(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-11
(54)【発明の名称】電池の負極に使用するための粉末、かかる粉末の調製方法及びかかる粉末を含む電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/38 20060101AFI20230404BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20230404BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20230404BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/36 C
H01M4/36 A
H01M4/48
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022549989
(86)(22)【出願日】2021-02-09
(85)【翻訳文提出日】2022-08-19
(86)【国際出願番号】 EP2021053095
(87)【国際公開番号】W WO2021165102
(87)【国際公開日】2021-08-26
(32)【優先日】2020-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501094270
【氏名又は名称】ユミコア
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ボアズ・ムーレマンス
(72)【発明者】
【氏名】ニコラス・マルクス
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-セバスチャン・ブリデル
(72)【発明者】
【氏名】ステイン・ピュト
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA01
5H050BA17
5H050CB08
5H050CB11
5H050GA02
5H050GA05
5H050HA00
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA07
5H050HA14
(57)【要約】
電池の負極に使用するのに適したケイ素系粉末であって、ケイ素系粒子及び非ケイ素系粒子を含み、ケイ素系粒子が最大で200nmのdS50値を有する数基準粒径分布を有し、ケイ素系粉末が最大で20重量%の酸素含有量を有し、ケイ素系粉末が、金属の群からの1つ以上の元素Mを含み、当該金属が、そのゼロ価の状態からの酸化物の温度Tにおける形成の標準ギブス自由エネルギーを有し、当該標準ギブス自由エネルギーが、ゼロ価のケイ素からのSiO2の同じ温度Tにおける形成の標準ギブス自由エネルギーより低く、温度Tが573K以上1373K以下であり、ケイ素系粉末中の当該1つ以上の元素Mの含有量が、当該ケイ素系粉末中の少なくとも0.10重量%のSiの含有量であり、当該1つ以上の元素Mが、非ケイ素系粒子中に存在する、ケイ素系粉末。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池の負極に使用するのに適したケイ素系粉末であって、ケイ素系粒子及び非ケイ素系粒子を含み、前記ケイ素系粒子が最大で200nmのd
S50値を有する数基準粒径分布を有し、前記ケイ素系粉末が最大で20重量%の酸素含有量を有し、前記ケイ素系粉末が、金属の群からの1つ以上の元素Mを含み、前記金属が、そのゼロ価の状態からの酸化物の温度Tにおける形成の標準ギブス自由エネルギーを有し、前記標準ギブス自由エネルギーが、ゼロ価のケイ素からのSiO
2の同じ前記温度Tにおける形成の前記標準ギブス自由エネルギーより低く、前記温度Tが573K以上1373K以下であり、前記ケイ素系粉末中の前記1つ以上の元素Mの含有量が、前記ケイ素系粉末中の少なくとも0.10重量%のSiの含有量であり、前記1つ以上の元素Mが、前記非ケイ素系粒子中に存在する、ケイ素系粉末。
【請求項2】
前記ケイ素系粒子が、0≦x<1の平均モル組成SiO
xの表面層を有する、請求項1に記載のケイ素系粉末。
【請求項3】
酸素を除く全ての元素を考慮した場合、前記非ケイ素系粒子における前記1つ以上の元素Mの含有量は、少なくとも60重量%である、請求項1又は2に記載のケイ素系粉末。
【請求項4】
前記非ケイ素系粒子が、最大で500nmのd
NS50値を有する数基準粒径分布を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のケイ素系粉末。
【請求項5】
前記ケイ素系粉末における前記1つ以上の元素Mの含有量が、前記ケイ素系粉末におけるSiの含有量の少なくとも0.40重量%、最大で5重量%である、請求項1~4のいずれか一項に記載のケイ素系粉末。
【請求項6】
前記1つ以上の元素Mの群がZrを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のケイ素系粉末。
【請求項7】
酸素を除く全ての元素を考慮した場合、Si含有量が少なくとも90重量%である、請求項1~6のいずれか一項に記載のケイ素系粉末。
【請求項8】
17nm以上172nm以下の平均一次粒径d
avを有する体積粒径分布を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載のケイ素系粉末。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載のケイ素系粉末を調製するための方法であって、
a.ケイ素系粒子を含み、最大で200nmのd
vs50値を有する体積粒径分布を有し、0<x<2、好ましくは0<x<1の平均モル組成SiO
xの表面層を有する粉末を準備する工程と、
b.金属の群からの1つ以上の元素MのM系粒子を含むM系粉末を準備する工程であって、前記金属が、そのゼロ価の状態からの酸化物の温度Tにおける形成の標準ギブス自由エネルギーを有し、前記標準ギブス自由エネルギーが、ゼロ価のケイ素からのSiO
2の同じ前記温度Tにおける形成の前記標準ギブス自由エネルギーより低く、前記温度Tが573K以上1373K以下であり、前記M系粒子が最大で500nmのd
M50値を有する体積粒径分布を有する、工程と、
c.前記ケイ素系粉末と前記M系粉末とを混合し、中間混合物を得る工程と、
d.前記中間混合物を粉砕することにより、ケイ素系粒子とM系粒子との最終混合物を得る工程と、
e.前記最終混合物を保護雰囲気下、573K以上1373K以下の温度で熱処理し、その後室温まで冷却する工程と、を含む、方法。
【請求項10】
