(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-13
(54)【発明の名称】重水素化芳香族化合物の製造方法および重水素化反応組成物
(51)【国際特許分類】
C07D 487/04 20060101AFI20230206BHJP
C07B 59/00 20060101ALI20230206BHJP
C07D 209/86 20060101ALI20230206BHJP
C07D 307/91 20060101ALI20230206BHJP
【FI】
C07D487/04 137
C07B59/00
C07D209/86
C07D307/91
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022535197
(86)(22)【出願日】2021-08-27
(85)【翻訳文提出日】2022-06-09
(86)【国際出願番号】 KR2021011541
(87)【国際公開番号】W WO2022045838
(87)【国際公開日】2022-03-03
(31)【優先権主張番号】10-2020-0108192
(32)【優先日】2020-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2020-0178795
(32)【優先日】2020-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】スンヨン・ファン
(72)【発明者】
【氏名】ドンミン・ジョン
(72)【発明者】
【氏名】テ・スン・チェ
(72)【発明者】
【氏名】ベティ・キム
【テーマコード(参考)】
4C050
4H006
【Fターム(参考)】
4C050AA01
4C050AA08
4C050BB04
4C050CC04
4C050EE02
4C050FF01
4C050GG01
4C050HH01
4H006AA02
4H006AC84
4H006BB22
4H006BC10
(57)【要約】
本明細書は、重水素化芳香族化合物の製造方法および重水素化反応組成物に関する
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1個以上の芳香族環を含む芳香族化合物、重水、前記重水により加水分解が可能な有機化合物、および有機溶媒を含む溶液を用いて、前記芳香族化合物の重水素化反応を進行させるステップを含む、重水素化芳香族化合物の製造方法。
【請求項2】
前記有機溶媒は、ハロゲン基で置換もしくは非置換の炭化水素鎖;アルキル基で置換もしくは非置換の脂肪族炭化水素環;アルキル基で置換もしくは非置換の芳香族炭化水素環;直鎖もしくは分岐鎖のヘテロ鎖;置換もしくは非置換の脂肪族ヘテロ環;および置換もしくは非置換の芳香族ヘテロ環からなる群より選択される、請求項1に記載の重水素化芳香族化合物の製造方法。
【請求項3】
前記有機溶媒は、酸素元素および硫黄元素のうち少なくとも一つを含み、置換もしくは非置換のヘテロ環;置換もしくは非置換のアルキルアセテート;アルキルケトン;アルキルスルホキシド;炭素数4~10のラクトン;アルキルアミド;炭素数4~10のグリコール;ジオキサン;およびアルコキシで置換もしくは非置換の酢酸からなる群より選択される、請求項1に記載の重水素化芳香族化合物の製造方法。
【請求項4】
前記有機溶媒は、エチルアセテート、アセトン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、シクロペンタノン、1,2-ジオキサン、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、1,2-ジメトキシエタン、ジグリム、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、メチルエチルジグリコール、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、エチルラクテート、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジエチルエーテル、デカリン、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、キシレン、1,3,5-トリメチルベンゼン、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、1,1,2,2-テトラクロロエタン、テトラクロロエチレン、および2-メトキシ酢酸からなる群より選択される、請求項1に記載の重水素化芳香族化合物の製造方法。
【請求項5】
前記重水により加水分解が可能な有機化合物は、下記化学式1~4のうち少なくとも一つの化合物を含む、請求項1に記載の重水素化芳香族化合物の製造方法:
[化学式1]
R1-C(O)OC(O)-R2
[化学式2]
R3-S(O
2)OS(O
2)-R4
[化学式3]
R5-C(O)O-R6
[化学式4]
R7-CONH-R8
前記化学式1~4のうち、
R1~R8は、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、1価の有機基である。
【請求項6】
前記重水により加水分解が可能な有機化合物は、トリフルオロメタンスルホン酸無水物、トリフルオロ酢酸無水物、酢酸無水物、およびメタンスルホン酸無水物のうち少なくとも一つを含む、請求項1に記載の重水素化芳香族化合物の製造方法。
【請求項7】
前記芳香族化合物の重水素化反応を進行させるステップは、
1個以上の芳香族環を含む芳香族化合物、重水、前記重水により加水分解が可能な有機化合物、および有機溶媒を含む溶液を準備するステップ;および
前記溶液を加熱して前記芳香族化合物の重水素化反応を進行させるステップを含む、請求項1に記載の重水素化芳香族化合物の製造方法。
【請求項8】
1個以上の芳香族環を含む芳香族化合物、重水、前記重水により加水分解が可能な有機化合物、および有機溶媒を含む、重水素化反応組成物。
【請求項9】
前記有機溶媒は、ハロゲン基で置換もしくは非置換の炭化水素鎖;アルキル基で置換もしくは非置換の脂肪族炭化水素環;アルキル基で置換もしくは非置換の芳香族炭化水素環;直鎖もしくは分岐鎖のヘテロ鎖;置換もしくは非置換の脂肪族ヘテロ環;および置換もしくは非置換の芳香族ヘテロ環からなる群より選択される、請求項8に記載の重水素化反応組成物。
【請求項10】
前記有機溶媒は、酸素元素および硫黄元素のうち少なくとも一つを含み、置換もしくは非置換のヘテロ環;置換もしくは非置換のアルキルアセテート;アルキルケトン;アルキルスルホキシド;炭素数4~10のラクトン;アルキルアミド;炭素数4~10のグリコール;ジオキサン;およびアルコキシで置換もしくは非置換の酢酸からなる群より選択される、請求項8に記載の重水素化反応組成物。
【請求項11】
前記有機溶媒は、エチルアセテート、アセトン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、シクロペンタノン、1,2-ジオキサン、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、1,2-ジメトキシエタン、ジグリム、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、メチルエチルジグリコール、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、エチルラクテート、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジエチルエーテル、デカリン、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、キシレン、1,3,5-トリメチルベンゼン、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、1,1,2,2-テトラクロロエタン、テトラクロロエチレン、および2-メトキシ酢酸からなる群より選択される、請求項8に記載の重水素化反応組成物。
【請求項12】
前記重水により加水分解が可能な有機化合物は、下記化学式1~4のうち少なくとも一つの化合物を含む、請求項8に記載の重水素化反応組成物:
[化学式1]
R1-C(O)OC(O)-R2
[化学式2]
R3-S(O
2)OS(O
2)-R4
[化学式3]
R5-C(O)O-R6
[化学式4]
R7-CONH-R8
前記化学式1~4のうち、
R1~R8は、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、1価の有機基である。
【請求項13】
前記重水により加水分解が可能な有機化合物は、トリフルオロメタンスルホン酸無水物、トリフルオロ酢酸無水物、酢酸無水物、およびメタンスルホン酸無水物のうち少なくとも一つを含む、請求項8に記載の重水素化反応組成物。
【請求項14】
請求項1~7のいずれか1項に記載の方法により製造された重水素化芳香族化合物。
【請求項15】
脱離基、水酸基、置換もしくは非置換のアミン基、およびシアノ基からなる群より選択された置換基を含む、請求項14に記載の重水素化芳香族化合物。
【請求項16】
前記脱離基は、ハロゲン基およびボロン酸基からなる群より選択される、請求項15に記載の重水素化芳香族化合物。
【請求項17】
前記脱離基、水酸基、置換もしくは非置換のアミン基、およびシアノ基からなる群より選択された置換基を含む重水素化芳香族化合物は、下記化学式7~10のいずれか一つである、請求項15に記載の重水素化芳香族化合物:
【化1】
【化2】
前記化学式7~10のうち、
X、X1、およびX2は、それぞれ独立して、O、S、またはNRであり、
Rは、水素;重水素;脱離基;水酸基;置換もしくは非置換のアミン基;シアノ基;置換もしくは非置換のアルキル基;置換もしくは非置換のシクロアルキル基;置換もしくは非置換のアリール基;または置換もしくは非置換のヘテロ環基であり、
A1~A8のうち少なくとも一つは重水素であり、少なくとも一つは、脱離基、水酸基、置換もしくは非置換のアミン基、およびシアノ基からなる群より選択された置換基であり、残りは、それぞれ独立して、水素;脱離基;水酸基;置換もしくは非置換のアミン基;シアノ基;置換もしくは非置換のアルキル基;置換もしくは非置換のシクロアルキル基;置換もしくは非置換のアリール基;または置換もしくは非置換のヘテロ環基であり、
B1~B5のうち少なくとも一つは重水素であり、少なくとも一つは、脱離基、水酸基、置換もしくは非置換のアミン基、およびシアノ基からなる群より選択された置換基であり、残りは、それぞれ独立して、水素;脱離基;水酸基;置換もしくは非置換のアミン基;シアノ基;置換もしくは非置換のアルキル基;置換もしくは非置換のシクロアルキル基;置換もしくは非置換のアリール基;または置換もしくは非置換のヘテロ環基であり、
E1~E3のうち少なくとも一つは、重水素で置換もしくは非置換のアリール基;または重水素で置換もしくは非置換のヘテロ環基であり、少なくとも一つは、脱離基、水酸基、置換もしくは非置換のアミン基、およびシアノ基からなる群より選択された置換基であり、残りは、それぞれ独立して、水素;脱離基;置換もしくは非置換のアルキル基;置換もしくは非置換のシクロアルキル基;置換もしくは非置換のアリール基;または置換もしくは非置換のヘテロ環基であり、
Y1~Y6のうち少なくとも一つは重水素であり、少なくとも一つは、脱離基、水酸基、置換もしくは非置換のアミン基、およびシアノ基からなる群より選択された置換基であり、残りは、それぞれ独立して、水素;脱離基;水酸基;置換もしくは非置換のアミン基;シアノ基;置換もしくは非置換のアルキル基;置換もしくは非置換のシクロアルキル基;置換もしくは非置換のアリール基;または置換もしくは非置換のヘテロ環基であり、
Z1~Z3のうち少なくとも一つはNであり、残りはそれぞれ独立してCHまたはNであり、
b5は1~6の整数であり、b5が2以上である場合、B5は互いに同一または異なり、
y5は1または2であり、y5が2である場合、Y5は互いに同一または異なり、
y6は1~4の整数であり、y6が2以上である場合、Y6は互いに同一または異なる。
【請求項18】
前記脱離基、水酸基、置換もしくは非置換のアミン基、およびシアノ基からなる群より選択された置換基を含む重水素化芳香族化合物は、下記構造のいずれか一つであり、前記構造は、それぞれ1以上の重水素で置換される、請求項15に記載の重水素化芳香族化合物:
