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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-15
(54)【発明の名称】光学素子を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/20 20060101AFI20230608BHJP
   G02B 5/08 20060101ALI20230608BHJP
【FI】
G03F7/20 503
G03F7/20 521
G02B5/08 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022568968
(86)(22)【出願日】2021-05-10
(85)【翻訳文提出日】2022-12-09
(86)【国際出願番号】 EP2021062304
(87)【国際公開番号】W WO2021228756
(87)【国際公開日】2021-11-18
(31)【優先権主張番号】102020206107.6
(32)【優先日】2020-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503263355
【氏名又は名称】カール・ツァイス・エスエムティー・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100229264
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 正一
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ ウィンター
(72)【発明者】
【氏名】ビタリー シュクロベール
【テーマコード(参考)】
2H042
2H197
【Fターム(参考)】
2H042DB02
2H042DB14
2H042DC01
2H042DC11
2H042DD02
2H042DD05
2H042DE00
2H042DE07
2H197BA03
2H197CA10
2H197GA05
2H197GA06
2H197GA09
2H197GA12
2H197GA21
2H197GA23
2H197GA24
2H197HA03
(57)【要約】
光学素子(11)が、回折構造(21)を有する光学面(20)を有する。光学面(20)は、最深点(T)と最高点(H)との間の距離Aと最大径Dとの比が1/10を超えるような曲面状である。光学素子(11)を製造する場合、最初に回折構造(21)が設けられる未加工光学面を有する未加工光学素子が用意される。未加工光学面は、続いて等方的堆積方法を用いてフォトレジストで被覆され、フォトレジストは、露光されてから現像される。これにより、回折構造の製造時の構造精度に対する厳しい要件を満たす、回折構造を有する光学面を有する光学素子の製造方法が得られる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回折構造(21;30;31;32)を有する光学面(20)を有する光学素子(11)を製造する方法であって、
前記光学面(20)は、
該光学面(20)の平均面法線(N)に沿って測定した前記光学面(20)上の最深点(T)と最高点(H)との間の距離Aと
前記光学面(20)の最大径D
との距離対直径比A/Dが1/10を超えるような曲面状である方法において、
前記回折構造(21;30;31;32)が設けられる未加工光学面(22)を有する未加工光学素子(25)を用意するステップと、
等方的堆積方法を用いてフォトレジスト(26、27;28、29)で前記未加工光学面(22)を被覆するステップと、
前記フォトレジストを構造化して露光するステップと、
前記フォトレジスト(26、27;28、29)を現像するステップと
を含む方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、被覆中に、前記フォトレジスト(26、27;28、29)は、5μm~20μmの範囲の厚さDで塗布されることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法において、前記塗布されたフォトレジスト(26、27;28、29)の最大厚さの20%未満である前記塗布されたフォトレジスト(26、27;28、29)の厚さ変動を特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の方法において、前記被覆は電気泳動堆積により行われることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載の方法において、前記被覆は分子層堆積により行われることを特徴とする方法。
【請求項6】
