(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-08
(54)【発明の名称】高周波用途用の半導体オンインシュレータ構造を製造するための方法
(51)【国際特許分類】
H01L 27/12 20060101AFI20230301BHJP
【FI】
H01L27/12 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022538205
(86)(22)【出願日】2021-01-07
(85)【翻訳文提出日】2022-08-22
(86)【国際出願番号】 FR2021050018
(87)【国際公開番号】W WO2021140300
(87)【国際公開日】2021-07-15
(32)【優先日】2020-01-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】598054968
【氏名又は名称】ソイテック
【氏名又は名称原語表記】Soitec
【住所又は居所原語表記】Parc Technologique des fontaines chemin Des Franques 38190 Bernin, France
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】ゴルベル, アイメン
(72)【発明者】
【氏名】アリベール, フレデリック
(72)【発明者】
【氏名】マシー, ダミアン
(72)【発明者】
【氏名】ベルトラン, イザベル
(72)【発明者】
【氏名】ヌーリ, ラミア
(57)【要約】
本発明は、半導体オンインシュレータ構造(10)を製造するための方法であって、その基部からその上端まで、500Ω.cm~30kΩ.cmの間の電気抵抗率と、20~40old ppmaの間の侵入型酸素含有量(Oi)とを有するとともに、N型又はP型ドーピングを有する単結晶基板(2)と、20nm~400nmの間の厚さを有する電気絶縁層(3)と、P型ドーピングを有する単結晶層(4)とを連続的に備えるFD-SOI基板(1)を用意するステップと、FD-SOI基板(1)を1175℃以上の温度で1時間以上の時間にわたって熱処理して、基板にP-N接合(5)を形成するステップとを含む方法に関する。本発明はまた、そのような半導体オンインシュレータ構造に関する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体オンインシュレータ構造(10)を製造するための方法であって、
FD-SOI基板(1)を用意するステップであって、その基部からその上端まで、
500Ω.cm~30kΩ.cmの範囲の電気抵抗率と、20~40old ppmaの範囲の侵入型酸素含有量(Oi)とを有するとともに、第1のP型又はN型ドーピングを有する単結晶半導体基板(2)と、
20nm~400nmの範囲の厚さを有する電気絶縁層(3)と、
P型ドーピングを有する単結晶半導体層(4)と、
を連続的に備えるFD-SOI基板(1)を用意するステップと、
前記FD-SOI基板(1)を1175℃以上の温度で1時間以上の時間にわたって熱処理するステップであって、
前記基板における前記電気絶縁層(3)を通じて前記単結晶半導体層(4)からP型ドーパントを拡散させることにより、
前記基板(2)がP型ドーピングを有する場合には、前記基板(2)において、前記侵入型酸素の沈殿によって熱供与体を形成して、
前記電気絶縁層(3)に対して決定された深さで前記単結晶半導体基板(2)にP-N接合(5)を形成し、
前記基板内において、前記基板の前記基部とP-N接合との間で延びるN型ドーピングを有する第1の領域(6)と、前記第1の領域(6)と前記電気絶縁層(3)との間に位置する第2のPドープ領域(7)とを形成する、ステップと、
を含む方法。
【請求項2】
前記単結晶基板(2)がシリコンから形成される、及び/又は、前記単結晶層(4)がシリコン層である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記FD-SOI基板(1)が、