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
ここで、Lは、脱離基、水酸基、置換もしくは非置換のアミン基、およびシアノ基からなる群より選択された置換基である。
【請求項19】
請求項14に記載の重水素化芳香族化合物を含む電子素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年8月27日付けで韓国特許庁に提出された韓国特許出願第10-2020-0108192号および2020年12月18日付けで韓国特許庁に提出された韓国特許出願第10-2020-0178795号の出願日の利益を主張し、その内容の全ては本明細書に含まれる。
【0002】
本明細書は、重水素化芳香族化合物の製造方法および重水素化反応組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
重水素を含む化合物は、多様な目的のために用いられている。例えば、化学反応メカニズムの究明または物質代謝の究明などの標識化合物として用いられるだけでなく、薬、殺虫剤、有機EL材料、およびその他の目的のためにも重水素を含む化合物が多く用いられている。
【0004】
有機発光素子(OLED)物質の寿命向上のために、芳香族化合物を重水素置換する方法が知られている。このような効果の原理は、重水素置換の際、C-H bondよりもC-D bondのLUMOエネルギーが低くなり、OLED物質の寿命特性が向上する。
【0005】
従来の不均一系触媒反応を用いて1個以上の芳香族化合物に対して重水素化反応を進行すると、副反応による副産物が発生し続けるという問題が発生した。これは水素気体により生成された水素化反応によるものであって、これを除去するために、反応後に精製過程により純度を高める試みもしたものの、従来の物質と融点や溶解度の面で差が出ないため高純度を有し難かった。これを改善するために水素気体無しに反応させようとすると、非常に高い温度(約220℃以上)で反応を進行しなければならず、これは、工程上で安定性が問題となり得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本明細書は、重水素化芳香族化合物の製造方法および重水素化反応組成物を提供しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書は、1個以上の芳香族環を含む芳香族化合物、重水(D2O)、前記重水により加水分解が可能な有機化合物、および有機溶媒を含む溶液を用いて、前記芳香族化合物の重水素化反応を進行させるステップを含む、重水素化芳香族化合物の製造方法を提供する。
【0008】
また、本明細書は、1個以上の芳香族環を含む芳香族化合物、重水(D2O)、前記重水により加水分解が可能な有機化合物、および有機溶媒を含む、重水素化反応組成物を提供する。
【0009】
なお、本明細書は、上述した方法により製造された重水素化芳香族化合物を提供する。
【0010】
また、本明細書は、前記重水素化芳香族化合物を含む電子素子を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本明細書に係る第1実施態様の製造方法は、水素気体による不純物が発生しないという長所がある。
【0012】
本明細書に係る第2実施態様の製造方法は、重水素置換率が高いという長所がある。
【0013】
本明細書に係る第3実施態様の製造方法は、得られた化合物の純度が高いという長所がある。
【0014】
本明細書に係る第4実施態様の製造方法は、さらに低い圧力で重水素化反応が可能である。
【0015】
本明細書に係る第5実施態様の製造方法は、さらに低い温度で重水素化反応が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳しく説明する。
【0017】
本発明は、1個以上の芳香族環を含む芳香族化合物、重水(D2O)、前記重水により加水分解が可能な有機化合物、および有機溶媒を含む溶液を用いて、前記芳香族化合物の重水素化反応を進行させるステップを含む、重水素化芳香族化合物の製造方法を提供する。
【0018】
本発明の重水素化芳香族化合物の製造方法は、水素供給ステップがないことを特徴とする。
【0019】
従来は、重水素化芳香族化合物を製造するために添加された不均一系触媒である金属触媒を活性化させるために、水素気体を供給した。水素を供給して重水素化反応を進行させると、水素気体により水素化反応が進行し、副反応による副産物が発生する。
【0020】
発生した副産物を除去するためには反応後に精製過程により純度を高める過程が必要であり、このような精製工程を行うとしても、副産物がターゲット物質と融点や溶解度の面で差が出ないため高純度で製造することが難しかった。
【0021】
本発明の重水素化芳香族化合物の製造方法は、不均一系触媒である金属触媒の代わりに、重水により加水分解が可能な有機化合物を用いることで、金属触媒およびこれを活性化させるための水素気体の供給が必要ないため、水素気体による不純物が発生しないという長所がある。
【0022】
一方、重水素化反応中に金属触媒を用いる場合、重水素化対象化合物の反応性基、すなわち、ハロゲン基、水酸基などと反応するため、金属触媒を用いた重水素化反応においては、重水素化対象化合物が金属触媒と反応し得る反応性基がないかまたは反応性の低い反応性基を有する化合物に制限されざるを得なかった。
【0023】
本発明の重水素化芳香族化合物の製造方法は、不均一系触媒である金属触媒の代わりに、重水により加水分解が可能な有機化合物を用いるため、ハロゲン基、水酸基などのような反応性基を有する化合物も重水素化対象化合物として選択することができる。具体的には、ハロゲン基、水酸基などのような反応性基を有する中間体である化合物の重水素化を進行した後、前記反応性基に追加の芳香族置換基を置換する反応を行うことができる。
【0024】
本発明に係る製造方法は、重水素置換率が高いという長所がある。
【0025】
本発明に係る製造方法は、得られた化合物の純度が高いという長所がある。
【0026】
本発明に係る製造方法は、さらに低い圧力で重水素化反応が可能である。
【0027】
本発明に係る製造方法は、さらに低い温度で重水素化反応が可能である。
【0028】
本発明の重水素化芳香族化合物の製造方法は、1個以上の芳香族環を含む芳香族化合物、重水(D2O)、前記重水により加水分解が可能な有機化合物、および有機溶媒を含む溶液を準備するステップを含む。
【0029】
前記1個以上の芳香族環を含む芳香族化合物、重水(D2O)、前記重水により加水分解が可能な有機化合物、および有機溶媒を含む溶液を準備するステップは、反応器内に1個以上の芳香族環を含む芳香族化合物、重水(D2O)、前記重水により加水分解が可能な有機化合物、および有機溶媒を含む溶液を投入するか、または1個以上の芳香族環を含む芳香族化合物、重水(D2O)、前記重水により加水分解が可能な有機化合物、および有機溶媒を個別的に反応器に投入して溶液を準備してもよい。
【0030】
前記重水により加水分解が可能な有機化合物は、重水により分解が可能な反応基を有していれば、特に限定されず、例えば、下記化学式1~4のうち少なくとも一つの化合物を含んでもよい。
【0031】
[化学式1]
R1-C(O)OC(O)-R2
[化学式2]
R3-S(O2)OS(O2)-R4
[化学式3]
R5-C(O)O-R6
[化学式4]
R7-CONH-R8
【0032】
前記化学式1~4のうち、R1~R8は、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、1価の有機基である。
【0033】
本発明の一実施態様において、前記R1およびR2は、互いに同一の置換基であってもよい。
【0034】
本発明の一実施態様において、前記R3およびR4は、互いに同一の置換基であってもよい。
【0035】
本発明の一実施態様において、前記R5およびR6は、互いに同一の置換基であってもよい。
【0036】
本発明の一実施態様において、前記R7およびR8は、互いに同一の置換基であってもよい。
【0037】
本発明の一実施態様において、前記R1~R8は、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、ハロゲン基で置換もしくは非置換のアルキル基;またはハロゲン基で置換もしくは非置換のアリール基であってもよい。
【0038】
本発明の一実施態様において、前記R1~R8は、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、ハロゲン基で置換もしくは非置換の炭素数1~30のアルキル基;またはハロゲン基で置換もしくは非置換の炭素数6~50のアリール基であってもよい。
【0039】
本発明の一実施態様において、前記R1~R8は、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、ハロゲン基で置換もしくは非置換の炭素数1~10のアルキル基;またはハロゲン基で置換もしくは非置換の炭素数6~20のアリール基であってもよい。
【0040】
本発明の一実施態様において、前記R1~R8は、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、ハロゲン基で置換もしくは非置換の炭素数1~10のアルキル基であってもよい。
【0041】
本発明の一実施態様において、前記R1~R8は、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、ハロゲン基で置換もしくは非置換の炭素数1~5のアルキル基であってもよい。
【0042】
本発明の一実施態様において、前記R1~R8は、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、下記化学式5または化学式6の置換基であってもよい。
【0043】
[化学式5]
-(CH2)l(CF2)m(CF3)n(CH3)1-n
[化学式6]
-C(H)a((CH2)l(CF2)mCF3)3-a
【0044】
前記化学式5および6のうち、lおよびmは、それぞれ0~10の整数であり、nおよびaは、それぞれ0または1である。
【0045】
本発明の一実施態様において、前記R1~R8は、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、前記化学式5の置換基であってもよい。
【0046】
本発明の一実施態様において、前記R1~R8は、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、-CF3、-CH2CH3、または-CH3であってもよい。
【0047】
本発明の一実施態様において、前記重水により加水分解が可能な有機化合物は、トリフルオロメタンスルホン酸無水物(Trifluoromethanesulfonic anhydride)、トリフルオロ酢酸無水物(Trifluoroacetic anhydride)、酢酸無水物(Acetic anhydride)、およびメタンスルホン酸無水物(Methanesulfonic anhydride)のうち少なくとも一つを含んでもよい。
【0048】
本発明の一実施態様において、前記重水により加水分解が可能な有機化合物は、トリフルオロメタンスルホン酸無水物(Trifluoromethanesulfonic anhydride)を含んでもよい。
【0049】
本発明の一実施態様において、前記重水により加水分解が可能な有機化合物は、トリフルオロ酢酸無水物(Trifluoroacetic anhydride)を含んでもよい。
【0050】
本発明の一実施態様において、前記重水により加水分解が可能な有機化合物は、酢酸無水物(Acetic anhydride)を含んでもよい。
【0051】
本発明の一実施態様において、前記重水により加水分解が可能な有機化合物は、メタンスルホン酸無水物(Methanesulfonic anhydride)を含んでもよい。
【0052】
本発明の一実施態様において、前記重水により加水分解が可能な有機化合物は、トリフルオロメタンスルホン酸無水物(Trifluoromethanesulfonic anhydride)およびトリフルオロ酢酸無水物(Trifluoroacetic anhydride)を含んでもよい。
