(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-06
(54)【発明の名称】電極活物質及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 53/00 20060101AFI20230629BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20230629BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20230629BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20230629BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20230629BHJP
【FI】
C01G53/00 A
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/62 Z
H01M4/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022567596
(86)(22)【出願日】2021-04-28
(85)【翻訳文提出日】2022-12-23
(86)【国際出願番号】 EP2021061173
(87)【国際公開番号】W WO2021224092
(87)【国際公開日】2021-11-11
(32)【優先日】2020-05-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(71)【出願人】
【識別番号】516141989
【氏名又は名称】カールスルーエ インスティチュート フューア テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】ビアンキーニ,マッテオ
(72)【発明者】
【氏名】ハルトマン,パスカル
(72)【発明者】
【氏名】ブレツェジンスキー,トルシュテン
(72)【発明者】
【氏名】シュヴァイドラー,ジモン
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AB02
4G048AC06
4G048AD03
4G048AE05
5H050AA07
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050EA12
5H050EA15
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA27
5H050GA29
5H050HA00
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA14
(57)【要約】
粒子状のリチウム化遷移金属酸化物の製造方法であって、以下の工程:
(a)Niを含む粒子状遷移金属前駆体を提供する工程と、
(b)前記前駆体を、少なくとも1種のリチウム化合物、及び工程(b)で得られる混合物全体に対して、0.1~5質量%の量の、NaCl、KCl、CuCl2、B2O3、MoO3、Bi2O3、Na2SO4及びK2SO4から選択される少なくとも1種の処理添加剤と混合する工程と、
(c)少なくとも2つの段階で:
(c1)酸素を含むことができる雰囲気下、300~500℃で、
(c2)酸素の雰囲気下、650~850℃で、
工程(b)に従って得られる混合物を熱処理する工程と
を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
(a)Niを含む粒子状遷移金属前駆体を提供する工程と、
(b)前記前駆体を、
(b1)少なくとも1種のリチウム化合物、及び
(b2)工程(c1)の前又は後に、前駆体とリチウム化合物との合計に対して、0.1~5質量%の量の、NaCl、KCl、CuCl
2、B
2O
3、MoO
3、Bi
2O
3、Na
2SO
4及びK
2SO
4から選択される少なくとも1種の処理添加剤と
混合する工程と、
(c)少なくとも2つの段階で:
(c1)酸素を含むことができる雰囲気下、300~500℃で、
(c2)酸素の雰囲気下、650~850℃で、
工程(b)に従って得られる混合物を熱処理する工程と
を含む、粒子状のリチウム化遷移金属酸化物を製造する方法。
【請求項2】
前記リチウム化合物がLi
2O、LiOH、Li
2O
2、Li
2CO
3、及びLiHCO
3から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
粒子状混合遷移金属前駆体が、ニッケルと、Co及びMnから選択される少なくとも1種の金属と、任意に、Ti、Zr、Mo、W、Al、Mg、Nb及びTaから選択される少なくとも1種のさらなる金属とを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
粒子状遷移金属前駆体が、TMの水酸化物、炭酸塩、オキシ水酸化物及び酸化物から選択され、TMが、一般式(I)、
(Ni
aCo
bMn
c)
1-dM
d (I)
(式中、aは0.8~0.95の範囲であり、
bはゼロ~0.1の範囲であり、
cはゼロ~0.1の範囲であり、
dはゼロ~0.1の範囲であり、
Mは、Mg、Al、Ti、Zr、Mo、W、Al、Nb及びTaから選択され、
変数b及びcの少なくとも1つはゼロより大きく、
a+b+c=1である)
による金属の組み合わせである、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程(c)が、ローラーハースキルン、ロータリーキルン、プッシャーキルン、垂直キルン又は振り子キルンで行われる、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記処理添加剤が1μm~50μmの範囲の平均粒径(D50)を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程(b)の処理添加剤が、工程(c2)の間に混合物に添加される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
