(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-12
(54)【発明の名称】膜およびその使用
(51)【国際特許分類】
B01D 61/46 20060101AFI20230502BHJP
C08F 2/50 20060101ALI20230502BHJP
B01J 47/12 20170101ALI20230502BHJP
B01J 39/20 20060101ALI20230502BHJP
B01J 41/14 20060101ALI20230502BHJP
B01D 61/28 20060101ALI20230502BHJP
B01D 61/36 20060101ALI20230502BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20230502BHJP
C02F 1/42 20230101ALI20230502BHJP
H01M 8/18 20060101ALI20230502BHJP
H01M 8/1018 20160101ALI20230502BHJP
C12G 1/12 20060101ALI20230502BHJP
【FI】
B01D61/46 500
C08F2/50
B01J47/12
B01J39/20
B01J41/14
B01D61/28
B01D61/36
B01D69/12
C02F1/42 A
H01M8/18
H01M8/1018
C12G1/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022559818
(86)(22)【出願日】2021-04-01
(85)【翻訳文提出日】2022-11-24
(86)【国際出願番号】 EP2021058605
(87)【国際公開番号】W WO2021198416
(87)【国際公開日】2021-10-07
(32)【優先日】2020-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509077761
【氏名又は名称】フジフィルム・マニュファクチュアリング・ヨーロッパ・ベスローテン・フエンノートシャップ
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100120754
【氏名又は名称】松田 豊治
(72)【発明者】
【氏名】ファン ライエン,アドリアヌス・ヤコブス
(72)【発明者】
【氏名】ウエルタ・マルティネス,エリサ
【テーマコード(参考)】
4D006
4D025
4J011
5H126
【Fターム(参考)】
4D006GA13
4D006GA18
4D006GA27
4D006HA47
4D006HA61
4D006MA03
4D006MA06
4D006MC18
4D006MC22
4D006MC23
4D006MC24X
4D006MC27
4D006MC29
4D006MC30
4D006MC36
4D006MC39
4D006MC48
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4D025BB01
4J011QA03
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4J011UA06
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4J011VA02
4J011WA10
5H126AA05
5H126GG17
5H126JJ00
5H126JJ03
5H126JJ05
5H126JJ08
(57)【要約】
(a)少なくとも1つのアニオン性またはカチオン性基を含む硬化性モノマー;(b)水、エタノールおよびトルエンのうち1以上の溶媒中、23℃の温度で測定して、380nmより長い波長に吸収極大を有する光開始剤;(c)少なくとも1つの共開始剤;ならびに、所望により(d)所望により、アニオン性およびカチオン性基を含まない硬化性モノマー;を含む組成物を硬化させることによって得ることができるイオン交換膜であって、該組成物中に存在する硬化性モノマーの少なくとも1つが芳香族基を含む、前記イオン交換膜。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)少なくとも1つのアニオン性またはカチオン性基を含む硬化性モノマー;
(b)水、エタノールおよびトルエンのうち1以上の溶媒中、23℃の温度で測定して、380nmより長い波長に吸収極大を有する光開始剤;
(c)少なくとも1つの共開始剤;ならびに
所望により(d)アニオン性およびカチオン性基を含まない硬化性モノマー;
を含む組成物を硬化させることによって得ることができるイオン交換膜であって、該組成物中に存在する硬化性モノマーの少なくとも1つが芳香族基を含む、前記イオン交換膜。
【請求項2】
成分(b)が、水、エタノールおよびトルエンのうち1以上の溶媒中、23℃の温度で測定して、385~800nmの範囲の波長に吸収極大を有する光開始剤である、請求項1に記載のイオン交換膜。
【請求項3】
前記光開始剤がノリッシュII型光開始剤である、請求項1または2に記載のイオン交換膜。
【請求項4】
組成物が(e)溶媒をさらに含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のイオン交換膜。
【請求項5】
吸収極大における成分(b)のモル減衰係数が少なくとも7500M
-1cm
-1である、請求項1~4のいずれか一項に記載のイオン交換膜。
【請求項6】
共開始剤が、成分(b)が電子的励起状態にあるときに、成分(b)との反応においてフリーラジカルを生成することができる化学物質である、請求項1~5のいずれか一項に記載のイオン交換膜。
【請求項7】
組成物が式1を満たす、請求項1~6のいずれか一項に記載のイオン交換膜:
(A1/A2)>1.5
式1
[式中:
A1は、波長Xnmにおける該組成物の減衰係数であり;
A2は、成分(b)を除外した点を除き該組成物と同一の組成物の波長Xnmにおける減衰係数であり;そして
Xnmは、成分(b)の吸収極大の波長であり;
減衰係数はすべて23℃の温度で測定される]。
【請求項8】
成分(c)が、第三級アミン、アクリル化アミン、オニウム塩(例えば、ヨードニウム、スルホニウム、ホスホニウムまたはジアゾニウムイオンの塩)、トリアジン誘導体、有機ハロゲン化合物、エーテル基、ケトン、チオール、ホウ酸塩、硫化物、ピリジニウム塩、フェロセニウム塩、またはそれらの2以上を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載のイオン交換膜。
【請求項9】
成分(b)が、キサンテン、フラビン、クルクミン、ポルフィリン、アントラキノン、フェノキサジン、カンファーキノン、フェナジン、アクリジン、フェノチアジン、キサントン、チオキサントン、チオキサンテン、アクリジン、アクリドン、フラボン、クマリン、フルオレノン、、キノロン、ナフタキノン、キノリノン、アリールメタン、アゾ、ベンゾフェノン、カロテノイド、シアニン、フタロシアニン、ジピリン、スクアリン、スチルベン、スチリル、トリアジンおよび/またはアントシアニン由来の光開始剤を含み、それぞれの場合において、水、エタノ-ルおよびトルエンから選択される溶媒中、23℃の温度で測定したときに、380nmより長い波長に吸収極大を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載のイオン交換膜。
【請求項10】
組成物が、
(a)2~95重量%の成分(a);
(b)0.002~4重量%の成分(b);
(c)0.01~40重量%の成分(c);および
(d)0~50重量%の成分(d)
を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載のイオン交換膜。
【請求項11】
組成物が0~60重量%の(e)溶媒をさらに含む、請求項1~10のいずれか一項に記載のイオン交換膜。
【請求項12】
成分(e)が少なくとも50重量%の水を含む、請求項4または11に記載のイオン交換膜。
【請求項13】
さらに多孔質支持体を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載のイオン交換膜。
【請求項14】
少なくとも0.0005重量%の光開始剤を含むイオン交換膜であって、該光開始剤が、水、エタノールおよびトルエンのうち1以上の溶媒中、23℃の温度で測定して、380nmより長い波長に吸着極大を有する、前記イオン交換膜。
【請求項15】
請求項1~12のいずれか一項で定義した組成物を硬化することを含む、イオン交換膜の調製プロセス。
【請求項16】
組成物を、少なくとも40mJ/cm
2の線量を用い、380nmより長い波長にピーク放射照度を有する光を用いて硬化する、請求項15に記載のプロセス。
【請求項17】
組成物を硬化前に多孔質支持体に施用する段階を含む、請求項15または16に記載のプロセス。
【請求項18】
硬化した組成物を洗浄および/または乾燥する段階をさらに含む、請求項15~17のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項19】
