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特表2023-529980プラスミドコピー数の調節及び組み込み
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-12
(54)【発明の名称】プラスミドコピー数の調節及び組み込み
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/69 20060101AFI20230705BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230705BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20230705BHJP
【FI】
C12N15/69 Z ZNA
C12N1/21
C12N15/31
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022577252
(86)(22)【出願日】2021-06-17
(85)【翻訳文提出日】2023-02-15
(86)【国際出願番号】 EP2021066404
(87)【国際公開番号】W WO2021255165
(87)【国際公開日】2021-12-23
(31)【優先権主張番号】20180619.7
(32)【優先日】2020-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フェレ,マックス ファビアン
(72)【発明者】
【氏名】ザウアー,クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】ステッター,カレン
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルフ,ディアナ
(72)【発明者】
【氏名】マッシャー,トールシュテン
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA16X
4B065AA16Y
4B065AA26X
4B065AA26Y
4B065AB01
4B065AC10
4B065AC14
4B065BA02
4B065BA03
4B065BA25
4B065BB37
4B065BC03
4B065BD15
4B065BD16
4B065BD46
4B065CA23
(57)【要約】
本発明は、好ましくは原核生物宿主における、プラスミドコピー数調整の分野に関し、プラスミドコピー数のユーザー制御調整のための材料及び方法を提供する。本発明はさらに、本発明によって提供されるコピー数調整の手段を利用する宿主培養方法を提供する。本発明は特に、標的核酸セグメントを高い組み込み効率で別の核酸に組み込めるようにする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスミドコピー数制御の方法であって、
i)プラスミド複製開始タンパク質(Rep)によって活性化可能な複製起点を有するプラスミドを含む原核生物宿主を提供するステップ、及び
ii) Repタンパク質の発現を調節してプラスミドコピー数を所望の値に調整するステップ
を含む、方法。
【請求項2】
Repタンパク質の発現が、
a)Repタンパク質をコードするrep遺伝子の発現を増加させるステップ、
b)Repタンパク質をコードするrep遺伝子の発現を減少させるステップ、
c)Rep発現のリプレッサーをコードするリプレッサー遺伝子の発現を減少させるステップ、
d)Rep発現のリプレッサーをコードするリプレッサー遺伝子の発現を増加させるステップ
のうちの1つ以上によって調節される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
a)rep遺伝子が異種プロモーターに作動可能に連結され、及び/又は
b)プラスミドが、異種プロモーターに作動可能に連結された、Rep発現のリプレッサーをコードするリプレッサー遺伝子を含む、
請求項2に記載の方法。
【請求項4】
- プラスミド複製開始タンパク質(Rep)によって活性化可能な複製起点、
- Repタンパク質をコードするrep遺伝子
を含む制御された複製プラスミドであって、
a)rep遺伝子が異種プロモーターに作動可能に連結され、及び/又は
b)プラスミドが、異種プロモーターに作動可能に連結された、Rep発現のリプレッサーをコードするリプレッサー遺伝子を含む、プラスミド。
【請求項5】
- Repタンパク質をコードするrep遺伝子に作動可能に連結されたプロモーター、及び
- 異種プロモーターの制御下にある、Rep発現のリプレッサーをコードするリプレッサー遺伝子
を含む、請求項4に記載の制御された複製プラスミド。
【請求項6】
- プラスミド複製開始タンパク質(Rep)によって活性化可能な複製起点、
- 場合により、Rep発現のリプレッサーをコードするリプレッサー遺伝子に作動可能に連結されたプロモーター
を含み、Repタンパク質をコードする機能的rep遺伝子を含まない、複製支援依存性プラスミド。
【請求項7】
- Repタンパク質の発現のための発現カセットを含む宿主において発現される場合、Repタンパク質の発現を抑制するリプレッサーをコードする遺伝子
をさらに含む、請求項6に記載の複製支援依存性プラスミド。
【請求項8】
- 少なくとも1つの、好ましくは各々の、異種プロモーターが、外部調節因子濃度若しくは代謝物濃度の変化に反応し、並びに/又は
- プラスミドがローリングサークル複製型プラスミドであり、及び/若しくは
- プラスミドが、
- 選択可能なマーカー、
- 標的遺伝子、
- 標的遺伝子に作動可能に連結されたプロモーターを含む発現カセット、
- 組換え部位
のうちの1つ以上を含む、請求項4から7のいずれか一項に記載のプラスミド。
【請求項9】
請求項4、5又は8のいずれか一項に記載の制御された複製プラスミドを含む、プラスミド複製制御宿主。
【請求項10】
i)請求項6から8のいずれか一項に記載の複製支援依存性プラスミド、並びに
ii)宿主染色体及び/又は宿主中のヘルパープラスミドに位置するrep遺伝子の発現のための発現カセット
を含むプラスミド複製支援宿主。
【請求項11】
i)請求項4から8のいずれか一項に記載のプラスミドを含む宿主のスターター培養物を提供するステップ、
ii)前記宿主を培養して宿主細胞数の増加を達成するステップ、及び
iii)ステップii)の間に又は後で、培養された宿主細胞におけるプラスミドコピー数を調整するステップ
を含む培養方法。
【請求項12】
i)原核生物プラスミドレシピエント宿主において、選択マーカーを含む請求項4から8のいずれか一項に記載のプラスミドを提供するステップ、
ii)選択マーカーの選択を維持しながらプラスミドの複製を阻止するステップ
を含む組み込み方法。
【請求項13】
プラスミドレシピエント宿主におけるプラスミド複製の阻止が、
a)プラスミド上にrep遺伝子を提供しないステップ、
b)rep遺伝子の発現を抑制するステップ、及び
c)rep遺伝子の発現に必要とされる誘導原を与えないステップ
のうちの1つ以上を使用して行われる、請求項12に記載の組み込み方法。
【請求項14】
i)- プラスミドドナー宿主が、選択可能なマーカーを含む、請求項4から8のいずれか一項に記載の制御された複製プラスミド又は複製支援依存性プラスミドを含み、
- プラスミドレシピエント宿主がrep遺伝子を含まない、
プラスミドドナー宿主及びプラスミドレシピエント宿主を提供するステップ、
ii)プラスミドドナー宿主からプラスミドレシピエント宿主にプラスミドを導入するステップ、並びに
iii)ステップii)と同時に又はステップii)の後で、プラスミドレシピエント宿主中の選択可能なマーカーの存在を強制する選択圧をプラスミドレシピエント宿主にかけながら、プラスミドレシピエント宿主におけるプラスミドの複製を阻止するステップ
を含む組み込み方法。
【請求項15】
プラスミドが、複製レシピエント宿主の核酸の適合する部位との組換えを容易にする組換え部位を含む、請求項12から14のいずれか一項に記載の組み込み方法。
【請求項16】
プラスミドが、プラスミドレシピエント宿主のゲノムか、又は複製がrep遺伝子に依存しない別のプラスミドに組み込まれる、請求項12から15のいずれか一項に記載の組み込み方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、好ましくは原核生物宿主における、プラスミドコピー数調整の分野に関し、プラスミドコピー数のユーザー制御調整のための材料及び方法を提供する。本発明はさらに、本発明によって提供されるコピー数調整の手段を利用する宿主培養方法を提供する。本発明は特に、標的核酸セグメントを高い組み込み効率で別の核酸に組み込めるようにする。
【背景技術】
【0002】
プラスミドは、自律的に及び制御された方法で複製する染色体外ゲノムである。プラスミドは一般的に、宿主微生物の染色体の複製と無関係に複製できるようにする自身の複製起点を有する環状核酸である。プラスミドは故に、宿主に核酸セグメントを運んだ後に往復するベクターとしてしばしば使用される。プラスミドは一般的にその固有のプラスミドコピー数によって特徴付けられる。プラスミドが依存している複製機構は、各宿主細胞中のプラスミドのコピー数が、プラスミド特有のコピー数を上回りも下回りもしないことを確保する。例えば、よく知られているプラスミドpBR322は約20のコピー数を有する。このコピー数は、宿主細胞の全ての生活環にわたっておおむね維持される。
【0003】
宿主で発現される標的遺伝子をプラスミドが含有している場合、プラスミドコピー数は標的遺伝子の遺伝子量と複雑に結びついている。一般的に発酵中1つ以上の標的遺伝子の強い発現を達成することが望ましい。そのような強い発現を達成する1つの方法は、標的遺伝子(複数可)を強力なプロモーターの制御下に置くことである。しかし、一部の宿主微生物に関して利用可能なプロモーターは十分に強くはないことが見出されている。標的遺伝子の発現を増加させる別の方法は、プロモーター-遺伝子発現カセットのさらなるコピーを提供し、それにより遺伝子量を増加させることである。標的遺伝子は故にいくつかの位置から同時に転写され、標的遺伝子の発現を増加させる。しかし、プラスミドにおいて発現カセットのコピー数を増加させることは手間がかかり、相同組換えをもたらし、今度は標的遺伝子発現カセットの無制御の喪失につながる可能性がある。
【0004】
それ故に、プラスミドのコピー数自体を操作することが試みられてきた。同一のプラスミド間の相同組換えは、特に標的遺伝子発現カセットのただ一つのコピーを含む場合、標的遺伝子の喪失をもたらす可能性が低い。プラスミドコピー数を増加させるためにいくつかの戦略が提案されている。例えば、WO2009076196及びWO2002029067は、特定の高コピー数プラスミドを提供する。WO2007035323は、複製起点を交換することができ、これにより、所望のプラスミドコピー数をもたらすことが知られている複製起点を、選択されたプラスミドベクターに挿入することが可能になるプラスミドを提供する。
【0005】
高いプラスミドコピー数は代償が大きい。一般的に、標的遺伝子発現カセットのサイズはプラスミドサイズ全体と比べて小さい。さらに、プラスミドは、培養中、宿主でのプラスミドの維持を確保するために選択マーカー、典型的には抗生物質耐性遺伝子の存在を一般的に必要とする。故に、プラスミドコピー数の増加は、プラスミド骨格の複製に資源を転用しなければならない宿主にとって高い代謝負荷をもたらす。この代謝負荷は、厳しい条件下では宿主の生存能を制限する決定的要因になり得る。例えば、標的遺伝子発現が既に代謝負荷を生んでいる場合、高いプラスミドコピー数の維持は発酵中の宿主の生存能にダメージを与え、早期の発酵停止又は標的遺伝子産物の不十分な収量につながることがある。さらに、宿主は新たな培地に入れられると、例えばバッチ発酵を開始する発酵槽に接種すると(また、凍結保存培養物を解凍した後も)、宿主は新たな環境に適応するための強い代謝ストレスを経験する。そのような状況では、プラスミドの自律複製機構によって要求される高いプラスミドコピー数を維持する必要性は宿主細胞には度が過ぎ、著しい増殖遅延をもたらし、故に発酵の空時収量が低減する可能性がある。
【0006】
それ故に、温度感受性複製起点を使用して、所定の期間、高コピー数プラスミドのプラスミド複製を制限しようと試みられてきた。プラスミド複製のそのような一時的な制限の1つの例は、Olsonら、Journal of Biological Engineering 2012、6:5頁及びWO9318164に示されている。後者の文献は、グラム陽性菌、特に乳酸菌に対するプラスミドpWV01の温度感受性プラスミド変異体を提供している。該プラスミドは、約37℃より上では複製することができない。しかし、そのような系においてプラスミド複製は、一般的な温度により完全に可能となるか又は完全にブロックされるかのいずれかである。故に、低いプラスミドコピー数(宿主細胞1つあたりのプラスミドがゼロの代わりに)の維持が望まれるような増殖段階での偶発的なプラスミド喪失を防ぐために、細心の注意を払わなければならない。
【0007】
プラスミドのさらなる使用は、宿主染色体とも呼ばれる宿主の非プラスミド遺伝物質の操作である。相同組換えによりプラスミドは宿主の染色体に組み込むことができる。プラスミドはさらに、例えば、WO9318164の図6、7A及び7B並びにその添付説明に記載のやはり相同組換えによって、その組み込み部位から切除することができる。そのような組み込み及び任意選択の部分的切除により、プラスミドは宿主染色体の所望の核酸配列を不活性化するのに例えば使用することができる。不活性化は、挿入されたプラスミド全体の又は部分的プラスミド切除後のその残りの存在に起因する。さらに、プラスミド全体の組み込み、及び/又は部分的プラスミド切除後にプラスミド核酸のセグメントを残すことにより、好ましくは標的遺伝子発現カセットを含む、又は宿主染色体の特定の位置で任意の他の所望の核酸エレメントを導入する、所望の核酸ストレッチを導入できるようになる。
【0008】
そのような手順における第1のステップとしてのプラスミド組み込みは、自律複製の継続の代わりに宿主染色体と組み換わるプラスミドの性質に依存する。故に、宿主細胞におけるプラスミドの存在を確立することがまず必要とされる。これは次に、自律的に複製するプラスミドの能力に依存する。しかし、宿主の染色体へのプラスミド組み込みを強行しようとする場合、自律的に複製するプラスミドの能力は組み込みの可能性を大幅に低下させる。故に、そのような組み込みアッセイにおいて複製活性を温度依存的に喪失するプラスミドを使用しようと試みられてきた。しかし、宿主の最適温度と比べて培養の温度を大幅に下げる又は上げることによってプラスミドの再生する能力を妨げることはでき得るが、そのような温度変化は宿主細胞を重度の代謝ストレス下に置く。例えば、低温では宿主細胞は代謝的におおむね活性であり得、高温では宿主細胞タンパク質は変性し得る。両方のケースでプラスミド組み込みの可能性は低下する。故に、プラスミド組み込みアッセイは信頼性を欠くこと、及び正確な所望の位置で1つのプラスミドを正確に組み込んでいるが、そのようなアッセイによって得られた推定クローンは実際にプラスミドを含んでいないことをチェックするために多くの労力を必要とすることがこれまで見出されてきた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
故に、本発明の目的は、先行技術の上述の短所に対処することである。特に、本発明は、プラスミドコピー数制御の容易で信頼できる方法を提供する。本発明はまた、プラスミド組み込みのための信頼できる方法も提供する。そして本発明は、そのような方法において有用なプラスミド及び宿主を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明はそれ故に、プラスミドコピー数制御の方法であって、
i)プラスミド複製開始タンパク質(Rep)によって活性化可能な複製起点を有するプラスミドを含む原核生物宿主を提供するステップ、及び
ii) Repタンパク質の発現を調節してプラスミドコピー数を所望の値に調整するステップ
を含む、方法を提供する。
【0011】
本発明はまた、
- プラスミド複製開始タンパク質(Rep)によって活性化可能な複製起点、
- Repタンパク質をコードするrep遺伝子
を含む制御された複製プラスミドであって、
a)rep遺伝子が異種プロモーターに作動可能に連結され、及び/又は
b)プラスミドが、異種プロモーターに作動可能に連結された、Rep発現のリプレッサーをコードするリプレッサー遺伝子を含む、プラスミドを提供する。
【0012】
そして本発明は、
- プラスミド複製開始タンパク質(Rep)によって活性化可能な複製起点、
- 場合により、Rep発現のリプレッサーをコードするリプレッサー遺伝子に作動可能に連結されたプロモーター
を含み、Repタンパク質をコードする機能的rep遺伝子を含まない、複製支援依存性プラスミド(replication help dependent plasmid)を提供する。
【0013】
本発明はまた、本明細書に記載の制御された複製プラスミドを含むプラスミド複製制御宿主も提供する。さらに、
i)本明細書に記載の複製支援依存性プラスミド、並びに
ii)宿主染色体及び/又は宿主中のヘルパープラスミドに位置するrep遺伝子の発現のための発現カセット
を含むプラスミド複製支援宿主が提供される。
【0014】
また、
i)本発明に係るプラスミドを含む宿主のスターター培養物を提供するステップ、
ii)前記宿主を培養して宿主細胞数の増加を達成するステップ、及び
iii)ステップii)の間に又は後で、培養された宿主細胞におけるプラスミドコピー数を調整するステップ
を含む培養方法も提供される。
【0015】
さらに、
i)原核生物プラスミドレシピエント宿主において、選択マーカーを含む本発明に係るプラスミドを提供するステップ、
ii)選択マーカーの選択を維持しながらプラスミドの複製を阻止するステップ
を含む組み込み方法が提供される。
【0016】
特に、
i)- プラスミドドナー宿主が、選択可能なマーカーを含む、本発明に係る制御された複製プラスミド又は複製支援依存性プラスミドを含み、
- プラスミドレシピエント宿主がrep遺伝子を含まない、
プラスミドドナー宿主及びプラスミドレシピエント宿主を提供するステップ、
ii)プラスミドドナー宿主からプラスミドレシピエント宿主にプラスミドを導入するステップ、並びに
iii)ステップii)と同時に又はステップii)の後で、プラスミドレシピエント宿主中の選択可能なマーカーの存在を強制する選択圧をプラスミドレシピエント宿主にかけながら、プラスミドレシピエント宿主におけるプラスミドの複製を阻止するステップ
を含む組み込み方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】調節遺伝子及び構成を含むpE194複製起点の概略図である。非コード配列はライトグレーの四角として描かれ、ORFは黒い矢印として表されている。プロモーターは曲がった矢印で示されている。オリゴマー状態の産生されたタンパク質はダークグレーで描かれている。SSO:単一鎖起点(single strain origin); DSO:二本鎖起点; cop遺伝子:「コピー制御タンパク質」をコード。Copは二量体を形成し、リプレッサーを自身のプロモーターに結合する。Pcopプロモーターからの転写は、cop及びrepF遺伝子を含むmRNAをもたらす。repF遺伝子: RepFタンパク質をコードし、DSO及びプラスミド複製の開始因子としてのDSO領域内のニックに結合する。ctRNA: repF ORFの5'UTRと重複するマイナス鎖から転写され、RepF翻訳開始を抑制する反転写物(countertranscript)RNA。
図2】A)示されたプラスミドpKS100(pE194複製起点、cop-repF)、及びプラスミドpKS101(pE194(ts)複製起点; cop-repF*として印が付けられている)、又はamyE遺伝子座に組み込まれたプラスミドpKS102(pE194複製起点なし)(Bs#073)を有する枯草菌(B. subtilis)168株の略図である。LuxABCDE:ルシフェラーゼ遺伝子; amy:アミラーゼamyE相同性領域。B)枯草菌株は、エリスロマイシン(50μg/ml)を補充したLB培地で撹拌しながら示された温度で培養された。試料は8時間増殖後に取り出され、細胞1つあたりの平均プラスミドコピー数が定量的リアルタイムPCRによって決定された。相対的PCN:染色体終端と比べた、示されたプラスミドの相対的プラスミドコピー数(細胞1つあたりの)。Bs#073は、染色体終端1つあたり1つのプラスミド骨格を有する組み込み対照株である(点線)。
図3】A)示されたプラスミドpKS100(pE194複製起点、cop-repF)を有する枯草菌168株、並びにPxylA-cop発現カセット及びプラスミドKS100がゲノムに組み込まれた枯草菌株GXC1の略図である。LuxABCDE:ルシフェラーゼ遺伝子; amy:アミラーゼamyE相同性領域。B)示された株の培養物は、キシロースなし(0%)、0.125%キシロース又は0.5%キシロースを含む、エリスロマイシン(50μg/ml)含有LB培地で37℃でインキュベートされた。試料は8時間後に取り出され、定量的リアルタイムPCRを行って細胞1つあたりの平均プラスミドコピー数が決定された。点線は、染色体終端1つあたり1つのプラスミドのコピー数-組み込まれたプラスミドDNAの比を示す。相対的PCN:染色体終端と比べた、示されたプラスミドの相対的プラスミドコピー数(細胞1つあたりの)。PxylA:バチルス・メガテリウム(B. megaterium)のxylA遺伝子のプロモーター。
図4】A)示されたプラスミドpKS100(pE194複製起点、cop-repF)、及びプラスミドpKS101(pE194(ts)複製起点; cop-repF*として印が付けられている)を有する、PxylA-cop発現カセットがゲノムに組み込まれた枯草菌GCX1株の略図である。LuxABCDE:ルシフェラーゼ遺伝子; amy:アミラーゼamyE相同性領域。B)プラスミドpKS10及びプラスミドpKS101を含む枯草菌GCX1の培養物の発光シグナル及び細胞密度(OD 600nm)は、エリスロマイシン(50μg/ml)を補充したLB培地で30℃で、8時間培養後に測定された。相対的発光シグナル(RLU)は、示されている誘導因子分子キシロースの種々の濃度に対してプロットされる。点線は、luxオペロンがゲノムに組み込まれた参照対照株Bs#073のRLUを示す。
