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特表2023-517651n型ドープされたゲルマニウム単結晶及びそれより得られるウェハ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-26
(54)【発明の名称】n型ドープされたゲルマニウム単結晶及びそれより得られるウェハ
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/08 20060101AFI20230419BHJP
   C30B 15/00 20060101ALI20230419BHJP
   C30B 33/00 20060101ALI20230419BHJP
【FI】
C30B29/08
C30B15/00 Z
C30B33/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022554691
(86)(22)【出願日】2021-03-12
(85)【翻訳文提出日】2022-11-09
(86)【国際出願番号】 EP2021056395
(87)【国際公開番号】W WO2021123461
(87)【国際公開日】2021-06-24
(31)【優先権主張番号】20162639.7
(32)【優先日】2020-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2020/086017
(32)【優先日】2020-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501094270
【氏名又は名称】ユミコア
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ヨハネス・ファンペメル
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ・デッセン
(72)【発明者】
【氏名】ベン・デプイト
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077AB01
4G077AB09
4G077BA05
4G077CF10
4G077EB01
4G077FG11
4G077HA02
4G077HA12
(57)【要約】
本発明は、リンが単一のドーパントであることを特徴とする、10mOhm.cm未満の抵抗率を有するn型ドープされた単結晶無配位Geに関する。そのような結晶は、GePをドーパントとして用いるCzochralski引き上げ法の使用により得ることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンが単一のドーパントであることを特徴とする、10mOhm.cm未満の抵抗率を有するN型ドープされた無配位Ge単結晶。
【請求項2】
前記ドーパントが5×1017/cmから2.5×1019/cmの量で含まれる、請求項1に記載のN型ドープされた無配位Ge単結晶。
【請求項3】
2.0から6.0mOhm.cmの抵抗率を有する、請求項1又は2に記載のN型ドープされた、無配位Ge単結晶。
【請求項4】
円筒状であり、1cmから50cmの直径を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載のN型ドープされた無配位Ge単結晶。
【請求項5】
円筒状であり、1cmから300cmの長さを有する、請求項1から4のいずれか一項に記載のN型ドープされた無配位Ge単結晶。
【請求項6】
インゴットの形態である、請求項1から5のいずれか一項に記載のN型ドープされた無配位Ge単結晶。
【請求項7】
リンが単一のドーパントであることを特徴とする、10mOhm.cm未満の抵抗率を有するN型ドープされた無配位Ge単結晶を含むウェハ。
【請求項8】
前記Ge単結晶が2.0から6.0mOhm.cmの抵抗率を有する、請求項7に記載のウェハ。
【請求項9】
25から1000μmの厚さを有する、請求項7又は8に記載のウェハ。
【請求項10】
請求項1から6のいずれか一項に記載のN型ドープされた無配位Ge単結晶を製造する方法であって、
- Czochralski引き上げ炉を準備する工程、
- ゲルマニウム及びリンを少なくとも1×1018/cmのドーパントレベルが得られるような相対量で炉の中に投入する工程、及び
- 結晶を引き上げる工程
を含む方法。
【請求項11】
リンがGePの形態で前記炉の中に投入される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
- 結晶をウェハに切断する工程、
- ウェハを粗粒で研削する工程、
- ウェハの化学的機械研磨を実施する工程、
- ウェハの表面を清浄化する工程
