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  • 特表-低臭シアノアクリレート組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-07
(54)【発明の名称】低臭シアノアクリレート組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/44 20060101AFI20230630BHJP
   C09J 4/04 20060101ALI20230630BHJP
   C09J 11/08 20060101ALI20230630BHJP
   C08F 22/32 20060101ALI20230630BHJP
【FI】
C08F2/44 C
C09J4/04
C09J11/08
C08F22/32
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022561132
(86)(22)【出願日】2020-04-07
(85)【翻訳文提出日】2022-10-06
(86)【国際出願番号】 CN2020083469
(87)【国際公開番号】W WO2021203234
(87)【国際公開日】2021-10-14
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】391008825
【氏名又は名称】ヘンケル・アクチェンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト・アウフ・アクチェン
【氏名又は名称原語表記】Henkel AG & Co. KGaA
【住所又は居所原語表記】Henkelstrasse 67,D-40589 Duesseldorf,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(74)【代理人】
【識別番号】100162710
【弁理士】
【氏名又は名称】梶田 真理奈
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ズオホァ
(72)【発明者】
【氏名】ソン,チョンジエン
(72)【発明者】
【氏名】スン,チョンヤン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン,ホァチアン
【テーマコード(参考)】
4J011
4J040
4J100
【Fターム(参考)】
4J011PA64
4J011PA66
4J011PA68
4J011PA69
4J011PB40
4J011PC02
4J011PC08
4J040DA062
4J040FA121
4J040GA03
4J040HA326
4J040HB13
4J040HB23
4J040LA06
4J040MA02
4J040MA08
4J040MA10
4J100AM05P
4J100BA02P
4J100BA04P
4J100BA06P
4J100CA01
4J100DA47
4J100FA18
4J100FA27
4J100JA03
(57)【要約】
少なくとも1つのゴム強化化合物、および、少なくとも1つのβ-アルコキシアルキルシアノアクリレートを含むシアノアクリレート組成物が提供される。ゴム強化化合物とβ-アルコキシアルキルシアノアクリレートは互いによく相溶するため、エチルシアノアクリレートのような強い臭気のアルキルシアノアクリレートは組成物に必要ない。シアノアクリレート組成物の硬化物は、様々な金属に対して優れた側面衝撃とT型剥離強度を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)少なくとも1つのゴム強化化合物、および
(b)構造(I):
[式中、
は、置換されていてもよいC~Cの二価の炭化水素基、好ましくは置換されていてもよいC~Cの二価の炭化水素基、より好ましくは置換されていてもよいC~Cの二価の炭化水素基を表し、
は、置換されていてもよいC~C20の一価の炭化水素基、好ましくは置換されていてもよいC~Cの一価の炭化水素基、より好ましくは置換されていてもよいC~Cの一価の炭化水素基を表す]
で表される少なくとも1つのβ-アルコキシアルキルシアノアクリレート
を含むシアノアクリレート組成物。
【請求項2】
ゴム強化化合物が、(a)エチレン、アクリル酸メチル、および、カルボン酸硬化部位を有するモノマーの組み合わせの反応生成物、(b)エチレンおよびアクリル酸メチルのコポリマー、(c)塩化ビニリデン-アクリロニトリルコポリマー、(d)塩化ビニル/酢酸ビニルコポリマー、(e)ポリエチレンとポリ酢酸ビニルとのコポリマー、並びにそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載のシアノアクリレート組成物。