【0053】
本発明の一実施態様において、前記重水により加水分解が可能な有機化合物は、トリフルオロメタンスルホン酸無水物(Trifluoromethanesulfonic anhydride)および酢酸無水物(Acetic anhydride)を含んでもよい。
【0054】
本発明の一実施態様において、前記重水により加水分解が可能な有機化合物は、メタンスルホン酸無水物(Methanesulfonic anhydride)およびトリフルオロ酢酸無水物(Trifluoroacetic anhydride)を含んでもよい。
【0055】
本発明の一実施態様において、前記重水により加水分解が可能な有機化合物は、メタンスルホン酸無水物(Methanesulfonic anhydride)および酢酸無水物(Acetic anhydride)を含んでもよい。
【0056】
本発明の一実施態様において、前記重水により加水分解が可能な有機化合物が、前記化学式1および化学式2の化合物のうち少なくとも一つを含んでもよい。前記化学式1および化学式2の化合物のうち少なくとも一つを重水に投入すると、常温においても重水との加水分解が容易に起こる。
【0057】
本発明の一実施態様において、前記重水により加水分解が可能な有機化合物が、前記化学式1および化学式2の化合物のうち少なくとも一つを含み、前記化学式3および化学式4の化合物のうち少なくとも一つをさらに含んでもよい。前記重水により加水分解が可能な有機化合物が前記化学式1および化学式2の化合物のうち少なくとも一つを含む際、相対的に加水分解反応が遅い前記化学式3および化学式4の化合物のうち少なくとも一つを追加することで、発熱反応である加水分解反応により発生する温度を制御することができる。
【0058】
本発明の一実施態様において、前記重水により加水分解が可能な有機化合物が前記化学式3および化学式4の化合物のうち少なくとも一つを含む場合、前記化学式1および化学式2の化合物のうち少なくとも一つをさらに含んでもよい。相対的に加水分解反応が容易に起こる前記化学式1および化学式2の化合物を追加することで、加水分解反応を加速させることができる。
【0059】
前記重水により加水分解が可能な有機化合物中で、前記化学式3および化学式4の化合物のうち少なくとも一つと、前記化学式1および化学式2の化合物のうち少なくとも一つとの重量比は、100:0~0:100、99:1~0:100、90:10~0:100、80:20~0:100、70:30~0:100、60:40~0:100、50:50~0:100、40:60~0:100、30:70~0:100、20:80~0:100、または10:90~0:100であってもよい。
【0060】
本発明に係る一実施態様によれば、前記組成物中で芳香族化合物を除いた残りの組成の総質量を基準として、前記重水により加水分解が可能な有機化合物の含量は、1wt%以上70wt%以下であってもよい。この場合、互いに混ざらない前記芳香族化合物と重水との間の親和度を高めることができ、重水素置換反応性を増大させるという長所がある。
【0061】
本発明に係る一実施態様によれば、前記溶液は、有機溶媒を含む。
【0062】
有機溶媒を用いない場合、加水分解が可能な有機化合物の加水分解反応により、重水素を有する加水分解された有機化合物の濃度が一定以上生成されると、重水素を有する加水分解された有機化合物により、重水とターゲット物質である芳香族化合物が互いに混ざって重水素置換反応がよく起こることになる。
【0063】
しかしながら、重水により加水分解された有機化合物自体が超強酸であるため、加水分解された有機化合物濃度の増加により副反応(side reaction)もよく起こるようにして純度を低下させ得る。また、反応後、ワークアップ(work-up)過程で、多量の加水分解された有機化合物が存在する溶液を取り扱うことは、安定性の面でも危険である。
【0064】
これに対し、有機溶媒のない重水素化反応と比べて、有機溶媒をともに用いると、重水により加水分解が可能な有機化合物の使用量を30~90%程度減らすことができるため、純度の増加および安定性の向上を得ることができる。
【0065】
この際、反応に使用可能な有機溶媒は、反応条件で、反応物および反応結果物のいずれもよく溶かすべきである。
【0066】
有機溶媒を用いない場合、重水により加水分解が可能な有機化合物として添加されたトリフルオロメタンスルホン酸無水物の加水分解反応により形成された、重水素置換されたトリフルオロメタンスルホン酸(trifluoromethanesulfonic acid-d)の濃度が高くなり、重水素置換反応がよく起こることになる。
【0067】
しかしながら、トリフルオロメタンスルホン酸(trifluoromethanesulfonic acid)自体が超強酸であるため、トリフルオロメタンスルホン酸濃度の増加により副反応(side reaction)もよく起こるようになって純度を低下させ得る。また、反応後、ワークアップ(work-up)過程で、多量のトリフルオロメタンスルホン酸が存在する溶液を取り扱うことは、安定性の面でも危険である。
【0068】
これに対し、有機溶媒をともに用いると、従来と比べて、トリフルオロメタンスルホン酸無水物(trifluoromethnae sulfonic anhydride)の使用量を30~90%程度減らすことができるため、純度の増加および安定性の向上を得ることができる。
【0069】
前記有機溶媒は、ハロゲン基で置換もしくは非置換の炭化水素鎖;アルキル基で置換もしくは非置換の脂肪族炭化水素環;アルキル基で置換もしくは非置換の芳香族炭化水素環;直鎖もしくは分岐鎖のヘテロ鎖;置換もしくは非置換の脂肪族ヘテロ環;および置換もしくは非置換の芳香族ヘテロ環からなる群より選択されてもよい。具体的に、前記有機溶媒は、酸素元素および硫黄元素のうち少なくとも一つを含み、置換もしくは非置換のヘテロ環;置換もしくは非置換のアルキルアセテート;アルキルケトン;アルキルスルホキシド;炭素数4~10のラクトン;アルキルアミド;炭素数4~10のグリコール;ジオキサン;アルコキシで置換もしくは非置換の酢酸からなる群より選択される。
【0070】
重水素置換反応がよく起こるためには、重水素供給源である重水と、重水素置換しようとする芳香族化合物とが単相(one phase)にならなければならない。しかし、重水とターゲット物質である芳香族化合物とは、基本的によく混ざらない性質を有している。
【0071】
加水分解された有機化合物が一定以上生成されると、重水および芳香族化合物のいずれも加水分解された有機化合物により溶けることになり、重水素置換反応が起こる。例えば、超強酸であるトリフルオロメタンスルホン酸(trifluoromethanesulfonic acid)が加水分解により一定量以上生成されると、重水および芳香族化合物のいずれもトリフルオロメタンスルホン酸(trifluoromethanesulfonic acid)により溶けることになり、重水素置換反応が起こる。
【0072】
重水素置換反応に添加および生成される全ての物質を溶かすために、前記有機溶媒は、重水ともよく混ざるべきであり、芳香族化合物も或る程度溶かすべきである。そのためには、有機溶媒が或る程度極性を帯びなければならないため、電子を引き寄せる性質である電気陰性度の高い元素を含んでもよい。例えば、高い電気陰性度を有し且つ比較的に安定性の良い、酸素および/または硫黄元素を含んでもよい。
【0073】
過度に高い極性を有すると、相対的に無極性に近い芳香族化合物を溶かすことができないため、前記有機溶媒の極性は、重水と芳香族化合物との中間であることが好適である。有機溶媒が環状を有すると、環状ではないときよりは若干の極性を帯びることとなり、混合性が良くなる。
【0074】
前記有機溶媒は、エチルアセテート(Ethyl acetate)、アセトン(acetone)、シクロヘキサノン(cyclohexanone)、メチルエチルケトン(methyl ethyl ketone)、テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)、テトラヒドロピラン(tetrahydropyran)、シクロペンタノン(cyclopentanone)、1,2-ジオキサン(1,2-dioxane)、1,3-ジオキサン(1,3-dioxane)、1,4-ジオキサン(1,4-dioxane)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、1,2-ジメトキシエタン(1,2-dimethoxyethane)、ジグリム(Diglyme)、γ-ブチロラクトン(γ-butyrolactone)、γ-バレロラクトン(γ-valerolactone)、メチルエチルジグリコール(Methyl ethyl di glycol、MEDG)、プロピレングリコールメチルエーテル(Propylene glycol methyl ether、PGME)、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(Propylene glycol methyl ether acetate、PGMEA)、エチルラクテート(Ethyl lactate)、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジエチルエーテル(diethyl ether)、1,2-ジメトキシエタン(1,2-dimethoxyethane)、デカリン、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、キシレン、1,3,5-トリメチルベンゼン(1,3,5-trimethylbenzene)、ジクロロメタン(dichloromethane)、1,2-ジクロロエタン(1,2-dichloroethane)、1,1,2,2-テトラクロロエタン(1,1,2,2-tetrachloroethane)、テトラクロロエチレン(tetrachloroethylene)、および2-メトキシ酢酸(2-methoxyacetic acid)からなる群より選択されてもよい。
【0075】
前記有機溶媒の含量が過度に多くなると、重水素置換率が減少し、その逆に、有機溶媒の含量が過度に少なくなると、反応物をよく溶かすことができないため、重水素置換率が減少する。好ましくは、前記芳香族化合物の質量を基準として、前記有機溶媒の質量比は、4倍~40倍であってもよく、具体的に、4倍~16倍であってもよい。
【0076】
本発明に係る一実施態様によれば、前記溶液は金属触媒を含まず、その役割を重水により加水分解が可能な有機化合物が代わりに行うことを特徴とする。これにより、金属触媒を添加することで発生する問題、例えば、水素気体を供給しなければならないということ、水素気体による不純物を除去しなければならないということ、高い反応温度および高い圧力を維持し耐えることができる工程設備を備えなければならないということが解決される。
【0077】
本発明に係る一実施態様によれば、前記溶液は、重水を含む。
【0078】
本発明に係る一実施態様によれば、前記重水の含量は、前記芳香族化合物重量の0.1倍以上30倍以下であってもよい。この場合、重水から効率的に重水素置換できるという長所がある。
【0079】
本発明に係る一実施態様によれば、前記溶液は、重水とともに、追加の重水素源を含んでもよい。前記重水素源は、重水素化された芳香族溶媒であってもよく、例えば、ベンゼン-d6(Benzene-d6)、トルエン-d8(Toluene-d8)などであってもよい。
【0080】
本明細書に係る一実施態様によれば、前記追加の重水素源の含量は、前記芳香族化合物重量の0.1倍以上30倍以下であってもよい。この場合、反応性を高めることができ、反応中の発熱を減らすことができるという長所がある。
【0081】
本発明の一実施態様において、前記芳香族化合物は、1個以上の芳香族環を含む芳香族化合物であり、具体的に、1個以上30個以下の芳香族環を含む芳香族化合物である。この際、芳香族環が1個以上であるという意味は、単環、多環もしくはこれらの組み合わせの芳香族環が1個以上であるか、または基本単位である芳香族環(例えば、ベンゼン環)が1個以上であってもよい。例えば、カルバゾール環は、1個の芳香族環を意味するか、または基本単位であるベンゼン環およびこれとともに縮合した環を基準として2個のベンゼン環が連結されるかベンゼン環を含む3個の環が縮合したものを意味し得る。
