(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-23
(54)【発明の名称】環境適合性洗剤の調製及び精製方法
(51)【国際特許分類】
C07C 41/36 20060101AFI20230816BHJP
C07C 41/38 20060101ALI20230816BHJP
C07C 41/09 20060101ALI20230816BHJP
C07C 43/178 20060101ALI20230816BHJP
C07C 41/16 20060101ALI20230816BHJP
【FI】
C07C41/36
C07C41/38
C07C41/09
C07C43/178 A
C07C41/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023507421
(86)(22)【出願日】2021-08-05
(85)【翻訳文提出日】2023-03-02
(86)【国際出願番号】 IB2021057190
(87)【国際公開番号】W WO2022029674
(87)【国際公開日】2022-02-10
(32)【優先日】2020-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】000002934
【氏名又は名称】武田薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ファルセ, ジャン-バティスト
(72)【発明者】
【氏名】コストナー, オットー
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC43
4H006AD16
4H006AD17
4H006BB25
4H006BC10
4H006BC19
4H006GN03
4H006GN04
4H006GP01
4H006GP10
(57)【要約】
本発明は、環境適合性洗剤として使用できる化合物を調製し精製する方法、ならびにそのような方法によって得られる化合物を提供する。本発明者らは、S/D処理及び単一洗剤処理において脂質エンベロープウイルスを効率的に不活化する、環境適合性の非フェノール性ポリオキシエチレンエーテル洗剤を合成した。よって、本発明者らは、脂質エンベロープウイルスを不活化するために、環境適合性の非フェノール性ポリオキシエチレンエーテル洗剤を使用できることを見出した。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(XIX)の化合物
【化1】
(式中、m=1であり、Rは炭素数2~12の直鎖と前記直鎖上の置換基としての1つ以上のメチル基とを有する炭化水素基を表し、Aはポリオキシエチレン残基を表す)の調製及び精製方法であって、
前記方法は、
(3)下記一般式(XII)の化合物
【化2】
(式中、m及びRは上記に定義された通りであり、Xはハロゲン原子またはヒドロキシル基を表す)を
一般式HO(CH
2CH
2O)
nH(nはn≧2の整数)のポリエチレングリコール(PEG)と反応させて、前記一般式(XIX)の化合物と下記一般式(XIII)の副生成物
【化3】
(式中、Rは上記に定義された通りであり、nはn≧2の整数である)とを生成することと、
(4)前記一般式(XIX)の化合物を、そこから未反応のポリエチレングリコール(PEG)と前記副生成物とを除去することによって精製することと、
のステップを含む、前記方法。
【請求項2】
前記ステップ(3)の前に、下記ステップ(2)をさらに含む、請求項1に記載の方法。
(2) 下記一般式(XIV)の化合物
【化4】
(式中、m及びRは請求項1に定義された通りである)を、
下記一般式(XII)の化合物
【化5】
(式中、m、R及びXは請求項1に定義された通りである)に変換すること。
【請求項3】
前記ステップ(2)の前に、下記ステップ(1)をさらに含む、請求項2に記載の方法。
(1)下記一般式(XIV)の化合物
【化6】
(式中、m及びRは請求項1に定義された通りである)を得るようにトルエンを反応させること。
【請求項4】
ステップ(3)において、前記ポリエチレングリコール(PEG)が、反応物及び溶媒として兼用される、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(1)において、トルエンをジイソブチレンまたは化合物R-X(Rは請求項1に定義された通りであり、Xはハロゲン原子を表す)と反応させる、請求項3または請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ステップ(2)における前記変換することが、ラジカル開始剤としてAIBN(アゾビス(イソブチロニトリル))を用いたラジカル反応である、請求項2~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
Xが塩素、ヨウ素または臭素原子である、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
Xが臭素原子である、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
ステップ(2)における前記変換することが、ハロゲン化試薬としてN-ブロモスクシンイミド(NBS)を使用する、請求項2~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記ステップ(4)が、アルカン、エーテル及びエステルならびにそれらの混合液から選択された溶媒の中に前記一般式(XIX)の前記化合物の入った溶液を、1回以上の水洗にかけて、前記一般式(XIX)の前記化合物から前記未反応のポリエチレングリコール(PEG)を除去することを含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
アルカン、エーテル及びエステルならびにそれらの混合液から選択される前記溶媒がエステルである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
アルカン、エーテル及びエステルならびにそれらの混合液から選択される前記溶媒が酢酸エチルである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ステップ(4)における、前記一般式(XIX)の前記化合物の、そこから前記副生成物を除去することによる前記精製することが、水及び水混和性有機溶媒を含む混合液の中に前記一般式(XIX)の前記化合物の入った溶液を、非極性溶媒による1回以上の洗浄にかけることを含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記非極性溶媒がアルカンを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記アルカンがヘキサン、シクロヘキサンまたはヘプタンである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記アルカンがシクロヘキサンである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
ステップ(3)が、前記ポリエチレングリコール(PEG)以外の溶媒または希釈剤を使用せずに実施される、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
ハロゲン化溶媒を使用しない、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
ステップ(3)の後に分取クロマトグラフィ法を使用することを全く含まない、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
分取クロマトグラフィ法を使用することを全く含まない、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
ステップ(3)における前記反応させることが、少なくとも10分間及び1時間以下の間行われる、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
ステップ(3)における前記反応させることが、少なくとも20分間及び45分以下の間行われる、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
ステップ(3)における前記反応させることが、30分間行われる、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
ステップ(3)における前記反応させることが、55℃~65℃の温度で行われる、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
ステップ(3)における前記反応させることが、60℃の温度で行われる、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
ステップ(3)において、前記一般式(XII)の前記化合物の各モル当量(eq.)を、前記ポリエチレングリコール(PEG)の少なくとも1.0、少なくとも2.0、少なくとも3.0または少なくとも4.0モル当量(eq.)と反応させる、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
ステップ(3)において、前記一般式(XII)の前記化合物の各モル当量(eq.)を、前記ポリエチレングリコール(PEG)の少なくとも4.5モル当量(eq.)と反応させる、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
ステップ(3)において、前記一般式(XII)の前記化合物の各モル当量(eq.)を、前記ポリエチレングリコール(PEG)の少なくとも5.0モル当量(eq.)と反応させる、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
ステップ(3)で使用される前記ポリエチレングリコール(PEG)が、前記ステップ(3)の反応温度で液体であることを特徴とする、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記方法が、少なくとも100g、少なくとも1kg、少なくとも10kg、少なくとも100kg、または少なくとも1000kgの前記式(XIX)の前記化合物が得られる規模で実施される、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
ステップ(2)で得られた前記式(XII)の化合物を溶媒から沈殿させる、請求項2~30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記溶媒がアルコール溶媒である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記溶媒が、極性溶媒である、請求項31~32のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
前記アルコール溶媒が、イソプロピルアルコール、エタノール、メタノール及びブタノールまたはそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項32~33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
前記アルコール溶媒が、第2級アルコールである、請求項32~34のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
前記アルコール溶媒が、イソプロピルアルコールである、請求項32~35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
前記溶媒がアセトニトリルである、請求項32~33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
前記式(XII)の化合物の少なくとも1回の再結晶が、ステップ(2)とステップ(3)との間に行われる、請求項2~37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
請求項31~37のいずれか1項に記載の溶媒が、ステップ2とステップ3との間の前記再結晶のための溶媒として使用される、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
ステップ3の後に、少なくとも1回、少なくとも2回、少なくとも3回、または少なくとも4回の水洗が行われる、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項41】
ステップ3の後に4~6回の水洗が行われる、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項42】
式(XIX)の化合物
【化7】
(式中、m=1であり、Rは炭素数2~12の直鎖と前記直鎖上の置換基としての1つ以上のメチル基とを有する炭化水素基を表し、Aはポリオキシエチレン残基を表す)を含む組成物から、前記式(XIX)の化合物を精製する方法であって、
アルカン、エーテル及びエステルならびにそれらの混合液から選択された溶媒の中に前記組成物の入った溶液を、1回以上の水洗にかけることを含む、前記方法。
【請求項43】
アルカン、エーテル及びエステルならびにそれらの混合液から選択される前記溶媒がエステルである、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
アルカン、エーテル及びエステルならびにそれらの混合液から選択される前記溶媒が酢酸エチルである、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記組成物が、ポリエチレングリコール(PEG)を含む、請求項42~44のいずれかに記載の方法。
【請求項46】
前記式(XIX)の化合物の前記精製することが、前記組成物から前記ポリエチレングリコール(PEG)を除去することを含む、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記ポリエチレングリコール(PEG)の前記除去することが、前記溶液の前記1回以上の水洗への前記かけることを含む、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記組成物が、下記一般式(XIII)の化合物
【化8】
をさらに含み、Rが請求項42に定義した通りであり、nがn≧2の整数である、請求項42~47のいずれか1項に記載の方法。
【請求項49】
前記式(XIX)の化合物の前記精製することが、前記式(XIII)の化合物を前記組成物から除去することを含む、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記式(XIII)の化合物の前記除去することが、前記一般式(XIX)の前記化合物を含む水溶液を調製することと、前記水溶液の、非極性溶媒による1回以上の洗浄によって、前記式(XIII)の化合物を除去することとを含む、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記非極性溶媒がアルカンを含む、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記アルカンがヘキサン、シクロヘキサンまたはヘプタンである、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記アルカンがシクロヘキサンである、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記方法によって得られる前記式(XIX)の化合物の純度が、200nmでのUV検出を伴う高速液体クロマトグラフィで測定して、少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%である、請求項1~53のいずれか1項に記載の方法。
【請求項55】
前記方法によって得られる前記式(XIX)の化合物の純度が、蒸発光散乱検出器(ELSD)を用いた検出を伴う高速液体クロマトグラフィで測定して、少なくとも99%である、請求項1~54のいずれか1項に記載の方法。
【請求項56】
下記一般式(XIII)の化合物
【化9】
(式中、Rは炭素数2~12の直鎖と前記直鎖上の置換基としての1つ以上のメチル基とを有する炭化水素基を表し、nはn≧2の整数である)を同定するステップをさらに含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項57】
下記一般式(XIII)の化合物
【化10】
(式中、Rは炭素数2~12の直鎖と前記直鎖上の置換基としての1つ以上のメチル基とを有する炭化水素基を表し、nはn≧2の整数である)を定量化するステップをさらに含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項58】
Aが、4~16個のオキシエチレン単位を含むポリオキシエチレン残基を表す、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項59】
Aが、8~10個のオキシエチレン単位を含むポリオキシエチレン残基を表す、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項60】
Aが、9個または10個のオキシエチレン単位を含むポリオキシエチレン残基を表す、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項61】
Rが、炭素数2~6の直鎖と、前記直鎖上の置換基としての1つ以上のメチル基とを有する炭化水素基を表す、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項62】
Rが、炭素数2~6の直鎖と、前記直鎖上の置換基としての2~4個のメチル基とを有する炭化水素基を表す、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項63】
Rが、炭素数4の直鎖と、前記直鎖上の置換基としての4個のメチル基とを有する炭化水素基を表す、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項64】
Rが、2,4,4-トリメチル-ペンタ-2-イル基を表す、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項65】
前記式(XIX)の化合物が、下記化合物
【化11】
であり、mが1に等しく、zがz=1~5から選択される整数である、
先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項66】
前記式(XIX)の化合物が、下記化合物
【化12】
であり、nが4~16の間の整数であり、好ましくはnが8、9または10に等しい、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項67】
下記一般式(XIX)の化合物
【化13】
であって、m=1であり、Rが炭素数2~12の直鎖と前記直鎖上の置換基としての1つ以上のメチル基とを有する炭化水素基を表し、Aがポリオキシエチレン残基を表し、
前記化合物が、先行請求項のいずれか1項に記載の方法によって得られる、前記化合物。
【請求項68】
200nmでのUV検出を伴う高速液体クロマトグラフィで測定して、少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%の純度を示す、請求項67に記載の化合物。
【請求項69】
蒸発光散乱検出器(ELSD)を用いた検出を伴う高速液体クロマトグラフィで測定して、少なくとも99%の純度を示す、請求項67または請求項68に記載の化合物。
【請求項70】
下記一般式(XIII)の化合物
【化14】
(式中、Rは炭素数2~12の直鎖と前記直鎖上の置換基としての1つ以上のメチル基とを有する炭化水素基を表し、nはn≧2の整数である)を、
前記式(XIII)の化合物と式(XIX)の化合物
【化15】
(式中、m=1であり、Rは炭素数2~12の直鎖と前記直鎖上の置換基としての1つ以上のメチル基とを有する炭化水素基を表し、Aはポリオキシエチレン残基を表す)とを含む組成物から、抽出し、除去するための非極性溶媒の使用。
【請求項71】
前記非極性溶媒が、請求項51~53のいずれか1項に定義された通りである、請求項70に記載の使用。
【請求項72】
Aが、請求項58~60のいずれか1項に定義された通りである、請求項70または請求項71に記載の使用。
【請求項73】
Rが、請求項61~64のいずれか1項に定義された通りである、請求項70~72のいずれか1項に記載の使用。
【請求項74】
前記式(XIX)の化合物が、請求項65~66のいずれか1項に定義された通りである、請求項70~73のいずれか1項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境適合性洗剤として使用できる化合物を調製し精製する方法、ならびにそのような方法によって得られる化合物を提供する。
【背景技術】
【0002】
生物薬剤学的薬物の使用は、個人の健康に影響を与える多くの疾患、障害、または病状を治療する方法として重要性を増し続けている。生物薬剤学的薬物は、通常、生体液からの精製によって、または哺乳類細胞株などの宿主細胞での組み換え産生を介して、得られる。しかし、このような生物薬剤学的製造プロセスでは、ウイルス汚染が深刻な問題をもたらす。生物薬剤学的製造プロセスでは、精製される生体液によって、または動物由来製品の使用を通じて、ウイルス汚染を生じさせる可能性がある。細菌汚染とは対照的に、ウイルス汚染は検出が困難である。しかし、ウイルス汚染が見過ごされ、感染性ウイルスが生物薬剤学的薬物の製剤に組み込まれると、それは患者に重大な健康上のリスクをもたらす。したがって、ウイルスの不活化は、生物薬剤学的製造において最も重要である。
【0003】
多くの生物薬剤学的製造プロセスでは、ウイルスの不活化に洗剤が使用されている。多くの場合、これらの洗剤は、いわゆる溶媒/洗剤(S/D)処理において溶媒と組み合わされる。洗剤トリトンX-100(4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール、エトキシル化)は、市販製品のS/D処理に長年使用されている。
【0004】
しかし、最近の生態学的研究によれば、トリトンX-100とその分解生成物とが水生生物の内分泌攪乱物質として潜在的に振る舞う可能性があり、環境への影響に関する懸念を高めることが示唆されている(2012年12月12日に採用された「ECHA Support document for identification of 4-(1,1,3,3-tetramethylbutyl)phenol, ethoxylated as substances of very high concern because, due to their degradation to a substance of very high concern (4-(1,1,3,3-tetramethylbutyl)phenol) with endocrine disrupting properties, they cause probable serious effects to the environment which give rise to an equivalent level of concern to those of CMRs and PBTs/vPvBs」を参照されたい)。その結果として、ウイルス不活化のための代替の環境適合性洗剤が必要である。WO2019/086463は、ウイルス不活化のためのそのような洗剤、及びその製造方法に関する。また一方、これらの化合物の調製及び精製のための改善された方法が必要であり、より高純度の化合物が望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、本発明の実施形態を提供することにより、当技術分野における、上記の必要性を満たし、上述の問題を解決する。
トリトン-X100の毒性とされているものは、そのフェノール部分から生じると言われており、この部分は海洋生物の特定の内分泌受容体に結合する能力を有する。一貫して、内分泌攪乱物質活性のインシリコ予測に基づいて、本発明による非フェノール性ポリオキシエチレンエーテル洗剤のいずれについても、それらが内分泌攪乱物質として活性であるという予測は皆無であった。
