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特表2023-536266添加剤工程用の粉体組成物及びその印刷物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-24
(54)【発明の名称】添加剤工程用の粉体組成物及びその印刷物
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/314 20170101AFI20230817BHJP
   C08L 23/00 20060101ALI20230817BHJP
   C08L 23/16 20060101ALI20230817BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20230817BHJP
   C08L 23/02 20060101ALI20230817BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20230817BHJP
   C08L 77/00 20060101ALI20230817BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20230817BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20230817BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20230817BHJP
   B29C 64/153 20170101ALI20230817BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20230817BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20230817BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20230817BHJP
【FI】
B29C64/314
C08L23/00
C08L23/16
C08L23/08
C08L23/02
C08L9/00
C08L77/00
C08L67/00
C08K3/36
C08K3/22
B29C64/153
B33Y10/00
B33Y70/00
B33Y80/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023506230
(86)(22)【出願日】2021-07-23
(85)【翻訳文提出日】2023-03-29
(86)【国際出願番号】 EP2021070657
(87)【国際公開番号】W WO2022023195
(87)【国際公開日】2022-02-03
(31)【優先権主張番号】20305867.2
(32)【優先日】2020-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【弁理士】
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【弁理士】
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【弁理士】
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】ドゥム,フロリアン ア.
(72)【発明者】
【氏名】ジムヌ,ジェローム
【テーマコード(参考)】
4F213
4J002
【Fターム(参考)】
4F213AA03
4F213AA04
4F213AA11
4F213AA12
4F213AA24
4F213AA29
4F213AA32
4F213AA45
4F213AB06
4F213AB07
4F213AB08
4F213AB09
4F213AB11
4F213AB12
4F213AB16
4F213AB17
4F213AC04
4F213AP11
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL03
4F213WL12
4F213WL23
4F213WL24
4F213WL25
4J002AC021
4J002AE034
4J002BB021
4J002BB052
4J002BB062
4J002BB072
4J002BB111
4J002BB152
4J002BB171
4J002BD155
4J002CF003
4J002CL003
4J002CL005
4J002CL065
4J002CL073
4J002CQ015
4J002DA017
4J002DE097
4J002DE137
4J002DE146
4J002DE147
4J002DE237