【0082】
本発明に係る一実施態様によれば、前記溶液の総重量を基準として、前記芳香族化合物の含量は、3wt%以上50wt%以下であってもよい。
【0083】
本発明の一実施態様において、前記芳香族環は、置換もしくは非置換の単環もしくは多環の炭化水素芳香族環、または置換もしくは非置換の単環もしくは多環のヘテロ芳香族環であってもよい。例えば、前記芳香族環は、置換もしくは非置換のベンゼン環、置換もしくは非置換のナフタレン環、置換もしくは非置換のアントラセン環、置換もしくは非置換のジベンゾフラン、置換もしくは非置換のジベンゾチオフェン、置換もしくは非置換のカルバゾールなどであってもよい。
【0084】
本発明の一実施態様において、前記芳香族化合物は、ヘテロ芳香族化合物であってもよく、前記ヘテロ芳香族化合物は、カルバゾール系化合物、ジベンゾフラン系化合物、ジベンゾチオフェン系化合物、ピリジン系化合物、ピリミジン系化合物、またはトリアジン系化合物であってもよい。前記ヘテロ芳香族化合物は、バックボーンを構成する炭素の他にO、S、N、Si、P、Seなどのヘテロ元素を含む化合物を意味し、当該バックボーンに置換された水素は、他の置換基で置換されていてもよく、この際、置換基の種類は特に限定されない。
【0085】
本発明の一実施態様において、前記ヘテロ芳香族化合物は、O、S、およびNのうち少なくとも一つを含み、置換もしくは非置換のヘテロ芳香族環を含む化合物である。
【0086】
本発明の一実施態様において、前記ヘテロ芳香族化合物は、置換もしくは非置換の酸素元素を含むヘテロ芳香族環を含む化合物である。
【0087】
本発明の一実施態様において、前記ヘテロ芳香族化合物は、置換もしくは非置換の窒素元素を含むヘテロ芳香族環を含む化合物である。
【0088】
本発明の一実施態様において、前記ヘテロ芳香族化合物は、置換もしくは非置換の硫黄元素を含むヘテロ芳香族環を含む化合物である。
【0089】
本発明の一実施態様において、前記ヘテロ芳香族化合物は、カルバゾール系化合物であってもよく、具体的に、置換もしくは非置換のカルバゾール;または隣接した基が結合された追加の環を有し、置換もしくは非置換のカルバゾールであってもよい。
【0090】
前記隣接した基が結合された追加の環を有するカルバゾールは、置換もしくは非置換のベンゾカルバゾール;置換もしくは非置換のジベンゾカルバゾール;置換もしくは非置換のフロカルバゾール;または置換もしくは非置換のインドロカルバゾールであってもよい。
【0091】
本発明の一実施態様において、前記ヘテロ芳香族化合物は、ジベンゾフラン系化合物であってもよく、具体的に、置換もしくは非置換のジベンゾフラン;または隣接した基が結合された追加の環を有し、置換もしくは非置換のジベンゾフランであってもよい。
【0092】
本発明の一実施態様において、前記ヘテロ芳香族化合物は、ジベンゾチオフェン系化合物であってもよく、具体的に、置換もしくは非置換のジベンゾチオフェン;または隣接した基が結合された追加の環を有し、置換もしくは非置換のジベンゾチオフェンであってもよい。
【0093】
本発明の一実施態様において、前記ヘテロ芳香族化合物は、置換もしくは非置換のインドール;置換もしくは非置換のベンゾフラン;置換もしくは非置換のベンゾチオフェン;置換もしくは非置換のベンゾオキサゾール;置換もしくは非置換のベンゾチアゾール;置換もしくは非置換のベンゾイミダゾール;置換もしくは非置換のアントラキノン;置換もしくは非置換のキサンテン;置換もしくは非置換のチオキサンテン;置換もしくは非置換のピリジン;置換もしくは非置換のピリミジン;置換もしくは非置換のトリアジン;またはジヒドロインドロカルバゾールであってもよい。
【0094】
本明細書において、置換基の例示は以下に説明するが、これに限定されない。
【0095】
前記「置換」という用語は、化合物の炭素原子に結合された水素原子が他の置換基に置き換わることを意味し、置換される位置は、水素原子が置換される位置、すなわち、置換基が置換可能な位置であれば限定されず、2以上置換される場合、2以上の置換基は互いに同一でも異なっていてもよい。
【0096】
本明細書において、「置換もしくは非置換の」という用語は、ハロゲン基;ニトリル基;ニトロ基;ヒドロキシ基;アミン基;シリル基;ホウ素基;アルコキシ基;アルキル基;シクロアルキル基;アリール基;およびヘテロ環基からなる群より選択された1または2以上の置換基で置換されるか、前記例示された置換基のうち2以上の置換基が連結された置換基で置換されるか、またはいかなる置換基も有しないことを意味する。例えば、「2以上の置換基が連結された置換基」は、ビフェニル基であってもよい。すなわち、ビフェニル基は、アリール基であってもよく、2個のフェニル基が連結された置換基と解釈されてもよい。
【0097】
本明細書において、ハロゲン基の例としては、フッ素(-F)、塩素(-Cl)、臭素(-Br)、またはヨウ素(-I)が挙げられる。
【0098】
本明細書において、シリル基は、-SiYaYbYcの化学式で表されてもよく、前記Ya、Yb、およびYcは、それぞれ水素;置換もしくは非置換のアルキル基;または置換もしくは非置換のアリール基であってもよい。前記シリル基は、具体的に、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基、ビニルジメチルシリル基、プロピルジメチルシリル基、トリフェニルシリル基、ジフェニルシリル基、フェニルシリル基などが挙げられるが、これに限定されない。
【0099】
本明細書において、ホウ素基は、-BYdYeの化学式で表されてもよく、前記YdおよびYeは、それぞれ水素;置換もしくは非置換のアルキル基;または置換もしくは非置換のアリール基であってもよい。前記ホウ素基は、具体的に、ジメチルホウ素基、ジエチルホウ素基、tert-ブチルメチルホウ素基、ジフェニルホウ素基、フェニルホウ素基などが挙げられるが、これに限定されない。
【0100】
本明細書において、前記アルキル基は、直鎖もしくは分岐鎖であってもよく、炭素数は、特に限定されないが、1~60であることが好ましい。一実施態様によれば、前記アルキル基の炭素数は1~30である。また一つの実施態様によれば、前記アルキル基の炭素数は1~20である。また一つの実施態様によれば、前記アルキル基の炭素数は1~10である。アルキル基の具体的な例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、n-プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、n-ペンチル基、ヘキシル基、n-ヘキシル基、ヘプチル基、n-ヘプチル基、オクチル基、n-オクチル基などが挙げられるが、これに限定されない。
【0101】
本明細書において、前記アルコキシ基は、直鎖、分岐鎖もしくは環状鎖であってもよい。アルコキシ基の炭素数は、特に限定されないが、炭素数1~20であることが好ましい。具体的に、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、イソプロポキシ、i-プロピルオキシ、n-ブトキシ、イソブトキシ、tert-ブトキシ、sec-ブトキシ、n-ペンチルオキシ、ネオペンチルオキシ、イソペンチルオキシ、n-ヘキシルオキシ、3,3-ジメチルブチルオキシ、2-エチルブチルオキシ、n-オクチルオキシ、n-ノニルオキシ、n-デシルオキシなどが挙げられるが、これに限定されない。
【0102】
本明細書に記載されたアルキル基、アルコキシ基、およびその他のアルキル基部分を含む置換体は、直鎖状もしくは分岐鎖状をいずれも含む。
【0103】
本明細書において、シクロアルキル基は、特に限定されないが、炭素数3~60であることが好ましく、一実施態様によれば、前記シクロアルキル基の炭素数は3~30である。また一つの実施態様によれば、前記シクロアルキル基の炭素数は3~20である。また一つの実施態様によれば、前記シクロアルキル基の炭素数は3~6である。具体的に、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基などが挙げられるが、これに限定されない。
【0104】
本明細書において、アリール基は、特に限定されないが、炭素数6~60であることが好ましく、単環式アリール基または多環式アリール基であってもよい。一実施態様によれば、前記アリール基の炭素数は6~39である。一実施態様によれば、前記アリール基の炭素数は6~30である。前記アリール基は、単環式アリール基としては、フェニル基、ビフェニル基、テルフェニル基、クアテルフェニル基などが挙げられるが、これに限定されない。前記多環式アリール基としては、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基、ピレニル基、ペリレニル基、トリフェニル基、クリセニル基、フルオレニル基、トリフェニレニル基などが挙げられるが、これに限定されない。
【0105】
本明細書において、フルオレン基は、置換されていてもよく、2個の置換基が互いに結合してスピロ構造を形成してもよい。
【0106】
前記フルオレン基が置換される場合、
【化1】
などのスピロフルオレン基、
【化2】
(9,9-ジメチルフルオレン基)、および
【化3】
(9,9-ジフェニルフルオレン基)などの置換されたフルオレン基であってもよい。但し、これに限定されない。
【0107】
本明細書において、ヘテロ環基は、ヘテロ原子としてN、O、P、S、Si、およびSeのうち1個以上を含む環状基であって、炭素数は、特に限定されないが、炭素数2~60であることが好ましい。一実施態様によれば、前記ヘテロ環基の炭素数は2~36である。ヘテロ環基の例としては、ピリジン基、ピロール基、ピリミジン基、キノリン基、ピリダジン基、フラン基、チオフェン基、イミダゾール基、ピラゾール基、ジベンゾフラン基、ジベンゾチオフェン基、カルバゾール基、ベンゾカルバゾール基、ベンゾナフトフラン基、ベンゾナフトチオフェン基、インデノカルバゾール基、インドロカルバゾール基などが挙げられるが、これに限定されない。
【0108】
本明細書において、ヘテロアリール基は、芳香族であることを除いては、前述したヘテロ環基に関する説明が適用されてもよい。
【0109】
本明細書において、アミン基は、-NH2;アルキルアミン基;N-アルキルアリールアミン基;アリールアミン基;N-アリールヘテロアリールアミン基;N-アルキルヘテロアリールアミン基、およびヘテロアリールアミン基からなる群より選択されてもよく、炭素数は、特に限定されないが、1~30であることが好ましい。アミン基の具体的な例としては、メチルアミン基、ジメチルアミン基、エチルアミン基、ジエチルアミン基、フェニルアミン基、ナフチルアミン基、ビフェニルアミン基、アントラセニルアミン基、9-メチル-アントラセニルアミン基、ジフェニルアミン基、N-フェニルナフチルアミン基、ジトリルアミン基、N-フェニルトリルアミン基、N-フェニルビフェニルアミン基、N-フェニルナフチルアミン基、N-ビフェニルナフチルアミン基、N-ナフチルフルオレニルアミン基、N-フェニルフェナントレニルアミン基、N-ビフェニルフェナントレニルアミン基、N-フェニルフルオレニルアミン基、N-フェニルテルフェニルアミン基、N-フェナントレニルフルオレニルアミン基、N-ビフェニルフルオレニルアミン基などが挙げられるが、これに限定されない。
【0110】
本明細書において、N-アルキルアリールアミン基は、アミン基のNにアルキル基およびアリール基が置換されたアミン基を意味する。
【0111】
本明細書において、N-アリールヘテロアリールアミン基は、アミン基のNにアリール基およびヘテロアリール基が置換されたアミン基を意味する。
【0112】
本明細書において、N-アルキルヘテロアリールアミン基は、アミン基のNにアルキル基およびヘテロアリール基が置換されたアミン基を意味する。
【0113】
本明細書において、アルキルアミン基;N-アルキルアリールアミン基;アリールアミン基;N-アリールヘテロアリールアミン基;N-アルキルヘテロアリールアミン基、およびヘテロアリールアミン基中のアルキル基、アリール基、およびヘテロアリール基は、それぞれ前述したアルキル基、アリール基、およびヘテロアリール基の例示のとおりである。
【0114】
本発明の一実施態様において、前記重水素化反応に参加する芳香族化合物は、下記化学式7~10のいずれか一つであってもよい。重水素化反応により、選択された化合物のうち少なくとも一つの水素は重水素で置換される。