【0007】
本発明者らは、S/D処理及び単一洗剤処理において脂質エンベロープウイルスを効率的に不活化する、環境適合性の非フェノール性ポリオキシエチレンエーテル洗剤を合成した。よって、本発明者らは、脂質エンベロープウイルスを不活化するために、環境適合性の非フェノール性ポリオキシエチレンエーテル洗剤を使用できることを見出した。
【0008】
さらに、本発明者らは、本発明の洗剤の改良された調製及び精製方法、ならびにそのような方法によって得られる改良された純度を有する洗剤を開発した。
【0009】
したがって、本発明は、以下に記載する好ましい実施形態を提供する。
1.下記一般式(XIX)の化合物
【化1】
(式中、m=1であり、Rは炭素数2~12の直鎖と前記直鎖上の置換基としての1つ以上のメチル基とを有する炭化水素基を表し、Aはポリオキシエチレン残基を表す)の調製及び精製方法であって、
前記方法は、
(3)下記一般式(XII)の化合物
【化2】
(式中、m及びRは上記に定義された通りであり、Xはハロゲン原子またはヒドロキシル基を表す)を
一般式HO(CH
2CH
2O)
nH(nはn≧2の整数)のポリエチレングリコール(PEG)と反応させて、前記一般式(XIX)の化合物と下記一般式(XIII)の副生成物
【化3】
(式中、Rは上記に定義された通りであり、nはn≧2の整数である)とを生成することと、
(4)前記一般式(XIX)の化合物を、そこから未反応のポリエチレングリコール(PEG)と前記副生成物とを除去することによって精製することと、
のステップを含む、前記方法。
【0010】
2.前記ステップ(3)の前に、下記ステップ(2)をさらに含む、条項1に記載の方法。
(2)下記一般式(XIV)の化合物
【化4】
(式中、m及びRは条項1に定義された通りである)を、
下記一般式(XII)の化合物
【化5】
(式中、m、R及びXは条項1に定義された通りである)に変換すること。
【0011】
3.前記ステップ(2)の前に、下記ステップ(1)をさらに含む、条項2に記載の方法。
(1)下記一般式(XIV)の化合物
【化6】
(式中、m及びRは条項1に定義された通りである)を得るようにトルエンを反応させること。
【0012】
4.ステップ(3)において、前記ポリエチレングリコール(PEG)が、反応物及び溶媒として兼用される、先行条項のいずれか1項に記載の方法。
【0013】
5.ステップ(1)において、トルエンをジイソブチレンまたは化合物R-X(Rは条項1に定義された通りであり、Xはハロゲン原子を表す)と反応させる、条項3または条項4に記載の方法。
【0014】
6.ステップ(2)における前記変換することが、ラジカル開始剤としてAIBN(アゾビス(イソブチロニトリル))を用いたラジカル反応である、条項2~5のいずれかに記載の方法。
【0015】
7.Xが塩素、ヨウ素または臭素原子である、条項1~6のいずれかに記載の方法。
【0016】
8.Xが臭素原子である、条項1~7のいずれかに記載の方法。
【0017】
9.ステップ(2)における前記変換することが、ハロゲン化試薬としてN-ブロモスクシンイミド(NBS)を使用する、条項2~8のいずれかに記載の方法。
【0018】
10.前記ステップ(4)が、アルカン、エーテル及びエステルならびにそれらの混合液から選択された溶媒の中に前記一般式(XIX)の前記化合物の入った溶液を、1回以上の水洗にかけて、前記一般式(XIX)の前記化合物から前記未反応のポリエチレングリコール(PEG)を除去することを含む、先行条項のいずれか1項に記載の方法。
【0019】
11.アルカン、エーテル及びエステルならびにそれらの混合液から選択される前記溶媒がエステルである、条項10に記載の方法。
【0020】
12.アルカン、エーテル及びエステルならびにそれらの混合液から選択される前記溶媒が酢酸エチルである、条項11に記載の方法。
【0021】
13.ステップ(4)における、前記一般式(XIX)の前記化合物の、そこから前記副生成物を除去することによる前記精製することが、水及び水混和性有機溶媒を含む混合液の中に前記一般式(XIX)の前記化合物の入った溶液を、非極性溶媒による1回以上の洗浄にかけることを含む、先行条項のいずれか1項に記載の方法。
【0022】
14.前記非極性溶媒がアルカンを含む、条項13に記載の方法。
【0023】
15.前記アルカンがヘキサン、シクロヘキサンまたはヘプタンである、条項14に記載の方法。
【0024】
16.前記アルカンがシクロヘキサンである、条項15に記載の方法。
【0025】
17.ステップ(3)が、前記ポリエチレングリコール(PEG)以外の溶媒または希釈剤を使用せずに実施される、先行条項のいずれか1項に記載の方法。
【0026】
18.ハロゲン化溶媒を使用しない、先行条項のいずれか1項に記載の方法。
【0027】
19.ステップ(3)の後に分取クロマトグラフィ法を使用することを全く含まない、先行条項のいずれか1項に記載の方法。
【0028】
20.分取クロマトグラフィ法を使用することを全く含まない、先行条項のいずれか1項に記載の方法。
【0029】
21.ステップ(3)における前記反応させることが、少なくとも10分間及び1時間以下の間行われる、先行条項のいずれか1項に記載の方法。
【0030】
22.ステップ(3)における前記反応させることが、少なくとも20分間及び45分以下の間行われる、先行条項のいずれか1項に記載の方法。
【0031】
23.ステップ(3)における前記反応させることが、30分間行われる、先行条項のいずれか1項に記載の方法。
【0032】
24.ステップ(3)における前記反応させることが、55℃~65℃の温度で行われる、先行条項のいずれか1項に記載の方法。
【0033】
25.ステップ(3)における前記反応させることが、60℃の温度で行われる、先行条項のいずれか1項に記載の方法。
【0034】
26.ステップ(3)において、前記一般式(XII)の前記化合物の各モル当量(eq.)を、前記ポリエチレングリコール(PEG)の少なくとも1.0、少なくとも2.0、少なくとも3.0または少なくとも4.0モル当量(eq.)と反応させる、先行条項のいずれか1項に記載の方法。
【0035】
27.ステップ(3)において、前記一般式(XII)の前記化合物の各モル当量(eq.)を、前記ポリエチレングリコール(PEG)の少なくとも4.5モル当量(eq.)と反応させる、先行条項のいずれか1項に記載の方法。
【0036】
28.ステップ(3)において、前記一般式(XII)の前記化合物の各モル当量(eq.)を、前記ポリエチレングリコール(PEG)の少なくとも5.0モル当量(eq.)と反応させる、先行条項のいずれか1項に記載の方法。
【0037】
29.ステップ(3)で使用される前記ポリエチレングリコール(PEG)が、前記ステップ(3)の反応温度で液体であることを特徴とする、先行条項のいずれか1項に記載の方法。
【0038】
30.前記方法が、少なくとも100g、少なくとも1kg、少なくとも10kg、少なくとも100kg、または少なくとも1000kgの前記式(XIX)の前記化合物が得られる規模で実施される、先行条項のいずれか1項に記載の方法。
【0039】
31.ステップ(2)で得られた前記式(XII)の化合物を溶媒から沈殿させる、条項2~30のいずれか1項に記載の方法。
【0040】
32.前記溶媒がアルコール溶媒である、条項31に記載の方法。
【0041】
33.前記溶媒が、極性溶媒である、条項31~32のいずれか1項に記載の方法。
【0042】
34.前記アルコール溶媒が、イソプロピルアルコール、エタノール、メタノール及びブタノールまたはそれらの組み合わせからなる群から選択される、条項32~33のいずれか1項に記載の方法。
【0043】
35.前記アルコール溶媒が、第2級アルコールである、条項32~34のいずれか1項に記載の方法。
【0044】
36.前記アルコール溶媒が、イソプロピルアルコールである、条項32~35のいずれか1項に記載の方法。
【0045】
37.前記溶媒がアセトニトリルである、条項32~33のいずれか1項に記載の方法。
【0046】
38.前記式(XII)の化合物の少なくとも1回の再結晶が、ステップ(2)とステップ(3)との間に行われる、条項2~37のいずれか1項に記載の方法。
【0047】
39.条項31~37のいずれか1項に記載の溶媒が、ステップ2とステップ3との間の前記再結晶のための溶媒として使用される、条項38に記載の方法。
【0048】
40.ステップ3の後に、少なくとも1回、少なくとも2回、少なくとも3回、または少なくとも4回の水洗が行われる、先行条項のいずれか1項に記載の方法。
【0049】
41.ステップ3の後に4~6回の水洗が行われる、先行条項のいずれか1項に記載の方法。
【0050】
42.式(XIX)の化合物
【化7】
(式中、m=1であり、Rは炭素数2~12の直鎖と前記直鎖上の置換基としての1つ以上のメチル基とを有する炭化水素基を表し、Aはポリオキシエチレン残基を表す)を含む組成物から、前記式(XIX)の化合物を精製する方法であって、
アルカン、エーテル及びエステルならびにそれらの混合液から選択された溶媒の中に前記組成物の入った溶液を、1回以上の水洗にかけることを含む、前記方法。
【0051】
43.アルカン、エーテル及びエステルならびにそれらの混合液から選択される前記溶媒がエステルである、条項42に記載の方法。
【0052】
44.アルカン、エーテル及びエステルならびにそれらの混合液から選択される前記溶媒が酢酸エチルである、条項43に記載の方法。
【0053】
45.前記組成物が、ポリエチレングリコール(PEG)を含む、条項42~44のいずれかに記載の方法。
【0054】
46.前記式(XIX)の化合物の前記精製することが、前記組成物から前記ポリエチレングリコール(PEG)を除去することを含む、条項45に記載の方法。
【0055】
47.前記ポリエチレングリコール(PEG)の前記除去することが、前記溶液の前記1回以上の水洗への前記かけることを含む、条項46に記載の方法。
【0056】
48.前記組成物が、下記一般式(XIII)の化合物
【化8】
をさらに含み、Rが条項42に定義した通りであり、nがn≧2の整数である、条項42~47のいずれか1項に記載の方法。
【0057】
49.前記式(XIX)の化合物の前記精製することが、前記式(XIII)の化合物を前記組成物から除去することを含む、条項48に記載の方法。
【0058】
50.前記式(XIII)の化合物の前記除去することが、前記一般式(XIX)の前記化合物を含む水溶液を調製することと、前記水溶液の、非極性溶媒による1回以上の洗浄によって、前記式(XIII)の化合物を除去することとを含む、条項49に記載の方法。
【0059】
51.前記非極性溶媒がアルカンを含む、条項50に記載の方法。
【0060】
52.前記アルカンがヘキサン、シクロヘキサンまたはヘプタンである、条項51に記載の方法。
【0061】
53.前記アルカンがシクロヘキサンである、条項52に記載の方法。
【0062】
54.前記方法によって得られる前記式(XIX)の化合物の純度が、200nmでのUV検出を伴う高速液体クロマトグラフィで測定して、少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%である、条項1~53のいずれか1項に記載の方法。
【0063】
55.前記方法によって得られる前記式(XIX)の化合物の純度が、蒸発光散乱検出器(ELSD)を用いた検出を伴う高速液体クロマトグラフィで測定して、少なくとも99%である、条項1~54のいずれか1項に記載の方法。
【0064】
56.下記一般式(XIII)の化合物
【化9】
(式中、Rは炭素数2~12の直鎖と前記直鎖上の置換基としての1つ以上のメチル基とを有する炭化水素基を表し、nはn≧2の整数である)を同定するステップをさらに含む、先行条項のいずれか1項に記載の方法。
【0065】
57.下記一般式(XIII)の化合物
【化10】
(式中、Rは炭素数2~12の直鎖と前記直鎖上の置換基としての1つ以上のメチル基とを有する炭化水素基を表し、nはn≧2の整数である)を定量化するステップをさらに含む、先行条項のいずれか1項に記載の方法。
【0066】
58.Aが、4~16個のオキシエチレン単位を含むポリオキシエチレン残基を表す、先行条項のいずれか1項に記載の方法。
【0067】
59.Aが、8~10個のオキシエチレン単位を含むポリオキシエチレン残基を表す、先行条項のいずれか1項に記載の方法。
【0068】
60.Aが、9個または10個のオキシエチレン単位を含むポリオキシエチレン残基を表す、先行条項のいずれか1項に記載の方法。
【0069】
61.Rが、炭素数2~6の直鎖と、前記直鎖上の置換基としての1つ以上のメチル基とを有する炭化水素基を表す、先行条項のいずれか1項に記載の方法。
【0070】
62.Rが、炭素数2~6の直鎖と、前記直鎖上の置換基としての2~4個のメチル基とを有する炭化水素基を表す、先行条項のいずれか1項に記載の方法。
【0071】
63.Rが、炭素数4の直鎖と、前記直鎖上の置換基としての4個のメチル基とを有する炭化水素基を表す、先行条項のいずれか1項に記載の方法。
【0072】
64.Rが、2,4,4-トリメチル-ペンタ-2-イル基を表す、先行条項のいずれか1項に記載の方法。
【0073】
65.前記式(XIX)の化合物が、下記化合物
【化11】
であり、mが1に等しく、zがz=1~5から選択される整数である、
先行条項のいずれか1項に記載の方法。
【0074】
66.前記式(XIX)の化合物が、下記化合物
【化12】
であり、nが4~16の間の整数であり、好ましくはnが8、9または10に等しい、先行条項のいずれか1項に記載の方法。
【0075】
67.下記一般式(XIX)の化合物
【化13】
であって、m=1であり、Rが炭素数2~12の直鎖と前記直鎖上の置換基としての1つ以上のメチル基とを有する炭化水素基を表し、Aがポリオキシエチレン残基を表し、
前記化合物が、先行条項のいずれか1項に記載の方法によって得られる、前記化合物。
【0076】
68.200nmでのUV検出を伴う高速液体クロマトグラフィで測定して、少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%の純度を示す、条項67に記載の化合物。
【0077】
69.蒸発光散乱検出器(ELSD)を用いた検出を伴う高速液体クロマトグラフィで測定して、少なくとも99%の純度を示す、条項67または条項68に記載の化合物。
【0078】
70.下記一般式(XIII)の化合物
【化14】
(式中、Rは炭素数2~12の直鎖と前記直鎖上の置換基としての1つ以上のメチル基とを有する炭化水素基を表し、nはn≧2の整数である)を、
前記式(XIII)の化合物と式(XIX)の化合物
【化15】
(式中、m=1であり、Rは炭素数2~12の直鎖と前記直鎖上の置換基としての1つ以上のメチル基とを有する炭化水素基を表し、Aはポリオキシエチレン残基を表す)とを含む組成物から、抽出し、除去するための非極性溶媒の使用。
【0079】
71.前記非極性溶媒が、条項51~53のいずれか1項に定義された通りである、条項70に記載の使用。
【0080】
72.Aが、条項58~60のいずれか1項に定義された通りである、条項70または条項71に記載の使用。
【0081】
73.Rが、条項61~64のいずれか1項に定義された通りである、条項70~72のいずれか1項に記載の使用。
【0082】
74.前記式(XIX)の化合物が、条項65~66のいずれか1項に定義された通りである、条項70~73のいずれか1項に記載の使用。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【
図1】17℃±1℃でのIVIG含有液のS/D処理における低濃度4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレートのウイルス不活化効率を示す。3成分混合液を最終的な濃度が0.04%~0.06%の4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレート、0.01%~0.02%のポリソルベート80、0.01%~0.02%のTnBPとなるように用いた(同じ濃度のトリトンX-100と対照比較した)。時間の経過に伴うウイルスの不活化を、PRVを用いた2回の実験(それぞれA及びB)のウイルスリダクション指数(RF)によって示す。4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレートを使用したS/D処理のウイルス不活化を、トリトンX-100(4-tert-オクチルフェノールポリエトキシレート、「TX-100」)を使用したS/D処理のウイルス不活化と比較した。(A)では、両方の洗剤が同一の不活化速度を示すことに留意されたい。塗りつぶされた記号は感染力が残っている値を示し、塗りつぶされていない記号は検出限界未満のリダクション指数を示す。
【
図2】1℃±1℃でのヒト血清アルブミン(HSA)含有液のS/D処理における低濃度4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレートのウイルス不活化効率を示す。3成分混合液を最終的な濃度が0.08%~0.1%の4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレート、0.02%~0.03%のポリソルベート80、0.02%~0.03%のTnBPとなるように用いた(同じ濃度のトリトンX-100と対照比較した)。時間の経過に伴うウイルスの不活化を、X-MuLVを用いた2回の実験(それぞれA及びB)のウイルスリダクション指数(RF)によって示す。4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレートを使用したS/D処理のウイルス不活化を、トリトンX-100(「TX-100」)を使用したS/D処理のウイルス不活化と比較した。塗りつぶされた記号は感染力が残っている値を示し、塗りつぶされていない記号は検出限界未満のリダクション指数を示す。
【
図3】19℃±1℃でのHSA含有液のS/D処理における低濃度4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレートのウイルス不活化効率を示す。3成分混合液を最終的な濃度が0.08%~0.1%の4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレート、0.02%~0.03%のポリソルベート80、0.02%~0.03%のTnBPとなるように用いた(同じ濃度のトリトンX-100と対照比較した)。時間の経過に伴うウイルスの不活化を、X-MuLVを用いた2回の実験(それぞれA及びB)のウイルスリダクション指数(RF)によって示す。4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレートを使用したS/D処理のウイルス不活化を、トリトンX-100(「TX-100」)を使用したS/D処理のウイルス不活化と比較した。塗りつぶされた記号は感染力が残っている値を示し、塗りつぶされていない記号は検出限界未満のリダクション指数を示す。
【
図4】Aは、14℃±1℃でのHSAを含む緩衝液の洗剤処理における低濃度の4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレート、または還元型トリトンX-100(すなわち、4-tert-オクチルシクロヘキシルアルコールポリエトキシレート)、またはBrij C10(すなわち、n-ヘキサデシルアルコールポリエトキシレート)のウイルス不活化効率を示す。単一洗剤処理を最終的な濃度が0.09%~0.11%の4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレート、または還元型トリトンX-100、またはBrij C10となるように用いた(同じ濃度のトリトンX-100と対照比較した)。時間の経過に伴うウイルスの不活化を、BVDVを用いた2回の実験の平均ウイルスリダクション指数(RF)によって示す。4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレート、または還元型トリトンX-100(「還元型TX-100」)、またはBrij C10を使用した単一洗剤処理のウイルス不活化を、トリトンX-100(「TX-100」)を使用した単一洗剤処理のウイルス不活化と比較した。4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレート及び還元型トリトンX-100は、トリトンX-100と同じ不活化速度を有することに留意されたい。塗りつぶされた記号は感染力が残っている値を示し、塗りつぶされていない記号は検出限界未満のリダクション指数を示す。Bは、14℃±1℃でのHSAを含む緩衝液の洗剤処理における低濃度の4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレート、または還元型トリトンX-100のウイルス不活化効率を示す。単一洗剤処理を最終的な濃度が0.02%~0.04%の4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレート、または還元型トリトンX-100となるように用いた(同じ濃度のトリトンX-100と対照比較した)。時間の経過に伴うウイルスの不活化を、BVDVを用いた2回の実験の平均ウイルスリダクション指数(RF)によって示す。4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレート、または還元型トリトンX-100(「還元型TX-100」)を使用した単一洗剤処理のウイルス不活化を、トリトンX-100(「TX-100」)を使用した単一洗剤処理のウイルス不活化と比較した。塗りつぶされた記号は感染力が残っている値を示し、塗りつぶされていない記号は検出限界未満のリダクション指数を示す。
【
図5】Aは、17℃±1℃でのIVIG含有液の洗剤処理における低濃度の4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレート、または還元型トリトンX-100のウイルス不活化効率を示す。単一洗剤処理を最終的な濃度が0.09%~0.11%の4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレート、または還元型トリトンX-100となるように用いた(同じ濃度のトリトンX-100と対照比較した)。時間の経過に伴うウイルスの不活化を、BVDVを用いた2回の実験の平均ウイルスリダクション指数(RF)によって示す。4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレート、または還元型トリトンX-100(「還元型TX-100」)を使用した単一洗剤処理のウイルス不活化を、トリトンX-100(「TX-100」)を使用した単一洗剤処理のウイルス不活化と比較した。塗りつぶされた記号は感染力が残っている値を示し、塗りつぶされていない記号は検出限界未満のリダクション指数を示す。Bは、17℃±1℃でのIVIG含有液の洗剤処理における低濃度の4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレート、または還元型トリトンX-100のウイルス不活化効率を示す。単一洗剤処理を最終的な濃度が0.02%~0.04%の4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレート、または還元型トリトンX-100となるように用いた(同じ濃度のトリトンX-100と対照比較した)。時間の経過に伴うウイルスの不活化を、BVDVを用いた2回の実験の平均ウイルスリダクション指数(RF)によって示す。4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレート、または還元型トリトンX-100(「還元型TX-100」)を使用した単一洗剤処理のウイルス不活化を、トリトンX-100(「TX-100」)を使用した単一洗剤処理のウイルス不活化と比較した。塗りつぶされた記号は感染力が残っている値を示し、塗りつぶされていない記号は検出限界未満のリダクション指数を示す。
【