P型ドーピングを有する単結晶半導体層(21)と、転写されるべき層(24)を画定する前記単結晶シリコン層(21)中に位置する脆化ゾーン(23)とを備えるドナー基板(20)と、
500Ω.cm~30kΩ.cmの範囲の電気抵抗率、20~40old ppmaの範囲の侵入型酸素含有量(Oi)、及び、第1のP型又はN型ドーピングを有する単結晶半導体受容基板(30)と、
を供給するステップと、
厚さが20nm~400nmの範囲である電気絶縁層(22)を用いて前記ドナー基板(20)を前記受容基板(30)に結合するステップと、
前記脆化ゾーン(23)に沿って前記ドナー基板(20)を引き離して前記FD-SOI基板(1)を形成するステップと、
に従って前記ドナー基板(20)の前記層(24)を前記受容基板(30)上に転写することによって得られる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記FD-SOI基板(1)が、
P型ドーピングを有する単結晶半導体層(21)を備える前記ドナー基板(20)と、
500Ω.cm~30kΩ.cmの範囲の電気抵抗率、20~40old ppmaの範囲の侵入型酸素含有量(Oi)、及び、P型又はN型ドーピングを有する前記単結晶半導体受容基板(30)と、
を供給するステップと、
厚さが20nm~400nmの範囲である電気絶縁層(22)を用いて前記ドナー基板(20)を前記受容基板(30)に結合するステップと、
前記受容基板(30)とは反対側の表面から前記ドナー基板(20)を薄くして、前記転写された層(24)を形成し、前記FD-SOI基板(1)を得るステップと、
に従って前記ドナー基板(20)の前記層(24)を前記受容基板(30)上に転写することによって得られる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記ドナー基板(20)に原子種を注入することによって前記脆化ゾーン(24)が形成されて前記転写層(24)が画定される、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記受容基板(30)及び前記ドナー基板の前記単結晶層(21)がホウ素でPドープされる、請求項3~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記P-N接合(5)が前記電気絶縁層(3)から1μm~5μmの範囲の深さで形成される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記電気絶縁層(3)が酸化ケイ素層を備える、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の製造方法を実施することによって直接的に得られる半導体オンインシュレータ構造(10)であって、前記半導体オンインシュレータ構造(10)が、その基部からその上端まで、
500Ω.cm~30kΩ.cmの範囲の電気抵抗率と、20~40old ppmaの範囲の侵入型酸素含有量(Oi)を有するとともに、
N型ドーピングを備える第1の領域(6)と、
P型ドーピングを備えて前記第1の領域上に配置される第2の領域(7)であり、P-N接合(5)によって前記第1の領域(6)から分離される、第2の領域(7)と、
を備える単結晶半導体基板(2)と、
電気絶縁層(3)と、
P型ドーピングを備える単結晶半導体層(4)と、
を連続的に備える、半導体オンインシュレータ構造(10)。
【請求項10】
前記単結晶半導体層(4)がホウ素でPドープされる、請求項9に記載の半導体オンインシュレータ構造(10)。
【請求項11】
前記P-N接合(5)が、前記電気絶縁層(3)から1μm~5μmの範囲の深さに位置する、請求項9又は10に記載の半導体オンインシュレータ構造(10)。
【請求項12】
前記電気絶縁層(3)が酸化ケイ素層を備える、請求項9~11のいずれか一項に記載の半導体オンインシュレータ構造(10)。
