(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-18
(54)【発明の名称】特にマイクロリソグラフィ投影露光装置のミラー
(51)【国際特許分類】
G03F 7/20 20060101AFI20230710BHJP
G02B 5/08 20060101ALI20230710BHJP
【FI】
G03F7/20 521
G02B5/08 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022579041
(86)(22)【出願日】2021-06-08
(85)【翻訳文提出日】2023-01-17
(86)【国際出願番号】 EP2021065326
(87)【国際公開番号】W WO2021259633
(87)【国際公開日】2021-12-30
(31)【優先権主張番号】102020207699.5
(32)【優先日】2020-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503263355
【氏名又は名称】カール・ツァイス・エスエムティー・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100147692
【氏名又は名称】下地 健一
(72)【発明者】
【氏名】ケルスティン ヒルド
(72)【発明者】
【氏名】トラルフ グリューナー
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル ゴルディ
(72)【発明者】
【氏名】ハンズ マイケル ステパン
(72)【発明者】
【氏名】ビタリー シュクロベール
【テーマコード(参考)】
2H042
2H197
【Fターム(参考)】
2H042DA01
2H042DA12
2H042DA20
2H042DC02
2H042DE00
2H197AA10
2H197BA02
2H197CA10
2H197CC02
2H197CC14
2H197DA09
2H197DB10
2H197GA01
2H197GA10
2H197GA21
2H197GA23
2H197HA03
2H197HA05
(57)【要約】
本発明は、特にマイクロリソグラフィリソグラフィ投影露光装置のミラーであって、光学面と、ミラー基板(10、21、31、41、50、70、80)と、光学有効面に入射した電磁放射線を反射する反射層スタック(28、38、48、75、85)と、少なくとも1つの第1電極構成体(24、34、44)と、少なくとも1つの第2電極構成体(23、33、43)と、第1電極構成体と第2電極構成体との間に位置するアクチュエータ層系であり、ミラー基板(10、21、31,41、50、70、80)と反射層スタック(28、38、48、75、85)との間に配置されたアクチュエータ層系とを備え、当該アクチュエータ層系は、圧電層(25、35、45)を含み、第1電極構成体と第2電極構成体との間に印加される電圧に反応して、電圧の所定値に対して光学有効面に垂直な方向のアクチュエータ層系の線形変形を特徴付ける変形応答(11、51)を示し、当該変形応答は、圧電層全体で空間的に一定である所定の電圧に対してPV値が20%以上局所的に変わるミラーに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学有効面を有する、特にマイクロリソグラフィリソグラフィ投影露光装置のミラーであって、
ミラー基板(10、21、31、41、50、70、80)と、
前記光学有効面に入射した電磁放射線を反射する反射層スタック(28、38、48、75、85)と、
少なくとも1つの第1電極構成体(24、34、44)と、
少なくとも1つの第2電極構成体(23、33、43)と、
前記第1電極構成体(24、34、44)と前記第2電極構成体(23、33、43)との間に位置するアクチュエータ層系であり、前記ミラー基板(10、21、31,41、50、70、80)と前記反射層スタック(28、38、48、75、85)との間に配置されたアクチュエータ層系と
を備え、前記アクチュエータ層系は、圧電層(25、35、45)を含み、前記第1電極構成体(24、34、45)と前記第2電極構成体(23、33、43)との間に印加される電圧に反応して、電圧の所定値に対して前記光学有効面に垂直な方向の前記アクチュエータ層系の線形変形を特徴付ける変形応答(11、51)を示し、
前記変形応答(11、51)は、前記圧電層(25、35、45)全体で空間的に一定である所定の電圧に対してPV値が20%以上局所的に変わるミラー。
【請求項2】
請求項1に記載のミラーにおいて、前記変形応答は、前記圧電層(25、35、45)全体で空間的に一定である所定の電圧に対してPV値が50%以上、特に70%以上、より詳細には90%以上局所的に変わることを特徴とするミラー。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のミラーにおいて、前記圧電層(25、35、45)は、該圧電層(25、35、45)全体でPV値が20%以上、特に50%以上、より詳細には70%以上、より詳細には90%以上局所的に変わるd
33定数を有することを特徴とするミラー。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のミラーにおいて、前記アクチュエータ層系は、特にPV値が20%以上の局所変動で局所的に変わる厚さを有することを特徴とするミラー。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のミラーにおいて、前記アクチュエータ層系は、前記圧電層(45)に加えて誘電体層(46a)を含むことを特徴とするミラー。
【請求項6】
