(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-12
(54)【発明の名称】ウイルス感染症の処置のための化合物
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20230705BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20230705BHJP
A61K 31/519 20060101ALI20230705BHJP
A61K 31/53 20060101ALI20230705BHJP
A61K 31/513 20060101ALI20230705BHJP
A61K 31/427 20060101ALI20230705BHJP
A61K 31/7056 20060101ALI20230705BHJP
A61K 38/21 20060101ALI20230705BHJP
A61K 31/4706 20060101ALI20230705BHJP
A61K 31/7052 20060101ALI20230705BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230705BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P31/14
A61K31/519
A61K31/53
A61K31/513
A61K31/427
A61K31/7056
A61K38/21
A61K31/4706
A61K31/7052
A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022577516
(86)(22)【出願日】2021-06-15
(85)【翻訳文提出日】2023-02-15
(86)【国際出願番号】 EP2021066012
(87)【国際公開番号】W WO2021254978
(87)【国際公開日】2021-12-23
(32)【優先日】2020-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】591032596
【氏名又は名称】メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D-64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】ベッツ,ウルリッヒ
(72)【発明者】
【氏名】フックス,トーマス
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084DA23
4C084MA02
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZB33
4C084ZC75
4C086AA01
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4C086BC28
4C086BC42
4C086BC82
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4C086ZB33
4C086ZC75
(57)【要約】
本発明は、COVID-19などのSARS-CoV感染症を包含するウイルス感染症の処置における、単独でまたは1以上の追加の治療剤と組み合わせての使用のためのATRインヒビターを網羅する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロナウイルス感染症の処置を、これを必要とする対象においてする方法であって、有効量のATRインヒビター、またはその薬学的に許容し得る塩を対象に投与することを含む、前記方法。
【請求項2】
コロナウイルスが、SARSまたはMERS感染症を引き起こす、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
コロナウイルスが、SARS-CoV-1またはSARS-CoV-2またはMERS-CoV感染症を引き起こす、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
コロナウイルスが、SARS-CoV-2である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ATRインヒビターが:
【化1】
からなる群から選択されるかまたはその薬学的に許容し得る塩である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ATRインヒビターの投与が、対象におけるウイルス負荷の低減をもたらす、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ATRインヒビターが、感染した細胞におけるDNA損傷応答のウイルス誘導活性化を低減または阻害する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ATRインヒビターが、COVID-19肺炎の発症前に投与される、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
対象が、軽度から中程度のSARS-CoV-2感染症を有する、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
対象が、これまでにSARS-CoV-2ワクチンでワクチン接種され、かつワクチンに関する感染の増悪、例えば、抗体依存性の増強または関連する抗体媒介性機構のワクチン/抗体に関する増悪を発症する、先の請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
対象が、処置の開始時に無症候性である、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
対象が、SARS-CoV-2感染症を有すると診断されている患者と既知の接触を有したことのある、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
対象が、SARS-CoV-2感染症を有すると正式に診断される前に、ATRインヒビターの投与をし始める、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
ATRインヒビターの投与が、1以上の臨床的有用性をもたらす、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
1以上の臨床的有用性が、感染期間を短くすること、入院の可能性の低減、死亡の可能性の低減、ICUへの入室の可能性の低減、機械的換気をはめられる可能性の低減、必要とされるであろう酸素補給の可能性の低減および/または入院の長さの低減から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
対象が、外来患者処置を受けている、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
1以上の追加の治療剤の投与をさらに含む、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
1以上の追加の治療剤が、抗炎症薬、抗生物質、抗凝固薬、抗寄生虫薬、抗血小板薬および2剤併用抗血小板療法、アンジオテンシン変換酵素(ACE)インヒビター、アンジオテンシンII受容体遮断薬、ベータ遮断薬、スタチンおよび他の複合コレステロール低下薬、特異的なサイトカインインヒビター、補体インヒビター、抗VEGF処置、JAKインヒビター、免疫調節薬、抗インフラマソーム治療、スフィンゴシン-1リン酸受容体結合剤、N-メチル-d-アスパルタート(NDMA)受容体グルタミン酸受容体アンタゴニスト、コルチコステロイド、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、抗GM-CSF、インターフェロン、アンジオテンシン受容体ネプリライシンインヒビター、カルシウムチャネル遮断薬、血管拡張薬、利尿薬、筋弛緩薬、ならびに抗ウイルス薬から選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
1以上の追加の治療剤が、抗ウイルス薬である、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
