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特表2023-529982プロテアーゼ活性化型T細胞二重特異性抗体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-12
(54)【発明の名称】プロテアーゼ活性化型T細胞二重特異性抗体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20230705BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20230705BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20230705BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20230705BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230705BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230705BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230705BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230705BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230705BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20230705BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20230705BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230705BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230705BHJP
【FI】
C12N15/62 Z ZNA
C12N15/13
C07K16/28
C07K16/46
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/02 C
A61K47/68
A61K39/395 U
A61P35/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022577275
(86)(22)【出願日】2021-06-17
(85)【翻訳文提出日】2022-12-27
(86)【国際出願番号】 EP2021066335
(87)【国際公開番号】W WO2021255137
(87)【国際公開日】2021-12-23
(31)【優先権主張番号】20181072.8
(32)【優先日】2020-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.UNIX
(71)【出願人】
【識別番号】514099673
【氏名又は名称】エフ・ホフマン-ラ・ロシュ・アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ブルエンカー, ペーター
(72)【発明者】
【氏名】カーピー グティエレス チルロス, アレハンドロ
(72)【発明者】
【氏名】フライモサー-グルントショーバー, アン
(72)【発明者】
【氏名】ガイガー, マルティナ
(72)【発明者】
【氏名】ホーファー, トーマス
(72)【発明者】
【氏名】クライン, クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】メスナー, エッケハルト
(72)【発明者】
【氏名】ノイマン, クリスティアーヌ
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C076
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA87X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4C076CC07
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE59
4C085AA14
4C085BB17
4C085BB36
4C085BB41
4C085BB42
4C085DD62
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA40
4H045CA40
4H045DA75
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、概して、新規のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子及びイディオタイプ特異的ポリペプチドに関する。また、本発明は、このようなプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子とイディオタイプ特異的ポリペプチドとをコードするポリヌクレオチド、並びにこのようなポリヌクレオチドを含むベクター及び宿主細胞に関する。更に、本発明は、本発明のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子及びイディオタイプ特異的ポリペプチドを製造するための方法、並びにこれらのプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子及びイディオタイプ特異的ポリペプチドを疾患の治療において使用する方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子であって、
(a)以下の(i)及び(ii)を含む、CD3に結合することができる第1の抗原結合部分:
(i)配列番号2の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号4のHCDR 2、及び配列番号10のHCDR 3を含む重鎖可変領域(VH)
(ii)配列番号20の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号21のLCDR 2、及び配列番号22のLCDR 3を含む軽鎖可変領域(VL);
(b)標的細胞抗原に結合することができる第2の抗原結合部分;並びに
(c)プロテアーゼ切断可能リンカーを介してT細胞二重特異性結合分子に共有結合されたマスキング部分であって、第1の抗原結合部分のイディオタイプに結合することができ、それによって第1の抗原結合部分を可逆的に隠す、マスキング部分
を含む、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
【請求項2】
VHが、配列番号16のアミノ酸配列に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%同一であるアミノ酸配列を含み、且つ/又はVLが、配列番号23のアミノ酸配列に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%同一であるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
【請求項3】
マスキング部分が、第1の抗原結合部分に共有結合され、第1の抗原結合部分を可逆的に隠す、請求項1又は2に記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
【請求項4】
マスキング部分が第1の抗原結合部分の重鎖可変領域に共有結合される、請求項1から3のいずれか一項に記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
【請求項5】
マスキング部分がscFvである、請求項1から4のいずれか一項に記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
【請求項6】
第2の抗原結合部分が、Fab軽鎖及びFab重鎖の可変領域又は定常領域が交換されているクロスオーバーFab分子である、請求項1から5のいずれか一項に記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
【請求項7】
第1の抗原結合部分が従来のFab分子である、請求項1から6のいずれか一項に記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
【請求項8】
CD3に結合することができる抗原結合部分を1つまで含む、請求項1から7のいずれか一項に記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
【請求項9】
標的細胞抗原に結合することができるFab分子である第3の抗原結合部分を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
【請求項10】
第3の抗原部分が第2の抗原結合部分と同一である、請求項9に記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
【請求項11】
第2の抗原結合部分がFolR1及びTYRP1から成る群より選択される標的細胞抗原に結合することができる、請求項1から10のいずれか一項に記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
【請求項12】
第1及び第2の抗原結合部分が、互いに融合されており、場合によってペプチドリンカーを介して融合されている、請求項1から11のいずれか一項に記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
【請求項13】
第2の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端において第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合されている、請求項1から12のいずれか一項に記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
【請求項14】
第1の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端において第2の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合されている、請求項1から13のいずれか一項に記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
【請求項15】
安定な会合が可能な第1及び第2のサブユニットで構成されたFcドメインを追加的に含む、請求項1から14のいずれか一項に記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
【請求項16】
FcドメインがIgG、具体的にはIgG1又はIgG4 Fcドメインである、請求項15に記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
【請求項17】
Fcドメインが、天然のIgG1 Fcドメインと比較して、Fc受容体に対する結合親和性の低下及び/又はエフェクター機能の低下を示す、請求項15又は16に記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
【請求項18】
マスキング部分が、
(a)DYSMN(配列番号58)の重鎖相補性決定領域(CDR H)1アミノ酸配列;
(b)WINTETGEPRYTDDFKG(配列番号59)、WINTETGEPRYTDDFTG(配列番号84)、及びWINTETGEPRYTQGFKG(配列番号86)から成る群より選択されるCDR H2アミノ酸配列;
(c)EGDYDVFDY(配列番号60)のCDR H3アミノ酸配列
を含む重鎖可変領域と、
(d)RASKSVSTSSYSYMH(配列番号62)及びKSSKSVSTSSYSYMH(配列番号82)から成る群より選択される軽鎖(CDR L)1アミノ酸配列;
(e)YVSYLES(配列番号63)のCDR L2アミノ酸配列;並びに
(f)QHSREFPYT(配列番号64)及びQQSREFPYT(配列番号88)から成る群より選択されるCDR L3アミノ酸配列
を含む軽鎖可変領域とを含む、請求項1から17のいずれか一項に記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
【請求項19】
マスキング部分が、
(a)DYSMN(配列番号58)の重鎖相補性決定領域(CDR H)1アミノ酸配列;
(b)WINTETGEPRYTDDFKG(配列番号59)のCDR H2アミノ酸配列;
(c)EGDYDVFDY(配列番号60)のCDR H3アミノ酸配列
を含む重鎖可変領域と、
(d)RASKSVSTSSYSYMH(配列番号62)の軽鎖(CDR L)1アミノ酸配列;
(e)YVSYLES(配列番号63)のCDR L2アミノ酸配列;及び
(f)QHSREFPYT(配列番号64)のCDR L3アミノ酸配列
を含む軽鎖可変領域とを含む、請求項1から17のいずれか一項に記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
【請求項20】
マスキング部分が、
(a)SYGVS(配列番号58)の重鎖相補性決定領域(CDR H)1アミノ酸配列;
(b)IIWGDGSTNYHSALIS(配列番号59)のCDR H2アミノ酸配列;
(c)GITTVVDDYYAMDY(配列番号60)のCDR H3アミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、
(d)KSSKSVSTSSYSYMH(配列番号82)の軽鎖(CDR L)1アミノ酸配列;
(e)AATFLAD(配列番号63)のCDR L2アミノ酸配列;及び
(f)QHYYSTPYT(配列番号64)のCDR L3アミノ酸配列
を含む軽鎖可変領域とを含む、請求項1から17のいずれか一項に記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
【請求項21】
マスキング部分が、
(a)SYGVS(配列番号58)の重鎖相補性決定領域(CDR H)1アミノ酸配列;
(b)WINTETGEPRYTDDFTG(配列番号84)のCDR H2アミノ酸配列;
(c)GITTVVDDYYAMDY(配列番号60)のCDR H3アミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、
(d)KSSKSVSTSSYSYMH(配列番号82)の軽鎖(CDR L)1アミノ酸配列;
(e)AATFLAD(配列番号63)のCDR L2アミノ酸配列;及び
(f)QHYYSTPYT(配列番号64)のCDR L3アミノ酸配列
を含む軽鎖可変領域とを含む、請求項1から17のいずれか一項に記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
【請求項22】
マスキング部分が、
(a)SYGVS(配列番号58)の重鎖相補性決定領域(CDR H)1アミノ酸配列;
(b)WINTETGEPRYTQGFKG(配列番号86)のCDR H2アミノ酸配列;
(c)GITTVVDDYYAMDY(配列番号60)のCDR H3アミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、
(d)KSSKSVSTSSYSYMH(配列番号82)の軽鎖(CDR L)1アミノ酸配列;
(e)AATFLAD(配列番号63)のCDR L2アミノ酸配列;及び
(f)QHYYSTPYT(配列番号64)のCDR L3アミノ酸配列
を含む軽鎖可変領域とを含む、請求項1から17のいずれか一項に記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
【請求項23】
プロテアーゼ切断可能リンカーが少なくとも1つのプロテアーゼ認識配列を含む、請求項1から22のいずれか一項に記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
【請求項24】
プロテアーゼ認識配列が、
(a)RQARVVNG (配列番号100);
(b)VHMPLGFLGPGRSRGSFP(配列番号101);
(c)RQARVVNGXXXXXVPLSLYSG(配列番号102)(ここで、Xは任意のアミノ酸である);
(d)RQARVVNGVPLSLYSG(配列番号103);
(e)PLGLWSQ(配列番号104);
(f)VHMPLGFLGPRQARVVNG(配列番号105);
(g)FVGGTG(配列番号106);
(h)KKAAPVNG(配列番号107);
(i)PMAKKVNG(配列番号108);
(j)QARAKVNG(配列番号109);
(k)VHMPLGFLGP(配列番号110);
(l)QARAK(配列番号111);
(m)VHMPLGFLGPPMAKK(配列番号112);
(n)KKAAP(配列番号113);及び
(o)PMAKK(配列番号114)
から成る群より選択される、請求項1から23のいずれか一項に記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
【請求項25】
プロテアーゼ切断可能リンカーがプロテアーゼ認識配列PMAKK(配列番号114)を含む、請求項23又は24に記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
【請求項26】
第2の抗原結合部分が、FolR1に結合することができ、且つ、
a)NAWMS(配列番号54)の重鎖相補性決定領域(CDR H)1アミノ酸配列;
b)RIKSKTDGGTTDYAAPVKG(配列番号55)のCDR H2アミノ酸配列;及び
c)PWEWSWYDY(配列番号56)のCDR H3アミノ酸配列
を含む重鎖可変領域と、
d)GSSTGAVTTSNYAN(配列番号20)の軽鎖(CDR L)1アミノ酸配列;
e)GTNKRAP(配列番号21)のCDR L2アミノ酸配列;及び
f)ALWYSNLWV(配列番号22)のCDR L3アミノ酸配列
を含む軽鎖可変領域とを含む、請求項1から25のいずれか一項に記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
【請求項27】
第2の抗原結合部分が、TYRP1に結合することができ、且つ、
a)DYFLH(配列番号24)の重鎖相補性決定領域(CDR H)1アミノ酸配列;
b)WINPDNGNTVYAQKFQG(配列番号25)のCDR H2アミノ酸配列;及び
c)RDYTYEKAALDY(配列番号26)のCDR H3アミノ酸配列
を含む重鎖可変領域と、
d)RASGNIYNYLA(配列番号28)の軽鎖(CDR L)1アミノ酸配列;
e)DAKTLAD(配列番号29)のCDR L2アミノ酸配列;及び
f)QHFWSLPFT(配列番号30)のCDR L3アミノ酸配列
を含む軽鎖可変領域とを含む、請求項1から21のいずれか一項に記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
【請求項28】
分子の抗CD3抗原結合部位を可逆的に隠すことができるイディオタイプ特異的ポリペプチドであって、配列番号79、配列番号83及び配列番号85から成る群より選択されるアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号80及び配列番号81から成る群より選択されるアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変領域配列とを含む、イディオタイプ特異的ポリペプチド。
【請求項29】
配列番号79と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号80と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変領域配列とを含む、請求項28に記載のイディオタイプ特異的ポリペプチド。
【請求項30】
配列番号79と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号81と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変領域配列とを含む、請求項28に記載のイディオタイプ特異的ポリペプチド。
【請求項31】
配列番号83と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号81と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変領域配列とを含む、請求項28に記載のイディオタイプ特異的ポリペプチド。
【請求項32】
配列番号85と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号81と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変領域配列とを含む、請求項28に記載のイディオタイプ特異的ポリペプチド。
【請求項33】
scFvである、請求項28から32のいずれか一項に記載のイディオタイプ特異的ポリペプチド。
【請求項34】
リンカーを介して分子に共有結合される、請求項28から33のいずれか一項に記載のイディオタイプ特異的ポリペプチド。
【請求項35】
リンカーがペプチドリンカーである、請求項34に記載のイディオタイプ特異的ポリペプチド。
【請求項36】
リンカーがプロテアーゼ切断可能リンカーである、請求項34又は35に記載のイディオタイプ特異的ポリペプチド。
【請求項37】
ペプチドリンカーが少なくとも1つのプロテアーゼ認識部位を含む、請求項34から36のいずれか一項に記載のイディオタイプ特異的ポリペプチド。
【請求項38】
プロテアーゼ認識配列が、
(a)RQARVVNG(配列番号100);
(b)VHMPLGFLGPGRSRGSFP(配列番号101);
(c)RQARVVNGXXXXXVPLSLYSG(配列番号102)(ここで、Xは任意のアミノ酸である);
(d)RQARVVNGVPLSLYSG(配列番号103);
(e)PLGLWSQ(配列番号104);
(f)VHMPLGFLGPRQARVVNG(配列番号105);
(g)FVGGTG(配列番号106);
(h)KKAAPVNG(配列番号107);
(i)PMAKKVNG(配列番号108);
(j)QARAKVNG(配列番号109);
(k)VHMPLGFLGP(配列番号110);
(l)QARAK(配列番号111);
(m)VHMPLGFLGPPMAKK(配列番号112);
(n)KKAAP(配列番号113);及び
(o)PMAKK(配列番号114)
から成る群より選択される、請求項37に記載のイディオタイプ特異的ポリペプチド。
【請求項39】
プロテアーゼ切断可能リンカーがプロテアーゼ認識配列PMAKK(配列番号114)を含む、請求項37に記載のイディオタイプ特異的ポリペプチド。
【請求項40】
T細胞活性化二重特異性分子の一部である、請求項28から39のいずれか一項に記載のイディオタイプ特異的ポリペプチド。
【請求項41】
請求項1から27のいずれか一項に記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子又は請求項28から40のいずれか一項に記載のイディオタイプ特異的ポリペプチドと、薬学的に許容される担体とを含む、薬学的組成物。
【請求項42】
請求項1から27のいずれか一項に記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性抗原結合分子又は請求項28から40のいずれか一項に記載のイディオタイプ特異的ポリペプチドをコードする、単離ポリヌクレオチド。
【請求項43】
請求項42に記載のポリヌクレオチドを含むベクター、特に発現ベクター。
【請求項44】
請求項42に記載のポリヌクレオチド又は請求項43に記載のベクターを含む、宿主細胞。
【請求項45】
プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子を製造する方法であって、a)請求項44に記載の宿主細胞をプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子の発現に適した条件下で培養する工程と、b)プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子を回収する工程とを含む、方法。
【請求項46】
医薬としての使用のための、請求項1から27のいずれか一項に記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子、請求項28から40のいずれか一項に記載のイディオタイプ特異的ポリペプチド、又は請求項41に記載の薬学的組成物。
【請求項47】
医薬が、個体における、がんの治療若しくは進行の遅延、免疫関連疾患の治療若しくは進行の遅延又は免疫応答若しくは機能の向上若しくは刺激のためのものである、請求項46に記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
【請求項48】
疾患の治療のための医薬の製造のための、請求項1から27のいずれか一項に記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子又は請求項28から40のいずれか一項に記載のイディオタイプ特異的ポリペプチドの使用。
【請求項49】
疾患ががんである、請求項48に記載の使用。
【請求項50】
個体における疾患を治療する方法であって、請求項1から28のいずれか一項に記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子を含む組成物の治療的有効量を前記個体に投与することを含む、方法。
【請求項51】
個体における、がんの治療若しくは進行の遅延、免疫関連疾患の治療若しくは進行の遅延又は免疫応答若しくは機能の向上若しくは刺激のための、請求項50に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、新規のプロテアーゼ活性化可能(protease-activatable)抗原結合分子に関する。該プロテアーゼ活性化可能抗原結合分子は、その抗原結合を可逆的にマスクする抗イディオタイプ抗原結合部分を含む。具体的には、本発明は、プロテアーゼによって切断されるまでCD3結合部分をマスクする抗イディオタイプ抗原結合部分を有する、T細胞結合分子に関する。これにより、CD3結合部分は、腫瘍、例えば腫瘍浸潤T細胞などの標的組織に接近するまでアクセスできないか又は「マスク」されることになる。加えて、本発明は、このようなプロテアーゼ活性化型(protease-activated)T細胞抗原結合分子とイディオタイプ特異的ポリペプチドとをコードするポリヌクレオチド、並びにこのようなポリヌクレオチドを含むベクター及び宿主細胞に関する。本発明は更に、本発明のプロテアーゼ活性化型T細胞結合分子を製造するための方法、及び、例えば疾患の治療において、当該分子を使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
個々の標的細胞又は特定の標的細胞型の選択的破壊は、様々な臨床現場でしばしば望まれることである。例えば、がん治療の主要な目標は、腫瘍細胞を特異的に破壊する一方で、健康な細胞や組織を無傷のまま損傷させずに残すことである。
【0003】
これを達成する魅力的な方法は、腫瘍に対する免疫応答を誘導することにより、ナチュラルキラー(NK)細胞又は細胞傷害性Tリンパ球(CTL)のような免疫エフェクター細胞に、腫瘍細胞を攻撃させて破壊させることである。これに関し、1つの「アーム」で標的細胞上の表面抗原に結合し、第2の「アーム」でT細胞受容体(TCR)複合体の活性化インバリアント構成要素に結合するように設計された二重特異性抗体が近年注目されている。このような抗体がその標的の両方に同時結合することにより、標的細胞とT細胞の間に一時的な相互作用が生じ、あらゆる細胞傷害性T細胞の活性化とそれに続く標的細胞の溶解が引き起こされる。したがって免疫応答は、標的細胞にリダイレクトされ、CTLの正常なMHC制限活性化に適するような、標的細胞によるペプチド抗原提示又はT細胞の特異性とは無関係である。
【0004】
このような観点から、標的細胞に近接している場合、すなわち免疫シナプスが模倣されている場合にのみ、CTLが活性化されることが極めて重要である。標的細胞の効率のよい溶解を引き起こすために、特に望ましいのは、リンパ球のプレコンディショニング又は共刺激を必要としないT細胞活性化二重特異性分子である。いくつかの二重特異性抗体のフォーマットが開発されており、T細胞媒介免疫療法へのこれらの適合性が調査されている。これらには、BiTE(二重特異性T細胞エンゲージャー)分子(Nagorsen and Bauerle,Exp Cell Res 317,1255-1260(2011))、ダイアボディ(Holliger et al.,Prot Eng 9,299-305(1996))及びこれらの誘導体、例えばタンデムダイアボディ(Kipriyanov et al.,J Mol Biol 293,41-66(1999))、DART(デュアル・アフィニティー・リターゲティング)分子(Moore et al.,Blood 117,4542-51(2011))及びトリオマブ(Seimetz et al.,Cancer Treat Rev 36,458-467(2010))が含まれる。
【0005】
治療に適した二重特異性分子を生成するタスクは、有効性、毒性、適用性及び生産性に関連する、満たさなければならないいくつかの技術的課題を提供する。二重特異性分子は、標的細胞(例えばがん細胞)上の抗原であって非標的組織内でも発現する抗原を標的とする場合、毒性が発生する可能性がある。したがって、標的細胞の存在下ではT細胞活性化抑制を完全に解除し、正常な細胞又は組織の存在下では解除しない、有効なT細胞活性化二重特異性分子に対するニーズが存在する。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、概して、標的細胞の存在下で選択的に活性化されるT細胞活性化二重特異性分子に関する。
【0007】
ある態様では、提供されるのは、
(a)以下の(i)及び(ii)を含む、CD3に結合することができる第1の抗原結合部分:
(i)配列番号2の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号4のHCDR 2、及び配列番号10のHCDR 3を含む重鎖可変領域(VH)
(ii)配列番号20の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号21のLCDR 2、及び配列番号22のLCDR 3を含む軽鎖可変領域(VL);
(b)標的細胞抗原に結合することができる第2の抗原結合部分;並びに
(c)プロテアーゼ切断可能リンカーを介してT細胞二重特異性結合分子に共有結合されたマスキング部分であって、第1の抗原結合部分のイディオタイプに結合することができ、それによって第1又は第2の抗原結合部分を可逆的に隠すマスキング部分
を含む、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子である。
【0008】
ある態様では、VHは、配列番号16のアミノ酸配列に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%同一であるアミノ酸配列を含み、且つ/又はVLは、配列番号23のアミノ酸配列に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%同一であるアミノ酸配列を含む。
【0009】
ある態様では、マスキング部分は、第1の抗原結合部分に共有結合され、第1の抗原結合部分を可逆的に隠す。
【0010】
ある態様では、マスキング部分は、第1の抗原結合部分の重鎖可変領域に共有結合される。
【0011】
ある態様では、マスキング部分は、抗イディオタイプscFvである。
【0012】
ある態様では、第2の抗原結合部分は、Fab軽鎖とFab重鎖の可変領域又は定常領域が交換されているクロスオーバーFab分子である。
【0013】
ある態様では、第1の抗原結合部分は、一般的なFab分子である。
【0014】
ある態様では、提供されるのは、CD3に結合できる抗原結合部分を1つまで含む、本明細書で上述したプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子である。
【0015】
ある態様では、提供されるのは、標的細胞抗原に結合することができるFab分子である第3の抗原結合部分を含む、本明細書で上述したプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子である。
【0016】
ある態様では、第3の抗原結合部分は第2の抗原結合部分と同一である。
【0017】
ある態様では、第2の抗原結合部分は、FolR1及びTYRP1から成る群より選択される標的細胞抗原に結合することができる。
【0018】
ある態様では、第1の抗原結合部分と第2の抗原結合部分は互いに融合され、場合によってペプチドリンカーを介して融合される。
【0019】
ある態様では、第2の抗原結合部分は、Fab重鎖のC末端において第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合される。
【0020】
ある態様では、第1の抗原結合部分は、Fab重鎖のC末端において第2の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合される。
【0021】
ある態様では、提供されるのは、安定に会合することができる第1のサブユニットと第2のサブユニットで構成されるFcドメインを更に含む、本明細書で上述したプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子である。
【0022】
ある態様では、Fcドメインは、IgG、具体的にはIgG1又はIgG4のFcドメインである。
【0023】
ある態様では、Fcドメインは、天然のIgG1 Fcドメインと比較して、Fc受容体への結合親和性の低下及び/又はエフェクター機能の低下を示す。
【0024】
ある態様では、マスキング部分は、
(a)DYSMN(配列番号58)の重鎖相補性決定領域(CDR H)1アミノ酸配列;
(b)WINTETGEPRYTDDFKG(配列番号59)、WINTETGEPRYTDDFTG(配列番号84)、及びWINTETGEPRYTQGFKG(配列番号86)から成る群より選択されるCDR H2アミノ酸配列;
(c)EGDYDVFDY(配列番号60)のCDR H3アミノ酸配列
を含む重鎖可変領域と、
(d)RASKSVSTSSYSYMH(配列番号62)及びKSSKSVSTSSYSYMH(配列番号82)から成る群より選択される軽鎖(CDR L)1アミノ酸配列;
(e)YVSYLES(配列番号63)のCDR L2アミノ酸配列;並びに
(f)QHSREFPYT(配列番号64)及びQQSREFPYT(配列番号88)から成る群より選択されるCDR L3アミノ酸配列
を含む軽鎖可変領域とを含む。
【0025】
ある態様では、マスキング部分は、
(a)DYSMN(配列番号58)の重鎖相補性決定領域(CDR H)1アミノ酸配列;
(b)WINTETGEPRYTDDFKG(配列番号59)のCDR H2アミノ酸配列;
(c)EGDYDVFDY(配列番号60)のCDR H3アミノ酸配列
を含む重鎖可変領域と、
(d)RASKSVSTSSYSYMH(配列番号62)の軽鎖(CDR L)1アミノ酸配列;
(e)YVSYLES(配列番号63)のCDR L2アミノ酸配列;並びに
(f)QHSREFPYT(配列番号64)のCDR L3アミノ酸配列
を含む軽鎖可変領域とを含む。
【0026】
ある態様では、マスキング部分は、
(a)SYGVS(配列番号58)の重鎖相補性決定領域(CDR H)1アミノ酸配列;
(b)IIWGDGSTNYHSALIS(配列番号59)のCDR H2アミノ酸配列;
(c)GITTVVDDYYAMDY(配列番号60)のCDR H3アミノ酸配列
を含む重鎖可変領域と、
(d)KSSKSVSTSSYSYMH(配列番号82)の軽鎖(CDR L)1アミノ酸配列;
(e)AATFLAD(配列番号63)のCDR L2アミノ酸配列;及び
(f)QHYYSTPYT(配列番号64)のCDR L3アミノ酸配列
を含む軽鎖可変領域とを含む。
【0027】
ある態様では、マスキング部分は、
(a)SYGVS(配列番号58)の重鎖相補性決定領域(CDR H)1アミノ酸配列;
(b)WINTETGEPRYTDDFTG(配列番号84)のCDR H2アミノ酸配列;
(c)GITTVVDDYYAMDY(配列番号60)のCDR H3アミノ酸配列
を含む重鎖可変領域と、
(d)KSSKSVSTSSYSYMH(配列番号82)の軽鎖(CDR L)1アミノ酸配列;
(e)AATFLAD(配列番号63)のCDR L2アミノ酸配列;及び
(f)QHYYSTPYT(配列番号64)のCDR L3アミノ酸配列
を含む軽鎖可変領域とを含む。
【0028】
ある態様では、マスキング部分は、
(a)SYGVS(配列番号58)の重鎖相補性決定領域(CDR H)1アミノ酸配列;
(b)WINTETGEPRYTQGFKG(配列番号86)のCDR H2アミノ酸配列;
(c)GITTVVDDYYAMDY(配列番号60)のCDR H3アミノ酸配列
を含む重鎖可変領域と、
(d)KSSKSVSTSSYSYMH(配列番号82)の軽鎖(CDR L)1アミノ酸配列;
(e)AATFLAD(配列番号63)のCDR L2アミノ酸配列;及び
(f)QHYYSTPYT(配列番号64)のCDR L3アミノ酸配列
を含む軽鎖可変領域とを含む。
【0029】
ある態様では、プロテアーゼ切断可能リンカーは、少なくとも1つのプロテアーゼ認識配列を含む。
【0030】
ある態様では、プロテアーゼ認識配列は、
(a)RQARVVNG(配列番号100);
(b)VHMPLGFLGPGRSRGSFP(配列番号101);
(c)RQARVVNGXXXXXVPLSLYSG(配列番号102);
(d)RQARVVNGVPLSLYSG(配列番号103);
(e)PLGLWSQ(配列番号104);
(f)VHMPLGFLGPRQARVVNG(配列番号105);
(g)FVGGTG(配列番号106);
(h)KKAAPVNG(配列番号107);
(i)PMAKKVNG(配列番号108);
(j)QARAKVNG(配列番号109);
(k)VHMPLGFLGP(配列番号110);
(l)QARAK(配列番号111);
(m)VHMPLGFLGPPMAKK(配列番号112);
(n)KKAAP(配列番号113);及び
(o)PMAKK(配列番号114)
から成る群より選択され、Xは任意のアミノ酸である。
【0031】
ある態様において、プロテアーゼ切断可能リンカーは、プロテアーゼ認識配列PMAKK(配列番号114)を含む。
【0032】
ある態様では、第2の抗原結合部分は、FolR1に結合することができ、且つ、
a)NAWMS(配列番号54)の重鎖相補性決定領域(CDR H)1アミノ酸配列;
b)RIKSKTDGGTTDYAAPVKG(配列番号55)のCDR H2アミノ酸配列;及び
c)PWEWSWYDY(配列番号56)のCDR H3アミノ酸配列
を含む重鎖可変領域と、
d)GSSTGAVTTSNYAN(配列番号20)の軽鎖(CDR L)1アミノ酸配列;
e)GTNKRAP(配列番号21)のCDR L2アミノ酸配列;及び
(f)ALWYSNLWV(配列番号22)のCDR L3アミノ酸配列
を含む軽鎖可変領域とを含む。
【0033】
ある態様では、第2の抗原結合部分は、TYRP1に結合することができ、且つ、
a)DYFLH(配列番号24)の重鎖相補性決定領域(CDR H)1アミノ酸配列;
b)WINPDNGNTVYAQKFQG(配列番号25)のCDR H2アミノ酸配列;及び
c)RDYTYEKAALDY(配列番号26)のCDR H3アミノ酸配列
を含む重鎖可変領域と、
d)RASGNIYNYLA(配列番号28)の軽鎖(CDR L)1アミノ酸配列;
e)DAKTLAD(配列番号29)のCDR L2アミノ酸配列;及び
f)QHFWSLPFT(配列番号30)のCDR L3アミノ酸配列
を含む軽鎖可変領域とを含む:。
【0034】
別の態様では、提供されるのは、
(a)DYSMN(配列番号58)の重鎖相補性決定領域(CDR H)1アミノ酸配列;
(b)WINTETGEPRYTDDFKG(配列番号59)、WINTETGEPRYTDDFTG(配列番号84)、及びWINTETGEPRYTQGFKG(配列番号86)から成る群より選択されるCDR H2アミノ酸配列;
(c)EGDYDVFDY(配列番号60)のCDR H3アミノ酸配列
を含む重鎖可変領域と、
(d)RASKSVSTSSYSYMH(配列番号62)及びKSSKSVSTSSYSYMH(配列番号82)から成る群より選択される軽鎖(CDR L)1アミノ酸配列;
(e)YVSYLES(配列番号63)のCDR L2アミノ酸配列;並びに
(f)QHSREFPYT(配列番号64)及びQQSREFPYT(配列番号88)から成る群より選択されるCDR L3アミノ酸配列
を含む軽鎖可変領域とを含む、分子の抗CD3抗原結合部位を可逆的に隠すためのイディオタイプ特異的ポリペプチドである。
【0035】
ある態様では、イディオタイプ特異的ポリペプチドは、
(a)DYSMN(配列番号58)の重鎖相補性決定領域(CDR H)1アミノ酸配列;
(b)WINTETGEPRYTDDFKG(配列番号59)のCDR H2アミノ酸配列;
(c)EGDYDVFDY(配列番号60)のCDR H3アミノ酸配列
を含む重鎖可変領域と、
(d)RASKSVSTSSYSYMH(配列番号62)の軽鎖(CDR L)1アミノ酸配列;
(e)YVSYLES(配列番号63)のCDR L2アミノ酸配列;並びに
(f)QHSREFPYT(配列番号64)のCDR L3アミノ酸配列
を含む軽鎖可変領域とを含む。
【0036】
ある態様では、イディオタイプ特異的ポリペプチドは、
(a)SYGVS(配列番号58)の重鎖相補性決定領域(CDR H)1アミノ酸配列;
(b)IIWGDGSTNYHSALIS(配列番号59)のCDR H2アミノ酸配列;
(c)GITTVVDDYYAMDY(配列番号60)のCDR H3アミノ酸配列
を含む重鎖可変領域と、
(d)KSSKSVSTSSYSYMH(配列番号82)の軽鎖(CDR L)1アミノ酸配列;
(e)AATFLAD(配列番号63)のCDR L2アミノ酸配列;及び
(f)QHYYSTPYT(配列番号64)のCDR L3アミノ酸配列
を含む軽鎖可変領域とを含む。
【0037】
ある態様では、イディオタイプ特異的ポリペプチドは、
(a)SYGVS(配列番号58)の重鎖相補性決定領域(CDR H)1アミノ酸配列;
(b)WINTETGEPRYTDDFTG(配列番号84)のCDR H2アミノ酸配列;
(c)GITTVVDDYYAMDY(配列番号60)のCDR H3アミノ酸配列
を含む重鎖可変領域と、
(d)KSSKSVSTSSYSYMH(配列番号82)の軽鎖(CDR L)1アミノ酸配列;
(e)AATFLAD(配列番号63)のCDR L2アミノ酸配列;及び
(f)QHYYSTPYT(配列番号64)のCDR L3アミノ酸配列
を含む軽鎖可変領域とを含む。
【0038】
ある態様では、イディオタイプ特異的ポリペプチドは、
(a)SYGVS(配列番号58)の重鎖相補性決定領域(CDR H)1アミノ酸配列;
(b)WINTETGEPRYTQGFKG(配列番号86)のCDR H2アミノ酸配列;
(c)GITTVVDDYYAMDY(配列番号60)のCDR H3アミノ酸配列
を含む重鎖可変領域と、
(d)KSSKSVSTSSYSYMH(配列番号82)の軽鎖(CDR L)1アミノ酸配列;
(e)AATFLAD(配列番号63)のCDR L2アミノ酸配列;及び
(f)QHYYSTPYT(配列番号64)のCDR L3アミノ酸配列
を含む軽鎖可変領域とを含む。
【0039】
ある態様では、イディオタイプ特異的ポリペプチドは、抗イディオタイプscFvである。
【0040】
ある態様では、イディオタイプ特異的ポリペプチドは、リンカーを介して分子に共有結合される。
【0041】
ある態様では、リンカーは、ペプチドリンカーである。
【0042】
ある態様では、ンカーは、プロテアーゼ切断可能リンカーである。
【0043】
ある態様では、ペプチドリンカーは、少なくとも1つのプロテアーゼ認識部位を含む。
【0044】
ある態様では、プロテアーゼ認識配列は、
(a)RQARVVNG(配列番号100);
(b)VHMPLGFLGPGRSRGSFP(配列番号101);
(c)RQARVVNGXXXXXVPLSLYSG(配列番号102);
(d)RQARVVNGVPLSLYSG(配列番号103);
(e)PLGLWSQ(配列番号104);
(f)VHMPLGFLGPRQARVVNG(配列番号105);
(g)FVGGTG(配列番号106);
(h)KKAAPVNG(配列番号107);
(i)PMAKKVNG(配列番号108);
(j)QARAKVNG(配列番号109);
(k)VHMPLGFLGP(配列番号110);
(l)QARAK(配列番号111);
(m)VHMPLGFLGPPMAKK(配列番号112);
(n)KKAAP(配列番号113);及び
(o)PMAKK(配列番号114)
から成る群より選択され、Xは任意のアミノ酸である。
【0045】
