(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-07
(54)【発明の名称】エステル系組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 67/08 20060101AFI20230731BHJP
C07C 69/80 20060101ALI20230731BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20230731BHJP
【FI】
C07C67/08
C07C69/80 A
C07B61/00 300
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023501851
(86)(22)【出願日】2021-09-17
(85)【翻訳文提出日】2023-01-12
(86)【国際出願番号】 KR2021012897
(87)【国際公開番号】W WO2022065853
(87)【国際公開日】2022-03-31
(31)【優先権主張番号】10-2020-0124126
(32)【優先日】2020-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2021-0124975
(32)【優先日】2021-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ヒュン・キュ・キム
(72)【発明者】
【氏名】ジョン・ジュ・ムン
(72)【発明者】
【氏名】ウン・スク・キム
(72)【発明者】
【氏名】ジュ・ホ・キム
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC48
4H006BA10
4H006BA32
4H006BC10
4H006BC11
4H006BD60
4H006BJ50
4H006KA06
4H039CA66
(57)【要約】
本発明は、複数の回分式反応器を順次運転しつつ、各反応器での圧力を制御することを特徴とするエステル系組成物の製造方法に関し、エステル系組成物が半連続的に製造されて生産性が高いながらも、回分式反応器の安定性を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多価カルボン酸およびアルキル炭素数が3~12のモノアルコールをミキサーに投入して反応混合物を形成するステップ(S1)と、
並列に連結されたN個の回分式反応器に前記反応混合物を順次投入して反応を行うことで、N個の回分式反応器での反応が順次完了して反応生成物が半連続的に製造されるステップ(S2)と、
反応生成物が半連続的に分離ユニットに移動して未反応アルコールが除去されるステップ(S3)と、
を含み、
前記Nは3以上の整数であり、
前記回分式反応器のN個の圧力は、それぞれ独立して、前期圧力が0.3barg~1.0bargであり、後期圧力が0barg~0.5bargであり、前期圧力が後期圧力よりも大きく、
前記前期および後期は、反応転換率が30%~90%である時点のうち何れか1つの時点を基準に区分される、エステル系組成物の製造方法。
【請求項2】
前記回分式反応器の圧力は、前期圧力が0.4barg~1.0bargであり、後期圧力が0barg~0.4bargである、請求項1に記載のエステル系組成物の製造方法。
【請求項3】
前記モノアルコールは、多価カルボン酸当量に対して20モル%~100モル%超過投入される、請求項1に記載のエステル系組成物の製造方法。
【請求項4】
前記後期圧力は、反応が進行するにつれて次第に小さくなる、請求項1に記載のエステル系物質の製造方法。
【請求項5】
前記モノアルコールを反応中に追加投入するステップ(Sa)をさらに含む、請求項1に記載のエステル系物質の製造方法。
【請求項6】
前記S1ステップとS2ステップとの間に反応混合物に触媒を添加するステップ(S1-1)、
前記S1ステップ以前に多価カルボン酸またはモノアルコールに触媒を添加するステップ(S1-2)、および
前記S2ステップのN個の回分式反応器それぞれに触媒を添加するステップ(S2a)からなる群から選択された1つ以上のステップをさらに含む、請求項1に記載のエステル系組成物の製造方法。
【請求項7】
前記触媒は、テトラアルキルチタネートである、請求項6に記載のエステル系組成物の製造方法。
【請求項8】
前記S1ステップは、反応混合物を50~200℃に昇温するステップをさらに含む、請求項1に記載のエステル系組成物の製造方法。
【請求項9】
前記S2ステップの反応が行われる温度は130~250℃である、請求項1に記載のエステル系組成物の製造方法。
【請求項10】
前記多価カルボン酸は、ジカルボン酸、トリカルボン酸、およびテトラカルボン酸からなる群から選択される1種以上である、請求項1に記載のエステル系組成物の製造方法。
【請求項11】
前記ジカルボン酸は、炭素数2~10の直鎖状ジカルボン酸、テレフタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、これらの無水和物、およびこれらの誘導体からなる群から選択される1種以上であり、
前記トリカルボン酸は、クエン酸、トリメリット酸、シクロヘキサントリカルボン酸、これらの無水和物、およびこれらの誘導体からなる群から選択される1種以上であり、
前記テトラカルボン酸は、ベンゼンテトラカルボン酸、フランテトラカルボン酸、シクロヘキサンテトラカルボン酸、テトラヒドロフランテトラカルボン酸、これらの無水和物、およびこれらの誘導体からなる群から選択される1種以上である、請求項10に記載のエステル系組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年9月24日付けの韓国特許出願第10-2020-0124126号に基づく優先権の利益を主張し、該当韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は、本明細書の一部として組み込まれる。
【0002】
本発明は、複数の回分式反応器を順次運転するが各反応器の圧力を制御することを特徴とするエステル系組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
フタレート系可塑剤は、20世紀まで世界可塑剤市場の92%を占めており(Mustafizur Rahman and Christopher S.Brazel 「The plasticizer market:an assessment of traditional plasticizers and research trends to meet new challenges」 Progress in Polymer Science 2004、29、1223-1248参照)、主にポリ塩化ビニル(以下、PVCという)に柔軟性、耐久性、耐寒性などを付与し、溶融時に粘度を下げて加工性を改善するために用いられる添加物であって、PVCに多様な含量で投入され、硬いパイプのような硬質製品から、柔らかくてよく伸長する食品包装材および血液バッグ、床材などに使用可能な軟質製品に至るまで、如何なる材料よりも実生活と密接な関わりを有しており、人体との直接的な接触が避けられない用途として広く用いられている。
【0004】
