域の放射線を反射する光学素子の概略図である。
図1d】保護コーティング及び反射コーティングを背面に有する、VUV波長域の放射線を反射する光学素子の概略図である。
図2a】保護コーティングがキャリア基板に接合された、光学素子の製造のステップの概略図である。
図2b】保護コーティングがキャリア基板に接合された、光学素子の製造のステップの概略図である。
図3a】第2波長域の放射線に対して透明な反射コーティングを有する、図2a、bの光学素子の概略図である。
図3b】第2波長域の放射線に対して透明な反射コーティングを有する、図2a、bの光学素子の概略図である。
図4a】波長の関数としての図1b、d及び図3a、bの光学素子の反射率のグラフである。
図4b】波長の関数としての図1b、d及び図3a、bの光学素子の透過率のグラフである。
図5】VUV波長域の放射線を反射する2つの光学素子を備えたウェーハ検査装置の図である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
図面の以下の説明において、同一の又は同一の機能を有するコンポーネントには同一の参照符号を用いる。
【0053】
図1a~図1dは、100nm~1000nmの広い波長域内の放射線5に対して透明な材料から形成された基板2を有する光学素子1を示す。基板2の材料は、例えば、CaF、MgF、LiF、LaF、BaF、又はSrFであり得る。基板2の背面2bには、100nm~200nmの第1波長域Δλの放射線5を反射するよう設計された反射コーティング3が施され、この放射線5は、基板2の前面2aに入って反射コーティング3まで基板2を通過する。反射コーティング3は、第1波長域Δλの放射線5に対して60%を超える反射率を有する高反射コーティングと通常は称するものである。
【0054】
反射コーティング3のうち基板2から遠い面又は表面には、反射コーティング3を特に酸化から保護する保護コーティングが施される。放射線5が基板2の背面2bに施された保護コーティング4を貫通する必要がないので、保護コーティング4は、原理上は大きな厚さdを有し得る。保護コーティング4に覆われた反射コーティング3に十分な保護効果を達成するために、保護コーティングが50nm以上、好ましくは90nm以上、特に120nm以上の厚さdを有すると好適であることが分かった。
【0055】
図1a~図1cに示す例では、保護コーティング4は酸化物材料、具体的には酸化アルミニウム(Al)の層4からなる。代替として、保護コーティングは、別の酸化物材料、例えばSiO又はMgOの1つ又は複数の層を有し得る。保護コーティング4は、第1波長域Δλに対して、すなわち100nm~200nmの波長に対して不透明な材料の少なくとも1つの層を特に有し得る。第1波長域Δλに対して不透明な材料は、厚さ100nmであれば第1波長域Δλの放射線5に対して30%未満の透過率を有する材料を意味すると理解される。したがって、第1波長域Δλに対して透明な材料は、厚さ100nmであれば第1波長域Δλの放射線5に対して60%を超える透過率を有する材料を意味すると理解される。
【0056】
図1aに示す光学素子1において、反射コーティング3は金属材料、より具体的にはアルミニウムからなる。反射コーティング3は、代替的には別の金属材料から、例えば合金、例えばアルミニウム合金から形成され得る。
【0057】
金属材料の反射コーティング3ではなく、反射コーティング3は誘電体材料から形成されてもよい。図1bは、異なる屈折率n、nを有する材料の複数対の、例えば約10対の交互層6a、6bを有する多層コーティングを形成するような反射コーティング3を示す。100nm~200nmの第1波長域Δλで高い反射性を生じるために、反射コーティング3の材料がフッ化物材料、例えばAlF、LiF、BaF、NaF、MgF、CaF、LaF、GdF、HoF、YbF、YF、LuF、ErF、NaAlF、NaAl14、ZrF、HfF及びそれらの組合せであると好適であることが分かった。
【0058】
図1cは、反射コーティング3が誘電体強化金属コーティングである光学素子1を示す。反射コーティング3は、多層コーティング3aを有し、これに例えばアルミニウムの金属層3bが施される。よって、図1cに示す反射コーティング3は、図1aに示す反射コーティングと図1bに示す反射コーティングとの組合せを構成する。
【0059】