ある態様において、プロテアーゼ切断可能リンカーは、プロテアーゼ認識配列PMAKK(配列番号114)を含む。
【0046】
ある態様では、イディオタイプ特異的ポリペプチドは、T細胞活性化二重特異性分子の一部である。
【0047】
別の態様では、提供されるのは、前述のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子又は前述のイディオタイプ特異的ポリペプチドと薬学的に許容される担体とを含む薬学的組成物である。
【0048】
別の態様では、提供されるのは、前述のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性抗原結合分子又は前述のイディオタイプ特異的ポリペプチドをコードする単離ポリヌクレオチドである。
【0049】
ある態様では、提供されるのは、前述のポリヌクレオチドを含むベクター、特に発現ベクターである。
【0050】
ある態様では、提供されるのは、前述のポリヌクレオチド又は前述のベクターを含む宿主細胞である。
【0051】
別の態様では、提供されるのは、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子を製造する方法であって、a)前述の宿主細胞をプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子の発現に適した条件下で培養する工程と、b)プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子を回収する工程とを含む、方法である。
【0052】
別の態様では、提供されるのは、医薬としての使用のための、前述のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子、前述のイディオタイプ特異的ポリペプチド又は前述の薬学的組成物である。
【0053】
ある態様では、上記医薬は、個体におけるがんの治療若しくは進行の遅延、免疫関連疾患の治療若しくは進行の遅延又は免疫応答若しくは機能の向上若しくは刺激のためのものである。
【0054】
別の態様では、提供されるのは、疾患の治療のための医薬の製造のための、前述のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子又は前述のイディオタイプ特異的ポリペプチドの使用である。
【0055】
ある態様では、上記疾患はがんである。
【0056】
別の態様では、提供されるのは、個体における疾患の治療方法であって、前述のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子を含む治療的有効量の組成物を前記個体に投与することを含む方法である。
【0057】
ある態様では、この方法は、個体におけるがんの治療若しくは進行の遅延、免疫関連疾患の治療若しくは進行の遅延又は免疫応答若しくは機能の向上若しくは刺激のためのものである。
【図面の簡単な説明】
【0058】
図1A-F】図1は、本発明の(多重特異性)抗体の例示的な立体構造を示す。(A、D)「1+1 CrossMab」分子の図。(B、E)別の順序でCrossfab及びFab構成要素を有する(「反転型」)「2+1 IgG Crossfab」分子の図。(C、F)「2+1 IgG Crossfab」分子の図。
図1G-N】(G、K)別の順序でCrossfab及びFab構成要素を有する(「反転型」)「1+1 IgG Crossfab」分子の図。(H、L)「1+1 IgG Crossfab」分子の図。(I、M)2つのCrossFabを有する「2+1 IgG Crossfab」分子の図。(J、N)2つのCrossFabと別の順序でCrossfab及びFab構成要素とを有する(「反転型」)「2+1 IgG Crossfab」分子の図。
図1O-V】(O、S)「Fab-Crossfab」分子の図。(P、T)「Crossfab-Fab」分子の図。(Q、U)「(Fab)-Crossfab」分子の図。(R、V)「Crossfab-(Fab)」分子の図。
図1W-Z】(W、Y)「Fab-(Crossfab)」分子の図。(X、Z)「(Crossfab)-Fab」分子の図。黒点:ヘテロ二量体化を促進するFcドメインにおける任意の修飾。++、--:CH1ドメイン及びCLドメインにおいて任意選択で導入された反対電荷のアミノ酸。Crossfab分子は、VH領域とVL領域の交換を含むように描かれているが、CH1ドメイン及びCLドメインに電荷修飾が導入されていない態様においては、代替的に、CH1ドメインとCLドメインの交換を含む。
図2A-E】(A)実施例で用いたT細胞二重特異性抗体(TCB)分子の模式図。試験したTCB抗体分子は全て、電荷修飾(CD3バインダーのVH/VL交換、標的細胞抗原バインダーの電荷修飾、EE=147E、213E;RK=123R、124K)を伴う「2+1 IgG CrossFab、反転型」として作製された。(B-E)TCBのアセンブリのための構成要素:CH1及びCLに電荷修飾を伴う抗TYRP1 Fab分子の軽鎖(B)、抗CD3クロスオーバーFab分子の軽鎖(C)、Fc領域にノブ及びPG LALA変異を伴う重鎖(D)、Fc領域にホール及びPG LALA変異を伴う重鎖(E)。
図3】実施例3で使用した表面プラズモン共鳴(SPR)設定の模式図。C1センサーチップに結合させた抗PG抗体。その表面にヒト及びカニクイザルのCD3(Fc領域に融合)を通過させ、TCB内での抗CD3抗体とCD3との相互作用を分析する。
図4A-B】最適化抗CD3抗体を含有するTCBを、標的細胞としてCHO-K1 TYRP1クローン76を用いるJurkat NFATレポーターアッセイで試験した。CD3origを含有するTCBと比較した。Jurkat NFATレポーター細胞の活性化は、処理から4時間後(A)と24時間後(B)の発光を測定することにより決定された。
図5A-B】健常ドナーからのPBMCを用いた黒色腫細胞株M150543の腫瘍細胞死滅は、最適化抗CD3抗体又は親バインダーCD3origのいずれかを含むTCBで処理したときに評価された。腫瘍細胞死滅は、24時間後(A)及び48時間(B)後のLDH放出の定量化により評価された。
図6A-D】CD8 T細胞(A、B)及びCD4 T細胞(C、D)上のCD25及びCD69アップレギュレーションを、標的細胞としてM150543黒色腫細胞株の存在下で、最適化抗CD3抗体又は親バインダーCD3origのいずれかを含有するTCBで処理した健常ドナーからのPBMCについて分析した。48時間後にフローサイトメトリーにより分析を行った。
図7A-B】CD8(A)及びCD4 T細胞(B)上のCD25発現を、腫瘍標的細胞の非存在下で、最適化抗CD3抗体又は親バインダーCD3origのいずれかを含有するTCBで処理した健常ドナーからのPBMCについて分析した。48時間後にフローサイトメトリーにより分析を行った。
図8A-D】(A)実施例19で作製された一価IgG分子の模式図。この一価IgG分子は、CD3バインダーにVH/VL交換を伴うヒトIgGとして製造された。(B-E)一価IgGのアセンブリのための構成要素:抗CD3クロスオーバーFab分子の軽鎖(B)、Fc領域にノブ及びPG LALA変異を有する重鎖(C)、Fc領域にホール及びPG LALA変異を有する重鎖(D)。
図9A-C】(A):(G4S)2リンカー(L1)を介して内側のFOLR1 FabのVHに融合されたCD3 Fabを持つ古典的な2+1 TCB分子。ノブ・イントゥ・ホール技術によるヘテロ二量体化、FcのPGLALA変異。(B):CD3抗イディオタイプscFv(VH-VL方向)がCD3 VHに融合されているFOLR1 proTCB。リンカー(L2;合計33 aa)には、特定のプロテアーゼ切断可能配列が含まれている。scFv のVHとVLの間の(G4S)4リンカー(L3)。(C):Bと同じproTCBだが、scFvとCD3 Fabの間のリンカーにプロテアーゼ切断部位がない。分子中の軽鎖は、各Fabで同一である(共通軽鎖)。
図10A-E】(A):異なるCD3バインダーを含むTYRP1 TCBによって媒介されるJurkat NFAT活性化。異なるCD3バインダーを含むTYRP1 TCBによって媒介されるJurkat NFAT活性化を示す。TYRP1 TCB(先のアッセイで決定したEC90濃度で使用)をTYRP1陽性標的細胞(CHO-huTYRP1クローン76)及びJurkat NFATエフェクター細胞(E:T 2.5:1)と共に37℃で22時間インキュベートした。点線は、TCBなしで標的細胞とインキュベートしたJurkatのNFAT活性化を示す。DP47非標的化TCBをネガティブコントロールとして使用した。各点は3連の平均を表す。標準偏差はエラーバーで示す。(B):TYRP1 TCBによって媒介されるJurkat NFAT活性化の減少により測定された抗イディオタイプ4.24.72 IgGのブロッキング能。異なるCD3バインダーを含むTYRP1 TCBによって媒介されるJurkat NFAT活性化を示す。TYRP1 TCB(先のアッセイで決定したEC90濃度で使用)をTYRP1陽性標的細胞(CHO-huTYRP1クローン76)及びJurkat NFATエフェクター細胞(E:T 2.5:1)と共に37℃で22時間インキュベートした。抗イディオタイプ(抗ID)4.24.72 IgGによるCD3バインダーの用量依存的なブロッキングを示す。各点は3連の平均を表す。標準偏差はエラーバーで示す。点線は、TCBなしで標的細胞とインキュベートしたJurkatのNFAT活性化を示す。DP47非標的化TCBをネガティブコントロールとして使用した。EC50値の計算では、非線形フィット「log(agonist)vs.反応--可変傾斜(4パラメーター)」を計算した(GraphPad Prism6)。(C):TYRP1 TCBによって媒介されるJurkat NFAT活性化の減少により測定された抗ID4.32.63 IgGのブロッキング能。異なるCD3バインダーを含むTYRP1 TCBによって媒介されるJurkat NFAT活性化を示す。TYRP1 TCB(先のアッセイで決定したEC90濃度で使用)をTYRP1陽性標的細胞(CHO-huTYRP1クローン76)及びJurkat NFATエフェクター細胞(E:T 2.5:1)と共に37℃で22時間インキュベートした。抗イディオタイプ4.32.63 IgGによるCD3バインダーの用量依存的なブロッキングを示す。各点は3連の平均を表す。標準偏差はエラーバーで示す。点線は、TCBなしで標的細胞とインキュベートしたJurkatのNFAT活性化を示す。DP47非標的化TCBをネガティブコントロールとして使用した。EC50値の計算では、非線形フィット「log(agonist)vs.反応--可変傾斜(4パラメーター)」を計算した(GraphPad Prism6)。(D):TYRP1 TCBによって媒介されるJurkat NFAT活性化の減少により測定された抗ID4.15.64 IgGのブロッキング能。異なるCD3バインダーを含むTYRP1 TCBによって媒介されるJurkat NFAT活性化を示す。TYRP1 TCB(先のアッセイで決定したEC90濃度で使用)をTYRP1陽性標的細胞(CHO-huTYRP1クローン76)及びJurkat NFATエフェクター細胞(E:T 2.5:1)と共に37℃で22時間インキュベートした。抗イディオタイプ4.15.64 IgGによるCD3バインダーの用量依存的なブロッキングを示す。各点は3連の平均を表す。標準偏差はエラーバーで示す。点線は、TCBなしで標的細胞とインキュベートしたJurkatのNFAT活性化を示す。DP47非標的化TCBをネガティブコントロールとして使用した。EC50値の計算では、非線形フィット「log(agonist)vs.反応--可変傾斜(4パラメーター)」を計算した(GraphPad Prism6)。(E):TYRP1 TCBによって媒介されるJurkat NFAT活性化の減少により測定された抗ID 4.21 IgGのブロッキング能。異なるCD3バインダーを含むTYRP1 TCBによって媒介されるJurkat NFAT活性化を示す。TYRP1 TCB(先のアッセイで決定したEC90濃度で使用)をTYRP1陽性標的細胞(CHO-huTYRP1クローン76)及びJurkat NFATエフェクター細胞(E:T 2.5:1)と共に37℃で22時間インキュベートした。抗イディオタイプ4.21 IgGによるCD3バインダーの用量依存的なブロッキングを示す。各点は3連の平均を表す。標準偏差はエラーバーで示す。点線は、TCBなしで標的細胞とインキュベートしたJurkatのNFAT活性化を示す。DP47非標的化TCBをネガティブコントロールとして使用した。EC50値の計算では、非線形フィット「log(agonist)vs.反応--可変傾斜(4パラメーター)」を計算した(GraphPad Prism6)。
図11A】(A):異なるCD3バインダーを含むFOLR1 TCB又はFOLR1 pro-TCBによって媒介されるJurkat NFAT活性化を示す。FOLR1(pro-)TCBを、huFOLR1でコートしたビーズ及びJurkat NFATエフェクター細胞と共に37℃で5-時間インキュベートした。抗IDマスク4.24.72を含むFOLR1 pro-TCBは、表示の濃度範囲ではJurkat NFATの活性化を媒介しない。但し、FOLR1 TCBは用量依存的にJurkatのNFAT活性化を媒介する。各点は3連の平均を表す。標準偏差はエラーバーで示す。点線は、TCBなしで標的細胞とインキュベートしたJurkatのNFAT活性化を示す。
図11B】(B):huPBMCs、TCB及びFOLR1陽性標的細胞(E:T=10:1、エフェクターはヒトPBMC)を48時間培養した後、用量依存的標的細胞死滅(FOLR1発現が非常に高いHeLa細胞)を測定した。FOLR1 TCB及び活性化FOLR1 pro-TCBは、約0.29pMのEC50で用量依存的な標的細胞死滅を誘導する。非切断性リンカーを含むマスクされたFOLR1 pro-TCB(CD3 P035.093、マスク4.24.72 scFv)は、EC50値を比較すると、標的細胞溶解が約239分の1に減少している。各点は3連の平均を表す。標準偏差はエラーバーで示す。点線は、TCBなしでhuPBMCとインキュベートした標的細胞の自然放出を示す。EC50値の計算では、非線形フィット「log(agonist)vs.反応--可変傾斜(4パラメーター)」を計算した(GraphPad Prism6)。
図11C-D】(C):CD8 T細胞の用量依存的なT細胞活性化は、CD69の定量化により分析された。CD69の蛍光強度の中央値を、CD8陽性T細胞についてブロットした。標的細胞(FOLR1発現が非常に高いHeLa細胞)をhuPBMC及びTCBと共に37℃で48時間インキュベートした(E:T=10:1、エフェクターはヒトPBMC)。FOLR1 TCB及び活性化FOLR1 pro-TCBは、用量依存的にT細胞活性化を誘導する。非切断性リンカーを含むマスクされた FOLR1 pro-TCB(CD3 P035.093、マスク4.24.72 scFv)は、表示の濃度範囲でT細胞の活性化(CD8 T細胞についてはCD69)を示さない。各点は3連の平均を表す。標準偏差はエラーバーで示す。EC50値の計算では、非線形フィット「log(agonist)vs.反応--可変傾斜(4パラメーター)」を計算した(GraphPad Prism6)。(D):CD8 T細胞の用量依存的なT細胞活性化は、CD69の定量化により測定された。CD69陽性CD8 T細胞のパーセンテージを示す。標的細胞(FOLR1発現が非常に高いHeLa細胞)をhuPBMC及びTCBと共に37℃で48時間インキュベートした(E:T=10:1、エフェクターはヒトPBMC)。FOLR1 TCB及び活性化FOLR1 pro-TCBは、用量依存的にT細胞活性化を誘導する。非切断性リンカーを含むマスクされたFOLR1 pro-TCB(CD3 P035.093、マスク4.24.72 scFv)は、表示の濃度範囲でT細胞の活性化(CD8 T細胞についてはCD69)の減少を示す。但し、5nMから開始して、ここで使用した最高濃度の約30%まで増加するいくつかのCD69陽性CD8 T細胞を検出できた。各点は3連の平均を表す。標準偏差はエラーバーで示す。EC50値の計算では、非線形フィット「log(agonist)vs.反応--可変傾斜(4パラメーター)」を計算した(GraphPad Prism6)。
図12A-B】(A):CD3 P035.093を用いたpro-TCBフォーマットでの抗ID 4.24.72のマスキング効率を分析するために、huPBMCを48時間インキュベートした後に用量依存性の標的細胞死滅(FOLR1高発現のHela、FOLR1中発現のOvcar-3及びSkov-3、FOLR1低発現のHT-29)を測定した。TCB及びFOLR1陽性標的細胞(E:T=10:1、エフェクターはヒトPBMC)。FOLR1 TCBは全ての細胞株(Hela、Skov-3、Ovcar-3)で用量依存的な標的細胞死滅を誘導するが、マスクされたFOLR1 pro-TCBは標的細胞死滅の減少を示す。(B):用量依存的な標的細胞死滅(FOLR1中発現のSkov-3とFOLR1低発現のHT-29)は、huPBMCを48時間培養した後に測定した(E:T=10:1)。FOLR1 TCBは両方の細胞株(Skov-3、HT-29)で用量依存的な標的細胞死滅を誘導するが、マスクされたFOLR1 pro-TCBは標的細胞死滅の減少を示す。各点は3連の平均を表す。標準偏差はエラーバーで示す。点線は、TCBなしでhuPBMCとインキュベートした標的細胞の自然放出を示す。EC50値の計算では、非線形フィット「log(agonist)vs.反応--可変傾斜(4パラメーター)」を計算した(GraphPad Prism6)。
図13】抗イディオタイプマスク4.24.72のヒト化バリアントのワンアームIgGのフォーマット。ヘテロ二量体化は、ノブ・イン・トゥー・ホール技術を用いて達成される。
図14A-B】異なるCD3バインダーを含むTYRP1 TCBによって媒介されるJurkat NFAT活性化を示す。TYRP1 TCB(先のアッセイで決定したEC90濃度で使用)をTYRP1陽性標的細胞(M150543)及びJurkat NFATエフェクター細胞(E:T 2.5:1)と共に37℃で5時間インキュベートした。CD3 CH2527(図14A)及びCD3 P035.093(図14B)について、抗イディオタイプ(抗ID)4.24.72 IgG(親及びヒト化バリアント)によるCD3バインダーの用量依存的ブロッキングを示している。各点は3連の平均を表す。標準偏差はエラーバーで示す。EC50値の計算では、非線形フィット「log(agonist)vs.反応--可変傾斜(4パラメーター)」を計算した(GraphPad Prism6)。
図15A-C】(A):CD3 P035.093を用いたpro-TCBフォーマットでの抗ID 4.24.72のヒト化バリアントのマスキング効率を分析するために、huPBMCを48時間インキュベートした後に用量依存性の標的細胞死滅(FOLR1中発現のOvcar-3)を測定した。TCB及びFOLR1陽性標的細胞(E:T=10:1、エフェクターはヒトPBMC)。FOLR1 TCBはOvcar-3細胞で用量依存的な標的細胞死滅を誘導するが、マスクされたFOLR1 pro-TCBは標的細胞死滅の減少を示す。(B)及び(C):CD8 T細胞の用量依存的なT細胞活性化は、CD69の定量化により測定された。CD69陽性CD8 T細胞のパーセンテージ(図15B)及び蛍光強度中央値(図15C)が示されている。標的細胞(FOLR1中発現のOvcar-3細胞)をhuPBMC及びTCBと共に37℃で48時間インキュベートした(E:T=10:1、エフェクターはヒトPBMC)。FOLR1 TCBは、用量依存的なT細胞活性化を誘導する。非切断性リンカーを含むマスクされたFOLR1 pro-TCB(CD3 P035.093、マスク4.24.72 scFvのヒト化バリアント)は、表示の濃度範囲でT細胞の活性化(CD8 T細胞についてはCD69)の減少を示す。T細胞活性化については、ヒト化バリアントでマスキング効率の違いは検出できなかった。各点は3連の平均を表す。標準偏差はエラーバーで示す。EC50値の計算では、非線形フィット「log(agonist)vs.反応--可変傾斜(4パラメーター)」を計算した(GraphPad Prism6)。
図16A図16は、ヒト化マスキング部分を有する異なるプロテアーゼ活性化可能FolR1 TCB分子の模式図である。図16A:共通軽鎖を有する抗CD3 P035.093 マスクscFv H1L1 マトリプターゼ部位 抗FolR1 16D5 P329G LALA 2+1 Fc(ホール) Fc(ノブ)、配列番号95、66、67。
図16B図16B:共通軽鎖を有する抗CD3 P035.093 マスクscFv H1L2 マトリプターゼ部位 抗FolR1 16D5 P329G LALA 2+1 Fc(ホール) Fc(ノブ)、配列番号96、66、67。
図16C図16C:共通軽鎖を有する抗CD3 P035.093 マスクscFv H2L2 マトリプターゼ部位 抗FolR1 16D5 P329G LALA 2+1 Fc(ホール) Fc(ノブ)、配列番号97、66、67。
図16D図16D:共通軽鎖を有する抗CD3 P035.093 マスクscFv H3L2 マトリプターゼ部位 抗FolR1 16D5 P329G LALA 2+1 Fc(ホール) Fc(ノブ)、配列番号98、66、67。
【発明を実施するための形態】
【0059】
定義
ここでの用語は、以下で別途定義されない限り、当技術分野で一般的に使用されるように使用される。
【0060】
本明細書で使用される場合、用語「抗原結合分子」は、その最も広い意味で、抗原決定基に特異的に結合する分子を指す。抗原結合分子の例は、免疫グロブリン及び誘導体、例えばそれらの断片である。
【0061】
用語「二重特異性」とは、抗原結合分子が少なくとも2つの異なる抗原決定基に特異的に結合することができることを意味する。典型的には、二重特異性抗原結合分子は2つの抗原結合部位を含み、それらの各々が異なる抗原決定基に対して特異的である。特定の実施態様では、二重特異性抗原結合分子は、2つの抗原決定基、特に2つの別個の細胞上に発現した2つの抗原決定基に同時に結合することができる。
【0062】
本明細書で使用される用語「価」は、特定数の抗原結合部位が抗原結合分子内に存在することを示すものである。したがって、「抗原への一価の結合」という用語は、抗原に特異的な1つの(且つ1つまで)抗原結合部位が抗原結合分子内に存在することを示すものである。
【0063】
「抗原結合部位」は、抗原との相互作用をもたらす抗原結合分子の部位、すなわち1又は複数のアミノ酸残基を指す。例えば、抗体の抗原結合部位は、相補性決定領域(CDR)のアミノ酸残基を含む。天然免疫グロブリン分子は、典型的には2つの抗原結合部位を有し、Fab分子は、典型的には単一の抗原結合部位を有する。
【0064】
本目明細書で使用される用語「抗原結合部分」は、抗原決定基に特異的に結合するポリペプチド分子を指す。ある実施態様では、抗原結合部分は、それが結合する実体(例えば、第2の抗原結合部分)を標的部位へ、例えば特定の型の腫瘍細胞又は抗原決定基を有する腫瘍間質へと方向付けることができる。別の実施態様では、抗原結合部分は、その標的抗原、例えばT細胞受容体複合抗原を通して、シグナル伝達を活性化することができる。抗原結合部分には、抗体及びその断片が含まれる。これについては後述する。特定の抗原結合部分には、抗体重鎖可変領域及び抗体軽鎖可変領域を含む、抗体の抗原結合ドメインが含まれる。特定の実施態様では、抗原結合部分は、本明細書で更に定義され、且つ当技術分野において既知である抗体定常領域を含み得る。有用な重鎖定常領域には、5つのアイソタイプ:α、δ、ε、γ又はμのいずれかが含まれる。有用な軽鎖定常領域には、2つのアイソタイプ:κ及びλのいずれかが含まれる。
【0065】
本明細書で使用される場合、用語「抗原決定基」は「抗原」及び「エピトープ」と同義であり、抗原結合部分が結合して抗原結合部分-抗原複合体を形成する、ポリペプチド高分子上の部位(例えばアミノ酸の連続ストレッチ又は非連続アミノ酸の異なる領域から構成される立体構造(conformational configuration)を指す。有用な抗原決定基は、例えば、腫瘍細胞の表面上に、ウイルス感染細胞の表面上に、その他の疾患細胞の表面上に、免疫細胞の表面上に、血清中で遊離した状態で、及び/又は細胞外マトリックス(ECM)中に見出すことができる。特に断らない限り、本明細書において抗原と呼ばれるタンパク質(例えばFolR1、HER1、HER2、CD3、メソテリン)は、霊長類(例えばヒト)及びげっ歯類(例えばマウス及びラット)などの哺乳動物を含む任意の脊椎動物源由来のタンパク質の天然型を指す。特定の実施態様では、抗原はヒトタンパク質である。本明細書において特定のタンパク質が言及される場合、その用語は、「完全長」、未処理のタンパク質だけではなく、細胞内でのプロセシングから生じる任意の形態のタンパク質を包含する。また、その用語は、天然に存在するタンパク質バリアント、例えば、スプライスバリアント又は対立遺伝子バリアントも包含する。抗原として有用なヒトタンパク質の例としては、限定されないが、FolR1、HER1及びCD3、特にCD3のイプシロンサブユニット(ヒト配列についてUniProt no.P07766(バージョン130)、NCBI RefSeq no.Np_000724.1、配列番号54を;又はカニクイザル[Macaca fascicularis]配列についてはUniProt no.Q95LI5(バージョン49)、NCBI GenBank no.BAB71849.1を参照)が挙げられる。特定の実施態様では、本発明のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、様々な種由来のCD3又は標的抗原の間で保存されているCD3又は標的細胞抗原のエピトープに結合する。特定の実施態様では、本発明のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、CD3及びFolR1に結合するが、FolR2又はFolR3には結合しない。特定の実施態様では、本発明のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、CD3及びHER1に結合する。特定の実施態様では、本発明のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、CD3及びメソテリンに結合する。特定の実施態様では、本発明のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、CD3及びHER2に結合する。「特異的結合」とは、結合が抗原について選択的であり、望ましくない又は非特異的な相互作用とは区別可能であることを意味する。抗原結合部分の、特定の抗原決定基への結合能は、酵素結合免疫吸着法(ELISA)又は当業者によく知られた他の技術、例えば表面プラズモン共鳴(SPR)技術(BIAcore機器での分析)(Liljeblad et al.,Glyco J 17,323-329(2000))及び古典的な結合アッセイ(Heeley,Endocr Res 28,217-229(2002))により測定することができる。ある実施態様では、抗原結合部分の無関係なタンパク質への結合の程度は、例えばSPRによって測定した場合、抗原結合部分の抗原への結合の約10%未満である。特定の実施態様では、抗原に結合する抗原結合部分、又は抗原結合部分を含む抗原結合分子は、≦1μM、≦100nM、≦10nM,、≦1nM、≦0.1nM、≦0.01nM又は≦0.001nM(例えば10-8M以下、例えば10-8Mから10-13M、例えば10-9Mから10-13M)の解離定数(K)を有する。
【0066】
「親和性」は、分子(例えば受容体)の単一結合部位とその結合パートナー(例えばリガンド)との間の非共有結合的相互作用の総和の強度を指す。特に断らない限り、本明細書で使用する「結合親和性」とは、結合対(例えば、抗原結合部位と抗原、又は受容体とそのリガンド)のメンバー間の1対1の相互作用を反映する、固有の結合親和性を指す。分子Xの、そのパートナーYに対する親和性は、通常、解離定数(K)で表され、この解離定数(K)は、解離速度定数と会合速度定数(それぞれ、koff及びkon)の比である。したがって、速度定数の比が同じままである限り、同等の親和性は異なる速度定数を含んでもよい。親和性は、本明細書に記載のものを含む当技術分野で既知の確立された方法により測定することができる。親和性を測定するための特定の方法は、表面プラズモン共鳴(SPR)である。
【0067】
「結合の低下」、例えばFc受容体への結合の低下は、例えばSPRで測定される、それぞれの相互作用の親和性の低下を指す。明確性のために、本用語はまた、親和性のゼロ(又は分析方法の検出限界を下回る)までの低下、すなわち相互作用の完全な終止も含む。逆に、「結合の増大」は、それぞれの相互作用の結合親和性の上昇を指す。
【0068】
本明細書で使用する「T細胞活性化」は、Tリンパ球、特に細胞傷害性Tリンパ球の、増殖、分化、サイトカイン分泌、細胞傷害性エフェクター分子の放出、細胞傷害性活性、及び活性化マーカーの発現から選択される1又は複数の細胞応答を指す。本発明のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、T細胞活性化を誘導することができる。T細胞活性化を測定するための適切なアッセイは、当技術分野で既知であり、本明細書に記載されている。
【0069】
「標的細胞抗原」は、本明細書で使用される場合、標的細胞、例えば、がん細胞又は腫瘍間質の細胞などの腫瘍内の細胞の表面に提示される抗原決定基を指す。
【0070】
本明細書で使用される場合、抗原結合部分などに関する「第1の」及び「第2の」という用語は、各タイプの部分が1つより多い場合に区別する便宜上、使用される。これら用語の使用は、明示的に記載されていない限り、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子の特定の順序又は方向を付与することを意図していない。
【0071】
「Fab分子」とは、免疫グロブリンの重鎖のVH及びCH1ドメイン(「Fab重鎖」)と軽鎖のVL及びCLドメイン(「Fab軽鎖」)とから成るタンパク質を指す。
【0072】
「融合した(される)」とは、構成要素(例えばFab分子とFcドメインサブユニット)が、直接的に又は1若しくは複数のペプチドリンカーを介して、ペプチド結合で連結されていることを意味する。
【0073】
本明細書において使用される用語「一本鎖」は、ペプチド結合により直線状に結合したアミノ酸単量体を含む分子を指す。特定の実施態様では、抗原結合部分の一方は、一本鎖Fab分子、すなわちFab軽鎖とFab重鎖がペプチドリンカーにより接続されて一本のペプチド鎖を形成しているFab分子である。このような特定の実施態様では、一本鎖Fab分子においてFab軽鎖のC末端がFab重鎖のN末端に接続されている。
【0074】
「クロスオーバー」Fab分子(「Crossfab」とも表記される)は、Fab重鎖と軽鎖の可変領域同士又は定常領域同士が交換されているFab分子を意味し、すなわち、クロスオーバーFab分子は、軽鎖可変領域と重鎖定常領域から構成されるペプチド鎖及び重鎖可変領域と軽鎖定常領域から構成されるペプチド鎖を含む。明確にするために、Fab軽鎖の可変ドメインとFab重鎖の可変ドメインが交換されているクロスオーバーFab分子において、重鎖定常領域を含むペプチド鎖を、本明細書ではクロスオーバーFab分子の「重鎖」と呼ぶ。逆に、Fab軽鎖の定常ドメインとFab重鎖の定常ドメインが交換されているクロスオーバーFab分子において、重鎖可変領域を含むペプチド鎖を、本明細書ではクロスオーバーFab分子の「重鎖」と呼ぶ。
【0075】
これに対して、「従来の」Fab分子とは、その天然フォーマットのFab分子、すなわち重鎖可変領域及び定常領域(VH-CH1)から構成される重鎖と、軽鎖可変領域及び定常領域(VL-CL)から構成される軽鎖とを含むFab分子を意味する。
【0076】
用語「免疫グロブリン分子」は、天然に存在する抗体の構造を有するタンパク質を指す。例えば、IgGクラスの免疫グロブリンは、ジスルフィド結合している2つの軽鎖及び2つの重鎖から構成される約150000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。N末端からC末端に、各重鎖は可変重鎖ドメイン又は重鎖可変ドメインとも呼ばれる可変領域(VH)を有し、その後に重鎖定常領域とも呼ばれる3つの定常ドメイン(CH1、CH2及びCH3)が続いている。同様に、N末端からC末端に、各軽鎖は可変軽鎖ドメイン又は軽鎖可変ドメインとも呼ばれる可変領域(VL)を有し、その後に、軽鎖定常領域とも呼ばれる定常軽鎖(CL)ドメインが続いている。免疫グロブリンの重鎖は、α(IgA)、δ(IgD)、ε(IgE)、γ(IgG)又はμ(IgM)と呼ばれる5種類のうちのいずれか1つに割り当てることができ、これらの種類のいくつかは、例えばγ(IgG)、γ(IgG)、γ(IgG)、γ(IgG)、α(IgA)及びα(IgA)などのサブタイプに更に分けることができる。免疫グロブリンの軽鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)とラムダ(λ)と呼ばれる2種類のうちのいずれか1つに割り当てることができる。免疫グロブリンは、免疫グロブリンのヒンジ領域を介して結合された、2つのFab分子とFcドメインとから実質的に成る。
【0077】
「抗体」という用語は、本明細書では最も広い意味で使用され、限定されないが、所望の抗原結合活性を示す限り、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、及び抗体断片を含めた、様々な抗体構造を包含する。
【0078】
「抗体断片」は、インタクトな抗体が結合する抗原に結合するインタクトな抗体の一部分を含む、インタクトな抗体以外の分子を指す。抗体断片の例には、限定されないが、Fv、Fab、Fab‘、Fab’-SHは、F(ab’)、ダイアボディ、直鎖状抗体、一本鎖抗体分子(例えばscFv)、及び単一ドメイン抗体が含まれる。特定の抗体断片の総説については、Hudson et al.Nat.Med.9:129-134(2003)を参照されたい。scFv断片の総説については、例えば、Pluckthun,The Pharmacology of Monoclonal Antibodies,vol.113,Rosenburg and Moore eds.,Springer-Verlag,New York,269-315頁(1994)を参照されたい。また、国際公開第93/16185号;並びに米国特許第5571894号及び同第5587458号も参照のこと。サルベージ受容体結合エピトープ残基を含み、且つin vivo半減期が増加したFab及びF(ab’)断片の議論については、米国特許第5869046号を参照のこと。「ダイアボディ」は、2つの抗原結合部位を有する抗体断片であり、二価であっても二重特異性であってもよい。例えば、EP404097号;国際公開第1993/01161号;Hudson et al.,Nat Med.9,129-134(2003);及びHollinger et al.,Proc Natl Acad Sci USA 90,6444-6448(1993)を参照。トリアボディ及びテトラボディもHudson et al.,Nat Med 9,129-134(2003)に記載されている。単一ドメイン抗体は、抗体の重鎖可変ドメインの全部若しくは一部又は軽鎖可変ドメインの全部若しくは一部を含む抗体断片である。特定の実施態様では、単一ドメイン抗体は、ヒト単一ドメイン抗体(Domantis社,マサチューセッツ州ウォルサム;例えば米国特許第6248516号参照)である。抗体断片は、本明細書に記載のように、組換え宿主細胞(例えば大腸菌又はファージ)による産生の他、インタクトな抗体のタンパク質消化を含むがこれらに限定されない種々の技術で作製することができる。
【0079】
用語「抗原結合ドメイン」は、抗原の一部又は全部に特異的に結合し且つ抗原の一部又は全部に相補的な領域を含む、抗体の部分を指す。抗原結合ドメインは、例えば、1又は複数の抗体可変ドメイン(抗体可変領域ともいう)によって提供されてもよい。特に、抗原結合ドメインは、抗体軽鎖可変ドメイン(VL)と抗体重鎖可変ドメイン(VH)とを含む。
【0080】
用語「可変領域」又は「可変ドメイン」は、抗体の抗原への結合に関与する抗体重鎖又は軽鎖のドメインを指す。天然抗体の重鎖及び軽鎖の可変ドメイン(それぞれVH、VL)は一般に、各ドメインが4つの保存されたフレームワーク領域(FR)と3つの超可変領域(HVR)とを含んでいる、類似の構造を有する。例えば、Kindt et al.,Kuby Immunology,6th ed.,W.H.Freeman and Co.,91頁(2007)を参照されたい。抗原結合特異性を付与するには、単一のVHドメイン又はVLドメインで十分である。
【0081】
本明細書で使用される用語「超可変領域」又は「HVR」は、配列が超可変であり、且つ/又は構造的に定義されたループ(「超可変ループ」)を形成する抗体可変ドメインの各領域を指す。一般に、天然の四鎖抗体は6つのHVR:VHに3つ(H1、H2、H3)、VLに3つ(L1、L2、L3)を含む。一般に、HVRは超可変ループの及び/又は相補性決定領域(CDR)のアミノ酸残基を含み、後者は配列可変性が最も高く、且つ/又は抗原認識に関与している。VHのCDR1を除き、CDRは一般に、超可変ループを形成するアミノ酸残基を含む。超可変領域(HVR)は、「相補性決定領域」(CDR)とも呼ばれ、本明細書では、抗原結合領域を形成する可変領域の部分に関して、これらの用語を互換的に使用する。この特定の領域は、Kabat et al.,U.S.Dept.of Health and Human Services,Sequences of Proteins of Immunological Interest(1983)及びChothia et al.,J Mol Biol 196:901-917(1987)に記載されており、これらにおける定義には、互いに比較した場合にアミノ酸残基の重複又はサブセットが含まれる。とはいえ、抗体又はそのバリアントのCDRを指すためにいずれかの定義を適用することは、本明細書で定義され使用される用語の範囲内にあることが意図される。上記引用文献の各々により定義されるCDRを包含する適切なアミノ酸残基を、比較として以下の表1に明記する。特定のCDRを包含する正確な残基番号は、CDRの配列と大きさに応じて変化するであろう。当業者であれば、抗体の可変領域アミノ酸配列があれば、どの残基が特定のCDRを含むかを日常的に決定することができる。
【0082】
表1.CDRの定義
表1のCDR定義の番号付けは全て、Kabatらが定めた番号付け規則に従っている(以下参照)。
表1で使用されている、「b」が小文字の「AbM」は、Oxford Molecularの「AbM」抗体モデリングソフトウエアによって定義されているCDRを指す。
【0083】
Kabatらは、あらゆる抗体に適用可能な可変領域配列の番号付けシステムも規定した。当業者であれば、配列自体以外の実験データに頼らなくとも、この「Kabat番号付け」のシステムを任意の可変領域配列に明確に割り当てることができる。本明細書で使用する場合、「Kabat番号付け」は、Kabatら、U.S.Dept.of Health and Human Services,“Sequence of Proteins of Immunological Interest”(1983)により規定された番号付けシステムを意味する。特に指定しない限り、抗体可変領域における特定のアミノ酸残基位置の番号付けへの言及は、Kabat番号付けシステムによるものである。
【0084】
配列表のポリペプチド配列は、Kabat番号付けシステムに従って番号付けされてたものではない。しかしながら、配列表の配列の番号付けをKabat番号付けに変換することは、十分に当業者の通常の技術の範囲内である。
【0085】
「フレームワーク」又は「FR」は、超可変領域(HVR)残基以外の可変ドメイン残基を指す。通常、可変ドメインのFRは4つのFRドメイン:FR1、FR2、FR3、FR4から成る。したがって、HVR配列及びFR配列は一般に、VH(又はVL)の次の配列:FR1-H1(L1)-FR2-H2(L2)-FR3-H3(L3)-FR4に現れる。
【0086】
抗体又は免疫グロブリンの「クラス」は、抗体又は免疫グロブリンの重鎖が有する定常ドメイン又は定常領域の種類を指す。抗体の主要なクラスにはIgA、IgD、IgE、IgG、及びIgMの5つがあり、これらのうちのいくつかはサブクラス(アイソタイプ)、例えばIgG、IgG、IgG、IgG、IgA、及びIgAに更に分けることができる。免疫グロブリンの異なるクラスに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれα、δ、ε、γ、μと呼ばれる。
【0087】
本明細書において用語「Fc領域」は、定常領域の少なくとも一部を含む、免疫グロブリン重鎖のC末端領域を指すのに用いられる。この用語は、天然配列Fc領域及びバリアントFc領域を包含する。ある態様において、ヒトIgG重鎖Fc領域は、重鎖のCys226から又はPro230からカルボキシル末端にまで及ぶ。しかしながら、宿主細胞によって産生された抗体は、重鎖のC末端から1又は複数(特に1又は2)のアミノ酸の翻訳後切断を受けることがある。したがって、完全長重鎖をコードする特定の核酸分子の発現によって宿主細胞が産生する抗体は、完全長重鎖を含んでいても、完全長重鎖の切断バリアントを含んでいてもよい。これは、重鎖の最後の2つのC末端アミノ酸がグリシン(G446)とリジン(K447、EU番号付けシステム)である場合に当てはまる。したがって、Fc領域のC末端リジン(Lys447)又はC末端グリシン(Gly446)及びリジン(Lys447)は、存在することもしないこともあり得る。Fc領域を含む重鎖のアミノ酸配列は、特に断らない限り、本明細書ではC末端グリシン-リジンジペプチドなしで示される。ある態様において、本発明による抗体に含まれる、本明細書に明記されたFc領域を含む重鎖は、更なるC末端グリシン-リジンジペプチド(G446及びK447、EU番号付けシステム)を含む。ある態様では、本発明による抗体に含まれる、本明細書に明記されたFc領域を含む重鎖は、更なるC末端グリシン残基(G446、EUインデックスによる番号付け)を含む。本明細書において別段の定めがない限り、Fc領域又は定常領域内のアミノ酸残基の番号付けは、Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD,1991に記載のEU番号付けシステム(別名EUインデックス)に従う。本明細書において使用されるFcドメインの「サブユニット」は、二量体Fcドメインを形成する2つのポリペプチドの一方、すなわち、免疫グロブリン重鎖のC末端定常領域を含み、安定な自己会合能を有するポリペプチドを指す。例えば、IgG Fcドメインのサブユニットは、IgG CH2及びIgG CH3定常ドメインを含む。
【0088】
「融合された(されている)」とは、構成要素(例えばFab分子とFcドメインサブユニット)が、直接的に又は1若しくは複数のペプチドリンカーを介して、ペプチド結合で連結されていることを意味する。
【0089】
「Fcドメインの第1のサブユニットと第2のサブユニットとの会合を促進する修飾」とは、Fcドメインサブユニットを含むポリペプチドの、同一のポリペプチドとの会合によるホモ二量体の形成を低減又は防止する、ペプチド骨格の改変又はFcドメインサブユニットの翻訳後修飾のことである。会合を促進する修飾は、本明細書で使用される場合、特に、会合することが望ましい2つのFcドメインサブユニット(すなわち、Fcドメインの第1及び第2のサブユニット)の各々に対して行われる別個の修飾を含み、これらの修飾は、2つのFcドメインサブユニットの会合を促進するように互いに相補的である。例えば、会合を促進する修飾は、これらのFcドメインサブユニットの一方又は両方の構造又は電荷を変化させて、それぞれ立体的に、静電気的に、それらの会合を有利にすることができる。したがって、(ヘテロ)二量体化は、第1のFcドメインサブユニットを含むポリペプチドと、第2のFcドメインサブユニットを含むポリペプチドとの間で起こり、これらのサブユニットの各々に融合された更なる構成要素(例えば抗原結合部分)が同じではない可能性があるという意味で、同一でなくてもよい。いくつかの実施態様では、会合を促進する修飾は、Fcドメイン内のアミノ酸変異、具体的にはアミノ酸置換を含む。特定の実施態様では、会合を促進する修飾は、Fcドメインの2つのサブユニットの各々における別々のアミノ酸変異、特にアミノ酸置換を含む。
【0090】
用語「エフェクター機能」とは、抗体のFc領域に起因する生物学的活性を指し、抗体のアイソタイプによって変わる。抗体エフェクター機能の例には、以下が含まれる:C1q結合及び補体依存性細胞傷害(CDC)、Fc受容体結合、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)、抗体依存性細胞貪食(ADCP)、サイトカイン分泌、抗原提示細胞による免疫複合体媒介性抗原取り込み、細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体)のダウンレギュレーション、及びB細胞活性化。
【0091】
本明細書で使用される場合、「操作(する)/改変(する)、操作された(る)/改変された(る)(“engineer,engineered,engineering”)」という用語は、天然に存在するポリペプチド又は組換えポリペプチド又はそれらの断片の、ペプチド骨格のいかなる改変又は翻訳後修飾をも含むと考えられる。改変には、アミノ酸配列の、グリコシル化パターンの、又は個々のアミノ酸の側鎖基の修飾と、これらの手法の組み合わせとが含まれる。
