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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-24
(54)【発明の名称】ジエステル系物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/08 20060101AFI20230216BHJP
   C07C 69/82 20060101ALI20230216BHJP
【FI】
C07C67/08
C07C69/82 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022511391
(86)(22)【出願日】2021-08-20
(85)【翻訳文提出日】2022-02-24
(86)【国際出願番号】 KR2021011084
(87)【国際公開番号】W WO2022108050
(87)【国際公開日】2022-05-27
(31)【優先権主張番号】10-2020-0153956
(32)【優先日】2020-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジェオン、ジェ フン
(72)【発明者】
【氏名】リー、スン キュ
(72)【発明者】
【氏名】チョー、イエオン ウク
(72)【発明者】
【氏名】リー、ソン フーン
(72)【発明者】
【氏名】ジュン、ヒョウン
(72)【発明者】
【氏名】ヘオ、ユン ゴン
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC48
4H006BB14
4H006BC10
4H006BC11
4H006BD20
4H006BD60
4H006BJ50
4H006KA06
(57)【要約】
本発明は、ジエステル系物質の製造方法に関し、より詳しくは、第1反応ユニットから第n反応ユニットまでの総n個の反応ユニットが直列に連結された反応部を含むジエステル系物質の連続式製造工程で行われ、前記反応ユニットはジカルボン酸およびアルコールをエステル化反応させる反応器を含み、前記第1反応ユニットの反応器によりジカルボン酸およびアルコールをエステル化反応させて反応生成物を製造し、前記反応生成物を含む下部排出ストリームは後段反応ユニットに供給するステップを含み、前記第1反応ユニットの反応器の運転圧力は0.4kg/cmG~5.5kg/cmGであり、前記第2反応ユニット~第n反応ユニットの反応器のうち何れか1つの反応ユニットの反応器から第n反応ユニットの反応器まで運転圧力を減圧し、前記第1反応ユニットの反応器から第n反応ユニットの反応器まで運転温度を増加させる、ジエステル系物質の製造方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1反応ユニットから第n反応ユニットまでの総n個の反応ユニットが直列に連結された反応部を含むジエステル系物質の連続式製造工程で行われ、
前記反応ユニットはジカルボン酸およびアルコールをエステル化反応させる反応器を含み、
前記第1反応ユニットの前記反応器によりジカルボン酸およびアルコールをエステル化反応させて反応生成物を製造し、前記反応生成物を含む下部排出ストリームは後段反応ユニットに供給するステップを含み、
前記第1反応ユニットの前記反応器の運転圧力は0.4kg/cmG~5.5kg/cmGであり、
第2反応ユニット~前記第n反応ユニットの前記反応器のうち何れか1つの前記反応ユニットの前記反応器から前記第n反応ユニットの前記反応器まで運転圧力を減圧し、
前記第1反応ユニットの前記反応器から前記第n反応ユニットの前記反応器まで運転温度を増加させる、ジエステル系物質の製造方法。
【請求項2】
前記第n反応ユニットの前記反応器の運転圧力は、第n-1反応ユニットの前記反応器の運転圧力と比べて同じであるか低い、請求項1に記載のジエステル系物質の製造方法。
【請求項3】
前記第n反応ユニットの前記反応器の運転圧力は、第n-1反応ユニットの前記反応器の運転圧力と対比して0%~90%減少する、請求項2に記載のジエステル系物質の製造方法。
【請求項4】
前記第1反応ユニットの前記反応器の運転圧力は0.4kg/cmG~4kg/cmGである、請求項1から3のいずれか一項に記載のジエステル系物質の製造方法。
【請求項5】
前記第1反応ユニットの前記反応器の運転温度は160℃~210℃である、請求項1から4のいずれか一項に記載のジエステル系物質の製造方法。
【請求項6】
前記第n反応ユニットの前記反応器の運転温度は、第n-1反応ユニットの前記反応器の運転温度と対比して0%~20%増加する、請求項1から5のいずれか一項に記載のジエステル系物質の製造方法。
【請求項7】
前記第n反応ユニットの前記反応器の運転圧力は-1kg/cmG~1kg/cmGであり、運転温度は200℃~250℃である、請求項1から6のいずれか一項に記載のジエステル系物質の製造方法。
