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  • 特表-リチウム化酸化物の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-23
(54)【発明の名称】リチウム化酸化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 53/00 20060101AFI20230516BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20230516BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20230516BHJP
【FI】
C01G53/00 A
H01M4/525
H01M4/505
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022562066
(86)(22)【出願日】2021-04-01
(85)【翻訳文提出日】2022-12-07
(86)【国際出願番号】 EP2021058566
(87)【国際公開番号】W WO2021204648
(87)【国際公開日】2021-10-14
(31)【優先権主張番号】20168658.1
(32)【優先日】2020-04-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(71)【出願人】
【識別番号】516141989
【氏名又は名称】カールスルーエ インスティチュート フューア テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【弁理士】
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【弁理士】
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【弁理士】
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】ビアンチーニ,マッテオ
(72)【発明者】
【氏名】ハルトマン,パスカル
(72)【発明者】
【氏名】ブレツェジンスキー,トルシュテン
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AB02
4G048AC06
4G048AD03
4G048AD06
4G048AE05
5H050AA19
5H050BA16
5H050CA08
5H050GA02
5H050HA14
(57)【要約】
リチウム化酸化物の製造方法であって、前記方法は、以下の工程:
(a)ナトリウム又はカリウム水酸化物の水溶液と、ニッケルの水溶性塩、及び任意に、Co、Mn、Al、Ti、Zr、W、Mo、Ga、Nb、Ta又はMgの水溶性塩を含有する水溶液を組み合わせることによって、ニッケルと、任意にCo及びMn及びMのうちの少なくとも1種との粒子状水酸化物、酸化物又はオキシ水酸化物を製造する工程と、
(b)リチウム源を添加する工程と、
(c)少なくとも2つの異なる温度で:
(c1)酸素を含むことができる雰囲気下300~500℃で、
(c2)酸素の雰囲気下500~600℃で、
工程(b)から得られる混合物を熱処理する工程と
を含み、
工程(c2)における温度は、工程(c1)よりも高くなるように設定される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Li1+xTM1-xによるリチウム化酸化物の製造方法であって、xは0.05~0.33の範囲であり、TMは一般式(I)、

(NiaCobMnc)1-dM1 d (I)

(式中、aは0.98~1.0の範囲であり、
bは0~0.02の範囲であり、
cは0~0.02の範囲であり、
dは0~0.01の範囲であり、
は、Al、Ti、Zr、W、Mo、Ga、Nb、Ta、Mg及びこれらの少なくとも2種の組合せから選択され、
a+b+c=1である)
による元素の組み合わせであり、
前記方法は、以下の工程:
(a)ナトリウム又はカリウム水酸化物の水溶液と、ニッケルの水溶性塩、及び任意に、Co、Mn、Al、Ti、Zr、W、Mo、Ga、Nb、Ta又はMgの水溶性塩を含有する水溶液とを組み合わせることによって、ニッケルと、任意にCo及びMn及びMのうちの少なくとも1種との粒子状水酸化物、酸化物又はオキシ水酸化物を製造する工程と、
(b)リチウム源を添加する工程と、
(c)少なくとも2つの異なる温度:
(c1)酸素を含むことができる雰囲気下300~500℃、
(c2)酸素の雰囲気下500~600℃、
で工程(b)から得られる混合物を熱処理する工程と
を含み、
工程(c2)における温度は、工程(c1)よりも高くなるように設定される、方法。
【請求項2】