【0092】
本明細書中で使用される用語「アミノ酸突然変異」は、アミノ酸置換、欠失、挿入及び修飾を包含することを意味する。最終構築物が所望の特徴(例えば、Fc受容体への結合の低下又は別のペプチドとの会合の増加)を有することを条件として、置換、欠失、挿入及び修飾のいかなる組み合わせも、最終構築物に到達するために行うことが可能である。アミノ酸配列の欠失及び挿入には、アミノ末端及び/又はカルボキシ末端の欠失、並びにアミノ酸の挿入が含まれる。特にアミノ酸の変異は、アミノ酸の置換である。例えばFc領域の結合特性を変化させるためには、非保存的アミノ酸置換、すなわち1つのアミノ酸を異なる構造的及び/又は化学的特性を有する別のアミノ酸で置き換えることが特に好ましい。アミノ酸置換には、天然に存在しないアミノ酸による置き換え、又は20種類の一般的なアミノ酸の天然に存在するアミノ酸誘導体による置き換えが含まれる(例えば、4-ヒドロキシプロリン、3-メチルヒスチジン、オルニチン、ホモセリン、5-ヒドロキシリジン)。アミノ酸変異は、当技術分野で周知の遺伝学的方法又は化学的方法を用いて生じさせることができる。遺伝学的方法には、部位特異的変異誘発、PCR、遺伝子合成等が含まれ得る。遺伝子操作以外の方法、例えば化学修飾によるアミノ酸の側鎖基を変化させる方法も有用であり得ると考えられる。本明細書では、同じアミノ酸変異を示すために、様々な表記が使用される。例えば、Fcドメインの329位におけるプロリンからグリシンへの置換は、329G、G329、G329、P329G又はPro329Glyと示され得る。
【0093】
本明細書において使用される用語「ポリペプチド」は、アミノ結合(ペプチド結合としても知られる)により直鎖状に結合した単量体(アミノ酸)で構成される分子を指す。用語「ポリペプチド」は、2つ以上のアミノ酸から成る鎖を指すのであって、該生成物の特定の長さのものを指すのではない。したがって、ペプチド、ジペプチド、トリペプチド、オリゴペプチド、「タンパク質」、「アミノ酸鎖」又は2つ以上のアミノ酸の鎖を指す他のいずれの用語も「ポリペプチド」の定義の範囲内に含まれ、用語「ポリペプチド」は、これら用語の代わりに、又はこれらと互換的に使用され得る。用語「ポリペプチド」は、ポリペプチドの発現後修飾の産物を指すことも意図されており、このような産物には、限定されないが、グリコシル化、アセチル化、リン酸化、アミド化、既知の保護基/ブロッキング基による誘導体化、タンパク質切断、又は天然に存在しないアミノ酸による修飾が含まれる。ポリペプチドは、天然の生物学的供給源から得られるか又は組換え技術により生産されるが、必ずしも指定された核酸配列から翻訳されたものであるとは限らない。ポリペプチドは、化学合成を含むあらゆる手法で製造することができる。本発明のポリペプチドは、約3以上、5以上、10以上、20以上、25以上、50以上、75以上、100以上、200以上、500以上、1000以上、又は2000以上のアミノ酸から成るサイズのものである。ポリペプチドは、定義された三次元構造を有する場合もあるが、必ずしもそのような構造を有するとは限らない。定義された三次元構造を有するポリペプチドは、「フォールディングされた」と言われ、定義された三次元構造を有せずに多数の異なるコンフォメーションを採り得るポリペプチドは、「フォールディングされていない」と言われる。
【0094】
「単離」ポリペプチド若しくはバリアント又はその誘導体とは、その自然の環境にないポリペプチドの意味である。特に精製は必要ではない。例えば、単離ポリペプチドは、その天然又は自然の環境から取り除くことができる。宿主細胞で発現した組換え生産ポリペプチド及びタンパクは、任意の適切な技術により分離、画分化又は部分的若しくは実質的に精製された天然又は組換えポリペプチドと同様に、本発明のために単離されたものと見なされる。
【0095】
参照ポリペプチド配列に関する「アミノ酸配列同一性パーセント(%)」とは、配列を整列させ、最大の配列同一性パーセントを得るために必要ならばギャップを導入した後、いかなる保存的置換も配列同一性の一部として考慮しない場合の、参照ポリペプチドのアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基のパーセンテージであると定義される。アミノ酸配列同一性パーセントを決定するためのアラインメントは、当分野の技術の範囲内にある様々な方法、例えばBLAST、BLAST-2、ALIGN又はMegalign(DNASTAR)ソフトウェアのような一般に入手可能なコンピュータソフトウェアを使用して得ることができる。当業者であれば、比較される配列の完全長にわたる最大のアライメントを得るために必要なアルゴリズムを含む、配列を整列させるための適切なパラメーターを決定することができる。しかしながら、本明細書において、アミノ酸配列同一性%値は、配列比較コンピュータプログラムALIGN-2を使用して生成される。ALIGN-2配列比較コンピュータプログラムはジェネンテック社によって作成されたもので、そのソースコードは、利用者向け文書と共に米国著作権庁(ワシントンD.C.,20559)に提出されており、そこで米国著作権登録番号TXU510087として登録されている。ALIGN-2プログラムは、ジェネンテック社(カリフォルニア州サウスサンフランシスコ)から一般に入手可能であり、或いはそのソースコードからコンパイルすることもできる。ALIGN-2プログラムは、デジタルUNIXのV4.0Dを含む、UNIXオペレーティングシステム上での使用のためにコンパイルされる必要がある。全ての配列比較パラメーターは、ALIGN-2プログラムによって設定され、変化しない。アミノ酸配列比較にALIGN-2が用いられる状況では、所与のアミノ酸配列Aの、所与のアミノ酸配列Bとの(又はこれに対する)アミノ酸配列同一性%(或いは、所与のアミノ酸配列Aは、所与のアミノ酸配列Bと(又はこれに対して)特定のアミノ酸配列同一性%を有するか又は含む所与のアミノ酸配列A、ということもできる)は次のように計算される:
分数X/Y x 100
式中、Xは、配列アライメントプログラムALIGN-2により、そのプログラムのAとBのアライメントにおいて完全一致としてスコアされたアミノ酸残基の数であり、Yは、Bにおけるアミノ酸残基の総数である。アミノ酸配列Aの長さがアミノ酸配列Bの長さと異なる場合、Bに対するAのアミノ酸配列同一性%は、Aに対するBのアミノ酸配列同一性%とは異なると認識されるであろう。特に断らない限り、本明細書で使用される全てのアミノ酸配列同一性%値は、ALIGN-2コンピュータプログラムを使用して、直前の段落で説明したようにして得られる。
【0096】
用語「ポリヌクレオチド」は、単離核酸分子又は構築物、例えばメッセンジャーRNA(mRNA)、ウイルス由来のRNA又はプラスミドDNA(pDNA)を指す。ポリヌクレオチドは、一般的なホスホジエステル結合又は非一般的な結合(例えばペプチド核酸(PNA)に見られるようなアミド結合)を含み得る。用語「核酸分子」は、ポリヌクレオチド中に存在する、任意の1又は複数の核酸セグメント、例えばDNA断片又はRNA断片を指す。
【0097】
「単離」核酸分子又はポリヌクレオチドは、その天然環境から取り除かれた核酸分子、DNA又はRNAである。例えば、ベクターに含有されるポリペプチドをコードする組換えポリヌクレオチドは、本発明のために単離されたものと見なされる。単離ポリヌクレオチドの更なる例には、異種宿主細胞内に維持されている組換えポリヌクレオチド、又は溶液中の(部分的に又は実質的に)精製されたポリヌクレオチドが含まれる。単離ポリヌクレオチドは、ポリヌクレオチド分子を通常含む細胞に含まれるポリヌクレオチド分子を含むが、そのポリヌクレオチド分子は、染色体外に、又はその本来の染色体上の位置とは異なる染色体上の位置に存在している。単離RNA分子は、in vivo又はin vitroの本発明のRNA転写物、並びにプラス鎖型とマイナス鎖型及び二本鎖型を含む。本発明の単離ポリヌクレオチド又は核酸は、合成により製造されたそのような分子を更に含む。また、ポリヌクレオチド又は核酸は、プロモーター、リボソーム結合部位又は転写ターミネーター等の調節エレメントを含んでも含まなくてもよい。
【0098】
本発明の参照ヌクレオチド配列と、例えば、少なくとも95%「同一」のヌクレオチド配列を有する核酸又はポリヌクレオチドとは、ポリヌクレオチドのヌクレオチド配列が、参照ヌクレオチド配列の各100ヌクレオチドあたり5つまでの点変異を含み得ること以外は、参照配列と同一であることを意味する。換言すれば、参照ヌクレオチド配列と少なくとも95%同一であるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドを得るために、参照配列中最大5%のヌクレオチドが欠失しているか又は別のヌクレオチドで置換されてもよく、或いは参照配列中の全ヌクレオチドの最大5%の数のヌクレオチドが参照配列に挿入されてもよい。参照配列のこのような変更は、参照ヌクレオチド配列の5’若しくは3’末端位置又はこれら末端位置の間の任意の位置において、参照配列中の残基間で個別に散在して、又は参照配列内の1つ若しくは複数の連続したかたまりで散在して、起こる可能性がある。実際問題として、特定のポリヌクレオチド配列が本発明のヌクレオチド配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%同一であるかどうかは、ポリペプチドについて上述したもの(例えばALIGN-2)などの既知のコンピュータプログラムを用いて慣例的に判定することができる。
【0099】
用語「発現カセット」とは、標的細胞内の特定の核酸の転写を可能にする一連の特定の核酸エレメントを用いて、組換え又は合成で生産されたポリヌクレオチドを指す。組換え発現カセットは、プラスミド、染色体、ミトコンドリアDNA、プラスチドDNA、ウイルス又は核酸断片に組み入れることができる。典型的には、発現ベクターの組換え発現カセット部分は、数ある配列の中でも、転写される核酸配列とプロモーターを含む。特定の実施態様では、本発明の発現カセットは、本発明の二重特異性抗原結合分子をコードするポリヌクレオチド配列又はその断片を含む。
【0100】
用語「ベクター」又は「発現ベクター」は、「発現構築物」と同義であり、標的細胞内で自身が作動可能に会合する特定の遺伝子を導入し、その発現を指示するために使用されるDNA分子を指す。この用語は、導入された宿主細胞のゲノムに組み入れたベクターだけでなく、自己複製核酸構造物としてのベクターも含む。本発明の発現ベクターは、発現カセットを含む。発現ベクターは、安定したmRNAを大量に転写することができる。発現ベクターが標的細胞内部に入ると、遺伝子によってコードされるリボ核酸分子又はタンパク質が、細胞転写及び/又は翻訳機構によって産生される。ある実施態様では、本発明の発現ベクターは、本発明の二重特異性抗原結合分子をコードするポリヌクレオチド配列又はその断片を含む発現カセットを含む。
【0101】
用語「宿主細胞」、「宿主細胞株」及び「宿主細胞培養物」は、互換的に使用され、外因性の核酸が導入された細胞を指し、そのような細胞の子孫も含む。宿主細胞は「形質転換体」及び「形質転換細胞」を含み、それには初代形質転換細胞及び、継代の数に関係なく、それに由来する子孫が含まれる。子孫は、親細胞と核酸の含有量が完全に同一でなくてもよく、変異を含んでいてもよい。元の形質転換細胞においてスクリーニング又は選択されたのと同じ機能又は生物学的活性を有する変異子孫が本明細書に含まれる。宿主細胞は、本発明の二重特異性抗原結合分子を生産するのに使用できる任意の種類の細胞系である。宿主細胞には、培養細胞、例えばいくつか例を挙げると、CHO細胞、BHK細胞、NS0細胞、SP2/0細胞、YO骨髄腫細胞、P3X63マウス骨髄腫細胞、PER細胞、PER.C6細胞等の哺乳動物の培養細胞、又はハイブリドーマ細胞、酵母細胞、昆虫細胞、及び植物細胞が含まれるだけでなく、トランスジェニック動物、トランスジェニック植物又は培養された植物若しくは動物組織内部に含まれる細胞も含まれる。
【0102】
「活性化Fc受容体」とは、抗体のFcドメインと結合した後、受容体保有細胞を刺激してエフェクター機能を発揮させるシグナル伝達事象を引き起こすFc受容体である。ヒト活性化Fc受容体としては、FcγRIIIa(CD16a)、FcγRI(CD64)、FcγRIIa(CD32)及びFcαRI(CD89)が挙げられる。
【0103】
抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)は、免疫エフェクター細胞によって、抗体でコートした標的細胞の溶解につながる免疫機構である。この標的細胞は、Fc領域を含む抗体又はその誘導体が特異的に結合する細胞であり、通常、Fc領域のN末端にあるタンパク質部分を介して結合する。本明細書で使用される用語「ADCCの低下」は、上で定義したADCCの機構によって、標的細胞を囲む培地中の所定の抗体濃度で、所定の時間内に溶解する標的細胞の数の減少及び/又はADCCの機構によって、所定の時間内に所定の数の標的細胞の溶解を達成するのに必要な、標的細胞を囲む培地中の抗体濃度の上昇のいずれかと定義される。ADCCの低下は、(当業者に既知の)同じ標準的な製造、精製、製剤化及び保管方法を用いて、同じ種類の宿主細胞により産生された同じ抗体であるが改変されていない抗体によって媒介されるADCCと比較される。例えば、FcドメインにADCCを低下させるアミノ酸置換を含む抗体によって媒介されるADCCの低下は、このようなアミノ酸置換をFcドメインに含まない同じ抗体によって媒介されるADCCと比較される。ADCCを測定するのに適したアッセイは、当技術分野でよく知られている(例えば、国際公開第2006/082515号又は同第2012/130831号参照)。
【0104】
「有効量」の薬剤は、それが投与される細胞又は組織の生理学的変化をもたらすために必要な量である。
【0105】
薬剤、例えば薬学的組成物の「治療的有効量」とは、所望の治療的又は予防的結果を得るのに必要な用量及び期間での有効な量を指す。薬剤の治療的有効量は、疾患の有害作用を、例えば排除し、低下させ、遅延させ、最小化し、又は防止する。
【0106】
「個体」又は「対象」は、哺乳動物である。哺乳動物には、限定されないが、家畜動物(例えばウシ、ヒツジ、ネコ、イヌ、ウマ)、霊長類(例えばヒト、及びサルなどの非ヒト霊長類)、ウサギ、齧歯類(例えばマウス、ラット)が含まれる。特に、上記個体又は対象はヒトである。
【0107】
用語「薬学的組成物」とは、中に含まれる活性成分の生物学的活性を有効にするような形態であり、その製剤が投与されるであろう対象にとって許容できないほど毒性である追加の成分を何も含有しない調製物を指す。
【0108】
「薬学的に許容される担体」は、薬学的組成物中の活性成分以外の成分であって、対象にとって非毒性である成分を指す。薬学的に許容される担体には、限定されないが、バッファー、賦形剤、安定剤又は保存剤が含まれる。
【0109】
本明細書において用いられる場合、「治療(“treatment”)」(及び「治療する(“treat”又は“treating”)」など、その文法的変形)は、治療される個体の疾患の自然経過を変えようと試みる臨床的介入を指し、予防のために又は臨床病理の過程において実施され得る。治療の望ましい作用としては、疾患の発症又は再発を予防すること、症状の軽減、疾患の直接的又は間接的な病理学的帰結の縮小、転移を予防すること、疾患進行の速度を低下させること、病状の寛解又は緩和、及び緩解又は予後の改善が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施態様では、本発明のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、疾患の発症を遅延させるか又は疾患の進行を遅らせるために使用される。
【0110】
「添付文書」という用語は、治療製品の商品包装に通例含まれる説明書を指すのに用いられ、そのような治療製品の適応症、用法、用量、投与、併用療法、使用に関する禁忌及び/又は注意事項についての情報を含む。
【0111】
本明細書で使用される「イディオタイプ特異的ポリペプチド」とは、抗原結合部分(例えばCD3に対して抗原結合部分)のイディオタイプを認識するポリペプチドを指す。イディオタイプ特異的ポリペプチドは、抗原結合部分の可変領域に特異的に結合し、それによって抗原結合部分のその同族抗原への特異的結合を低減又は防止することができる。抗原結合部分を含む分子と会合すると、イディオタイプ特異的ポリペプチドは分子のマスキング部分として機能することができる。本明細書において具体的に開示されるのは、抗CD3結合分子のイディオタイプに特異的な抗イディオタイプ抗体又は抗イディオタイプ結合抗体断片である。
【0112】
本明細書で使用される「プロテアーゼ」又は「タンパク質分解酵素」は、リンカーを認識部位で切断し、標的細胞によって発現される任意のタンパク質分解酵素を指す。このようなプロテアーゼは、標的細胞によって分泌されても、標的細胞と会合したまま残っても(例えば標的細胞表面に)よい。プロテアーゼの例には、限定されないが、メタロプロテイナーゼ、例えばマトリックスメタロプロテイナーゼ1-28、並びにA Disintegrin And Metalloproteinase(ADAM)2、7-12、15、17-23、28-30及び33;セリンプロテアーゼ、例えばウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子及びマトリプターゼ;システインプロテアーゼ;アスパラギン酸プロテアーゼ;並びにカテプシンファミリーのメンバーが含まれる。
【0113】
T細胞活性化二重特異性分子に関して本明細書で用いられる「プロテアーゼ活性化可能」とは、T細胞活性化二重特異性分子がCD3に結合するその能力を低下又は消失させるマスキング部分によりT細胞を活性化する能力が低下又は消失したT細胞活性化二重特異性分子をいう。タンパク質切断によって(例えば、マスキング部位とT細胞活性化二重特異性分子をつなぐリンカーのタンパク質切断によって)マスキング部分が解離すると、CD3への結合が回復し、T細胞活性化二重特異性分子がそれによって活性化される。
【0114】
本明細書で用いられる「可逆的に隠す」とは、抗原結合部分又は分子がその抗原、例えばCD3から妨げられるように、マスキング部分又はイディオタイプ特異的ポリペプチドを抗原結合部分又は分子に結合させることをいう。この隠蔽は、イディオタイプ特異的ポリペプチドが、例えばプロテアーゼ切断によって抗原結合部分又は分子から解放され、それによって抗原結合部分又は分子がその抗原に結合するために遊離することができるという点で、可逆的である。
【0115】
詳細な説明
ある態様では、本発明は、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子であって、
(a)CD3に結合することができる第1の抗原結合部分;
(b)標的細胞抗原に結合することができる第2の抗原結合部分;及び
(c)プロテアーゼ切断可能リンカーを介してT細胞二重特異性結合分子に共有結合されたマスキング部分であって、第1又は第2の抗原結合部分のイディオタイプに結合することができ、それによって第1又は第2の抗原結合部分を可逆的に隠す、マスキング部分
を含む、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子に関する。
【0116】
CD3に結合することができる第1の抗原結合部分はイディオタイプを含む。ある実施態様では、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子のマスキング部分は、第1の抗原結合部分に共有結合される。ある実施態様では、マスキング部分は、第1の抗原結合部分の重鎖可変領域に共有結合される。ある実施態様では、マスキング部分は、第1の抗原結合部分の軽鎖可変領域に共有結合される。この共有結合は、イディオタイプの第1の抗原結合部位へのマスキング部分の特異的結合(好ましくは非共有結合)とは別のものである。第1の抗原結合部分のイディオタイプは、その可変領域を含む。ある実施態様では、マスキング部分は、第1の抗原結合部分がCD3に結合したときにCD3と接触するアミノ酸残基に結合する。好ましい実施態様では、マスキング部分は、第1の抗原結合部分の同族抗原又はその断片ではなく、すなわち、マスキング部分はCD3又はその断片ではない。ある実施態様において、マスキング部分は、抗イディオタイプ抗体又はその断片である。ある実施態様では、マスキング部分は、抗イディオタイプscFvである。抗イディオタイプscFvであるマスキング部分及びそのようなマスキング部分を含むプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化分子の例示的実施態様は、実施例にて詳述される。
【0117】
ある実施態様では、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、
(i)CD3に結合することができるFab分子である第1の抗原結合部分であって、配列番号2、配列番号4及び配列番号10から成る群より選択される少なくとも1つの重鎖相補性決定領域(CDR)と、配列番号20、配列番号21、配列番号22から成る群より選択される少なくとも1つの軽鎖CDRとを含む第1の抗原結合部分;並びに
(ii)標的細胞抗原に結合することができるFab分子である第2の抗原結合部分
を含む。
【0118】
ある実施態様では、第1の抗原結合部分は、配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号23のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む。
【0119】
ある実施態様において、第1の抗原結合部分は、配列番号16のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号23のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む。
【0120】
特定の実施態様では、第2の抗原結合部分は、FolR1に結合することができ、配列番号54、配列番号55及び配列番号56からな成る群より選択される少なくとも1つの重鎖相補性決定領域(CDR)と、配列番号20、配列番号21及び配列番号22から成る群より選択される少なくとも1つの軽鎖CDRとを含む。
【0121】
別の特定の実施態様では、第2の抗原結合部分は、FolR1に結合することができ、配列番号53のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号23のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む。
【0122】
別の特定の実施態様では、第2の抗原結合部分は、TYRP1に結合することができ、配列番号24、配列番号25及び配列番号26から成る群より選択される少なくとも1つの重鎖相補性決定領域(CDR)と、配列番号28、配列番号29及び配列番号30から成る群より選択される少なくとも1つの軽鎖CDRとを含む。
【0123】
別の特定の実施態様では、第2の抗原結合部分は、TYRP1に結合することができ、配列番号27のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号31のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖とを含む。
【0124】
ある実施態様では、本発明は、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子であって、
(i)CD3に結合することができるFab分子である第1の抗原結合部分であって、配列番号2、配列番号4及び配列番号10から成る群より選択される少なくとも1つの重鎖相補性決定領域(CDR)と、配列番号20、配列番号21、配列番号22から成る群より選択される少なくとも1つの軽鎖CDRとを含む第1の抗原結合部分;並びに
(ii)FolR1に結合することができるFab分子である第2の抗原結合部分であって、配列番号54、配列番号55及び配列番号56から成る群より選択される少なくとも1つの重鎖相補性決定領域(CDR)と、配列番号20、配列番号21及び配列番号22から成る群より選択される少なくとも1つの軽鎖CDRとを含む第2の抗原結合部分
を含む、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子を提供する。
【0125】
ある実施態様では、本発明は、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子であって、
(i)CD3に結合することができるFab分子である第1の抗原結合部分であって、配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号23のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む第1の抗原結合部分、並びに
(ii)FolR1に結合することができるFab分子である第2の抗原結合部分であって、配列番号53のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号23のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む第2の抗原結合部分
を含む、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子を提供する。
【0126】
ある実施態様では、本発明は、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子であって、
(i)CD3に結合することができるFab分子である第1の抗原結合部分であって、配列番号2、配列番号4及び配列番号10から成る群より選択される少なくとも1つの重鎖相補性決定領域(CDR)と、配列番号20、配列番号21、配列番号22から成る群より選択される少なくとも1つの軽鎖CDRとを含む第1の抗原結合部分;並びに
(ii)TYRP1に結合することができるFab分子である第2の抗原結合部分であって、配列番号24、配列番号25及び配列番号26から成る群より選択される少なくとも1つの重鎖相補性決定領域(CDR)と、配列番号28、配列番号29、配列番号30から成る群より選択される少なくとも1つの軽鎖CDRとを含む第2の抗原結合部分
を含む、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子を提供する。
【0127】
ある実施態様では、本発明は、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子であって、
(i)CD3に結合することができるFab分子である第1の抗原結合部分であって、配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号23のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む第1の抗原結合部分、並びに
(ii)TYRP1に結合することができるFab分子である第2の抗原結合部分であって、配列番号27のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号31のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む第2の抗原結合部分
を含む、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子を提供する。
【0128】
ある実施態様では、第2の抗原結合部分は従来のFab分子である。
【0129】
特定の実施態様では、第1の抗原結合部分はFab軽鎖とFab重鎖の定常領域が交換されているクロスオーバーFab分子であり、第2の抗原結合部分は従来のFab分子である。更に特定の実施態様では、第1及び第2の抗原結合部分は互いに融合され、場合によってペプチドリンカーを介して融合される。
【0130】
特定の実施態様では、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、安定な会合が可能な第1及び第2のサブユニットで構成されるFcドメインを更に含む。
【0131】
更なる特定の実施態様では、CD3に結合することができる抗原結合部分がプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子中に1つまで存在する(すなわち、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子はCD3への一価結合を提供する)。
【0132】
プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子フォーマット
プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子の構成要素を、様々な構造で互いに融合させることができる。図1A-1Z、図2図9A-9C、及び図17A-17DHに例示的な構造を示す。
【0133】
特定の実施態様では、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、安定な会合が可能な第1及び第2のサブユニットで構成されるFcドメインを含む。いくつかの実施態様では、第2の抗原結合部分は、Fab重鎖のC末端においてFcドメインの第1又は第2のサブユニットのN末端に融合される。
【0134】
このような実施態様では、第1の抗原結合部分は、Fab重鎖のC末端において第2の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合される。このような特定の実施態様では、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、第1及び第2の抗原結合部分、第1及び第2のサブユニットで構成されるFcドメイン、並びに場合によって1又は複数のペプチドリンカーから実質的に成り、第1の抗原結合部分はFab重鎖のC末端において第2の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合され、第2の抗原結合部分は、Fab重鎖のC末端においてFcドメインの第1又は第2のサブユニットのN末端に融合される。場合によって、更に、第1の抗原結合部分のFab軽鎖と第2の抗原結合部分のFab軽鎖とを、互いに融合させてもよい。
【0135】
別のこのような実施態様では、第1の抗原結合部分はFab重鎖のC末端においてFcドメインの第1又は第2のサブユニットのN末端に融合される。このような特定の実施態様では、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、第1及び第2の抗原結合部分、第1及び第2のサブユニットで構成されるFcドメイン、並びに場合によって1又は複数のペプチドリンカーから実質的に成り、第1及び第2の抗原結合部分はそれぞれ、Fab重鎖のC末端においてFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合される。
【0136】
他の実施態様では、第1の抗原結合部分は、Fab重鎖のC末端においてFcドメインの第1又は第2のサブユニットのN末端に融合される。
【0137】
このような特定の実施態様では、第2の抗原結合部分は、Fab重鎖のC末端において第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合される。このような特定の実施態様では、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、第1及び第2の抗原結合部分、第1及び第2のサブユニットで構成されるFcドメイン、並びに場合によって1又は複数のペプチドリンカーから実質的に成り、第2の抗原結合部分は、Fab重鎖のC末端において第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合され、第1の抗原結合部分は、Fab重鎖のC末端においてFcドメインの第1又は第2のサブユニットのN末端に融合される。場合によって、更に、第1の抗原結合部分のFab軽鎖と第2の抗原結合部分のFab軽鎖とを、互いに融合させてもよい。
【0138】
抗原結合部分は、Fcドメインに融合させてもよいし、直接的に、又は1若しくは複数のアミノ酸、典型的には約2-20アミノ酸を含むペプチドリンカーを介して互いに融合させてもよい。ペプチドリンカーは当技術分野において既知であり、本明細書に記載されている。適切な非免疫原性ペプチドリンカーには、例えば、(GS)、(SG、(GS)又は(SGペプチドリンカーが含まれる。「n」は、一般には1から10の間、典型的には2から4の間の整数である。第1及び第2の抗原結合部分を互いに融合させるのに特に適したペプチドリンカーは(GS)である。第1及び第2の抗原結合部分のFab重鎖を接続するのに適した例示的ペプチドリンカーはEPKSC(D)-(GS)(配列番号105及び106)である。加えて、リンカーは免疫グロブリンヒンジ領域(の一部)を含むことができる。特に、抗原結合部分は、FcドメインサブユニットのN末端に融合される場合、追加のペプチドリンカーの有無に関わらず、免疫グロブリンヒンジ領域又はその一部を介して融合されてもよい。
【0139】
標的細胞抗原に結合することができる単一の抗原結合部分を有するプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、特に高親和性抗原結合部分の結合に続いて標的細胞抗原の内部移行が予想される場合に有用である。このような場合、標的細胞抗原に特異的な1つより多い抗原結合部分の存在は、標的細胞抗原の内部移行を促進し、それによってその利用可能性を低下させ得る。
【0140】
しかしながら、他の多くの場合、標的細胞抗原に特異的な2つ以上の抗原結合部分を含むT細胞活性化二重特異性抗原結合分子(図1B、1C、1E、1F、1G、1H、1I、1J、1K、1L、1M、1N、1Q、1R、1U、1Vに示す例を参照)を有することは、例えば標的部位への標的化を最適化するため、又は標的細胞抗原の架橋を可能にするために有利であろう。
【0141】
したがって、特定の実施態様では、本発明のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、標的細胞抗原に結合することができる第3の抗原結合部分を更に含む。ある実施態様では、第3の抗原結合部分は従来のFab分子である。ある実施態様では、第3の抗原結合部分は、第2の原結合部分と同じ標的細胞抗原に結合することができる。特定の実施態様では、第1の抗原結合部分はCD3に結合することができ、第2及び第3の抗原結合部分は標的細胞抗原に結合することができる。特定の実施態様では、第2及び第3の抗原結合部分は同一である(すなわち、それらは同じアミノ酸配列を含む)。
【0142】
特定の実施態様では、第1の抗原結合部分はCD3に結合することができ、第2及び第3の抗原結合部分はFolR1に結合することができ、ここで第2及び第3の抗原結合部分は、配列番号54、配列番号55及び配列番号56から成る群より選択される少なくとも1つの重鎖相補性決定領域(CDR)と、配列番号20、配列番号21及び配列番号22の群より選択される少なくとも1つの軽鎖CDRとを含む。
【0143】
特定の実施態様では、第1の抗原結合部分はCD3に結合することができ、配列番号2、配列番号4及び配列番号10から成る群より選択される少なくとも1つの重鎖相補性決定領域(CDR)と、配列番号20、配列番号21、配列番号22の群より選択される少なくとも1つの軽鎖CDRとを含み;第2及び第3の抗原結合部分はFolR1に結合することができ、ここで第2及び第3の抗原結合部分は、配列番号54、配列番号55及び配列番号56から成る群より選択される少なくとも1つの重鎖相補性決定領域(CDR)と、配列番号20、配列番号21及び配列番号22の群より選択される少なくとも1つの軽鎖CDRとを含む。
【0144】
特定の実施態様では、第1の抗原結合部分はCD3に結合することができ、配列番号2、配列番号4及び配列番号10から成る群より選択される少なくとも1つの重鎖相補性決定領域(CDR)と、配列番号20、配列番号21、配列番号22の群より選択される少なくとも1つの軽鎖CDRとを含み;第2及び第3の抗原結合部分はFolR1に結合することができ、ここで第2及び第3の抗原結合部分は、配列番号54、配列番号55及び配列番号56から成る群より選択される少なくとも1つの重鎖相補性決定領域(CDR)と、配列番号20、配列番号21及び配列番号22の群より選択される少なくとも1つの軽鎖CDRとを含む。
【0145】
特定の実施態様では、第1の抗原結合部分は、CD3に結合することができ、配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号23のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含み、第2及び第3の抗原結合部分はFolR1に結合することができ、ここで第2及び第3の抗原結合部分は、配列番号53のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号23のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む。
【0146】
ある実施態様では、第1の抗原結合部分はCD3に結合することができ、第2及び第3の抗原結合部分はTYRP1に結合することができ、ここで第2及び第3の抗原結合部分は、配列番号2、配列番号4及び配列番号10から成る群より選択される少なくとも1つの重鎖相補性決定領域(CDR)と、配列番号20、配列番号21及び配列番号22の群より選択される少なくとも1つの軽鎖CDRとを含む。
【0147】
ある実施態様では、第1の抗原結合部分はCD3に結合することができ、配列番号2、配列番号4及び配列番号10から成る群より選択される少なくとも1つの重鎖相補性決定領域(CDR)と、配列番号20、配列番号21、配列番号22の群より選択される少なくとも1つの軽鎖CDRとを含み;第2及び第3の抗原結合部分はTYRP1に結合することができ、ここで第2及び第3の抗原結合部分は、配列番号24、配列番号25及び配列番号26から成る群より選択される少なくとも1つの重鎖相補性決定領域(CDR)と、配列番号28、配列番号29及び配列番号30の群より選択される少なくとも1つの軽鎖CDRとを含む。
【0148】
ある実施態様では、第1の抗原結合部分はCD3に結合することができ、配列番号2、配列番号4及び配列番号10から成る群より選択される少なくとも1つの重鎖相補性決定領域(CDR)と、配列番号20、配列番号21及び配列番号22の群より選択される少なくとも1つの軽鎖CDRとを含み;第2及び第3の抗原結合部分はTYRP1に結合することができ、ここで第2及び第3の抗原結合部分は、配列番号24、配列番号25及び配列番号26から成る群より選択される少なくとも1つの重鎖相補性決定領域(CDR)と、配列番号28、配列番号29及び配列番号30の群より選択される少なくとも1つの軽鎖CDRとを含む。
【0149】
ある実施態様では、第1の抗原結合部分は、CD3に結合することができ、配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号23のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含み、第2及び第3の抗原結合部分はTYRP1に結合することができ、ここで第2及び第3の抗原結合部分は、配列番号27のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号31のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む。
【0150】
第2及び第3の抗原結合部分は、直接融合されていても、又はペプチドリンカーを介してFcドメインに融合されていてもよい。特定の実施態様において、第2及び第3の抗原結合部分は、各々が免疫グロブリンのヒンジ領域を介してFcドメインに融合される。具体的な実施態様では、免疫グロブリンのヒンジ領域は、ヒトIgGヒンジ領域である。ある実施態様では、第2及び第3の抗原結合部分及びFcドメインは、免疫グロブリン分子の一部である。特定の実施態様において、免疫グロブリン分子はIgGクラスの免疫グロブリンである。更に特定の実施態様では、免疫グロブリンはIgGサブクラスの免疫グロブリンである。別の実施態様において、免疫グロブリンはIgGサブクラスの免疫グロブリンである。更に特定の実施態様では、免疫グロブリンはヒト免疫グロブリンである。他の実施態様において、免疫グロブリンは、キメラ免疫グロブリン又はヒト化免疫グロブリンである。ある実施態様では、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、標的細胞抗原に結合することができる免疫グロブリン分子と、CD3に結合することができる抗原結合部分とから実質的に成り、ここで抗原結合部分は、一方の免疫グロブリン重鎖のN末端に(場合によってペプチドリンカーを介して)融合されたFab分子である。
【0151】
特定の実施態様では、第1及び第3の抗原結合部分は、それぞれFab重鎖のC末端においてFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合され、第2の抗原結合部分はFab重鎖のC末端において第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合される。特定の実施態様では、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、第1、第2及び第3の抗原結合部分、第1及び第2のサブユニットで構成されるFcドメイン、並びに場合によって1又は複数のペプチドリンカーから実質的に成り、ここで第2の抗原結合部分はFab重鎖のC末端において第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合され、第1の抗原結合部分はFab重鎖のC末端においてFcドメインの第1のサブユニットのN末端に融合され、ここで第3の抗原結合部分はFab重鎖のC末端においてFcドメインの第2のサブユニットのN末端に融合される。場合によって、更に、第1の抗原結合部分のFab軽鎖と第2の抗原結合部分のFab軽鎖とを、互いに融合させてもよい。
【0152】
ある実施態様では、本発明は、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子であって、
(i)CD3に結合することができるFab分子である第1の抗原結合部分であって、配列番号2の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号4の重鎖CDR 2、配列番号10の重鎖CDR 3、配列番号20の軽鎖CDR 1、配列番号21の軽鎖CDR 2、及び配列番号22の軽鎖CDR 3を含み、第1の抗原結合部分が、Fab軽鎖及びFab重鎖の可変領域又は定常領域、特に定常領域が交換されているクロスオーバーFab分子である、第1の抗原結合部分;
(ii)各々がFolR1に結合することができるFab分子である第2及び第3の抗原結合部分であって、配列番号54の重鎖CDR 1、配列番号55の重鎖CDR 2、配列番号56の重鎖CDR 3、配列番号20の軽鎖CDR 1、配列番号21の軽鎖CDR 2、及び配列番号22の軽鎖CDR3を含む第2及び第3の抗原結合部分
を含む、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子を提供する。
【0153】
ある実施態様では、本発明は、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子であって、
(i)CD3に結合することができるFab分子である第1の抗原結合部分であって、配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号23のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含み、Fab軽鎖及びFab重鎖の可変領域又は定常領域、特に定常領域が交換されているクロスオーバーFab分子である、第1の抗原結合部分;
(ii)各々がFolR1に結合することができるFab分子である第2及び第3の抗原結合部分であって、配列番号53のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号23のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む第2及び第3の抗原結合部分
を含む、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子を提供する。
【0154】
ある実施態様では、本発明は、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子であって、
(i)CD3に結合することができるFab分子である第1の抗原結合部分であって、配列番号2の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号4の重鎖CDR 2、配列番号10の重鎖CDR 3、配列番号20の軽鎖CDR 1、配列番号21の軽鎖CDR 2、及び配列番号22の軽鎖CDR 3を含み、第1の抗原結合部分が、Fab軽鎖及びFab重鎖の可変領域又は定常領域、特に定常領域が交換されているクロスオーバーFab分子である、第1の抗原結合部分;