【請求項13】
前記単結晶基板(2)がシリコンから形成される及び/又は前記単結晶層(4)がシリコン層である、請求項9~12のいずれか一項に記載の半導体オンインシュレータ構造(10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に高周波用途のための、半導体オンインシュレータ構造を製造するための方法に関する。また、本発明は、この方法を実施することによって得られる半導体オンインシュレータ構造にも関連する。
【背景技術】
【0002】
半導体オンインシュレータ構造は、一般にシリコンから形成される基板と、該基板上に配置された一般に酸化ケイ素層などの酸化物層である電気絶縁層と、絶縁層上に配置された一般にシリコン層である半導体層とを備える多層構造である。
【0003】
そのような構造は、「半導体オンインシュレータ」構造(SeOI)、特に半導体材料がシリコンである場合には「シリコンオンインシュレータ」(SOI)と称される。
【0004】
既存のSOI構造の中で、「完全空乏型シリコンオンインシュレータ」(FD-SOI)構造と称される構造は、一般にデジタル用途に関して使用される。FD-SOI構造は、シリコン支持基板上に配置された薄い酸化物層と、SOI層と呼ばれる酸化物層上に配置された非常に薄い半導体層との存在によって特徴付けられる。
【0005】
酸化物層は、基板とSOI層との間に位置する。この場合、酸化物層は「埋め込み」と呼ばれ、「埋め込み酸化物」に関して「BOX」と呼ばれる。
【0006】
SOI層は、FD-SOI構造の伝導チャネルを実装できるようにする。
【0007】
BOX層及びSOI層の厚みが薄く均一であるため、伝導チャネルをドープする必要がなく、したがって、構造が完全に空乏化したモードで動作できる。
【0008】
FD-SOI構造は、BOX層を伴わない構造と比較して向上された静電的特徴を有する。BOX層は、ソースとドレインとの間の寄生静電容量を低減するとともに、伝導チャネル内の電子の流れを制限することによって伝導チャネルから基板への任意の電子漏れを大幅に低減できるようにし、以て、任意の電流損失を減らして構造の性能機能を向上させる。
【0009】
FD-SOI構造は、高周波(RF)用途に適合することができるが、それにもかかわらず、前記基板における電気的損失の発生に見舞われる。
【0010】
これらの電気的損失を補償してRF性能機能を向上させるために、特に電気抵抗率の高いSOIタイプの基板の使用が知られており、このタイプの基板は一般に「HR基板」(高抵抗率基板)と呼ばれる。このHR基板は、電荷トラップ層(又は「トラップリッチ層」)と組み合わされるのが有利である。
【0011】
しかしながら、このタイプの基板は、バックサイドゲート(バックバイアス電圧)を介して制御する必要のある閾値電圧を伴うトランジスタの使用と適合しない。実際に、トラップされた電荷を含むこの層の存在は、バックバイアス(裏面に対する電位差の印加)を妨げる。
【0012】
「RF用途における埋め込みPN接合を使用して強化される低損失Si基板」(M.Rack、L.Nyssens、及びJ-P.Raskin、IEEE Electronデバイスレター、vol.40、Issue 5)と題される科学出版物は、高周波用途向けの基板の電気絶縁層下に横方向で配置されるP-N接合の形成について記載する。
【0013】
横方向は、2つのPドープ領域及びNドープ領域がそれぞれ基板の同じ深さに配置され、前記領域間の接合部が基板の主表面に対して略垂直であることを意味すると理解される。そのような接合は、N型ドーピングのために基板全体にわたってリンを注入し、続いてPドープ領域を形成するためにマスクを通じてホウ素を局所的に注入し、その後、ドーパントを活性化するための熱処理を行なうことによって得られる。
【0014】
ドープされた半導体は、優れた導体であるが、接合部は電流を殆ど通過させないため、寄生電界の伝播を妨げる。
【0015】