1以上の追加の治療剤が、レムデシビルである、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
1以上の追加の治療剤が、ロピナビル-リトナビルである、請求項17に記載の方法。
【請求項22】
1以上の追加の治療剤が、リバビリンおよびインターフェロン-ベータをさらに包含する、請求項17に記載の方法。
【請求項23】
1以上の追加の治療剤が、クロロキンまたはヒドロキシクロロキンである、請求項17に記載の方法。
【請求項24】
1以上の追加の治療剤が、アジスロマイシンをさらに包含する、請求項17に記載の方法。
【請求項25】
1以上の追加の治療剤が、インターフェロン-1-ベータ(Rebif(登録商標))である、請求項17に記載の方法。
【請求項26】
1以上の追加の治療剤が、ヒドロキシクロロキン、クロロキン、イベルメクチン、トラネキサム酸、ナファモスタット、ビラゾール[リバビリン]、ロピナビル/リトナビル、ファビピラビル、レロンリマブ、インターフェロンベータ-1a、インターフェロンベータ-1b、ベータ-インターフェロン、アジスロマイシン、ニタゾキサニド(nitrazoxamide)、ロバスタチン、クラザキズマブ、アダリムマブ、エタネルセプト、ゴリムマブ、インフリキシマブ、サリルマブ、トシリズマブ、アナキンラ、エマパルマブ、ピルフェニドン、ラブリズマブ-cwvz、エクリズマブ、ベバシズマブ、ヘパリン、エノキサパリン、アプレミラスト、クマジン、バリシチニブ、ルキソリチニブ、ダパフリフロジン(dapafliflozin)、コルヒチン、フィンゴリモド、イフェンプロジル、プレドニゾン、コルチゾール、デキサメタゾン、メチルプレドニゾロン、GM-CSF、オチリマブ、ATR-002、APN-01、カモスタットメシル酸塩、アルビドール、ブリラシジン、IFX-1、PAX-1-001、BXT-25、NP-120、免疫グロブリン静注(IVIG)、およびソルナチド(solnatide)から選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項27】
ATRインヒビターが、約20mg~約2000mgの間で投与され、これが1日あたり1回~4回から毎週1回で適用される、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
投与されるATRインヒビターの総量が、1日あたり約50mgと約350mgとの間である、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
ATRインヒビターが、約7日~約21日間投与される、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
ATRインヒビターが、経口的に投与される、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の技術分野
本発明は、COVID-19などのSARS-CoV感染症を包含する、ウイルス感染症の処置における毛細血管拡張性運動失調症およびRad3関連タンパク質(ATR)インヒビターの使用を提供する。
【0002】
本発明の背景
ATRキナーゼは、ある形態のDNA損傷(例として、二本鎖切断および複製ストレス)への細胞応答に関連するタンパク質キナーゼである。ATRキナーゼは、ATM(「毛細血管拡張性運動失調症突然変異」)キナーゼおよび多くの他のタンパク質と共に作用し、一般的にDNA損傷応答(「DDR」)と称される、二本断DNA切断および複製ストレスへの細胞の応答を調節する。DDRは、DNA修復を刺激し、生存を促進し、および細胞周期チェックポイントを活性化することによって細胞周期の進行を失速させ、このことが修復のための時間を提供する。DDRがなければ、細胞は、DNA損傷に対してさらに感受性があり、およびDNA複製などの内在性の細胞プロセスまたはがん治療において一般的に使用される外来性のDNA損傷剤によって誘導されるDNA病変で容易に死ぬ。
【0003】
ATRは、様々ながん細胞のタイプにおいて上方制御され、およびDNA修復、細胞周期の進行、および生存において中止的役割を果たし、DNA複製関連ストレスの間に引き起こされるDNA損傷によって活性化される。毛細血管拡張性運動失調症およびrad3関連(ATR)キナーゼのインヒビターは、ATRチェックポイントキナーゼ1(Chk1)シグナリング経路においてATR媒介性のシグナリングを妨げる。これは、DNA損傷チェックポイントの活性化を妨げ、DNA損傷修復を途絶させ、および腫瘍細胞のアポトーシスを誘導する。ATRインヒビターは、様々な固形腫瘍、例として、小細胞がん、尿路上皮癌および卵巣がんの臨床開発中である。
【0004】
コロナウイルス
コロナウイルス(CoV)は、ニドウイルス目、コロナウイルス科のポジティブセンス、一本鎖RNA(ssRNA)ウイルスである。ヒトを包含するほとんどの哺乳動物に感染するアルファコロナウイルスおよびベータコロナウイルスを含む、4つのサブタイプのコロナウイルス(アルファ、ベータ、ガンマおよびデルタ)がある。ここ20年にわたって、非ヒト哺乳動物宿主から跳び越えてヒトに感染する3つの意義深い新規コロナウイルスが現れている:2002年に出現した重症急性呼吸器症候群(SARS-CoV-1)、2012年に出現した中東呼吸器症候群(MERS-CoV)、および2019年後期に出現したCOVID-19(SARS-CoV-2)。2020年の6月中旬までに、780万人を超える人々が感染したことが知られており、および432,000人を超える人々が亡くなった。両方の数字はおそらく、疾患によって生じた惨状の著しく少なめの見積もりを表している。
【0005】
COVID-19
SARS-CoV-2は、2002年~03年のSARSの流行の原因物質である、SARS-CoV-1と酷似している(Fung, et al, Annu. Rev. Microbiol. 2019. 73:529-57)。重症疾患は、SARS-CoV-2に感染した患者のおよそ15%と報告されており、そのうち3分の1が重篤な疾患(例として、呼吸不全、ショック、または多臓器機能障害に進行する(Siddiqi., et al, J. Heart and Lung Trans. (2020), doi: https://doi.org/10.1016/j.healun.2020.03.012、Zhou, et al, Lancet 2020; 395: 1054-62. https://doi.org/10.1016/S0140-6736(20)30566-3)。SARS-CoV-2によってトリガーされるウイルスの病因および免疫応答の機序を完全に理解することは、抗ウイルス処置および対症療法を越えた治療的介入の合理的設計において極めて重要であろう。COVID-19がそれを発症する人々の健康状態に影響を与える様々な方法について発見されるべきことがいまだに多くある。
【0006】
コロナウイルス疾患2019(COVID-19)についての病原体である、重症急性呼吸器症候群(SARS)-コロナウイルス-2(CoV-2)は、世界中でほぼ八百万人に影響を及ぼし、2020年6月現在で2~4%の症例死亡率を有するパンデミックを引き起こした。ウイルスは、おそらく初期の高いウイルス負荷および既存の免疫の欠如と関連して、高い伝播速度を有する(He, et. al, Nat Med 2020 https://doi.org/10.1038/s41591-020-0869-5)。それは、とくに高齢者および併存疾患を有する個人において重度の疾患を引き起こす。COVID-19の世界的な負担は計り知れず、および疾患に取り組むための治療的アプローチは、益々必要となっている。HIV-1(ロピナビルプラスリトナビル)およびエボラウイルス(レムデシビル)のようなエンベロープRNAウイルスのために開発されたそれらを包含する直感的な抗ウイルスのアプローチが、治験薬として試験が実施されている(Grein et al, NEJM 2020 https://doi.org/10.1056/NEJMoa2007016; Cao,et al, NEJM 2020 DOI: 10.1056/NEJMoa2001282)。しかし、重度の疾患を有する多くの患者が免疫病理を呈することを考慮すると、宿主指向型の免疫調節アプローチもまた、段階的なアプローチかまたは抗ウイルス剤と同時のいずれかで検討されつつある(Metha, et al, The Lancet 2020; 395(10229) DOI: https://doi.org/10.1016/S0140-6736(20)30628-0、Stebbing, et al, Lancet Infect Dis 2020. https://doi.org/10.1016/S1473-3099(20)30132-8)。