(ii)各々がTYRP1に結合することができるFab分子である第2及び第3の抗原結合部分であって、配列番号24の重鎖CDR 1、配列番号25の重鎖CDR 2、配列番号26の重鎖CDR 3、配列番号28の軽鎖CDR 1、配列番号29の軽鎖CDR 2、及び配列番号30の軽鎖CDR3を含む第2及び第3の抗原結合部分
を含む、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子を提供する。
【0155】
上記10の実施態様のいずれかによるプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、更に、(iii)安定に結合することができる第1及び第2のサブユニットで構成されるFcドメインを含むことができ、ここで、第2の抗原結合部分がFab重鎖のC末端において第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、第1の抗原結合部分がFab重鎖のC末端においてFcドメインの第1のサブユニットのN末端に融合しており、第3の抗原結合部分がFab重鎖のC末端においてFcドメインの第2のサブユニットのN末端に融合している。
【0156】
本発明のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子のいくつかにおいては、第1の抗原結合部分のFab軽鎖と第2の抗原結合部分のFab軽鎖は互いに融合しており、場合によってペプチドリンカーを介して融合している。第1及び第2の抗原結合部分の構成に応じて、第1の抗原結合部分のFab軽鎖は、そのC末端において第2の抗原結合部分のFab軽鎖のN末端に融合していてもよく、又は第2の抗原結合部分のFab軽鎖は、そのC末端において第1の抗原結合部分のFab軽鎖のN末端に融合していてもよい。第1及び第2のFab分子のFab軽鎖の融合は、一致しないFab重鎖と軽鎖の誤対合を更に減らし、本発明のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子の一部の発現に必要なプラスミドの数も減少させる。
【0157】
特定の実施態様において、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、第1の抗原結合部分のFab軽鎖可変領域がカルボキシ末端ペプチド結合を第1の抗原結合部分のFab重鎖定常領域と共有し(すなわち、第1の抗原結合部分は、重鎖可変領域が軽鎖可変領域で置き換えられているクロスオーバーFab重鎖を含む)、これが次に、カルボキシ末端ペプチド結合をFcドメインサブユニットと共有するポリペプチド(VL(1)-CH1(1)-CH2-CH3(-CH4))と、第2の抗原結合部分のFab重鎖がカルボキシ末端ペプチド結合をFcドメインサブユニットと共有するポリペプチド(VH(2)-CH1(2)-CH2-CH3(-CH4))とを含む。いくつかの実施態様では、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、第1の抗原結合部分のFab重鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を、第1の抗原結合部分のFab軽鎖定常領域(VH(1)-CL(1))及び第2の抗原結合部分のFab軽鎖ポリペプチド(VL(2)-CL(2))と共有するポリペプチドを更に含む。特定の実施態様において、これらのポリペプチドは、例えばジスルフィド結合によって、共有結合的に連結している。
【0158】
代替的な実施態様において、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、第1の抗原結合部分のFab重鎖可変領域がカルボキシ末端ペプチド結合を第1の抗原結合部分のFab軽鎖定常領域と共有し(すなわち、第1の抗原結合部分は、重鎖定常領域が軽鎖定常領域で置き換えられているクロスオーバーFab重鎖を含む)、これが次に、カルボキシ末端ペプチド結合をFcドメインサブユニットと共有するポリペプチド(VH(1)-CL(1)-CH2-CH3(-CH4))と、第2の抗原結合部分のFab重鎖がカルボキシ末端ペプチド結合をFcドメインサブユニットと共有するポリペプチド(VH(2)-CH1(2)-CH2-CH3(-CH4))とを含む。いくつかの実施態様では、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、第1の抗原結合部分のFab軽鎖可変領域がカルボキシ末端ペプチド結合を第1の抗原結合部分のFab重鎖定常領域と共有するポリペプチド(VL(1)-CH1(1))と、第2の抗原結合部分から成るFab軽鎖ポリペプチド(VL(2)-CL(2))とを更に含む。特定の実施態様において、これらのポリペプチドは、例えばジスルフィド結合によって、共有結合的に連結している。
【0159】
いくつかの実施態様において、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、第1の抗原結合部分のFab軽鎖可変領域がカルボキシ末端ペプチド結合を第1の抗原結合部分のFab重鎖定常領域と共有し(すなわち、第1の抗原結合部分は、重鎖可変領域が軽鎖可変領域で置き換えられているクロスオーバーFab重鎖を含む)、これが次に、カルボキシ末端ペプチド結合を第2の抗原結合部分のFab重鎖と共有し、これが次に、カルボキシ末端ペプチド結合をFcドメインサブユニットと共有するポリペプチド(VL(1)-CH1(1)-VH(2)-CH1(2)-CH2-CH3(-CH4))を含む。他の実施態様において、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、第1の抗原結合部分のFab重鎖可変領域がカルボキシ末端ペプチド結合を第1の抗原結合部分のFab軽鎖定常領域と共有し(すなわち、第1の抗原結合部分は、重鎖定常領域が軽鎖定常領域で置き換えられているクロスオーバーFab重鎖を含む)、これが次に、カルボキシ末端ペプチド結合を第2の抗原結合部分のFab重鎖と共有し、これが次に、カルボキシ末端ペプチド結合をFcドメインサブユニットと共有するポリペプチド(VH(1)-CL(1)-VH(2)-CH1(2)-CH2-CH3(-CH4))を含む。更に他の実施態様では、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、第2の抗原結合部分のFab重鎖がカルボキシ末端ペプチド結合を第1の抗原結合部分のFab軽鎖可変領域と共有し、これが次に、カルボキシ末端ペプチド結合を第1の抗原結合部分のFab重鎖定常領域と共有し(すなわち、第1の抗原結合部分は、重鎖可変領域が軽鎖可変領域で置き換えられているクロスオーバーFab重鎖を含む)、これが次に、カルボキシ末端ペプチド結合をFcドメインサブユニットと共有するポリペプチド(VH(2)-CH1(2)-VL(1)-CH1(1)-CH2-CH3(-CH4))を含む。他の実施態様では、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、第2の抗原結合部分のFab重鎖がカルボキシ末端ペプチド結合を第1の抗原結合部分のFab重鎖可変領域と共有し、これが次に、カルボキシ末端ペプチド結合を第1の抗原結合部分のFab軽鎖定常領域と共有し(すなわち、第1の抗原結合部分は、重鎖定常領域が軽鎖定常領域で置き換えられているクロスオーバーFab重鎖を含む)、これが次に、カルボキシ末端ペプチド結合をFcドメインサブユニットと共有するポリペプチド(VH(2)-CH1(2)-VH(1)-CL(1)-CH2-CH3(-CH4))を含む。
【0160】
これらの実施態様のうちの一部では、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、第1の抗原結合部分のFab重鎖可変領域がカルボキシ末端ペプチド結合を第1の抗原結合部分のFab軽鎖定常領域と共有する第1の抗原結合部分のクロスオーバーFab軽鎖ポリペプチド(VH(1)-CL(1))と、第2の抗原結合部分のFab軽鎖ポリペプチド(VL(2)-CL(2))とを更に含む。これらの実施態様のうちの他のものでは、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、第1の抗原結合部分のFab軽鎖可変領域がカルボキシ末端ペプチド結合を第1の抗原結合部分のFab重鎖定常領域と共有するクロスオーバーFab軽鎖ポリペプチド(VL(1)-CH1(1))と、第2の抗原結合部分のFab軽鎖ポリペプチド(VL(2)-CL(2))を更に含む。これらの実施態様のうちの更に他のものでは、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、第1の抗原結合部分のFab軽鎖可変領域がカルボキシ末端ペプチド結合を第1の抗原結合部分のFab重鎖定常領域と共有し、これが次に、カルボキシ末端ペプチド結合を第2の抗原結合部分のFab軽鎖ポリペプチドと共有するポリペプチド(VL(1)-CH1(1)-VL(2)-CL(2))ポリペプチド、第1の抗原結合部分のFab重鎖可変領域がカルボキシ末端ペプチド結合を第1の抗原結合部分のFab軽鎖定常領域と共有し、これが次に、カルボキシ末端ペプチド結合を第2の抗原結合部分のFab軽鎖ポリペプチドと共有するポリペプチド(VH(1)-CL(1)-VL(2)-CL(2))、第2の抗原結合部分のFab軽鎖ポリペプチドがカルボキシ末端ペプチド結合を第1の抗原結合部分のFab軽鎖可変領域と共有し、これが次に、カルボキシ末端ペプチド結合を第1の抗原結合部分のFab重鎖定常領域と共有するポリペプチド(VL(2)-CL(2)-VL(1)-CH1(1))、又は第2の抗原結合部分のFab軽鎖ポリペプチドがカルボキシ末端ペプチド結合を第1の抗原結合部分のFab重鎖可変領域と共有し、これが次に、カルボキシ末端ペプチド結合を第1の抗原結合部分のFab軽鎖定常領域と共有するポリペプチド(VL(2)-CL(2)-VH(1)-CL(1))を更に含む。
【0161】
これらの実施態様によるプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、(i)Fcドメインサブユニットポリペプチド(CH2-CH3(-CH4))、又は(ii)第3の抗原結合部分のFab重鎖がカルボキシ末端ペプチド結合をFcドメインサブユニットと共有するポリペプチド(VH(3)-CH1(3)-CH2-CH3(-CH4))及び第3の抗原結合部分のFab軽鎖ポリペプチド(VL(3)-CL(3))を更に含み得る。特定の実施態様において、これらのポリペプチドは、例えばジスルフィド結合によって、共有結合的に連結している。
【0162】
これら上記の実施態様によると、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子の構成要素(例えば抗原結合部分、Fcドメイン)は、直接的に融合されてもよく、又は種々のリンカー、特に、本明細書に記載されている又は当技術分野で知られている1又は複数のアミノ酸、典型的には約2-20アミノ酸を含むペプチドリンカーを介して融合されてもよい。適切な非免疫原性ペプチドリンカーには、例えば、(GS)、(SG、(GS)又はG(SGペプチドリンカーが含まれ、ここでnは通常1から10、典型的には2から4の数である。
【0163】
Fcドメイン
プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子のFcドメインは、免疫グロブリン分子の重鎖ドメインを含む一対のポリペプチド鎖から成る。例えば、免疫グロブリンG(IgG)分子のFcドメインは二量体であり、その各サブユニットは、CH2 IgG重鎖定常ドメイン及びCH3 IgG重鎖定常ドメインを含む。Fcドメインの2つのサブユニットは、互いに安定に会合することができる。ある実施態様では、本発明のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、1つまでのFcドメインを含む。
【0164】
本発明による実施態様では、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子のFcドメインはIgG Fcドメインである。特定の実施態様では、Fcドメインは、IgG Fcドメインである。別の実施態様では、Fcドメインは、IgG Fcドメインである。より具体的な態様において、Fcドメインは、S228位(Kabat番号付け)にアミノ酸置換、特にアミノ酸置換S228Pを含むIgG Fcドメインである。このアミノ酸置換は、in vivoでのIgG抗体のFabアーム交換を減少させる(Stubenrauch et al.,Drug Metabolism and Disposition 38,84-91(2010)を参照)。更なる特定の実施態様では、Fcドメインはヒトのものである。
【0165】
ヘテロ二量体化を促進するFcドメイン修飾
本発明によるプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、Fcドメインの2つのサブユニ部分を含み、したがってFcドメインの2つのサブユニットは、典型的には2つの非同一ポリペプチド鎖に含まれる。これらのポリペプチドの組換え共発現とそれに続く二量体化により、上記2つのポリペプチドのいくつかの可能な組み合わせが生じる。組換え生産におけるプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子の収率及び純度を改善するため、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子のFcドメインに、所望のポリペプチドの会合を促進する修飾を導入することが有利である。
【0166】
したがって、特定の態様において、本発明によるプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、Fcドメインの第1のサブユニットと第2のサブユニットとの会合を促進する修飾を含む。ヒトIgG Fcドメインの2つのサブユニット間のタンパク質間相互作用が最も広範囲に及ぶ部位は、FcドメインのCH3ドメインにある。したがって、ある実施態様では、前記修飾はFcドメインのCH3ドメイン内にある。
【0167】
具体的な実施態様では、前記修飾は、いわゆる「ノブ・イントゥ・ホール」修飾であり、Fcドメインの2つのサブユニットの一方に「ノブ」修飾を、Fcドメインの2つのサブユニットのもう一方に「ホール」修飾を含む。
【0168】
このノブ・イントゥ・ホール技術は、例えば、米国特許第5731168号、米国特許第7695936号;Ridgway et al.,Prot Eng 9,617-621(1996)及びCarter,J Immunol Meth 248,7-15(2001)に記載されている。一般的に、この方法は、第1のポリペプチドの境界面にある突起(「ノブ」)と、第2のポリペプチドの境界面にある対応する空洞(「ホール」)とを導入し、突起を空洞内に配置してヘテロ二量体形成を促進し、ホモ二量体形成を妨げるようにする方法である。突起は、第1のポリペプチドの境界面からの小さなアミノ酸側鎖を、より大きな側鎖(例えばチロシン又はトリプトファン)で置き換えることによって構築される。大きなアミノ酸側鎖をより小さなアミノ酸側鎖(例えばアラニン又はスレオニン)で置き換えることにより、突起と同じ又は同様の大きさの相補的な空洞が第2のポリペプチドの境界面に作られる。
【0169】
したがって、特定の実施態様では、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子のFcドメインの第1のサブユニットのCH3ドメインにおいて、アミノ酸残基は、より大きな側鎖体積を有するアミノ酸残基で置き換えられ、それによって、第2のサブユニットのCH3ドメイン内の空洞内に収容可能な突起が第1のサブユニットのCH3ドメイン内に生成され、Fcドメインの第2のサブユニットのCH3ドメインにおいて、アミノ酸残基は、より小さな側鎖体積を有するアミノ酸残基で置き換えられ、それによって、第1のサブユニットのCH3ドメイン内の突起を収容可能な空洞が第2のサブユニットのCH3ドメイン内に生成される。
【0170】
突起及び空洞は、例えば部位特異的(site-specific)変異導入又はペプチド合成などでポリペプチドをコードする核酸を変化させることにより、作製することができる。
【0171】
具体的な実施態様では、Fcドメインの第1のサブユニットのCH3ドメインにおいて、366位のスレオニン残基がトリプトファン残基で置き換えられ(T366W)、Fcドメインの第2のサブユニットのCH3ドメイン)において、407位のチロシン残基がバリン残基で置き換えられる(Y407V)。ある実施態様では、Fcドメインの第2のサブユニットにおいて、追加的に、366位のスレオニン残基がセリン残基で置き換えられ(T366S)、368位のロイシン残基がアラニン残基で置き換えられる(L368A)。
【0172】
また更なる実施態様では、Fcドメインの第1のサブユニットにおいて、354位のセリン残基がシステイン残基で置き換えられ(S354C)、Fcドメインの第2のサブユニットにおいて、更に349位のチロシン残基がセリン残基で置き換えられる(Y349C)。これら2つのシステイン残基の導入によりFcドメインの2つのサブユニット間にジスルフィド架橋が形成され、二量体を更に安定させる(Carter,J Immunol Methods 248,7-15(2001))。
【0173】
特定の実施態様において、CD3に結合することができる抗原結合部分は、(場合によって、標的細胞抗原に結合することができる抗原結合部分を介して)Fcドメインの(「ノブ」修飾を含む)第1のサブユニットに融合される。理論に束縛されることを望むものではないが、Fcドメインのノブ含有サブユニットへのCD3に結合することができる抗原結合部分の融合は、CD3に結合することができる2つの抗原結合部分を含む抗原結合分子の生成(2つのノブ含有ポリペプチドの立体衝突)を(更に)最小化する。
【0174】
代替的な実施態様では、Fcドメインの第1のサブユニットと第2のサブユニットの会合を促進する修飾は、例えば国際公開第2009/089004号に記載されているような静電的ステアリング効果(electrostatic steering effect)を媒介する修飾を含む。一般的に、この方法は、2つのFcドメインサブユニットの境界面にある1又は複数のアミノ酸残基を荷電アミノ酸残基で置換して、ホモ二量体形成は静電的に不利になるがヘテロ二量化は静電的に有利になるようにする。
【0175】
Fc受容体の結合及び/又はエフェクター機能を低下させるFcドメイン修飾
Fcドメインは、標的組織における良好な蓄積に寄与する長い血清半減期や好ましい組織-血液分配比などの好ましい薬物動態特性をプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子に付与する。しかしながら、それは同時に、好ましい抗原保有細胞に対するのではなく、Fc受容体を発現する細胞に対するプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子の望ましくない標的化をもたらす可能性がある。更に、Fc受容体シグナル伝達経路の共活性化はサイトカイン放出をもたらすことがあり、これは、抗原結合分子のT細胞活性化特性及び長い半減期と相俟って、全身投与時にサイトカイン受容体の過剰な活性化や重篤な副作用を生じさせる。T細胞以外の(Fc受容体保有)免疫細胞の活性化は、例えばNK細胞によるT細胞の破壊の可能性のために、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子の効力を低下させることさえある。
【0176】
したがって、特定の実施態様では、本発明によるプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子のFcドメインは、天然のIgGのFcドメインと比較して、Fc受容体に対する結合親和性の低下及び/又はエフェクター機能の低下を呈する。このような実施態様において、Fcドメイン(又は前記Fcドメインを含むプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子)は、天然のIgG Fcドメイン(又は天然のIgG Fcドメインを含むプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子)と比較して50%未満、好ましくは20%未満、更に好ましくは10%未満、最も好ましくは5%未満の、Fc受容体に対する結合親和性及び/又は天然のIgG Fcドメイン(又は天然のIgG Fcドメインを含むプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子)と比較して50%未満、好ましくは20%未満、更に好ましくは10%未満、最も好ましくは5%未満のエフェクター機能を呈する。ある実施態様において、Fcドメイン(又は前記Fcドメインを含むプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子)は、Fc受容体に実質的に結合せず、且つ/又はエフェクター機能を誘導しない。特定の実施態様では、Fc受容体は、Fcγ受容体である。ある実施態様において、Fc受容体は、ヒトFc受容体である。ある実施態様において、Fc受容体は、活性化Fc受容体である。具体的な実施態様では、Fc受容体は、活性化ヒトFcγ受容体であり、更に具体的にはヒトFcγRIIIa、FcγRI又はFcγRIIa、最も具体的にはヒトFcγRIIIaである。ある実施態様において、エフェクター機能は、CDC、ADCC、ADCP及びサイトカイン分泌の群から選択される1又は複数である。特定の実施態様では、エフェクター機能はADCCである。ある実施態様において、Fcドメインは、天然のIgG Fcドメインと比較して実質的に同様の、新生児Fc受容体(FcRn)に対する結合親和性を呈する。FcRnへの実質的に同様の結合は、Fcドメイン(又は前記Fcドメインを含むプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子)が天然のIgG Fcドメイン(又は天然のIgG Fcドメインを含むプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子)の約70%超、特に約80%超、更に詳細には約90%超の、FcRnに対する結合親和性を呈するとき、達成される。
【0177】
特定の実施態様では、Fcドメインは、Fc受容体への結合親和性及び/又はエフェクター機能が非改変型Fcドメインと比較して低下するように改変される。特定の実施態様において、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子のFcドメインは、Fc受容体へのFcドメインの結合親和性及び/又はエフェクター機能を低下させる1又は複数のアミノ酸変異を含む。典型的には、同じ1又は複数のアミノ酸変異がFcドメインの2つのサブユニットの各々に存在する。ある実施態様では、アミノ酸変異は、Fc受容体へのFcドメインの結合親和性を低下させる。ある実施態様において、アミノ酸変異は、Fc受容体へのFcドメインの結合親和性を、少なくとも2分の1、少なくとも5分の1又は少なくとも10分の1低下させる。Fc受容体へのFcドメインの結合親和性を低下させる、1つより多いアミノ酸変異が存在する実施態様において、これらのアミノ酸変異の組み合わせは、Fc受容体へのFcドメインの結合親和性を少なくとも10分の1、少なくとも20分の1又は更には少なくとも50分の1低下させ得る。ある実施態様において、改変されたFcドメインを含むプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、非改変Fcドメインを含むプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子と比較して20%未満、特に10%未満、更に詳細には5%未満の、Fc受容体に対する結合親和性を呈する。特定の実施態様において、Fc受容体は、Fcγ受容体である。いくつかの実施態様において、Fc受容体は、ヒトFc受容体である。いくつかの実施態様では、Fc受容体は、活性化Fc受容体である。具体的な実施態様では、Fc受容体は、活性化ヒトFcγ受容体であり、更に具体的にはヒトFcγRIIIa、FcγRI又はFcγRIIa、最も具体的にはヒトFcγRIIIaである。好ましくは、これらの各受容体への結合が低下する。いくつかの実施態様では、補体成分に対する結合親和性、特にC1qに対する結合親和性も低下する。ある実施態様では、新生児型Fc受容体(FcRn)に対する結合親和性は低下しない。FcRnへの実質的に同様の結合、すなわち前記受容体に対するFcドメインの結合親和性の保存は、Fcドメイン(又は前記Fcドメインを含むプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子)が、非改変型のFcドメイン(又は前記非改変型のFcドメインを含むプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子)のFcRn対する結合親和性の約70%超を呈するとき、達成される。Fcドメイン又は前記Fcドメインを含む本発明のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、そのような親和性の約80%超、更には約90%超を呈し得る。特定の実施態様において、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子のFcドメインは、非改変Fcドメインと比較して低下したフェクター機能を有するように改変される。エフェクター機能の低下は、限定されないが、補体依存性細胞傷害(CDC)の低下、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)の低下、抗体依存性細胞貪食(ADCP)の低下、サイトカイン分泌の低下、抗原提示細胞による免疫複合体媒介性抗原取り込みの減少、NK細胞への結合の低下、マクロファージへの結合の低下、単球への結合の低下、多形核細胞への結合の低下、アポトーシスを誘導する直接的シグナル伝達の減少、標的結合抗体の架橋の減少、樹状細胞成熟の低下、又はT細胞プライミングの低下のうちの1又は複数を含み得る。ある実施態様において、エフェクター機能の低下は、CDCの低下、ADCCの低下、ADCPの低下及びサイトカイン分泌の低下の群から選択される1又は複数である。特定の実施態様では、エフェクター機能の低下はADCCの低下である。ある実施態様において、ADCCの低下は、非改変Fcドメイン(又は非改変Fcドメインを含むプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子)により誘導されるADCCの20%未満である。
【0178】
ある実施態様において、Fc受容体へのFcドメインの結合親和性及び/又はエフェクター機能を低下させるアミノ酸変異は、アミノ酸置換である。ある実施態様において、Fcドメインは、E233、L234、L235、N297、P331及びP329の群から選択される位置にアミノ酸置換を含む。より具体的な実施態様において、Fcドメインは、L234、L235及びP329の群から選択される位置にアミノ酸置換を含む。いくつかの実施態様において、Fcドメインは、アミノ酸置換L234A及びL235Aを含む。このような実施態様では、Fcドメインは、IgG Fcドメイン、特にヒトIgG Fcドメインである。ある実施態様では、Fcドメインは、P329位にアミノ酸置換を含む。より具体的な実施態様において、アミノ酸置換は、P329A又はP329G、特にP329Gである。ある実施態様において、Fcドメインは、P329位にアミノ酸置換を含み、E233、L234、L235、N297、及びP331から選択される位置に更なるアミノ酸置換を含む。より具体的な実施態様において、更なるアミノ酸置換は、E233P、L234A、L235A、L235E、N297A、N297D又はP331Sである。特定の実施態様では、Fcドメインは、位置P329、L234、及びL235にアミノ酸置換を含む。更に特定の実施態様において、Fcドメインは、アミノ酸変異L234A、L235A、及びP329G(「P329G LALA」)を含む。このような実施態様では、Fcドメインは、IgG Fcドメイン、特にヒトIgG Fcドメインである。アミノ酸置換の「P329G LALA」の組み合わせは、参照により全体が本明細書に援用される国際公開第2012/130831号に記載のように、ヒトIgG FcドメインのFcγ受容体(並びに補体)結合をほぼ完全に消失させる。国際公開第2012/130831号には、このような変異体Fcドメインを調製する方法及びその特性(Fc受容体結合又はエフェクター機能など)を決定する方法も記載されている。
【0179】
IgG抗体は、IgG抗体と比較して、Fc受容体に対する結合親和性の低下及びエフェクター機能の低下を呈する。したがって、いくつかの実施態様において、本発明のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子のFcドメインは、IgG Fcドメイン、特にヒトIgG Fcドメインである。ある実施態様において、IgG Fcドメインは、S228位にアミノ酸置換、具体的にはアミノ酸置換S228Pを含む。Fc受容体へのその結合親和性及び/又はエフェクター機能を更に低下させるために、ある実施態様において、IgG Fcドメインは、L235位にアミノ酸置換、具体的にはアミノ酸置換L235Eを含む。別の実施態様において、IgG Fcドメインは、P329位にアミノ酸置換、具体的にはアミノ酸置換P329Gを含む。特定の実施態様において、IgG Fcドメインは、位置S228、L235、及びP329にアミノ酸置換、具体的にはアミノ酸置換S228P、L235E、及びP329Gを含む。このようなIgG Fcドメイン変異体及びそのFcγ受容体結合特性は、国際公開第2012/130831号(参照により全体が本明細書に援用される)に記載されている。
【0180】
特定の実施態様において、天然のIgG Fcドメインと比較してFc受容体への結合親和性の低下及び/又はエフェクター機能の低下を呈するFcドメインは、アミノ酸置換L234Aと、L235Aと、場合によりP329Gとを含むヒトIgG Fcドメイン、又はアミノ酸置換S228Pと、L235Eと、場合によりP329Gとを含むヒトIgG Fcドメインである。
【0181】
特定の実施態様では、FcドメインのNグリコシル化は排除されている。このような実施態様では、FcドメインはN297位にアミノ酸置換、特にアラニン(N297A)又はアスパラギン酸(N297D)でアスパラギンを置き換えるアミノ酸置換を含む。
【0182】
本明細書上記及び国際公開第2012/130831号に記載のFcドメインに加えて、Fc受容体結合及び/又はエフェクター機能の低下を伴うFcドメインは、Fcドメイン残基238、265、269、270、297、327、及び329の1又は複数の置換を有するものも含む(米国特許第6737056号)。このようなFc変異体は、残基265及び297のアラニンへの置換を伴ういわゆる「DANA」Fc変異体(米国特許第7332581号)など、アミノ酸位置265、269、270、297、及び327のうちの2以上に置換を有するFc変異体を含む。
【0183】
変異体Fcドメインは、当技術分野で周知の遺伝学的又は化学的方法を用いるアミノ酸の欠失、置換、挿入又は修飾により調製することができる。遺伝学的方法は、コード化DNA配列の部位特異的変異導入、PCR、遺伝子合成等を含み得る。正確なヌクレオチド変化は、例えば配列決定により検証することができる。
【0184】
Fc受容体への結合は、例えばELISAにより、又はBIAcore機器(GEヘルスケア)のような標準的な器具類を用いた表面プラズモン共鳴(SPR)により容易に決定することができ、Fc受容体は組換え発現により得ることができる。適切なこのような結合アッセイが本明細書に記載されている。代替的に、Fcドメイン又はFcドメインを含む細胞活性化二重特異性抗原結合分子のFc受容体に対する結合親和性は、特定のFc受容体を発現することが知られている細胞株、例えばFcγIIIa受容体を発現するヒトNK細胞を用いて評価してもよい。
【0185】
Fcドメイン又はFcドメインを含むプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子のエフェクター機能は、当技術分野で既知の方法で測定することができる。ADCCを測定するための適切なアッセイは、本明細書に記載されている。目的の分子のADCC活性を評価するためのin vitroアッセイの例は、米国特許第5500362号;Hellstrom et al.Proc Natl Acad Sci USA 83,7059-7063(1986)、及びHellstrom et al.,Proc Natl Acad Sci USA 82,1499-1502(1985);米国特許第5821337号;Bruggemann et al.,J Exp Med 166,1351-1361(1987)に記載されている。代替的に、非放射性アッセイ法を用いてもよい(例えば、フローサイトメトリー用のACTITM非放射性細胞傷害性アッセイ(CellTechnology社、カリフォルニア州マウンテンビュー.;及びCytoTox 96(登録商標)非放射性細胞傷害性アッセイ(プロメガ社、ウィスコンシン州マディソン)参照)。このようなアッセイに有用なエフェクター細胞は、末梢血単核球(PBMC)及びナチュラルキラー(NK)細胞を含む。代替的又は追加的に、目的の分子のADCC活性は、in vivoで、例えば動物モデル(Clynes et al.,Proc Natl Acad Sci USA 95,652-656(1998)に開示されているものなど)において評価されてもよい。
【0186】
いくつかの実施態様では、補体成分への、特にC1qへのFcドメインの結合が低下する。したがって、Fcドメインがエフェクター機能が低下するように改変されているいくつかの実施態様では、前記エフェクター機能の低下はCDCの低下を含む。C1q結合アッセイが、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子がC1qに結合でき、ゆえにCDC活性を有するかどうかを決定するために実行され得る。例えば、国際公開第2006/029879号及び国際公開第2005/100402号のC1q及びC3c結合ELISAを参照のこと。補体活性化を評価するために、CDCアッセイを行うことができる(例えば、Gazzano-Santoro et al.,J.Immunol.Methods 202:163(1996);Cragg,et al.,Blood 101:1045-1052(2003);及びCragg and Glennie,Blood 103:2738-2743(2004)を参照)。
【0187】
抗原結合部分
本発明の抗原結合分子は、二重特異性であり、すなわち2つの異なる抗原決定基に特異的に結合することができる少なくとも2つの抗原結合部分を含む。本発明によれば、抗原結合部分はFab分子(すなわち、各々が可変領域及び定常領域を含む重鎖と軽鎖とから構成される抗原結合ドメイン)である。ある実施態様では、前記Fab分子はヒトのものである。別の実施態様では、前記Fab分子はヒト化されている。更に別の実施態様では、前記Fab分子はヒト重鎖定常領域及びヒト軽鎖定常領域を含む。
【0188】
抗原結合部分の少なくとも一方はクロスオーバーFab分子である。このような修飾は、異なるFab分子の重鎖と軽鎖の誤対合を防ぎ、それにより組換え生産における本発明のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子の収率及び純度を向上させる。本発明のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子に有用な特定のクロスオーバーFab分子では、Fab軽鎖とFab重鎖の定常領域同士が交換されている。本発明のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子に有用な別のクロスオーバーFab分子では、Fab軽鎖とFab重鎖の可変領域同士が交換されている。
【0189】
本発明による特定の実施態様では、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、標的細胞抗原(特に腫瘍細胞抗原)及びCD3に同時結合することができる。ある実施態様では、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、標的細胞抗原とCD3に同時結合することにより、T細胞と標的細胞を架橋することができる。更に特定の実施態様では、このような同時結合は、標的細胞、特に腫瘍細胞の溶解を引き起こす。ある実施態様では、このような同時結合は、T細胞の活性化を引き起こす。他の実施態様では、このような同時結合は、活性化マーカーの増殖、分化、サイトカイン分泌、細胞傷害性エフェクター分子放出、細胞傷害活性、及び発現の群から選択される、Tリンパ球、特に細胞傷害性Tリンパ球の細胞応答を引き起こす。ある実施態様では、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子のCD3への、標的細胞抗原への同時結合を伴わない結合は、T細胞活性化を引き起こさない。
【0190】
ある実施態様では、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、T細胞の細胞傷害活性を標的細胞へリダイレクトすることができる。特定の実施態様では、前記リダイレクトは、標的細胞によるMHC媒介性ペプチド抗原提示及び/又はT細胞の特異性とは無関係である。
【0191】
特に、本発明の実施態様によるT細胞は細胞傷害性T細胞である。いくつかの実施態様では、T細胞は、CD4又はCD8 T細胞、特にCD8 T細胞である。
【0192】
CD3結合部分
本発明のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、CD3に結合することができる少なくとも1つの抗原結合部分(本明細書では「CD3抗原結合部分」又は「第1の抗原結合部分」ともいう)を含む。特定の実施態様では、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、CD3に結合できる抗原結合部分を1つまで含む。ある実施態様では、プロテアーゼ活性化型T細胞活性化二重特異性分子は、CD3への一価結合を提供する。CD3抗原結合は、クロスオーバーFab分子、すなわち、Fab重鎖と軽鎖の可変領域又は定常領域が交換されているFab分子である。プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子に含まれる標的細胞抗原に結合することができる1つより多い抗原結合部分が存在する実施態様では、CD3に結合することができる抗原結合部分は好ましくはクロスオーバーFab分子であり、標的細胞抗原に結合することができる抗原結合部分は従来のFab分子である。
【0193】
特定の実施態様では、CD3は、ヒトCD3又はカニクイザルCD3、とりわけヒトCD3である。特定の実施態様において、CD3抗原結合部分は、ヒトCD3及びカニクイザルCD3に対して交差反応性である(すなわち、それらに特異的に結合する)。いくつかの実施態様では、第1の抗原結合部分は、CD3のイプシロンサブユニットに結合することができる。
【0194】
CD3抗原結合部分は、配列番号2、配列番号4、及び配列番号10からな成る群より選択される少なくとも1つの重鎖相補性決定領域(CDR)と、配列番号20、配列番号21、及び配列番号22から成る群より選択される少なくとも1つの軽鎖CDRとを含む。
【0195】
ある実施態様では、CD3抗原結合部分は、配列番号2の重鎖CDR1、配列番号4の重鎖CDR2、配列番号10の重鎖CDR3、配列番号20の軽鎖CDR1、配列番号21の軽鎖CDR2、及び配列番号22の軽鎖CDR3を含む。
【0196】
ある実施態様において、CD3抗原結合部分は、配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号23のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変領域配列とを含む。
【0197】
ある実施態様では、CD3抗原結合部分は、配列番号16の重鎖可変領域配列と、配列番号23の軽鎖可変領域配列とを含んでいる。
【0198】
標的細胞抗原結合部分
本発明のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、標的細胞抗原に結合することができる少なくとも1つの抗原結合部分(本明細書では「標的細胞抗原結合部分」又は「第2の」若しくは「第3の」抗原結合部分ともいう)を含む。特定の実施態様では、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、標的細胞抗原に結合することができる2つの抗原結合部分を含む。このような特定の実施態様では、これらの抗原結合部分の各々は、同じ抗原決定基に特異的に結合する。更に特定の実施態様では、これらの抗原結合部分は全て同一である。ある実施態様では、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、標的細胞抗原に結合することができる免疫グロブリン分子を含む。ある実施態様では、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、標的細胞抗原に結合することができる抗原結合部分を2つまで含む。
【0199】
好ましい実施態様では、標的細胞抗原結合部分はFab分子、特に、特定の抗原決定基に結合し、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子を標的部位(例えば、抗原決定基を保持する特定のタイプの腫瘍細胞)に方向付けることができる従来のFab分子である。
【0200】
特定の実施態様では、標的細胞抗原結合部分は、細胞表面抗原に特異的に結合する。特定の実施態様では、標的細胞抗原結合部分は、標的細胞の表面の葉酸受容体1(FolR1)に特異的に結合する。別のこのような実施態様では、標的細胞抗原結合部分は、チロシナーゼ関連タンパク質1(TYRP1)、具体的にはヒトTYRP1に特異的に結合する。
【0201】
特定の実施態様では、標的細胞抗原結合部分は、腫瘍細胞上又はウイルス感染細胞上に提示された抗原などの、病的状態に関連する抗原に方向付けられる。適切な抗原は、細胞表面抗原、例えば細胞表面受容体であるが、これに限定されない。特定の実施態様では、抗原はヒト抗原である。特定の実施態様では、標的細胞抗原は、葉酸受容体1(FolR1)及びチロシナーゼ関連タンパク質1(TYRP1)から選択される。
【0202】
特定の実施態様では、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、FolR1に特異的な少なくとも1つの抗原結合部分を含む。ある実施態様では、FolR1はヒトFolR1である。ある実施態様では、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、ヒトFolR1に特異的であり、ヒトFolR2又はヒトFolR3に結合しない少なくとも1つの抗原結合部分を含む。ある実施態様では、FolR1に特異的な抗原結合部分は、配列番号54、配列番号55、及び配列番号56から成る群より選択される少なくとも1つの重鎖相補性決定領域(CDR)と、配列番号20、配列番号21、及び配列番号22の群より選択される少なくとも1つの軽鎖CDRとを含んでいる。
【0203】
ある実施態様では、FolR1に特異的な抗原結合部分は、配列番号54の重鎖CDR1、配列番号55の重鎖CDR2、配列番号56の重鎖CDR3、配列番号20の軽鎖CDR1、配列番号21の軽鎖CDR2、及び配列番号22の軽鎖CDR3を含む。
【0204】
更なる実施態様では、FolR1に特異的な抗原結合部分は、配列番号53と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%同一である重鎖可変領域配列、及び配列番号23と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%同一である軽鎖可変領域配列、又は機能性を保持するそのバリアントを含む。
【0205】
ある実施態様では、FolR1に特異的な抗原結合部分は、配列番号53のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と配列番号23のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含んでいる。
【0206】
マスキング部分
