(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-26
(54)【発明の名称】自動車の電動駆動装置を制御する方法
(51)【国際特許分類】
B60L 3/00 20190101AFI20230719BHJP
B60L 7/14 20060101ALI20230719BHJP
【FI】
B60L3/00 J
B60L7/14
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022579775
(86)(22)【出願日】2021-08-06
(85)【翻訳文提出日】2022-12-22
(86)【国際出願番号】 EP2021071969
(87)【国際公開番号】W WO2022033966
(87)【国際公開日】2022-02-17
(31)【優先権主張番号】102020210382.8
(32)【優先日】2020-08-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522296653
【氏名又は名称】コンチネンタル・オートモーティヴ・テクノロジーズ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
(71)【出願人】
【識別番号】519108707
【氏名又は名称】ヴィテスコ・テクノロジーズ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】フラーメント・オーリヴァー
(72)【発明者】
【氏名】ホフマン・イェンス
(72)【発明者】
【氏名】ゼムシュ・マルティン
(72)【発明者】
【氏名】テンス・マティアス
(72)【発明者】
【氏名】シュポルンラフト・マルティン
(72)【発明者】
【氏名】ストイコヴィッチ・ドラガン
(72)【発明者】
【氏名】ヴァヘー・ヴィンセント
【テーマコード(参考)】
5H125
【Fターム(参考)】
5H125AA01
5H125AC12
5H125CB03
5H125CD06
5H125EE05
5H125EE15
5H125EE25
5H125EE27
(57)【要約】
本発明は、制御ユニット(106)によって自動車の電動駆動装置(100)を制御する方法に関し、自動車の少なくとも1つの車輪(116)は、電動駆動装置(100)の電気モータ(104)によって駆動することができ、電動駆動装置(100)は、電気モータ(104)用の少なくとも1つのエネルギー源(108)を有する。本方法は、制御ユニット(106)によって、車輪(116)に減速トルクを加える要求を識別することと、電動駆動装置(100)のステータス情報(140、142、144)を識別することと、識別されたステータス情報(140、142、144)に従って、電気モータ(104)の少なくとも2つの可能な動作モード(134、136)から電気モータ(104)の動作モード(134、136)を選択することと、車輪(116)に減速トルクを加えるために、選択された動作モード(134、136)で電気モータ(104)を制御することと、を含み、電気モータ(104)の可能な動作モードの第1の動作モード(134)において、電気モータ(104)は、車輪(116)の回転エネルギー(120)が第1の効率で電気エネルギーに変換されるように制御され、電気モータ(104)の可能な動作モードの第2の動作モード(136)において、電気モータ(104)は、車輪(116)の回転エネルギー(120)が第2の効率で電気エネルギーに変換されるように制御され、第2の効率は第1の効率よりも低い。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コントローラ(106)を使用して自動車の電動駆動装置(100)を制御する方法であって、前記自動車の少なくとも1つの車輪(116)は前記電動駆動装置(100)の電気モータ(104)によって駆動することができ、前記電動駆動装置(100)は、前記電気モータ(104)用の少なくとも1つのエネルギー源(108)を有し、前記方法は、前記コントローラ(106)による、
・ 前記車輪(116)に減速トルクを加える要求を決定するステップと、
・ 前記電動駆動装置(100)のステータス情報の項目(140、142、144)を決定するステップと、
