(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-16
(54)【発明の名称】ポリシラザン-ポリブタジエンハイブリッドコーティング組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 183/04 20060101AFI20230808BHJP
C09D 109/00 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
C09D183/04
C09D109/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023504592
(86)(22)【出願日】2021-07-26
(85)【翻訳文提出日】2023-01-23
(86)【国際出願番号】 EP2021070782
(87)【国際公開番号】W WO2022023234
(87)【国際公開日】2022-02-03
(32)【優先日】2020-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591032596
【氏名又は名称】メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D-64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】グロッテンミュラー ラルフ
(72)【発明者】
【氏名】ネル セルゲイ
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CA021
4J038DL031
4J038GA03
4J038GA15
4J038MA14
4J038NA03
4J038NA04
4J038NA11
4J038NA12
(57)【要約】
【課題】本発明は、種々の母材基板上に機能性表面コーティングを作製するための新規コーティング組成物に関する。
【解決手段】コーティング組成物は、シラザンポリマーと特定の官能化ブタジエンポリマーとをベースとするポリシラザン-ポリブタジエンハイブリッドコーティング組成物である。当該コーティング組成物は、物理的及び/又は化学的表面特性の向上をもたらすために種々の母材基板上に機能性表面コーティングを作製するのに特に適している。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)シラザンポリマー;及び
(ii)ブタジエンポリマー;
を含むコーティング組成物であって、
前記ブタジエンポリマーは、置換又は非置換1,3-ブタジエンモノマーから誘導される1つ又は複数の反復単位と、-OH又は-Si(OR)
3から選択される1個又は複数個の官能基とを含み、Rは、H、アルキル、アリール又はアラルキルから選択される、
コーティング組成物。
【請求項2】
Rは、H、1~10個の炭素原子を有するアルキル、2~10個の炭素原子を有するアリール、又は3~20個の炭素原子を有するアラルキルから選択される、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項3】
置換又は非置換1,3-ブタジエンモノマーから誘導される前記反復単位は、式(I)、式(II)又は式(III)で表され:
-[CH
2-CX
I=CH-CH
2-] 式(I)
-[CH
2-CX
II(CH=CH
2)-] 式(II)
-[CH
2-CH(CX
III=CH
2)-] 式(III)
上式で、X
Iは、H、ハロゲン又は1~5個の炭素原子を有するアルキルであり;X
IIは、H、ハロゲン又は1~5個の炭素原子を有するアルキルであり;X
IIIは、ハロゲン又は1~5個の炭素原子を有するアルキルである、
請求項1又は2に記載のコーティング組成物。
【請求項4】
前記ブタジエンポリマーは、置換又は非置換1,3-ブタジエンモノマーから誘導される第1及び第2の反復単位を含み、前記第1の反復単位は式(I)で表され、前記第2の反復単位は式(II)で表され:
-[CH
2-CX
I=CH-CH
2-] 式(I)
-[CH
2-CX
II(CH=CH
2)-] 式(II)
上式で、X
I及びX
IIは同一であり、H、ハロゲン及び1~5個の炭素原子を有するアルキルから選択される、
請求項1又は2に記載のコーティング組成物。
【請求項5】
前記ブタジエンポリマーは、1つ又は複数の更なる反復単位を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項6】
前記更なる反復単位は、式(IV)で表され:
-[CH
2-CHR
a-] 式(IV)
上式で、R
aは、シアノ、アルキル、アリール又はアラルキルから選択され、ここでアルキル、アリール又はアラルキルは1個又は複数個の置換基で置換されていてもよい、
請求項5に記載のコーティング組成物。
【請求項7】
前記ブタジエンポリマーは、式(I)、式(II)又は式(III)で表される置換又は非置換1,3-ブタジエンモノマーから誘導される1つ又は複数の反復単位と、式(IV)で表される1つ又は複数の更なる反復単位とを含み:
-[CH
2-CX
I=CH-CH
2-] 式(I)
-[CH
2-CX
II(CH=CH
2)-] 式(II)
-[CH
2-CH(CX
III=CH
2)-] 式(III)
-[CH
2-CHR
a-] 式(IV)
上式で、X
Iは、H、ハロゲン又は1~5個の炭素原子を有するアルキルであり;X
IIは、H、ハロゲン又は1~5個の炭素原子を有するアルキルであり;X
IIIは、ハロゲン又は1~5個の炭素原子を有するアルキルであり;R
aはシアノ、アルキル、アリール又はアラルキルから選択され、ここでアルキル、アリール又はアラルキルは1個又は複数個の置換基で置換されていてもよい、
請求項1又は2に記載のコーティング組成物。
【請求項8】
前記シラザンポリマーは、式(I)で表される反復単位M
1を含み、
-[SiR
1R
2-NR
3-] 式(1)
上式で、R
1、R
2及びR
3は同一又は互いに異なり、H、有機基、又はヘテロ有機基から独立して選択される、
請求項1~7のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項9】
前記シラザンポリマーは、式(2)で表される反復単位M
2を更に含み:
-[SiR
4R
5-NR
6-] 式(2)
上式で、R
4、R
5及びR
6は同一又は互いに異なり、H、有機基、又はヘテロ有機基から独立して選択される、
請求項8に記載のコーティング組成物。
【請求項10】
前記組成物が、1つ又は複数の溶媒を更に含む、請求項1~9のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項11】
前記組成物が、1つ又は複数の添加剤を更に含む、請求項1~10のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項12】
コーティングされた物品を作製する方法であって、
(a)請求項1~11のいずれか一項に記載のコーティング組成物を物品の表面に適用するステップ;及び
(b)前記コーティング組成物を硬化させてコーティングされた物品を得るステップ
を含む、方法。
【請求項13】
ステップ(a)で適用される前記コーティング組成物が、シラザンポリマーを含む第1の成分とブタジエンポリマーを含む第2の成分とを混合することによって事前に用意され、前記シラザンポリマー及び前記ブタジエンポリマーは、請求項1~11のいずれか一項に記載のように定められる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
請求項12又は13に記載の方法によって得られるコーティングされた物品。
【請求項15】
母材表面に機能性コーティングを形成するための、請求項1~11のいずれか一項に記載のコーティング組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シラザンポリマーと特定の官能化ブタジエンポリマーとをベースとするポリシラザン-ポリブタジエンハイブリッドコーティング組成物に関する。本コーティング組成物は、物理的及び/又は化学的表面特性の向上、具体的には、機械抵抗及び耐久性の向上(表面硬度の向上、耐引っかき性の向上、及び/又は耐摩耗性の向上など);濡れ性及び接着性の向上(疎水性及び疎油性、清掃しやすい効果、及び/又は落書きしにくい効果など);耐薬品性の向上(耐食性(例えば、溶媒、酸性及びアルカリ性媒体、並びに腐蝕性ガスに対する)の向上及び/又は抗酸化効果の向上など);並びに物理的バリア又はシール効果の向上などをもたらす、様々な母材基板への機能性表面コーティングの作製に特に好適である。その上、本発明のコーティング組成物から作製した機能性表面コーティングは、特に良好な可撓性を示し、それにより最大50μmの高い層厚を有するクラックフリーコーティングが可能になる。