【0007】
COVID-19の処置に使用するための多くの治療が検討されつつある一方で、今のところ疾患を処置する承認薬はなく、および入手可能なワクチンはない。今日まで、処置は、典型的には、呼吸不全を有する患者のための機械的換気を伴う対症的な管理、酸素治療といった利用可能な臨床の頼みの綱のみからなる。よって、SARS-CoV-2の感染サイクルの種々のステージを扱う新規治療について差し迫った必要性がある(Siddiqi, et al.)。
【0008】
ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)
ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)(ヒトベータヘルペスウイルス5(HHV-5)、サイトメガロウイルス(ZMV)、サイトメガロウイルス(CMV)とも)は、エンベロープ、二本鎖DNAウイルス(dsDNA)であり、ヘルペスウイルス科、サイトメガロウイルス属に属し、および世界中に分布している。伝染は、唾液、尿、精子分泌を介して、および輸血の間に生じる。
【0009】
ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)は、先天性欠損および免疫抑制された個体における日和見感染の主原因であり、およびあるがんにおけるあり得る補因子であり、免疫抑制療法下の臓器移植患者は、ウイルス感染症についてハイリスクであり;潜伏ウイルスの活性化ならびにドナーまたは市中感染の一次感染は、移植片拒絶を包含する有意な合併症、罹患率、および死亡率を引き起こし得る。ヘルペスウイルス(例として、HCMV、HSVl)、ポリオーマウイルス(例として、BKVおよびJCV)、肝炎ウイルス(HBVおよびHCV)および呼吸器系ウイルス(例として、インフルエンザA、アデノウイルス)は、これらの患者に感染する4つの主要なウイルスのクラスである。サイトメガロウイルス(HCMV)は、最も流行する移植後病原体であり、HCMVはほとんどの器官に感染し得、およびアシクロビルまたはガンシクロビルなどのHCMV抗ウイルス剤が入手可能であるにも関わらず、腎毒性の副作用および薬物耐性率の増大が、移植片および患者の生存を有意に低減させる。加えて、HCMV媒介性の免疫調節は、ほとんどの成体によって担われる明確な潜伏ウイルスを再活性化し得る。
【0010】
フラビウイルス属デングウイルス(Flavivirus Dengue)
蚊またはダニによって伝染されるフラビウイルスは、脳炎および出血熱などのヒトにおいて生死を脅かす感染症を引き起こす。所謂DENV-1、-2、-3、および-4という、4つの別個の、しかし密接に関わっている血清型のフラビウイルス属デングウイルスが知られる。デング熱は、世界中のほとんどの熱帯および亜熱帯領域の、主として都市および準都市エリアにおける風土病である。世界保健機関(WHO)によると、25億人のうちの10億人の子どもらが、DENV感染症のリスクにある(WHO、2002)。推計5,000万~1億のデング熱[DF]の症例、50万の重度のデング熱疾患の症例(すなわち、デング出血熱[DHF]およびデングショック症候群[DSS])、および20,000人を超える死亡が年ごとに世界的に生じる。DHFは、流行地域における子供らの入院および死亡の主因となっている。つまるところ、デング熱は、アルボウイルスの疾患の最も一般的な原因であることを表す。ラテンアメリカ、東南アジアおよび西太平洋(ブラジル、プエルトリコ、ベネズエラ、カンボジア、インドネシア、ベトナム、タイを包含する)に位置する国における広大な大流行のために、デング熱の症例数が過去数年にわたって劇的に上昇している。疾患が新しいエリアへと広がっているためにデング熱の症例数が増大しているのみならず、大流行がより重篤になる傾向もある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図面の簡単な記載
【
図1】
図1は、非感染細胞およびSARS-Cov-2に感染しているが治療剤への曝露のない細胞と比較して、1μMから81μMまでの範囲の濃度における本発明の化合物1で処置したときのCalu-3細胞のコンフルエンスを描くグラフを示す(対照感染細胞(緑色の円);対照非感染細胞(赤色の四角);81μm(点が上向きにある青色の三角形)、27μm(点が下向きにある青色の三角形)、9μm(青色の菱形)、3μm(青色の四角)、1μm(青色の円)の濃度の化合物1を用いた)。
【0012】
【
図2】
図2は、非感染細胞およびSARS-Cov-2に感染しているが治療剤への曝露のない細胞と比較した、9μMから81μMまでの範囲の濃度における本発明の化合物2で処置したときのCalu-3細胞のコンフルエンスを描くグラフを示す(対照感染細胞(緑色の円);対照非感染細胞(赤色の四角);81μm(点が上向きにある黒色の三角形)、27μm(点が下向きにある黒色の三角形)、9μm(黒色の菱形)の濃度の化合物1を用いた)。
【0013】
【
図3】
図3は、サイトメガロウイルスに感染したヒト包皮線維芽細胞におけるウイルスの複製に対する化合物1の影響(黒色のドット)および細胞生存率に対する化合物1の影響(灰色の四角)を描くグラフを示す。
【0014】
【
図4】
図4は、DENV-2に感染したVero細胞におけるウイルスの複製に対する化合物2の影響を描くグラフを示す。点線の交点は最大半量有効濃度(EC
50)を指し示し、それは0.46μmである。
【0015】
【
図5】
図5は、Vero細胞の生存率に対する化合物2の影響を描くグラフを示す。点線の交点は最大半量細胞毒性濃度(CC
50)を指し示し、それは6.80μmである。
【0016】
本発明の概要
第1の態様において、本発明は、ウイルス感染症の処置を、これを必要とする対象においてする使用のための本発明のATRインヒビターを提供する。この態様の一側面において、ウイルス感染症は、単一鎖RNAウイルス感染症である。この態様の別の側面において、ウイルス感染症は、コロナウイルス感染症である。この態様のさらなる側面において、ウイルス感染症は、SARS-CoV1、MERS-CoV、またはSARS-CoV-2感染症である。この態様の最終的な側面において、ウイルス感染症は、SARS-CoV-2感染症である。
【0017】
第2の態様は、コロナウイルス感染症の処置を、これを必要とする対象においてする方法であって、有効量のATRインヒビター、またはその薬学的に許容し得る塩を対象に投与することを含む方法である。この態様の一側面において、化合物
【化1】
の投与は、対象におけるウイルス負荷を低減する。この態様の一側面において、ATRインヒビターは、COVID-19肺炎の発症前に投与される。この態様のさらなる側面において、対象は、軽度から中程度のSARS-CoV-2感染症を有する。この態様の追加の側面において、対象は、投与レジメンの開始時に無症候性である。
【0018】
別の態様において、ウイルス感染症は、二本鎖DNAウイルス感染症である。この態様の一側面において、ウイルス感染症は、HCMV感染症である。好ましい態様は、サイトメガロウイルス感染症の処置を、これを必要とする対象においてする方法であって、有効量のATRインヒビター、またはその薬学的に許容し得る塩を、対象に投与することを含む。この態様の一側面において、化合物
【化2】
の投与は、対象におけるウイルス負荷を低減する。
【0019】
別の態様において、ウイルス感染症は、フラビウイルス属デングウイルス感染症である。この態様の一側面において、ウイルス感染症は、DENV-1、-2、-3、および-4感染症である。この態様の最終的な側面において、ウイルス感染症は、デングウイルス血清型2(DENV-2)感染症である。好ましい態様は、フラビウイルスデングウイルス感染症の処置を、これを必要とする対象においてする方法であって、有効量のATRインヒビター、その薬学的に許容し得る塩を、対象に投与することを含む。この態様の一側面において、化合物
【化3】
の投与は、対象におけるウイルス負荷を低減する。
【0020】