【請求項3】
ゴム強化化合物が、好ましくは、エチレン、アクリル酸メチル、およびカルボン酸硬化部位を有するモノマーの組み合わせの反応生成物であり、前記反応生成物が、離型剤、酸化防止剤、ステアリン酸およびポリエチレングリコールエーテルワックスを実質的に含まない、請求項1または2に記載のシアノアクリレート組成物。
【請求項4】
β-アルコキシアルキルシアノアクリレートが、好ましくは、β-エトキシエチルシアノアクリレートである、請求項1~3のいずれかに記載のシアノアクリレート組成物。
【請求項5】
β-アルコキシアルキルシアノアクリレートとゴム強化化合物との重量比が、好ましくは100:0.5~100:50、より好ましくは100:3~100:30、さらにより好ましくは100:10~100:30である、請求項1~4のいずれかに記載のシアノアクリレート組成物。
【請求項6】
シアノアクリレート組成物が、アルコキシル基を有しないアルキルシアノアクリレートを実質的に含まない、請求項1~5のいずれかに記載のシアノアクリレート組成物。
【請求項7】
少なくとも1つの酸安定剤、および/または、少なくとも1つの促進剤、および/または、少なくとも1つのカルボン酸をさらに含む、請求項1~6のいずれかに記載のシアノアクリレート組成物。
【請求項8】
a)少なくとも1つのゴム強化化合物;
b)構造(I):
[式中、
は、置換されていてもよいC~Cの二価の炭化水素基、好ましくは置換されていてもよいC~Cの二価の炭化水素基、より好ましくは置換されていてもよいC~Cの二価の炭化水素基を表し、
は、置換されていてもよいC~C20の一価の炭化水素基、好ましくは置換されていてもよいC~Cの一価の炭化水素基、より好ましくは置換されていてもよいC~Cの一価の炭化水素基を表す]
で表される少なくとも1つのβ-アルコキシアルキルシアノアクリレート;
c)少なくとも1つの酸安定剤;
d)少なくとも1つの促進剤;および
e)少なくとも1つのカルボン酸
を含み、
構造(I)のβ-アルキルシアノアクリレートとゴム強化化合物との重量比が、好ましくは100:0.5~100:50である、請求項1~7のいずれかに記載のシアノアクリレート組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載のシアノアクリレート組成物の硬化生成物。
【請求項10】
請求項1~8のいずれかに記載のシアノアクリレート組成物によって接着された物品。
【請求項11】
a)50~80℃の温度ですべての成分を混合し、ゴム強化化合物を完全に溶解して透明な溶液を得る工程、および、
b)工程a)からの溶液を室温まで冷却する工程
を含む、請求項1~8のいずれかに記載のシアノアクリレート組成物の製造方法。
【請求項12】
a)請求項1に記載のシアノアクリレート組成物を、少なくとも1つの基材に塗布する工程、および、
b)前記組成物が固着するのに十分な時間、基材を合わせる工程、
含む、2つの基材を接着する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つのゴム強化化合物および少なくとも1つのβ-アルコキシアルキルシアノアクリレートを含むシアノアクリレート組成物に関する。ゴム強化化合物とβ-アルコキシアルキルシアノアクリレートとは互いによく相溶するため、エチルシアノアクリレートのような臭気の強いアルキルシアノアクリレートは本組成物に必要ない。シアノアクリレート組成物の硬化物は、金属、プラスチックおよび木材などの種々の材料に対して優れた側面衝撃とT型剥離強度を示す。
【背景技術】
【0002】
シアノアクリレート接着剤は、その瞬間接着性で周知であり、種々の分野で広く使用されている。従来のシアノアクリレート接着剤には、その硬化物が良好な耐衝撃性を示さないという欠点があるため、ゴム強化化合物により補強する必要がある。エチルシアノアクリレートなどのアルキルシアノアクリレートモノマーは、ゴム強化化合物と十分に相溶性があり、強化シアノアクリレート接着剤組成物を作ることが実証されている。しかしながら、エチルシアノアクリレートは、シアノアクリレート接着剤組成物の使用を不快にする強い臭気を有する。さらに、エチルシアノアクリレートは、硬化したシアノアクリレート接着剤のブルーミングを引き起こすことが多いため、シアノアクリレート接着剤によって接着された物品の美的外観が重要である場合、使用には適していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、良好な側面衝撃および/またはT型剥離強度を有する低臭気シアノアクリレート組成物を開発する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
(a)少なくとも1つのゴム強化化合物、および
(b)構造(I):