水流の処理、例えば、硬水軟化、ワインの酒石酸安定化、乳清の脱塩、液体(例えば、水、糖シロップ、果汁、有機溶媒、鉱油および金属イオン溶液)の精製、化学反応での触媒作用、除湿、またはエネルギの生成のための、請求項1~14のいずれか一項に記載のイオン交換膜の使用。
【請求項20】
請求項1~14のいずれか一項に記載のアニオン性膜と、請求項1~14のいずれか一項に記載のカチオン性膜とを交互に含むイオン交換膜のスタックであって、該アニオン性膜がそれぞれ、互いに同じ色および/または色の深み、ならびに該カチオン性膜とは異なる色および/または色の深みを有する、前記イオン交換膜のスタック。
【請求項21】
請求項1~14のいずれか一項に記載の1以上の膜を含む、電気透析または逆電気透析ユニット、電気脱イオンモジュール、フロースルーキャパシター、拡散透析装置、膜蒸留モジュール、電解槽、レドックスフロー電池または酸-塩基フロー電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン交換膜ならびにその調製および使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン交換膜は、電気透析、逆電気透析、電気分解、拡散透析、およびいくつかの他のプロセスにおいて使用することができる。典型的には、膜を通るイオン輸送は、イオン濃度勾配または電位勾配などの推進力の影響を受けて起こる。
【0003】
イオン交換膜は一般に、それらの主な電荷に応じて、カチオン交換膜またはアニオン交換膜として分類される。カチオン交換膜は、カチオンの通過を可能にするがアニオンを拒絶する負に帯電した基を含むが、アニオン交換膜は、アニオンの通過を可能にするがカチオンを拒絶する正に帯電した基を含む。
【0004】
イオン交換膜は、硬化性モノマーを、例えば電子ビーム(EB)照射、紫外線(UV)照射または加熱などのエネルギー源を用いて重合させることによって生産することができる。熱硬化は熱重合プロセスであり、一般に非常に時間がかかる。EB硬化は、開始剤を必要とせず、代わりに高価な装置を必要とする。UV硬化は、高出力UV照射および光開始剤を必要とする迅速かつ効率的なプロセスである。
【0005】
国際公開WO2017009602(’602)には、熱的およびタイプIの光開始剤を用いた単純な脂肪族モノマーからのイオン交換膜の調製について記載されている。
イオン交換膜の作製に使用されるモノマーがすべて脂肪族および/または単純な芳香族モノマー(例えば、’602にあるような)である場合、イオン交換膜を形成するためのUV硬化段階は一般に非常に効果的である。しかしながら、イオン交換膜を作製するために用いられるモノマーの1以上がUV領域(例えば、380nm以下、またはさらに長波長)で著しく吸収する場合、モノマーによるUV光の吸収は、硬化プロセスを著しく妨げることがある。そのような場合、望ましい重合速度を得るのに十分な数のラジカルの形成を達成するために、非常に高用量のUV光および/または高濃度の光開始剤が必要とされる。高濃度の光開始剤の使用は、いくつかの理由から望ましくない。例えば、低濃度の光開始剤よりも高濃度の光開始剤を使用する方が高価である。高濃度の光開始剤(1以上)を含有する硬化性組成物から作製された膜は、潜在的な毒性の恐れがあるため、食品および医薬品用途での使用には不適切であると考えられることが多く、膜から食品または医薬品中に浸出する光開始剤が許容できないレベルになる可能性を減らすために、多くの場合、余分な処理を必要とする。さらに、高線量の紫外線は多くの熱を発生させ、これにより、冷却が必要となり、硬化プロセス中に存在する膜または任意の支持体もしくは担体の燃焼リスクが増大する。また、高いエネルギーコストが伴う。
【0006】
イオン交換膜はまた、イオン性ポリマーに加えて多孔質支持体を含んでいてもよい。多孔質支持体は機械的強度を提供し、支持体内に存在する細孔は、イオン性モノマーを含む硬化性組成物の硬化から誘導されるポリマーを含有する。芳香族化合物から誘導される多孔質支持体に関する問題は、それらが、硬化性組成物中に存在するイオン性モノマーを硬化させることを意図した光を吸収する可能性がある点である。この問題は、芳香族化合物から誘導される多くの多孔質支持体が、紫外線硬化によるイオン交換膜の調製に適していないことを意味する。
【0007】
モノマーを硬化させるのに必要な光を吸収する芳香族化合物から誘導される多孔質支持体の問題を克服するために、熱硬化法が、そのような支持体を含む膜を調製するために使用されてきた。しかしながら、熱硬化法は一般に時間がかかる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【0009】
上記に鑑みて、芳香族モノマーからのイオン交換膜の作製プロセスであって、迅速で、大量の光開始剤の必要性を回避するプロセスが必要とされている。さらに、イオン交換膜は、良好な選択性、低い電気抵抗、および高いロバスト性を有することが望ましい。
【0010】
本発明の第1の観点に従って、
(a)少なくとも1つのアニオン性またはカチオン性基を含む硬化性モノマー;
(b)水、エタノールおよびトルエンのうち1以上の溶媒中、23℃の温度で測定して、380nmより長い波長に吸収極大を有する光開始剤;
(c)少なくとも1つの共開始剤;ならびに
所望により(d)アニオン性およびカチオン性基を含まない硬化性モノマー;
を含む組成物を硬化させることによって得ることができるイオン交換膜であって、該組成物中に存在する硬化性モノマーの少なくとも1つが芳香族基を含む、前記イオン交換膜を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
この文書(その特許請求の範囲を含む)において、動詞「含む(comprise)」およびその活用形は、その非限定的な意味で用いられ、その単語に続く項目は包含されるが、具体的に言及されていない項目は除外されないことを意味する。さらに、不定冠詞「1つの(a)」または「1つの(an)」による要素への言及は、要素が1つだけ存在することを文脈が明確に要求しない限り、1より多くの要素が存在する可能性を除外しない。したがって、不定冠詞「a」または「an」は、通常「少なくとも1つ」を意味する。「イオン交換膜」という用語は、本明細書ではしばしば「膜」と略記される。
【0012】
本発明の膜は、好ましくはシートまたは中空繊維の形態にある。
好ましくは、成分(b)はノリッシュII型光開始剤である。
’602には熱的およびI型の光開始剤の使用が記載されているが、本発明の成分(b)に定義される光開始剤の使用は記載されていない。
【0013】
イオン交換膜は、特に、(その主な電荷に応じて)カチオン交換膜(すなわち、アニオン性基を含み、CEMとしても知られる)、アニオン交換膜(すなわち、カチオン性基を含み、AEMとしても知られる)、またはバイポーラ膜であることが好ましい。上述のように、カチオン交換膜は、カチオンの通過を可能にするがアニオンを拒絶する負に帯電した基を含み、一方、アニオン交換膜は、アニオンの通過を可能にするがカチオンを拒絶する正に帯電した基を含む。バイポーラ膜は、典型的には、アニオン性膜の層に隣接したカチオン性膜の層を含む。
【0014】
成分(a)中に存在することができる好ましいアニオン性基(1以上)としては、酸性基、例えば、スルホ、カルボキシおよび/またはホスファト基、特にスルホ基が挙げられる。
【0015】
成分(a)中に存在することができる好ましいカチオン性基(1以上)としては、第四級アンモニウムおよびホスホニウム基、特に第四級アンモニウム基が挙げられる。
好ましくは、成分(a)はポリマーではなく、モノマーまたはオリゴマーである。
【0016】
好ましくは、成分(a)は、以下の式を満たす分子量(MW)を有する:
MW<(3000+300n)
[式中:
MWは、成分(a)の分子量であり;
nは、1、2、3または4の値を有し、成分(a)中に存在するイオン性基の数である]。
【0017】
上記式において、いくつかの態様では、MWは、より好ましくは<(250+250n)、さらにより好ましくは<(200+200n)、特に<(150+200n)であり、MWおよびnは先に定義したとおりである。
【0018】
成分(a)は、好ましくは、アニオン性基またはカチオン性基と、1以上のエチレン性不飽和基、例えば、重合可能なエチレン性不飽和基とを含む。成分(a)は、いくつかの異なる化合物を含んでいてもよい。
【0019】
組成物のpHに応じて、成分(a)中に存在するアニオン性またはカチオン性基は、対イオン、例えば、アニオン性基の場合はナトリウム、リチウム、アンモニウム、カリウムおよび/またはピリジニウム、ならびにカチオン性基の場合は塩化物および/または臭化物と、部分的または全体的に塩を形成することができる。
【0020】
成分(a)および(d)(存在する場合)中に存在することができる好ましいエチレン性不飽和基は、ビニル基、例えば、(メタ)アクリル基、アリル基またはスチレン基の形態にある。(メタ)アクリル基は、好ましくは(メタ)アクリレートまたは(メタ)アクリルアミド基であり、より好ましくはアクリル基、例えばアクリレートまたはアクリルアミド基である。
【0021】
一態様において、成分(a)は、ビニルアリール基、例えば、ビニルフェニル基、ビニルピリジル基、ビニルイミダジル基、ビニルチアジニル基、ビニルトリアジニル基、ビニルピリル基および/またはビニルピリミジル基を含む。
【0022】
イオン性基を含む硬化性モノマーは、好ましくは成分(a)であるが、成分(d)または組成物中に存在するさらなるモノマーであることもできる。したがって、本発明は、芳香族基を含まないイオン性モノマーにも適用可能である。
【0023】
少なくとも1つのアニオン性基を含む硬化性モノマーの例としては、アクリル酸、ベータカルボキシエチルアクリレート、マレイン酸、無水マレイン酸、ビニルスルホン酸、ホスホノメチル化アクリルアミド、(2-カルボキシエチル)アクリルアミド、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、以下に示す式M-1~M-35に従った化合物、およびそれらの2以上を含む混合物(M-35において、文字Mは、Na+およびLi+ならびにそれらの混合物から選択される2つの原子を表す)が挙げられる:
【0024】
【0025】
【0026】
【0027】
少なくとも1つのカチオン性基を含む好ましい硬化性モノマーは、第四級アンモニウム基を含む。このようなモノマーの例としては、(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド、3-メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリド、(ar-ビニルベンジル)トリメチルアンモニウムクロリド、(2-(メタクリロイルオキシ)エチル)トリメチルアンモニウムクロリド、[3-(メタクリロイルアミノ)プロピル]トリメチルアンモニウムクロリド、(2-アクリルアミド-2-メチルプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド、3-アクリルアミド-3-メチルブチルトリメチルアンモニウムクロリド、アクリロイルアミノ-2-ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリド、N-(2-アミノエチル)アクリルアミドトリメチルアンモニウムクロリド、四級化ビニルイミダゾール、以下に示す式M-36~M-42に従った化合物、式(CL)および式(SM)に従った化合物、ならびにこれらの2以上を含む混合物が挙げられる。
【0028】
【0029】
式(CL)において:
L1は、アルキレン基またはアルケニレン基を表し;
Ra、Rb、Rc、およびRdは、それぞれ独立して、置換されていてもよいアルキルまたは置換されていてもよいアリールであるか;または
RaおよびRb、および/またはRcおよびRdは、式(CL)に示すN-L1-N基と一緒になって環を形成し;
n1およびn2は、それぞれ独して1~10の値を有し;そして
X1-およびX2
-は、それぞれ独立して、有機または無機アニオンを表す。
式(SM)において:
R1、R2、およびR3は、それぞれ独立して、置換されていてもよいアルキルまたは置換されていてもよいアリ-ルであるか;または
R1およびR2、またはR1、R2、およびR3は、式(SM)に示すN原子と一緒になって環を形成し;
n3は、1~10の値を有し;そして
X3
-は、有機または無機アニオンを表す。
【0030】
組成物は、好ましくは2~95重量%、より好ましくは20~95重量%、特に30~75重量%の成分(a)を含む。いくつかの態様において、組成物は、好ましくは2~10重量%、より好ましくは2~6重量%、例えば2~4重量%の成分(a)を含む。
【0031】
成分(a)は、所望により、それぞれが少なくとも1つのアニオン性またはカチオン性基を有する1または1より多く(例えば、2~5)の硬化性モノマーからなる。
好ましくは、成分(a)は、1~5、より好ましくは1または2つのアニオン性またはカチオン性基(1以上)を有する。
【0032】
光開始剤は、好ましくはノリッシュII型光開始剤である。典型的には、ノリッシュII型光開始剤は、適切な波長および強度の光を照射すると励起(三重項)状態に達する化合物であり、そのエネルギーは、電子または水素原子を引き抜くことによって共開始剤に移動して、共開始剤に反応性ラジカル種を形成させる。ノリッシュII型光開始剤の反応性(すなわち、硬化速度)は、以下の実験セクションに記載するようにMettler Toledo DSC822e示差走査熱量計(DSC)を用いて評価することができる。
【0033】
光開始剤は、水、エタノールおよびトルエンのうち1以上の溶媒中、23℃の温度で測定して、好ましくは385~800nm、より好ましくは400~800、例えば430nm~800nmの波長に吸収極大(すなわち、少なくとも1つ)を有する。吸収極大は、23℃において、関連溶媒(すなわち、水、エタノールまたはトルエン)中に溶解した0.01重量%の濃度の光開始剤を用い、例えば、1mmの経路長(例えば、光が通過する内部長さが1mmである石英キュベット)を用いて測定することが好ましい。例えば、Varian Cary 100集中(conc.)ダブルビームUV/VIS分光光度計を用いて吸収極大を測定することができる。
【0034】
ほとんどの光開始剤は、23℃の温度において、水、エタノールおよびトルエンの少なくとも1つに溶解する。しかしながら、光開始剤がこれらのいずれにも溶解しないことが見出された場合、完全な溶液を得るために、1滴または2滴のより良好な溶媒(例えば、ジメチルスルホキシド)を添加してもよい。
【0035】
成分(b)として有用な多くの適した光開始剤は、極性基(例えば、アミン基、カルボニル基、ヒドロキシル基)を含み、エタノールに溶解する。イオン性基を含む光開始剤は、通常、水に対し良好な溶解性を示す。縮合芳香族環を含む光開始剤は一般に、水およびエタノールに対する溶解性が低いか、または溶解性を示さず、トルエンに対する溶解性が良好である。いくつかの光開始剤については、溶媒の混合物が好ましい場合がある。したがって、成分(b)の吸収極大は、23℃で測定することができ、一般に、水、エタノール、トルエン、および成分(b)が溶解性を示すそれらの混合物から選択される溶媒を選ぶ。
【0036】
光開始剤(b)の吸収極大(すなわち380nmより長い)におけるモル減衰係数は、好ましくは少なくとも7500M-1cm-1(750m2mol-1)、より好ましくは少なくとも10000M-1cm-1である。モル減衰係数は、UV-VIS分光光度計、例えば、Agilent TechnologiesからのCaryTM 100 UV-可視分光光度計を用いて測定することができる。
【0037】
成分(b)は、380nmより長い波長にも吸収極大を有するならば、380nm以下の波長に吸収極大を有していてもよい(それぞれの場合、水、エタノ-ルおよびトルエンのうち1以上の溶媒中、23℃の温度で測定したとき)。
【0038】
組成物は、成分(b)が極大吸収(maximum absorption)を有する波長(または照射源が著しい発光を有する波長)で測定したときに、成分(b)を含有する組成物の減衰係数の、同じ組成物であるが成分(b)を除外したものの減衰係数に対する比率が、好ましくは1を超え、より好ましくは1.5を超え、特に2を超えるようなものである。この比率は組成物自体における成分(b)の吸収能力の指標であり、したがって、成分(b)に好ましい光開始剤の特性を規定する有用なパラメーターを形成する。この比が1に等しい場合、組成物中の他の成分は、組成物の硬化を引き起こすことが意図される光の大部分またはすべてを吸収し、これは、光開始剤の効果を無にする可能性がある。
【0039】
したがって、組成物は、式1を満たすことが好ましい:
(A1/A2)>1.5
式1
[式中:
A1は、波長Xnmにおける該組成物の減衰係数であり;
A2は、成分(b)を除外した点を除き該組成物と同一の組成物の波長Xnmにおける減衰係数であり;そして
Xnmは、成分(b)の吸収極大の波長であり;
減衰係数はすべて23℃の温度で測定される]。
【0040】
好ましくは、(A1/A2)>2である。
式1において、減衰係数は、23℃において、例えば1mmの経路長を用いて(例えば、光が通過する内部長さが1mmである石英キュベットを用いて)測定することが好ましい。
【0041】
好ましくは、成分(b)は、それぞれの場合において、水、エタノ-ルおよびトルエンのうち1以上の溶媒中、23℃の温度で測定して、380nmより長い波長に吸収極大を有するという条件で、キサンテン、フラビン、クルクミン、ポルフィリン、アントラキノン、フェノキサジン、カンファーキノン、フェナジン、アクリジン、フェノチアジン、キサントン、チオキサントン、チオキサンテン、アクリドン、フラボン、クマリン、フルオレノン、キノリン、キノロン、ナフタキノン、キノリノン、アリールメタン、アゾ、ベンゾフェノン、カロテノイド、シアニン、フタロシアニン、ジピリン、スクアリン、スチルベン、スチリル、トリアジンまたはアントシアニン由来の光開始剤、あるいはそれらの2以上(例えば、2~5種のそのような光開始剤)を含む混合物を含む。より好ましくは、成分(b)は、それぞれの場合において、水、エタノールおよびトルエンのうち1以上の溶媒中、23℃の温度で測定して、380nmより長い波長に吸収極大を有するという条件で、キサンテン、フラビン、クルクミン、ポルフィリン、アントラキノン、フェノキサジン、フェナジン、アクリジン、フェノチアジン、チオキサンテン、アクリドン、フラボン、クマリン、フルオレノン、キノリン、キノロン、ナフタキノン、キノリノン、アリールメタン、アゾ、カロテノイド、シアニン、フタロシアニン、ジピリン、スクアリン、スチリル、トリアジンまたはアントシアニン由来の光開始剤を含む。