工程(c)が、空気、酸素富化空気又は酸素雰囲気中で行われる、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
一般式Li
1+xTM
1-xO
2(式中、TMは、Niと、Co及びMnから選択される少なくとも1種の遷移金属と、任意に、Ti、Zr、Mo、W、Al、Mg、Nb及びTaから選択される少なくとも1種のさらなる金属との組み合わせであり、xはゼロ~0.2の範囲である)による粒子状電極活物質であって、その一次粒子の平均粒径(D50)は2~15μmの範囲であり、350~700kHzの周波数範囲における音響活性が、第1サイクル中に150累積ヒット/サイクル未満である、粒子状電極活物質。
【請求項10】
その二次粒子が平均で2~35個の一次粒子で構成されている、請求項9に記載の粒子状電極活物質。
【請求項11】
(A)少なくとも1種の、請求項9又は10に記載のカソード活物質、
(B)導電状態の炭素、
(C)少なくとも1種のバインダー
を含む、カソード。
【請求項12】
請求項11に記載のカソードを含む、電気化学セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、以下の工程:
(a)Niを含む粒子状遷移金属前駆体を提供する工程と、
(b)前記前駆体を、
(b1)少なくとも1種のリチウム化合物、及び
(b2)工程(c1)の前又は後に、前駆体とリチウム化合物との合計に対して、0.1~5質量%、好ましくは0.5~5質量%の量の、NaCl、KCl、CuCl2、B2O3、MoO3、Bi2O3、Na2SO4及びK2SO4から選択される少なくとも1種の処理添加剤と
混合する工程と、
(c)少なくとも2つの段階で:
(c1)酸素を含むことができる雰囲気下、300~500℃で、
(c2)酸素の雰囲気下、650~850℃で、
工程(b)に従って得られる混合物を熱処理する工程と
を含む、粒子状のリチウム化遷移金属酸化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム化遷移金属酸化物は、現在、リチウムイオン電池の電極活物質として使用されている。充電密度、比エネルギーなどの特性だけでなく、リチウムイオン電池の寿命又は適用性に悪影響を及ぼすサイクル寿命の低下及び容量損失などの別の特性も向上させるために、過去数年間にわたって広範な研究開発が行われてきた。製造方法を改善するために、さらなる努力が行われている。
【0003】
リチウムイオン電池のためのカソード材料の典型的な製造方法において、まず、遷移金属を炭酸塩、酸化物として、又は好ましくは塩基性であってもなくてもよい水酸化物、例えばオキシ水酸化物として共沈させることにより、いわゆる前駆体を形成する。次に、この前駆体を、リチウム源、例えばLiOH、Li2O又はLi2CO3(これらに限定されるものではない)と混合して、高温で焼成(か焼)する。リチウム塩(単数又は複数)は、水和物(単数又は複数)として、又は脱水形態で使用することができる。しばしば前駆体の熱処理又は加熱処理とも称される焼成又はか焼は通常、600~1,000℃の範囲の温度で行われる。熱処理中に、固相反応が起こり、電極活物質を形成する。熱処理は、オーブン又はキルンの加熱ゾーンで実行される。
【0004】
高エネルギー密度を提供する典型的な種類のカソード活物質は、多量のNi(Niリッチ)、例えば非リチウム金属の含有量に対して、少なくとも80モル%のNiを含有する。しかしながら、この場合、充電状態におけるカソードのいくつかの不安定性の問題により、サイクル寿命が制限される。Niリッチなカソード材料を含有する電池の劣化の主要な原因は、脱リチウム化の際の大きな体積変化による機械的な粒子の破壊である。電池内の一次及び二次粒子の破壊は、破壊した粒子から発せられる音波を検出する高感度技術であるアコースティックエミッションによって、効果的にリアルタイムで調べることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の目的は、高いサイクル安定性を有するカソード活物質を提供することであり、このカソード活物質は、サイクル中に著しい粒子の破壊がないことが検出され、したがって、改善されたサイクル安定性の有望な候補である。さらに、本発明の目的は、高いサイクル安定性を有するカソード活物質の製造方法を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
したがって、以下で本発明の方法又は本発明による方法とも呼ばれる、冒頭で定義された方法が見出された。以下、本発明の方法をより詳細に説明する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の方法は、以下でそれぞれ工程(a)、工程(b)及び工程(c)、又は簡潔に(a)又は(b)又は(c)とも呼ばれる、以下の工程(a)及び(b)及び(c)を含む。
【0008】
工程(a)では、ニッケルを含む粒子状前駆体が提供される。ニッケルを含む前記前駆体は、炭酸塩、酸化物、水酸化物及びオキシ水酸化物から選択されてもよい。好ましくは、このような粒子状前駆体は、TMの水酸化物又はオキシ水酸化物であり、ここで、TMの少なくとも80モル%がニッケルである。
【0009】
本発明の一実施態様において、前記粒子状前駆体は、ニッケルと、Co及びMnから選択される少なくとも1種の金属と、任意に、Ti、Zr、Mo、W、Al、Mg、Nb及びTaから選択される少なくとも1種のさらなる金属とを含み、好ましくは、前駆体の金属含有量の少なくとも80モル%がニッケルである。
【0010】
前記前駆体は、微量のさらなる金属イオン、例えば微量のナトリウム、カルシウム又は亜鉛などの遍在金属を不純物として含有することができるが、そのような微量は本発明の明細書において考慮されない。この文脈における微量とは、前記前駆体の全金属含有量に対して0.05モル%以下の量を意味する。
【0011】
本発明の一実施態様において、粒子状の遷移金属前駆体は、TMの水酸化物、炭酸塩、オキシ水酸化物及び酸化物から選択され、ここで、TMは、一般式(I)、
(NiaCobMnc)1-dMd (I)
(式中、aは0.8~0.95の範囲、好ましくは0.85~0.91の範囲であり、
bはゼロ~0.1の範囲、好ましくはゼロ~0.05の範囲であり、
cはゼロ~0.1の範囲、好ましくは0.02~0.05の範囲であり、