光学素子(11)であって、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法により製造された光学素子。
【請求項7】
請求項6に記載の光学素子において、投影露光装置で用いるEUVコレクタとして具現された光学素子。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の光学素子において、100mmを超える光学面(20)の直径を特徴とする光学素子。
【請求項9】
請求項6~8のいずれか1項に記載の光学素子において、回折構造(21;30;31;32)が10°を超える側壁急峻度を有することを特徴とする光学素子。
【請求項10】
請求項6~9のいずれか1項に記載の光学素子において、照明光(10)が光学素子(11)に入射すると、光学素子(11)の設計対象である前記照明光(10)の照明光波長とは異なる少なくとも1つの外来光波長が回折により抑制されるような、前記回折構造(21;30;31;32)の実施形態を特徴とする光学素子。
【請求項11】
請求項10に記載の光学素子において、前記照明光(10)が光学素子(11)に入射すると、2つの相互に異なる外来光波長域が抑制されるような、前記回折構造(21)の実施形態を特徴とする光学素子。
【請求項12】
照明系(2)であって、請求項6~11のいずれか1項に記載の光学素子を備え且つEUV放射源(3)を備えた照明系。
【請求項13】
請求項12に記載の照明系と、結像する構造を有するレチクルを配置可能な物体視野(5)に放射源(3)からの照明光(10)を伝送する照明光学ユニット(4)と、物体視野(5)を像視野(8)に結像する投影光学ユニット(7)とを備えた、EUV投影リソグラフィ用の投影露光装置。
【請求項14】
微細構造又はナノ構造コンポーネントを製造する方法であって、
感光材料からなる層が少なくとも部分的に塗布される基板(9a)を用意するステップと、
結像する構造を有するレチクル(6a)を用意するステップと、
請求項13に記載の投影露光装置を用いて、前記レチクル(6a)の少なくとも一部を前記基板(9a)の前記感光層の一領域に投影するステップと
を含む方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法により製造されたコンポーネント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、独国特許出願第10 2020 206 107.6号の優先権を主張し、その内容を参照により本明細書に援用する。
【0002】
本発明は、回折構造を有する光学面を有する光学素子を製造する方法に関する。さらに、本発明は、上記方法により製造された光学素子、当該光学素子を備えた照明系、当該照明系を備えた投影露光装置、当該投影露光装置を用いて微細構造又はナノ構造コンポーネントを製造する方法、及び当該方法により製造された微細構造又はナノ構造コンポーネントに関する。
【背景技術】
【0003】
平均面法線に沿って測定した光学面上の最深点と最高点との間の距離と最大径との距離対直径比が1/10を超えるような曲面状の光学面を有する光学素子の一例は、EUV投影露光装置の照明系の一部としてのEUVビーム用のコレクタである。このようなコレクタの一例は、特許文献1から当業者には既知である。特許文献1のコレクタの反射面は、ダイヤモンドターニング法を用いて製造される。
【0004】
特許文献2は、スプレーコートにより曲面を被覆する方法を開示している。このような方法は、光学面に回折構造を製造するためのフォトレジストの塗布に原理上は用いることができる。しかしながら、構造精度に対して厳しい要件で回折構造を製造しなければならない限り、スプレーコート法は限界に直面する。
【0005】
以下の従来技術をさらに参照されたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第9,541,685号明細書
【特許文献2】米国特許第6,352,747号明細書
【特許文献3】特開平8-146209号公報
【特許文献4】独国特許出願公開第10 2016 209 359号明細書
【特許文献5】独国特許出願公開第10 2017 221 746号明細書
【特許文献6】独国特許出願公開第10 2019 214 243号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Mitzutani, A. et al..: “Two-spherical-wave ultraviolet interferometer for making an anti-reflective subwavelength periodic pattern on a curved surface", APPLIED OPTICS Vol. 49, No. 32, pages 6268-6275 (2010)