4J002DH018
4J002DH058
4J002DJ007
4J002DJ016
4J002DJ017
4J002DJ037
4J002DK007
4J002DK008
4J002DL007
4J002EN069
4J002EV258
4J002EV288
4J002EW069
4J002FA045
4J002FA047
4J002FA087
4J002FA097
4J002FD015
4J002FD017
4J002FD029
4J002FD069
4J002FD079
4J002FD099
4J002FD109
4J002FD135
4J002FD138
4J002FD204
4J002FD206
4J002FD209
4J002GT00
4J002HA09
(57)【要約】
本発明は、3D印刷可能な粉体であって、少なくとも90質量%のポリオレフィンを含む、75~98質量%のポリマーマトリックス及び2~25質量%の少なくとも1種のオレフィン系熱可塑性エラストマーであって、エチレンアセテートエラストマー、エチレンアクリレートエラストマー、エチレンプロピレンエラストマー及びエチレンα-オレフィンエラストマーから選択される少なくとも1種のオレフィン系熱可塑性エラストマーを含む、3D印刷可能な粉体に関する。本発明は更に、3D印刷可能な粉体を調製する方法、及びこれらを添加剤工程に使用する方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3D印刷可能な粉体であって、
-熱可塑性物質ブレンドの粉体であって、該熱可塑性物質ブレンドの質量に対して、
-75質量%~98質量%のポリマーマトリックスであって、該ポリマーマトリックスの質量に対して少なくとも90質量%の少なくとも1種のポリオレフィンを含むポリマーマトリックス、及び
-2質量%~25質量%の少なくとも1種のオレフィン系熱可塑性エラストマーであって、エチレンアセテートエラストマー、エチレンアクリレートエラストマー、エチレンプロピレンエラストマー及びエチレンα-オレフィンエラストマーから選択される少なくとも1種のオレフィン系熱可塑性エラストマー、
を含む熱可塑性物質ブレンドの粉体、及び
-少なくとも1種の流動助剤、
を含むことを特徴とする3D印刷可能な粉体。
【請求項2】
前記少なくとも1種のオレフィン系熱可塑性エラストマーがエチレンプロピレンエラストマー及びエチレンα-オレフィンエラストマーから選択されることを特徴とする請求項1に記載の3D印刷可能な粉体。
【請求項3】
ポリオレフィンが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン-1、ポリメチルペンテン、ポリオクテン、ポリイソプレン、ポリブタジエン、又はこれらのコポリマーから選択される請求項1又は2に記載の3D印刷可能な粉末。
【請求項4】
ポリオレフィンが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン-1、ポリメチルペンテン、ポリオクテン、ポリイソプレン、又はポリブタジエンとC2-C12α-アルキレンとのコポリマーであることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の3D印刷可能な粉末。
【請求項5】
前記ポリマーマトリックスは、少なくとも1つの追加のポリマーを含み、該追加のポリマーはポリオレフィンではなく、好ましくはポリアミド、ポリエステル、及びポリエーテルアミドから選択されることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の3D印刷可能な組成物。
【請求項6】
ポリマーマトリックスが追加のポリマーを含まない請求項1~4のいずれか1項に記載の3D印刷可能な組成物。
【請求項7】
少なくとも1種の流動助剤が、シリカ、アルミナ及びポリマーマトリックスの溶融温度マイナス10℃以上の溶融温度を有するワックスから選択される請求項1~6のいずれか1項に記載の3D印刷可能な組成物。
【請求項8】
前記熱可塑性物質ブレンドの粉体は更に、充填剤、酸化防止剤、共結晶化剤、可塑剤、染料、熱安定剤、帯電防止剤、ワックス、核防止剤及び/又は相溶化剤を含むことを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の3D印刷可能な粉体。
【請求項9】
ASTM D638規格に従って測定した少なくとも40%の破断点伸びを有する請求項1~8のいずれか1項に記載の3D印刷可能な粉体。
【請求項10】
ISO 179-1規格に従って測定された23℃で少なくとも30kJ / mのシャルピーノッチなし衝撃を有することを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載の3D印刷可能な粉体。
【請求項11】