図6】23℃±1℃での第VIII因子含有液の洗剤処理における低濃度の4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレート、または還元型トリトンX-100のウイルス不活化効率を示す。単一洗剤処理を最終的な濃度が0.09%~0.11%の4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレート、または還元型トリトンX-100となるように用いた(同じ濃度のトリトンX-100と対照比較した)。時間の経過に伴うウイルスの不活化を、BVDVを用いた2回の実験の平均ウイルスリダクション指数(RF)によって示す。4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレート、または還元型トリトンX-100(「還元型TX-100」)を使用した単一洗剤処理のウイルス不活化を、トリトンX-100(「TX-100」)を使用した単一洗剤処理のウイルス不活化と比較した。塗りつぶされた記号は感染力が残っている値を示し、塗りつぶされていない記号は検出限界未満のリダクション指数を示す。
【
図7-1】実施例3に記載のHPLC法1を使用した生成物のスペクトルを示す。
【
図7-2】実施例3に記載のHPLC法1を使用した生成物のスペクトルを示す。
【
図8】実施例3に記載のHPLC法2を使用した生成物のスペクトルを示す。
【
図9】実施例3に記載のHPLC法3を使用した生成物のスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0084】
以下に特に定義しない限り、本発明で使用される用語は、当業者に知られているその一般的な意味に従って理解されるものとする。
【0085】
本明細書で引用されている全ての出版物、特許及び特許出願は、あらゆる目的において、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0086】
定義
「脂質エンベロープを有するウイルス」、「脂質エンベロープウイルス」及び「エンベロープウイルス」という用語は、本明細書では区別なく使用され、当業者に知られている意味を有する。例えば、脂質エンベロープウイルスは、仮性狂犬病ウイルス(PRV)、単純ヘルペスウイルス、水痘帯状疱疹ウイルス、サイトメガロウイルスもしくはエプスタイン-バーウイルスなどのヘルペスウイルス科;B型肝炎ウイルスなどのヘパドナウイルス科;シンドビスウイルス、風疹ウイルスもしくはアルファウイルスなどのトガウイルス科;リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルスなどのアレナウイルス科;ウエストナイルウイルス、ウシウイルス性下痢症ウイルス(BVDV)、デングウイルス、C型肝炎ウイルスもしくは黄熱病ウイルスなどのフラビウイルス科;インフルエンザウイルスA、インフルエンザウイルスB、インフルエンザウイルスC、イサウイルスもしくはソゴトウイルスなどのオルソミクソウイルス科;センダイウイルス、麻疹ウイルス、ムンプスウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、牛疫ウイルスもしくはイヌジステンパーウイルスなどのパラミクソウイルス科;カリフォルニア脳炎ウイルスもしくはハンタウイルスなどのブニヤウイルス科;水疱性口内炎ウイルスもしくは狂犬病ウイルスなどのラブドウイルス科;エボラウイルスもしくはマールブルグウイルスなどのフィロウイルス科;コロナウイルス、重症急性呼吸器症候群(SARS)コロナウイルスもしくはSARS-CoV-2などのコロナウイルス科;ボルナ病ウイルスなどのボルナウイルス科;またはアルテリウイルスもしくはウマ動脈炎ウイルスなどのアルテリウイルス科;ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ヒトTリンパ好性ウイルス1(HTLV-1)もしくは異種指向性マウス白血病ウイルス(X-MuLV)などのレトロウイルス科;ワクシニアウイルスもしくはOrthopoxvirus variolae(痘瘡ウイルス)などのポックスウイルス科であり得る。
【0087】
本明細書で使用される「脂質エンベロープを有するウイルスの不活化」という用語は、脂質エンベロープウイルスが細胞に感染する能力を攪乱することを指す。当業者に理解されるように、脂質エンベロープウイルスが細胞に感染する能力、すなわち脂質エンベロープウイルスの感染力は、典型的には、液体中の感染性ウイルス粒子の数を求めることによって評価される。したがって、本明細書で使用される「脂質エンベロープを有するウイルスの不活化」または「脂質エンベロープウイルスの不活化」という用語は、溶液中の感染性ウイルス粒子の数を減らすことを指す。
【0088】
本明細書において、「Log10減少値」または「LRV」という用語は、「ウイルスリダクション指数」、「リダクション指数」、「RF」または「R」という用語と区別なく使用される。一実施形態では、「Log10減少値」または「LRV」は、液体中の感染性ウイルス粒子の減少の尺度として使用することができる。本明細書で使用される場合、「Log10減少値」または「LRV」は、ウイルス不活化後の感染性ウイルス粒子に対するウイルス不活化前の感染性ウイルス粒子の比の対数(底10)として定義される。LRV値は、与えられたウイルスの種類に固有である。ゼロを超える任意のLog10減少値(LRV)が、生物薬剤学的製造の方法及びプロセスなどの方法及びプロセスの安全性を改善するために有益であることは、当業者には明らかである。本発明による方法によって達成されるLog10減少値(LRV)は、当業者に知られているようにして求められる。例えば、本発明によるウイルス不活化の方法を液体に施す前後で液体中の感染性ウイルス粒子の数を測定することにより、LRVを求めることができる。
【0089】
当業者は、液体中の感染性ウイルス粒子を測定するための多数の方法を認識しているであろう。例えば、限定するものではないが、液体中の感染性ウイルス粒子濃度は、好ましくはプラークアッセイまたはTCID50アッセイによって、より好ましくはTCID50アッセイによって測定することができる。本明細書で使用される「TCID50アッセイ」は、組織培養感染用量アッセイを指す。TCID50アッセイはエンドポイント希釈試験であり、TCID50値は、植え付けた細胞培養の50%に細胞死または病理学的変化を誘発するのに必要なウイルス濃度を表す。
【0090】
本明細書で使用される「界面活性剤」という用語は、2種の液体間または液体と固体との間の表面張力を低下させる化合物を指す。界面活性剤は、洗剤、湿潤剤、乳化剤、発泡剤、及び分散剤として機能し得る。
【0091】
本発明に関連して、最初及び2番目に言及した溶媒、洗剤及び/または液体に関連する「~への添加」、「~に添加する」または「~に添加された」などの用語は、最初に言及した溶媒、洗剤及び/または液体が、2番目に言及した溶媒、洗剤及び/または液体に添加される状況を包含する。しかしながら、これらの用語はまた、2番目に言及した溶媒、洗剤及び/または液体が、最初に言及した溶媒、洗剤及び/または液体に添加される状況を包含するように意図されている。したがって、「~への添加」、「~に添加する」または「~に添加された」などの用語は、最初に言及した溶媒、洗剤及び/または液体が、2番目に言及した溶媒、洗剤及び/または液体に添加されるか、それともその逆に添加されるかを特定するように意図されていない。
【0092】
当業者に知られるように、「洗剤」という用語は、当技術分野で公知であるその一般的な意味に従って使用され、特に脂質膜を透過化できる界面活性剤を含む。例えば、洗剤トリトンX-100及びデオキシコレートは、タンパク質の疎水性セグメントに結合することにより、両親媒性膜タンパク質を可溶化することが示唆されている(Simons et al., 1973を参照)。洗剤は、その電荷に応じて、大きく3つのグループに分類される。陰イオン洗剤は、陰イオン、すなわち負に帯電した親水性基を含む。例示的な陰イオン洗剤は、臭化テトラデシルトリメチルアンモニウム、臭化ドデシルトリメチルアンモニウム、ラウレス硫酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、セトリミド及び臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウムである。陽イオン洗剤は、陽イオン、すなわち正に帯電した親水性基を含む。例示的な陽イオン洗剤は、塩化ベンザルコニウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)、塩化セチルピリジニウム(CPC)及び塩化ベンゼトニウム(BZT)である。本明細書で使用される「非イオン洗剤」という用語は、正または負の電荷を持たない洗剤を指す。例示的な非イオン洗剤は、ソルビタンエステル(ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエート)、ポリソルベート(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(ポリソルベート20)、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタントリステアレート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレン(20)-ソルビタン-モノオレエート(Tween(登録商標)80/ポリソルベート80))、ポロクサマー(ポロクサマー407、ポロクサマー188)及びクレモホールである。本発明による洗剤は、好ましい実施形態に明記されている通りである。
【0093】
本明細書で使用される「非フェノール性」という用語は、「フェノールを含まない」という用語と区別なく用いられている。本発明による非フェノール性洗剤は、フェノール官能基を全く含まない洗剤を指す。
【0094】
「芳香族」という用語は、当業者に知られている意味を有する。非芳香族洗剤とは、芳香環を全く含まない洗剤を指す。
【0095】
本明細書で使用される「環境適合性」という用語は、当業者に知られている意味を有する。本発明の好ましい実施形態では、洗剤に関して、「環境適合性」という用語は、洗剤が内分泌攪乱物質として振る舞わないことを示す。内分泌攪乱物質は、内分泌系の機能(複数可)を変化させ、その結果、無傷の生物もしくはその子孫、または(亜)個体群に健康への悪影響を引き起こす外因性物質である。当業者は、内分泌攪乱物質を同定する様々な方法を知っている。内分泌攪乱物質及びその評価に関するさらに詳しい情報を、例えば、2012年12月12日に採用されたECHAの「Support document for identification of 4-(1,1,3,3-tetramethylbutyl)phenol, ethoxylated as substances of very high concern because, due to their degradation to a substance of very high concern (4-(1,1,3,3-tetramethylbutyl)phenol) with endocrine disrupting properties, they cause probable serious effects to the environment which give rise to an equivalent level of concern to those of CMRs and PBTs/vPvBs」(この文書はその全体があらゆる目的で本明細書に組み込まれる)、または世界保健機関の国際化学物質安全性計画によって発行されたパンフレット「Global Assessment of the State-of-the-Science of Endocrine Disruptors」(WHO/PCS/EDC/02.2)(この文書はその全体があらゆる目的で本明細書に組み込まれる)で得ることができる。
【0096】
本明細書で使用される「生物学的医薬品」という用語は、当技術分野で公知であり、その活性物質が生物学的物質、例えば哺乳動物細胞または微生物によって産生される生物学的物質である生成物を指す。本明細書で使用するとき、本発明の方法で使用される生物学的医薬品は、最終的に製造された生成物に限定されず、好ましくは、製造プロセスの任意の段階における中間生成物も含む。
【0097】
本明細書で使用される「生物薬剤学的薬物」という用語は、当業者に知られている意味を有する。生物薬剤学的薬物には、組み換え型生物薬剤学的薬物と、ヒト血漿などの他の供給源から得られる生物薬剤学的薬物との両方が含まれる。
【0098】
本明細書で使用される用語「デプスフィルタ」は、当技術分野で公知である意味を有する。具体的には、そのようなフィルタ(例えば、密度勾配型デプスフィルタ)は、フィルタ材料の深さ内での濾過を実現する。そのようなフィルタの一般的なクラスは、複雑で曲がりくねった流路の迷路を形成するように結合された(または他の方法で固定された)繊維のランダムマトリックスを含むクラスである。これらのフィルタでの粒子の分離は、一般に、繊維マトリックスによる捕捉、または繊維マトリックスへの吸着によって生じる。デプスフィルタは、濾過助剤または「マトリックス」、例えば、紙、プラスチック、金属、ガラス、ガラス繊維、ナイロン、ポリオレフィン、炭素、セラミック、珪藻土、セルロースまたは珪藻岩(海面上に持ち上がった海成堆積物に見られる微細藻類(珪藻)の骨格残骸)と共に、セルロースまたはポリプロピレンの繊維、繊維マット、織布または不織布の繊維層、あるいはナイロンまたはレーヨンなどの合成織物、例えば、Miracloth(登録商標)(Calbiochem, La Jolla, Calif.)を含むがこれらに限定されない多数の材料で構成され得る。
【0099】
本明細書で使用される用語「生物薬剤学的薬物の精製」は、当業者に知られている意味を有し、本発明の混合液に含まれ得る他の物質から生物薬剤学的薬物を分離することを指す。本発明の好ましい実施形態において、用語「生物薬剤学的薬物の精製」は、生物薬剤学的薬物を本発明の洗剤から分離することを指す。
【0100】
「クロマトグラフィ」という用語は、当技術分野で公知である意味に従って使用される。これには、混合液中に存在する他の分子から目的の分析物(例えば、生物薬剤学的薬物などの標的分子)を分離する任意のクロマトグラフィ技法が含まれる。通常、目的の分析物は、混合液の個々の分子が移動相の影響下で静止媒体中を移動する速度、または結合及び溶出プロセスの差異の結果として、他の分子から分離される。
【0101】
「クロマトグラフィ樹脂」及び「クロマトグラフィ媒体」という用語は、本明細書では区別なく使用され、混合液中に存在する他の分子から目的の分析物(例えば、生物薬剤学的薬物などの標的分子)を分離する任意の種類の相(例えば、固相)を指す。通常、目的の分析物は、混合液の個々の分子が移動相の影響下で固定固相中を移動する速度、または結合及び溶出プロセスの相違の結果として、他の分子から分離される。様々なタイプのクロマトグラフィ媒体の例には、例えば、陽イオン交換樹脂、陽イオン交換膜、親和性樹脂、陰イオン交換樹脂、陰イオン交換膜、疎水性相互作用樹脂、及びイオン交換モノリスが含まれる。
【0102】
本明細書で使用される「医薬製剤」という用語は、当業者に知られている意味を有し、患者への投与に適した任意の製剤を指す。医薬製剤は、当技術分野で公知である方法に従って調製することができる。例えば、製剤中に存在する任意の生物薬剤学的薬物に対して、当業者は、緩衝剤、安定剤、界面活性剤、酸化防止剤、キレート剤及び/または防腐剤などを含む好ましい追加の成分を選択し添加することができよう。
【0103】
本明細書で使用される「溶媒/洗剤混合液」という用語は、当業者に知られている意味を有する。好ましい実施形態では、本発明に従って使用される溶媒/洗剤混合液は、水以外の少なくとも1つの溶媒と少なくとも1つの洗剤とを含有する。本発明に従って使用される溶媒は、好ましくは有機溶媒であり、最も好ましくはリン酸トリ-n-ブチルである。混合液に含まれる異なる溶媒及び/または洗剤の数は、特に限定されない。例えば、溶媒/洗剤混合液は、リン酸トリ-n-ブチル、ポリソルベート80、及び本発明によるポリオキシエチレンエーテル洗剤から構成され得る。
【0104】
本発明において数値範囲を示すために使用される場合、「~の間」という用語は、それぞれの範囲の示されている下限及び上限を含むことを理解されたい。例えば、温度が0℃~10℃の間であると示されている場合、これには0℃及び10℃の温度が含まれる。同様に、変数xが、例えば4~16の間の整数であると示されている場合、これには整数4及び16が含まれる。
【0105】
本明細書で使用される場合、「~を含んでいる(comprising)」または「~を含む(comprises)」などの出現用語のそれぞれを、任意選択で「~からなっている(consisting of)」または「~からなる(consists of)」に置き換えてもよい。
【0106】
実施形態
本発明は、ポリオキシエチレンエーテル洗剤及びポリオキシプロピレンエーテル洗剤、ならびにそれらの調製及び精製のための方法と、ウイルス不活化のためのこれらの洗剤の方法及び使用とに関する。
【0107】
トリトン-X100の毒性作用は、そのフェノール部分から生じ、この部分は海洋生物の特定の内分泌受容体に結合する能力を有する。芳香環とPEG鎖との間にメチレン基を挿入することにより、新しい式XIXの構造にはトリトン-X100のフェノール官能基がもはや存在しなくなる。さらに、PEG鎖が環境中に放出された後に分解されると、曝露されたベンジルアルコールが容易に酸化して、対応する安息香酸になる。この代謝産物は、フェノール誘導体とは完全に異なる極性と幾何学的構造とを有し、それによって内分泌受容体への結合を減少させるようになる。
【0108】
上記の考察に基づいて、本発明者らは、非フェノール性ポリオキシエチレンエーテルを合成し、それらの抗ウイルス活性を試験した(実施例1~9を参照)。
【0109】
したがって、一態様では、本発明は、以下の一般式(XIX)の非フェノール性ポリオキシエチレンエーテルを提供する。
【化16】
式中、m=1であり、Rは炭素数2~12の直鎖と前記直鎖上の置換基としての1つ以上のメチル基とを有する炭化水素基を表し、Aはポリオキシエチレン残基を表す。
【0110】
本発明はまた、以下の一般式(XIX)の非フェノール性ポリオキシエチレンエーテルを提供する。
【化17】
式中、m=1であり、Rは炭素原子数2~12の直鎖と前記直鎖上の置換基としての1つ以上のメチル基とを有する炭化水素基を表し、Aはポリオキシエチレン残基を表し、任意選択で、以下の構造式を有する29-[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェニル]-3,6,9,12,15,18,21,24,27-ノナオキサノナコサン-1-オールが除外されることを条件とする。
【化18】
式(XIX)中、Rは、炭素数2~12、好ましくは2~8、より好ましくは2~6、最も好ましくは4の直鎖と、前記直鎖上の置換基(複数可)としての1つ以上、好ましくは2~6、最も好ましくは4個のメチル基(複数可)とを有する炭化水素基を表す。
【0111】
好ましくは、Rは、炭素数2~12、好ましくは2~8、より好ましくは2~6、最も好ましくは4の直鎖と、前記直鎖上の置換基(複数可)としての2個のメチル基(複数可)とを有する炭化水素基、炭素数2~12、好ましくは2~8、より好ましくは2~6、最も好ましくは4の直鎖と、前記直鎖上の置換基(複数可)としての4個のメチル基(複数可)とを有する炭化水素基、または炭素数2~12、好ましくは2~8、より好ましくは2~6、最も好ましくは4の直鎖と、前記直鎖上の置換基(複数可)としての6個のメチル基(複数可)とを有する炭化水素基を表す。
【0112】
最も好ましくは、Rは、2,4,4-トリメチル-ペンタ-2-イル基を表す。
【0113】
式(XIX)中、Aは、ポリオキシエチレン残基、好ましくはオキシエチレン単位を2~20個含むポリオキシエチレン残基、より好ましくはオキシエチレン単位を4~16個含むポリオキシエチレン残基、さらにいっそう好ましくはオキシエチレン単位を8~12個含むポリオキシエチレン残基、最も好ましくはオキシエチレン単位を9個または10個含むポリオキシエチレン残基を表す。
【0114】
一般式(XIX)の化合物の好ましい態様は、Rが炭素数2~6の直鎖と前記直鎖上の置換基としての2~4個のメチル基とを有する炭化水素基であり、m=1であり、Aが8~12個のオキシエチレン単位を含むポリオキシエチレン残基である、化合物である。
【0115】
一般式(XIX)の化合物の具体的な好ましい実施形態は、以下の化合物である。
【化19】
式中、mは1に等しく、zはz=1~5から選択される整数である。
【0116】
一般式(XIX)の化合物の別の具体的な好ましい実施形態は、以下の化合物である。
【化20】
式中、nは4~16の間の整数であり、好ましくはnは8、9または10に等しい。
【0117】
ポリオキシエチレンエーテルは、当業者に知られており、式Aによる以下の構造を有する。
【化21】
式中、nは1以上である。
【0118】
当業者には明らかであるように、ポリオキシプロピレンエーテルは、本発明によるポリオキシエチレンエーテルと非常に類似した特性を有し得、対応する方法で調製し精製することができる。したがって、本発明の他の全ての実施形態によれば、例えば本発明の全ての方法においては、ポリオキシエチレンエーテルをポリオキシプロピレンエーテルで置き換えてもよい。
【0119】
ポリオキシプロピレンエーテルもまた、当業者に知られており、式Bによる以下の構造を有する。
【化22】
式中、nは、n≧2の整数である。
【0120】
したがって、さらなる態様では、本発明は、以下の一般式(XIX)の非フェノール性ポリオキシプロピレンエーテルを提供する。
【化23】
式中、m=1であり、Rは炭素数2~12の直鎖と前記直鎖上の置換基としての1つ以上のメチル基とを有する炭化水素基を表し、Aはポリオキシプロピレン残基を表す。
【0121】
式(XIX)中、Rは、炭素数2~12、好ましくは2~8、より好ましくは2~6、最も好ましくは4の直鎖と、前記直鎖上の置換基(複数可)としての1つ以上、好ましくは2~6、最も好ましくは4個のメチル基(複数可)とを有する炭化水素基を表す。
【0122】
好ましくは、Rは、炭素数2~12、好ましくは2~8、より好ましくは2~6、最も好ましくは4の直鎖と、前記直鎖上の置換基(複数可)としての2個のメチル基(複数可)とを有する炭化水素基、炭素数2~12、好ましくは2~8、より好ましくは2~6、最も好ましくは4の直鎖と、前記直鎖上の置換基(複数可)としての4個のメチル基(複数可)とを有する炭化水素基、または炭素数2~12、好ましくは2~8、より好ましくは2~6、最も好ましくは4の直鎖と、前記直鎖上の置換基(複数可)としての6個のメチル基(複数可)とを有する炭化水素基を表す。
【0123】
最も好ましくは、Rは、2,4,4-トリメチル-ペンタ-2-イル基を表す。
【0124】
本発明のこのさらなる態様の式(XIX)中、Aは、ポリオキシプロピレン残基、好ましくはオキシプロピレン単位を2~20個含むポリオキシプロピレン残基、より好ましくはオキシプロピレン単位を4~16個含むポリオキシプロピレン残基、さらにいっそう好ましくはオキシプロピレン単位を8~12個含むポリオキシプロピレン残基、最も好ましくはオキシプロピレン単位を9個または10個含むポリオキシプロピレン残基を表す。
【0125】
一般式(XIX)の化合物の好ましい態様は、Rが炭素数2~6の直鎖と前記直鎖上の置換基としての2~4個のメチル基とを有する炭化水素基を表し、m=1であり、Aが8~12個のオキシプロピレン単位を含むポリオキシプロピレン残基を表す、化合物である。
【0126】