を追加で含む、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
請求項1から3のいずれか一項に記載のN型ドープされたGe単結晶を含む電子デバイス又は光電子デバイス。
【請求項14】
請求項1から3のいずれか一項に記載のN型ドープされたGe単結晶を含む垂直共振器型面発光レーザー又は赤外プラズモンセンサー。
【請求項15】
垂直共振器型面発光レーザー又は赤外プラズモンセンサー用の、請求項1から3のいずれか一項に記載の単結晶無配位Geの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リンによりn型ドープされた、10mOhm.cm未満の抵抗率を有する無転位の単結晶Geを製造する方法に関する。また、直径の大きなバルク結晶の形態であるn型ドープされた材料、並びにこれらの結晶から得られるウェハにも関する。
【背景技術】
【0002】
電子デバイス及び光電子デバイスメーカーは、薄切りして研磨した際にマイクロ電子デバイス製造用基材を提供する、工業成長させた大きくかつ均一なゲルマニウム単一半導体結晶を求めている。n型Geウェハの市場は、主に垂直共振器型面発光レーザー(VCSEL)又は中赤外プラズモンセンサー等の光電子デバイスが対象である。VCSELは、上面から垂直のレーザービーム発光を伴う半導体レーザーダイオードの一種である。VCSELは、コンピューターマウス、光ファイバー通信、レーザープリンター、顔認証、及びスマートグラスを含む様々なレーザー製品の中で使用されている。プラズモンセンサーは、自由電子の集団振動に基づいており、分子の検出等、様々な用途に適している。
【0003】
これらの高度にドープされたウェハの中で達成される高い電子密度はゲルマニウム膜でのプラズモン効果を可能とするため、これらの用途にはn型ドープ及び低抵抗率が望ましい。しかし、転位はしばしばそれらの性能を劣化させる。
【0004】
他方、p型ドープされたゲルマニウムウェハは、大きなプラズモン損失が生じるため、赤外プラズモンには適していない。Frigerio et al., Physical Review B 94, 085202, 2016。
【0005】
低抵抗率の無転位半導体ウェハは、米国特許第7,341,787号に記載されている。2mOhm.cm未満のように非常に低い抵抗率が想定されている。この目標を達成するためには、元素の周期律の同族に属する、少なくとも2つの電気的に活性なドーパントが同時に投入される。これは、一定の濃度を超えると、半導体材料内に取り込まれるいくつかのドーパント原子が電気的に不活性となり得るとの問題を避けるためと言われている。本文献は、Si、Ge、及びSi-Ge合金に言及しているが、明らかにSiのドーピングのみに関する。Geに関する詳細は開示されておらず、特に、使用されたドーパントの供給源も開示されていない。
【0006】
Spitzer et al., J., Appl. Phys. 32, 1822, 1961には、Sb、As、及びPで高濃度にドープされたGe単結晶の調製が記載されている。2mOhm.cmよりはるかに低い抵抗率が報告されている。本内容では、リンでドープされたサンプルは全て、オルトリン酸カルシウムを源とする単一の結晶を引き上げることで得られるものである。しかし、下記比較例で示されているように、ドーパントとしてのオルトリン酸カルシウムの使用は、無転位の結晶の取得を必然的に排除することになる。
【0007】
米国特許第8,574,363号は、ケイ素ベースの半導体結晶における高いドーピング濃度が、例えば、リンを含むいわゆるドーパントチャンバーを使用することでも得られることを教示している。チャンバーは溶融物に極めて近接するように配置される。温度をリンの融点まで上昇させた際、リンは気体として放出され、その一部が溶融物中に取り込まれるが、他は外界へ逃れる。したがって、気相操作は、さらなる注意と、溶融物へのリンの放出量を予測する計算を要する。リン及びゲルマニウムでケイ素をドーピングする場合について、米国特許第8,574,363号は、1つは蒸発によって供給されるリン用、もう1つは液化によって供給されるゲルマニウム用の2つの別々のチャンバーの使用を更に教示している。米国特許第7,132,091号は、カバーを溶融物中に下ろす際に部分的に溶解するドーパントチャンバーを使用することを示唆している。そのようなチャンバーの利用は、望まない汚染物を溶融物中に導入しかねない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第7,341,787号
【特許文献2】米国特許第8,574,363号
【特許文献3】米国特許第7,132,091号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Frigerio et al., Physical Review B 94, 085202, 2016