本発明のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、少なくとも1つのマスキング部分を含む。他の研究者は、結合部分によって認識される抗原の断片で結合部分をキャップすることによって、抗体の結合をマスクすることを試みてきた(例;国際公開第2013128194号)。このアプローチにはいくつかの限界がある。例えば、抗原を使用すると、結合部分の親和性を低下させる際に柔軟性が低下する。それというのも、抗原マスクによって確実にマスクされるためには、親和性が十分高くなければならないためである。また、解離した抗原は、in vivoでその同族受容体と結合して相互作用し、当該受容体を発現する細胞に望ましくないシグナルを引き起こす可能性がある。それに対して、本明細書に記載のアプローチは、抗イディオタイプ抗体又はその断片をマスクとして使用する。効果的なマスキング部分を設計するための2つの相反する考慮事項は、1.マスキングの効果及び2.マスキングの可逆性である。親和性が低すぎると、マスキングの効果がなくなる。しかし、親和性が高すぎると、マスキングプロセスを簡単に元に戻すことができない場合がある。高親和性の抗イディオタイプマスクと低親和性の抗イディオタイプマスクのどちらがより良く機能するかは予測できなかった。本明細書に記載のように、親和性の高いマスキング部分は、抗原結合側をマスキングする際に全体的に良好に機能し、同時に、分子の活性化のために効果的に除去することができた。ある実施態様では、抗イディオタイプマスクは、1-8nMのKDを有する。ある実施態様では、抗イディオタイプマスクは、37℃で2nMのKDを有する。ある特定の実施態様では、マスキング部分は、CD3、例えばヒトCD3に結合することができる第1の抗原結合部分のイディオタイプを認識する。ある特定の実施態様では、マスキング部分は、標的細胞抗原に結合することができる第2の抗原結合部分のイディオタイプを認識する。
【0207】
ある実施態様では、マスキング部分は、CD3結合部分をマスクし、配列番号2の重鎖CDR1、配列番号4の重鎖CDR2、配列番号10の重鎖CDR3、配列番号20の軽鎖CDR1、配列番号21の軽鎖CDR2、及び配列番号22の軽鎖CDR3のうちの少なくとも1つを含む。ある実施態様では、マスキング部分は、配列番号2の重鎖CDR1、配列番号4の重鎖CDR2、配列番号10の重鎖CDR3、配列番号20の軽鎖CDR1、配列番号21の軽鎖CDR2、及び配列番号22の軽鎖CDR3を含む。
【0208】
ある実施態様において、マスキング部分は、CD3結合部分をマスクし、配列番号16と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるポリペプチド配列を含む。ある実施態様において、マスキング部分は、CD3結合部分をマスクし、配列番号23のポリペプチド配列を含む。
【0209】
ある実施態様において、マスキング部分は、配列番号58の重鎖CDR1、配列番号59、配列番号84及び配列番号86から成る群より選択される重鎖CDR2、配列番号60の重鎖CDR3、配列番号62及び配列番号82から成る群より選択される軽鎖CDR1、配列番号63の軽鎖CDR2、並びに配列番号64及び配列番号88から成る群より選択される軽鎖CDR3のうちの少なくとも1つを含む。
【0210】
ある実施態様では、マスキング部分は、配列番号58の重鎖CDR1、配列番号59の重鎖CDR2、配列番号60の重鎖CDR3、配列番号62の軽鎖CDR1、配列番号63の軽鎖CDR2、及び配列番号64の軽鎖CDR3のうちの少なくとも1つを含む。ある実施態様では、マスキング部分は、配列番号57と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%同一である重鎖可変領域配列、及び配列番号61と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%同一である軽鎖可変領域配列、又は機能性を保持するそのバリアントを含む。
【0211】
ある実施態様では、マスキング部分は、配列番号58の重鎖CDR1、配列番号59の重鎖CDR2、配列番号60の重鎖CDR3、配列番号82の軽鎖CDR1、配列番号63の軽鎖CDR2、及び配列番号64の軽鎖CDR3のうちの少なくとも1つを含む。
【0212】
ある実施態様では、マスキング部分は、配列番号58の重鎖CDR1、配列番号84の重鎖CDR2、配列番号60の重鎖CDR3、配列番号82の軽鎖CDR1、配列番号63の軽鎖CDR2、及び配列番号64の軽鎖CDR3のうちの少なくとも1つを含む。
【0213】
ある実施態様では、マスキング部分は、配列番号58の重鎖CDR1、配列番号86の重鎖CDR2、配列番号60の重鎖CDR3、配列番号82の軽鎖CDR1、配列番号63の軽鎖CDR2、及び配列番号64の軽鎖CDR3のうちの少なくとも1つを含む。
【0214】
ある実施態様では、マスキング部分は、配列番号59の重鎖CDR1、配列番号86の重鎖CDR2、配列番号60の重鎖CDR3、配列番号62の軽鎖CDR1、配列番号63の軽鎖CDR2、及び配列番号88の軽鎖CDR3のうちの少なくとも1つを含む。
【0215】
好ましい実施態様では、マスキング部分はヒト化されている。好ましい実施態様では、分子の抗CD3抗原結合部位を可逆的に隠すためのイディオタイプ特異的ポリペプチドはヒト化されている。免疫グロブリンをヒト化する方法は、当技術分野で周知であり、本明細書に記載されている。
【0216】
ある実施態様において、提供されるのは、分子の抗CD3抗原結合部位を可逆的に隠すためのイディオタイプ特異的ポリペプチドであり、該イディオタイプ特異的ポリペプチドは、配列番号79、配列番号83、配列番号84、配列番号85及び配列番号89から成る群より選択されるアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号80、配列番号81、配列番号87及び配列番号90から成る群より選択されるアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変領域配列とを含む。
【0217】
好ましい実施態様において、提供されるのは、分子の抗CD3抗原結合部位を可逆的に隠すためのイディオタイプ特異的ポリペプチドであり、該イディオタイプ特異的ポリペプチドは、配列番号79、配列番号83及び配列番号85から成る群より選択されるアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号80及び配列番号81から成る群より選択されるアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変領域配列とを含む。
【0218】
ある実施態様において、提供されるのは、分子の抗CD3抗原結合部位を可逆的に隠すためのイディオタイプ特異的ポリペプチドであり、該イディオタイプ特異的ポリペプチドは、配列番号79と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号80と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変領域配列とを含む。好ましい実施態様において、提供されるのは、分子の抗CD3抗原結合部位を可逆的に隠すためのイディオタイプ特異的ポリペプチドであり、該イディオタイプ特異的ポリペプチドは、配列番号79の重鎖可変領域配列と配列番号80の軽鎖可変領域配列とを含む。
【0219】
ある実施態様において、提供されるのは、分子の抗CD3抗原結合部位を可逆的に隠すためのイディオタイプ特異的ポリペプチドであり、該イディオタイプ特異的ポリペプチドは、配列番号79と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号81と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変領域配列とを含む。好ましい実施態様において、提供されるのは、分子の抗CD3抗原結合部位を可逆的に隠すためのイディオタイプ特異的ポリペプチドであり、該イディオタイプ特異的ポリペプチドは、配列番号79の重鎖可変領域配列と配列番号81の軽鎖可変領域配列とを含む。
【0220】
ある実施態様において、提供されるのは、分子の抗CD3抗原結合部位を可逆的に隠すためのイディオタイプ特異的ポリペプチドであり、該イディオタイプ特異的ポリペプチドは、配列番号83と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号81と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変領域配列とを含む。好ましい実施態様において、提供されるのは、分子の抗CD3抗原結合部位を可逆的に隠すためのイディオタイプ特異的ポリペプチドであり、該イディオタイプ特異的ポリペプチドは、配列番号83の重鎖可変領域配列と配列番号81の軽鎖可変領域配列とを含む。
【0221】
ある実施態様において、提供されるのは、分子の抗CD3抗原結合部位を可逆的に隠すためのイディオタイプ特異的ポリペプチドであり、該イディオタイプ特異的ポリペプチドは、配列番号85と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号81と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変領域配列とを含む。好ましい実施態様において、提供されるのは、分子の抗CD3抗原結合部位を可逆的に隠すためのイディオタイプ特異的ポリペプチドであり、該イディオタイプ特異的ポリペプチドは、配列番号85の重鎖可変領域配列と配列番号81の軽鎖可変領域配列とを含む。
【0222】
ある実施態様において、提供されるのは、分子の抗CD3抗原結合部位を可逆的に隠すためのイディオタイプ特異的ポリペプチドであり、該イディオタイプ特異的ポリペプチドは、配列番号84と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号87と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変領域配列とを含む。ある実施態様において、提供されるのは、分子の抗CD3抗原結合部位を可逆的に隠すためのイディオタイプ特異的ポリペプチドであり、該イディオタイプ特異的ポリペプチドは、配列番号84の重鎖可変領域配列と配列番号87の軽鎖可変領域配列とを含む。
【0223】
ある実施態様において、提供されるのは、分子の抗CD3抗原結合部位を可逆的に隠すためのイディオタイプ特異的ポリペプチドであり、該イディオタイプ特異的ポリペプチドは、配列番号89と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号90と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変領域配列とを含む。ある実施態様において、提供されるのは、分子の抗CD3抗原結合部位を可逆的に隠すためのイディオタイプ特異的ポリペプチドであり、該イディオタイプ特異的ポリペプチドは、配列番号89の重鎖可変領域配列と配列番号90の軽鎖可変領域配列とを含む。
【0224】
ある実施態様において、マスキング部分は、配列番号91と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるポリペプチド配列を含む抗イディオタイプscFvである。ある実施態様において、抗イディオタイプscFvは、配列番号91のポリペプチド配列を含む。
【0225】
ある実施態様において、マスキング部分は、配列番号92と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるポリペプチド配列を含む抗イディオタイプscFvである。ある実施態様において、抗イディオタイプscFvは、配列番号92のポリペプチド配列を含む。
【0226】
ある実施態様において、マスキング部分は、配列番号93と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるポリペプチド配列を含む抗イディオタイプscFvである。ある実施態様において、抗イディオタイプscFvは、配列番号93のポリペプチド配列を含む。
【0227】
ある実施態様において、マスキング部分は、配列番号94と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるポリペプチド配列を含む抗イディオタイプscFvである。ある実施態様において、抗イディオタイプscFvは、配列番号94のポリペプチド配列を含む。
【0228】
CD3とFolR1に結合可能なプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子
CD3に結合することができる上記の第1の抗原結合部分、FolR1に結合することができる上記の第2の抗原結合部分、上記のFcドメイン、及び上記のマスキング部分は、様々な構成で互いに融合され得る。以下に、例示的な構成と配列を開示する。
【0229】
ある実施態様では、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、配列番号65と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるポリペプチド配列、配列番号66と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるポリペプチド配列、及び配列番号67と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるポリペプチド配列を含む。
【0230】
ある実施態様では、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、配列番号65のポリペプチド配列、配列番号66のポリペプチド配列、及び配列番号67のポリペプチド配列を含む。
【0231】
ある実施態様では、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、配列番号74と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるポリペプチド配列、配列番号66と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるポリペプチド配列、及び配列番号67と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるポリペプチド配列を含む。
【0232】
ある実施態様では、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、配列番号74のポリペプチド配列、配列番号66のポリペプチド配列、及び配列番号67のポリペプチド配列を含む。
【0233】
ある実施態様では、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、配列番号76と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるポリペプチド配列、配列番号66と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるポリペプチド配列、及び配列番号67と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるポリペプチド配列を含む。
【0234】
ある実施態様では、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、配列番号76のポリペプチド配列、配列番号66のポリペプチド配列、及び配列番号67のポリペプチド配列を含む。
【0235】
ある実施態様では、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、配列番号95と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるポリペプチド配列、配列番号66と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるポリペプチド配列、及び配列番号67と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるポリペプチド配列を含む。
【0236】
ある実施態様では、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、配列番号95のポリペプチド配列、配列番号66のポリペプチド配列、及び配列番号67のポリペプチド配列を含む。ある実施態様では、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、配列番号95の1つのポリペプチド配列、配列番号661つのポリペプチド配列、及び配列番号67の2つのポリペプチド配列を含む。
【0237】
ある実施態様では、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、配列番号96と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるポリペプチド配列、配列番号66と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるポリペプチド配列、及び配列番号67と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるポリペプチド配列を含む。
【0238】
ある実施態様では、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、配列番号96のポリペプチド配列、配列番号66のポリペプチド配列、及び配列番号67のポリペプチド配列を含む。ある実施態様では、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、配列番号96の1つのポリペプチド配列、配列番号66の1つのポリペプチド配列、及び配列番号67の2つのポリペプチド配列を含む。
【0239】
ある実施態様では、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、配列番号97と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるポリペプチド配列、配列番号66と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるポリペプチド配列、及び配列番号67と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるポリペプチド配列を含む。
【0240】
ある実施態様では、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、配列番号97のポリペプチド配列、配列番号66のポリペプチド配列、及び配列番号67のポリペプチド配列を含む。ある実施態様では、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、配列番号97の1つのポリペプチド配列、配列番号66の1つのポリペプチド配列、及び配列番号67の2つのポリペプチド配列を含む。
【0241】
ある実施態様では、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、配列番号98と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるポリペプチド配列、配列番号66と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるポリペプチド配列、及び配列番号67と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるポリペプチド配列を含む。
【0242】
ある実施態様では、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、配列番号98のポリペプチド配列、配列番号66のポリペプチド配列、及び配列番号67のポリペプチド配列を含む。ある実施態様では、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、配列番号98の1つのポリペプチド配列、配列番号66の1つのポリペプチド配列、及び配列番号67の2つのポリペプチド配列を含む。
【0243】
リンカー
ある態様では、本発明は、分子の抗原結合を可逆的に隠すためのイディオタイプ特異的ポリペプチドに関する。ある実施態様では、本発明は、分子の抗CD3抗原結合部位を可逆的に隠すためのイディオタイプ特異的ポリペプチドに関する。抗CD3抗原結合部位を可逆的に隠すためのこのようなイディオタイプ特異的ポリペプチドは、抗CD3抗原結合部位のイディオタイプに結合し、それによって抗CD3抗原結合部位のCD3への結合を低減又は排除することが可能である必要がある。ある実施態様では、イディオタイプ特異的ポリペプチドは、抗イディオタイプscFvである。ある実施態様では、イディオタイプ特異的ポリペプチドは、リンカーを介して分子に共有結合される。ある実施態様では、イディオタイプ特異的ポリペプチドは、1つより多いリンカーを介して分子に共有結合される。ある実施態様では、イディオタイプ特異的ポリペプチドは、2つのリンカーを介して分子に共有結合される。ある実施態様では、リンカーは、ペプチドリンカーである。ある実施態様では、リンカーは、プロテアーゼ切断可能リンカーである。
【0244】
ある実施態様では、プロテアーゼ活性化型T細胞活性化二重特異性分子は、配列番号68、70、75、99、115、116、117、118、119、120、121、122、123、124、125、126又は127に少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるポリペプチド配列を含むプロテアーゼ認識部位を含むリンカーを含む。ある実施態様において、プロテアーゼ認識部位は、配列番号100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、111、112、113又は114のポリペプチド配列を含む。好ましい実施態様において、プロテアーゼ認識部位は、配列番号114のポリペプチド配列を含む。
【0245】
ある実施態様において、プロテイナーゼは、メタロプロテイナーゼ(例えばマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)1-28、並びにA Disintegrin And Metalloproteinase(ADAM)2、7-12、15、17-23、28-30及び33;セリンプロテアーゼ(例えばウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子及びマトリプターゼ);システインプロテアーゼ;アスパラギン酸プロテアーゼ;並びにカテプシンプロテアーゼから成る群より選択される。ある特定の実施態様では、プロテアーゼはMMP9又はMMP2である。更なる特定の実施態様において、プロテアーゼはマトリプターゼである。
【0246】
ポリヌクレオチド
本発明は、本明細書に記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子をコードする単離ポリヌクレオチド又はその断片を更に提供する。いくつかの実施態様では、前記断片は、抗原結合断片である。
【0247】
本発明のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子をコードするポリヌクレオチドは、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子全体をコードする単一のポリヌクレオチドとして発現させてもよく、又は共発現される複数(例えば2つ以上)のポリヌクレオチドとして発現させてもよい。共発現しているポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドは、例えばジスルフィド結合又は他の手段を介して会合し、機能性のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子を形成することができる。例えば、抗原結合部分の軽鎖部分は、抗原結合部分の重鎖部分と、Fcドメインサブユニットと、場合により別の抗原結合部分(の一部)とを含むプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子の部分とは別のポリヌクレオチドによってコードされてもよい。共発現されると、重鎖ポリペプチドは軽鎖ポリペプチドと会合して、抗原結合部分を形成する。別の例では、2つのFcドメインサブユニットの一方及び場合によって1又は複数の抗原結合部分(の一部)を含むプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子の部分は、2つのFcドメインサブユニットの他方及び場合によって抗原結合部分(の一部)を含むプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子の部分とは別のポリヌクレオチドによってコードされ得る。共発現されると、Fcドメインサブユニットは会合して、Fcドメインを形成する。
【0248】
いくつかの実施態様では、単離ポリヌクレオチドは、本明細書に記載の本発明によるプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子全体をコードする。他の実施態様では、単離ポリヌクレオチドは、本明細書に記載される、本発明によるプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子に含まれるポリペプチドをコードする。
【0249】
別の実施態様では、本発明は、本発明のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子又はその断片をコードする単離ポリヌクレオチドに関するものであり、該ポリヌクレオチドは可変領域配列をコードする配列を含む。別の実施態様では、本発明は、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子又はその断片をコードする単離ポリヌクレオチドに関するものであり、該ポリヌクレオチドは、配列番号65、66、67、69、74、76、91、92、93、94、95、96、97、98に示すポリペプチド配列又はそれらの断片をコードする配列を含む。
【0250】
本発明のイディオタイプ特異的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、イディオタイプ特異的ポリペプチド全体をコードする単一のポリヌクレオチドとして発現させてもよく、又は共発現される複数の(例えば2つ以上の)ポリヌクレオチドとして発現させてもよい。共発現されるポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドは、例えばジスルフィド結合又は他の手段により会合し、機能的イディオタイプ特異的ポリペプチド、例えばマスキング部分を形成することができる。例えば、ある実施態様では、イディオタイプ特異的ポリペプチドは抗イディオタイプscFv(一本鎖可変断片)であり、抗イディオタイプscFvの軽鎖可変部分は、抗イディオタイプscFvの重鎖可変部分を含む部分とは別のポリヌクレオチドによりコードされてもよい。共発現されると、重鎖ポリペプチドは軽鎖ポリペプチドと会合して、抗イディオタイプscFvを形成する。いくつかの実施態様では、単離ポリヌクレオチドは、本明細書に記載の本発明によるイディオタイプ特異的ポリペプチドをコードする。
【0251】
特定の実施態様では、上記ポリヌクレオチド又は核酸はDNAである。他の実施態様では、本発明のポリヌクレオチドはRNA、例えばメッセンジャーRNA(mRNA)の形態のRNAである。本発明のRNAは、一本鎖でも二本鎖でもよい。
【0252】
組換え法
本発明のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、例えば固相ペプチド合成(例えばメリフィールド固相合成法)又は組換え生産によって得られてもよい。組換え生産の場合、例えば上記のような、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子(断片)をコードする1又は複数のポリヌクレオチドが単離され、宿主細胞における更なるクローニング及び/又は発現のために1又は複数のベクターに挿入される。このようなポリヌクレオチドは、従来の手順を用いて容易に単離及び配列決定することができる。ある実施態様において、本発明のポリヌクレオチドの1又は複数を含むベクタ-、好ましくは発現ベクターが提供される。当業者によく知られている方法を使用して、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子(断片)のコード配列を適切な転写/翻訳制御シグナルと共に含む発現ベクターを構築することができる。これらの方法は、in vitro組換えDNA技術、合成技術、及びin vivo組換え/遺伝子組換えを含む。例えば、Maniatis et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,N.Y.(1989);及びAusubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology,Greene Publishing Associates and Wiley Interscience,N.Y(1989)に記載の技術を参照。発現ベクターはプラスミド、ウイルスの一部であっても、又は核酸断片であってもよい。発現ベクターは、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子(断片)をコードするポリヌクレオチド(すなわちコード領域)がプロモーター及び/又は他の転写若しくは翻訳制御エレメントと作動可能に会合してクローニングされている発現カセットを含む。本明細書で使用する場合、「コード領域」は、アミノ酸に翻訳されるコドンから成る、核酸の一部である。「停止コドン」(TAG、TGA又はTAA)はアミノ酸に翻訳されないが、コード領域(存在する場合)の一部と見なすことができる、但し、プロモーター、リボソーム結合部位、転写ターミネーター、イントロン、5’及び3’未翻訳領域等の隣接配列は、コード領域の一部ではない。2つ以上のコード領域が、単一のポリヌクレオチド構築物中(例えば単一のベクター上)に、又は別々のポリヌクレオチド構築物中(例えば別々の(異なる)ベクター上)に存在することができる。更に、いかなるベクターも、単一のコード領域を含んでいても、2つ以上のコード領域を含んでいてもよく、例えば本発明のベクターは、タンパク質切断によって翻訳後又は翻訳と同時に最終タンパク質に分離される1又は複数のポリペプチドをコードすることができる。加えて、本発明のベクター、ポリヌクレオチド又は核酸は異種コード領域をコードしていてもよく、該異種コード領域は本発明のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子(断片)又はそのバリアント若しくは誘導体をコードするポリヌクレオチドに融合していても、融合していなくてもよい。異種コード領域としては、限定されないが、分泌シグナルペプチド又は異種機能ドメインなどの特殊なエレメント又はモチーフが挙げられる。作動可能な会合とは、ポリペプチドなどの遺伝子産物のコード領域が、遺伝子産物の発現を調節配列の影響又は制御下に置くような方法で、1又は複数の調節配列と会合している場合である。2つのDNA断片(ポリペプチドコード領域とそれに会合するプロモーターなど)は、プロモーター機能の誘導が所望の遺伝子産物をコードするmRNAの転写をもたらす場合、且つ、2つのDNA断片間の連結の性質が遺伝子産物の発現を指示する発現調節配列の能力を妨げないか又は転写されるDNA鋳型の能力を妨げない場合、「作動可能に会合」している。したがって、プロモーター領域は、プロモーターがその核酸の転写を行うことができる場合、ポリペプチドをコードする核酸と作動可能に会合している。プロモーターは、所定の細胞においてのみDNAの実質的な転写を指示する、細胞特異的プロモーターであってもよい。プロモーター以外に、他の転写調節エレメント、例えばエンハンサー、オペレーター、リプレッサー及び転写終結シグナルが、細胞特異的転写を指示するポリヌクレオチドと作動可能に会合することができる。適切なプロモーター及び他の転写調節領域は、本明細書に開示されている。様々な転写調節領域が当業者に知られている。これらには、限定されないが、脊椎動物細胞において機能する転写調節領域、例えば、限定されないが、サイトメガロウイルス(例えば、イントロンAと連結した最初期プロモーター)、シミアンウイルス40(例えば初期プロモーター)、及びレトロウイルス(例えばラウス肉腫ウイルス)由来のプロモーターセグメント及びエンハンサーセグメントが含まれる。他の転写調節領域としては、脊椎動物の遺伝子由来のもの、例えばアクチン、熱ショックタンパク質、ウシ成長ホルモン及びウサギαグロビン、並びに、真核細胞における遺伝子発現を制御することができる他の配列が挙げられる。更なる適切な転写調節領域には、組織特異的プロモーター及びエンハンサー、並びに誘導性プロモーター(例えば、テトラサイクリンを誘導可能なプロモーター)が含まれる。同様に、様々な翻訳調節エレメントが当業者に知られている。これらには、限定されないが、リボソーム結合部位、翻訳開始及び終結コドン、並びにウイルス系由来のエレメント(特に、配列内リボソーム進入部位すなわちIRES、別名CITE配列)が含まれる。また、発現カセットは、複製起点及び/又はレトロウイルスの長い末端反復(LTR)若しくはアデノ随伴ウイルス(AAV)逆位末端反復(ITR)などの染色体組み込みエレメントなどの他の特徴を含んでいてもよい。
【0253】
本発明のポリヌクレオチド及び核酸コード領域は、本発明のポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドの分泌を指示する分泌ペプチド又はシグナルペプチドをコードする更なるコード領域と会合させることができる。例えば、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子の分泌が望まれる場合、シグナル配列をコードするDNAは、本発明のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子又はその断片をコードする核酸の上流に位置していてもよい。シグナル仮説によると、哺乳動物細胞によって分泌されるタンパク質は、粗面小胞体を横切る成長途中のタンパク質鎖の輸送が開始されると成熟タンパク質から切断されるシグナルペプチド又は分泌リーダー配列を有する。当業者は、脊椎動物細胞によって分泌されるポリペプチドが一般に、ポリペプチドのN末端に融合されたシグナルペプチドを有し、それが翻訳されたポリペプチドから切断されて分泌又は「成熟」型のポリペプチドを産生することを知っている。特定の実施態様では、天然のシグナルペプチド、例えば免疫グロブリン重鎖若しくは軽鎖シグナルペプチド、又はそれと作動可能に会合しているポリペプチドの分泌を指示する能力を保持する、その配列の機能的誘導体が使用される。或いは、異種哺乳動物シグナルペプチド又はその機能性誘導体を使用してもよい。例えば、野生型リーダー配列は、ヒト組織プラスミノーゲン活性化因子(TPA)又はマウスβ-グルクロニダーゼのリーダー配列で置換されてもよい。
【0254】
後の精製を容易にするため又はプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子を標識するのに役立てるために使用可能な短いタンパク質配列(例えば、ヒスチジンタグ)をコードするDNAが、ポリヌクレオチドをコードするプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子(断片)の中に、又はその末端に含まれていてもよい。
【0255】
更なる実施態様では、本発明の1又は複数のポリヌクレオチドを含む宿主細胞が提供される。特定の実施態様では、本発明の1又は複数のベクターを含む宿主細胞が提供される。ポリヌクレオチド及びベクターは、それぞれポリヌクレオチド、ベクターに関連して本明細書に記載されている特徴のいずれかを単独で又は組み合わせて組み入れることができる。そのような実施態様において、宿主細胞は、本発明のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子(の一部)をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを含む(例えば該ベクターで形質転換又はトランスフェクトされている)。本明細書で使用される場合、「宿主細胞」という用語は、本発明のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子又はその断片を生成するように操作することが可能な任意の種類の細胞系を指す。プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子の発現を助けるのに適した宿主細胞が当技術分野でよく知られている。このような細胞は、特定の発現ベクターで適宜トランスフェクション又は形質導入し、大量のベクター含有細胞を増殖させて大規模な発酵槽に播種し、臨床応用に十分な量のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子を得ることができる。適切な宿主細胞は、原核微生物(prokaryotic microorganism)(例えば大腸菌)又は種々の真核生物細胞(チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)、昆虫細胞等を含む。例えば、特にグリコシル化が必要でない場合、ポリペプチドは細菌中で産生され得る。発現後、ポリペプチドを菌体ペーストから可溶性画分として単離することができ、更に精製することができる。原核生物に加えて、糸状菌又は酵母などの真核微生物がポリペプチドをコードするベクターのクローニング又は発現宿主として適しており、これには、グリコシル化経路が「ヒト化」されており、部分的に又は完全にヒトグリコシル化パターンを有するポリペプチドの産生をもたらす真菌及び酵母株も含まれる。Gerngross,Nat Biotech 22,1409-1414(2004)及びLi et al.,Nat Biotech 24,210-215(2006)を参照。(グリコシル化)ポリペプチドの発現に適した宿主細胞は、多細胞生物(無脊椎動物及び脊椎動物)にも由来する。無脊椎動物細胞の例には、植物細胞及び昆虫細胞が含まれる。特にヨトウガ(Spodoptera frugiperda)細胞のトランスフェクションのために昆虫細胞と併せて使用できる多数のバキュロウイルス株が同定されている。植物細胞培養物も、宿主として利用することができる。例えば、米国特許第5959177号、同第6040498号、同第6420548号、同第7125978号、及び同第6417429号(トランスジェニック植物において抗体を産生するためのPLANTIBODIESTM技術を記載)を参照。脊椎動物細胞も宿主として用いることができる。例えば、懸濁液中で増殖するように適合されている哺乳動物細胞株が有用である場合がある。有用な哺乳動物宿主細胞株の他の例は、SV40(COS-7)によって形質転換されたサル腎臓CV1株;ヒト胚腎臓株(例えばGraham et al.,J Gen Virol36,59(1977)に記載されているような293細胞又は293T細胞)、ベビーハムスター腎臓細胞(BHK)、マウスセルトリ細胞(例えばMather,Biol Reprod 23、243-251(1980)に記載されているようなTM4細胞)、サル腎臓細胞(CV1)、アフリカミドリサル腎臓細胞(VERO-76)、ヒト子宮頸癌細胞(HELA)、イヌ腎臓細胞(MDCK)、バッファローラット肝臓細胞(BRL 3A)、ヒト肺細胞(W138)、ヒト肝臓細胞(Hep G2)、マウス乳房腫瘍細胞(MMT 060562)、TRI細胞(例えばMather et al.,Annals N.Y.Acad Sci 383,44-68(1982)に記載されているもの)、MRC 5細胞、及びFS4細胞である。他の有用な哺乳動物宿主細胞株には、dhfrCHO細胞(Urlaub et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:4216(1980))を含むチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞;及びYO、NS0、P3X63、及びSp2/0などの骨髄腫細胞株が含まれる。タンパク質産生に適した特定の哺乳動物宿主細胞の総説としては、例えば、Yazaki and Wu,Methods in Molecular Biology,Vol.248(B.K.C.Lo,ed.,Humana Press,Totowa,NJ),255-268頁(2003)を参照されたい。宿主細胞としては、培養細胞、例えば、ほんの数例を挙げると、哺乳動物培養細胞、酵母細胞、昆虫細胞、細菌細胞、及び植物細胞が挙げられるが、トランスジェニック動物、トランスジェニック植物又は培養植物若しくは動物組織内部に含まれる細胞も挙げられる。ある実施態様では、宿主細胞は、真核細胞、好ましくは、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、ヒト胚腎臓(HEK)細胞又はリンパ球細胞(例えばY0、NS0、Sp20細胞)などの哺乳動物細胞である。
【0256】
これらの系において外来遺伝子を発現させるための標準的な技術が当技術分野で知られている。抗体などの抗原結合ドメインの重鎖又は軽鎖のいずれか一方を含むポリペプチドを発現する細胞を、もう一方の抗体鎖も発現するように操作して、発現産物が重鎖と軽鎖の両方を有する抗体であるようにしてもよい。
【0257】
ある実施態様において、本発明によるプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子を生産する方法が提供され、この方法は、本明細書に提供されるように、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子の発現に適した条件下で、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子をコードするポリヌクレオチドを含む宿主細胞を培養することと、宿主細胞(又は宿主細胞培養培地)からプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子を回収することとを含む。
【0258】
プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子の構成要素は、互いに遺伝的に融合している。プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、その構成要素が互いに直接的に又はリンカー配列を介して間接的に融合されるように設計することができる。リンカーの組成及び長さは、当技術分野で周知の方法に従って決定することができ、有効性について試験することができる。プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子の異なる成分間のリンカー配列の例は、本明細書に提供される配列に見出される。また、望ましい場合、切断部位を組み入れて融合体の個々の構成要素を分離するために、追加の配列(例えばエンドペプチダーゼ認識配列)を含めることもできる。
【0259】
特定の実施態様では、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子の1又は複数の抗原結合部分は、抗原決定基に結合することができる抗体可変領域を少なくとも含む。可変領域は、天然又は非天然の抗体及びその断片の一部を形成することができ、且つ、それらに由来し得る。ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体を生産する方法は、当技術分野で周知である(例えば、Harlow and Lane,「Antibodies,a laboratory manual」,Cold Spring Harbor Laboratory,1988参照)。非天然の抗体は、固相ペプチド合成を使用して構築することができ、(例えば米国特許第4186567号に記載のように)組換え生産することも、又は例えば可変重鎖及び可変軽鎖を含むコンビナトリアルライブラリーをスクリーニングすることによって得ることができる(例えばMcCaffertyへの米国特許第5969108号を参照)。
【0260】