【非特許文献2】Eckstein, H.-C. et al.: “High dynamic grayscale lithography with an LED-based micro-image stepper", Proc. Of SPIE Vol. 9780, pages 97800T-1 to 97800T-7 (2016)
【非特許文献3】Li, Z. et al.: "Towards a portable Raman spectrometer using a concave grating and a time-gated CMOS SPAD", OPTICS EXPRESS Vol. 22, No. 15, pages 18736-18747 (2014)
【非特許文献4】Xie, Y. et al.: "Fabrication of large diffractive optical elements in thick film on a concave lens surface", OPTICS EXPRESS Vol. 11, No. 9, pages 992-995 (2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、回折構造の製造時の構造精度に対する厳しい要件を満たすような、回折構造を有する光学面を有する光学素子の製造方法を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的は、請求項1に記載の特徴を有する製造方法により本発明に従って達成される。
【0010】
製造される光学素子の場合、距離対直径比A/Dは、1/8を超えることができ、1/5を超えることができ、1/4を超えることができ、1/2を超えることがででき、1/1を超えることもできる。距離対直径比の上限は1/1であり得る。平均面法線は、光学面の表面部分に対する全ての法線の方向で平均した方向平均値である。回転対称軸に対して同様に回転対称な境界面を有する回転対称光学面の場合、平均面法線の方向は回転対称軸の方向に対応する。
【0011】
光学素子の光学面は反射面であり得る。代替として、光学面は屈折面でもあり得る。未加工光学面の未加工距離対直径比は、製造する光学面の距離対直径比A/Dからのずれが10%以下であり得る。その凸/凹曲率に関して、未加工光学面は、製造する素子の光学面の基本曲率に対応する基本曲率を有し得る。
【0012】
未加工光学面をフォトレジストで被覆する前に、未加工光学面の基体を構造化可能層で被覆することができ、続いてそこに回折構造が導入される。第1に構造化可能層での基体の被覆、第2にフォトレジストの現像は、従来技術から既知である。フォトレジスト被覆ステップを用いる従来技術としてのスプレーコートとは原理上異ならないこれらのステップに関しては、Pham他による専門論文「Spraycoating of photoresist for pattern transfer on high topography surfaces」(J. Micromech. Microeng. 15 (2005) 691 to 697)及びYu他による専門論文「Spraycoating of photoresist for 3D microstructures with different geometries」(Journal of Physics: Conference Series 34 (2006) 937 to 942)を参照されたい。
【0013】
フォトレジストの現像に続いて、フォトレジスト残渣を除去することができる。フォトレジストでの被覆及びフォトレジストの現像は、製造方法中に順次繰り返し実行することもできる。従来技術から同様に既知であるように、回折構造の製造後にこれを封止層で封止することができる。
【0014】
等方的堆積方法により、フォトレジストでの未加工光学面の均質なコンフォーマルコーティングが確保される。未加工光学面に既に存在する構造は、被覆中に不鮮明になったりぼけたりせずに、フォトレジストにおいても維持される。等方性の均質な被覆はさらに、従来技術による方向性被覆法を用いてアクセスが困難又は不可能な領域も同様に所望通りにフォトレジストで被覆されることを確実にする。後続のフォトレジスト被覆ステップ中に望ましい限り、前のステップで既に製造された光回折構造の構造側壁も、フォトレジストで等方的に所望の層厚で被覆することができる。これは、既に存在する構造側壁が高い側壁急峻度を有する場合でも可能である。等方的堆積方法は、特に重力に無関係である。
【0015】
請求項2に記載の塗布層厚が、実際には有意義であることが判明している。フォトレジストの絶対塗布層厚は、5μm~15μmの範囲とすることができ、6μm~12μmの範囲とすることができ、8μm~10μmの範囲とすることができる。上記層厚は、特に8μm、9μm、及び10μmであり得る。