[式中、
は、置換されていてもよいC~Cの二価の炭化水素基、好ましくは置換されていてもよいC~Cの二価の炭化水素基、より好ましくは置換されていてもよいC~Cの二価の炭化水素基を表し、
は、置換されていてもよいC~C20の一価の炭化水素基、好ましくは置換されていてもよいC~Cの一価の炭化水素基、より好ましくは置換されていてもよいC~Cの一価の炭化水素基を表す]
で表される少なくとも1つのβ-アルコキシアルキルシアノアクリレート
を含むシアノアクリレート組成物に関する。
【0005】
本発明は、シアノアクリレート組成物の硬化物にも関する。シアノアクリレート組成物の硬化物は、金属、プラスチックおよび木材などの様々な材料に対して優れた側面衝撃およびT型剥離強度を示す。
【0006】
本発明はまた、シアノアクリレート組成物によって接着された物品にも関する。
【0007】
本発明は、
a)50~80℃の温度ですべての成分を混合し、ゴム強化化合物を完全に溶解して透明な溶液を得る工程、および、
b)工程a)からの溶液を室温まで冷却する工程
を含む、シアノアクリレート組成物の製造方法にも関する。
【0008】
また、本発明は、
a)シアノアクリレート組成物を少なくとも1つの基材に塗布する工程、および、
b)前記組成物が固着するのに十分な時間、基材を合わせる工程、
含む、2つの基材を接着する方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実験例1、実験例2および実験例6のシアノアクリレート組成物の硬化生成物のブルーミングを示す。
図2図2は、実験例3および実験例7における異なるシアノアクリレートモノマーにおけるゴム強化化合物の溶解性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下において、本発明をより詳細に説明する。そのように記載された各態様は、明確に反対することが示されない限り、任意の他の態様と組み合わせることができる。特に、好ましいまたは有利であると示された任意の特徴は、好ましいまたは有利であると示された任意の他の特徴または複数の特徴と組み合わせることができる。
【0011】
本発明の文脈において使用される用語は、特段の指示がない限り、以下の定義に従って解釈されるべきである。
【0012】
本明細書で使用されるとき、単数形「a」、「an」および「the」は、明確に指示しない限り、単数形および複数形の両方を含む。
【0013】
本明細書で使用される「含む(comprising、comprises)」および「から構成される(comprised of)」という用語は、「含む(including、includes、containing、contains)」と同義であり、包括的またはオープンエンドであり、追加の、引用されていない部材、要素、または方法工程を排除しない。
【0014】
数値の終点の記載には、記載された終点だけでなく、それぞれの範囲内に含まれるすべての数値と分数が含まれる。
【0015】
本明細書で引用されるすべての参考文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0016】
他に定義されない限り、技術用語および科学用語を含む、本発明の開示に使用されるすべての用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解される意味を有する。さらなる手引きとして、本発明の教示をよりよく理解するために用語の定義が含まれる。
【0017】
本開示の文脈において、多くの用語が利用されるものとする。
【0018】
用語「(メタ)アクリレート」は、「アクリレート」および「メタクリレート」の両方またはいずれかを指す。
【0019】
用語「(メタ)アクリル」は、「アクリル」および「メタクリル」の両方またはいずれかを指す。
【0020】
用語「モノマー」は、定義された分子構造を有し、反応してポリマーの一部を形成できるポリマービルディングブロックを指す。
【0021】
用語「炭化水素基」は、炭素および水素からなる有機基を指す。炭化水素基の例としては、これらに限定されるものではないが、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、イソプロピル、tert-ブチル、イソブチルおよび同様の基などのアルキル基、ビニル、アリル、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニルおよび同様の基などのアルケニル基;ベンジル、フェネチル、2-(2,4,6-トリメチルフェニル)プロピルおよび同様の基などのアラルキル基;フェニル、トリル、キシキシルおよび同様の基などのアリール基;または、メチリデン、エチリデン、プロピリデンおよび同様の基などのアルキリデン基が挙げられる。