【請求項8】
前記第n反応ユニットの前記反応器内の水の含量は、第n-1反応ユニットの前記反応器内の水の含量と対比して22%~95%減少する、請求項1から7のいずれか一項に記載のジエステル系物質の製造方法。
【請求項9】
前記nは2~8である、請求項1から8のいずれか一項に記載のジエステル系物質の製造方法。
【請求項10】
前記第1反応ユニットの前記反応器に投入される前記ジカルボン酸の投入量および前記アルコールの投入量のモル比は1:2~1:5である、請求項1から9のいずれか一項に記載のジエステル系物質の製造方法。
【請求項11】
前記反応ユニットは、前記反応器からエステル化反応中に気化したアルコールおよび水を含む前記反応器の上部排出ストリームの供給を受けて気液分離を行い、気相は上部排出ストリームとして凝縮器を通過させて層分離器に供給し、液相は前記下部排出ストリームとして前記反応器に供給するカラムと、
水層とアルコール層に分離させ、アルコールのみをカラムに還流させ、水は除去する前記層分離器とをさらに含む、請求項1から10のいずれか一項に記載のジエステル系物質の製造方法。
【請求項12】
前記ジカルボン酸はテレフタル酸を含み、前記アルコールは2-エチルヘキシルアルコールを含む、請求項1から11のいずれか一項に記載のジエステル系物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年11月17日付けの韓国特許出願第10-2020-0153956号に基づく優先権の利益を主張し、該当韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は、本明細書の一部として組み込まれる。
【0002】
本発明は、ジエステル系物質の製造方法に関し、より詳しくは、連続式によりジエステル系物質を製造する際、反応器に供給されるエネルギー使用量を最小化しつつ、反応物の反応速度を制御してジエステル系物質の生産性を向上させることができる、ジエステル系物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
フタレート系可塑剤は、20世紀まで世界の可塑剤市場の92%を占めており、主にポリ塩化ビニル(PVC)に柔軟性、耐久性、耐寒性などを付与し、溶融粘度を下げて加工性を改善するために用いられる添加物であって、PVCに多様な含量で投入され、硬いパイプのような硬質製品から、柔らかくてよく伸長する食品包装材、血液バッグ、および床材などに使用可能な軟質製品に至るまで、その如何なる材料よりも実生活と密接な関わりを有しており、人体との直接的な接触が不可避な用途として広く用いられている。
【0004】
しかしながら、フタレート系可塑剤のPVCとの相溶性および優れた軟質付与性にもかかわらず、最近、フタレート系可塑剤が含有されたPVC製品の実生活での使用時、製品の外部に少しずつ流出され、内分泌系障害(環境ホルモン)推定物質および重金属水準の発癌物質として作用し得るという有害性の論難が提起されている。特に、1960年代、米国で、フタレート系可塑剤のうちその使用量が最も多いジ(2-エチルヘキシル)フタレート(di-(2-ethylhexyl)phthalate、DEHP)が、PVC製品の外部に流出されるという報告が発表されて以来、1990年代に入ってからは環境ホルモンに対する関心がさらに増し、フタレート系可塑剤の人体有害性に対する多様な研究が行われ始めた。
【0005】
そこで、多くの研究者らは、ジエステルベースのフタレート系可塑剤、特に、ジ(2-エチルヘキシル)フタレートの流出による環境ホルモン問題および環境規制に対応するために、ジ(2-エチルヘキシル)フタレートを代替可能な、環境に優しい可塑剤の開発および工程を改善するために研究を進行しつつある。
【0006】
そこで、多くの研究者らは、ジエステルベースのフタレート系可塑剤、特に、ジ(2-エチルヘキシル)フタレートの流出による環境ホルモン問題および環境規制に対応するために、ジ(2-エチルヘキシル)フタレートを代替可能な、環境に優しい可塑剤の開発および工程を改善するために研究を進行しつつある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、前記発明の背景となる技術において言及した問題を解決するために、可塑剤として環境に優しいジエステル系物質を連続式工程により製造するが、反応器に供給されるエネルギーの使用量を最小化しつつ、ジエステル系物質の生産性を向上させることができる、エステル系物質の製造方法を提供しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は、第1反応ユニットから第n反応ユニットまでの総n個の反応ユニットが直列に連結された反応部を含むジエステル系物質の連続式製造工程で行われ、前記反応ユニットはジカルボン酸およびアルコールをエステル化反応させる反応器を含み、前記第1反応ユニットの反応器によりジカルボン酸およびアルコールをエステル化反応させて反応生成物を製造し、前記反応生成物を含む下部排出ストリームは後段反応ユニットに供給するステップを含み、前記第1反応ユニットの反応器の運転圧力は0.4kg/cmG~5.5kg/cmGであり、前記第2反応ユニット~第n反応ユニットの反応器のうち何れか1つの反応ユニットの反応器から第n反応ユニットの反応器まで運転圧力を減圧し、前記第1反応ユニットの反応器から第n反応ユニットの反応器まで運転温度を増加させる、ジエステル系物質の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、ジエステル系物質を連続式工程により製造する際、第2反応ユニットの反応器~第n反応ユニットの反応器のうち何れか1つの反応ユニットの反応器から第n反応ユニットの反応器まで運転圧力を減少させることで、ジエステル系物質の生産性を向上させるとともに、反応器に供給されるエネルギーの使用量を最小化することができる。
【0010】
また、前記後段反応ユニットに行くほど、反応器の運転温度を増加させることで、反応速度を制御し、目的とする転換率にさらに容易に達することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係るジエステル系物質の製造方法に対する工程フローチャートである。
図2】本発明の一実施形態に係るジエステル系物質の製造方法に対する工程フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の説明および特許請求の範囲で用いられている用語や単語は、通常的もしくは辞書的な意味に限定して解釈してはならず、発明者らは、自分の発明を最善の方法で説明するために、用語の概念を適切に定義することができるという原則に則って、本発明の技術的思想に合致する意味と概念で解釈すべきである。
【0013】
本発明において、用語「上部」は、容器内の装置の全体高さから50%以上の高さに該当する部分を意味し、「下部」は、容器または装置の全体高さから50%未満の高さに該当する部分を意味し得る。
【0014】
本発明において、用語「ストリーム(stream)」は、工程中の流体(fluid)の流れを意味し得るし、また、配管内に流れる流体自体を意味し得る。具体的に、前記ストリームは、各装置を連結する配管内に流れる流体自体および流体の流れを同時に意味し得る。また、前記流体は、気体(gas)および液体(liquid)などを意味し得る。前記流体に固体成分(solid)が含まれている場合に対して排除するものではない。
【0015】
以下、本発明に対する理解を助けるために、本発明について図1図2を参照してより詳細に説明する。
本発明によると、ジエステル(Diester)系物質の製造方法が提供される。前記製造方法は、図1を参照すると、第1反応ユニット10から第n反応ユニットn0までの総n個の反応ユニット10、20、n0が直列に連結された反応部を含むジエステル系物質の連続式製造工程で行われ、前記反応ユニットはジカルボン酸およびアルコールをエステル化反応させる反応器11、21、n1を含み、前記第1反応ユニット10の反応器11によりジカルボン酸およびアルコールをエステル化反応させて反応生成物を製造し、前記反応生成物を含む下部排出ストリームは後段反応ユニットに供給するステップを含み、前記第1反応ユニットの反応器の運転圧力は0.4kg/cmG~5.5kg/cmGであり、前記第2反応ユニット~第n反応ユニットの反応器のうち何れか1つの反応ユニットの反応器から第n反応ユニットの反応器まで運転圧力を減圧し、前記第1反応ユニットの反応器から第n反応ユニットの反応器まで運転温度を増加させることができる。
【0016】
本発明の一実施形態によると、前記ジエステル系物質は、第1反応ユニット10から第n反応ユニットn0までの総n個の反応ユニット10、20、n0が直列に連結された反応部を含む連続式製造工程で行われることができる。
【0017】
具体的に、従来は、ジエステル系物質を製造するにおいて、回分式製造工程が適用された。しかし、前記回分式工程によりジエステル系物質を製造することは、還流量やスチーム量の改善に限界があり、生産性が非常に低く、問題を改善するために適用可能な技術的限界がある。
【0018】
また、上述した問題を有する回分式工程の問題を解決するために、ジエステル系物質の製造時、2器以上の反応器を直列に連結して反応部を構成している連続式製造工程が開発された。しかし、この場合、エネルギー使用量の増加、目的とする転換率への到達、および流れ性の改善の問題があった。
【0019】
これに対し、本発明においては、前記ジエステル系物質を製造するにおいて、連続式製造工程を適用し、反応器に供給されるスチーム量を節減し、目的とする転換率に容易に達するようにした。
【0020】
本発明の一実施形態によると、前記反応ユニットは、ジカルボン酸およびアルコールをエステル化反応させる反応器を含むことができる。