図5】A)示されたプラスミドpKS100(pE194複製起点、cop-repF)、及びプラスミドpKS101(pE194(ts)複製起点; cop-repF*として印が付けられている)を有する、プラスミドpKS111を含む枯草菌PCX1株、並びにプラスミドpKS100を含む枯草菌168株の略図である。LuxABCDE:ルシフェラーゼ遺伝子; amy:アミラーゼamyE相同性領域。B)プラスミドpKS100又はpKS101を含む、プラスミドpKS111を有する枯草菌PCX1の培養物の発光シグナル及び細胞密度(OD 600nm)は、エリスロマイシン(50μg/ml)及びカナマイシン(20μg/ml)を補充したLB培地で30℃で、8時間培養後に測定された。相対的発光シグナル(RLU)は、示されている誘導因子分子キシロースの種々の濃度に対してプロットされる。プラスミドpKS100を含む参照株枯草菌168株は対照の役割を果たし、カナマイシンなしで培養された。
図6】A)以下の遺伝子エレメント: pE194複製起点(cop-repFとして示される)、PxylAプロモーターの制御下のcop遺伝子の追加のコピー、LuxABCDEオペロン(構成的プロモーターPveg下のルシフェラーゼ遺伝子)、及びアミラーゼamyE相同性領域(amy)を有するプラスミドpBAio-lumiBsを含む枯草菌168株の略図である。B)プラスミドpBAio-lumiBsを有する枯草菌168の培養物の発光シグナル及び細胞密度(OD 600nm)は、エリスロマイシン(50μg/ml)を補充したLB培地で30℃で、8時間培養後に測定された。相対的発光シグナル(RLU)は、示されている誘導因子分子キシロースの種々の濃度に対してプロットされる。RLUシグナルは、誘導因子分子キシロースの濃度依存性に低くなる。
図7】A)以下の遺伝子エレメント: pE194複製起点(cop-repFとして示される)、PxylAプロモーターの制御下のcop遺伝子の追加のコピー、LuxABCDEオペロン(構成的プロモーターPveg下のルシフェラーゼ遺伝子)、及びアミラーゼamyB相同性領域(amy)を有するプラスミドpBAio-lumiBlを含むバチルス・リケニフォルミス(B. licheniformis)P308株の略図である。pBAio lumiBlを有するバチルス・リケニフォルミスP308は、カナマイシン(20μg/ml)及び示されたキシロース濃度を含むLB培地で、8時間、37℃で培養される。B)プラスミドpBAio-lumiBlの相対的発光出力RLUは、示されたキシロース濃度に対してプロットされる。プラスミドpBAio-lumiBlのRLUは、cop発現を誘導すると低くなる。C)示されたキシロース濃度によるcop発現時のバチルス・リケニフォルミスP308におけるpBAio lumiBlの平均プラスミドコピー数。試料は8時間培養後に取り出され、細胞1つあたりの平均プラスミドコピー数が定量的リアルタイムPCRによって決定された。相対的PCN:染色体終端と比べたプラスミドの相対的プラスミドコピー数(細胞1つあたりの)。点線は、単一コピー染色体組み込みのレベルを示す。
図8】copの過剰発現及び温度シフトの組合せによる100%Campbell組換え効率を示す図である。A)luxA相同性領域を含むpKS137プラスミドを有する発光バチルス・リケニフォルミスLBL細胞の2つの状態の概略図である。プラスミドは自律的に複製しており、ゲノムコードluxABCDE配列はインタクトであり、全ての細胞が発光を示す。プラスミド複製を止めると、luxA配列への相同領域(luxA')による相同組換えを介してゲノムへのpKS137の組み込みが起こり、ルシフェラーゼのサブユニットをコードするこの遺伝子を中断させる。この遺伝子型を有する細胞は、もはや機能的ルシフェラーゼを産生することができず、発光を示さない。B)バチルス・リケニフォルミスにおけるプラスミド組み込み率の発光ベースの評価。プラスミドpKS137を含むバチルス・リケニフォルミス株LBLは、両方とも20μg/mlカナマイシンを補充したLB寒天プレートに播種した翌日中に液体培養で培養される。0.5%誘導因子分子キシロースの補充は「+」によって示され、37℃又は45℃のいずれかによる培養温度が示される。以下の条件の結果が示されている:培養日のキシロースなし及び寒天プレートのキシロースなし(白いバー)、培養日のキシロースなし及び寒天プレートの0.5%キシロース(右斜めの斜線)、培養日の0.5%キシロース及び寒天プレートのキシロースなし(黒)、又は培養日の0.5%キシロース及び寒天プレートの0.5%キシロース(網目)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の技術的教示は、言語手段を使用して、特に科学的及び技術的用語を用いて本明細書に表される。しかし、言語手段は、詳細及び正確であり得るが、各表現には必然的に終わりがあるため、たとえ、教示を表現する複数の方法がある(それぞれは必然的に全ての概念関係を完全に表現することができない)という理由だけであっても、技術的教示の完全な内容に近づけることしかできないことを当業者は理解する。この点を念頭に置いて当業者は、文字による説明に固有の制約により、本発明が、必ずしも部分をもって全体を表すわけではない方法で本明細書に示された又は表現された個々の技術的概念の総和であることを理解する。特に、当業者は、例えば、3つの概念又は実施形態A、B及びCの開示が、概念A+B、A+C、B+C、A+B+Cという簡単な表記となるように、個々の技術的概念が、技術的に知覚できる限り、概念のそれぞれ可能性のある組合せの詳細な説明の省略として本明細書で表示されることを理解するであろう。特に、特徴の代替案は、代替物又はインスタンス化をまとめたリストの観点で本明細書に記載される。特に指示のない限り、本明細書に記載された本発明はそのような代替物の任意の組合せを含む。そのようなリストからのおおむね好ましい構成要素の選択は、本発明の一部であり、それぞれの特徴によって伝えられる利点(複数可)の最小限度の実現に対する当業者の好みによる。そのような複数の組み合わされたインスタンス化は、本発明の十分に好ましい形態となる。
【0019】
本明細書で使用される場合、「a」、「an」及び「the」のような単数及び単数形の用語は、内容が特に明確に指示しない限り複数の指示対象を含む。故に、例えば、用語「核酸(a nucleic acid)」の使用は場合により、実際問題として、その核酸分子の多くのコピーを含む。同様に、用語「プローブ」は場合により(及び典型的には)、多くの類似の又は同一のプローブ分子を包含する。また、本明細書で使用される場合、単語「含む(comprising)」又は変形形態、例えば「comprises」若しくは「comprising」は、述べられた要素、整数若しくはステップ、又は要素、整数若しくはステップの群の包含を意味するが、任意の他の要素、整数若しくはステップ、又は要素、整数若しくはステップの群の排除を意味しないと理解されるであろう。
【0020】
本明細書で使用される場合、用語「及び/又は」は、関連する列挙された項目のうちの1つ以上のありとあらゆる可能性のある組合せ、並びに代替(「又は」)で解釈される場合は組合せの欠如を指し、及び包含する。用語「含む(comprising)」は、用語「からなる(consisting of)」も包含する。
【0021】
測定可能な値、例えば質量、用量、時間、温度、配列同一性等の量に関連して使用される場合、用語「約」は、特定の値の±0.1%、0.25%、0.5%、0.75%、1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%又はさらには20%の変形形態及び特定の値を指す。故に、所与の組成物が「約50%X」を含むと記載されているならば、一部の実施形態では、組成物は50%Xを含むが、他の実施形態では、組成物は40%~60%Xの範囲(すなわち、50%±10%)を含み得ることが理解されるべきである。
【0022】
本明細書で使用される場合、用語「遺伝子」は、核酸で具体化される場合、遺伝子産物、すなわちさらなる核酸、好ましくはRNAに転写され得、好ましくはペプチド又はポリペプチドに翻訳もされ得る生化学的情報を指す。該用語は故に、前記情報に類似する核酸の部分及びそのような核酸の配列(本明細書では「遺伝子配列」とも呼ばれる)を示すのにも使用される。
【0023】
また、本明細書で使用される場合、用語「アレル」は、他の配列差異の存在に関係なく、野生型遺伝子配列と比べて遺伝子配列における1つ以上の特定の差異によって特徴付けられる遺伝子の変異を指す。本発明のアレル又はヌクレオチド配列変異体(バリアント)は、野生型遺伝子のヌクレオチド配列に対して、優先度の増加する順に、少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%~84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%のヌクレオチド「配列同一性」を有する。それに対応して、「アレル」がペプチド又はポリペプチドを発現するための生化学的情報を指す場合、アレルのそれぞれの核酸配列は、それぞれの野生型ペプチド又はポリペプチドに対して、優先度の増加する順に、少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%~84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%のアミノ酸「配列同一性」を有する。
【0024】
「標的遺伝子」は、所望の特性を有する遺伝子又はアレルを指す。本発明において標的遺伝子は、好ましくは酵素をコードし、より好ましくは酵素は、アミラーゼ、カタラーゼ、セルラーゼ、キチナーゼ、クチナーゼ、ガラクトシダーゼ、ベータ-ガラクトシダーゼ、グルコアミラーゼ、グルコシダーゼ、ヘミセルラーゼ、インベルターゼ、ラッカーゼ、リパーゼ、マンナナーゼ、マンノシダーゼ、ヌクレアーゼ、オキシダーゼ、ペクチナーゼ、ホスファターゼ、フィターゼ、プロテアーゼ、リボヌクレアーゼ、トランスフェラーゼ及びキシラナーゼからなる群から選択され、より好ましくはプロテアーゼ、アミラーゼ又はリパーゼであり、最も好ましくはプロテアーゼである。
【0025】
アミノ配列又は核酸配列の突然変異又は変化は、置換、欠失又は挿入のいずれであってもよく、用語「突然変異」又は「変化」は、これらの任意の組合せも包含する。
【0026】
タンパク質又は核酸変異体(バリアント)は、親タンパク質又は核酸と比較した場合の、それらの配列同一性により定義することができる。配列同一性は、通常、「%配列同一性」又は「%同一性」として提供される。第1のステップで2種類のアミノ酸配列間の同一性パーセントを決定するために、それら2種類の配列間でペアワイズ配列アライメントを作成し、このとき、2種類の配列は、それらの完全長でアライメントされる(すなわち、ペアワイズ全域アライメント)。アライメントは、プログラムのデフォルトパラメータ(gapopen=10.0、gapextend=0.5及びmatrix=EBLOSUM62)を用いて、好ましくはプログラム「NEEDLE」(欧州分子生物学オープンソフトウェアスイート(EMBOSS))を用いることにより、Needleman and Wunschアルゴリズム(J. Mol. Biol. (1979) 48, p. 443-453)を実装するプログラムを用いて、生成される。本発明の目的のために好ましいアライメントは、最高配列同一性を決定できるアライメントである。
【0027】
以下の例は、2種類のヌクレオチド配列を説明することを意図するが、同じ計算が、タンパク質配列に適用される:
Seq A:AAGATACTG 長さ:9塩基
Seq B:GATCTGA 長さ:7塩基。
それ故、より短い配列は、配列Bである。
【0028】
それらの完全長にわたって両方の配列を示すペアワイズ全域アライメントの生成は、以下のものを生じる。
アライメント中の「|」記号は、同一の残基(DNAに関しては塩基又はタンパク質に関してはアミノ酸を意味する)を示す。同一残基の数は6である。
【0029】
アライメント中の「-」記号はギャップを示す。配列B内でアライメントにより導入されるギャップの数は、1である。配列Bの縁でアライメントにより導入されるギャップの数は2であり、配列Aの縁では1である。
それらの完全長にわたってアライメントされた配列を示すアライメント長は、10である。
【0030】
本発明に従ってその完全長にわたってより短い配列を示すペアワイズアライメントの生成は、結果として、以下のものを生じる:
【0031】
本発明に従ってその完全長にわたって配列Aを示すペアワイズアライメントの生成は、結果として、以下のものを生じる:
【0032】
本発明に従ってその完全長にわたって配列Bを示すペアワイズアライメントの生成は、結果として、以下のものを生じる:
【0033】
その完全長にわたってより短い配列を示すアライメント長は、8である(1つのギャップが存在し、これは、より短い配列のアライメント長に含まれる)。
したがって、その完全長にわたって配列Aを示すアライメント長は、9である(配列Aが本発明の配列であることを意味する)。
したがって、その完全長にわたって配列Bを示すアライメント長は、8である(配列Bが本発明の配列であることを意味する)。
【0034】
2つの配列をアライメントした後、第2のステップで、同一性値がアライメントから決定される。したがって、本開示にしたがって、以下の同一性パーセントの計算が適用される:
%同一性=(同一残基/その完全長にわたって本発明の各配列を示すアライメント領域の長さ)*100
つまり、本発明に従う2つのアミノ酸配列の比較に関連する配列同一性は、その完全長にわたって本発明の各配列を示すアライメント領域の長さによって、同一残基の数を除算することにより、算出される。この値に100を乗じて、「%同一性」を与える。上記で提供された例に従えば、%同一性は:本発明の配列である配列Aについて(6/9)*100=66.7%;本発明の配列である配列Bについて(6/8)*100=75%である。
【0035】
用語「ハイブリダイゼーション」は、本明細書中で定義される場合、実質的に相補的なヌクレオチド配列が互いにアニーリングするプロセスである。ハイブリダイゼーションプロセスは、完全に溶液中で起こることができ、すなわち、両方の相補的核酸が溶液中にある。ハイブリダイゼーションプロセスはまた、一方の相補的核酸が磁性ビーズ、セファロースビーズ又はいずれかの他の樹脂などのマトリックスに固相化された状態で起こることもできる。ハイブリダイゼーションプロセスはさらに、一方の相補的核酸がニトロセルロース膜若しくはナイロン膜などの固体支持体に固相化されているか、又は、例えばフォトリソグラフィーにより、ケイ質ガラス(siliceous glass)支持体に固相化されている(後者は、核酸アレイ若しくはマイクロアレイ又は核酸チップとして知られる)状態で起こることができる。ハイブリダイゼーションを起こすために、核酸分子は一般的に、2本の一本鎖へと二本鎖を融解させるために、かつ/又は一本鎖核酸からヘアピン若しくは他の二次構造を除去するために、熱的又は化学的に変性される。
【0036】
用語「ストリンジェンシー」とは、ハイブリダイゼーションが起こる条件を意味する。ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーは、温度、塩濃度、イオン強度及びハイブリダイゼーションバッファー組成などの条件により影響を受ける。一般的に、低ストリンジェンシー条件は、規定されたイオン強度及びpHでの特異的配列に対する熱的融点(Tm)よりも約30℃低く選択される。中等度ストリンジェンシー条件は、温度がTmよりも20℃低い場合であり、高ストリンジェンシー条件は、温度がTmよりも10℃低い場合である。高ストリンジェンシーハイブリダイゼーション条件は、典型的に、標的核酸配列に対して高い配列類似性を有するハイブリダイズ性配列を単離するために用いられる。しかしながら、核酸は、遺伝的コードの縮重に起因して、配列が逸脱しながらも実質的に同一のポリペプチドをコードする場合がある。したがって、中等度ストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件が、一部の場合に、そのような核酸分子を同定するために必要であり得る。
【0037】
「Tm」は、規定されたイオン強度及びpHで、完璧にマッチするプローブに対して標的配列のうちの50%がハイブリダイズする温度である。Tmは、溶液条件並びにプローブの塩基組成及び長さに依存する。例えば、より長い配列は、より高い温度で特異的にハイブリダイズする。最大のハイブリダイゼーション速度は、Tmよりも約16℃から最大で32℃低い温度で得られる。ハイブリダイゼーション溶液中の一価カチオンの存在は、2つの核酸鎖の間の静電反発力を減少させ、それによりハイブリッド形成を促進し;この作用は、最大で0.4Mのナトリウム濃度で観察される(より高濃度ではこの作用は無視できる)。ホルムアミドは、ホルムアミド1%につき0.6~0.7℃、DNA-DNA及びDNA-RNA二重鎖の融解温度を低下させ、50%ホルムアミドの添加は、30~45℃でハイブリダイゼーションが起こるのを可能にするが、ハイブリダイゼーション速度は低下するであろう。塩基対ミスマッチは、ハイブリダイゼーション速度及び二重鎖の熱安定性を低下させる。平均して、大きなプローブに関して、Tmは塩基ミスマッチ1%当たり約1℃低下する。Tmは、ハイブリッドの種類に応じて、以下の方程式を用いて算出することができる:
・DNA-DNAハイブリッド(Meinkoth and Wahl, Anal. Biochem., 138: 267-284, 1984): Tm=81.5℃+16.6×log[Na+]{a}+0.41×%[G/C{b}]-500×[L{c}]-1-0.61×%ホルムアミド
・DNA-RNA又はRNA-RNAハイブリッド:
Tm=79.8+18.5(log10[Na+]{a})+0.58(%G/C{b})+11.8(%G/C{b})2-820/L{c}
・オリゴDNA又はオリゴRNAdハイブリッド:
20ヌクレオチド未満に関して:Tm=2({ln})
20~35ヌクレオチドに関して:Tm=22+1.46({ln})
{a}又は他の一価カチオンに関して、0.01~0.4Mの範囲でのみ正確である。
{b} 30%~75%の範囲でのみ%GCに関して正確である。
{c} L=二重鎖の塩基対の長さ。
{d} オリゴ:オリゴヌクレオチド;
{ln}:プライマーの有効長=2×(G/Cの数)+(A/Tの数)。
【0038】
非特異的結合は、例えば、タンパク質含有溶液を用いるメンブレンのブロッキング、ハイブリダイゼーションバッファーへの異種RNA、DNA、及びSDSの添加、及びRNアーゼを用いる処理などの多数の公知の技術のうちのいずれか1種を用いて制御することができる。無関係なプローブに関して、一連のハイブリダイゼーションを、以下のうちの一方を変化させることにより行なうことができる:(i) アニーリング温度を徐々に低下させること(例えば、68℃から42℃まで)又は(ii) ホルムアミド濃度を徐々に低下させること(例えば、50%から0%まで)。当業者は、ハイブリダイゼーション中に変更することができ、かつストリンジェンシー条件を維持又は変化させるであろう様々なパラメータを知っている。
【0039】
ハイブリダイゼーション条件に加えて、ハイブリダイゼーションの特異性は、典型的には、ハイブリダイゼーション後の洗浄の機能にも依存する。非特異的ハイブリダイゼーションから生じるバックグラウンドを除去するために、サンプルは希釈塩溶液を用いて洗浄される。そのような洗浄の重要な因子は、最終洗浄溶液のイオン強度及び温度を含み:塩濃度が低いほど、及び洗浄温度が高いほど、洗浄のストリンジェンシーが高くなる。洗浄条件は、典型的に、ハイブリダイゼーションストリンジェンシーで、又はそれ以下のストリンジェンシーで行なわれる。陽性のハイブリダイゼーションは、バックグラウンドのシグナルの少なくとも2倍のシグナルを生じる。一般的に、核酸ハイブリダイゼーションアッセイ又は遺伝子増幅検出手順に関する好適なストリンジェント条件は、上記で説明される通りである。より高いか又はより低いストリンジェント条件もまた、選択することができる。当業者は、洗浄中に変更することができ、かつストリンジェンシー条件を維持又は変化させるであろう様々なパラメータを知っている。
【0040】
例えば、50ヌクレオチドよりも長いDNAハイブリッドに対する典型的な高ストリンジェンシーハイブリダイゼーション条件は、65℃で1×SSC中又は42℃で1×SSC及び50%ホルムアミド中でのハイブリダイゼーション、及びそれに続く65℃で0.3×SSC中での洗浄を包含する。50ヌクレオチドよりも長いDNAハイブリッドに対する中等度ストリンジェンシーハイブリダイゼーション条件の例は、50℃で4×SSC中又は40℃で6×SSC及び50%ホルムアミド中でのハイブリダイゼーション、及びそれに続く50℃で2×SSC中での洗浄を包含する。ハイブリッドの長さは、ハイブリダイズ性核酸に対して予測される長さである。既知の配列の核酸をハイブリダイズさせる場合、ハイブリッドの長さは、配列をアライメントし、本明細書中に記載される保存された領域を特定することにより決定することができる。1×SSCは、0.15M NaCl及び15mMクエン酸ナトリウムであり;ハイブリダイゼーション溶液及び洗浄溶液は、5×デンハルト試薬、0.5~1.0%SDS、100μg/mL変性断片化サケ精子DNA、0.5%ピロリン酸ナトリウムをさらに含む場合がある。高ストリンジェンシー条件の別の例は、65℃で0.1%SDS及び任意により5×デンハルト試薬、100μg/mL変性断片化サケ精子DNA、0.5%ピロリン酸ナトリウムを含む0.1×SSC中でのハイブリダイゼーション、及びそれに続く65℃で0.3×SSC中での洗浄である。
【0041】
ストリンジェンシーのレベルを規定する目的のために、Sambrook et al. (2001) Molecular Cloning: a laboratory manual, 3rd Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, CSH, New York 又は Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, N.Y.(1989及び年1回の改訂)を参照することができる。
【0042】
本明細書で使用する「核酸構築物」という用語は、一本鎖又は二本鎖のいずれかの核酸分子を指し、天然に存在する遺伝子から単離されるか、さもなければ天然には存在しない方法で核酸のセグメントを含むように改変されるか、又は合成されたものである。
【0043】
「核酸構築物」という用語は、核酸構築物がポリヌクレオチドの発現に必要な制御配列を含む場合、「発現カセット」という用語と同義である。
【0044】