【0115】
【0116】
前記化学式7~10のうち、
X、X1、およびX2は、それぞれ独立して、O、S、またはNRであり、
Rは、水素;重水素;脱離基;水酸基;置換もしくは非置換のアミン基;シアノ基;置換もしくは非置換のアルキル基;置換もしくは非置換のシクロアルキル基;置換もしくは非置換のアリール基;または置換もしくは非置換のヘテロ環基であり、
A1~A8は、それぞれ独立して、水素;脱離基;水酸基;置換もしくは非置換のアミン基;シアノ基;置換もしくは非置換のアルキル基;置換もしくは非置換のシクロアルキル基;置換もしくは非置換のアリール基;または置換もしくは非置換のヘテロ環基であり、
B1~B5は、それぞれ独立して、水素;脱離基;水酸基;置換もしくは非置換のアミン基;シアノ基;置換もしくは非置換のアルキル基;置換もしくは非置換のシクロアルキル基;置換もしくは非置換のアリール基;または置換もしくは非置換のヘテロ環基であり、
E1~E3は、それぞれ独立して、水素;脱離基;置換もしくは非置換のアルキル基;置換もしくは非置換のシクロアルキル基;置換もしくは非置換のアリール基;または置換もしくは非置換のヘテロ環基であり、
Y1~Y6は、それぞれ独立して、水素;脱離基;水酸基;置換もしくは非置換のアミン基;シアノ基;置換もしくは非置換のアルキル基;置換もしくは非置換のシクロアルキル基;置換もしくは非置換のアリール基;または置換もしくは非置換のヘテロ環基であり、
Z1~Z3のうち少なくとも一つはNであり、残りはそれぞれ独立してCHまたはNであり、
b5は1~6の整数であり、b5が2以上である場合、B5は互いに同一または異なり、
y5は1または2であり、y5が2である場合、Y5は互いに同一または異なり、
y6は1~4の整数であり、y6が2以上である場合、Y6は互いに同一または異なる。
【0117】
本発明の一実施態様において、XがOである。
【0118】
本発明の一実施態様において、XがSである。
【0119】
本発明の一実施態様において、XがNRであり、Rは、水素;重水素;脱離基;水酸基;置換もしくは非置換のアミン基;シアノ基;置換もしくは非置換のアルキル基;置換もしくは非置換のシクロアルキル基;置換もしくは非置換のアリール基;または置換もしくは非置換のヘテロ環基である。
【0120】
本発明の一実施態様において、XがNRであり、Rは、水素;重水素;置換もしくは非置換のアリール基;または置換もしくは非置換のヘテロ環基である。
【0121】
本発明の一実施態様において、A1~A8のうち少なくとも一つは、脱離基;水酸基;置換もしくは非置換のアミン基;またはシアノ基であり、残りは、それぞれ独立して、水素;置換もしくは非置換のアルキル基;置換もしくは非置換のシクロアルキル基;置換もしくは非置換のアリール基;または置換もしくは非置換のヘテロ環基である。
【0122】
本発明の一実施態様において、B1~B5のうち少なくとも一つは、脱離基;水酸基;置換もしくは非置換のアミン基;またはシアノ基であり、残りは、それぞれ独立して、水素;置換もしくは非置換のアルキル基;置換もしくは非置換のシクロアルキル基;置換もしくは非置換のアリール基;または置換もしくは非置換のヘテロ環基である。
【0123】
本発明の一実施態様において、Y1~Y6のうち少なくとも一つは、脱離基;水酸基;置換もしくは非置換のアミン基;またはシアノ基であり、残りは、それぞれ独立して、水素;置換もしくは非置換のアルキル基;置換もしくは非置換のシクロアルキル基;置換もしくは非置換のアリール基;または置換もしくは非置換のヘテロ環基である。
【0124】
本発明の一実施態様において、Z1~Z3のいずれか一つはNであり、残りはCHである。
【0125】
本発明の一実施態様において、Z1~Z3のうち二つはNであり、残りはCHである。
【0126】
本発明の一実施態様において、Z1~Z3はいずれもNである。
【0127】
本発明の一実施態様において、E1~E3のうち少なくとも一つは脱離基であり、残りは、それぞれ独立して、水素;脱離基;置換もしくは非置換のアルキル基;置換もしくは非置換のシクロアルキル基;置換もしくは非置換のアリール基;または置換もしくは非置換のヘテロ環基である。
【0128】
本発明の一実施態様において、前記芳香族化合物の構造は、下記構造のいずれか一つであってもよい。
【0129】
【0130】
【0131】
【0132】
【0133】
【0134】
【0135】
【0136】
【0137】
【0138】
【0139】
【0140】
【0141】
【0142】
【0143】
ここで、Lは、脱離基、水酸基、置換もしくは非置換のアミン基、およびシアノ基からなる群より選択された置換基である。
【0144】
本発明の重水素化芳香族化合物の製造方法は、前記反応器の内部空気を窒素または不活性気体で置き換えるステップをさらに含んでもよい。
【0145】
前記芳香族化合物の重水素化を進行させるステップは、常温(room temperature)で熱を加えることなく重水素化を進行させるか、または前記溶液を加熱して重水素化を進行させてもよい。この際、常温は、加熱または冷却していない自然のままの気温であって、具体的に、20±5℃の範囲であってもよい。
【0146】
本発明の重水素化芳香族化合物の製造方法において、前記芳香族化合物の重水素化反応を進行させるステップは、
1個以上の芳香族環を含む芳香族化合物、重水(D2O)、前記重水により加水分解が可能な有機化合物、および有機溶媒を含む溶液を準備するステップ;および
前記溶液を加熱して前記芳香族化合物の重水素化反応を進行させるステップを含んでもよい。
【0147】
前記反応器を加熱して芳香族化合物の重水素化を進行させるステップは、前記溶液を160℃以下、150℃以下、140℃以下、130℃以下、120℃以下、110℃以下、100℃以下、90℃以下、または80℃以上の温度に加熱するステップであり、具体的に、80℃以上140℃以下の温度に加熱するステップであってもよい。
【0148】
この際、前記重水素反応時間は、昇温の完了後に3時間以上反応させる。具体的に、前記重水素反応を昇温の完了後に3時間以上24時間以下反応させてもよく、好ましくは、6時間以上18時間以下反応させる。
【0149】
本発明の重水素化芳香族化合物の製造方法は、前記重水素化を進行させるステップの後に、前記重水素化された芳香族化合物を得るステップをさらに含む。得る方法は、当技術分野で周知の方法により行ってもよく、特に限定されない。
【0150】
前記得られた重水素化された芳香族化合物の重水素置換率は高いほど良く、具体的に、前記得られた重水素化された芳香族化合物の重水素置換率は、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、または100%であってもよい。
前記得られた重水素化された芳香族化合物の純度は高いほど良く、具体的に、前記得られた重水素化された芳香族化合物の純度は、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、または100%であってもよい。
【0151】
本発明は、上述した製造方法により製造された重水素化芳香族化合物を提供する。
【0152】
本発明の一実施態様において、前記重水素化芳香族化合物は、少なくとも1以上の重水素で置換された芳香族化合物を意味する。
【0153】
本発明の一実施態様において、前記重水素化芳香族化合物は、脱離基、水酸基、置換もしくは非置換のアミン基、およびシアノ基からなる群より選択された置換基を含む。
【0154】
本発明において、前記脱離基を含む化合物は、有機合成の最終化合物の中間体であってもよく、前記脱離基は、最終化合物を基準として脱離されるか、または他の反応物と結合して化学的に変更される反応基を意味する。そこで、前記脱離基は、有機合成の方法および最終化合物の置換基の位置に応じて、脱離基の種類および脱離基が結合される位置が決定される。
【0155】
本発明の一実施態様において、前記脱離基は、ハロゲン基およびボロン酸基からなる群より選択されてもよい。
【0156】
本発明の一実施態様において、前記脱離基、水酸基、置換もしくは非置換のアミン基、およびシアノ基からなる群より選択された置換基を含む重水素化芳香族化合物は、下記化学式7~10のいずれか一つであってもよい。
【化20】
【化21】
【0157】
前記化学式7~10のうち、
X、X1、およびX2は、それぞれ独立して、O、S、またはNRであり、
Rは、水素;重水素;脱離基;水酸基;置換もしくは非置換のアミン基;シアノ基;置換もしくは非置換のアルキル基;置換もしくは非置換のシクロアルキル基;置換もしくは非置換のアリール基;または置換もしくは非置換のヘテロ環基であり、
A1~A8のうち少なくとも一つは重水素であり、少なくとも一つは、脱離基、水酸基、置換もしくは非置換のアミン基、およびシアノ基からなる群より選択された置換基であり、残りは、それぞれ独立して、水素;脱離基;水酸基;置換もしくは非置換のアミン基;置換もしくは非置換のアルキル基;置換もしくは非置換のシクロアルキル基;シアノ基;置換もしくは非置換のアリール基;または置換もしくは非置換のヘテロ環基であり、
B1~B5のうち少なくとも一つは重水素であり、少なくとも一つは、脱離基、水酸基、置換もしくは非置換のアミン基、およびシアノ基からなる群より選択された置換基であり、残りは、それぞれ独立して、水素;脱離基;水酸基;置換もしくは非置換のアミン基;シアノ基;置換もしくは非置換のアルキル基;置換もしくは非置換のシクロアルキル基;置換もしくは非置換のアリール基;または置換もしくは非置換のヘテロ環基であり、
E1~E3のうち少なくとも一つは重水素であり、少なくとも一つは、脱離基、水酸基、置換もしくは非置換のアミン基、およびシアノ基からなる群より選択された置換基であり、残りは、それぞれ独立して、水素;脱離基;水酸基;置換もしくは非置換のアミン基;シアノ基;置換もしくは非置換のアルキル基;置換もしくは非置換のシクロアルキル基;置換もしくは非置換のアリール基;または置換もしくは非置換のヘテロ環基であり、
Y1~Y6のうち少なくとも一つは重水素であり、少なくとも一つは、脱離基、水酸基、置換もしくは非置換のアミン基、およびシアノ基からなる群より選択された置換基であり、残りは、それぞれ独立して、水素;脱離基;水酸基;置換もしくは非置換のアミン基;シアノ基;置換もしくは非置換のアルキル基;置換もしくは非置換のシクロアルキル基;置換もしくは非置換のアリール基;または置換もしくは非置換のヘテロ環基であり、
Z1~Z3のうち少なくとも一つはNであり、残りはそれぞれ独立してCHまたはNであり、
b5は1~6の整数であり、b5が2以上である場合、B5は互いに同一または異なり、
y5は1または2であり、y5が2である場合、Y5は互いに同一または異なり、
y6は1~4の整数であり、y6が2以上である場合、Y6は互いに同一または異なる。
【0158】
本発明の一実施態様において、前記化学式7~10の化合物は、それぞれ脱離基、水酸基、置換もしくは非置換のアミン基、およびシアノ基からなる群より選択された置換基を有する。
【0159】
本明細書の一実施態様において、前記脱離基、水酸基、置換もしくは非置換のアミン基、およびシアノ基からなる群より選択された置換基を含む重水素化芳香族化合物は、下記構造のいずれか一つであり、前記構造は、それぞれ1以上の重水素で置換される。
【0160】
【0161】
【0162】
【0163】
【0164】
【0165】
ここで、Lは、脱離基、水酸基、置換もしくは非置換のアミン基、およびシアノ基からなる群より選択された置換基である。
【0166】
理論的に重水素化化合物の全ての水素が重水素で置換される場合、すなわち、重水素置換率が100%であれば、最も理想的に寿命特性が向上する。しかし、立体障害で極限条件が必要であったり、副反応により重水素化される前に化合物が破壊されたりするなどの問題があり、現実的に化合物の全ての水素を100%の重水素化置換率で得ることは難しく、重水素化置換率を100%に近く得る場合も、工程の時間、費用などを考慮すると、費用対効果が良くない。
【0167】
本発明において、重水素化反応により製造されて1以上の重水素を有する重水素化化合物は、置換された重水素の個数に応じて分子量が異なる2以上の同位体を有する組成物に製造されるため、前記構造において重水素が置換される位置を省略する。
【0168】