本特許出願の発明はまた、以下のとおり要約され得る:コロナウイルス感染症の処置における使用のためのATRインヒビターまたはその薬学的に許容し得る塩。コロナウイルス感染症の処置のための医薬の製造におけるATRインヒビターまたはその薬学的に許容し得る塩の使用。サイトメガロウイルス感染症の処置における使用のためのATRインヒビターまたはその薬学的に許容し得る塩。フラビウイルス属デングウイルス感染症の処置のための医薬の製造におけるATRインヒビターまたはその薬学的に許容し得る塩の使用。デングウイルス感染症の処置における使用のためのATRインヒビターまたはその薬学的に許容し得る塩もしくは溶媒和物。フラビウイルス属デングウイルス感染症の処置のための医薬の製造におけるATRインヒビターまたはその薬学的に許容し得る塩の使用。
【0021】
詳細な記載
コロナウイルスは、いくつかのヒト疾患、最も注目すべきことに2003年および2020年における重症急性呼吸器症候群(SARS)の流行の原因であるエンベロープ、プラス鎖RNAウイルスの多様な群を含む。
【0022】
呼吸器の細胞を主に標的にする、高度に感染性のトリガンマコロナウイルスである伝染性気管支炎ウイルス(IBV)は、感染した細胞においてG2期およびS期の細胞周期停止を誘導することによって細胞成長を阻害し得る(Dove B. et al.: Cell cycle perturbations induced by infection with the coronavirus infectious bronchitis virus and their effect on virus replication. J. Virol. 80, 4147-4156, 2006; Li, F.Q. et al.: Cell cycle arrest and apoptosis induced by the coronavirus infectious bronchitis virus in the absence of p53. Virology 365, 435-445, 2007)。Xu et al.は、細胞のDNA損傷応答の活性化が、コロナウイルスが細胞周期停止を誘導するために利用した機構お1つであること、ならびに化学インヒビターおよびATRのsiRNA媒介性ノックダウンによるATRキナーゼ活性の抑制がIBV誘導性ATRシグナル伝達を低減させ、およびIBVの複製を阻害したことを示した(Xu L.H. et al.: Coronavirus Infection Induces DNA Replication Stress Partly through Interaction of Its Nonstructural Protein 13 with the p125 Subunit of DNA Polymerase J Biol Chem 286: 39546-39559, 2011)。
【0023】
最近の論文は、SARS-CoV-2ウイルスの負荷、症状の重症度およびウイルス排出の間の関係を示唆している(He, et al; Liu, et al, Lancet Infect Dis 2020. https://doi.org/10.1016/S1473-3099(20)30232-2)。コロナウイルスの複製を鈍くするために症状の発病時に投与されるいくつかの抗ウイルス薬が、試験段階にある(Grein, et al; Taccone, et al)が、今のところいずれもほとんど有望性を示せていない。感染症の早期でウイルスの複製を遅らせることを可能にすることは、対象が重度の疾患を回避することを可能とするであろう。
【0024】
本発明の化合物は、細胞のDNA損傷応答のウイルス誘導性の活性化を阻害することによって、宿主におけるコロナウイルス誘導性DNA損傷応答およびコロナウイルスの複製を阻害すると考えられる。本発明の化合物が、核酸の複製、ウイルスの集合、新しいウイルス粒子の輸送、および/またはウイルスの放出を阻害するであろうことが想到される。本発明の化合物の投与の結果は、ウイルスの複製を低減することであり、次にウイルス負荷を低減し、および疾患の重症度を低減するであろう。
【0025】
本発明の化合物の抗ウイルス特性について正確な作用機序が何であれ、その投与が本明細書にさらに記載されるとおり1以上の臨床的有用性を有するであろうことが提案される。
【0026】
「COVID-19」は、SARS-CoV-2の感染によって引き起こされる疾患の名称である。感染および疾患の両方を間違いのない専門用語を用いて記載するよう注意が払われた一方で、「COVID-19」および「SARS-CoV-2感染症」は、おおよそ等価な用語であることを意味する。
【0027】
本出願の執筆の時点で、COVID-19の患者/症状の重症度の決定および特徴は、決定的に確立されていない。しかしながら、本発明の文脈において、「軽度から中程度の」COVID-19は、対象が無症候性と提示されるかまたは肺炎の証拠のない、それほど重度でない臨床症状(例として、低悪性度の発熱かまたは発熱がなく(<39.1℃)、咳、軽度から中程度の不快感)を提示するときに生じ、および一般に医療の注意を要さない。「中程度から重度の」感染症と称するとき、患者は一般に、より重度の臨床症状(例として、発熱>39.1℃、息切れ、持続する咳、肺炎等)を示す。本明細書に使用されるとき、「中程度から重度の」感染症は、典型的には、入院を包含する医療介入を必要とする。疾患の進行の間に、対象は、感染症の1回の発作で「軽度から中程度」から「中程度から重度」まで推移し得、および再び戻り得る。
【0028】
本発明の方法を使用するCOVID-19の処置は、感染症のいずれかのステージで有効量の本発明のATRインヒビターを投与し、それに関連する症状を予防又は低減することを包含する。典型的には、対象は、最も信頼の置ける診断およびSARS-CoV2感染症と一致する症状の提示後に有効量の本発明のATRインヒビターを投与され、および投与が、感染症の重症度を低減する、および/またはより重度の状態への感染症の進行を予防するであろう。かかる投与の際の臨床的有用性は、以下のセクションにてより詳細に記載される。
【0029】
本発明の方法を使用するHCMV感染症の処置は、感染症のいずれかのステージで、それに関連する症状の予防または低減のための有効量の本発明のATRインヒビターの投与を包含する。典型的には、対象は、最も信頼の置ける診断およびHCMV感染症と一致する症状の提示の後に有効量の本発明のATRインヒビターが投与され、および投与は、感染症の重症度を低減する、および/またはより重度の状態への感染症の進行を予防するであろう。かかる投与の際の臨床的有用性は、以下のセクションにより詳細に記載される。
【0030】
本発明の方法を使用したフラビウイルス属デングウイルス感染症の処置は、それに関する症状を予防または低減するための、有効量の本発明のATRインヒビターを感染症のいずれかのステージでの投与を包含する。典型的には、対象は、最も信頼の置ける診断およびフラビウイルス属デングウイルス感染症と一致する症状の提示の後に、有効量の本発明のATRインヒビターが投与され、および投与が、感染症の重症度を低減させる、および/またはより重度の状態への進行を予防するであろう。かかる投与の際の臨床的有用性は、以下のセクションにおいてより詳細に記載される。
【0031】
1.
化合物および定義
一態様は、以下:
【化4】
(2-アミノ-6-フルオロ-ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-カルボン酸[5’-フルオロ-4-(4-オキセタン-3-イル-ピペラジン-1-カルボニル)-3,4,5,6-テトラヒドロ-2H-[1,4’]ビピリジニル-3’-イル]-アミド)(以下、「化合物1」とも称される)、および
【化5】
2-アミノ-6-フルオロ-N-[5-フルオロ-4-(1-メチル-1H-イミダゾール-5-イル)ピリジン-3-イル]ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-カルボキサミド(以下、「化合物2」とも称される)からなる群から選択される化合物の使用またはウイルス感染症の処置のためのその薬学的に許容し得る塩である。
【0032】
化合物1は、化合物I-G-32(例3f)としてWO2014/089379A1に開示され、化合物2は、化合物I-C-79としてWO2014/089379A1に開示される。
【0033】