しかしながら、フタレート系可塑剤のPVCとの相溶性および優れた軟質付与性にもかかわらず、近年、フタレート系可塑剤が含有されたPVC製品の実生活での使用時、製品の外部に少しずつ流出され、内分泌系障害(環境ホルモン)推定物質および重金属レベルの発癌物質として作用し得るという有害性の問題が提起されている(N.R.Janjua et al.「Systemic Uptake of Diethyl Phthalate、Dibutyl Phthalate、and Butyl Paraben Following Whole-body Topical Application and Reproductive and Thyroid Hormone Levels in Humans」 Environmental Science and Technology 2008、42、7522-7527参照)。特に、1960年代、米国で、フタレート系可塑剤のうちその使用量が最も多いジエチルヘキシルフタレート(di-(2-ethylhexyl)phthalate、DEHP)がPVC製品の外部に流出するという報告が発表されて以来、1990年代に入ってからは環境ホルモンに対する関心がさらに増し、フタレート系可塑剤の人体有害性に対する多様な研究をはじめとし、汎世界的な環境規制がなされ始めた。
【0005】
そこで、多くの研究者らは、フタレート系可塑剤の流出による環境ホルモンの問題および環境規制に対応するために、フタレート系可塑剤の製造時に用いられる無水フタル酸が排除された新しい非フタレート系の代替可塑剤を開発するか、またはフタレート系可塑剤の流出を抑制して人体危害性を顕著に減らすことはもちろん、環境基準にも適合し得る流出抑制技術を開発するために研究を進めている。
【0006】
一方、非フタレート系可塑剤として、テレフタレート系可塑剤は、フタレート系可塑剤と物性的な面で同等レベルであるだけでなく、環境的問題から自由な物質として脚光を浴びている。種々のテレフタレート系可塑剤が開発されている状態であり、物性に優れたテレフタレート系可塑剤を開発する研究はもちろん、かかるテレフタレート系可塑剤を製造するための設備に関する研究も活発に行われており、工程設計の面でさらに効率的且つ経済的であり、簡素な工程の設計が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】大韓民国登録特許第10-1354141号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Mustafizur Rahman and Christopher S.Brazel 「The plasticizer market:an assessment of traditional plasticizers and research trends to meet new challenges」 Progress in Polymer Science 2004、29、1223-1248
【非特許文献2】N.R.Janjua et al.「Systemic Uptake of Diethyl Phthalate、Dibutyl Phthalate、and Butyl Paraben Following Whole-body Topical Application and Reproductive and Thyroid Hormone Levels in Humans」 Environmental Science and Technology 2007、41、5564-5570
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、効率的なエステル系組成物の製造方法を提供しようとするものであって、エステル化反応に主に用いられる回分式反応器を複数採用し、それを並列に連結した後、順次運転して全体工程が半連続的に運行されるようにするとともに、各反応器の圧力を制御することで、回分式反応器自体の安定性および半連続工程の効率性の何れも確保したエステル系組成物の製造方法を提供しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明は、エステル系組成物の製造方法を提供する。
(1)本発明は、多価カルボン酸およびアルキル炭素数が3~12のモノアルコールをミキサーに投入して反応混合物を形成するステップ(S1)と、並列に連結されたN個の回分式反応器に前記反応混合物を順次投入して反応を行うことで、N個の回分式反応器での反応が順次完了して反応生成物が半連続的に製造されるステップ(S2)と、反応生成物が半連続的に分離ユニットに移動して未反応アルコールが除去されるステップ(S3)と、を含み、前記Nは3以上の整数であり、前記回分式反応器のN個の圧力は、それぞれ独立して、前期圧力が0.3barg~1.0bargであり、後期圧力が0barg~0.5bargであり、前期圧力が後期圧力よりも大きく、前記前期および後期は、反応転換率が30%~90%である時点のうち何れか1つの時点を基準に区分される、エステル系組成物の製造方法を提供する。
【0011】
(2)本発明は、前記回分式反応器の圧力は、前期圧力が0.4barg~1.0bargであり、後期圧力が0barg~0.4bargである、前記(1)に記載のエステル系組成物の製造方法を提供する。
【0012】
(3)本発明は、前記モノアルコールが、多価カルボン酸当量に対して20モル%~100モル%超過投入される、前記(1)または(2)に記載のエステル系組成物の製造方法を提供する。
【0013】
(4)本発明は、前記後期圧力は、反応が進行するにつれて次第に小さくなる、前記(1)から(3)の何れか一項に記載のエステル系物質の製造方法を提供する。
【0014】
(5)本発明は、前記モノアルコールを反応中に追加投入するステップ(Sa)をさらに含む、前記(1)から(4)の何れか一項に記載のエステル系物質の製造方法を提供する。
【0015】
(6)本発明は、前記S1ステップとS2ステップとの間に反応混合物に触媒を添加するステップ(S1-1)、前記S1ステップ以前に多価カルボン酸またはモノアルコールに触媒を添加するステップ(S1-2)、および前記S2ステップのN個の回分式反応器それぞれに触媒を添加するステップ(S2a)からなる群から選択された1つ以上のステップをさらに含む、前記(1)から(5)の何れか一項に記載のエステル系組成物の製造方法を提供する。
【0016】
(7)本発明は、前記触媒は、テトラアルキルチタネートである、前記(1)から(6)の何れか一項に記載のエステル系組成物の製造方法を提供する。
【0017】
(8)本発明は、前記S1ステップが、反応混合物を50~200℃に昇温するステップをさらに含む、前記(1)から(7)の何れか一項に記載のエステル系組成物の製造方法を提供する。
【0018】
(9)本発明は、前記S2ステップの反応が行われる温度が130~250℃である、前記(1)から(8)の何れか一項に記載のエステル系組成物の製造方法を提供する。
【0019】
(10)本発明は、前記多価カルボン酸が、ジカルボン酸、トリカルボン酸、およびテトラカルボン酸からなる群から選択される1種以上である、前記(1)から(9)の何れか一項に記載のエステル系組成物の製造方法を提供する。
【0020】