前記構造の化合物において、水素で表示または置換された水素が省略された位置のうち少なくとも一つは、重水素で置換されていてもよい。
【0169】
本発明は、1個以上の芳香族環を含む芳香族化合物、重水(D2O)、前記重水により加水分解が可能な有機化合物、および有機溶媒を含む、重水素化反応組成物を提供する。
【0170】
前記重水素化反応組成物は、上述した製造方法中の溶液に関する説明を引用することができる。
【0171】
本発明の一実施態様において、前記重水により加水分解が可能な有機化合物は、下記化学式1~4のうち少なくとも一つの化合物を含んでもよい。
【0172】
[化学式1]
R1-C(O)OC(O)-R2
[化学式2]
R3-S(O2)OS(O2)-R4
[化学式3]
R5-C(O)O-R6
[化学式4]
R7-CONH-R8
【0173】
前記化学式1~4のうち、
R1~R8は、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、1価の有機基である。
【0174】
本発明の一実施態様において、前記R1~R8は、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、ハロゲン基で置換もしくは非置換のアルキル基;またはハロゲン基で置換もしくは非置換のアリール基であってもよい。
【0175】
本発明の一実施態様において、前記R1~R8は、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、下記化学式5または化学式6の置換基であってもよい。
【0176】
[化学式5]
-(CH2)l(CF2)m(CF3)n(CH3)1-n
[化学式6]
-C(H)a((CH2)l(CF2)mCF3)3-a
前記化学式5および6のうち、
lおよびmは、それぞれ0~10の整数であり、
nおよびaは、それぞれ0または1である。
【0177】
本発明の一実施態様において、前記重水により加水分解が可能な有機化合物は、トリフルオロメタンスルホン酸無水物(Trifluoromethanesulfonic anhydride)、トリフルオロ酢酸無水物(Trifluoroacetic anhydride)、酢酸無水物(Acetic anhydride)、およびメタンスルホン酸無水物(Methanesulfonic anhydride)のうち少なくとも一つを含んでもよい。
【0178】
本発明に係る一実施態様によれば、前記有機溶媒は、ハロゲン基で置換もしくは非置換の炭化水素鎖;アルキル基で置換もしくは非置換の脂肪族炭化水素環;アルキル基で置換もしくは非置換の芳香族炭化水素環;直鎖もしくは分岐鎖のヘテロ鎖;置換もしくは非置換の脂肪族ヘテロ環;および置換もしくは非置換の芳香族ヘテロ環からなる群より選択されてもよい。具体的に、前記有機溶媒は、酸素元素および硫黄元素のうち少なくとも一つを含み、置換もしくは非置換のヘテロ環;置換もしくは非置換のアルキルアセテート;アルキルケトン;アルキルスルホキシド;炭素数4~10のラクトン;アルキルアミド;炭素数4~10のグリコール;ジオキサン;アルコキシで置換もしくは非置換の酢酸からなる群より選択される。
【0179】
前記有機溶媒は、エチルアセテート(Ethyl acetate)、アセトン(acetone)、シクロヘキサノン(cyclohexanone)、メチルエチルケトン(methyl ethyl ketone)、テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)、テトラヒドロピラン(tetrahydropyran)、シクロペンタノン(cyclopentanone)、1,2-ジオキサン(1,2-dioxane)、1,3-ジオキサン(1,3-dioxane)、1,4-ジオキサン(1,4-dioxane)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、1,2-ジメトキシエタン(1,2-dimethoxyethane)、ジグリム(Diglyme)、γ-ブチロラクトン(γ-butyrolactone)、γ-バレロラクトン(γ-valerolactone)、メチルエチルジグリコール(Methyl ethyl di glycol、MEDG)、プロピレングリコールメチルエーテル(Propylene glycol methyl ether、PGME)、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(Propylene glycol methyl ether acetate、PGMEA)、エチルラクテート(Ethyl lactate)、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジエチルエーテル(diethyl ether)、1,2-ジメトキシエタン(1,2-dimethoxyethane)、デカリン、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、キシレン、1,3,5-トリメチルベンゼン(1,3,5-trimethylbenzene)、ジクロロメタン(dichloromethane)、1,2-ジクロロエタン(1,2-dichloroethane)、1,1,2,2-テトラクロロエタン(1,1,2,2-tetrachloroethane)、テトラクロロエチレン(tetrachloroethylene)、および2-メトキシ酢酸(2-methoxyacetic acid)からなる群より選択されてもよい。
【0180】
本発明は、上述した重水素化芳香族化合物を含む電子素子を提供する。
【0181】
本発明は、上述した重水素化芳香族化合物を用いて電子素子を製造するステップを含む、電子素子の製造方法を提供する。
【0182】
前記電子素子および電子素子の製造方法は、前記組成物の説明を引用することができ、重複した説明は省略する。
【0183】
前記電子素子は、上述した重水素化芳香族化合物を使用可能な素子であれば、特に限定されず、例えば、有機発光素子、有機燐光素子、有機太陽電池、有機感光体、有機トランジスタなどであってもよい。
【0184】
前記電子素子は、第1電極;前記第1電極と対向して備えられた第2電極;および前記第1電極と前記第2電極との間に備えられた1層以上の有機物層を含み、前記有機物層のうち1層以上は、上述した重水素化芳香族化合物を含んでもよい。
【0185】
本発明は、上述した重水素化芳香族化合物を含む有機発光素子を提供する。
【0186】
本発明の一実施態様において、前記有機発光素子は、第1電極;前記第1電極と対向して備えられた第2電極;および前記第1電極と前記第2電極との間に備えられた有機物層を含み、前記有機物層は、前記重水素化芳香族化合物を含む。
【0187】
本発明の一実施態様において、前記有機物層は、前記重水素化芳香族化合物を含む発光層を含む。
【0188】
本発明の有機発光素子の有機物層は、単層構造からなってもよいが、2層以上の有機物層が積層された多層構造からなってもよい。例えば、本明細書の有機物層は、1~3層からなってもよい。また、本明細書の有機発光素子は、有機物層として、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層などを含む構造を有してもよい。しかし、有機発光素子の構造は、これに限定されず、さらに少ない数の有機層を含んでもよい。
【0189】
前記有機発光素子が複数の有機物層を含む場合、前記有機物層は、同一の物質または異なる物質から形成されてもよい。
【0190】
例えば、本発明の有機発光素子は、基板上に、陽極、有機物層、および陰極を順次積層させることで製造されてもよい。この際、スパッタリング法(sputtering)や電子ビーム蒸着法(e-beam evaporation)のようなPVD(physical Vapor Deposition)方法を用いて、基板上に金属または導電性を有する金属酸化物またはこれらの合金を蒸着させて陽極を形成し、その上に正孔注入層、正孔輸送層、発光層、および電子輸送層を含む有機物層を形成した後、その上に陰極として使用可能な物質を蒸着させることで製造されてもよい。このような方法の他にも、基板上に、陰極物質から有機物層、陽極物質を順に蒸着させて有機発光素子を作製してもよい。
【0191】
また、前記化学式1の化合物は、有機発光素子の製造時、真空蒸着法だけでなく、溶液塗布法により有機物層として形成されてもよい。ここで、溶液塗布法とは、スピンコーティング、ディップコーティング、ドクターブレード、インクジェット印刷、スクリーン印刷、スプレー法、ロールコーティングなどを意味するが、これに限定されない。
【0192】
本発明の一実施態様において、前記第1電極は陽極であり、第2電極は陰極である。
【0193】
また一つの一実施態様によれば、前記第1電極は陰極であり、第2電極は陽極である。
【0194】
また一つの実施態様において、有機発光素子は、基板上に、陽極、1層以上の有機物層、および陰極が順次積層された構造(normal type)の有機発光素子であってもよい。
【0195】
また一つの実施態様において、有機発光素子は、基板上に、陰極、1層以上の有機物層、および陽極が順次積層された逆方向構造(inverted type)の有機発光素子であってもよい。
【0196】
本発明において、前記陰極、有機物層、および陽極の材質は、有機物層のうち少なくとも1層に重水素化された芳香族化合物を含むこと以外には特に限定されず、当技術分野で周知の物質を用いてもよい。
【0197】
本発明において、上述した重水素化芳香族化合物は、有機燐光素子、有機太陽電池、有機感光体、有機トランジスタなどをはじめとする電子素子においても、有機発光素子に適用されるものと類似した原理で用いられてもよい。例えば、前記有機太陽電池は、陰極、陽極、および前記陰極と陽極との間に備えられた光活性層を含む構造であってもよく、前記光活性層は、前記選択された重水素化化合物を含んでもよい。
【実施例】
【0198】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。但し、以下の実施例は、本発明を例示するためのものにすぎず、本発明を限定するためのものではない。
【0199】
[実施例1]
フラスコ内に、11,12-ジヒドロインドロ[2,3-a]カルバゾール(11,12-dihydroindolo[2,3-a]carbazole)5g、重水(D2O)30ml、メタンスルホン酸無水物(Methanesulfonic anhydride)10g、およびジメチルスルホキシド(Dimethyl sulfoxide)50mlを入れ、常温で1時間撹拌した後、60℃~100℃で18時間反応させた。反応終了後、5℃以下に温度を下げた後、炭酸カリウムを添加し、pHが7~8となるように中和する。中和の際、溶解度が低下し、反応物は固体として析出する。これをろ過し、テトラヒドロフラン(Tetrahydrofuran)に溶かす。これに硫酸マグネシウム(MgSO4)を用いて残存水分を除去した後、濾過し、ロータリーエバポレーター(rotary evaporator)を用いて溶媒を除去し、重水素で置換された11,12-ジヒドロインドロ[2,3-a]カルバゾール(11,12-dihydroindolo[2,3-a]carbazole)を得た。
【0200】
[実施例2]
実施例1と同様の方法を用いて、有機溶媒をジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide)の代わりにテトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)に変更し、重水素で置換された11,12-ジヒドロインドロ[2,3-a]カルバゾール(11,12-dihydroindolo[2,3-a]carbazole)を得た。
【0201】
[実施例3]
実施例1と同様の方法を用いて、有機溶媒をジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide)の代わりに1,4-ジオキサン(1,4-Dioxane)に変更し、重水素で置換された11,12-ジヒドロインドロ[2,3-a]カルバゾール(11,12-dihydroindolo[2,3-a] carbazole)を得た。
【0202】
[実施例4]