変数aが1.0である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(c)がガスの強制流下で行われる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
工程(c)がローラーハースキルン、プッシャーキルン又はロータリーハースキルンで行われる、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程(c1)がアルゴン又は窒素の雰囲気下で行われる、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
リチウム源がLiOH、LiO及びLiから選択される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程(c2)が2回行われる、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
工程(c1)が300~400℃の範囲の温度で行われる、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
工程(c)が常圧下で行われる、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
工程(b)が2つの粉末の混合として行われる、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、式Li1+xTM1-xによるリチウム化酸化物の製造方法に関し、ここで、xは0.05~0.33の範囲であり、TMは一般式(I)、

(NiaCobMnc)1-dM1 d (I)

(式中、aは0.98~1.0の範囲であり、
bは0~0.02の範囲であり、
cは0~0.02の範囲であり、
dは0~0.01の範囲であり、
は、Al、Ti、Zr、W、Mo、Ga、Nb、Ta、Mg及びこれらの少なくとも2種の組合せから選択され、
a+b+c=1である)
による元素の組み合わせであり、
前記方法は、以下の工程:
(a)ナトリウム又はカリウム水酸化物の水溶液と、ニッケルの水溶性塩、及び任意に、Co、Mn、Al、Ti、Zr、W、Mo、Ga、Nb、Ta又はMgの水溶性塩を含有する水溶液とを組み合わせることによって、ニッケルと、任意にCo及びMn及びMのうちの少なくとも1種との粒子状水酸化物、酸化物又はオキシ水酸化物を製造する工程と、
(b)リチウム源を添加する工程と、
(c)少なくとも2つの異なる温度:
(c1)酸素を含むことができる雰囲気下300~500℃、
(c2)酸素の雰囲気下500~600℃、
で工程(b)から得られる混合物を熱処理する工程と
を含み、
工程(c2)における温度は、工程(c1)よりも高くなるように設定される。
【背景技術】
【0002】
リチウム化した遷移金属酸化物は、現在、リチウムイオン電池のカソード活物質として使用されている。充電密度、比エネルギーなどの特性だけでなく、リチウムイオン電池の寿命又は適用性に悪影響を及ぼすサイクル寿命の低下及び容量損失などの別の特性も向上させるために、過去数年間にわたって広範な研究開発が行われてきた。製造方法を改善するために、さらなる努力が行われている。
【0003】
リチウムイオン電池のためのカソード材料の典型的な製造方法において、まず、遷移金属を炭酸塩、酸化物として、又は好ましくは塩基性であってもなくてもよい水酸化物として共沈させることにより、いわゆる前駆体を形成する。次に、この前駆体を、リチウム源、例えばLiOH、LiO又はLiCO(これらに限定されるものではない)と混合して、高温で焼成(か焼)する。リチウム塩(単数又は複数)は、水和物(単数又は複数)として、又は脱水形態で使用することができる。一般に前駆体の熱処理又は加熱処理とも称される焼成又はか焼は通常、600~1,000℃の範囲の温度で行われる。熱処理中に、固相反応が起こり、電極活物質を形成する。熱処理は、オーブン又はキルンの加熱ゾーンで実行される。
【0004】
現在もなお、容量低下の問題が残っている。容量低下の原因については様々な説があり、中でも、例えば無機酸化物又はポリマーでコーティングすることにより、カソード活物質の表面特性はが変更されている。いずれの解決策も、改善の余地を残している。
【0005】
魅力的な候補と思われる材料は、LiNiO及び関連する過リチウム化した(overlithiated)リチウムニッケル酸化物である。W.Brongerらは、Zeitschrift Fur Anorganische Und Allgemeine Chemie 1964,333,188で、アップスケールには技術的に魅力のない合成を発表しており、同じことはH.MigeonらがRevue de Chimie Minerale 1976,13,1で開示した合成にも当てはまる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】W.Brongerら、Zeitschrift Fur Anorganische Und Allgemeine Chemie 1964,333,188