(11)本発明は、前記ジカルボン酸は、炭素数2~10の直鎖状ジカルボン酸、テレフタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、これらの無水和物、およびこれらの誘導体からなる群から選択される1種以上であり、前記トリカルボン酸は、クエン酸、トリメリット酸、シクロヘキサントリカルボン酸、これらの無水和物、およびこれらの誘導体からなる群から選択される1種以上であり、前記テトラカルボン酸は、ベンゼンテトラカルボン酸、フランテトラカルボン酸、シクロヘキサンテトラカルボン酸、テトラヒドロフランテトラカルボン酸、これらの無水和物、およびこれらの誘導体からなる群から選択される1種以上である、前記(1)から(10)の何れか一項に記載のエステル系組成物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の製造方法は、複数の並列連結された回分式反応器を順次運転して全体反応工程が半連続的に運行されるようにするとともに、各反応器の圧力を適切に制御することで、効率的および安定的にエステル系組成物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施形態に係る、ミキサー、供給制御部、反応ユニット、および分離ユニットを含むエステル系組成物の製造システムを示した工程フローチャートである。
【
図2】本発明の一実施形態に係る、ミキサー、供給制御部、反応ユニット、および分離ユニットを含み、前記供給制御部がミキサーの内部に備えられているエステル系組成物の製造システムを示した工程フローチャートである。
【
図3】本発明の一実施形態において、触媒が投入可能な経路を示したエステル系組成物の製造システムを示した工程フローチャートである。
【
図4】本発明の一実施形態において、触媒が投入可能な経路を示したエステル系組成物の製造システムを示した工程フローチャートである。
【
図5】本発明の一実施形態において、触媒が投入可能な経路を示したエステル系組成物の製造システムを示した工程フローチャートである。
【
図6】本発明の一実施形態に係る、ミキサー、供給制御部、反応ユニット、分離ユニット、およびトランス反応ユニットを含むエステル系組成物の製造システムを示した工程フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明の説明および請求の範囲で用いられている用語や単語は、通常的もしくは辞書的な意味に限定して解釈してはならず、発明者らは、自分の発明を最善の方法で説明するために、用語の概念を適切に定義することができるという原則に則って、本発明の技術的思想に合致する意味と概念で解釈すべきである。
【0024】
本発明の製造方法において、多価カルボン酸は、カルボン酸基を2個以上有する化合物を称し、例えば、ジカルボン酸、トリカルボン酸、またはテトラカルボン酸を意味し得る。本発明で用いられる多価カルボン酸は、2~5個のカルボン酸基を有するものであるか、2~4個のカルボン酸基を有するものであるか、または2~3個のカルボン酸基を有するものであってもよい。多価カルボン酸が過度に多い数のカルボン酸基を有する場合には、多価カルボン酸自体の高い分子量により本発明の製造方法や製造システムに適用するのが円滑でないことがある。前記多価カルボン酸は、ジカルボン酸、トリカルボン酸、またはテトラカルボン酸であることが特に好ましく、ジカルボン酸の場合は、炭素数2~10の直鎖状ジカルボン酸、テレフタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、およびシクロヘキサンジカルボン酸からなる群から選択される1種以上であってもよく、トリカルボン酸の場合は、クエン酸、トリメリット酸、およびシクロヘキサントリカルボン酸からなる群から選択される1種以上であってもよく、テトラカルボン酸の場合は、ベンゼンテトラカルボン酸、フランテトラカルボン酸、シクロヘキサンテトラカルボン酸、およびテトラヒドロフランテトラカルボン酸からなる群から選択される1種以上であってもよい。また、前記多価カルボン酸は、それ自体だけでなく、その無水和物または誘導体を含んでもよい。
【0025】
本発明の製造方法において、アルキル炭素数が3~12のモノアルコールは、直鎖状もしくは分岐鎖状のプロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、およびドデカノールからなる群から選択される1種以上であることが好ましく、炭素数4~10のモノアルコールがより好ましい。また、前記アルコールは、単一種類のアルコールであるか、または同一の炭素数の異性体を含む混合物の形態であってもよい。例えば、前記アルコールがアルキル炭素数3のアルコールである場合、前記アルコールは、1-プロパノールまたは2-プロパノールの1種類であるか、または1-プロパノールおよび2-プロパノールを一定の割合で含む混合物の形態であってもよい。前記アルコールが同一の炭素数の異性体を含む混合物の形態である場合、各異性体間の相対的な量は特に制限されない。
【0026】
エステル系組成物の製造システム
先ず、本発明の製造方法を実施するための製造システムを説明する。具体的に、本発明のエステル系組成物の製造方法は、多価カルボン酸およびアルキル炭素数が3~12のアルコール(1種以上)の反応混合物が形成されるミキサーと、前記反応混合物のエステル化反応が行われる、並列連結されたN個の回分式反応器、前記ミキサーから反応混合物の投入を受ける入口ライン、および前記N個の回分式反応器から反応生成物を排出する出口ラインが備えられた反応ユニットと、前記ミキサーから反応混合物が前記N個の回分式反応器に順次供給されて反応が順次完了するように反応混合物の投入量および投入経路を制御する供給制御部と、前記反応ユニットの出口ラインを介して反応生成物の伝達を受けて未反応アルコールを除去する分離ユニットと、を含む、エステル系組成物の製造システムを介して行われてもよい。
【0027】
本発明のエステル系組成物の製造方法が行われる製造システムは、ミキサー1、供給制御部2、反応ユニット3、および分離ユニット4を含む。
図1のように、前記ミキサー1は、ミキサーに投入される多価カルボン酸11およびアルコール12の混合を行い、前記ミキサーから生成された反応混合物は、供給制御部2を経て、反応ユニット3に含まれる各回分式反応器31~3Nに順次投入される。各反応器での反応が完了した場合、反応生成物は分離ユニット4に移動し、分離ユニットで未反応アルコール42が除去され、エステル系組成物41が最終的に得られる。
【0028】
特に、本発明の製造システムに含まれる供給制御部2は、ミキサーから各反応器に反応混合物を順次投入する際に、各反応器に対する投入開始時点、投入量、および投入完了時点を決める役割を行い、並列連結された各反応器への反応混合物の順次投入および反応生成物の排出を可能にする。
【0029】
前記供給制御部は、
図1のようにミキサーと連結された別の単位であってもよく、
図2のようにミキサーに含まれる単位であってもよい。供給制御部がミキサーに含まれる場合、供給制御部は、ミキサーから直接的に排出される反応混合物の投入経路および投入量を調節することができる。
また、
図3、4、または5のように、本発明の製造システムは、多価カルボン酸、アルコール、またはこれらの反応混合物に触媒13を投入してもよい。
【0030】
図6のように、本発明が提供する製造システムは、未反応アルコールが除去された反応生成物に、アルキル炭素数が3~12のアルコールを添加してトランス-エステル化反応させるトランス反応ユニット5をさらに含んでもよい。前記トランス反応ユニットに投入されるアルコール51はミキサーに投入されるアルコールとは異なり、トランス反応ユニットを経て互いに異なるエステル系化合物を含むエステル系組成物52が製造されることができる。