請求項5に記載のミラーにおいて、前記誘電体層(46a)は、局所的に変わる厚さを有することを特徴とするミラー。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のミラーにおいて、前記圧電層(25、35、45)は、局所的に変わる化学量論組成を有することを特徴とするミラー。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のミラーにおいて、前記第1電極構成体(24、34、44)及び前記第2電極構成体(23、33、43)は、それぞれ前記圧電層(25、35、45)の光学使用域の99%以上を覆うことを特徴とするミラー。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載のミラーにおいて、前記第1電極構成体(24、34、44)及び前記第2電極構成体(23、33、43)は、全てがミラーの面法線に対して垂直に延びる電圧リード線をそれぞれ有することを特徴とするミラー。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載のミラーにおいて、該ミラーは、2つの電極構成体(72、82)間にそれぞれ位置する複数の前記アクチュエータ層系(73a~73f、83a~83f)をスタック状に有することを特徴とするミラー。
【請求項11】
請求項10に記載のミラーにおいて、前記スタックの相互に異なるアクチュエータ層系(73a~73f、83a~83f)は、ミラーで反射した光の波長で異なる変形モードを誘起することを特徴とするミラー。
【請求項12】
光学有効面を有する、特にマイクロリソグラフィ投影露光装置のミラーであって、
ミラー基板(70、80)と、
前記光学有効面に入射した電磁放射線を反射する反射層スタック(75、85)と、
2つの電極構成体(72、82)間にそれぞれ配置されたアクチュエータ層系(73a~73f、83a~83f)のスタックであり、前記ミラー基板(10、21、31、41、50、70、80)と前記反射層スタック(28、38、48、75、85)との間に配置されたスタックと
を備え、前記アクチュエータ層系(73a~73f、83a~83f)のそれぞれは、圧電層を含み、前記電極構成体(72、82)間に印加される電圧に反応して、電圧の所定値に対して前記光学有効面に垂直な方向の前記各アクチュエータ層系(73a~73f、83a~83f)の線形変形を特徴付ける変形応答を示し、
前記スタックの相互に異なるアクチュエータ層系(73a~73f、83a~83f)は、ミラーで反射した光の波長で異なる変形モードを誘起するミラー。
【請求項13】
請求項11又は12に記載のミラーにおいて、前記異なる変形モードは、異なるゼルニケ変形に対応することを特徴とするミラー。
【請求項14】
請求項11~13のいずれか1項に記載のミラーにおいて、該ミラーは、30nm未満、特に15nm未満の作動波長用に設計されることを特徴とするミラー。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか1項に記載のミラーにおいて、該ミラーは、マイクロリソグラフィ投影露光装置のミラーであることを特徴とするミラー。
【請求項16】
マイクロリソグラフィ投影露光装置の光学系、特に照明装置又は投影レンズであって、2つの電極構成体間に位置する少なくとも1つのアクチュエータ層系をいずれの場合も含む請求項1~15のいずれか1項に記載の少なくとも1つのミラーを備えたことを特徴とする光学系。
【請求項17】
請求項16に記載の光学系において、該光学系は、請求項1~15のいずれか1項に記載の複数のミラーを備え、前記アクチュエータ層系は、各ミラーで反射した光の波長で誘起される変形モードに関してミラー毎に相互に異なることを特徴とする光学系。
【請求項18】
照明装置及び投影レンズを備えたマイクロリソグラフィ投影露光装置であって、請求項16又は17に記載の光学系を備えたことを特徴とするマイクロリソグラフィ投影露光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2020年6月22日に出願された独国特許出願第10 2020 207 699.5号の優先権を主張する。この出願の内容を参照により本明細書に援用する。
【0002】
本発明は、特にマイクロリソグラフィ投影露光装置のミラーに関する。
【背景技術】
【0003】
マイクロリソグラフィは、例えば集積回路又はLCD等の微細構造コンポーネントの製造に用いられる。マイクロリソグラフィプロセスは、照明装置及び投影レンズを含むいわゆる投影露光装置で実行される。この場合、照明装置により照明されたマスク(レチクル)の像を、投影レンズにより、感光層(フォトレジスト)で被覆されて投影レンズの像平面に配置された基板(例えばシリコンウェーハ)に投影することで、マスク構造を基板の感光コーティングに転写するようにする。
【0004】
EUV領域用に設計した投影レンズでは、すなわち例えば約13nm又は約7nmの波長では、適当な光透過屈折材料が利用可能でないことにより、ミラーを結像プロセス用の光学コンポーネントとして用いる。
【0005】
この場合、圧電材料からなるアクチュエータ層を有するアダプティブミラーとしてEUVシステムの1つ又は複数のミラーを構成することも知られており、その場合、この圧電層に対して両側に配置された電極に電圧を印加することにより、強度が局所的に変わる電界が圧電層において発生する。圧電層が局所変形する場合、アダプティブミラーの反射層スタックも変形する結果として、例えば、結像収差を(場合によっては時間的に変化する結像収差も)電極の適当な駆動により少なくとも部分的に補償することができる。
【0006】
図10aは、原理上可能な従来のアダプティブミラー110の構造を単なる概略図で示す。ミラー110は、特にミラー基板111及び反射層スタック120を備え、本例ではチタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O