dはゼロ~0.1の範囲であり、
Mは、Mg、Al、Ti、Zr、Mo、W、Al、Nb及びTaから選択され、
変数b及びcの少なくとも1つはゼロより大きく、
a+b+c=1である)
による金属の組み合わせである。
【0012】
前駆体は粒子状である。本発明の一実施態様において、前駆体の平均粒径(D50)は、4~15μm、好ましくは6~15μmの範囲、より好ましくは7~12μmの範囲である。本発明の文脈における平均粒径(D50)は、例えば光散乱によって決定することができる、体積に基づく粒径の平均値を指し、二次粒子の粒径を指す。
【0013】
本発明の一実施態様において、前駆体の二次粒子の粒子形状は、理想的な球形から逸脱しており、例えばむしろジャガイモと似ている。本発明の一実施態様において、二次粒子のアスペクト比は、1.2~3.5、好ましくは1.8~2.8の範囲である。
【0014】
本発明の一実施態様において、前駆体の比表面積(BET)は、DIN-ISO 9277:2003-05に従って、窒素吸着によって決定され、1~10m2/g、好ましくは2~10m2/gの範囲である。
【0015】
本発明の一実施態様において、前駆体は、0.5~0.9の範囲の粒径分布スパンを有してよく、このスパンは、[(D90)-(D10)]を(D50)で除したものと定義され、全てLASER分析により決定される。本発明の別の実施態様において、前駆体は、1.1~1.8の範囲の粒径分布スパンを有してもよい。
【0016】
工程(b1)では、得られた前駆体は、以下で「リチウム源」とも呼ばれる1種のリチウム化合物と混合される。
【0017】
リチウム源の例としては、Li2O、LiNO3、LiOH、Li2O2、Li2CO3、それぞれの無水物又は水和物、該当する場合、例えばLiOH・H2Oが挙げられる。LiOH、Li2O、及びLi2O2が好ましい。より好ましいリチウム源は水酸化リチウムである。
【0018】
このようなリチウム源は、好ましくは、例えば3~10μm、好ましくは5~9μmの範囲の平均粒径(D50)を有する粒子状である。
【0019】
本発明の一実施態様において、リチウム化合物の量は、前駆体のモル金属含有量に対するリチウムのモル比が1:1~1.1:1、好ましくは1.02:1~1.05:1の範囲にあるように選択される。
【0020】
工程(b2)では、NaCl、KCl、CuCl2、B2O3、MoO3、Bi2O3、Na2SO4及びK2SO4から選択される少なくとも1種の処理添加剤が、前駆体とリチウム化合物との合計に対して、0.1~5質量%、好ましくは0.5~5質量%の量で添加される。MoO3、NaCl、KCl、及びそれらの少なくとも2種の混合物、例えばNaClとKClとの共融混合物が好ましい。
【0021】
本発明の一実施態様において、前記処理添加剤は、1~50μm、好ましくは2~10μmの範囲の平均粒径(D50)を有する。
【0022】
前駆体、リチウム源、及び処理添加剤の添加の順序は重要でない。本発明の一実施態様において、まず、リチウム化合物及び処理添加剤を混合し、その後、前駆体に添加する。このような実施態様において、工程(b1)及び(b2)は同時に実行される。
【0023】
本発明の別の実施態様において、最初に工程(b1)、次に工程(b2)を行い、その後、得られた混合物を工程(c1)に付す。
【0024】
本発明の別の実施態様において、工程(b2)は、工程(c1)の後に行われる。
【0025】
本発明の一実施態様において、処理添加剤の量は、前駆体とリチウム化合物との合計に対して、0.05~5質量%の範囲であり、0.1~2.5質量%が好ましい。
【0026】
工程(b)を行うための好適な装置の例は、タンブラーミキサー、高剪断ミキサー、プラウシェアミキサー及び自由落下ミキサーである。実験室規模では、乳棒を備えた乳鉢、及びボールミルも使用可能である。
【0027】
本発明の一実施態様において、工程(b)における混合は、1分~10時間、好ましくは5分~1時間の期間にわたって行われる。
【0028】
本発明の一実施態様において、工程(b)における混合は、外部加熱なしで行われる。
【0029】
本発明の一実施態様において、工程(b)においてドーパントは添加されない。
【0030】
本発明の特定の実施態様では、工程(b)において、以下でドーパントとも呼ばれる、Mg、Al、Ti、Zr、Mo、W、Co、Mn、Al、Nb、及びTa、又は前記の少なくとも2種の組み合わせ、好ましくはAl、Ti、Zr又はWの酸化物、水酸化物又はオキシ水酸化物が添加される。
【0031】
このようなドーパントは、Mg、Ti、Zr、Mo、W、Co、Mn、Nb、及びTa、及び特にAlの酸化物、水酸化物及びオキシ水酸化物から選択される。チタン酸リチウムもまた、使用可能なチタン源である。ドーパントの例としては、ルチル及びアナターゼから選択されるTiO2(アナターゼが好ましい)、さらにTiO2・aq、TiO(OH)2などの塩基性チタニア、さらにLi4Ti5O12、ZrO2、Zr(OH)4、ZrO2・aq、Li2ZrO3、ZrO(OH)2などの塩基性ジルコニア、さらにCoO、Co3O4、Co(OH)2、MnO、Mn2O3、Mn3O4、MnO2、Mn(OH)2、MoO2、MoO3、MgO、Mg(OH)2、Mg(NO3)2、Ta2O5、Nb2O5、Nb2O3、さらにWO3、Li2WO4、Al(OH)3、Al2O3、Al2O3・aq、及びAlOOHが挙げられる。Al化合物、例えばAl(OH)3、α-Al2O3、γ-Al2O3、Al2O3・aq、及びAlOOHが好ましい。さらにより好ましいドーパントはα-Al2O3、γ-Al2O3から選択されるAl2O3であり、γ-Al2O3が最も好ましい。
【0032】
本発明の一実施態様において、このようなドーパントは、1~200m2/g、好ましくは50~150m2/gの範囲の比表面積(BET)を有する。比表面積(BET)は、例えばDIN-ISO 9277:2003-05に従って、窒素吸着によって決定することができる。
【0033】
本発明の一実施態様において、このようなドーパントはナノ結晶である。好ましくは、ドーパントの平均結晶子径は、最大100nm、好ましくは最大50nm、さらにより好ましくは最大15nmである。最小直径は、4nmであってもよい。
【0034】