【非特許文献2】Spitzer et al., J., Appl. Phys. 32, 1822, 1961
【非特許文献3】“Bulk Crystal Growth of Electronic, Optical and Optoelectronic Materials” P.Clapper, Ed., John Wiley and Sons Ltd, Chichester, England, 2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
この目的のため、本発明は、ドープされたn型ゲルマニウム単結晶及びそれより得られるウェハを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第一の態様において、本発明は、リンが単一のドーパントである、n型ドープされたGe単結晶を提供する。これはプロセスを簡略化し、より良好なプロセス制御だけでなく、形成された結晶インゴットの抵抗率のより正確な予測を可能とする。高度なn型ドーピングと、ウェハが無転位であることとの組み合わせは、前述の光電子デバイスの挙動を高める可能性を開く。
【0012】
第二の態様では、本発明は、発明の第一の態様によるn型ドープされたGe単結晶を含むウェハを提供する。より具体的には、上記n型ドープされた単結晶Geウェハは単一のドーパントとしてリンを含む。そのような単結晶は無転位であり、好ましくは10mOhm.cm未満の抵抗率を有する。
【0013】
第三の態様では、本発明は、発明の第一の態様によるn型ドープされたGe単結晶を製造する方法であって、
- Czochralski引き上げ炉を準備する工程、
- ゲルマニウム及びリンを少なくとも1×1018/cm3のドーパントレベルが得られるような相対量で炉の中に投入する工程、及び
- 結晶を引き上げる工程
を含む方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
特に定義しない限り、発明の開示において使用される全ての文言は、技術用語や科学用語を含め、本発明の属する技術分野における当業者により通常理解される意味を有する。さらなる指示により、用語の定義は本発明の教示内容をより深く理解するために含まれる。
【0015】
本開示で使用されるように、下記文言は下記意味を有する:
【0016】
本開示で使用される「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その(the)」は、本内容で特に明確な指定がない限り、単数及び複数の両方の対象物を意味する。例えば、「1つの区分(a compartment)」は1つ又は1つを超える区分を意味する。
【0017】
本開示において使用される、例えば、パラメーター、量、一時的な期間等の測定可能な値を参照する「約(About)」は、+/-20%以下、好ましくは+/-10%以下、より好ましくは+/-5%以下、更に好ましくは+/-1%以下、更により好ましくは+/-0.1%以下の、及びその特定の数値からの偏差を、そのような偏差が開示された発明において実施するために適切である限りにおいて包含することを意味している。しかし、値を変更させる「約(about)」の参照する値は、それ自体も明示的に開示されていると理解される。
【0018】
本開示で使用される「含む(comprise)」、「含む(comprising)」及び「含む(comprises)」及び「含む(comprised of)」は、「含む(include)」、「含む(including)」、「含む(includes)」又は「含む(contain)」、「含む(containing)」、「含む(contains)」と同義であり、下記、例えば成分の存在を特定する包括的又はオープンエンドの文言であるが、技術的に知られている、若しくはそこに開示されている、付加的な、不特定の成分、特徴、元素、要素、工程の存在を排除、又は除外するものではない。
【0019】
端点による数値範囲の特定は、その範囲内に組み込まれる全ての数及び分数、並びに特定された端点を含む。全ての百分率は、特に定義されていない限り、又は、その使用から、及びそれが使用される本内容中において、当業者にとって別の意味が明らかである場合を除き、「wt.%」と略される質量パーセントとして理解される。
【0020】
本発明による半導体結晶の成長は、結晶原料溶融物を作製するためにその融点まで原料を加熱し、溶融物を高質種結晶と接触させ、種結晶との接触時に溶融物を結晶化させることを要する。これを達成するための多様なプロセスが知られている。これらはCzochralski(Cz)プロセス及びそれに類する液体カプセルCzochralski(LEC)プロセス、水平Bridgmanプロセス及びBridgman-Stockbargerプロセス(HB)及びそれらの垂直バリアント(VB)、並びに勾配凍結(GF)及びそれに類する垂直勾配凍結(VGF)プロセスを含む。そのような技術は“Bulk Crystal Growth of Electronic, Optical and Optoelectronic Materials” P.Clapper, Ed., John Wiley and Sons Ltd, Chichester, England, 2005に記載されている。