75μm~200μmの範囲の平均粒子サイズd90を有することを特徴とする請求項1~10のいずれか1項に記載の3D印刷可能な粉体。
【請求項12】
以下の工程を含む請求項1~11のいずれか1項に記載の3D印刷可能な粉体の製造方法:
a)ポリマーマトリックスの質量に対して90質量%の少なくとも1種のポリオレフィンを含むポリマーマトリックスを提供する工程、
b)エチレンアセテートエラストマー、エチレンアクリレートエラストマー、エチレンプロピレンエラストマー及びエチレンアルファ-オレフィンエラストマーから選択される少なくとも1種のオレフィン系熱可塑性エラストマーを提供する工程、
c)前記ポリマーマトリックスと前記オレフィン系熱可塑性エラストマー(複数可)を、前記ポリマーマトリックスの溶融温度と前記オレフィン系熱可塑性エラストマー(複数可)の溶融温度との間の少なくとも最も高い温度の温度で混合する工程、
d)得られた混合物を粉体化して熱可塑性物質ブレンドの粉体を得る工程、
e)前記熱可塑性物質ブレンドの粉体を少なくとも1つの流動助剤と混合する工程、
f)ふるい分けして3D印刷可能な粉体を得る工程。
【請求項13】
請求項12に記載の粉末の製造方法であって、前記工程c)は、以下の工程を含む方法:
cl.l)前記ポリマーマトリックスの溶融温度と前記オレフィン系熱可塑性エラストマー(複数可)の溶融温度との間の少なくとも最も高い温度の温度で前記ポリマーマトリックスを混合して溶融ポリマーマトリックスを得る工程、
cl.2)前記溶融ポリマーマトリックスに少なくとも1種の前記オレフィン系熱可塑性エラストマーを添加する工程、 及び
cl.3)前記溶融ポリマーマトリックスと少なくとも1種の前記オレフィン系熱可塑性エラストマーとを混合する工程。
【請求項14】
工程c)が、以下の工程を含む請求項12に記載の3D印刷可能な粉体の製造方法:
c2.1)前記ポリマーマトリックスと少なくとも1種の前記オレフィン系熱可塑性エラストマーとを混合する工程、
c2.2)得られた混合物を、前記ポリマーマトリックスの溶融温度と前記オレフィン系熱可塑性エラストマー(複数可)の溶融温度との間の少なくとも最も高い温度の温度で加熱する工程。
【請求項15】
充填剤、酸化防止剤、核防止剤、共結晶化剤、可塑剤、染料、熱安定剤、帯電防止剤、ワックス、及び/又は相溶化剤が、工程c)及び/又は工程f)の後に、同時に又は任意の順序で次々に添加されることを特徴とする請求項12~14のいずれか1項に記載の3D印刷可能な粉体の製造方法。
【請求項16】
工程d)及び/又は工程e)及び/又は工程f)の後に実施される、酸化、機械的及び/又は熱的処理、表面コーティング、丸め粒子、及び/又は空気分級の工程g)を含むことを特徴とする請求項12~15のいずれか1項に記載の3D印刷可能な粉体の製造方法。
【請求項17】
前記工程c)が、押出機、好ましくは二軸押出機内で行われることを特徴とする請求項12~16のいずれか1項に記載の3D印刷可能な粉体の製造方法。
【請求項18】
請求項1~11のいずれか1項に記載の3D印刷可能な粉体、又は請求項12~17のいずれか1項に記載の方法に従って得られた3D印刷可能な粉体から作製された3次元印刷物。
【請求項19】
選択的レーザー焼結又はマルチジェット融合技術を用いる請求項18に記載の3次元印刷物を製造する方法。
【請求項20】
3次元印刷物品を製造するために、請求項1~11の何れか1項に記載の3D印刷可能な粉体、又は請求項12~17のいずれか1項に記載の方法に従って得られる3D印刷可能な粉体を使用する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元物品の製造のための添加剤工程(アディティブ工程:additive process)において使用されても良い3D印刷可能な粉体(粉末)に関する。本発明によれば、前記3D印刷可能な粉体は、少なくとも1つの流動助剤及び熱可塑性物質ブレンドの粉体を含み、上記熱可塑性物質ブレンドの粉体は、熱可塑性物質ブレンドの粉体の質量に対して、75質量%~98質量%のポリマーマトリックス及び2質量%~25質量%の少なくとも1種のオレフィン系熱可塑性エラストマーを含む。本発明に従えば、ポリマーマトリックスは、少なくとも90質量%の少なくとも1種のポリオレフィンを含み、少なくとも1種のオレフィン系熱可塑性エラストマーは、エチレンアセテートエラストマー、エチレンアクリレートエラストマー、エチレンプロピレンエラストマー及びエチレンα-オレフィンエラストマーから選択される。
【背景技術】
【0002】
ここ数年来、カスタム(特注)で低コストの3D物品の製造を可能にする3次元(3D)印刷技術の出現により、ターニングポイント(変換点)に達している。このような技術を使用して、3D物品が層ごとに製造される。この目的のために、上流のコンピュータ支援設計ソフトウェア(CAD)によって、得られる3D物品の3D構造がスライスに分割される。次に、3D物品全体が製造されるまで、連続したスライス又は材料の層を配置して行くことによって、3D物品が作成される。換言すれば、スライスが、以下のバイナリシーケンスを繰り返し実行することにより、層の形で1つずつ製造される:
