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特表2023-532585ブレーキシューの横方向オフセットを補償するドラムブレーキ
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  • 特表-ブレーキシューの横方向オフセットを補償するドラムブレーキ 図1
  • 特表-ブレーキシューの横方向オフセットを補償するドラムブレーキ 図2
  • 特表-ブレーキシューの横方向オフセットを補償するドラムブレーキ 図3
  • 特表-ブレーキシューの横方向オフセットを補償するドラムブレーキ 図4
  • 特表-ブレーキシューの横方向オフセットを補償するドラムブレーキ 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-28
(54)【発明の名称】ブレーキシューの横方向オフセットを補償するドラムブレーキ
(51)【国際特許分類】
   F16D 65/54 20060101AFI20230721BHJP
   F16D 65/22 20060101ALI20230721BHJP
   B60T 13/74 20060101ALI20230721BHJP
   F16D 121/24 20120101ALN20230721BHJP
   F16D 125/34 20120101ALN20230721BHJP
【FI】
F16D65/54 J
F16D65/22
B60T13/74 G
F16D121:24
F16D125:34
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023500354
(86)(22)【出願日】2021-08-05
(85)【翻訳文提出日】2023-01-05
(86)【国際出願番号】 DE2021200103
(87)【国際公開番号】W WO2022033642
(87)【国際公開日】2022-02-17
(31)【優先権主張番号】102020210134.5
(32)【優先日】2020-08-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522296653
【氏名又は名称】コンチネンタル・オートモーティヴ・テクノロジーズ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】ゲドケ・マルティン
(72)【発明者】
【氏名】メスナー・アドリーアン
(72)【発明者】
【氏名】バッハ・ウーヴェ
(72)【発明者】
【氏名】ゼーフォ・アーメト
(72)【発明者】
【氏名】シューリッツ・マティアス
(72)【発明者】
【氏名】ホフマン・イェンス
(72)【発明者】
【氏名】ヴェイ・クリスティアン
【テーマコード(参考)】
3D048
3J058
【Fターム(参考)】
3D048BB43
3D048CC05
3D048CC49
3D048CC57
3D048HH18
3D048HH58
3D048HH70
3D048QQ07
3D048RR25
3J058AA01
3J058AA41
3J058BA57
3J058CA07
3J058CA17
3J058CA18
3J058CA22
3J058CC15
3J058CC62
3J058DA04
3J058DA20
3J058DB27
3J058FA01
3J058GA92
(57)【要約】
本発明は、自動車の電気式ブレーキシステムのためのドラムブレーキ(1)に関し、アクチュエータ手段、例えば好ましくは回転-並進変換装置の変速段、伝達手段、及び任意選択でアバットメント(3)上に支持される拡張装置(2)を備えたギヤードモータ駆動モジュールが、ブレーキドラム(5)と協働するのに適切であり且つそのために意図されている可動に取り付けられたドラムブレーキシュー(7、8)と力の流れの中にある。本発明は、ブレーキシューの摩耗しやすい耐用年数全体にわたって、簡単なアクチュエータ制御と併せて、可能な限り簡素で高速且つ正確である電気式ブレーキ制御が可能となり、複雑さが軽減するように、好ましくは電気機械式で作動可能なドラムブレーキ(1)において、効率、つまり力の流れを更に改善するという課題に対処する。