【0042】
上記で明記した吸収極大を有する光開始剤の例としては、エオシンY、エオシンY二ナトリウム塩、フルオレセイン、ウラニン、エリスロシンB、ローズベンガル、フロキシンB、4,5-ジブロモフルオレセイン、ローダミンB、リボフラビン、フラビンモノヌクレオチド、アクリフラビン、クルクミン、レサズリン、サフラニンO、フェノサフラニン、ニュートラルレッド、アクリジンオレンジ、アシッドブルー43、1,4-ジアミノ-アントラキノン、1,4-ジヒドロキシ-アントラキノン、ブロマミン酸ナトリウム塩、カルミン酸、エチルバイオレット、パテントブルーV、メチルオレンジ、ナフトールイエローS、メチレンブルー、インジゴカルミン、(4-ジメチルアミノスチリル)メチルピリジニウムヨージド、キノリンイエロー、キノリンイエローWS、酢酸チオニン、ベータ-カロテン、クマリン6、クマリン343、クマリン153、亜鉛-プロトポルフィリンIX、亜鉛-テトラフェニルポルフィリンテトラスルホン酸、亜鉛-フタロシアニン、シアニジンクロリド、インドモノカルボシアニン(indomonocarbocyanine)ナトリウム、レゾルフィン、ナイルレッド、ピロニンY、9-フルオレノンカルボン酸、3-ブトキシ-5,7-ジヨード-6-フルオロン、3-ヒドロキシ-2,4,5,7-テトラヨード-6-フルオロン、2-クロロチオキサントン、およびケルセチンが挙げられる。好ましい光開始剤としては、サフラニン-O、アクリジンオレンジ、ブロマミン酸ナトリウム塩、エチルバイオレット、メチルオレンジ、クルクミン、リボフラビン、フラビンモノヌクレオチド、メチレンブルー、亜鉛フタロシアニン、テトラフェニルスルホン酸ポルフィリン、キノロンイエローWS、エオシンY、エオシンY二ナトリウム塩、エリスロシンB、ローズベンガル、ローダミンB、フロキシンBおよびジブロモフルオレセインが挙げられる。
【0043】
成分(b)として使用される光開始剤は、好ましくは少なくとも10個(より好ましくは少なくとも12個)の非局在化(π)電子を有する共役系を含む。共役系は、分子中に非局在化電子を有する接続されたp軌道系であり、一般に交互に単結合および多重結合を有する。共役系は、線状、環状(芳香族)、または線状および環状(芳香族)の組み合わせであることができる。線状共役系は、通常、高い減衰係数を有するが、望ましくないラジカル捕捉特性を有する可能性がある。したがって、成分(b)は、好ましくは芳香族基を含み、所望により線状共役基(1以上)も包含する。
【0044】
光開始剤が吸収極大を有する波長およびその減衰係数は、特に共役系の一部を形成する原子に直接付着している場合、光開始剤中に存在する官能基によって強く影響される。減衰係数に好ましい効果を有する基は、例えば、第一級、第二級および第三級アミン基、ヒドロキシル基、エーテル基、チオエーテル基、アルキル基およびカルボニル基である。光開始剤は、好ましくは、これらの基の1以上を含む。ハロゲンは光開始剤の吸収特性に顕著な影響を与えないが、励起状態を安定化させ、それによって光開始剤の効率を高める。したがって、光開始剤は、好ましくは1以上のハロゲン基(例えば、クロロ、ヨードおよび/またはブロモ基)を含む。
【0045】
組成物は、すべての成分が良好な溶解性を示す溶液の形態にあることが望ましい。したがって、組成物が極性溶媒(例えば、水)を含む場合、光開始剤は、1以上の荷電基を含むことが好ましい。これは、これら荷電基が水などの極性溶媒への溶解性を高めるためである。適した荷電基としては、遊離酸または塩の形態にあるスルホおよびカルボキシル基、ならびに第四級アンモニウム基が挙げられる。
【0046】
好ましくは、光開始剤は、ラジカル捕捉特性を有する基(例えば、ニトロ基およびチオール基)を含まない。これは、そのような基は硬化を遅くするか阻害する可能性があるためである。
【0047】
好ましくは、光開始剤は、共役系の一部を形成する原子に付着しているヒドロキシル基を2つ以上含有しない。
好ましくは、光開始剤は、クロロ、ブロモ、ヨード、第一級、第二級または第三級アミノ、アルキル、カルボニル、エーテル、チオエーテル、カルボキシル、スルホおよび第四級アンモニウム基から選択される少なくとも2つの基を有し、ニトロ、チオールおよび複数のヒドロキシル基を含まない。
【0048】
一態様において、本発明の第1の観点に従った膜は、成分(b)およびその分解生成物を含まない。他の態様において、本発明の第1の観点に従った膜は、成分(b)および/またはその分解生成物を含む。
【0049】
食品または医薬用途での使用を意図した膜の場合、成分(b)として使用される光開始剤(1以上)は、好ましくは無害であることが公知であり、ならびに/あるいは食品および/または医薬用途について(例えば、米国食品医薬品局(FDA)によって)承認されており、例えば、エリスロシンB、フラビンモノヌクレオチド、クルクミン、リボフラビン、タートラジン、キノロンイエロー、アゾルビン、アマランス、ポンソー4R、アルラレッドAC、パテントブルーV、インジゴカルミン、ブリリアントブルーFCF、クロロフィル誘導体、クロロフィルまたはクロロフィリン誘導体の銅錯体、カロテノイド、サンセットイエローFCF、カルミン酸、グリーンS、キサントフィル誘導体、ブリリアントブラックBN、またはそれらの1以上である。好ましい成分(b)は「食用」であり、すなわち、食品および飲料、栄養補助食品、医薬品および化粧品に適しており、好ましくは、可視的色を有する、すなわち、400~800nmの波長範囲の光を吸収する。
【0050】
組成物中に存在する成分(b)の好ましい量は、成分(b)の吸収特性およびモル減衰係数、組成物のその他の部分に対する溶解度、ならびに成分(b)の吸収スペクトルと放射線源の発光スペクトルとの間の重なりの程度を含む、いくつかの因子に依存する。しかしながら、硬化性組成物は、好ましくは0.002~4重量%、より好ましくは0.005~2重量%、特に0.005~0.9重量%、例えば0.02重量%、0.05重量%、0.1重量%、0.3重量%または0.6重量%の成分(b)を含む。
【0051】
成分(b)は、組成物のその他の部分に対し、好ましくは少なくとも0.05重量%、より好ましくは少なくとも0.1重量%の溶解度を有する。
望ましい場合、成分(b)に加えて、さらなる開始剤(1以上)、例えば、1以上の熱開始剤を、組成物中に包含させてもよい。
【0052】
成分(b)は、典型的には380nmより長い波長の光を吸収して励起光開始剤分子を生成し、これは、共開始剤(c)から電子、陽子またはその両方を引き抜いてフリーラジカルをもたらす。次いで、フリーラジカルは、成分(a)および(d)(存在する場合)を硬化させる。このように、共開始剤は、成分(b)が電子的励起状態にあるとき、例えば、組成物に成分(b)の吸収スペクトルにマッチする光(380nmより長い波長に吸収極大を有する)を照射したときに、成分(b)との反応においてフリーラジカルを生成することができる任意の化学物質であることができる。
【0053】
好ましくは、成分(c)は、第三級アミン、アクリル化アミン、オニウム塩(例えば、ヨードニウム、スルホニウム、ホスホニウムまたはジアゾニウムイオンの塩)、トリアジン誘導体、有機ハロゲン化合物、エーテル基、ケトン、チオール、ホウ酸塩、硫化物(例えば、チオエーテル)、ピリジニウム塩、フェロセニウム塩、またはそれらの2以上を含む。
【0054】
好ましい共開始剤としては、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、エチレンジアミン-テトラ(2-プロパノール)、1,4-ジメチルピペラジン、n-フェニルジエタノールアミン、4-(ジメチルアミノ)ベンズアルデヒド、7-ジエチルアミノ-4-メチルクマリン、2-(ジエチルアミノ)エチルメタクリレート、四臭化炭素、ジフェニルヨードニウムクロリド、4-ジメチルアミノ安息香酸2-エチルヘキシル、4-(ジメチルアミノ)ベンゾニトリル、4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、ジフェニルヨードニウムニトラート、N-フェニルグリシン、2,4,6-トリス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン、2-(4-メトキシフェニル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン、ヘキサエチルメラミン、ヘキサメチレンテトラミン、ピペロニルアルコール、N,N-ジメチル-p-トルイジン、L-アルギニン、およびそれらの2以上を含む混合物が挙げられる。