【0016】
請求項3に記載の等方的堆積方法により塗布されたフォトレジストの厚さ変動により、フォトレジストの厚さ効果とは無関係にフォトレジストをその後非常に明確に現像することができる。所定の表面の所定の部分における、特に回折構造を施そうとする光学面全体における厚さ変動、すなわち最大フォトレジスト厚と最小フォトレジスト厚との間の差は、15%未満とすることができ、10%未満とすることができ、5%未満とすることもできる。厚さ変動は、通常は1%を超える。塗布されたフォトレジストの絶対厚さ変動は、2μm未満であり得る。これは特に、10μmを超える絶対フォトレジスト厚に当てはまる。厚さ変動は、2μmよりも大幅に小さくすることさえでき、1.5μm未満とすることができ、1.0μm未満とすることができ、0.7μm未満とすることができ、0.5μm未満とすることができ、例えば0.4μmとすることができる。
【0017】
請求項4に記載の電気泳動堆積によるフォトレジスト被覆が、実際には有意義であることが判明している。電気泳動堆積は、米国特許第3,738,835号及び独国特許出願公開第10 258 094号から既知である。
【0018】
フォトレジスト被覆のための分子層堆積も、光学素子の回折構造の製造時に有意義であることが判明している。分子層堆積は、米国特許出願公開第2012/0121932号から既知である。
【0019】
請求項6に記載の光学素子の利点は、製造方法に関して既に上述したものに対応する。
【0020】
製造された光回折構造は、多周期回折構造、バイナリ回折構造、ターナリ回折構造、及び4つ以上の段又は構造レベルを有する回折構造であり得る。本製造方法により製造された多周期回折構造の周期数は、2以上であり得る。製造された光回折構造は、代替として又は追加として、フレネルレンズ、2次元又は多次元格子、及び計算機合成ホログラム(CGH)であり得る。
【0021】
本製造方法の利点は、請求項7に記載のEUVコレクタの場合に特に顕著である。光回折構造は、その場合は特に外来光抑制に用いることができる。これにより、EUV使用照明光に随伴して導かれる不所望の外来光が、使用光を導くための投影露光装置における下流の光学コンポーネントに入射することが防止される。
【0022】
本製造方法の利点は、請求項8に記載の光学面の直径の場合に特に顕著である。直径は、150mmを超えることができ、200mmを超えることができ、250mmを超えることができ、300mmを超えることができ、500mmを超えることができ、2mを超えることができ、5mを超えることもできる。直径の上限は10mであり得る。
【0023】
請求項9に記載の側壁急峻度が、所望の回折結果を得るのに有利であることが分かった。側壁急峻度は、20°を超えることができ、30°を超えることができ、40°を超えることができ、50°を超えることができ、60°を超えることができ、70°を超えることができ、80°を超えることができ、90°を超えることもでき、構造プロファイルが構造ベースに向けて窄まる回折構造が生じ得る。側壁急峻度の上限は、110°又は100°であり得る。好ましい側壁急峻度は、約90°である。特にブレーズド光回折格子構造の製造、すなわちブレーズド回折格子の製造には、より小さな側壁急峻度を用いることができる。
【0024】
請求項10に記載の回折構造の実施形態が、外来光の抑制に有意義であると判明している。抑制すべき外来光波長は、IR波長域、例えば10μm~11μmの範囲であり得る。抑制すべき外来光波長は、照明光の使用光波長に隣接する波長域、特にEUV又はVUV波長域、すなわち使用光波長を除いて5nm~200nmの波長帯、又は100nm~200nmの範囲にもあり得る。
【0025】
請求項11に記載の回折構造の実施形態が、LPP源(レーザ生成プラズマ)に対する要件に特に適合し、その場合、第1にレーザポンプ光波長付近の外来光波長域、及び第2に照明光の使用光波長付近の正確にこの使用光波長を除いた別の外来光波長域が、抑制され得る。
【0026】
光学素子は、特に、特に第1にVUV及び第2にIRの異なる波長域を回折させるよう設計されたマルチバンド格子であり得る。
【0027】
各外来光波長域内で、複数の離散的な外来光波長、例えばLPP放射源の場合のさまざまなパルス及び主パルス波長、又はプラズマにより生成された異なるEUV及びVUV外来光波長を抑制することができる。
【0028】
請求項12に記載の照明系、請求項13に記載の投影露光装置、請求項14に記載の製造方法、及び請求項15に記載のコンポーネントの利点は、本製造方法及び製造された光学素子に関して既に上述したものに対応する。製造されるコンポーネントは、マイクロチップ、特にメモリチップであり得る。
【0029】