本発明の一実施態様において、このようなドーパント(単数又は複数)は、1~10μm、好ましくは2~4μmの範囲の平均粒径(D50)を有する粒子状材料である。ドーパント(単数又は複数)は、通常、凝集体の形態である。その粒径は、前記凝集体の直径を指す。
【0035】
好ましい実施態様において、ドーパント(単数又は複数)は、最大1.5モル%(それぞれの前駆体の全金属含有量に対して)、好ましくは0.1~0.5モル%の量で適用される。
【0036】
工程(b)において有機溶媒、例えばグリセロール又はグリコール、又は水を添加し、ボールミルで混合することが可能であるが、工程(b)を乾燥状態で、すなわち水又は有機溶媒を添加せずに行うことが好ましい。
【0037】
工程(b)から混合物が得られる。
【0038】
工程(c)は、少なくとも2つの異なる温度で、
(c1)酸素を含むことができる雰囲気下、300~500℃、好ましくは400~485℃で、及び
(c2)酸素の雰囲気下、650~850℃、好ましくは700~825℃で、
工程(b)からの混合物を熱処理に付すことを含む。
【0039】
本発明の好ましい実施態様において、工程(c1)は、400℃~485℃の範囲の温度で行われ、工程(c2)は、725℃~825℃の範囲の温度で行われる。
【0040】
工程(c2)における酸素の雰囲気は、純酸素、又は少量の非酸化性ガス、例えば通常の条件で決定して5体積%の窒素又はアルゴンで希釈された酸素であってもよい。
【0041】
工程(c1)における雰囲気は、酸化性の、例えば空気、又は空気と窒素若しくはアルゴンなどの非酸化性ガスとの混合物であってもよい。工程(c1)における雰囲気は、酸化性であることが好ましい。さらにより好ましくは、工程(c1)における雰囲気は、純酸素である。
【0042】
工程(c1)及び(c2)は、異なる容器で行ってもよいが、同じ容器で行い、工程(c1)から(c2)に移行する際に温度、好ましくは雰囲気を変化させることが好ましい。
【0043】
本発明の一実施態様において、工程(c)は、ローラーハースキルン、プッシャーキルン又はロータリーキルン、又は前記の少なくとも2つの組み合わせで行われる。ロータリーキルンは、そこで製造される材料の均質化が非常に良好であるという利点を有する。ローラーハースキルン及びプッシャーキルンでは、異なる工程に関する異なる反応条件を非常に容易に設定することができる。実験室規模の実験では、箱型炉、管状炉、及び分割管状炉も使用可能である。
【0044】
本発明の一実施態様において、本発明の工程(c)は、例えば空気、酸素又は酸素富化空気のようなガスの強制流下で行われる。このようなガスの流れは、強制ガス流と呼ばれることがある。このようなガスの流れは、一般式Li1+xTM1-xO2による電極活物質に対して0.5~15m3/(h・kg)の範囲の特定の流速を有することができる。体積は、通常の条件(298ケルビン及び1気圧)下で決定される。前記ガスの強制流は、水のようなガス状分解産物を除去するのに有用である。
【0045】
本発明の一実施態様において、工程(c)は、2時間~30時間の範囲の持続時間を有する。10時間~24時間が好ましい。この文脈では、冷却時間は無視される。
【0046】
本発明の一実施態様において、工程(c1)は、1時間~15時間の範囲の持続時間を有する。3時間~10時間が好ましい。
【0047】
本発明の一実施態様において、工程(c2)は、1時間~15時間の範囲の持続時間を有する。5時間~12時間が好ましい。この文脈では、冷却時間は無視される。
【0048】
工程(c)に従って熱処理した後、このようにして得られた電極活物質はさらなる処理の前に冷却される。得られた電極活物質をさらに処理する前の追加的な(任意の)工程は、篩い分け及び脱凝集工程である。
【0049】
本発明の方法により、特に耐クラック性及びサイクル安定性に関して優れた特性を有する電極活物質が得られる。
【0050】
本発明の一実施態様において、工程(c)の後、電極活物質をアルコール、例えばエタノール又はメタノールで、又は水で洗浄し、その後、濾過し、乾燥させる。前記洗浄は、攪拌又はボールミルによってサポートされてもよい。
【0051】
本発明のさらなる態様は、以下で本発明の電極活物質又は本発明のカソード活物質とも呼ばれる、電極活物質に関する。本発明のカソード活物質は、本発明の方法に従って合成することができる。以下、本発明の電極活物質をより詳細に説明する。
【0052】
本発明電極活物質は粒子状であり、それらは一般式Li1+xTM1-xO2に対応し、ここで、TMは、Niと、Co及びMnから選択される少なくとも1種の遷移金属と、任意に、Ti、Zr、Mo、W、Al、Mg、Nb及びTaから選択される少なくとも1種のさらなる金属との組み合わせであり、xはゼロ~0.2の範囲であり、その一次粒子の平均粒径(D50)は2~15μmの範囲であり、350~700kHzの周波数範囲における音響活性が、第1サイクル中に150累積ヒット/サイクル未満である。これに関して、27dBを超えるカウントが少なくとも2つ記録されている場合、音響信号はヒットとみなされる。
【0053】
本発明の電極活物質は粒子状である。本発明の一実施態様において、本発明の電極活物質の平均粒径(D50)は、2~15μm、好ましくは5~10μmの範囲である。本発明の文脈における平均粒径(D50)は、例えば光散乱によって決定することができる、体積に基づく粒径の平均値を指し、二次粒子の粒径を指す。
【0054】
本発明の一実施態様において、前駆体の二次粒子の粒子形状は、理想的な球形から逸脱しており、例えばむしろジャガイモと似ている。本発明の一実施態様において、二次粒子のアスペクト比は、1.2~3.5、好ましくは1.8~2.8の範囲である。
【0055】
本発明の一実施態様において、本発明の電極活物質の比表面積(BET)は、例えばDIN-ISO 9277:2003-05に従って、窒素吸着によって決定され、0.1~1.5m2/gの範囲である。
【0056】
本発明の一実施態様において、本発明の電極活物質は、0.5~0.9の範囲の粒径分布スパンを有してよく、このスパンは、[(D90)-(D10)]を(D50)で除したものと定義され、全てLASER分析により決定される。本発明の別の実施態様において、本発明の電極活物質は、1.1~1.8の範囲の粒径分布スパンを有してもよい。
【0057】