実施例1と同様の方法を用いて、有機溶媒をジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide)の代わりにメチルシクロヘキサン(methylcyclohexane)に変更し、重水素で置換された11,12-ジヒドロインドロ[2,3-a]カルバゾール(11,12-dihydroindolo[2,3-a] carbazole)を得た。
【0203】
[実施例5]
実施例1と同様の方法を用いて、有機溶媒をジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide)の代わりに1,2-ジクロロエタン(1,2-dichloroethane)に変更し、重水素で置換された11,12-ジヒドロインドロ[2,3-a]カルバゾール(11,12-dihydroindolo[2,3-a] carbazole)を得た。
【0204】
[実施例6]
実施例1と同様の方法を用いて、有機溶媒をジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide)の代わりにキシレン(xylene)に変更し、重水素で置換された11,12-ジヒドロインドロ[2,3-a]カルバゾール(11,12-dihydroindolo[2,3-a]carbazole)を得た。
【0205】
[実施例7]
実施例1と同様の方法を用いて、メタンスルホン酸無水物(methnaesulfonic anhydride)の代わりにトリフルオロメタンスルホン酸無水物(trifluoromethanesulfonic anhydride)に変更し、重水素で置換された11,12-ジヒドロインドロ[2,3-a]カルバゾール(11,12-dihydroindolo[2,3-a]carbazole)を得た。
【0206】
[実施例8]
実施例1と同様の方法を用いて、メタンスルホン酸無水物(methnaesulfonic anhydride)の代わりにトリフルオロ酢酸無水物(trifluoroacetic anhydride)を使用し、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide)をキシレン(xylene)に変更し、重水素で置換された11,12-ジヒドロインドロ[2,3-a]カルバゾール(11,12-dihydroindolo[2,3-a]carbazole)を得た。
【0207】
[実施例9]
フラスコ内に、カルバゾール(carbazole)5g、重水(D2O)32ml、メタンスルホン酸無水物(Methanesulfonic anhydride)8g、ジメチルスルホキシド(Dimethyl sulfoxide)50mlを入れ、常温で1時間撹拌した後、60~100℃で18時間反応させた。反応終了後、5℃以下に温度を下げた後、炭酸カリウムを添加し、pHが7~8となるように中和する。中和の際、溶解度が低下し、反応物は固体として析出される。これをろ過し、テトラヒドロフラン(Tetrahydrofuran)に溶かす。これに硫酸マグネシウム(MgSO4)を用いて残存水分を除去した後、濾過し、ロータリーエバポレーター(rotary evaporator)を用いて溶媒を除去し、重水素で置換されたカルバゾール(carbazole)を得た。
【0208】
[実施例10]
実施例9と同様の方法を用いて、有機溶媒をジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide)からテトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)に変更し、重水素で置換されたカルバゾール(carbazole)を得た。
【0209】
[実施例11]
実施例9と同様の方法を用いて、有機溶媒をジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide)から1,4-ジオキサン(1,4-dioxane)に変更し、重水素で置換されたカルバゾール(carbazole)を得た。
【0210】
[実施例12]
実施例9と同様の方法を用いて、有機溶媒をジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide)からメチルシクロヘキサン(methylcyclohexane)に変更し、重水素で置換されたカルバゾール(carbazole)を得た。
【0211】
[実施例13]
実施例9と同様の方法を用いて、有機溶媒をジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide)から1,2-ジクロロエタン(1,2-dichloroethane)に変更し、重水素で置換されたカルバゾール(carbazole)を得た。
【0212】
[実施例14]
実施例9と同様の方法を用いて、有機溶媒をジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide)からキシレン(xylene)に変更し、重水素で置換されたカルバゾール(carbazole)を得た。
【0213】
[実施例15]
実施例9と同様の方法を用いて、メタンスルホン酸無水物(methanesulfonic anhydride)をトリフルオロメタンスルホン酸無水物(trifluoromethanesulfonic anhydride)に変更し、重水素で置換されたカルバゾール(carbazole)を得た。
【0214】
[実施例16]
実施例9と同様の方法を用いて、メタンスルホン酸無水物(methanesulfonic anhydride)の代わりにトリフルオロ酢酸無水物(trifluoroacetic anhydride)を使用し、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide)をキシレン(xylene)に変更し、重水素で置換されたカルバゾール(carbazole)を得た。
【0215】
[実施例17]
フラスコ内に、2-ブロモジベンゾフラン(2-bromodibenzofuran)5g、重水(D2O)16ml、メタンスルホン酸無水物(Methanesulfonic anhydride)10.5g、ジメチルスルホキシド(Dimethyl sulfoxide)40mlを入れ、常温で1時間撹拌した後、80℃~100℃で18時間反応させた。反応終了後、5℃以下に温度を下げた後、炭酸カリウムを添加し、pHが7~8となるように中和する。中和の際、溶解度が低下し、反応物は固体として析出する。これをろ過し、エチルアセテート(Ethyl acetate)に溶かす。これに硫酸マグネシウム(MgSO4)を用いて残存水分を除去した後、濾過し、ロータリーエバポレーター(rotary evaporator)を用いて溶媒を除去し、重水素で置換された2-ブロモジベンゾフラン(2-bromodibenzofuran)を得た。
【0216】
[実施例18]
実施例17と同様の方法を用いて、有機溶媒をジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide)からテトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)に変更し、重水素で置換された2-ブロモジベンゾフラン(2-bromodibenzofuran)を得た。
【0217】
[実施例19]
実施例17と同様の方法を用いて、有機溶媒をジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide)から1,4-ジオキサン(1,4-dioxane)に変更し、重水素で置換された2-ブロモジベンゾフラン(2-bromodibenzofuran)を得た。
【0218】
[実施例20]
実施例17と同様の方法を用いて、有機溶媒をジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide)からメチルシクロヘキサン(methylcyclohexane)に変更し、重水素で置換された2-ブロモジベンゾフラン(2-bromodibenzofuran)を得た。
【0219】
[実施例21]
実施例17と同様の方法を用いて、有機溶媒をジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide)から1,2-ジクロロエタン(1,2-dichloroethane)に変更し、重水素で置換された2-ブロモジベンゾフラン(2-bromodibenzofuran)を得た。
【0220】
[実施例22]
実施例17と同様の方法を用いて、有機溶媒をジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide)からキシレン(xylene)に変更し、重水素で置換された2-ブロモジベンゾフラン(2-bromodibenzofuran)を得た。
【0221】
[実施例23]
実施例17と同様の方法を用いて、メタンスルホン酸無水物(methanesulfonic anhydride)をトリフルオロメタンスルホン酸無水物(trifluoromethanesulfonic anhydride)に変更し、重水素で置換された2-ブロモジベンゾフラン(2-bromodibenzofuran)を得た。
【0222】
[実施例24]
実施例17と同様の方法を用いて、メタンスルホン酸無水物(methanesulfonic anhydride)の代わりにトリフルオロ酢酸無水物(trifluoroacetic anhydride)を使用し、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide)をキシレン(xylene)に変更し、重水素で置換された2-ブロモジベンゾフラン(2-bromodibenzofuran)を得た。
【0223】
[実施例25]
フラスコ内に、2-クロロ-4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン(2-chloro-4,6-diphenyl-1,3,5-triazine)5g、重水(D2O)20.5ml、メタンスルホン酸無水物(Methanesulfonic anhydride)13g、ジメチルスルホキシド(Dimethyl sulfoxide)40mlを入れ、常温で1時間撹拌した後、80~100℃で18時間反応させた。反応終了後、5℃以下に温度を下げた後、炭酸カリウムを添加し、pHが7~8となるように中和する。中和の際、溶解度が低下し、反応物は固体として析出する。これをろ過し、エチルアセテート(Ethyl acetate)に溶かす。これに硫酸マグネシウム(MgSO4)を用いて残存水分を除去した後、濾過し、ロータリーエバポレーター(rotary evaporator)を用いて溶媒を除去し、重水素で置換された2-クロロ-4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン(2-chloro-4,6-diphenyl-1,3,5-triazine)を得た。
【0224】
[実施例26]
実施例25と同様の方法を用いて、有機溶媒をジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide)からテトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)に変更し、重水素で置換された2-クロロ-4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン(2-chloro-4,6-diphenyl-1,3,5-triazine)を得た。
【0225】
[実施例27]
実施例25と同様の方法を用いて、有機溶媒をジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide)から1,4-ジオキサン(1,4-dioxane)に変更し、重水素で置換された2-クロロ-4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン(2-chloro-4,6-diphenyl-1,3,5-triazine)を得た。
【0226】
[実施例28]