図1dに示す光学素子1では、反射コーティング3が図1bのような多層コーティングの形態をとる。さらに、保護コーティング4も多層コーティングの形態をとり、異なる屈折率n、nを有する複数対の層7a、7b、例えば約10対の層7a、7bを有する。この場合、保護層4は、第1波長域Δλの放射線に対する光学素子1の反射率Rの向上を可能にする。以下の表は、図1b及び図1dの光学素子の反射コーティング3及び保護コーティング4の層の層順序及び層厚の各一例を示す。
【0060】
【表1-1】
【表1-2】
【0061】
上記表に示す例では、反射コーティング3は、LiF(180nmでn=1.425)及びBaF(180nmでn=1.583)の交互層6a、6bを有し、それぞれの厚さは32.5nm~28nm及び29.2nm~25.1nmである。図1bに示す光学素子1の例における保護層コーティング4は、厚さ120nmのAlの単層を有する。これに対して、図1dに示す例では、保護コーティング4は、Al(200nmでn=1.84)及びSiO(200nmでn=1.554)の交互層7a、7bを有し、それぞれの厚さは約26.5nm及び約32.2nmである。図1dに示す例では、反射コーティング3又は保護コーティング4は(各サブレンジ内で)周期的な多層コーティング3、4だが、適切な場合は光学素子1の反射率Rをさらに向上させるために非周期的な多層コーティング3、4を用いることも可能であることが明らかであろう。
【0062】
図4aは、複雑な保護コーティング4がない、すなわち表の左側に明記するように厚さ120nmのAl層を有する保護コーティング4しかない、波長λの関数としての図1bの光学素子1の反射率Rを点線で示す。図4aは、表の右側に明記するように多層保護コーティング4を有する図1dの光学素子1の反射率Rを実線で示す。表の左欄及び図4aの例は、160nm~190nmの波長域用に設計される。表の右欄及び図4bの例は、160nm~205nmの波長域用に設計される。100nm~200nmの第1波長域Δλへの調整が、指定の材料で同様に可能である。
【0063】
図4aに示す図1bの光学素子1の反射率Rと図4bに示す図1dの光学素子1の反射率との比較から分かるように、図1dに示す保護コーティング4は、第1波長域Δλのサブレンジ内で光学素子1の反射率Rを向上させることができる。これを達成するために、保護コーティング4の材料が酸化物材料、例えばAl、SiO、MgO、BeO、HfO、Sc、Y、又はYbであると好適である。
【0064】
図1a~dの光学素子1の製造のために、反射コーティング3が、PVD又はCVD法により基板2の背面2bに最初に施される。後続のステップにおいて、保護層コーティング4が反射コーティング3に施される。保護層コーティング4の材料が酸化物材料、例えば酸化アルミニウムである場合、保護層コーティング4の保護効果を高める高密度を達成することが可能なので、この場合は保護層コーティング4がALD法により施されると好適である。
【0065】
図2aは、保護コーティング4の表面4aが、別の基板9(以下、キャリア基板9)に施された別の層8の表面8aに接合される、さらなる方法ステップを示す。別の層8の材料は、保護層4と同じ材料、すなわちAlである。これにより、ダイレクトボンディング、すなわちいかなる接合手段、例えばいかなる接着剤等も必要としない接合により2つの表面4a、8aを相互に接合することが容易になる。ダイレクトボンディングは、例えば、全体を参照により本願に援用する前掲の論文Novel hydrophilic SiO2 wafer bonding using combined surface-activated bonding technique" by Ran He et al., Jpn. J. Appl. Phys. 54, 030218 (2015)に記載の方法で行うことができる。
【0066】
図2bは、基板2の厚さDを減らすために基板2の前面2aから材料を除去したプロセスステップ後の光学素子1を示す。基板2の厚さDを例えばD=5mm又はD=1mm以下の値に減らすことで、放射線5が基板2を(2回)通過する場合の吸収損失を無視できる値に減らすことができる。材料は、基板2の前面2aを所望の形状に同時に変えるラッピング及び研磨により、基板2の前面2aから除去することができる。基板2の材料の除去は絶対に必要というわけではなく、基板2がキャリア基板9への接合時に所望の厚さDを既に有していてもよいことが明らかであろう。
【0067】
原理上、基板2の厚さDは、キャリア基板9への接合により、キャリア基板9のない光学素子1の場合よりも小さい厚さDを有し得る。キャリア基板9は、概して基板2よりも大きい厚さD’を有し、例えば約10mmを超え得る。