電池の負極に用いるのに適した複合粉末であって、マトリックス材料と、請求項1~8のいずれか一項に記載のケイ素系粉末と、を含む複合粒子を含み、前記ケイ素系粉末の粒子が、前記マトリックス材料に埋め込まれている、複合粉末。
【請求項11】
前記複合粉末が黒鉛粒子も含む、請求項10に記載の複合粉末。
【請求項12】
平均ケイ素含有量が少なくとも5重量%及び最大で60重量%である、請求項10又は11に記載の複合粉末。
【請求項13】
BET比表面積が5m
2/g以下である、請求項10~12のいずれか一項に記載の複合粉末。
【請求項14】
請求項1~8のいずれか一項に記載のケイ素系粉末を、請求項10~13のいずれか一項に記載の複合粉末の一部として又は一部としてではなくのいずれかで含む、電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
背景技術
本発明は、電池の負極に使用するための粉末、かかる粉末の調製方法、及びかかる粉末を含む電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン(Liイオン)電池は、現在、最も高性能の電池であり、既に携帯型電子デバイスの標準となっている。加えて、これらの電池は、自動車及び蓄電などの他の産業において既に浸透しかつ急激に普及している。かかる電池の実現可能な利点は、良好な電力性能と組み合された高エネルギー密度である。
【0003】
Liイオン電池は、典型的には、いくつかのいわゆるLiイオンセルを含み、そのセルは、カソードとも称される正極と、アノードとも称される負極と、セパレータとを含み、それらは電解質に浸漬されている。携帯用途に最も頻繁に使用されるLiイオンセルは、カソードにリチウムコバルト酸化物又はリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物などの電気化学的活物質を使用し、アノードに天然又は人工の黒鉛を使用して、開発されている。
【0004】
電池の性能、特に、電池のエネルギー密度に影響を与える重要な制限要因のうちの1つは、アノード中の活物質であることが知られている。そのため、エネルギー密度を改善するために、負極にケイ素を含む電気化学的活物質を使用することが長年にわたって研究されてきた。
【0005】
当該技術分野では、Si系の電気化学的に活性な粉末を含む電池の性能は、概ね、いわゆるフルセルのサイクル寿命で定量化され、これは、そのような材料を含むセルが初期放電容量の80%に達するまで充放電できる回数又はサイクル数として定義される。そのため、ケイ素系の電気化学的に活性な粉末に関するほとんどの研究が、当該サイクル寿命の改善に焦点を当てている。
【0006】
アノードにケイ素系の電気化学的活物質を使用する1つの欠点は、充電中のその大きな体積膨張であり、例えば、合金化又は挿入によって、リチウムイオンが、アノードの活物質中に完全に組み込まれるとき(多くの場合しばしばリチオ化と称されるプロセス)、体積膨張は300%と高い。リチウム組み込み中のケイ素系材料の大きな体積膨張によって、ケイ素系粒子中に応力を誘発することがあり、それによりケイ素材料の機械的な劣化が生じる場合がある。Liイオン電池の充電及び放電中に周期的に繰り返されることで、ケイ素系電気化学的活物質の繰り返される機械的な劣化により、電池の寿命は、許容できないレベルにまで低下し得る。
【0007】
更に、ケイ素と関連のある悪影響は、厚いSEI、すなわち固体電解質界面が、アノード上に形成され得ることである。SEIは、電解質とリチウムの複合反応生成物であり、したがって、電気化学反応のためのリチウムの利用可能性が失われるため、サイクル性能が悪化し、充電-放電サイクルあたりの容量が失われる。更に、厚いSEIは、電池の電気抵抗を大きくしてしまうことがあり、それによって、達成可能な充電及び放電の速度が制限されることがある。
【0008】
原理的に、SEI形成は、「不動態化層」がケイ素系材料の表面上に形成されるとすぐに停止する自己終結プロセスである。
【0009】
しかし、ケイ素系粒子の体積膨張のため、放電(リチオ化)及び充電(脱リチオ化)の際にケイ素系粒子とSEIの両方が損傷を受ける場合があり、それによって、新しいケイ素表面があらわになり、新しいSEI生成が始まる。
【0010】
上記の欠点を解決するために、通常、複合粉末が使用される。これらの複合粉末では、通常、電解質の分解からケイ素系ドメインを保護し、体積変化に対応するのに適した、ケイ素系ドメインが少なくとも1つの成分と混合された、ナノサイズのケイ素系ドメインが使用される。このような成分は、炭素系材料であり得、好ましくはマトリックスを形成する。
【0011】
このような複合粉末は、例えば米国特許出願公開第2009/0162750号に記載されており、直径が5nm~200nmの結晶粒子と、厚さが1nm~10nmの非晶質表面層とで構成され、金属元素の酸化による金属酸化物生成時のギブス自由エネルギーが、ケイ素酸化時のギブス自由エネルギーより小さい少なくとも1つの金属酸化物から形成される、ケイ素粒子が開示されている。米国特許出願公開第2009/0092899号において、Mg、Ca、Al、Li、Na、K、Cs、Sr、Ba、Ti及びZrからなる群から選択される金属と、約100nm未満の平均粒径を有するフュームド二酸化ケイ素を混合することによって形成するケイ素を含むアノード材料が記載されている。国際公開第2012/000858号では、平均一次粒径が20nm~200nmであり、表面層が0<x<2のSiOxを含み、平均厚さが0.5nm~10nmのサブミクロンサイズのSi系粉末が開示されている。欧州特許第3525267号では、d50を有する数基準分布を有し、粒子の8%未満がd50の2倍より大きいサイズのケイ素系粒子が開示されている。Novel Nanostructured SiO2/ZrO2 Based Electrodes with Enhanced Electrochemical Performance of Lithium-ion Batteries,Electrochemica Acta 218(2016)47-53では、SiO2/ZrO2で作製されSi-O-Zr結合を形成したアノード材料が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このような複合粉末を使用しているにもかかわらず、Si系の電気化学的に活性な粉末を含む電池の性能にはまだ改善の余地がある。
【0013】
また、アノードにケイ素系微粒子が存在することで、これらのケイ素系粒子の表面に酸化物層が形成されてしまうという別の欠点もある。粒径やケイ素系粒子の製造方法により、ケイ素系粒子中の酸素含有量は、数重量%から最大15重量%又は更にそれ以上となる。
【0014】
電池に使用すると、ケイ素系粒子に含まれる酸素がリチウムと反応し、リチウムの一部が酸化リチウム(Li2O)に変換される。市販の電池はカソードに含まれるリチウムの量が限られているため、このリチウムの一部が酸化リチウムに不可逆的に変換され、それ以上の充電/放電サイクルに使用できなくなると、電池の初期不可逆容量損失が増加する。
【0015】
したがって、ケイ素系粒子の酸素含有量を低減するために講じることができる任意の措置は、酸化リチウムに変換されるリチウムの量の低減に直接寄与し、したがって、かかるケイ素系粒子を含む電池の初期不可逆容量損失の低減(すなわち初期クーロン効率の上昇)に寄与する。
【0016】
本発明の目的は、酸素量が低減されたケイ素系粒子を含む安定した電気化学的に活性なケイ素系粉末であって、Liイオン電池の負極に用いると、電池の初期不可逆容量損失の低減を達成できる点で有利なケイ素系粉末を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この目的は、実施形態1に記載のケイ素系粉末を提供することによって達成され、当該ケイ素系粉末は、Liイオン電池の負極に用いると、比較例1と比較して実施例1~5、比較例2と比較して実施例6で示したように、より高い初期クーロン効率(CE)を達成することが可能となる。
【0018】
本発明は、以下の実施形態に関する。
【0019】
実施形態1
第1の態様において、本発明は、電池の負極に使用するのに適したケイ素系粉末であって、ケイ素系粒子及び非ケイ素系粒子を含み、ケイ素系粒子が最大で200nmのdS50値を有する数基準粒径分布を有し、ケイ素系粉末が最大で20重量%の酸素含有量を有し、ケイ素系粉末が、金属の群からの1つ以上の元素Mを含み、当該金属が、そのゼロ価の状態からの酸化物の温度Tにおける形成の標準ギブス自由エネルギーを有し、当該標準ギブス自由エネルギーが、ゼロ価のケイ素からのSiO2の同じ温度Tにおける形成の標準ギブス自由エネルギーより低く、温度Tが573K以上1373K以下であり、ケイ素系粉末中の当該1つ以上の元素Mの含有量が、当該ケイ素系粉末中の少なくとも0.10重量%のSiの含有量、前記ケイ素系粉末のSiの含有量の最大で5重量%であり、当該1つ以上の元素Mが、非ケイ素系粒子中に存在する、ケイ素系粉末に関する。
【0020】
言い換えれば、実施形態1に記載のケイ素系粉末は、ケイ素系粒子と非ケイ素系粒子との両方を含み、後者が1つ以上の元素Mを含有する。
【0021】
電池の負極に使用するのに適した粉末とは、電池の負極のリチオ化及び脱リチオ化の際に、それぞれリチウムイオンを貯蔵及び放出することができる、電気化学的に活性な粒子を含む電気化学的に活性な粉末を意味する。このような粉末は、同等に「活性粉末」と呼ばれることがある。
【0022】
ケイ素系粉末(又は粒子)とは、主金属(又は半金属)元素として、又は唯一の金属(又は半金属)元素としてケイ素を含む粉末(又は粒子)を意味する。ケイ素は、その大部分がケイ素金属(又は半金属)として存在し、特性を改善するために微量の他の材料が添加されていたり、酸素などの不可避的不純物がいくらか含まれていたりする場合がある。このようなケイ素系粉末(又は粒子)中の平均Si含有量は、ケイ素系粉末(又は粒子)の総重量に対して、60重量%以上であり得、又は70重量%以上であり得、又は80重量%以上であり得る。
【0023】
ケイ素系粒子は、任意の形状、例えば、実質的に球状であり得るが、不規則な形状、棒状、板状などでもあり得る。
【0024】
ゼロ価の状態からの酸化物の温度Tにおける形成の標準ギブス自由エネルギーが、ゼロ価のケイ素からのSiO2の同じ温度Tにおける形成の標準ギブス自由エネルギーより低く、温度Tが573K以上1373K以下である金属の群からの元素Mは、例えば、Zr、Al、Mg、Ti及びCaであり得る。
【0025】
誤解を避けるために、この文書では、「ケイ素」という用語は金属のゼロ価の状態の元素Siを指し、記号Siはその酸化状態に関係なく元素ケイ素を指すことが明確にされている。これは、Zr、Al、Mg、Ca、Tiなどの他の元素でも同様であり、金属のフルネームはその金属状態、ゼロ価状態の元素を指し、元素記号はその酸化状態に関係なく元素を指している。
【0026】
実施形態1のケイ素系粉末の調製中、元のケイ素系粉末から出発して、1つ以上の元素Mは、元のケイ素系粒子に含まれる酸素、例えば元のケイ素系粒子の表面層に酸化ケイ素SiOx’として0<x’<2で存在する酸素と反応して、1つ以上の金属M酸化物と酸素含有量が低減したケイ素系粒子とを形成する。これは、例えば、元のケイ素系粉末と、0≦y’<2のMOy’表面層を有するM系粒子を含む一定量のM系粉末とを、例えば高エネルギーボールミルで集中的に混合することにより達成することができる。その結果、ケイ素系粉末中のケイ素系粒子は、0≦x<x’の平均モル組成SiOxの表面層を有し、ケイ素系粉末中のM系粒子は、0≦y’<yの平均モル組成MOyの表面層を有する。
【0027】
0<x’<2の平均モル組成SiOx’の表面層とは、粉末の分析試料の少なくとも3つの異なる点(又は位置)の各々においてXPS分析によって求められたモル組成の平均値を意味する。また、0≦y’<2の平均モル組成MOy’、及び本明細書に記載の他の平均モル組成についても同様である。
【0028】
実施形態1のケイ素系粉末における1つ以上の元素Mの含有量は、ケイ素系粒子における酸素低減の観点で、大きな効果が確かに得られるように、Siの含有量の少なくとも0.10重量%とする必要がある。
【0029】
電池における比容量に寄与しない材料でケイ素系粉末を希釈しすぎないように、1つ以上の元素Mの含有量が高すぎることは避ける必要がある。
【0030】
粒子の表面層とは、粒子のコアの表面にある層を意味し、コアは、例えばSiやZrなどの金属である。表面層は、概ね、AOx(式中、Aは粒子のコアを構成する金属であり、xは完全に酸化された層の場合の最大値より小さい)の組成を有する酸化物層である。粒子の表面層は、通常、粒子のコアの直径の10分の1を超えない厚さを有する。本発明において、粒子の表面層は、20nmを超えない厚さ、好ましくは10nmを超えない厚さを有する。
【0031】
例えば、電気化学的に不活性であり、したがって得られるケイ素系粉末の比容量がより低いSiZr合金のようなSiM合金の形成を避けるために、元のケイ素系粉末とM系粉末との粉砕を集中的すぎずに行うことが重要である。
【0032】
ケイ素系粒子と別個の粒子に1つ以上の元素Mが存在することには、2つの利点がある。第1に、Si-M金属合金を作る加工工程を避けることができ、第2に、必要に応じて、ケイ素系粉末から金属M酸化物粒子を後で除去することができ、その結果、ケイ素系粉末中の非電気化学的活性粒子の量が少なくなり、ひいては電池におけるケイ素系粉末の比容量が高くなる。