3、PZT)から作製された圧電層115を有する。電極構成体が圧電層115の上下にそれぞれ位置し、これらの電極構成体により、局所的に可変の変形を発生させる電界をミラー110に印加することが可能である。上記電極構成体のうち、基板111側の第2電極構成体は、一定の厚さの連続した平面電極113として構成される一方で、第1電極構成体は複数の電極119を有し、そのそれぞれに、電極113に対する電圧をリード線118により印加することが可能である。電極119は、共通の平滑化層117に埋め込まれ、平滑化層117は、例えば石英(SiO
2)から作製され、電極119から形成された電極構成体を水平にするよう働く。さらに、ミラー110は、ミラー基板111とミラー基板111側の下部電極113との間に接着層112(例えば、チタンTiからなる)と、基板111側の電極構成体と圧電層115との間に配置されたバッファ層114(例えば、LaNiO
3からなる)とを有し、バッファ層114は、最適な結晶構造のPZTの成長をさらに支持すると共に耐用寿命にわたって圧電層の一貫した偏光特性を確保する。
【0007】
ミラー110又は当該ミラー110を備えた光学系の動作中に、電極113及び119に電圧を印加すると、形成される電界により圧電層115が撓む。このように、例えば、例えば光学有効面110aにEUV放射線が入射した場合の熱変形による光学収差の補償のために、ミラー110の駆動を達成することが可能である。
【0008】
図10aによれば、ミラー110はさらにメディエータ層116を有する。当該メディエータ層116は、電極119(説明のためだけに
図1に平面図で示す)と直接電気的に接触する。上記メディエータ層116は、電位に関して電極119間を「媒介する」よう働き、低い導電率(好ましくは200ジーメンス/メートル未満)しか有しない結果として、隣接電極119間の電位差がメディエータ層116で実質的に下がる。
【0009】
アダプティブミラーの電極構成体に対する電圧の上記印加により、メディエータ層116に電流が生じ、ひいてはそれにより発生した電力により望ましくない寄生的な発熱が生じるので、メディエータ層116の十分に高い電気抵抗(例えば、100kΩ)の設定により上記電力を制限することが原理上は望ましい。このような構成は、アダプティブミラーの使用の特定の状況に、例えば放射線吸収により熱的に誘起されるミラー又はレンズ素子等の光学素子の変形の影響の補正等に適している場合があるが、実際には、アダプティブミラーの所望の表面形状の設定を大幅に短い時間スケールで、例えばミリ秒(ms)以内に行わなければならない状況もある。電力を制限するための上記高抵抗を有するメディエータ層において電位の伝播が遅くなりすぎるような状況には、例えば、リソグラフィプロセスでの熱誘起マスク変形の考慮が含まれ、その場合、EUV光の約30%を超える吸収に起因してマスクが不規則な「山状」領域を形成し、最終的にはリソグラフィ結像プロセスでの焦点変動をもたらす。アダプティブミラー110の対応する設定によるマスクの表面形状の上記変動の考慮は、リソグラフィプロセスにおいて、走査動作(例えば、約100ms続く)中に、したがってミリ秒(ms)単位の比較的短い時間スケールで行われなければならない。アダプティブミラーの電極の対応する駆動は容易に実現可能ではあるが、メディエータ層の電気抵抗を減らすと、この点での電力の相互依存による熱的問題が起こるので、言及した小さな時定数の実施はメディエータ層に関しては困難であることが分かる。
【0010】
従来技術に関しては、単なる例として特許文献1及び特許文献2を参照されたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】独国特許出願公開第10 2013 219 583号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第10 2015 213 273号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、構造の複雑さを低減すると共に特に寄生的な発熱に関する上記問題を少なくとも部分的に回避しつつ、収差の補正を可能にする、特にマイクロリソグラフィ投影露光装置のミラーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的は、独立請求項の特徴により達成される。
【0014】
本発明によるミラーは、
光学有効面と、
ミラー基板と、
光学有効面に入射した電磁放射線を反射する反射層スタックと、
少なくとも1つの第1電極構成体と、
少なくとも1つの第2電極構成体と、
第1電極構成体と第2電極構成体との間に位置するアクチュエータ層系であり、ミラー基板と反射層スタックとの間に配置されたアクチュエータ層系と
を備え、上記アクチュエータ層系は、圧電層を含み、第1電極構成体と第2電極構成体との間に印加される電圧に反応して、電圧の所定値に対して光学有効面に垂直な方向のアクチュエータ層系の線形変形を特徴付ける変形応答を示し、
上記変形応答は、圧電層全体で空間的に一定である所定の電圧に対してPV値が20%以上局所的に変わる。
【0015】
一実施形態によれば、変形応答は、圧電層全体で空間的に一定である所定の電圧に対してPV値(PV=「山対谷」)が50%以上、特に70%以上、より詳細には90%以上局所的に変わる。この場合、PV値は、変形応答の局所分布内の最大値と最小値との間の差を指し、ここでのパーセンテージ基準は、これらの値の最大(すなわち最大値)に関係する。
【0016】
本発明は、特に、電極構成体により電界を印加されることが可能な圧電層を含むアダプティブミラーの場合に、上記圧電層又は当該圧電層を含むアクチュエータ層系が、電極構成体により一定の電圧が印加されても変形応答が上記アクチュエータ層系又はアダプティブミラー全体で変わるように構成されることにより、ミラーの構造の複雑さを大幅に低減するという概念に基づく。