用語「制御配列」は、本明細書において、ポリヌクレオチドの発現(ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの発現を含むがこれに限定されない)に影響を及ぼすすべての配列を含むように定義される。各制御配列は、そのポリヌクレオチドに対して生来であっても外来であってもよく、又は互いに生来であっても外来であってもよい。かかる制御配列としては、限定するものではないが、プロモーター配列、5'-UTR(リーダー配列とも呼ばれる)、リボソーム結合性部位(RBS、シャイン・ダルガノ配列)、3'-UTR、並びに転写開始及び終止部位が挙げられる。
【0045】
調節エレメントに関する用語「機能的連結」又は「作動可能に連結された」は、調節エレメント(プロモーターを含むがこれに限定されない)と、発現される核酸配列及び、適切な場合さらなる調節エレメント(ターミネーターを含むがこれに限定されない)との、各調節エレメントがその意図された機能を果たして前記核酸配列の発現を可能にする、改変する、促進する又はさもなければ影響を与えることができるような方法での連続的配置を意味すると理解されるべきである。例えば、制御配列は、制御配列がポリペプチドのコード配列の発現を指示するようにポリヌクレオチド配列のコード配列に対して適切な位置に置かれる。
【0046】
「プロモーター」又は「プロモーター配列」は、遺伝子の上流に位置するヌクレオチド配列であり、その遺伝子の転写を可能にする遺伝子と同じ鎖上にある。プロモーターの後には遺伝子の転写開始部位が続く。プロモーターは、転写を開始するRNAポリメラーゼ(任意の必要とされる転写因子と共に)によって認識される。プロモーターの機能的断片又は機能的変異体は、RNAポリメラーゼによって認識可能であり、転写を開始することができるヌクレオチド配列である。
【0047】
「活性なプロモーター断片」、「活性なプロモーター変異体」、「機能的プロモーター断片」又は「機能的プロモーター変異体」は、依然としてプロモーター活性を有するプロモーターのヌクレオチド配列の断片又は変異体を記載する。
【0048】
「誘導因子(inducer)依存性プロモーター」は、「誘導因子分子」を発酵培地に添加すると、該プロモーターが作動可能に連結された遺伝子の転写を可能にするよう活性が増加されるプロモーターとして本明細書において理解される。故に、誘導因子依存性プロモーターにとって誘導因子分子の存在は、プロモーターに作動可能に連結された遺伝子の発現の増加をシグナル伝達を介してトリガーする。誘導因子分子の存在による活性化前の遺伝子発現は消失する必要がないが、誘導因子分子の添加後に増加される、低レベルの基底遺伝子発現で存在してもよい。「誘導因子分子」は、発酵培地でのその存在が、遺伝子に作動可能に連結された誘導因子依存性プロモーターの活性を増加させることによって遺伝子の発現の増加に影響を与えることができる分子である。好ましくは誘導因子分子は、炭水化物又はその類似体である。1つの実施形態では、誘導因子分子はバチルス(Bacillus)細胞の第二の炭素源である。炭水化物の混合物の存在下、細胞は、最大のエネルギー及び増殖利点を細胞に与える炭素源(主要炭素源)を選択的に吸収する。同時に、細胞は、あまり好ましくない炭素源(第二の炭素源)の異化及び取り込みに関与する様々な機能を抑制する。典型的には、バチルスの主要炭素源はグルコースであり、様々な他の糖及び糖誘導体が第二の炭素源としてバチルスによって使用される。第二の炭素源としては、例えばマンノース又はラクトースが挙げられるが、これらに限定されない。これとは対照的に、誘導因子分子の存在に依存しないプロモーター(本明細書において「誘導因子非依存性プロモーター」と呼ばれる)の活性は構成的に活性であるか、又は発酵培地に添加される誘導因子分子の存在と関係なく増加することができる。
【0049】
用語「発現」又は「遺伝子発現」は、特定の遺伝子(複数可)又は特定の核酸構築物の転写を意味する。用語「発現」又は「遺伝子発現」は特に、遺伝子(複数可)又は遺伝子構築物の、構造的RNA(例えば、rRNA、tRNA)又はmRNAへの転写(その後の後者のタンパク質への翻訳がある又はない)を意味する。該プロセスは、DNAの転写及び得られたmRNA産物のプロセシングを含む。
【0050】
用語「ベクター」は、ポリヌクレオチドの発現をもたらす、1つ以上制御配列に作動可能に連結されたポリヌクレオチドを含む直鎖又は環状DNA分子として本明細書において定義される。
【0051】
本明細書で使用される場合、用語「単離されたDNA分子」は、天然の又は自然の状態で通常はこれと結合する他の分子から少なくとも部分的に分離されたDNA分子を指す。用語「単離された」は、好ましくは、天然の又は自然の状態で通常はそのDNA分子に隣接する核酸の一部から少なくとも部分的に分離されたDNA分子を指す。故に、例えば組換え法の結果として、通常は結合しない調節配列又はコード配列に融合されたDNA分子は、本明細書において単離されているとみなされる。そのような分子は、宿主細胞の染色体に組み込まれるか又は他のDNA分子を含む核酸溶液に存在している場合、それらが天然の状態にないという点で単離されているとみなされる。
【0052】
当業者に周知の任意の数の方法を使用して、本明細書に開示されているようにポリヌクレオチド、又はその断片を単離及び操作することができる。例えば、特定の開始ポリヌクレオチド分子を増幅する、及び/又は元の分子の変異体を産生するのにポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術が使用されてもよい。ポリヌクレオチド分子、又はその断片は、他の手法によって、例えば、自動オリゴヌクレオチド合成機を使用して一般に行われているように、化学的手段により断片を直接合成して得ることもできる。ポリヌクレオチドは、一本鎖(ss)又は二本鎖(ds)であってもよい。「二本鎖(double-stranded)」は、一般的に生理学的に適切な条件下で、二本鎖核酸構造を形成するように十分に相補的な逆平行核酸鎖間で生じる塩基対合を指す。該方法の実施形態は、ポリヌクレオチドが、センス一本鎖DNA(ssDNA)、センス一本鎖RNA(ssRNA)、二本鎖RNA(dsRNA)、二本鎖DNA(dsDNA)、二本鎖DNA/RNAハイブリッド、アンチセンスssDNA、又はアンチセンスssRNAからなる群から選択される少なくとも1つであるものを含み、これらのタイプのいずれかのポリヌクレオチドの混合物が使用され得る。
【0053】
用語「異種」(又は外因性若しくは外来性若しくは組換え若しくは非天然)ポリペプチドは、宿主細胞にとって天然でないポリペプチド、天然のポリペプチドを変化させるために組換えDNA法によって構造的改変、例えば、欠失、置換、及び/若しくは挿入が行われている、宿主細胞にとって天然のポリペプチド、又は組換えDNA法、例えば、より強力なプロモーターによる宿主細胞のDNAの操作の結果として、ポリペプチドの発現が量的に変化されるか、若しくは天然の宿主細胞とは異なるゲノム位置から発現が指示される、宿主細胞にとって天然のポリペプチドとして本明細書において定義される。同様に、用語「異種」(又は外因性若しくは外来性若しくは組換え若しくは非天然)ポリヌクレオチドは、宿主細胞にとって天然でないポリヌクレオチド、天然のポリヌクレオチドを変化させるために組換えDNA法によって構造的改変、例えば、欠失、置換、及び/若しくは挿入が行われている、宿主細胞にとって天然のポリヌクレオチド、又は組換えDNA法、例えば、より強力なプロモーターによるポリヌクレオチドの調節エレメントの操作の結果として、ポリヌクレオチドの発現が量的に変化される、宿主細胞にとって天然のポリヌクレオチド、又は宿主細胞にとって天然であるが、組換えDNA法による遺伝子操作の結果として自然の遺伝子環境内に組み込まれないポリヌクレオチドを指す。2つ以上のポリヌクレオチド配列又は2つ以上のアミノ酸配列に関して、用語「異種」は、2つ以上のポリヌクレオチド配列又は2つ以上のアミノ酸配列が互いとの特定の組合せにおいて天然に存在しないことを特徴付けるのに使用される。特に、プロモーター-遺伝子の組合せを指す場合の用語「異種」は、プロモーター及び遺伝子の特定の組合せが自然には見出されないことを意味する。特に、(a)野生型細胞において遺伝子Aに作動可能に連結されたプロモーターが、今度は代わりに別の遺伝子Bに作動可能に連結される場合、又は(b)自然には見出されないプロモーターが遺伝子に作動可能に連結される場合、又は(c)プロモーターが、自然には見出されない配列の遺伝子に作動可能に連結される場合、プロモーターは遺伝子にとって異種であり、逆もまた同様である。
【0054】
用語「宿主細胞」は、本明細書で使用される場合、核酸構築物又は発現ベクターによる形質転換、トランスフェクション、形質導入、接合等を受けやすい任意の細胞タイプを含む。故に、用語「宿主細胞」は、新たに導入されるDNA配列のための、特にその新たに導入されるDNA配列に含まれる標的遺伝子の発現のための宿主又は発現媒体として作用する能力を有する細胞を含む。本発明に係る宿主細胞は、原核生物であると理解されるべきであり、好ましくはグラム陽性又はグラム陰性の属の微生物に属し、より好ましくはアセトバクター属(Acetobacter)、アシドチオバシラス属(Acidithiobacillus)、エロモナス属(Aeromonas)、アグロバクテリウム属(Agrobacterium)、アルカリゲネス属(Alcaligenes)、アルスロバクター属(Arthrobacter)、アゾトバクター属(Azotobacter)、バチルス属、カンピロバクター属(Campylobacter)、クロモバクテリウム属(Chromobacterium)、シトロバクター属(Citrobacter)、クロストリジウム属(Clostridium)、コマモナス属(Comamonas)、コリネバクテリウム属(Corynebacterium)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、エッシェリヒア属(Escherichia)、フラボバクテリウム属(Flavobacterium)、フソバクテリウム属(Fusobacterium)、ジオバチルス属(Geobacillus)、ジオバクター属(Geobacter)、グルコノバクター属(Glucobacter)、ヘリコバクター属(Helicobacter)、イリオバクター属(Ilyobacter)、ラクトバチルス属(Lactobacillus)、ラクトコッカス属(Lactococcus)、ミクロルナタス属(Microlunatus)、マイコバクテリウム属(Mycobacterium)、ナイセリア属(Neisseria)、オセアノバチルス属(Oceanobacillus)、パエニバチルス属(Paenibacillus)、パンテア属(Pantoea)、シュードモナス属(Pseudomonas)、ラルストニア属(Ralstonia)、リゾビウム属(Rhizobium)、ロドコッカス属(Rhodococcus)、サッカロポリスポラ属(Saccharopolyspora)、サルモネラ属(Salmonella)、セラチア属(Serratia)、シノリゾビウム属(Sinorhizobium)、スタフィロコッカス属(Staphylococcus)、ステノトロホモナス属(Stenotrophomonas)、ストレプトコッカス属(Streptococcus)、ストレプトマイセス属(Streptomyces)、シネコシスティス属(Synechocystis)、サーマス属(Thermus)、ウレアプラズマ属(Ureaplasma)、キサントモナス属(Xanthomonas)、及びザイモモナス属(Zymomonas)から選択される。グラム陰性宿主のうち、プロテオバクテリア(Proteobacteria)、より好ましくはガンマプロテオバクテリア(Gammaproteobacteria)が好ましく、これらのうち特にカンピロバクター属、エッシェリヒア属、フラボバクテリウム属、フソバクテリウム属、ヘリコバクター属、イリオバクター属、ナイセリア属、シュードモナス属、サルモネラ属、及びキサントモナス属、最も好ましくはシュードモナス属又は大腸菌(Escherichia coli)の宿主が好ましい。しかし、より好ましいのはグラム陽性宿主、それらのうち特にファーミキューテス門(Firmicutes)のもの、より好ましくはバチルス属、クロストリジウム属、エンテロコッカス属、ジオバチルス属、ラクトバチルス属、ラクトコッカス属、オセアノバチルス属、スタフィロコッカス属、ストレプトコッカス属、及びストレプトマイセス属のいずれか、さらにより好ましくはラクトバチルス目(Lactobacillales)又はバチルス目(Bacillales)のもの、さらにより好ましくはバチルス科(Bacillaceae)、パエニバシラス科(Paenibacillaceae)、又はラクトバチルス科(Lactobacillaceae)のもの、さらにより好ましくはラクトバチルス属、パエニバチルス属、オセアノバチルス属、ビルジバチルス属(Virgibacillus)、又はバチルス属のものであり、並びに種バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)、バチルス・クラウジイ(Bacillus clausii)、バチルス・ハロデュランス(Bacillus halodurans)、バチルス・レンタス(Bacillus lentus)、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)、バチルス・パラリケニフォルミス(Bacillus paralicheniformis)、バチルス・プミルス(Bacillus pumilus)、枯草菌(Bacillus subtilis)、又はバチルス・ベレゼンシス(Bacillus velezensis)のいずれかが最も好ましく、最も好ましくは種バチルス・リケニフォルミスに属する。宿主は、機能的rep遺伝子の存在を条件として、本発明のプラスミドがその中で再生できるおおむね任意の原核生物であってもよいことが本発明の利点である。故に、本発明のプラスミド及び宿主は、多様な発酵プロセスで使用されて有利には有用である。
【0055】
本明細書で使用される場合、核酸又はポリペプチドを指す場合の「組換え」は、例えばポリヌクレオチドの制限及びライゲーション、ポリヌクレオチドオーバーラップ伸長、又はゲノム挿入若しくは形質転換による、組換え法のヒト適用の結果としてそのような物質が変化されていることを示す。遺伝子配列オープンリーディングフレームは、(a)そのヌクレオチド配列が、例えば(i)任意のタイプの人工核酸ベクターへのクローニング、又は(ii)元のゲノムの別の位置への移動若しくはコピーによって自然の状況以外の状況に存在するならば、或いは(b)ヌクレオチド配列が、野生型配列とは異なるように変異誘発されるならば、組換え型である。組換えという用語は、組換え物質を有する生物も指すことができ、例えば、組換え核酸を含む植物は組換え植物である。
【0056】
用語「トランスジェニック」は、異種ポリヌクレオチドを含む生物、好ましくは植物若しくはその一部、又は核酸を指す。好ましくは、異種ポリヌクレオチドは、ポリヌクレオチドが代々受け継がれるようにゲノム内に安定に組み込まれる。異種ポリヌクレオチドは、単独で又は組換え発現カセットの一部としてゲノムに組み込まれてもよい。「トランスジェニック」は、遺伝子型が異種核酸の存在によって変化されている任意の細胞又は細胞系統(最初にそのように変化されたそれらのトランスジェニック生物又は細胞、並びに最初のトランスジェニック生物又は細胞からの交雑又は無性繁殖によって作出されたものを含む)を指すのに本明細書で使用される。「組換え」生物は、好ましくは「トランスジェニック」生物である。
【0057】
本明細書で使用される場合、「変異誘発された(mutagenized)」は、遺伝物質中の変化が人間の行為によって誘発及び/又は選択された、対応する野生型生物又は核酸の遺伝物質の配列と比べて、その天然の遺伝物質の生体分子配列中に変化を有する生物又はその核酸を指す。突然変異を誘発する方法は、遺伝物質中のランダムな位置に突然変異を誘発してもよく、又は例えば遺伝子形成術(genoplasty)法を用いて、遺伝物質中の特定の位置に突然変異を誘発してもよい(すなわち、特異的変異誘発法であってもよい)。非特異的突然変異に加えて、本発明において、核酸は、特定の部位に対する選択制又はさらには特異性による変異誘発手段を使用して変異誘発し、それにより本発明に係る人工的に誘導された遺伝性のアレルを作出することもできる。そのような手段、例えばジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、メガヌクレアーゼ、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALENS)(Malzahnら、Cell Biosci、2017、7:21頁)及び操作型crRNA/tracr RNA(例えばシングルガイドRNAとしての、又はデュアル分子ガイドを形成する改変型crRNA及びtracrRNA分子としての)を用いたclustered regularly interspaced short palindromic repeats/CRISPR-associated nuclease(CRISPR/Cas)を含む、例えば部位特異的ヌクレアーゼ、並びにこのヌクレアーゼを使用して既知のゲノムの位置を標的にする方法は、当技術分野で周知である(Bortesi及びFischer、2015、Biotechnology Advances 33: 41~52頁;並びにChen及びGao、2014、Plant Cell Rep 33: 575~583頁による総説、並びにその中の参考文献を参照のこと)。
【0058】
本明細書で使用される場合、「遺伝子改変生物」(GMO)は、その遺伝的特性が、別の生物若しくは「供給源」生物由来の遺伝物質、又は合成遺伝物質若しくは改変された天然の遺伝物質を用いて、標的生物の形質転換をもたらすトランスフェクションを引き起こす人的労力によってもたらされた変化を含有する生物、或いは挿入された遺伝物質を保持するその子孫である生物である。供給源生物は、異なるタイプの生物であってもよく(例えば、GMO植物は細菌の遺伝物質を含有してもよい)、又は同じタイプの生物由来であってもよい(例えば、GMO植物は別の植物由来の遺伝物質を含有してもよい)。
【0059】
用語「天然の(native)」(又は野生型若しくは内因性)細胞又は生物、及び「天然の」(又は野生型若しくは内因性)ポリヌクレオチド又はポリペプチドは、それぞれ、自然に見出される細胞又は生物、並びに細胞においてその自然の形態及び遺伝的環境で見出される(すなわち、人的介入が全くない)当該ポリヌクレオチド又はポリペプチドを指す。
【0060】
本明細書で使用される場合、「野生型」又は「対応する野生型植物」は、例えば変異誘発及び/又は組換え形態と区別される場合、それが通常生じる場合の典型的な形態の生物又はその遺伝物質を意味する。同様に、「対照細胞」又は「野生型宿主細胞」とは、本明細書に開示される本発明の特定のポリヌクレオチドを欠く細胞を意図する。用語「野生型」の使用は、それ故に、宿主細胞がそのゲノムに組換えDNAを欠くことを意味するものではない。
【0061】
本明細書に記載されるように、本発明は、プラスミドコピー数制御の方法を提供する。用語「制御」は、プラスミドの宿主細胞1つあたりの平均コピー数がユーザーによって随意調整され得ることを意味する。故に、本発明は、培養中にプラスミドコピー数を変えながら宿主株の培養を行うことを可能にする。これは、プラスミドコピー数がプラスミドの野生型複製機構によって自己調節されるのみのようなケースでは不可能である。
【0062】
本発明において、プラスミドを含む原核生物宿主が提供される。プラスミドは、プラスミド複製開始タンパク質(Rep)によって活性化可能な複製起点を有する。そのようなRepタンパク質は、一般的に当業者に公知である。機能的な意味で、Repタンパク質及び、プラスミドコピー数制御のその対応する野生型機構は、2つのグループに分類することができる。第1の及び好ましいグループでは、Repタンパク質は、Repタンパク質の任意の生理学的に許容される濃度で典型的には複製起点に結合することによってプラスミド複製をもたらす。そのようなプラスミド、複製起点、Repタンパク質及びコピー数制御産物(同様に本明細書でさらに記載されるCop及び/又はアンチセンスRNA)は、Khan、Microbiology and Molecular Biology総説、1997、442~455頁に詳細に記載されており、この文献の内容はその全体が本明細書に組み込まれる。よく知られているプラスミドは、大腸菌での複製を可能にするpBR322、pUC19、pACYC177及びpACYC184、並びにバチルス属での複製を可能にするpUB110、pE194、pTA1060及びrhoAMbetaIのファミリーに属するものである。Khanによって記載されている第1のグループに分類される典型的なプラスミドは、pLS1又はpUB110のファミリーに属する。第2のグループでは、Repタンパク質は高濃度で発現される場合、自身のリプレッサーとして作用する。そのようなRepタンパク質及び、プラスミドコピー数自己調節のその機構は、Ishiaiら、Proc. Natl. Acad. Sci USA、1994、3839~3843頁、及びGiraldoら、Nature Structural Biology 2003、565~571頁に記載されている。具体的に本明細書に示されない限り、又は技術的に合理的な限り、本発明に係るプラスミドコピー数制御は、第1のグループ又は第2のグループいずれかのコピー数調節機構によって達成される。しかし、第1のグループのほうが優先される。
【0063】
本発明において、Repタンパク質の発現は、プラスミドコピー数を所望の値に調整するように調節される。故に、宿主細胞に干渉することによって平均プラスミドコピー数を随意増減することができる。特に、Repタンパク質の発現に直接及び特異的に干渉することによって、本発明は故に、極端な温度シフトのような生理学的に厳しい条件に宿主をさらす必要なくプラスミドコピー数を改変できるようにする。プラスミドコピー数がユーザーによって実質的にいつでも調整され得、選択された複製起点(WO2007035323に記載の)、rep遺伝子の発現のための特別なプロモーター等の組み込みによって最終的に決定されないことは、本発明の特定の利点である。
【0064】
Repタンパク質の発現は、
a)Repタンパク質をコードするrep遺伝子の発現の増加、
b)Repタンパク質をコードするrep遺伝子の発現の減少、
c)Rep発現のリプレッサーをコードするリプレッサー遺伝子の発現の減少、
d)Rep発現のリプレッサーをコードするリプレッサー遺伝子の発現の増加
のうちの1つ以上によって好ましくは調節される。
【0065】