前記エステル化反応は、ジカルボン酸、アルコールを反応器に供給し、触媒の存在下でジカルボン酸とアルコールが直接エステル化反応することができる。このように、ジカルボン酸とアルコールのエステル化反応により、ジエステル系物質および副産物として水が発生することになる。前記直接エステル化反応を行うことができる運転温度、運転圧力、時間、触媒の種類、および含量は、当業界に適用される一般的な条件をそのまま適用するか、または、場合によっては、工程の運営に適切に調節して適用することができる。
【0021】
前記ジカルボン酸およびアルコールは、反応器に供給する前にプレミキサーを介して混合して混合物として一括投入するか、またはそれぞれの別のラインを備えて反応器に一括投入することができる。
【0022】
前記ジカルボン酸は、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸などの芳香族多価カルボン酸;およびアジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸などの飽和または不飽和の脂肪族多価カルボン酸からなる群から選択された1種以上を含むことができる。具体的な例として、前記ジカルボン酸は、テレフタル酸であってもよい。
【0023】
前記アルコールは、例えば、炭素数4~13、5~12、または6~10の1価アルコールであってもよい。例えば、前記1価アルコールは、n-ブチルアルコール、iso-ブチルアルコール、第2級ブチルアルコール、n-ペンチルアルコール、n-ヘキシルアルコール、n-ヘプチルアルコール、n-オクチルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、iso-オクチルアルコール、iso-ノニルアルコール、n-ノニルアルコール、iso-デシルアルコール、n-デシルアルコール、ウンデシルアルコール、トリデシルアルコールなどの直鎖または分岐鎖アルコールを含むことができる。具体的な例として、前記アルコールは、2-エチルヘキシルアルコールであってもよい。
【0024】
前記アルコールは、前記ジカルボン酸と反応するのに必要な化学量論量と対比して過剰量で反応器に供給されることができる。例えば、前記第1反応ユニット10の反応器11に供給される前記ジカルボン酸とアルコールのモル比は、1:2~1:5または1:2~1:4.5であってもよい。前記反応器11に反応物としてジカルボン酸とアルコールを前記範囲のモル比で供給することで、スチーム使用量を最小化しつつエステル化反応の定反応速度を制御し、目的とする転換率に容易に達することができる。場合によっては、前記アルコールは、第2反応ユニット10~第n反応ユニットn0の反応器のうち何れか1つ以上にさらに供給されることができる。
【0025】
前記触媒は、例えば、硫酸、パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸などの酸触媒;テトライソプロピルチタン酸塩、テトラブチルチタン酸塩、テトラ-2-エチルヘキシルチタネートなどのアルキルチタネート触媒;およびジブチル酸化スズ、ブチルスズマレートなどの有機金属触媒からなる群から選択された1種以上を含むことができる。具体的な例として、前記触媒としては、アルキルチタネートに代表される有機チタン化合物を用いることができ、これにより、エステル化反応速度を増加させ、反応時間を短縮させることができる。
【0026】
前記反応器の運転温度は、例えば、130℃~250℃、140℃~250℃、または150℃~230℃であってもよい。この際、前記反応器の運転温度は、第1反応ユニット~第n反応ユニットそれぞれの反応器を個別的に意味し得る。より具体的に、前記第1反応ユニット~第n反応ユニットそれぞれの反応器は、前記温度範囲内で同一にまたは個別的に制御することができる。
【0027】
前記反応器の運転圧力は、-1kg/cmG~5.5kg/cmG、0kg/cmG~4.5kg/cmG、または0kg/cmG~4kg/cmGであってもよい。この際、前記反応器の運転圧力は、第1反応ユニット~第n反応ユニットそれぞれの反応器を個別的に意味し得る。より具体的に、前記第1反応ユニット~第n反応ユニットそれぞれの反応器は、前記圧力範囲内で同一にまたは個別的に制御することができる。
【0028】
本発明の一実施形態によると、前記ジカルボン酸はテレフタル酸であり、前記アルコールは2-エチルヘキシルアルコールであってもよい。このように、テレフタル酸と2-エチルヘキシルアルコールを触媒の存在下で反応器に投入してエステル化反応させる場合、ジエステル系物質としてジオクチルテレフタレート(Dioctyl terephthalate、DOTP)が製造されることができる。前記ジオクチルテレフタレートは、環境に優しく、無毒性の可塑剤として広く用いられている物質であって、PVCなどの高分子材料との相溶性に優れ、低揮発性および電気特性に優れた特徴を有することができる。