【0068】
図2a、bに示す例では、基板2の材料は、別の基板9の熱膨張率αとの差が5×10-6-1である熱膨張率αを有する。このように、基板材料の異なる膨張による相互に固定された基板2、9の変形を減らすことが可能である。言及した基準は、特に2つの基板2、9が同じ材料から製造される場合に満たされる。しかしながら、言及した基準を満たす異なる材料の組合せ、例えばMgF(基板2として)及びMgO(別の基板9として)も可能である。
【0069】
図3a、bは、100nm~200nmの第1波長域Δλの放射線5が基板2の前面2aに向けられ、200nm~1000nmの第2波長域Δλの別の放射線5aが基板2の前面2aに向けられた、図2bの光学素子1を示す。図3a、bに示す例では、反射コーティング3が第2波長域Δλの放射線5に対して透明である。
【0070】
このような反射コーティング3は、例えば図1b又は図1dに関連して前述したようなものとすることができ、つまり反射多層コーティング3の形態をとり得る。この場合、反射多層コーティング3の誘電体材料は、第2波長域Δλの波長に対して吸収が高すぎない必要がある。図4bは、波長λの関数としての反射多層コーティング3の透過率Tを示す。ここでの点線は、単層、この場合は120nmのAlを有する保護層4を有する光学素子の透過率Tを示す。よって、光学素子1は、図1b及び表の左側に示す実施形態に対応する。実線は、図1d及び表の右側に示す光学素子1の分光透過率Tを示す。
【0071】
図3a、bに示す例では、保護コーティング4、キャリア基板9、及びキャリア基板9に施されたコーティング8は、第2波長域Δλ内の別の放射線5aに対して透明である。
【0072】
第2波長域Δλの別の放射線5aに対する光学素子1の透明性は、異なる方法で有利に利用することができる。図3aに示す例では、光学素子1は、基板2の前面2aに当たる第1波長域Δλの放射線5を反射して、基板2の前面2aに同様に当たる第2波長域Δλの別の放射線5aを透過するビーム分割装置として働く。光学素子1により透過された別の放射線5aは、例えば、ビームトラップ(図示せず)で捕捉され吸収され得る。放射線5及び別の放射線5aは、同一の放射源で、又は適切な場合は複数の放射源(図3aには図示せず)で発生し得る。
【0073】
図3bに示す例では、第1波長域の放射線5は、基板2の前面2aに向けられて反射コーティング3で反射される。図3bに示す例では、第2波長域Δλの別の放射線5aを、別の放射源10が発生し、別の放射線5aを光学素子1の背面に、より具体的にはキャリア基板9bの背面に向ける。特に第2波長域Δλが第1波長域Δλよりも大きい波長、例えば800nmを超えるNIR波長域にある場合、別の放射線5aにより基板2の温度の制御を実現することができる。この場合の別の放射線5aは、例えば基板2で均一な温度分布を発生させるために加熱放射線として働き得る。この目的で、別の放射源10は、場所に応じて変わる調整可能な放射強度及び放射パワーを有する別の放射線5aをキャリア基板9の背面9bに向けるよう設計され得る。
【0074】
図1b又は図1dに示すキャリア基板9を有しない光学素子1も、図3a、bに示す機能を果たすことができることが明らかであろう。光学素子1の幾何学的形状が図1a~d~図3a、bに示す凹状の幾何学的形状とは異なることも可能である。特に、基板2は、平面状の幾何学的形状を有し得る、すなわち平面シートの形態をとり得る。
【0075】
前述したように設計された光学素子は、異なる光学装置で用いることができる。図5は、ウェーハ検査システム20の形態のそのような光学装置の例示的設計を示す。以下の説明は、マスクの検査用の検査システムにも同様に適用可能である。
【0076】
ウェーハ検査装置20は、放射源21を有し、そこから第1波長域ΔλのVUV放射線5が光学系22によりウェーハ25に向けられる。この目的で、放射線5は、凹面ミラー24によりウェーハ25へ反射される。マスク検査装置の場合、ウェーハ25の代わりに検査対象のマスクを配置することができる。
【0077】
ウェーハ25により反射、回折、且つ/又は屈折した放射線は、同様に光学系22に関連するさらなる凹面ミラー26によるさらなる評価のために検出器27に向けられる。ウェーハ検査装置20の光学系22は、ハウジング27を備え、その内部27aに2つの反射光学素子又はミラー24、26が配置される。図5に示す例では、各ミラー24、26は、図1a~d又は図3a、bに関連した上記光学素子1の1つである。
【0078】