【0022】
用語「置換されていてもよい炭化水素基」における「置換されていてもよい」という用語は、炭化水素基上の1以上の水素が、好ましくはハロゲン、ニトロ、アジド、アミノ、カルボニル、エステル、シアノ、スルフィド、サルフェート、スルホキシド、スルホン、スルホン基などから選択される、対応する数の置換基で置換され得ることを意味する。
【0023】
「実質的に含まない」という用語は、材料または官能基が偶発的な量で存在し得ること、または、特定の発生若しくは反応が重要でない程度にしか起こらず、所望の特性に影響を与えないことを意味する。言い換えれば、材料または官能基は、指定された組成に意図的に追加されたものではないが、例えば、意図した組成成分の一部として不純物として持ち越されたなどの理由で、少量または重要でないレベルで存在し得る。
【0024】
〔ゴム強化化合物〕
本発明のシアノアクリレート組成物は、少なくとも1つのゴム強化化合物を含む。ゴム強化化合物は、(a)エチレン、アクリル酸メチル、および、カルボン酸硬化部位を有するモノマーの組み合わせの反応生成物、(b)エチレンおよびメチルアクリレートのコポリマー、(c)塩化ビニリデン-アクリロニトリルコポリマー、(d)塩化ビニル/酢酸ビニルコポリマー、(e)ポリエチレンとポリ酢酸ビニルとのコポリマー、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0025】
本発明のいくつかの実施態様において、ゴム強化化合物は、好ましくは、エチレン、アクリル酸メチル、およびカルボン酸硬化部位を有するモノマーの組み合わせの反応生成物であって、該反応生成物は、例えば離型剤、複合有機リン酸エステル、ステアリン酸、ポリエチレングリコールエーテルワックス、置換ジフェニルアミンなどの酸化防止剤のような加工助剤を実質的に含まない。
【0026】
市販のゴム強化化合物の例は、例えば、DuPont製のVAMAC VCS 5500、VAMAC MR、VAMAC G、VAMAC N123、VAMAC B-124、VAMAC VMX 1012およびVCD 6200である。
【0027】
本発明のいくつかの実施態様において、ゴム強化化合物の量は、シアノアクリレート組成物の総重量に基づいて、好ましくは1~50重量%、より好ましくは1~30重量%である。
【0028】
〔β-アルコキシアルキルシアノアクリレート〕
本発明のシアノアクリレート組成物は、構造(I):
[式中、
は、置換されていてもよいC~Cの二価の炭化水素基、好ましくは置換されていてもよいC~Cの二価の炭化水素基、より好ましくは置換されていてもよいC~Cの二価の炭化水素基を表し、
は、置換されていてもよいC~C20の一価の炭化水素基、好ましくは置換されていてもよいC~Cの一価の炭化水素基、より好ましくは置換されていてもよいC~Cの一価の炭化水素基を表す]
で表される少なくとも1つのβ-アルコキシアルキルシアノアクリレートを含む。
【0029】
構造(I)のβ-アルコキシアルキルシアノアクリレートは、文献「エトキシエチルα-シアノアクリレートおよび反応中間体の合成および特性」(Journal of Applied Polymer Science、Vol.87、1758~1773(2003年))で示唆されるように、アルコキシアルキルシアノアセテートをパラホルムアルデヒドと反応させた後、高真空の酸性雰囲気中、高温で解重合することにより、オリゴ(β-アルコキシアルキルシアノアクリレート)を生成することによって合成し得る。
【0030】
構造(I)のβ-アルコキシアルキルシアノアクリレートの具体例としては、β-エトキシエチルシアノアクリレート、β-プロポキシエチルシアノアクリレート、β-ブトキシエチルシアノアクリレート、β-イソプロポキシエチルシアノアクリレート、β-エトキシプロピルシアノアクリレート、および、β-エトキシブチルシアノアクリレートが挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明におけるβ-アルコキシアルキルシアノアクリレートは、好ましくは、β-エトキシエチルシアノアクリレートである。
【0031】
本発明のいくつかの実施態様において、β-アルコキシアルキルシアノアクリレートとゴム強化化合物との重量比は、好ましくは100:0.5~100:50、より好ましくは100:3~100:30、さらにより好ましくは100:10~100:30である。望ましい重量比内では、β-アルコキシアルキルシアノアクリレートとゴム強化化合物とが十分に相溶するだけでなく、シアノアクリレート組成物の硬化生成物の、金属、プラスチックおよび木材などの種々の材料に対する側面衝撃および/またはT型剥離強度が改善される。
【0032】