【0029】
本発明の一実施形態によると、前記反応部は、総n個の反応ユニットが直列に連結されて構成されたものであって、反応の転換率の制御および各ユニット反応での滞留時間などを考慮し、達成しようとする製品の組成を考慮して設計されることができる。例えば、前記nは、2~8、3~7、または4~6、すなわち、前記反応部は、2個~8個、3個~7個、または4個~6個の反応ユニットを含むことができる。
【0030】
本発明の一実施形態によると、前記反応ユニット10、20、30、40、50、n0は、前記反応器11、21、31、41、51、n1から、エステル化反応中に気化したアルコールおよび水を含む反応器の上部排出ストリームの供給を受けて気液分離を行い、気相は上部排出ストリームとして凝縮器13、23、33、43、53、n3を通過させて層分離器14、24、34、44、54、n4に供給し、液相は下部排出ストリームとして反応器11、21、31、41、51、n1に供給するカラム12、22、32、42、52、n2と、水層とアルコール層に分離させ、アルコールのみをカラムに還流させ、水は除去する層分離器14、24、34、44、54、n4とをさらに含むことができる。
【0031】
前記反応器においては、ジカルボン酸とアルコールのエステル化反応により、反応生成物であるジエステル系物質と、エステル反応に伴う副産物として水が生成されることができる。例えば、前記エステル化反応の反応生成物は、ジエステル系物質、水、および未反応物を含むことができる。
【0032】
前記エステル化反応の正反応速度を増加させるためには、副産物である水を効果的に除去させ、水による逆反応および触媒の不活性化を防止しなければならない。これに対し、前記副産物である水を除去させる方法として、水を気化させて排出する方法がある。この際、前記水の気化時、水と沸点が類似したアルコールもともに気化することになるが、気化するアルコールは回収して再び反応器に還流させて反応器内の反応物の濃度を高く維持し、水は除去することができる。
【0033】
具体的に、前記反応器においては、エステル化反応が行われるにつれ、アルコールが反応に参加するが、反応に参加せずに、アルコールの沸点以上にエステル化反応が起こることにより気化するアルコールが必然的に存在し得るとともに、反応生成物であるジエステル系物質の他に副産物として水が発生し、水はアルコールとともに気化して反応器の上部排出ストリームとして排出されることができる。前記気化した水およびアルコールは、反応器の上部排出ストリームとして排出され、カラムに供給することができる。
【0034】
前記カラムにおいては、反応器から流入された気相のアルコールおよび水が層分離器からカラムの上部に供給される低温の液相アルコールにより液化することができ、大部分の気相アルコールが選択的に液化してカラムの下部排出ストリームとして排出され、前記液相アルコールを含むカラムの下部排出ストリームは再び反応器の上部に投入され、前記液相アルコールはエステル化反応に再び参加することができる。このように、前記反応器の上部排出ストリームをカラムに通過させることにより、反応器の上部排出ストリームに含まれた水が凝縮された後に再び反応器に投入されるのを防止することで、正反応速度を向上させることができる。
【0035】
また、前記反応器から気化していたアルコールを反応器に再び還流させることで、反応器内でアルコールの過量率を維持することができ、エステル化反応の副産物である水を反応システムの外部に排出させて除去することで、反応器内に水が還流されるのを防止し、反応器内での反応速度の低下および触媒の性能低下を防止することができる。
【0036】
一方、前記カラムにおいて気相の水および液化していない気相のアルコールは、カラムの上部排出ストリームとして排出され、前記カラムの上部排出ストリームは、凝縮器を通過して層分離器に供給されることができる。具体的に、前記層分離器は、液相のアルコールおよび水が層分離される設備であり、このことから、層分離器においてまたは層分離器に投入前に、気相のアルコールおよび水は液化する必要がある。これにより、前記カラムの上部排出ストリームが層分離器に移送されるラインの任意の領域に凝縮器が設けられ、気相のアルコールおよび水の熱を凝縮器を介して除去することで、層分離器に投入前に液化させることができる。
【0037】
前記層分離器内の層分離は、アルコールおよび水の密度差により行われることができる。具体的な例として、前記アルコールの密度は水よりも低いため、層分離器の上部にはアルコール層が形成され、下部には水層が形成されることができる。このように、前記層分離器において水層とアルコール層を分離した後、前記アルコール層からカラムの上部に連結されたラインを介してアルコールのみを選択的に分離し、カラムに還流させることができる。この際、場合によっては、前記層分離器のアルコール層からカラムの上部に連結されたラインから分岐したラインを介してアルコールの一部を除去することができる。また、水層から外部に排出される排出ラインを介して水を除去するか、または多様なルートで再活用することができる。