・ 前記決定されたステータス情報の項目(140、142、144)に応じて、前記電気モータ(104)の少なくとも2つの可能な動作モード(134、136)から前記電気モータ(104)の動作モード(134、136)を選択するステップと、
・ 前記車輪(116)に前記減速トルクを加えるために、前記選択された動作モード(134、136)で前記電気モータ(104)を作動させるステップと、
の実行を含み、
前記電気モータ(104)の前記可能な動作モードのうちの第1の動作モード(134)において、前記電気モータ(104)は、前記車輪(116)の回転エネルギー(120)が第1の効率で電気エネルギーに変換されるように作動され、
前記電気モータ(104)の前記可能な動作モードのうちの第2の動作モード(136)において、前記電気モータ(104)は、前記車輪(116)の回転エネルギー(120)が第2の効率で電気エネルギーに変換されるように作動され、
前記第2の効率は前記第1の効率よりも低い、
方法。
【請求項2】
前記電気エネルギーが、前記第1の動作モード(134)で前記エネルギー源(108)に供給されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ステータス情報の項目(140、142、144)が、前記エネルギー源(108)の少なくとも1つの充電状態、及び/又は前記エネルギー源(108)の温度、及び/又は前記電気モータ(104)の温度、及び/又は前記電動駆動装置(100)の他のコンポーネント(107)の温度を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記第2の効率が、前記エネルギー源(108)の前記充電状態及び/又は前記温度に依存することを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の効率が、前記車輪(116)の前記回転エネルギー(120)を電気エネルギーに変換するための可能な限り高い効率であり、前記第2の効率が、前記電気モータ(104)を使用して、前記車輪(116)の前記回転エネルギー(120)を電気エネルギーに変換するための可能な限り低い効率であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記自動車が少なくとも1つの加熱回路(130)を有し、前記第2の動作モード(136)での前記電気モータ(104)の動作中に生成される熱が、前記加熱回路(130)に供給されることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記電気モータ(104)の前記可能な動作モードのうちの第3の動作モードにおいて、前記電気モータ(104)は、前記エネルギー源(108)によって供給される電気エネルギーを使用して、それが前記車輪(116)に前記減速トルクを加えるように作動されることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記電気モータ(104)の前記動作モード(134、136)を選択する際に、電気エネルギーを吸収するための、前記自動車の他の電気消費者(112)の吸収能力が考慮されることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記電気モータ(104)が、DCモータに動作電圧を供給するためのパワーエレクトロニクスシステム(107)を有するブラシレスDCモータであり、前記異なる動作モードで前記電気モータ(104)を作動させるために、前記パワーエレクトロニクスシステム(107)の作動のみが、前記選択された動作モード(134、136)に適合されることを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
電気モータ(104)、前記電気モータ(104)用のエネルギー源(108)、及び前記電気モータ(104)用のコントローラ(106)を有する自動車用の電動駆動装置(100)であって、前記コントローラ(106)が、
・ 前記電気モータ(104)に接続された車輪(116)に減速トルクを加える要求を決定し、
・ 前記電動駆動装置(100)のステータス情報の項目(140、142、144)を決定し、
・ 前記決定されたステータス情報の項目(140、142、144)に応じて、前記電気モータ(104)の少なくとも2つの可能な動作モード(134、136)から前記電気モータ(104)の動作モード(134、136)を決定し、