本発明の一実施態様において、本発明の電極活物質の二次粒子は、SEM(走査型電子顕微鏡)の評価により決定されたように、平均で2~35個の一次粒子で構成されている。
【0058】
本発明のさらなる態様は、少なくとも1種の本発明の電極活物質を含む電極に関する。これらは、特にリチウムイオン電池に有用である。少なくとも1つの本発明による電極を含むリチウムイオン電池は、良好なサイクル挙動/安定性を示す。少なくとも1種の本発明の電極活物質を含む電極は、以下で、本発明のカソード又は本発明によるカソードとも呼ばれる。
【0059】
特に、本発明のカソードは、
(A)少なくとも1種の本発明の電極活物質、
(B)導電状態の炭素、
(C)バインダー又はバインダー(C)とも呼ばれる、バインダー材料、及び、好ましくは
(D)集電器
を含有する。
【0060】
好ましい実施態様において、本発明のカソードは、(A)、(B)及び(C)の合計に基づいて、
(A)80~98質量%の本発明の電極活物質、
(B)1~17質量%の炭素、
(C)1~15質量%のバインダー材料
を含有する。
【0061】
本発明によるカソードは、さらなる構成要素を含むことができる。それらは、集電器、例えばアルミホイル(これに限定していない)を含むことができる。それらは、導電性炭素及びバインダーをさらに含むことができる。
【0062】
本発明によるカソードは、簡潔に炭素(B)とも呼ばれる、導電性修飾の炭素を含有する。炭素(B)は、すす、活性炭、カーボンナノチューブ、グラフェン、及びグラファイト、及び前記の少なくとも2種の組み合わせから選択することができる。
【0063】
好適なバインダー(C)は、好ましくは、有機(コ)ポリマーから選択される。好適な(コ)ポリマー、すなわち、ホモポリマー又はコポリマーは、例えば、アニオン(共)重合、触媒(共)重合又はフリーラジカル(共)重合により得ることができる(コ)ポリマーから、特にポリエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリブタジエン、ポリスチレン、並びに、エチレン、プロピレン、スチレン、(メタ)アクリロニトリル及び1,3-ブタジエンから選択された少なくとも2種のコモノマーのコポリマーから選択することができる。ポリプロピレンも適する。ポリイソプレン及びポリアクリレートはさらに適している。ポリアクリロニトリルが特に好ましい。
【0064】
本発明の文脈において、ポリアクリロニトリルは、ポリアクリロニトリルホモポリマーだけでなく、アクリロニトリルと1,3-ブタジエン又はスチレンとのコポリマーも意味すると理解される。ポリアクリロニトリルホモポリマーが好ましい。
【0065】
本発明の文脈において、ポリエチレンは、ホモポリエチレンだけでなく、少なくとも50モル%の共重合されたエチレン、及び50モル%以下の少なくとも1つのさらなるコモノマー、例えばα-オレフィン、例えばプロピレン、ブチレン(1-ブテン)、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-ペンテン、及びまたイソブテン、ビニル芳香族のもの、例えばスチレン、及びまた(メタ)アクリル酸、ビニルアセテート、ビニルプロピオネート、(メタ)アクリル酸のC1~C10-アルキルエステル、特にメチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、n-ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、n-ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、及びまたマレイン酸、無水マレイン酸及び無水イタコン酸を含むエチレンのコポリマーも意味すると理解される。ポリエチレンはHDPE又はLDPEであり得る。
【0066】
本発明の文脈において、ポリプロピレンは、ホモポリプロピレンだけでなく、少なくとも50モル%の共重合されたプロピレン、及び50モル%以下の少なくとも1つのさらなるコモノマー、例えばエチレン、及びα-オレフィン、例えばブチレン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン及び1-ペンテンを含むプロピレンのコポリマーも意味すると理解される。ポリプロピレンは、好ましくはイソタクチックポリプロピレン又は本質的にイソタクチックポリプロピレンである。
【0067】
本発明の文脈において、ポリスチレンは、スチレンのホモポリマーだけでなく、アクリロニトリル、1,3-ブタジエン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸のC1~C10-アルキルエステル、ジビニルベンゼン、特に1,3-ジビニルベンゼン、1,2-ジフェニルエチレン及びα-メチルスチレンとのコポリマーも意味すると理解される。
【0068】
別の好ましいバインダー(C)は、ポリブタジエンである。
【0069】
他の好適なバインダー(C)は、ポリエチレンオキシド(PEO)、セルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリイミド及びポリビニルアルコールから選択される。
【0070】
本発明の一実施態様において、バインダー(C)は、50,000g/molから、1,000,000g/molまで、好ましくは500,000g/molまでの範囲の平均分子量MWを有する(コ)ポリマーから選択される。
【0071】
バインダー(C)は、架橋された又は架橋されていない(コ)ポリマーであり得る。
【0072】
本発明の特に好ましい実施態様において、バインダー(C)は、ハロゲン化(コ)ポリマー、特にフッ素化(コ)ポリマーから選択される。ハロゲン化又はフッ素化(コ)ポリマーは、1個の分子当たり少なくとも1個のハロゲン原子又は少なくとも1個のフッ素原子、より好ましくは1個の分子当たり少なくとも2個のハロゲン原子又は少なくとも2個のフッ素原子を有する少なくとも1つの(共)重合された(コ)モノマーを含む(コ)ポリマーを意味すると理解される。例としては、ポリビニルクロリド、ポリビニリデンクロリド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオリド(PVdF)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、ビニリデンフルオリド-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVdF-HFP)、ビニリデンフルオリド-テトラフルオロエチレンコポリマー、ペルフルオロアルキルビニルエーテルコポリマー、エチレン-テトラフルオロエチレンコポリマー、ビニリデンフルオリド-クロロトリフルオロエチレンコポリマー、及びエチレン-クロロフルオロエチレンコポリマーが挙げられる。