【0038】
前記カラムにおいて凝縮されて温度が下がったアルコールが反応器に還流されることで、反応器の内部温度が減少するため、反応器の内部温度を維持するために、高圧スチームまたは高温スチームなどのエネルギー供給により反応器内に熱量を別に供給しなければならない。前記高圧スチームは、高い圧力による平衡温度(高温)を有するため、高圧スチームの供給により反応器内に熱量を供給することができる。
【0039】
前記反応器での反応生成物は反応器の下部排出ストリームを介して分離され、前記第1反応ユニット~第n-1反応ユニットの反応器それぞれの下部排出ストリームはそれぞれの反応ユニットの後段反応ユニットの反応器に供給することができ、最後段反応ユニットの反応器の下部排出ストリームは分離精製して製品化することができる。例えば、図2のように、5個の反応ユニットが直列に連結された反応部を含んでジエステル系物質を製造する際、第1反応ユニット10の反応器11の下部排出ストリームは第2反応ユニット20の反応器21に、第2反応ユニット20の反応器21の下部排出ストリームは第3反応ユニット30の反応器31に、第3反応ユニット30の反応器31の下部排出ストリームは第4反応ユニット40の反応器41に、第4反応ユニット40の反応器41の下部排出ストリームは第5反応ユニット50の反応器51に供給し、第5反応ユニット50の反応器51の下部排出ストリームは分離精製して製品化することができる。
【0040】
前記反応ユニット10、20、30、40、50、n0それぞれの反応器の下部排出ストリームを後段反応ユニットの反応器に移送するか、または後続の分離精製工程に移送するために、それぞれの反応器の下部排出ラインにはポンプが備えられることができる。
【0041】
前記最後段反応ユニットの反応器の下部排出ストリームに含まれたジエステル系物質は、公知の方法により精製することができる。例えば、有機チタン化合物を触媒としてエステル化を行った場合には、得られたジエステル系物質に水を加えて触媒を不活性化させた後に水蒸気で蒸留し、残留している未反応アルコールを蒸発除去することができる。また、アルカリ性物質で処理して残留ジカルボン酸を中和することができる。また、濾過により固形物を除去することで、高純度のジエステル系物質を得ることができる。
【0042】
本発明の一実施形態によると、前記ジエステル系物質の連続式製造工程において、第1反応ユニットの反応器によりジカルボン酸およびアルコールをエステル化反応させて反応生成物を製造し、前記反応生成物を含む下部排出ストリームは、下部排出ラインを介して後段反応ユニットに供給することができる。
【0043】
前記第1反応ユニット10の反応器11の運転圧力は、例えば、0.4kg/cmG~5.5kg/cmG、1kg/cmG~5kg/cmG、または1kg/cmG~4kg/cmGであってもよい。
【0044】
具体的に、ジエステル系物質の製造時、一般的に、円滑な水の除去により反応速度を保障するために、反応器の運転圧力を常圧にして運転することになる。この場合、低い圧力により反応器の上部に気化して排出される水およびアルコールの流量が増加し得るし、これにより、反応器に供給されるエネルギー、例えば、高圧(high pressure、HP)スチーム使用量が増加し得る。これに対し、本発明においては、第1反応ユニット10の反応器11の運転圧力を前記範囲内の高圧に制御することで、前記反応器11の上部排出ストリームの流量を下げ、前記反応器11に供給されるエネルギー使用量を節減した。具体的に、反応初期には、反応物であるアルコールを過量注入するため、高圧においても正反応が円滑に行われるため、反応初期に前記範囲内の高圧で反応器11を運転することで、反応器11に供給されるエネルギー使用量を節減することができる。
【0045】
前記第1反応ユニット10の反応器11の運転温度は、例えば、160℃~210℃、170℃~210℃、または190℃~210℃であってもよい。前記範囲に第1反応ユニット10の反応器11の運転温度を増加させるほど反応速度が速いため、転換率を高く維持させることができる。その反面、温度が過度に増加する場合、反応器での気化量およびカラムから反応器に還流される還流量が増加し、エネルギー使用量が幾何級数的に増加することになる。よって、転換率およびエネルギー使用量を考慮して、前記範囲の温度に第1反応ユニット10の反応器11を制御することができる。
【0046】
本発明の一実施形態によると、前記第n反応ユニットの反応器の運転圧力は、第n-1反応ユニットの反応器の運転圧力と比べて同じであるか低くてもよい。具体的な例として、第1反応ユニット10から第n反応ユニットn0に行くほど、反応器の運転圧力が減少することができる。このように、第1反応ユニット10の反応器11を高圧で運転し、後段反応ユニットに行くほど反応器の運転圧力を減圧することにより、後段反応ユニットに行くほど水を円滑に除去して反応物の反応速度を制御することで、最後段の第n反応ユニットn0の反応器n1において目的とする転換率に容易に達することができる。