本明細書で言及される場合、本発明による「ポリオキシエチレンエーテル」は、好ましくは、当技術分野におけるその一般的な意味によるポリオキシエチレンエーテルである。あるいは、本発明によるポリオキシエチレンエーテルは、ポリオキシエーテル分子の総数の一部、好ましくは大部分がポリオキシエチレンエーテル分子であるが、ポリオキシエーテル分子の総数の別の一部、好ましくは少数が、オキシエチレン及びオキシプロピレン単位を含む混合ポリマー、及び/またはオキシプロピレン単位を含むポリマーである、ポリオキシエーテルであってもよい。ここで、「ポリオキシエーテル分子の総数の大部分がポリオキシエチレンエーテル分子である」ということは、ポリオキシエーテル分子の総数の少なくとも50%がポリオキシエチレンエーテル分子であることを意味する。好ましくは、ポリオキシエーテル分子の総数の少なくとも60%がポリオキシエチレンエーテル分子である。より好ましくは、ポリオキシエーテル分子の総数の少なくとも70%がポリオキシエチレンエーテル分子である。さらにより好ましくは、ポリオキシエーテル分子の総数の少なくとも80%がポリオキシエチレンエーテル分子である。さらにより好ましくは、ポリオキシエーテル分子の総数の少なくとも90%がポリオキシエチレンエーテル分子である。最も好ましくは、ポリオキシエーテル分子の総数の少なくとも95%がポリオキシエチレンエーテル分子である。さらに代替形態として、本発明によるポリオキシエチレンエーテルは、大部分(例えば、少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%)のオキシエチレン単位と、少数のオキシプロピレン単位とを含む混合ポリオキシエーテルであってもよい。
【0127】
本発明による洗剤は非フェノール性である。
【0128】
本発明によれば、式(XIX)の化合物は、好ましい実施形態で示されているように、調製し精製してもよい。
【0129】
したがって、本発明は、下記一般式(XIX)の化合物
【化24】
(式中、m=1であり、Rは炭素数2~12の直鎖と前記直鎖上の置換基としての1つ以上のメチル基とを有する炭化水素基を表し、Aはポリオキシエチレン残基を表す)の調製及び精製方法であって、
本方法は、
(3)下記一般式(XII)の化合物
【化25】
(式中、m及びRは上記に定義された通りであり、Xはハロゲン原子またはヒドロキシル基を表す)を
一般式HO(CH
2CH
2O)
nH(nはn≧2の整数)のポリエチレングリコール(PEG)と反応させて、前記一般式(XIX)の化合物と下記一般式(XIII)の副生成物
【化26】
(式中、Rは上記に定義された通りであり、nはn≧2の整数である)とを生成することと、
(4)前記一般式(XIX)の化合物を、そこから未反応のポリエチレングリコール(PEG)と前記副生成物とを除去することによって精製することと、のステップを含む、方法を包含する。
【0130】
この方法は、前記ステップ(3)の前に、下記ステップ(2)、すなわち
(2) 下記一般式(XIV)の化合物
【化27】
(式中、m及びRは請求項1に定義された通りである)を、
下記一般式(XII)の化合物
【化28】
(式中、m、R及びXは請求項1に定義された通りである)に変換すること、をさらに含んでもよい。
【0131】
さらに、この方法は、前記ステップ(2)の前に、下記ステップ(1)、すなわち
(1)下記一般式(XIV)の化合物
【化29】
(式中、m及びRは請求項1に定義された通りである)を得るようにトルエンを反応させること、をさらに含んでもよい。
【0132】
本発明のこの好ましい方法は、以下に示すスキーム2の修正形態である。本発明の前記方法は、合成に、クロマトグラフィによる精製を必要とすることなく、3ステップしか必要とせず、それによって必要な溶媒の量を減らし、高額化学薬品(例えば、Tf2O、Pd触媒)、有毒化学薬品(例えば、オクチルフェノール、Zn(CN)2、DMF、MsCl)及び有害化学薬品(例えばLiAlH4)の使用を避け、大規模な実施に適しているという利点を提供する。
【0133】
ステップ(1)における反応の触媒として、硫酸などのフリーデルクラフトアルキル化で一般的に使用される酸を使用してもよい。触媒は、好ましくはパーフルオロアルキルスルホン酸、より好ましくはヘプタフルオロ-1-プロアンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸(トリフル酸)またはノナフルオロ-1-ブタンスルホン酸である。
【0134】
ステップ(2)の変換に使用できるハロゲン化試薬は、当技術分野で公知であるハロゲン化試薬から選択してもよい。好ましい試薬としては、
- N-ブロモスクシンイミド(NBS)などのN-ハロスクシンイミド、
- 臭素
- 臭素-1,4-ジオキサン錯体などの適切な臭素錯体試薬、
- テトラブチルアンモニウムトリブロミド、トリメチルフェニルアンモニウムトリブロミド、ベンジルトリメチルアンモニウムトリブロミド、ピリジニウムブロミドペルブロミド、4-ジメチルアミノピリジニウムブロミドペルブロミド、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムトリブロミド及び1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン水素トリブロミドなどの適切なトリブロミド錯体試薬、
- ジブロモイソシアヌル酸、
- トリブロモイソシアヌル酸、
- 1,2-ジブロモ-1,1,2,2-テトラクロロエタン、
- N-ブロモフタルイミド、及び
- 次亜臭素酸塩がある。
【0135】
最も好ましいハロゲン化試薬は、N-ブロモスクシンイミド(NBS)である。
【0136】
ステップ(2)の変換に使用できるラジカル開始剤は、当技術分野で公知である物理的及び化学的ラジカル開始剤から適切に選択してもよい。それらには、例えば、光、AIBN(アゾビス(イソブチロニトリル)、ベンゾイルペルオキシド、ジ-tert-ブチルペルオキシド、メチルエチルケトンペルオキシド、アセトンペルオキシド、ペルオキシ二硫酸塩またはそれらの誘導体の1つが含まれる。最も好ましいのはAIBN(アゾビス(イソブチロニトリル))である。
【0137】
ステップ(2)の変換に使用できる好ましい溶媒は、シクロヘキサン及びアセトニトリルである。ヘプタン、酢酸エチル、CCl4及びベンゼンもまた、ステップ(2)の変換用の溶媒として使用できる。
【0138】
本発明の好ましい実施形態では、ステップ(2)で得られた式(XII)の化合物を溶媒から沈殿させる。好ましくは、溶媒は極性溶媒である。好ましい実施形態では、溶媒は、好ましくはイソプロピルアルコール、エタノール、メタノール及びブタノールまたはそれらの組み合わせからなる群から選択されるアルコール溶媒である。より好ましくは、アルコール溶媒は、イソプロピルアルコールなどの第2級アルコールである。別の好ましい実施形態では、溶媒は、アセトニトリルである。水は溶媒の極性を高める。したがって、本発明に従って使用される極性溶媒は、水を含んでもよい。よって、本発明に従って使用される極性溶媒は、例えば、(i)水と、(ii)上記アルコール及び/またはアセトニトリルとを含む溶媒混合液であってもよい。
【0139】
アルコール溶媒は、式(XII)によるハロゲン化中間体と反応して、エーテル副生成物を形成し得る。第1級アルコールは、この反応を起こす傾向があるが、イソプロパノールなどの第2級アルコールは、この副生成物を形成する傾向が少ないため有利である。アセトニトリルなどの非アルコール溶媒もまた、このようなエーテル副生成物を回避するために使用することができるため、やはり有利である。
【0140】
極性溶媒は、当技術分野で公知である。誘電率が15.0を超える溶媒は、一般に極性があると見なされる。そのような極性溶媒の例には、イソプロピルアルコール、エタノール、メタノール及びブタノール、ならびにアセトニトリルがある。本明細書で使用される場合、本明細書で言及される誘電率の値は、20℃の基準温度で測定された誘電率を指す。
【0141】
ステップ(3)で使用することができるポリエチレングリコール(PEG)は、当業者によって適切に選択され得ることが理解される。このようなポリエチレングリコール(PEG)は、特に限定されない。好ましくは、ポリエチレングリコール(PEG)は、前記ステップ(3)の反応温度で液体であることを特徴とする。ステップ(3)で使用できる好ましいポリエチレングリコール(PEG)としては、平均分子量150~1000ダルトンのPEGが挙げられる。より好ましくは、ステップ(3)で使用できるポリエチレングリコール(PEG)は、PEG200、PEG400、PEG600、PEG800及びPEG1000からなる群から選択される。最も好ましくは、ポリエチレングリコール(PEG)は、PEG400である。
【0142】
一般式(XIII)の化合物は、ステップ(3)のPEG化反応における副生成物として得られる。ステップ(4)において、一般式(XIX)の化合物は、そこから前記式(XIII)の副生成物を除去することによって精製される。本発明によって提供される式(XIX)及び式(XIII)の化合物の知識に基づいて、かつこれら2つの化合物の違いに基づいて、当業者は、一般式(XIII)の副生成物を適切な方法ステップによって除去できるようになることが理解される。例えば、一般式(XIII)の副生成物は、二官能性であるため、一般式(XIX)の化合物よりも大きく、極性が低い。したがって、ステップ(4)において、一般式(XIX)の化合物は、サイズ及び/または極性に基づいた精製法を使用して、そこから前記副生成物を除去することによって、精製することができる。好ましい実施形態では、ステップ(4)における、前記一般式(XIX)の前記化合物を、そこから前記副生成物を除去することによって精製することは、水及び水混和性有機溶媒を含む混合液の中に前記一般式(XIX)の前記化合物の入った溶液を、非極性溶媒を用いた1回以上の洗浄にかけることにより、前記一般式(XIX)の化合物から前記副生成物を除去することを含む。
【0143】
本明細書で使用される水混和性有機溶媒は、当技術分野で公知であり、とりわけ以下の溶媒、すなわち、アセトアルデヒド、酢酸、アセトン、アセトニトリル、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-ブトキシエタノール、酪酸、ジエタノールアミン、ジエチレントリアミン、ジメチルホルムアミド、ジメトキシエタン、ジメチルスルホキシド、1,4-ジオキサン、エタノール、エチルアミン、エチレングリコール、ギ酸、フルフリルアルコール、グリセロール、メタノール、メチルジエタノールアミン、メチルイソシアニド、N-メチル-2-ピロリドン、1-プロパノール、1,3-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、2-プロパノール(イソプロパノール)、プロパン酸、プロピレングリコール、ピリジン、テトラヒドロフラン、及びトリエチレングリコールを含む。
【0144】
好ましくは、水及び水混和性有機溶媒を含む混合液の中に前記一般式(XIX)の前記化合物の入った前記溶液は、アルコール及び水の混合液の中に前記一般式(XIX)の前記化合物の入った溶液である。より好ましくは、前記一般式(XIX)の前記化合物の前記溶液は、エタノールと水との混合液の中に前記一般式(XIX)の前記化合物の入った溶液である。このような混合液の適切な混合比は、当業者が容易に求め得ることが理解される。エタノールと水との混合液の典型的な混合比は、50:1(v/v)~10:1(v/v)の間、好ましくは20:1(v/v)である。
【0145】
非極性溶媒は、当技術分野で公知である。誘電率が15.0未満の溶媒は、一般に非極性であると見なされる。好ましくは、前記洗浄に使用される非極性溶媒は、5.0未満、より好ましくは2.5未満の誘電率を有する。そのようなより好ましい溶媒の例は、ヘキサン、シクロヘキサン及びヘプタンである。本明細書で使用される場合、本明細書で言及される誘電率の値は、20℃の基準温度で測定された誘電率を指す。
【0146】
本発明はまた、式(XIX)の化合物
【化30】
(式中、m=1であり、Rは炭素数2~12の直鎖と前記直鎖上の置換基としての1つ以上のメチル基とを有する炭化水素基を表し、Aはポリオキシエチレン残基を表す)を含む組成物から、前記式(XIX)の化合物を精製する方法であって、
アルカン、エーテル及びエステルならびにそれらの混合液から選択された溶媒の中に前記組成物の入った溶液を、1回以上の水洗にかけることを含む方法を提供する。
【0147】
好ましくは、この組成物は、下記一般式(XIII)の化合物をさらに含む。
【化31】
ここで、Rは請求項37で定義した通りであり、nはn≧2の整数である。好ましくは、式(XIX)の化合物の精製は、式(XIII)の化合物を上記の組成物から除去することを含む。より好ましくは、式(XIII)の化合物を除去することが、前記一般式(XIX)の前記化合物を含む水溶液を調製することと、前記水溶液の、非極性溶媒による1回以上の洗浄によって、前記式(XIII)の化合物を除去することとを含む。非極性溶媒は上記で定義した通りであり、本発明に従って使用できる水溶液は、水を含み、好ましくは、水と水混和性有機溶媒とを含む混合液の中に前記一般式(XIX)の前記化合物の入った溶液である。水及び水混和性有機溶媒を含む混合液の中に前記一般式(XIX)の前記化合物の入った好ましい溶液は、上記で定義した通りである。
【0148】
本発明の方法の好ましい実施形態では、これらの方法は、下記一般式(XIII)の化合物
【化32】
(式中、Rは炭素数2~12の直鎖と前記直鎖上の置換基としての1つ以上のメチル基とを有する炭化水素基を表し、nはn≧2の整数である)を同定するステップ及び/または定量化するステップを含む。そのような同定は、例えば、
1H-NMR測定法を含む、当技術分野で公知である、化学化合物の構造同定のための任意の適切な方法によって行ってもよい。同定には、
13C-NMR法または2次元NMR法などの他のNMR測定を使用することもできる。さらに、HRMS(高分解能質量分析)を同定に使用してもよい。前記式(XIII)の化合物の定量化は、例えば、UV検出を伴う高速液体クロマトグラフィ、及び蒸発光散乱検出器(ELSD)を用いた検出を伴う高速液体クロマトグラフィを含む、当技術分野で公知の、化学化合物を定量化するための任意の適切な方法によって行うことができる。
【0149】
一般に、本発明によれば、UV検出を伴う高速液体クロマトグラフィは、好ましくは、200nmでのUV検出を使用して実施される。より好ましくは、本発明によれば、UV検出を伴う高速液体クロマトグラフィは、好ましくは、実施例3のHPLC法1及び2に示される方法設定を使用して実施され、より好ましくは、実施例3のHPLC法2に示される方法設定を使用して実施される。
【0150】
好ましくは、本発明によれば、蒸発光散乱検出器(ELSD)を用いた検出を伴う高速液体クロマトグラフィは、実施例3のHPLC法2に示された方法設定を用いて実施される。
【0151】
実施例3のHPLC方法2に使用される設定は以下の通りである。
HPLC:アジレント1260
カラム:Zorbax 300SB-C3、5μm、2.1×150mm(V=0.520mL)
溶離液:水(A)、アセトニトリル(B)
勾配溶離(Gradient elution):勾配溶離(gradient elution):35%B(0分)-->35%B(4分)-->97%B(20分)-->97%B(25分)
ポストタイム:8分
流量:0.5mL/分
カラム温度:25℃
注入量:5μL
検出:波長200nmのUV、またはELSD
【0152】
本発明の洗剤の調製及び精製のための本発明の好ましい方法は、とりわけ、以下の利点を提供する。
・クロマトグラフィによる精製が不要なため、有機溶媒の全体の使用量が大幅に削減される。
・ジクロロメタンなどの有害な溶媒は必要ない。
・さらに、精製手順は短時間で実行できる。つまり、全体の合成コストが最小限に抑えられる。
・第3のステップでは溶媒が不要である。手順は実行しやすく、ワークアップ中に存在するさまざまな溶媒の数を最小限に抑えることができる。
・全収率は他の方法に匹敵するが、プロセスは、実行コストが安く、より迅速に実行することができ、無駄が少なくなるという意味では、そのような他の方法よりも効率的である。
・二官能性副生成物の量は、いくつかの手段、例えば、ヘキサンまたはシクロヘキサンなどの非極性溶媒による生成物の抽出によって、及び/またはステップ(3)中に高い(例えば、少なくとも4、少なくとも4.5または少なくとも5)モル当量のPEGを使用することによって、効果的に減少させることができる。
・上記の理由により、本発明の好ましい方法は、工業規模で容易に実施することができ、それにより、標準的な装置を使用してキログラム量の純粋な生成物を製造することが可能になる。
【0153】
あるいは、本発明によるポリオキシエチレンエーテル洗剤は、例えば、エトキシル化反応によって合成することができる。エトキシル化は、アルコールエトキシレート(別名ポリオキシエチレンエーテル)を生成するためにアルコールに対して実行される工業プロセスである。この反応は、高温(例えば、約180℃)及び高圧下(例えば、1~2バールの圧力下)で、エチレンオキシドをアルコールに通過させ、塩基(水酸化カリウム、KOHなど)が触媒として作用することによって進行する。このプロセスは、大きな発熱を伴う。
【化33】
この反応により、繰り返し単位長の広い多分散性を持つ生成物が形成される(上記の式のnの値は平均ポリマー長である)。
【0154】
本発明の化合物はポリオキシエチレンエーテル(=エチレンオキシドガスを用いてエトキシル化反応が行われる)であり得るが、プロピレンオキシドを用いて工業規模で同様の反応(=プロポキシル化)を行うことも可能である。唯一の違いは、PEG鎖のメチル基置換である。
【化34】
エトキシル化及びプロポキシル化は、同じプロセスで組み合わせることもでき、オキシエチレン単位及びオキシプロピレン単位を含む混合ポリマーポリオキシエーテルなどの混合生成物をもたらすことができる。
【0155】
実験室規模では、ポリオキシエチレンエーテル洗剤は、最初にアルコールのヒドロキシル基から好適な脱離基(Cl、Br、I、OMsまたはOTfなど)を形成し、次にこの基質をモノ脱プロトン化ポリエチレングリコールと反応させることによって製造することができる。あるいは、好適な脱離基(Cl、Br、I、OMsまたはOTfなど)を、ポリエチレングリコール鎖に導入し、それを第2のステップで脱プロトン化アルコールと反応させてもよい。
【化35】
ポリオキシエチレンエーテルを合成するための例示的な方法は、例えば、それらの全体があらゆる目的で参照によって本明細書に組み込まれる、米国特許第1,970,578号及びDi Serio et al.(2005)に詳説されている。
【0156】
式(XIX)の化合物は、Vogel‘s Textbook of Practical Organic Chemistry (5th Edition, 1989, A.I. Vogel, A.R. Tatchell, B.S. Furnis, A.J. Hannaford, P.W.G. Smith)に記載されている方法など、周知の合成法によって合成することもできる。例えば、4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレートは、一般式(XIX)の基Rに対応する置換基を含むフェノールを、対応する安息香酸またはホモ安息香酸に変換すること、酸基をアルコール基に還元すること、及びアルコールを反応させてポリエチレングリコールエーテル(別名ポリオキシエチレンエーテル;POEエーテル)を形成することによって調製することができる。本明細書では、エチレンオキシドまたは適切なポリエチレングリコールは、ポリエチレングリコールエーテル官能基を導入するための基礎として機能し得る(スキーム1;個々の転化を実行するのに効果的な実験手順の代表的な例は、例えば、Bioorganic & Medicinal Chemistry, 16(9), 4883-4907, 2008;Journal of Medicinal Chemistry, 48(10), 3586-3604, 2005;Journal of Physical Chemistry B, 107(31), 7896-7902;2003;Journal of Nanoparticle Research, 15(11), 2025/1-2025/12, 12 pp., 2013;及びPCT国際出願第2005016240号, 24 Feb 2005に見出すことができる)。
【化36】
【0157】
あるいは、一般式(XIX)の化合物は、トルエンのアルキル化と、その後に続くベンジルメチル基の官能基化、及びポリエチレングリコールエーテルを形成するためのさらなる反応によって入手することができる(スキーム2;個々の転化を実行するのに効果的な実験手順の代表的な例は、例えば、Russian Journal of Applied Chemistry, 82(6), 1029-1032, 2009;Journal of Organic Chemistry, 79(1), 223-229, 2014;及びChemistry - A European Journal, 23(60), 15133-15142, 2017に見出すことができる)。ポリエチレングリコールエーテル官能基を導入するのに適した中間体を得るために、ベンジルアルコールを直接アルキル化することも想定される(スキーム3;対応する転化のための実験手順の代表的な例は、例えば、Russian Journal of Organic Chemistry, 51(11), 1545-1550, 2015に見出すことができる)。
【化37】
【化38】
【0158】
式(XIX)による構造を有する上記のポリオキシエチレンエーテルを、本発明による、脂質エンベロープを有するウイルスを不活化するための方法に使用することができる。
【0159】
上記のように、当業者には明らかであるように、ポリオキシエチレンエーテルの合成は、通常、ポリオキシエチレン繰り返し単位長の広い多分散性を有する生成物をもたらす。したがって、本発明のポリオキシエチレンエーテルについてポリオキシエチレン繰り返し単位の数が示される場合、この数は、最も近い整数に丸められた平均ポリオキシエチレン繰り返し単位長を指す。平均ポリオキシエチレン繰り返し単位長は、サンプルの全ポリオキシエチレンエーテル分子のポリオキシエチレン繰り返し単位の、最も近い整数に丸められた平均数を指す。同じことがポリオキシプロピレンエーテルにも当てはまる。例えば、本発明に従って使用される式において、ポリオキシエチレンまたはポリオキシプロピレンの繰り返し単位数がn=10である場合、このことは、全てのポリオキシエチレンエーテル分子またはポリオキシプロピレンエーテル分子のポリオキシエチレンまたはポリオキシプロピレンの繰り返し単位の平均数が、最も近い整数に丸められて、10であることを意味する。
【0160】
本発明による、脂質エンベロープを有するウイルスを不活化する方法で使用されるポリオキシエチレンエーテル洗剤またはポリオキシプロピレンエーテル洗剤は、2~100、2~50、2~20、または4~16、あるいは9または10のポリオキシエチレンまたはポリオキシプロピレンの繰り返し単位の平均数を有する。好ましくは、ポリオキシエチレンまたはポリオキシプロピレンの繰り返し単位の平均数は、4~16、より好ましくは9または10、最も好ましくは10である。
【0161】
当業者には明らかであるように、本発明によるポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレンエーテル洗剤において、メチル基は、ポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレン部分の末端ヒドロキシル基に結合し得る(すなわち、末端ヒドロキシル基が遮蔽され得る)。末端ヒドロキシル基のそのような遮蔽は、合成を容易にし得る。このことは、上記のスキーム1またはスキーム2に従って作成された化合物など、エトキシル化またはプロポキシル化によって作成されていない化合物に特に有用である。メチル遮蔽されたポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレン部分を有する構造は、通常、以下の例示的な構造によって示されるように、mPEG誘導体と呼ばれる。
【化39】
当業者には明らかであるように、ポリオキシプロピレンエーテルの合成もまた、通常、ポリオキシプロピレン繰り返し単位長の広い多分散性を有する生成物をもたらす。したがって、本発明によるポリオキシプロピレンエーテルについてポリオキシプロピレン繰り返し単位の数が示される場合、この数は平均ポリオキシプロピレン繰り返し単位長を指す。上記のポリオキシエチレンエーテルについて説明したように、平均ポリオキシプロピレン繰り返し単位長は、サンプルの全ポリオキシプロピレンエーテル分子のポリオキシプロピレン繰り返し単位の平均数を指す。
【0162】
本発明に従って使用されるポリオキシプロピレンエーテル洗剤は、2~100、2~50、2~20、または5~15、あるいは9または10のポリオキシプロピレン繰り返し単位の平均数を有する。好ましくは、ポリオキシプロピレンの繰り返し単位の平均数は、5~15、より好ましくは9または10、最も好ましくは10である。