本発明の例示的な実施形態を、添付図面を参照してより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】EUV投影リソグラフィ用の投影露光装置の子午線断面を概略的に示す。
図2】投影露光装置のコレクタの子午線断面を示す。
図3】製造中のコレクタの(未加工)光学面の一部の子午線断面の形態のスナップショットを示す。
図4】製造中のコレクタの(未加工)光学面の一部の子午線断面の形態のスナップショットを示す。
図5】製造中のコレクタの(未加工)光学面の一部の子午線断面の形態のスナップショットを示す。
図6】製造中のコレクタの(未加工)光学面の一部の子午線断面の形態のスナップショットを示す。
図7】側壁急峻度90°の構造で製造された3レベル回折構造を示す図6と同様の図で、回折構造を有する製造された光学素子のさらに別の実施形態として側壁急峻度45°の側壁を有する3レベル回折構造を示す。
図8】パラメータ「側壁急峻度」の定義を説明するための回折構造の2つの側壁部分を概略的に示す。
図9図6及び図7と同様の図で、多周期格子の形態の回折構造を有する製造された光学素子のさらに別の実施形態を示す。
図10図6図7、及び図9と同様の図で、複数のレベル及び複数の高低差を有する多段格子の形態の回折構造を有する製造された光学素子のさらに別の実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
最初に、マイクロリソグラフィ投影露光装置1の一般構成を説明する。
【0032】
直交xyz座標系を説明のために用いる。図1において、x軸は図の平面に対して垂直に延びる。y軸は右向きに延びる。z軸は下向きに延びる。個々のコンポーネントの説明に関連して、図2以降、x軸が図1に示すグローバル座標系のx軸と平行に延びてx軸及びy軸がそれぞれ各光学面に近似する主平面を張るように配置されたローカル直交座標系を用いる。
【0033】
図1は、マイクロリソグラフィ投影露光装置1を子午線断面で概略的に示す。投影露光装置1の照明系2は、放射源3のほかに、物体平面6への物体視野5の露光用の照明光学ユニット4を有する。この場合、物体視野5に配置されたレチクル6aが露光され、当該レチクルはレチクルホルダ6bにより保持されている。投影光学ユニット7が、物体視野5を像平面9の像視野8に結像する働きをする。レチクル上の構造が、像平面9の像視野8の領域に配置されたウェーハ9aの感光層に結像され、上記ウェーハはウェーハホルダ9bにより保持されている。
【0034】
レチクルホルダ6bは、レチクル変位ドライブ9cにより駆動され、ウェーハホルダ9bは、ウェーハ変位ドライブ9dにより駆動される。2つの変位ドライブ9c、9dによる駆動はy方向に沿って相互に同期して行われる。
【0035】
放射源3は、5nm~30nmの範囲の放出使用放射線を有するEUV放射源である。これは、プラズマ源、例えばGDPP(ガス放電プラズマ)源又はLPP(レーザ生成プラズマ)源であり得る。例として、10.6μmの波長で、すなわち赤外域で動作する炭酸ガスレーザにより、スズを励起してプラズマを形成することができる。シンクロトロンベースの放射源も放射源3に用いることができる。当業者は、かかる放射源に関する情報を例えば米国特許第6,859,515号において得ることができる。放射源3から出るEUV放射線10は、コレクタ11により集束される。対応するコレクタの基本構成は、特許文献1から既知である。コレクタ11の下流において、EUV放射線10は中間焦点面12を通って伝播した後に、複数の視野ファセット13aを有する視野ファセットミラー13に入射する。視野ファセットミラー13は、物体平面6と光学的に共役な照明光学ユニット4の平面に配置される。
【0036】
EUV放射線10を、以下では照明光又は結像光とも称する。
【0037】
視野ファセットミラー13の下流において、EUV放射線10は、複数の瞳ファセット14aを有する瞳ファセットミラー14により反射される。瞳ファセットミラー14は、投影光学ユニット7の瞳平面と光学的に共役な照明光学ユニット4の瞳平面に配置される。瞳ファセットミラー14と、ビーム経路の順序で示すミラー16、17、及び18を有する転写光学ユニット15の形態の結像光学アセンブリとを用いて、視野ファセットミラー13の視野ファセット13aは、相互に重ね合わせて物体視野5に結像される。転写光学ユニット15の最終ミラー18は、斜入射ミラー(GIミラー)である。
【0038】
図2は、コレクタ11をより詳細に示す。当該コレクタは、放射線3がLPP源として具現される限り、プラズマを生成するポンプ光用の貫通開口19を有する。上記ポンプ光は、例えば10.6μmの赤外波長域のポンプ光波長を有し得る。
【0039】
コレクタ11は、以下でさらにより詳細に説明する方法に従って製造される光学素子の一例である。
【0040】