上記の化合物は、それらの遊離形態で、または薬学的に許容し得る塩としてのいずれかで使用されてもよい。遊離化合物は、酸との反応、例えば、等価な量の塩基および酸を、例えば、エタノールなどの不活性溶媒中で反応させ、およびこれに続いて蒸発させることによって、関連する酸付加塩に変換されてもよい。この反応のための好適な酸は、とりわけ、例えば、ハロゲン化水素(例えば、塩化水素、臭化水素またはヨウ化水素)、他の鉱酸およびその対応する塩(例えば、スルファート、ニトラートまたはホスファート等)、アルキル-およびモノアリールスルホナート(例えば、エタンジスルホナート(エジシレート)、トルエンスルホナート、ナフタレン-2-スルホナート(ナプシレート)、ベンゼンスルホナート)ならびに他の有機酸およびその対応する塩(例えば、フマラート、オキサラート、アセタート、トリフルオロアセタート、タートラート、マレアート、スクシナート、シトラート、ベンゾアート、サリチラート、アスコルバート)等の生理学的に許容し得る塩を与えるそれらである。
【0034】
薬学的に許容し得る、非毒性の酸付加塩の例示の態様は、塩酸、臭化水素酸、リン酸、硫酸および過塩素酸などの無機酸で、または酢酸、シュウ酸、マレイン酸、酒石酸、クエン酸、コハク酸またはマロン酸などの有機酸で形成されるか、あるいはイオン交換などの当該技術分野において使用される他の方法を使用することによって形成されるアミノ基の塩である。他の薬学的に許容し得る塩は、アジパート、アルギン酸、アスコルバート、アスパルタート、ベンゼンスルホナート、ベンゾアート、重硫酸、ボラート、ブチラート、カンフォレート、カンファースルホナート、シトラート、シクロペンタンプロピオナート、ジグルコナート、ドデシルスルファート、エタンスルホナート、ホルマート、フマラート、グルコヘプトン酸、グリセロホスファート、グリコール酸塩、グルコナート、グリコール酸塩、ヘミスルファート、ヘプタノアート、ヘキサノアート、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、2-ヒドロキシ-エタンスルホナート、ラクトビオナート、ラクタート、ラウラート、ラウリルスルファート、マラート、マレアート、マロナート、メタンスルホナート、2-ナフタレンスルホン酸、ニコチナート、ニトラート、オレアート、オキサラート、パルミタート、パモエート(palmoate)、ペクチナート(pectinate)、過硫酸塩、3-フェニルプロピオナート、ホスファート、ピクラート、ピバラート、プロピオナート、サリチラート、ステアラート、スクシナート、スルファート、タートラート、チオシアナート、p-トルエンスルホナート、ウンデカノアート、バレラート塩等を包含する。
【0035】
加えて、別様に述べられない限り、本明細書に描かれる構造はまた、1以上の同位体が濃縮された原子が存在していることのみ異なる化合物を包含することも意味する。例えば、重水素またはトリチウムによる水素の置き換え、または13Cまたは14Cが濃縮された炭素による炭素の置き換えを包含する本構造を有する化合物は、本発明の範囲内である。いくつかの態様において、基は、1以上の重水素原子を含む。
【0036】
2.使用、製剤化および投与
本明細書に使用されるとき、用語「患者」または「対象」は、動物、好ましくはヒトを意味する。しかしながら、「対象」は、イヌおよびネコなどの伴侶動物を包含し得る。一態様において、対象は、成人ヒト患者である。別の態様において、対象は、小児科の患者である。小児科の患者は、処置の開始時で18歳を下回るいずれかのヒトを包含する。成人患者は、処置の開始時で18歳以上であるいずれかのヒトを包含する。一態様において、対象は、65歳を超える存在、いずれかの年齢の免疫無防備状態のヒト、慢性肺疾病(喘息、COPD、嚢胞性線維症等)を有するヒト、および他の併存疾患を有するヒトなどのハイリスクグループの一員である。この態様の一側面において、他の併存疾患は、肥満、糖尿病および/または高血圧症である。
【0037】
本発明の組成物は、経口的に、非経口的に、吸入スプレーによって、局所的に、経直腸的に、経鼻的に、口腔内に、経膣的に、または移植されたリザーバを介して投与される。好ましくは、組成物は、経口的に投与される。一態様において、本発明の化合物の経口製剤は、錠剤またはカプセル形態である。別の態様において、経口製剤は、口または経鼻胃管を介してこれを必要とする対象に与えられるであろう溶液または懸濁液である。本発明のいずれかの経口製剤は、食品の有無にかかわらず投与されてもよい。いくつかの態様において、本発明の薬学的に許容し得る組成物は、食品とは別に投与される。他の態様において、本発明の薬学的に許容し得る組成物は、食品と共に投与される。
【0038】
本発明の薬学的に許容し得る組成物は、いずれかの経口的に許容し得る剤形で経口的に投与される。例示の経口剤形は、カプセル、錠剤、水性懸濁液または溶液である。経口使用のための錠剤のケースにおいて、一般的に使用される担体は、ラクトースおよびコーンスターチを包含する。ステアリン酸マグネシウムなどの平滑剤もまた、典型的に添加される。カプセル形態での経口投与について、有用な希釈剤は、ラクトースおよび乾燥コーンスターチを包含する。水性懸濁液が経口使用に要求されるとき、活性成分は、乳化剤および懸濁化剤と組み合わせられる。所望される場合、ある甘味料、フレーバー剤または着色剤もまた、任意に添加される。
【0039】
任意に担体材料と組み合わせて単一の剤形で組成物を産生する本発明の化合物の量は、処置される宿主、具体的な投与のモードに応じて変化するであろう。好ましくは、提供される組成物は、0.01~100mg/kg体重/日の化合物の投薬量が、これらの組成物を受ける患者に投与され得るように処方されるべきである。
【0040】
一態様において、これを必要とする対象に投与されるATRインヒビターの総量は、約20mg~約2000mgの間であり、これが1日あたり1~4回から毎週1回で適用され得る。この態様の一側面において、投与されるATRインヒビターの総量は、1日あたり約50mgと約350mgとの間であり、および好ましくは1日1回で投与される。
【0041】
別の態様において、ATRインヒビターは、1日に1回投与される。この態様の別の側面において、ATRインヒビターは、1日に2回投与される。
【0042】
上記の態様のいずれかにおいて、ATRインヒビターは、約7日~約28日の期間投与される。上記の態様のいずれかの一側面において、ATRインヒビターは、約14日間投与される。
【0043】
本発明の一態様において、対象は、COVID-19肺炎を患う。本発明の一態様において、対象は、胸部鬱血、咳、94%を下回る血液酸素飽和(SpO2)レベル、息切れ、呼吸困難、発熱、寒気、寒気を伴う繰り返す震え、筋肉疼痛および/または衰弱、頭痛、咽喉痛および/または味覚または臭覚の新たな喪失から選択される1以上の症状を患う。
【0044】
本発明の一態様において、対象は、入院中の患者に処置されるものである。別の態様において、対象は、外来診療の患者に処置されるものである。先行する態様の一側面において、対象は、入院中の患者に処置されるものから外来診療の患者に処置されるものまで推移した後に、ATRインヒビターの投与を継続してもよい。
【0045】
一態様において、ATRインヒビターの投与は、1以上の臨床的有用性をもたらす。この態様の一側面において、1以上の臨床的有用性は、以下を含む群から選択される:対象における、入院期間の低減、集中治療室(ICU)にいる期間の低減、対象がICUへ入室する可能性の低減、死亡率の低減、透析を要する腎不全の可能性の低減、非侵襲性または侵襲侵襲性の機械的換気を身に着ける可能性の低減、回復までの時間の低減、必要とされるであろう酸素供給の可能性の低減、機械的な介入なしでの末梢毛細血管の酸素飽和度(SpO2レベル)の改善または正常化、胸部のイメージング(例として、CTまたは胸部X線)によって決定されるとおりの肺炎の重症度の低減、サイトカイン産生の低減、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の重症度の低減、ARDSを発症する可能性の低減、COVID-19肺炎の臨床的消散、およびPaO2/FiO2比率の改善。
【0046】
別の態様において、1以上の臨床的有用性は、機械的換気または体外式膜型人工肺なしでの対象における末梢毛細血管の酸素飽和度(SpO2レベル)の改善または正常化を包含する。
【0047】
さらなる態様において、1以上の臨床的有用性は、入院する可能性の低減、ICUへの入室の可能性の低減、挿管する(侵襲的な機械的換気)可能性の低減、必要とされるであろう酸素供給の可能性の低減、入院の長さの低減、死亡の可能性の低減および/または再入院の可能性を包含する再発の可能性の低減である。
【0048】