【0055】
成分(c)は該組成物の成分、例えばトリエタノールアミンの溶解に寄与し得るが、本明細書の目的に関し、成分(c)は溶媒とみなされない。
該組成物は、好ましくは0.01~40重量%、より好ましくは0.05~20重量%、さらにより好ましくは0.1~5重量%の成分(c)を含む。
【0056】
組成物中に存在する成分(b):(c)のモル比は、好ましくは1:1より大きく、より好ましくは1:2より大きく、特に1:5より大きく、さらに特に1:10より大きい。
【0057】
一般に好ましくないが、硬化性組成物は、非イオン性モノマー、すなわち、アニオン性基およびカチオン性基を含まないモノマーを、特定の目的のために典型的には少量で含むことができる。成分(d)の例としては、非イオン性モノマー、例えば、ヒドロキシエチルメタクリレートおよびメチルメタクリレート、および、非イオン性架橋剤、例えば、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレート、ビスフェノール-Aエポキシアクリレート、ビスフェノールAエトキシレートジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、ネオペンチルグリコールエトキシレートジアクリレート、プロパンジオールエトキシレートジアクリレート、ブタンジオールエトキシレートジアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、ヘキサンジオールエトキシレートジアクリレート、ポリ(エチレングリコール-コ-プロピレングリコール)ジアクリレート、ポリ(エチレングリコール)-ブロック-ポリ(プロピレングリコール)―ブロック-ポリ(エチレングリコール)ジアクリレート、イソホロンジアクリルアミド、ジビニルベンゼン、N,N’-(1,2-ジヒドロキシエチレン)ビス-アクリルアミド、N,N’-メチレン-ビス-アクリルアミド、N,N’-エチレンビス(アクリルアミド)、ビス(アミノプロピル)メチルアミンジアクリルアミド、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、1,4-ジアクリロイルピペラジン、1,4-ビス(アクリロイル)ホモピペラジン、グリセロールエトキシレートトリアクリレート、トリメチロールプロパンエトキシレートトリアクリレート、トリメチロールプロパンエトキシレートトリアクリレート、ペンタエリトリトールエトキシレートテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンエトキシレートテトラアクリレート、ジペンタエリトリトールエトキシレートヘキサアクリレート、1,3,5-トリアクリロイルヘキサヒドロ-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリアリルオキシ-1,3,5-トリアジン、およびそれらの2以上を含む組み合わせが挙げられる。
【0058】
組成物は、好ましくは0~50重量%、より好ましくは0~30重量%の成分(d)を含む。一態様において、組成物は、アニオン性基およびカチオン性基を含まない硬化性モノマーを含まない。
【0059】
所望により、組成物はさらに、成分(e)として1以上の溶媒を含む。成分(e)は、成分(a)または(d)(存在する場合)と共重合しないか、または共開始剤として作用しない、任意の溶媒であることができる。一態様において、成分(e)は、水および所望により有機溶媒を、特に有機溶媒の一部または全部が水混和性である場合、含むことが好ましい。水は成分(a)を溶解するのに有用であり、有機溶媒は、組成物の他の有機成分を溶解するのに有用である。
【0060】
成分(e)は、組成物の粘性および/または表面張力を低下させるのに有用であり、いくつかの点で、とりわけ膜がシートの形態にあることが必要とされる場合に、膜の製造プロセスをより容易にする。
【0061】
一態様において、成分(e)は、成分(e)の全重量に対して、少なくとも50重量%の水、より好ましくは少なくとも70重量%の水を含む。一態様において、成分(e)は、30重量%未満の有機溶媒を含み、残りの溶媒は水である。他の態様において、組成物は有機溶媒を含まず、(揮発性)有機溶媒が完全に存在しないため、環境上の利点を提供する。特定の態様では、水、例えば7未満のpHを有する水が、溶媒として使用される。
【0062】
他の態様において、成分(e)は、組成物の成分を溶解するための1以上の有機溶媒を含み、水を含まない。これは、成分(a)、(b)、(c)および(d)(存在する場合)が水に対し低い溶解度を有するか、または水に溶解しない場合に特に有用である。
【0063】
いくつかの態様において、組成物は、好ましくは0~60重量%、より好ましくは4~50重量%、もっとも好ましくは10~45重量%の成分(e)を含む。他の態様において、組成物は、35~95重量%、好ましくは60~90重量%の成分(e)を含む。
【0064】
成分(e)として、または成分(e)において用いることができる好ましい有機溶媒としては、C1-4アルコール(例えば、メタノール、エタノールおよびプロパン-2-オールなどのモノオール);ジオール(例えば、エチレングリコールおよびプロピレングリコール);トリオール(例えば、グリセロール);カーボネート(例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ-t-ブチルジカーボネートおよびグリセリンカーボネート);ジメチルホルムアミド;ジメチルスルホキシド、アセトン;N-メチル-2-ピロリジノン;ならびに上記のものうちの2以上を含む混合物が挙げられる。
【0065】
有機溶媒は不活性である(すなわち、成分(a)または(d)(存在する場合)と共重合できない)。
成分(e)は、有機溶媒を含まないか、1つ含むか、または1より多く含むことができる。
【0066】
硬化性組成物はさらに、添加剤、例えば、界面活性剤、pH調節剤、粘度調整剤、構造調整剤、安定剤、重合防止剤、または上記のもののうちの2以上を含んでいてもよい。
界面活性剤または界面活性剤の組み合わせは、例えば、湿潤剤として、または表面張力を調整するために、組成物中に包含させることができる。放射線硬化性界面活性剤を含む市販の界面活性剤を利用することができる。組成物における使用に適した界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、およびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0067】
好ましい界面活性剤は、国際公開WO2007/018425号、20頁、15行~22頁、6行に記載されているとおりであり、これらを本明細書中で参考として援用する。フルオロ界面活性剤、特にZonyl(登録商標)FSNおよびCapstone(登録商標)フルオロ界面活性剤(E.I. Du Pont社製)がとりわけ好ましい。ポリシロキサンベースの界面活性剤、特に、Air ProductsからのSurfynolTM、DowCorningからのXiameterTM界面活性剤、EvonikからのTegoPrenTMおよびTegoGlideTM界面活性剤、SiltechからのSiltechTMおよびSilsurfTM界面活性剤、ならびにSumitomo ChemicalからのMaxxTM オルガノシリコーン界面活性剤も好ましい。
【0068】
組成物は、重合防止剤を含む(例えば、2重量%未満の量で)ことが好ましい。これは、例えば貯蔵中の組成物の早期硬化を防止するのに有用である。適した重合防止剤としては、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、4-t-ブチル-カテコール、フェノチアジン、4-オキソ-2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシ、フリーラジカル(4-オキソ-TEMPO)、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシ、フリーラジカル(4-ヒドロキシ-TEMPO)、2,6-ジニトロ-sec-ブチルフェノール、トリス(N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミン)アルミニウム塩、OmnistabTM IN 510、およびそれらの2以上を含む混合物が挙げられる。
【0069】
したがって、本発明の好ましい観点において、組成物は、
(a)2~95重量%の成分(a);
(b)0.002~4重量%の成分(b)、好ましくは、成分(b)は、水、エタノールおよびトルエンのうち1以上の溶媒中、23℃の温度で測定して、380nmより長い波長に吸収極大を有するノリッシュII型光開始剤である;
(c)0.01~40重量%の成分(c);および
(d)0~50重量%の成分(d)
を含む。
【0070】
本発明のこの好ましい観点の一態様において、組成物はさらに、0~60重量%の成分(e)、溶媒を含む。
好ましくは、膜はシートの形態にあり、例えば、膜(例えば、複合イオン交換膜)は多孔質支持体を含む。
【0071】