【非特許文献2】H.Migeonら、Revue de Chimie Minerale 1976,13,1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、過リチウム化したリチウムニッケル酸化物、例えばLiNiO及び関連する材料(これらに限定されるものではない)を、容易にスケーラブルに製造するための合成を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
したがって、以下で本発明の方法、又は本発明による方法とも呼ばれる、冒頭で定義された方法が見出された。
【0009】
本発明の方法は、本発明の文脈において以下でそれぞれ工程(a)、工程(b)及び工程(c)、又は簡潔に(a)又は(b)又は(c)とも呼ばれる、以下の工程(a)及び(b)及び(c)を含む。
【0010】
本発明の方法は、式Li1+xTM1-xによるリチウム化酸化物の製造に関するものであり、ここで、xは0.05~0.33の範囲、好ましくは0.2~0.33の範囲であり、TMは一般式(I)、

(NiaCobMnc)1-dM1 d (I)

(式中、aは0.98~1.0の範囲であり、
bは0~0.02の範囲であり、
cは0~0.02の範囲であり、
dは0~0.01の範囲であり、
a+b+c=1であり、
は、Al、Ti、Zr、W、Mo、Ga、Nb、Ta、Mg及びこれらの少なくとも2種の組合せから選択される)
による元素の組み合わせであり、
前記方法は、以下の工程:
(a)ナトリウム又はカリウム水酸化物の水溶液と、ニッケルの水溶性塩、及び任意に、Co、Mn、Al、Ti、Zr、W、Mo、Ga、Nb、Ta又はMgの水溶性塩を含有する水溶液とを組み合わせることによって、ニッケルと、任意にCo及びMn及びMのうちの少なくとも1種との粒子状水酸化物、酸化物又はオキシ水酸化物を製造する工程と、
(b)リチウム源を添加する工程と、
(c)少なくとも2つの異なる温度:
(c1)酸素を含むことができる雰囲気下300~500℃、
(c2)酸素の雰囲気下500~600℃、
で工程(b)から得られる混合物を熱処理する工程と
を含み、
工程(c2)における温度は、工程(c1)よりも高くなるように設定される。
【0011】
TMがNiであり、xが0.33である場合のLi1+xTM1-xは、Li1.33Ni0.67に対応し、したがってLiNiOに対応することに留意されたい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、カソード活物質CAM.3(点線)及び比較例C-CAM.5(実線)のXRDスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、工程(a)~(c)について、より詳細に説明する。
【0014】
工程(a)は、ナトリウム又はカリウム水酸化物の水溶液と、ニッケルの水溶性塩、及び任意に、Co、Mn、Al、Ti、Zr、W、Mo、Ga、Nb、Ta又はMgの水溶性塩を含有する水溶液を組み合わせることを含む。
【0015】
本発明の電極活物質におけるTMは、微量のさらなる金属イオン、例えば、微量のナトリウム、カルシウム又は亜鉛などの遍在金属を不純物として含有してもよいが、このような微量は本発明の明細書において考慮されない。この文脈における微量とは、TMの全金属含有量に対して0.05モル%以下の量を意味する。
【0016】
工程(a)では、以下で溶液(α)とも呼ばれる、カリウム又はナトリウム水酸化物の水溶液が使用される。これには、ナトリウム及びカリウム水酸化物の水溶液が含まれる。ナトリウム水酸化物の水溶液が好ましい。
【0017】
溶液(α)は、例えば、溶液又はそれぞれのアルカリ金属水酸化物のエージングにより、ある程度の量のカーボネートを含有してもよい。
【0018】
溶液(α)のpH値は、好ましくは13以上、例えば14.5である。
【0019】
工程(a)では、さらに、以下で溶液(β)とも呼ばれる、Ni、及び該当する場合、Co、Mn、Al、Ti、Zr、W、Mo、Ga、Nb、Ta又はMgのうちの少なくとも1種の水溶性塩を含有する水溶液が使用される。
【0020】
ニッケル又はニッケル以外の金属の水溶性塩という用語は、25℃で25g/l以上の蒸留水への溶解度を示す塩を指し、塩の量は結晶水及びアクオ錯体から生じる水を除いて決定される。ニッケルの水溶性塩は、好ましくはNi2+のそれぞれの水溶性塩であってもよい。ニッケルの水溶性塩の例としては、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、及びハロゲン化物、特に塩化物が挙げられる。硝酸塩及び硫酸塩が好ましく、このうち硫酸塩がより好ましい。
【0021】