【0163】
本発明による、脂質エンベロープを有するウイルスを不活化する方法は、本発明の洗剤を液体に添加して、前記洗剤と前記液体との混合液を調製するステップ、及び前記混合液をインキュベートして、前記ウイルスを不活化するステップを含む。上記のように、本明細書で使用される用語「脂質エンベロープを有するウイルスを不活化する」は、溶液中の感染性ウイルス粒子の濃度を低下させることをいう。本発明による脂質エンベロープを有するウイルスを不活化する方法において、本方法は、少なくとも1つのウイルスについて少なくとも1の1Log10減少値(LRV)、または少なくとも1つのウイルスについて、少なくとも2、または少なくとも3、または少なくとも4、または少なくとも5、または少なくとも6、または少なくとも7、または少なくとも8の1Log10減少値(LRV)、及び最も好ましくは少なくとも4のLog10減少値(LRV)を達成することが好ましい。当然のことながら、少なくとも1つのウイルスについていかなるLog10減少値(LRV)も有益であることは、例えば生物薬剤学的製造プロセスの安全性を向上させるという理由で、当業者にとっては明らかである。本発明に従って言及されるLRVは、エンベロープウイルスのLRVである。
【0164】
本発明の方法は一般に脂質エンベロープウイルスを不活化するためのものであるが、本発明による洗剤は、例えば、非エンベロープウイルスがその複製サイクル中のある段階で脂質エンベロープを獲得する場合には、そのような非エンベロープウイルスも不活化し得ることを理解されたい。したがって、用語「脂質エンベロープを有するウイルスを不活化する」は、本発明の方法では、脂質エンベロープを有するウイルスに加えて非エンベロープウイルスをも不活化できるという可能性を排除することを意図していない。
【0165】
本発明による、脂質エンベロープを有するウイルスを不活化する方法では、本発明の洗剤を液体に添加して前記洗剤と前記液体との混合液を調製し、前記混合液をインキュベートして前記ウイルスを不活化する。本発明の方法の前記液体は、溶液、懸濁液、またはいくつかの懸濁液及び/または溶液の混合液を含む、任意の種類の液体またはいくつかの液体の混合液であり得ることが理解されるべきである。例えば、これに限定されないが、本発明による前記液体は、血液であってもよく、または血液もしくは血液分画を含んでいてもよく、血漿であってもよく、または血漿もしくは血漿分画を含んでいてもよく、血清であってもよく、または血清もしくは血清分画を含んでいてもよく、細胞培地であってもよく、または細胞培地を含んでいてもよく、緩衝液であってもよく、または緩衝液を含んでいてもよい。液体はまた、プロセス中間体、例えば生物薬剤学的薬物の調製におけるプロセス中間体であってもよい。
【0166】
本発明による液体は、脂質エンベロープを有するウイルスを含む場合があり、または脂質エンベロープを有するウイルスを含む疑いがある場合がある(例えば、その液体が血液である、または血液もしくは血液分画を含む、血漿である、または血漿もしくは血漿分画を含む、血清である、または血清もしくは血清分画を含む場合、あるいは細胞培養で生成された生物薬剤学的薬物を含む場合)。本発明の他の全ての実施形態による本発明の好ましい実施形態では、本発明による前記液体は、脂質エンベロープを有するウイルスを含む。本発明による前記液体中の脂質エンベロープを有する前記ウイルスの起源は、特に限定されない。例えば、ウイルスは、本発明に従って液体を調製するために使用され得るヒト血液、ヒト血漿もしくはヒト血清に由来し得るか、または本発明に従って液体を調製するために使用され得る細胞培地に由来し得る。特に、ウイルスが、本発明に従って液体を調製するために使用される細胞培地に由来する場合、ウイルスは、ウシ血清アルブミンなどの前記細胞培地の動物由来成分に由来する場合がある。
【0167】
本発明による、脂質エンベロープを有するウイルスを不活化する方法では、液体に洗剤を添加して、前記洗剤と前記液体との混合液を調製する。前記洗剤は、本発明のポリオキシエチレンエーテルまたはポリオキシプロピレンエーテルである。
【0168】
本発明による、脂質エンベロープを有するウイルスを不活化する方法では、液体に洗剤を添加して、前記洗剤と前記液体との混合液を調製する。本発明の一実施形態では、ポリオキシエチレンエーテル洗剤またはポリオキシプロピレンエーテル洗剤を、液体中のポリオキシエチレンエーテル洗剤またはポリオキシプロピレンエーテル洗剤の最終的な濃度が約0.03%(w/w)~10%(w/w)、好ましくは約0.05%(w/w)~10%(w/w)、より好ましくは0.1%(w/w)~10%(w/w)、さらにより好ましくは約0.5%(w/w)~5%(w/w)、最も好ましくは約0.5%(w/w)~2%(w/w)となるように、液体に添加する。
【0169】
本発明の脂質エンベロープを有するウイルスを不活化する方法の好ましい実施形態では、本方法で使用されるポリオキシエチレンエーテルまたはポリオキシプロピレンエーテルは、脂質エンベロープを有する前記ウイルスの不活化に適している。本明細書で使用される不活化とは、脂質エンベロープウイルスが細胞に感染する能力を阻害することをいう。当業者には明らかであるように、脂質エンベロープウイルスが細胞に感染する能力、すなわち脂質エンベロープウイルスの感染力は、典型的には、溶液中の感染性ウイルス粒子の数を求めることによって評価される。本明細書には、溶液中の感染性ウイルス粒子の数を求めるための例示的な方法が記載されている。
【0170】
一実施形態では、本発明の脂質エンベロープを有するウイルスを不活化する方法において、本発明の非フェノール性洗剤を含む洗剤と溶媒とを液体に添加するステップは、前記ウイルスを不活化するための溶媒/洗剤混合液が調製されるようにして実施される。好ましくは、前記溶媒は有機溶媒であり、さらにより好ましくは、前記溶媒はトリ-n-ブチルホスフェートである。洗剤の濃度と溶媒の種類及び濃度とは、例えば、液体中に存在する可能性のあるウイルス、所望のLRV、液体中に存在し得る生物薬剤学的薬物の特性、及び液体中に存在し得る生物薬剤学的薬物の製造プロセスの特性(例えば、不活化が行われるようになる温度)を考慮して、当業者が適切に選択できることが理解される。典型的には、本発明によるインキュベーション中の有機溶媒及び単一洗剤の最終濃度は、約0.01%(w/w)~約5%(w/w)の有機溶媒及び約0.05%(w/w)~約10%(w/w)の洗剤、好ましくは約0.1%(w/w)~約5%(w/w)の有機溶媒及び約0.1%(w/w)~約10%(w/w)の洗剤、より好ましくは約0.1%(w/w)~約1%(w/w)の有機溶媒及び約0.5%(w/w)~約5%(w/w)の洗剤、最も好ましくは約0.1%(w/w)~約0.5%(w/w)の有機溶媒及び約0.5%(w/w)~約2%(w/w)の洗剤である。
【0171】
別の実施形態では、本発明の脂質エンベロープを有するウイルスを不活化する方法において、本発明の非フェノール性洗剤を含む洗剤(及び任意選択で溶媒も)を液体に添加するステップは、さらなる洗剤が液体に添加されるようにして実施される。好ましくは、前記さらなる洗剤は、ポリオキシエチレン(80)ソルビタンモノオレエート(例えば、ポリソルベート80またはTWEEN(登録商標) 80としても知られる)である。好ましくは、前記溶媒は有機溶媒であり、さらにより好ましくは、前記溶媒はトリ-n-ブチルホスフェートである。本発明による洗剤の濃度、さらなる洗剤の種類及び濃度、ならびに溶媒の種類及び濃度は、例えば、液体中に存在する可能性のあるウイルス、所望のLRV、液体中に存在し得る生物薬剤学的薬物の特性、及び液体中に存在し得る生物薬剤学的薬物の製造プロセスの特性(例えば、不活化が行われるようになる温度)を考慮して、当業者が適切に選択できることが理解される。典型的には、有機溶媒の最終濃度は約0.01%(w/w)~約5%(w/w)であり、本発明による洗剤の最終濃度は約0.05%(w/w)~約10%(w/w)であり、さらなる洗剤の最終濃度は約0.01%(w/w)~約5%(w/w)である。好ましくは、有機溶媒の最終濃度は約0.1%(w/w)~約5%(w/w)であり、本発明による洗剤の最終濃度は約0.1%(w/w)~約10%(w/w)であり、さらなる洗剤の最終濃度は約0.1%(w/w)~約5%(w/w)である。より好ましくは、有機溶媒の最終濃度は約0.1%(w/w)~約1%(w/w)であり、本発明による洗剤の最終濃度は約0.5%(w/w)~約5%(w/w)であり、さらなる洗剤の最終濃度は約0.1%(w/w)~約1%(w/w)である。最も好ましくは、有機溶媒の最終濃度は約0.1%(w/w)~約0.5%(w/w)であり、本発明による洗剤の最終濃度は約0.5%(w/w)~約2%(w/w)であり、さらなる洗剤の最終濃度は約0.1%(w/w)~約0.5%(w/w)である。
【0172】
本発明による別の実施形態では、1つのみの洗剤が使用される。例えば、本発明の方法の一実施形態では、ステップa)において、本発明の洗剤以外のさらなる洗剤は添加されない。本発明の方法の別の実施形態では、本方法において、本発明の洗剤以外のさらなる洗剤は添加されない。本発明による別の実施形態では、脂質エンベロープを有するウイルスの不活化方法における本発明の洗剤の使用において、本発明の洗剤以外のさらなる洗剤は使用されない。これらの実施形態の1つの利点は、後続の(方法)ステップで単一の洗剤をより容易に除去できることである。例えば、単一の洗剤は、標準的な溶媒/洗剤(S/D)処理で使用される、典型的には2つの洗剤と1つの溶媒、具体的には有機溶媒とを含む、3成分のものと比較して、より容易に除去することができる。したがって、本発明による別の実施形態では、本発明の洗剤を含む組成物は、前記洗剤以外のさらなる洗剤を全く含まない。
【0173】
ウイルスを不活化する方法による別の実施形態では、有機溶媒は使用されない。例えば、本発明のウイルス不活化方法の一実施形態では、ステップa)において有機溶媒は添加されない。本発明による別の実施形態では、脂質エンベロープを有するウイルスの不活化のための方法における本発明の洗剤の使用において、有機溶媒は使用されない。本発明による別の実施形態では、本発明の洗剤を含む組成物は、有機溶媒を全く含まない。
【0174】
上記の概略のように、本発明による脂質エンベロープを有するウイルスを不活化する方法は、患者の安全を保証するために、最終生成物に活性な(つまり、感染性の)ウイルスが存在しないことが徹底されなければならない生物薬剤学的製造プロセスにおいては特に有用である。したがって、一実施形態では、本発明による脂質エンベロープを有するウイルスを不活化する方法において、本発明の洗剤は、生物学的医薬品または生物薬剤学的薬物を含む液体、好ましくは生物薬剤学的薬物を含む液体に添加される。本発明の好ましい実施形態では、前記生物薬剤学的薬物はウイルスワクチンではない。本発明による生物薬剤学的薬物は特に限定されない。それらには、組み換え型生物薬剤学的薬物と、ヒト血漿から得られる生物薬剤学的薬物などの他の供給源からの生物薬剤学的薬物との両方が含まれる。本発明による生物薬剤学的薬物には、限定されることなく、血液因子、免疫グロブリン、置換酵素、ワクチン、遺伝子治療ベクター、成長因子及びそれらの受容体が含まれる。好ましい実施形態では、生物薬剤学的薬物は治療用タンパク質である。好ましい血液因子には、第I因子(フィブリノゲン)、第II因子(プロトロンビン)、組織因子、第V因子、第VII因子及び第VIIa因子、第VIII因子、第IX因子、第X因子、第XI因子、第XII因子、第XIII因子、フォン・ヴィレブランド因子(VWF)、プレカリクレイン、高分子量キニノゲン(HMWK)、フィブロネクチン、抗トロンビンIII、ヘパリン副因子II、タンパク質C、タンパク質S、タンパク質Z、プラスミノーゲン、アルファ2-抗プラスミン、組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)、ウロキナーゼ、プラスミノーゲン活性化因子阻害剤-1(PAI1)、ならびにプラスミノーゲン活性化因子阻害剤-2(PAI2)が含まれる。第VIII因子は、特に好ましい血液因子であり、組み換え第VIII因子はさらにより好ましい。本発明に従って使用され得る血液因子は、機能的ポリペプチド変異体と、血液因子をコードするポリヌクレオチド、またはそのような機能的変異体ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとを含むように意図されている。好ましい免疫グロブリンには、ヒト血漿由来の免疫グロブリン、モノクローナル抗体及び組み換え抗体が含まれる。本発明による生物薬剤学的薬物は、好ましくは、それぞれのヒトタンパク質もしくは組み換えヒトタンパク質またはその機能的変異体である。
【0175】
上記のように、本発明による生物薬剤学的薬物は、ウイルス遺伝子治療ベクターを含む遺伝子治療ベクターであってもよい。当業者には明らかであるように、本発明の脂質エンベロープを有するウイルスを不活化する方法は、一般に、非エンベロープウイルスを不活化しない。したがって、好ましい実施形態では、本発明による生物薬剤学的薬物がウイルス遺伝子治療ベクターである場合、そのようなウイルス遺伝子治療ベクターは非エンベロープウイルスに基づく。好ましい実施形態では、そのようなウイルス遺伝子治療ベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)に基づく。
【0176】
本発明の他の全ての実施形態によれば、本発明の脂質エンベロープを有するウイルスを不活化する方法は、前記混合液をインキュベートして前記ウイルスを不活化するステップの後に、前記生物薬剤学的薬物を精製するステップを含み得る。好ましくは、前記精製することは、前記生物薬剤学的薬物を前記洗剤(複数可)から分離することを含む。当業者は、生物薬剤学的薬物を洗剤(複数可)から分離するための様々な方法を認識されているであろう。このような方法は、当業者が、生物薬剤学的薬物の特性、生物薬剤学的薬物が(例えば、組み換えにより、またはヒト血漿などの他の供給源から)得られる供給源、及び所望の生物薬剤学的薬物用途(例えば、皮下に投与されるか静脈内に投与されるかなど)を考慮することによって選択され得る。例えば、生物薬剤学的薬物を洗剤(複数可)から、陰イオン交換クロマトグラフィまたは陽イオン交換クロマトグラフィなどのクロマトグラフィを使用して分離してもよい。一実施形態では、前記洗剤(複数可)からの前記精製することは、1回を超えるクロマトグラフィ精製を含む。
【0177】
本発明の他の全ての実施形態によれば、本発明の脂質エンベロープを有するウイルスを不活化する方法は、好ましくはデプスフィルタを用いて前記混合液を濾過するステップを含み得る。この濾過するステップは、洗剤を液体に添加して前記洗剤と前記液体との混合液を調製するステップの前に実施することができる。あるいは、この濾過するステップは、洗剤を液体に添加して前記洗剤と前記液体との混合液を調製するステップと、前記混合液をインキュベートして前記ウイルスを不活化するステップとの間に実施することができる。
【0178】
本発明の他の全ての実施形態による別の実施形態では、脂質エンベロープを有するウイルスを不活化する方法において、前記混合液をインキュベートして前記ウイルスを不活化するステップは、前記混合液を、少なくとも10分間、少なくとも30分間、少なくとも1時間、少なくとも2時間、少なくとも4時間、少なくとも12時間、または少なくとも24時間、インキュベートするようにして実施することができる。
【0179】
本発明の他の全ての実施形態による別の実施形態では、前記混合液をインキュベートして前記ウイルスを不活化するステップにおいて、前記混合液は、0℃~15℃の間、0℃~10℃の間、0℃~8℃の間、0℃~6℃の間、0℃~4℃の間、または0℃~2℃の間、及び好ましくは0℃~10℃の間の温度などの低温でインキュベートされる。本発明の他の全ての実施形態による代替実施形態では、前記混合液をインキュベートして前記ウイルスを不活化するステップにおいて、前記混合液は、16℃~25℃の間、18℃~24℃の間、または20℃~23℃の間などの室温または室温に近い温度でインキュベートされる。
【0180】
本発明の方法のステップを実施する方法は、特に限定されないことを理解されたい。特に、本方法のステップは、バッチ方式で実施してもよい。あるいは、本方法のステップは、半連続的または連続的な方式で実行してもよい。
【0181】
上記の概略のように、本発明による脂質エンベロープを有するウイルスを不活化する方法は、生物薬剤学的製造プロセスにおいて特に有用である。したがって、本発明はまた、生物薬剤学的薬物の調製方法であって、本発明及びその任意の実施形態による、脂質エンベロープを有するウイルスを不活化する方法の方法ステップを含む前記調製方法に関する。好ましくは、本発明による生物薬剤学的薬物の調製方法は、前記生物薬剤学的薬物を含む医薬製剤を調製するステップを含み、このステップは、本発明による脂質エンベロープを有するウイルスを不活化する方法のステップの後に行われる。このような医薬製剤は、医薬製剤の調製に関する既知の標準に従って調製することができる。例えば、製剤は、例えば、担体、賦形剤または安定剤などの薬学的に許容される成分を使用することにより、適切に保存し投与することができるように調製することができる。そのような薬学的に許容される成分は、医薬製剤を患者に投与するときに使用される量では毒性がない。
【0182】
本発明者らは、驚くべきことに、本発明による洗剤が、脂質エンベロープを有するウイルスを不活化するのに特に有用であることを見出した。したがって、本発明はまた、脂質エンベロープを有するウイルスの不活化のための任意の方法における、本発明による開示されたポリオキシエチレンエーテル洗剤またはポリオキシプロピレンエーテル洗剤の使用に関する。好ましくは、前記ウイルスの前記不活化のための前記方法は、溶媒/洗剤処理を使用する方法であり、前記溶媒/洗剤処理が、本発明の前記洗剤の使用を含む。別の実施形態では、前記ウイルスの不活化とは、生物薬剤学的薬物を含む液体中のウイルスを不活化することである。
【0183】
本発明者らが、本発明による非フェノール性洗剤が脂質エンベロープを有するウイルスを不活化するのに特に有用であることを意外にも見出したということから、本発明はまた、本発明によるポリオキシエチレンエーテル洗剤またはポリオキシプロピレンエーテル洗剤、及び本発明によるポリオキシエチレンエーテル洗剤またはポリオキシプロピレンエーテル洗剤を含む組成物に関する。別の実施形態では、本発明によるポリオキシエチレンエーテル洗剤またはポリオキシプロピレンエーテル洗剤を含む組成物は、生物薬剤学的薬物及び/または有機溶媒及び/またはさらなる洗剤をさらに含む。
【0184】
本発明は、非フェノール性ポリオキシエチレンエーテルまたは非フェノール性ポリオキシプロピレンエーテルを提供する。上記のように、これらのポリオキシエチレンエーテルまたはポリオキシプロピレンエーテルは、本発明による脂質エンベロープを有するウイルスを不活化する方法に使用することができる。しかしながら、これらの非フェノール性ポリオキシエチレンエーテルまたは非フェノール性ポリオキシプロピレンエーテル、ならびに本発明による他の全ての非フェノール性ポリオキシエチレンエーテルまたは非フェノール性ポリオキシプロピレンエーテルは、他の様々な用途、例えばトリトンX-100が通常使用される用途に使用することもできる。例えば、本発明による非フェノール性ポリオキシエチレンエーテルまたは非フェノール性ポリオキシプロピレンエーテルは、実験室において用いられ得る。実験室では、本発明による非フェノール性ポリオキシエチレンエーテルまたは非フェノール性ポリオキシプロピレンエーテルは、例えば、細胞を溶解してタンパク質もしくは細胞小器官を抽出すること、または生細胞の膜を透過処理することのために使用すること、固定されていない(または軽く固定された)真核細胞膜を透過処理するために使用すること、CHAPSなどの両性イオン洗剤と併用して膜タンパク質をそれらの天然状態で可溶化するために使用すること、DNA抽出の際に溶解緩衝液の一部として(通常、アルカリ溶解緩衝液に5%の溶液で)使用すること、(通常、TBSまたはPBS緩衝液に0.1~0.5%の濃度で)免疫染色中に水溶液の表面張力を低減するために使用すること、微生物学においてアスペルギルス・ニデュランス(Aspergillusnidulans)のコロニー増殖を制限するために使用すること、動物由来の組織を脱細胞化するために使用すること、あるいはSDS-PAGEゲルからSDSを除去した後に、ゲル内でタンパク質を再生させるために使用することが可能である。別の実施形態では、本発明による非フェノール性ポリオキシエチレンエーテルまたは非フェノール性ポリオキシプロピレンエーテルは、電子産業において、例えば、いくつかの手順及び操作を改善し迅速化するためのスラットの湿潤剤として使用することができる。別の実施形態では、本発明による非フェノール性ポリオキシエチレンエーテルまたは非フェノール性ポリオキシプロピレンエーテルは、医学的用途を有することができ、例えば、殺精子剤ノノキシノール9の代替物として、または医薬品賦形剤として、またはインフルエンザワクチン(Fluzone)の成分として使用することができる。さらなる実施形態では、本発明による非フェノール性ポリオキシエチレンエーテルまたは非フェノール性ポリオキシプロピレンエーテルは、強力な工業製品から低刺激の洗剤に及ぶいくつかのタイプの洗浄化合物に使用することができる。それらは、蒸留水及びイソプロピルアルコールと共に自家製ビニールレコード洗浄液の成分として使用することができる。それらは、ダイヤモンド刃のクリーニング中に使用することができる。それらは、エマルションの重合のための配合物に使用することができる。それらは、タイヤに使用することができる。それらは、洗浄剤及び清浄剤に使用することができる。それらは、ポリマーまたは接着剤の製造のための開始化学物質として産業で使用することができる。それらは、家庭用または工業用洗浄剤、塗料またはコーティング、パルプまたは紙、油田、繊維、農薬、金属加工液に使用することができる。それらは、軟質複合材料用の炭素材料の分散に使用することができる。あるいは、それらは、金属のめっきに使用することができる。
【0185】
以下に、本発明を実施例によって説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0186】
上記の概略のように、最近の生態学的研究は、生物薬剤学的製造プロセスでのトリトンX-100の使用に関する環境への懸念を提起している。本発明者らは、構造的考察に基づいて、環境への悪影響と関連していない、トリトンX-100に代わる有用な代替物としての候補洗剤を同定した。具体的には、本発明者らは、驚いたことに、生物薬剤学的製造中に溶媒/洗剤(S/D)処理によって脂質エンベロープウイルスを不活化するためのトリトンX-100に代わる適切な代替物として、非フェノール性ポリオキシエチレンエーテルを同定した。以下の実験では、4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレートを合成し、4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレートなどのポリオキシエチレンエーテルのS/D処理及び単一洗剤処理への適合性を、さまざまなテスト項目でテストした。
【0187】
実施例1:4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレートIの合成(方法1)
【0188】
【0189】
中間体IIIの合成:
フェノールII(170.3g、800mmol)を、内部温度計及び攪拌棒を備えた2Lの三つ口フラスコに入れた。無水CH2Cl2(1000mL)をフラスコに加えて、撹拌を開始した。出発物質の溶解後、溶液を0℃に冷却した。完全に溶解した後、NEt3(225mL、1.6mol)を10分以内に添加した。CH2Cl2(180mL)中のTf2O(256g、907mmol)溶液を、0℃で120分かけて反応混合液に添加し、反応物を室温で一晩攪拌した。飽和NaHCO3水溶液(400mL)を添加し、反応混合液を抽出した。有機相を水(2×400mL)及びブライン(500mL)で繰り返し洗浄した。次いで有機相を真空中で濃縮した。トルエン(300mL)を残留物に添加し、粗生成物を濃縮して、314gの粗黒色液体を得た。この残留物をSiO2プラグの上部に充填し、石油エーテル/EtOAc(0~2%)で溶離した。純粋な留分を濃縮することで、透明な無色の油269.5g(収率:99.6%)を得た。Rf=0.74(石油エーテル/EtOAc5%).