【0031】
また、本発明が提供する製造システムは、前記N個の反応器のうち少なくとも1つは反応器の上部と連結され、反応器の上部を介して排出されたアルコールおよび水が分離される気液分離カラムと、前記気液分離カラムの上部ラインを介して排出された気体を冷却する凝縮器と、気液分離カラムの下部ラインを介して排出された液体と凝縮器で凝縮された液体とを層分離し、アルコールを反応器に再循環させるデカンターと、を備えてもよい。
【0032】
上述したように、反応器が気液分離カラム、凝縮器、およびデカンターを備える場合、反応途中に気化するアルコールを再び液化させて反応器に再投入することで、反応の効率性および経済性を高めることができるとともに、エステル化反応の副産物である水を除去して反応が正反応側に進行するように、すなわち、高い転換率が達成されるようにすることができる。
【0033】
また、本発明が提供する製造システムにおける供給制御部は、設定された時間間隔に応じて、反応混合物の投入経路および投入流量の中から選択される1つ以上が変更されるように制御してもよい。
【0034】
本発明の製造システムにおける供給制御部は、N個の反応器が順次機能できるように反応混合物の投入経路および投入流量を決めなければならない。そこで、反応時間、総反応器の数、目的とする生産量などを考慮して決めた時間間隔を設定し、設定された時間間隔を周期として反応混合物の投入経路および投入流量を制御する場合、各反応器での反応が終了した後、反応生成物が全てまたはほぼ排出された時点で再び当該反応器への反応混合物の投入が始まることになり、全ての反応器を隙間なく運転することができ、工程の効率性を高めることができる。
【0035】
また、前記供給制御部において設定される時間間隔は、1個の反応器での反応時間をNで割った値の50%、60%、70%、80%、または90%以上であってもよく、150%、140%、130%、120%、または110%以下であってもよい。時間間隔を上述した範囲に設定する場合、反応器が運転されない損失を最小化することができる。
【0036】
一方、上述した反応時間は、反応に費やされる時間と、反応混合物の投入および反応生成物の排出に費やされる時間とを全て合算した値である。例えば、反応に30分の時間が費やされ、反応混合物の投入および反応生成物の排出にそれぞれ15分ずつが費やされる場合、前記反応時間は60分である。この場合、反応器が4個であると、各反応器に対する投入時間間隔は15分であり、15分ごとに各反応器に対する反応混合物の投入が始まる。
【0037】
エステル系組成物の製造方法
本発明は、多価カルボン酸およびアルキル炭素数が3~12のモノアルコールの1種以上をミキサーに投入して反応混合物を形成するステップ(S1)と、並列に連結されたN個の回分式反応器に前記反応混合物を順次投入して反応を行うことで、N個の回分式反応器での反応が順次完了して反応生成物が半連続的に製造されるステップ(S2)と、反応生成物が半連続的に分離ユニットに移動して未反応アルコールが除去されるステップ(S3)と、を含み、前記Nは3以上の整数である、エステル系組成物の製造方法を提供する。
【0038】
また、本発明は、前記エステル系組成物の製造方法において、前記N個の回分式反応器の圧力は、それぞれ独立して、前期圧力が0.3barg~1.0bargであり、後期圧力が0barg~0.5bargであり、前期圧力が後期圧力よりも大きく、前記前期および後期は、反応転換率が30%~90%である時点のうち何れか1つの時点を基準に区分される、エステル系組成物の製造方法を提供する。
【0039】
本明細書において、反応前期の場合、反応物を反応器に投入後に昇温を始める時点から前記転換率30%~90%の間の時点、好ましくは、30%~80%、40%~80%、または50%~80%のうち何れか1つの時点までを意味し、反応後期の場合、先に定義した1つの時点以後から反応が終結する時点までを意味し得る。この際、反応が終結したとは、反応物中の多価カルボン酸およびモノアルコールのうち限定反応物として用いられる物質の反応器内の残留量が投入量に対して1%以下のレベルに低下するか、または反応の転換率が少なくとも97%以上、好ましくは、98%以上または99%以上であることを意味し得る。これは、装置および設備条件に応じて、減圧、加圧、蒸留、抽出、濾過などの化学工学的な方法を介して任意に反応物を状況に合わせて処理可能であることを考慮したものであり、反応転換率が99%以上のレベルに達するように工程が設計されてこそ、効率性および製品の品質を担保可能であることを考慮したものである。
【0040】
混合ステップ(S1)
本発明の製造方法は、多価カルボン酸およびアルキル炭素数が3~12のアルコールの1種以上をミキサーに投入して反応混合物を形成するステップ(S1)を含む。
【0041】
具体的には、前記反応混合物を形成するステップ(S1)は、多価カルボン酸およびアルキル炭素数が3~12のアルコールの1種以上をミキサーで均一に混合するステップである。本ステップは、反応原料に該当する多価カルボン酸および炭素数が3~12のアルコールを反応器に投入する以前に、多価カルボン酸および炭素数3~12のアルコールをミキサーで予め均一に混合することで、前記原料を直接投入する場合に発生し得る反応器での不均一な反応を解決することができる。特に、本発明で用いられる反応器は回分式反応器であるため、このように予め反応原料を混合して反応器に投入しない場合、反応器内部の位置に応じて原料の不均一性が大幅に増加し得るし、反応器内部の撹拌が良好ではない場合には、特に一部の原料が蓄積され得るため、反応時間および転換率を均一に確保することに困難が発生し得る。これに対し、予め反応原料を混合して投入する場合には、反応器の全領域にわたって概して均一な反応程度を得ることができながらも、各反応器の反応速度を概して均一に維持して全体工程の安定性を確保することができる。
【0042】
本発明の製造方法において、前記S1ステップは、反応混合物を50~200℃、好ましくは60~190℃、より好ましくは70~180℃に昇温するステップをさらに含んでもよい。反応混合物はS1ステップ以後のS2ステップで昇温して反応が行われるため、S1ステップで予め反応混合物を昇温して反応器に投入する場合、反応器において容易で速く反応することができる。ただし、S1ステップで昇温させる温度が過度に低い場合には、予め昇温させて投入することに効果が少なく、過度に高い温度に昇温させて反応器に投入する場合には、反応原料である多価カルボン酸またはアルキル炭素数が3~12のモノアルコールの気化などが発生し、かえって均一な反応が進行できないことがある。
【0043】
反応ステップ(S2)
本発明のエステル系組成物の製造方法は、N個の回分式反応器に前記反応混合物を順次投入して反応を行うことで、N個の回分式反応器での反応が順次完了して反応生成物が半連続的に製造されるステップ(S2)を含む。
【0044】
従来の回分式反応器を用いた反応工程の場合、安定的に1回に多量の反応生成物を製造することができたが、反応原料が投入されるか、または反応生成物が排出される過程では、反応器が運転されないため、工程全体の効率性の面で良くないという短所があった。そこで、本発明の発明者は、複数の回分式反応器が順次用いられるようにすることで、回分式反応器の安定性をそのまま有しながらも、反応生成物が半連続的に製造できるようにした、エステル系組成物の製造方法を発明した。