【0017】
換言すれば、本発明は、特に、アダプティブミラーの変形プロファイルの局所変動を導入するために、電極構成体により局所的に変わる電圧を必ずしも印加するのではなく、本発明による変形応答の局所変動によりアダプティブミラーの変形プロファイルに関して所望の局所変動を最初から達成するという原理を含む。
【0018】
本発明によるこの構成により、電極構成体により圧電層又は当該圧電層を含むアクチュエータ層系に印加される電圧の局所変動が必要なくなるか、又はごく僅かに(すなわち、電圧値の僅かな局所変化)しか必要なくなる結果として、特に上記電極構成体を連続した平面状に具現することができ、且つ前述の(他の点ではやはり異なる電極間の電位に関する媒介に用いられる)メディエータ層が不要である。
【0019】
したがって、このようなメディエータ層の使用に伴う、一方では発熱、他方ではコンポーネントの速度に関して相反する要件に関する上述の問題を回避することも可能である。結果として、本発明は、寄生的な発熱がほぼないこと及び所望の表面形状の設定に関して高速であることの両方を特徴とするアダプティブミラーを提供する。
【0020】
この場合、相互に独立して駆動可能な複数の電極からなる電極構成体の使用をなくすことにより、本発明は、異なる変形プロファイルの提供に関してアダプティブミラーの柔軟性又は性能の低下を甘受するのと引き替えに、構造の複雑さの低減に加えて上記利点を達成するようにする。
【0021】
本発明の構成のさらに別の大きな利点として、相互に独立して駆動可能な複数の電極をなくすことで、又は上記電極を1つの連続した平面電極又は圧電層の略表面全域を覆うごく少数の隣接電極に置き換えることで、上記電極(単数又は複数)に専ら「横から」(すなわち、該当の電極の実質的に平面内で又はアダプティブミラーの層構造の積層方向に対して垂直に)電圧を供給するリード線を実現すること、すなわち換言すれば、生産工学的観点から問題があるアダプティブミラーの層構造の「積層方向の」上記リード線の引き回しを回避することが可能となる。特に、以下にも記載するように、該当の電極構成体がいくつかの電極に細分され、それらの電極が比較的大きな表面積を有する場合でも、上記電極のそれぞれが上記の意味で横から上記リード線にアクセス可能な適当な幾何学的形状を選択することが可能である。
【0022】
メディエータ層の必要性の放棄については、既に上述しており、本発明により有利に達成されるものであるが、同じく以下でさらにより詳細に説明するように、圧電層又は当該圧電層を含む本発明によるアクチュエータ層系の構成に関して、隣接する電極間の各境界における変形応答(特にd33定数)が小さく、したがって上記境界領域における圧電層の電圧駆動の欠如がさほど重要でないことを確実にするよう留意することにより、比較的少数の電極を有する上記構成の場合でもこの放棄は依然として可能となる。
【0023】
電圧依存的に得られる圧電層の材料の線膨張を特徴付ける係数は、「d33定数」と称し、光学有効面に垂直な方向の線膨張に関与する誘電テンソルの該当成分に対応する。
【0024】
一実施形態によれば、圧電層は、圧電層全体でPV値が20%以上局所的に変わるd33定数を有する。
【0025】
圧電層の又は当該圧電層を含むアクチュエータ層系の本発明による変形応答の局所変動の具体的な実現に関する限り、上記局所変動はさまざまな方法で達成することができる。この点で、実施形態において、アクチュエータ層系は、特にPV値が20%以上の局所変動で局所的に変わる厚さを有することができる。特に、上記局所変動は、50%以上、より詳細には70%以上、より詳細には90%以上であり得る。
【0026】
特に、実施形態において、変形応答の所望の局所変動を与えるのに適した圧電層の厚さ変動を与えることができる。代替として又は追加として、所望の変形応答を達成するために、圧電層の化学量論組成を適当に変えることもできる。
【0027】
さらなる実施形態において、変形プロファイルの所望の局所変動に従って変わる厚さプロファイルを有する誘電体層を圧電層と組み合わせて用いることもでき、その場合、圧電層は一定の厚さを有することができる。対応する実施形態において、局所的に変わる変形応答をもたらす本発明によるアクチュエータ層系は、圧電層と上記誘電体層との組み合わせにより形成される。
【0028】
したがって、一実施形態によれば、アクチュエータ層系は圧電層に加えて誘電体層を含み、上記誘電体層は特に局所的に変わる厚さを有することができる。
【0029】
一実施形態によれば、第1電極構成体及び第2電極構成体は、それぞれ圧電層の光学使用域の99%以上を覆う。
【0030】
一実施形態によれば、第1電極構成体及び第2電極構成体は、全てがミラーの面法線に対して垂直に延びる電圧リード線をそれぞれ有する。
【0031】
一実施形態によれば、ミラーは、2つの電極構成体間にそれぞれ位置する複数のこのようなアクチュエータ層系をスタック状に有する。この場合、上記スタックの相互に異なるアクチュエータ層系は、ミラーで反射した光の波長で異なる変形モードを誘起し得る。当該異なる変形モードは、特に異なるゼルニケ変形に対応し得る。
【0032】
したがって、本発明は、変形応答の局所変動を対応して与える単一の圧電層又は単一のアクチュエータ層系の使用に制限されない。むしろ、複数のこのような圧電層(又は圧電層をそれぞれ含むアクチュエータ層系)を設けることもでき、アダプティブミラーの各形状変化により、所望の波長変化(例えば、波長のゼルニケ変形)を上記圧電層又はアクチュエータ層系のそれぞれにより誘起することができる。さらに、上記圧電層又は当該圧電層を含むアクチュエータ層系は、同一のアダプティブミラー内に又は異なるミラーにスタック状に設けることができる。
【0033】