本発明によれば、課題を解決するために、横方向オフセットの補償が提供され、例えば、この目的のために、特殊な幾何学的プロファイリングで製造されたジョイントディスク/ジョイントソケットタイプの支承部ジオメトリが提供され、その結果、相互関節運動を可能にするプロファイリングで更に開発された摩擦ライニング支持ジオメトリが、オフセットによって生じ、拡張方向に垂直なライニング変位が阻止されるか少なくとも低減されるように実現される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車ブレーキシステムのためのドラムブレーキ(1)であって、アクチュエータ手段、具体的には特に、回転-並進変換装置の変速段、伝達手段、及び/又は任意選択でアバットメント(3)上に支持される作動要素(15、16)を有する拡張装置(2)を備えた電気式ギヤードモータ駆動モジュールが、支持支承部を介してブレーキドラム(5)と協働するのに適切且つそのために設計された可動に取り付けられたブレーキシュー(7、8)との力の流れの中にある、ドラムブレーキ(1)において、ブレーキシューの横方向オフセットのための補償装置が、前記拡張装置(2)及び/又は前記アバットメント(3)に隣接して設けられ、前記補償装置が、前記拡張装置(2)及び/又は前記アバットメント(3)に横方向に隣接して、前記ドラムブレーキ(1)の前記ブレーキシュー(7、8)の前記力の流れの中に組み込まれることを特徴とする、自動車ブレーキシステムのためのドラムブレーキ(1)。
【請求項2】
前記補償装置がブレーキドラムの内部空間に配置されることを特徴とする、請求項1に記載の自動車ブレーキシステムのためのドラムブレーキ(1)。
【請求項3】
前記補償装置が、アバットメント(3)とブレーキシュー(7、8)との間、及び/又は作動要素(15、16)とブレーキシュー(7、8)との間の界面に直接ぴったり合うように組み込まれることを特徴とする、請求項1又は2に記載の自動車ブレーキシステムのためのドラムブレーキ(1)。
【請求項4】
前記補償装置が、拡張装置(2)とブレーキシュー(7、8)及び/又はアバットメント(3)との間の界面に、特に、少なくとも1つのアダプタコンポーネントを用いて、間接的にぴったり合うように組み込まれることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の自動車ブレーキシステムのためのドラムブレーキ(1)。
【請求項5】
前記補償装置が、その相互接触領域において、関節確動ガイドによる関節状又は可動式の支承部構成を有することを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の自動車ブレーキシステムのためのドラムブレーキ(1)。
【請求項6】
拡張装置(2)/作動要素(15、16)とブレーキシュー(7、8)及び/又はアバットメント(3)との間の前記補償装置の前記確動ガイドが、ジョイントディスク/ジョイントソケットのように二次元的に湾曲した弓形形状を有するトラックガイドとして実施されることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の自動車ブレーキシステムのためのドラムブレーキ(1)。
【請求項7】
ジョイントのように構成された前記湾曲したガイドが、1つ又は複数の円弧セグメントを有することを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の自動車ブレーキシステムのためのドラムブレーキ(1)。
【請求項8】
対にされた異なる前記円弧セグメントが、それぞれの曲面が同じ方向に向けられるが、異なる半径Rを有する状態で密接して接触することを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の自動車ブレーキシステムのためのドラムブレーキ(1)。
【請求項9】
相互の関係において、作動要素側に位置する(主)半径Rが、ブレーキシュー側に位置する(従)半径Rよりもわずかに小さくなるように寸法を定められることを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の自動車ブレーキシステムのためのドラムブレーキ(1)。
【請求項10】