Repタンパク質の発現は、Repタンパク質をコードする遺伝子(rep)の転写速度を改変すること、及び/又はRepタンパク質をコードするmRNAの翻訳速度を改変することによって調節することができる。故に、Repタンパク質の発現は、rep遺伝子及びそのそれぞれのmRNAの転写及び/又は翻訳速度を上げることによって増加させることができる。それに対応して、Repタンパク質発現の減少は、rep遺伝子及びそのそれぞれのmRNAの転写及び/又は翻訳速度を下げることによって達成することができる。
【0066】
本発明に従って転写効率を上げることによる遺伝子発現の増加は、それぞれの遺伝子を異種誘導性プロモーターの制御下に置くことによって好ましくは達成される。任意の宿主微生物、特に本明細書に明示されたものに対するそのようなプロモーターは当業者に公知である。典型的には、そのようなプロモーターの転写速度は、外部刺激、好ましくは宿主の培地への物質の添加に反応する1つ以上の転写因子によって調節される。プラスミドコピー数制御の方法が、そのような十分にテストされた信頼できるプロモーター及び誘導原(inductor)を使用して行われ得ることは、本発明の利点である。当業者に周知の適切な誘導原及び対応するプロモーターは、IPTG、ラクトース、キシロース、テトラサイクリン及びそれらの誘導体、例えばドキソサイクリン(doxocycline)である。
【0067】
誘導因子依存性プロモーターとも呼ばれる誘導性プロモーターは、「誘導因子物質」を培養又は発酵培地に添加すると、該プロモーターが作動可能に連結された遺伝子の転写を可能にする活性が増加されるプロモーターとして本明細書において理解される。故に、誘導因子依存性プロモーターにとって誘導因子分子の存在は、プロモーターに作動可能に連結された遺伝子の発現の増加をシグナル伝達を介してトリガーする。誘導因子分子の存在による活性化前の遺伝子発現が消失する必要はないが、誘導因子分子の添加後に増加される基底遺伝子発現も低レベルで存在してもよい。「誘導因子分子」は、発酵培地でのその存在が、遺伝子に作動可能に連結された誘導因子依存性プロモーターの活性を増加させることによって遺伝子の発現の増加に影響を与えることができる分子である。好ましくは誘導因子分子は、炭水化物又はその類似体である。1つの実施形態では、誘導因子分子はバチルス細胞の第二の炭素源である。炭水化物の混合物の存在下、細胞は、最大のエネルギー及び増殖利点を細胞に与える炭素源(主要炭素源)を選択的に吸収する。同時に、細胞は、あまり好ましくない炭素源(第二の炭素源)の異化及び取り込みに関与する様々な機能を抑制する。典型的には、バチルスの主要炭素源はグルコースであり、様々な他の糖及び糖誘導体が第二の炭素源としてバチルスによって使用される。第二の炭素源としては、例えばマンノース又はラクトースが挙げられるが、これらに限定されない。
【0068】
誘導性プロモーターの周知の例は、アラビノースを添加するとそのコンフォメーションを変化させ、二量体としてオペレーター部位I1及びI2に結合するaraCによって調節される、大腸菌由来のPBADプロモーター、並び活性化因子manRによって調節される、バチルス由来のマンノース誘導性プロモーター系PmanPである。誘導性プロモーター、例えば、lacUV5プロモーター、大腸菌における発現のためのT7ファージプロモーター、並びにバチルスにおけるPspac-I及びPpac-Iプロモーターは、誘導因子分子の非存在下、プロモーター配列内、例えば-35~-10sigA認識部位か、又はプロモーター配列の近傍、すなわち3'若しくは5'のいずれかでその特異的lacオペレーター部位に結合して転写を阻止する、lacリプレッサー(lacI遺伝子によってコードされた)によって負に調節される。別の例は、バチルス発現系に広く使用されるバチルス・メガテリウム由来のPxylA誘導性プロモーター系である。PxylAプロモーターは、転写開始部位の3'にxylRオペレーター部位を含むxylRリプレッサータンパク質によって負に調節される。幅広い種々の細菌種に適用可能なテオフィリンリボスイッチを含む合成誘導性発現系(Topp S、Reynoso CM、Seeliger JCら、Synthetic riboswitches that induce gene expression in diverse bacterial species; Appl Environ Microbiol. 2010;76(23):7881~7884頁)が開発されている。
【0069】
誘導因子依存性プロモーターの例は、それぞれのオペロンを参照して下の表に示される。
【0070】
【0071】
それに対応して、本発明に従って転写効率を下げることによる遺伝子発現の減少は、それぞれの遺伝子を異種抑制性(silencable)プロモーターの制御下に置くことによって好ましくは達成される。任意の宿主微生物、特に本明細書に明示されたものに対するそのようなプロモーターは当業者に公知である。典型的には、そのようなプロモーターの転写速度は、外部刺激、好ましくは宿主の培地への物質の添加に反応する1つ以上の転写因子によって調節される。プラスミドコピー数制御の方法が、そのような十分にテストされた信頼できるプロモーター及びサイレンサー物質を使用して行われ得ることは、本発明の利点である。当業者に周知の適切なサイレンサー物質及び対応するプロモーターは、テトラサイクリン及びその誘導体、例えばドキソサイクリンを適用するtet-offプロモーター系、補酵素B12リボスイッチに限定されないリボスイッチプロモーター系、リジンリボスイッチ、TPPリボスイッチ(Winkler WC、Breaker RR. Regulation of bacterial gene expression by riboswitches. Annu Rev Microbiol. 2005;59:487~517頁)である。
【0072】
故に、本発明においてrep遺伝子は、発現カセット中の異種誘導性プロモーターに作動可能に連結され得る。誘導性プロモーターの制御下のrep遺伝子は、プラスミド及び/又は宿主の染色体に存在してもよい。両方のケースとも、rep遺伝子の転写速度及びそれに対応したRepタンパク質の発現は、対応する誘導原が宿主株に提供される場合最大となり、そのような誘導原の非存在下では、転写速度及び故にRepタンパク質の発現が減少される。故に、Repタンパク質の発現は、一定期間、例えば発酵プロセス中の誘導原の添加によって一時的に増加され得る。これは本発明の特定の利点である。例えばこれにより、誘導原の非存在下で宿主株培養物を凍結保存から再生させること、及び低いプラスミドコピー数しか含まないスターター培養物を増殖させることが可能になる。上に示したように、微生物は、培地又は他の環境条件の変化を経験すると代謝困難になる。そのような条件下で高いプラスミドコピー数を維持することを宿主に強要しないことにより、本発明は増殖条件の変化に宿主が適応するスピードを上げられるようにし、それにより指数増殖のより迅速な開始を可能にする。代謝ストレス条件下でも選択圧が依然として維持され、それにより宿主培養からのプラスミド喪失を防ぐことができることが、本発明のさらなる利点である。
【0073】
Repタンパク質がRepタンパク質の第1の及び好ましいグループに属する場合、Repタンパク質の発現の増加はプラスミドコピー数の増加をもたらす。第2のグループでは、Repタンパク質の発現の増加は、Repタンパク質特異的濃度範囲でのプラスミドコピー数の増加をもたらすのみである。そのようなプラスミドコピー数調節系にとってRepタンパク質の欠如は、プラスミド複製開始因子の欠如により宿主からのプラスミドの喪失をもたらす。高濃度のRepタンパク質は、典型的にはRepタンパク質の二量体化によってRep自己不活性化をもたらす。故に、第2のグループに関して本発明は、ゼロから最適Rep濃度にRep発現を増加させることによってプラスミドコピー数の一時的な増加を依然として可能にするが、同様に、最適Rep濃度を超えてRep濃度を上げ、それによりRepを自己抑制させてプラスミドコピー数を一時的に低減できるようにする。
【0074】
rep遺伝子はまた、発現カセット中の異種抑制性プロモーターに作動可能に連結されてもよい。この場合もやはり、抑制性プロモーターの制御下のrep遺伝子は、プラスミド及び/又は宿主の染色体に存在してもよい。両方のケースとも、サイレンサー物質の添加はrep遺伝子の転写速度を低減する。それに対応してRepタンパク質の発現は、サイレンサー物質の非存在下で最大となり、サイレンサー物質の存在下で低減される。第1のグループのRepタンパク質に関して、そのような構成は、高いプラスミドコピー数が宿主培養のほとんどの段階で望まれる場合に、及び低いコピー数が特定の段階のみ、例えば、培地の交換時、凍結保存後の再生中、又は発酵槽接種の最も早い段階において望まれる場合に有利である。サイレンサー物質を低い所望のプラスミドコピー数のそのような例外的な段階に添加することのみにより、本発明は、サイレンサー物質を添加する必要なくより高いプラスミドコピー数で宿主の全ての他の取り扱いを行えるようにする。第2のグループのRepタンパク質に関して、そのような構成は、自己抑制レベルからプラスミド複製許容レベルへRep濃度を一時的に下げるのに有利である。
【0075】
Repタンパク質の発現は、誘導性又は抑制性プロモーターへの結合に加えて又はその代わりに、異種プロモーターの制御下でrep遺伝子発現のリプレッサーの発現によって改変することもできる。そのようなリプレッサーは、核酸又はタンパク質であってもよい。pLS1ファミリーのプラスミドでは、例えば、両方のタイプのリプレッサー、すなわちRepコードmRNAにハイブリダイズするcopAアンチセンスRNA、及びrep遺伝子発現のCopBリプレッサータンパク質が天然に使用されてプラスミドコピー数を調節する。rep遺伝子発現の天然のリプレッサーの使用は、rep遺伝子の少なくとも1つのコピーが依然としてRep発現の天然のプロモーターの制御下にあり得るというさらなる利点を有する。
【0076】
好ましくは、少なくとも1つのrep遺伝子が天然のrep遺伝子プロモーターに作動可能に連結され、リプレッサーは天然のrep遺伝子プロモーターのリプレッサーである。故に、異種誘導性又は抑制性プロモーターの制御下でリプレッサー遺伝子のコピーを含む発現カセットを染色体又はヘルパープラスミドに含む宿主において、改変されていない高コピー数プラスミドを提供することが例えば可能である。ひとたびリプレッサー発現カセットを導入することによって、宿主株しか遺伝子改変される必要がないことはそのようなプラスミド-宿主系の利点である。得られた宿主は、次いで、各時点でリプレッサーを所望の濃度で発現させて所望のレベルのRep発現と、次に所望のプラスミドコピー数を得ることによって、適合するrep遺伝子プロモーターの任意のプラスミドのコピー数を制御するのに使用することができる。
【0077】
本発明はまた、誘導性又は抑制性プロモーターに加えて又はその代わりに、異種構成的プロモーターの使用も提供する。これは、その細胞に一定のコピー数をもたらすリプレッサーの量をもたらす。構成的プロモーターの発現速度は、例えばGuiziouら、(2016): Nucleic Acids Res. 44(15)、7495~7508頁によって記載される所望の発現レベル、又はWO2013148321に記載される抗シグマ因子に従って調整することができる。
【0078】
リプレッサー遺伝子は、異種誘導性プロモーターの制御下にあってもよい。そのようなケースでは、宿主への誘導原の添加はリプレッサー遺伝子発現の増加をもたらし、その結果、上記のようにRepタンパク質発現の低減につながる。リプレッサー遺伝子が異種抑制性プロモーターの制御下にある場合、宿主へのサイレンサー物質の添加はリプレッサー遺伝子発現の減少をもたらし、その結果、上記のようにRepタンパク質発現の増加につながる。
【0079】
好ましくはrep遺伝子発現は、リプレッサー核酸及びリプレッサータンパク質(本明細書では「Copタンパク質」とも呼ばれる)の両方の制御下にある。そのような系では、第1のリプレッサーをコードする1つの第1の遺伝子は好ましくはプラスミドに位置し、第2のリプレッサーをコードする他の遺伝子の発現カセットは好ましくはどこにでも位置し、好ましくは宿主の染色体に組み込まれる。故に、第1のリプレッサーは、プラスミドコピー数の自己調節因子として機能する。プラスミドコピー数が増加すると、第1のリプレッサーの遺伝子量もそれに応じて増加する。これは、次に、第1のリプレッサー濃度の増加と、故にrep遺伝子発現の抑制につながり、それによりユーザーによる干渉を必要とすることなく最大プラスミドコピー数を制限する。プラスミドコピー数が減少すると、第1のリプレッサーの遺伝子量もそれに応じて減少する。これは、次に、第1のリプレッサー濃度の低下と、故にrep遺伝子発現の増加につながり、それによりやはりユーザーの行為を必要とせずに、プラスミド喪失又は最小閾値を下回るプラスミドコピー数の低下を防ぐ。rep遺伝子発現がリプレッサー核酸及びリプレッサータンパク質の両方の制御下にある場合、第1のリプレッサーはリプレッサー核酸、最も好ましくはアンチセンスRNA、及びプロモーターを含む発現カセットであり、これに作動可能に連結された第1のリプレッサー遺伝子は、コピー数が制御されるプラスミドに好ましくは位置することが好ましい。この方法では、自己調節がリプレッサータンパク質の代謝的に代償の大きい産生に依存せず、その代わりに第1のリプレッサー遺伝子の転写物は所望の強度でRep発現を抑制するのに十分であるため、そのような構成は特に有利である。さらなる利点は、核酸リプレッサーはタンパク質リプレッサーより産生が速く、一般的に半減期時間はより短く、故に極めて短時間の遅延のみでRep発現を制御するのに使用できることである。そしてアンチセンス核酸の形態での核酸リプレッサーは、rep遺伝子発現を駆動するプロモーターの配列から独立している。故に、核酸リプレッサーは、rep遺伝子が異種プロモーターの制御下にあっても、rep mRNA転写物の翻訳を阻止又は低減することによってRep発現を抑制することができる。
【0080】
それに対応して本発明はまた、プラスミドコピー数制御に適合されたプラスミドも提供する。特に本発明は、プラスミド複製開始タンパク質(Rep)によって活性化可能な複製起点、及びRepタンパク質をコードするrep遺伝子を含む制御された複製プラスミドであって、rep遺伝子が異種プロモーターに作動可能に連結され、プロモーターが好ましくは誘導性又は抑制性である、プラスミドを提供する。上記のようにそのようなプラスミドは、誘導原又はサイレンサー物質の添加によってRepタンパク質発現を増加又は減少させることができる。rep遺伝子が、少なくとも1つのリプレッサーによって抑制可能である場合、このリプレッサーは好ましくはプラスミドによってではなく宿主、好ましくは宿主の染色体に組み込まれたリプレッサー発現カセット及び/又はヘルパープラスミドに位置するリプレッサー発現カセットによって提供される。上に示したように、本発明はまた、異種の、好ましくは誘導性又は抑制性プロモーターの制御下でrep遺伝子を含むプラスミドであって、Rep発現の核酸リプレッサーをコードする遺伝子も含むプラスミドも提供する。そのようなアンチセンス核酸リプレッサーは、rep遺伝子の発現を駆動するプロモーターから独立している。
【0081】
本発明はまた、プラスミド複製開始タンパク質(Rep)によって活性化可能な複製起点、及びRepタンパク質をコードするrep遺伝子を含む制御された複製プラスミドも提供し、プラスミドは、異種プロモーターに作動可能に連結された、Rep発現のリプレッサーをコードするリプレッサー遺伝子を含む。この場合もやはり、異種プロモーターは、好ましくは誘導性又は抑制性である。リプレッサーがリプレッサータンパク質である場合、rep遺伝子は、リプレッサータンパク質によって抑制可能なプロモーターの制御下にある。そのような場合、rep遺伝子は好ましくは、天然のrep遺伝子プロモーター、又は、天然のrep遺伝子プロモーターに由来し、依然としてリプレッサータンパク質を結合させることができるプロモーターに作動可能に連結される。
【0082】
そのようなプラスミドのコピー数が、宿主の遺伝物質への改変なしにそれぞれの誘導因子又はサイレンサー物質の適用によって制御され得ることは、プラスミド複製開始タンパク質(Rep)によって活性化可能な複製起点、Repタンパク質をコードするrep遺伝子及び、異種誘導性又は抑制性プロモーターの制御下で、Rep発現のリプレッサーをコードするリプレッサー遺伝子を含むプラスミドの特定の利点である。故にそのようなオールインワンプラスミドは特に多用途である。そのようなプラスミドの特に好ましい使用は、本明細書に、特に図及び実施例に記載されている。
【0083】
同様に本発明は、プラスミド複製開始タンパク質(Rep)によって活性化可能な複製起点、及びRepタンパク質をコードするrep遺伝子を含む制御された複製プラスミドを提供し、rep遺伝子は、異種プロモーターに作動可能に連結され、さらに異種プロモーターに作動可能に連結された、Rep発現のリプレッサーをコードするリプレッサー遺伝子をさらに含む。好ましくは、少なくともリプレッサー遺伝子に作動可能に連結された異種プロモーターは、誘導性又は抑制性である。1つのそのようなプラスミド、すなわち異種プロモーターの制御下にあるrep遺伝子を抑制する核酸リプレッサーを含むプラスミドは、上に記載されている。
【0084】
さらに本発明は、
- プラスミド複製開始タンパク質(Rep)によって活性化可能な複製起点、及び
- 場合により、Rep発現のリプレッサーをコードするリプレッサー遺伝子に作動可能に連結されたプロモーター
を含み、Repタンパク質をコードする機能的rep遺伝子を含まない、複製支援依存性プラスミドを提供する。
【0085】
本明細書に記載されるように、複製支援依存性プラスミドは、Repタンパク質の活性を依然として必要とする。しかし、Repタンパク質は、プラスミドに位置する対応する発現カセットによってシスでは提供されない。代わりに、Repタンパク質は、宿主の染色体及び/又はヘルパープラスミドに位置する対応する発現カセットによってトランスで提供される。そのようなヘルパープラスミドは、複製のためのRepタンパク質の活性に好ましくは依存せず、故に複製支援依存性プラスミドとは無関係に複製される。rep遺伝子をトランスで提供することは、対応するrep遺伝子発現カセットが宿主、好ましくはその染色体でひとたび確立されれば十分であり、故に、宿主に導入された任意の複製支援依存性プラスミド又は任意の他の制御された複製プラスミドに利用可能となるという利点を有する。複製支援依存性プラスミドは特定の利点を有する。第一に、複製支援依存性プラスミドはコンピテントな宿主でのみ複製する。故に、複製支援依存性プラスミドは、Repタンパク質を発現しない宿主の偶発的な形質転換を本質的に阻止する特に安全なベクターである。さらに、複製支援依存性プラスミドは、本明細書に記載のプラスミド組み込み方法を特に容易にする。
【0086】
複製支援依存性プラスミドは、機能的rep遺伝子を含まない。機能的rep遺伝子の非存在は、rep遺伝子を含む野生型プラスミドからのrep遺伝子の切除によって達成することができる。さらに、rep遺伝子は、例えば、1つ以上の未成熟な終止コドンの導入、又は非機能的タンパク質をコードする他のアミノ酸変化によって不活性化されてもよい。さらに、好ましくは非機能的タンパク質をコードする遺伝子は、機能的プロモーターを欠いてもよい。最も好ましくは、複製支援依存性プラスミドは、表1によるUniprot識別子によって識別される以下のアミノ酸のいずれかをコードするrep遺伝子と少なくとも95%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも80%の配列同一性を有する核酸配列を含まない。
【0087】
複製支援依存性プラスミドは、Repタンパク質の発現のための発現カセットを含む宿主で発現される場合、Repタンパク質の発現を抑制するリプレッサーをコードする遺伝子を好ましくはさらに含む。上記のようにそのような宿主は、rep遺伝子をトランスで提供する。リプレッサーを介して宿主によって提供されるrep遺伝子の発現を制御することにより、本発明はプラスミドコピー数の制御を可能にする。そのような場合、Repタンパク質発現の核酸リプレッサーをコードする複製支援依存性プラスミド上にrep遺伝子を有することは特に有利である。上記のように、核酸リプレッサーは、例えば、フィードバック機構を確立してユーザーの干渉を必要とすることなく最大プラスミドコピー数を制限するのに特に有用である。
【0088】
制御された複製プラスミド及び複製支援依存性プラスミドにおいて適用可能な特に好ましい機能は、以下に記載される。
【0089】
上記のように、リプレッサー及び/又はrep遺伝子に作動可能に連結された異種プロモーターは、外部調節因子濃度又は代謝物濃度の変化に反応する。外部調節因子濃度に反応する異種プロモーターは、本明細書において誘導性又は抑制性プロモーターと記載されている。代謝物濃度の変化に反応する異種プロモーターは、所定の代謝条件下で、プロモーターに作動可能に連結された遺伝子を自動的に誘導又は抑制できるようにする。宿主細胞が指数関数的に増殖するのを止める発酵の後期にリプレッサー遺伝子が抑制されるように、プロモーターの制御下のリプレッサー遺伝子を、本発明のプラスミド、宿主の染色体及び/又はヘルパープラスミドに提供することは特に有利である。バッチ発酵の終わりに近いそのような段階では、宿主生存能はもはや関心事項にならない。代わりに、プラスミドに位置する標的遺伝子の「最後の瞬間」の発現を最大化することが、より望ましい可能性がある。そのような「最後の瞬間」の発現の誘導は、プラスミドコピー数制御の抑制を取り除き、それによりプラスミドコピー数を増加させ、故に標的遺伝子量を増加させることによって達成することができる。発酵状況のそのような終わりに反応する適切なプロモーターは、例えば、厳しい制限下で抑制されるプロモーター、又は胞子形成の発生時に抑制されるプロモーターである。そのようなプロモーターの例は、枯草菌のabrBである。
【0090】
本発明に係るプラスミドは、好ましくは、上記のようなローリングサークル複製型プラスミドである。Repタンパク質はオートリプレッサーの振る舞いをしないため、そのようなプラスミドは特に容易な及び信頼性のある複製制御を可能にする。故に、宿主細胞中のRepタンパク質の濃度の変更は、第2のRepグループのプラスミドほど微調整されなくてもよい。
【0091】
さらにプラスミドは、好ましくは、
- 選択可能なマーカー、
- 標的遺伝子、
- 標的遺伝子に作動可能に連結されたプロモーターを含む発現カセット、
- 組換え部位
のうちの1つ以上を含む。
【0092】