中間体IVの合成:
トリフラートIII(269g、795mmol)を無水の脱気DMF(1.3L)に溶解させ、Zn(CN)2(95.3g、795mmol)及びPd(PPh3)4(25g、21.5mmol)を順次添加した。反応混合液を80℃に3時間加温し、続いて真空下でDMFを除去した。トルエン(300mL)を残留物に添加し、粗生成物を濃縮して、432gの黒色残留物を得た。この粗生成物をSiO2プラグの上部に充填し、石油エーテル/EtOAc(0~10%)で溶離した。純粋な留分を濃縮することで、透明な無色の油128.1g(収率:74.8%)を得た。Rf=0.23(石油エーテル/EtOAc2%).
【0190】
中間体Vの合成:
ニトリルIV(127.6g、592.5mmol)をMeOH(500mL)に溶解させ、NaOH水溶液4M(750mL)を添加し、混合液を還流させ、この温度(80℃)で一晩維持した。追加のNaOH水溶液10M(150mL)を、加温した混合液に添加し、その溶液をさらに20時間加熱した。周囲温度まで冷却した後、反応容器の内容物を大型ビーカーに移し、氷浴で冷却した。HCl水溶液4M(1.1L)を30分以内に添加し、この時点でpH試験紙が示すpHは酸性であり、白色固体が沈殿していた。沈殿物を濾過し、水(500mL)ですすいだ。ウェットケーキを2Lのフラスコに移し、真空下で3日間乾燥させて、127.5g(収率:91.9%)の白色粉末を得た。Rf=0.42(石油エーテル/EtOAc2:1).
【0191】
中間体VIの合成:
カルボン酸V(127g、542mmol)を乾燥mTHF(1.2L)中に懸濁させ、-10℃に冷却した。LiAlH4のTHF溶液(1M、575mL、575mmol)を60分かけて添加し、次いで反応物を周囲温度までゆっくり温め、さらに一晩撹拌した。反応容器の内容物を大型ビーカーに移し、過剰の水素化物を氷(15g)で注意深くクエンチした。HCl水溶液3M(500mL)を20分以内に添加し、この時点でpH試験紙が示すpHは酸性であった。EtOAc(300mL)を粗混合液に添加し、2相を激しく攪拌した。水相を、EtOAcで2回(300mL及び500mL)、逆抽出した。混ぜ合わさった有機相を、飽和NaHCO3水溶液(300mL)、水(300mL)及びブライン(500mL)で連続的に洗浄した。次いで有機相を真空中で濃縮した。トルエン(300mL)を残留物に添加し、粗生成物を濃縮して、123.3gの透明な黄色がかった油を得た。この残留物をSiO2プラグの上部に充填し、石油エーテル/EtOAc(0~15%)で溶離した。純粋な留分を濃縮することで、85.3g(収率:71.4%)の非晶質白色固体を得た。Rf=0.37(石油エーテル/EtOAc4:1).
【0192】
中間体VIIの合成:
ベンジルアルコールVI(84.8g、385mmol)を無水CH2Cl2(1L)に溶解させ、氷浴/水浴で冷却した。NEt3(110mL、770mmol)を添加し、続いてMsCl(45mL、577mmol)の無水CH2Cl2(25mL)溶液を60分かけてゆっくりと添加した。反応物を、周囲温度までゆっくり温め、さらに一晩撹拌した。飽和NaHCO3水溶液(420mL)を添加し、反応混合液を激しく攪拌した。有機相を水(2×500mL)及びブライン(300mL)で繰り返し洗浄した。次いで有機相を真空中で濃縮した。トルエン(200mL)及びCH2Cl2(100mL)を残留物に添加し、粗生成物を濃縮して、90g(収率:78.4%)のオレンジ色の半固体を得た。Rf=0.71(石油エーテル/EtOAc4:1).
【0193】
Iの合成:
PEG400(360g、900mmol)を無水THF(1L)に溶解させ、tBuOK(90g、802mmol)を周囲温度で15分かけて少しずつ添加し、混合液を周囲温度で60分間攪拌し、氷浴で冷却した。その間に、メシラートVII(89.5g、300mmol)をTHF(300mL)に懸濁させ、乳濁したオレンジ色の溶液を、冷却した脱プロトン化PEG400溶液に20分かけて添加した。反応物を周囲温度までゆっくり温め、さらに一晩撹拌した。氷(500g)とHCl水溶液1M(820mL)とを添加した。THFを真空下で除去し、EtOAc(1L)を添加した。相を攪拌し、有機相を水(2×500mL)で連続的に洗浄した。各水相をEtOAc(300mL)で逆抽出した。混ぜ合わさった有機層を、水(500ml)で洗浄し、真空中で濃縮した。トルエン(250mL)を残留物に添加し、粗生成物を濃縮して、125.2gの透明な黄色がかった油を得た。この残留物をSiO2プラグの上部に充填し、CH2Cl2/MeOH(0~8%)で溶離した。純粋な留分を濃縮することで、107.5g(収率:59.5%)の薄茶色の透明な油を得た。Rf=0.37-0.22(CH2Cl2/MeOH20:1).MS(ESI):m/z=[M+H]+=573.5,617.5(100%),661.6;[M+Ac]-=631.4,675.4(100%),719.5.1H-NMR(600MHz,CDCl3):δ=7.33(d,J=8.3Hz,2H),7.23(d,J=8.3Hz,2H),4.52(s,2H),3.72-3.58(m,33H),2.54(brs,1H),1.72(s,2H),1.34(s,6H),0.70(s,9H).13C-NMR(150MHz,CDCl3):δ=149.7,135.1,127.4(2C),126.2(2C),73.2,72.6,70.7(m),70.5,69.4,61.9,57.0,38.6,32.5,31.9(3C),31.6(2C).
【0194】
実施例2a:4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレートIの合成(方法2)
【0195】
【0196】
トルエン(35mL、328mmol)及び濃縮H2SO4(10mL)を丸底フラスコ中で0℃に冷却した。トルエン(27mL、256mmol)とジイソブチレン(2,4,4-トリメチル-1-ペンテン+2,4,4-トリメチル-2-ペンテンの3:1混合液、10mL、64mmol)との混合液を、反応混合液に2時間かけてゆっくりと添加した。反応物を0℃でさらに2時間撹拌した。水(100mL)を添加した。相分離後、有機相を飽和NaHCO3水溶液(100mL)で洗浄し、MgSO4上で乾燥させ、濃縮して14gの無色透明油を得た。油を、100mLの丸底フラスコに入れ、短行程蒸留装置(1・10-1mbar)によって蒸留した。62~70℃で留出する留分(8.1g、収率61.9%)を収集した。Rf=0.65(ガソリンエーテル40-60100%).
【0197】
p-置換トルエンX(500mg、2.45mmol)を、アセトニトリル(ACN)(5mL)に溶解させた。N-ブロモスクシンイミド(NBS)(460mg、2.57mmol)を添加し、溶解後、デュラン25mL丸底フラスコをハロゲンランプ(300W)から15cm離して配置した。60分間の照射(反応温度=45℃)後、溶媒を除去した。ガソリンエーテル40-60(25mL)を添加すると、固体が沈殿した。液相を水(2×20mL)で洗浄し、MgSO4上で乾燥させ、濃縮して、540mg(収率:77.9%)の黄色がかった粗油を得た。Rf=0.43(ガソリンエーテル40-60100%).
【0198】
PEG400(2.25g、5.61mmol)を、周囲温度で無水THF(5mL)に溶解させた。tBuOK(420mg、3.74mmol)を、1分かけて少しずつ添加し、混合液を90分間撹拌し、次に氷浴/水浴で0℃に冷却した。その間に、臭化ベンジル中間体XI(530mg、1.87mmol)をTHF(2mL)に懸濁させ、その溶液を、冷却した脱プロトン化PEG400溶液に添加した。反応物を周囲温度にゆっくり加温し、さらに一晩撹拌した。HCl(1M、20mL)、ならびにEtOAc(50mL)及び水(20mL)を、反応混合液に添加した。その溶液を、分液漏斗に移し、勢いよく抽出した。相分離後、有機相を水(5×15mL)で連続的に洗浄し、最後にMgSO4上で乾燥させて、0.8gの粗油性残留物を得た。この残留物をSiO2カラムの上部に充填し、CH2Cl2/MeOH(0~8%)で溶離した。純粋な留分を濃縮することで、588mg(収率:52.2%)の透明な黄色がかった油を得た。Rf=0.37-0.22(CH2Cl2/MeOH20:1).
【0199】
実施例2b:4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレートIの合成(方法2の変形法)
【0200】
【0201】
ステップ1:
このステップを次のように実行した。
トルエン(750mL、7.04mol)及び濃縮H2SO4(20mL、0.375mol)を、丸底フラスコ中で0℃に冷却した。トルエン(250mL、2.35mol)とジイソブチレン(2,4,4-トリメチル-1-ペンテン+2,4,4-トリメチル-2-ペンテンの3:1混合液、200mL、1.28mol)との混合液を、反応混合液に90分かけてゆっくりと添加した。反応物を0℃でさらに撹拌し、周囲温度まで一晩加温した。氷(400g)を加え、混合液を分液漏斗に移した。相分離後、有機相を飽和NaHCO3水溶液(300mL)及び水(2×250mL)で連続的に洗浄した。有機相を濃縮して、199.1gの無色透明油を得た。油を、500mLの丸底フラスコに入れ、短行程蒸留装置(20mbar)によって蒸留した。138℃~161℃の間で蒸留された留分を収集した(134.1g、収率51.4%)。Rf=0.65(ガソリンエーテル40-60100%).1H-NMR(600MHz,CDCl3):δ=7.28(d,J=8.2Hz,2H),7.10(d,J=8.2Hz,2H),2.34(s,3H),1.75(s,2H),1.38(s,6H),0.75(s,9H).13C-NMR(150MHz,CDCl3):δ=147.3,134.7,128.6(2C),126.1(2C),57.1,38.4,32.5,31.9(3C),31.7(2C),21.0.
【0202】
あるいは、このステップを次のように実行した。
トルエン(400mL、3.83mol)及びノナフルオロ-1-ブタンスルホン酸(4mL、24mmol)を、丸底フラスコ中において周囲温度で撹拌した。トルエン(200mL、1.92mol)とジイソブチレン(2,4,4-トリメチル-1-ペンテン+2,4,4-トリメチル-2-ペンテンの3:1混合液、100mL、0.64mol)との混合液を、反応混合液に60分かけてゆっくりと添加した。反応物を周囲温度でさらに一晩撹拌した。飽和NaHCO3水溶液(200mL)を添加し、混合液を20分間撹拌した。混合液を分液漏斗に移し、水相を廃棄した。有機相を水(3×300mL)で連続的に洗浄した。有機相を濃縮して、132.5gの無色透明油を得た。油を、500mLの丸底フラスコに入れ、短行程蒸留装置(26~16mbar)によって蒸留した。115℃~135℃の間で蒸留された留分を収集した(80.5g、収率62%)。Rf=0.65(ガソリンエーテル40-60100%).1H-NMR(600MHz,CDCl3):δ=7.28(d,J=8.2Hz,2H),7.10(d,J=8.2Hz,2H),2.34(s,3H),1.75(s,2H),1.38(s,6H),0.75(s,9H).13C-NMR(150MHz,CDCl3):δ=147.3,134.7,128.6(2C),126.1(2C),57.1,38.4,32.5,31.9(3C),31.7(2C),21.0.
【0203】
ステップ2:
このステップを次のように実行した。
p-置換トルエンX(63.6g、311mmol)を、アセトニトリル(ACN)(650mL)に溶解させた。N-ブロモスクシンイミド(NBS)(58.2g、327mmol)を添加し、溶解後、デュラン2L丸底フラスコをハロゲンランプ(300W)から5~25cm離して配置し、その間に攪拌(350rpm)した。6時間の照射後(反応温度=46℃まで)、溶媒を真空下で除去した。ガソリンエーテル40-60(450mL)を添加すると、暗色の固体が沈殿した。液相を濃縮して、暗褐色の残留物(75g)を得た。この残留物をSiO2プラグの上部に充填し、ガソリンエーテル40-60(100%)で溶離した。純粋な留分を濃縮することで、43.8g(収率:49.7%)のオレンジ色の透明な油を得た。Rf=0.43(ガソリンエーテル40-60100%).1H-NMR(600MHz,CDCl3):δ=7.34(d,J=8.4Hz,2H),7.30(d,J=8.4Hz,2H),4.50(s,2H),1.74(s,2H),1.36(s,6H),0.72(s,9H).13C-NMR(150MHz,CDCl3):δ=150.9,134.8,128.6(2C),126.7(2C),57.0,38.7,33.9,32.5,31.9(3C),31.6(2C).
【0204】
あるいは、このステップを次のように実行した。
p-置換トルエンX(85.2g、417mmol)を、トリフルオロトルエン(830mL)に溶解させた。エステルまたはアルカン(EtOAc及びヘキサン)などの他の溶媒も効果的である。N-ブロモスクシンイミド(NBS)(74.2g、417mmol)及びAIBN(アゾビス(イソブチロニトリル))(3.4g、21mmol)を、撹拌しながら(450rpm)、添加した。混合液を80℃に5時間加熱した。溶媒を真空下で除去した。ガソリンエーテル40-60(350mL)を添加すると、白色の固体が沈殿した。液相を濃縮して、透明なオレンジ色の残留物(108g)を得た。この残留物をSiO2プラグの上部に充填し、ガソリンエーテル40-60(100%)で溶離した。純粋な留分を濃縮することで、64.1g(収率:54.3%)の透明なほぼ無色の油が得られ、これは結晶化して無色の針状結晶を形成し、高純度の生成物を示した。Rf=0.43(ガソリンエーテル40-60100%).1H-NMR(600MHz,CDCl3):δ=7.34(d,J=8.4Hz,2H),7.30(d,J=8.4Hz,2H),4.50(s,2H),1.74(s,2H),1.36(s,6H),0.72(s,9H).13C-NMR(150MHz,CDCl3):δ=150.9,134.8,128.6(2C),126.7(2C),57.0,38.7,33.9,32.5,31.9(3C),31.6(2C).ラジカル開始剤としてのAIBN(アゾビス(イソブチロニトリル))の使用は、この反応ステップで得られる生成物の高純度に寄与することが期待される。
【0205】
ステップ3:
このステップを次のように実行した。
PEG400(184.1g、460mmol)を、周囲温度で無水THF(550mL)に溶解させた。tBuOK(27.2g、245mmol)を、15分かけて少しずつ添加し、混合液を90分間撹拌した。その間に、臭化ベンジル中間体XI(43.5g、153mmol)をTHF(300mL)に懸濁させ、その溶液を、冷却した脱プロトン化PEG400溶液に添加した。反応物を周囲温度で一晩撹拌した。HCl(1M、270mL)を反応混合液に添加した。揮発物を除去し、EtOAc(600mL)を添加した。その溶液を、分液漏斗に移し、勢いよく抽出した。相を分離した後に、水相を、EtOAc(300mL)でさらに抽出した。混ぜ合わさった有機相を、水/ブライン(1:1、3×300mL)で連続的に洗浄し、最後に濃縮してオレンジ色の粗油性残留物90.4gを得た。この残留物をSiO2カラムの上部に充填し、CH2Cl2/MeOH(0~8%)で溶離した。純粋な留分を濃縮することで、82.2g(収率:89.0%)の透明な薄茶色の油を得た。Rf=0.37-0.22(CH2Cl2/MeOH20:1).MS(ESI):m/z=[M+H]+=573.5,617.5(100%),661.6;[M+Ac]-=631.4,675.4(100%),719.5.1H-NMR(600MHz,CDCl3):δ=7.33(d,J=8.3Hz,2H),7.23(d,J=8.3Hz,2H),4.52(s,2H),3.72-3.58(m,33H),2.54(brs,1H),1.72(s,2H),1.34(s,6H),0.70(s,9H).13C-NMR(150MHz,CDCl3):δ=149.7,135.1,127.4(2C),126.2(2C),73.2,72.6,70.7(m),70.5,69.4,61.9,57.0,38.6,32.5,31.9(3C),31.6(2C).