本発明の一実施態様において、ニッケルの濃度を広い範囲内で選択することができる。好ましくは、ニッケルの濃度は、それらが、合計で、1kgの溶液当たり1~1.8モルのNi、より好ましくは1kgの溶液当たり1.5~1.7モルのNiの範囲内にあるように選択される。本明細書で使用される「遷移金属塩」とは、ニッケル、及び該当する限り、Co、Mn、Al、Ti、Zr、W、Mo、Ga、Nb、Ta、又はMgの水溶性塩を指す。
【0022】
溶液(β)は、2~5の範囲のpH値を有してもよい。より高いpH値が望まれる実施態様では、アンモニアが溶液(β)に添加されてもよい。しかしながら、溶液(β)にアンモニアを添加しないことが好ましい。
【0023】
工程(a)において、溶液(α)と溶液(β)は、例えば、容器、例えば攪拌タンク反応器に同時に供給することによって組み合わせられる。
【0024】
工程(a)の間、アンモニアを使用するが、別々に又は溶液(α)中に供給することが好ましい。
【0025】
本発明の一実施態様において、工程(a)の終了時のpH値は、それぞれ23℃の母液で測定され、8~12.5、好ましくは10.5~12.3、より好ましくは11.0~12.0の範囲である。
【0026】
本発明の一実施態様において、(共)沈殿は、10~85℃の範囲の温度で、好ましくは20~60℃の範囲の温度で行われる。
【0027】
本発明の一実施態様において、(共)沈殿は、不活性ガス、例えばアルゴンのような希ガス、又はN下で行われる。
【0028】
工程(a)の一実施態様において、わずかな過剰の、例えば0.1~10モル%のカリウム又はナトリウム水酸化物が適用される。
【0029】
工程(a)の過程で、固体成分がTM(オキシ)ヒドロキシド、好ましくは主にNi(OH)であるスラリーが形成される。前記(オキシ)水酸化物において、Niの酸化状態は+2である。
【0030】
工程(a)の一実施態様において、オーバーフローシステムを使用して、反応容器から母液を連続的に取り出す。
【0031】
得られたスラリーからの固体は、固液分離法、例えばデカンテーション、濾過、及び遠心分によって分離することができ、濾過が好ましい。前駆体が得られる。
【0032】
好ましい実施態様において、前駆体は、例えば空気下、100~140℃の範囲の温度で乾燥される。以下で前駆体とも呼ばれる、Co及びMn及びMのうちの1種を含有してもよいニッケルの粒子状水酸化物、酸化物又はオキシ水酸化物が得られる。
【0033】
本発明の一実施態様において、前駆体は粒子形態である。本発明の一実施態様において、前駆体の平均粒径(D50)は、6~15μm、好ましくは7~12μmの範囲である。本発明の文脈における平均粒径(D50)は、例えば光散乱によって決定することができ、体積ベースの粒径の中央値を指す。
【0034】
本発明の一実施態様において、前駆体の、球形を有する粒子である二次粒子の粒子形状は球状である。球状の球体には、正確に球形である粒子だけでなく、代表的なサンプルの少なくとも90%(数平均)の最大直径と最小直径の差が10%以下である粒子も含まれる。
【0035】
本発明の一実施態様において、前駆体の比表面積(BET)は、例えばDIN-ISO 9277:2003-05に従って窒素吸着によって決定され、2~10m/gの範囲である。
【0036】
本発明の一実施態様において、前駆体は、0.5~0.9の範囲の粒径分布スパンを有してよく、このスパンは、[(D90)-(D10)]を(D50)で除したものと定義され、全てLASER分析により決定される。本発明の別の実施態様において、前駆体は、1.1~1.8の範囲の粒径分布スパンを有してもよい。
【0037】
工程(b)では、得られる前駆体がリチウム源と混合される。
【0038】
リチウム源の例は、LiO、LiNO、LiOH、Li、LiCOであり、それぞれ水を含まないか、又は該当する場合は水和物として、例えばLiOH・HOである。LiOH、LiO及びLiが好ましい。より好ましいリチウム源は水酸化リチウムである。
【0039】
好ましくは、リチウム源は、例えば、3~10μm、好ましくは5~9μmの範囲の平均粒径(D50)を有する粒子状である。
【0040】
工程(b)を実行するのに適した装置の例としては、高剪断ミキサー、タンブラーミキサー、プラウシェアミキサー及び自由落下ミキサーが挙げられる。実験室規模では、乳棒を備えた乳鉢も使用可能である。
【0041】
乾燥操作なしに行われる工程(a)から得られる湿潤フィルターケーキにリチウム源を添加することも可能であるが、工程(b)を2つの粉末、すなわちリチウム源及び前駆体の混合として行うことが好ましい。
【0042】
本発明の一実施態様において、工程(b)は、周囲温度から200℃、好ましくは20~50℃の範囲の温度で行われる。
【0043】
本発明の一実施態様において、工程(b)は、10分~2時間の持続時間を有する。工程(c)において追加の混合を行うかどうかに応じて、工程(b)において徹底的な混合が達成されなければならない。