本発明はまた、ウイルス感染症の処置を、これを必要とする対象においてする方法を提供し、それは有効量の本発明の化合物を対象に投与することを含む。ウイルス感染症を処置または阻害する有効量は、非処置のコントロール対象と比較して、ウイルスの病変、ウイルス負荷、ウイルス産生速度、および死亡率などのウイルス感染症の兆候の1以上の低減を引き起こすであろう量である。
【0049】
本発明の一態様は、コロナウイルス感染症の処置を、これを必要とする対象においてする方法であって、有効量のATRインヒビター、またはその薬学的に許容し得る塩を対象に投与することを含む。この態様の一側面において、対象は、SARS-CoV-2に感染している。この態様の別の側面において、ATRインヒビターの投与は、対象におけるウイルス負荷の低減をもたらす。
【0050】
一態様において、ATRインヒビターは、COVID-19肺炎の発症前に投与される。別の態様において、対象は、軽度から中程度のSARS-CoV-2感染症を有する。さらなる態様において、対象は、投与レジメンの開始時に無症候性である。別の態様において、対象は、SARS-CoV-2感染と診断されている患者との既知の接触を有している。追加の態様において、対象は、COVID-19を有すると正式に診断される前にATRインヒビターの投与を始める。
【0051】
一態様は、COVID-19を有する対象を処置する方法であって、それは有効量のATRインヒビターを対象に投与することを含む。この態様の一側面において、対象は、これまでにSARS-CoV-2ワクチンでワクチン接種されたことがあり、およびワクチンに関する感染の増悪、例えば、抗体依存性の増強または関連する抗体媒介性の機構のワクチン/抗体に関する増悪を発症する。
【0052】
上記の態様のいずれかにおいて、ATRインヒビターの投与は、1以上の臨床的有用性を対象にもたらす。この態様の一側面において、1以上の臨床的有用性は、感染期間を短くすること、入院の可能性の低減、死亡の可能性の低減、ICUへの入室の可能性の低減、機械的換気をはめる可能性の低減、必要とされるであろう酸素供給の可能性の低減および/または入院の長さの低減である。この態様のさらなる側面において、1以上の臨床的有用性は、対象がCOVID-19の有意な症状を発症しないことである。
【0053】
本発明の化合物は、SARS-CoV-2感染症の発病前もしくはそれに続いて、または対象において急性感染症が診断された後に投与され得る。本発明の使用の先述の化合物および医薬産物は、具体的には治療処置のために使用される。治療的に関係のある効果は、障害の1以上の症状をある程度和らげるか、または疾患または病態に関連するかまたはそれを引き起こす1以上の生理学的または生化学的パラメータを部分的または完全のいずれかで常態に戻す。モニタリングは、化合物が、例として、応答をブーストし、および病原体および/または疾患の症状を根絶するために、別個の間隔で投与される場合は、処置の一種として考えられる。本発明の方法はまた、障害を発症する可能性の低減する、または軽度から中程度の疾患の兆候に先立ってCOVID-19に関連する障害の開始を予防までもする、または急性感染症の発生した、およびそれの継続する症状を処置するためにも使用され得る。
【0054】
軽度から中程度のCOVID-19の処置は、典型的には外来診療の患者になされる。中程度から重度のCOVID-19の処置は、典型的には入院中の患者になされる。加えて、処置は、対象が退院した後に外来診療の患者に継続され得る。
【0055】
本発明はさらにまた、本発明に従う少なくとも1の化合物またはそれらの薬学的な塩を含む医薬に関する。
【0056】
本発明の意味における「医薬」は、本発明の1以上の化合物またはその調製物(例として、医薬組成物または医薬製剤)を含み、および予防法、治療、経過観察において、またはCOVID-19の臨床症状および/またはそれを包含するウイルス感染への既知の曝露を患う患者のケアの後に使用され得る、薬学分野におけるいずれかの剤である。
【0057】
組み合わせ処置
様々な態様において、活性成分は、単独でまたは1以上の追加の治療剤と組み合わせて投与されてもよい。相乗的または増加した効果は、医薬組成物中の1より多い化合物を使用して達成されてもよい。活性成分は、同時にかまたは連続してのいずれかで使用され得る。
【0058】
一態様において、ATRインヒビターは、1以上の追加の治療剤と組み合わせて投与される。この態様の一側面において、1以上の追加の治療剤は、抗炎症薬、抗生物質、抗凝固薬、抗寄生虫薬、抗血小板薬および2剤併用抗血小板療法、アンジオテンシン変換酵素(ACE)インヒビター、アンジオテンシンII受容体遮断薬、ベータ遮断薬、スタチンおよび他の複合コレステロール低下薬、特異的なサイトカインインヒビター、補体インヒビター、抗VEGF処置、JAKインヒビター、免疫調節薬、抗インフラマソーム治療、スフィンゴシン-1リン酸受容体結合剤、N-メチル-d-アスパルタート(NDMA)受容体グルタミン酸受容体アンタゴニスト、コルチコステロイド、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、抗GM-CSF、インターフェロン、アンジオテンシン受容体ネプリライシンインヒビター、カルシウムチャネル遮断薬、血管拡張薬、利尿薬、筋弛緩薬、および抗ウイルス薬から選択される。
【0059】
一態様において、ATRインヒビターは、抗ウイルス剤と組み合わせて投与される。この態様の一側面において、抗ウイルス剤は、レムデシビルである。この態様の別の側面において、抗ウイルス剤は、ロピナビル-リトナビル単独またはリバビリンおよびインターフェロン-ベータと組み合わせたものである。
【0060】
一態様において、ATRインヒビターは、広域抗生物質と組み合わせて投与される。
【0061】
一態様において、ATRインヒビターは、クロロキンまたはヒドロキシクロロキンと組み合わせて投与される。この態様の一側面において、ATRインヒビターは、さらにアジスロマイシンと組み合わされる。
【0062】
一態様において、ATRインヒビターは、インターフェロン-1-ベータ(Rebif(登録商標))と組み合わせて投与される。
【0063】
一態様において、ATRインヒビターは、ヒドロキシクロロキン、クロロキン、イベルメクチン、トラネキサム酸、ナファモスタット、ビラゾール、リバビリン、ロピナビル/リトナビル、ファビピラビル、アルビドール、レロンリマブ、インターフェロンベータ-1a、インターフェロンベータ-1b、ベータ-インターフェロン、アジスロマイシン、ニタゾキサニド(nitrazoxamide)、ロバスタチン、クラザキズマブ、アダリムマブ、エタネルセプト、ゴリムマブ、インフリキシマブ、サリルマブ、トシリズマブ、アナキンラ、エマパルマブ、ピルフェニドン、ベリムマブ、リツキシマブ、オクレリズマブ、アニフロルマブ、ラブリズマブ-cwvz、エクリズマブ、ベバシズマブ、ヘパリン、エノキサパリン、アプレミラスト、クマジン、バリシチニブ、ルキソリチニブ、ダパグリフロジン、メトトレキサート、レフルノミド、アザチオプリン、スルファサラジン、ミコフェノール酸モフェチル、コルヒチン、フィンゴリモド、イフェンプロジル、プレドニゾン、コルチゾール、デキサメタゾン、メチルプレドニゾロン、メラトニン、オチリマブ、ATR-002、APN-01、カモスタットメシル酸塩、ブリラシジン、IFX-1、PAX-1-001、BXT-25、NP-120、免疫グロブリン静注(IVIG)、およびソルナチド(solnatide)から選択される1以上の追加の治療剤と組み合わせて投与される。
【0064】
一態様において、ATRインヒビターは、1以上の抗炎症剤と組み合わせて投与される。この態様の一側面において、抗炎症剤は、コルチコステロイド、ステロイド、COX-2インヒビター、および非ステロイド系の抗炎症薬物(NSAID)から選択される。この態様の一側面において、抗炎症剤は、ジクロフェナク、エトドラク、フェノプロフェン、フルルビプロフェン(flurbirprofen)、イブロプロフェン、インドメタシン、メクロフェナム酸、ムフェナム酸、メロキシカム、ナブメトン、ナプロキセン、オキサプロジン、ピロキシカム、スリンダク、トルメチン、セレコキシブ、プレドニゾン、ヒドロコルチゾン、フルドコルチゾン、ベタメタゾン(bethamethasone)、プレドニゾロン、トリアムシノロン、メチルプレドニゾン、デキサメタゾン、フルチカゾン、およびブデソニド(単独またはホルモテノール、サルメテロール、またはビランテロールと組み合わせて)である。
【0065】