【0047】
具体的に、反応器内の水の含量が増加すると、触媒の活性を低下させ、可逆反応に進行するエステル化反応において生成物であるジエステル系物質が、反応物であるジカルボン酸とアルコールに逆反応が進行し、全体的な反応速度および転換率が低下し得る。よって、後段反応ユニットの反応器に行くほど減圧しない場合、エネルギー使用量を節減することはできるが、水の除去および反応の面では悪影響を及ぼし得る。これに対し、本発明においては、第1反応ユニットの反応器を高圧で運転してエネルギー使用量を節減するとともに、後段反応ユニットの反応器に行くほど減圧させることにより、水を円滑に除去することで、前記問題を解決した。
【0048】
前記第n反応ユニットの反応器の運転圧力は、第n-1反応ユニットの反応器の運転圧力と対比して0%~90%、0%~70%、20%~50%、または0%~50%減少することができる。
【0049】
特に、前記第2反応ユニット10~第n反応ユニットn0の反応器のうち減圧を始める反応ユニットの反応器は、転換率に応じて適切に選択することができる。このように、それぞれの反応ユニットにおいて反応器の運転圧力を制御することで、第1反応ユニット10の反応器11に供給されるスチーム量を最小化して全体的なスチーム使用量を節減し、後段反応ユニットの反応器において副産物である水の除去を容易にして反応物の反応速度を制御し、最後段の第n反応ユニットn0の反応器n1において目的とする転換率にさらに容易に達することができる。
【0050】
本発明の一実施形態によると、前記第n反応ユニットの反応器の運転温度は、第n-1反応ユニットの反応器の運転温度と同じであるか高くてもよい。具体的な例として、第1反応ユニット10から第n反応ユニットn0に行くほど、反応器の運転温度が順次増加することができる。このように、第1反応ユニット10の反応器11を高圧で運転し、後段反応ユニットに行くほど、反応器の運転温度を順次増加させることで、それぞれの反応ユニットの反応器において反応物の反応速度を制御することができる。例えば、前記第n反応ユニットの反応器の運転温度は、第n-1反応ユニットの反応器の運転温度と対比して0%~20%、0.1%~15%、または1%~5%増加することができる。これにより、反応が進行するにつれ、後段の反応ユニットに行くほど、反応物の減少により遅くなる反応速度を改善し、最後段反応ユニットの反応器において目的とする転換率をさらに容易に達成することができる。
【0051】
本発明の一実施形態によると、最後段反応ユニットである第n反応ユニットn0の反応器n1の運転圧力は、-1kg/cmG~1kg/cmG、-0.5kg/cmG~0.5kg/cmG、または0kg/cmG~0.2kg/cmGであってもよく、運転温度は、200℃~250℃、210℃~240℃、または220℃~230℃であってもよい。具体的に、第n反応ユニットの反応器においては、目的とする転換率に達した状態で、反応物の含量が低く、副産物である水が存在し、生成物であるジエステル系物質の含量が高いが、この場合、前記範囲内に運転圧力および運転温度を制御することで、副産物である水を効果的に除去しつつ正反応を促進させ、目的とする転換率に容易に達することができる。
【0052】
本発明の一実施形態によると、前記第n反応ユニットの反応器内の水の含量は、第n-1反応ユニットの反応器内の水の含量と対比して22%~95%、30%~95%、または40%~95%減少することができる。具体的に、前記第2反応ユニットの反応器から第n反応ユニットの反応器に行くほど減圧させることによって水の除去を容易にすることで、前記範囲内に反応ユニットの反応器内の水の含量を制御することができる。
【0053】
本発明の一実施形態によると、ジエステル系物質の製造方法においては、必要な場合、蒸留カラム、コンデンサ、リボイラ、バルブ、ポンプ、分離器、および混合器などの装置を追加的にさらに設けることができる。
【0054】
以上、本発明に係るジエステル系物質の製造方法を記載および図面に図示したが、上記の記載および図面の図示は、本発明を理解するための核心的な構成のみを記載および図示したものであって、前記記載および図面に図示した工程および装置の他に、別に記載および図示していない工程および装置は、本発明に係るジエステル系物質の製造方法を実施するために適切に応用して利用することができる。
【0055】
以下、実施例によって本発明をさらに詳しく説明しようとする。但し、下記の実施例は、本発明を例示するためのものであって、本発明の範囲および技術思想の範囲内で多様な変更および修正が可能であることは通常の技術者にとって明らかであり、これらのみに本発明の範囲が限定されるものではない。
【0056】
実施例および比較例