成分(b)の存在に起因して、多孔質支持体は、所望により芳香族基を含むことができる。したがって、本発明は、熱硬化プロセスよりもはるかに速い光(例えば、紫外線または可視光線硬化)を伴う硬化プロセスによって、膜および芳香族多孔質支持体を含む複合膜を作製するための方法を提供するという利点を有する。
【0072】
多孔質支持体の例として、織布状および不織布状合成ファブリックならびに押出フィルムを挙げることができる。例としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエステル、ポリアミド、ポリエーテルエーテルケトンなどのポリアリールエーテルケトン、およびそれらのコポリマーから作製された、湿式(wetlaid)および乾式(drylaid)不織材料、スパンボンドおよびメルトブローンファブリックならびにナノ繊維ウェブが挙げられる。多孔質支持体はまた、多孔質膜、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、ポリアクリレート、セルロースアセテート、ポリプロピレン、ポリ(4-メチル1-ペンテン)、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレンおよびポリクロロトリフルオロエチレン膜ならびにそれらの誘導体であってもよい。
【0073】
多孔質支持体は、好ましくは10~200μm、より好ましくは20~150μmの平均厚さを有する。
好ましくは、多孔質支持体は30~95%の多孔度を有する。支持体の多孔度は、ポロメーター、例えば、ドイツのIB-FT GmbHからのPoroluxTM 1000によって決定することができる。
【0074】
多孔質支持体は、存在する場合、所望により、その表面エネルギーを、例えば45mN/mを超える、好ましくは55mN/mを超える値に改変するように処理されている多孔質支持体である。例えば、多孔質支持体に対する膜の湿潤性および付着性を向上させるのに適した処理としては、コロナ放電処理、プラズマグロー放電処理、火炎処理、紫外線照射処理、化学処理などが挙げられる。
【0075】
市販の多孔質支持体は、いくつかの供給源、例えば、Freudenberg Filtration Technologies(Novatexx材料)、Lydall Performance Materials、Celgard LLC、APorous Inc.、SWM(Conwed Plastics、DelStar Technologies)、Teijin、Hirose、Mitsubishi Paper Mills LtdおよびSefar AGから入手可能である。
【0076】
好ましくは、支持体はポリマー支持体である。
芳香族多孔質支持体としては、1以上の芳香族モノマー、例えば、芳香族ポリアミド(アラミド)、(スルホン化)ポリフェニレンスルホン、ポリ(フェニレンスルフィドスルホン)、芳香族ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)またはポリブチレンテレフタレート(PBT))、芳香族ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィドまたはこれらの2以上の組み合わせから誘導される多孔質支持体が挙げられる。一態様において、支持体はUV光(380nm以下)を強く吸収する。UV分光計で測定したときに、該支持体は340nmより長い波長において90%未満の透過率を有することから、吸収が強力であるとみなす。
【0077】
市販の芳香族多孔質支持体の例としては、Teijin、Hirose、Mitsubishi Paper Mills LtdおよびSefar AGが挙げられる。
本発明の第1の観点に従った膜の厚さは、多層支持体(存在する場合)を含めて、好ましくは250μm未満、より好ましくは5~200μm、もっとも好ましくは10~150μm、例えば、約20、約50、約75または約100μmである。
【0078】
膜は、膜(存在する場合、多孔質支持体を含む)の全乾燥重量に基づき、好ましくは少なくとも0.1meq/g、より好ましくは少なくとも0.3meq/g、特に0.6meq/g超、さらに特に1.0meq/g超のイオン交換容量を有する。イオン交換容量は、Dlugolecki et alによってJ. of Membrane Science, 319(2008)の217頁に記載されているように、滴定によって測定することができる。
【0079】
膜は、好ましくは100%未満、より好ましくは75%未満、もっとも好ましくは60%未満の水中での膨潤を示す。膨潤度は、架橋剤の量、非硬化性化合物の量によって、および硬化段階での適切なパラメーターの選択によって、さらに多孔質支持体(存在する場合)の性質によって、制御することができる。電気抵抗、選択透過率(permselectivity)および水中での膨潤度(水の取り込み量としても知られる)は、Dlugolecki et alによってJ. of Membrane Science, 319(2008)の217~218頁に記載されている方法により測定することができる。
【0080】
典型的には、膜は実質的に非孔質であり、例えば、小分子による含浸が可能ではない膨潤状態にある。この膜の細孔はすべて、標準的な走査型電子顕微鏡(SEM)の検出限界よりも小さいことが好ましい。したがって、Jeol JSM-6335F電界放出型SEM(2kVの加速電圧を印加、作動距離4mm、開口4、厚さ1.5nmのPtでコーティングした試料、倍率100000倍、傾斜視野3°)を用いると、平均細孔サイズは概して2nmより小さく、好ましくは1nmより小さい。
【0081】
膜は、(水和された)イオンは膜を通過することができ、(自由な)水分子は膜を容易に通過しないように、低い透水度を有することが好ましい。
膜の透水度は、好ましくは1×10-9m3/m2.s.kPa未満、より好ましくは1×10-10m3/m2.s.kPa未満、もっとも好ましくは5×10-11m3/m2.s.kPa未満、特に3×10-11m3/m2.s.kPa未満である。
【0082】
膜は、小さなカチオン(例えばNa+)またはアニオン(例えばCl-)に関し、好ましくは90%超、より好ましくは95%超の選択透過率を有する。
膜は、好ましくは15オーム.cm2未満、より好ましくは10オーム.cm2未満、もっとも好ましくは8オーム.cm2未満の電気抵抗を有する。特定の用途では、例えば、超純水および/または飲料水の生産に使用されるシステムなど、導電性の低い流れで動作するプロセスの場合、特に選択透過率が非常に高く、例えば95%より高く、水の透過が非常に低いときに、高い電気抵抗が許容され得る。
【0083】
本発明の第2の観点に従って、本発明の第1の観点で定義した組成物を硬化することを含む、イオン交換膜の調製プロセスを提供する。
本発明のプロセスは、望ましい場合、さらなる段階、例えば、組成物を硬化前に多孔質支持体に施用し、硬化した組成物(すなわち、膜)を洗浄および/または乾燥する段階を含有することができる。
【0084】
所望により、該プロセスは、イオン交換膜から未反応組成物を洗い流すさらなる段階を含む。
一態様では本発明に従った膜を固定支持体を用いてバッチ式で調製することが可能であるが、移動支持体(特に移動多孔質支持体)を用いて連続式で膜を調製することが、はるかに好ましい。多孔質支持体は、連続的にほどかれるロールの形態か、中空繊維の形態にあることができ、または、多孔質支持体は、キャリヤー、例えば連続的に駆動されているベルト上に載っていることができる(または、これらの方法の組み合わせであってもよい)。このような技術を用いて、組成物を連続式で多孔質支持体に施用することができ、または、大規模なバッチ式で多孔質支持体に施用することができる。
【0085】
硬化性組成物は、任意の適した方法、例えば、カーテンコーティング、ブレードコーティング、エアーナイフコーティング、ナイフオーバーロールコーティング、スライドコーティング、ニップロールコーティング、フォワードロールコーティング、リバースロールコーティング、マイクロロールコーティング、ディップコーティング、フーラード(foulard)コーティング、キスコーティング、ロッドバーコーティングまたはスプレーコーティングによって、多孔質支持体に施用することができる。硬化性組成物は、典型的には多孔質支持体上に連続フィルム層を形成し、または、キャリヤーもしくは多孔質支持体に該組成物を含浸させてもよい。多層のコーティングは、同時または連続的に行うことができる。多層をコーティングする場合、硬化性組成物は同一または異なっていることができる。
【0086】
したがって、組成物を多孔質支持体に施用するプロセス段階は、組成物の各施用の間に硬化を実施するか否かに関わらず、1回より多く実施することができる。組成物を多孔質支持体の両面に施用する場合、得られる含浸支持体は対称的または非対称的であることができる。したがって、多孔質支持体の一方の側に施用される組成物は、多孔質支持体のもう一方の側に施用される組成物と同一または異なっていることができる。
【0087】