選択可能なマーカーは、宿主細胞中のプラスミドの存在を確保できるようにする。上記のように選択可能なマーカーは、前述の核酸、好ましくは宿主の染色体への、本発明のプラスミドの相同組換えによる高効率の組み込みも確保できるようにする。
【0093】
標的遺伝子は好ましくは酵素をコードし、より好ましくは酵素は、アミラーゼ、カタラーゼ、セルラーゼ、キチナーゼ、クチナーゼ、ガラクトシダーゼ、ベータ-ガラクトシダーゼ、グルコアミラーゼ、グルコシダーゼ、ヘミセルラーゼ、インベルターゼ、ラッカーゼ、リパーゼ、マンナナーゼ、マンノシダーゼ、ヌクレアーゼ、オキシダーゼ、ペクチナーゼ、ホスファターゼ、フィターゼ、プロテアーゼ、リボヌクレアーゼ、トランスフェラーゼ及びキシラナーゼからなる群から選択され、より好ましくはプロテアーゼ、アミラーゼ又はリパーゼであり、最も好ましくはプロテアーゼである。本発明のプラスミドが、工業的発酵プロセスにおいて一般的なそのような様々な標的遺伝子の発現に有用であることは、本発明の特定の利点である。
【0094】
本発明はまた、本明細書に記載の制御された複製プラスミドを含む、プラスミド複製制御宿主も提供する。そのような宿主は、ユーザーによって定義されたニーズによるプラスミドコピー数の変化に特に適合されている。特にそのような宿主は、凍結保存培養物を調製する場合、又は凍結保存培養試料を再生する場合、プラスミドコピー数を一時的に減少できるようにする。
【0095】
プラスミド複製制御宿主は、好ましくは、異種誘導性又は抑制性プロモーターに作動可能に連結されたRep発現のリプレッサーをコードするリプレッサー遺伝子をトランスで提供する。これにより、宿主によって提供されるrep遺伝子の発現を誘導してプラスミドコピー数を一時的に低減すること、又は宿主によって提供されるrep遺伝子の発現を低減してプラスミドコピー数を一時的に増加させることが可能になる。好ましくはプラスミド複製制御宿主は、本明細書に記載のRep発現のリプレッサータンパク質をコードする遺伝子をトランスで提供する。
【0096】
本発明はまた、
i)本発明に係る複製支援依存性プラスミド、並びに
ii)宿主染色体及び/又は宿主中のヘルパープラスミドに位置するrep遺伝子の発現のための発現カセット
を含むプラスミド複製支援宿主も提供する。
【0097】
上記のようにそのようなプラスミド複製支援宿主は、Repタンパク質をトランスで提供し、故に複製支援依存性プラスミドの維持に特に適している。そのため、プラスミド複製支援宿主は、Repタンパク質をトランスで提供しない別の株への複製支援依存性プラスミドの偶発的な伝達を阻止する、安全保障的枠組みの一部となる。
【0098】
上記の利点を考慮して、本発明はまた、
i)本発明に係るプラスミドを含む宿主のスターター培養物を提供するステップ、
ii)前記宿主を培養して宿主細胞数の増加を達成するステップ、及び
iii)ステップii)の間に又は後で、培養された宿主細胞におけるプラスミドコピー数を調整するステップ
を含む培養方法も提供する。
【0099】
本明細書に記載されるように、プラスミドは、制御された複製プラスミド又は複製支援依存性プラスミドであってもよい。後者の場合、宿主はプラスミド複製支援宿主であるべきである。
【0100】
本発明に係る上記の培養方法では、スターター培養物が提供される。そのようなスターター培養物は好ましくは、培養方法のステップii)で経験されたものより、有意に異なる代謝条件下で維持された培養物である。好ましくはスターター培養物は、凍結保存から再生される培養試料である。また、好ましくはスターター培養物は、発酵槽の接種用の培養試料であり、故に、最大100mlのスターター培養容量から少なくとも1立方メートルの発酵容量までの培養容量の変化を受けることになる。
【0101】
ステップii)においてスターター培養物は、宿主細胞数を増加させるように培養される。典型的にはこれは、培養培地の光学密度の増加をもたらす。本発明は、宿主細胞数の増加を達成するのに特定の培地又は特定の方法に限定されない。代わりに本発明の培養方法は、有利には工業的発酵プロセスに広く適用可能である。
【0102】
ステップii)の間に又は、あまり好ましくはないがステップii)の後で、培養された宿主細胞におけるプラスミドコピー数が調整される。調整は、好ましくは、プラスミドコピー数の一時的低減、プラスミドコピー数の増加、又はコピー数の低減とそれに続く増加である。
【0103】
上記のように、本明細書に提供される培養方法は、代謝的に厳しい条件下、例えば培地の交換時、又は凍結保存後の再生時でも、そのような条件の間は低いコピー数を維持し、後になって、増殖を損なうことなく宿主が高いプラスミドコピー数を持続できることが予想され得る場合にプラスミドコピー数を増加させることによって、宿主を増殖できるようにする。
【0104】
プラスミドコピー数の調整は、ステップii)の開始後に先延ばしされてもよい。典型的には、スターター培養物は、宿主細胞増殖を開始する新たな培地の中又は上に置かれる。プラスミドコピー数の低減は、好ましくはステップii)の開始時に行われる。このようにして宿主細胞培養物は、高いプラスミドコピー数維持の代謝負荷から解放される。プラスミドコピー数の増加は、好ましくは、宿主細胞数が少なくとも25%、より好ましくは少なくとも33%、さらにより好ましくは少なくとも45%、さらにより好ましくは少なくとも50%、さらにより好ましくは少なくとも75%、及びさらにより好ましくは少なくとも90%増加した場合に始まる。これらの条件下では、新たな培養条件にうまく適合した宿主細胞の占有率は、プラスミド複製の増加という追加の代謝負荷を担うのに十分に高い。
【0105】
本発明はそれに対応して、培養物の宿主細胞を増殖させたままにしながら、宿主培養物中のプラスミドコピー数が調整され、好ましくは低減されるスターター培養物調製方法も提供する。このようにして本発明は、上記のスターター培養物の培養方法を補完する特に有利な方法を提供する。凍結保存、培地交換、大量の新たな培地の接種、又は他の著しく代謝的にストレスがかかる事象の前に、宿主細胞培養物中のプラスミドコピー数を低減することによって、宿主細胞はプラスミド増殖のストレスの一部から解放される。このスターター培養物調製方法を使用して、本発明は、プラスミドコピー数が既に低減したスターター培養物を有利には提供する。そのようなスターター培養物は故に、任意のユーザーの相互作用(interaction)がなくても、これらのスターター培養物の培養開始の直後、例えばそのような凍結保存スターター培養物の再生の直後に高いプラスミドコピー数を維持するという最初の代謝負荷が軽減される。スターター培養物調製方法は故に、上記の培養方法のステップii)において、プラスミドコピー数の追加の低減が必要とされないスターター培養物を有利には提供する。
【0106】
さらに本発明は、本発明に係るプラスミド複製制御宿主又はプラスミド複製支援宿主をスターター培地に含むスターター培養物であって、宿主のプラスミドコピー数が、LB培地、すなわち950g水に対して10gトリプトン、10g NaCl、5g酵母エキスの培地に宿主を導入した後に増加する、スターター培養物を提供する。故に本発明のそのようなスターター培養物は、有利には、さらなるユーザーの干渉を必要としなくてもプラスミドコピー数の自然の増加を達成する。スターター培養物は、宿主の代謝要求を考慮して選択される任意の適切な培地に添加することができ、LB培地での増殖に限定されないことが理解されるべきである。
【0107】
本発明において、低いプラスミドコピー数は、最大プラスミドコピー数の好ましくは多くて半分、より好ましくは多くて35%、より好ましくは多くて30%、より好ましくは多くて25%、より好ましくは多くて20%、より好ましくは多くて10%であり、最大プラスミドコピー数は、
a)対応する宿主における対応する野生型プラスミドの平衡プラスミドコピー数、及び
b)該当する場合は、誘導原又はサイレンサー物質の適用によるRep発現の増加によって達成される、対応する宿主における本発明のプラスミドの最大プラスミドコピー数
の最大として決定される。
【0108】
好ましくは、低いプラスミドコピー数は1~15であり、高いプラスミドコピー数は20~100である。より好ましくは低いプラスミドコピー数は1~10であり、高いプラスミドコピー数は30~60である。例えば、pE194レプリコンのプラスミド(pLS1ファミリー)に関して、好ましい高いプラスミドコピー数は宿主細胞1つあたり30~40プラスミドであり、好ましい低いプラスミドコピー数は宿主細胞1つあたり1~10プラスミドである。
【0109】
また、組み込み方法も本明細書において提供される。上記のように本発明に係る組み込みは、宿主の染色体への組み込みであってもよいが、さらなるプラスミドへの組み込みでもあってもよい。しかし、本発明に係る組み込み方法で使用される宿主は、本発明のプラスミド以外のプラスミドを含まないことが好ましい。このように、組み込み方法は、宿主に存在する2つの異なるプラスミドの複製不和合を起こす傾向はない。
【0110】
ステップi)では、本発明のプラスミドを含む原核生物プラスミドレシピエント宿主が提供される。プラスミドは、好ましくは制御された複製プラスミドであり、故にrep遺伝子発現のための発現カセットを含む。プラスミドは、複製支援依存性プラスミドを含むこともできる。本発明に係る組み込み方法で使用されるプラスミドは、選択マーカーを含む。選択マーカーは、レシピエント宿主中の少なくとも選択マーカー核酸セグメントの存在を確認できるようにする。
【0111】
ステップii)では、選択マーカーの選択を維持しながらプラスミドの複製が阻止される。持続する選択圧は、レシピエント宿主中の少なくとも選択マーカー核酸セグメントの維持を強化する。しかし、プラスミドはステップii)の間は複製できないことから、プラスミド(選択圧の非存在下の)は、レシピエント宿主から失われることになる。故にプラスミドの存在の継続は、レシピエント宿主の生存にとって最重要である。レシピエント宿主はプラスミドの組み込み後、持続する選択圧に耐えることしかできないため、そのような状況で宿主は、宿主染色体にプラスミドを組み込むことを余儀なくされる。
【0112】
本発明に係るプラスミド複製の阻止は、以下の方法のうちの1つ以上によって達成することができる:
- rep遺伝子が誘導性異種プロモーターに作動可能に連結される場合は、必要とされる誘導原物質の取り除き、
- rep遺伝子が抑制性異種プロモーターに作動可能に連結される場合は、サイレンサー物質の添加、
- リプレッサー遺伝子が誘導性プロモーターに作動可能に連結される場合は、誘導原物質の添加によるRep発現のリプレッサーの産生、
- リプレッサー遺伝子が抑制性プロモーターに作動可能に連結される場合は、サイレンサー物質の取り除きによるRep発現のリプレッサーの産生。
【0113】
好ましくは、リプレッサーはタンパク質リプレッサーであり、rep遺伝子は、タンパク質リプレッサーによって抑制可能なプロモーターの制御下にある。本発明の組み込み方法は、プラスミドの複製オペロンを改変することなく、一般的に使用されるプラスミドの両方に適用できることが特定の利点である。この場合、レシピエント宿主は、誘導性又は抑制性プロモーターの制御下、トランスでリプレッサー遺伝子を提供する。しかし、組み込み方法は、宿主がリプレッサー遺伝子をトランスで提供する必要なく適用することもできる。この場合、プラスミドは、誘導性又は抑制性プロモーターの制御下のリプレッサー遺伝子を提供する。当然ながら、プラスミドも宿主も誘導性又は抑制性プロモーターの制御下のリプレッサー遺伝子を提供することができ、それにより組み込み方法のステップii)の間、有利には宿主中のリプレッサー濃度を上げることができる。
【0114】
実施例に示されているように、本発明が宿主の染色体への完全なプラスミド組み込みを高い信頼性で達成することは特定の利点である。
【0115】
本発明に係る特定の組み込み方法では、プラスミドはプラスミドドナー宿主からプラスミドレシピエント宿主に導入される。この方法は有利には、プラスミドドナー宿主においてプラスミドを例えば高いプラスミドコピー数で培養し、次いで、プラスミドをプラスミドが複製できないレシピエント宿主に導入できるようにする。プラスミドの導入は、任意の適切な手段、例えば、電気穿孔(エレクトロポレーション)又は接合によって達成することができる。接合は、レシピエント宿主にとって極めて穏やかなため、特に好ましい導入の方法である。レシピエント宿主にかかる選択圧のため、これは特に重要である。そのような選択圧下でレシピエント宿主は、プラスミドの選択マーカーの発現をすぐに開始するよう強いストレスを受ける。そのような条件下でレシピエント宿主の生存は、宿主もまた電気穿孔の影響から回復しなければならない場合著しく損なわれる。本発明者らは、電気穿孔後にレシピエント宿主細胞がまさに死に、それによりレシピエント宿主細胞培養物に添加された抗生物質の有効性が低下するのを観察した。これは、次に選択圧の低下につながり、故にレシピエント宿主がプラスミド核酸を組み込む必要性を下げる。さらに、工業的発酵プロセスにおいて興味深い特性を有する多くの宿主は容易に電気穿孔することができない。
【0116】
本発明は故に、
i)- プラスミドドナー宿主が、選択可能なマーカーを含む、本発明に係る制御された複製プラスミド又は複製支援依存性プラスミドを含み、
- プラスミドレシピエント宿主がrep遺伝子を含まない、
プラスミドドナー宿主及びプラスミドレシピエント宿主を提供するステップ、
ii)プラスミドドナー宿主からプラスミドレシピエント宿主にプラスミドを導入するステップ、並びに
iii)ステップii)と同時に又はステップii)の後で、プラスミドレシピエント宿主中の選択可能なマーカーの存在を強制する選択圧をプラスミドレシピエント宿主にかけながら、プラスミドレシピエント宿主におけるプラスミドの複製を阻止するステップ
を含む組み込み方法を提供する。
【0117】
上記のように、プラスミドの導入は好ましくは接合によってもたらされる。上述した3ステップの組み込み方法は、レシピエント宿主における任意のrep遺伝子の非存在が、プラスミドを染色体に組み込むよう極めて高い圧を宿主にかけるため特に有利である。その理由は、これが選択マーカー核酸配列の存在を維持する唯一の方法であるためである。組み込みがないと選択マーカー核酸配列は娘細胞において行方不明となり、今度は娘細胞が増殖することができなくなる。
【0118】
プラスミドは好ましくは、複製レシピエント宿主の核酸の適合性部位との組換えを促進するための組換え部位を含む。組換え部位をプラスミドに提供することにより、プラスミドの完全な組み込みを達成するには、プラスミドと宿主核酸、好ましくは宿主染色体との間の相同組換えの1回の事象で十分である。全ての又は実質的に全ての生き残ったレシピエント宿主細胞が完全なプラスミドを組み込んでいることを保証するため、これは特定の利点である。故に、本発明の組み込み方法は、組換えレシピエント宿主の生産において効率が良いだけでなく、信頼性も高い。
【0119】
本発明は、実施例及び図によって以下にさらに説明される。実施例及び図は、本発明の文脈での選択された態様のさらなる例示の手段として提供され、本発明又は特許請求の範囲の理解を限定するものではない。
【0120】
[実施例]
特に言及のない限り、以下の実験は、微生物の培養による化合物の遺伝子操作及び発酵生産において使用される標準的な機器、方法、化学物質、及び生化学物質を適用して行われた。Sambrookら(Sambrook, J.及びRussell, D.W. Molecular cloning. A laboratory manual、第3版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、NY. 2001)、及びChmielら(Bioprocesstechnik 1. Einfuhrung in die Bioverfahrenstechnik、Gustav Fischer Verlag、Stuttgart、1991)も参照のこと。大腸菌微生物の培養、DNAの電気穿孔、ゲノムDNA及びプラスミドDNAの単離、PCR反応、クローニング技術に限定されない分子生物学の標準的な方法は、Sambrook及びRusell(Sambrook, J.及びRussell, D.W. Molecular cloning. A laboratory manual、第3版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、NY. 2001)によって本質的に記載されているように行った。
【0121】
【表1】
【0122】
エレクトロコンピテントバチルス・リケニフォルミス細胞及び電気穿孔
バチルス・リケニフォルミス株DSM 641及びATCC 53926へのDNAの形質転換は電気穿孔により行う。エレクトロコンピテントバチルス・リケニフォルミス細胞の調製及びDNAの形質転換は、Brigidiら(Brigidi, P.、Mateuzzi, D. (1991). Biotechnol. Techniques 5、5)によって本質的に記載されているように、以下の変更により行う。DNAの形質転換の際、選択的LB寒天プレートに播種した後、細胞を1ml LBSPG緩衝液に回収し、37℃で60分間インキュベートする(Vehmaanpera J.、1989、FEMS Microbio. Lett.、61: 165~170頁)。
【0123】
バチルス・リケニフォルミス株DSM 641及びATCC 53926のバチルス・リケニフォルミス特異的制限改変系を克服するために、プラスミドDNAは下に記載するようにEc#098細胞から単離する。バチルス・リケニフォルミスレストリクターゼ(restrictase)ノックアウト株への導入のために、プラスミドDNAは大腸菌INV110細胞(Life technologies)から単離する。
【0124】
エレクトロコンピテントバチルス・プミルス細胞及び電気穿孔
バチルス・プミルス(B. pumilus)DSM14395へのDNAの形質転換は電気穿孔により行う。エレクトロコンピテントバチルス・プミルスDSM14395細胞の調製及びDNAの形質転換は、バチルス・リケニフォルミス細胞について記載されているように行う。
【0125】
バチルス・プミルス特異的制限改変系を克服するために、プラスミドDNAは大腸菌DH10B細胞から単離し、特許DE4005025にバチルス・リケニフォルミスについて記載されている方法に従って、プラスミドDNAを、バチルス・プミルスDSM14395からの全細胞抽出物を用いてインビトロでメチル化する。
【0126】
プラスミド単離
プラスミドDNAを、(Sambrook, J.及びRussell, D.W. Molecular cloning. A laboratory manual、第3版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、NY. 2001)に記載された標準的な分子生物学方法、又はアルカリ溶解法(Birnboim, H. C.、Doly, J. (1979). Nucleic Acids Res 7(6): 1513~1523頁)によってバチルス細胞及び大腸菌細胞から単離した。大腸菌と比べてバチルス細胞は、細胞溶解の前に10mg/mlリゾチームを用いて37℃で30分間処理した。
【0127】
オリゴヌクレオチド二重鎖を形成するためのオリゴヌクレオチドのアニーリング
オリゴヌクレオチドを、水中100μMの濃度に調整した。フォワードオリゴヌクレオチド5μl及び対応するリバースオリゴヌクレオチド5μlを、90μl 30mM Hepes緩衝液(pH 7.8)に添加した。温度を0.1℃/秒下げながら95℃から4℃に傾斜させてアニーリングした後、反応混合物を5分間、95℃に加熱した(Cobb, R. E.、Wang, Y.、及びZhao, H. (2015). High-Efficiency Multiplex Genome Editing of Streptomyces Species Using an Engineered CRISPR/Cas System. ACS Synthetic Biology、4(6)、723~728頁)。
【0128】

大腸菌株Ec#098
大腸菌株Ec#098は、発現プラスミドpMDS003(WO2019016051)をコードするDNAメチルトランスフェラーゼを有する大腸菌INV110株(Life technologies)である。
【0129】
バチルス・リケニフォルミス遺伝子k.o株の生成
バチルス・リケニフォルミス株DSM641及びATCC 53926(US5,352,604)並びにその誘導株での遺伝子欠失のために、37℃で100μg/mlアンピシリン及び30μg/mlクロラムフェニコールを含有するLB寒天プレートで選択した後、欠失プラスミドをChungの方法(Chung, C.T.、Niemela, S.L.、及びMiller, R.H. (1989). One-step preparation of competent Escherichia coli: transformation and storage of bacterial cells in the same solution. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A 86、2172~2175頁)に従ってコンピテントにした大腸菌株Ec#098に形質転換した。プラスミドDNAを個々のクローンから単離し、バチルス・リケニフォルミス株へのその後の導入に使用した。単離されたプラスミドDNAは、バチルス・リケニフォルミス株DSM641及びATCC53926それぞれのDNAメチル化パターンを有し、バチルス・リケニフォルミスへの導入の際の分解から保護される。
【0130】
バチルス・リケニフォルミスP304:制限エンドヌクレアーゼ欠失
エレクトロコンピテントバチルス・リケニフォルミスDSM641細胞(US5,352,604)を上記のように調製し、30℃で5μg/mlエリスロマイシンを含有するLB寒天プレートに播種した後、大腸菌Ec#098から単離したpDel006レストリクターゼ遺伝子欠失プラスミド1μgで形質転換した。
【0131】
遺伝子欠失手順は、下に記載するように行った。
【0132】
バチルス・リケニフォルミス細胞を有するプラスミドを、5μg/mlエリスロマイシンを含むLB寒天プレートで45℃で増殖させ、レストリクターゼ遺伝子の配列5'又は3'に相同なpDel006の相同性領域の1つによる、染色体へのCampbell組換えを介した欠失プラスミドの組み込みを駆動した。クローンを採取し、5μg/mlエリスロマイシンを含むLB寒天プレートに30℃で播種した後、LB培地で45℃、6時間、選択圧なしで培養した。個々のクローンを採取し、レストリクターゼ遺伝子の成功したゲノム欠失について、オリゴヌクレオチド配列番号14及び配列番号15を用いてコロニーPCR分析によってスクリーニングした。個々の推定欠失陽性クローンを採取し、抗生物質なしのLB培地で、45℃、二晩連続でインキュベーションを行ってプラスミドをキュアリングし、37℃、一晩のインキュベーションのためにLB寒天プレートに播種した。単一クローンを、レストリクターゼ遺伝子の成功したゲノム欠失についてコロニーPCRによって分析した。正しい欠失レストリクターゼ遺伝子を含む単一エリスロマイシン感受性クローンを単離し、バチルス・リケニフォルミスP304と命名した。