【0045】
具体的に、本発明の製造方法のうちS2ステップはN個の回分式反応器に前記反応混合物を順次投入し、反応混合物が投入された各回分式反応器は昇温して反応を完了させ、反応が完了した各回分式反応器も反応生成物を順次排出する。
【0046】
例示的に、前記S2ステップは次のように行われてもよい。
1)ミキサーで均一に混合された反応混合物が第1反応器に投入され、一定量の反応混合物が投入完了した以後には第1反応器への投入が中断される。
【0047】
2)投入が中断された時点以後、第1反応器は昇温して反応を行い、ミキサーは第2反応器に反応混合物を投入する。
3)第2反応器に一定量の反応混合物が投入完了した以後、第2反応器への投入が中断される。この時点以後、第2反応器は昇温して反応を行い、ミキサーは第3反応器へ反応混合物を投入する。
【0048】
4)このようにしてN個の反応器が反応生成物を順次製造し、第N反応器への反応混合物の投入が完了した以後には、再び第1反応器に反応混合物を投入する。また、反応が完了して製造された反応生成物の場合もそれと同様に順次排出される。
【0049】
前記S2ステップにおいて、各反応器に対する投入間の時間間隔、すなわち、順次投入する際の時間間隔は、総反応時間を反応器の数で割った値の90~110%、好ましくは100%である。このような間隔で各反応器に対して反応混合物を投入する場合、各反応器での反応が終了した後、反応生成物が全てまたはほぼ排出された時点に再び当該反応器への反応混合物の投入が始まることになって全ての反応器を隙間なく運転することができ、工程の効率性を高めることができる。
【0050】
上述した反応時間は、反応に費やされる時間と、反応混合物の投入および反応生成物の排出に費やされる時間とを全て合算した値である。例えば、反応に30分の時間が費やされ、反応混合物の投入および反応生成物の排出にそれぞれ15分ずつが費やされる場合、前記反応時間は60分である。この場合、反応器が4個であると、各反応器に対する投入時間間隔は15分であり、15分ごとに各反応器に対する反応混合物の投入が始まる。
【0051】
本発明の製造方法において、前記S2ステップが行われるN個の各反応器は、反応中に圧力が制御される。
具体的に、前記N個の各反応器の圧力は、前期圧力が0.3barg~1.0bargであり、後期圧力が0barg~0.5bargである。ここで、圧力bargは、反応器のゲージ圧力であって、絶対圧力が考慮されていないものであり、0bargは、大気圧と同一の圧力を意味し得る。
【0052】
本発明の一実施形態に係る製造方法において、エステル化反応が行われる反応温度はモノアルコールの沸点以上の温度であって、反応が行われるにつれて、モノアルコールの一部は反応に参加せずに気化する量が存在するとともに、反応副産物として水が発生し、水はモノアルコールとともに共沸をなして反応器の上部に還流される。かかる還流過程はエステル化反応中に必然的に発生し、それをどのように制御するかに応じて反応生産性およびエネルギー効率性に多大な影響を及ぼし得る。
【0053】
このような反応環境において、反応前期に圧力を高めて加圧下でエステル化反応を行う場合には、気化するアルコールを或る程度反応器内の反応が起こるサイトに滞留するようにすることができ、これにより反応速度が速くなることができ、還流量が減ってエネルギー効率性を向上させることができる。
【0054】
本発明のように、反応前期に圧力を高めて加圧下で反応を行うが、その反応器の圧力を0.3barg~1.0bargに合わせる場合には、反応初期に発生するアルコールの気化を最大限抑制し、反応前期には反応器内に存在する水の量が少ないため、前述した問題がほぼ発生しない。
【0055】
しかしながら、0.3barg未満に圧力を設定すると、モノアルコールの還流を抑制する効果がほぼないため、相当の量のアルコールが気化して還流循環をすることになり、これは反応器から凝縮器および層分離器を循環しつつエネルギーを多量消費するという問題をもたらし、さらには、かかる還流循環により反応器内に存在することで、反応に参加すべきアルコールの絶対量の損失が発生して反応性を低下させ得る。これを挽回するためのアルコールの追加投入は、エネルギーの追加損失をもたらして悪循環が持続するという問題が発生し得る。
【0056】
また、1.0bargを超過するように圧力を設定すると、還流が最大限抑制され、アルコールが反応器に存在する量は多くなるが、それと同時に反応生成物として発生する生成水も多くなることにより、逆反応を誘導して一定レベルで可逆反応の状態に達することになり、そこで、正反応速度が顕著に低下するという問題を引き起こし得る。上記のような問題を防止し、反応速度の改善およびエネルギー効率性の向上の面で、反応前期の圧力は、0.3barg~1.0bargに制御されてもよく、好ましくは、0.4~1.0bargに制御されてもよく、より好ましくは、0.5~0.9bargまたは0.5~0.8bargに制御されてもよい。
【0057】
一方、上記のような加圧下での反応は、適正時点に解除される必要がある。反応過程中、加圧下でのみ反応を行う場合には、反応副産物である水が反応器内に滞留する時間が長くなり、水が除去されなければ正反応方向に反応がよく進行しないことがあるため、反応速度が低下し得る。また、触媒は水に敏感であるため、触媒が失活するという問題が発生し得る。このように、エステル化反応において反応圧力を制御することは、反応を改善する一方向に流れず、改善する部分と悪化する部分とが何れも共存することになる。
【0058】
これにより、加圧を解除する時点は、水の存在により発生する触媒の失活問題や逆反応活性化の問題を防止し、アルコールの還流量が多くなることにより反応速度が遅くなる問題を防止するという面で選択されることができ、その時点は、反応転換率が最小30%は過ぎた以後である必要があり、最大90%を越えないレベルで定められる必要がある。すなわち、反応前期と後期を分ける基準は、反応転換率が30%~90%の間の時点であり、好ましくは、30%~80%であってもよく、より好ましくは、40%~80%または50%~80%であってもよい。かかる転換率の時点に反応器の圧力が適正レベルに下がると、エネルギー節減および生産性向上の両方を全て達成できるという長所がある。
【0059】
この時点以後の反応後期の反応器の圧力は、0barg~0.5bargに下げて設定される。この際、反応後期の圧力は、反応前期の圧力よりは小さい圧力である必要があり、好ましくは、0barg~0.4bargであってもよい。反応後期の反応器の圧力は、少なくとも大気圧またはそれ以上高く設定されるが、反応前期の圧力よりは下げることに意味があり得る。このように加圧を反応後期に解除する場合には、一定量生成された水を除去するのに効果的であり、モノアルコールは超過量投入されるため、一定部分還流されても反応器内に残留するモノアルコール量は当量よりも高くなり得るため、水の除去がさらに有意味な影響を与え得る。また、反応後期に行くほど、触媒の役割が重要となり、水を持続的に除去しつつ触媒の失活を防止することも重要となり得る。
【0060】
一方、さらに、前記後期圧力は、反応が進行するにつれて次第に小さくなるように制御されてもよい。例えば、前期圧力から後期圧力への減圧以後、反応が進行するにつれて後期圧力が次第にさらに下がるように制御してもよく、この場合、圧力は、前述した0barg~0.5bargの範囲で次第に下がってもよい。より具体的に、反応後期の圧力は、0.4bargから始まり、0.2bargを経て、常圧まで下がるように制御されてもよい。このように圧力がさらに下がるように制御する場合、相対的に加圧の必要性が低下する反応後半部に圧力を下げることで、工程の安定性を図ることができるという長所がある。