【0044】
工程(b)において有機溶媒、例えばグリセロール若しくはグリコール、又は水を添加することが可能であるが、工程(b)を乾燥状態で、すなわち水又は有機溶媒を添加せずに行うことが好ましい。
【0045】
混合物が得られる。
【0046】
工程(c)には、工程(b)からの混合物を、少なくとも2つの異なる温度:
(c1)酸素を含むことができる雰囲気下300~500℃、
(c2)酸素の雰囲気下500~600℃、
での熱処理に供することが含まれ、ここで、工程(c2)における温度は、工程(c1)よりも高くなるように設定される。つまり、工程(c1)が500℃で行われる実施態様では、工程(c2)は、500℃よりも高い温度、例えば520~600℃で行われる。工程(c2)が500℃で行われる実施態様では、工程(c1)は、500℃より低い温度、例えば300~480℃で行われる。
【0047】
本発明の好ましい実施態様において、工程(c1)は300~400℃の範囲の温度で行われ、工程(c2)は500~600℃の範囲の温度で行われる。
【0048】
工程(c2)における酸素の雰囲気は、純酸素であってもよいし、通常の条件で決定される低量の非酸化性ガス、例えば最大5体積%の窒素又はアルゴンで希釈された酸素であってもよい。
【0049】
工程(c1)における雰囲気は、酸化性であってもよく、例えば空気、又は空気と窒素又はアルゴンなどの非酸化性ガスとの混合物であってもよい。工程(c1)における雰囲気は、酸化性であることが好ましい。さらにより好ましくは、工程(c1)における雰囲気は純酸素である。
【0050】
工程(c1)と(c2)は異なる容器で行われてもよいが、同じ容器で、工程(c1)から(c2)へ移行する際に温度、及び好ましくは雰囲気を変化させて行うことが好ましい。
【0051】
本発明の一実施態様において、工程(c)は、ローラーハースキルン、プッシャーキルン又はロータリーキルン、又は前記の少なくとも2つの組み合わせで行われる。ロータリーキルンは、そこで製造される材料の均質化が非常に良好であるという利点を有する。ローラーハースキルン及びプッシャーキルンでは、異なる工程に関する異なる反応条件を非常に容易に設定することができる。実験室規模の実験では、箱型炉、管状炉、分割管状炉も使用可能である。
【0052】
本発明の一実施態様において、本発明の工程(c)は、例えば空気、酸素又は酸素富化空気のようなガスの強制流下で行われる。このようなガスの流れは、強制ガス流と呼ばれることがある。このようなガスの流れは、一般式Li1+xTM1-xによる材料の1kg当たり0.5~15m/hの範囲の特定の流速を有することができる。体積は、通常の条件(298ケルビン及び1気圧)下で決定される。前記ガスの強制流は、水のようなガス状分解産物を除去するのに有用である。
【0053】
本発明の一実施態様において、工程(c)は、2時間~30時間の範囲の持続時間を有する。10時間~24時間が好ましい。この文脈では、冷却時間は無視される。
【0054】
工程(c)に従って熱処理した後、このようにして得られた電極活物質はさらなる処理の前に冷却される。得られた電極活物質をさらに処理する前の追加的な(任意の)工程は、篩い分け及び脱凝集工程である。
【0055】
好ましくは、このようにして得られた電極活物質は、DIN-ISO 9277:2003-05に従って決定される、0.1~0.8m/gの範囲の比表面積(BET)を有する。
【0056】
好ましくは、このようにして得られた電極活物質は、例えばXRDダイアグラムにおいて、測定可能な量の遊離LiOを示さない。
【0057】
本発明の方法を実施することにより、優れた特性を有する電極活物質が、簡単なプロセスを通じて入手可能となる。それらは、電気化学的に活性な岩塩構造を形成することにより、複数回のサイクルでも性能を安定させることができる。
【実施例
【0058】
実施例によって、本発明をさらに説明する。
【0059】
I.水酸化ニッケル(前駆体)の沈殿、工程(a.1):
容積2.3lの連続攪拌タンク反応器を用いて、窒素雰囲気下55℃で、水酸化ニッケルの沈殿を実施した。硫酸ニッケル、アンモニア、水酸化ナトリウムの水溶液を反応器に供給した。個々の流速を、12.6(プラス/マイナス0.2)のpH値、0.8のニッケルとアンモニアのモル比、及び約8時間の滞留時間を確保するように調整した。このようにして得られた固体を濾過により取り出し、脱イオン水で12時間洗浄し、120℃で16時間乾燥させた。水酸化ニッケル粉末を得た(Ni(OH)。平均粒径(D50)は10μmであった。
【0060】
II.混合工程
II.1 工程(b.1):
工程(a.1)からのNi(OH)及びLiOH・HOを、x=0.1に対応する量で混合した。混合物が得られた。
【0061】
II.2 工程(b.2):
工程(b.1)のプロトコルに従ったが、x=0.2に対応する工程(a.1)からのNi(OH)及びLiOH・HOの量を使用した。