この場合、上記スタックの上記アクチュエータ層系のそれぞれが、上記実施形態と同様に、変形応答又は波長変化の各所望の局所変動(すなわち例えば、圧電層の局所厚さ変動、圧電層の化学量論組成の局所変動、又は追加の誘電体層の局所厚さ変動を伴う)を提供するよう構成され得る。
【0034】
本発明はさらに、光学有効面を有する、特にマイクロリソグラフィ投影露光装置のミラーであって、
ミラー基板と、
光学有効面に入射した電磁放射線を反射する反射層スタックと、
2つの電極構成体間にそれぞれ配置されたアクチュエータ層系のスタックであり、ミラー基板と反射層スタックとの間に配置されたスタックと
を備え、上記アクチュエータ層系のそれぞれは、圧電層を含み、電極構成体間に印加される電圧に反応して、電圧の所定値に対して光学有効面に垂直な方向の各アクチュエータ層系の線形変形を特徴付ける変形応答を示し、
スタックの相互に異なるアクチュエータ層系は、ミラーで反射した光の波長で異なる変形モードを誘起するミラーにも関する。
【0035】
個々のアクチュエータ層系(又は関連する圧電層又は誘電体層)が、ミラーで反射した光の波長でそれぞれ与えられる変形モードに関して相互に異なる(すなわち例えば、波面で相互に異なるゼルニケ変形を誘起する)ことにより、結果として、それに応じて多数の積層されたアクチュエータ層系を用いてアダプティブミラーで原理上は任意の所望の変形パターンを設定することが可能である。この場合、個々の圧電層又はアクチュエータ層系の寄与が対応して累積することができ、得られる総変形は、例えば関与するゼルニケ変形の線形重ね合わせとして記述することができる。
【0036】
上記任意の所望の変形パターンの提供はさらに、(
図10aからの従来の構造のように)ミラーの横方向に変わる電圧プロファイルを必要とせずに行うことができる。むしろ、個々の圧電層又はアクチュエータ層系の駆動のために、本発明による上記実施形態と同様に、ここでも特に専ら「横から」(すなわち、該当の電極の実質的に平面内で又はアダプティブミラーの層構造の積層方向に対して垂直に)実現することができる単純な平面電極で十分であり、この場合も、生産工学的観点から問題があるアダプティブミラーの層構造の「積層方向の」上記リード線の引き回しが回避される。
【0037】
ミラーは特に、マイクロリソグラフィ投影露光装置のミラーであり得る。しかしながら、本発明はそれに限定されない。さらなる用途では、本発明によるミラーを例えばマスク計測用の装置で使用又は利用することもできる。
【0038】
一実施形態によれば、ミラーは、30nm未満、特に15nm未満の作動波長用に設計される。しかしながら、本発明はそれに限定されないので、さらなる用途では、本発明をVUV領域の(例えば200nmの)作動波長を有する光学系で有利に実現することもできる。
【0039】
本発明はさらに、特に2つの電極構成体間に位置する少なくとも1つのアクチュエータ層系をいずれの場合も含む、上記特徴を有する少なくとも1つのミラーを備えたマイクロリソグラフィ投影露光装置の光学系、特に照明装置又は投影レンズに関し、マイクロリソグラフィ投影露光装置にも関する。
【0040】
本発明に従って用いられる圧電層又は当該圧電層を含むアクチュエータ層系は、異なるミラーに設けることもできる。したがって、一実施形態によれば、光学系は、上記特徴を有する複数のミラーを備え、アクチュエータ層系は、各ミラーで反射した光の波長で誘起される変形モードに関してミラー毎に相互に異なる。
【0041】
本発明のさらに他の構成は、説明及び従属請求項から得ることができる。
【0042】
添付図面に示す例示的な実施形態に基づいて、本発明を以下でより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】本発明の基礎となる概念を説明する概略図を示す。
【
図2】本発明によるアダプティブミラーの一実施形態を説明する概略図を示す。
【
図3】本発明によるアダプティブミラーの一実施形態を説明する概略図を示す。
【
図4】本発明によるアダプティブミラーの一実施形態を説明する概略図を示す。
【
図5】いくつかの平面電極に細分された電極構成体を用いた本発明によるさらに別の実施形態を説明する概略図である。kar
【
図6】いくつかの平面電極に細分された電極構成体を用いた本発明によるさらに別の実施形態を説明する概略図である。
【
図7】積層配置の複数の圧電層を用いたアダプティブミラーのよるさらに別の実施形態を説明する概略図である。
【
図8】積層配置の複数の圧電層を用いたアダプティブミラーのさらに別の実施形態を説明する概略図である。
【
図9】EUVで動作するよう設計されたマイクロリソグラフィ投影露光装置の可能な構造を説明する概略図を示す。
【
図10】
図10a~
図10bは、従来のアダプティブミラーの構造及び機能を説明する概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下に記載するアダプティブミラーの実施形態の共通点は、電極構成体による圧電層への電圧印加により発生する所望の変形プロファイルが、その局所変動に関して、(従来のアダプティブミラーについて
図10bに示す)電極構成体により導入された局所電圧変動ではなく、圧電層又は当該圧電層を含むアクチュエータ層系の変形応答の局所変動に由来することである。
図1及び
図10bにおいて、各アダプティブミラーの変形応答を概略的に図示してそれぞれ「11」及び「125」で示し、該当のアダプティブミラーの基板をそれぞれ「10」及び「111」で示す。電極(
図1及び
図10bには図示せず)により発生した電界強度のプロファイルを矢印で表す。
【0045】
本発明による変形応答の(特に、圧電層のd
33定数の)局所変動により、
図1によれば、アダプティブミラーの所望の局所的に変わる表面プロファイルを電界強度の(
図1に示すような)一定のプロファイルでも達成することが可能である。したがって、圧電層の領域で該当の電界を発生させるのに用いられる電極構成体は、圧電層の両側で、それぞれ単一の連続した平面電極として構成することもできる。しかしながら、本発明はそれに限定されないので、(