作動要素側に位置する(主)半径Rが、前記ブレーキドラムの直径に応じて、前記ブレーキドラムの直径の少なくとも約0.6~1.5倍を有し、対にされた対応するブレーキシュー側に位置する前記(従)半径Rが、前記ブレーキドラムの直径の少なくとも約1/4~1/20倍を有することを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の自動車ブレーキシステムのためのドラムブレーキ(1)。
【請求項11】
半径Rのうちの1つ又は複数の中心が、決定された、特に予め定められたオフセットY1c、Y1dだけホイールの回転軸Axに向けて横方向にオフセットされるように配置されることを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の自動車ブレーキシステムのためのドラムブレーキ(1)。
【請求項12】
すべてのブレーキシュー(7、8)が、すべてのブレーキドラムの回転方向U、U’に関してブレーキシューの横方向オフセットのための少なくとも1つ又は複数の補償装置を割り当てられることを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載の自動車ブレーキシステムのためのドラムブレーキ(1)。
【請求項13】
各ブレーキシュー(7、8)が、1つのブレーキドラムの回転方向U、U’に関してブレーキシューの横方向オフセットのための補償装置を割り当てられることを特徴とする、請求項1~12のいずれか一項に記載の自動車ブレーキシステムのためのドラムブレーキ(1)。
【請求項14】
ブレーキシューの横方向オフセットのための前記補償装置が、1つのブレーキドラムの回転方向U、U’にのみ割り当てられ、1つ又は複数のトレーリングドラムブレーキシュー(7、8)にのみ割り当てられることを特徴とする、請求項1~13のいずれか一項に記載の自動車ブレーキシステムのためのドラムブレーキ(1)。
【請求項15】
前記補償装置が、荷重測定装置に隣接して、且つブレーキドラム内でアンカープレートに固定されることを特徴とする、請求項1~14のいずれか一項に記載の自動車ブレーキシステムのためのドラムブレーキ(1)。
【請求項16】
電気自動車ブレーキシステムが、前記ドラムブレーキ(1)のオープンループ制御及び/又はクローズドループ制御のための制御ユニット(ECU)を備えて構成されることを特徴とする、請求項1~15のいずれか一項に記載の自動車ブレーキシステムのためのドラムブレーキ(1)。
【請求項17】
前記電気自動車ブレーキシステムが、少なくとも1つ又は複数の電気機械式及び/又は電気油圧式で作動可能なホイールブレーキを有することを特徴とする、請求項1~16のいずれか一項に記載の自動車ブレーキシステムのためのドラムブレーキ(1)。
【請求項18】
形成された前記自動車ブレーキシステムが、少なくとも1つのディスクブレーキを有することを特徴とする、請求項17に記載の自動車ブレーキシステムのためのドラムブレーキ(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車ブレーキシステムのための、好ましくは電気式で、具体的には特に電気油圧式又は電気機械式で作動可能であり、アクチュエータ手段を備えたドラムブレーキであって、アクチュエータ手段が、例えば、ブレーキドラムと協働するのに適切であり且つそのために設計された可動に取り付けられたドラムブレーキシューとの力の流れの中にある回転-並進変換装置の変速段、伝達手段、及び拡張装置又はアバットメント支持部を備えたギヤードモータ駆動モジュールである、ドラムブレーキに関する。
【背景技術】
【0002】
油圧式ホイールシリンダとして製造されることが普通であるアクチュエータ手段を備えた油圧式で作動するドラムブレーキが従来技術で開示されており、アクチュエータ手段は、協働するブレーキシューに、ひいてはブレーキドラムに作動要素(油圧ピストン)を介してブレーキ作動力を与えることを可能にする(例えば、「Bremsenhandbuch」[「ブレーキハンドブック」]ISBN 3-89059-008-x;9th edition,1986の129頁を参照)。残念ながら、従来の油圧式ドラムブレーキは、そのままでは、最新の電子式クローズドループ制御のドライブトレイン/ブレーキシステムにおいて必要とされる精度で、メンテナンスなしで、車両の耐用年数にわたって、すべての新しいクローズドループ制御タスクを行うことには適していない。