【0073】
好適なバインダー(C)は、特にポリビニルアルコール及びハロゲン化(コ)ポリマー、例えばポリビニルクロリド又はポリビニリデンクロリド、特にフッ素化(コ)ポリマー、例えばポリビニルフルオリド及び特にポリビニリデンフルオリド、及びポリテトラフルオロエチレンである。
【0074】
本発明のカソードは、電極活物質に対して、1~15質量%のバインダー(単数又は複数)を含んでいてもよい。他の実施態様において、本発明のカソードは、0.1~1質量%未満のバインダー(単数又は複数)を含んでもよい。
【0075】
本発明のさらなる態様は、本発明の電極活物質、炭素及びバインダーを含む少なくとも1つのカソードと、少なくとも1つのアノードと、少なくとも1種の電解質とを含有する電池である。
【0076】
本発明のカソードの実施態様は、上記で詳細に説明したとおりである。
【0077】
前記アノードは、少なくとも1種のアノード活物質、例えば炭素(グラファイト)、TiO2、酸化チタンリチウム、シリコン又はスズを含有してもよい。前記アノードは、集電器、例えば、銅ホイルなどの金属ホイルをさらに含有してもよい。
【0078】
前記電解質は、少なくとも1種の非水性溶媒、少なくとも1種の電解質塩、及び任意に添加剤を含んでもよい。
【0079】
電解質のための非水性溶媒は、室温で液体又は固体であり得、好ましくは、ポリマー、環状又は非環状エーテル、環状及び非環状アセタール、及び環状又は非環状有機カーボネートから選択される。
【0080】
好適なポリマーの例は、特に、ポリアルキレングリコール、好ましくはポリ-C1~C4-アルキレングリコール及びポリエチレングリコールである。ここでは、ポリエチレングリコールは、20モル%以下の1種以上のC1~C4-アルキレングリコールを含むことができる。ポリアルキレングリコールは、好ましくは、2個のメチル又はエチル末端キャップを有するポリアルキレングリコールである。
【0081】
好適なポリアルキレングリコール、特に好適なポリエチレングリコールの分子量MWは、少なくとも400g/molであり得る。
【0082】
好適なポリアルキレングリコール、特に好適なポリエチレングリコールの分子量MWは、最大5,000,000g/mol、好ましくは最大2,000,000g/molであり得る。
【0083】
好適な非環状エーテルの例は、例えば、ジイソプロピルエーテル、ジ-n-ブチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタンであり、1,2-ジメトキシエタンが好ましい。
【0084】
好適な環状エーテルの例は、テトラヒドロフラン及び1,4-ジオキサンである。
【0085】
好適な非環状アセタールの例は、例えば、ジメトキシメタン、ジエトキシメタン、1,1-ジメトキシエタン及び1,1-ジエトキシエタンである。
【0086】
好適な環状アセタールの例は、1,3-ジオキサン、及び特に1,3-ジオキソランである。
【0087】
好適な非環状有機カーボネートの例は、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート及びジエチルカーボネートである。
【0088】
好適な環状有機カーボネートの例は、一般式(II)及び(III)による化合物である
【化1】
(式中、R
1、R
2及びR
3は、同一又は異なることができ、水素及びC
1~C
4-アルキル、例えばメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル及びtert-ブチルから選択され、好ましくは、R
2及びR
3の両方ともがtert-ブチルであることはない)。
【0089】
特に好ましい実施態様において、R1はメチルであり、R2及びR3はそれぞれ水素であるか、又はR1、R2及びR3はそれぞれ水素である。
【0090】
別の好ましい環状有機カーボネートは、式(IV)のビニレンカーボネートである。
【化2】
【0091】
好ましくは、溶媒又は複数の溶媒は、水を含まない状態で、すなわち、例えば、カールフィッシャー滴定によって決定することができる1ppm~0.1質量%の範囲の含水量で使用される。
【0092】
電解質(C)は、少なくとも1種の電解質塩をさらに含む。好適な電解質塩は、特にリチウム塩である。好適なリチウム塩の例は、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiC(CnF2n+1SO2)3、リチウムイミド、例えばLiN(CnF2n+1SO2)2(式中、nは1~20の範囲の整数である)、LiN(SO2F)2、Li2SiF6、LiSbF6、LiAlCl4、及び一般式(CnF2n+1SO2)tYLiの塩である
(式中、Yが酸素及び硫黄から選択される場合、t=1であり、
Yが窒素及びリンから選択される場合、t=2であり、
Yが炭素及びケイ素から選択される場合、t=3である)。
【0093】
好ましい電解質塩は、LiC(CF3SO2)3、LiN(CF3SO2)2、LiPF6、LiBF4、LiClO4から選択され、LiPF6及びLiN(CF3SO2)2が特に好ましい。
【0094】
本発明の実施態様において、本発明による電池は、それによって電極が機械的に分離される1つ以上のセパレータを含む。好適なセパレータは、リチウム金属に対して反応しないポリマーフィルム、特に多孔性ポリマーフィルムである。セパレータのための特に好適な材料は、ポリオレフィン、特にフィルム形成の多孔性ポリエチレン及びフィルム形成の多孔性ポリプロピレンである。
【0095】
ポリオレフィン、特にポリエチレン又はポリプロピレンから構成されるセパレータは、35~45%の範囲の多孔率を有することができる。好適な細孔径は、例えば30~500nmの範囲である。
【0096】