実施例25と同様の方法を用いて、有機溶媒をジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide)からメチルシクロヘキサン(methylcyclohexane)に変更し、重水素で置換された2-クロロ-4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン(2-chloro-4,6-diphenyl-1,3,5-triazine)を得た。
【0227】
[実施例29]
実施例25と同様の方法を用いて、有機溶媒をジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide)から1,2-ジクロロエタン(1,2-dichloroethane)に変更し、重水素で置換された2-クロロ-4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン(2-chloro-4,6-diphenyl-1,3,5-triazine)を得た。
【0228】
[実施例30]
実施例25と同様の方法を用いて、有機溶媒をジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide)からキシレン(xylene)に変更し、重水素で置換された2-クロロ-4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン(2-chloro-4,6-diphenyl-1,3,5-triazine)を得た。
【0229】
[実施例31]
実施例25と同様の方法を用いて、メタンスルホン酸無水物(methanesulfonic anhydride)をトリフルオロメタンスルホン酸無水物(trifluoromethanesulfonic anhydride)に変更し、重水素で置換された2-クロロ-4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン(2-chloro-4,6-diphenyl-1,3,5-triazine)を得た。
【0230】
[実施例32]
実施例25と同様の方法を用いて、メタンスルホン酸無水物(methanesulfonic anhydride)の代わりにトリフルオロ酢酸無水物(trifluoroacetic anhydride)を使用し、ジメチルスルホキシド(dimethyly sulfoxide)をキシレン(xylene)に変更し、重水素で置換された2-クロロ-4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン(2-chloro-4,6-diphenyl-1,3,5-triazine)を得た。
【0231】
[比較例1]
11,12-ジヒドロインドロ[2,3-a]カルバゾール(11,12-dihydroindolo[2,3-a]carbazole)2g、重水(D2O)30ml、10% Pd/C 0.5g、トルエンとキシレンを6:4で混合した溶媒10mlを高圧反応器内に入れ、反応器のヘッドを覆って内部を密閉した。攪拌しつつ、4%水素を含む気体を3~5分間反応物中に吹き込んだ。その次に、反応器内の雰囲気は4%水素を含む気体雰囲気を維持し、オイルバスの温度145℃で24時間反応させた。重水素置換反応の終了後に温度を下げ、反応器内部を外部空気(air)で置き換えた後、オイルバスの温度を160℃に上げ、17時間脱水素化反応を進行する。脱水素化反応の終了後に温度を下げ、触媒を除去するために濾過を行った後、MgSO4を用いて重水を除去し濾過した後、ロータリーエバポレーター(rotary evaporator)を用いて溶媒を除去し、重水素で置換された11,12-ジヒドロインドロ[2,3-a]カルバゾール(11,12-dihydroindolo[2,3-a]carbazole)を得た。
【0232】
[比較例2]
11,12-ジヒドロインドロ[2,3-a]カルバゾール(11,12-dihydroindolo[2,3-a]carbazole)2g、重水(D2O)30ml、10% Pd/C 0.5g、トルエンとキシレンを6:4で混合した溶媒10mlを高圧反応器内に入れ、反応器のヘッドを覆って内部を密閉させた。攪拌しつつ、100%水素気体を3~5分間反応物中に吹き込んだ。その次に、反応器内の雰囲気は4%水素を含む気体雰囲気を維持し、オイルバスの温度160℃で24時間反応させた。重水素置換反応の終了後に温度を下げ、反応器内部を外部空気(air)で置き換えた後、オイルバスの温度を160℃に上げ、17時間脱水素化反応を進行する。脱水素化反応の終了後に温度を下げ、触媒を除去するために濾過を行った後、MgSO4を用いて重水を除去し濾過した後、ロータリーエバポレーター(rotary evaporator)を用いて溶媒を除去し、重水素で置換された11,12-ジヒドロインドロ[2,3-a]カルバゾール(11,12-dihydroindolo[2,3-a]carbazole)を得た。
【0233】
[比較例3]
比較例1と同様の方法を用いて、11,12-ジヒドロインドロ[2,3-a]カルバゾール(11,12-dihydroindolo[2,3-a]carbazole)の代わりに2-ブロモジベンゾフラン(2-bromo-dibenzofuran)を添加し、重水素置換反応を進行した。その結果、重水素で置換された2-ブロモジベンゾフラン(2-bromo-dibenzofuran)を得たが、大半が臭素基を失った重水素で置換されたジベンゾフランであることを確認することができた。
【0234】
[実験例1]
実施例1~32および比較例1~3に対する純度、重水素置換率、水素化化合物の比率を測定し、その結果を下記表1に示す。
【0235】
純度および水素化化合物の比率は、反応が終わった試料をHPLC用テトラヒドロフラン溶媒に溶かし、HPLCによって、254nm波長でのスペクトルを積分して求めた。この際、移動相溶媒としては、アセトニトリル、テトラヒドロフランを5:5で混合し、1%ギ酸を混ぜた溶媒および水を用いた。
【0236】
重水素化反応が終わった試料を定量してNMR測定用溶媒に溶かしたサンプル試料、および前記重水素化反応前の化合物とピークが重ならない任意の化合物を前記試料と同量に定量し、同一のNMR測定用溶媒に溶かした内部標準試料を作製した。作製されたサンプル試料および内部標準試料に対し、それぞれ1H-NMRを用いてNMR測定グラフを得た。
【0237】
1H-NMRピークを割り当てる(assign)際、内部標準ピーク(internal standard peak)を1とし、重水素化反応が終わった試料の各位置に対する相対的な積分(integration)値を求めた。
【0238】
仮に重水素化反応が終わった試料において、全ての位置に重水素で置換されたのであれば、水素に由来するピークが全く現れず、この場合、重水素置換率が100%であると判断する。これに対し、全ての位置の水素が重水素で置換されていないのであれば、重水素で置換されていない水素のピークが現れることになる。
【0239】
これに基づき、本実験にて、重水素置換率は、重水素が置換されていない内部標準試料のNMR測定グラフにおける水素に基づくピークの積分値から、サンプル試料のNMR測定グラフにおける置換されていない水素によるピークの積分値を引いた値を求める。この値は、各位置に対する相対的な積分(integration)値であり、重水素で置換されて当該ピークとして現れないものであって、重水素で置換された比率を示す。
【0240】
その後、1H-NMR測定サンプルを作製する際に用いた試料の重さおよび内部標準(internal standard)の重さ、相対的な積分値を用いて、試料の各位置別の置換率を計算した。
【0241】
【0242】
【0243】
【0244】
実施例1~6は、11,12-ジヒドロインドロ[2,3-a]カルバゾールに対し、有機溶媒としてそれぞれジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、メチルシクロヘキサン、1,2-ジクロロエタン、またはキシレンを用いて重水素置換反応を行った。実施例9~14は、カルバゾールに対し、有機溶媒としてそれぞれジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、メチルシクロヘキサン、1,2-ジクロロエタン、またはキシレンを用いて重水素置換反応を行った。実施例17~22は、2-ブロモジベンゾフランに対し、有機溶媒としてそれぞれジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、メチルシクロヘキサン、1,2-ジクロロエタン、またはキシレンを用いて重水素置換反応を行った。実施例25~30は、2-クロロ-4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジンに対し、有機溶媒としてそれぞれジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、メチルシクロヘキサン、1,2-ジクロロエタン、またはキシレンを用いて重水素置換反応を行った。
【0245】
実施例1、7、および8は、11,12-ジヒドロインドロ[2,3-a]カルバゾールに対し、重水により加水分解される化合物をそれぞれメタンスルホン酸無水物、トリフルオロメタンスルホン酸無水物、またはトリフルオロ酢酸無水物に変更して重水素置換反応を行った。実施例9、15、および16は、カルバゾールに対し、重水により加水分解される化合物をそれぞれメタンスルホン酸無水物、トリフルオロメタンスルホン酸無水物、またはトリフルオロ酢酸無水物に変更して重水素置換反応を行った。実施例17、23、および24は、2-ブロモジベンゾフランに対し、重水により加水分解される化合物をそれぞれメタンスルホン酸無水物、トリフルオロメタンスルホン酸無水物、またはトリフルオロ酢酸無水物に変更して重水素置換反応を行った。実施例25、31、および32は、2-クロロ-4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジンに対し、重水により加水分解される化合物をそれぞれメタンスルホン酸無水物、トリフルオロメタンスルホン酸無水物、トリフルオロ酢酸無水物に変更して重水素置換反応を行った。
【0246】
純度および重水素置換率は、反応物質の有機溶媒に対する溶解度、および重水素を提供する重水に対する溶解度に応じて、純度および重水素置換率が異なる。この理由で、水に対する溶解度の良い有機溶媒を用いる。また、酸無水物の使用量が増加するほど、溶液の酸度(acidity)が高くなって溶解度を増加させ、反応物質を溶かすことができるようになる。
【0247】
実施例1~32においては、有機溶媒に対する溶解度および重水に対する親和度の良いカルバゾールが、重水素置換率が高いという結果を得た。純度は重水素置換率とは少し反対の傾向を示すが、有機溶媒および重水に対する溶解度が良いほど、反応性が良くなり、副反応(side reaction)による不純物が増加することになる。この理由で、カルバゾールは、他の反応物質よりは純度が低い傾向を示す。
【0248】
また、実施例1~32は、酸条件(acid condition)下で反応をするため、反応時に圧力の増加がなく常圧で行った。比較例1~3は、触媒を用いて高圧反応器にて重水素置換を行い、常圧以上の圧力、少なくとも5bar以上の圧力で行った場合に、所望の結果を得ることができる。そして、高圧反応器を用いて反応を行う場合、芳香族環の二重結合が一部還元される副反応が起こるが、このようにして形成された副反応物質は分離し難く、分離をするとしても収率が大幅に減少することになる。
【0249】
比較例1および2は、触媒を用いて高圧で重水素置換する際に用いる水素化化合物の比率に応じた重水素置換率および純度の変化を比較した結果である。水素化化合物の比率が4%である場合、水素化化合物が100%である場合よりも純度が高いことを見ることができる。
【0250】
実施例17~24および比較例3は、ターゲット化合物に脱離基であるハロゲン基が存在する場合に重水により加水分解が可能な化合物を用いて重水素置換した条件(実施例17~24)と、触媒を用いて高圧で重水素置換した条件(比較例3)とを比較した実験である。この実験は、重水素置換反応後、脱離基であるハロゲン基が脱離せずによく結合しているかを確認するための実験であり、実施例17~24においては、脱離基である臭素基が重水素置換反応後にもよく結合しているが、比較例3においては、脱離基である臭素基が一部脱離したジベンゾフランによるピークをHPLCによって確認した。
【国際調査報告】