科学出版物に記載されているようにP-N接合の横方向配置に起因する1つの欠点は、マスクを形成するためのリソグラフィーステップと、2つの注入ステップとを必要とし、これがかなりの追加費用をもたらすことである。
【発明の概要】
【0016】
本発明の目的は、前述の欠点を克服できるようにする半導体オンインシュレータ構造を製造するための方法を提案することである。
【0017】
本発明の目的は、良好な高周波性能機能を示すFD-SOI構造を製造するためのそのような製造方法を提案することである。
【0018】
この目的のために、本発明は、半導体オンインシュレータ構造を製造するための方法であって、
その基部からその上端まで、
500Ω.cm~30kΩ.cmの範囲の電気抵抗率と、20~40old ppmaの範囲の侵入型酸素含有量とを有するとともに、第1のP型又はN型ドーピングを有する単結晶半導体基板と、
20nm~400nmの範囲の厚さを有する電気絶縁層と、
P型ドーピングを有する単結晶半導体層と
を連続的に備えるFD-SOI基板を用意するステップと、
FD-SOI基板を1175℃以上の温度で1時間以上の時間にわたって熱処理するステップであって、
前記基板における電気絶縁層を通じて単結晶半導体層からP型ドーパントを拡散させることにより、
基板がP型ドープされる場合には、前記基板において、侵入型酸素の沈殿によって熱供与体を形成して、
電気絶縁層に対して決定された深さで単結晶半導体基板にP-N接合を形成し、
基板内において、基板の基部とP-N接合との間で延びる第1のN型ドープ領域と、第1の領域と電気絶縁層との間に位置する第2のPドープ領域とを形成する、ステップと
を含む方法を提案する。
【0019】
半導体基板のシリコン中の侵入型酸素を測定するための主な技術は、フーリエ変換赤外(FTIR)分光法を使用した赤外線吸収である。
【0020】
このFTIR測定は、侵入型酸素に起因する吸収係数αOXの値を与える。侵入型酸素濃度は、この吸収係数αOXに基づき、「高濃度にドープされたシリコンにおける酸素沈殿の研究」(1989)と題される文献、Graupner、Robert Kurt、Dissertations及びTheses、Paper 1218に特に記載される方法に従って計算される。
【0021】
この方法によれば、1cm3あたりの原子数(at/cm3)として又は100万分の1で存在する原子の総数の割合(ppma)としての酸素濃度は、吸収係数αOXに変換係数を乗じることによって得られる。
【0022】
本発明で言及される酸素濃度(old ppma)は、ppmaとして表わされる、「old ASTM」(米国材料試験協会)と呼ばれる以下のリストに示される4つの変換係数の最初のものを使用して得られる。
【0023】
Old ASTM ppma=9.63αOX
(ASTM F121-79) atoms/cm3=4.81×1017αOX
New ASTM ppma=4.9αOX
(ASTM F121-83) atoms/cm3=2.45×1017αOX
JEIDA ppma=6.1αOX
atoms/cm3=3.03×1017αOX
IOC-88 ppma=6.28αOX
atoms/cm3=3.14×1017αOX
他の態様によれば、本発明の製造方法は、単独で又はそれらの技術的に想定し得る組合せに従って解釈される以下の異なる特徴を有する。
【0024】
単結晶基板がシリコンから形成される、及び/又は、単結晶層がシリコン層である。
【0025】
FD-SOI基板が、
P型ドーピングを有する単結晶半導体層と、転写されるべき層を画定する単結晶シリコン層に位置される脆化ゾーンとを備えるドナー基板と、
500Ω.cm~30kΩ.cmの範囲の電気抵抗率、20~40old ppmaの範囲の侵入型酸素含有量、及び、P型又はN型ドーピングを有する単結晶半導体受容基板と
を供給するステップと、
厚さが20nm~400nmの範囲である電気絶縁層を用いてドナー基板を受容基板に結合するステップと、
脆化ゾーンに沿ってドナー基板を引き離してFD-SOI基板を形成するステップと