更に、本発明によるコーティング組成物から作製される機能性コーティングによって、更なる有益な表面特性、例えば帯電防止効果、防汚効果、耐指紋効果、防汚効果、抗菌効果、及び/若しくは平滑効果などを得る、又は更に向上させる可能性がある。
更に、本コーティング組成物は様々な基板表面に対する高い接着性を示し、かつ使いやすいコーティング方法で容易に適用できることから、温和な条件で効率良く簡単に、様々な膜厚の機能性表面コーティングが得られる可能性がある。
また本発明は、上記コーティング組成物を用いたコーティングされた物品を作製する方法、及び上記方法で作製されるコーティングされた物品にも関する。更に、母材表面に機能性コーティングを形成することにより、前述した特定の表面特性の1つ又は複数を向上させるための上記組成物の使用も提供する。
【背景技術】
【0002】
シラザン反復単位-[SiR2-NR’-]を有するポリマーは、通常ポリシラザンと呼ばれる。置換基R及びR’が全て水素であれば、その材料はペルヒドロポリシラザン(PHPS)と呼ばれ、RとR’の少なくとも1つが有機部分であれば、その材料はオルガノポリシラザン(OPSZ)と呼ばれる。PHPS及びOPSZは、ある種の特性、例えば落書きしにくい効果、耐引っかき性、耐食性、又は疎水性及び疎油性などを表面に与える各種機能性コーティングに使用される。そのためシラザンは様々な用途の機能性コーティングに幅広く用いられている。
ポリシラザンは1つ又は複数の異なるシラザン反復単位からなり、一方ポリシロキサザンは1つ又は複数の異なるシロキサン反復単位を追加的に含む。ポリシロキサザンはポリシラザンとポリシロキサンの化学作用と挙動の特徴を併せ持っている。ポリシラザンとポリシロキサザンは、様々な用途の機能性コーティングの作製に用いられる樹脂である。
一般にポリシラザンとポリシロキサザンはともに液状ポリマーであり、分子量がおよそ10,000g/モルを超えると固体になる。大抵の用途において、適度な分子量(一般に2,000~8,000g/モル)の液状ポリマーが使用される。そのような液状ポリマーから固形コーティングを作製するには硬化ステップが必要であり、硬化ステップは純物質又は調合物である材料を基板に適用した後に実施される。
ポリシラザン又はポリシロキサザンは、加水分解によって、例えば、空気中の水分との反応によって架橋し得る。これは分子量の増大、及び材料の固化又は硬化を招く。このため、「硬化」及び「架橋」、並びに対応する動詞「硬化する」及び「架橋する」は、本明細書において、例えばポリシラザン及びポリシロキサザンなどのシラザンベースのポリマーに言及する際、同義語として同じ意味で使用される。通常、硬化は周囲条件又は高温で加水分解によって行われる。硬化ポリシラザンは、卓越した接着性、高い硬度、及び良好な耐引っかき性を示す。
【0003】
ポリシラザンベースのコーティングの固有の特性の1つは、全硬化後の高い架橋密度である。結果として、かかるコーティングは高いバリア特性(これは腐食保護において重要である)を有し、硬く、耐引っかき性であるが、避けられない欠点として、コーティングは脆い膜である。従って、温度などの条件に応じて約5μmを超え10μmまでの限られた膜厚のみが、クラック形成なく可能である。他のプラスの効果を損なうことなく上記の膜厚制限を克服するために、ポリシラザンと他の非シラザン材料とから作製されたハイブリッド材料が開発された。ハイブリッド材料は、ポリシラザンと非シラザン化合物との単純な混合物として、又は化学的に反応した系として、のいずれかで理解されるべきである。
例えば、ポリシラザンと、ポリアクリレート、(ブロック)イソシアネート、エポキシド、オリゴマー性若しくはポリマー性フェノール化合物又はフッ素化ポリマーとをベースとする種々のハイブリッド材料が先行技術に記載されている。上記に関して、R.Grottenmuller,A.Zych,”UV Curable Silazane Resins And Their Applications”,Prior Art Publishing 2019,priorartregister.com,DOI:10.18169/PAPDEOTT008242;国際公開第2020/120006号(A1);未公開欧特許出願第20170454.1号明細書;及び未公開PCT出願PCT/EP2020/058120を参照されたい。
【0004】
加えて、ポリシラザンをベースとする、他の更に複雑なハイブリッド材料が公知である。例えば、中国特許出願公開第108410177号(A)明細書は、耐破壊性かつ耐老化性のケーブルシースを記載しており、当該シースは、シリコーンゴム、クロロプレンゴム、ブタジエン-アクリロニトリルゴム、ナノ二酸化ケイ素、酸化亜鉛、ホワイトカーボンブラック、ポリシラザン及び種々の添加剤から作製される。上記の耐破壊性かつ耐老化性のケーブルシースは、屋外環境条件下で、改善されたゴム特性、改善された耐老化及び耐破壊特性、並びに改善された耐用年数を有すると述べられている。
しかし、公知のハイブリッド材料から作製したコーティングは、改善された耐酸性、改善された可撓性又は改善された耐腐食性などの高度な特性を示すが、高い機械的耐性と耐久性、高い化学的耐性とクラック形成なく作製できる最大50μmの高い膜厚の組み合わせに関して、最新の高性能機能性コーティングの要求事項を満たさない。従って、公知のハイブリッド材料から作製したコーティングの欠点は、その限られた可撓性と、クラック形成のない膜厚である。更なる欠点は、公知のハイブリッド系は、多くの場合、曇りのあるコーティング膜を与え、塗り付け、浸漬コーティング、スプレーコーティング、スピンコーティングなどの従来コーティング法で適用したときに、不十分な結果を示すことである。
【発明の概要】
【0005】
従って、本発明の目的は、先行技術の欠点を克服し、物理的及び/又は化学的表面特性の向上、具体的には、機械抵抗及び耐久性の向上(表面硬度の向上、耐引っかき性の向上、及び/又は耐摩耗性の向上など);濡れ性及び接着性の向上(疎水性及び疎油性、清掃しやすい効果、及び/又は落書きしにくい効果など);耐薬品性の向上(耐食性(例えば、溶媒、酸性及びアルカリ性媒体、並びに腐蝕性ガスに対する)の向上及び/又は抗酸化効果の向上など);並びに物理的バリア又はシール効果の向上などをもたらす、様々な母材基板への機能性表面コーティングの作製に特に好適な新規コーティング組成物を提供することである。
加えて、例えば帯電防止効果、防汚効果、耐指紋効果、防汚効果、及び/若しくは平滑効果などの有益な表面特性を得ること、又は更に向上させることが望ましい。
更に、本発明の目的は、上述の利点に加え、様々な基板表面に対する高い接着性を示し、かつ使いやすいコーティング方法で容易かつ問題なく適用でき、その結果、作製されたコーティング膜の望ましくない曇りを避けながら、温和な条件で効率良く簡単に、高膜厚の機能性表面コーティングを得ることができる新規コーティング組成物を提供することである。
その上、本発明の目的は、特に良好な可撓性を示し、それにより最大50μmの高い層厚を有するクラックフリーコーティングを可能にする機能性コーティングの作製が可能なコーティング組成物を提供することである。
本発明の更なる目的は、コーティングされた物品を作製する方法、及び上記方法で作製される前述の利点を示すコーティングされた物品を提供することである。
最後に、本発明の目的は、前述の表面特性のうちの1つ以上、特に表面硬度及び耐引っかき性耐食性を向上させるために様々な母材上に機能性表面コーティングを形成するのに使用でき、かつ特に良好な可撓性を示し、それにより最大50μmの高い層厚を有するクラックフリーコーティングの作製を可能にする、コーティング組成物を提供することである。
【0006】
本発明者らは、驚くべきことに、シラザンポリマーと特定の官能化ブタジエンポリマーとをベースとするコーティング組成物が、両方の材料特性の好ましい組み合わせ、即ち、一方では表面硬度及び耐引っかき性、他方では当該組成物から作製した表面コーティングの可撓性及びクラックフリー性を示すことを見出した。これは、最大50μmの高い層厚を有するクラックフリー機能性表面コーティングの作製を可能にする。
【0007】
これを考慮して、本発明者らは、驚くべきことに、上記課題が、
(i)シラザンポリマー;及び
(ii)ブタジエンポリマー;
を含むコーティング組成物であって、