【0003】
本出願と同一の出願人による独国特許出願公開第102018215979A1号明細書は、自動車のためのドラムブレーキのブレーキシューを拡張するための拡張装置であって、ばね式で回転可能な再調整ねじを備える回転駆動式クリアランス(idle travel)補償装置が拡張装置に一体化される、拡張装置に関する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
関連する従来技術においては、最新の自動車ドラムブレーキシステムにおける摩擦ライニングの摩耗の影響を適切に完全に取り扱うことを可能にする更に発展した実用的な解決策が存在していないため、改善が更に必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的は、本発明によって初めて、非常に驚くべきことに、特許性を有すると同時に更に有利な仕方で、特許請求の範囲における請求項1に記載の特徴の組み合わせに基づいて達成され、ブレーキシューの横方向オフセットの補償装置が、ブレーキドラムの内部空間において拡張装置及び/又はアバットメントに隣接して設けられ、上記横方向オフセットの補償装置は、拡張装置及び/又はアバットメントに横方向に隣接して、ドラムブレーキの力の流れの中に組み込まれる。本開示に関連して、横方向軸Qを基準として、「横方向に」なっている特徴は、拡張装置2の拡張軸Sに対して直交して、すなわち直角に配置されることを常に意味する。本開示は、例として簡略化された形態で、拡張装置の領域における補償手段の配置だけに言及しているが、このことは限定を構成するものではなく、むしろ、補償手段はアバットメントの領域において横方向に力の流れの中に同様に組み込まれてもよく、図面による実施形態に示されるような組み合わせが提供されることが極めて特に好ましい。
【0006】
有利な横方向オフセットの補償装置は、拡張装置とブレーキシューとの間の界面にぴったり合うように直接組み込まれることが特に好ましい。顧客が受容又は要求する場合、適応的に変更する際には、本発明の基礎となる概念から逸脱することなしに、力の流れの中に追加的に組み込まれる少なくとも1つの交換可能なアダプタコンポーネントを介してぴったり合うようにすることによって、補償装置の間接的な組み込みが容易に後付けされ得る。
【0007】
1つの有利な改良では、補償装置は、その相互接触領域において、特に、関節確動ガイドに基づく関節状又は可動式の支承部構成を備える。この目的で、二次元的に湾曲した弓形形状のトラックガイドが、ジョイントディスク/ジョイントソケットのモデルに合わせて実施され得る。ジョイント方式で構成された湾曲した(トラック)ガイドを特に経済的に製造するという目的のために、接触ジオメトリが少なくとも1つ又は複数の円弧セグメントを更に有すると好都合である。ここで、接触するために互いに対となる円弧セグメントの対となる半径は、それぞれ互いに密接に接触するために異なる曲率を有していると都合がよい。好ましい実施形態では、相互に比較した場合、作動要素側に位置する半径は、ブレーキシュー側に位置する半径よりもわずかに小さくなるように寸法を定められる。相対的に考えると、この場合、作動要素側の半径はブレーキドラムの直径の範囲に概ね収まるように寸法を定められ得るのに対し、対応するブレーキシュー側の半径は、ブレーキドラムの直径の1/5~1/10の範囲内に概ね入り得る。相互に密接に接触することには、力の流れの中に行き渡る接触圧が対となったコンポーネントを通して伝達される能力の向上に寄与するという非常に有利な副次的効果があることは自明である。
【0008】
本発明の更なる改善された実施形態では、有効性を高めるために、関連するジョイント半径のうちの1つ又は複数の中心が、ホイールの回転軸の方向にある程度、ある所定のオフセットだけシフトされることが更に可能である、つまり必要な場合には好都合であり、これにより、摩耗により誘発される横方向オフセットを抑制することに更に好都合に寄与する。
【0009】