に従ってドナー基板の層を受容基板上に転写することによって得られる。
【0026】
FD-SOI基板が、
P型ドーピングを有する単結晶半導体層を備えるドナー基板と、
500Ω.cm~30kΩ.cmの範囲の電気抵抗率、20~40old ppmaの範囲の侵入型酸素含有量、及び、P型又はN型ドーピングを有する単結晶半導体受容基板と
を供給するステップと、
厚さが20nm~400nmの範囲である電気絶縁層を用いてドナー基板を受容基板に結合するステップと、
受容基板とは反対側の表面からドナー基板を薄くして、転写された層を形成し、FD-SOI基板を得るステップと
に従ってドナー基板の層を受容基板上に転写することによって得られる。
【0027】
ドナー基板に原子種を注入することによって脆化ゾーンが形成されて転写層が画定される。
【0028】
受容基板及びドナー基板の単結晶層がホウ素でPドープされる。
【0029】
P-N接合が電気絶縁層から1μm~5μmの範囲の深さで形成される。
【0030】
電気絶縁層が酸化ケイ素層を備える。
【0031】
また、本発明は、先に記載された製造方法を実施することによって直接的に得られる半導体オンインシュレータ構造であって、前記半導体オンインシュレータ構造が、その基部からその上端まで、
500Ω.cm~30kΩ.cmの範囲の電気抵抗率と、20~40old ppmaの範囲の侵入型酸素含有量とを有するとともに、
N型ドーピングを備える第1の領域と、
P型ドーピングを備えて第1の領域上に配置される第2の領域であり、P-N接合によって第1の領域から分離される、第2の領域と、
を備える単結晶半導体基板と、
電気絶縁層と、
P型ドーピングを備える単結晶半導体層と
を連続的に備える、半導体オンインシュレータ構造に関する。
【0032】
他の態様によれば、本発明の構造は、単独で又はそれらの技術的に想定し得る組合せに従って解釈される以下の異なる特徴を有する。
【0033】
単結晶半導体層がホウ素でPドープされる。
【0034】
P-N接合が、電気絶縁層から1μm~5μmの範囲の深さに位置する。
【0035】
電気絶縁層が酸化ケイ素層を備える。
【0036】
単結晶基板がシリコンから形成される及び/又は単結晶層がシリコン層である。
【0037】
本発明の更なる利点及び特徴は、以下の添付の図に関連して、例示的且つ非限定的な例として与えられる以下の説明を読むと明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図2】本発明に係る、P-N接合を備える半導体オンインシュレータ構造の図である。
【
図3】電気抵抗率の高い単結晶基板の一部のドーピングの反転を示す図である。
【
図4】単結晶層から下にある電気絶縁層を通じたドーパントの拡散を示す図である。
【
図5A】第1の実施形態に係る、ドナー基板に原子種を注入することによる脆化ゾーンの形成を示す図である。
【
図5B】第1の実施形態に係る、ドナー基板の受容基板への結合を示す図である。
【
図5C】第1の実施形態に係る、脆化ゾーンに沿ったドナー基板の引き離し、及び、ドナー基板から受容基板への層の転写を示す図である。
【
図6A】第2の実施形態に係る、ドナー基板の受容基板への結合を示す図である。
【
図6B】転写された層を形成するために受容基板とは反対側の表面からドナー基板を薄くすることを示す図である。
【
図7】電気抵抗率の高い基板におけるP-N接合を伴う又は伴わない半導体オンインシュレータ構造に関するゲインHD2を示すグラフである。
【
図8】電気抵抗率の高い基板におけるP-N接合を伴う又は伴わない半導体オンインシュレータ構造に関するゲインS21を示すグラフである。
【
図9】電気抵抗率の高い基板におけるP-N接合を伴う又は伴わない半導体オンインシュレータ構造の抵抗率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明は、半導体オンインシュレータ構造を製造するための方法及びそのような構造に関する。
【0040】