ブタジエンポリマーは、置換又は非置換1,3-ブタジエンモノマーから誘導される1つ又は複数の反復単位と、-OH又は-Si(OR)3(RはH、アルキル、アリール又はアラルキルから選択される)から選択される1個又は複数個の官能基とを含む、コーティング組成物によって、個別に又は任意の組み合わせで解決されること見出した。
加えて、コーティングされた物品を作製する方法が提供され、当該方法は、
(a)本発明によるコーティング組成物を物品の表面に適用するステップ;並びに
(b)上記コーティング組成物を硬化させてコーティングされた物品を得るステップを含む。
加えて、前述の作製方法によって得ることができる又は得られるコーティングされた物品が提供される。
更に本発明は、母材表面に機能性コーティングを形成するための本発明によるコーティング組成物の使用に関する。
本発明の好ましい実施形態は従属クレームに記載する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
定義
用語「ポリマー」は、ホモポリマー、コポリマー、例えばブロックコポリマー、ランダムコポリマー、及び交互コポリマー、三元ポリマー、四元ポリマーなど、並びにこれらのブレンド及び変性物を含むがこれに限定されない。更に、特段に限定しない限り、用語「ポリマー」は、材料のあらゆる可能な配置異性体を含むものとする。これらの配置には、アイソタクチック対称、シンジオタクチック対称、及びアタクチック対称があるがこれらに限定されない。ポリマーは相対分子量が大きい分子であり、その構造は基本的に、分子量が小さい分子(すなわちモノマー)に実際又は概念的に由来する単位の複数の繰り返し(すなわち反復単位)を含む。一般に、ポリマー中の反復単位の数は10より多く、好ましくは20より多い。反復単位の数が10未満のポリマーは、オリゴマーと呼ばれることもある。
本明細書で使用する用語「モノマー」は、重合することができ、それによりポリマーの必須構造に構成単位(反復単位)を与える分子を意味する。
本明細書で使用する用語「ホモポリマー」は、1つの種の(実際の、潜在的な、又は仮説の)モノマーに由来するポリマーを表す。
本明細書で使用する用語「コポリマー」は、一般に、2種以上のモノマーに由来する任意のポリマーを意味し、ポリマーは2種以上の対応する反復単位を含む。一実施形態では、コポリマーは2種以上のモノマーの反応生成物であり、従って2種以上の対応する反復単位を含む。コポリマーは2、3、4、5、又は6種の反復単位を含むことが好ましい。3種のモノマーの共重合によって得られるコポリマーは三元ポリマーと呼ばれることもある。4種のモノマーの共重合によって得られるコポリマーは四元ポリマーと呼ばれることもある。コポリマーは、ブロックコポリマー、ランダムコポリマー、及び/又は交互コポリマーとして存在することもある。
本明細書で使用する用語「ブロックコポリマー」は、隣接するブロックが構造上異なるコポリマー、すなわち、隣接するブロックが、異なる種のモノマー、又は同種だが反復単位の構成若しくは配列分布が異なるモノマーに由来する反復単位を含むコポリマーを表す。
更に、本明細書で使用する用語「ランダムコポリマー」は、鎖中の任意の特定部位において特定の反復単位が存在する確率が、隣接する反復単位の性質と無関係である高分子で形成されたポリマーを指す。通常、ランダムコポリマーでは、反復単位の配列分布はベルヌーイ統計に従う。
本明細書で使用する用語「交互コポリマー」は、2種の反復単位を交互に含む高分子からなるコポリマーを表す。
【0009】
本明細書で使用する用語「ポリシラザン」は、ケイ素原子と窒素原子が交互に基本骨格を形成するポリマーを指す。各ケイ素原子は少なくとも1個の窒素原子と結合し、各窒素原子は少なくとも1個のケイ素原子と結合していることから、一般式-[SiR1R2-NR3-]m(シラザン反復単位)の鎖及び環の両方が生成し、式中、R1~R3は、水素原子、有機置換基又はヘテロ-有機置換基であってよく;mは整数である。置換基R1~R3の全てが水素原子である場合、そのポリマーは、ペルヒドロポリシラザン、ポリペルヒドロシラザン、又は無機ポリシラザン(-[SiH2-NH-]m)と呼ばれる。R1~R3の少なくとも1個の置換基が有機又はヘテロ-有機置換基である場合、そのポリマーは、オルガノポリシラザンと呼ばれる。
本明細書で使用する用語「ポリシロキサザン」は、ケイ素原子と酸素原子とが交互に並ぶ区間を更に含むポリシラザンを指す。そのような区間は、例えば-[O-SiR7R8-]nで表すことができ、式中、R7及びR8は、水素原子、有機置換基、又はヘテロ有機置換基であってよく;nは整数である。ポリマーの全ての置換基が水素原子である場合、そのポリマーはペルヒドロポリシロキサザンと呼ばれる。ポリマーの少なくとも1個の置換基が有機置換基又はヘテロ有機置換基である場合、そのポリマーはオルガノポリシロキサザンと呼ばれる。
【0010】
本明細書で使用する用語「機能性コーティング」は、表面に1つ又は複数の特定の特性を与えるコーティングを指す。一般にコーティングは、表面を保護するため、又は表面に特定の効果を与えるために必要とされる。様々な効果が、機能性コーティングによって付与できる。例えば、機械抵抗、表面硬度、耐引っかき性、耐摩耗性、抗菌効果、防汚効果、(水に対する)濡れ性、疎水性及び疎油性、平滑効果、耐久性、帯電防止効果、防汚効果、耐指紋効果、清掃しやすい効果、落書きしにくい効果、耐薬品性、耐食性、抗酸化効果、物理的バリア効果、シール効果、耐熱性、耐火性、低収縮性、紫外線バリア効果、耐光性、及び/又は光学的効果がある。
用語「硬化させる」は、(例えば、触媒あり又はなしで、熱又は照射による)架橋ポリマーネットワークへの変換を意味する。
本明細書で使用する用語「ブタジエンポリマー」は、形式的には置換又は非置換1,3-ブタジエンモノマーから重合によって誘導されるポリマーを指す。かかる1,3-ブタジエンモノマーは、1,4-又は1,2-結合反復単位を有する。好適な置換又は非置換1,3-ブタジエンモノマーは、例えば、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)又は2-クロロ-1,3-ブタジエン(クロロプレン)である。ブタジエンポリマーは、主鎖及び/又は側鎖の末端で官能化され得る。ブタジエンポリマーは、置換又は非置換1,3-ブタジエンモノマーから誘導された反復単位に加えて、置換又は非置換1,3-ブタジエンモノマーから誘導されていない更なる反復単位を含んでもよい。かかる更なる反復単位は、例えば、置換又は非置換エチレンモノマーから誘導された反復単位であってもよい。
本明細書で使用する用語「アルキル」は、置換されていてもよい線状、分岐状、又は環状アルキル基を意味する。
本明細書で使用する用語「アリール」は、置換されていてもよい単環式、二環式、若しくは三環式芳香族基、又は複素芳香族基を意味する。複素芳香族基は、複素芳香族系に1個又は複数個のヘテロ原子(例えばN、O、S、及び/又はP)を含む。
本明細書で使用する用語「アラルキル」は、1個又は複数個の水素原子をアリール基で置換することによってアルキルラジカルから誘導される任意の一価ラジカルを意味する。
【0011】
好ましい実施態様
本発明は、
(i)シラザンポリマー;及び
(ii)ブタジエンポリマー;
を含むコーティング組成物であって、
ブタジエンポリマーは、置換又は非置換1,3-ブタジエンモノマーから誘導される1つ又は複数の反復単位と、-OH又は-Si(OR)3(RはH、アルキル、アリール又はアラルキルから選択される)から選択される1個又は複数個の官能基とを含む、コーティング組成物に関する。
【0012】
ブタジエンポリマー
ブタジエンポリマーは、置換又は非置換1,3-ブタジエンモノマーから誘導される1つ又は複数の反復単位と、-OH又は-Si(OR)3(RはH、アルキル、アリール又はアラルキルから選択される)から選択される1個又は複数個の官能基とを含む、ポリマー化合物である。ブタジエンポリマーは、典型的には、1つ又は複数の置換又は非置換1,3-ブタジエンモノマーの重合によって形成され、例えば、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)及び/又は2-クロロ-1,3-ブタジエン(クロロプレン)などのである。
ブタジエンモノマーは、1,4-又は1,2-結合してブタジエンポリマーを形成してもよく、上記の結合のタイプは、反復単位ごとに変動してもよい。ブタジエンポリマーは、-OH及び-Si(OR)3(RはH、アルキル、アリール又はアラルキルから選択される)からなるリストから選択される1個又は複数個の基を含む官能化ブタジエンポリマーとみなしてもよい。かかる官能基は、典型的には、ブタジエンポリマーの主鎖及び/又は側鎖の末端に配置される。