一態様において、ATRインヒビターは、1以上の免疫調節薬と組み合わせて投与される。この態様の一側面において、免疫調節薬は、カルシニューリンインヒビター、抗代謝体、またはアルキル化剤である。この態様の別の側面において、免疫調節薬は、アザチオプリン、ミコフェノール酸モフェチル、メトトレキサート、ダプソン(dapson)、シクロスポリン、シクロホスファミド等から選択される。
【0066】
一態様において、ATRインヒビターは、1以上の抗生物質と組み合わせて投与される。この態様の一側面において、抗生物質は、広域抗生物質である。この態様の別の側面において、抗生物質は、ペニシリン、抗ブドウ球菌(antistraphylococcal)ペニシリン、セファロスポリン、アミノペニシリン(一般的にベータラクタマーゼインヒビターと共に投与される)、モノバクタム、キノリン、アミノグリコシド、リンコサミド、マクロライド、テトラサイクリン、グリコペプチド、抗代謝体またはニトロイミダゾールである。この態様のさらなる側面において、抗生物質は、ペニシリンG、オキサシリン、アモキシシリン、セファゾリン、セファレキシン、セフォテタン(cephotetan)、セフォキシチン、セフトリアキソン(ceftriazone)、オーグメンチン、アモキシシリン、アンピシリン(+スルバクタム)、ピペラシリン(+タゾバクタム)、エルタペネム、シプロフロキサシン、イミペネム、メロペネム、レボフロキサシン、モキシフロキサシン、アミカシン、クリンダマイシン、アジスロマイシン、ドキシサイクリン、バンコマイシン、バクトリム、およびメトロニダゾールから選択される。
【0067】
一態様において、ATRインヒビターは、1以上の抗凝固薬と組み合わせて投与される。この態様の一側面において、抗凝固薬は、アピキサバン、ダビガトラン、エドキサバン、ヘパリン、リバーロキサバン、およびワルファリンから選択される。
【0068】
一態様において、ATRインヒビターは、1以上の抗血小板薬および/または2剤併用抗血小板療法と組み合わせて投与される。この態様の一側面において、抗血小板薬および/または2剤併用抗血小板療法は、アスピリン、クロピドグレル、ジピリダモール、プラスグレル、およびチカグレロルから選択される。
【0069】
一態様において、ATRインヒビターは、1以上のACEインヒビターと組み合わせて投与される。この態様の一側面において、ACEインヒビターは、ベナゼプリル、カプトプリル、エナラプリル、ホシノプリル、リシノプリル、モエキシプリル、ペリンドプリル、キナプリル、ラミプリルおよびトランドラプリルから選択される。
【0070】
一態様において、ATRインヒビターは、1以上のアンジオテンシンII受容体遮断薬と組み合わせて投与される。この態様の一側面において、アンジオテンシンII受容体遮断薬は、アジルサルタン、カンデサルタン、エプロサルタン、イルベサルタン、ロサルタン、オルメサルタン、テルミサルタン、およびバルサルタンから選択される。
【0071】
一態様において、ATRインヒビターは、1以上のベータ遮断薬と組み合わせて投与される。この態様の一側面において、ベータ遮断薬は、アセブトロール、アテノロール、ベタキソロール、ビソプロロール/ヒドロクロロチアジド、ビソプロロール、メトプロロール、ナドロール、プロプラノロール、およびソタロールから選択される。
【0072】
別の態様において、ATRインヒビターは、1以上のアルファおよびベータ-遮断薬と組み合わせて投与される。この態様の一側面において、アルファおよびベータ遮断薬は、カルベジロールまたはラベタロール塩酸塩である。
【0073】
一態様において、ATRインヒビターは、1以上のインターフェロンと組み合わせて投与される。
【0074】
一態様において、ATRインヒビターは、1以上のアンジオテンシン受容体-ネプリライシンインヒビターと組み合わせて投与される。この態様の一側面において、アンジオテンシン受容体ネプリライシンインヒビターは、サクビトリル/バルサルタンである。
【0075】
一態様において、ATRインヒビターは、1以上のカルシウムチャネル遮断薬と組み合わせて投与される。この態様の一側面において、カルシウムチャネル遮断薬は、アムロジピン、ジルチアゼム、フェロジピン、ニフェジピン、ニモジピン、ニソルジピン、およびベラパミルから選択される。
【0076】
一態様において、ATRインヒビターは、1以上の血管拡張薬と組み合わせて投与される。この態様の一側面において、1以上の血管拡張薬は、二硝酸イソソルビド、一硝酸イソソルビド、ニトログリセリン、およびミノキシジルから選択される。
【0077】
一態様において、ATRインヒビターは、1以上の利尿薬と組み合わせて投与される。この態様の一側面において、1以上の利尿薬は、アセタゾラミド、アミロライド、ブメタニド、クロロチアジド、クロルタリドン、フロセミド、ヒドロクロロチアジド、インダパミド、メトラゾン、スピロノラクトン、およびトルセミドから選択される。
【0078】
一態様において、ATRインヒビターは、1以上の筋弛緩薬と組み合わせて投与される。この態様の一側面において、筋弛緩薬は、鎮痙薬(antispasmodic)または鎮痙薬(antispastic)である。この態様の別の側面において、1以上の筋弛緩薬は、カリソプロドール、クロルゾキサゾン、シクロベンザプリン、メタキサロン、メトカルバモール、オルフェナドリン、チザニジン、バクロフェン、ダントロレン、およびジアゼパムから選択される。
【0079】
一態様において、ATRインヒビターは、1以上の抗ウイルス薬と組み合わせて投与される。この態様の一側面において、抗ウイルス薬は、レムデシビルである。
【0080】
一態様において、ATRインヒビターは、抗寄生虫薬(これらに限定されないが、ヒドロキシクロロキン、クロロキン、イベルメクチンを包含する)、抗ウイルス薬(これらに限定されないが、トラネキサム酸、ナファモスタット、ビラゾール[リバビリン]、ロピナビル/リトナビル、ファビピラビル、レロンリマブ、インターフェロンベータ-1a、インターフェロンベータ-1b、ベータ-インターフェロンを包含する)、細胞内活性を有する抗生物質(これらに限定されないが、アジスロマイシン、ニタゾキサニドを包含する)、スタチンおよび他の複合コレステロール低下薬および抗炎症薬(これらに限定されないが、ロバスタチンを包含する)、特異的なサイトカインインヒビター(これらに限定されないが、クラザキズマブ、アダリムマブ、エタネルセプト、ゴリムマブ、インフリキシマブ、サリルマブ、トシリズマブ、アナキンラ、エマパルマブ、ピルフェニドンを包含する)、補体インヒビター(これらに限定されないが、ラブリズマブ-cwvz、エクリズマブを包含する)、抗VEGF処置(これらに限定されないが、ベバシズマブを包含する)、抗凝固薬(これらに限定されないが、ヘパリン、エノキサパリン、アプレミラスト、クマジンを包含する)、JAKインヒビター(これらに限定されないが、バリシチニブ、ルキソリチニブ、ダパフリフロジン(dapafliflozin)を包含する)、抗インフラマソーム治療(anti-inflammasone)(これらに限定されないが、コルヒチンを包含する)、スフィンゴシン-1リン酸受容体結合剤(これらに限定されないが、フィンゴリモドを包含する)、N-メチル-d-アスパルタート(NDMA)受容体グルタミン酸受容体アンタゴニスト(これらに限定されないが、イフェンプロジルを包含する)、コルチコステロイド(これらに限定されないが、プレドニゾン、コルチゾール、デキサメタゾン、メチルプレドニゾロンを包含する)、GM-CSF、抗GM-CSF(オチリマブ)、ATR-002、APN-01、カモスタットメシル酸塩、アルビドール、ブリラシジン、IFX-1、PAX-1-001、BXT-25、NP-120、免疫グロブリン静注(IVIG)、およびソルナチドから選択される1以上の追加の治療剤と組み合わせて投与される。
【0081】
いくつかの態様において、ATRインヒビターと1以上の追加の治療剤との組み合わせは、ATRインヒビターまたは追加の治療剤が、単独で投与されるときの投与される有効量と比較して、同じ結果を達成する投与されるATRインヒビターおよび/または1以上の追加の治療剤の有効量(これらに限定されないが、投薬量の体積、投薬量の濃度、および/または投与される合計薬物用量を包含する)を低減する。いくつかの態様において、ATRインヒビターと追加の治療剤との組み合わせは、追加の治療剤単独での投与と比較して合計処置期間を低減する。いくつかの態様において、ATRインヒビターと追加の治療剤との組み合わせは、追加の治療剤単独での投与に関連する副作用を低減する。いくつかの態様において、有効量のATRインヒビターと追加の治療剤との組み合わせは、有効量のATRインヒビターまたは追加の治療剤単独と比較して、より効果的である。一態様において、有効量のATRインヒビターと1以上の追加の治療剤との組み合わせは、いずれかの剤の単独での投与よりも、1以上の追懐の臨床的有用性をもたらす。