【0133】
バチルス・リケニフォルミスP308:ポリガンマグルタミン酸合成遺伝子欠失
エレクトロコンピテントバチルス・リケニフォルミスP304細胞を上記のように調製し、30℃で5μg/mlエリスロマイシンを含有するLB寒天プレートに播種した後、大腸菌INV110細胞(Life technologies)から単離したpDel007 pga遺伝子欠失プラスミド1μgで形質転換した。
【0134】
遺伝子欠失手順は、レストリクターゼ遺伝子の欠失について記載されているように行った。
【0135】
pga遺伝子の欠失を、オリゴヌクレオチド配列番号17及び配列番号18を用いてPCRによって分析した。pga合成遺伝子が欠失されている得られたバチルス・リケニフォルミス株を、バチルス・リケニフォルミスP308と名付けた。
【0136】
バチルス・リケニフォルミス株LBL: amyB遺伝子座へのlux遺伝子の組み込み
エレクトロコンピテントバチルス・リケニフォルミスP308を上記のように調製し、大腸菌INV100から単離したプラスミドpKS068 1μgで形質転換し、その後30℃で50μg/mlエリスロマイシンを含有するLB寒天プレートに播種した。
【0137】
遺伝子欠失手順は、レストリクターゼ遺伝子の欠失について記載されているように行った。
【0138】
amyB遺伝子の欠失及びlux発現カセットの組み込みを、オリゴヌクレオチド配列番号9及び配列番号10を用いてPCRによって分析し、ルゴール液を用いてヨード染色した後、1%デンプンを含有するLB寒天プレートで透明帯(clearing zone)を分析した。得られたバチルス・リケニフォルミス株を、バチルス・リケニフォルミスLBLと名付けた。
【0139】
バチルス・リケニフォルミスBli#002: aprE遺伝子欠失
エレクトロコンピテントバチルス・リケニフォルミスATCC53926細胞を上記のように調製し、30℃で5μg/mlエリスロマイシンを含有するLB寒天プレートに播種した後、大腸菌Ec#098から単離したpDel003 aprE遺伝子欠失プラスミド1μgで形質転換した。
【0140】
遺伝子欠失手順は、レストリクターゼ遺伝子の欠失について記載されているように行った。aprE遺伝子の欠失を、オリゴヌクレオチド配列番号20及び配列番号21を用いてPCRによって分析した。aprE遺伝子が欠失されている得られたバチルス・リケニフォルミス株を、Bli#002と名付けた。
【0141】
バチルス・リケニフォルミスBli#005:ポリガンマグルタミン酸合成遺伝子欠失
ポリガンマグルタミン酸合成遺伝子を、バチルス・リケニフォルミスP304におけるpga遺伝子の欠失について記載されているように、バチルス・リケニフォルミスBli#002で欠失させた。異なる点は、pDel007プラスミドを大腸菌Ec#098細胞から単離したことであった。得られた株をBli#005と名付けた。
【0142】
枯草菌株GCX1
枯草菌168野生型を、Spizizenの方法(Anagnostopoulos, C.及びSpizizen, J. (1961). J. Bacteriol. 81、741~746頁)に従ってコンピテントにし、フレオマイシン耐性遺伝子と一緒にsacA遺伝子座へxylR-PxylA-copカセットを組み込むために、制限エンドヌクレアーゼApaIを用いて直鎖状にしたプラスミドpKS099で形質転換した。5μg/mlフレオマイシンを含有するLB寒天プレートに細胞を広げ、一晩、37℃でインキュベートした。増殖したコロニーを採取し、sacA遺伝子座への発現構築物の正しい組み込みをPCRによって検証した。得られた枯草菌株は、遺伝子型枯草菌168 sacA::xylR-PxylA-cop-phleorを有し、GCX1と名付ける。
【0143】
枯草菌株PCX1
枯草菌168野生型を、Spizizenの方法(Anagnostopoulos, C.及びSpizizen, J. (1961). J. Bacteriol. 81、741~746頁)に従ってコンピテントにし、プラスミドpKS111で形質転換した。20μg/mlカナマイシンを含有するLB寒天プレートに細胞を広げ、一晩、37℃でインキュベートした。得られた枯草菌株はPCX1と名付けられ、複製pKS111プラスミドを有する。
【0144】
枯草菌株KDS
pLS20cat(Itaya M.ら、2006、Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry、70(3)、740~742頁)を有する枯草菌168を、Spizizenの方法(Anagnostopoulos, C.及びSpizizen, J. 1961. J. Bacteriol. 81、741~746頁)に従ってコンピテントにし、直鎖状(ScaIで切断)プラスミドpBS4S(Addgene # 55170又はBGSCID = ECE259)で形質転換し、それによりthrC遺伝子座をスペクチノマイシン耐性カセットで置換した。100μg/mlスペクチノマイシン及び5μg/mlクロラムフェニコールを含有するLB寒天プレートに細胞を広げ、一晩、37℃でインキュベートした。増殖したコロニーを採取し、スレオニン栄養要求について検査した。得られた枯草菌株はスレオニン栄養要求性であり、複製pLS20catプラスミドを有する。これを枯草菌KDSと命名した。
【0145】
枯草菌株Bs#056
原栄養性枯草菌株KO-7S(BGSCID:1S145; Zeigler D.R)を、Spizizenの方法(Anagnostopoulos, C.及びSpizizen, J. (1961). J. Bacteriol. 81、741~746頁)に従ってコンピテントにし、WO2019016051で枯草菌Bs#053の生成について記載されているようにamyE遺伝子へのDNAメチルトランスフェラーゼの組み込みのために、直鎖状DNAメチルトランスフェラーゼ発現プラスミドpMIS012で形質転換した。10μg/mlクロラムフェニコールを含有するLB寒天プレートに細胞を広げ、一晩、37℃でインキュベートした。増殖したコロニーを採取し、10μg/mlクロラムフェニコールを含有するLB寒天プレート、並びに10μg/mlクロラムフェニコール及び0.5%可溶性デンプン(Sigma)を含有するLB寒天プレートの両方に軽くこすりつけ、その後37℃で一晩インキュベートした。デンプンプレートをルゴール液を含有するヨードで覆い、陽性組み込みクローンを陰性アミラーゼ活性で同定した。陽性クローンのゲノムDNAを、リゾチーム(10mg/ml)を用いて37℃、30分間処理した後、標準的なフェノール/クロロホルム抽出方法によって単離し、その後MTase発現カセットの正しい組み込みをPCRによって分析した。得られた枯草菌株をBs#056と名付ける。
【0146】
枯草菌株Bs#073
枯草菌168野生型を、Spizizenの方法(Anagnostopoulos, C.及びSpizizen, J. (1961). J. Bacteriol. 81、741~746頁)に従ってコンピテントにし、プラスミドpKS102で形質転換した。このプラスミドはバチルス属中での機能的複製起点を持たず、枯草菌168ゲノムに組み込まれる場合、amyE遺伝子座に相同な提供された領域を介してのみ安定に遺伝することができる。50μg/mlエリスロマイシンを含有するLB寒天プレートに細胞を広げ、一晩、37℃でインキュベートした。増殖したコロニーを採取し、PCRによって検証した。得られた枯草菌株は、完全なプラスミドpKS102をamyE遺伝子座に組み込んでおり、Bs#073と名付ける。
【0147】
プラスミド
pEC194RS - バチルス温度感受性プラスミド
プラスミドpE194を、隣接するPvuII部位を含むオリゴヌクレオチド配列番号1及び配列番号2を用いてPCR増幅し、制限エンドヌクレアーゼPvuIIで消化し、制限酵素SmaIで消化したベクターpCE1にライゲートする。pCE1は、アンピシリン耐性遺伝子内のBsaI部位がサイレント突然変異によって除去されたpUC18誘導体である。ライゲーション混合物を、大腸菌DH10B細胞(Life technologies)に形質転換した。100μg/mlアンピシリンを含有するLB寒天プレートに形質転換体を広げ、一晩、37℃でインキュベートした。プラスミドDNAを個々のクローンから単離し、制限消化による精度について分析した。得られたプラスミドを、pEC194Sと名付ける。
【0148】
タイプIIアセンブリmRFPカセットを、制限部位BamHIの追加のヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチド配列番号3及び配列番号4を用いて、プラスミドpBSd141R(アクセッション番号: KY995200)(Radeck, J.、Meyer, D.、Lautenschlager, N.、及びMascher, T. 2017. Bacillus SEVA siblings: A Golden Gate-based toolbox to create personalized integrative vectors for Bacillus subtilis. Sci. Rep. 7: 14134頁)からPCR増幅する。PCR断片及びpEC194Sを制限酵素BamHIを用いて制限し、その後ライゲートし、大腸菌DH10B細胞(Life technologies)に形質転換した。100μg/mlアンピシリンを含有するLB寒天プレートに形質転換体を広げ、一晩、37℃でインキュベートした。プラスミドDNAを個々のクローンから単離し、制限消化による精度について分析した。得られたプラスミドpEC194RSは、エリスロマイシン耐性遺伝子のリーディングフレームとは逆のオープンリーディングフレームを含むmRFPカセットを有する。
【0149】
pEC194RS(ts) - バチルス厳密温度感受性プラスミド
2つの単一ヌクレオチド交換を、QuikChange(商標)キット(Agilent)、並びにオリゴヌクレオチド配列番号64及び配列番号65を使用して、pEC194RSのpE194複製起点に導入した。これらの突然変異は、Villafaneら(Villafane, R.ら、1987. Replication control genes of plasmid pE194. Journal of bacteriology、169(10)、4822~4829頁)によって記載された温度感受性突然変異に対応する。プラスミドDNAを個々のクローンから単離し、配列決定によって精度を分析した。得られた配列検証プラスミドを、pEC194RS(ts)と名付けた。
【0150】
pEC194RSdelta(cop-repF) - 非複製型pEC194RS誘導体
pEC194RSdelta(cop-repF)を組み込み型対照として使用した。pEC194RSdelta(cop-repF)は、cop-repFオペロンの欠失によりバチルス属では非複製性である。pEC194RSの骨格を、NcoI制限部位と隣接するオリゴヌクレオチド配列番号28及び配列番号29を用いて増幅した。骨格断片をNcoIで切断し、セルフライゲーションによって再環状化させた。反応混合物を、その後大腸菌DH10β細胞(Life technologies)に形質転換した。100μg/mlアンピシリンを含有するLB寒天プレートに形質転換体を広げ、一晩、37℃でインキュベートした。プラスミドDNAを個々のクローンから単離し、配列決定によって精度を分析した。得られた配列検証プラスミドをpEC194RSdelta(cop-repF)と名付けた。
【0151】
pDel003 - aprE遺伝子欠失プラスミド
バチルス・リケニフォルミスのaprE遺伝子に対する遺伝子欠失プラスミドを、プラスミドpEC194RS、並びにpEC194RSと適合性のあるBsaI部位と隣接するaprE遺伝子のゲノム領域5'及び3'を含む遺伝子合成構築物配列番号19を用いて構築した。制限エンドヌクレアーゼBsaIを用いたタイプIIアセンブリを記載されているように行い(Radeck, J.、Meyer, D.、Lautenschlager, N.、及びMascher, T. 2017. Bacillus SEVA siblings: A Golden Gate-based toolbox to create personalized integrative vectors for Bacillus subtilis. Sci. Rep. 7: 14134頁)、反応混合物を、その後大腸菌DH10β細胞(Life technologies)に形質転換した。100μg/mlアンピシリンを含有するLB寒天プレートに形質転換体を広げ、一晩、37Cでインキュベートした。プラスミドDNAを個々のクローンから単離し、制限消化による精度について分析した。得られたaprE欠失プラスミドを、pDel003と名付ける。
【0152】
pDel006 - レストリクターゼ遺伝子欠失プラスミド
バチルス・リケニフォルミスDSM641(配列番号11)の制限改変系のレストリクターゼ遺伝子(配列番号12)に対する遺伝子欠失プラスミドを、プラスミドpEC194RS、並びにpEC194RSと適合性のあるBsaI部位と隣接するレストリクターゼ遺伝子のゲノム領域5'及び3'を含む遺伝子合成構築物配列番号13を用いて構築した。制限エンドヌクレアーゼBsaIを用いたタイプIIアセンブリを上記のように行い、反応混合物を、その後大腸菌DH10β細胞(Life technologies)に形質転換した。100μg/mlアンピシリンを含有するLB寒天プレートに形質転換体を広げ、一晩、37℃でインキュベートした。プラスミドDNAを個々のクローンから単離し、制限消化による精度について分析した。得られたレストリクターゼ欠失プラスミドを、pDel006と名付ける。
【0153】
pDel007 - ポリガンマグルタミン酸合成遺伝子欠失プラスミド
ポリガンマグルタミン酸(pga)産生に関与する遺伝子、すなわちバチルス・リケニフォルミスのywsC(pgsB)、ywtA(pgsC)、ywtB(pgsA)、ywtC(pgsE)の欠失のための欠失プラスミドを、pDel006について記載されているように構築したが、pEC194RSと適合性のあるBsaI部位と隣接するywsC、ywtA(pgsC)、ywtB(pgsA)、ywtC(pgsE)遺伝子に隣接するゲノム領域5'及び3'を含む遺伝子合成構築物配列番号16を使用した。得られたpga欠失プラスミドを、pDel007と名付ける。
【0154】
プラスミドp#0074 - xylR-PxylAプロモーター断片
xylA遺伝子のバチルス・メガテリウムDSM319プロモーターPxylA、及びPxylAの5'に逆方向に位置するキシロースリプレッサー遺伝子xylRは、低含量の制限エンドヌクレアーゼ部位に対して最適化された、II型制限エンドヌクレアーゼBpiI部位と隣接する遺伝子合成構築物として注文した(配列番号22)。
【0155】
プラスミドpBW424 - 低コピーバチルスT2A - 大腸菌シャトルベクター
プラスミドpBW424は、大腸菌のColE1複製起点である、pUB110のカナマイシン耐性遺伝子を含むpBS72複製起点(Titok, M. A.ら、2003、Plasmid、49(1)、53~62頁)、及び発現構築物のその後のクローニングのためのタイプIIアセンブリカセットに基づく、低コピーバチルス-大腸菌シャトルベクターである。プラスミドは、少数の制限エンドヌクレアーゼ部位に対して最適化された、制限エンドヌクレアーゼBsaI部位と隣接する遺伝子合成構築物を用いて、下に記載されるように構築した。
【0156】
配列番号68は、公開された配列と比べて少ないエンドヌクレアーゼ制限部位に対して最適化されたpBS72の複製起点(アクセッション番号: AY102630)を含む。配列番号69は、隣接するBpiIのII型制限酵素部位を含む、プラスミドpBSd141R(アクセッション番号: KY995200; Radeckら、2017; Sci. Rep. 7: 14134頁)由来の改変mRFPカセット、バチルス・リケニフォルミス由来のaprE遺伝子のターミネーター領域を含む。配列番号70は、pUB110の改変カナマイシン耐性遺伝子、及び改変ColE1複製起点を含む。プラスミドpBW424は、BsaIを使用してRadeckら、2017によって記載されたII型制限クローニングによってアセンブルした。ライゲーション混合物を、大腸菌DH10B細胞(Life technologies)に形質転換した。20μg/mlカナマイシンを含有するLB寒天プレートに形質転換体を広げ、一晩、37℃でインキュベートした。プラスミドDNAを個々のクローンから単離し、配列決定後の制限消化によって精度を分析した。得られたプラスミドを、pBW424と名付ける。
【0157】
プラスミドp#692 - 低コピーバチルスT2A - 強力なターミネーターを含む大腸菌シャトルベクター
t1t2t0ターミネーター(pMUTINに由来)をpBW424のタイプIIアセンブリカセットの5'に導入して、カナマイシン選択マーカーからの潜在的なリードスルーを阻止した。
【0158】
ターミネーター配列t1t2t0は、Gibsonアセンブリ(NEBuilder(登録商標)HiFi DNA Assembly Cloning Kit、New England Biolabs)によってpBW424に組み込んだ。この目的のために、ターミネーター断片(0.44kb)を、pMutin2(アクセッション番号AF072806)を鋳型として使用して、オリゴヌクレオチド配列番号71及び配列番号72を用いてPCRによって増幅した。pBW424の対応するベクター骨格は、オリゴヌクレオチド配列番号73及び配列番号74を用いて増幅した。pBW424アンプリコンを、PCR産物精製キット(Roche)を使用して精製した。DpnI(New England Biolabs)を用いたpBW424 PCR産物のその後の消化後、Qiaquick Gel Extraction Kit(Qiagen、ヒルデン、ドイツ)を使用して両方のPCR断片をゲル精製し、1:2比で1時間、50℃でアニーリングした。大腸菌株DH10Bをアセンブリ反応物で形質転換し、その後、20μg/mlカナマイシンを含有するLB寒天プレートに播種した。プラスミドDNAを個々のクローンから単離し、制限消化及び配列決定によって精度を分析した。得られたプラスミドを、p#692と名付ける。
【0159】
プラスミドp#0268 - タイプIIアセンブリのためのカーゴベクター
プラスミドp#0268は遺伝子合成構築物(配列番号23)を含み、制限エンドヌクレアーゼBpiI部位と隣接するlacZ遺伝子、並びに潜在的な転写活性からクローン化発現カセットを保護するターミネーター領域5'及び3'を含むpSEVA243のカーゴベクター誘導体(Radeckら、2017; Sci. Rep. 7(1): 14134頁)の誘導体である。この改変lacZカセットはやはり、Radeckら、2017のタイプIIアセンブリ概念に従ってII型制限部位BsaI、BsmBI、AarI RE部位と隣接する。
【0160】
プラスミドp#0268ter - 上流ターミネーターを含むタイプIIアセンブリのためのカーゴベクター
プラスミドp#0268terをカーゴベクターとして使用した。プラスミドp#0268terは、インサートの上流にターミネーターを含む。プラスミドp#0268をBpiIで切断し、ターミネーター-mRFP断片を、オリゴヌクレオチド配列番号77及び配列番号78を用いてp#0692からPCR増幅し、その後、制限エンドヌクレアーゼBsaIで切断した。2つの部分をライゲートし、ライゲーション混合物を大腸菌DH10B細胞(Life technologies)に形質転換した。20μg/mlカナマイシンを含有するLB寒天プレートに形質転換体を広げ、一晩、37℃でインキュベートした。プラスミドDNAを個々のredクローンから単離し、配列決定によって精度を分析した。得られたプラスミドを、p#268terと名付ける。
【0161】
プラスミドp#0268cat - 3'クロラムフェニコール耐性遺伝子を含むカーゴベクター
プラスミドp#0268catをカーゴベクターとして使用した。プラスミドp#0268catは、インサートの下流にクロラムフェニコール耐性カセットを含む。p#0268を、固有のSmaI部位で制限エンドヌクレアーゼSmaIにより切断し、オリゴヌクレオチド配列番号51及び配列番号52を使用して、pBS3Clux(Radeckら、J Biol Eng. 2013 Dec 2;7(1):29頁)からPCR増幅したクロラムフェニコール耐性カセットを含有するPCR断片とライゲートした。ライゲーション混合物を大腸菌DH10B細胞(Life technologies)に形質転換した。20μg/mlカナマイシンを含有するLB寒天プレートに形質転換体を広げ、一晩、37℃でインキュベートした。プラスミドDNAを個々のクローンから単離し、配列決定によって精度を分析した。得られたプラスミドを、p#268catと名付ける。
【0162】
プラスミドp#0268ter-cat- 3'クロラムフェニコール耐性遺伝子と共に5'ターミネーターを含むカーゴベクター
プラスミドp#0268ter-catをカーゴベクターとして使用した。プラスミドp#0268ter-catは、インサートの上流にターミネーター、及び下流にクロラムフェニコール耐性カセットを含む。プラスミドp#0268catをBpiIで切断し、ターミネーター-mRFP断片を、オリゴヌクレオチド配列番号77及び配列番号78を用いてp#692からPCR増幅し、その後、制限エンドヌクレアーゼBsaIで切断した。2つの部分をライゲートし、ライゲーション混合物を大腸菌DH10B細胞(Life technologies)に形質転換した。20μg/mlカナマイシンを含有するLB寒天プレートに形質転換体を広げ、一晩、37℃でインキュベートした。プラスミドDNAを個々のredクローンから単離し、配列決定によって精度を分析した。得られたプラスミドを、p#268ter-catと名付ける。
【0163】
プラスミドp#0268phleo- 3'フレオマイシン耐性遺伝子を含むカーゴベクター