放射源21は、本質的に連続した放射スペクトルを提供するために、1つだけの放射源又は複数の個別放射源の組合せであり得る。変形形態において、1つ又は複数の狭帯域放射源21を用いることも可能である。好ましくは、放射源21が発生した放射線15の波長帯は、100nm~200nmのVUV波長域Δλにある。
【0079】
放射源21を、好ましくは200nm~1000nmである第2波長域Δλの別の放射線5aを発生するよう設計することが任意に可能である。一構成変形形態において、第2波長域Δλは第1波長域Δλに直接隣接せず、概して2つの波長域Δλ、Δλ間には100nm以上の波長域がある。換言すれば、2つの波長域Δλ、Δλはスペクトル上で離間している。
【0080】
前述の光学素子1が、他の光学装置で、例えば(VUV)リソグラフィシステム等でも有利に用いられ得ることが理解されよう。
図1a
図1b
図1c
図1d
図2a
図2b
図3a
図3b
図4a
図4b
図5
【手続補正書】
【提出日】2022-07-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学素子(1)であって
基板(2)と、
該基板(2)に施された、100nm~300mm、好ましくは100nm~200nmの第1波長域(Δλ)の放射線を反射する反射コーティング(3)と、
該反射コーティング(3)に施された
保護コーティング(4)と
を備えた光学素子において、
前記基板(2)は、前記第1波長域(Δλ)の前記放射線(5)に対して透明なフッ化物材料から形成され、且つ前記反射コーティング(3)は、前記基板の背面(2b)に施され、前記反射コーティング(3)まで前記基板(2)を通過する放射線(5)を反射するよう設計され、
前記保護コーティング(4)は、前記第1波長域(Δλ )に対して不透明な材料の少なくとも1つの層を有することを特徴とする光学素子。
【請求項2】
請求項1に記載の光学素子において、前記保護コーティング(4)は、50nm以上、好ましくは90nm以上、特に120nm以上の厚さを有する光学素子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光学素子において、前記保護コーティング(4)は、Al、SiO、MgO、BeO、HfO、Sc、Y、Yb、及びそれらの組合せを含む群から選択されることが好ましい酸化物材料の少なくとも1つの層を有する光学素子。
【請求項4】
請求項1~のいずれか1項に記載の光学素子において、前記反射コーティング(3)は、金属材料、特にアルミニウム又はアルミニウム合金の少なくとも1つの層を有する光学素子。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載の光学素子において、前記反射コーティングは、異なる屈折率(n、n)を有する材料、特に誘電体材料から構成された複数の交互層(6a、6b)を有する多層コーティング(3、3a)を含むか、又は該多層コーティング(3)からなる光学素子。
【請求項6】
請求項に記載の光学素子において、前記多層コーティング(3、3a)は、AlF、LiF、BaF、NaF、MgF、CaF、LaF、GdF、HoF、YbF、YF、LuF、ErF、NaAlF、NaAl14、ZrF、HfF及びそれらの組合せを含む群から選択されることが好ましいフッ化物材料の少なくとも1つの層を有する光学素子。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の光学素子において、アルミニウム又はアルミニウム合金から形成されることが好ましい金属材料の少なくとも1つの層(3b)が、前記多層コーティング(3a)に施される光学素子。
【請求項8】
請求項5又は6に記載の光学素子において、前記保護コーティング(4)は、異なる屈折率(n、n)を有する材料、特に誘電体材料の複数の交互層(7a、7b)を有する多層コーティングの形態をとる光学素子。
【請求項9】
請求項1~のいずれか1項に記載の光学素子において、直接接合により、特にダイレクトボンディングにより前記保護コーティング(4)の表面(4a)に接合される表面(8a)が形成される別の基板(9)を備え、前記保護コーティング(4)の前記表面(4a)に接合された前記表面(8a)は、前記別の基板(9)に施されたコーティング(8)の上に形成されることが好ましい光学素子。
【請求項10】