【0033】
表面層の組成は、例えばX線光電子分光法(XPS)や核磁気共鳴法(NMR)などの適した技術を用いて分析される。これらの技術により、SiOx’表面層を有するケイ素系粒子を有する元のケイ素系粉末から、実施形態1に記載のケイ素系粉末を製造する際に、ケイ素系粒子の酸素含有量の減少を確認するために、SiOx及びMOy表面層のx及びyの値を定量化するか、少なくともSiOx’及びSiOxからのx’及びxを定量的に比較することができる。
【0034】
実施形態2
実施形態1に記載の第2の実施形態において、ケイ素系粒子は、0≦x<1の平均モル組成SiOxの表面層を有する。
【0035】
実施形態3
実施形態1又2に記載の第3の実施形態において、酸素を除く全ての元素を考慮した場合、当該非ケイ素系粒子における当該1つ以上の元素Mの含有量は、少なくとも60重量%である。
【0036】
所望の技術的効果を得るために、非ケイ素系粒子中の1つ以上の元素Mの含有量が低すぎると、ケイ素系粉末中に非ケイ素系粒子をより高濃度で存在させる必要がある。非ケイ素系粒子は電気化学的に不活性であるため、ケイ素系粉末の比容量(mAh/g)が低下する。
【0037】
実施形態4
実施形態1~3のいずれか1つに記載の第4の実施形態において、非ケイ素系粒子は、最大で500nmのdNs50を有する粒径分布を有する。
【0038】
非ケイ素系粒子のサイズが大きくなると、表面積が小さくなり、ひいてはケイ素系粒子に含まれる酸素に対する反応性が低くなる。そのため、所望の技術的効果を得るためには、ケイ素系粉末中に非ケイ素系粒子をより高濃度で存在させる必要があり、これにより、ケイ素系粉末の比容量(mAh/g)が低下する。
【0039】
実施形態5
実施形態1~4のいずれか1つに記載の第5の実施形態において、当該ケイ素系粉末における当該1つ以上の元素Mの含有量は、Siの含有量の少なくとも0.40重量%である。
【0040】
実施形態6
実施形態1~5のいずれか1つに記載の第6の実施形態において、1つ以上の元素の群Mは、Zrを含む。
【0041】
言い換えれば、金属元素Mのうちの少なくとも1つはZrである。好ましくは、金属元素Mの少なくとも50重量%がZrであり、より好ましくは、金属元素Mの少なくとも75重量%がZrである。
【0042】
より好ましくは、1つ以上の元素Mの群は、不可避的な金属不純物の他に、金属元素としてZrのみを含む。
【0043】
これは有益であり得る。その理由は、金属状態のZrは、そのゼロ価の状態からの酸化物の温度Tにおける形成の標準ギブス自由エネルギーが、ゼロ価のケイ素からのSiO2の同じ温度Tにおける形成の標準ギブス自由エネルギーより低く、温度Tが573K以上1373K以下であり、例えばAl、Ca及びMgなどの他の多くの元素より硬いためである。Zr粉末は粉砕媒体や混合容器の壁面に付着しないため、最終的にケイ素系粉末と混合されるが、Al、Ca、Mg粉末の場合、材料が失われることがあり、そのこと自体が望ましくなく、また最終的にケイ素系粉末になるようこれらの金属の量を制御することも困難になる。
【0044】
そのため、ジルコニウムにより、実用的な使い勝手と、比較的容易に入手できるコストとの最適なバランスがもたらされる。
【0045】
好ましくは、Zrの含有量は、当該ケイ素系粉末中のSiの含有量の少なくとも0.40重量%、最大で5重量%である。
【0046】
実施形態7
実施形態1~6のいずれか1つに記載の第7の実施形態において、酸素以外の全ての元素を考慮した場合、ケイ素系粉末におけるSiの含有量は少なくとも90重量%である。
【0047】
実施形態8
実施形態1~8のいずれか1つに記載の第8の実施形態において、ケイ素系粉末は、17nm以上172nm以下の平均一次粒径davを有する体積粒径分布を有する。
【0048】
ケイ素系粉末の平均一次粒径davは、遠心光沈降計(CPS)分析、又は顕微鏡分析に基づいて求めることができ、又は粉末の比表面積から、サイズの等しい球状粒子と仮定して、Rouquerol et al in Adsorption by Powders and Porous Solids(1999)の式に従って算出することができる。
【0049】
【0050】
式中、pは粉末の理論密度(2,33g/cm3)を表し、BETはBrunauer-Emmett-Teller(BET法)のN2吸着法で求めた粉末の比表面積(m2/g)を指す。
【0051】
言い換えれば、上記式に基づいて、平均一次粒径davが17nm以上、172nm以下の粒子を有するケイ素系粉末は、BET比表面積が15m2/g以上、150m2/g以下の粉末と同等である。
【0052】
実施形態9
第2の態様において、本発明は、請求項1~8のいずれか一項に記載のケイ素系粉末を調製するための方法であって、
a.ケイ素系粒子を含み、最大で200nmのdvs50値を有する体積粒径分布を有し、0<x<2、好ましくは0<x<1の平均モル組成SiOxの表面層を有する粉末を準備する工程と、
b.金属の群からの1つ以上の元素MのM系粒子を含むM系粉末を準備する工程であって、当該金属が、そのゼロ価の状態からの酸化物の温度Tにおける形成の標準ギブス自由エネルギーを有し、当該標準ギブス自由エネルギーが、ゼロ価のケイ素からのSiO2の同じ温度Tにおける形成の標準ギブス自由エネルギーより低く、温度Tが573K以上1373K以下であり、M系粒子が最大で500nmのdM50値を有する体積粒径分布を有する、工程と、
c.ケイ素系粉末とM系粉末とを混合し、中間混合物を得る工程と、
d.中間混合物を粉砕することにより、ケイ素系粒子とM系粒子との最終混合物を得る工程と、
e.最終混合物を保護雰囲気下、573K以上1373K以下の温度で熱処理し、その後室温まで冷却する工程と、を含む、方法に関する。
【0053】
好ましくは、M系粉末は、主金属元素としてZrを含む。より好ましくは、M系粉末は、不可避的な金属不純物の他に、金属元素としてZrのみを含む。
【0054】
主金属元素とは、M系粉末中に存在する他の金属元素と比較して、過半で存在する、又は含有量が最も多い金属元素を意味する。
【0055】
実施形態10
第3の態様において、本発明は、電池の負極に用いるのに適した複合粉末であって、マトリックス材料と、実施形態1~8のいずれか1つに記載のケイ素系粉末と、を含む複合粒子を含み、当該ケイ素系粉末の粒子が、マトリックス材料に埋め込まれている、複合粉末に関する。
【0056】
好ましくは、マトリックス材料は、炭素様材料に熱分解することができる有機化合物若しくは有機化合物の混合物であり、又はマトリックス材料は、そのような有機化合物若しくは有機化合物の混合物の熱分解生成物である。そのような化合物の例は、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、スクロース、コールタールピッチ、石油ピッチ、リグニン、及び樹脂である。