好ましくは、Rは、H、1~10個の炭素原子を有するアルキル、2~10個の炭素原子を有するアリール、又は3~20個の炭素原子を有するアラルキルから選択される。より好ましくは、Rは、H、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、フェニル又は-(CH2)xPhから選択され、xは、1~10、好ましくは1~5、より好ましくは1、2及び3の整数である。
【0013】
本発明の好ましい実施形態では、置換又は非置換1,3-ブタジエンモノマーから誘導される反復単位は、式(I)、式(II)又は式(III)で表され:
-[CH2-CXI=CH-CH2-] 式(I)
-[CH2-CXII(CH=CH2)-] 式(II)
-[CH2-CH(CXIII=CH2)-] 式(III)
上式で、XIは、H、ハロゲン又は1~5個の炭素原子を有するアルキル、好ましくはH、Cl、メチル、エチル又はプロピルであり;XIIは、H、ハロゲン又は1~5個の炭素原子を有するアルキル、好ましくはH、Cl、メチル、エチル又はプロピルであり;XIIIは、ハロゲン又は1~5個の炭素原子を有するアルキル、好ましくはCl、メチル、エチル又はプロピルである。
本発明の好ましい実施形態では、ブタジエンポリマーは、置換又は非置換1,3-ブタジエンモノマーから誘導される第1及び第2の反復単位を含み、ここで第1の反復単位は式(I)で表され、第2の反復単位は式(II)で表され:
-[CH2-CXI=CH-CH2-] 式(I)
-[CH2-CXII(CH=CH2)-] 式(II)
上式で、XI及びXIIは同一であり、H、ハロゲン及び1~5個の炭素原子を有するアルキルから選択され、好ましくはH、Cl、メチル、エチル及びプロピルである。
ブタジエンポリマーは、1つ又は複数の更なる反復単位を含むことが好ましい。好ましくは、かかる更なる反復単位は、置換又は非置換1,3-ブタジエンモノマーから誘導されない。より好ましくは、かかる更なる反復単位は、置換又は非置換エチレンモノマーから誘導される。
本発明の好ましい実施形態では、更なる反復単位は式(IV)によって表され:
-[CH2-CHRa-] 式(IV)
上式で、Raは、シアノ、アルキル、アリール又はアラルキルから選択され、ここでアルキル、アリール又はアラルキルは1個又は複数個の置換基で置換されていてもよい。上記アルキル、アリール又はアラルキルの好ましい置換基は、ヒドロキシ、フッ素、シアノ、アルコキシ又は(トリアルコキシ)シリル基から選択される。
好ましくは、Raは、シアノ、1~10個の炭素原子を有するアルキル、2~10個の炭素原子を有するアリール、又は3~20個の炭素原子を有するアラルキルから選択され、ここで1~10個の炭素原子を有するアルキル、2~10個の炭素原子を有するアリール又は3~20個の炭素原子を有するアラルキルは、任意選択で、フッ素、シアノ、ヒドロキシ、C1~C5アルコキシ、トリヒドロキシシリル又はトリ(C1~C5アルコキシ)シリル基から選択される1個又は複数個の置換基で置換されている。より好ましくは、Raはシアノ、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、フェニル、-(CH2)yPh又は-(CH2)zSi(ORb)3から選択され、ここでyは1~10、好ましくは1~5、より好ましくは1、2、又は3の整数であり;zは0~10、好ましくは0~5、より好ましくは1、2、3又は4の整数であり;Rbはメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチルから選択される。
【0014】
本発明のより好ましい実施形態では、ブタジエンポリマーは、式(I)、式(II)又は式(III)で表される置換又は非置換1,3-ブタジエンモノマーから誘導される1つ又は複数の反復単位と、式(IV)で表される1つ又は複数の更なる反復単位とを含み:
-[CH2-CXI=CH-CH2-] 式(I)
-[CH2-CXII(CH=CH2)-] 式(II)
-[CH2-CH(CXIII=CH2)-] 式(III)
-[CH2-CHRa-] 式(IV)
上式で、XIは、H、ハロゲン又は1~5個の炭素原子を有するアルキル、好ましくはH、Cl、メチル、エチル又はプロピルであり;XIIは、H、ハロゲン又は1~5個の炭素原子を有するアルキル、好ましくはH、Cl、メチル、エチル又はプロピルであり;XIIIは、ハロゲン又は1~5個の炭素原子を有するアルキル、好ましくはCl、メチル、エチル又はプロピルであり;Raはシアノ、アルキル、アリール又はアラルキルから選択され、ここでアルキル、アリール又はアラルキルは1個又は複数個の置換基で置換されていてもよく、当該置換基は好ましくはヒドロキシ、フッ素、シアノ、アルコキシ又は(トリアルコキシ)シリル基から選択される。
好ましくは、Raは、シアノ、1~10個の炭素原子を有するアルキル、2~10個の炭素原子を有するアリール、又は3~20個の炭素原子を有するアラルキルから選択され、ここで1~10個の炭素原子を有するアルキル、2~10個の炭素原子を有するアリール又は3~20個の炭素原子を有するアラルキルは、任意選択で、フッ素、シアノ、ヒドロキシ、C1~C5アルコキシ、トリヒドロキシシリル又はトリ(C1~C5アルコキシ)シリル基から選択される1個又は複数個の置換基で置換されている。より好ましくは、Raはシアノ、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、フェニル、-(CH2)yPh又は-(CH2)zSi(ORb)3から選択され、ここでyは1~10、好ましくは1~5、より好ましくは1、2、又は3の整数であり;zは0~10、好ましくは0~5、より好ましくは1、2、3又は4の整数であり;Rbはメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチルから選択される。
ブタジエンポリマーは、式(I)で表される反復単位及び/又は式(II)で表される反復単位及び/又は式(III)で表される反復単位を含むことが好ましい。ブタジエンポリマーは、式(I)で表される反復単位、式(II)で表される反復単位及び式(III)で表される反復単位を含むことが更に好ましい。
【0015】
本発明の特に好ましい実施形態では、式(IV)で表される反復単位は、式(IVa)、式(IVb)又は式(IVc)で表される:
-[CH2-CH(Ph)-] 式(IVa)
-[CH2-CH(CN)-] 式(IVb)
-{CH2-CH[(CH2)2Si(OEt)3]-} 式(IVc)。
本発明の最も好ましい実施形態では、ブタジエンポリマーは、以下の式(Va)~(Vg)で表され:
X-[CH2-CH=CH-CH2]m[CH2-CH(CH=CH2)]n-X 式(Va)
X-[CH2-CH=CH-CH2]m[CH2-CH(CH=CH2)]n[CH2-CH(Ph)]o-X 式(Vb)
X-[CH2-CH=CH-CH2]m[CH2-CH(CH=CH2)]n[CH2-CH(CN)]p-X 式(Vc)
X-[CH2-CH=CH-CH2]m[CH2-CH(CH=CH2)]n[CH2-CH(Ph)]o[CH2-CH(CN)]p-X 式(Vd)
X-[CH2-CH=CH-CH2]m[CH2-CH(CH=CH2)]n{CH2-CH[(CH2)2Si(OEt)3]}q-X 式(Ve)
X-[CH2-CH=CH-CH2]m[CH2-CH(CH=CH2)]n[CH2-CH(Ph)]o{CH2-CH[(CH2)2Si(OEt)3]}q-X 式(Vf)
X-[CH2-CH=CH-CH2]m[CH2-CH(CH=CH2)]n[CH2-CH(CN)]p{CH2-CH[(CH2)2Si(OEt)3]}q-X 式(Vg)
上式で、Xは-OH又は-Si(OMe)3又は-Si(OEt)3を表し;m、n及びoはそれぞれ独立して≧0の整数、好ましくは0~1000の整数、より好ましくは0~500の整数であり、ここでm及びnのうちの少なくとも1つは≠0である。
個別の反復単位は、指数m、n、o、p及びqによって表されており、ブタジエンポリマーにおいて個別に又はブロックの形態でのいずれかで分布でき、上記ブロックは2つ以上の同一反復単位からなる。ブタジエンポリマーにおける反復単位及び/又はブロックの分布は、統計的又は規則的のいずれかであり得る。ブタジエンポリマーにおける反復単位及び/又はブロックの分布に応じて、ブタジエンポリマーは、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー又は少なくとも1つのランダム部分と少なくとも1つのブロック部分とを含む混合ランダムブロックコポリマーとして表されてもよい。