・ 前記車輪(116)に前記減速トルクを加えるために、前記選択された動作モード(134、136)で前記電気モータ(104)を作動させる、
ように設計され、
前記電気モータ(104)の前記可能な動作モードのうちの第1の動作モード(134)において、前記電気モータ(104)は、前記車輪(116)の回転エネルギー(120)が第1の効率で電気エネルギーに変換されるように作動され、
前記電気モータ(104)の前記可能な動作モードのうちの第2の動作モード(136)において、前記電気モータ(104)は、前記車輪(116)の回転エネルギー(120)が第2の効率で電気エネルギーに変換されるように作動され、
前記第2の効率は前記第1の効率よりも低い、
電動駆動装置(100)。
【請求項11】
前記電動駆動装置(100)が、前記電気モータ(104)を冷却するための少なくとも1つの冷却回路を有し、前記第2の動作モード(136)において前記電気モータ(104)の動作中に生成される熱は、前記冷却回路を介して少なくとも部分的に放散されることを特徴とする、請求項10に記載の電動駆動装置(100)。
【請求項12】
前記冷却回路は、前記冷却回路によって提供される冷却能力を調整するための制御装置を有し、前記制御装置は、前記電気モータ(104)の前記選択された動作モード(134、136)に応じて前記コントローラ(106)によって作動されることを特徴とする、請求項11に記載の電動駆動装置(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の電動駆動装置を制御する方法及び対応する電動駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の機械式摩擦ブレーキは、十分に定義された環境で既知の実績のある技術を使用したこともあり、信頼性の点で満足できるレベルに達している。しかしながら、摩擦ブレーキにはまだ欠点がある。それらは、ばね下質量である摩擦ブレーキによって与えられる質量の大部分とともに、車両の総質量に少なからず寄与する。これらのばね下質量の大部分は、非常に長い下り坂の運転の可能性があるときの速度を維持するために、ブレーキも長時間の制動プロセスに対応できるような寸法にする必要があるという事実によるものである。この例となるのは、グロースグロックナーから一定速度で下っていくことである。このため、摩擦ブレーキは車両に少なからず設置スペースも必要とする。
【0003】
摩擦ブレーキによる減速時に摩擦ブレーキが吸収したエネルギーは回収できない。むしろ、エネルギーは熱の形で周囲に放出される。これは、エネルギーの浪費と、ブレーキ部品からの摩耗物質による環境の微粒子汚染につながり、この摩耗物質も同様に環境に放出される。例えば、8%の勾配で質量1600kgの車両の場合、摩擦ブレーキは約14kWの機械的動力を吸収し、それを熱として放出して40km/hの速度を維持する必要がある。
【0004】
摩擦ブレーキによる車両の減速に加えて、駆動トレインの助けを借りて車両を減速できることも従来技術から知られている。車両の運動エネルギーの回生を伴う車両の減速は、特に車両の電動駆動トレインについてここで言及されるべきである。再び上記の例と同様に、このような下り坂を走行する場合、必要な14kWの減速電力は、電動駆動トレインを適切に作動させるだけで達成できるというのは、駆動装置の対応する効率的な制御を前提に約12kWの電力を駆動装置のバッテリにフィードバックできる場合、非常に現実的である。
【0005】
しかしながら、従来技術による駆動トレインによる車両の減速は、通常、摩擦ブレーキに与えられる信頼性に欠けている。例えば、電動駆動装置のバッテリの吸収容量が不十分な場合、エネルギーを回生することができないので、車両を減速するこの可能性がもはや利用できないという問題が生じる。例えば、電気エネルギー(電力)をフィードバックするための電動駆動装置とバッテリとの間の接続が、例えば欠陥により中断された場合にも、同じことが当てはまる。全体として、車両の多数のコンポーネントが回生による減速に関与しているため、コンポーネント(構成要素)の1つが故障したとしても、回生による減速はもはや不可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