【0057】
マトリックス材料に埋め込まれているとは、実施形態1~8のいずれか1つに記載のケイ素系粉末の粒子が、マトリックス材料中に、凝集体を形成せずに、又は1pmより小さいサイズの凝集体を形成しているかのいずれかで分散しており、その大部分、好ましくはその全体がマトリックス材料で覆われていることを意味する。したがって、複合粉末において、実施形態1~8のいずれか1つに記載のケイ素系粉末の粒子は、好ましくは、互いに及び/又はマトリックス材料とのみ接触していてもよい。
【0058】
実施形態11
実施形態10に記載の第11の実施形態において、複合粉末は黒鉛粒子も含む。好ましくは、黒鉛粒子は、マトリックス材料に埋め込まれていない。
【0059】
実施形態12
実施形態10又11に記載の第12の実施形態において、複合粉末は、少なくとも5重量%、最大で60重量%である平均ケイ素含有量を有する。
【0060】
複合粉末はまた、好ましくは、最大で5重量%である平均酸素含有量を有する。
【0061】
実施形態13
実施形態10~12のいずれか1つに記載の第13の実施形態において、複合粉末は、5m2/g未満のBET比表面積を有する。
【0062】
BET比表面積が小さいことは、電気化学的に活性な粒子の表面の電解質との接触を減少させ、リチウムを消費する固体電解質中間相(SEI)の形成を制限するために、ひいてはこのような複合粉末を含む電池の容量の不可逆的損失を制限するために重要である。
【0063】
実施形態14
第14の実施形態において、本発明は、最後的に、実施形態1~8のいずれか1つに記載の粉末を、実施形態10~13のいずれか1つに記載の複合粉末の一部として又は一部としてではなくのいずれかで含む、電池に関する。
【発明を実施するための形態】
【0064】
以下の詳細な説明では、本発明の実施を実現するために、好ましい実施形態を詳細に説明している。本発明は、これらの特定の好ましい実施形態を参照して説明されているが、本発明は、これらの好ましい実施形態に限定されないことが理解されよう。しかし、それとは対照的に、本発明は、以下の発明を実施するための形態を考慮すれば明らかになるように、多数の代替物、変形物、及び均等物を含む。
【0065】
使用した分析方法
Si及びZrの含有量の決定
実施例及び比較例における粉末のSi及びZr含有量は、エネルギー20分散型分光器を用いた蛍光X線(XRF)によって測定される。
【0066】
酸素含有量の測定
実施例及び比較例における粉末の酸素含有量は、LECO TC600酸素-窒素分析装置を用い、以下の方法によって測定される。粉末の試料を閉じたスズ製カプセルに入れ、これそのものをニッケル製バスケットに入れる。そのバスケットを黒鉛製るつぼに入れ、キャリアガスとしてのヘリウム下で、2000℃超まで加熱する。これにより試料は溶融し、酸素がるつぼ由来の黒鉛と反応して、COガス又はCO2ガスになる。これらのガスを赤外測定セルに導く。観察されたシグナルを再計算し酸素含有量を得る。
【0067】
比表面積(BET)の測定
比表面積を測定するには、Micromeritics Tristar 3000 BET Surface Area Analyzerを使用し、ブルナウアー-エメット-テラー(Brunauer-Emmett-Teller、BET)法による。最初に、分析対象の粉末2gを120℃のオーブン内で2時間乾燥させた後、N2パージする。次いで、吸着種を除去するために、粉末を120℃にて真空下で1時間脱気した後、測定する。
【0068】
電気化学的性能の測定
実施例及び比較例における粉末の電気化学的性能は、以下の方法で測定される。実施形態1~9に記載の粉末は、ケイ素系粒子を再酸化させないために、空気や酸素との接触を避ける必要があるため、電極及びセルの調製は全て乾燥アルゴン(<3ppmのH2O及び<3ppmのO2)を入れたグローブボックス内で行われる。複合粉末の場合、ケイ素系粒子が保護マトリックスに埋め込まれているため、電極の調製は空気中で行うことができる。
【0069】
試験する粉末は、まず45μmのふるいを使ってふるい分けを行う。その後、カーボンブラック、任意で炭素繊維、及び結合剤と混合する。実施形態1~9に記載のケイ素系粉末の場合、結合剤は、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)中8重量%のポリフッ化ビニリデン(PVDF)の濃度でNMPに溶解されたPVDFである。電極の組成は、粉末50重量部/カーボンブラック25重量部/PVDF25重量部である。
【0070】
複合粉末の場合、結合剤は、2.5重量%の濃度で水に溶解したカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)結合剤である。電極の組成は、複合粉末89重量部/カーボンブラック1重量部/炭素繊維2重量部/CMC8重量部である。
【0071】
いずれの場合も、これらの成分をPulverisette 7遊星ボールミル内で、250rpmで30分間混合する。エタノールで洗浄した銅箔を集電体として使用する。混合成分の厚さ200μmの層を銅箔上でコーティングする。その後、コーティングされた銅箔を70℃の真空中で45分間乾燥させる。コーティングされ、乾燥させた銅箔から1.27cm2の円板を打ち抜き、対電極としてリチウム金属を使用しているコインセルにおいて、電極として使用した。電解質は、EC/DEC 1/1+2%VC +10%FEC溶媒中に溶解させた1MのLi PF6である。
【0072】
全てのコインセルは、高精度電池テスター(Maccor 4000シリーズ)を用いて、以下に示す手順でサイクルを行う。サイクル中、「CC」は「定電流」を表し、「CV」は「定電圧」を表す。
【0073】
● サイクル1
○ 休止6時間
○ C/10で10mVまでCCリチオ化、その後C/100までCVリチオ化
○ 休止5分
○ C/10で1.5VまでCC脱リチオ化
○ 休止5分
● サイクル2以降
○ C/2で10mVまでCCリチオ化、その後C/50までCVリチオ化
○ 休止5分
○ C/2で1.2VまでCC脱リチオ化
○ 休止5分
【0074】
コインセルのクーロン効率(CE)は、所与のサイクルにおける脱リチオ化時の容量の、リチオ化時の容量に対する比率であり、初期サイクル及びその後のサイクルについて計算される。SEI形成の反応がCEに大きな影響を与えるため、クーロン効率の観点からは初期サイクルが最も重要である。典型的には、ケイ素系粉末の場合、初期サイクルでのクーロン効率は80%(又はそれ以下)に低くなる可能性がある。これは、コインセルの不可逆的な容量損失である20%に相当し、非常に大きい。目標は、初期サイクルで少なくとも90%CEに到達することである。このため、電気化学的活物質中に存在する酸素の量を減らすと、有益な効果がある。