【0016】
ブタジエンポリマーは、ある分子量分布を有する。好ましくは、本発明で使用するブタジエン含有ポリマーは、GPCで測定した質量平均分子量Mwが、少なくとも500g/モル、より好ましくは少なくとも750g/モル、更により好ましくは少なくとも1,000g/モルである。好ましくは、シラザンポリマーの質量平均分子量Mwは、100,000g/モル未満である。より好ましくは、シラザンポリマーの分子量Mwは1,000~50,000g/モルの範囲にある。
好ましくは、コーティング組成物中のブタジエンポリマーの総量は、コーティング組成物中のシラザンポリマーの総質量に基づいて、10~90質量%、好ましくは15~75質量%の範囲にある。
【0017】
シラザンポリマー
好ましい実施形態では、シラザンポリマーは次の式(1)で表される反復単位M1を含む:
-[SiR1R2-NR3-] 式(1)
上式で、R1、R2及びR3は同一又は互いに異なり、水素、有機基、又はヘテロ有機基から独立して選択される。
R1、R2及びR3に適した有機基及びヘテロ有機基としては、アルキル、アルキルカルボニル、アルケニル、シクロアルキル、アリール、アリールアルキル、アルキルシリル、アルキルシリルオキシ、アリールシリル、アリールシリルオキシ、アルキルアミノ、アリールアミノ、アルコキシ、アルコキシカルボニル、アルキルカルボニルオキシ、アリールオキシ、アリールオキシカルボニル、アリールカルボニルオキシ、アリールアルキルオキシなど、及びこれらの組み合わせ(好ましくは、アルキル、アルケニル、シクロアルキル、アリール、アリールアルキル、アルコキシ、アリールオキシ、アリールアルキルオキシ、及びこれらの組み合わせ)が挙げられ;上記基は、好ましくは1~30個の炭素原子(より好ましくは1~20個の炭素原子;更により好ましくは1~10個の炭素原子;最も好ましくは1~6個の炭素原子(例えば、メチル、エチル、又はビニル))を有する。上記基は1個又は複数個の置換基、例えばハロゲン(フッ素、塩素、臭素、及びヨウ素)、アルコキシ、アルコキシカルボニル、トリアルコキシシリル、アミノ、カルボキシル、ヒドロキシル、ニトロなど、及びこれらの組み合わせで更に置換できる。
【0018】
好ましい実施形態では、R1及びR2は同一又は互いに異なり、水素、1~30(好ましくは1~20、より好ましくは1~10、最も好ましくは1~6)個の炭素原子を有するアルキル、2~30(好ましくは2~20、より好ましくは2~10、最も好ましくは2~6)個の炭素原子を有するアルケニル、又は2~30(好ましくは3~20、より好ましくは4~10、最も好ましくは6)個の炭素原子を有するアリールから独立して選択され、炭素原子に結合した1個又は複数個の水素原子はフッ素で置き換えられてもよく;並びにR3は、水素、1~30(好ましくは1~20、より好ましくは1~10、最も好ましくは1~6)個の炭素原子を有するアルキル、2~30(好ましくは2~20、より好ましくは2~10、最も好ましくは2~6)個の炭素原子を有するアルケニル、又は2~30(好ましくは3~20、より好ましくは4~10、最も好ましくは6)個の炭素原子を有するアリールから選択され、炭素原子に結合した1個又は複数個の水素原子はフッ素又はSi(OR’)3で置き換えられてもよく、R’は1~10(好ましくは1~6、より好ましくは1~3)個の炭素原子を有するアルキルから選択される。
より好ましい実施形態では、R1及びR2は同一又は互いに異なり、水素、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、又はフェニルから独立して選択され、炭素原子に結合した1個又は複数個の水素原子はフッ素で置き換えられてもよく;並びにR3は、水素、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ビニル、又はフェニルから選択され、炭素原子に結合した1個又は複数個の水素原子は、-F、-Si(OCH3)3、-Si(OCH2CH3)3、-Si(OCH2CH2CH3)3、又は-Si(OCH(CH3)2)3で置き換えられてよい。
最も好ましくは、R1及びR2は同一又は互いに異なり、-H、-CH3、-CH2CH3、-CH2CH2CH3、-CH(CH3)2、-CH=CH2、及び-C6H5からなるリストから独立に選択される、ここで炭素原子に結合した1個又は複数個の水素原子はフッ素で置き換えられてもよく;並びにR3は、-H、-CH3、-CH2CH3、-CH2CH2CH3、-CH(CH3)2、-CH=CH2、及び-C6H5からなるリストから独立に選択され、ここで炭素原子に結合した1個又は複数個の水素原子は-F又は-Si(OCH2CH3)3で置き換えられてよい。
【0019】
好ましい実施形態では、シラザンポリマーは次の式(2)で表される反復単位M2を含む:
-[SiR4R5-NR6-] 式(2)
上式で、R4、R5及びR6は同一又は互いに異なり、水素、有機基、又はヘテロ有機基から独立して選択される。
R4、R5及びR6に適した有機基及びヘテロ有機基としては、アルキル、アルキルカルボニル、アルケニル、シクロアルキル、アリール、アリールアルキル、アルキルシリル、アルキルシリルオキシ、アリールシリル、アリールシリルオキシ、アルキルアミノ、アリールアミノ、アルコキシ、アルコキシカルボニル、アルキルカルボニルオキシ、アリールオキシ、アリールオキシカルボニル、アリールカルボニルオキシ、アリールアルキルオキシなど、及びこれらの組み合わせ(好ましくは、アルキル、アルケニル、シクロアルキル、アリール、アリールアルキル、アルコキシ、アリールオキシ、アリールアルキルオキシ、及びこれらの組み合わせ)が挙げられ;上記基は、好ましくは1~30個の炭素原子(より好ましくは1~20個の炭素原子;更により好ましくは1~10個の炭素原子;最も好ましくは1~6個の炭素原子(例えば、メチル、エチル、又はビニル))を有する。上記基は1個又は複数個の置換基、例えばハロゲン(フッ素、塩素、臭素、及びヨウ素)、アルコキシ、アルコキシカルボニル、トリアルコキシシリル、アミノ、カルボキシル、ヒドロキシル、ニトロなど、及びこれらの組み合わせで更に置換できる。
【0020】
好ましい実施形態では、R4及びR5は同一又は互いに異なり、水素、1~30(好ましくは1~20、より好ましくは1~10、最も好ましくは1~6)個の炭素原子を有するアルキル、2~30(好ましくは2~20、より好ましくは2~10、最も好ましくは2~6)個の炭素原子を有するアルケニル、又は2~30(好ましくは3~20、より好ましくは4~10、最も好ましくは6)個の炭素原子を有するアリールから独立して選択され、炭素原子に結合した1個又は複数個の水素原子はフッ素で置き換えられてもよく;並びにR6は、水素、1~30(好ましくは1~20、より好ましくは1~10、最も好ましくは1~6)個の炭素原子を有するアルキル、2~30(好ましくは2~20、より好ましくは2~10、最も好ましくは2~6)個の炭素原子を有するアルケニル、又は2~30(好ましくは3~20、より好ましくは4~10、最も好ましくは6)個の炭素原子を有するアリールから選択され、炭素原子に結合した1個又は複数個の水素原子はフッ素又はSi(OR”)3で置き換えられてもよく、R”は1~10(好ましくは1~6、より好ましくは1~3)個の炭素原子を有するアルキルから選択される。
【0021】
より好ましい実施形態では、R4及びR5は同一又は互いに異なり、水素、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、又はフェニルから独立して選択され、炭素原子に結合した1個又は複数個の水素原子はフッ素で置き換えられてもよく;並びにR6は、水素、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ビニル、又はフェニルから選択され、炭素原子に結合した1個又は複数個の水素原子は、-F、-Si(OCH3)3、-Si(OCH2CH3)3、-Si(OCH2CH2CH3)3、又は-Si(OCH(CH3)2)3で置き換えられてよい。
最も好ましくは、R4及びR5は同一又は互いに異なり、-H、-CH3、-CH2CH3、-CH2CH2CH3、-CH(CH3)2、-CH=CH2、及び-C6H5からなるリストから独立に選択される、ここで炭素原子に結合した1個又は複数個の水素原子はフッ素で置き換えられてもよく;並びにR6は、-H、-CH3、-CH2CH3、-CH2CH2CH3、-CH(CH3)2、-CH=CH2、及び-C6H5からなるリストから独立に選択され、ここで炭素原子に結合した1個又は複数個の水素原子は-F又は-Si(OCH2CH3)3で置き換えられてよい。