プラスミドp#0268phleoをカーゴベクターとして使用した。プラスミドp#0268phleoは、インサートの下流にフレオマイシン耐性カセットを含む。p#0268を固有のSmaI部位で切断し、オリゴヌクレオチド配列番号49及び配列番号50を用いてpBSc243B(Radeckら、2017; Sci. Rep. 7(1): 14134頁)からPCR増幅したフレオマイシン耐性カセットとライゲートした。ライゲーション混合物を大腸菌DH10B細胞(Life technologies)に形質転換した。20μg/mlカナマイシンを含有するLB寒天プレートに形質転換体を広げ、一晩、37℃でインキュベートした。プラスミドDNAを個々のクローンから単離し、配列決定後の制限消化によって精度を分析した。得られたプラスミドを、p#268phleoと名付ける。
【0164】
プラスミドp#0268ter-phleo- 5'ターミネーター及び3'フレオマイシン耐性遺伝子を含むカーゴベクター
プラスミドp#0268ter-phleoをカーゴベクターとして使用した。プラスミドp#0268ter-phleoは、インサートの上流にターミネーター、及び下流にフレオマイシン耐性カセットを含む。プラスミドp#0268phleoを制限エンドヌクレアーゼBpiIで切断し、オリゴヌクレオチド配列番号77及び配列番号78を用いてプラスミドp#0692からPCR増幅したターミネーター-mRFP断片は、制限エンドヌクレアーゼBsaIで切断した。2つの部分を一緒にライゲートし、ライゲーション混合物を大腸菌DH10B細胞(Life technologies)に形質転換した。20μg/mlカナマイシンを含有するLB寒天プレートに形質転換体を広げ、一晩、37℃でインキュベートした。プラスミドDNAを個々のredクローンから単離し、配列決定によって精度を分析した。得られたプラスミドを、p#268ter-phleoと名付ける。
【0165】
プラスミドpKS099 - 枯草菌のsacA遺伝子座にxylR-PxylA-cop発現カセットを組み込むためのプラスミド
ゲノム組み込みプラスミドpKS099を、枯草菌のsacA遺伝子へのxylR-PxylAcopの挿入に使用し、2段階プロセスで構築した。最初に、プラスミドp#0074のxylR-PxylA断片(配列番号22)を、BpiI制限エンドヌクレアーゼによるタイプIIアセンブリ反応によってカーゴベクターp#0268ter-phleoに導入した、オリゴヌクレオチド配列番号59及び配列番号60を使用してPCR増幅したpE194RSのcopコード領域を用いてアセンブルした。反応混合物を大腸菌DH10B細胞(Life technologies)に形質転換した。20μg/mlカナマイシンを含有するLB寒天プレートに形質転換体を広げ、一晩、37℃でインキュベートした。プラスミドDNAを個々のクローンから単離し、配列決定によって精度を分析した。得られたプラスミドを、sacA遺伝子のゲノム領域5'及び3'(オリゴヌクレオチド配列番号53及び配列番号54及び配列番号55及び配列番号56を使用して枯草菌ゲノムから増幅)、並びにpBSd191R(Radeckら、2017; Sci. Rep. 7: 14134頁; BGSC ID: ECE702)骨格ベクター(全てBsaI部位と隣接)を用いてアセンブルした。制限エンドヌクレアーゼBsaIによる第2のタイプIIアセンブリを記載されているように行い、反応混合物をその後大腸菌DH10B細胞に形質転換した。100μg/mlアンピシリンを含有するLB寒天プレートに形質転換体を広げ、一晩、37℃でインキュベートした。プラスミドDNAを個々のクローンから単離し、配列決定によって精度を分析した。得られたプラスミドを、pKS099と名付けた。
【0166】
プラスミドpKS111: cop発現のための高コピー大腸菌-低コピーバチルスベクター
プラスミドpKS111は、バチルス・メガテリウム由来のキシロース誘導性プロモーターPxylAの制御下でpE194のcop遺伝子を発現させるための、バチルスにおける低コピー発現ベクターとして機能する。pKS111を、以下の構成要素を含む制限エンドヌクレアーゼBpiIを用いたT2Aアセンブリにより構築した:デスティネーションベクターとしてのプラスミドp#0692、プラスミドp#0074のxylR-PxylA断片(配列番号22)、並びにオリゴヌクレオチド配列番号59及び配列番号60を使用してpEC194RSから増幅したcop断片。反応混合物を大腸菌DH10B細胞に形質転換した。20μg/mlカナマイシンを含有するLB寒天プレートに形質転換体を広げ、一晩、37℃でインキュベートした。プラスミドDNAを個々のクローンから単離し、配列決定によって精度を分析した。得られたプラスミドを、pKS111と名付けた。
【0167】
プラスミドpBS3KcatluxGG
プラスミドpBS3KcatluxGGは、タイプIIアセンブリ適合性luxABCDEオペロンのPCR増幅の鋳型として機能した。ベクターpBS3Kcatlux(Popp, P.F.ら、2017. 7(1)、1~13頁)のluxABCDEオペロンの内側の全てのBsaI、BsmBI及びAarI制限酵素認識部位を、QuikChange(商標)キット(Agilent)、並びにオリゴヌクレオチド配列番号46、配列番号47及び配列番号48を使用してサイレント突然変異を導入することによって除去した。機能的ルシフェラーゼ活性を有する得られたベクターを、pBS3KcatluxGGと命名した。
【0168】
プラスミドp#0268ter-Pveglux -Pveg-luxABCDE
プラスミドp#0268ter-Pvegluxは、T2A制限エンドヌクレアーゼ部位と隣接する枯草菌由来の構成的Pvegプロモーターと、ルシフェラーゼレポーター遺伝子を組み合わせる。Pveg断片は、BpiI部位オーバーハングを含むオリゴヌクレオチド配列番号062及び配列番号063を使用して、TMB3090(Popp, P.F.ら、2017. The Bacillus BioBrick Box 2.0: expanding the genetic toolbox for the standardized work with Bacillus subtilis. Scientific reports、7(1)、1~13頁)からPCR増幅した。レポーター遺伝子luxABCDEは、pBS3KcatluxGG由来のオリゴヌクレオチド配列番号57及び配列番号58を用いてPCR増幅した。プラスミドp#0268terは、カーゴベクターとして機能した。この中間体プロモーター-レポーターカーゴプラスミドを、記載されているように制限エンドヌクレアーゼBpiIによるタイプIIアセンブリ反応によって構築し(Radeckら、2017; Sci. Rep. 7(1): 14134頁)、反応混合物をその後大腸菌DH10B細胞(Life technologies)に形質転換した。20μg/mlカナマイシンを含有するLB寒天プレートに形質転換体を広げ、一晩、37℃でインキュベートした。プラスミドDNAを個々のクローンから単離し、配列決定によって精度を分析した。得られた配列検証プラスミドを、p#0268ter-Pvegluxと名付けた。
【0169】
プラスミドpKS100 - 枯草菌で使用するためのpEC194RSに基づく発光プラスミド
プラスミドpKS100は、枯草菌アミラーゼamyE遺伝子に相同な600bp断片、及びプラスミドp#0268ter-Pveglux由来のPvegプロモーターの制御下のルシフェラーゼ遺伝子をさらに有するプラスミドpEC194RSに基づく。アミラーゼ遺伝子断片を、オリゴヌクレオチド配列番号066及び配列番号067を用いてPCR増幅した。5'リン酸化オリゴヌクレオチド配列番号79及び080をアニーリングして、オリゴヌクレオチド二重鎖を形成した。プラスミドpKS100を、以下の構成要素を含む上記のBsaI制限エンドヌクレアーゼを用いたタイプIIアセンブリにより構築した: pEC194RS、PCR断片amyE、オリゴヌクレオチド二重鎖及びp#0268ter-Pveglux。反応混合物を大腸菌DH10B細胞(Life technologies)に形質転換し、その後、100μg/mlアンピシリンを含有するLB寒天プレートに形質転換体を広げ、一晩、37℃でインキュベートした。プラスミドDNAを個々のクローンから単離し、制限消化及び配列決定によって精度を分析した。得られたプラスミドを、pKS100と名付けた。
【0170】
プラスミドpKS101 - 枯草菌で使用するためのpEC194RS(ts)に基づく発光プラスミド
pKS101は、プラスミドpKS100について記載されているように構築したが、プラスミドpEC194RS(ts)を使用した。
【0171】
プラスミドpKS102 - 枯草菌における発光組み込みプラスミド
pKS102は、プラスミドpKS100について記載されているように構築したが、プラスミドpEC194RS?(cop-repF)を使用した。
【0172】
プラスミドpKS200 - バチルス・リケニフォルミスで使用するためのpEC194RSに基づく発光プラスミド
プラスミドpKS200は、プラスミドpKS100について記載されているように構築したが、枯草菌amyE断片の代わりに、バチルス・リケニフォルミスamyB遺伝子の600bpに相同な断片を、オリゴヌクレオチド配列番号75及び配列番号76を使用してバチルス・リケニフォルミスP308ゲノムからPCR増幅した。
【0173】
プラスミドp#0268-PsrfAAlux - PsrfAAluxABCDEカーゴ
プラスミドp#0268-PsrfAAluxは、以下を相違点にプラスミドp#0268ter-Pvegluxについて記載されているように構築した。Pvegプロモーターの代わりに、枯草菌由来のsrfAA遺伝子のプロモーターを、BpiI制限部位を有するオリゴヌクレオチド配列番号30及び配列番号31を用いて枯草菌ゲノムDNAからPCR増幅した。レポーター遺伝子オペロンluxABCDEは、pBS3KcatluxGGからオリゴヌクレオチド配列番号57及び配列番号61を用いてPCR増幅した。
【0174】
プラスミドpKS068 - luxABCDE組み込みamyBプラスミド
プラスミドpKS068は、バチルス・リケニフォルミスのアミラーゼamyB遺伝子座へのluxABCDE発現カセットの組み込みに使用した。バチルス・リケニフォルミスのamyB遺伝子の5'及び3'領域を、それぞれ、隣接するBsaIエンドヌクレアーゼ制限部位を含むオリゴヌクレオチド配列番号5、配列番号6及び配列番号7、配列番号8を用いて、バチルス・リケニフォルミスゲノムDNAからPCR増幅した。プラスミドpKS068は、プラスミドpEC194RS、5' amyB相同性領域、プラスミドPsrfAAluxABCDE、及び3' amyB相同性領域を用いて、上記のタイプIIアセンブリによって構築した。反応混合物を大腸菌DH10β細胞(Life technologies)に形質転換し、その後、100μmg/mlアンピシリンを含有するLB寒天プレートに形質転換体を広げ、一晩、37℃でインキュベートした。プラスミドDNAを個々のクローンから単離し、制限消化及び配列決定によって精度を分析した。得られたプラスミドを、pKS068と名付けた。
【0175】
プラスミドpBAio - バチルスオールインワンベクター
pBAioプラスミドは、プラスミドpEC194RSの温度感受性複製起点、大腸菌及びバチルスで機能するカナマイシン耐性カセット、並びにバチルス・メガテリウムPxylAプロモーターの制御下のcop遺伝子の追加のコピーを含む大腸菌-バチルスシャトルベクターである。プラスミドpBAioは、以下の遺伝子エレメントからなる:
i)カナマイシン耐性遺伝子及びColE1複製起点は、オリゴヌクレオチド配列番号34(NcoI)及び配列番号35(PstI)を使用してp#0692からPCR増幅し、
ii)ターミネーター断片は、配列番号38(SpeI)及び配列番号39(BamHI)を使用してpKS111から増幅し、
iii)xylR-PxylA-cop断片は、配列番号44(NsiI)及び配列番号45(SpeI)を使用してpKS111からPCR増幅し、
iv)タイプIIアセンブリカセットは、配列番号36(BamHI)及び配列番号37(NcoI)を使用してpEC194RSからPCR増幅し、
v)oriT断片は、配列番号42(NcoI)及び配列番号43(XbaI)を使用してpLS20(Itaya M.ら、2006、Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry、70(3)、740~742頁)からPCR増幅し、
vi)pE194複製起点は、配列番号40(SpeI)及び配列番号41(NcoI)を使用してpEC194RSからPCR増幅した。
【0176】
断片KanR+ColE1(i)、xylR PxylA-cop(ii)、ターミネーター(iii)、及びタイプIIアセンブリカセット(iv)を指定された制限部位で切断し、ライゲートして中間体構築物(pBAioint)を形成した。反応混合物を大腸菌DH10β細胞に形質転換し、その後、20μg/mlカナマイシンを含有するLB寒天プレートに形質転換体を広げ、一晩、37℃でインキュベートした。プラスミドDNAを個々のクローンから単離し、制限消化及び配列決定によって精度を分析した。この中間体プラスミド(pBAioint)を、断片oriT(v)及びpE194複製起点(vi)とライゲートした後、固有のNcoI部位で切断し、ホスファターゼで処理し(NEBによるrSAP)、SLG DNA clean-up Kit(SLG)により精製した。反応混合物を大腸菌DH10β細胞に形質転換し、その後、20μg/mlカナマイシンを含有するLB寒天プレートに形質転換体を広げ、一晩、37℃でインキュベートした。プラスミドDNAを個々のクローンから単離し、制限消化及び配列決定によって精度を分析した。得られたプラスミドをpBAioと命名した。
【0177】
pBAio-lumiBs - 枯草菌で使用するためのpBAioに基づく発光プラスミド
プラスミドpBAio-lumBsをpKS100について記載されているように構築したが、プラスミドpEC194RSの代わりにプラスミドpBAioを使用した。
【0178】
pBAio-lumiBl - バチルス・リケニフォルミスで使用するためのpBAioに基づく発光プラスミド
プラスミドpBAio-lumBlをpKS200について記載されているように構築したが、プラスミドpEC194RSの代わりにプラスミドpBAioを使用した。
【0179】
プラスミドpKS137 - pBAioに基づくluxA組み込みプラスミド
プラスミドpKS137は、機能不活性化のためのCampbellベースの組換え/luxABCDEオペロンのluxA遺伝子への組み込みに使用した。プラスミドpKS137は、プラスミドpBAio及び、pBAioと適合性があるBsaI部位と隣接するluxAに相同な500bp領域(配列番号32及び配列番号33を使用してpBS3KcatluxGGからPCR増幅)を用いて構築した。制限エンドヌクレアーゼBsaIを用いるタイプIIアセンブリを上記のように行い、その後反応混合物を大腸菌DH10B細胞に形質転換した。20μg/mlカナマイシンを含有するLB寒天プレートに形質転換体を広げ、一晩、37℃でインキュベートした。プラスミドDNAを個々のクローンから単離し、配列決定によって精度を分析した。得られたluxA遺伝子組み込みプラスミドをpKS137と名付ける。
【0180】
[実施例]
[実施例1]
pEC194RS及びpEC194RS(ts)誘導体の温度依存性プラスミドコピー数
pE194及びpE194(ts)に由来するプラスミドの温度依存性コピー数を、リアルタイム定量PCRによって決定する。
【0181】
プラスミドpKS100(pEC194RSに基づく)、pKS101(pEC194RS(ts)に基づく)を有する枯草菌168株、及びゲノムに組み込まれたpKS102配列(cop-repFオペロンを欠く)を有する枯草菌参照株Bs#073を、50μg/mlエリスロマイシンを含む2ml LB-Lennox培地で16時間、30℃で撹拌しながら培養した。翌日、エリスロマイシン(50μg/ml)を補充したLB-Lennox培地で培養物をOD600 0.1に希釈し、10mlずつ3つの振盪フラスコに分け、続いて、それぞれ30℃、37℃及び42℃でインキュベーションした。8時間培養後、細胞が移行期に達したら、試料を取り出し、遠心分離によって細胞を回収した。
【0182】
全DNAを個々の試料から単離し、プラスミドコピー数をリアルタイム定量PCR(Luna(登録商標)Universal qPCR Master Mix、NEBを使用するqTower3、AnalytikJena)によって決定した。pEC194RS及びpEC194RS(ts)誘導体においてアンピシリン耐性遺伝子をコードするbla遺伝子内のオリゴヌクレオチド配列番号26及び配列番号27、並びに染色体終端近傍の枯草菌のrtp遺伝子座(遺伝子座タグBSU_18490)内のオリゴヌクレオチド配列番号24及び配列番号25をRT-qPCR増幅に使用した。精製プラスミドDNA及び精製染色体DNAはPCR効率を算出するための絶対定量の基準として機能し、それぞれ99%及び98%であった。
【0183】
細胞1つあたりのプラスミドの平均量を染色体終端の量と比べて算出した。後者は、1本の染色体による単一細胞に相当する。
【0184】
結果を図2に示す。組み込まれた非複製型プラスミド骨格を有する枯草菌株Bs#073は、全ての温度条件下で単一コピー対照の役割を果たす。
【0185】
プラスミドpKS100は、30℃及び37℃でそれぞれ平均コピー数38.5及び34.1を有し、非許容温度42℃では平均コピー数4.1に強く低減する。より厳密な温度感受性複製起点を有するプラスミドpKS101は、30℃で平均コピー数25プラスミド、37℃で細胞1つあたり2.9コピーの平均数を有する。42℃では平均プラスミドコピー数は、プラスミドの喪失を示す1未満に算出される。プラスミドなしの細胞は抗生物質選択圧下で生存できないが、qPCR分析によって検出されるそれらのゲノムDNAに寄与する。
【0186】
[実施例2]
プラスミドコピー数の減少- cop遺伝子の追加の染色体コピーの発現
枯草菌株GCX1は、sacA遺伝子座に組み込まれたcop遺伝子発現カセットを有する。染色体上にあるcop遺伝子の転写は、バチルス・メガテリウム由来のキシロース誘導性プロモーターPxylAの制御下にあり、それ故にcop発現はキシロース依存的に制御される。枯草菌GCX1をプラスミドpKS100で形質転換し、エリスロマイシンを含有するLB寒天プレートで37℃で、一晩インキュベートした後、単一クローンを回収した。pKS100を有する枯草菌株168(実施例1参照)、及びプラスミドpKS100を有する枯草菌株GCX1の単一クローンを使用して、37℃で16時間、撹拌しながら培養した後、50μg/mlエリスロマイシンを含む2ml LB-Lennox培地を接種した。翌日、50μg/mlエリスロマイシンを補充したLB-Lennox培地で培養物をOD600 0.1に希釈した。pKS100を有する枯草菌株168の培養物10mlを新たな100ml振盪フラスコに移し、37℃で撹拌しながらインキュベートした。プラスミドpKS100を含む枯草菌株GCX1の培養物を、0%、0.125%又は0.5%キシロースを補充した3つの100ml振盪フラスコに10mlずつ分け、37℃で撹拌しながらインキュベートした。試料を8時間後に取り出し、細胞を遠心分離によって回収した。全DNAを個々の試料から単離し、細胞1つあたりの平均プラスミドコピー数を実施例1に記載されているように決定した。結果を図3に示す。
【0187】
枯草菌168株では、プラスミドpKS100は平均プラスミドコピー数34を有する。対照的に、プラスミドpKS100は、cop遺伝子の追加のコピーがゲノムにある枯草菌株GCX1において、誘導因子分子キシロースの非存在下でも細胞1つあたり15.4コピーというより低い平均コピー数を有する。枯草菌株GCX1におけるpKS100のより低い平均コピー数は、誘導因子分子キシロースの非存在下、PxylAプロモーターからのcop遺伝子の低レベルの漏出発現を示している。培養培地中0.125%又は0.5%キシロースの存在下、上昇した誘導cop発現レベルは、それぞれ平均コピー数1又は1未満によって見られるようにプラスミド複製を十分にブロックする。
【0188】
[実施例3]
プラスミドコピー数の減少- cop遺伝子の追加の染色体コピーの発現
プラスミドpKS100及びpKS101は、枯草菌のアミラーゼamyE遺伝子に相同な600bp領域を有し、発光測定による定量を可能にするレポーター系としてのluxABCDE遺伝子を有する。luxABCDE遺伝子の発現は、枯草菌の構成的Pvegプロモーターの制御下にあることから、発光シグナルの減少/増加はプラスミドコピー数の変化を直接反映する。
【0189】
プラスミドpKS100(pE194複製起点)及びプラスミドpKS101(pE194(ts)複製起点)を有する枯草菌株GCX1、並びに単一コピーの組み込まれたluxABCDE遺伝子(pKS102を介して)を有する参照枯草菌株Bs#073を使用して、16時間、30℃で撹拌しながら培養した後、50μg/mlエリスロマイシンを含む2ml LB-Lennox培地を接種した。翌日、エリスロマイシン(50μg/ml)を補充したLB-Lennox培地で培養物をOD600 0.1に希釈した。各200μl培養物を黒色96ウェルマイクロタイタープレート(Sarstedt)に移し、0%、0.0625%、0.125%、0.25%又は0.5%キシロースの最終濃度にキシロースを補充した。細胞をSynergy Neo2 HTS Multi-Mode Microplate Reader(BioTek)で培地を撹拌しながら30℃でインキュベートした。8時間培養後、OD600及び発光を測定した。8時間時点のOD600あたりの発光シグナルとしての相対発光単位(RLU)を決定し、示されたキシロース濃度に対してプロットする(図4)。lux遺伝子が組み込まれた単一コピー対照株Bs#073のRLUは点線として示されている。
【0190】
誘導因子分子キシロースの添加により、ゲノムに組み込まれたcop遺伝子からのcop遺伝子発現が活性化され、両方のプラスミドpKS100及びpKS101について得られたより低レベルのRLUシグナルは、より低いプラスミドコピー数を反映している。0.25%及び0.50%キシロース誘導因子分子の濃度は、RLUシグナルをBs#073組み込み対照(図4の点線)未満に下げる。これは、細胞集団内のプラスミド喪失を反映している。ゲノムに組み込まれたcop遺伝子のより低いcop発現(0.063%、0.125%キシロース誘導因子分子)は、誘導因子分子キシロースの非存在を参照したプラスミドpKS100及びpKS101に関する安定なより低いプラスミドコピー数を示す。
【0191】
これは、プラスミドコピー数の低減が、キシロース誘導因子分子濃度に依存して調整可能であることを示すものである。