【0075】
所望のセル容量に到達するために、電池製造業者は、追加のカソード材料を使用して、アノードに起因する初期サイクルでの不可逆的損失を補う必要があり、これは大きな追加コストとエネルギー密度の低下とに相当する。したがって、CEの初期サイクルで得られるわずかな改善であっても、生産される数百万個のセルを掛け合わせると、大きなものになる。
【0076】
粒径分布の測定
本発明によるケイ素系粉末及び複合粉末に含まれるケイ素系粒子及び/又は非ケイ素系粒子の数基準粒径分布は、ケイ素系粉末(又は複合粉末)の断面の電子顕微鏡分析(SEM又はTEM)と画像解析との組み合わせによって測定される。
【0077】
これを行うために、ケイ素系粒子と非ケイ素系粒子の複数の断面を含むケイ素系粉末(又は複合粉末)の断面を、以下に詳述する手順で作製する。
【0078】
分析対象の粉末500mgを、エポキシ樹脂(20-3430-128)4部とエポキシ硬化剤(20-3432-032)1部との混合物からなる樹脂(Buehler EpoxiCure 2)7gに埋め込む。得られた直径1インチの試料を、少なくとも8時間乾燥させる。次いで、それを、最大5mmの厚さに達するまでStruers Tegramin-30を使用して最初に機械的に研磨し、次いで、6kVで約6時間、イオンビーム研磨(Cross Section Polisher Jeol SM-09010)によって更に研磨して、研磨面を得る。最後に、この研磨面上に、12秒間、Cressington 208カーボンコーターを使用してカーボンスパッタリングすることによって、カーボンコーティングを適用して、SEM(又はTEM)で分析される「断面」とも呼ばれる試料を得る。
【0079】
ケイ素系粒子(又は非ケイ素系粒子)のサイズは、そのケイ素系粒子(又は非ケイ素系粒子)の離散断面の周囲の2点間の最大直線距離に相当すると考えられており、dmaxとも呼ばれる。
【0080】
ケイ素系粒子(又は非ケイ素系粒子)の数基準粒径分布測定を非限定的に説明するために、SEMによる手順を以下に示す。
1.ケイ素系粒子と非ケイ素系粒子を含むケイ素系粉末(又は複合粉末)の断面のSEM画像を複数枚取得する。
2.ケイ素系粒子と非ケイ素系粒子の断面を容易に視覚化するために、画像のコントラストと明るさの設定を調整する。化学組成が異なるため、明るさの違いにより、2種類の粒子を、複合粉末の場合はマトリックスで容易に識別することができる。
3.ケイ素系粒子又は非ケイ素系粒子の別の断面と重ならない、ケイ素系粒子の少なくとも1000個の離散断面及び非ケイ素系粒子の少なくとも100個の離散断面を、適切な画像解析ソフトウェアを使用して、取得したSEM画像の1つ又は複数から選択する。これらのケイ素系粒子又は非ケイ素系粒子の離散断面は、ケイ素系粒子及び非ケイ素系粒子を含む粉末の1つ以上の断面から選択することができる。
4.ケイ素系粒子と非ケイ素系粒子の離散断面のdmax値を、ケイ素系粒子の少なくとも1000個の離散断面の各々と、非ケイ素系粒子の少なくとも100個の離散断面の各々について適切な画像解析ソフトウェアを使用して測定する。
【0081】
次いで、上記の方法で求めたケイ素系粒子の数基準粒径分布のds10、ds50、及びds90の値と、非ケイ素系粒子の数基準粒径分布のdNS10、dNS50、及びdNS90の値とを算出する。これらの数基準粒径分布は、周知の数式により重量基準又は体積基準の粒径分布に容易に変換することができる。
【0082】
あるいは、ケイ素系粉末の体積基準粒径分布は、Centrifugal Photosedimentometer DC20000(CPS Instruments,Inc,USA)を用いた遠心沈降法により測定することができる。
【0083】
機器には、内径4.74cmの中空のポリカーボネートディスクが装備されている。回転速度は、遠心加速力約1.9×105m/s2に相当する20000rpmに設定されている。
【0084】
ディスクは、2-ブトキシエチルアセテート(casrn112-07-2)中16mLの線形密度勾配(10~5%)のハロカーボン1.8(クロロトリフルオロエチレン-PCTFE)で満たされている。
【0085】
沈降定数を計算するための参照材料として、平均直径0.52μm、比重3.515g/cm3のダイヤモンド粒子を使用する。試料調製:
超音波(Bransonソニファイア550W)を用いて、分析対象の粉末のイソプロパノール中10重量%の懸濁液を調製する。懸濁液をブトキシエチルアセテートで希釈し、最終濃度を0.05重量%ケイ素とする。
【0086】
得られた試料0.050mLをディスクに注入し、波長470nmの光の吸光度を時間の関数として記録する。
【0087】
得られた時間-吸光度曲線は、組み込みアルゴリズム(DCCSソフトウェア)により、以下のパラメータを用いて、粒径分布(質量又は体積)に変換される。
● スピン流体密度:2.33g/cm3
● スピン流体屈折率:1.482
● ケイ素密度:2.33g/cm3
● ケイ素屈折率:4.49
● ケイ素吸着係数:17.2K
【0088】
複合粉末の体積基準粒径分布は、レーザー回折Sympatec(Sympatec-Helos/BFS-Magic 1812)により、ユーザーの説明書に従い求められる。測定には以下の設定を使用する。
- Dispergenシステム:Sympatec-Rodos-M
- 分散機:Sympatec-Vibri 1227
- レンズ:R2(0.45~87.5μmの範囲)
- 分散:3バールの加圧空気
- 光学濃度:3~12%
- 開始/停止:2%
- タイムベース:100ms
- 供給率:80%
- 開口:1.0mm
【0089】
供給率及び開口の設定は、光学濃度によって変化し得ることに留意されたい。
【0090】
次いで、上記の方法で求めたケイ素系粉末の体積基準粒径分布のdvs10、dvs50、及びdvs90の値と、複合粉末の体積基準粒径分布のdC10、dC50、及びdC90の値とを算出する。
【0091】
1つ以上の元素Mを含む粒子の分析
1つ以上の元素Mを含む粒子の局在化を、Si、O、C、M元素のマッピングによるSEM-EDS(エネルギー分散型X線分光法)顕微鏡分析に基づいて行う。
【0092】
断面を前述の手順に従い作成し、次いで、Bruker製のEDS検出器Xflash 5030-127(30mm2、127eV)を備えたJEOL製のFEG-SEM JSM-7600Fを用いて分析するし。この検出器からのシグナルを、BrukerのQuantax 800 EDSシステムで処理する。