-プラットフォーム上又は既存の統合層上に所望の物品を製造するために必要な材料の層を堆積させ、続いて
-上記層を塊状にし、及び上記層を所定のパターンに従って存在する場合は前の層に結合させる。
【0003】
従って3D物品は、互いに結合される基本層を重ね合わせることによって構築される。
【0004】
従来の3D印刷プロセスは、特定の種類の材料に限定されている。これらの材料は、熱(すなわち、添加プロセス中の加熱時に劣化が起こらない)、湿気、放射線及び風化に対して耐性があり、凝固時間が遅い必要が有る。重要なのは、スライス又は層が互いに接着して、崩壊しない満足のいく機械的強度を備えた3D物品を製造することである。理想的には、材料はまた、低い溶融温度及び適切な粘度又は流動性を有するべきである。
【0005】
重要なことに、添加剤工程の後、得られた3D物品は機械的特性などの所望の特性を有し、且つ正確に所望の寸法及び形状のものでなければならない。
【0006】
材料は通常、材料及び結果として得られる3D物品の特性を調整するために使用される添加剤と組み合わせたポリマーで構成されている。例えば染料、充填剤、粘性剤又は流動助剤が一般的に添加される。充填剤は熱伝導率に影響を与えるため非常に重要である。熱伝導率は、添加剤工程中に重要なものである。理想的には、材料の熱伝導率が高く、及びその処理ウインドウも同様である。流動助剤は、添加剤工程で使用するために、材料の流動性を適応させるために使用される。
【0007】
添加剤工程(additive process)中、堆積した層の一部は、定義されたパターンに依存して塊状化(凝集)しない。この非凝集材料を別の3D物品の製造に再利用することが望ましい。
【0008】
もう一つの問題は、これらの材料のコストである。確かに、これらの材料は高価かも知れない。この目的のために、研究はより安価な材料に焦点を合わせてきた。ポリマーと添加剤の両方で作業が行われている。
【0009】
ポリアミド(例、PA 12)は、SLS等の添加剤工程(additive process)で一般的に使用される。これらのポリマーで良好な結果が得られているが、しかしこれらは非常に高価である。従って、より安価なポリマーを使用することが望ましい。この関連で、ポリオレフィンは安価であり、電気絶縁性を示し、及び化学的耐性と耐熱性を有するので魅力的である。しかしながら、これらは通常、ポリアミドと比較して並な流動性、遅い冷却サイクルタイム、低い破断点伸びなどの並の機械的性能、及び低い熱伝導率、及び低い熱拡散率を有する。ポリオレフィンの処理ウインドウは、複数の結晶相の出現によりポリアミドの処理ウインドウよりも狭く、印刷中に隆起した部品の存在を回避したり、及び/又は印刷部品にサーマルブリードが発生したりすることを回避することがより困難になる。
【0010】
種々の添加剤と組み合わせたポリオレフィンは、添加剤工程における使用についてすでにテストされている。しかしながら、処理ウインドウが狭すぎることが多く、機械的特性が十分に満足できないことが良くある。
【0011】
ポリオレフィンを含む材料の機械的特性を高めるために、種々の添加剤が試験されてきた。例えば、特許文献1(WO2019/221733号)は、ポリプロピレンを含むポリマー粒子と、少なくとも1つのエラストマーと組み合わせた界面活性コーティングを含む3D印刷用の造形材料を記載している。多数のエラストマーがこの文献で引用されているが、1つのものが特に効率的又は好ましいものとして強調されていない。
【0012】
別の例は、熱可塑性ポリマー粉末組成物を含むポリマー粉体ビルド材料を含む三次元印刷組成物に関する特許文献2(特許出願WO2019/182579号)であり、上記熱可塑性ポリマー粉体組成物は、(a)少なくとも50質量%のC3ポリオレフィン又は少なくとも60質量%のC3ポリオレフィンを含む2種以上のポリオレフィンの混合物、(b)0.1~1質量%の酸化防止剤、 (c)0.1~5質量%の流動助剤、(d)0~10質量%の表面改質剤、(e)0.05~10質量%の帯電防止剤、(f)2~40質量%の充填剤を含むものである。充填剤は、天然又は合成の無機充填剤、セラミック充填剤、天然又は合成充填剤から選択される。例えば、充填剤は、無機酸化物、補強材料、難燃性化合物及びエラストマー材料から選択されるが、いずれも好ましいものではない。いくつかのエラストマーが引用されているが、どれも強調表示(ハイライト)されていない。
【0013】