【0022】
好ましい実施形態では、シラザンポリマーは次の式(3)で表される反復単位M3を含み:
-[SiR7R8-O-] 式(3)
上式で、R7及びR8は同一又は互いに異なり、水素、有機基、又はヘテロ有機基から独立して選択される。
R7及びR8に適した有機基及びヘテロ有機基としては、アルキル、アルキルカルボニル、アルケニル、シクロアルキル、アリール、アリールアルキル、アルキルシリル、アルキルシリルオキシ、アリールシリル、アリールシリルオキシ、アルキルアミノ、アリールアミノ、アルコキシ、アルコキシカルボニル、アルキルカルボニルオキシ、アリールオキシ、アリールオキシカルボニル、アリールカルボニルオキシ、アリールアルキルオキシなど、及びこれらの組み合わせ(好ましくは、アルキル、アルケニル、シクロアルキル、アリール、アリールアルキル、アルコキシ、アリールオキシ、アリールアルキルオキシ、及びこれらの組み合わせ)が挙げられ;上記基は、好ましくは1~30個の炭素原子(より好ましくは1~20個の炭素原子;更により好ましくは1~10個の炭素原子;最も好ましくは1~6個の炭素原子(例えば、メチル、エチル、又はビニル))を有する。上記基は1個又は複数個の置換基、例えばハロゲン(フッ素、塩素、臭素、及びヨウ素)、アルコキシ、アルコキシカルボニル、アミノ、カルボキシル、ヒドロキシル、ニトロなど、及びこれらの組み合わせで更に置換できる。
【0023】
好ましい実施形態では、R7及びR8は同一又は互いに異なり、水素、1~30(好ましくは1~20、より好ましくは1~10、最も好ましくは1~6)個の炭素原子を有するアルキル、2~30(好ましくは2~20、より好ましくは2~10、最も好ましくは2~6)個の炭素原子を有するアルケニル、又は2~30(好ましくは3~20、より好ましくは4~10、最も好ましくは6)個の炭素原子を有するアリールから独立して選択され、炭素原子に結合した1個又は複数個の水素原子はフッ素で置き換えられてよい。
より好ましい実施形態では、R7及びR8は同一又は互いに異なり、水素、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、又はフェニルから独立して選択され、炭素原子に結合した1個又は複数個の水素原子はフッ素で置き換えられてよい。
最も好ましくは、R7及びR8は同一又は互いに異なり、-H、-CH3、-CH2CH3、-CH2CH2CH3、-CH(CH3)2、-CH=CH2、及び-C6H5からなるリストから独立に選択され、上式で、炭素原子に結合した1個又は複数個の水素原子はフッ素で置き換えられてよい。
【0024】
シラザンポリマーは、反復単位M1と更なる反復単位M2とを含むことが好ましく、ここでM1及びM2は互いに異なるシラザン反復単位である。
シラザンポリマーは、反復単位M1と更なる反復単位M3とを含むことも好ましく、ここでM1はシラザン反復単位であり、M3はシロキサン反復単位である。
シラザンポリマーは、反復単位M1と、更なる反復単位M2と、更なる反復単位M3とを含むことも好ましく、ここでM1及びM2は互いに異なるシラザン反復単位であり、M3はシロキサン反復単位である。
【0025】
一実施形態では、シラザンポリマーはポリシラザンであり、ポリシラザンはペルヒドロポリシラザン又はオルガノポリシラザンであってよい。好ましくは、ポリシラザンは反復単位M1、及び任意に更なる反復単位M2を含み、M1及びM2は互いに異なるシラザン反復単位である。
別の実施形態では、シラザンポリマーはポリシロキサザンであり、ポリシロキサザンはペルヒドロポリシロキサザン又はオルガノポリシロキサザンであってよい。好ましくは、ポリシロキサザンは、反復単位M1と更なる反復単位M3とを含有し、ここでM1はシラザン反復単位であり、M3はシロキサン反復単位である。好ましくは、ポリシロキサザンは反復単位M1と、更なる反復単位M2と、更なる反復単位M3とを含み、ここでM1及びM2は互いに異なるシラザン反復単位であり、M3はシロキサン反復単位である。
好ましくは、シラザンポリマーは、ランダムコポリマー若しくはブロックコポリマー、又は少なくとも1つのランダム部分と少なくとも1つのブロック部分とを含む混合ランダムブロックコポリマーなどのコポリマーである。より好ましくは、シラザンポリマーはランダムコポリマー又はブロックコポリマーである。
本発明で使用されるシラザンポリマーは、単環式構造を有さないことが好ましい。より好ましくは、シラザンポリマーは、多環式、線状及び/又は分岐鎖の混合構造を有する。
シラザンポリマーは、ある分子量分布を有する。好ましくは、本発明で使用するシラザンポリマーは、GPCで測定した質量平均分子量Mwが、少なくとも1,000g/モル、より好ましくは少なくとも1,200g/モル、更により好ましくは少なくとも1,500g/モルである。好ましくは、シラザンポリマーの質量平均分子量Mwは、100,000g/モル未満である。より好ましくは、シラザンポリマーの分子量Mwは1,500~50,000g/モルの範囲にある。
好ましくは、コーティング組成物中のシラザンポリマーの総量は、コーティング組成物の総質量に基づいて、10~90質量%、好ましくは25~85質量%の範囲にある。
【0026】
その他の成分
本発明によるコーティング組成物は1つ又は複数の溶媒を含むことが好ましい。適切な溶媒は、有機溶媒、例えば、1-クロロ-4-(トリフルオロメチル)ベンゼンなどのハロゲン化されていてもよい脂肪族及び/若しくは芳香族炭化水素、酢酸エチル、n-酢酸ブチル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、若しくはtert-酢酸ブチルなどのエステル、アセトン又はメチルエチルケトンなどのケトン、テトラヒドロフラン若しくはジブチルエーテル、及びモノ若しくはポリアルキレングリコールジアルキルエーテル(グリム)などのエーテル、又はこれらの混合物などである。
更に本発明によるコーティング組成物は、好ましくは、蒸発挙動に影響を及ぼす添加剤、膜形成に影響を及ぼす添加剤、接着促進剤、耐食添加剤、架橋剤、分散剤、充填剤、機能性色素(例えば導電率、熱伝導率、磁気特性などの機能性効果をもたらすもの)、ナノ粒子、光学色素(例えば色調、屈折率、真珠光沢効果などの光学的効果をもたらすもの)、熱膨張を減少させる粒子、プライマー、レオロジー調整剤(例えば増粘剤)、界面活性剤(例えば濡れ剤、レベリング剤、又は疎水性若しくは疎油性及び落書きしにくい効果を向上させる添加剤)、粘度調整剤、並びにその他の種類の樹脂又はポリマーからなる群から選択される1つ又は複数の添加剤を含んでよい。
ナノ粒子は、キャッピング剤を用いて任意に表面改質し得る窒化物、チタン酸塩、ダイヤモンド、酸化物、硫化物、亜硫酸塩、硫酸塩、ケイ酸塩、及び炭化物から選択してよい。好ましくは、ナノ粒子は、<100nm、より好ましくは<80nm、更により好ましくは<60nm、更により好ましくは<40nm、最も好ましくは<20nmの粒径を有する材料である。粒径は、当業者に公知の任意の標準方法によって測定されてもよい。
【0027】
1つ又は複数の触媒の添加によって、コーティング組成物の硬化を加速することができる。有用な触媒の例は、ホウ素-、アルミニウム-、スズ-又は亜鉛-アルキル、アリール若しくはカルボキシレートなどのルイス酸、カルボン酸などのブレンステッド酸、第一級、第二級、第三級アミン若しくはホスファゼンなどの塩基、又はカルボキシレート、アセチルアセトネート若しくはアルコキシレートのPd、Pt、Al、B、Sn又はZn塩などの金属塩である。Si-H基とSi-CH=CH2基の両方を有するシラザン基を使用する場合、Pt又はPd塩又は錯体のような周知のヒドロシリル化触媒を使用できる。Si-CH=CH2基のみ又はSi-H基とSi-CH=CH2基との両方を有するシラザンを使用する場合、過酸化物又はアゾ化合物のようなUV又は熱ラジカル開始剤を使用できる。好ましい実施形態では、本発明によるコーティング組成物は、前述の触媒のうちの1つ以上を含む。
【0028】
本発明のコーティング組成物におけるシラザンポリマーとブタジエンポリマーとの間の質量比は、1:100~100:1、好ましくは1:50~50:1、より好ましくは1:10~10:1、更により好ましくは1:8~8:1、最も好ましくは1:3~6:1の範囲であることが好ましい。
当然のことながら、当業者は、コーティング組成物及びその成分の定義に関する前述の好ましい、より好ましい、特に好ましい、及び最も好ましい実施形態を、任意の望ましい方法で自由に組み合わせることができる。