【0093】
15kVの電圧を数ミリメートルの作動距離で印加することにより、拡大画像を生成する。光学顕微鏡の画像に値をつける場合、後方散乱電子の画像を報告する。
【0094】
元素M又はSiに酸素が結合しているかどうかを判断するために、単色化したAl Kaを集光したPHI Quantera SXM分光器を用いて、元素M又はSiの酸化状態をX線光電子分光法(XPS)分析により判断する。使用する取り出し角度は45°、分析深度は10nm未満、スポット径は200pmである。感度限界は0.1%~0.5%原子である。データ処理にはMultiPakソフトウェアを使用する。
【0095】
また、XPS分析により、平均モル組成、すなわち、SiOx及びSiOx’表面層それぞれにおけるx、x’の平均値、並びにMOy及びMOy’表面層それぞれにおけるy、y’の平均値を求め、それら表面層の厚さを推定することができる。
【0096】
あるいは、TEM-EELS(電子エネルギー損失分光法)装置又は核磁気共鳴法(NMR)装置を同様の目的で使用することができる。
【0097】
比較例及び実施例の実験的調製
本発明による実施例1(E1)
実施例1のケイ素系粉末を生成するには、最初に、プラズマガスとしてアルゴンを使用して60kW高周波(RF)誘導結合プラズマ(ICP)を適用することによって、ケイ素粉末を得て、それに対して、マイクロメートルサイズのケイ素粉末前駆体を約50g/時の速度で注入し、2000Kを超える行きわたった(すなわち、反応ゾーンにおける)温度を得る。この第1のプロセス工程において、前駆体は、完全に気化する。第2のプロセス工程において、気体の温度を1600K未満まで下げるために、18Nm3/時のアルゴン流を、反応ゾーンのすぐ下流でクエンチガスとして使用し、核生成させて金属性でサブミクロンのケイ素粉末とする。最後に、1モル%の酸素を含有するN2/O2混合物を100L/時で添加することによって、100℃の温度で5分間、不動態化工程を行う。
【0098】
得られたケイ素粉末の比表面積(BET)を測定したところ、83m2/gであった。得られたケイ素粉末の酸素含有量を測定したところ、8.7重量%であった。ケイ素粉末の粒径分布は、dVS10=63nm、dVS50=113nm、dVS90=205nm、及びdavS=119nmと測定された。
【0099】
次に、このケイ素粉末を、酸素汚染を避けるためにグローブボックス(乾燥Ar雰囲気、<3ppmのH2O及び<3ppmのO2)内で、Fritsch Pulverisette 7遊星ボールミル内で、回転速度600rpm、ジャーに適合したサイズのステンレス鋼ボール、20:1のボール対粉末質量比(BPR)、240分の粉砕時間でジルコニウム粉末(American Elements、平均粒径50nm~100nm)と混合する。ジルコニウム粉末の重量は、ケイ素粉末の重量の0.0913%であるので、Zrの重量による含有量は、得られた混合物中に存在するSiの含有量の0.1重量%である。
【0100】
得られた混合粉末を、グローブボックスに入れたオーブン(乾燥Ar雰囲気、<3ppmのH2O及び<3ppmのO2)内で、773Kで2時間更に熱処理し、その後、室温まで冷却する。
【0101】
SEM分析に基づくと、ケイ素粒子及びジルコニウム粒子の平均サイズは、プロセス中に大きく改変されていない。つまり、dVS10、dVS50、dVS90、davS値と、dS10、dS50、dS90、dav値はそれぞれ等しいと考えることができる。同様に、dM10、dM50、dM90値と、dNS10、dNS50、dNS90値もそれぞれ等しいと考えることができる。
【0102】
混合物の酸素含有量は8.7重量%と測定されており、これは、酸素の追加取り込みが発生していないことを意味する。混合物の比表面積(BET)は83m2/gと測定されており、これは、Siに対するZrの0.1%の含有量がBET値を変化させないことを意味する。
【0103】
得られたケイ素系粉末のXPS分析に基づいて、深さ10nmまでのジルコニウム粒子の表面は完全に酸化されており、これは、ジルコニウムが酸化状態+IVであることを意味する。また、得られた粉末の断面のSEM-EDS分析により、ジルコニウム粒子のコアに酸素が存在することが確認される。なお、XPS分析に基づくと、得られたケイ素系粉末のケイ素粒子のSiOx表面層における平均x値は、プラズマによる生成後、ジルコニウム粒子と混合する前のケイ素粒子のSiOx’表面層における平均x’値よりも低い。
【0104】
本発明による実施例2~5(E2~E5)
実施例2~5のケイ素系粉末を生成するために、混合工程中に異なる量のジルコニウム粉末を使用することを除いて、実施例1と同じ手順を使用する。これらの量は、実施例2では0.4重量%、実施例3では1.0重量%、実施例4では2.0重量%、実施例5では5.0重量%であり、これらの量は、最終ケイ素系粉末中に存在するSi量と比較してパーセンテージとして表される。
【0105】
本発明によらない比較例1(CE1)
比較例1のケイ素系粉末を生成するために、ジルコニウム粉末を添加しないことを除いて、実施例1と同じ手順を使用する。実施例と比較例の間の比較可能性を最大にするため、やはり、773Kでの前述の加熱工程がこの手順で実行される。
【0106】
得られたケイ素系粉末(E2~E5及びCE1)の酸素含有量を測定したところ、8.7重量%である。得られたケイ素系粉末(E2~E5及びCE1)の比表面積(BET)値は、いずれも82~85m2/gの範囲である。
【0107】
粉末の電気化学的試験
生成された粉末を、上記指定の手順に従い、コインセルで試験する。以下の結果が得られる。
【0108】
【0109】
本発明によるケイ素系粉末(E1~E5)をアノード材料として用いたコインセルでは、Zrの添加量とともに初期クーロン効率(CE)の増加があることが分かる。
【0110】
これは、一部は混合により、一部はその後の加熱により、ケイ素粒子の表面に存在する酸素の一部が、存在するジルコニウム粒子に移行するという事実によって説明される。これにより、アノードの初期リチオ化時に酸化リチウムに変換されるリチウムの量を減らし、これによって初期不可逆容量損失を低減し、セルの初期クーロン効率(CE)を増加させる。
【0111】
本発明による実施例6(E6)
実施例6の複合粉末を生成するために、グローブボックス内で、実施例4のケイ素系粉末(E4)26gと、石油系ピッチ粉末32gとのブレンドを作製する。
【0112】
このブレンドをN2下、450℃まで加熱し、その結果、ピッチが溶融し、60分間の待ち時間の後、高剪断下で、1000rpmで動作するCowles溶解機型混合機で30分間混合した。
【0113】