対照的に、本発明は、従来技術の上述の欠点を克服する電動駆動装置及び対応する電動駆動装置を制御する方法を特定するという目的に基づいている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的は、請求項1に記載の方法及び請求項10に記載の電動駆動装置によって達成される。請求項2~9、11及び12は、有利な改良に関する。
【0008】
第1の態様では、本発明は、コントローラを使用して自動車の電動駆動装置を制御する方法に関し、自動車の少なくとも1つの車輪は、電動駆動装置の電気モータによって駆動することができ、電動駆動装置は、電気モータ用の少なくとも1つのエネルギー源を有する。この方法は、コントローラによる次のステップの実行を含む。
・ 車輪に減速トルクを加える要求を決定するステップ、
・ 電動駆動装置のステータス情報の項目を決定するステップ、
・ 決定されたステータス情報の項目に応じて、電気モータの少なくとも2つの可能な動作モードから電気モータの動作モードを選択するステップ、及び、
・ 車輪に減速トルクを加えるために、選択された動作モードで電気モータを作動させるステップ。
【0009】
ここで、電気モータの可能な動作モードのうちの第1の動作モードにおいて、電気モータは、車輪の回転エネルギーが第1の効率で電気エネルギーに変換されるように作動される。しかしながら、電気モータの可能な動作モードのうちの第2の動作モードにおいて、電気モータは、車輪の回転エネルギーが第2の効率で電気エネルギーに変換されるように作動され、第2の効率は第1の効率よりも低い。
【0010】
本発明は、例えばエネルギー源の容量が不十分な場合に、電気モータを使用して回生モードで車輪に減速トルクを生成し、当該の車輪の回転エネルギーの非常に小さい割合しか電気エネルギーに変換されないようにする、という考えに基づいている。第2の動作モードでの回生動作の効率が低下するため、回転エネルギーの大部分が熱に変換され、電気モータとその周辺機器、特にそのパワーエレクトロニクスシステムに蓄積されることになり、電気モータの既存の冷却によって放散され得る。したがって、永続減速トルクは、バッテリへのリソースに頼ることなく電気モータによって提供することができ、この永続減速トルクは、電気モータの冷却の冷却能力によって実質的に制限される。
【0011】
同時に、記載された方法は、電動駆動装置からのみ実施することができるので、車両の他のシステムとの相互作用は不要である。このような相互作用は、通常、そのようなアプローチの信頼性を危険にさらす可能性のある潜在的な障害の原因である。電動駆動装置による所定の減速トルクの確実な提供は、電気モータが減速力の特定の割合に確実に寄与できるので、車両の摩擦ブレーキをより小さく設計することを可能にする。
【0012】
ここで、「減速トルク」は、非常に一般的に、車輪の回転方向と反対方向に向けられ、つまり、他の力が無い場合には車輪の回転が低下することにつながるトルクとして理解されるべきである。しかしながら、車輪へそのような減速トルクを加えることは、車両自体の減速と同一視されるべきではない。したがって、例えば下り坂の力など、車両に作用する他の力は、電気モータによって引き起こされる減速トルクにもかかわらず、車両の速度を低下させず、場合によっては増加させることさえあり得る。
【0013】
この場合、車両の車輪に減速トルクを加える要求は、例えば、車両の運転者によるブレーキペダルの操作によってトリガされ得る。更に、このような要求は、車両の運転機能によって、例えばクルーズコントロールシステム又は制御された下り坂の運転機能(ヒルディセントコントロール)によってトリガされることも可能である。
【0014】
エネルギー源からエネルギーを引き出す電気モータによって駆動される車輪のみが方法に記載されているが、本発明による方法は、車輪、電気モータ、及びエネルギー源の任意の所望の構成に転用することができる。したがって、この方法は、複数のエネルギー源からエネルギーが供給される電気モータによって各車輪が駆動される自動車にも使用することができる。ここでは、特に、車両の前車軸に割り当てられた電気モータが第1のエネルギー源に接続され、車両の後車軸に割り当てられた電気モータが第2のエネルギー源に接続されるようにすることができる。この場合、方法に関連して、特に、前車軸の電気モータが後車軸の電気モータとは異なる動作モードで動作する状況も発生する可能性がある。