【0061】
一方、本発明の一実施形態によると、前記エステル系組成物の製造に投入される原料は、前述したように多価カルボン酸およびモノアルコールであり、これらは、理論上、カルボキシル基1モルに対してヒドロキシ基1モルのモル比率で反応する。より具体的に、多価カルボン酸がジカルボン酸である場合には、ジカルボン酸とモノアルコールは1:2のモル比率で、多価カルボン酸がトリカルボン酸である場合には、トリカルボン酸とモノアルコールは1:3のモル比率で反応する。これにより、投入される原料としてカルボン酸とモノアルコールの理論投入量は、2価~4価のカルボン酸を基準として1:2~1:4のモル比であってもよい。
【0062】
このモル比率は、反応に必要な最小量を満たす範囲であり、過度な量のアルコールの投入により発生する不要な還流に応じたエネルギー損失を防止し、反応の転換率の達成および最小限の滞留時間の制御の面で必要なアルコール超過量を考慮すると、前記モノアルコールは、多価カルボン酸当量に対して20モル%~100モル%超過投入されてもよい。本発明において、モノアルコールが多価カルボン酸当量に対して超過投入されるとは、多価カルボン酸の全量を反応させるために必要なモノアルコールの量、すなわち、当量(equivalent)に対してモノアルコールが超過投入されることを意味する。より具体的に、例えば、モノアルコールが多価カルボン酸当量に対して60モル%超過投入されるとは、モノアルコールが当量の160モル%で投入されることを意味する。本発明において、超過投入されるモノアルコールの量は、多価カルボン酸当量に対して20モル%以上、30モル%以上、40モル%以上、または50モル%以上であってもよく、100モル%以下、90モル%以下、80モル%以下、または70モル%以下であってもよい。モノアルコールの超過投入量が上述した範囲内である場合、上記のような圧力制御に応じた効果が極大化することができる。具体的には、本発明の製造方法を適用するにおいて、超過投入されるモノアルコールの量が多価カルボン酸当量に対して20モル%~40モル%である場合には、エネルギー使用量の改善が極大化することができ、40モル%~100モル%である場合には、生産性の改善もさらに極大化することができる。
【0063】
また、前記モノアルコールは、過量投入されるため、反応開始以前に投入されること以外には、反応途中にも追加投入されてもよい。したがって、本発明の製造方法は、前記モノアルコールを反応中に追加投入するステップ(Sa)をさらに含んでもよい。モノアルコールを反応開始以前に全量投入せず、反応途中の適正な時点に分けて投入する場合、反応初期に過量投入されたアルコールを加熱するために用いられる不要なエネルギーを減らすことができるという長所がある。ただし、このようにアルコールを分けて投入する場合、全量を反応開始以前に投入する場合と比べて初期アルコールの量が相対的に少ないため、初期反応速度は、全量を反応開始時点に投入する場合と比べて低下し得る。したがって、反応速度およびエネルギー使用量のバランスを考慮して、モノアルコールの反応途中での追加投入可否およびその量を決めることが好ましい。
【0064】
モノアルコールを反応中に追加投入する場合、その時点は、転換率20%以上または30%以上であり、60%以下または50%以下である時点であってもよい。過度に早い時点でモノアルコールを追加投入する場合には、前述したモノアルコールの追加投入の利点を享受することができず、過度に遅れた時点でモノアルコールを追加投入する場合には、既に残存する多価カルボン酸が少ないため、モノアルコールの追加投入に応じた反応速度の改善効果が微々たるものであり得る。
【0065】
このような反応器の圧力制御および選択的にアルコールの超過投入量の制御により、反応速度を改善し、転換率が最大値に達する時間を短縮して生産性を改善することができ、エネルギー消費量を最小化することで、工程の効率性も図ることができ、上記のような圧力制御およびアルコールの超過投入量の制御は、N個の回分式反応器でそれぞれ独立して行われてもよい。
【0066】
本発明の製造方法において、前記S2ステップは、反応器への反応混合物の投入、昇温および反応、反応生成物の排出が同時に行われるため、複数の反応器のうち少なくとも1つは反応混合物の投入を受け、他の少なくとも1つの反応器は反応を行い、これとは異なるまた他の少なくとも1つの反応器は反応生成物を排出しなければならない。したがって、前記Nは3以上の整数であることが好ましい。
【0067】
特に、前記Nは3~10の整数、3~7の整数、または3~5の整数であってもよい。反応器の数が過度に多い場合には、順序に合わせて各反応器に反応混合物が投入され、各反応器から反応生成物が排出されるように制御するための制御部をはじめとして、多様で多くの追加装置が必要であるだけでなく、1器の反応器の単位反応時間が反応器に投入される原料の投入時間および反応生成物の排出時間の総和よりも短くなり得るため、反応器が原料の投入を受ける前まで作動しない時間が発生することになり、その結果、生産性に悪影響を及ぼし得る。また、各反応器の配置に必要な空間も過度になり、工程全体の費用の面で効率的でないことがある。
【0068】
本発明の製造方法のうち前記S2ステップにおいては、多価カルボン酸およびアルキル炭素数が3~12のモノアルコールのエステル化反応が行われる。エステル化反応は、アルコールのヒドロキシ基と多価カルボン酸のカルボン酸基が反応してエステル結合を形成する反応を指し、前記S2ステップのエステル化反応は、120~250℃であってもよく、好ましくは、140~230℃であってもよく、より好ましくは、150~230℃であってもよい。S2ステップにおいて、昇温する温度がこれよりも低い場合には、反応に必要なエネルギーが十分に供給されないため十分な程度の反応が進行することができず、これよりも高い場合には、前述のS1ステップのように反応途中に反応混合物成分の気化などが発生し、十分な量の反応生成物が生成されないことがある。
【0069】
分離ステップ(S3)
また、本発明の製造方法は、反応生成物が半連続的に分離ユニットに移動して未反応アルコールが除去されるステップ(S3)を含む。
【0070】
具体的には、前記S3ステップは、N個の回分式反応器それぞれで製造された反応生成物が半連続的に分離ユニットに移動し、その後、分離ユニットで未反応アルコールが除去されるステップである。前述したように、N個の回分式反応器への反応混合物の投入が順次的であってもよいことと同様に、各反応器で製造された反応生成物の排出も順次的であってもよく、半連続的であってもよい。
【0071】
前記S3ステップで用いられる分離ユニットは、1つ以上の分離カラムを含んでもよい。本発明の製造方法中、分離ユニットに含まれる分離カラムのステージ(stage)数に応じて最終的に製造される組成物の組成比を変化させることができ、通常の技術者であれば、製造しようとする組成物の組成比や特性に応じて、分離ユニットに含まれる分離カラムのステージ数を適宜調節することができる。また、前記分離ユニットは、分離カラムの他に、ドラムタイプの精製槽を含んでもよい。前記分離ユニットは、反応生成物に含まれている未反応アルコールの量を全体の30%以下、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下のレベルに除去してもよい。未反応アルコールをこのように除去することで、製造されるエステル系組成物の物性が均一および優れることができる。