本発明の製造方法は、前記構造に良好な高周波特性を付与し、それを簡単且つ安価な態様で行なう、P-N接合を備える半導体オンインシュレータ構造を製造できるようにする。
【0041】
参照符号1を使用して
図1に概略的に示されるFD-SOI基板が最初に提供され、この基板は、その基部からその上端まで、単結晶半導体基板2、電気絶縁層3、及び、単結晶半導体層4を連続的に備える。
【0042】
単結晶基板2は、電気抵抗率の高い基板であり、したがって、500Ω.cm~30kΩ.cmの範囲の電気抵抗率を有する。
【0043】
また、単結晶基板2は、酸素量の多い基板であり、したがって、20~40old ppmaの範囲の侵入型酸素含有量(Oi)を有する。酸素は、単結晶基板の構造に、より具体的には単結晶基板を形成する材料の粒子間に位置する隙間にトラップされ、したがって「侵入型酸素」と呼ばれる。
【0044】
電気抵抗率が高く、侵入型酸素の量が多い単結晶基板は、HR HiOi(「高抵抗率」と「高酸素」の頭字語の組合せ)基板とも呼ばれる。
【0045】
単結晶基板はシリコンから形成されるのが好ましい。
【0046】
単結晶基板はP型又はN型ドーピングを有する。
【0047】
N型ドーピングの場合、単結晶基板2がリンでドープされるのが好ましく、単結晶基板は、リンがドープされたシリコンから形成されるのが更に好ましい。
【0048】
P型ドーピングの場合、単結晶基板2がホウ素でドープされるのが好ましく、単結晶基板は、ホウ素がドープしたシリコンから形成されるのが更に好ましい。
【0049】
下にある単結晶基板2と上にある単結晶層4との間に配置されるという点でBOX層とも称される電気絶縁層3の厚さは、20nm~400nmの範囲である。
【0050】
電気絶縁層3は酸化ケイ素層を備えることが好ましい。
【0051】
単結晶層3はP型ドーピングを有する。
【0052】
単結晶層はシリコン層であることが好ましい。
【0053】
本発明の方法によれば、1175℃以上の温度で、1時間以上の時間にわたって、FD-SOI基板に熱処理が施される。
【0054】
前記熱処理中、
図2に示されるように、参照符号5で示されるP-N接合が、電気絶縁層3に対して決定された深さで単結晶基板2に形成される。
【0055】
より具体的には、熱処理は以下の現象を引き起こす。
【0056】
一方では、単結晶層のP型ドーパントは、電気絶縁層に隣接する基板の領域において、電気絶縁層を通じ単結晶基板へと拡散する。
【0057】
他方では、単結晶基板がPドープされると、単結晶基板2にドープする型が反転する。
【0058】
これらの2つの現象を組み合わせると、基板中に第1の領域と呼ばれる領域6が生成され、この領域は、単結晶基板の基部からP-N接合まで延びるとともに、ドーピングの型の反転に起因してN型ドープされる。その後、P-N接合は、第1の領域6と、単結晶基板の第2の領域と呼ばれる残りの領域7との間の境界をマーキングし、第2の領域は、P-N接合から電気絶縁層3へと延在するとともに、Pドープされたままであり、この第2の領域におけるP型ドーパントの拡散がドーピングの型の反転を補償している。
【0059】
単結晶基板がNドープされると、第2の領域でP型ドーパントを拡散する前述の現象が起こる。しかしながら、ドーピングの型を反転する現象は起こらない。その結果、第1の領域はN型ドープされたままである。
【0060】
単結晶基板のドーピングの最初の型に関係なく、熱処理の完了時に、単結晶基板は、第1のN型ドープ領域(基板の基部の隣に位置する)と、第2のP型ドープ領域(電気絶縁層の隣に位置する)とを分離するP-N接合を備える。
【0061】
P-N接合は、以下の3つの機能に起因して形成され得る。
単結晶層4のPドーピング。
1時間以上の時間にわたる1175℃以上の熱処理の温度。
P型ドープ単結晶基板の場合、前記単結晶基板2の高い侵入型酸素濃度。
【0062】