【0015】
ここで、「電気モータ」は、一般に、電気エネルギーを使用して車両の車輪にトルクを発生させ、そしてその逆に、適切な作動によって、車輪から得られるトルクを電気エネルギーに変換するのに適した、任意のタイプの電気モータを意味すると理解される。電気モータの「エネルギー源」は、例えばバッテリであり得る。
【0016】
本発明の意味における「動作モード」、又はそのような動作モードでの電気モータの作動は、ここでは、選択された動作モードによって指定されたパラメータによる電気モータの目標作動を意味すると理解されるべきである。三相ブラシレスDCモータの例を使用すると、動作モードを使用して、例えば、整流ブロックの電圧をいつ、どのように切り替えるかを指定できる。整流ブロック内の電圧の経過、つまり電圧の特定の信号形式も、動作モードによって指定できる。ここで、動作モードのパラメータは、車輪の回転エネルギーを電気エネルギーに変換する際の電気モータの結果的な効率が、単に選択されたパラメータによって動作モード間ですでに異なっているように選択される。例えば、電気モータの動作温度などの外部の制御されない影響から生じる電気モータの異なる効率は、本発明の意味における異なる動作モードとして理解されるべきではない。一方、効率に影響を与える電気モータの動作温度の目標設定は、本発明の意味における動作モードとして解釈することができる。
【0017】
好ましい実施形態によれば、ここで電気エネルギーは、第1の動作モードでエネルギー源に供給される。したがって、これは車輪の回転エネルギーの回生であり、これによりエネルギー源、特にバッテリが再充電される。
【0018】
すでに上で説明したように、電気モータの動作モードは、電動駆動装置の予め決定されたステータス情報の項目に応じて選択される。好ましい実施形態によれば、ここでのステータス情報の項目は、エネルギー源の少なくとも1つの充電状態及び/又はエネルギー源の温度及び/又は電気モータの温度及び/又は電動駆動装置の他のコンポーネントの温度を含む。電動駆動装置の他のコンポーネントは、例えば、駆動装置のパワーエレクトロニクスシステム、特に、エネルギー源によって供給される直流電圧を電気モータの動作に必要な交流電圧に変換するインバータであり得る。特に、エネルギー源の充電状態が完全に充電されたエネルギー源に対応しない場合、好ましくは第1の動作モードで電気モータを動作させるようにすることができるので、車輪から得られる回転エネルギーの可能な限り大きい部分が電気エネルギーに変換される。ここで、エネルギー源がその現在の温度に基づいて電気エネルギーを受け取るのに適しているかどうかも考慮することが好ましい。
【0019】
ステータス情報の項目は更に、電動駆動装置の個々のコンポーネントの故障状態を識別することもできる。例えば、電気モータとエネルギー源との間の接続に欠陥があるか、又は遮断されている、すなわち、電気エネルギーをエネルギー源にフィードバックすることができないことが立証された場合、電気モータを第2の動作モードで動作させるようにすることも可能である。
【0020】
逆に、動作モードを選択する場合、電気モータが、例えばその現在の温度に起因して、車輪の回転エネルギーを熱エネルギーとして放散できるかどうかも考慮される。同様に、電動駆動装置の他のコンポーネント、特に電気モータのパワーエレクトロニクスシステムの温度もここで考慮に入れることが好ましく、これらは同様に、電気モータを使用して熱エネルギーを放散する第2の動作モードでの電気モータの動作を制限する。
【0021】
更なる好ましい実施形態によれば、第2の効率がエネルギー源の充電状態及び/又は温度に依存するように更になされる。例えば、エネルギー源がほぼ完全に充電されたときに第2の動作モードが使用されるようにすることができる。この場合、車輪の回転エネルギーのエネルギー源への回生は依然として有効であるため、第2の効率が低すぎてはいけない。ここで、エネルギー源の充電が増加するにつれて第2の効率が連続的に減少するように、第2の効率がエネルギー源の現在の充電状態に合わせて連続的にスケーリングされるようにすることもできる。更に、エネルギー源の現在の温度のために電気エネルギーをエネルギー源に戻すことができないため、エネルギー源のわずかな放電にもかかわらず、可能な限り低い第2の効率を設定することもここで行うことができる。
【0022】