別の例が、3D印刷に使用されるポリプロピレン材料に関する特許文献3(特許出願CN 110437538)に記載されている。上記材料は、60~85質量部のポリプロピレンペレット、5~25質量部の熱可塑性エラストマー、5~25質量部のタルク誘導体、5~15質量部の無水マレイン酸グラフト化ポリプロピレン、0.5~2質量部の酸化防止剤、0.2~1.5質量部の滑剤、0.2~1.5質量部の高分散剤、及び1~5質量部の着色剤から調製される。材料は流動助剤を含まない。記載したポリプロピレン材料は、粉末としてではなく、長さ1~10mmの円筒状ペレットとして調製される。この材料はFDMプロセスで使用され、及びS特定の流動性特性を持つ粉体を必要とするLSプロセスでもMJFプロセスでも使用されなくて良い。
【0014】
他の例が、特許文献4(特許出願WO2019/092498)に記載されている。この文献では、50~95質量%のマトリックスポリマーとエチレン-プロピレンコポリマーの内相を含む異相コポリマー(又はインパクトコポリマー、ICP)を含むポリマー組成物が3D印刷に使用されている。組成物は、直径1~4mmのフィラメント又は顆粒(又はペレット)の形態である。組成物は流動助剤を含まない。ここでも、組成物は、適切な流動性を有する粉体(粉末)形態ではないので、すべての3D印刷工程において使用されてはならず、特にSLS及びMJF工程において使用されてはならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】WO2019/221733号
【特許文献2】特許出願WO2019/182579号
【特許文献3】特許出願CN 110437538
【特許文献4】特許出願WO2019/092498
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従って、上記の特性(例えば耐熱性、耐湿性、耐放射線性、耐候性、良好な機械的強度、低い溶融温度及び遅い凝固時間を有する、良好な流動性及び良好な熱伝導率を有する)を有する添加剤工程において使用するための、あまり高価ではない材料に必要性が有る。より特定的には、良好な処理ウインドウ及び増加した破断点伸び及び増加した耐衝撃性などの改善された機械的特性を有するポリオレフィンをベースとする添加剤プロセスで使用するための材料にニーズがある。重要なことは、材料は期待される寸法と形状、及び望ましい物理化学的特性を備えた3D物品を提供するべきことである。有利なことに材料は、選択的レーザー焼結又はマルチジェット融合技術で使用するために適切な流動性を有する粉体形態である。有利なことには、非凝集材料は、他の3D物品の製造のために再利用されても良い。
【課題を解決するための手段】
【0017】
これに関連して出願人は、3D印刷可能な粉体であって、
-熱可塑性物質ブレンドの粉体であって、該熱可塑性物質ブレンドの質量に対して、
-75質量%~98質量%、好ましくは75質量%超。及び98質量%以下のポリマーマトリックスであって、該ポリマーマトリックスの質量に対して少なくとも90質量%の少なくとも1種のポリオレフィンを含むポリマーマトリックス、及び
-2質量%~25質量%、好ましくは2質量%~25質量%未満の少なくとも1種のオレフィン系熱可塑性エラストマーであって、エチレンアセテートエラストマー、エチレンアクリレートエラストマー、エチレンプロピレンエラストマー及びエチレンα-オレフィンエラストマーから選択される少なくとも1種のオレフィン系熱可塑性エラストマー、
を含む熱可塑性物質ブレンドの粉体、及び
-少なくとも1種の流動助剤、
を含む、3D印刷可能な粉体を提供することによって上記の問題を解決した。
【発明を実施するための形態】
【0018】
驚くべきことに本出願人は、ポリマーマトリックスの質量に対して少なくとも90質量%のポリオレフィンを含むポリマーマトリックスと本発明によるエラストマーとを組み合わせて使用すると、高い破断点伸び、高い耐衝撃性、及び広い処理ウインドウを備えた3D印刷可能な粉体(粉末)が得られること発見した。
【0019】
本発明において、「3D印刷可能な粉体」は、選択的レーザー焼結(SLS)又はマルチジェット融合(MJF)等の3D印刷工程において使用可能である粉体又は粉体状固体である。従って3D印刷可能な粉体は、以下に説明するように、特定のメルトフローインデックス、流動性、熱特性、及び粒度測定等のプロセスで使用するための特定の特性を有することが好ましい。結果として本発明における粉末は、数mmの直径のものであって良い先行技術のフィラメント、顆粒又はペレットとは異なる。
【0020】
本発明の文脈において、3D印刷可能な粉体のかさ密度は、好ましくは0.22g/cm~0.55g/cmの範囲である。
【0021】
本発明の3D印刷可能な粉体は、好ましくは、0.27g/cm~0.66g/cmの範囲のタップ密度を有する。
【0022】
タップ密度の半分(nl/2)に達するためのタップ数は、好ましくは3~30の範囲である。
【0023】