【0062】
II.3 工程(b.3):
工程(b.1)のプロトコルに従ったが、x=0.33に対応する工程(a.1)からのNi(OH)及びLiOH・HOの量を使用した。
【0063】
II.4 工程c-(b.4):
工程(b.1)のプロトコルに従ったが、x=0に対応する工程(a.1)からのNi(OH)及びLiOH・HOの量を使用した。
【0064】
III.焼成
III.1 CAM.1の製造、工程(c.1)
工程(c1.1):工程(b.1)からの混合物を、空気中300℃で12時間加熱した。
【0065】
工程(c2.1):得られた混合物を回収した後、O流下550℃で12時間焼成した。加熱及び冷却の速度は3℃/分と設定した。CAM.1を粉末として得、篩い分けし、Ar雰囲気下で保存した。
【0066】
III.2 CAM.2の製造、工程(c.2)
工程(c1.2):工程(b.2)からの混合物を、空気中300℃で12時間加熱した。
【0067】
工程(c2.2):得られた混合物を回収した後、O流下550℃で12時間焼成した。加熱及び冷却の速度は3℃/分と設定した。CAM.2を粉末として得、篩い分けし、Ar雰囲気下で保存した。
【0068】
III.3 CAM.3の製造、工程(c.3)
工程(c1.3):工程(b.3)からの混合物を、空気中300℃で12時間加熱した。
【0069】
工程(c2.3):得られた混合物を回収した後、O流下550℃で12時間焼成した。可能なLiO不純物を低減するために、得られたサンプルを周囲温度に冷却させ、その後再び550℃で12時間加熱した。加熱及び冷却の速度は3℃/分と設定した。CAM.3を粉末として得、篩い分けし、Ar雰囲気下で保存した。
【0070】
III.4 C-CAM.4の製造、工程C-(c.4)
工程C-(c1.4):工程C-(b.4)からの混合物を、空気中300℃で12時間加熱した。
【0071】
工程C-(c2.4):得られた混合物を回収した後、O流下550℃で12時間焼成した。加熱及び冷却の速度は3℃/分と設定した。C-CAM.4を粉末として得、篩い分けし、Ar雰囲気下で保存した。
【0072】
III.5 C-CAM.5の製造、工程C-(c.5)
工程(c1.3):工程(b.3)からの混合物を、空気中300℃で12時間加熱した。
【0073】
工程C-(c2.5):得られた混合物を回収した後、O流下610℃で12時間焼成した。加熱及び冷却の速度は3℃/分と設定した。C-CAM.5を粉末として得、篩い分けし、Ar雰囲気下で保存した。
【0074】
IV.テスト
IV.1 電極の製造、一般的な手順
正極:PVDFバインダー(Solef(登録商標)5130)をNMP(Merck)中に溶解して、7.5質量%の溶液を製造した。電極の調製では、バインダー溶液(10質量%)及びカーボンブラック(Super C65、10質量%)をNMP中に懸濁させた。自転公転攪拌機(ARE-250、Thinky Corp.;日本)を使用して混合した後、本発明のCAM(又は比較用のCAM)(80質量%)を添加し、懸濁液を再度混合して、塊のないスラリーを得た。スラリーの固形分を59%に調整した。KTF-Sロールツーロールコーター(Mathis AG)を使用して、スラリーをAlホイル上にコーティングした。使用前に、すべての電極をカレンダ加工した。カソード材料の厚さは、4mg/cmに対応する100μmであった。バッテリーを組み立てる前に、すべての電極を105℃で7時間乾燥させた。
【0075】
IV.2 電解質の製造
質量比3:7のエチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネート中に1MのLiPFを含有する塩基電解質組成物(EL塩基1)を調製した。
【0076】
IV.3 テストセルの製造
II.1で記載されているように調製したカソードと、動作電極及び対極としてのリチウム金属とを含むコイン型ハーフセル(直径20mm、厚さ3.2mm)をそれぞれ組み立て、Arを充填したグローブボックス中に密封した。さらに、カソード、アノード、及びセパレータをカソード//セパレータ//Liホイルの順に重ね合わせて、ハーフコインセルを製造した。その後、0.1mLの上記(II.2)に記載されているEL塩基1をこのコインセル中に導入した。
【0077】
IV.4 セル性能の評価
コインハーフセルの性能の評価
製造したコイン型電池を使用して、セル性能を評価した。電池の性能については、セルの初期容量及び反応抵抗を測定した。
【0078】
MACCOR Inc.のバッテリーサイクラーを使用して、25℃でサイクリングデータを記録した。セルを、定電流で(galvanostatically)4.8VvsLi/Liまで充電し、C/25(1C=225mA/gCAM)の速度で2.0VvsLi/Liまで放電した。
【0079】
結果を表1にまとめている。
【0080】
【表1】
図1
【国際調査報告】