【0029】
方法
本発明は更に、コーティングされた物品を作製する方法に関し、当該方法は、
(a)本発明によるコーティング組成物を物品の表面に適用するステップ;及び
(b)上記コーティング組成物を硬化させてコーティングされた物品を得るステップ
を含む。
好ましい実施形態では、ステップ(a)で適用されるコーティング組成物は、シラザンポリマーを含む第1の成分とブタジエンポリマーを含む第2の成分とを混合することによって事前にもたらされ、上記シラザンポリマーと上記ブタジエンポリマーとは、本発明によるコーティング組成物について上記のように定義される。第1の成分と第2の成分との混合は、室温又は高温、好ましくは60~220℃の温度、より好ましく80~180℃の温度で実施されることが好ましい。
好ましくは、ステップ(a)で適用されるコーティング組成物は、2~1,000mPasの範囲の粘度を有する均質液体である。組成物の粘度は、溶媒の種類及び含有量、並びにシラザンポリマー及びブタジエンポリマーの種類、比及び分子量によって調節されてもよい。
コーティング組成物は、液状組成物を物品表面に適用するのに好適な適用方法によってステップ(a)で適用されることが好ましい。そのような方法には、例えば、布を用いた塗りつけ、スポンジを用いた塗りつけ、浸漬コーティング、スプレーコーティング、フローコーティング、ローラーコーティング、スリットコーティング、スロットコーティング、スピンコーティング、ディスペンシング、スクリーン印刷、ステンシル印刷、又はインクジェット印刷がある。浸漬コーティング及びスプレーコーティングが特に好ましい。
本発明のコーティング組成物は、例えば、建築物、義歯、調度品、家具、衛生設備(トイレ、シンク、浴槽など)、標識、看板、プラスチック製品、ガラス製品、セラミックス製品、金属製品、木材製品、並びに車両(道路車両、鉄道車両、船舶、及び航空機)などの様々な物品の表面に適用されてよい。物品の表面は、以下の使用の項に記載する母材のうちいずれか1つで作製されていることが好ましい。
通常、コーティング組成物は、ステップ(a)においいて、厚さ1μm~1cm、好ましくは10μm~1mmの層として物品の表面に適用される。好ましい実施形態では、コーティング組成物は、厚さ1~200μm、より好ましくは2~150μm、及び最も好ましくは2~100μmの薄い層として適用される。別の好ましい実施形態では、コーティング組成物は、厚さ200μm~1cm、より好ましくは200μm~5mm、及び最も好ましくは200μm~1mmの厚い層として適用される。
【0030】
ステップ(b)におけるコーティングの硬化は、様々な条件下で、例えば環境硬化、熱硬化、及び/又は照射硬化などによって実施してよい。硬化は任意に水分存在下で、好ましくは水蒸気の形態で行う。この目的で、人工気候室を使用してもよい。
環境硬化は、好ましくは10~40℃の範囲の温度で行う。熱硬化は、好ましくは100~200℃、好ましくは120~180℃の範囲の温度で行う。照射硬化は、好ましくはIR照射又はUV照射を用いて行う。好ましいIR照射波長は、基板吸収について7~15μm又は1~3μmの範囲である。好ましいUV照射波長は300~500nmの範囲である。
好ましくは、ステップ(b)における硬化は炉又は人工気候室の中で実施する。別法として、極めて大きな物品(例えば建築物、車両など)をコーティングする場合、硬化は好ましくは環境条件下で行う。
好ましくは、ステップ(b)の硬化時間は、コーティング組成物及びコーティング厚に応じて0.01~24時間、より好ましくは0.10~16時間、更に好ましくは0.15~8時間、及び最も好ましくは0.20~5時間である。
【0031】
その他の好ましい硬化条件は、
1.例えば過酸化物又は硫黄化合物などの。触媒の存在下での熱硬化(加硫)。
2.UV活性光開始剤の存在下でのUV硬化、である。
ステップ(b)の硬化後、コーティング組成物は、化学的に架橋して物品の表面上にコーティングを形成する。
上記方法によって得られるコーティングは、表面への接着に優れ、前述の物理的及び/又は化学的表面特性の向上のうちの少なくとも1つを物品に付与する、剛直で密な機能性コーティングを形成する。
【0032】
物品
更に、前述の作製方法によって得ることができる又は得られるコーティングされた物品が提供される。
【0033】
使用
更に本発明は、母材表面に機能性コーティングを形成するための本発明によるコーティング組成物の使用に関する。
本発明による使用によって、前述表面の物理的及び/又は化学的表面特性のうちの1つ以上が改善されることが好ましい。
本発明によるコーティング組成物を適用するのに好ましい母材には、例えば金属(鉄、鋼、銀、亜鉛、アルミニウム、ニッケル、チタン、バナジウム、クロム、コバルト、銅、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、ケイ素、ホウ素、スズ、鉛、若しくはマンガン、又はこれらの合金に必要に応じて酸化膜又はメッキ膜を施したものなど);プラスチック(ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリウレタン、ポリエステル(PET)、ポリアリルジグリコールカーボネート(PADC)、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド、エポキシ樹脂、ABS樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリチオシアネート、又はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)など);ガラス(融解石英、ソーダ石灰シリカガラス(窓ガラス)、ナトリウムホウケイ酸ガラス(Pyrex(登録商標))、酸化鉛ガラス(クリスタルガラス)、アルミノ珪酸ガラス、又は酸化ゲルマニウムガラスなど);並びに建設材料(レンガ、セメント、セラミックス、粘土、コンクリート、石膏、大理石、ミネラルウール、モルタル、石材、又は木材、及びこれらの混合物)などの多種多様な材料がある。
母材は、機能性コーティングの接着性を強化するためにプライマーで処理してよい。そのようなプライマーは、例えばシラン、シロキサン、又はシラザンである。プラスチック材料を使用する場合、機能性コーティングの接着性を向上させる可能性のある火炎処理、コロナ処理、又はプラズマ処理によって事前処理を行うと有利であり得る。建設材料を使用する場合、ラッカー、ワニス、又は塗料、例えばポリウレタンラッカー、アクリルラッカー、及び/又は分散塗料などでプレコーティングを行うと有利であり得る。
以下に実施例によって本発明を更に説明するが、これは限定的なものと解釈されるべきではない。当業者は、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、本発明に様々な修正、追加、及び変更が可能であることを認識するであろう。
【実施例】
【0034】
本明細書に記載の実施例では、シラザンポリマーとブタジエンポリマーとを組み合わせる2種類の方法を試験した。
第1の方法は、ヒドロキシ-官能化ブタジエンポリマーとシラザンポリマーとの組み合わせであり、ブタジエンポリマーのOH基がシラザンポリマーと反応してポリシラザン-ポリブタジエンブロックコポリマーを形成する:
【化1】
【0035】
ブロックコポリマーの形成が、両ポリマーの単なる物理的混合物と比べて有利な点は、膜形成中および硬化中にシラザンポリマーとブタジエンポリマーが分離し得ないことと、曇りのある膜を形成しないことである。これは、ポリブタジエンポリマーが高分子量で、そのため相分離のリスクが高い場合に特に重要である。しかし、場合によっては、単純な物理的混合も可能である。ブロックコポリマー形成に使用されるシラザンポリマーがビニル基を含有する場合、例えば、下記の概略図に示すようにフリーラジカル開始反応によって、更なる架橋が可能である。
【化2】
【0036】
他の起こり得る架橋機構は、Si-HのSi-CH=CH2付加、Si-HのポリブタジエンC=C付加、及びポリブタジエンC=CのポリブタジエンC=C付加である。Si-H基が関与する反応は、例えば、Pd又はPt化合物などの公知のヒドロシリル化触媒にも触媒され得る。
ラジカル架橋は、過酸化物の熱分解によって開始し得る。置換又は非置換1,3-ブタジエンモノマーから誘導される1,2-結合反復単位のビニル基に加え、置換又は非置換1,3-ブタジエンモノマーから誘導される1,4-結合反復単位の内部ビニル基も、ラジカル架橋反応に関与し得る。ビニル基を介したその他の種類の架橋反応、例えば、ラジカル誘発プロセスによる又は他の種類の触媒によるヒドロシリル化反応も可能である。