まとめると、本発明は、ドラムブレーキを今の時代に合わせるためには、クリアランス補償とは別に更なる対策が必要且つ好都合であると考えられるという新たな認識と併せた、ドラムブレーキシステム関係に関する体系的に計画された研究に基づくものである。これはなぜなら、実質的に均一に同心円状に摩耗するブレーキドラムの摩耗パターンを伴う、リーディングブレーキシュー及びトレーリングブレーキシューの実質的に避けられない全く均一でないドラムブレーキシューの摩耗によって、システムの耐用年数にわたって、通常変位不可能であり、且つ/又は背面板上に固定されて配置される隣接するコンポーネント(作動要素、拡張装置、アバットメント)に対する関係において、力を伝達する支承点にかなりの横方向オフセットが生じるためである。そして、この結果、クローズドループ制御の側面から考慮しなければならない、ある程度の摩耗によって生じるレバーアームにおける変化をもたらし、更に、拡張装置に関する摩耗により誘発されるオフセットは、反対向きの力の結合をある程度まで発生させ、その結果、ホイールブレーキのドライブトレインに横方向の力が導入され得る。本発明による解決策は、上述の研究結果に基づくものであり、したがって、論理的には、本発明によるドラムブレーキは本発明による横方向オフセットの補償を好都合にも装備されることになる。
【0010】
好ましい例示的な実施形態では、実施されるオフセット補償は、作動要素とブレーキシューとの間の間接的又は直接的な接触において、特別な幾何学的プロファイリングで製造されるジョイントディスク状/ジョイントソケット状支承部ジオメトリを含み、摩擦ライニング支持支承部ジオメトリによる本発明による更に発展した補償が、幾何学的プロフィールによる支持支承部設計によって、支持支承部における摩耗の進行によって誘発される変位運動を防止又は少なくとも低減することを補助する、非常に喜ばしい効果を有する。本発明によれば、摩耗オフセット補償は、自動的であり、電流は関与せず、自動的に補償され、特に、好ましくは電気機械式で作動可能なドラムブレーキのクローズドループ制御機能並びに特に効率及び力の流れも改善される。
【0011】
したがって、本発明の使用は、一般に、少なくとも1つのドラムブレーキを有するすべての自動車ブレーキシステムに適する。ここで、ホイールブレーキ、特にドラムブレーキは、好ましくは、電子制御ユニット(ECU)によって、電気式で、特に電気油圧式及び/又は電気機械式で作動されるように構成され得る。特に、本発明によれば、機械設計を通じて、現在好ましい電気式ブレーキ・バイ・ワイヤシステムが、簡単な電気アクチュエータによる作動と併せて、簡素で高速且つ高精度な電気式クローズドループブレーキ制御を極めて容易に、ドラムブレーキの摩耗するブレーキシューの耐用年数全体にわたって行うことが容易に可能になり、その結果、有利なことに、本発明は回生(recuperative)ドライブレーキシステムを完全に補完し、回生ドライブレーキシステムは要求に応じて柔軟に且つ連携して動作する。決して車両ブレーキシステムがドラムブレーキのみを備えることを必須とするものではなく、むしろ、1つ又は複数のブレーキタイプ、特にディスクブレーキと組み合わせた混合装備が可能であり、且つ基本的に意図されている。ここで、車両ブレーキシステムの様々なブレーキタイプが、各車軸で同じタイプになるように対にされることが好都合であるが、決して必須ではない。ドライブトレインに組み込まれたブレーキに関連し得るなど、これらの原則から逸脱することは、特別な場合には可能である。
【0012】
本発明は、ドラムブレーキ荷重センサ手段を備えるブレーキシステムとの組み合わせに極めて特に適しており、ドラムブレーキ荷重センサ手段は、補償装置に隣接して、ブレーキドラム内で、アンカープレートに固定される。
【0013】
本開示の内容全体にしたがって任意の所望の組み合わせで構成された本発明の有利な例示的実施形態に関連し得る本発明の更なる特徴及び詳細は、下記図面に基づく説明と併せて従属請求項を読めば明らかになるはずである。
【0014】
図面は、ほとんどの場合、スケッチ形式で/概略的に/例として示したものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】緩やかに丸みを帯びた支持支承部を備えた(約半分の縮尺の)ドラムブレーキシュー上における、摩耗により誘発される横方向オフセット/支持支承部の接触点における「変位」を例として示す。(優先回転方向Uに関する)トレーリングブレーキシュー7は、その支持支承部/接触点において、考慮される摩擦ライニングの耐用年数にわたって、非常に大きく横方向にオフセットされる(横方向オフセットY1a/Y1b)(比較として、例えば、約7.9/約7.5mm)。