ハウスナー比は、かさ密度/タップ密度の比率である。本発明において好ましくは、ハウスナー比は1.01~1.35の範囲である。
【0024】
かさ密度及びタップ密度及びn1 / 2及びハウスナー比は、ASTMB527標準に従い、Granutoolsbrandからのgranupackを使用して測定されて良い。
【0025】
3D印刷可能な粉体は、2.16kgの荷重下で温度Tmfiで、好ましくは1g/10分から40g/10分、より好ましくは3g/10分から30g/10分の範囲、更に好ましくは、5g/10分から15g/10分の範囲のメルトフローインデックスを有する。メルトフローインデックスは、ISO 1133:2011規格に従って決定され、これはその印刷可能な粉体内に存在するポリマー(即ちポリオレフィン及び任意に追加のポリマー)に依存してTmfiの値を示す。例えば、ポリプロピレンホモポリマー又はコポリマーのみが存在する場合、温度Tmfiは230℃である。
【0026】
添加剤プロセスで首尾よく使用するために、3D印刷可能な粉末は、好ましくは特定の熱特性を有する。有利なことには、その融解ピーク温度Tは、その結晶化温度Tcよりも少なくとも20℃高い。有利なことには、その融解ピーク温度Tは、そのオンセット溶融温度Tmonsetよりも最大で10℃高い。有利なことには、その開始溶融温度Tmstartは、オンセット結晶化温度Tconsetよりも少なくとも高い。融解ピーク温度T、結晶化温度T、 オンセット溶融温度Tmonset、及び開始溶融温度Tは、通常±10℃/分での示差走査熱量測定(DSC)により決定されても良い。
【0027】
融解ピーク温度Tは、融解に対応する熱現象のピークの極大で測定される温度に相当する。開始溶融温度T開始は、結晶子の融解現象の開始、即ち第1の結晶子が融解し始める時に相当する。開始値(onset value)は、ピークのベースラインと、ピークの最高温度を下回る温度について、融解ピークの最初の部分の最大の傾きを持つ点への接線の交点に対応する外挿温度に対応する。結晶化の開始(onset)は、冷却段階で同一のグラフ法で決定される。結晶化温度は、結晶化に対応する熱的現象のピークの最大値で測定される温度に相当する。
【0028】
添加剤工程で使用されるために、3D印刷可能な粉体は、好ましくは約70℃~約250℃、好ましくは約110℃~約180℃の融解ピーク温度Tを有する。
【0029】
添加剤工程で使用するためには、処理ウィンドウ(すなわち、結晶化ピークの開始と融解ピークの開始との間のギャップ)は、少なくとも10℃であるのが有利である。
【0030】
添加剤プロセスで使用するために、3D印刷可能な粉体は有利には:
- 20 μmから60 μmの範囲の平均粒子サイズd10、
- 40μmから130μmの範囲の平均粒子サイズd50、及び
-75μmから200μmの範囲の平均粒子サイズd90、
を有する。
【0031】
平均粒子サイズd10、d50、d90及びd99は、粒子の平均サイズ(上記粒子の最高寸法に対応する)であり、乾式レーザー粒度法(レーザー回折粒度法としても知られている)によって測定される、上記粒子のそれぞれ10%、50%、90%及び99%が、これらより低いサイズを有するものである。粒子が球状である場合、平均サイズd50は平均粒子径d50に対応する。
【0032】
本発明に従う3D印刷可能な粉末は、さらに、以下の特性のうちの1つ以上を有しても良い:
-上記オレフィン系熱可塑性エラストマーが、エチレンプロピレンエラストマー及びエチレンα-オレフィンエラストマーから選択され、
-ポリオレフィンが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン-1、ポリメチルペンテン、ポリオクテン、ポリイソプレン、ポリブタジエン、又はこれらのコポリマーから選択され、
- ポリオレフィンが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン-1、ポリメチルペンテン、ポリオクテン、ポリイソプレン、又はポリブタジエンとC2-C12α-アルキレンとのコポリマーであり、
-ポリマーマトリックスは、少なくとも1つの追加のポリマーを含み、上記追加のポリマーはポリオレフィンではなく、好ましくはポリアミド、ポリエステル、及びポリエーテルアミドから選択され、
-ポリマーマトリックスは、追加のポリマーを含まない、
-少なくとも1種の流動助剤は、シリカ、アルミナ、及びポリマーマトリックスの溶融温度が少なくともマイナス10℃のワックスから選択され、
-熱可塑性物質ブレンドの粉体は、充填剤、酸化防止剤、共結晶化剤、可塑剤、染料、熱安定剤、帯電防止剤、ワックス、抗核剤及び/又は相溶化剤を更に含み、
-3D印刷可能な粉体は、ASTM D638規格に従って測定された、少なくとも40%の破断点伸びを有し、