市販のβ-アルコキシアルキルシアノアクリレートの例は、例えば、Afinitica Technologies SL製のAFINITICA 2-エトキシエチルシアノアクリレート;およびCartell Chemical 社製の2-エトキシエチル2-シアノアクリレートである。
【0033】
本発明のいくつかの実施態様において、β-アルコキシアルキルシアノアクリレートの量は、シアノアクリレート組成物の総重量に基づいて、好ましくは50~99重量%、より好ましくは70~99重量%である。
【0034】
〔任意添加物〕
シアノアクリレート組成物は、任意の添加剤をさらに含んでもよい。本発明のシアノアクリレート組成物に適した添加剤の選択は、シアノアクリレート組成物の特定の用途に依存し、個々の場合において当業者が決定し得る。
【0035】
<酸安定剤>
本発明のシアノアクリレート組成物は、少なくとも1つの酸安定剤をさらに含んでもよい。酸安定剤は、三フッ化ホウ素、三フッ化ホウ素エーテル錯体、三フッ化ホウ素二水和物、トリメチルシリルトリフラート、二酸化硫黄、メタンスルホン酸、およびそれらの混合物からなる群から選択され得る。
【0036】
市販の酸安定剤の例は、例えば、Sigma-Aldrich製の三フッ化ホウ素ジエチルエーテラートおよび三フッ化ホウ素二水和物である。
【0037】
本発明のいくつかの実施態様において、酸安定剤の量は、シアノアクリレート組成物の総重量に基づいて、好ましくは0~100重量ppm、より好ましくは0~30重量ppmである。
【0038】
<カルボン酸>
本発明のシアノアクリレート組成物は、シアノアクリレート組成物の硬化生成物の耐衝撃性および/またはT型剥離強度を改善するために、少なくとも1つのカルボン酸を含む。カルボン酸は、クエン酸およびその一水和物、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸(またはトリメリット酸)、ヘミメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸、グルタル酸、1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸無水物、1,2,3-プロペントリカルボン酸(またはアコニット酸)、1,2,3-プロパントリカルボン酸(トリカルバリル酸)、1,2,3-ベンゼントリカルボン酸水和物およびそれらの組み合わせからなる群から選択され得る。カルボン酸は、好ましくはクエン酸である。
【0039】
市販のカルボン酸の例は、例えば、東京化成工業製のトリメリット酸、および、Sigma-Aldrich製のクエン酸である。
【0040】
本発明のいくつかの実施態様において、カルボン酸の量は、シアノアクリレート組成物の総重量に基づいて、0~0.1重量%、好ましくは0~0.01重量%である。
【0041】
<促進剤>
本発明のシアノアクリレート組成物は、例えば、カリックスアレーンおよびオキサカリックスアレーン、シラクラウン、クラウンエーテル、シクロデキストリン、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシル化水素化合物およびそれらの組み合わせから選択されるものなどの、少なくとも1つの促進剤をさらに含み得る。
【0042】
カリックスアレーンおよびオキサカリックスアレーンの多くが知られており、特許文献に報告されている。例えば、米国特許第4,556,700、4,622,414、4,636,539、4,695,615、4,718、966、および4,855,461号が参照され、これらの各開示は、参照により本明細書に明示的に組み込まれる。1つの特に望ましいカリックスアレーンは、テトラブチルテトラ[2-エトキシ-2-オキソエトキシ]カリックス-4-アレーンである。
【0043】
シラクラウンの多くはやはり既知であり、文献で報告されている。本発明の組成物に有用なシラクラウン化合物の特定の例には、ジメチルシラ-11-クラウン-4、ジメチルシラ-14-クラウン-5、およびジメチルシラ-17-クラウン-6が含まれる。例えば、米国特許第4,906.317号(Liu)が参照され、該文献の開示は、参照により本明細書に明示的に組み込まれる。
【0044】
多くのクラウンエーテルが知られている。例えば、15-クラウン-5、18-クラウン-6、ジベンゾ-18-クラウン-6、ベンゾ-15-クラウン-5-ジベンゾ-24-クラウン-8、ジベンゾ-30-クラウン-10、トリベンゾ-18-クラウン-6、asym-ジベンゾ-22-クラウン-6、ジベンゾ-14-クラウン-4、ジシクロヘキシル-18-クラウン-6、ジシクロヘキシル-24-クラウン-8、シクロヘキシル-12-クラウン-4、1,2-デカリル-15-クラウン-5、1,2-ナフト-15-クラウン-5、3,4,5-ナフチル-16-クラウン-5、1,2-メチル-ベンゾ-18-クラウン-6、1,2-メチルベンゾ-5,6-メチルベンゾ-18-クラウン-6、1,2-t-ブチル-18-クラウン-6、1,2-ビニルベンゾ-15-クラウン-5、1,2-ビニルベンゾ-18-クラウン-6、1,2-t-ブチル-シクロヘキシル-18-クラウン-6、asym-ジベンゾ-22-クラウン-6および1,2-ベンゾ-1,4-ベンゾ-5-オキシゲン-20-クラウン-7のいずれか1以上を使用し得る。米国特許第4,837.260号(Sato)が参照され、該文献の開示は、参照により本明細書に明示的に組み込まれる。