図2】本発明による補償手段/支持支承部プロファイリング(「シェル-ディスク設計」)を用いて、ドラムブレーキ上で横方向オフセットがどのように改善されるかを例として示す。摩擦ライニングの耐用年数にわたって、トレーリングブレーキシュー7の支持支承部接触点における横方向オフセットは、結果的に約4分の1になる。つまり、変位運動は、図1のような初期設計に関して、例えば、約1.77/1.91mmまで減少する。当業者には更に認められるように、本発明による特に有利な設計では、関連するライニングシューの半径の中心は、その開始点から距離Y1c/Y1dだけオフセットされる。
図3-4】本発明による別の更なる発展形態を例示的な実施形態として示す。これには、軸Rkに関してY1c/Y1dのオフセットを有する変形形態が含まれる(図3では摩耗していない新しい状態で示されている)。このオフセットに起因して、接触点は、上記軸「Rk」よりY1a/Y1bだけ上方に位置する。ライニングの摩耗が増加し、摩耗の度合いが最大のとき、接触点は、Rkの軸中心上でY1’a/Y1’bまで移動する(図4参照)。このオフセットに起因して、Rkの軸に関する最大間隔(Y1a、Y1b、Y1’a、及びY1’b)は、図2に示すよりも約1/2だけ小さくなる。
図5】例えば図2の細部Vに基づいて、幾何学的に実施される横方向オフセット補償を有する支持支承部を例として示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、一般に、自動車のための、本発明にしたがって設計されたドラムブレーキ1、又は1つ又は複数のドラムブレーキ1を有する電子式ブレーキシステムに関する。これは、一般に、非通電時に開放されるように設計された電気式常用ブレーキ装置であってもよいし、非通電時に駐車動作を付与するように設計された電気式駐車ブレーキ装置であってもよく、駐車ブレーキ装置と常用ブレーキ装置とを組み合わせたものに基づく組み合わせも同様に可能である。
【0017】
これに関連して、概略図は、ドラムブレーキ1を一般に示しており、ドラムブレーキ1は、例として、また簡略化の目的で、特殊なシンプレックスタイプのドラムブレーキであり、したがって、単純な常用ブレーキとして示されている。簡単のため、図面では駐車ブレーキ装置を示していないが、駐車ブレーキは、原理上追加可能であり、非通電時に駐車動作を付与するために設けられる。最終的には、更に別のタイプのブレーキ(例えば、デュアルサーボ、デュプレックス、デュアルデュプレックス)もまた設計の側面から原理上可能である。
【0018】
作動させるために、ドラムブレーキ1は、前側に拡張装置2を有することが好ましい。拡張装置2は、油圧式及び/又は電気機械式で作動可能であり、且つ少なくとも1つ、好ましくは2つの作動要素15、16を有する。作動要素15、16は、アンカープレート4及びアバットメント3に対して並進的に変位可能である。作動要素及びアバットメントは、アンカープレート4の前側Fにそれぞれ固定される。アンカープレート4は、アンカープレート4の構成要素及び取付部分をアンカープレート自身に固定されており、特に、アンカープレートの後側には電気機械式ホイールブレーキのアクチュエータを備えてもよい。電気機械式ホイールブレーキのアクチュエータは、車輪ごとに作動可能であり、ホイールブレーキの作動装置として車両に対して回転不能に固定されるようにアンカープレート4に対して固定され得る。ブレーキシュー7、8はまた、アンカープレート4上に可動に取り付けられる。ブレーキシュー7、8は、ホイールに対して固定されて配置されたブレーキドラム5のブレーキドラムポット6と協働する、つまり、アンカープレート4に対して回転可能とされる。各ブレーキシュー7、8は、徐々に摩耗してきたものとして示されている摩擦ライニング9、10のための実質的に硬質なキャリアを有し、リターンスプリング(restoring spring)11、12もまた、一般に、ブレーキシュー7、8に復元力を付与するため、又は(摩耗しておらず作動されていない開始点「0」から始まる)ブレーキシュー7、8を作動されていない終了位置に保持するために、ブレーキシュー7、8間に弾性的に予荷重されて張られ得る。