500Ω.cm~30kΩ.cmの範囲の結晶基板2の高い電気抵抗率に関連するP-N接合の存在により、非常に優れた高周波特性を示す構造を得ることができる。これらの特性は、本明細書の残りの部分の全体にわたって説明される。これらの3つの特徴を調整することにより、P-N接合の形成を制御でき、特に電気絶縁層3からの単結晶基板2におけるP-N接合の深さを制御できる。
【0063】
例えば、前述の3つの特徴などの方法のパラメータは、電気絶縁層から1μm~5μmの範囲の深さでP-N接合を形成するように調整される。
【0064】
P型単結晶基板の場合、熱処理により、単結晶基板2に存在する侵入型酸素が沈殿し、その結果、単結晶基板の材料をドープするための余剰電荷を備えた硫黄酸化物S
xO
y熱供与体が形成されることにより、そのドーピングが反転する。この第1の現象が
図3に概略的に示され、この図は、上向きの垂直矢印8を使用して熱供与体による単結晶基板の材料のドーピングを示す。
【0065】
更に、単結晶基板がN型又はP型ドープされるかどうかにかかわらず、熱処理により、ホウ素などの単結晶層4のドーパントが、十分に薄い電気絶縁層3を通じて、単結晶基板2中へと拡散する、これらのドーパントは、P-N接合の形成、特に電気絶縁層からの単結晶基板におけるP-N接合の深さを制御するために使用することもできる。この第2の現象が
図4に概略的に示され、この図は、下向きの垂直矢印9を使用して電気絶縁層を通じたドーパントの拡散を示す。
【0066】
この第2の現象は、P型ドープ単結晶基板の場合の第1の現象と組み合わされて、Nドーピング基板の第1の領域の形成、及び、
図2の半導体オンインシュレータ構造10に示される第1の領域と電気絶縁層との間に位置する第2のPドープ領域の形成をもたらす。
【0067】
本発明の方法は、更なる処理ステップを必要とせずに、前述の3つの特徴によってこれらの2つの現象が発生できるようにするという利点を与える。特に、M.Rackらによる前述の論文に記載された横方向P-N接合とは異なり、本発明において基板の厚さでP-N接合を形成することは、ドーパントの局所的な注入又は基板上に堆積されるべきマスクを何ら必要としない。
【0068】
好ましい実施形態によれば、FD-SOI基板は、ドナー基板の層を受容基板上に転写することによって得られる。
【0069】
図5A、
図5B、及び、
図5Cに示されるこの実施形態の第1の代替案によれば、
図5Aに示されるように、単結晶層21、好ましくはN型ドーピングを有するシリコン層と、転写されるべき層を画定する単結晶層24に位置する脆化ゾーン23とを備えるドナー基板20が提供される。
【0070】
転写されるべき単結晶層24はシリコン層であることが好ましい。
【0071】
シリコンから形成されるのが好ましい単結晶受容基板30には、500Ω.cm~30kΩ.cmの範囲の電気抵抗率、20~40old ppmaの範囲の侵入型酸素含有量(Oi)、及び、P型又はN型ドーピングも与えられる。
【0072】
図5Bを参照すると、その後、ドナー基板20は、厚さが20nm~400nmの範囲である電気絶縁層22によって受容基板30上に結合される。このとき、電気絶縁層22は、ドナー基板20と受容基板30との間に位置する。
【0073】
電気絶縁層22は、ドナー基板によって又は受容基板によって生じることができ、すなわち、結合前に最初にドナー基板上又は受容基板上に位置し得る。
【0074】
図5Cを参照すると、その後、FD-SOI基板を得るために、ドナー基板20が脆化ゾーン23に沿って引き離される。
【0075】
層24は、スマートカット(Smart Cut)(商標)法に従って、ドナー基板20から受容基板30に転写されることが好ましく、この場合、例えば、水素及び/又はヘリウム原子などの原子種をドナー基板に注入することによって脆化ゾーン23が形成され、その後、ドナー基板が前記脆化ゾーンに沿って引き離される。
【0076】
図6A及び
図6Bに示されるこの実施形態の第2の代替案によれば、P型ドーピングを伴う、単結晶半導体層21、好ましくはシリコン層を備えるドナー基板20が提供される。
【0077】
単結晶層21はシリコン層であることが好ましい。