【0206】
あるいは、このステップを次のように実行した。
PEG400(475g、1.19mol)を、TBME(メチル-tert-ブチルエーテル)(1.0L)に周囲温度で溶解させた。tBuOK(43.2g、385mmol)を、20分かけて少しずつ添加し、混合液を90分間撹拌した。その間に、臭化ベンジル中間体XI(84g、297mmol)を、TBME(250mL)に懸濁させ、その溶液を脱プロトン化PEG400溶液に周囲温度で添加した。反応物を周囲温度で3時間撹拌した。氷(200g)及びHCl(1M、400mL)を、反応混合液に添加した。溶液を分液漏斗に移し、EtOAc(1L)及び水(500mL)を添加し、勢いよく抽出した。相分離後、有機相を、水/ブライン(1:1、3×500mL)で連続的に洗浄し、最後に濃縮して165gのオレンジ色の粗油性残留物を得た。この残留物をSiO2カラムの上部に充填し、CH2Cl2/MeOH(0~10%)で溶離した。純粋な留分を濃縮することで、透明な薄茶色の油151.7g(収率:84.9%)を得た。Rf=0.37-0.22(CH2Cl2/MeOH20:1).MS(ESI):m/z=[M+H]+=573.5,617.5(100%),661.6;[M+Ac]-=631.4,675.4(100%),719.5.1H-NMR(600MHz,CDCl3):δ=7.33(d,J=8.3Hz,2H),7.23(d,J=8.3Hz,2H),4.52(s,2H),3.72-3.58(m,33H),2.54(brs,1H),1.72(s,2H),1.34(s,6H),0.70(s,9H).13C-NMR(150MHz,CDCl3):δ=149.7,135.1,127.4(2C),126.2(2C),73.2,72.6,70.7(m),70.5,69.4,61.9,57.0,38.6,32.5,31.9(3C),31.6(2C).溶媒としてTBME(メチル-tert-ブチルエーテル)を使用すること、3時間という適度な反応時間(反応副生成物を最小限に抑えることが期待される)、より大きな製造規模、及び出発物質(すなわち、臭化ベンジル中間体XI)の純度は全て、この反応ステップで観察される高収率に寄与することが期待される。
【0207】
実施例3
4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレートIの改善された合成及び改善された精製
【0208】
【0209】
1 材料
全ての合成は、市販の試薬と溶媒(Merck、KarlRoth、TCI、WVR)とをさらに精製することなく使用して実行した。
【0210】
2 合成及び分析方法:
1H及び13C-NMRスペクトルを、標準パルスプログラムを使用して室温にてBruker AV600分光計で記録した。化学シフト(δ)を百万分の1(ppm)で表し、適切な残留溶媒シグナルを基準とする。結合定数(J)は、0.1Hz単位で報告する。LC-質量スペクトル(m/z)はShimadzu LC-MS 2020で実行し、HRMS(高分解能質量)分析はWatersのMicroMass TOF分光計(ESI+)で実行した。フラッシュクロマトグラフィを、シリカゲル(Merck Kieselgel 60、0.040~0.063mm)上で実行した。TLC Silica Gel 60F24(Merck製のアルミニウムシート)を使用して、薄層クロマトグラフィ(TLC)を行った。分析用HPLCクロマトグラムは、DAD及び/またはELSD検出器を備えたアジレントシステムで実行した。融点を、DSC機器(TA Instruments製のDSC2000)または顕微鏡Reichert Thermovarで測定した。FT-IR(ATR)は、ATR BioATRセルIIを装備したBruker tensor 27分光計で、純粋なサンプル(液体及び油性化合物の場合)を使用して、または揮発性物質を完全に蒸発させた後に測定されるジクロロメタン溶解溶液サンプル(固体サンプルの場合)を使用して、測定した。分子長の計算は、ソフトウェアChem3D V15.1を使用して実行した。
【0211】
3 合成手順
3.1 1-メチル-4-(2,4,4-トリメチルペンタン-2-イル)ベンゼン(XV)の合成(ステップ(1))
【化44】
周囲温度で撹拌しながら、反応容器にトルエン(V=600mL、4容量)を入れ、ノナフルオロ-1-ブタンスルホン酸(V=4.8mL)を一度に加えた。溶液を0℃に冷却し、トルエン(V=300mL)中に予め混合したジイソブチレン(V=150mL)の混合液を、反応混合液を氷/水浴で冷却しながら、滴下漏斗を使用して反応混合液に40~100分かけてゆっくりと添加した。次いで、反応混合液を周囲温度で120分間攪拌した後、飽和NaHCO
3水溶液(V=300mL)を一度に加えて反応をクエンチした。反応混合液を60分間撹拌し、フラスコの内容物を分液漏斗に移した。相分離後に水相を除去し、有機相を水(2×V=500mL)で洗浄した。有機相を真空で完全に濃縮して、粗生成物を薄茶色の油状残留物として得た(195.5g、定量的収率)。R
f=0.65(ガソリンエーテル40-60100%).
1H-NMR(600MHz,CDCl
3):δ=7.28(d,J=8.2Hz,2H),7.10(d,J=8.2Hz,2H),2.34(s,3H),1.75(s,2H),1.38(s,6H),0.75(s,9H).
13C-NMR(150MHz,CDCl
3):δ=147.3,134.7,128.6(2C),126.1(2C),57.1,38.4,32.5,31.9(3C),31.7(2C),21.0.IR(cm
-1):2953,2906,2867,1513,1469,1364,1251,1020,815,649,489.
【0212】
さらに、ノナフルオロ-1-ブタンスルホン酸よりも安価で扱いやすい(粘性が低く、溶解しやすい)トリフリック酸が、ノナフルオロ-1-ブタンスルホン酸の代わりに有利に使用できることが分かった。
【0213】
3.2 1-(ブロモメチル)-4-(2,4,4-トリメチルペンタン-2-イル)ベンゼン(XVI)の合成(ステップ(2))
【化45】
パラ置換トルエンXV(195g、954mmol)をシクロヘキサン(1560mL、8容量)に溶解させ、NBS(170g、954mmol)及びAIBN(0.8g、4.8mmol)を撹拌しながら添加する。混合液を完了するまで70℃に加熱し、周囲温度に冷却した。固体を濾別し、ケーキをcHex(100mL)ですすいだ。濾液を分液漏斗に移し、有機相を水(2×500mL)で洗浄した。有機相を真空中で濃縮して、粗残留物を褐色透明油状物として得た。粗生成物にIPA(残留物2mL/g)を添加し、溶液を-20℃に冷却した。-20℃で1時間後、数個の種結晶(10~50mg)を添加した。フラスコを-20℃で一晩放置した。固体を濾別し、冷IPA(50mL)ですすいで、オフホワイトの固体及び対応する母液を得た。この固体をIPA(2mL/g固体)及び水(0.2mL/g固体)に、Rotavaporの水浴を使用して(45℃、5分)再溶解させた。溶液を+2~8℃に冷却した。+2~8℃で1時間後、数個の種結晶(10~50mg)を添加し、フラスコを+2~8℃で一晩放置し、さらに-20℃に4時間冷却した。必要に応じて結晶化を繰り返す。沈殿物を濾別し、冷IPA(50mL)ですすいで無色の針状物を得た。固体を真空オーブン(30℃、<15mbar、24時間、続いて20℃、<15mbar、24時間)で乾燥させて、50~80g(2ステップにわたって収率20~30%)を得た。R
f=0.43(ガソリンエーテル40-60100%).m.p.(DSC)=53℃.
1H-NMR(600MHz,CDCl
3):δ=7.34(d,J=8.4Hz,2H),7.30(d,J=8.4Hz,2H),4.50(s,2H),1.73(s,2H),1.36(s,6H),0.72(s,9H).
13C-NMR(150MHz,CDCl
3):δ=150.9,134.8,128.7(2C),126.7(2C),57.0,38.7,33.9,32.5,31.9(3C),31.6(2C).IR(cm
-1):2953,2899,2868,1511,1470,1366,1252,1230,1204,1095,830,648,628,606,573,454.
【0214】
また、本ステップの溶媒として、シクロヘキサンの代わりにアセトニトリルを使用することが一般的に可能であることも分かった。アセトニトリルは、合成のための溶媒としても結晶化のための溶媒としても有利に使用することができる。さらに、アセトニトリルを使用すると、次のセクションで説明するジブロム化副生成物の形成を減らすことが可能になる。
【0215】
3.3 比較のための副生成物XVIIの合成
【化46】
パラ置換臭化ベンジルXVI(502mg、1.77mmol)を、シクロヘキサン(6mL)に溶解させた。NBS(474mg、417mmol)及びAIBN(16mg、0.09mmol)を、撹拌(400rpm)しながら添加した。混合液を80℃に4時間加熱した。反応混合液を周囲温度に冷却し、20mLのシクロヘキサンを添加した。フラスコの内容物を分液漏斗に移し、有機相を、水(2×5mL)、続いてブライン(5mL)で洗浄した。溶媒を真空下で除去して、黄色がかった残留物(720mg)を得た。この残留物をSiO
2カラムの上部に充填し、ヘキサン(100%)で溶離した。純粋な留分を濃縮することで、358mg(収率:56%)の透明な無色の粘性油を得た。R
f=0.47(ヘキサン).
1H-NMR(600MHz,CDCl
3):δ=7.47(d,J=8.4Hz,2H),7.36(d,J=8.4Hz,2H),6.65(s,1H),1.74(s,2H),1.36(s,6H),0.72(s,9H).
13C-NMR(150MHz,CDCl
3):δ=152.6,139.1,126.5(2C),126.1(2C),57.0,41.3,38.9,32.5,31.9(3C),31.5(2C).IR(cm
-1):2955,2898,2871,1607,1469,1411,1365,1251,1143,1095,1017,836,746,667.
【0216】
3.4 XVIからの4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレートの合成(ステップ(3))
【化47】
反応フラスコをPEG400(700g、1.77mol)で満たし、60℃に加熱した後に、tBuOK(47.5g、423mmol)を攪拌しながら少しずつ添加した。添加後、反応混合液を60℃で30分間加熱した。固体結晶臭化ベンジル中間体XVI(100g)を、脱プロトン化PEGへ、一度に添加した。30分後、反応混合液を周囲温度まで冷却し、水(1.5L)を添加した。HCl水溶液1Mを使用することで、pHを6~7に設定した。任意選択で、最終生成物をほとんど無色にする必要がある場合、次亜塩素酸ナトリウム(5%活性Cl溶液、10~15mL)を反応容器に滴下した。容器の内容物を分液漏斗に移した。水(0.5L)及びEtOAc(2L)を漏斗に加え、相を激しく振とうさせた。相分離後、水相を除去した。水/ブライン(20:1)(1L)を添加し、相を激しく振とうし、相分離後、水相を除去した。2回繰り返す。次いで、EtOAc相を減圧下で濃縮して、約200gの黄色がかった透明な生成物を得た。残留物をEtOH(2L)に取り、分液漏斗に移した。cHex(3L)と水(100mL)とを加えた。相を激しく振とうし、cHex相を除去した。新鮮なcHex(1L)を加え、相を激しく振とうし、cHex相を除去した。EtOH相を減圧下で濃縮し、生成物をさらに一晩乾燥させて、約160~170g(収率75~80%)の淡黄色がかった透明な生成物を得た。MS(ESI):m/z=[M+H]
+=573.5,617.5(100%),661.6;[M+Ac]
-=631.4,675.4(100%),719.5.
1H-NMR(600MHz,CDCl
3):δ=7.33(d,J=8.3Hz,2H),7.23(d,J=8.3Hz,2H),4.52(s,2H),3.72-3.58(m,33H),2.54(brs,1H),1.72(s,2H),1.34(s,6H),0.70(s,9H).
13C-NMR(150MHz,CDCl
3):δ=149.7,135.1,127.4(2C),126.2(2C),73.2,72.6,70.7(m),70.5,69.4,61.9,57.0,38.6,32.5,31.9(3C),31.6(2C).IR(cm
-1):2957,2865,1465,1350,1249,1097,948,816,670,632.IR(cm-
1):2957,2865,1465,1350,1249,1097,948,816,670,632.HRMS(ESI
+)(m/z):[M+H]
+C
33H
61O
10(n=9)に対する計算値:617.4265;実測値:617.4269.
【0217】
3.5 比較のための二官能性副生成物XVIIIの合成
【化48】
PEG400(5.01g、12.5mmol)を周囲温度でTHF(20mL)に溶解させた。tBuOK(3.25g、28.8mmol)を一度に添加し、混合液を30分間撹拌した。臭化ベンジルXVIを脱プロトン化PEG400溶液に周囲温度で一度に添加し、反応物を周囲温度で一晩撹拌した。水(120g)及びHCl(1M、10mL)を反応混合液に添加した。溶液を分液漏斗に移し、EtOAc(120mL)を添加し、勢いよく抽出した。相分離後、有機相を水(2×100mL)で連続的に洗浄し、最後にMgSO
4上で乾燥させた後に濃縮して、10.8gの黄色がかった粗油性残留物を得た。この残留物をSiO
2カラムの上部に充填し、CH
2Cl
2/MeOH(0~15%)で溶離した。純粋な留分を濃縮することで、9.13g(収率:91%)の透明な淡黄色がかった油を得た。R
f=0.21-0.78(CH
2Cl
2/MeOH20:1).
1H-NMR(600MHz,CDCl
3):δ=7.33(d,J=8.2Hz,4H),7.23(d,J=8.2Hz,4H),4.53(s,4H),3.80-3.49(m,36H),1.73(s,4H),1.35(s,12H),0.71(s,18H).
13C-NMR(150MHz,CDCl
3):δ=149.8(2C),135.2(2C),127.5(4C),126.3(4C),73.2,70.8,70.8(m),69.4,57.1(2C),38.6(2C),32.5(2C),31.9(6C),31.7(4C).IR(cm
-1):2951,2861,1465,1363,1249,1099,817,670,633.HRMS(ESI
+)(m/z):[M+Na]
+C
48H
82NaO
10(n=9)に対する計算値:841.5806;実測値:841.5797.
【0218】
最終生成物の純度を分析するための分析方法:
HPLC法1:
この方法では、次の設定を使用した。
HPLC:アジレント1260
カラム:Zorbax Rx-C8、5μm、4.6×250mm(V=4.155mL)
溶離液:水(A)、アセトニトリル(B)
勾配溶離:70%B(0分)-->70%B(4分)-->97%B(20分)-->97%B(40分)
ポストタイム:12分
流量:1.0mL/分
カラム温度:25℃
注入量:5μL
波長:200nm
200nmでの粗生成物のスペクトルと、200nmでの最終生成物のスペクトルとを、
図7に示す。
【0219】
HPLC法2:
この方法では、次の設定を使用した。
HPLC:アジレント1260
カラム:Zorbax 300SB-C3、5μm、2.1×150mm(V=0.520mL)
溶離液:水(A)、アセトニトリル(B)
勾配溶離(Gradient elution):勾配溶離(gradient elution):35%B(0分)-->35%B(4分)-->97%B(20分)-->97%B(25分)
ポストタイム:8分
流量:0.5mL/分
カラム温度:25℃
注入量:5μL
波長:200nm及びELSD
最終生成物のスペクトルを
図8に示す。
ELSDによる純度>99%
200nmによる純度=95%
【0220】
HPLC法3:
この方法では、次の設定を使用した。
HPLC:アジレント1260
カラム:Acclaim Surfactant Plus、4.6×150mm、3μm、175Å、V=2.493mL
溶離液:水(A)、アセトニトリル(B)
勾配溶離:20%B(0分)-->20%B(7分)-->90%B(27分)-->90%B(40分)-->20%B(40.1分)-->20%B(50分)
ポストタイム:0分
流量:0.5mL/分
カラム温度:30℃
注入量:5μL
波長:225nm
ELSD検出
最終生成物のスペクトルを
図9に示す。
【0221】
結論:
このルートでは、少数の溶媒(例えば、トルエン、cHex、IPA、EtOAc及びEtOH)を利用し、それらは全て無害であり、濃縮後に回収可能であることが留意されてもよい。この方法で使用される、より高い当量(eq.)数のPEG、例えば5モル当量(eq.)のPEGは、二官能性副産物XVIIIの量を減らすことによって生成物の純度を高めるので、より低い量のPEGと比較して有利である。次亜塩素酸ナトリウムの添加を省略した場合、最終生成物はオレンジ色になるが、分析結果は同じである。
【0222】
上記の3ステップの、クロマトグラフィを使用しない合成プロセスでは、安価な出発物質を使用し、堅牢でシンプルなワークアップが可能であり、標準的な有機実験室での生産が、99%を超える純度で数百グラムのバッチを提供することを可能にする。このプロセスを、本発明の洗剤の調製及び精製のために工業規模で使用することができる。
【0223】
実施例4:静脈内免疫グロブリンを含む液体中での4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレートを使用したPRVの不活化
材料及び方法
実験を、WO2019/086463の実施例1に記載されているように実施した。しかしながら、S/D処理については、実施例2aで生成した4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレートを含むS/D混合液を試験し、トリトンX-100を含むS/D混合液と比較した。トリトンX-100を含むS/D混合液の組成物は、WO2019/086463の実施例1に記載されているように調製した。4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレートを含むS/D混合液の組成物を、次のように調製した。
【0224】
S/D成分のポリソルベート80(PS80、Crilet 4 HP、Tween(登録商標) 80)及びトリ-n-ブチルホスフェート(TnBP)を、実施例2aで生成した洗剤4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレートと、以下の比率で組み合わせた(表1参照)。
【表1】
混合液を少なくとも15分間撹拌した。S/D試薬混合物は、1年以内に使用するために室温で保存した。使用前に、S/D試薬混合物を少なくとも15分間再度撹拌して、均質性を確保した。
【0225】
それぞれのS/D試薬混合物をIVIG含有液に添加して、それぞれのポリオキシエチレンエーテル洗剤の最終濃度である0.05%w/wを得た。
【0226】
ウイルスPRVの不活化のみをテストした。
【0227】
結果
4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレート、PS80及びTnBPの混合液を使用して、IVIG含有液をS/D処理したところ、PRVは、1~2分以内に約4のウイルスリダクション指数(RF)によって不活化された(
図1A)。同様の結果を反復実験で得た(
図1B)。
【0228】
これらの実験は、トリトンX-100を4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレートに置き換えて生物薬剤学的薬物含有液のS/D処理を行うと、低濃度の洗剤でも脂質エンベロープウイルスが効率的に不活化されることを示している。
【0229】
実施例5:ヒト血清アルブミンを含む液体中での4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレートを使用したX-MuLVの不活化
材料及び方法
実験を、WO2019/086463の実施例3に記載されているように実施した。しかしながら、S/D処理については、4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレートを含むS/D混合液を試験し、トリトンX-100を含むS/D混合液と比較した。トリトンX-100を含むS/D混合液の組成物は、WO2019/086463の実施例3に記載されているように調製した。4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレートを含むS/D混合液の組成物を、次のように調製した。
【0230】
S/D成分のポリソルベート80(PS80、Crilet 4 HP、Tween(登録商標) 80)及びトリ-n-ブチルホスフェート(TnBP)を、洗剤4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレートと、以下の比率で組み合わせた(表2参照)。
【表2】
混合液を少なくとも15分間撹拌した。S/D試薬混合物は、1年以内に使用するために室温で保存した。使用前に、S/D試薬混合物を少なくとも15分間再度撹拌して、均質性を確保した。
【0231】
それぞれのS/D試薬混合物をHSA含有液に添加して、それぞれのポリオキシエチレンエーテル洗剤の最終濃度である0.1%を得た。
【0232】
ウイルスX-MuLVの不活化のみをテストした。
【0233】
結果
4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレート、PS80及びTnBPの混合液を使用して、HSA含有液を1℃±1℃でS/D処理したところ、X-MuLVは、10分以内に2を超えるウイルスリダクション指数(RF)によって不活化された(
図2A)。同様の結果を反復実験で得た(
図2B)。
【0234】
追加の実験は、HSA含有液のS/D処理を1℃±1℃の代わりに19℃±1℃で行ったことのみを除いて、この実施例の材料及び方法のセクションに記載した通りに正確に行った。4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレート、PS80及びTnBPの混合液を使用して、HSA含有液を19℃±1℃でS/D処理したところ、X-MuLVは、10分以内に2を超えるウイルスリダクション指数(RF)(
図3A)、及び30分以内に約4のRFによって不活化された。同様の結果を反復実験で得た(
図3B)。
【0235】
これらの実験は、トリトンX-100を4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレートに置き換えて生物薬剤学的薬物含有液のS/D処理を行うと、低濃度の洗剤でも、室温または室温付近、及び1℃±1℃という低い温度で、脂質エンベロープウイルスが効率的に不活化されることを示している。
【0236】
実施例6:HSAを含む緩衝液中での4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレート、還元型トリトンX-100またはBrij C10を使用したBVDVの不活化
4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレート、還元型トリトンX-100またはBrij C10が、治療用抗体のモデルタンパク質としてヒト血清アルブミン(HSA)を含む緩衝液中の脂質エンベロープウイルスであるウシウイルス性下痢ウイルス(BVDV)を不活化する単一洗剤処理に適していることをテストし、トリトンX-100と比較した。この目的のために、低濃度のそれぞれの洗剤を、HSAを含む緩衝液に添加し、次いで、その混合液にウイルスをスパイクした。さまざまな期間のインキュベーションの後、残っているウイルスの感染性を判定した。それぞれの洗剤は、ウイルス不活化の動態、すなわち経時的なウイルス不活化効率(RFによって表される)を評価できるようにするために、低濃度で使用した。当業者には明らかであるように、生物薬剤学的製造などの商業的生産プロセスでは、本発明の洗剤を有意に高くした濃度で使用することができ、これによりウイルス不活化の動態が促進されるようになり、達成されるRFもまた増加し得る。