したがって、好ましいプロセスにおいて、該組成物は、移動支持体(好ましくは多孔質支持体)に、好ましくは、1以上の組成物施用ステーション(1以上)と、組成物を硬化するための1以上の照射源(1以上)と、膜収集ステーションと、多孔質支持体を組成物施用ステーション(1以上)から照射源(1以上)そして膜収集ステーションへ移動させる手段とを含む製造ユニットにより、連続的に施用される。
【0088】
組成物施用ステーション(1以上)は照射源(1以上)に対し上流の位置に置くことができ、照射源(1以上)は膜収集ステーションに対し上流の位置に置く。
高速コーティング機による施用に十分な流動性を有する硬化性組成物を生産するために、組成物は、23℃で測定して5000mPa.s未満、より好ましくは、23℃で測定して1~1500mPa.sの粘度を有することが好ましい。もっとも好ましくは、組成物の粘度は、23℃で測定して2~500mPa.sである。
【0089】
適したコーティング技術を用いて、組成物を、1m/分を超える、例えば5m/分を超える、好ましくは10m/分を超える、より好ましくは15m/分を超える速度、例えば20m/分を上回る速度、または、30m/分もしくは最高40m/分に達し得るようなさらに速い速度で移動している多孔質支持体に、施用することができる。
【0090】
硬化中に、成分(a)および(d)(存在する場合)は、典型的には重合して膜を形成する。硬化は、膜が30秒以内に形成するのに十分な速さで起こることが好ましい。望ましい場合、続いてさらなる硬化を施用して仕上げを行ってもよいが、一般にこれは必要ではない。
【0091】
組成物の硬化は、組成物を支持体に施用した後、好ましくは3分以内、より好ましくは60秒以内に開始する。
硬化は、組成物を好ましくは30秒未満、より好ましくは10秒未満、特に3秒未満、さらに特に2秒未満にわたり照射することにより達成される。連続プロセスでは照射は連続的に行われ、組成物が照射ビームの中を通って移動する速度が、硬化時間を決定する主因である。暴露時間は、集中ビームによる照射時間によって決定される;迷「光」は一般に弱すぎて有意な効果を有さない。硬化には、白色光、青色光または緑色光を使用することが好ましい。適した波長は、光の波長が成分(b)の吸収波長にマッチするという条件で、380nmより長い。
【0092】
380~800nmの範囲の波長を有する適した光源としては、発光ダイオ-ド(例えば、白色(450nm、および750nmまで延長する550nmの幅広いピ-ク)、青色(450nm)、緑色(530nm)、黄色(590nm)、赤色(625nm)またはUV-V(385、395、405または420nm);ガス放電ランプ(水銀(430および550nm)、ガリウム(400および410nm)、インジウム(410および450nm)、タリウム(530nm)または水素(490nm));硫黄プラズマランプ(500nmに極大を有する完全な可視スペクトルの幅広いピ-ク)が挙げられる。適した発光ダイオードは、Cree、Osram、HoenleおよびChromasensから得ることができる。ガス放電ランプは、Heraus、Hoenleおよびuv-technik meyer GmbHから得ることができる。硫黄プラズマランプは、Plasma-internationalおよびPlasmaBrightから得ることができる。硬化には発光ダイオード(「LED」)からの光を使用することが好ましい。
【0093】
組成物の硬化に用いられる照射源のエネルギー出力は、好ましくは1~1000W/cm、好ましくは2~500W/cmであるが、硬化を達成することができるならば、これより高くても低くてもよい。暴露強度は、硬化の程度を制御し、それにより膜の最終構造に影響を及ぼすために用いることができるパラメーターの1つである。暴露線量は、UvitronからのPower Puck II放射計で測定して、好ましくは少なくとも40mJ/cm2、より好ましくは40~1500mJ/cm2、もっとも好ましくは70~900mJ/cm2である。硬化用光源の典型的な例は、Hoenleによって供給される出力25W/cmの420nmの単色LEDである。代替品は同一供給業者からの385nmおよび405nmのLEDである。
【0094】
高いコーティング速度で望ましい暴露線量に達するために、組成物が1回より多く照射されるように、1より多くの照射源を使用してもよい。
本発明の第3の観点に従って、水流の処理、例えば、硬水軟化、ワインの酒石酸安定化、乳清の脱塩、液体(例えば、水、糖シロップ、果汁、有機溶媒、鉱油および金属イオン溶液)の精製、化学反応での触媒作用、除湿、またはエネルギーの生成のための、本発明の第1の観点に従ったイオン交換膜の使用を提供する。
【0095】
本発明に従った膜は、主として浄水(例えば、連続電気脱イオン(CEDI)および逆電気透析(EDR)を含む電気脱イオンまたは電気透析による)での使用を意図しているが、他の目的、例えば、例えばフロースルーキャパシター(FTC)に用いられる容量性脱イオン、例えばフッ化物除去または酸回収のためのドナンまたは拡散透析(DD)、除湿、有機溶媒の脱水のためのパーベーパレーション、燃料電池、レドックスフロー電池(RFB)、水の電気分解(EL)またはクロル-アルカリ生成のための電気分解(EL)、および逆電気透析(RED)にも使用することができる。
【0096】
本発明に従った膜は、他の目的、例えば、保護コーティング(例えば、印刷、光造形法および3D印刷における)として、光硬化性接着剤として、歯科用レジンにおいて、または濾過目的のために、使用することもできる。
【0097】
本発明の第4の観点に従って、本発明の第1の観点に従った1以上の膜を含む、電気透析または逆電気透析ユニット、電気脱イオンモジュール、フロースルーキャパシター、拡散透析装置、膜蒸留モジュール、電解槽、レドックスフロー電池、または酸-塩基フロー電池(acid-base flow battery)を提供する。電気脱イオンモジュールは、好ましくは連続電気脱イオンモジュールである。
【0098】
好ましくは、電気透析もしくは逆電気透析ユニットまたは電気脱イオンモジュールまたはフロースルーキャパシターは、少なくとも1つのアノード、少なくとも1つのカソード、および2以上の本発明の第1の観点に従った膜を含む。
【0099】
好ましい態様において、該ユニットは、少なくとも1、より好ましくは少なくとも5、例えば36、64、200、600、または最高1500の本発明の第1の観点に従った膜対を含み、膜の数は用途に依存する。膜は、例えば、プレート・アンド・フレームもしくはスタック・ディスク構成、またはスパイラル巻き設計で用いることができる。
【0100】
本発明は、いくつかの利点を提供する:
(i)特定の吸収特性を有する成分(b)の使用により、成分(a)および(d)が、200~380nmの波長範囲の光を吸収する芳香族基を含有することが可能になる。したがって、本発明のイオン交換膜を作製するために用いることができるのは芳香族モノマーまたはオリゴマーだけではない;芳香族ポリマーから作製した多孔質支持体を使用することもできる。
(ii)成分(b)が安全に食用である場合、膜を食品および/または医薬用途に適したものにすることができる。
(iii)成分(b)が人間に可視的な色を有する場合、得られる膜は有色である:それらは、400~800nmの波長範囲の光を吸収する。各膜タイプ(例えば、アニオン交換膜、カチオン交換膜、一価アニオン交換膜、一価カチオン交換膜など、さまざまな膜タイプ)に異なる成分(b)を用いるか、同じ成分(b)を異なる量で用いることによって、各膜タイプに独特の色または色の深みを提供することができ、これにより、膜のスタックの組み立てがより容易になり、イオン交換膜が誤った順序にあるスタックを作製する可能性が低下する。
(iv)組成物は、可視光、例えば、LED光を用いて硬化することができる。可視光での硬化は、UV光と比較して多くの利点(より低いエネルギー消費、有害なUV照射がない、無駄なIR照射がないかはるかに少なく、したがって生成物の加熱がより少ない、照射ゾーンにおけるオゾンの形成がない、照射源のより長い寿命、および単色光が使用される場合に100%に達し得るより高いスペクトルマッチ)を有することができる。したがって、LED光は、UV光の使用よりもはるかに効率的であることができる。
(v)光源の発光スペクトルと光開始剤の吸収スペクトルとの間のスペクトルマッチを最大にするために、多数の考えうる光源からの理想的な照明源を、各光開始剤系について選択することができる。
(vi)硬化性組成物は、選んだ光開始剤に応じて、黄色または赤色光条件下で取り扱うことができる。
(vii)膜を形成するための組成物の硬化は、I型光開始剤およびUV光を用いて硬化する従来技術のプロセスよりも、酸素の存在によって抑制されることが少ない。
(viii)光開始剤系の効率がより高いため、従来技術のプロセスよりも少ない量の光開始剤を使用することができる。
【0101】