【0021】
溶融物の結晶化は、結晶原料の下部の種結晶が縦軸に沿って、インゴットと呼ばれるような原則的に円筒状の結晶を形成する。半導体結晶を形成するのに必要な装置は、結晶成長炉、るつぼ、及び、場合によってはるつぼ支持体を含む。
【0022】
第一の態様において、本発明は、リンが単一のドーパントである、n型ドープされたGe単結晶を提供する。これはプロセスを簡略化し、より良好なプロセス制御だけでなく、形成された結晶インゴットの抵抗率のより正確な予測を可能とする。高度なn型ドーピングと、ウェハが無転位であることとの組み合わせは、前述の光電子デバイスの挙動を高める可能性を開く。
【0023】
好ましくは、上記Ge単結晶は実質的に無転位である。本発明の内容において、“実質的に無転位”との文言は、1cmあたりの転位数が0.025未満であり、好ましくは1cmあたりの転位数が0.005未満であり、より好ましくは1cmあたりの転位数が0.001未満であるとして解釈される。最も好ましくは、上記Ge単結晶が転位を有さず、したがって無転位である。Czochralski法により成長した結晶において生じる転位は、エッチング及び/又は銅デコレーション法により測定することができる。転位の原因としては、表面損傷からの熱衝撃又はシード中の残留転位、シードでのエピタキシー不良、結晶のバルクにおけるプラスチック生成、不純物の偏析効果が挙げられる。当業者は、例えばDashネッキングにより、残留転位をなくし、またそこから無転位の結晶を成長させることが可能であることを当然に理解できる。好ましい実施形態では、発明によるGe単結晶は、結晶成長炉が転位又は線状物を有さない結晶インゴットを生産する手順において生産される。好ましくは、上記インゴットは垂直成長プロセスにより成長したものである。
【0024】
好ましい実施形態では、本発明は、上記ドーパントが、少なくとも5×1017/cmの量で、好ましくは5×1017/cmから2.5×1019/cmの量で、より好ましくは1×1018/cmから2.5×1019/cmの量で、更に好ましくは1×1018/cmから6×1018/cmの量で、又はそれらの間の任意の値で含まれる、n型ドープされたGe単結晶を提供する。
【0025】
好ましい実施形態では、本発明は、10mOhm.cm未満、好ましくは1mOhm.cmから10mOhm.cmの間、より好ましくは1mOhm.cmから7mOhm.cmの間の抵抗率を有する、n型ドープされたGe単結晶を提供する。最も好ましくは、上記抵抗率は、2mOhm.cmから6mOhm.cmの間、例えば2.0mOhm.cm、3.0mOhm.cm、4.0mOhm.cm、5.0mOhm.cm、6.0mOhm.cm、又はそれらの間の任意の値である。
【0026】
好ましい実施形態では、本発明は、実質的に円筒状であり、1cmから50cmの直径、より好ましくは5cmから35cmの直径を有する、n型ドープされたGe単結晶を提供する。最も好ましくは、上記直径は、約100mm若しくは4インチ、約150mm若しくは6インチ、約200mm若しくは8インチ、又は約300mm若しくは12インチ、又はそれらの間の任意の直径である。好ましくは、上記Ge単結晶は、インゴットの形態であり、より好ましくはCzochralski成長結晶インゴットの形態である。
【0027】
好ましい実施形態では、本発明は、実質的に円筒状であり、1cmから300cmの長さ、好ましくは5cmから200cmの長さ、より好ましくは10cmから150cm、例えば30cm、45cm、60cm、75cm、90cm、105cm、120cm、又は135cmの長さ、又はそれらの間の任意の長さを有する、n型ドープされたGe単結晶を提供する。
【0028】
第二の態様では、本発明は、好ましくは発明の第一の態様によるn型ドープされたGe単結晶を含むウェハを提供する。より具体的には、上記n型ドープされた単結晶Geウェハは単一のドーパントとしてリンを含む。そのような単結晶は無転位であり、好ましくは10mOhm.cm未満の抵抗率を有する。好ましくは、上記抵抗率は1mOhm.cmから10mOhm.cmの間であり、より好ましくは1mOhm.cmから7mOhm.cmの間である。最も好ましくは、上記抵抗率は、2mOhm.cmから6mOhm.cmの間であり、例えば2.0mOhm.cm、3.0mOhm.cm、4.0mOhm.cm、5.0mOhm.cm、6.0mOhm.cm、又はそれらの間の任意の値である。
【0029】