【0072】
前記分離カラムは、通常、連続的に運転されることが生産管理の面で有利であり、このために、各反応器から排出される反応生成物が分離カラムに投入される以前にタンクのような設備にて一時滞留してもよい。前記設備において、未反応アルコールを含む反応生成物は、0.1~10時間のレベルで滞留してもよく、前記分離カラムに反応生成物を安定的および連続的に供給可能な範囲内であれば、このような設備大きさの制限はない。
【0073】
触媒添加ステップ(S1-1、S1-2、および/またはS2a)
本発明の製造方法は、前記S1ステップとS2ステップとの間に反応混合物に触媒を添加するステップ(S1-1)、前記S1ステップ以前に多価カルボン酸またはモノアルコールに触媒を添加するステップ(S1-2)、および前記S2ステップのN個の回分式反応器それぞれに触媒を添加するステップ(S2a)からなる群から選択された1つ以上のステップをさらに含んでもよい。
【0074】
前記S1-1、S1-2、およびS2aステップは、触媒の投入に関する製造ステップであって、触媒投入をミキサーで投入するか、反応原料と混合して投入するか、または回分式反応器に投入してもよく、この中から選択された何れか1つ以上のステップが行われ、反応系内に触媒が投入されてもよい。触媒は任意のステップで投入され得るが、S2aステップの場合、触媒との副反応の防止の面で利点があり、投入される原料アルコールに直接投入する場合、工程全体的な効率性の面で利点があり得る。また、S1-1ステップまたはS1-2ステップで触媒を添加し、S2aステップでさらに添加する場合、反応途中に反応器に触媒を添加することも可能である。このように触媒を投入する場合、反応途中に一部の触媒が失活して反応性が低下するという問題を改善することができる。
【0075】
本発明の製造方法で用いられる触媒は、硫酸、塩酸、リン酸、硝酸、パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ブタンスルホン酸、アルキル硫酸などの酸触媒、乳酸アルミニウム、フッ化リチウム、塩化カリウム、塩化セシウム、塩化カルシウム、塩化鉄、リン酸アルミニウムなどの金属塩、ヘテロポリ酸などの金属酸化物、天然/合成ゼオライト、カチオンおよびアニオン交換樹脂、テトラアルキルチタネート(tetra alkyl titanate)およびそのポリマーなどの有機金属の中から選択された1種以上であってもよく、好ましくは、テトラアルキルチタネートであってもよい。前記テトラアルキルチタネートとしては、TiPT、TnBT、TEHTなどが使用可能である。このようにテトラアルキルチタネートを触媒として用いる場合、以後の工程で発生し得る触媒副産物を制御または発生させないため好ましい。
【0076】
触媒の使用量は、種類に応じて異なってもよく、一例として、均一触媒の場合は、投入される多価カルボン酸の総100重量部に対して0.01~5重量部、0.01~3重量部、0.1~1重量部、0.1~0.5重量部、または0.1~0.3重量部の範囲内、そして不均一触媒の場合は、投入される多価カルボン酸の総100重量部に対して5~200重量部、5~100重量部、20~200重量部、または20~150重量部の範囲内であってもよい。触媒の使用量が過度に少ない場合には、触媒活性自体が少ないため反応が円滑に進行せず、触媒の使用量が過度に多い場合には、触媒費用が増加するだけでなく、過度な触媒がかえって逆反応を招いて最終転換率が下がるという問題が発生し得る。
【0077】
トランス反応ステップ(S4)
本発明の製造方法は、未反応アルコールが除去された反応生成物にアルキル炭素数3~12のモノアルコールを投入してトランス-エステル化反応させるステップ(S4)をさらに含んでもよく、前記ステップで投入されるアルコールは、S1ステップで投入されるアルコールとは異なる。
【0078】
前記S4ステップを介して2種類以上のエステル化合物が含まれる組成物を製造することができ、通常の技術者であれば、組成物に含まれるべきエステル化合物の種類に応じて、適切なアルコールを選択してトランス-エステル化反応させることができる。前記S4ステップは未反応アルコールの除去以後に行われることが好ましく、仮に未反応アルコールの除去以前にS4ステップが行われる場合、未反応アルコールの残存により、新たに投入されたアルコールとのトランス-エステル化反応が容易ではなく、反応が一定部分進行してもアルコールの含量が多いため反応の効率が低下し得る。したがって、前記トランス-エステル化反応以前の反応生成物に含まれる未反応アルコールの量は、10%以下であることが好ましい。
【0079】
実施例
以下、実施例によって本発明をさらに詳しく説明する。ただし、下記の実施例は本発明を例示するためのものであって、これらのみに本発明の範囲が限定されるものではない。
【0080】
材料および設備
多価カルボン酸としてはフタル酸、モノアルコールとしては2-エチルヘキサノール、触媒としてはテトラブチルチタネートを用いた。反応を行うための製造システムとしては、本発明の
図1に示される製造システムを用い、製造システム内の回分式反応器の数は3器とした。
【0081】
実施例および比較例
前述した材料および設備を用いてフタル酸および2-エチルヘキサノールのエステル化反応を行った。各実施例および比較例においては、3個の反応器に対して同一に特定の時点を基準として加圧および/または加圧解除を行うか、または2-エチルヘキサノールまたは触媒を追加投入するなどの制御を行い、制御される条件に応じて実施例および比較例をグループ別に分けて以下に整理した。一方、本実施例および比較例において、超過投入されるアルコールの量は、フタル酸当量に対して超過投入される2-エチルヘキサノールのモル%に該当する値であって、例えば、フタル酸100モルに対して2-エチルヘキサノールが320モル投入される場合、2-エチルヘキサノールは、当量である200モルに対して120モルがさらに投入されたものであるため、この場合、超過投入されるアルコールの量は、120/200*100モル%=60モル%である。そして、触媒は、投入されたフタル酸に対して0.23重量%で投入した。また、本実施例および比較例において、加圧解除時点は、反応開始時点から経過した時間を意味し、表中に空欄に記された領域は、測定を省略したことを意味する。なお、各実施例および比較例に対して測定された反応器の内部温度および転換率は、3器の反応器のうち任意の1器の反応器に対して測定および計算された値である。
【0082】
グループ1.加圧および加圧解除制御に応じた効果の確認
フタル酸および2-エチルヘキサノールと、触媒としてテトラブチルチタネートを回分式反応器に投入し、回分式反応器を加熱しつつエステル化反応を行った。各場合において、超過投入されるアルコールの量を調節するか、初期反応圧力を高めて進行するか、または加圧解除時点を調節するなどの操作を行い、具体的な条件を下記のように整理した。
【0083】
【0084】
前記表1の比較例、実施例、および参考例において、時間の経過に応じた反応器の内部温度を表2に、転換率を表3に整理した。一方、転換率は、各時間までの累積生成水の質量を測定した後、測定された累積生成水の質量を100%転換率の達成時に生成される理論的な生成水の質量で割って計算し、本格的に生成水が確認される時点である反応開始以後120分の時点から測定および計算した。