【0237】
材料
HSAを含む緩衝液
治療用抗体のモデルとしてヒト血清アルブミン(HSA)を含む緩衝液を使用した。
ウイルス
【表3】
ウイルスストックを、使用前に特徴付けた。この特徴付けには、少なくとも10回の独立した力価測定によるウイルス力価の決定、及び陽性対照として使用するための許容ウイルス力価範囲の指定、ウイルスストックタンパク質含有量の決定、ウイルスの同一性及び他のウイルス及びマイコプラズマによる汚染のPCR検査、ならびに大型ウイルス凝集体を通過させないフィルタを使用するウイルスの凝集の検査が含まれる。著しい凝集がなく、PCRによる同一性/汚染試験に合格した(すなわち、ウイルスストックと濾過ストックとの間の感染力価の差が1.0log未満であった)ウイルスストックのみを使用した。
【0238】
洗剤
それぞれの洗剤、またはその1:10希釈液(つまり、それぞれの洗剤1g±2%に蒸留水9g±2%を加えたもの)を、使用する前に、少なくとも15分間攪拌して、均質性を確保した。
【0239】
方法
単一洗剤処理のウイルス不活化能力と堅牢性とを、ウイルス不活化に不利な条件下で、つまり短いインキュベーション時間及び比較的低温で評価した。当業者には明らかなように、生物薬剤学的製造などの商業的生産プロセスでは、より長いインキュベーション時間、及びより高い温度を使用することができ、これによりウイルス不活化の動態が促進されるようになり、達成されるLRVも増加する場合がある。さらに、すでに先に述べたように、それぞれの洗剤を低濃度で使用した。当業者には明らかなように、生物薬剤学的製造などの商業的生産プロセスでは、より高濃度のそれぞれの洗剤を使用することができ、これによりウイルス不活化の動態が促進されるようになり、達成されるLRVも増加する場合がある。
【0240】
タンパク質濃度は、ウイルスの不活化に大きな影響を与えないので(Dichtelmuller et al., 2009も参照されたい)、タンパク質含有量に関する堅牢性は調査しなかった。
【0241】
以下の全てのステップを、バイオセーフティクラスIIキャビネット内で行った。出発材料を、インキュベーションのためクライオスタットに接続された二重壁容器を使用して、+14℃±1℃の温度で攪拌しながらインキュベートした。
【0242】
HSAを含む緩衝液を、風袋重量が測定されているスクリューキャップフラスコに移した。添加すべき単一の洗剤の量を算出するために、HSAを含む(密閉フラスコ内の)緩衝液の重量を測定した。HSAを含む緩衝液1gあたり、洗剤の必要量([mg])、またはその1:10希釈液のそれぞれの量を添加して、それぞれの洗剤の最終濃度:0.1%±0.01%(w/w)または0.03%±0.01%(w/w)を得た。シリンジを使用して1分以内に洗剤を攪拌しながら添加し、実際に添加された量を、シリンジを逆秤量することによって求めた。洗剤の添加が完了した後、HSAを含む緩衝液を少なくとも10分間さらに攪拌した。洗剤と混合したHSAを含む緩衝液を、0.2μmのSuporシリンジ膜フィルタ(または同等品)によって濾過し、クライオスタットに接続された二重壁容器を使用して、14℃±1℃の目標温度で濾液を収集した。濾液のための容器を冷却した。フィルタが目詰まりした場合、新しいフィルタを使用して、HSAを含む緩衝液の濾過を続けた。濾過後、温度(目標:14℃±1℃)及び体積を測定した。
【0243】
クライオスタットに接続された二重壁容器を使用して、それぞれの洗剤を含むHSA含有の濾過済み緩衝液を攪拌しながら、14℃±1℃に調整した。この温度範囲を、洗剤を含むHSA含有緩衝液のインキュベーションの最後まで撹拌下で維持し、継続的に記録した。洗剤を含むHSA含有緩衝液の測定した体積を1:31の比率でスパイクし、例えば、HSAを含有する緩衝液48mLをウイルスストック溶液1.6mlでスパイクした。HSAを含むスパイクした緩衝液を、14℃±1℃で59±1分間、継続的に攪拌しながらさらにインキュベートした。インキュベーション中、ウイルス力価測定用のサンプルを、1~2分、5±1分、29±1分、及び59±1分で採取した。サンプル採取後のウイルスの洗剤によるさらなる不活化を防ぐために、サンプルを、それぞれの冷却した(+2℃~+8℃)細胞培地で直ちに1:20(つまり、1体積のサンプルと19体積の細胞培地)に希釈した。
【0244】
スパイクコントロール及びホールドコントロールを同日に行った。HSAを含む緩衝液を上記のように濾過したが、事前に洗剤を添加しなかった。次に濾液を上記のように撹拌しながら14℃±1℃に調整した。HSAを含む緩衝液を、上記のように、1:31の比率でスパイクし、さらに14℃±1℃で59±1分間インキュベートした。スパイク後1~2分以内に、ウイルス力価測定用のサンプル(スパイクコントロール)を採取した。59±1分間のインキュベーション後、ウイルス力価測定用のサンプル(すなわち、ホールドコントロールサンプル)を採取した(HC)。
【0245】
WO2019/086463の実施例1に記載されているように、サンプルの力価測定及びウイルス除去能力の算出を行った。
【0246】
結果
HSAを含む緩衝液の単一洗剤処理を、0.1%±0.01%トリトンX-100、Brij C10、4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレートまたは還元型トリトンX-100を使用して、14℃±1℃で行ったところ、BVDVは、5分以内に約5のウイルスリダクション指数(RF)によって不活化された(
図4A)。HSAを含む緩衝液の単一洗剤処理を、0.03%±0.01%トリトンX-100、4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレートまたは還元型トリトンX-100を使用して、14℃±1℃で行ったところ、BVDVは、5分以内に3を超え、29分以内に4を超えるウイルスリダクション指数(RF)によって不活化された(
図4B)。
【0247】
これらの実験は、トリトンX-100、Brij C10、4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレートまたは還元型トリトンX-100を使用した生物薬剤学的薬物含有液の単一洗剤処理により、低濃度の洗剤であっても脂質エンベロープウイルスが効率的に不活化されるようになることを示している。
【0248】
実施例7:IVIG含有液中での4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレートまたは還元型トリトンX-100を使用するBVDV不活化
4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレートまたは還元型トリトンX-100が、静脈内免疫グロブリン(IVIG)を含む液体中の脂質エンベロープウイルスであるウシウイルス性下痢ウイルス(BVDV)を不活化する単一洗剤処理に適していることをテストし、トリトンX-100と比較した。この目的のために、IVIGを含む液体にウイルスを添加した。次いで、IVIGを含むウイルス含有液を、低濃度の還元型トリトンX-100、4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレートまたはトリトンX-100と共に様々な期間インキュベートし、ウイルスの残存する感染性を判定した。ウイルス不活化の動態、すなわちウイルス不活化の効率(RFで表される)を経時的に評価するために、還元型トリトンX-100、4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレート及びトリトンX-100を低濃度で使用した。当業者には明らかであるように、生物薬剤学的製造などの商業的生産プロセスでは、還元型トリトンX-100または4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレートを含む本発明の洗剤を有意に高くした濃度で使用することができ、これによりウイルス不活化の動態が促進されるようになり、達成されるLRVが増加することも期待される。
【0249】
材料
IVIGを含む液体
IVIGを含む液体(IVIG含有液)を、ドライアイス上で凍結させ、採取日から1年以内に使用するまで-60℃以下で保存した。
ウイルス
【表4】
ウイルスストックを、使用前に特徴付けた。この特徴付けには、少なくとも10回の独立した力価測定によるウイルス力価の決定、及び陽性対照として使用するための許容ウイルス力価範囲の指定、ウイルスストックタンパク質含有量の決定、ウイルスの同一性及び他のウイルス及びマイコプラズマによる汚染のPCR検査、ならびに大型ウイルス凝集体を通過させないフィルタを使用するウイルスの凝集の検査が含まれる。著しい凝集がなく、PCRによる同一性/汚染試験に合格した(すなわち、ウイルスストックと濾過ストックとの間の感染力価の差が1.0log未満であった)ウイルスストックのみを使用した。
【0250】
洗剤
それぞれの洗剤、またはその1:10希釈液(つまり、それぞれの洗剤1g±2%に蒸留水9g±2%を加えたもの)を、使用する前に、少なくとも15分間攪拌して、均質性を確保した。
【0251】
方法
単一洗剤処理のウイルス不活化能力と堅牢性とを、ウイルス不活化に不利な条件下で、つまり短いインキュベーション時間及び比較的低温で評価した。当業者には明らかなように、生物薬剤学的製造などの商業的生産プロセスでは、より長いインキュベーション時間、及びより高い温度を使用することができ、これによりウイルス不活化の動態が促進されるようになり、達成されるLRVも増加する可能性がある。さらに、すでに先に述べたように、それぞれの洗剤を低濃度で使用した。当業者には明らかなように、生物薬剤学的製造などの商業的生産プロセスでは、より高濃度のそれぞれの洗剤を使用することができ、これによりウイルス不活化の動態が促進されるようになり、達成されるLRVも増加する場合がある。
【0252】
タンパク質濃度は、ウイルスの不活化に大きな影響を与えないので(Dichtelmuller et al., 2009も参照されたい)、タンパク質含有量に関する堅牢性は調査しなかった。
【0253】
IVIG含有液を解凍し、それ以降の全てのステップをバイオセーフティクラスIIキャビネット内で行った。IVIG含有液を、インキュベーションのためクライオスタットに接続された二重壁容器を使用して、+17℃±1℃の温度で攪拌しながらインキュベートした。次に、IVIG含有液を、加圧窒素を使用して目標圧力0.9バール(制限:0.5バール~1.5バール)で、Sartorius(SM16249)ステンレス鋼フィルタホルダに接続された25cm2の有効フィルタ面積を持つ0.2μmデプスフィルタ(Cuno VR06または同等品)を通して濾過した。調整のために、液体を濾過する前に、フィルタ材料を、55L/m2のHyflo Supercel懸濁液(1Lあたり5.0g±0.05gのHyfloSupercel;3MのNaClを使用して伝導率を3.5mS/cmに調整(指定範囲:2.5~6.0mS/cm))(圧力≦0.5バールで)で予めコーティングした。濾過中、フィルタホルダを冷却し、クライオスタットに接続された二重壁容器を使用して、+17℃±1℃の目標温度で濾液を収集した。濾液のための容器を冷却した。フィルタが目詰まりした場合は、残留液体の濾過を継続するために、事前に調整された新しいフィルタを使用した。濾過後、体積を測定した。
【0254】
IVIG含有液の体積を測定した後、それを冷却した(+2℃~+8℃)希釈緩衝液(目標伝導率3.5mS/cm(範囲:2.5mS/cm~6.0mS/cm)のNaCl溶液)と共に、撹拌下で、算出した目標吸光度の28.9AU280~320/cm(範囲:14.5~72.3AU280~320/cm)に調整した。後の1:31ウイルススパイクを考慮に入れると、これにより、濾過後の洗剤とのインキュベーションについて、算出した目標吸光度の値が28AU280~320/cm(範囲:14~70AU280~320/cm)となる。
【0255】
濾過され、タンパク質が調整されたIVIG含有液を、クライオスタットに接続された二重壁容器を使用して、攪拌下で+17℃±1℃に再度調整した。この温度範囲を、洗剤を含む濾過したIVIG含有液のインキュベーションの最後まで撹拌下で維持し、継続的に記録した。風袋重量が測定されているスクリューキャップフラスコに移した、濾過したIVIG含有液の測定した体積を、1:31の比率でウイルスでスパイクし、例えば、30mLのIVIG含有液を、ウイルスストック溶液1mLでスパイクした。スパイクしたIVIG含有液を、17℃±1℃で継続的に攪拌しながら、さらにインキュベートした。スパイク後1~2分以内に、ウイルス力価測定用のサンプル(スパイクコントロールSC、及びホールドコントロールHC)を採取した。
【0256】
採取後、ホールドコントロール(HC)を、洗剤の添加後にスパイクしたIVIG含有液と同じ温度、つまり+17℃±1℃に維持し、つまり、洗剤処理が終了するまで、IVIG含有液を入れた容器と同じ冷却サークルに保存した。冷却液の温度を、ホールドコントロールサンプルを挿入する前に測定し、洗剤処理後の力価測定のためにホールドコントロールを取り外す直前に、再度測定した。
【0257】
添加すべき洗剤の量を算出するために、スパイクしたIVIG含有液の重量を測定した。必要に応じて、秤量した材料を攪拌しながら、+17℃±1℃に再調整した。IVIG含有液1gあたり、洗剤の必要量([mg])、またはその1:10希釈液のそれぞれの量を添加して、それぞれの洗剤の最終濃度:0.1%±0.01%(w/w)または0.03%±0.01%(w/w)を得た。シリンジを使用して1分以内に洗剤を攪拌しながら添加し、添加した洗剤の実際の量を、シリンジを逆秤量することによって求めた。スパイクしたIVIG含有液を、+17℃±1℃で59±1分間、継続的に攪拌しながら、それぞれの洗剤と共にさらにインキュベートした。インキュベーション中、ウイルス力価測定用のサンプル1mLを、1~2分後、10±1分後、30±1分後、及び59±1分後に採取した。サンプル採取後のウイルスのS/D試薬によるさらなる不活化を防ぐために、サンプルを、冷却した(+2℃~+8℃)細胞培地で直ちに1:20(つまり、1体積のサンプルと19体積の細胞培地)に希釈した。
【0258】
WO2019/086463の実施例1に記載されているように、サンプルの力価測定及びウイルス除去能力の算出を行った。
【0259】
結果
IVIG含有液の単一洗剤処理を、0.1%±0.01%トリトンX-100、4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレートまたは還元型トリトンX-100を使用して、17℃±1℃で行ったところ、BVDVは、10分以内に約5のウイルスリダクション指数(RF)によって不活化された(
図5A)。IVIG含有液の単一洗剤処理を、0.03%±0.01%トリトンX-100、4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレートまたは還元型トリトンX-100を使用して、17℃±1℃で行ったところ、BVDVは、10分以内に3を超え、30分以内に4を超えるウイルスリダクション指数(RF)によって不活化された(
図5B)。
【0260】
これらの実験は、トリトンX-100、4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレートまたは還元型トリトンX-100を使用した生物薬剤学的薬物含有液の単一洗剤処理により、低濃度の洗剤であっても脂質エンベロープウイルスが効率的に不活化されるようになることを裏付けている。
【0261】
実施例8:FVIII含有液中での4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレートまたは還元型トリトンX-100を使用するBVDV不活化
4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレートまたは還元型トリトンX-100が、血漿由来第VIII因子(pdFVIII)を含む液体中の脂質エンベロープウイルスであるウシウイルス性下痢ウイルス(BVDV)を不活化する単一洗剤処理に適していることをテストし、トリトンX-100と比較した。この目的のために、pdFVIIIを含む液体にウイルスを添加した。次いで、pdFVIIIを含むウイルス含有液を、低濃度の還元型トリトンX-100、4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレートまたはトリトンX-100と共に様々な期間インキュベートし、ウイルスの残存する感染性を判定した。ウイルス不活化の動態、すなわちウイルス不活化の効率(RFで表される)を経時的に評価するために、還元型トリトンX-100、4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレート及びトリトンX-100を低濃度で使用した。当業者には明らかであるように、生物薬剤学的製造などの商業的生産プロセスでは、還元型トリトンX-100または4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレートを含む本発明の洗剤を有意に高くした濃度で使用することができ、これによりウイルス不活化の動態が促進されるようになり、達成されるLRVが増加することも期待される。
【0262】
材料
pdFVIIIを含む液体
pdFVIIIを含む液体(pdFVIII含有液)を、ドライアイス上で凍結させ、採取日から1年以内に使用するまで-60℃以下で保存した。
ウイルス
【表5】
ウイルスストックを、使用前に特徴付けた。この特徴付けには、少なくとも10回の独立した力価測定によるウイルス力価の決定、及び陽性対照として使用するための許容ウイルス力価範囲の指定、ウイルスストックタンパク質含有量の決定、ウイルスの同一性及び他のウイルス及びマイコプラズマによる汚染のPCR検査、ならびに大型ウイルス凝集体を通過させないフィルタを使用するウイルスの凝集の検査が含まれる。著しい凝集がなく、PCRによる同一性/汚染試験に合格した(すなわち、ウイルスストックと濾過ストックとの間の感染力価の差が1.0log未満であった)ウイルスストックのみを使用した。
【0263】
洗剤
それぞれの洗剤、またはその1:10希釈液(つまり、それぞれの洗剤1g±2%に蒸留水9g±2%を加えたもの)を、使用する前に、少なくとも15分間攪拌して、均質性を確保した。
【0264】
方法
単一洗剤処理のウイルス不活化能力と堅牢性とを、ウイルス不活化に不利な条件下で、つまり短いインキュベーション時間で評価した。当業者には明らかなように、生物薬剤学的製造などの商業的生産プロセスでは、より長いインキュベーション時間を使用することができ、これによりウイルス不活化の動態が促進されるようになり、達成されるLRVも増加する場合がある。さらに、すでに先に述べたように、それぞれの洗剤を低濃度で使用した。当業者には明らかなように、生物薬剤学的製造などの商業的生産プロセスでは、より高濃度のそれぞれの洗剤を使用することができ、これによりウイルス不活化の動態が促進されるようになり、達成されるLRVも増加する場合がある。
【0265】
タンパク質濃度は、ウイルスの不活化に大きな影響を与えないので(Dichtelmuller et al., 2009も参照されたい)、タンパク質含有量に関する堅牢性は調査しなかった。
【0266】
pdFVIII含有液を解凍し、それ以降の全てのステップをバイオセーフティクラスIIキャビネット内で行った。大規模な凝集体の可能性を除去するために、pdFVIII含有液を0.45μmの膜フィルタ(例えばSartorius SartoScale Sartobranまたは同等品)によって濾過した。pdFVIII含有液を、風袋重量が測定されているスクリューキャップフラスコに移し、クライオスタットに接続された二重壁容器を使用して、攪拌しながら目標温度+23℃±1℃に調整した。pdFVIII含有液の測定した体積を、1:31の比率でスパイクし、例えば、48mLのpdFVIII含有液を、1.6mLのウイルスストック溶液でスパイクした。その後、ウイルス力価測定用(スパイクコントロールSC)及びホールドコントロール(HC)用のサンプルをそれぞれ採取した。
【0267】
ホールドコントロールを、洗剤の添加後にスパイクしたpdFVIII含有液と同じ温度、つまり+23℃±1℃に維持し、つまり、洗剤処理が終了するまで、pdFVIII含有液を入れた容器と同じ冷却サークルに保存した。冷却液の温度を、ホールドコントロールサンプルを挿入する前に測定し、洗剤処理後の力価測定のためにホールドコントロールを取り外す直前に、再度測定した。
【0268】
添加すべき洗剤の量を算出するために、スパイクしたpdFVIII含有液の重量を測定した。秤量した材料を、クライオスタットに接続された二重壁容器を使用して、攪拌しながら+23℃±1℃に調整した。この温度範囲を、洗剤を含むスパイクしたpdFVIII含有液のインキュベーションの最後まで撹拌下で維持し、継続的に記録した。pdFVIII含有液1gあたり、洗剤の必要量([mg])、またはその1:10希釈液のそれぞれの量を添加して、洗剤の最終濃度0.1%±0.01%(w/w)を得た。シリンジを使用して1分以内に洗剤を攪拌しながら添加し、添加した洗剤の実際の量を、シリンジを逆秤量することによって求めた。洗剤の添加が完了した後、スパイクしたpdFVIII含有液を、+23℃±1℃で59±1分間、攪拌を続けながら、さらにインキュベートした。
【0269】
インキュベーション中、ウイルス力価測定用のサンプル1mLを、1~2分後、5±1分後、30±1分後、及び59±1分後に採取した。
【0270】
サンプル採取後のウイルスの洗剤によるさらなる不活化を防ぐために、サンプルを、それぞれの冷却した(+2~+8℃)細胞培地で直ちに1:20(つまり、1体積のサンプルと19体積の細胞培地)に希釈した。
【0271】
WO2019/086463の実施例1に記載されているように、サンプルの力価測定及びウイルス除去能力の算出を行った。
【0272】
結果
pdFVIII含有液の単一洗剤処理を、0.1%±0.01%トリトンX-100、4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレートまたは還元型トリトンX-100を使用して、23℃±1℃で行ったところ、BVDVは、5分以内に約5のウイルスリダクション指数(RF)によって不活化された(
図6)。
【0273】
これらの実験は、トリトンX-100、4-tert-オクチルベンジルアルコールポリエトキシレートまたは還元型トリトンX-100を使用した生物薬剤学的薬物含有液の単一洗剤処理により、低濃度の洗剤であっても脂質エンベロープウイルスが効率的に不活化されるようになることを裏付けている。
【0274】
実施例9:毒性試験
インシリコデータに基づくと、本発明による洗剤のいずれについても、内分泌攪乱物質として活性であるという証拠は何も発見されていない。
【0275】
産業上の利用可能性:
本発明の方法及び製品は、商業的に有用であり、例えば、工業的製造プロセスにおける脂質エンベロープウイルスの環境に適合した不活化に有用である。例えば、本発明の方法によって得られる洗剤は、生物学的製剤の工業生産に使用することができる。したがって、本発明は、産業上利用可能である。
【0276】
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