【0045】
本発明に関連して多くのシクロデキストリンを使用し得る。例えば、米国特許第5,312,864号(Wenz)に記載され、クレームされているものであり、該文献の開示は、参照により本明細書に明示的に組み込まれる。
【0046】
本開示において使用に適するポリ(エチレングリコール)ジ(メタ)アクリレートには、以下の構造内のものが含まれる。
式中、nは3以上、例えば3~12の範囲などであり、nが9であることが特に望ましい。より具体的な例としては、PEG200 DMA(nは約4)、PEG 400 DMA(nは約9)、PEG600 DMA(nは約14)、およびPEG800 DMA(nは約19)が挙げられ、ここで、数字(例えば、400)は、2つのメタクリレート基を除いた分子のグリコール部分の平均分子量をグラム/モル(すなわち、400g/mol)で表したものである。
【0047】
エトキシル化水素化合物(または使用し得るエトキシル化脂肪アルコール)の適切なものは、以下の構造内のものから選択し得る。
式中、Cmは直鎖状または分枝鎖状のアルキル鎖またはアルケニル鎖であってよく、mは1~30の整数、例えば5~20、nは2~30の整数、例えば5~15であり、RはHまたはC1-6アルキルなどのアルキルであってよい。
【0048】
本発明のいくつかの実施態様において、促進剤の量は、シアノアクリレート組成物の総重量に基づいて、0~5重量%、好ましくは0~1重量%である。
【0049】
さらに、本発明のシアノアクリレート組成物は、可塑剤、増粘剤、フィラー、抑制剤、チキソトロピー剤またはゲル化剤、染料、およびそれらの組み合わせなど、シアノアクリレート組成物に通常使用される1以上の添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0050】
本発明のいくつかの実施態様において、シアノアクリレート組成物は、好ましくは、エチルシアノアクリレート、ブチルシアノアクリレート、オクチルシアノアクリレート、2-メチルブチルシアノアクリレート、およびイソアミルシアノアクリレートなどのアルコキシル基を有しないアルキルシアノアクリレートを実質的に含まない。アルコキシル基を有さないアルキルシアノアクリレートは、十分に低臭ではないか、または硬化後にシアノアクリレート組成物のブルーミングを生じ得る。さらに、アルコキシル基を有さないアルキルシアノアクリレートを使用しない場合、組成物中に必要とされる成分が少なくなるため、本発明のシアノアクリレート組成物の調製は簡素化される。
【0051】
好ましい実施態様において、シアノアクリレート組成物は、
a)少なくとも1つのゴム強化化合物;
b)構造(I):
[式中、
は、置換されていてもよいC~Cの二価の炭化水素基、好ましくは置換されていてもよいC~Cの二価の炭化水素基、より好ましくは置換されていてもよいC~Cの二価の炭化水素基を表し、
は、置換されていてもよいC~C20の一価の炭化水素基、好ましくは置換されていてもよいC~Cの一価の炭化水素基、より好ましくは置換されていてもよいC~Cの一価の炭化水素基を表す]
で表される少なくとも1つのβ-アルコキシアルキルシアノアクリレート;
c)少なくとも1つの酸安定剤;
d)少なくとも1つの促進剤;および
e)少なくとも1つのカルボン酸
を含み、ここで、構造(I)のβ-アルキルシアノアクリレートとゴム強化化合物との重量比は、好ましくは100:0.5~100:50である。
【0052】
本発明のいくつかの実施態様において、本発明のシアノアクリレート組成物は、50~80℃の温度ですべての成分を一緒に混合し、ゴム強化化合物を完全に溶解すること、および、シアノアクリレート組成物を室温まで冷却することによって調製できる。
【0053】
本発明のいくつかの実施態様において、シアノアクリレート組成物は、バーコーティング、ジェッティングまたは噴霧によって基材に塗布することができ、例えば1~3日間などの組成物が固着し得る十分な時間、室温で空気中の水分によって硬化され得る。
【0054】
本発明のいくつかの実施態様において、シアノアクリレート組成物は、以下の工程:
a)基材の少なくとも1つにシアノアクリレート組成物を塗布すること;および
b)組成物を固着させるのに十分な時間(例えば、1~3日)、基材を合わせること、