【0192】
[実施例4]
プラスミドコピー数の減少- 第2のプラスミドからのcop遺伝子の発現
実施例3と同様に、追加のcop遺伝子を誘導性PxylAプロモーターの制御下に置いたが、追加のcop発現カセットは共在低コピープラスミドpKS111にコードされる。
【0193】
枯草菌株PCX1(pKS111を有する)をプラスミドpKS100及びpKS101でそれぞれ形質転換し、50μg/mlエリスロマイシン及び20μg/mlカナマイシンを含有するLB-Lennox寒天プレートで30℃でインキュベートした。対照として、プラスミドpKS100を含む枯草菌168株を使用した。単一クローンを採取し、2ml LB-Lennox培地で16時間、30℃で撹拌しながら培養した。枯草菌168株にはバックグラウンド50μg/mlエリスロマイシンを、枯草菌PCX1株にはバックグラウンド50μg/mlエリスロマイシン及び20μg/mlカナマイシンを培地に添加した。翌日、対応する抗生物質を補充したLB-Lennox培地で培養物をOD600 0.1に希釈した。各200μl培養物を黒色96ウェルマイクロタイタープレート(Sarstedt)に移し、0%、0.0625%、0.125%、0.25%又は0.5%キシロースの最終濃度にキシロースを補充した。細胞をSynergy Neo2 HTS Multi-Mode Microplate Reader(BioTek)で培地を撹拌しながら30℃でインキュベートした。8時間培養後、OD600及び発光を測定した。
【0194】
8時間時点のOD600あたりの発光シグナルとしての相対発光単位(RLU)を決定し、示されたキシロース濃度に対してプロットする(図5)。
【0195】
プラスミドpKS100を含む参照株枯草菌168は、漸増濃度の誘導因子分子キシロースの欠如又は添加に関係なく同等のRLUシグナルを示す。誘導因子分子なしでプラスミドpKS100を含む枯草菌株PCX1のRLUシグナルは、参照株からのシグナルと比べて低い。これは、より低いプラスミドコピー数を示すより低いRLUシグナル(約20%)を既に生じているcop遺伝子の漏出発現を示している。漸増量の誘導因子分子キシロースの添加によるcop発現の増加は、キシロース濃度依存的にRLUシグナルを低下させる。同じ依存性は、より低い開始レベルにもかかわらずプラスミドpKS101を含む枯草菌PCX1株で観察される。これは、pKS100と比べてpKS101のより低いプラスミドコピー数と一致する(実施例1、図2)。
【0196】
cop発現カセットがゲノムに組み込まれた枯草菌株GCX1を使用した実施例3と比べて、cop発現カセットのプラスミドベースの追加のコピーの効果が観察され得る。pBS72複製起点を含むプラスミドpKS111は、細胞1つあたり約6コピーを有する(Titok, M. A.ら、2003. Plasmid、49(1)、53~62頁)。このプラスミドコピー効果は、所与のキシロース濃度で約6倍高いcop発現及び、それ故により低いRLUシグナルに対する影響をもたらし、それ故にプラスミドpKS100及びpKS101のより低いプラスミドコピー数が観察され得る。
【0197】
[実施例5]
同じプラスミドからの追加のcop遺伝子の発現によるプラスミドコピー数の減少- 枯草菌におけるpBAio
プラスミドpBAio-lumiBsはpKS100と機能的に類似しているが、実施例2、3及び4に記載されているようにPxylAプロモーターの制御下でさらに追加のcop遺伝子を有する。枯草菌168株をpBAio-lumiBsで形質転換し、20μg/mlカナマイシンを含有するLB寒天プレートで30℃で培養した。単一クローンを採取し、20μg/mlカナマイシンを含む2ml LB-Lennox培地で16時間、30℃で撹拌しながら培養した。翌日、20μg/mlカナマイシンを補充したLB-Lennox培地で培養物をOD600 0.1に希釈した。各200μl培養物を黒色96ウェルマイクロタイタープレート(Sarstedt)に移し、0%、0.0313%、0.0625%、0.125%、0.25%又は0.5%キシロースの最終濃度にキシロースを補充した。細胞をSynergy Neo2 HTS Multi-Mode Microplate Reader(BioTek)で培地を撹拌しながら30℃でインキュベートした。8時間培養後、OD600及び発光を測定した。8時間時点のOD600あたりの発光シグナルとしての相対発光単位(RLU)を決定し、示されたキシロース濃度に対してプロットする(図6)。プラスミドコピー数の変化は、プラスミドpAio-lumiBsにコードされたPveg-luxの発光出力の変化から反映される。漸増濃度の誘導因子分子キシロースを用いたプラスミドpBAio-lumiBsにおける追加のcop遺伝子の発現増加は、RLUシグナルを低下させ、それ故にプラスミドpBAio-lumiBsのプラスミドコピー数を低下させる。0.0313%キシロースの添加は、プラスミドpBAio-lumiBsの7分の1であるRLUシグナル(非誘導対照の15%)をもたらす。
【0198】
[実施例6]
同じプラスミドからの追加のcop遺伝子の発現によるプラスミドコピー数の減少- バチルス・リケニフォルミスにおけるpBAio
プラスミドpBAio-lumiBlはpBAio-lumiBsと機能的に同一であり、追加のcop遺伝子はpBAio-lumiBlに存在するが、バチルス・リケニフォルミスのアミラーゼamyB遺伝子座と相同な600bp断片を有する。
【0199】
枯草菌KDSをpBAio-lumiBlで形質転換し、20μg/mlカナマイシン及び5μg/mlクロラムフェニコールを含有するLB寒天プレートで37℃で培養した。単一クローンを採取し、20μg/mlカナマイシン及び5μg/mlクロラムフェニコールを含む2ml LB-Lennox培地で16時間、37℃で撹拌しながら培養した。並行して、バチルス・リケニフォルミスP308を2ml LB-Lennox培地で16時間、37℃で撹拌しながら培養した。翌日、記載されているようにpBAio lumiBlをバチルス・リケニフォルミスP308に接合し(Itaya M、2006.、Biosci Biotechnol Biochem;70(3):740~742頁)、混合細胞を、2%グルコース、0.2%グルタミン酸カリウム及び、20μg/mlカナマイシンを補充した最小塩寒天プレートに広げ、37℃で3日間インキュベートした。トリプトファン及びスレオニン栄養要求性の枯草菌ドナー株KDSは、もはやこれらの寒天プレートで増殖することはできない。pBAio-lumiBlを有する単一バチルス・リケニフォルミスクローンを採取し、20μg/mlカナマイシンを含む2ml LB-Lennox培地で16時間、37℃で撹拌しながら培養した。翌日、20μg/mlカナマイシンを補充したLB-Lennox培地で培養物をOD600 0.1に希釈した。各200μl培養物を黒色96ウェルマイクロタイタープレート(Sarstedt)に移し、0%、0.0313%、0.0625%、0.125%、0.25%又は0.5%キシロースの最終濃度にキシロースを補充した。細胞をSynergy Neo2 HTS Multi-Mode Microplate Reader(BioTek)で培地を撹拌しながら37℃でインキュベートした。8時間培養後、OD600及び発光を測定した。8時間時点のOD600あたりの発光シグナルとしての相対発光単位(RLU)を決定し、示されたキシロース濃度に対してプロットする(図7B)。プラスミドコピー数の変化は、プラスミドpAio-lumiBlにコードされたPveg-luxの発光出力の変化から反映される。0.031%キシロース誘導因子分子の添加によるcop発現の誘導は、非誘導対照のRLUシグナルの5分の2のシグナル(40%)をもたらす。キシロースの濃度増加によるより強いcop発現は、amyB遺伝子座への単一コピー組み込みプラスミドpBAio-lumiBlに対応する、さらにより低い一定のRLUシグナルレベルをもたらす。
【0200】
発光実験に並行して、8時間時点の0.0%. 0.0313%及び0.5%キシロース培養物から試料を取り出し、遠心分離によって回収した。全DNAを個々の試料から単離し、細胞1つあたりの平均プラスミドコピー数を実施例1に記載されているように決定したが、プラスミドpBAio-lumiBliのluxB遺伝子内のオリゴヌクレオチド配列番号81及び配列番号82、並びに染色体終端近傍の遺伝子BLi02076(遺伝子座タグDSM13)内のオリゴヌクレオチド配列番号83及び配列番号84をRT-qPCR増幅に使用した。結果を図7Cに示す。キシロース誘導因子分子なしのバチルス・リケニフォルミスにおけるpBAio lumiBlの平均プラスミドコピー数を、細胞1つあたり19.3コピーと算出した。プラスミドpKS100(細胞1つあたり平均38.5コピーを有する同一のpE194複製起点;実施例1)と比べてより低い平均コピー数は、プロモーターPxylAからの漏出cop発現及び、それ故にプラスミド複製の抑制を反映している。0.313%キシロースの添加は、細胞1つあたり11.6というさらにより低い平均プラスミドコピー数をもたらし、これは上記の発光データ(図7B)と一致する。0.5%キシロースの添加による強いcop発現は、プラスミド喪失を示す0.8という1.0にわずかに満たない平均プラスミドコピー数の算出をもたらす。プラスミドなしの細胞は抗生物質選択圧下で生存できないが、qPCR分析によって検出されるそれらのゲノムDNAに寄与する。
【0201】
[実施例7]
バチルス・リケニフォルミスにおけるcopの過剰発現及び非許容温度へのシフトの組合せによる100%Campbell組換え効率
温度感受性複製起点を有するプラスミド、例えばpE194を使用する相同組換えベースの遺伝子欠失又は遺伝子組み込みアプローチは、選択圧(例えば抗生物質)下で培養条件を非許容温度にシフトさせて、プラスミドに存在する相同性領域によるプラスミドの最初のCampbell組換えをゲノムに強いる。この手順は完全ではなく、極めて低いコピー数で非複製プラスミドをおそらく有する大量の細胞をもたらし、最終的には正しいクローンを同定するための多大なスクリーニング労力の原因となる。
【0202】
宿主ゲノムとの相同組換え効率に関して、pBAioベースのプラスミドのより高い効率を示すために、「光スイッチ」を構築した。枯草菌由来の強いPsrfAAプロモーターの制御下で遺伝子(luxABCDEレポーターオペロン)をコードするルシフェラーゼを、プラスミドpKS068を用いてバチルス・リケニフォルミスP308のアミラーゼamyB遺伝子座に組み込み、株セクションに記載されているバチルス・リケニフォルミス株LBLを作出した。バチルス・リケニフォルミスLBLの各細胞は発光シグナルを示す。luxAの500bpに相同な領域を有するpBAioプラスミド誘導体であるプラスミドpKS137を、実施例6に記載されているようにバチルス・リケニフォルミスLBLへの接合により形質転換した(上記参照)。1つのコロニーを採取し、20μg/mlカナマイシン及び0.5%キシロースを補充した10ml LB Lennoxに接種し、37℃で撹拌しながら3時間インキュベートした(前培養)。希釈系列を作製し、20μg/mlカナマイシン及び1%キシロースを含有するLB寒天プレートに各100μlを播種する。寒天プレートを一晩、45℃でインキュベートした。対照として、前培養及び/若しくは寒天プレートでキシロースなしで細胞を処理し、37℃でインキュベートするか、又はそれらを組み合わせて処理した。翌日、発光の存在又は非存在についてコロニーを調べて、プラスミド組み込み状態を分析した。寒天プレートをAlphaImager(商標)(Alpha Innotech)を用いてデフォルト設定で3分間曝露して、発光を分析した。第2の写真を高解像度設定で8ミリ秒、反射光により撮影した。Fiji(Schindelinら、2012、Nature methods 9(7): 676~682頁)を使用して2枚の写真をオーバーレイした。プラスミド組み込み率を、非発光コロニーの数をコロニーの総数で割って決定した。1条件あたり平均で1000コロニーを分析し、実験は3重に行った。
【0203】
プラスミドが組み込まれたクローンは、発光を示さない。プラスミドpKS137とluxA遺伝子との相同組換えはゲノムへのプラスミドの組み込みと、それ故にluxABCDEオペロンの破壊をもたらすからである。略図を図8Aに示し、結果を図8Bに示す。
【0204】
37℃では最大87%のプラスミド組み込み率は、1%キシロースを含有するLB寒天プレートに播種し、それ故にcop発現を誘導して達成することができた。0.5%キシロースを添加して「前処理」した液体培養でのcop遺伝子発現の誘導は、全体の組み込み効率に軽度の効果を及ぼす。45℃ - 非許容温度 - では、平均組み込み率は85%~90%であり、第1のステップは実際には非効率的であることを示している。pE194複製起点の非許容温度(45℃)での増殖とcop発現の誘導との組合せは、組み込み率が100%(分析した1000を超えるコロニーで発光コロニーがない)に増大し得ることを示している。
【0205】
[実施例8]
自殺ベクター及び方法
温度感受性複製起点を適用する遺伝子欠失(類似遺伝子の組み込み)手順 - 誘導性プロモーターPxylAの制御下で追加のcop遺伝子を含むpBAioプラスミドについて同様に本明細書に記載されている - をゲノム編集に使用する。ゲノム編集では、レシピエント細胞に相同なDNA配列と両側で隣接した選択可能なマーカーを含む直鎖DNA断片又は自殺プラスミド(宿主細胞で複製することができない)の直接導入は、DNAを取り込み、ゲノムに正しく組み込んだ形質転換体によって決定した場合うまくいかない。前者はバチルス・リケニフォルミス、バチルス・プミルス及び他の種について数多く記載されているが、後者は、直鎖DNAが高頻度の組換えと同時に細胞によって活発に取り込まれる、いわゆる自然の形質転換受容性を有する枯草菌実験室株(例えば、枯草菌168株)について記載されている。同様に、「誘導性形質転換受容性」系は、DNA取り込みを増強する形質転換受容性遺伝子comS及び/又はcomKのプラスミドベースの又はゲノム組み込みベースの過剰発現によって記載されている。また、宿主細胞を、直鎖DNAによる形質転換性が改善したレシピエント宿主にする、バチルス・リケニフォルミスにおけるmecA遺伝子のさらなるノックアウトも知られている。レシピエント宿主が使用前に遺伝子操作される必要があることは明らかである。さらに、宿主の産生能力に対する有害な作用(例えば、化学物質、ポリマー、タンパク質、酵素等)が生じ得る。したがって、レシピエント細胞を改変する必要なく、効率の良いDNA導入及び遺伝子欠失/遺伝子組み込み手順を適用することが望まれる。
【0206】
DNA導入及び遺伝子欠失手順は、以下を含む:
栄養要求性(例えば、アラニンラセマーゼ遺伝子 - alr/dal遺伝子の欠失)を有する枯草菌ドナー宿主、及び接合性プラスミドpLS20(WO0200907)。接合性プラスミドpLS20は、選択可能なマーカー(例えばクロラムフェニコール耐性マーカー、Itayaら、2006)、及び対抗選択マーカー(例えばcodBA遺伝子、Kostnerら、2013)をさらに有する。枯草菌宿主は、クロラムフェニコール耐性遺伝子が、lox部位と隣接するカナマイシン耐性カセットによって置換された枯草菌宿主Bs#056の誘導株である。lox部位は、その後、プラスミドpDR244(Bacillus Genetic StockセンターBGSC: ECE274)へのcreリコンビナーゼの導入によって除去された。プラスミドpE194の複製カセット(nt920~nt1910; Pcopプロモーターの制御下のcop及びrepF遺伝子、並びにアンチセンスctRNAを含む)は、スペクチノマイシン耐性カセットが、cre媒介マーカーリサイクリングを可能にするlox部位と隣接するカナマイシン耐性カセットによって置換されたプラスミド誘導体pBS4S(Radeckら、2013)を用いてスレオニン(thrC)遺伝子座に組み込む。枯草菌GCX1について記載されているpE194誘導体の低コピー数の調整を可能にするために、優先的に、cop遺伝子の追加のコピーは、sacA遺伝子座に組み込まれた誘導性PxylA遺伝子プロモーター下に置く。
【0207】
欠失プラスミドは、以下のエレメントからなる:
A)抗生物質耐性遺伝子(例えば、プラスミドpUB110のカナマイシン耐性遺伝子)及びColE1複製; B) pLS20由来のoriT(Itaya M.ら、2006、Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry、70(3)、740~742頁); C) SSO及びDSOを含むpE194配列(nt630~nt920); D)対抗選択マーカー(例えばcodBA遺伝子、Kostnerら、2013); E) lox部位並びにレシピエント宿主の領域に相同な5'及び3' 500bp領域と隣接するスペクチノマイシン耐性カセット。
【0208】
遺伝子組み込みプラスミドは、以下のエレメントからなる:
A)抗生物質耐性遺伝子(例えば、プラスミドpUB110のカナマイシン耐性遺伝子)及びColE1複製; B)pLS20由来のoriT(Itaya M.ら、2006、Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry、70(3)、740~742頁); C)SSO及びDSOを含むpE194配列(nt630~nt920); D)対抗選択マーカー(例えばcodBA遺伝子、Kostnerら、2013); E)lox部位と隣接するスペクチノマイシン耐性カセットの5'に位置する異種遺伝子発現カセット(プロモーター-遺伝子-ターミネーター)。遺伝子発現カセット及びスペクチノマイシン耐性カセットはやはり、レシピエント宿主の領域に相同な5'及び3' 500bp領域に隣接する。
【0209】
細胞内のプラスミド複製は、染色体にトランスでコードされたrepFタンパク質に依存するか、又はプラスミドベースである。
【0210】
D-アラニンラセマーゼ活性に対する原栄養性を示すバチルス・リケニフォルミスレシピエント宿主は、5'フルオロシトシンに対して非感受性であり、カナマイシン及びスペクチノマイシン抗生物質に対して感受性である。
【0211】
遺伝子欠失プラスミドをタイプIIアセンブリによりアセンブルし、20μg/mlカナマイシン、5μg/mlクロラムフェニコール、10μg/mlスレオニン及び100μg/ml D-アラニンを補充したLB寒天プレートで選択した後、枯草菌ドナー株に形質転換する。プラスミド単離及び制限酵素消化分析及び配列決定後、正しいアセンブルされた遺伝子欠失プラスミドを有する枯草菌クローンをコロニーPCRを使用して同定する。repFが上記のように染色体から発現されることから、プラスミドは複製プラスミドとして安定である。
【0212】
次に、欠失プラスミドを、複製pE194ベースの遺伝子欠失/遺伝子組み込みプラスミドに関するWO0200907の実施例で本質的に記載されているように、枯草菌ドナー株からバチルス・リケニフォルミスレシピエント株に接合により導入する。接合は、接合が固体培地寒天プレートではなく液体培養で行われるItayaら、2006に従って改変する。
【0213】
欠失プラスミドを有する枯草菌ドナー株は、20μg/mlカナマイシン、5μg/mlクロラムフェニコール、10μg/mlスレオニン及び100μg/ml D-アラニンを補充したLB-Lennox培地で15~17時間増殖させ、バチルス・リケニフォルミスレシピエント株はLB-Lennox培地で37℃で増殖させる。翌日、培養物を新鮮予熱培地で光学密度OD(600nm)0.1に希釈し、ドナー及びレシピエント細胞培養物の両方がOD(600)0.8~1.0に達するまで、抗生物質なしの培地で培養を継続する。0.5mlの各培養物を取り出し、混合し、37℃で15分間、振盪せずにインキュベートして接合性プラスミド導入させる。細胞混合物を、予熱形質転換培地を用いて1回洗浄し、続いて、200μg/mlスペクチノマイシンを補充したTM寒天プレートに播種し、37℃で24~48時間インキュベートする。
【0214】
形質転換培地TMは、1.0%グルコース、0.2%グルタミン酸カリウム、及び0.1%カザミノ酸を含むSpizizen最小培地(Anagnostopoulos, C.及びSpizizen, J. (1961). J. Bacteriol. 81、741~746頁)からなる。
【0215】
直鎖一本鎖欠失プラスミドを受け取り、2つの相同DNA領域による二重相同組換えを含むスペクチノマイシン耐性カセットの組み込みに成功したバチルス・リケニフォルミス接合完了体細胞のみが、これらの条件下で増殖することができる。repF遺伝子がバチルス・リケニフォルミスに存在しないことから、ドナープラスミドのプラスミド複製はもはや可能ではなく、接合された「自殺」プラスミドをもたらす。
【0216】
枯草菌ドナー細胞は、D-アラニンの非存在下で増殖することができない。バチルス・リケニフォルミス接合完了体を次に200μg/mlスペクチノマイシン及び20μg/mlフルオロシトシンを含むTM寒天プレートに播種し、37℃で24時間インキュベートする。第2のステップは、自己伝達性であるpLS20CAT接合性プラスミドの存在、及びCampbell組換えを介した組み込みが生じているならば欠失プラスミドを対抗選択する。
【0217】
得られたバチルス・リケニフォルミス株は、標的遺伝子が欠失され、スペクチノマイシン耐性、5-フルオロシトシンに非感受性、カナマイシンに感受性である。
【0218】
次のステップで、スペクチノマイシン耐性マーカーをリゾルベース(creリゾルベース)媒介マーカーリサイクリングによって除去してもよい。
【0219】
電気穿孔又はプロトプラスト形質転換のようなDNA導入の他の物理的方法とは対照的に、接合性DNA導入は、この自殺アプローチにより特異的遺伝子欠失/遺伝子組み込みを可能にすることによって、レシピエント細胞をDNA取り込み及びDNA組換えがすぐにできるようにする。
【0220】
さらに、この方法は、枯草菌ドナー株における極めて低いコピー数が安定な維持のために絶対に必要となる強力なプロモーターの制御下で遺伝子発現カセットを構築できるようにする。概説したようにプラスミドコピー数は、細胞においてrepF発現レベルによりトランスで制御される。接合性導入時、自殺プラスミドはレシピエント細胞で作られ、強力な遺伝子発現カセットは、マルチコピープラスミド中間体なしでゲノムに直接組み込まれる。これは、遺伝子発現カセット内に突然変異を有する細胞の選択をもたらすであろう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
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【国際調査報告】