コレクタ11は、回折構造21を有する光学面20を有し、製造方法の結果としてのその一部を図6及び図7に例として示す。回折構造21は、コレクタ11のコレクタ反射の設計対象である照明光10の使用照明光波長とは異なる外来光波長を抑制する働きをする。抑制すべき外来光波長は、第1にポンプレーザのIR波長、及び第2に例えば13nmの使用光波長未満の領域の、且つ当該使用光波長から例えば250nmの領域までの領域の、生成されたプラズマにより使用光波長のほかに付加的に生じたEUV又はVUV波長であり得る。回折構造21は、2つの相互に異なる外来光波長域、例えば第1にIR波長域及び第2にVUV波長域を抑制するように特に設計され得る。
【0041】
コレクタ11の光学面20は凹面状である。光学面20の平均面法線Nが、光学面20の回転対称軸上に延びる。面法線Nは、コレクタ11のローカルxyz座標系のz軸と平行に延びる。上記平均面法線Nに沿って測定して、光学面20の最深点Tと光学面20の縁の最高点Hとの間に距離Aがある。z方向から見ると、コレクタ11の光学面20は丸く直径Dを有する。距離対直径比A/Dは、コレクタ11の光学面20の曲率の測度である。コレクタ11の場合、この比A/Dは約1/4である。コレクタ11を一例とした製造すべき回折構造を有する光学素子の実施形態に応じて、比A/Dは1/10~1/1の範囲にある。
【0042】
光学面20の直径Dは、100mmを超え、図示の例示的な実施形態では約150mmである。コレクタを一例とした光学素子の実施形態に応じて、光学面20の最大径は100mm~10mの範囲にあり得る。
【0043】
回折構造21を有する光学面20を有するコレクタ11を製造する方法を、図3図6を参照して以下で説明する。図3は、製造方法のスナップショットを示す。これは、製造方法の過程で光学面20になる未加工光学面22の一部を非常に大きく拡大した図で示す。未加工光学面22の基体23が、構造化可能層24を担持し、そこに回折構造が導入される。
【0044】
未加工光学面22を有する未加工光学素子25は、完成したコレクタ11の距離対直径比A/Dからのずれが10%以下である未加工距離対直径比を有する。よって、未加工光学面22は、完成した光学素子11の曲率に対応する曲率を有する。
【0045】
図3に示すスナップショット図において、構造化可能層24は、フォトレジストの部分26、27で構造化した形で被覆される。このコーティングは、等方的堆積方法を用いて行われる。フォトレジストでの未加工光学素子25の被覆のための等方的堆積方法として、第1に電気泳動堆積の方法、及び第2に分子層堆積の方法が代替的に利用可能である。
【0046】
電気泳動堆積(EPD)中に、コロイド粒子が電場の影響下で電極すなわち未加工光学面22に堆積される。この堆積方法はコンフォーマルであり、フォトレジスト部分26、27が塗布部分の構造化可能層24の形状を正確に再現する。フォトレジストの部分26、27は、5μm~20μmの範囲の、例えば6μm、8μm、又は10μmの厚さdで塗布される。未加工光学面22のxyフットプリントにおける厚さdの厚さ変動は、2μm未満であり、特に1μm未満、0.5μm未満であり、0.4μmの値を達成することができる。例として、塗布されたフォトレジスト部分26、27の厚さは、コレクタ11の未加工光学面22全体で0.4μm以下の変動があり、例えば7.8μm~8.2μmであり得る。
【0047】
水性懸濁液をEPDフォトレジストとして用いることができ、この懸濁液中の固体をミセルと称する。これらのミセルは、アクリルコポリマーシェルからなり得るものであり、イオン化可能なアミノ基の表面電荷により安定化される。当業者は、電気泳動堆積に関する詳細を米国特許第3,738,835号、独国特許出願公開第19 258 094号、及び欧州特許第0 176 356号において得ることができる。
【0048】
フォトレジスト部分26、27は、堆積セルで堆積される。導電性のワーク、すなわち未加工光学素子25に電位が印加され、この電位の極性はフォトレジストの帯電セルを引き寄せ、これらのセルは構造化可能層24上に凝集して均一な膜を形成する。フォトレジスト部分26、27の層厚dと部分26、27の分布とは、印加される堆積電圧、堆積温度、及び堆積滞留時間に応じて変わり得ると共に、それに対応してこれらにより制御され得る。
【0049】
図4は、フォトレジストの現像後、すなわちフォトレジスト部分26、27のエッチング除去後の状況を示す。2つのレベル、すなわちフォトレジスト部分26、27があった高い方のレベルN1と、構造化可能層24が露出した、すなわちフォトレジストで覆われていなかった深い方のレベルN2とが構造化可能層に形成されている。高い方のレベルN1と深い方のレベルN2との間の構造側壁Fの側壁急峻度は、十分な近似において90°である。よって、側壁Fは、第1に高い方のレベルN1及び第2に低い方のレベルN2の表面に対して垂直である。