請求項1~のいずれか1項に記載の光学素子において、前記基板(2)は、5mm未満、好ましくは1mm未満の厚さ(D)を有する光学素子。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の光学素子において、前記基板(2)、前記別の基板(9)、前記保護コーティング(4)、前記反射コーティング(3)及び好ましくは前記別の基板(9)の前記コーティング(8)は、前記第1波長域とは異なる第2波長域(Δλ)に対して透明であり、該第2波長域(Δλ)は、前記第1波長域(Δλ)よりも大きな波長を有することが好ましく、より好ましくは200nm~2000nm、特に200nm~1000nmである光学素子。
【請求項12】
請求項9~11のいずれか1項に記載の光学素子において、前記基板(2)の熱膨張率(α)及び前記別の基板(9)の熱膨張率(α)の差が、5×10-6-1以下である光学素子。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の光学素子において、前記別の基板(9)は、CaF、MgF、LiF、LaF、BaF、及びSrFを含む群から選択されることが好ましいフッ化物材料から形成される光学素子。
【請求項14】
光学装置(20)、特にウェーハ検査装置であって、
100nm~700nm、好ましくは100nm~300mm、より好ましくは100nm~200nmの第1波長域の放射線(5)を発生する放射源(21)と、
光学素子(1)であって、基板(2)と、該基板(2)に施された、100nm~300mm、好ましくは100nm~200nmの第1波長域(Δλ )の放射線を反射する反射コーティング(3)と、該反射コーティング(3)に施された保護コーティング(4)とを備えた光学素子において、前記基板(2)は、前記第1波長域(Δλ )の前記放射線(5)に対して透明なフッ化物材料から形成され、且つ前記反射コーティング(3)は、前記基板の背面(2b)に施され、前記反射コーティング(3)まで前記基板(2)を通過する放射線(5)を反射するよう設計される光学素子
を備え、前記放射源(21)から基板(2)の前面(2a)に前記放射線(5)を向けるよう設計された光学装置。
【請求項15】
請求項14に記載の光学装置において、前記放射源(21)又は別の放射源(10)は、第1波長域とは異なる少なくとも第2波長域(Δλ)の別の放射線(5a)を発生するよう設計され、前記第2波長域(Δλ)は、前記第1波長域(Δλ)よりも大きい波長を有することが好ましく、より好ましくは200nm~2000nm、特に200nm~1000nmであり、光学装置(20)は、前記第2波長域(Δλ)の前記別の放射線(5a)を前記基板(2)の前記前面(2a)又は背面(2b)に向けるよう設計される光学装置。
【請求項16】
特に請求項1~13のいずれか1項に記載の反射光学素子(1)を製造する方法であって、
反射コーティング(3)をフッ化物材料から形成された基板(2)の背面(2b)に施すステップであり、前記反射コーティング(3)は、100nm~300nm、好ましくは100nm~200nmの第1波長域(Δλ)の放射線(5)を反射するよう設計され、且つ好ましくは、前記反射コーティング(3)まで前記基板(2)を通過する、前記第1波長域とは異なる第2波長域(Δλ)の別の放射線(5a)を透過するよう設計され、前記基板(2)は、前記第1波長域(Δλ)の前記放射線(5)及び好ましくは前記第2波長域(Δλ)の前記の放射線(5a)に対して透明な材料から形成されるステップと、
50nm以上、好ましくは90nm以上、特に120nm以上の厚さ(d)を有する保護コーティング(4)を前記反射コーティング(3)に施すステップと
を含む方法。
【請求項17】
請求項16に記載の方法において、前記保護コーティング(4)の表面(4a)を別の基板(9)に形成された表面(8a)に、好ましくは前記基板(9)に施されたコーティング(8)に直接接合するステップ
をさらに含む方法。
【請求項18】
請求項17に記載の方法において、少なくとも前記表面(4a)における前記保護コーティング(4)は、好ましくは酸化物材料から形成され、前記別の基板(9)に形成された前記表面(8a)は、前記保護コーティング(4)の前記表面(4a)に形成された材料と同じ好ましくは酸化物材料を含む方法。
【請求項19】
請求項16~18のいずれか1項に記載の方法において、
前記基板(2)の厚さ(D)を減らすために前記基板(2)の前面(2a)上の材料を除去するステップ
をさらに含む方法。
【請求項20】
請求項16~19のいずれか1項に記載の方法において、前記保護コーティング(4)は、原子層堆積により前記反射コーティング(3)に施される方法。

【国際調査報告】