【0082】
本明細書に使用されるとき、用語「処置」、「処置する」および「処置すること」は、本明細書に記載のとおりのウイルス感染症、またはその1以上の症状を、回復すること(reversing)、緩和すること、その発現を遅延させること、またはその進行を阻害することを指す。いくつかの態様において、処置は、1以上の症状が発症した後に施される。他の態様において、処置は、症状の非存在下で施される。例えば、処置は、症状の発現前に感染しやすい個人(例として、感染した人への既知の曝露の観点から、および/または重度の疾患、または他の感染しやすい因子についての予測因子である併存疾患の観点から)へ施される。
【0083】
例証
例1:化合物の抗ウイルス試験
Calu-3細胞を、2つの384ウェルプレートに蒔いた。プレート1は、化合物プラスウイルスSARS-CoV2/ZG/297-20継代6感染多重度0.05を含有し、およびプレート2は、化合物のみを含有した。各ウェルについて、15,000Calu-3細胞を、完全成長培地(EMEM、10%FCS、1%Pen/strep)において50μL/ウェルに蒔いた。細胞を、37℃および5%CO2で48時間成長させた。この時間の後に、両方のプレートにおいて培地を交換し、および新鮮な培地を各ウェルに添加した。
【0084】
プレート1について:夫々の濃度で5μLの各化合物を、デュプリケートにて、指定したウェルに1時間で添加し、およびその後0.05のMOIにおいてSARS-Cov-2で感染させた。各ウェルの最終的な体積は、5μLの化合物、5μLのウイルス(0.05MOIに希釈し、および量を調整した)、および40μLのEMEM完全培地のウェルあたり合計50μLを含有した。プレートを、ウイルス添加後、2h間隔で、120時間の合計観察時間、Incucyte顕微鏡でモニタリングした。
【0085】
Cell Glo試薬(Promega)を用いて細胞の生存率を決定した;50μLの試薬を各ウェルに添加し、rtにて暗中10minの間インキュベートし、次いで、ルミネセンスを、Biotekプレートリーダーを用いて測定した。
【0086】
図1および2から明白であるように、第1の化合物および第2の化合物の両方は、細胞のコンフルエンスの有意な改善に繋がり、コンフルエンスのレベルはほぼ非感染細胞のレベルまで回復する。
図1および
図2に示された結果は、再現性のあるものであった。
【0087】
例2:抗ウイルス試験-サイトメガロウイルス
化合物の抗ウイルス活性を決定するために、ヒト包皮線維芽細胞(HFF)を、感染前に100μMから0.0128μMまでの範囲をとる各化合物の5倍の段階希釈で1hの間処理した。抗ウイルス活性を、5日後に、免疫蛍光ベースのアッセイを使用して決定した。細胞毒性を、同じ濃度の化合物かつ同じ長さの時間で処理した非感染細胞に対してMTTアッセイを使用して決定した。アシクロビルをアッセイ対照として包含した。
【0088】
実験手順
各化合物の8つの希釈の抗ウイルス活性を、HCMVでの感染1h前の投与に続いて探究した。化合物およびウイルスを、実験の全期間(5日)細胞上に置いた。同じ範囲の濃度の化合物の細胞毒性を、MTTアッセイによって決定した。
【0089】
細胞の播種
細胞を、4つの96ウェルプレート(2つは細胞毒性アッセイのために、および2つは感染力アッセイのために)において完全培地(10%FBS(Gibco 10500064)および1Xp/s(Gibco 15070063)で補充したDMEM(Gibco、61965026))中に4,000細胞/100μl/ウェルで蒔いた。蒔いた後に、プレートを均等な分布のためにrtにて5分間、および次いで37℃、5%CO2で翌日までインキュベートした。化合物1および対照(アシクロビル)を、10mMストック溶液から1:50で補足培地(5%FBS(Gibco 10500064)および1Xp/s(Gibco 15070063)で補充したDMEM(Gibco、61965026))中200μMまで希釈し、および225μlのこれらの希釈したストックまたは希釈剤のみを(1%DMSO)をトリプリケートで丸底96ウェルプレートのトップの最上列(A)に添加した。
【0090】
180μlの0.2%DMSO希釈剤を、すべての他のウェル(B~H列)に添加した。このように、DMSOのパーセンテージを、段階希釈にわたって0.2%で一定に保った。A列においてのみ、DMSOの濃度は1%であり(非感染/非処置対照においてもまた)、ストックからの最初の希釈における濃度を反映していた。5倍の段階希釈を、A列からB列中へと45μl移し、混合し、および次いでB列からC列中へと、等H列まで繰り返すことによって行った。
【0091】
細胞の前処理
ウェルあたり50μlの補足培地を、各プレート(感染力および細胞毒性)中の細胞に添加した。希釈プレートからウェルあたり50μlの処理を、各プレート(感染力および細胞毒性)中の対応する位置における細胞に移した。すべてのプレートを、37℃、5%CO2でインキュベートした。
【0092】
感染
ウイルスストック(HCMV Merlin株、1x106IU/ml)を補足培地で5倍に希釈し、2x105IU/mlとなる濃度をもたらした。1hの前処理後、培地/処理を細胞から取り除き、および希釈プレートからウェルあたり50μlの処置を、感染力プレート中の対応する位置における細胞に再び移した。非感染対照(50μlのウイルスを含まない補足培地を添加した)を除いて、ウェルあたり50μlのウイルス(MOI約1)を添加した。
【0093】
固定および展開
5日後、感染したプレートをPBSで洗浄し、4%ホルムアルデヒドで30minの間固定し、再びPBSで洗浄し、および染色まで終夜4℃にてPBS中で保管した。細胞毒性プレートをMTTで処理し、細胞生存率を決定した。
【0094】
感染力のリードアウト
細胞を免疫染色した。そのためにすべての残留するホルムアルデヒドを50mMのアンモニウム塩化物でクエンチし、その後細胞を透過処理して(0.1% Triton X100)、およびHCMV gB(The Native Antigen Company)を認識する抗体で染色した。一次抗体をAlexa-488抱合二次抗体(Life Technologies、A21207)で検出し、および核をHoechstで染色した。画像を、10X対物レンズを使用したOpera Phenixハイコンテンツ共焦点顕微鏡(Perkin Elmer)上で獲得し、および感染のパーセンテージをColumbusソフトウェアを使用して算出した(感染細胞/合計細胞x100)。
【0095】
細胞毒性のリードアウト
細胞毒性をMTTアッセイによって検出した。そのためにMTT試薬(Sigma、M5655)を、37℃、5%CO2で2hの間細胞に添加し、その後培地を取り除き、および沈殿物を、1:1 イソプロパノール:DMSOの混合物で20分間可溶化した。上清をクリーンなプレートに移し、および570nmでシグナルを読み取った。
【0096】
例3:抗ウイルス試験-フラビウイルス属デングウイルス
化合物の抗ウイルス効果を、細胞変性効果(CPE)阻害アッセイを使用してデングウイルス血清型2(DENV-2)に対して評価した。細胞毒性効果を並行して査定した。
【0097】
化合物2の5倍の段階希釈を50μMの開始濃度で調製し、および1日前にコニカル96ウェルプレート中に蒔かれた1.00E+04のVero細胞にトリプリケートで添加され、および37℃および5%CO2で1時間インキュベートした。インキュベーション時間の間にウイルスを解凍し、および接種源を感染培地中に調製した。ストックおよび接種源を常に、湿った氷中に維持した。次いで、ウイルスを化合物2の希釈液/細胞(1:1)に添加し、およびプレートを37℃および5%CO2で3~5日間インキュベートした。
【0098】
細胞を免疫染色した。次いで、培地を取り除き、細胞をPBSで洗浄し、冷やした80%/20%(v/v)のエタノール/メタノールで固定して、および-20℃で20分間インキュベートした。固定液の除去後にプレートを風乾し、洗浄して、および特異的なAb#1で染色し、洗浄して、およびHRP抱合Ab#2で染色した。次いで、細胞を洗浄し、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)基質を添加して、これに続き停止溶液を添加した。上清をクリーンなプレートに移し、および450nmでシグナルを読み取った。
【国際調査報告】