【0019】
本発明は、技術的な理由から常に不均一である、ブレーキドラムとの協働による摩擦ライニングの摩耗が、従来のドラムブレーキでは支持支承部接触部13、13’、14、14’の領域において幾何学的な横方向のオフセットをもたらし、結果として、支持支承部接触点が拡張装置2の作動要素15、16の拡張軸Sに対していわば直交して、横方向に変位するという認識に基づくものである。したがって、拡張装置2及びアバットメント3の領域において、ブレーキシュー7、8の支持部/接触部の相互の横方向オフセットが増加することにより、力の結合が発生することがあり、結果として、不都合なことに、拡張装置2は、横方向の力から解放されない、つまりトルクが導入され、その結果、拡張装置2の力の流れの中に徐々に増加する横方向の力の荷重が作用する。本発明は、これを改善し、横方向の力の補償又はその悪影響の軽減を可能にする。
【0020】
電気式ドラムブレーキの場合では、電気機械式ギヤードモータ駆動は、各ドラムブレーキが一般に車輪ごとのクローズドループ制御の目的で個別に関連付けられた電気機械式ホイールブレーキアクチュエータ手段を設けられ得るように設計され、複数のドラムブレーキがボーデンケーブルを介して共通の電気機械式アクチュエータを備えることも同様に可能である。中央電子制御ユニットがアクチュエータ手段の供電/作動/クローズドループ制御のために設けられてもよく、各ホイールブレーキモジュールがローカル電子制御ユニットを有することも同様に可能であり、ローカル電子制御ユニットは更なる電子制御ユニットと相互にリンクされてもよい。ドラムブレーキ1は力センサ手段を有してもよい。
【0021】
本発明の利点は、(新品から完全に摩耗したライニングへの)摩耗の際に、ブレーキシューが拡張ユニットと形成する接触点が接触線に沿って著しく移動し、これにより、拡張ユニットの軸中心を中心として大きなレバーアームが生じる(図1も参照)という、公知の従来技術によるドラムブレーキの場合の課題を解決する有利で簡素な解決策を電気式ドラムブレーキと併せて特定し、提案したことにある。更に、例えば電気機械式で作動されるドラムブレーキでは、ブレーキシューから拡張ユニットへと力を中心に導入することに関して最適化された設計は実現されていない。
【0022】
本発明は、上記のような欠点を改善することが意図されている。意図されているのは、ライニングによって力を可能な限り中心に導入することである。より中心に力が伝達されるという事実に起因して、従来の油圧式ブレーキドラムシリンダの場合に発生し得る(そして残留トルクの増加につながる)ピストン詰まりの事象及び摩擦の増加が防止又は低減される。これにより拡張ユニットの効率がより高くなる。このようなライニングから拡張ユニットへの好ましい力の導入は、特に電気機械式の拡張ユニット(例えば、ボールねじ又はボールランプシステム)の場合に有用である。効率を高めることの他、ガイドの長さを短くすることに起因して横方向の力が吸収され得る。この結果、電気機械式拡張ユニットの寸法が小さくなる。更なる利点は、例えばブレーキトルク監視のために「ドライ」ブレーキシステムで使用されることが好ましい、対応して設計された変位/力測定ユニットによる力の伝達点における値の検出が改善されることである。ここで、横方向の力は、例えば、測定値を偽る横方向のたわみをもたらす。
【0023】
ドラムブレーキのライニングから拡張ユニットへの力の接触点に関して本明細書で追求されている「接触設計」の場合、「シェル-ディスク設計」によってライニングの変位が大幅に減少する(図3も参照)。この形態は、避けられない横方向の力を可能な限り小さく保ち、好ましい仕方で支持するように選択されなければならない。追加的な「オフセット」を有する実施形態の場合では、接触面の「開始点」が軸中心を超えて変位することにより、ライニングが軸中心から外れて移動することを更に低減することが可能である。よって、摩耗した場合、力の接触点が軸中心を超えて終了点(完全に摩耗したライニング)に移動する。
【0024】
設計はまた、接触面においてそれぞれ鏡面対称に実施されてもよい。