【0050】
図8は、パラメータ「側壁急峻度角度」の定義を説明する。異なる構造の2つの側壁F及びFを例として示す。側壁急峻度90°の側壁Fは、水平線(図3図7のxy平面に対応)と90°の角度をなす。側壁急峻度10°の側壁Fは、水平線Hと約10°の角度をなす。
【0051】
図5は、未加工光学面22の構造化可能層24をフォトレジストの部分28、29でもう一度被覆したさらに別の第2被覆ステップ後の状況を示す。電気泳動堆積を用いた被覆により、フォトレジスト部分28、29の形状は、構造化可能層24に導入済みの構造に正確に従う。したがって、フォトレジスト部分26、27は、2つのレジストレベルR1(高い方のレベル)及びR2(深い方のレベル)を示し、両者間の高低差ΔRは、図4に示す製造ステップ中の構造化可能層24のレベルN1とN2との間の高低差ΔNに完全に等しい。
【0052】
構造化可能層24の側壁Fの領域でも、図5に示す被覆ステップ後にy方向に測定して厚さdのフォトレジストが存在する。よって、構造化可能層24の側壁Fは、所望であればフォトレジストで確実に覆われる。
【0053】
図6は、フォトレジスト部分26、27での未加工光学面22の現像後の、製造すべき回折構造に関して仕上げられた光学面20を示す。回折構造は、3つのレベルN1、N2、及びN3を有する3部構造として具現される。
【0054】
最深レベルN3は、フォトレジスト部分28、29間に隙間があって構造化可能層24がエッチングプロセス可能であった場所である。レベルN2とN3との間の側壁も、十分な近似において90°である側壁急峻度を有する。
【0055】
回折構造20による3部構造では、高低差ΔN1/2、ΔN2/3の構成とxy平面でのレベルN1、N2、及びN3の大きさとに応じて所望の外来光抑制を達成することができる。
【0056】
代替的な分子層堆積の方法の場合、第1にフォトレジスト部分26、27及び第2にフォトレジスト部分28、29が、上述のような電気泳動堆積ではなく分子層堆積により堆積される。かかる方法は、例えば米国特許出願公開第2012/0121932号に記載されている。フォトレジストは、周期的に実行される2つ以上の自己律速型の表面反応により堆積される。その際に分子フラグメントが堆積する。分子ガラスを形成し複数の成分からなるフォトレジスト系を、フォトレジストとして用いることができる。これらの成分の1つである光酸(光酸発生剤、PAG)は、複数のステップにおける適当な波長での照射の結果として酸を放出し、この酸は、系の短時間加熱(ポストエクスポージャベーク、PEB)の際にフォトレジスト系の他の成分間の反応を触媒的に引き起こす。複数の成分反応が照射光子により開始されるので、このプロセスを化学増幅と称する。
【0057】
代替として、自身と反応するクマリン誘導体に基づくフォトレジスト系をフォトレジストとして用いることができ、これらの誘導体は、300nmを超える波長でUV露光すると[2+2]環化付加を起こす。結果として、官能基の数に応じて、分子ダイマー、分子鎖、又は分子ネットワークがフォトレジスト系の分子に生じ得る。透明のアモルファス膜を形成する1,3-ジベンジル-5-tert-ブチルクマリンエステル及び3,5-ジ-tert-ブチルベンジルクマリンエステルを利用することが好ましい。露光後に、未露光領域のモノマーを高真空装置で蒸発させることができ、その結果、「ドライ」フォトリソグラフィに関してではあるがフォトレジストの特性が得られる。
【0058】
フォトレジスト部分の除去後に、製造された回折構造21に封止層又は保護層を設けることができる。これは、例えば米国特許第9,640,291号及び米国特許出願公開第2016/0086681号から既知の原子層堆積(ALD)により行うことができる。特に、モリブデン-ケイ素二重構造が保護層として働き得る。かかる積層体の詳細は、従来技術から既知である。
【0059】
方法ステップ「フォトレジストの現像」及び「フォトレジスト残渣の除去」は、特許文献2から既知である。
【0060】
図7は、図6と同様の図で、光学素子、すなわち特にコレクタ11の製造中に回折構造21の代わりに又は以下でも説明する回折構造の代わりに製造され得る回折構造30のさらに別の実施形態を示す。図2図6に示す、特に図3図6に示す実施形態に関して既に上述したものに対応するコンポーネント及び特徴は、同じ参照符号を有し、再度詳述しない。
【0061】
回折構造30も、3つの構造レベルN1、N2、及びN3を有する。第1にレベルN1及びN2間、第2にレベルN2及びN3間の側壁Fは、40°又は45°の範囲の側壁急峻度を有する。
【0062】