図6を参照してさらにより詳細に説明するように)特定の数の(但し、従来のアダプティブミラーに比べて比較的小さい)電極を有する構成も包含するこが意図される。
【0046】
図2~
図4を参照して以下で説明するように、上述の局所的に変わる変形応答は、さまざまな方法で本発明に従って実現することができる。
【0047】
図2は、光学系の、特にマイクロリソグラフィ投影露光装置の投影レンズ又は照明装置の特にEUVミラーであり得る、本発明によるアダプティブミラー20の可能な構造を概略的且つ簡略的な図で示す。光学系の動作中に電磁EUV放射線がミラー20の光学有効面に入射すると、光学面に不均一に入射する放射線の吸収から生じる温度分布により、ミラー基板21の不均一な体積変化が生じ得る。このような不所望の体積変化を補正するために、又はマイクロリソグラフィ投影露光装置の動作中に起こる他の収差を補正するために、以下でより詳細に説明するように、ミラー20はアダプティブ設計である。
【0048】
ミラー20は、任意の適当なミラー基板材料からなるミラー基板21を含む。1つの適当なミラー基板材料は、例えば、二酸化チタン(TiO2)ドープ石英ガラス、例えば商品名ULE(登録商標)で(Corning Inc.から)販売されている材料である。さらに別の適当なミラー基板材料は、例えば、リチウムアルミニウム酸化ケイ素ガラスセラミック、例えば商品名Zerodur(登録商標)で(Schott AGから)販売されている材料である。
【0049】
ミラー20のミラー基板21上には、機能層スタック22(例えば平滑化層、基板保護層、応力緩和層、及び任意にさらなる機能層を含み得る)と、間に位置する圧電層25に電圧を印加するための電極構成体23、24とが配置される。「27」は、さらに別の機能層スタックを指し、その上に反射層スタック28及び上キャッピング層29が層構造で続く。単に例として、反射層スタック28は、モリブデン-ケイ素(Mo-Si)層スタックを含み得る。本発明をこの層スタックの特定の構成に制限することなく、単なる例としての適当な一構成は、それぞれ層厚2.4nmのモリブデン(Mo)層及びそれぞれ層厚3.3nmのケイ素(Si)層を含むアクチュエータ層系の約50個のプライ又は層パケットを含み得る。
【0050】
例示的な実施形態において、圧電層25は、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3、PZT)から作製される。さらに他の実施形態において、圧電層25は、他の何らかの適当な材料(例えば、窒化アルミニウム(AlN)、窒化アルミニウムスカンジウム(AlScN)、マグネシウムニオブ酸鉛(PbMgNb)、又はバナジウムドープ酸化亜鉛(ZnO))から作製することもできる。圧電層25は、例えば5μm未満の厚さ、より詳細には1μm~4μmの範囲の厚さを有し得る。
【0051】
図2によれば、ミラー20は、
図1を参照して説明した(電極構成体23、24が発生させた電界に対する)局所的に変わる変形応答を与えるために、圧電層25に局所的に変わる厚さプロファイルを有する。電極構成体23、24は、それぞれがその表面全域で連続した電極として実現され、電圧の印加時に実質的に一定の電界を圧電層25の領域で局所的に発生させるので、圧電層25の厚さプロファイルは、所定の局所的に一定の電圧Uに対するd
33定数の局所変動により所望の(目標)変形プロファイルD(x,y)=U×d
33(x,y)がミラー20に加わるように正確に選択される。
【0052】
圧電層25の厚さ変動は、コーティングプロセスにおける滞留時間の対応する適合により生産工学的に目標通りに設定することができ、生じる表面欠陥は、例えば
図2に示すように、追加の平滑化層又は研磨層26により補償することができる。
図2に示すように、上記平滑化層又は研磨層26は、電極構成体24の基板21とは反対側に(光学有効面の方向で上方に)配置されるので、電極構成体24自体は、圧電層25の厚さプロファイルに依然として従う。さらに別の実施形態において、上述の生じる表面欠陥は、基板21の側でも可能であり得る。
【0053】
圧電層の厚さ変動の代替として又はそれに加えて、変形応答のそれぞれ所望の局所プロファイルを実現するために、その化学量論組成も目標通りに変えることができる。圧電層の上記化学量論組成はさらに、コーティングプロセスにおけるターゲットの化学量論組成、コーティング室のガス充填、及び成長場所の温度の設定により目標通りに設定することができる。さらに、変形応答のそれぞれ所望の局所プロファイルを達成するために、圧電層の(例えば、柱構造、柱径、及び柱遷移領域に関する)形態構造も適切に局所的に可変に設計することができる。
【0054】
図3は、対応する例示的な実施形態を示し、
図2と類似の又は実質的に機能的に同一のコンポーネントは「10」を足した参照符号で示す。この場合、
図3に示す圧電層35は、幾何学的に一定の厚さを有し、変形応答の局所変動は、ここでは上述ように圧電層35の化学量論組成の変動のみにより達成される。
【0055】
図4は、アダプティブミラー40のさらに別の可能な構成を示し、
図3と類似の又は実質的に機能的に同一のコンポーネントはさらに「10」を足した参照符号で示す。
図4によれば、本発明による変形応答の局所変動は、適当な厚さ変動を有するさらに別の誘電体層46aを圧電層45と組み合わせて用いることにより達成される。上記誘電体層46aにより、電圧が電極構成体43、44に印加されると圧電層45の側で起こる電圧降下が、非線形の特性曲線に従って変わるようになる。ここでも(この点で
図2と同様に)、生じる表面欠陥は、
図4によれば電極44の基板41とは反対側に(光学有効面の方向で上方に)配置される追加の平滑化層又は研磨層46bにより補償されるので、電極構成体44自体は、誘電体層46aの厚さプロファイルに依然として従う。