好ましい実施形態では、本発明は、上記ウェハが単結晶インゴット、好ましくはCzochralski成長単結晶から切り出すことにより得られるものであり、上記インゴットが1cmから50cmの直径、より好ましくは5cmから35cmの直径を有する、発明の第二の態様によるウェハを提供する。最も好ましくは、上記直径は、約100mm若しくは4インチ、約150mm若しくは6インチ、約200mm若しくは8インチ、又は約300mm若しくは12インチ、又はそれらの間の任意の直径である。上記インゴットは、1cmから300cmの長さを有してもよい。
【0030】
好ましい実施形態では、本発明は、25から1000μmの厚さを有する、発明の第二の態様によるウェハを提供する。より好ましくは、上記ウェハは100μmから750μmの厚さを有し、また、更に好ましくは、上記ウェハは、約140μm、180μm、220μm、260μm、300μm、450μm、650μmの厚さ又はそれらの間の任意の厚さを有する。
【0031】
第三の態様では、本発明は、発明の第一の態様によるn型ドープされたGe単結晶を製造する方法であって、
- Czochralski引き上げ炉を準備する工程、
- ゲルマニウム及びリンを少なくとも1×1018/cmのドーパントレベルが得られるような相対量で炉の中に投入する工程、及び
- 結晶を引き上げる工程
を含む方法を提供する。
【0032】
好ましい実施形態では、本発明は、リンがGePの形態で上記炉内に供給される、発明の第三の態様による方法を提供する。
【0033】
好ましい実施形態では、本発明は、
- 結晶をウェハに切断する工程、
- ウェハを粗粒で研削する工程、
- ウェハの化学的機械研磨を実施する工程、
- ウェハの表面を清浄化する工程
を追加で含む、発明の第三の態様による方法を提供する。
【0034】
さらなる態様では、本発明は、発明の第一の態様によるn型ドープされたGe単結晶を含む電子デバイス又は光電子デバイス、又は発明の第二の態様によるウェハを提供する。発明の第一の態様による単結晶無転位Ge。
【0035】
さらなる態様では、本発明は、垂直共振器型面発光レーザー又は赤外プラズモンセンサーにおける使用のため、直接、又は適した寸法に切り出した後のいずれかである発明の第一の態様によるn型ドープされたGe単結晶を含む垂直共振器型面発光レーザー又は赤外プラズモンセンサー、又は、垂直共振器型面発光レーザー又は赤外プラズモンセンサーにおける使用のため、直接、又は適した寸法に切り出した後のいずれかである、発明の第二の態様によるウェハを提供する。
【0036】
さらなる態様では、本発明は、垂直共振器型面発光レーザー又は赤外プラズモンセンサーのための、発明の第一の態様による単結晶無転位Geの使用を提供する。
【0037】
言い換えると、本発明は、リンが単一のドーパントであることを特徴とする、n型ドープされた、10mOhm.cm未満の抵抗率を有する単結晶無転位Geの調製及び提供を目的とする。これはプロセスを簡略化し、より良好なプロセス制御だけでなく、形成された結晶インゴットの抵抗率のより正確な予測を可能とする。高度なn型ドーピングと、ウェハが無転位であることとの組み合わせは、前述の光電子デバイスの挙動を高める可能性を開く。
【0038】
任意の前記実施形態によるもう1つの実施形態は、リンをGePの形態で供給することにより得られる上記無転位の単結晶Geに関する。これはリンでドープされた、単結晶でありかつ無転位の生成物が得られることを保証する。ドーパント源としてのGePの使用は、例えば赤リン又は白リンよりも強く好まれるが、理由としては、後者の2つを扱う際の安全性への配慮の必要性が挙げられる。更に、GePは高純度で(99.999%)利用でき、溶融物への望まない不純物の付加を最小にする。
【0039】
任意の前記実施形態によるもう1つの実施形態は、Czochralski成長結晶インゴットの形態である無転位の単結晶Geに関する。
【0040】
任意の前記実施形態によるもう1つの実施形態は、Czochralski成長結晶インゴットから得られるウェハの形態である無転位の単結晶Geに関する。そのようなウェハは、好ましくは、140から1000μmの厚さを有し、5から35cmの直径を有してもよい。
【0041】
任意の前記実施形態によるもう1つの実施形態は、垂直共振器型面発光レーザー又は赤外プラズモンセンサーのための無転位の単結晶Geの使用に関する。
【0042】
この目標を達成するために、
- Czochralski引き上げ炉を準備する工程、
- Ge及びGePを少なくとも1×1018/cmのドーパントレベルが結晶中で得られるような相対量で炉の中に投入する工程、及び
- 結晶を引き上げる工程
を含む方法が開発された。
【0043】
任意の追加工程は、
- ワイヤーソーにより結晶をウェハに切断する工程、
- ウェハを粗粒で研削する工程、
- 化学的機械研磨を実施する工程、
- ウェハ表面を清浄化する工程
である。
【0044】