を含む方法によって2つの基材を接着するために使用され得る。
【0055】
シアノアクリレート組成物の硬化生成物のブルーミングは、数滴のシアノアクリレート組成物を黒色基材上に滴下し、シアノアクリレート組成物を完全に硬化させることによって測定できる。ブルーミング試験を促進および加速するために、高温多湿条件(例えば、40℃/98%RH)を適用し得る。シアノアクリレート組成物のブルーミングは、硬化したシアノアクリレート組成物の周りに白いリングまたは光輪(halo)が観察されるかで確認される。シアノアクリレート組成物は、硬化後にブルーミングを示さないことが好ましい。
【0056】
シアノアクリレートモノマー中のゴム強化剤の溶解性は、ゴム強化剤をシアノアクリレートモノマーに溶解することによって測定できる。ゴム強化剤とシアノアクリレートモノマーとの混合物を、ゴム強化剤が完全に溶解して透明な溶液が得られるまで、50~80℃の温度で勢いよく混合する。次いで溶液を室温まで冷却する。シアノアクリレートモノマー中のゴム強化剤の溶解性は、溶液が室温で透明のままであるかで視覚的に確認される。ゴム強化剤は、シアノアクリレートモノマーに完全に溶解可能であることが好ましい。
【0057】
シアノアクリレート組成物の硬化生成物の側面衝撃は、GM9751 General Motors Engineering Standards Side Impact Testに従って、25.4mm×25.4mmの接着面積で測定し得る。グリットブラスト加工された軟鋼上でシアノアクリレート組成物を室温、24時間硬化させる場合に、シアノアクリレート組成物の硬化生成物は、好ましくは9J以上の側面衝撃を有し、より好ましくは11J以上の側面衝撃を有し、さらにより好ましくは13J以上の側面衝撃を有する。アルミニウム板上でシアノアクリレート組成物を室温で24時間硬化させる場合に、シアノアクリレート組成物の硬化生成物は、好ましくは1.5J以上の側面衝撃を有し、より好ましくは6J以上の側面衝撃を有し、さらにより好ましくは9J以上の側面衝撃を有する。
【0058】
シアノアクリレート組成物の硬化生成物のT型剥離強度は、ASTM D1876/ISO 11339/DIN 53282に従って、25.4mm×228.6mmの接着面積で測定し得る。グリットブラスト加工された軟鋼上でシアノアクリレート組成物を室温で3日間硬化させる場合に、シアノアクリレート組成物の硬化物は、0.5N/mm以上のT型剥離強度を有することが好ましく、4N/mm以上のT型剥離強度を有することがより好ましい。アルミ板上でシアノアクリレート組成物を室温で3日間硬化させる場合に、シアノアクリレート組成物の硬化物は、1.5N/mm以上のT型剥離強度を有することが好ましく、3N/mm以上のT型剥離強度を有することがより好ましい。
【実施例
【0059】
以下の実施例を参照して、本発明をさらに詳細に説明し、例示する。実施例は、当業者が本発明をよりよく理解し、実施するのを助けることを意図しているが、本発明の範囲を制限することは意図していない。特に明記しない限り、実施例のすべての数値は重量に基づく。
【0060】
〔試験方法〕
<硬化シアノアクリレート組成物のブルーミング>
硬化シアノアクリレート組成物のブルーミングを、以下の手順により測定した。
a)黒色のプラスチックシート上にシアノアクリレート組成物を2滴滴下する;
b)温度40℃、相対湿度98%の湿潤キャビネットに黒色プラスチックシートを水平に置く;および
c)黒色プラスチックシートを湿潤キャビネットに1時間放置した後、硬化したシアノアクリレート組成物の液滴の周りに白いリングまたは光輪が現れたかどうかを確認する。
【0061】
硬化シアノアクリレート組成物の液滴の周りに白いリングまたは光輪が現れた場合、シアノアクリレート組成物は硬化後にブルーミングを生じると判断した。
【0062】
<ゴム強化剤のシアノアクリレートモノマーへの溶解性>
シアノアクリレートモノマー中のゴム強化剤の溶解性を、以下の手順で測定した。
a)混合容器内で100グラムのシアノアクリレートモノマーに10グラムのゴム強化剤(VAMAC VCS 5500)を添加する;
b)工程a)からの混合物を、ゴム成分が完全に溶解して透明な溶液が得られるまで、70℃、800rpmの速度で3~5時間混合する;
c)溶液をガラスバイアルに移し、溶液を室温まで冷却する;および
d)溶液が透明のままかどうかを視覚的に確認する。
【0063】
溶液が透明であれば、ゴム強化剤はシアノアクリレートモノマーに可溶であると判断した。懸濁液が観察された場合、ゴム強化剤はシアノアクリレートモノマーに不溶であると判断した。
【0064】
<グリットブラスト加工された軟鋼における側面衝撃>