【0037】
第2の方法は、アルコキシシラン官能化ブタジエンポリマーとシラザンポリマーとの組み合わせに関する。架橋反応は、水に誘発される加水分解機構によって、Durazane1500型シラザンポリマーのアミノプロピルトリエトキシシラン単位との反応を介して(機構A)、又はシラザンポリマー主鎖自体との反応を介して(機構B)のいずれかで起こる。
機構A
【化3】
機構B
【化4】
【0038】
アルコキシシラン基で官能化された他の種類のブタジエンポリマー、例えばGelest Inc.Product Code SSP-055も使用できる:
【化5】
【0039】
コーティング組成物の作製
使用した原材料
シラザンポリマー:オルガノポリシラザンDurazane1800(ビニル官能型)及びDurazane1500 rapid cure(アミノプロピルトリエトキシシラン官能型)は、MERCK KGaAから入手できる。
ブタジエンポリマー:ポリブタジエン型KRASOL LBH-P2000(OH末端官能化)及びRICON 603(アルコキシシラン末端官能化)はCray Valleyから入手できる。
溶媒(キシレン)、過酸化物(Luperox 531M80)及び硬化触媒(DBU:1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン)は、Sigma-Aldrichから分析グレードの品質で入手した。
【0040】
実験1:
第1の実験では、ビニル-官能化ポリシラザンとOH末端基官能化ポリブタジエンとの組み合わせを試験した。
調製:
100gのDurazane1800、100gのKRASOL LBH-P2000及び100gのキシレンを、撹拌装置、還流凝縮器及び窒素入口を備えた500mL丸底フラスコに入れた。この混合物を、窒素雰囲気下、80℃で8時間加熱し、次いで25℃に冷却した。25℃で80~120mPasの粘度を有する透明無色のブロックコポリマーのキシレン溶液を得た。
適用:
上記のように調製した溶液に、2.5質量%の過酸化物Luperox531M80を添加し、コーティング組成物を、3インチのシリコンウェハ上に異なる回転速度でスピンコーティングして、膜厚を5μmから最大40μmまで5μm刻みで調節した。参照として、純粋なDurazane1800を1.0質量%のLuperox 531M80と共にシリコンウェハ上にスピンコーティングして、5μmから最大40μmまで5μm刻みの膜厚を有するコーティングされたウェハを調製した。
コーティングされたウェハ全てを80℃のホットプレートに5分間置いて溶媒を蒸発させ、次いで、ホットプレートの温度を150℃まで上昇させ、ウェハを150℃で4時間硬化した。室温まで冷却した後、得られたコーティングの膜特性を、表1に示すように評価した。次いで、全てのウェハをホットプレートに戻し、200℃で4時間加熱し、室温まで冷却し、コーティングの外観をチェックした。クラックを生じなかったウェハについて、表2に示すようなコーティング特性を評価した。
【0041】
【0042】
純粋なDurazane1800と比較して、本発明のコーティング組成物は、わずかな硬度の低下のみで、はるかに高い膜厚を有するクラックフリー膜を形成する。200℃において、本発明のコーティング組成物は、40μm未満までの膜厚でクラックフリーであるが、純粋なDurazaneコーティングは、20μmというはるかに低い膜厚でもいくつかのクラックを示す。
薬品及び酸/塩基に対する耐性を評価するため、150℃で4時間、更に200℃で4時間硬化した膜厚10μmの実験1のコーティングを、特定の薬品及び酸/塩基に曝露した。同じ膜厚及び同じ硬化条件で硬化した純粋なDurazane1800を参照として使用した。試験は、コーティングした基板の表面上に0.3gの試験液体の液滴を載せ、基板を周囲条件下で24時間保管し、基板を水でクリーニングし、コーティングの侵食の可能性を目視評価することによって実施した。結果を表3に示す。
【表3】
【0043】
純粋なDurazane1800と比較した場合、本発明のコーティング組成物は、耐薬品性及び耐酸/塩基性の向上を示す。特に、酢酸水溶液及び水酸化ナトリウム水溶液に対する耐性が向上する。対照的に、純粋なDurazaneは、酢酸水溶液及び水酸化ナトリウム水溶液に対する安定性が非常に低い。シラザン-ポリブタジエンコポリマーは、その卓越した耐薬品性及び耐酸/塩基性により、様々な種類の腐食保護用のコーティングに使用できる。
【0044】
実験2:
調製:
シラザンポリマー対ブタジエンポリマーの最善の混合比を確認するため、Durazane1800対KRASOL LBH-P2000の混合質量比を3:1(コポリマー1)から1:1(実験1と同じ、コポリマー2)まで、及び1:3(コポリマー3)まで変動したことを除いて、実験1に記載の調製を繰り返した。
適用:
上記のように調製した溶液に、2.5質量%の過酸化物Luperox531M80を添加し、コーティング組成物を、3インチのシリコンウェハ上に異なる回転速度でスピンコーティングして、膜厚を5μmから最大40μmまで5μm刻みで調節した。参照として、純粋なDurazane1800を1.0質量%のLuperox 531M80と共にシリコンウェハ上にスピンコーティングして、5μmから最大40μmまで5μm刻みの膜厚を有するコーティングされたウェハを調製した。
コーティングされたウェハ全てを80℃のホットプレートに5分間置いて溶媒を蒸発させ、次いで、ホットプレートの温度を150℃まで上昇させ、ウェハを150℃で4時間、次いで200℃で更に4時間硬化した。室温まで冷却した後、得られたコーティングの膜特性を、表4に示すように評価した。
【表4】
【0045】
硬度の低下は、ブタジエンポリマーの添加量を増やすことで観察される。他方、クラック形成なく、より高い膜厚が可能である。純粋なDurazane1800は非常に脆性であり、20μmの膜厚において、200℃で既に最初のクラックを示す。両方のポリマー成分の1:1の混合比は、純粋なDurazane1800から得られるコーティングの90%を超える硬度を維持しながら、>40μmの膜厚を有するクラックフリーコーティングを可能にすることによって相乗効果を示す。
【0046】
実験3:
第3の実験では、アルコキシシラン官能化シラザンポリマーとアルコキシシラン官能化ブタジエンポリマーとの組み合わせを試験した。
調製:
100gのDurazane1500 rapid cure、100gのRICON603及び50gのキシレンを混合した。25℃で40~60mPasの粘度を有する透明無色のポリマー混合物のキシレン溶液を得た。
適用:
上記のように調製した溶液に、2.5質量%の過酸化物Luperox531M80と0.2質量%の硬化触媒DBU[1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン]とを添加し、コーティング組成物を、3インチのシリコンウェハ上に異なる回転速度でスピンコーティングして、膜厚を5μmから最大40μmまで5μm刻みで調節した。参照として、純粋なDurazane1500 rapid cureをシリコンウェハ上にスピンコーティングして、5μmから最大40μmまで5μm刻みの膜厚を有するコーティングされたウェハを調製した。
コーティングされたウェハ全てを80℃のホットプレートに5分間置いて溶媒を蒸発させ、次いで、ホットプレートの温度を150℃まで上昇させ、ウェハを150℃で4時間硬化した。次いで、全てのウェハを25℃、相対湿度50%の条件に21日間保管して、シラザンポリマーを完全湿気硬化させた。次いで、全てのコーティングの膜特性を、表5に示すように評価した。
【表5】
【0047】
シラザンポリマーとブタジエンポリマーとの組み合わせは、純粋なDurazane1500から得られるコーティングの90%を超える硬度を維持しながら、>40μmの膜厚を有するクラックフリーコーティングを可能にする(純粋なDurazane1500 rapid cureは25μmの膜厚で既にクラック形成を示す)ことによって相乗効果を示す。
【0048】
使用した方法:
硬度ナノインデンター:マルテンス硬度は、DIN EN ISO 14577-1/ASTM E 2546に従って、Nanoindenter Helmut Fisher FISCHERSCOPE HM2000Sを用いて、Vickersダイアモンドピラミッド試験サイクル=0.00025/10/0、n=10で測定した。各測定は、異なる場所で5回繰り返し、平均を計算し、標準偏差が+/-3MPaであることがわかったことから、結果を+/-5MPaで丸めた。
【国際調査報告】