【0025】
本発明により、横方向の力の低減及びドラムブレーキライニング上の力の接触点の移動が可能となる。この低減の結果、関係するコンポーネントにおいて横方向の力が低減され、これにより、上記コンポーネントは上記力に関して堅牢に設計する必要がなくなる。
【0026】
特に、例えばスピンドルシステム又はボール/ランプシステムを使用して拡張力を印加する新しいドライブレーキシステムの場合、このことは、スピンドルが受ける横方向の力が小さく、ボール/ランプシステムの場合は個々のボールがより均一に荷重を受けるため、非常に有利である。上記拡張ユニットのガイドシステムを短くすることもできる。このことを用いて、コンポーネント、ひいては拡張ユニットを小さくするように設計することができる。ドライシステムの場合、ライニング支持部は実際に力/トルクの測定にも使用される。ここで、同様に、上述のように、力/トルクの測定の精度を高めるために力を中心に導入することは有利である。更に、このことはまた、ガイドされたピストンを用いる既存の油圧式システムにも利益をもたらす。これらのシステムでは、横方向の力が低減され、起こり得るピストン詰まりの事象が防止される。
【0027】
本発明は、一般に、ドラムブレーキが存在するすべてのドラムブレーキシステム(シンプレックス、デュプレックス、デュアルデュプレックス...)の用途を改善し得る。
【0028】
有利な実施形態として、Rkには可能な限り小さい半径が選択されるべきであり、Rgには可能な限り大きい半径(直線でもよい)が選択されるべきである。Rgが移動するという事実に起因して、Rgの場合には、主な使用範囲において横方向の力を可能な限り低減さようとするとき、角度1a°、1b°、1’a°、及び1’b°が可能な限り小さくなる(図3a/図3b参照)ことが確保されなければならない。このことは、例えば、示したようなオフセットによって可能になる。Rkの場合、最小の半径は材料特性によって制限される。
【0029】
原理上、本発明にしたがって改善された支持支承部(接触点)は、互いに対になるべき異なるコンポーネント、つまりドラムブレーキ/ドラムブレーキシューに普遍的に設けることが可能である。同様に、本発明によれば、本発明による改良は、例えば、優先的な回転方向のみが本発明による改良を受ける一方、異なる荷重プロファイルを受け得る他の接触点は異なる構成にされ得るように、極めて特定のドラムブレーキライニングにおいてのみ設けられることも可能である。接触点は、ある程度、互いに対して鏡面対称に構成されてもよい。更に、「シェル-ディスク設計」はまた、円形の代わりに、異なる曲率又は近似した幾何学的形状に置き換えられてもよい。更に、上記の原理はまた、ライニングキャリア及びアバットメントが複数の部品として構成される差動設計でも実施されてもよい。
【符号の説明】
【0030】
0 開始点-新しい状態(基準点)
1 ドラムブレーキ
2 拡張装置
3 アバットメント
4 アンカープレート
5 ブレーキドラム
6 ブレーキドラムポット
7 ブレーキシュー(ブレーキドラム主回転方向Uの場合はトレーリングブレーキシュー)
8 ブレーキシュー(ブレーキドラム主回転方向Uの場合はリーディングブレーキシュー)
9 摩擦ライニング
10 摩擦ライニング
11 リターンスプリング
12 リターンスプリング
13、13’ 支持支承部接点
14、14’ 支持支承部接点
15 作動要素
16 作動要素
ECU 電気制御ユニット
eRB 電気式ホイールブレーキ
EMB 電気機械式ホイールブレーキ
ehRB 電気油圧式ホイールブレーキ
F 前側
Ax ホイールの回転軸(軸方向)
r 半径方向
T 接線方向
U ブレーキドラム主回転方向(優先回転方向/主回転方向)
U’ ブレーキドラム副回転方向
x1a、x1b、x2a、x2b オフセット
y1a、y1b、y2a、y2b オフセット
R 半径
S 拡張軸
Q 横方向軸
D ドラムブレーキの直径
Δx 摩擦ライニングの厚さ
Z1 オフセットした終了点(摩耗した摩擦ライニング)
Z2 オフセットした終了点(摩耗した摩擦ライニング)
Y1c、y1d オフセット(横方向のオフセット→中心の方向に投影)
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】