更なる実施形態によれば、第1の効率が、車輪の回転エネルギーを電気エネルギーに変換するための可能な限り高い効率であり、第2の効率が、電気モータを使用して、車輪の回転エネルギーを電気エネルギーに変換するための可能な限り低い効率であるように更になされる。
【0023】
更なる実施形態によれば、自動車が少なくとも1つの加熱回路を有するように更になされ、第2の動作モードで電気モータの動作中に生成される熱が加熱回路に供給される。加熱回路は、例えば自動車の客室のヒータを含むことができるので、車両が減速しているときに電気モータによって生成される熱を使用して客室を暖房することができる。
【0024】
車輪の運動エネルギーが異なる効率で電気エネルギーに変換される、上述の2つの動作モードのうちの1つで電気モータを動作させることに加えて、更なる実施形態によれば、前述の、電気モータの可能な動作モードの中からの第3の動作モードにおいて、電気モータが、エネルギー源によって提供される電気エネルギーを使用して車輪に減速トルクを加えるように作動される。したがって、電気モータは、車輪に減速トルクを発生させることができるようにアクティブに通電される。一方では、モータのアクティブな通電により電気モータ内で熱エネルギーが発生すると同時に、車輪から取り出された回転エネルギーが電気モータ内で熱として生成される。この動作は、例えば、わずかな減速要求にもかかわらず大量の熱が必要な場合に使用でき、例えば、車両の客室をすばやく暖めたり、電動駆動装置を動作温度にすることができる。同時に、この動作モードではエネルギー源が少なくともわずかに放電されるので、後続の減速要求を第1の動作モードで実行することができる。
【0025】
更なる実施形態によれば、電気モータの動作モードを選択する際に、自動車の他の電気消費者の電気エネルギーを吸収するための吸収能力を考慮に入れることも行われる。例えば、エネルギー源が完全に充電されているにもかかわらず、第1の動作モードでの電気モータの動作は、このように生成された電気エネルギーが自動車の他の電気消費者によって引き出される場合に有用であり得る。ここでは、例えば、空調システム又は電気ヒータを電気消費者として挙げることができる。
【0026】
好ましい実施形態によれば、電気モータが、DCモータに動作電圧を提供するためのパワーエレクトロニクスシステムを有するブラシレスDCモータであるように更にされて、異なる動作モードで電気モータを作動させるために、パワーエレクトロニクスシステムの作動のみが、選択した動作モードに適合される。
【0027】
更なる態様では、本発明は、電気モータ、電気モータ用のエネルギー源、及び電気モータ用のコントローラを有する、自動車用の電動駆動装置に関する。ここで、コントローラは、電気モータに接続された車輪に減速トルクを加える要求を決定し、電動駆動装置のステータス情報の項目を決定し、電気モータの動作モードを、決定されたステータス情報の項目に応じて電気モータの少なくとも2つの可能な動作モードから決定し、車輪に減速トルクを加えるために、選択された作動モードで電気モータを作動させるように設計されている。ここで、電気モータの可能な動作モードのうちの第1の動作モードにおいて、電気モータは、車輪の回転エネルギーが第1の効率で電気エネルギーに変換されるように作動され、電気モータの可能な動作モードのうちの第2の動作モードにおいて、電気モータは、車輪の回転エネルギーが第2の効率で電気エネルギーに変換されるように作動され、
第2の効率は第1の効率よりも低い。
【0028】
一実施形態によれば、電動駆動装置が電気モータを冷却するための少なくとも1つの冷却回路を有するようにここでなされ、第2の動作モードにおいて電気モータの動作中に生成される熱は、冷却回路を介して少なくとも部分的に放散される。ここで、冷却回路は、電気モータで吸収された熱を自動車の加熱回路に放出するように設計することができる。
【0029】
好ましい実施形態によれば、冷却回路が、冷却回路によって提供される冷却能力を調整するための制御装置を有するようにここで更になされ、制御装置は、電気モータの選択された動作モードに応じてコントローラによって作動される。例えば、電気モータが第2又は第3の動作モードで動作するとき、冷却回路の冷却能力が、循環ポンプ又は冷却圧縮機などの要素の適切な作動によって自動的に増加されるようにすることができ、そのため電気モータで発生した熱を効率的に放散でき、電気モータの過熱を回避できる。
【0030】