あらゆる動物種の抗体、抗体断片、抗原結合ドメイン又は可変領域を、本発明のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子に用いることができる。本発明において有用な非限定的抗体、抗体断片、抗原結合ドメイン又は可変領域は、マウス、霊長類又はヒト起源のものとすることができる。プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子のヒトでの使用が意図される場合、抗体の定常領域がヒトに由来する抗体のキメラ形態を使用することができる。「ヒト化」又は完全ヒト形態の抗体も、当技術分野でよく知られている方法に従って調製することができる(例えばWinterへの米国特許第5565332号を参照)。ヒト化は、様々な方法によって達成することができ、それらの方法には、限定されないが、(a)非ヒト(例えばドナー抗体)のCDRを、重要なフレームワーク残基(例えば、良好な抗原結合親和性又は抗体機能を維持するために重要な残基)の保持の有無に関わらず、ヒト(例えばレシピエント抗体)のフレームワーク領域及び定常領域に移植すること、(b)非ヒト特異性決定領域(SDR又はa-CDR;抗体-抗原相互作用に重要な残基)のみをヒトフレームワーク領域及び定常領域に移植すること、又は(c)非ヒト可変ドメイン全体を移植するが、表面残基の置き換えによってそれらをヒト様セクションで「クローキング」することが含まれる。ヒト化抗体及びその製造方法は、例えば、Almagro and Fransson,Front.Biosci.13:1619-1633(2008)に総説され、更に、例えばRiechmann et al.,Nature 332,323-329(1988);Queen et al.,Proc Natl Acad Sci USA 86,10029-10033(1989);米国特許第5821337号、同第7527791号、同第6982321号、及び同第7087409号;Jones et al.,Nature 321,522-525(1986);Morrison et al.,Proc Natl Acad Sci 81,6851-6855(1984);Morrison and Oi,Adv Immunol 44,65-92(1988);Verhoeyen et al.,Science 239,1534-1536(1988);Padlan,Molec Immun 31(3),169-217(1994);Kashmiri et al.,Methods 36,25-34(2005)(SDR(a-CDR)移植について記載);Padlan,Mol Immunol 28,489-498(1991)(「リサーフェイシング」について記載);Dall’Acqua et al.,Methods 36,43-60(2005)(「FRシャフリング」について記載);並びにOsbourn et al.,Methods 36,61-68(2005)及びKlimka et al.,Br J Cancer 83,252-260(2000)(FRシャフリングへの「誘導選択(guided selection)」アプローチについて記載)に記載されている。ヒト抗体及びヒト可変領域は、当技術分野において既知の様々な技術を用いて作製することができる。ヒト抗体は、van Dijk and van de Winkel,Curr.Opin.Pharmacol.5:368-74(2001)及びLonberg,Curr.Opin.Immunol.20:450-459(2008)に一般的に記載されている。ヒト可変領域は、ハイブリドーマ法によって作製されたヒトモノクローナル抗体の一部を形成することができ、且つそれに由来し得る(例えば、Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications,51-63頁(Marcel Dekker,Inc.,New York,1987)を参照)。ヒト抗体及びヒト可変領域は、抗原チャレンジに応答して、インタクトなヒト抗体又はヒト可変領域を持つインタクトな抗体を産生するように改変されたトランスジェニック動物に、免疫原を投与することによっても調製することができる(例えば、Lonberg,Nat Biotech 23,1117-1125(2005)を参照)。ヒト抗体及びヒト可変領域はまた、ヒト由来のファージディスプレイライブラリーから選択されたFvクローン可変領域配列を単離することによっても作製することができる(例えば、Hoogenboom et al.,Methods in Molecular Biology 178,1-37(O’Brien et al.,ed.,Human Press,Totowa,NJ,2001);及びMcCafferty et al.,Nature 348,552-554;Clackson et al.,Nature 352,624-628(1991)参照)。ファージは通常、抗体断片を、一本鎖Fv(scFv)断片又はFab断片として表示する。
【0261】
特定の実施態様では、本発明において有用な抗原結合部分は、例えば米国特許出願公開第2004/0132066号(この全内容は参照により本明細書に援用される)に開示される方法に従い、増強された結合親和性を有するように改変される。本発明のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子の、特定の抗原決定基への結合能は、酵素結合免疫吸着法(ELISA)又は当業者によく知られた他の技術、例えば表面プラズモン共鳴技術(BIACORE T100システムでの分析)(Liljeblad et al.,Glyco J 17,323-329(2000))及び古典的な結合アッセイ(Heeley,Endocr Res 28,217-229(2002))により測定することができる。競合アッセイを使用して、特定の抗原への結合について参照抗体と競合する抗体、抗体断片、抗原結合ドメイン又は可変ドメイン、例えばCD3への結合についてV9抗体と競合する抗体を同定することができる。特定の実施態様では、このような競合抗体は、参照抗体によって結合される同じエピトープ(例えば直鎖状又はコンフォメーションエピトープ)に結合する。抗体が結合するエピトープをマッピングするための詳細な例示的な方法が、Morris(1996)によるMethods in Molecular Biology第66巻の「Epitope Mapping Protocols」(Humana Press,Totowa,NJ)に提供されている。例示的な競合アッセイにおいて、固定化抗原(例えばCD3)は、抗原に結合する第1の標識抗体(例えばV9抗体、米国特許第6054297号に記載)と、抗原への結合について第1の抗体と競合する能力について試験される第2の非標識抗体とを含む溶液中でインキュベートされる。第2の抗体は、ハイブリドーマ上清中に存在してもよい。コントロールとして、固定化抗原が、第1の標識抗体を含むが第2の非標識抗体は含まない溶液中でインキュベートされる。第1の抗体の該抗原への結合を許容する条件下でインキュベートした後、過剰な未結合抗体が除去され、固定化抗原と会合した標識の量が測定される。固定化抗原と会合した標識の量がコントロール試料と比較して試験試料中で実質的に減少している場合、それは、第2の抗体が、該抗原への結合について第1の抗体と競合していることを示している。Harlow and Lane (1988)Antibodies:A Laboratory Manual 14章(Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,NY)を参照。
【0262】
本明細書に記載されるように調製されたプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、当分野で知られている技術、例えば高速液体クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、アフィニティークロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー等によって精製することができる。特定のタンパク質を精製するために用いられる実際の条件は、正味荷電、疎水性、親水性などの因子に部分的に依存し、当業者には明らかであろう。アフィニティークロマトグラフィー精製では、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子が結合する抗体、リガンド、受容体又は抗原が使用され得る。例えば、本発明のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子のアフィニティークロマトグラフィー精製の場合、プロテインA又はプロテインGを含むマトリックスを使用することができる。連続的なプロテインA又はGアフィニティークロマトグラフィー及びサイズ排除クロマトグラフィーを使用して、基本的に実施例に記載されるように、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子を単離することができる。プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子の純度は、ゲル電気泳動、高圧液体クロマトグラフィーなどを含む様々な周知の分析方法のいずれかによって決定することができる。例えば、実施例に記載されるように発現させた重鎖融合タンパク質は、還元SDS-PAGEにより実証されるように、無傷で適切に組み立てられていることが示された(図8-12参照)。プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子の軽鎖、重鎖、及び重鎖/軽鎖融合タンパク質の予測される分子量に対応する、概ねMr25000,Mr50000及びMr75000の3つのバンドが分離された。
【0263】
アッセイ
本明細書で提供されるプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、その物理的/化学的性質及び/又は生物学的活性について、当技術分野で既知の様々なアッセイによって、同定、スクリーニング又は特性評価することができる。
【0264】
親和性アッセイ
プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子のFc受容体又は標的抗原に対する親和性は、実施例に記載の方法に従い、BIAcore機器(GEヘルスケア)などの標準的な器具類と、組換え発現によって得ることができる受容体又は標的タンパク質とを使用する表面プラズモン共鳴アッセイ(SPR)によって決定することができる。或いは、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子の異なる受容体又は標的抗原に対する結合は、特定の受容体又は標的抗原を発現する細胞株を使用して、例えばフローサイトメトリー(FACS)により評価することも可能である。結合親和性を測定するための特定の実例となる例示的な実施態様は、以下及び後述の実施例に記載されている。
【0265】
ある実施態様によれば、Kは、25 ℃でBIACORE(登録商標)T100マシン(GEヘルスケア)を用いた表面プラズモン共鳴により測定される。
【0266】
Fc-部分とFc受容体との相互作用を分析するために、Hisタグを付した組換えFc受容体を、CM5チップ上に固定化した抗ペンタHis抗体(Qiagen)により捕捉し、二重特異性コンストラクトをアナライトとして使用する。端的に言えば、カルボキシメチル化デキストランバイオセンサーチップ(CM5、GEヘルスエア)を、供給業者の説明書に従ってN-エチル-N’-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド塩酸塩(EDC)及びN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)で活性化させる。抗ペンタHis抗体を、10mM酢酸ナトリウム(pH5.0)で40μg/mlに希釈した後、5μl/minの流量で注入し、約6500反応単位(RU)の結合タンパク質を得る。リガンドの注入後、1Mのエタノールアミンを注入し、未反応基をブロックする。その後、Fc受容体を4又は10nMで60秒間捕捉する。反応速度測定のため、二重特異性構築物の4倍の連続希釈物(500nMから4000nMの間の範囲)を、HBS-EP(GEヘルスケア、10mM HEPES、150mM NaCl、3mM EDTA、0.05 %Surfactant P20、pH 7.4)に25 ℃で流量30μl/minで120秒間注入する。
【0267】
標的抗原に対する親和性を決定するため、抗ペンタHis抗体について記載したように、活性化させたCM5センサーチップ表面に固定化した抗ヒトFab特異的抗体(GEヘルスケア)によって二重特異性構築物を捕捉する。結合タンパク質の最終的な量は、約12000RUである。二重特異性構築物を、300nMで90秒間捕捉する。標的抗原は、250から1000nMの濃度範囲で、流量30μl/minで180秒間フローセルに通過させる。解離を180秒間モニターする。
【0268】
バルク屈折率差を、参照フローセルで得られた応答を差し引くことによって補正する。定常応答を用いて、ラングミュア結合等温線の非線形曲線フィッティングにより解離定数Kを導出した。会合センサーグラム及び解離センサーグラムを同時にフィッティングすることによる単純な一対一ラングミュア結合モデル(BIACORE(登録商標)T100 Evaluation Softwareバージョン1.1.1)を用いて、会合速度(kon)と解離速度(koff)を算出する。平衡解離定数(K)は、比率koff/konとして算出される。例えば、Chen et al.,J Mol Biol 293,865-881(1999)を参照。
【0269】
活性アッセイ
本発明のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子の生物学的活性は、実施例に記載の様々なアッセイにより測定することができる。生物学的活性には、例えば、T細胞の増殖の誘導、T細胞中のシグナル伝達の誘導、T細胞中の活性化マーカーの発現の誘導、T細胞によるサイトカイン分泌の誘導、腫瘍細胞などの標的細胞の溶解の誘導、及び腫瘍後退の誘導及び/又は生存率の改善が含まれる。
【0270】
組成物、製剤、及び投与経路
更なる態様において、本発明は、本明細書で提供されるプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子のいずれかを含む薬学的組成物、例えば、下記の治療方法のいずれかに使用するための薬学的組成物を提供する。実施態様では、薬学的組成物は、本明細書で提供されるプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子のいずれかと、薬学的に許容される担体とを含む。別の実施態様において、薬学的組成物は、本明細書で提供されるプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子のいずれかと、例えば後述するような少なくとも1種の追加の治療剤とを含む。
【0271】
更には、in vivoでの投与に適した形態の、本発明のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子を生成する方法であって、(a)本発明によるプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子を得ることと、(b)少なくとも1種の薬学的に許容される担体と共にプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子を配合し、それによってプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子の調製物がin vivo投与用に製剤化されることとを含む方法が提供される。
【0272】
本発明の薬学的組成物は、薬学的に許容される担体に溶解又は分散した1又は複数のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子の治療的有効量を含む。「薬学的に許容される又は薬理学的に許容される」という語句は、用いられる用量及び濃度でレシピエントに対して一般に無毒である、すなわち、例えばヒトなどの動物に必要に応じて投与されたとき、副作用、アレルギー反応又は他の有害反応を生じない分子実体及び組成物を指す。少なくとも1のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子と、任意選択的に追加の活性成分とを含有する薬学的組成物の調製は、Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th Ed.Mack Printing Company,1990(参照により本明細書に援用される)によって例示されているとおりであり、本開示に照らして当業者には既知であろう。更に、動物(例えばヒト)への投与の場合、調製物は、FDAのOffice of Biological Standards又は他国のそれに相当する機関が求める無菌状態、発熱性、一般的安全性及び純度の基準を満たさねばならない。好ましい組成物は、凍結乾燥製剤又は水性液剤である。本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される担体」は、あらゆる溶媒、バッファー、分散媒体、コーティング、界面活性剤、抗酸化剤、防腐剤(例えば抗菌剤、抗真菌剤)、等張化剤、吸収遅延剤、塩、保存剤、酸化防止剤、タンパク質、薬物、薬物安定化剤、ポリマー、ゲル、バインダー、賦形剤、崩壊剤、滑剤、甘味剤、香味剤、染料など、当業者には知られているような材料及びそれらの組み合わせを含む(例えば、参照により本明細書に援用されるRemington’s Pharmaceutical Sciences,18th Ed.Mack Printing Company,1990,1289-1329頁を参照)。従来の担体が活性成分と配合禁忌でない限り、治療用組成物又は薬学的組成物におけるその使用が企図される。
【0273】
組成物は、それが固体、液体又はエアロゾルの形態で投与されるかどうか、及び注射などの投与経路のために無菌である必要があるかどうかに応じて、異なる種類の担体を含むことができる。本発明のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子(及び任意の追加の治療剤)は、静脈内、皮内、動脈内、腹腔内、病巣内、頭蓋内、関節内、前立腺内、脾臓内、腎臓内、胸膜内、気管内、鼻腔内、硝子体内、膣内、直腸内、腫瘍内、筋肉内、腹腔内、皮下、結膜下、小胞内、経粘膜、心膜内、臍内、眼内、経口で、局所的に、局部的に、吸入(例えばエアロゾル吸入)、注射、注入、持続注入、標的細胞を直接浸す局所灌流で、カテーテルを介して、洗浄液を介して、クリーム剤で(in cremes)、脂質組成物(例えばリポソーム)で、又は当業者に知られているであろう他の方法若しくは上記の任意の組み合わせによって投与することができる(例えば、参照により本明細書に援用されるRemington’s Pharmaceutical Sciences,18th Ed.Mack Printing Company,1990参照)。非経口投与、特に静脈内注入が、本発明のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子などのポリペプチド分子を投与するために最も一般的に使用される。
【0274】
非経口組成物には、注射による投与、例えば皮下、皮内、病巣内、静脈内、動脈内、筋肉内、髄腔内又は腹腔内注射用に設計されたものが含まれる。注射の場合、本発明のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、水性液剤、好ましくはハンクス液、リンゲル液又は生理食塩水バッファーなどの生理学的に適合性のバッファーに配合され得る。該液剤は、配合剤、例えば、懸濁剤、安定化剤、及び/又は分散剤を含有していてもよい。或いは、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、使用前に、適切なビヒクル(例えばパイロジェンフリー滅菌水)と共に構成するために、粉末形態であってもよい。無菌の注射剤は、必要に応じて、必要量の本発明のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子を以下に列挙する他の様々な成分と共に適切な溶媒に組み入れることによって、調製される。滅菌状態は、例えば滅菌濾過膜を通す濾過により容易に達成することができる。分散体は通常、塩基性分散媒及び/又は他の成分を含有する滅菌ビヒクルに、様々な滅菌した活性成分を組み入れることによって調製される。滅菌注射剤、懸濁液又はエマルジョンの調製のための滅菌粉末の場合、好ましい調製方法は、予め濾過滅菌したその液体培地から該活性成分+任意の所望の追加的成分の粉末を得る、真空乾燥又は凍結乾燥法である。必要に応じて液体培地を適切に緩衝化し、注射の前に、液体希釈剤をまず十分な生理食塩水又はグルコースと等張にする必要がある。本組成物は、製造及び貯蔵条件下で安定でなければならず、細菌及び真菌といった微生物の汚染作用から保護されなければならない。エンドトキシン汚染は最小限の安全レベルに、例えば、0.5ng/mgタンパク質未満に抑える必要があることが理解されよう。薬学的に許容される適切な担体には、限定されないが、リン酸、クエン酸、及びその他の有機酸などのバッファー;アスコルビン酸及びメチオニンを含む抗酸化剤;防腐剤(オクタデシルジメチオルベンジルアンモニウムクロリド;ヘキサメトニウムクロリド;ベンザルコニウムクロリド、ベンゼトニウムクロリド、フェノール、ブチル若しくはベンジルアルコール;メチル若しくはプロピルパラベンなどのアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;及びm-クレゾールなど);低分子量(約10残基未満)のポリペプチド;タンパク質(血清アルブミン、ゼラチン又は免疫グロブリンなど);親水性ポリマー(ポリビニルピロリドン;アミノ酸(グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン又はリジンなど);グルコース、マンノース若しくはデキストリンを含む、単糖類、二糖類その他の糖質;EDTAなどのキレート剤;スクロース、マンニトール、トレハロース若しくはソルビトールなどの糖;ナトリウムなどの塩形成対イオン;金属錯体(例:Zn-タンパク質錯体);及び/又はポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤が含まれる。水性注射懸濁液には、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、デキストランなどの懸濁液の粘度を上昇させる化合物が含有されていてもよい。また、場合によって、該懸濁液には、適切な安定剤、又は上記化合物の溶解度を上昇させて高濃度の溶液の調製を可能にする薬剤が含有されていてもよい。加えて、上記活性化合物の懸濁液は、適切な油性注射懸濁液として調製することもできる。適切な親油性溶媒又はビヒクルには、ゴマ油などの脂肪油、又はオレイン酸エチル(ethyl cleat)若しくはトリグリセリドなどの合成脂肪酸エステル、又はリポソームが含まれる。
【0275】
活性成分は、例えばコアセルベーション技術又は界面重合法によって調製されたマイクロカプセル(例えばそれぞれ、ヒドロキシメチルセルロースマイクロカプセル又はゼラチン-マイクロカプセル、ポリ-(メチルメタクリレート)(poly-(methylmethacylate))マイクロカプセル)に、コロイド薬物送達系(例えばリポソーム、アルブミンミクロスフィア、マイクロクロエマルジョン、ナノ粒子、及びナノカプセル)に、又はマクロエマルジョンに封入することができる。これらの技術は、Remington’s Pharmaceutical Sciences(18th Ed.Mack Printing Company,1990)に開示されている。徐放性調製物が調製されてもよい。徐放性調製物の適切な例は、ポリペプチドを含有する固体疎水性ポリマーの半透性マトリクスを含み、そのマトリックスは、成形品、例えばフィルム又はマイクロカプセルの形態である。特定の実施態様では、注射可能な組成物の持続性吸収は、吸収を遅らせる薬剤(例えばアルミニウムモノステアレート、ゼラチン又はこれらの組み合わせ)の組成物における使用によってもたらすことができる。
【0276】
既述の組成物に加え、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、デポ剤として製剤化されてもよい。このような長時間作用型の製剤は、埋め込み(implantation)(例えば、皮下又は筋肉内)により、又は筋肉内注射により投与することができる。したがって、例えば、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、適切なポリマー若しくは疎水性材料(例えば、許容される油中のエマルジョンとして)若しくはイオン交換樹脂と共に、又は難溶性の誘導体として、例えば難溶性の塩として製剤化されてもよい。
【0277】
本発明のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子を含む薬学的組成物は、一般的な混合、溶解、乳化、カプセル化、封入又は凍結乾燥プロセスにより製造することができる。薬学的組成物は、1種以上の生理学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤、又はタンパク質の薬学的に使用可能な調製物への加工を容易にする補助剤を使用して、従来の方法で製剤化できる。適した製剤は、選択される投与経路に応じて決まる。
【0278】
プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、遊離酸又は遊離塩基、中性又は塩の形態で組成物に配合することができる。薬学的に許容される塩は、遊離酸又は塩基の生物学的活性を実質的に保持する塩である。上記塩には、酸付加塩、例えば、タンパク質性組成物の遊離アミノ基と共に形成されたもの、又は例えば塩酸若しくはリン酸といった無機酸、又は酢酸、シュウ酸、酒石酸若しくはマンデル酸といった有機酸と共に形成されたものが含まれる。また、遊離カルボキシル基と共に形成される塩は、例えばナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム若しくは水酸化第二鉄などの無機塩基;又はイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン若しくはプロカインなどの有機塩基から得ることも可能である。薬学的塩は、対応する遊離塩基形態よりも、水性や他のプロトン性溶媒に溶けやすい傾向がある。
【0279】
治療方法及び組成物
本明細書で提供されるプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子はいずれも、治療方法に使用することができる。本発明のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、例えばがんの治療において、免疫治療剤として使用され得る。
【0280】
治療方法における使用のために、本発明のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、良質な医学の原則に適う方式で配合、調薬、及び投与される。これに関連して考慮すべき因子としては治療される特定の障害、治療される特定の哺乳動物、個々の患者の臨床状態、障害の原因、薬剤の送達部位、投与方法、投与スケジュール、及び医療従事者に既知であるその他の因子が挙げられる。
【0281】
ある態様では、医薬としての使用のための本発明のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子が提供される。更なる態様では、疾患の治療における使用のための本発明のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子が提供される。特定の実施態様では、治療方法における使用のための本発明のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子が提供される。ある実施態様では、本発明は、疾患の治療を必要とする個体における疾患の治療において使用するための、本明細書に記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子を提供する。特定の実施態様では、本発明は、疾患を有する個体を治療する方法における使用のためのプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子を提供し、該方法は、該個体に治療的有効量の該プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子を投与することを含む。特定の実施態様では、治療される疾患は増殖性障害である。特定の実施態様では、該疾患はがんである。特定の実施態様では、本方法は、少なくとも1種の追加の治療剤(例えば、治療される疾患ががんである場合は抗がん剤)の治療的有効量を上記個体に投与することを更に含む。更なる実施態様では、本発明は、標的細胞、特に腫瘍細胞の溶解の誘導における使用のための、本明細書に記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子を提供する。特定の実施態様では、本発明は、個体における標的細胞、特に腫瘍細胞の溶解を誘導する方法における使用のためのプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子を提供し、該方法は、該個体に有効量の該プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子を投与して、標的細胞の溶解を誘導することを含む。上記実施態様のいずれかによる「個体」は、哺乳動物、好ましくはヒトである。
【0282】
更なる態様では、本発明は、医薬の製造又は調製における本発明のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子の使用を提供する。ある実施態様では、医薬は、疾患の治療を必要とする個体における、疾患の治療のためのものである。更なる実施態様では、医薬は、疾患を有する個体に治療的有効量の医薬を投与することを含む、疾患を治療する方法における使用のためのものである。特定の実施態様では、治療される疾患は増殖性障害である。特定の実施態様では、該疾患はがんである。ある実施態様では、本方法は、少なくとも1種の追加の治療剤(例えば、治療される疾患ががんである場合は抗がん剤)の治療的有効量を上記個体に投与することを更に含む。更なる実施態様では、医薬は、標的細胞、特に腫瘍細胞の溶解を誘導するためのものである。また更なる実施態様では、医薬は、個体における標的細胞、特に腫瘍細胞の溶解を誘導する方法における使用のためのものであり、該方法は、医薬の有効量を該個体に投与して、標的細胞の溶解を誘導する方法を含む。上記いずれの実施態様による「個体」も、哺乳動物、好ましくはヒトであってよい。
【0283】
更なる態様において、本発明は、疾患を治療するための方法を提供する。ある実施態様では、本方法は、このような疾患を有する個体に、有効量の本発明のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子を投与することを含む。ある実施態様では、本発明のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子を薬学的に許容される形態で含む組成物が前記個体に投与される。特定の実施態様では、治療される疾患は増殖性障害である。特定の実施態様では、該疾患はがんである。特定の実施態様では、本方法は、少なくとも1種の追加の治療剤(例えば、治療される疾患ががんである場合は抗がん剤)の治療的有効量を上記個体に投与することを更に含む。上記いずれの実施態様による「個体」も、哺乳動物、好ましくはヒトであってよい。
【0284】
更なる態様では、本発明は、標的細胞、特に腫瘍細胞の溶解を誘導するための方法を提供する。ある実施態様では、本方法は、T細胞、特に細胞傷害性T細胞の存在下で、標的細胞を本発明のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子と接触させることを含む。更なる態様では、個体における標的細胞、特に腫瘍細胞の溶解を誘導するための方法が提供される。このような実施態様では、本方法は、有効量の本発明の抗体を個体に投与して、標的細胞の溶解を誘導することを含む。ある実施態様では、「個体」は、ヒトである。
【0285】
特定の実施態様では、治療される疾患は、増殖性障害、特にがんである。がんの非限定的な例としては、膀胱がん、脳がん、頭頸部がん、膵臓がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、子宮がん、子宮頸がん、子宮内膜がん、食道がん、結腸がん、結腸直腸がん、直腸がん、胃がん、前立腺がん、血液のがん、皮膚がん、扁平上皮癌、骨がん、及び腎臓がんが挙げられる。本発明のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子を用いて治療され得る他の細胞増殖障害としては、限定されないが、腹部、骨、乳房、消化器系、肝臓、膵臓、腹膜、内分泌腺(副腎、副甲状腺、脳下垂体、睾丸、卵巣、胸腺、甲状腺)、眼、頭頸部、神経系(中枢及び末梢)、リンパ系、骨盤、皮膚、軟組織、脾臓、胸部領域、及び泌尿生殖器系に位置する新生物が挙げられる。更には、前がん性状態又は病変及びがん転移も含まれる。特定の実施態様では、がんは、腎細胞がん、皮膚がん、肺がん、結腸直腸がん、乳がん、脳がん、頭頸部がんから成る群より選択される。当業者は、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は多くの場合、治癒をもたらすわけではなく、部分的恩恵をもたらすことができるだけであることを容易に認識する。いくつかの実施態様では、何らかの利点を有する生理学的変化も治療的に有益であると見なされる。したがって、いくつかの実施態様では、生理学的変化をもたらすプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子の量は、「有効量」又は「治療的有効量」と見なされる。治療を必要とする対象、患者又は個体は、典型的には哺乳動物であり、より具体的にはヒトである。
【0286】
いくつかの実施態様では、本発明のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子の有効量が細胞に投与される。他の実施態様では、本発明のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子の治療的有効量が、疾患の治療のために個体に投与される。
【0287】
疾患の予防又は治療に関し、本発明のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子の(単独での使用又は1種以上の他の追加の治療剤との併用の際の)適切な投与量は、治療される疾患の種類、投与経路、患者の体重、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子の種類、疾患の重症度及び経過、T細胞活性化二重特異性抗原結合分子が予防目的で投与されるのか又は治療目的で投与されるか、以前又は同時の治療的介入、患者の病歴及びプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子に対する応答、並びに主治医の裁量によって決定されるであろう。いずれにせよ、投与を担当する医師は、組成物中の
活性成分の濃度及び個々の対象に対する適切な用量を決定する。本明細書では、単回投与又は様々な時点にわたる複数回投与、ボーラス投与、パルス注入を含むがこれらに限定されない様々な投与スケジュールが企図される。
【0288】
プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、一度に又は一連の治療にわたって適切に上記患者に投与される。疾患の種類及び重症度に応じて、例えば単回又は複数回の個別投与によるか、持続注入によるかに関わらず、約1μg/kg-15mg/kg(例えば0.1mg/kg-10mg/kg)のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子が上記患者への投与のための初期候補用量となり得る。典型的な1日投与量は、上述の因子に依存して、約1μg/kg-100mg/kg又はそれ以上の範囲であってもよい。数日間又はそれ以上にわたる反復投与の場合、治療は通常、状態に応じて、疾患症状の所望の抑制が生じるまで続けられる。T細胞活性化抗原結合分子の1つの例示的な投与量は、約0.005mg/kg-約10mg/kgの範囲であろう。他の非限定的な例では、用量は、1回の投与につき、約1マイクログラム/kg体重、約5マイクログラム/kg体重、約10マイクログラム/kg体重、約50マイクログラム/kg体重、約100マイクログラム/kg体重、約200マイクログラム/kg体重、約350マイクログラム/kg体重、約500マイクログラム/kg体重、約1ミリグラム/kg体重、約5ミリグラム/kg体重、約10ミリグラム/kg体重、約50ミリグラム/kg体重、約100ミリグラム/kg体重、約200ミリグラム/kg体重、約350ミリグラム/kg体重、約500ミリグラム/kg体重、約1000mg/kg体重又はそれ以上、及びこれらの中で導き出される任意の範囲も含む。本明細書に列挙される数字から導き出される範囲の非限定的な例では、上記の数字に基づいて、約5mg/kg体重-約100mg/kg体重、約5マイクログラム/kg体重-約500ミリグラム/kg体重などの範囲が投与され得る。したがって、約0.5mg/kg、2.0mg/kg、5.0mg/kg又は10mg/kgの1又は複数の用量(又はこれらの任意の組み合わせ)を上記患者に投与してよい。かかる用量は、断続的に、例えば毎週又は3週間毎に(例えば、上記患者が約2-約20用量、又は例えば約6用量のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子を受けるように)投与されてもよい。初期の高負荷量の後、1又は複数の低用量を投与してよい。しかしながら、他の投与レジメンも有用である。この療法の進行は、従来の技術及びアッセイによって容易にモニターされる。
【0289】
本発明のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、通常、意図した目的を達成するのに有効な量で使用される。疾患状態を治療又は予防するための使用の場合、本発明のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子又はその薬学的組成物が、治療的有効量で投与又は塗布される。治療的有効量の決定は、特に本明細書に提供される詳細な開示に照らして、十分に当業者の能力の範囲内である。
【0290】
全身投与の場合、治療的に有効な用量は、in vitroアッセイ、例えば細胞培養アッセイから最初に推定することができる。その後、細胞培養で決定されたIC50を含む血中濃度範囲を達成するために、動物モデルにおいて用量を策定してもよい。このような情報を使用し、ヒトにおける有用な用量をより正確に決定することができる。
【0291】
初期投与量は、in vivoデータ、例えば動物モデルから、当技術分野で周知の技術を用いて推定することもできる。当業者であれば、動物データに基づいて、ヒトへの投与を容易に最適化することができるであろう。
【0292】
投与量及び投与間隔は、治療効果を維持するのに十分なプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子の血漿濃度が得られるように個別に調節することができる。注射による投与に有用な通常の患者投与量は、約0.1-50mg/kg/day、典型的には約0.5-1mg/kg/dayの範囲である。治療的に有効な血漿レベルは、毎日複数の用量を投与することにより達成することができる。血漿中のレベルは、例えばHPLCにより測定することができる。
【0293】
局所投与又は選択的取り込みの場合、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子の有効な局所濃度は血漿濃度に関連していなくてもよい。当業者であれば、過度の実験をせずとも、治療的に有効な局所投与量を最適化することができるであろう。
【0294】
通常、本明細書に記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子の治療的有効量は、実質的な毒性を引き起こすことなく治療効果をもたらすであろう。プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子の毒性及び治療効果は、細胞培養又は実験動物で、標準の薬学的手順により決定することができる。細胞培養アッセイ及び動物試験により、LD50(集団の50%が死に至る用量)及びED50(集団の50%で治療的に有効な用量)を決定することができる。毒性作用と治療効果の用量比が治療指数であり、これはLD50/ED50の比率として表すことができる。大きな治療指数を示すプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子が好ましい。ある実施態様では、本発明によるプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、高い治療指数を示す。細胞培養アッセイ及び動物試験から得られたデータは、ヒトにおける使用に適した様々な投与量を策定する際に使用することができる。投与量は、好ましくは、毒性がほとんどないか全くない状態で、ED50を含む血中濃度の範囲内にある。投与量は、様々な因子、例えば、用いられる投与形態、使用される投与経路、対象の状態などに応じて、上記の範囲内で変動してよい。患者の状態を考慮して個々の医師によって、的確な製剤、投与経路及び用量が選択され得る(例えば、参照により全体が本明細書に援用されるFingl et al.,1975,The Pharmacological Basis of Therapeutics,1章,1頁を参照)。
【0295】
本発明のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子で治療される患者の主治医は、毒性、臓器不全などのために投与を終了、中断又は調整する方法と時期を知っているであろう。逆に、主治医は、臨床応答が十分ではない場合(毒性を除く)、治療をより高レベルにするように調整することも知っているであろう。目的の障害の管理における投与量の大きさは、治療される病状の重症度、投与経路などによって変わる。例えば、病状の重症度は、部分的には標準の予後評価方法により評価することができる。更に、用量及び恐らくは投薬頻度も、個々の患者の年齢、体重及び応答応じて変化するであろう。
【0296】
他の薬剤及び治療
治療において、本発明のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、1種以上の他の薬剤と組み合わせて投与されてもよい。例えば、本発明のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、少なくとも1種の追加の治療剤と共投与されてもよい。用語「治療剤」は、症状又は疾患の治療を必要とする個体における症状又は疾患を治療するために投与されるあらゆる薬剤を包含する。このような追加の治療剤は、治療される特定の適応症に適した任意の活性成分、好ましくは、互いに有害な影響を与えない相補的な活性を有するものを含むことができる。特定の実施態様では、追加的治療剤は、免疫調節剤、細胞分裂阻害剤、細胞接着阻害剤、細胞傷害性剤、細胞アポトーシスの活性化剤、又はアポトーシス誘導因子に対する細胞の感受性を高める薬剤である。特定の実施態様では、追加の治療剤は、抗がん剤、例えば微小管破壊剤、抗代謝剤、トポイソメラーゼ阻害剤、DNAインターカレーター、アルキル化剤、ホルモン療法、キナーゼ阻害剤、受容体アンタゴニスト、腫瘍細胞アポトーシスの活性化剤、又は抗血管新生剤である。
【0297】
このような他の薬剤は、好適には、意図する目的にとって有効な量で組み合わせた状態で存在する。このような他の薬剤の有効量は、使用されるプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子の量、障害又は治療の種類、及び上述の他の因子に依存する。通常、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、本明細書に記載されているのと同じ用量及び投与経路で、又は本明細書に記載の投与量の約1%から99%で、又は経験的に/臨床的に妥当であると決定された任意の投与量及び経路で使用される。
【0298】
上記のような併用療法は、併用投与(2種以上の治療剤が同じ又は別々の組成物に含まれる)及び個別投与を包含し、本発明のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子の投与は、追加の治療剤及び/又はアジュバントの投与の前、同時及び/又は後に行われる。本発明のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子は、放射線療法と組み合わせて使用することもできる。
【0299】
製造品
本発明の別の態様では、上述の障害の治療、予防及び/又は診断に有用な材料を含む製造品が提供される。製造品は、容器と、容器に貼られているか又は付随しているラベル又は添付文書とを備える。好適な容器としては、例えば、ボトル、バイアル、シリンジ、IV輸液バッグ等が挙げられる。容器はガラス又はプラスチックなどの様々な材料から製作することができる。容器は、単独の組成物又は病状を治療、予防及び/若しくは診断するのに有効な別の組成物と組み合わされた組成物を収容し、無菌アクセスポートを有していてもよい(容器は、例えば、皮下注射針で穿孔可能な栓を有する静脈内溶液バッグ又はバイアルであってもよい)。該組成物中の少なくとも1種の活性剤は、本発明のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子である。ラベル又は添付文書には、選択された病態の治療のために該組成物が使用されることが記される。更に、本製造品は、(a)本発明のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子を含む組成物が中に収容されている第1の容器;及び(b)更なる細胞傷害性剤又はその他の治療剤を含む組成物が中に収容されている第2の容器を備えていてもよい。本発明のこの実施態様における製造品は、特定の状態を治療するために上記組成物が使用可能であることを示す添付文書を更に備えてもよい。代替的に又は追加的に、本製造品は、薬学的に許容されるバッファー、例えば注射用静菌水(BWFI)、リン酸緩衝化生理食塩水、リンゲル液、及びデキストロース溶液を含む第2の(又は第3の)容器を更に備えていてもよい。本製造品は、他のバッファー、希釈剤、フィルター、針及びシリンジを含む、商業的及びユーザーの観点から望ましい他の材料を更に備えてもよい。
【0300】
例示的な実施態様