側壁急峻度が特に10°~80°の範囲の、例えば30°~60°の範囲の側壁Fを有する回折構造が、特にグレースケールリソグラフィを用いて製造され得る。当業者は、このような側壁急峻度を有する側壁Fの対応する製造技術に関する情報をA. Grushina(Advanced Optics Techn. 2019; 8 (3 to 4): 163-169)、T. Weichelt他(Optics Express, Volume 25, No. 18, 20983 to 20992, 2017)T. Weichelt他(Journal of Optics 18 (2016) 125401)、C. Stilson他(Proceedings of SPIE 8973: Micromachining and Microfabrication Process Technology XIX, No. 8973 (March 2014))、K. Reimer他(Proceeding SPIE Vol. 3008, pp. 279 to 288, 1997)、T.J. Suleski(Applied Optics, Volume 34, No. 32, 7507 to 7517, 1995)、及びD.C. O'Shea他(Applied Optics, Volume 34, No. 32, 7518 to 7526, 1995)による専門論文、並びに上記論文中に示される参考文献において得ることができる。
【0063】
ブレーズド回折構造は、特に所定の側壁急峻度で製造され得る。
【0064】
図9及び図10を参照して、光学素子、すなわち特にコレクタ11の製造中に上述の回折構造の代わりに製造され得る回折構造31、32又は光学格子の2つの実施形態を以下で説明する。図2図8に示す、特に図6及び図7に示す実施形態に関して既に上述したものに対応するコンポーネント及び特徴は、同じ参照符号を有し、再度詳述しない。
【0065】
図9に示す回折構造31は、周期T1及びT2を有する多周期回折格子として具現される。以下のことが言える:T1=7T2であり、ここで、比T1/T2は、例えば1.1:1~100:1の範囲とすることができ、この範囲外とすることもできる。よって、周期T2は、周期T1内に合計7回存在し、周期T1のポジ構造PSが合計4.5格子周期T2にわたって延び、格子周期T1のネガ構造NSが残りの2.5格子周期T2にわたって延びる。よって、周期T1を有する格子のデューティサイクルは9/5である。周期T1を有する格子の高低差ΔNT1は、周期T2を有する格子の高低差ΔNT2の大きさの約5倍である。
【0066】
よって、周期T2を有する格子のデューティサイクルは1:1である。したがってその点では、各ポジ構造は、y方向に沿って延びる格子延在方向に、周期T2を有する格子のネガ構造の1つと同じ広さを有する。
【0067】
格子周期T1、T2により、高低差ΔNT1、ΔNT2により、且つ格子周期T1、T2の2つの格子のデューティサイクルによっても、回折構造31の外来光抑制特徴を予め細かく規定することができる。
【0068】
図10に示す回折構造32は、格子周期Tを有する多段回折格子として具現される。概して、回折構造32は、1周期中に7つの異なる回折レベルN1~N7を有し、レベルNi+1の構造高さはそれぞれレベルNiの構造高さよりも小さい。周期T中のこれらの構造レベルの順序は、N1、N2、N3、N4、N6、N5、N7、N5、N6、N4、N3、及びN2である。回折構造32の多周期格子の実施形態に応じて、他の構造レベル数及び他の順序も可能である。
【0069】
さらに、回折構造32は、2つの異なる高低差ΔNi/j及びΔNk/lを有する。図10の例示的な実施形態においてレベルN1/N2、N2/N3、N4/N6、及びN5/N7間にある大きい方の高低差ΔNi/jは、レベルN3/N4、N6/N5間にある高低差ΔNk/lの大きさの約2倍である。
【0070】
最深レベルN7の周囲では、回折構造32のレベル配置はxz平面と平行な平面33に関して鏡面対称である。
【0071】
回折構造32の外来光抑制パラメータは、レベルN1~N7の相対構造高さ、レベルN1~N7の構造高さ順序により、且つ高低差ΔNi/j及びΔNk/lによっても予め細かく規定することができる。
【0072】
回折構造32の実施形態に応じて、他の絶対高低差数及び他の何らかの数の異なる高低差も可能である。
【0073】
微細構造又はナノ構造コンポーネントの、特に半導体コンポーネントの、例えばマイクロチップのリソグラフィ製造のために、投影露光装置1を用いて、物体視野5におけるレチクルの少なくとも一部が像視野8におけるウェーハ上の感光層の一領域に結像される。この場合、フォトレジストは、構造化した形で露光されてその後に現像される。スキャナとして又はステッパとしての投影露光装置1の実施形態に応じて、レチクル及びウェーハは、スキャナ動作で連続的に又はステッパ動作で段階的に、y方向に時間的に同期して移動する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【国際調査報告】