-3D印刷可能な粉体は、ISO 179-1規格に従って測定された23℃で少なくとも30kJ / mのシャルピーノッチなし衝撃を有し、
-3D印刷可能な粉体は、75μmから200μmの範囲の平均粒子サイズd90を有する。
【0033】
本発明は更に、本発明に従う3D印刷可能な粉体の調製方法に関する。本発明において、3D印刷可能な粉体は、以下の工程に従って調製される:
a)ポリマーマトリックスの質量に対して90質量%の少なくとも1種のポリオレフィンを含むポリマーマトリックスを提供する工程、
b)エチレンアセテートエラストマー、エチレンアクリレートエラストマー、エチレンプロピレンエラストマー及びエチレンアルファ-オレフィンエラストマーから選択される少なくとも1種のオレフィン系熱可塑性エラストマーを提供する工程、
c)上記ポリマーマトリックスと上記オレフィン系熱可塑性エラストマー(複数可)を、上記ポリマーマトリックスの溶融温度と上記オレフィン系熱可塑性エラストマーの溶融温度との間の少なくとも最も高い温度の温度で混合する工程、
d)得られた混合物を粉体化して熱可塑性物質ブレンドの粉体を得る工程、
e)熱可塑性物質ブレンドの粉体を少なくとも1つの流動助剤と混合する工程、
f)ふるい分けして3D印刷可能な粉体を得る工程。
【0034】
本発明に従う3D印刷可能な粉体の調製方法は、以下の特徴のうちの1つ以上を有しても良い:
-工程c)は、以下の工程を含む:
cl.l)上記ポリマーマトリックスの溶融温度と上記オレフィン系熱可塑性エラストマー(複数可)の溶融温度との間の少なくとも最も高い温度で上記ポリマーマトリックスを混合して溶融ポリマーマトリックスを得る工程、
cl.2)上記溶融ポリマーマトリックスに少なくとも1種のオレフィン系熱可塑性エラストマーを添加する工程、 及び
cl.3)溶融したポリマーマトリックスと少なくとも1種のオレフィン系熱可塑性エラストマーとを混合する工程、
-工程c)は、以下の工程を含む:
c2.1)ポリマーマトリックスと少なくとも1種のオレフィン系熱可塑性エラストマーとを混合する工程、
c2.2)得られた混合物を、ポリマーマトリックスの溶融温度とオレフィン系熱可塑性エラストマーの溶融温度との間の少なくとも最も高い温度の温度で加熱する工程、
-充填剤、酸化防止剤、核防止剤、共結晶化剤、可塑剤、染料、熱安定剤、帯電防止剤、ワックス、及び/又は相溶化剤が、工程c)及び/又は工程f)の後に、同時に又は任意の順序で次々に添加される、
-工程d)及び/又は工程e)及び/又は工程f)の後に実施される、酸化、機械的及び/又は熱的処理、表面コーティング、丸め粒子、及び/又は空気分級の工程g)を含む、及び
-上記工程c)が、押出機、好ましくは二軸押出機内で行われる。
【0035】
本発明はまた、本発明に従う3D印刷可能な粉体から、又は本発明による3D印刷可能な粉体の調製方法で得られた3D印刷可能な粉体から製造された3D印刷可能な粉体に関する。
【0036】
更に本発明は、SLS又はMJF等の添加剤工程を使用して本発明に従う3D印刷物を調製する方法に関する。
【0037】
最後に、本発明は、3次元印刷物の製造のために、本発明に従う3D印刷可能な粉体、又は本発明に従う方法によって得られた3D印刷可能な粉体を使用する方法に関する。
【0038】
3D印刷可能な粉体
本発明に従う3D印刷可能な粉体(粉末)は、熱可塑性物質ブレンドの粉体と少なくとも1つの流動助剤との混合物を含む。
【0039】
本発明において、「熱可塑性物質ブレンドの粉体」は、熱可塑性特性を有し、以下に定義されるように、ポリマーマトリックスとオレフィン系熱可塑性エラストマーとの密接な混合物を含む粉体である。
【0040】
本発明に従えば、熱可塑性物質ブレンドの粉体は、粉体の質量に対して2質量%~25質量%の少なくとも1種の特定のオレフィン系熱可塑性エラストマーと、75質量%~98質量%のポリマーマトリックスとを含む。
【0041】
本発明において、「ポリマーマトリックス」は、ポリオレフィン又は少なくとも1種のポリオレフィンを含むポリマーの混合物である。より正確には、ポリマーマトリックスは、ポリマーマトリックスの質量に対して少なくとも90質量%の少なくとも1種のポリオレフィンを含む。
【0042】
本発明において、「ポリオレフィン」は、主にオレフィン性(又はアルケン)モノマーから調製されるポリマーであり、及び好ましくはポリオレフィンの質量に対して少なくとも95質量%のオレフィン系モノマーから作られる。特定の実施形態では、「ポリオレフィン」はオレフィンモノマーのみから調製される。
【0043】
本発明において、少なくとも1種のポリオレフィンは、ホモポリマー又はブロックコポリマー又はランダムコポリマーなどのコポリマーであっても良い。
【0044】
用語「ランダム」は、ポリオレフィンのコモノマーがポリオレフィン内にランダムに分布していることを示す。ランダムコポリマーは、統計的コポリマーとも称される。一方、「ブロックコポリマー」は、異なる性質のホモポリマーのブロックから作られるポリマーである。