本発明の好ましい改良は、図面に基づいて以下により詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】従来技術による電動駆動装置の概略図を示す。
【
図2】
図1による構成の異なる障害源の概略図を示す。
【
図3】第2の動作モードにおける電気モータの概略図を示す。
【
図4】第3の動作モードにおける電気モータの概略図を示す。
【
図5】加熱回路を有する例示的な電動駆動装置の概略図を示す。
【
図6】電動駆動装置のための例示的な制御論理システムの概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下の文章では、互いに類似又は同一の特徴は、同じ参照符号によって表記する。
【0033】
図1は、従来技術による電動駆動装置100の概略図を示す。ここで、電動駆動装置100は、電気モータ104を有する駆動ユニット102と、電気モータ104用のコントローラ106とを有する。駆動ユニット102、したがって電気モータ104は、エネルギー源108、例えばバッテリに、電気エネルギーを供給するためのDC接続110を介して接続される。エネルギー源108に加えて、他の電気消費者112も、DC接続110を介して駆動ユニット102に接続することができ、これは、
図1に非常に概略的に示されているだけである。
【0034】
電気モータ104は、下流の変速機114を介して車輪116に接続され、電気モータ104が車輪116にトルクを発生させることができるようになっている。更に、摩擦ブレーキ118が車輪116に配置されており、これは例えばディスクブレーキとして示されている。このような構成では、電気モータ104を適切に作動させることによって、エネルギー源108からの電気エネルギーを使用して車輪116に加速トルクを加えることができること、減速トルクは、車輪116の回転エネルギーがエネルギー源108に供給される電気エネルギーに変換されるのが好ましいことが従来技術から知られている。
【0035】
従来技術では、通常、電気モータをできるだけ効率的に作動させることに重点が置かれており、エネルギー源108からの電気エネルギーが可能な限り高い効率で車輪116の運動エネルギーに変換され、逆もまた同様である。
【0036】
図2は、
図1で説明した構成におけるどの障害源が、従来技術による電動駆動装置が負荷の摩擦ブレーキを一般に永続的且つ確実に解放することができないことにつながるか、を概略的に示している。エネルギー源108が完全に充電されると、すなわちエネルギー源108への運動エネルギーの回生がもはや不可能になると、第1の障害源又は第1の問題のある状態が生じる。第2の障害源は、DC接続110の遮断又は誤動作であり、その結果、電気エネルギーを他の電気消費者112にも放電することがもはや不可能になる。いずれの場合も、車輪が減速するときに放出されるすべての運動エネルギー120は、熱122の形で摩擦ブレーキ118によって吸収され、周辺領域に放出される必要がある。
【0037】
この問題を解決し、エネルギー源108又はDC接続110などの個々のコンポーネンの機能不全の場合でも、電動駆動装置100による減速トルクの確実な提供を保証するために、本発明によれば、異なる動作モードで車輪116に減速トルクを発生させるために、電動駆動装置100の個々のコンポーネンの状態に応じて電気モータ104を動作させる。
【0038】
電気モータ104は、この例として
図3に示されている。図の左側に示されているように、示されている状況では電気エネルギーを駆動ユニット102からDC接続110を介してエネルギー源108にフィードバックすることはできない。これは、例えば、完全に充電されたエネルギー源108又はDC接続110の欠陥の場合であり得る。この場合、本発明によれば、電気モータ104がパワーエレクトロニクスシステム107の適切な作動によって作動されるようになされ、車輪116に減速トルクを発生させるために車輪116の回転エネルギー120を電気エネルギーに変換し続けるが、可能な限り低い効率で行うようにする。
【0039】
この結果、車輪116の回転エネルギー120のごく一部のみが電気エネルギーに変換され、このようにして発生する電流124は、好ましくは電気モータ104及びパワーエレクトロニクス107、又は電気モータ104の上流に接続されたインバータ126によって完全に熱に変換される。対照的に、回転エネルギー120の大部分は熱122に変換され、電気モータ104で生成され、電気モータ104を冷却することによって放散することができる。