本発明はまた、膜スタックを調製するための、本発明の第1の観点に従った膜の使用を提供する。代表的なスタックはアニオン性膜およびカチオン性膜を交互に含み、該アニオン性膜はそれぞれ、互いに同じ色または色の深み、ならびに該カチオン性膜とは異なる色および/または色の深みを有する。アニオン性およびカチオン性膜は、好ましくは、本発明の第1の観点で定義したとおりである。したがって、本発明は、アニオン性膜およびカチオン性膜を交互に含むイオン交換膜のスタックであって、該アニオン性膜がそれぞれ、互いに同じ色または色の深み、ならびに該カチオン性膜とは異なる色および/または色の深みを有する、前記イオン交換膜のスタックを提供する。また、一価の選択性膜を使用する場合、異なる成分(b)または異なる量の成分(b)を選択することにより、それらに標準的膜とは異なる色を与えることができる。したがって、該スタックは、好ましくは、スタックのAEMとCEMの間に可視的差異をもたらすのに十分な量の成分(b)を含む本発明の第1の観点に関連して上記した組成物から得られるAEMおよびCEMを含む。該スタックは、好ましくは少なくとも0.0005重量%、より好ましくは少なくとも0.001重量%、特に少なくとも0.01重量%の成分(b)を含む本発明の第1の観点に関連して上記した組成物から得られるAEMおよびCEMを含む。該スタックは、好ましくは4重量%未満、より好ましくは0.5重量%未満、特に0.2重量%未満の成分(b)を含む本発明の第1の観点に関連して上記した組成物から得られるAEMおよびCEMを含む。
【0102】
成分(b)は硬化後に膜中に残存することができるので、本発明はさらに、少なくとも0.0005重量%、より好ましくは少なくとも0.001重量%、特に少なくとも0.01重量%の成分(b)を含むイオン交換膜を提供する。このようなイオン交換膜は、好ましくは4重量%未満、より好ましくは0.5重量%未満、特に0.2重量%未満の成分(b)。成分(b)は、本発明の第1の観点に関連して先に定義したとおりである。
【0103】
I型光開始剤を施用する従来技術の組成物に染料または顔料を添加することは、これらの化合物はUV領域での高い吸収に起因して硬化プロセスを妨害するので、しばしば不可能である。
【実施例】
【0104】
ここで、本発明を非限定的な実施例を用いて例示するが、特記しない限り、すべての部およびパーセンテージは重量基準である。
実施例において、以下の特性は、以下に記載する方法によって測定した。
材料
Na-AMPS Sigma-Aldrichからの2-アクリロイルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸のナトリウム塩である。
DMAPAA-Q Kohjinの3-アクリルアミドプロピル-トリメチルアンモニウムクロリドである。
LiP Tosoh Corp.からのモノマーである、p-スチレンスルホン酸リチウムである。
VBTMAC Sigma-Aldrichからの4-ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリドである
TEOA Sigma-Aldrichからの共開始剤であるトリエタノールアミンである。
IO TCI Co.からの共開始剤であるジフェニルヨードニウムクロリドである。
DarocurTM 1173 BASFからのI型光開始剤である。
2223-10 Viledon(登録商標)Novatexx 2223-10(Freudenberg Filtration Technologiesからの不織ポリプロピレン/ポリエチレン多孔質支持体であり、芳香族基を含まない)である。
CL-3 国際公開WO2013011273号に記載されているようなカチオン荷電架橋剤である、N,N-(1,4-フェニレンビス(メチレン))ビス(3-アクリルアミドN,N-ジメチルプロパン-1-アミニウム)ブロミドである。
【0105】
リボフラビン、レサズリン、ローダミンB、キノリンイエローWS、ニュートラルレッドおよびクルクミンは、TCI CoからのII型光開始剤であり、水、エタノールおよびトルエンのうち1以上の溶媒中、23℃の温度で測定して、380nmより長い波長に吸着極大を有する。
【0106】
エリスロシンB、エオシンY二ナトリウム塩、フラビンモノヌクレオチド、ルミクロム、亜鉛フタロシアニン、ローズベンガル、メチレンブルー、アクリジン、サフラニン-O、1-アミノ-アントラキノン、カルミン酸、チオミヒラーケトン、マルチウスイエロー、エチルバイオレット、カンファーキノン、キナルジンレッドおよびフルオレセインナトリウム塩はSigma-AldrichからのII型光開始剤であり、水、エタノールおよびトルエンのうち1以上の溶媒中、23℃の温度で測定して、380nmより長い波長に吸着極大を有する。
【0107】
1,4-アントラキノン、ベンゾフェノン、ミヒラーケトン、アントラキノン-2-スルホネート、イソプロピルチオキサントン(ITX)はSigma-Aldrichからの光学的に活性な参照分子であり、水、エタノールおよびトルエンのうち1以上の溶媒中、23℃の温度で測定して、380nmより長い波長に吸着極大を有する。
【0108】
いくつかの光開始剤の特性の概要を表1に示す。
【0109】
【0110】
表1において、Abs.max.(nm)は、第3列に明記した溶媒中、23℃の温度で測定したときのnmでの吸収極大を意味する。
表1に示した吸収極大は、Varian Cary 100集中ダブルビームUV/Vis分光光度計を用いて測定した。測定は、23℃において、経路長1mmの石英キュベットを用いて、溶媒(純水、エタノールまたはトルエン)中の0.01重量%の濃度の光開始剤で行った。吸収スペクトルは800~200nmで測定した。
【0111】
光開始剤を包含する組成物の硬化速度は、Sylvania ES50 V4 620LM DIM 865 36°SLランプを備えるMettler Toledo DSC822e示差走査熱量計(DSC)で試験した。
【0112】
膜実施例1~34および膜比較例CEX1~CEX4の調製
以下の表2に記載する組成物は、明記した構成成分を純水に溶解することにより調製した(水を補って量を100重量%にする)。表2の最終列において、「A」はアニオン性交換膜(CEM)を意味し、「C」はカチオン性交換膜(AEM)を意味する。
表2において、「時間(秒)」は、組成物が90%硬化するのに必要な秒での時間を意味する。組成物が90%硬化した点は、上記DSC法によって決定した。
【0113】
手順:20mgの各被験組成物を25℃でDSCパンに入れ、Sylvania ES50 V4 620LM DIM 865 36°SLランプを用いて1cmの距離から10分間照射した。硬化に続いて、同じ溶媒中の被験組成物に使用されているものと同じ光開始剤を20mg含有する参照DSCパンに対して、生じた反応熱を測定した。被験組成物は、秒での硬化時間(すなわち、組成物が90%硬化するのに必要な秒での時間)が300秒未満である場合、許容可能であるとみなした。好ましくは、硬化時間は150秒未満であった。結果を表2に示す。
【0114】
【0115】
【0116】
【0117】
表2からのいくつかの実施例に関し、光開始剤を含むものおよび含まないもので、組成物の減衰係数を決定した。比率(A1/A2)>1.5が好ましい。結果を下記の表3に示す。
A1は、波長Xnmにおける組成物の減衰係数であり;
A2は、成分(b)を除外した点を除き該組成物と同一の組成物の波長Xnmにおける減衰係数であり;そして
Xnmは、成分(b)の吸収極大の波長である。
【0118】
【0119】
アニオン交換膜(AEM)は、表4に記載する組成を用いて調製した。
【0120】
【0121】
表4に記載した組成物を、100μmのMeyerバーを用いてPETシートに施用した。多孔質支持体(2223-10)を組成物の層に置き、過剰な組成物をこすり落とした。その後、多孔質支持体中に存在する組成物を、中圧水銀バルブ(240 W/cm、100%)を備えたHeraeus F450マイクロ波駆動UV硬化システムを装備し、5m/分に設定されたコンベヤーベルト上に置くことによって硬化させて、AEMを得た。
【0122】
膜中の光開始剤の存在は、可視的に、分光光学的に、または分析的に決定することができる。
光開始剤の量は、抽出(2回)により分析的に決定した。分析は、10×10cmのAEM片を小さな長方形に切断し、これを20mLのガラス容器に入れ、5mLの純水を加えることによって行った。ガラス容器に蓋をし、光から保護するためにアルミニウム箔で包んだ。ガラス容器を、125RPMのロータリーシェーカーで24時間にわたり振盪した。その後、ガラス容器の内容物を0.45μmセルロースフィルターに通して濾過し、HPLCバイアルに移した。
【0123】
分析方法HPLC
機器: Waters ACQUITY arc HPLC
検出器: 2998 ACQ-PDA
カラム: TKSgelODA-100V HPLCカラム(4.6×150、5μm)
最大圧力: 450[bar]
カラム温度: 40[℃]
試料温度: 5[℃]
吸光度、分離: 254、270、280、440、540、485(4.8)[nm]
254nm=リボフラビンモノホスフェートの同定
485nm=エリスロシンBの同定
注入量: 100[マイクロリットル]
実行時間: 24[分]
次回注入遅延: 0[分]
取り付けた試料ループ: 250[マイクロリットル]
溶媒: A:アセトニトリル+0.1%トリフルオロ酢酸
B:純水+0.1%トリフルオロ酢酸
【0124】
【0125】
【国際調査報告】