本発明の他の実施態様において、セパレータは、無機粒子で充填したPET不織布から選択することができる。このようなセパレータは40~55%の範囲の多孔率を有し得る。好適な細孔径は、例えば80~750nmの範囲である。
【0097】
本発明による電池は、任意の形状、例えば、立方体、又は円筒形ディスク又は円筒形缶の形状を有することができるハウジングをさらに含む。一変形態様において、ポーチとして構成された金属ホイルをハウジングとして使用する。
【0098】
本発明による電池は、例えば低温(0℃以下、例えば-10℃以下さえ)で良好な放電挙動、非常に良好な放電及びサイクル挙動を示す。
【0099】
本発明による電池は、互いに組み合わされている、例えば直列に接続するか、又は並列に接続することができる2つ以上の電気化学セルを含むことができる。直列接続が好ましい。本発明による電池において、少なくとも1つの電気化学セルは少なくとも1つの本発明によるカソードを含有する。好ましくは、本発明による電気化学セルにおいて、電気化学セルの大部分は本発明によるカソードを含有する。さらにより好ましくは、本発明による電池において、すべての電気化学セルは本発明によるカソードを含有する。
【0100】
本発明はさらに、本発明による電池を機器、特にモバイル機器に使用する方法を提供する。モバイル機器の例は、車両、例えば自動車、自転車、航空機、又は水上乗り物、例えばボート又は船である。モバイル機器の他の例は、手動で動くもの、例えばコンピューター、特にラップトップ、電話、又は例えば建築部門における電動手工具、特にドリル、バッテリー式ドライバー又はバッテリー式ステープラーである。
【0101】
以下の実施例によって、本発明をさらに説明する。
【実施例】
【0102】
概要:rpm:毎分回転数
I.本発明の電極活物質の製造
I.1 前駆体TM-OH.1の製造、工程(a.1)
1kgの水当たり49gの硫酸アンモニウムの水溶液を撹拌タンク反応器に入れた。溶液を55℃に温度調節し、水酸化ナトリウム水溶液を添加することにより、pH値を12に調整した。
【0103】
硫酸遷移金属水溶液及び水酸化ナトリウム水溶液を1.8の流量比で同時に供給し、総流量を8時間の滞留時間とすることにより、共沈反応を開始させた。遷移金属溶液は、Ni、Co及びMnの硫酸塩を8.3:1.2:0.5のモル比及び1.65mol/kgの合計の遷移金属濃度で含有した。水酸化ナトリウム水溶液は、6の質量比での25質量%の水酸化ナトリウム溶液及び25質量%のアンモニア溶液を含有していた。水酸化ナトリウム水溶液を別に供給することにより、pH値を12に維持した。すべての供給の始動から始めて、母液を継続的に取り出した。33時間後、すべての供給流を停止した。得られた懸濁液を濾過し、蒸留水で洗浄し、空気中120℃で乾燥させ、ふるいにかけることにより、混合遷移金属(TM)オキシ水酸化物前駆体TM-OH.1を得た。平均粒径(D50):10μm。
【0104】
I.2 カソード活物質の製造
I.2.1 混合物の製造、(b.1)
遊星型ミキサーで、前駆体TM-OH.1を1.02のLi/(Ni+Co+Mn)モル比でLiOH一水和物と、及び水酸化リチウム及び前駆体の合計に対して1質量%のNaCl/KClの共晶混合物(KCl/NaClモル比が1:1)と混合した。
【0105】
I.2.2 焼成
それぞれの場合、加熱速度及び冷却速度は3℃/分であった。
【0106】
工程(c1.1):マッフル炉で、I.2.1から得られた混合物を乾燥空気雰囲気中で6時間かけて450℃まで加熱した。その後、周囲温度まで冷却した。予備焼成した混合物を得た。
【0107】
工程(c2.1):マッフル炉で、工程(c1.1)からの予備焼成した混合物を純酸素雰囲気中で12時間かけて750℃まで加熱した。カソード活物質CAM.1を得た。
【0108】
次に、CAM.1をエタノール(1gのCAM.1当たり1mlのエタノール)で60rpmでボールミルに付し、その後ろ過した。100℃真空中で8時間乾燥させ、完成したCAM.1が得られた。
【0109】
比較用電極活物質C-CAM.2の製造において、上記手順を繰り返したが、NaCl/KClを添加しなかった。
【0110】
II.カソード活物質の試験
II.1 電極の製造、一般的な手順
正極:PVDFバインダー(Solef(登録商標)5130)をNMP(Merck)中に溶解して、7.5質量%の溶液を製造した。電極の調製では、バインダー溶液(3質量%)及びカーボンブラック(Super C65、3質量%)をNMP中に懸濁させた。遊星遠心ミキサー(ARE-250、Thinky Corp.;日本)を使用して混合した後、本発明のCAM(又は比較用CAM)(94質量%)を添加し、懸濁液を再度混合して、塊のないスラリーを得た。スラリーの固形分を61%に調整した。KTF-Sロールツーロールコーター(Mathis AG)を使用して、スラリーをAlホイル上にコーティングした。使用前に、すべての電極をカレンダ加工した。カソード材料の厚さは100μmであり、6.5mg/cm2に対応した。バッテリーを組み立てる前に、すべての電極を105℃で7時間乾燥させた。
【0111】
II.2 電解質の製造
質量比3:7のエチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネート中で1MのLiPF6を含有する塩基電解質組成物(EL塩基1)を調製した。
【0112】
II.3 試験セルの製造
II.1で記載されているように調製したカソードと、動作電極及び対極としてのリチウム金属とを含むコイン型ハーフセル(直径20mm、厚さ3.2mm)をそれぞれ組み立て、Arを充填したグローブボックス中に密封した。さらに、カソード、アノード、及びセパレータをカソード//セパレータ//Liホイルの順に重ね合わせて、ハーフコインセルを製造した。その後、0.15mLの上記(II.2)に記載されているEL塩基1をこのコインセル中に導入した。
【0113】
III.セルの性能の評価
コインハーフセルの性能の評価
製造したコイン型ハーフセル電池を使用して、セル性能を評価した。電池の性能については、セルの初期容量及び反応抵抗を測定した。
【0114】