【0040】
しかしながら、電気エネルギーがDC接続110を介してエネルギー源108にフィードバックされることができる限り、電気モータは、パワーエレクトロニクスシステム107の適切な作動によって車輪116を減速するための第1の動作モードで動作され、それにより、車輪116の回転エネルギー120は、可能な限り大きい効率で電気エネルギーに変換され、次いで、この電気エネルギーがエネルギー源108に供給される。ここで、この動作モードにおける電気モータ104の動作パラメータは、電気モータ104で発生する熱は可能な限り少ないように設計される。
【0041】
電気モータ104の第3の動作モードが
図4に概略的に示され、この第3の動作モードは、例えば、エネルギー源が完全に充電され、DC接続110が損なわれておらず、電気モータ104がまだ比較的低温である場合に使用することができる。この場合、減速トルクを生成するために、電気エネルギーを使用して減速トルクが車輪116に加えられるように目標設定された形で、コントローラ106によるパワーエレクトロニクスシステム107の適切な作動によって電気モータがアクティブに通電される。その結果、使用される電気エネルギーと車輪116の回転エネルギー120の両方が、電気モータ104内で熱エネルギー122として生成され、この熱エネルギーは、適切な冷却によって放散することができる。
【0042】
図5は、例示的な電動駆動装置100の概略図を示しており、電動駆動装置100は自動車の加熱回路130に接続されている。ここで、駆動ユニット102のコントローラ106は、状況に応じて減速トルクを生成するために電気モータ104の異なる動作モード間で切り替わる制御論理システム132を有する。ここで、第1の動作モード134は、電気モータ104が車輪116の運動エネルギー120を、減速トルクを生成するために可能な限り高い効率で電気エネルギーに変換するように、特に関連するパワーエレクトロニクスシステムの適切な制御論理システムを使用している、電気モータ104の動作パラメータを適切に調整することによって設計され、この電気エネルギーは次に、DC接続110を介してエネルギー源に供給される。この第1の動作モード134は、例えば、エネルギー源は完全に充電されておらず、DC接続110は完全に機能しているときに使用される。
【0043】
一方、第2の動作モード136では、電気モータ104の動作パラメータを適切に調整することによって、電気モータ104が車輪116の運動エネルギーを電気エネルギーに変換して、可能な限り低い効率で減速トルクを生成するようにされる。このプロセスで生成された熱は、加熱回路130に放散され、例えば、対応するラジエータ138によって、自動車の客室を加熱するために使用することができる。
【0044】
図6は、上述したように、電動駆動装置100のための制御論理システム132の概略図を示している。ここで、制御論理システム132は、最初に、電動駆動装置のステータス情報の項目140、142、及び144を決定するように設計される。ステータス情報の項目は、例えば、DC接続110の機能に関するステータス情報140、エネルギー源108が電気エネルギーを受け取る準備状態に関するステータス情報142であり、この準備状態は、例えば、エネルギー源108の充電状態及び温度、又は電気エネルギーを受け取る他の電気消費者112の準備状態の影響を受ける。
【0045】
このようにして決定された状態情報の項目は、決定論理システム146に供給され、決定論理システム146は、決定されたステータス情報の項目140、142、144を一緒に調べることによって、電動駆動装置102が車輪116への減速トルクを適用するための着信要求が、電気モータ104の第1の動作モードで実施されるべきか、又は上述したように電気モータ104の第2の動作モードで実施されるべきであるかどうかを決定する。この決定論理システム146の出力に応じて、第1又は第2の動作モードによる電気モータ104の動作パラメータは次に、対応するパワーエレクトロニクスシステム106を作動させるときにコントローラによって使用され、その結果、電気モータ104は、車輪116の回転エネルギーを、可能な限り高い効率又は可能な限り低い効率のいずれかで電気エネルギーに変換する。
【国際調査報告】