シアノアクリレート組成物の硬化生成物の側面衝撃を、GM9751 General Motors Engineering Standards Side Impact Testに従って測定した。グリットブラスト加工された軟鋼は、軟鋼(Q-panelから入手可能)に、80メッシュのSiC粉末をグリットブラスト加工することによって調製した。側面衝突試験に使用したグリットブラスト軟鋼板の寸法は、25.4mm×100mmであった。側面衝突試験片は、25.4mm×25.4mmの接着領域に~0.05gのシアノアクリレート組成物を塗布することによって調製した。組み立てた試験片を室温で1日間硬化させた。
【0065】
<アルミ板における側面衝撃>
シアノアクリレート組成物の硬化生成物の側面衝撃を、GM9751 General Motors Engineering Standards Side Impact Testに従って測定した。側面衝突試験に用いたアルミ板(Q-Panel社製)の寸法は、25.4mm×100mmであった。側面衝突試験片は、25.4mm×25.4mmの接着領域に~0.05gのシアノアクリレート組成物を塗布することによって調製した。組み立てた試験片を室温で1日間硬化させた。
【0066】
<軟鋼におけるT型剥離強度>
硬化シアノアクリレート組成物のT型剥離強度は、ASTM D1876/ISO 11339/DIN 53282に従って測定した。T型剥離強度試験に用いた軟鋼板(Q-Panel社製)の寸法は、25.4mm×304.8mmであった。T型剥離試験片は、25.4mm×228.6mmの接着領域に~0.5gのシアノアクリレート組成物を塗布することによって調製した。組み立てた試験片を室温で3日間硬化させた。
【0067】
<アルミ板におけるT型剥離強度>
シアノアクリレート組成物の硬化生成物のT型剥離強度は、ASTM D1876/ISO 11339/DIN 53282に従って測定した。T型剥離強度試験に用いたアルミ板(Q-Panel社製)の寸法は、25.4mm×304.8mmであった。T型剥離試験片は、25.4mm×228.6mmの接着領域に~0.5gのシアノアクリレート組成物を塗布することによって調製した。組み立てた試験片を室温で3日間硬化させた。
【0068】
〔実験例1-7〕
以下の材料を実験例で用いた。
β-エトキシエチルシアノアクリレート(2-エトキシエチル 2-シアノアクリレート、Cartell Chemicalから入手可能);
エチルシアノアクリレート(エチル2-シアノアクリレート、Sigma-Aldrichから入手可能);
BF(三フッ化ホウ素二水和物、Sigma-Aldrichから入手可能);
ゴム強化化合物(VAMAC VCS 5500、DuPontから入手可能);
クエン酸(無水クエン酸、Sigma-Aldrichから入手可能);
β-メトキシエチルシアノアクリレート(β-メトキシエチルシアノアクリレート、Afiniticaから入手可能);および
クラウンエーテル(ジベンゾ-18-クラウン-6、Ferak Berlin GmbHから入手可能)。
【0069】
表1に従って実験例として、すべてのゴム強化剤が完全に溶解するまで3~5時間、70℃、800rpmの速度ですべての成分を混合し、室温まで冷却することによって、シアノアクリレート組成物を調製した。次いで、シアノアクリレート組成物に対して上記の様々な試験を実施し、結果を表2に示した。
【0070】
【表1】
【0071】
実験例1~5は、モノマーとしてβ-エトキシエチルシアノアクリレートを使用した。ゴム強化化合物(Vamac VCS 5500)は、実験例1~5のモノマーに対して良好な溶解性を示した。これは、モノマーとしてエチルシアノアクリレートを用いた実験例6のゴム強化化合物の溶解性に匹敵した。実験例1~5のシアノアクリレート組成物の硬化物は、実験例6と比較して同等のアルミニウム板に対するT型剥離強度を示した。実験例3および4の硬化生成物は、グリットブラスト加工された軟鋼に対する向上した側面衝撃も示し、実験例2~5の硬化生成物は、実験例6よりも良好なアルミニウム板に対する側面衝撃と軟鋼に対するT型剥離強度を示した。
【0072】
さらに、実験例6においてモノマーとしてエチルシアノアクリレートを用いた場合、ゴム強化化合物はモノマーとよく相溶したが、図1から分かる通り、硬化生成物は望ましくないブルーミングを示した。β-メトキシエチルシアノアクリレートをモノマーとして用いた場合、混合工程の間に70℃でゴム強化化合物をモノマーに溶解できた。しかしながら、実験例7においてシアノアクリレート組成物を室温まで冷却した後、β-メトキシエチルシアノアクリレートとゴム強化化合物はもはや相溶せず、図2に示すように懸濁液が観察された。実験例7のシアノアクリレート組成物は接着剤としての使用に適していなかったため、表2の実験例7の側面衝撃およびT型剥離強度試験の結果は得られなかった。
【0073】
【表2】
図1
図2
【国際調査報告】