1.プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子であって、
(a)以下の(i)及び(ii)を含む、CD3に結合することができる第1の抗原結合部分:
(a)以下の(i)及び(ii)を含む、CD3に結合することができる第1の抗原結合部分:
(i)配列番号2の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号4のHCDR 2、及び配列番号10のHCDR 3を含む重鎖可変領域(VH)
(ii)配列番号20の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号21のLCDR 2、及び配列番号22のLCDR 3を含む軽鎖可変領域(VL);
(b)標的細胞抗原に結合することができる第2の抗原結合部分;並びに
(c)プロテアーゼ切断可能リンカーを介してT細胞二重特異性結合分子に共有結合されたマスキング部分であって、第1又は第2の抗原結合部分のイディオタイプに結合することができ、それによって第1の抗原結合部分を可逆的に隠すマスキング部分
を含む、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
2.VHが、配列番号16のアミノ酸配列に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%同一であるアミノ酸配列を含み、且つ/又はVLが、配列番号23のアミノ酸配列に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%同一であるアミノ酸配列を含む、実施態様1に記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
3.マスキング部分が、第1の抗原結合部分に共有結合され、第1の抗原結合部分を可逆的に隠す、実施態様1又は2に記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
4.マスキング部分が第1の抗原結合部分の重鎖可変領域に共有結合される、実施態様1-3のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
5.マスキング部分が第1の抗原結合部分の軽鎖可変領域に共有結合される、実施態様1-3のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
6.マスキング部分がscFvである、実施態様1-5のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
7.第2の抗原結合部分を可逆的に隠す第2のマスキング部分を含む、実施態様2-6のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
8.プロテアーゼが標的細胞によって発現される、実施態様1-7のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
9.第2の抗原結合部分が、Fab軽鎖及びFab重鎖の可変領域又は定常領域が交換されているクロスオーバーFab分子である、実施態様1-8のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
10.第2の抗原結合部分が、Fab軽鎖及びFab重鎖の定常領域が交換されているクロスオーバーFab分子である、実施態様1-9のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
11.第1の抗原結合部分が従来のFab分子である、実施態様1-10のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
12.CD3に結合することができる抗原結合部分を1つまで含む、実施態様1-11のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
13.標的細胞抗原に結合することができるFab分子である第3の抗原結合部分を含む、実施態様1-12のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
14.第3の抗原部分が第2の抗原結合部分と同一である、実施態様13に記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
15.第2の抗原結合部分がFolR1又はTYRP1に結合することができる、実施態様1-14のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
16.第2の抗原結合部分がFolR1に結合することができる、実施態様1-14のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
17.第2の抗原結合部分がTYRP1に結合することができる、実施態様1-14のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
18.第1及び第2の抗原結合部分が、互いに融合され、場合によってペプチドリンカーを介して融合される、実施態様1-17のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
19.第2の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端において第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合される、実施態様1-18のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
20.第1の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端において第2の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合される、実施態様1-18のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
21.第1の抗原結合部分のFab軽鎖及び第2の抗原結合部分のFab軽鎖が、互いに融合され、場合によってペプチドリンカーを介して融合される、実施態様1-20のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
22.安定な会合が可能な第1及び第2のサブユニットで構成されるFcドメインを追加的に含む、実施態様1-21のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
23.FcドメインがIgG、具体的にはIgG1又はIgG4 Fcドメインである、実施態様22に記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
24.FcドメインがヒトFcドメインである、実施態様22又は23に記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
25.Fcドメインが、天然のIgG1 Fcドメインと比較して、Fc受容体に対する結合親和性の低下及び/又はエフェクター機能の低下を示す、実施態様22-24のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
26.Fcドメインが、Fc受容体への結合及び/又はエフェクター機能を低下させる1又は複数のアミノ酸置換を含む、実施態様25に記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
27.前記1又は複数のアミノ酸置換が、L234、L235及びP329(Kabat番号付け)の群より選択される1又は複数の位置にある、実施態様26に記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
28.Fcドメインの各サブユニットが、活性化Fc受容体への結合及び/又はエフェクター機能を低下させる3つのアミノ酸置換を含み、前記アミノ酸置換がL234A、L235A及びP329Gである、実施態様27に記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
29.Fc受容体がFcγ受容体である、実施態様25-28のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
30.エフェクター機能が抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)である、実施態様25-28のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
31.マスキング部分が、
(a)DYSMN(配列番号58)の重鎖相補性決定領域(CDR H)1アミノ酸配列;
(b)WINTETGEPRYTDDFKG(配列番号59)、WINTETGEPRYTDDFTG(配列番号84)、及びWINTETGEPRYTQGFKG(配列番号86)から成る群より選択されるCDR H2アミノ酸配列;
(c)EGDYDVFDY(配列番号60)のCDR H3アミノ酸配列
のうちの少なくとも1つを含む重鎖可変領域を含む、実施態様1-30のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
32.マスキング部分が、
(d)RASKSVSTSSYSYMH(配列番号62)及びKSSKSVSTSSYSYMH(配列番号82)から成る群より選択される軽鎖(CDR L)1アミノ酸配列;
(e)YVSYLES(配列番号63)のCDR L2アミノ酸配列;並びに
(f)QHSREFPYT(配列番号64)及びQQSREFPYT(配列番号88)から成る群より選択されるCDR L3アミノ酸配列
のうちの少なくとも1つを含む軽鎖可変領域を含む、実施態様1-31のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
33.マスキング部分が、
(a)DYSMN(配列番号58)の重鎖相補性決定領域(CDR H)1アミノ酸配列;
(b)WINTETGEPRYTDDFKG(配列番号59)、WINTETGEPRYTDDFTG(配列番号84)、及びWINTETGEPRYTQGFKG(配列番号86)から成る群より選択されるCDR H2アミノ酸配列;
(c)EGDYDVFDY(配列番号60)のCDR H3アミノ酸配列
を含む重鎖可変領域と、
(d)RASKSVSTSSYSYMH(配列番号62)及びKSSKSVSTSSYSYMH(配列番号82)から成る群より選択される軽鎖(CDR L)1アミノ酸配列;
(e)YVSYLES(配列番号63)のCDR L2アミノ酸配列;並びに
(f)QHSREFPYT(配列番号64)及びQQSREFPYT(配列番号88)から成る群より選択されるCDR L3アミノ酸配列
を含む軽鎖可変領域とを含む、実施態様1-30のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
34.マスキング部分が、
(a)DYSMN(配列番号58)の重鎖相補性決定領域(CDR H)1アミノ酸配列;
(b)WINTETGEPRYTDDFKG(配列番号59)のCDR H2アミノ酸配列;
(c)EGDYDVFDY(配列番号60)のCDR H3アミノ酸配列
を含む重鎖可変領域と、
(d)RASKSVSTSSYSYMH(配列番号62)の軽鎖(CDR L)1アミノ酸配列;
(e)YVSYLES(配列番号63)のCDR L2アミノ酸配列;並びに
(f)QHSREFPYT(配列番号64)のCDR L3アミノ酸配列
を含む軽鎖可変領域とを含む、実施態様1-30のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
35.マスキング部分が、
(a)SYGVS(配列番号58)の重鎖相補性決定領域(CDR H)1アミノ酸配列;
(b)IIWGDGSTNYHSALIS(配列番号59)のCDR H2アミノ酸配列;
(c)GITTVVDDYYAMDY(配列番号60)のCDR H3アミノ酸配列
を含む重鎖可変領域と、
(d)KSSKSVSTSSYSYMH(配列番号82)の軽鎖(CDR L)1アミノ酸配列;
(e)AATFLAD(配列番号63)のCDR L2アミノ酸配列;及び
(f)QHYYSTPYT(配列番号64)のCDR L3アミノ酸配列
を含む軽鎖可変領域とを含む、実施態様1-30のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
36.マスキング部分が、
(a)SYGVS(配列番号58)の重鎖相補性決定領域(CDR H)1アミノ酸配列;
(b)WINTETGEPRYTDDFTG(配列番号84)のCDR H2アミノ酸配列;
(c)GITTVVDDYYAMDY(配列番号60)のCDR H3アミノ酸配列
を含む重鎖可変領域と、
(d)KSSKSVSTSSYSYMH(配列番号82)の軽鎖(CDR L)1アミノ酸配列;
(e)AATFLAD(配列番号63)のCDR L2アミノ酸配列;及び
(f)QHYYSTPYT(配列番号64)のCDR L3アミノ酸配列
を含む軽鎖可変領域とを含む、実施態様1-30のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
37.マスキング部分が、
(a)SYGVS(配列番号58)の重鎖相補性決定領域(CDR H)1アミノ酸配列;
(b)WINTETGEPRYTQGFKG(配列番号86)のCDR H2アミノ酸配列;
(c)GITTVVDDYYAMDY(配列番号60)のCDR H3アミノ酸配列
を含む重鎖可変領域と、
(d)KSSKSVSTSSYSYMH(配列番号82)の軽鎖(CDR L)1アミノ酸配列;
(e)AATFLAD(配列番号63)のCDR L2アミノ酸配列;及び
(f)QHYYSTPYT(配列番号64)のCDR L3アミノ酸配列
を含む軽鎖可変領域とを含む、実施態様1-30のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
38.マスキング部分がヒト化されている、実施態様1-37のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
39.マスキング部分がヒトのものである、実施態様1-38のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
40.プロテアーゼ切断可能リンカーが少なくとも1つのプロテアーゼ認識配列を含む、実施態様1-39のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
41.プロテアーゼ切断可能リンカーがプロテアーゼ認識配列を含む、実施態様40に記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
42.プロテアーゼ認識配列が、
(a)RQARVVNG(配列番号100);
(b)VHMPLGFLGPGRSRGSFP(配列番号101);
(c)RQARVVNGXXXXXVPLSLYSG(配列番号102)(ここで、Xは任意のアミノ酸である);
(d)RQARVVNGVPLSLYSG(配列番号103);
(e)PLGLWSQ(配列番号104);
(f)VHMPLGFLGPRQARVVNG(配列番号105);
(g)FVGGTG(配列番号106);
(h)KKAAPVNG(配列番号107);
(i)PMAKKVNG(配列番号108);
(j)QARAKVNG(配列番号109);
(k)VHMPLGFLGP(配列番号110);
(l)QARAK(配列番号111);
(m)VHMPLGFLGPPMAKK(配列番号112);
(n)KKAAP(配列番号113);及び
(o)PMAKK(配列番号114)
から成る群より選択される、実施態様41に記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
43.プロテアーゼ切断可能リンカーがプロテアーゼ認識配列PMAKK(配列番号114)を含む、実施態様41又は42に記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
44.プロテアーゼ切断可能リンカーがプロテアーゼ認識配列VHMPLGFLGPPMAKK(配列番号112)を含む、実施態様40又は41に記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
45.プロテアーゼ切断可能リンカーがプロテアーゼ認識配列VHMPLGFLGPRQARVVNG(配列番号105)を含む、実施態様40又は41に記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
46.プロテアーゼ切断可能リンカーがプロテアーゼ認識配列RQARVVNG(配列番号100)又はプロテアーゼ認識配列VHMPLGFLGPRQARVVNG(配列番号105)を含む、実施態様40又は41に記載のプロテアーゼ活性化型T細胞活性化二重特異性分子。
47.プロテアーゼが、メタロプロテイナーゼ、セリンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ、及びカテプシンプロテアーゼから成る群より選択される、実施態様1-46のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
48.メタロプロテイナーゼがマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)、好ましくはMMP9又はMMP2である、実施態様47に記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
49.セリンプロテアーゼがマトリプターゼである、実施態様47に記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
50.第2の抗原結合部分が、FolR1に結合することができ、配列番号54、配列番号55及び配列番号56から成る群より選択される少なくとも1つの重鎖相補性決定領域(CDR)及び/又は配列番号20、配列番号21及び配列番号22から成る群より選択される少なくとも1つの軽鎖CDRを含む、実施態様1-49のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
51.第2の抗原結合部分が、FolR1に結合することができ、配列番号54、配列番号55及び配列番号56からな成る群より選択される少なくとも1つの重鎖相補性決定領域(CDR)と、配列番号20、配列番号21及び配列番号22から成る群より選択される少なくとも1つの軽鎖CDRとを含む、実施態様1-49のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
52.第2の抗原結合部分が、FolR1に結合することができ、且つ、
a)NAWMS(配列番号54)の重鎖相補性決定領域(CDR H)1アミノ酸配列;
b)RIKSKTDGGTTDYAAPVKG(配列番号55)のCDR H2アミノ酸配列;及び
c)PWEWSWYDY(配列番号56)のCDR H3アミノ酸配列
を含む重鎖可変領域と、
d)GSSTGAVTTSNYAN(配列番号20)の軽鎖(CDR L)1アミノ酸配列;
e)GTNKRAP(配列番号21)のCDR L2アミノ酸配列;及び
(f)ALWYSNLWV(配列番号22)のCDR L3アミノ酸配列
を含む軽鎖可変領域とを含む、実施態様1-51のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
53.第2の抗原結合部分が、配列番号53のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号23のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む、実施態様1-52のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
54.第2の抗原結合部分が、FolR1に結合することができ、且つ、配列番号53のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号23のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む、実施態様1-53のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
55.第2の抗原結合部分が、TYRP1に結合することができ、且つ、配列番号24、配列番号25及び配列番号26からな成る群より選択される少なくとも1つの重鎖相補性決定領域(CDR)及び/又は配列番号28、配列番号29及び配列番号30から成る群より選択される少なくとも1つの軽鎖CDRを含む、実施態様1-49のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
56.第2の抗原結合部分が、TYRP1に結合することができ、且つ、配列番号24、配列番号25及び配列番号26からな成る群より選択される少なくとも1つの重鎖相補性決定領域(CDR)と、配列番号28、配列番号29及び配列番号30から成る群より選択される少なくとも1つの軽鎖CDRとを含む、実施態様1-49及び55のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
57.第2の抗原結合部分が、TYRP1に結合することができ、且つ、
a)NAWMS(配列番号24)の重鎖相補性決定領域(CDR H)1アミノ酸配列;
b)RIKSKTDGGTTDYAAPVKG(配列番号25)のCDR H2アミノ酸配列;及び
c)PWEWSWYDY(配列番号26)のCDR H3アミノ酸配列
を含む重鎖可変領域と、
d)GSSTGAVTTSNYAN(配列番号28)の軽鎖(CDR L)1アミノ酸配列;
e)GTNKRAP(配列番号29)のCDR L2アミノ酸配列;及び
f)ALWYSNLWV(配列番号30)のCDR L3アミノ酸配列
を含む軽鎖可変領域とを含む、実施態様1-49及び55-56のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
58.第2の抗原結合部分が、配列番号27のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号31のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む、実施態様1-49及び55-57のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
59.第2の抗原結合部分が、TYRP1に結合することができ、且つ、配列番号27のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号31のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む、実施態様1-53のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
60.プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子であって、
a)配列番号66のアミノ酸配列を含む少なくとも1つの重鎖、
b)配列番号67のアミノ酸配列を含む少なくとも1つの軽鎖
を含む、実施態様1-54のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
61.プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子であって、
(a)配列番号65のアミノ酸配列を含む第1の重鎖、
(b)配列番号66のアミノ酸配列を含む第2の重鎖、及び
(c)配列番号67のアミノ酸配列を含む軽鎖
を含む、実施態様1-50のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
62.プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子であって、
(a)配列番号69のアミノ酸配列を含む第1の重鎖、
(b)配列番号66のアミノ酸配列を含む第2の重鎖、及び
(c)配列番号67のアミノ酸配列を含む軽鎖
を含む、実施態様1-54のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
63.プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子であって、
(a)配列番号74のアミノ酸配列を含む第1の重鎖、
(b)配列番号66のアミノ酸配列を含む第2の重鎖、及び
(c)配列番号67のアミノ酸配列を含む軽鎖
を含む、実施態様1-54のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
64.プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子であって、
(a)配列番号76のアミノ酸配列を含む第1の重鎖、
(b)配列番号66のアミノ酸配列を含む第2の重鎖、及び
(c)配列番号67のアミノ酸配列を含む軽鎖
を含む、実施態様1-54のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
65.プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子であって、
(a)配列番号95のアミノ酸配列を含む第1の重鎖、
(b)配列番号66のアミノ酸配列を含む第2の重鎖、及び
(c)配列番号67のアミノ酸配列を含む軽鎖
を含む、実施態様1-54のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
66.プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子であって、
(a)配列番号96のアミノ酸配列を含む第1の重鎖、
(b)配列番号66のアミノ酸配列を含む第2の重鎖、及び
(c)配列番号67のアミノ酸配列を含む軽鎖
を含む、実施態様1-54のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
67.プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子であって、
(a)配列番号97のアミノ酸配列を含む第1の重鎖、
(b)配列番号66のアミノ酸配列を含む第2の重鎖、及び
(c)配列番号67のアミノ酸配列を含む軽鎖
を含む、実施態様1-54のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
68.プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子であって、
(a)配列番号98のアミノ酸配列を含む第1の重鎖、
(b)配列番号66のアミノ酸配列を含む第2の重鎖、及び
(c)配列番号67のアミノ酸配列を含む軽鎖
を含む、実施態様1-54のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
69.プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子であって、
(c)配列番号67のアミノ酸配列を含2つの軽鎖
を含む、実施態様60-68のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
70.マスキング部分が、配列番号91のアミノ酸配列のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含むscFvを含む、実施態様1-69のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
71.マスキング部分が、配列番号92のアミノ酸配列のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含むscFvを含む、実施態様1-69のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
72.マスキング部分が、配列番号93のアミノ酸配列のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含むscFvを含む、実施態様1-69のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
73.マスキング部分が、配列番号94のアミノ酸配列のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含むscFvを含む、実施態様1-69のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
74.SPRによって測定される第1の抗原結合部分に対するマスキング部分の結合親和性が、配列番号91、配列番号92、配列番号93及び配列番号94から成る群より選択させるアミノ酸配列を含むマスキング部分の結合親和性と比較して、ほぼ同じか又は高い、実施態様70-73のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
75.分子の抗CD3抗原結合部位を可逆的に隠すことができるイディオタイプ特異的ポリペプチドであって、配列番号79、配列番号83及び配列番号85から成る群より選択されるアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号80及び配列番号81から成る群より選択されるアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変領域配列とを含む、イディオタイプ特異的ポリペプチド。
76.配列番号79と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号80と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変領域配列とを含む、請求項28に記載のイディオタイプ特異的ポリペプチド。
77.配列番号79と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号81と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変領域配列とを含む、請求項28に記載のイディオタイプ特異的ポリペプチド。
78.配列番号83と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号81と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変領域配列とを含む、請求項28に記載のイディオタイプ特異的ポリペプチド。
79.配列番号85と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号81と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変領域配列とを含む、請求項28に記載のイディオタイプ特異的ポリペプチド。
80.抗イディオタイプscFv、抗イディオタイプFab又は抗イディオタイプscFabである、実施態様75に記載のイディオタイプ特異的ポリペプチド。
81.scFvである、実施態様75-80のいずれか1つに記載のイディオタイプ特異的ポリペプチド。
82.リンカーを介して分子に共有結合される、実施態様75-80のいずれか1つに記載のイディオタイプ特異的ポリペプチド。
83.リンカーがペプチドリンカーである、実施態様82に記載のイディオタイプ特異的ポリペプチド。
84.リンカーがプロテアーゼ切断可能リンカーである、実施態様82又は83に記載のイディオタイプ特異的ポリペプチド。
85.ペプチドリンカーが少なくとも1つのプロテアーゼ認識配列を含む、実施態様82-84のいずれか1つに記載のイディオタイプ特異的ポリペプチド。
86.プロテアーゼが、メタロプロテイナーゼ、セリンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ、及びカテプシンプロテアーゼから成る群より選択される、実施態様85に記載のイディオタイプ特異的ポリペプチド。
87.メタロプロテイナーゼがマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)、好ましくはMMP9又はMMP2である、実施態様91に記載のイディオタイプ特異的ポリペプチド。
88.セリンプロテアーゼがマトリプターゼである、実施態様86に記載のイディオタイプ特異的ポリペプチド。
89.プロテアーゼ認識配列が、
(a)RQARVVNG(配列番号100);
(b)VHMPLGFLGPGRSRGSFP(配列番号101);
(c)RQARVVNGXXXXXVPLSLYSG(配列番号102)(ここで、X は任意のアミノ酸である);
(d)RQARVVNGVPLSLYSG(配列番号103);
(e)PLGLWSQ(配列番号104);
(f)VHMPLGFLGPRQARVVNG(配列番号105);
(g)FVGGTG(配列番号106);
(h)KKAAPVNG(配列番号107);
(i)PMAKKVNG(配列番号108);
(j)QARAKVNG(配列番号109);
(k)VHMPLGFLGP(配列番号110);
(l)QARAK(配列番号111);
(m)VHMPLGFLGPPMAKK(配列番号112);
(n)KKAAP(配列番号113);及び
(o)PMAKK(配列番号114)
から成る群より選択される、実施態様85-88のいずれか1つに記載のイディオタイプ特異的ポリペプチド。
90.プロテアーゼ切断可能リンカーがプロテアーゼ認識配列PMAKK(配列番号114)を含む、実施態様80-83のいずれか1つに記載のイディオタイプ特異的ポリペプチド。
91.T細胞活性化二重特異性分子の一部である、実施態様80-90のいずれか1つに記載のイディオタイプ特異的ポリペプチド。
92.配列番号79のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号80のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む、実施態様75-92のいずれか1つに記載のイディオタイプ特異的ポリペプチド。
93.配列番号79のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号81のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む、実施態様75-92のいずれか1つに記載のイディオタイプ特異的ポリペプチド。
94.配列番号83のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号84のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む、実施態様75-92のいずれか1つに記載のイディオタイプ特異的ポリペプチド。
95.配列番号85のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号86のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む、実施態様75-92のいずれか1つに記載のイディオタイプ特異的ポリペプチド。
96.配列番号84のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号87のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む、実施態様75-92のいずれか1つに記載のイディオタイプ特異的ポリペプチド。
97.配列番号89のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号90のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む、実施態様75-92のいずれか1つに記載のイディオタイプ特異的ポリペプチド。
98.抗CD3抗原結合部位が、配列番号16のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号23のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む、実施態様75-97のいずれか1つに記載のイディオタイプ特異的ポリペプチド。
99.ヒト化されている、実施態様75-98のいずれか1つに記載のイディオタイプ特異的ポリペプチド。
100.実施態様1-74のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性抗原結合分子又は実施態様75-99のいずれか1つに記載のイディオタイプ特異的ポリペプチドをコードする、単離ポリヌクレオチド。
101.実施態様100に記載のポリヌクレオチドによりコードされたポリペプチド。
102.実施態様100に記載のポリヌクレオチドを含むベクター、特に発現ベクター。
103.実施態様99に記載のポリヌクレオチド又は実施態様102に記載のベクターを含む、宿主細胞。
104.プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子を製造する方法であって、a)実施態様103に記載の宿主細胞をプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子の発現に適した条件下で培養する工程と、b)プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子を回収する工程とを含む、方法。
105.実施態様104に記載の方法によって製造されるプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
106.イディオタイプ特異的ポリペプチドを製造する方法であって、a)実施態様103に記載の宿主細胞をイディオタイプ特異的ポリペプチドの発現に適した条件下で培養する工程と、b)イディオタイプ特異的ポリペプチドを回収する工程とを含む、方法。
107.実施態様106に記載の方法によって製造されたイディオタイプ特異的ポリペプチド。
108.実施態様1-74のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子と薬学的に許容される担体とを含む、薬学的組成物。
109.実施態様75-99のいずれか1つに記載のイディオタイプ特異的ポリペプチドと薬学的に許容される担体とを含む、薬学的組成物。
110.医薬としての使用のための、実施態様1-74のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子、実施態様75-99のいずれか1つに記載のイディオタイプ特異的ポリペプチド、又は実施態様108に記載の組成物。
111.医薬が、個体におけるがんの治療若しくは進行の遅延、免疫関連疾患の治療若しくは進行の遅延、又は免疫応答若しくは機能の向上若しくは刺激のためのものである、実施態様110に記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子。
112.疾患の治療を必要とする個体における疾患の治療における使用のための、実施態様1-74のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子又は実施態様75-99のいずれか1つに記載のイディオタイプ特異的ポリペプチド。
113.疾患ががんである、疾患の治療を必要とする個体における疾患の治療における使用のための、実施態様112に記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子又はイディオタイプ特異的ポリペプチド。
114.疾患の治療のための医薬の製造のための、実施態様1-74のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子又は実施態様75-99のいずれか1つに記載のイディオタイプ特異的ポリペプチドの使用。
115.疾患ががんである、実施態様114に記載の使用。
116.個体における疾患の治療方法であって、治療的有効量の、実施態様1-74のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子を含む組成物又は実施態様108に記載の組成物を前記個体に投与することを含む、治療方法。
117.T細胞の存在下で、標的細胞を、実施態様1-74のいずれか1つに記載のプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子又は実施態様108に記載の組成物と接触させることを含む、標的細胞の溶解を誘導するための方法。
118.標的細胞ががん細胞である、実施態様117に記載の方法。
119.標的細胞が、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子を活性化することができるプロテアーゼを発現する、実施態様117又は118に記載の方法。
120.抗イディオタイプCD3抗体又はその断片が、抗CD3抗原結合分子に結合したとき、抗CD3抗原結合分子のCD3への結合を特異的にブロックする、抗CD3抗原結合分子のイディオタイプに特異的なヒト化抗イディオタイプCD3抗体又はその抗原結合断片。
121.抗イディオタイプCD3抗体又はその断片が、プロテアーゼ認識部位を含むペプチドリンカーを介して抗CD3抗原結合分子と可逆的に会合している、実施態様120に記載の抗イディオタイプCD3抗体又はその抗原結合断片。
122.CD3がマウス、サル又はヒトCD3である、実施態様120又は121に記載の抗イディオタイプCD3抗体又はその抗原結合断片。
123.実施態様75-99のいずれか1つに記載のイディオタイプ特異的ポリペプチドをプロテアーゼ切断可能リンカーによってT細胞活性化二重特異性分子に結合させて、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子を形成することを含む、T細胞活性化二重特異性分子のin vivo毒性を低減する方法であって、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子のin vivo毒性がT細胞活性化二重特異性分子の毒性に比べて低減される、方法。
124.上述の発明。
【0301】
例示的な配列
【0302】
改善された抗CD3(P035.093)バインダーを含む、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子
【0303】
【0304】
【0305】
【0306】
【実施例
【0307】
以下は、本発明の方法及び組成物の実施例である。上記の一般的な説明を所与として、他の様々な実施態様が実施され得ることが理解される。
【0308】
実施例1-最適化抗CD3(多重特異性)抗体の調製
最適化抗CD3抗体(クローンP033.078、P035.093、P035.064、P021.045、P004.042)は全て、既述の(例えば、参照により本明細書に援用される国際公開第2014/131712号参照)CD3バインダー(ここでは「CD3orig」ともいう)から得られたライブラリーを用いたファージディスプレイ選択操作(selection campaign)により生成したものであり、それぞれ配列番号14、23のVHとVLを含む。これらのライブラリーでは、重鎖のCDR3領域にある位置N97とN100(Kabat番号付け)は、サイレンシングされたか又は除去された。直接比較するために、全ての分子を、図2Aに描かれているように、抗TYRP1抗体を例示的な標的細胞抗原結合部位(配列番号24-31)として用いてT細胞二重特異性抗体(TCB)フォーマットに変換した。
【0309】
図2B-Eに示すように、重鎖DNA配列及び軽鎖DNA配列の可変領域を、それぞれのレシピエント哺乳動物発現ベクターに予め挿入された定常重鎖又は定常軽鎖とインフレームでサブクローニングした。
【0310】
最適化抗CD3抗体の配列は、表1に示す配列番号に示されている。
【0311】
表1.本発明の実施例で生成された最適化抗CD3抗体の配列
【0312】
軽鎖の対応する重鎖との正確な対合を更に改善するために、TYRP1結合性Fab分子のヒトCL(E123R、Q124K)及びヒトCH1(K147E、K213E)に変異が導入された。
【0313】
重鎖の正確な対合(ヘテロ二量体分子の形成)のために、各抗体重鎖の定常領域にノブ・イントゥ・ホール変異を導入した(それぞれ、T366W/S354C、T366S/L368A/Y407V/Y349C)。
【0314】
更に、各抗体重鎖の定常領域にP329G、L234A及びL235A変異を導入し、Fcγ受容体との結合を無効にした。
【0315】
調製したTCB分子の完全な配列は、配列番号32、33、34及び36(P033.078)、配列番号32、33、34及び37(P035.093)、配列番号32、33、34及び38(P035.064)、配列番号32、33、34及び39(P021.045)、配列番号32、33、34及び40(P004.042)に示されている。
【0316】
CD3origをCD3バインダーとして含む、対応する分子も調製した。
【0317】