【0056】
単に例として、誘電体層46aは、二酸化チタン(ルチル、TiO2)から作製され得る。他の誘電体材料も同様に使用可能であり、比誘電率は、好ましくは20~200の範囲、より好ましくは50~150の範囲である。厚さ変動は、特に5nm~1000nmの範囲、より詳細には10nm~300nmの範囲で行われ得る。
【0057】
上述の実施形態の各電極構成体により印加される電圧の値は、例えば0V~200Vの範囲、特に0V~100Vの範囲で設定され得る。
【0058】
上述の実施形態において、いずれの場合も局所的に実質的に一定の電界が各圧電層の領域で発生し、この目的でいずれの場合も単一の連続した平面電極のみが圧電層の(又は
図4によれば圧電層45及び誘電体層46aから形成されたアクチュエータ層系の)両側にあるが、本発明はそれに限定されない。この点で、アダプティブミラーの設定可能な変形プロファイルに関してさらなる自由度を与えるために、
図5に示すように、電極構成体をいくつか(特に20個未満、より詳細には10個未満)の各平面電極から構成して、隣接する電極を電気的に絶縁された分離領域により相互に分離することもできる。分離領域により生じた(圧電作動されない)溝を最小化するために、分離領域は、5mm未満、より詳細には1mm未満、より詳細には0.5mm未満の幅を有することが好ましい。
【0059】
この構成により、電極構成体により圧電層の領域で発生した電界は、
図5に示すように(領域52、53、54の平面電極への細分に従って)低い局所分解能でもなお変わり得るので、
図1~
図4の実施形態(連続的に設定可能な振幅を有する所定の変形プロファイルのみを設定することしか可能でない)に比べて該当のアダプティブミラーの設定可能な変形プロファイルに関して高い柔軟性が達成される。
【0060】
図6は、圧電層60の動作において電界を発生させるための2つの電極構成体の一方を細分した少数の電極61~66の可能な幾何学的配置を概略図で示す。
図6から明らかなように、第1に、圧電層60の事実上表面全域が電極材料で覆われる。第2に、個々の電極61~66の幾何学的配置は、当該電極61~66のそれぞれが電圧の印加に必要なリード線に横からアクセス可能であるように、すなわち層構造の積層方向の(すなわち、図示の座標系に対してz方向の)リード線の引き回しが回避されるように、適切に選択される。
【0061】
図7及び
図8は、アダプティブミラーのさらに他の実施形態を示す。このミラーは、第1に、上述の実施形態と同様に、いずれの場合もそれぞれミラー基板70及び80と、それぞれ機能層スタック71及び74並びに81及び84と、それぞれ反射層スタック75及び85と、それぞれキャッピング層76及び86とを含む。しかしながら、上述の実施形態とは異なり、
図7及び
図8によれば、それぞれ複数のアクチュエータ層系73a、73b、…及び83a、83b、…が相互に積層され、これらは、それぞれ
図2、
図3、又は
図4と同様に構成され、すなわちそれぞれ場合によっては
図4と同様の誘電体層と組み合わせて圧電層を含む。さらに、電極構成体72及び82それぞれにより相互に独立して、
図7及び
図8にそれぞれ示すアクチュエータ層系73a、73b、…及び83a、83b、…に電界を印加することが可能である。積層されたアクチュエータ層系73a、73b、…及び83a、83b、…それぞれの数は、図中では単なる例であり、原理上は所望に応じて又は特定の要件に従って選択することができる。さらに、
図7及び
図8それぞれのアクチュエータ層系73a、73b、…及び83a、83b、…は、説明上の理由で単に概略的に且つ均一のハッチングで図示されているが、以下に記載するように、変形応答のプロファイルが異なり、これはさらに、例えば各圧電層の局所的に変わる層厚プロファイル及び/又は局所的に変わる化学量論組成により達成することができる。
【0062】
図7及び
図8の実施形態による積層配置で設けられた圧電層は、対応する電極構成体72及び82それぞれに印加された電極によりそれぞれ個別に駆動され、上記電圧、したがって個々の圧電層の領域で発生する電界は、相互に独立して選択され得る。
【0063】
したがって、
図7及び
図8にそれぞれ示すミラーは、いずれの場合も2つの電極構成体72間及び82間にそれぞれ位置する複数のアクチュエータ層系73a、73b、…及び83a、83b、…それぞれをスタック状に含む。該当のスタック内の個々のアクチュエータ層系73a、73b、…及び83a、83b、…それぞれの変形応答の局所変動が相互に異なる結果として、上記スタックの相互に異なるアクチュエータ層系は、ミラーで反射した光の波長で異なる変形モードを誘起する。上記異なる変形モードは、例えばアクチュエータ層系内の変形応答の又はd
33定数の局所変動がいずれの場合もゼルニケモードに対応するように、特に(本発明はそれに制限されないが)異なるゼルニケ変形に対応し得る。
【0064】
これに関しては、J. Alda及びG. D. Boremanによる刊行物「Zernike-based matrix model of deformable mirrors: Optimization of aperture size」(Appl. Opt. 32 (1993) 2431-2438)及びV. Lakshminarayanan, Andre Fleckによる刊行物「Zernike polynomials: A guide」(Journal of Modern Optics 58 (2011) 545-561, DOI: 10.1080/09500340.2011.554896)を参照されたい。
【0065】
この場合、
図7及び