このようにして得られたピッチ中のケイ素系粉末E4の混合物を、N2下で室温まで冷却し、固化してから、粉砕し、400メッシュのふるいでふるい分けし、中間複合粉末を生成する。
【0114】
次に、中間複合粉末16gを、黒鉛24.6gとローラーベンチで3時間混合した後、得られた混合物をミルに通して解凝集させる。これらの条件では良好な混合が得られるが、黒鉛はピッチ中には埋め込まれない。
【0115】
得られたE4の粉末とピッチと黒鉛との混合物に、以下のように熱後処理を施す:すなわち、生成物を管状炉内の石英るつぼに入れ、3℃/分の加熱速度で1000℃に加熱し、その温度で2時間保持し、次いで冷却する。これらは全てアルゴン雰囲気下で行われる。
【0116】
焼成された生成物は、最後に乳鉢で手粉砕され、325メッシュのふるいでふるいにかけられて、最終的な複合粉末が形成される。
【0117】
この複合粉末の総Si含有量は、XRFにより20.3重量%と測定され、実験誤差は±0.3重量%である。これは、加熱時のピッチの重量損失約40重量%及び他の成分の加熱時のわずかな重量損失に基づいて計算された値に対応している。この複合粉末の酸素含有量は2.0重量%と測定された。この複合材料のZr含有量は0.41重量%と測定されており、これは、Zr/Si比2.0%が変化していないことを意味する。得られた複合粉末の比表面積(BET)を測定したところ、3.6m2/gであった。
【0118】
本発明によらない比較例2(CE2)
比較例2の複合粉末を生成するために、実施例4の粉末(E4)の代わりに比較例1の粉末(CE1)を使用したことを除いて、実施例6と同じ手順を使用する。この複合粉末の酸素含有量を測定したところ、2.0重量%であり、BET値は3.5m2/gと測定された。
【0119】
複合粉末の電気化学的試験
生成された複合粉末は、上記の手順に従ってコインセルで試験される。以下の結果が得られた。
【0120】
【0121】
本発明による複合粉末をアノード材料として用いたコインセルの初期クーロン効率(CE)は、本発明によるものではない複合粉末を用いたコインセルの初期クーロン効率より大幅に高いことが分かる。言い換えれば、本発明によるケイ素系粉末について観察された利点は、ケイ素系粉末を複合構造に組み込んだ場合にも維持される。
【手続補正書】
【提出日】2022-08-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池の負極に使用するのに適したケイ素系粉末であって、ケイ素系粒子及び非ケイ素系粒子を含み、前記ケイ素系粒子が最大で200nmのd
S50値を有する数基準粒径分布を有し、前記ケイ素系粉末が最大で20重量%の酸素含有量を有し、前記ケイ素系粉末が、金属の群からの1つ以上の元素Mを含み、前記金属が、そのゼロ価の状態からの酸化物の温度Tにおける形成の標準ギブス自由エネルギーを有し、前記標準ギブス自由エネルギーが、ゼロ価のケイ素からのSiO
2の同じ前記温度Tにおける形成の前記標準ギブス自由エネルギーより低く、前記温度Tが573K以上1373K以下であり、前記ケイ素系粉末中の前記1つ以上の元素Mの含有量が、前記ケイ素系粉末中
のSiの重量による含有量の少なくとも0.10%であり、かつ前記ケイ素系粉末中のSiの重量による含有量の最大で5.0%であり、前記1つ以上の元素Mが、前記非ケイ素系粒子中に存在する、ケイ素系粉末。
【請求項2】
前記ケイ素系粒子が、0≦x<1の平均モル組成SiO
xの表面層を有する、請求項1に記載のケイ素系粉末。
【請求項3】
酸素を除く全ての元素を考慮した場合、前記非ケイ素系粒子における前記1つ以上の元素Mの含有量は、少なくとも60重量%である、請求項1又は2に記載のケイ素系粉末。
【請求項4】
前記非ケイ素系粒子が、最大で500nmのd
NS50値を有する数基準粒径分布を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のケイ素系粉末。
【請求項5】
前記ケイ素系粉末における前記1つ以上の元素Mの含有量が、前記ケイ素系粉末におけるSiの含有量の少なくとも0.40重量
%である、請求項1~4のいずれか一項に記載のケイ素系粉末。
【請求項6】
前記1つ以上の元素Mの群がZrを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のケイ素系粉末。
【請求項7】
酸素を除く全ての元素を考慮した場合、Si含有量が少なくとも90重量%である、請求項1~6のいずれか一項に記載のケイ素系粉末。
【請求項8】
17nm以上172nm以下の平均一次粒径d
avを有する体積粒径分布を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載のケイ素系粉末。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載のケイ素系粉末を調製するための方法であって、
a.ケイ素系粒子を含み、最大で200nmのd
vs50値を有する体積粒径分布を有し、0<x<2、好ましくは0<x<1の平均モル組成SiO
xの表面層を有する粉末を準備する工程と、
b.金属の群からの1つ以上の元素MのM系粒子を含むM系粉末を準備する工程であって、前記金属が、そのゼロ価の状態からの酸化物の温度Tにおける形成の標準ギブス自由エネルギーを有し、前記標準ギブス自由エネルギーが、ゼロ価のケイ素からのSiO
2の同じ前記温度Tにおける形成の前記標準ギブス自由エネルギーより低く、前記温度Tが573K以上1373K以下であり、前記M系粒子が最大で500nmのd
M50値を有する体積粒径分布を有する、工程と、
c.前記ケイ素系粉末と前記M系粉末とを混合し、中間混合物を得る工程と、
d.前記中間混合物を粉砕することにより、ケイ素系粒子とM系粒子との最終混合物を得る工程と、
e.前記最終混合物を保護雰囲気下、573K以上1373K以下の温度で熱処理し、その後室温まで冷却する工程と、を含む、方法。
【請求項10】
電池の負極に用いるのに適した複合粉末であって、マトリックス材料と、請求項1~8のいずれか一項に記載のケイ素系粉末と、を含む複合粒子を含み、前記ケイ素系粉末の粒子が、前記マトリックス材料に埋め込まれている、複合粉末。
【請求項11】
前記複合粉末が黒鉛粒子も含む、請求項10に記載の複合粉末。
【請求項12】
平均ケイ素含有量が少なくとも5重量%及び最大で60重量%である、請求項10又は11に記載の複合粉末。
【請求項13】
BET比表面積が5m
2/g以下である、請求項10~12のいずれか一項に記載の複合粉末。
【請求項14】
請求項1~8のいずれか一項に記載のケイ素系粉末を、請求項10~13のいずれか一項に記載の複合粉末の一部として又は一部としてではなくのいずれかで含む、電池。
【国際調査報告】