TCBは、Evitria社(スイス)により、独自のベクター系と従来の(非PCRベースの)クローニング技術を使用し、懸濁適応CHO K1細胞(もともとATCCから譲り受け、Evitria社で懸濁培養液中での無血清培養に適応させたもの)を用いて調製された。作製にあたっては、Evitria社は、独自の動物成分非含有無血清培地(eviGrow及びeviMake2)と独自のトランスフェクション試薬(eviFect)を用いた。これらの細胞は、1:1:2:1(「ベクターノブ重鎖」::「ベクターホール重鎖」:「ベクターCD3軽鎖」:「ベクターTYRP1軽鎖」)の対応する発現ベクターでトランスフェクトされた。遠心分離及びその後の濾過(0.2μmフィルター)により上清を回収し、標準的な方法により、回収した上清からタンパク質を精製した。
【0318】
端的に言えば、Fc含有タンパク質を、プロテインAアフィニティクロマトグラフィー(平衡化バッファー: 20mMクエン酸ナトリウム、20mMリン酸ナトリウム、pH 7.5; 溶出バッファー: 20mMクエン酸ナトリウム、pH 3.0)によって、濾過した細胞培養上清から精製した。pH3.0で溶出した後、直ちに試料のpHを中和した。遠心分離(Millipore Amicon(登録商標)ULTRA-15、#UFC903096)によりタンパク質を濃縮し、凝集したタンパク質を、20mMヒスチジン、140mM塩化ナトリウム、pH 6.0のサイズ排除クロマトグラフィーにより、単量体タンパク質から分離した。
【0319】
Pace,et al.,Protein Science,1995,4,2411-1423に従ったアミノ酸配列に基づき計算した質量消散係数を用いて、280nmにおける吸収を測定することにより、精製したタンパク質の濃度を決定した。LabChipGXII(Perkin Elmer)を使用して、還元剤の存在下及び非存在下にて、CE-SDSにより、タンパク質の純度及び分子量を分析した。凝集体含量の測定は、分析用サイズ排除カラム(TSKgel G3000 SW XL又はUP-SW3000)をランニングバッファーで平衡化して(それぞれ、25mM KHPO、125mM NaCl、200mM Lアルギニンモノヒドロクロリド、pH6.7又は200mM KHPO、250mM KCl、pH6.2)使用して、25℃でのHPLCクロマトグラフィーによって行われた。
【0320】
調製したTCB分子の生化学的及び生物物理学的解析の結果を表2に示す。
【0321】
全てのTCB分子を良好な品質で生産することができた。
【0322】
表2.TCBフォーマットの抗CD3抗体の生化学的及び生物物理学的解析。
【0323】
実施例2-最適化抗CD3(多重特異性)抗体の熱安定性の測定
実施例1で調製した抗CD3抗体(TCBフォーマット)の熱安定性を、Optim2装置(Avacta Analytical社、英国)を使用して、動的光散乱法(DLS)により、及び温度傾斜を加えることによる温度依存性固有タンパク質蛍光のモニタリングにより、モニターした。
【0324】
タンパク質濃度1mg/mlの10μgの濾過したタンパク質試料をOptim2に2回かけた。温度を0.1℃/minで25℃から85℃まで上昇させ、350nm/330nmでの蛍光強度と266nmでの散乱強度の比を収集した。
【0325】
結果を表3に示す。実施例1で製造した全ての最適化CD3バインダーの凝集温度(Tagg)と観察された温度誘導アンフォールディング転移の中点(T)は、既述のCD3バインダーCD3origのものと同等かそれ以上である。
【0326】
表3.動的光散乱及び温度依存性固有タンパク質蛍光の変化により測定した、TCBフォーマットの抗CD3抗体の熱安定性。
【0327】
実施例3-表面プラズモン共鳴(SPR)による最適化抗CD3(多重特異性)抗体の機能特性評価
表面プラズモン共鳴(SPR)実験をBiacore T200で、ランニングバッファーとしてHBS-EP+(0.01M HEPES pH7.4、0.15M NaCl、3mM EDTA、0.005% Surfactant P20;Biacore社、ドイツ/フライブルク)を用いて25℃で行った。
【0328】
親和性測定では、抗Fc(P329G)IgG(ヒトIgG Fc(P329G)に特異的に結合する抗体;「抗PG抗体」-参照により本明細書に援用される国際公開第2017/072210号を参照)を固定化したC1センサーチップ(GEヘルスケア)表面で、TCB分子を捕捉した。実験設定を図3に模式的に示す。捕捉IgGを、標準的なアミンカップリングキット(GEヘルスケアライフサイエンス)を用いて、約400レゾナンスユニット(RU)の直接固定化によりセンサーチップ表面にカップリングした。
【0329】
CD3との相互作用を分析するために、TCB分子を80秒間、25nMで、10μl/minの流量で捕捉した。ヒト及びカニクイザルCD3εストーク-Fc(ノブ)-Avi/CD3δストーク-Fc(ホール)(CD3ε/δ、配列番号41及び42(ヒト)並びに配列番号43及び44(カニクイザル)参照)を0.122-125nMの濃度で、30μl/minの流量で、300秒間フローセルを通過させた。解離を800秒間モニターした。
【0330】
バルク屈折率差を、参照フローセルで得られた応答を差し引くことによって補正した。ここでは、抗原が、抗PG抗体を固定化したがTCB分子の代わりにHBS-EPを注入した表面上を飛行した。
【0331】
Biacore T200 Evaluation Software(GEヘルスケアライフサイエンス)を用いて反応速度定数を導出し、数値積分によって反応速度式を1:1ラングミュア結合に当てはめた。相互作用の半減期(t1/2)を、式t1/2=ln2/koffを用いて計算した。
【0332】
表4には、既述のバインダーCD3origと比較した最適化抗CD3抗体の結合に関する全ての反応速度パラメーターが列挙されている。最適化抗CD3抗体(TCBフォーマット)は、低nM範囲から高pM範囲のK値でCD3ε/δに結合する(ヒトCD3ε/δ には600pMから1.54nM、カニクイザルCD3ε/δには200pMから700pMのK値で)。CD3origと比較して、最適化抗CD3抗体のヒトCD3ε/δへの結合の親和性は、SPRによって同一条件下で測定した場合、7から10倍まで向上する。
【0333】
ヒトCD3ε/δに対する一価結合の半減期は、抗CD3抗体クローンP033.078の場合11.6分で、CD3origの結合半減期の最大6倍である。
【0334】
表4.抗CD3抗体(TCBフォーマット)のヒトCD3ε/δ及びカニクイザルCD3ε/δに対する親和性
【0335】
実施例4-ストレス後の最適化抗CD3(多重特異性)抗体の表面プラズモン共鳴(SPR)による特性評価
脱アミド化部位の除去とその抗体の安定性への影響を評価するため、最適化抗CD3抗体(TCBフォーマット)を37℃、pH7.4及び40℃、pH6で14日間インキュべ―トし、更にそれらのヒトCD3ε/δへの結合能をSPRで分析した。-80℃、pH6で保存した試料を基準として使用した。基準試料及び40℃でストレスを与えた試料は20mM His、140mM NaCl、pH6.0に、37℃でストレスを与えた試料は、PBS、pH7.4に、全て濃度1.0mg/mlで存在させた。ストレス期間(14日間)後、更なる分析のために、PBS中の試料を透析して20mM His、140mM NaCl、pH6.0に戻した。
【0336】
全てのSPR実験は、Biacore T200機器(GEヘルスケア)で、25℃で、HBS-P+(10mM HEPES、150mM NaCl pH7.4、0.05%Surfactant P20)をランニング及び希釈バッファーとして用いて実施された。ビオチン化ヒトCD3ε/δ(実施例3、配列番号41及び42参照)及びビオチン化抗huIgG(Capture Select、Thermo Scientific,#7103262100)を、Series S Sensor Chip SA(GEヘルスケア、#29104992)上に固定化し、少なくとも1000レゾナンスユニット(RU)の表面密度を得た。濃度2μg/mlの抗CD3抗体を流量5μl/minで30秒間注入し、解離を120秒間モニターした。10mMグリシンpH1.5を60秒間注入することによって表面を再生した。バルクの屈折率差を、ブランク注入を差し引くことと、ブランクコントロールフローセルから得られた応答を差し引くことによって補正した。評価には、注入終了5秒後の結合反応をとった。結合シグナルを正規化するために、CD3結合を、抗huIgG応答(固定化された抗huIgG抗体上でのCD3抗体の捕捉時に得られるシグナル(RU))で割った。相対結合活性を、各温度ストレスを与えられた試料の基準を、対応するストレスを与えられていない試料にすることにより計算した。
【0337】
表5に示すように、実施例1で調製した全ての抗CD3抗体は、CD3origと比較して、CD3ε/δへのストレス時の結合が改善されていることがわかる。
【0338】
表5.pH6/40℃又はpH7.4/37℃で2週間インキュベートした後の抗CD3抗体(TCBフォーマット)のヒトCD3ε/δに対する結合活性。
【0339】
実施例5-最適化抗CD3(多重特異性)抗体を用いたJurkat NFATレポーター細胞アッセイ
最適化抗CD3抗体含有(TYRP1標的)TCBを、標的細胞としてCHO-K1 TYRP1クローン76(CHO-K1細胞の安定的な形質導入により生成した細胞)の存在下でJurkat NFATレポーター細胞アッセイで試験した。Jurkat NFATレポーター細胞(Promega)を、10%FBS含有RPMI 1640(Gibco)、2g/lグルコース(Sigma)、2g/l NaHCO(Sigma)、25mM HEPES(Gibco)、1%GlutaMax(Gibco)、1xNEAA(Sigma)、1%SoPyr(Sigma)(Jurkat NFAT培地)で、0.1-0.5mio細胞/mlで培養した。CHO-K1 TYRP1クローン76細胞を、10%FBS含有DMEM/F12+GlutaMAX(1x)(Gibco)及び6μg/mlピューロマイシン(Invivogen)で培養した。本アッセイは、Jurkat NFAT培地で実施した。
【0340】
CHO-K1 TYRP1クローン76細胞をトリプシン(Gibco)を用いて剥離した。細胞をカウントし、生存率を確認した。標的細胞をアッセイ用培地に再懸濁させ、白色平底384ウェルプレートに1ウェルあたり10000細胞を播種した。その後、TCBを表示濃度で添加した。Jurkat NFATレポーター細胞をカウントし、生存率を確認し、エフェクター対標的(E:T)比2:1に相当する1ウェルあたり20000細胞を播種した。また、2%最終体積のGloSensor cAMP Reagent(E1291、Promega)を各ウェルに添加した。指定のインキュベーション時間後、Tecan Spark10M装置を用いて発光を測定した。
【0341】
図4A‐Bに示すように、最適化抗CD3抗体含有TCBは、親バインダーCD3orig含有TCBと同様にJurkat NFATレポーター細胞に対して機能活性を有していた。試験したTCBは、濃度依存的にCD3活性化を誘導した。
【0342】
実施例6-最適化抗CD3(多重特異性)抗体による原発性黒色腫細胞の腫瘍細胞死滅
(TYRP1標的)TCBフォーマットの最適化抗CD3抗体を、ヒト黒色腫細胞株M150543(チューリッヒ大学の皮膚科細胞バンクから入手した原発性黒色腫細胞株)と共インキュベートした新鮮な単離ヒトPBMCを用いて、腫瘍細胞死滅アッセイで試験した。腫瘍細胞の溶解を、24時間後と48時間後にアポトーシス細胞又はネクローシス細胞によって細胞上清に放出されたLDHの定量化により決定した。CD4及びCD8 T細胞の活性化を、48時間後の両細胞のサブセットでのCD69とCD25のアップレギュレーションによって分析した。
【0343】
アッセイ開始前日に、標的細胞(M150543)をトリプシン(Gibco)を用いて剥離し、PBSで1回洗浄後、増殖培地(10%FBS含有RPMI1640(Gibco)、1%GlutaMax(Gibco)、及び1%SoPyr(Sigma))に0.3mio細胞/mlの密度で再懸濁させた。100μlのこの細胞懸濁液(30000細胞を含有)を、96ウェルの平底プレートに播種した。これらの細胞をインキュベーター内で37℃で一晩インキュベートした。
【0344】
翌日、健常ドナーの血液からPBMCを分離し、生存率を確認した。プレーティングした標的細胞から培地を除去し、アッセイ用培地(2%FBS含有RPMI1640(Gibco)と1%GlutaMax(Gibco))100μlをウェルに添加した。抗体をアッセイ用培地で表示濃度に希釈し、1ウェルあたり50μlを標的細胞に添加した。コントロールウェルに、アッセイ培地を添加した。単離したPBMCを6mio細胞/mlの密度で再懸濁させ、1ウェルあたり50μlを添加し、300000細胞/ウェルとした(E:T 10:1)。自然発生的なLDH放出(最小溶解=0%)の測定には、PBMCと標的細胞のみを共培養した。最大LDH放出(最大溶解=100%)の測定には、標的細胞にはアッセイ培地のみを添加した。標的細胞の非存在下でPBMCとTCBを加えたコントロールウェルを使用して、TCBの特異性を試験した。標的を発現している腫瘍細胞の非存在下でCD8及びCD4 T細胞が活性化されるかどうかを決定するために、48時間後にCD25の発現を分析した。
【0345】
最初のLDH測定の数時間前に、4%Triton X-100(Bio-Rad)を含有するアッセイ培地50μlを標的細胞のみを含むウェルに加え(結果として、ウェルあたりの最終濃度は1%Triton X-100)、LDH放出を最大にした。本アッセイは、インキュベーター内で37℃で合計48時間インキュベートした。最初のLDH測定は、アッセイ開始の24時間後に行った。このために、Cytotoxicity Detection Kit(LDH)(Roche/Sigma、#11644793001)を測定前に室温に調整した。アッセイプレートを420×gで4分間遠心分離し、1ウェルあたり50μlの上清を、分析のために96ウェル平底プレートに移した。その後、1ウェルあたり1.25μlのLDH Catalystと56.25μlのLDH Substrateの反応混合物を調製した。その後、各ウェルに50μlのLDH反応混合物を加え、TECAN Infinite F50装置を使用して直ちに吸光度を測定した。アッセイ開始の48時間後にこの測定を繰り返した。
【0346】
その後、PBMCを回収し、CD25とCD69の活性化のアップレギュレーションを測定して分析した。具体的には、各ウェルに100μlのFACSバッファーを加え、FACS染色のために96ウェルU底プレートに細胞を移した。そのプレートを400xgで4分間遠心分離し、上清を除去した後、1ウェルあたり150μlのFACSバッファーで細胞を洗浄した。そのプレートを4分間400×gで再び遠心分離し、上清を取り除いた。その後、CD4 APC(クローンRPA-T4、BioLegend)、CD8 FITC(クローンSK1、BioLegend)、CD25 BV421(クローンBC96、BioLegend)、及びCD69 PE(クローンFN50、BioLegend)を含む抗体ミックスをウェルあたり30μl添加した。これらの細胞を冷蔵庫で30分間インキュベートした。その後、これらの細胞をFACSバッファーで2回洗浄し、ウェルあたり1%PFAを含有するFACSバッファー100μlに再懸濁させた。測定前に、これらの細胞を150μlのFACSバッファーに再懸濁させた。BD LSR Fortessa装置を用いて分析を行った。
【0347】
抗CD3抗体クローンP035.093及びクローンP021.045を含有するTCBでの処理は、最大の腫瘍細胞死滅をもたらし、クローンP033.078とクローンP035.064は中程度の腫瘍細胞死滅をもたらし、それに続くクローンP004.042は親バインダーCD3origを含有するTCBと比較して同等の腫瘍細胞死滅を誘導した(図5A‐B)。T細胞の活性化は、抗CD3抗体クローンP035.093とクローンP021.045を含有するTCBで処理した場合に最も高く、他の抗CD3抗体クローンを含有するTCBは親バインダーCD3origを含有するTCBと同等のT細胞活性化を導いた(図6A‐D)。
【0348】
図7A-Bに示すように、試験したTCBは、腫瘍標的細胞の非存在下でCD8 T細胞及びCD4 T細胞上のCD25アップレギュレーションを誘導することはなかった。この結果は、試験したCD3バインダーは、例えば腫瘍細胞との結合を介した架橋に依存してT細胞活性化を誘導し、一価フォーマットではT細胞活性化を誘導することができないことを示すものである。
【0349】
実施例7-最適化抗CD3抗体の調製
最適化抗CD3抗体クローンP033.078、P035.093及びP004.042を、図8Aに示すような、CD3結合部分上のVHドメインとVLドメインを交差させた一価ヒトIgGフォーマットに変換した。
【0350】
図8B-Dに示すように、重鎖DNA配列及び軽鎖DNA配列の可変領域を、それぞれのレシピエント哺乳動物発現ベクターに予め挿入された定常重鎖又は定常軽鎖とインフレームでサブクローニングした。
【0351】
重鎖の正確な対合(ヘテロ二量体分子の形成)のために、各抗体重鎖の定常領域にノブ・イントゥ・ホール変異を導入した(それぞれ、T366W/S354C、T366S/L368A/Y407V/Y349C)。
【0352】
更に、各抗体重鎖の定常領域にP329G、L234A及びL235A変異を導入し、Fcγ受容体との結合を無効にした。
【0353】
CD3origをCD3バインダーとして含む、対応する分子も調製した。
【0354】
一価IgG分子は、Evitria社(スイス)で調製され、実施例1のTCB分子について記載したように精製され、分析された。これらの細胞のトランスフェクションのために、対応する発現ベクターを1:1:1の比率(「ベクターノブ重鎖」:「ベクターホール重鎖」:「ベクター軽鎖」)で用いた。
【0355】
調製した一価IgG分子の生化学的及び生物物理学的解析の結果を表6に示す。
【0356】
全ての一価IgG分子を良好な品質で生産することができた。
【0357】
表6.一価IgGフォーマットでの抗CD3抗体の生化学的及び生物物理学的解析
【0358】
実施例8-最適化抗CD3抗体の熱安定性の測定
(実施例19で調製した)一価IgGフォーマットでの抗CD3抗体の熱安定性を、動的光散乱法(DLS)により、及び実施例2に記載の温度依存性固有タンパク質蛍光のモニタリングにより、モニターした。
【0359】
結果を表7に示す。一価IgGフォーマットでの全ての最適化CD3バインダーの凝集温度(Tagg)と観察された温度誘導アンフォールディング転移の中点(T)は、既述のCD3バインダーCD3origのものと同等かそれ以上である。
【0360】
表7.動的光散乱及び温度依存性固有タンパク質蛍光の変化により測定した、一価IgGフォーマットでの抗CD3抗体の熱安定性。
【0361】
実施例9-表面プラズモン共鳴(SPR)による最適化抗CD3抗体の機能特性評価
SPR実験は、実施例7で調製した一価IgG分子を用いて、実施例3に記載のとおりに実施された。
【0362】
CD3との相互作用を分析するために、一価IgG分子を240秒間、50nMで、5μl/minの流量で捕捉した。ヒト及びカニクイザルCD3εストーク-Fc(ノブ)-Avi/CD3δストーク-Fc(ホール)を0.061-250nMの濃度で、30μl/minの流量で、300秒間フローセルを通過させた。解離を800秒間モニターした。
【0363】
表8には、既述のバインダーCD3origと比較した最適化抗CD3抗体の結合に関する全ての反応速度パラメーターが列挙されている。最適化抗CD3抗体(一価IgGフォーマット)は、低nM範囲から高pM範囲のK値でCD3ε/δに結合する(ヒトCD3ε/δ には770pMから1.36nM、カニクイザルCD3ε/δには200pMから400pMのK値で)。CD3origと比較して、最適化抗CD3抗体のヒトCD3ε/δへの結合の親和性は、SPRによって同一条件下で測定した場合、3.5から15倍まで向上する。
【0364】
ヒトCD3ε/δに対する一価結合の半減期は、抗CD3抗体クローンP033.078の場合8.69分で、CD3origの結合半減期の2倍以上である。
【0365】
表8.抗CD3抗体(一価IgGフォーマット)のヒトCD3ε/δ及びカニクイザルCD3ε/δに対する親和性3回の測定から得られたデータ。
【0366】
実施例10-抗イディオタイプマスクの生成
キメラIgGとしての抗イディオタイプマスクの作製と評価
ここに記載のキメラIgGは、Evitria社により、独自のベクター系と従来の(非PCRベースの)クローニング技術を使用し、懸濁適応CHO K1細胞(もともとATCCから譲り受け、Evitria社で懸濁培養液中での無血清培養に適応させたもの)を用いて調製された。作製にあたっては、Evitria社は、独自の動物成分非含有無血清培地(eviGrow及びeviMake2)と独自のトランスフェクション試薬(eviFect)を用いた。遠心分離及びその後の濾過(0.2μmフィルター)により上清を回収し、標準的な方法で精製した。
【0367】
抗イディオタイプマスクの特性評価-異なるCD3 mAbとの結合
SPR実験は、Biacore T200で、HBS-EP+をランニングバッファーとして(0.01M HEPES pH7.4、0.15M NaCl、0.005%Surfactant P20(BR-1006-69、GEヘルスケア))を使用して実施された。3種類の抗イディオタイプ抗体をCM5チップ(GEヘルスケア)上にアミンカップリングにより直接固定化した。異なるT細胞二重特異性(TCB)の3倍希釈系列を、30μl/minで180秒間リガンド上を通過させ、結合相を記録した。解離相を、600秒間モニターし、試料溶液からHBS-EP+へと切り替えることによってトリガーした。チップ表面は、10mMグリシンpH2.1の60秒の注入を1回、続いて30秒の注入を2回行うことにより、各サイクル後に再生された。バルク屈折率差を、参照フローセル1で得られた応答を差し引くことによって補正した。親和定数を、Biaevalソフトウェア(GEヘルスケア)を使用して、1:1ラングミュア結合へのフィッティングによって反応速度定数から導出した。測定は、1つの希釈系列で行われた。
【0368】
表9:異なるCD3バインダーに対する異なるマスクの結合親和性。(CM5チップに固定化された)IgGとしてのマスクと、異なるCD3結合性Fabを持つTCBをアナライトとして、SPR分析を評価した。
【0369】
抗イディオタイプマスクの特性評価-開発可能性
抗イディオタイプマスクの1つ(4.15.64)はCDRL1(NYS)のN-グリコシル化部位を示すため、この分子はそれ以上考慮されず、4.24.72と4.32.63マスクのみが異なるCD3バインダーのブロッキングに使用可能であることから更に評価された。
【0370】
20mM His/HCl、140mM NaCl pH6.0、40℃又は1xPBS pH7.4、37℃のいずれかで14日間インキュベートした後の抗イディオタイプ抗体4.32.63及び4.24.72の結合を、T200装置(GEヘルスケア)を用いて表面プラズモン共鳴で調べた。端的に言うと、単量体FolR1-Fc(フローセル2)と抗PGLALA抗体(フローセル4)を、標準的なアミンカップリング化学を用いてシリーズSセンサーチップCM5(CEヘルスケア)上に固定化し、10000レゾナンスユニット(RU)を超える表面密度を得た。フローセル1及び3は、モックコントロールとして使用した。CD3-CH2527結合ドメインを含むFolR1 TCB-D-16D5をFolR1-Fc表面のみに10μg/mlの濃度で5μl/minの流量で120秒間注入し、1000RUを超える表面密度を得た。その後、抗イディオタイプ抗体を全てのフローセルに濃度1μg/mlで60秒間及び120秒間、流量5μl/minで注入した解離を60秒間モニターした。FolR1-Fc表面は10mMグリシンpH1.7を60秒間注入することによって再生され、抗PGLALA表面は10mM NaOHを60秒間注入することによって再生された。バルク屈折率の差異は、フローセル1及び3(モック表面)から得られた応答を差し引くことにより修正された。
【0371】
抗イディオタイプ抗体の結合シグナルを正規化するために、FOLR1 TCB-D-16D5表面の結合応答を抗PGLALA表面の結合応答で割った。相対活性濃度は、各分子について、ストレスをかけた試料の正規化応答をストレスをかけていない参照試料の正規化応答で割ることによって得られた。
【0372】
表10:親キメラ抗イディオタイプマスクの分子安定性の比較(異なるバッファーでの14日間のインキュベーションなど、ストレス条件後の熱安定性及び分子の完全性/活性)。
【0373】
4.32.63マスクでは40℃、pH6.0で14日間インキュベートした後、相対活性濃度の著しい低下(残存する標的結合73%)が観察されたが、4.24.72はこの条件で残存する標的結合活性96%と安定であった。
【0374】
実施例11-CD3バインダーP035.093に対する抗イディオタイプクローンのスクリーニング
抗イディオタイプ(抗ID)クロ―ン(4.24.72、4.32.63、4.21及び4.15.64)のCD3バインダーに対する結合及びブロッキング能を、TYRP1 TCB(異なるCD3バインダー)を用いたJurkat NFAT活性化アッセイで試験した。抗ID IgGのブロッキングは、ブロックされたCD3バインダーの結果としてのJurkat NFAT活性化の減少に見ることができる(図10)。
【0375】
TYRP1標的化T細胞二重特異性抗体(TCB)は、標的細胞上のTYRP1とT細胞(Jurkat NFAT)上のCD3イプシロンに同時に結合し、それによりT細胞の活性化を誘導する。Jurkat NFAT細胞はCD3イプシロン(CD3ε)を介した活性化によりルシフェラーゼを発現するため、T細胞の活性化は発光と相関する。Jurkat-NFATレポーター細胞株(Promega)は、NFATプロモーターを持ち、ヒトCD3εを発現するヒト急性リンパ性白血病レポーター細胞株である。TCBが腫瘍標的に結合し、CD3(架橋)がCD3εに結合する場合、ルシフェラーゼ発現は、One-Glo基質(Promega)の添加後にLuminescenceで測定することができる。
【0376】
Jurkat NFATアッセイ培地:RPMI1640、2g/lグルコース、2g/l NaHCO3、10% FCS、25mM HEPES、2mM L-グルタミン、1xNEAA、1xピルビン酸ナトリウム
Jurkat NFAT培養培地:RPMI1640、2g/lグルコース、2g/l NaHCO3、10%FCS、25mM HEPES、2mM L-グルタミン、1xNEAA、1xピルビン酸ナトリウム;新たにハイグロマイシンB200μg/mlを添加したもの。
【0377】
TYRP1陽性標的細胞(CHO-huTYRP1 cl 76)及びエフェクター細胞(Jurkat NFAT)を回収し、カウントして生存率を確認した。TCBをJurkatアッセイ培地で希釈した(最終濃度:前のアッセイで決定したEC90濃度、50μl/ウェル)。TCB、標的細胞(50μl/ウェルで20.000/ウェル)、及び、cAMP(最終体積2%)を含むJurkat NFATエフェクター細胞(50μl/ウェルで50.000細胞/ウェル)を混合し、96ウェルのホワイトウォール平底プレート(Greiner BioOne)に加えた。したがって、E:T比は2.5:1であった。抗イディオタイプIgGをJurkatアッセイ培地で希釈してから希釈列を調製し、1ウェルあたり50μlを添加した。細胞は、加湿インキュベーター内で37℃、22時間インキュベートした後、インキュベーターから約10分間取り出し、室温に適応させてから、Tecan Sparkで0.5秒/ウェルを検出時間としてLuminescenceを読み取った。TYRP1 TCB(異なるCD3バインダー)はJurkat NFAT活性化を誘導するが、非標的TCB(CD3 CH2527)はそうではない(図10A)。抗ID IgGがCD3バインダーに結合すると、CD3クローン22とCD3 P033.005以外のここで使用した全てのCD3バインダーをブロックする抗ID 4.24.72IgGについて示されたように、活性化をブロックできる(図3B)。抗ID4.32.63IgGは、CD3バインダーCH2527のみをブロックする(図10C)。抗ID4.15.64IgGは、CD3クローン22を除き、ここで使用した全てのCD3バインダーをブロックする(図10D)。抗ID4.21.64IgGは、CD3クローン22を除き、ここで使用した全てのCD3バインダーをブロックするが、最も強いブロッキングはCD3 CH2527で観察された(図10E)。全体として、抗ID4.24.72がこのアッセイ設定で最高のブロッキング能力を示しため、CD3 P035.093を用いてpro-TCBフォーマットに変換した。
【0378】
実施例12-FOLR1 pro-TCBフォーマットでの抗ID4.24.72のマスキング効率
FOLR1 proTCBと様々なCD3バインダーとの比較
抗イディオタイプマスク4.24.72と異なるCD3結合体のマスキングを比較するために、FOLR1 proTCBとそれぞれのFOLR1 TCB分子を作製した。proTCB分子は、マスクとCD3 Fabとの間に非切断性のGSリンカー、又はMMP2/9とマトリプターゼによって切断可能リンカー配列を含んでいた。
【0379】
全ての分子は十分な量と良好な品質で生成された。予想通り、proTCB分子は親TCBと比較して、通常、低い収率を示した。
【0380】
表11:様々なCD3結合ユニットを含むFOLR1 TCB及びFOLR1 proTCBの作製と特性評価MMP:hu MMP2/9の切断部位;MT:huマトリプターゼの切断部位
【0381】
FOLR1 TCBとFOLR1 pro-TCBをJurkat NFAT活性化アッセイで試験し、抗IDマスク4.24.72がpro-TCBフォーマットのCD3バインダー(CD3バインダーにN末端で融合した抗IDジスルフィド安定化scFv)をブロックするかどうかを確かめた。Jurkat NFATアッセイは、標的細胞の代わりに、huFOLR1でコートしたビーズを使用して実施した。2x30μl Streptavidin Dynabeadsをそれぞれ5mlDPBSで希釈した。ビーズを400rcfで4分間遠心分離し、上清を吸引した。ビーズを、1ml中20μgのビオチン化FolR1抗原で4℃で1時間、ゆっくりと回転させてコーティングした。インキュベーション後、ビーズ-agコンジュゲートをそれぞれ5mlのDPBSで洗浄し、4mlのアッセイ培地に再懸濁させた。エフェクター細胞(Jurkat NFAT)を回収し、カウントし、生存率を確認した。TCBをJurkatアッセイ培地で希釈した。TCB(10μl/ウェル)、コーティングされたビーズ(10μl/ウェル)、及び、cAMP(最終体積2%)を含むJurkat NFATエフェクター細胞(20μl/ウェル中に20.000細胞/ウェル)を混合して、384ウェルホワイトウォール平底プレート(ファルコン/コーニング社)に添加した。プレートは、加湿インキュベーター内で37℃、5-6時間インキュベートした後、インキュベーターから取り出し、Tecan Sparkで0.5秒/ウェルを検出時間としてLuminescenceを読み取った。
【0382】
抗IDマスク4.24.72を持つFOLR1 pro-TCBは、表示の濃度範囲でJurkat NFAT活性化を媒介しないが、FOLR1 TCBは用量依存的にJurkat NFAT活性化を媒介する(図11A)。これは、抗ID4.24.72もブロックに関してはpro-TCBフォーマットで機能するということである。
【0383】
次の工程は、死滅におけるマスキング効率(Jurkat NFATよりも高感度)とリンカー切断時のマスクの解除を調べるために、切断可能リンカーを持つFOLR1 pro-TCBを試験することであった。FOLR1(pro-)TCBによって媒介されるT細胞死滅は、HeLa(FolR1+++)細胞を用いて評価された。E:T比10:1で、ヒトPBMCを標的細胞をエフェクター細胞として使用した。ヒト末梢血単核球(PBMC)を健常なヒトドナーから得たバフィーコートから単離した。バフィーコートを、滅菌PBSで1:1に希釈し、Histopaque勾配(Sigma、#H8889)の上部に層状に重ねた。遠心分離(450xg,、30分、ブレーキなし、室温)後、50mlのPBSで満たしたファルコンチューブにPBMC含有界面を移した。この混合物を遠心分離(400xg、10分間、室温)し、上清を棄て、PBMCペレットを赤血球溶解用のACKバッファー2mlに再懸濁させた。37℃で約2-3分間インキュベートした後、3℃で約2-3分間インキュベートし、350xgで10分間遠心分離した。この洗浄工程を1回繰り返してから、10%FCS、1X GlutaMaxと10%DMSOとを含むRPMI1640培地にPBMCを再懸濁させた。PBMCをCoolCell(登録商標)Cell Freezing Containers(BioCision)で-80℃にてゆっくりと凍結させ、その後液体質素に移した。アッセイ開始の1日前に、接着標的細胞をトリプシン/EDTAで回収し、カウントして生存率を確認した後、アッセイ培地(RPMI1640、2%FCS、1X GlutaMax)に再懸濁させた。アッセイ開始の約24時間前に、PBMCを(Adavnced RPMI1640培地(+2%FCS、1X GlutaMax)で融解した。PBMCを350gで7分間遠心分離し、新鮮な培地(Adavnced RPMI1640、2%FCS、1X GlutaMax)に再懸濁させた。PBMCは最大24時間保存してからアッセイに使用した。96ウェル平底プレートを用いて、標的細胞を20000細胞/ウェルの密度でプレーティングした。分子をアッセイ培地(RPMI1640、2%FCS、1X GlutaMax)で希釈し、3連で表示濃度で添加した。プレートを、加湿インキュベーター内で約20時間、37℃でインキュベートした。PBMCを回収し、350gで7分間遠心分離した後、アッセイ培地(RPMI1640、2%FCS、1X GlutaMax)に再懸濁させた。100μl/ウェルの0.2mioのPBMC(E:T 10:1、播種した標的細胞の数に基づく)を添加し、プレートを48時間37℃でインキュベートした。標的細胞の死滅を、37℃、5%CO2での48時間のインキュベーションの後に、アポトーシス/壊死細胞によって細胞上清中に放出されたLDHの定量化(LDH検出キット、Roche Applied Science、#11644793001)により評価した。標準応答は、TCBなしでエフェクター細胞と共培養された標的細胞を指す。
【0384】
FOLR1 TCBは用量依存的にHeLa細胞の死滅を誘導し、EC50値は約0.29pMであった。活性化されたpro-TCB(リンカー切断のために組換えマトリプターゼとプレインキュべートしたもの)の効力はFOLR1 TCBと同程度であった。非切断性リンカーを含むpro-TCBは、標的細胞死滅の減少を媒介した(EC50は約239倍に増加)(図11C)。標的細胞の死滅に加えて、T細胞の活性化は、37℃、5%CO2で48時間のインキュベーションの後にCD8陽性T細胞上のCD69を定量化することにより評価した。CD8陽性T細胞におけるCD69のMFIについては、FOLR1 TCB及び予備活性化されたFOR1 pro-TCBの効力は同等であり、マスクされたpro-TCB(非切断性)ではCD8 T細胞の活性化は検出できない。CD69陽性CD8 T細胞の割合については、マスクされたpro-TCBは、>5nMでCD69陽性CD8 T細胞の増加を示し、ここで用いた最高濃度では約30%まで増加した。抗ID4.24.72のマスキング効率を、FOLR1発現量レベルを有する異なる細胞株と比較した。
【0385】
CD3 P035.093を用いたpro-TCBフォーマットでの抗ID4.24.72のマスキング効率を分析するために、huPBMCを48時間インキュベートした後に用量依存性の標的細胞死滅(FOLR1高発現のHela、FOLR1中発現のOvcar-3及びSkov-3、FOLR1低発現のHT-29)を測定した。TCB及びFOLR1陽性標的細胞(E:T=10:1、エフェクターはヒトPBMC)。FOLR1 TCBは全ての細胞株(Hela、Skov-3、Ovcar-3、HT-29)で用量依存的な標的細胞死滅を誘導するが、マスクされたFOLR1 pro-TCBは標的細胞死滅の減少を示す(図12Aと12B)。マスキング効率はFOLR1発現レベルに依存するようである。FOLR1 pro-TCB(非切断性)によって誘導される標的細胞死滅は、FOLR1発現レベルの低い細胞で最も減少するようである。CD3バインダーCH2527を含むFOLR1 TCBと、CD3バインダーP035.93を含むFOLR1 TCBとの比較は、CD3 P035.093を含むTCBの効力がわずかに高いことを示す(図12B)。抗ID 4.24.72で両方のCD3バインダーのマスキングが可能である。
【0386】
実施例13-マスク4.24.72のヒト化
実施例12に示すように、FOLR1 proTCBは、Jurkat NFAT T細胞活性化アッセイで示すように、マスク4.24.72で効率的にブロックされた。リンカー切断後、このproTCB分子は、標的細胞死滅アッセイにおいて完全に活性であった。したがって、このマスクは様々なCD3バインダーで使用できるため、この抗イディオタイプ抗体をヒト化のために選択した。10の可変重鎖と8の可変軽鎖が設計され、単量体のワンアームIgGとして製造された(図13)。分子のヘテロ二量化は、ノブ・イントゥ・ホール技術を適用することで可能となった。ワンアームIgGはExpi293F細胞で2mlの小スケールで一過性に生産された(トランスフェクションは製造元の推奨に従って実施された)。CD3 IgG(P035.093)への初期結合及びJurkat NFATレポーターアッセイ(後述)におけるT細胞活性化のブロッキングを、ワンアーム分子を含む生成上清を使用して直接評価した。
【0387】
ヒト化バリアントのCD3 P035.093のブロッキングについてのスクリーニング-Jukat NFAT活性化アッセイ
前述のJurkat NFATアッセイを用いて、ヒト化バリアント(IgGフォーマット)を、CD3バインダーP035.093(及びCH2527)のブロッキング能力についてスクリーニングした。TCBをEC90濃度(既述のアッセイで決定)で使用し、抗ID IgGは滴定した。親の4.24.72IgGはコントロールとして使用した。親の4.24.72は、CD3 CH2527及びP035.09をブロックした。ヒト化バリアントもCD3 CH2527とP035.093をブロックするが、CD3 CH2527と比較してP035.093をわずかに良好にブロックするようである(図14)。まとめると、これらは全てCD3 P035.093をマスキングしている。親クローンと比較するために、これらの結果に基づいて6つのバリアントを選択し、上記のようにIgG及びproTCBとして(proTCB形式の場合は非切断性リンカーを用いて)製造・精製した。
【0388】
開発可能性 抗CD3 P035.093 4.24.72抗イディオタイプ抗体及び対応するヒト化バリアント
マスク4.24.72のヒト化バリアントは、分子の不安定性を引き起こす可能性のある配列のホットスポットを含んでいる。そこで、14日間のストレス条件下(40℃、pH6.0又は37℃、pH7.4)後の熱安定性及び残存する標的結合を分析した。
【0389】
20mM His/HCl、140mM NaCl pH6.0、40℃又は1xPBS pH7.4、37℃のいずれかで14日間インキュベートした後の抗イディオタイプ抗体4.24.7並びにそのヒト化バリアントH1L1 H1L2、H2L2、H3L2、H3L3及びH7L5の結合を、T200装置(GEヘルスケア)を用いて表面プラズモン共鳴で調べた。端的に言うと、Biotin CAPture Kit(GEヘルスケア)を使用して製造元の説明書に従い、ビオチン化抗ヒトCD3 IgG(抗CD3 P035.093)とビオチン化抗ヒトIgG(ThermoScientific)をシリーズs CAPチップ上に固定化した。抗体を、フローセル2及び3にそれぞれ5μg/mlを5μl/minの流量で120秒間注入することにより固定化し、1000レゾナンスユニット(RU)を上回る表面密度を得た。フローセル1は、モック表面として保持した。その後、抗イディオタイプ抗体を全てのフローセルに濃度1μg/mlで30秒間注入した。解離を30秒間モニターし、流量を5μl/minに設定した。ビオチンキャプチャーキットに含まれるNaOHと塩酸グアニジ二ウム(Guadinium)の混合物を120秒間注入することによってCAPチップを再生させた。バルク屈折率の差異は、フローセル1(モック表面)から得られた応答を差し引くことにより修正された。
【0390】
抗イディオタイプ抗体の結合シグナルを正規化するために、抗ヒトIgG表面の結合応答を抗ヒトCD3 IgG表面の結合応答で割った。相対活性濃度は、各分子について、ストレスをかけた試料の正規化応答をストレスをかけていない参照試料の正規化応答で割ることによって得られた。
【0391】
表12: ヒト化抗イディオタイプマスク4.24.72の選択したバリアントの、凝集温度及びストレス試験後の安定性/活性に関する比較。58℃超の凝集温度とHICカラムでの0.35分未満の相対保持時間は重要でない値と見なされる。相対活性濃度がわずか87%と80%の試料H3L3とH7L5を除けば、他の全ての分子は試験条件下で安定である。
【0392】
SPRを用いた、抗イディオタイプ抗体の抗CD3 P035-093に対する結合反応速度
ヒト化バリアントH1L1、4.24.72 H1L2、H2L2、及び4.24.72 H3L2と比較した親抗CD3 P035.093抗イディオタイプ抗体4.24.72の結合を、Biacore T200装置(GEヘルスケア)を使用して表面プラズモン共鳴によって調査した。端的に言うと、FOLR1-Fcを、製造元の指示書に従って標準的なアミンカップリング化学を用い、シリーズsセンサーチップC1に固定化した。最終的な表面密度は、700から1000RUの間で得られた。その後、FOLR1 CD3 TCB P035.093を第2のフローセルに30秒間注入した。第1のフローセルはモック表面として保持された。抗イディオタイプ抗体を1.2から100nM(1:3希釈系列の濃度で両方のフローセルに120秒間注入した。解離を300秒間モニターし、流量を30μl/minに設定した。10mMグリシン pH2.0を60秒間注入し、続いて5mM NaOHを5μl/minの流量で60秒間注入することにより、表面を再生させた。バルク屈折率の差異は、フローセル1(モック表面)から得られた応答及びバッファー注入(二重参照)を差し引くことにより修正された。得られた曲線を、BIAevaluationソフトウェア(GEヘルスケア)を用いて1:1ラングミュア結合モデルにフィッティングした。得られたフィッティング結果は、1から4RUの間のRmax値を示した。全ての実験は、HBS-N(10mM HEPES、150mM NaCl pH7.4、0.05%Surfactant P-20)を使用して37℃で実施された。
【0393】
結果(n=5):
表13:CD3 P035.093抗イディオタイプ親キメラ抗体4.24.72及びそのヒト化バリアントの結合親和性。
【0394】
実施例14-FOLR1 pro-TCBによって媒介される標的細胞死滅(CD3 P035.93及びヒト化バリアントをマスクとした場合)
pro-TCBフォーマットの4.24.72抗IDマスクのヒト化バリアントのマスキング効率を試験するために、標的細胞死滅を行った。FOLR1陽性標的細胞(FOLR1中発現のOvcar-3)を、上記のようにhuPBMC及びTCBと共にインキュベートした。FOLR1 TCBを陽性コントロールとして使用した(図15)。全てのFOLR1 pro-TCB(マスク及び非切断性リンカーとしての様々なヒト化バリアント)が、FOLR1 TCBと比較して標的細胞死滅の減少を示している。マスキング効率は、このアッセイ設定における全てのヒト化バリアントで同等であった(図7)。更に、T細胞の活性化も分析した。FOLR1 TCBは用量依存的にT細胞の活性化を誘導する(CD8陽性T細胞ではCD69の増加)。非切断性リンカーを含むマスクされたFOLR1 pro-TCB(CD3 P035.093、マスク4.24.72 scFvのヒト化バリアント)は、表示の濃度範囲でT細胞の活性化(CD8 T細胞についてはCD69)の減少を示し、マスキング効率に関する差異はヒト化バリアントでは検出できなかった。
【0395】
実施例15-ストレス後の最適化抗CD3抗体の表面プラズモン共鳴(SPR)による特性評価
この実験は、実施例7で調製した一価IgG分子を用いて、実施例4に記載のとおりに実施された。表14に示すように、全ての最適化抗CD3抗体は、CD3origと比較して、CD3/δへのストレス時の結合が改善されていることがわかる。
【0396】
表14.pH6/40℃又はpH7.4/37℃で2週間インキュベートした後の(一価IgGフォーマットでの)抗CD3抗体のヒトCD3ε/δに対する結合活性。
【0397】
理解を明確にするために、上記発明は図示及び例示によって程度詳細に説明されているが、これらの説明及び例示は、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。本明細書で引用した全ての特許及び科学文献の開示内容は、参照により全体が明示的に援用される。
* * *
図1A-F】
図1G-N】
図1O-V】
図1W-Z】
図2A-E】
図3
図4A-B】
図5A-B】
図6A-D】
図7A-B】
図8A-D】
図9A-C】
図10A-E】
図11A
図11B
図11C-D】
図12A-B】
図13
図14A-B】
図15A-C】
図16A
図16B
図16C
図16D
【配列表】
2023529982000001.app
【国際調査報告】