図8の実施形態は、複数の圧電層の又は当該圧電層を含むアクチュエータ層系73a、73b、…及び83a、83b、…それぞれの積層配置による効果として、個々の圧電層又はアクチュエータ層系の寄与が対応して累積し、得られる総変形を、関与する変形モード(例えばゼルニケ変形)の線形重ね合わせとして記述することができるという考察に基づく。
【0066】
ゼルニケ変形の例では、総変形に対する各アクチュエータ層系73a、73b、…及び83a、83b、…それぞれの寄与は各ゼルニケ多項式に比例し、増幅は各ゼルニケ係数に対応する。自由曲面の正確な再現には、無数のゼルニケ多項式の和が理論上は必要だが、実際には、多くの場合、所望の形状補正又は収差補正を達成するにはいくつかのモードのみで十分である。
【0067】
結果として、
図7及び
図8の実施形態によれば、対応して多数の積層されたアクチュエータ層系を用いて、アダプティブミラーで任意の所望の変形パターンを設定することが原理上は可能である。
【0068】
ゼルニケ多項式の代わりに、圧電層又はその変形応答の構成のために他の適当な(直交又は非直交)系も基礎とすることができることを指摘しておく。適当な関数は、例えば、例えば楕円形の使用面に合わせてスケーリングされたゼルニケ関数、ルジャンドル多項式、局所的な兆候(例えば、中心が変わるガウスベル形状に略従う形状)を有するスプラインベースの関数、又は正弦/余弦プロファイルであり得る。
【0069】
電極構成体72及び82はそれぞれ、
図2~
図4を参照して上述した実施形態と同様に、表面全域で連続した電極として構成され、同様に上述したように、電圧供給用のリード線を専ら「横から」(すなわち、該当の電極の実質的に平面内で又はアダプティブミラーの層構造の積層方向に対して垂直に)実現することができる。
【0070】
図7及び
図8の実施形態の相違点は、
図7によれば、いずれの場合も1つの電極構成体72が積層方向の一連のアクチュエータ層系73a、73b、…で共用されるのに対して、
図8によれば、いずれの場合も別個の電極構成体82が一連のアクチュエータ層系83a、83b、…に割り当てられることである。これは、
図8によれば、アクチュエータ層系83a、83b、…を分離するよう割り当てられた積層方向の一連の電極構成体82が、誘電体層87により相互に分離されることにより達成される。
【0071】
図7に示す構成は、特に、個々のアクチュエータ層系73a、73b、…それぞれが一定の厚さ及び変動する化学量論組成を有する圧電層を含む場合に選択することができる。これに対して、
図8に示す構成では、一連の電極82及びアクチュエータ層系83a、83b、…を分離するために設けられた誘電体層87が、積層方向にそれぞれ従うアクチュエータ層系への移行部でアクチュエータ層系83a、83b、…(例えば、関連する圧電層)内にあり得る厚さプロファイルを平滑化するようにも働くことができる。
【0072】
さらに他の実施形態において、圧電層又は当該圧電層を含むアクチュエータ層系を異なるミラーに設けることもできる。
【0073】
本発明による変形応答の局所変動は、
図2~
図4の上記実施形態と同様に、
図7及び
図8に示す個々の圧電層又は関連するアクチュエータ層系でさまざまな方法で行われ得る。したがって、特に、個々の圧電層は、局所的に変わる厚さプロファイル及び/又は化学量論組成を有し得る。
【0074】
このような局所プロファイルの実現に適したコーティングプロセスは、例えば、規定の局所的に変わる滞留時間を有する堆積源を用いることができ、適当な堆積概念は、例えば、マグネトロンスパッタリング、空間原子層堆積、又はFEBID(「集束電子ビーム誘導堆積」)に基づき得る。単一のマグネトロン源を用いて、例えば各圧電層の任意の所望の層厚プロファイルを実現することができるが、同時に動作する2つの堆積源を局所的に変わる化学量論組成を有する圧電層の作製に用いることができる。ALD法を用いる場合、ここで1つの堆積源の使用で十分であるように各前駆体組成が経時的に変わり得る。これに関しては、米国特許第4,533,449号及びM. Huth他による刊行物「Focused electron beam induced deposition: A perspective」(Beilstein Journal of Nanotechnology 2012, 3, 597-619)を参照されたい。
【0075】
図9は、EUVでの動作用に設計され本発明を実現できる例示的な投影露光装置の概略図を示す。
【0076】
図9によれば、EUV用に設計された投影露光装置90の照明装置が、視野ファセットミラー93及び瞳ファセットミラー94を含む。プラズマ光源91及びコレクタミラー92を含む光源ユニットからの光は、視野ファセットミラー93へ指向される。第1望遠鏡ミラー95及び第2望遠鏡ミラー96が、瞳ファセットミラー94の下流の光路に配置される。偏向ミラー97が光路の下流に配置され、当該偏向ミラーは、入射した放射線を6つのミラー101~106を含む投影レンズの物体平面の物体視野へ指向させる。物体視野の場所では、反射構造担持マスク99がマスクステージ98上に配置され、上記マスクは投影レンズを用いて像平面に結像され、像平面では、感光層(フォトレジスト)でコーティングされた基板108がウェーハステージ107上に位置する。
【0077】
原理上、投影レンズのミラー101~106の全てのミラーが本発明に従って構成され得る。特に、本発明によるアダプティブミラーは視野近傍に、瞳近傍に、又は中間的に、つまり視野平面と瞳平面との間に配置することができる。
【0078】
本発明は特定の実施形態に基づいて説明されているが、例えば個々の実施形態の特徴の組み合わせ及び/又は交換により、多数の変形形態及び代替的な実施形態が当業者には明らかとなるであろう。したがって、当業者には言うまでもなく、かかる変形形態及び代替的な実施形態も本発明に包含され、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲及びその等価物の意味の範囲内にのみ制限される。
【国際調査報告】