MACCOR Inc.のバッテリーサイクラーを使用して、25℃でサイクリングデータを記録した。最初の10サイクルでは、セルを4.3VvsLi+/Liまで定電流(galvanostatically)充電し、その後15分間の定電位充電を行い(又は充電電流がC/20未満に低下した場合はより短い時間)、C/10の速度(1C=225mA/gCAM)で3.0VvsLi+/Liまで放電させた。その後の100サイクルでは、充電及び放電の速度をそれぞれC/4及びC/2に設定し,4.3VvsLi+/Liでの定電位の長さを10に設定した。結果を表1にまとめた。
【0115】
【0116】
音響エミッション測定のセットアップ:AE計測器は、センサー、インラインプリアンプ、及びデータ収集システム(USB AE ノード、MISTRAS Group,Inc.)からなる。特徴的なAEイベントを検出するために、動作周波数範囲が125~1000kHzの差動広帯域センサー(MISTRAS Group,Inc.)を、シリコングリースを使用してカソード側のコインセルに固定した。実験室からのバックグラウンドノイズを減らすために、構造全体を高密度のフォームボックス内に設置した。すべての実験で、プリアンプゲイン、アナログフィルター、40dBのサンプリングレート、20~1000kHz、及び5MSPSをそれぞれ使用した。ヒットが27dBの閾値を超えたとき、AEを記録した。さらに、ピーク定義時間、ヒット定義時間、及びヒッロックアウト時間を、それぞれ100、200、及び200μsに設定した。記録したAE信号を、USBソフトウェア用のAEwin(MISTRAS Group,Inc.)で処理した。2カウント未満又は100kHz未満の信号を除外した。ヒット率の計算では、累積(測定)した時間依存のAE信号を、10秒間隔で取得時間に補間し、微分し、2次多項式及びウィンドウあたり20ポイントを使用して平滑化した。
【0117】
前述のセットアップでCAMの1つの電気化学サイクルを測定すると、350~700kHzの周波数範囲における音響活動が、第1サイクル中に50ヒットである、すなわち、サイレントCAMの定義に属することが見出された。
【手続補正書】
【提出日】2021-12-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
(a)Niを含む粒子状遷移金属前駆体を提供する工程
であって、この粒子状前駆体がTMの水酸化物又はオキシ水酸化物であり、TMの少なくとも80モル%がニッケルである、工程と、
(b)前記前駆体を、
(b1)少なくとも1種のリチウム化合物、及び
(b2)工程(c1)の前又は後に、前駆体とリチウム化合物との合計に対して、0.1~5質量%の量の、NaCl、KCl、CuCl
2、B
2O
3、MoO
3、Bi
2O
3、Na
2SO
4及びK
2SO
4から選択される少なくとも1種の処理添加剤と
混合する工程と、
(c)少なくとも2つの段階で:
(c1)酸素を含むことができる雰囲気下、300~500℃で、
(c2)酸素の雰囲気下、650~850℃で、
工程(b)に従って得られる混合物を熱処理する工程と
を含む、粒子状のリチウム化遷移金属酸化物を製造する方法。
【請求項2】
前記リチウム化合物がLi
2O、LiOH、Li
2O
2、Li
2CO
3、及びLiHCO
3から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
粒子状混合遷移金属前駆体が、ニッケルと、Co及びMnから選択される少なくとも1種の金属と、任意に、Ti、Zr、Mo、W、Al、Mg、Nb及びTaから選択される少なくとも1種のさらなる金属とを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
粒子状遷移金属前駆体が、TMの水酸化物、炭酸塩、オキシ水酸化物及び酸化物から選択され、TMが、一般式(I)、
(Ni
aCo
bMn
c)
1-dM
d (I)
(式中、aは0.8~0.95の範囲であり、
bはゼロ~0.1の範囲であり、
cはゼロ~0.1の範囲であり、
dはゼロ~0.1の範囲であり、
Mは、Mg、Al、Ti、Zr、Mo、W、Al、Nb及びTaから選択され、
変数b及びcの少なくとも1つはゼロより大きく、
a+b+c=1である)
による金属の組み合わせである、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程(c)が、ローラーハースキルン、ロータリーキルン、プッシャーキルン、垂直キルン又は振り子キルンで行われる、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記処理添加剤が1μm~50μmの範囲の平均粒径(D50)を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程(b)の処理添加剤が、工程(c2)の間に混合物に添加される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
工程(c)が、空気、酸素富化空気又は酸素雰囲気中で行われる、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
一般式Li
1+xTM
1-xO
2(式中、TMは、Niと、Co及びMnから選択される少なくとも1種の遷移金属と、任意に、Ti、Zr、Mo、W、Al、Mg、Nb及びTaから選択される少なくとも1種のさらなる金属との組み合わせであり、xはゼロ~0.2の範囲であ
り、少なくとも80モルのTMがニッケルである)による粒子状電極活物質であって、その一次粒子の平均粒径(D50)は2~15μmの範囲であり、350~700kHzの周波数範囲における音響活性が、第1サイクル中に150累積ヒット/サイクル未満である、粒子状電極活物質。
【請求項10】
その二次粒子が平均で2~35個の一次粒子で構成されている、請求項9に記載の粒子状電極活物質。
【請求項11】
比表面積(BET)が、DIN-ISO 9277:2003-05に従って、窒素吸着によって決定され、0.1~1.5m
2
/gの範囲である、請求項9又は10に記載の粒子状電極活物質。
【請求項12】
(A)少なくとも1種の、請求項9
から11のいずれか一項に記載のカソード活物質、
(B)導電状態の炭素、
(C)少なくとも1種のバインダー
を含む、カソード。
【請求項13】
請求項
12に記載のカソードを含む、電気化学セル。
【国際調査報告】