【0078】
また、シリコンから形成されることが好ましい単結晶受容基板30には、500Ω.cm~30kΩ.cmの範囲の電気抵抗率、20~40old ppmaの範囲の侵入型酸素含有量(Oi)、及び、P型又はN型ドーピングも与えられる。
【0079】
図6Aを参照すると、ドナー基板20は、その後、厚さが20nm~400nmの範囲である電気絶縁層22によって受容基板30上に結合される。このとき、電気絶縁層22は、ドナー基板20と受容基板30との間に位置する。
【0080】
電気絶縁層22は、ドナー基板又は受容基板によって生じることができ、すなわち、結合前に、最初にドナー基板上又は受容基板上に位置し得る。
【0081】
図6Bを参照すると、ドナー基板20は、その後、FD-SOI基板1を得るために、転写された層24を形成するべく受容基板とは反対側の表面から薄くされる。
【0082】
前述の方法により得られた半導体オンインシュレータ構造の良好な高周波特性が
図7、
図8、及び、
図9に関連して示される。
【0083】
図7は、電気抵抗率の高い基板におけるP-N接合を伴う又は伴わない半導体オンインシュレータ構造に関するゲインHD2(dBm)を示すグラフである。
【0084】
ゲインHD2は、900MHzの周波数で測定された第2高調波に対応する。
【0085】
より具体的には、HD2は、本発明に係る構造を備える高周波デバイスの動作を妨げ得る基板によって生成される高調波である。HD2が弱いほど、基板の絶縁性が高くなる。HD2は、入力ポイント及び出力ポイントを伴う同一平面上のラインにわたって測定される。入力ポイントで電力Pin(dBm)が与えられ、出力で電力Poutが測定され、この電力は、特に、入力電力にほぼ等しい出力で測定される電力に対応するHD1と、基板によって生成される高調波に対応するHD2とを含む幾つかの高調波に分解される。
【0086】
図7のグラフによれば、P-N接合を備える構造に関して得られるゲインHD2(曲線C1)は、P-N接合を伴わない構造に関して得られるゲインHD2(曲線C2)を下回る。曲線C1に対する曲線C2のこの下向きのオフセットは、約10dBmの損失に対応する。
【0087】
このため、P-N接合を伴う構造の高抵抗率基板は、P-N接合を伴わない構造の基板よりも電気絶縁性が高い。
【0088】
図8は、P-N接合を伴う又は伴わない半導体オンインシュレータ構造に関するゲインS21(dB)を周波数(Hz)の関数として示すグラフである。
【0089】
ゲインS21は、クロストーク又はノイズ測定値(「クロストーク」と呼ばれる)に対応するものであり、他の構成要素と比較して基板を介して通信できる任意の構成要素の能力を反映し、したがって、基板の絶縁性能機能を表わす。
【0090】
図8のグラフによれば、P-N接合を備える構造に関して得られるゲインS21(曲線C3)では、P-N構造を伴わない接合に関して得られるゲインS21(曲線C4)と比較して、1e+3Hz~1e+8Hzの間の減少が観察される。曲線C3と比較した曲線C4のこの減少は、減少されたノイズに対応する。
【0091】
図9は、電気抵抗率の高い基板におけるP-N接合を伴う又は伴わない半導体オンインシュレータ構造の抵抗率R(ohm.cm)を周波数(Hz)の関数として示すグラフである。
【0092】
図9のグラフによれば、P-N接合を備える構造に関して得られる抵抗率(C5曲線)は、P-N接合を伴わない構造に関して得られる抵抗率(曲線C6)よりも大きい。曲線C6と比較した曲線C5のこの下向きのオフセットは、約1200ohm.cmの損失に対応する。
【0093】
これは、P-N接合を伴う構造の抵抗率が高い基板がP-N接合を伴わない構造の基板よりも電気絶縁性が高いという事実を裏付ける。
【0094】
したがって、
図7、
図8、及び、
図9のグラフは、P-N接合を備える本発明の半導体オンインシュレータ構造の高周波性能機能が、P-N接合を伴わない構造の高周波性能機能と比較して大幅に改善されることを示す。
【国際調査報告】