【0085】
【0086】
【0087】
前記表2および3に示されたように、加圧下で反応を開始するが、転換率が約50%の時点に加圧を解除するかまたは減圧した実施例1-1および1-2の場合、比較例および参考例と比べて早い時点に高い転換率が達成され、最終転換率が達成された時点における反応器の内部温度も理想的な温度範囲である210~230℃の範囲内に含まれており、反応を行う間にエネルギー損失が最小化されることを確認することができる。
【0088】
これに対し、加圧を全く行っていない比較例1-1の場合、反応途中に多い量のアルコールが気化することにより実施例と比べて転換率が遅く上昇し、最終転換率においても実施例と比べて低い値を示した。これは、気化したアルコールの相当部分が再び反応に参加することができずに原料の損失が発生し、これにより、目的とするエステル系化合物が充分に生成されないことを意味する。また、加圧を行うが、反応途中に減圧することなく反応終了時まで加圧を維持した比較例1-2の場合、気化したアルコールを加圧して液化後に再び反応に参加させることにより、比較例1-1よりは転換率が速く上昇したが、フタル酸が或る程度消費された反応中半以後にも液化するアルコールの量が相対的に多く維持されることにより、反応器の内部温度が好ましい範囲よりも高くなるという問題が発生した。これは、最終転換率の達成時に得られる製品の品質を低下させる要因として作用し得る。
【0089】
この他、アルコールを過量投入せずに当量に合わせて投入し、加圧後に減圧する操作を行っていない参考例1-1および1-2の場合は、反応途中にアルコールの気化が多量発生して反応に参加可能なアルコールの量が不足しており、転換率が一定値以上に増加せずに停滞することを確認した。これは、目的とする反応が十分に達成されないことを意味するものであって、本発明で行われるエステル化反応においては、十分な転換率を達成するためにアルコールが過量投入されなければならないことを反証する。
【0090】
グループ2.触媒の追加/分割投入量に応じた効果の確認
前記グループ1の実施例と同様に行うが、グループ1の実施例で最初に投入された触媒の量(フタル酸に対して0.23重量%)を100%とする際、前記100%の触媒投入量に加え、その後に触媒を追加投入するか、または前記100%の触媒を分けて投入する操作をさらに行った。各場合に対する具体的な条件を下記表4に整理した。
【0091】
【0092】
また、以前のグループ1と同様に、前記表4の実施例における、時間の経過に応じた反応器の内部温度および転換率を表5に整理した。
【0093】
【0094】
前記表5から確認できるように、触媒を追加投入した実施例2-1~2-3は、何れも高い最終転換率を示した。また、同一条件で触媒を100%追加投入するか、または200%追加投入した実施例2-1および2-2を比較すると、180分に100%の触媒を1回のみ追加投入した実施例2-1の方がさらに速い時間に高い転換率が達成された。これは、120分および240分にそれぞれ100%の触媒を追加投入した実施例2-2の場合、過量投入された触媒により必要以上の反応が活性化し、これが反応器の内部温度の上昇につながり、かえって実施例2-1よりも遅れて転換率が上昇したものと予想される。また、同一時点で減圧するが、触媒を追加投入した実施例2-3と触媒を分割投入した実施例2-4を比較すると、反応器の内部温度は類似の傾向で上昇したが、触媒をさらに多く投入した実施例2-3の方がさらに高い最終転換率を示すものと確認された。これは、触媒投入量の増加が転換率の改善につながることができることを意味する。ただし、前述した実施例2-1および実施例2-2の比較から確認できるように、過度な触媒投入量の増加は、かえって良くない影響を及ぼし得るため、適切な範囲内で触媒投入量が決められる必要がある。
【0095】
グループ3.アルコール投入量に応じた効果の確認
前記グループ1の実施例と同様に行うが、超過投入されるアルコールの量を調節し、100%に該当する触媒を反応途中に追加投入して行った。各場合に対する具体的な条件を下記表6に整理した。
【0096】
【0097】
また、以前のグループ1と同様に、前記表6の実施例における、時間の経過に応じた反応器の内部温度および転換率を表7に整理した。
【0098】
【0099】
前記表7に示されたように、同一の条件下でアルコール投入量のみを調節した場合、さらに多いアルコールが投入されるほど、反応に参加するアルコールが多くなるため、速く転換率が上昇することを確認することができる。ただし、さらに多いアルコールが投入されるほど、過投入されたアルコールの加熱に消費されるエネルギー使用量が多くなるため、目標とする反応完了時間およびエネルギー使用量などを考慮して、本発明の範囲内で適切なアルコール投入量を決めることが好ましい。
【0100】
グループ4.アルコールおよび触媒の追加投入に応じた効果の確認
前記グループ1の実施例と同様に行うが、過量投入されるアルコールのうち一部を反応途中に投入し、触媒も反応途中に追加投入して行った。各場合に対する具体的な条件を下記表8に整理した。
【0101】
【0102】
また、以前のグループ1と同様に、表8の実施例における、時間の経過に応じた反応器の内部温度および転換率を表9に整理した。
【0103】
【0104】
前記表9に示されたように、超過投入されるアルコールを反応開始以前に全て投入せずに、反応途中に投入しても、反応開始時点に加圧し反応途中に加圧を解除する本発明の製造方法を用いると、高い転換率で目的とするエステル系物質を製造可能であることを確認した。
【0105】
グループ5.後期圧力の追加制御に応じた効果の確認
前記グループ1の実施例と同様に行うが、前期圧力から後期圧力に減圧させる操作以後、後期圧力を追加減圧する操作をさらに行った。各場合に対する具体的な条件を下記表10に整理した。
【0106】
【0107】
具体的に、前記実施例5-1は、270分に圧力を0.8bargから0.4bargに下げた後、330分に圧力を0.2bargにさらに下げ、390分に圧力を常圧に下げたものである。また、前記実施例5-1は、200%の触媒のうち100%は反応開始時点に、残りの100%は反応開始以後270分の時点に投入したものである。
【0108】
また、以前のグループ1と同様に、表10の実施例における、時間の経過に応じた反応器の内部温度および転換率を表11に整理した。
【0109】
【0110】
前記表11に示されたように、反応後期の圧力を一度に下げずに徐々に下げる方式で制御する場合にも、反応後期の圧力を一度に下げる場合と類似に高い転換率を得ることができることを確認した。また、このように圧力を徐々に変化させる場合、一度に圧力を変化させる場合と比べて工程の安定性を有することができるという利点がある。
【符号の説明】
【0111】
1:ミキサー
11:多価カルボン酸の投入経路
12:アルコールの投入経路
13:触媒の投入経路
2:供給制御部
3:反応ユニット
31~3N:各回分式反応器(総N個)
4:分離ユニット
41:未反応アルコールが除去されたエステル系組成物の移動経路
42:除去された未反応アルコールの移動経路
5:トランス反応ユニット
51:12に投入されるアルコールとは異なるアルコールの投入経路
52:トランス-エステル化反応を経たエステル系組成物の移動経路
【国際調査報告】