この方法を下記実施例において説明する。下記実施例は、本発明を更に明確にすることを意図しており、本発明の範囲を限定することを意図していない。
【0045】
[実施例]
100kg荷重の高純度ゲルマニウムを黒鉛るつぼのCzochralski炉内に導入し、そこにドーパントとして62.3gのGePを添加する。
【0046】
このドーパント量は、結晶中のドーパントレベルに対応し、1から6×1018/cmの間の範囲であるが、これは約2から6mOhm.cmの抵抗率のばらつきに対応している。ばらつきは、結晶成長中における固体界面での不純物の偏析という公知の事実に基づくものである。結果として、リンの濃度は結晶のテールに向かって上昇し、そこで抵抗率の低下が起こる。
【0047】
まずゲルマニウムを溶融させるため、炉を窒素環境中で1000℃に加熱する。725℃付近で、リン化ゲルマニウムが固体Ge及び液体リンに解離する。1000℃で、ゲルマニウムも溶融し、リンが溶融物中に取り込まれる。ゲルマニウムが完全に溶融したら、炉の温度を950℃に低下させる。6時間後、温度が安定化し、その直後に、炉のシャフトを通してゲルマニウム種結晶を溶融浴に接触するまで下ろす。「Dashネッキング」と呼ばれる手順は、当業者に公知であるが、成長を開始するために、その後実行される。より具体的には、直径が5mmの薄い結晶を長さ150mmに成長させる。結晶を、その直径を150mmまで増加させるため、その後、10mm/hに制御した速度でゆっくり引き上げる。結晶の直径はその後、ヒーター温度及び/又は引き上げ速度を制御することで安定化する。このフェーズは一般に、体成長と呼ばれる。引き上げ速度は、約10mm/hに達する。
【0048】
体成長の終点では徐々にその直径を低減することで結晶上にテールが形成され、その直後に結晶が溶融物から分離される。この手順は、転位を避けるための補助として、熱衝撃を最小にするのに有用である。結晶を炉のシャフト内に引き上げ、50℃より下に28時間かけて徐冷する。そして、炉から抜き取る。
【0049】
結晶を、結晶軸に垂直方向に切断して円筒状の片とし、4点プローブを用いて、抵抗率を結晶の長さに沿って6つの異なる位置で測定する。結果をTable 1(表1)に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
ゲルマニウム溶融物をGePでドープすると、抵抗率が2から6mOhm.cmの間の範囲である低抵抗率のn型ゲルマニウム結晶が効率的に得られることが示されている。この抵抗率のばらつきは、意図する用途では完全に許容される。理論計算は、ほぼ全てのリン原子である、これらの量のドーパントの添加量が、ゲルマニウム格子内で電気的に活性であることを更に示唆している。
【0052】
そして、無転位の結晶が得られることを確認する。これは転位表出剤で結晶のテールから取り出される断面片をエッチングすることにより行う。この場合、結晶片をエッチングするために75gのCu(NO・3HO、300mL HO、300mL HNO(69%)、及び600mL HF(49%)で構成される溶液を調製する。その後、転位が存在しないことを確認するため、上記表面を顕微鏡で分析する。
【0053】
結晶体で生成した転位は、結晶のテールに向かって倍増し拡張するため、結晶のテールを分析することは、結晶が全体として無転位であることを保証するのに十分である。
【0054】
ウェハを得るため、結晶を下記のように更に加工できる。
【0055】
結晶のクラウンとテールを回収し、次に、円筒状の研削機を用いて結晶を所望の直径に研削する。その後、結晶配向性を標示するため、丸くした結晶上に平面又は切れ込みを機械で付す。その後、ワイヤーソーで結晶を個々のウェハに切断する。追跡目的のため、これらのウェハは、独自の識別コードをレーザーで標示する。さらなる加工におけるウェハの破損を防ぐため、ウェハの縁を丸くする。鋸切断後に現れる厚さのばらつきをなくすため、ウェハ表面を粗粒で研削する。このプロセスにより損傷を受けた任意の準表面は化学エッチングにより除去する。そして、鏡面様表面が得られるまで化学的機械研磨を実施する。最終の清浄化は様々なエピ層の成長のためのエピレディ面を保証する。
【0056】
(比較例)
Czochralski炉内で、2500gのゲルマニウム及びドーパントとして5gのオルトリン酸カルシウムを、るつぼに充填する。炉はその後通常の作動温度である1100℃に加熱する。しかし、ドーパントの大部分が溶解せず、形成された粒子がゲルマニウム溶融物の表面上に浮遊していることが観測された。上記実施例と同様に、同一の結晶成長及び分析手順を実施する。結晶の分析は、複数の転位を示しており、おそらく固液界面近傍の粒子の吸収によるものである。
【0057】
したがって、オルトリン酸カルシウムのドーパントとしての使用は、無転位の結晶の取得を必然的に排除すると結論付けなければならない。
【国際調査報告】