実施例1~6および比較例1~4
図2に示された工程フローチャートに従い、アスペン社製のアスペンプラス(ASPEN PLUS)を用いて、転換率99%に達する条件で、ジオクチルテレフタレート(Dioctyl terephthalate、DOTP)の製造工程をシミュレーションした。
【0057】
具体的に、テレフタル酸と2-エチルヘキシルアルコールを1:2~4.5のモル比を維持して第1反応ユニット10の反応器11に投入し、触媒の存在下でエステル化反応させ、前記反応器11において気化する上部排出ストリームは、カラム12、凝縮器13、および層分離器14を用い、アルコールは反応器11に還流させ、水は除去した。また、前記反応器11において反応生成物を含む下部排出ストリームは、第2反応ユニット20の反応器21に供給した。
【0058】
前記第1反応ユニット10において運転される流れのように、第2反応ユニット20、第3反応ユニット30、第4反応ユニット40、および第5反応ユニット50を経て連続式で運転し、最後段の第5反応ユニット50の反応器51の下部排出ストリームは分離精製してジオクチルテレフタレートを得た。
【0059】
前記第1反応ユニット10の反応器11から第5反応ユニット50の反応器51までの反応器の温度は、最終転換率99%に達する条件で、196℃から220℃までの範囲で1%~5%の温度増加率で順次増加させながら制御した。
【0060】
この際、第1反応ユニット10~第5反応ユニット50の反応器11、21、31、41、51での水の含量、運転圧力、運転温度に対しては下記表1および表2に示した。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
比較例5および比較例6
前記実施例1において、転換率99%に達する条件を設定せず、アスペン社製のアスペンプラス(ASPEN PLUS)を用いて、ジオクチルテレフタレート(Dioctyl terephthalate、DOTP)の製造工程をシミュレーションしたことを除いては、前記実施例1と同様の方法で行った。
【0064】
前記第1反応ユニット10の反応器11~第5反応ユニット50の反応器51それぞれの温度は、215℃に維持しつつ制御した。
この際、第1反応ユニット10~第5反応ユニット50の反応器11、21、31、41、51での水の含量、運転圧力、運転温度に対しては下記表3に示した。
【0065】
【表3】
【0066】
前記表1~表3において、総スチーム使用量は、実施例1~実施例6および比較例1~比較例6それぞれに対して用いられた総スチーム使用量を測定し、比較例1での総スチーム使用量に対して百分率で換算して示した。
【0067】
前記表1~表3を参照すると、ジエステル系物質の連続式製造工程において、前記実施例1~実施例6の場合、それぞれの反応ユニットでの反応器の運転圧力、水の含量、および運転温度を上記のように制御することで、全体反応ユニットの反応器に供給される総スチーム使用量の和が比較例1と対比して36%~58%レベルに低いことが分かった。
【0068】
特に、第1反応ユニット10の反応器11の運転圧力を1kg/cmG~4kg/cmGに制御し、後段反応ユニットの反応器に行くほど、運転温度を順次増加させ、運転圧力を順次減圧させた実施例4~実施例6の場合、水を効果的に除去可能であり、総スチーム使用量がさらに低いことを確認することができた。
【0069】
これに対し、第1反応ユニット10~第5反応ユニット50での反応器の運転圧力を全て0.3kg/cmGに制御した比較例1の場合、低圧運転により、全体反応ユニットの反応器に供給されるスチーム量が高いことを確認することができた。
【0070】
また、第1反応ユニット10~第5反応ユニット50での反応器の運転圧力を全てそれぞれ1kg/cmG、2kg/cmG、4kg/cmGに制御した比較例2~比較例4の場合、高圧運転により、全体反応ユニットの反応器に供給される総スチーム量は実施例と類似したレベルであるが、後段反応ユニットでの水の除去が円滑ではないため、反応器内の水の含量が高いことを確認することができた。
【0071】
また、第1反応ユニット10において反応器11を低圧で運転し、後段反応ユニットの反応器に行くほど、運転圧力を減少させるが、運転温度を維持した比較例5の場合、総スチーム使用量が比較例1と対比して370倍に達することを確認することができた。
【0072】
また、第1反応ユニット10において反応器11を高圧で運転し、後段反応ユニットの反応器に行くほど、運転圧力を減少させるが、温度を一定に維持させた比較例6の場合も、実施例に比べて総スチーム使用量が増加し、全体スチーム使用量の70%以上が第1反応ユニット10の反応器11において使用することになる。この場合、低い温度の原料を反応温度まで昇温させ、気化するのに用いられるエネルギーが大きいため、第1反応ユニット10の反応器11が非効率的に大きくならなければならないという問題があった。
図1
図2
【国際調査報告】