【0045】
第1の実施形態によれば、ポリオレフィンはホモポリマーである。この場合、ポリオレフィンは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン-1、ポリメチルペンテン、ポリオクテン、ポリイソプレン、ポリブタジエン、又はこれらのポリオレフィンの少なくとも2種のブレンドから選択されても良い。好ましくは、ポリエチレン又はポリプロピレンが用いられる。特定の実施形態によれば、ポリプロピレンが使用される。
【0046】
第2の実施形態によれば、ポリオレフィンはコポリマーである。この場合、ポリオレフィンは好ましくは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン-1、ポリメチルペンテン、ポリオクテン、ポリイソプレン、ポリブタジエン、又はこれらのポリオレフィンのうち少なくとも2種のブレンドと、C2-C12α-アルキレンから選ばれる少なくとも1種のコモノマーとのコポリマーである。上記コモノマーはポリオレフィンの他のモノマーとは異なることが理解される。コモノマーの例として、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、及び4-メチル-1-ペンテンを挙げることが可能である。好ましくは、エチレン又は1-ブテンが使用され、更に好ましくはエチレンが用いられる。好ましい実施形態によれば、ポリオレフィンは、ポリエチレン又はポリプロピレンとエチレン又は1-ブテンとのコポリマーであり、好ましくはポリオレフィンは、ポリプロピレンとエチレンとのコポリマーである。本実施形態によれば、上記コモノマーは好ましくは、ポリオレフィンの全質量に対して1質量%~8質量%の範囲の量で存在し、これは好ましくは1.5質量%~4質量%である。ポリオレフィン中のコモノマーの量は、IR又は13C NMRによって決定することができる。
【0047】
特定の実施形態に従えば、ポリオレフィンは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン-1、ポリメチルペンテン、ポリオクテン、ポリイソプレン、ポリブタジエンのコポリマー、又はこれらのポリオレフィンのうちの少なくとも2種とC2-C12α-アルキレンから選択される少なくとも1種の第1コモノマーと、少なくとも1種の第2コモノマーとのブレンド物であり、ここで第2のコモノマーは、アルケンではない。この特定の実施形態に従えば、ポリオレフィンは好ましくは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン-1、ポリメチルペンテン、ポリオクテン、ポリイソプレン、ポリブタジエンのコポリマー、又はこれらのポリオレフィンのうちの少なくとも2種と、C2-C12α-アルキレンから選択される少なくとも1種の第1コモノマー、及びアルケンではない第2コモノマーのブレンドである。上記コモノマーは、ポリオレフィンの他のモノマーとは異なっていることが理解される。第1のコモノマーの例として、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、4-メチル--1-ペンテン等を挙げることができる。好ましくは、エチレン又は1-ブテンが第1のコモノマーとして使用され、更により好ましくはエチレンが使用される。第2のコモノマーは、例えば無水マレイン酸、グリシジルメタクリレート、アクリル酸、ビニルアクリレート、ブチルアクリレート、メチルアクリレート、メチルメタクリレート及びメタクリル酸、又はこれらの組み合わせから選択されても良い。本実施形態によれば、第2のコモノマーは、ポリオレフィンコポリマーの鎖に含まれる(コポリマーが直鎖状であることを意味する)か、又はポリオレフィン鎖にグラフトされても良い。好ましい実施形態によれば、ポリオレフィンは、ポリエチレン又はポリプロピレンとエチレン又は1-ブテンと及び無水マレイン酸又はグリシジルメタクリレートとのコポリマーであり、好ましくはポリオレフィンは、ポリプロピレンとエチレンと無水マレイン酸又はグリシジルメタクリレートとのコポリマーである。この特定の実施形態によれば、第1のコモノマーは好ましくは、ポリオレフィンの総質量に対して、1質量%~8質量%の範囲の量で存在し、第2のコモノマーは好ましくは、ポリオレフィンの総質量に対して、0.3~5質量%の範囲の量で存在する。
【0048】
分子量分布はMw/Mnとして定義され、Mwは質量平均分子量を表し、及びMnは数平均分子量を表す。分子量は、サイズ排除クロマトグラフィー又はゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより求めることが可能である。本発明によれば、ポリオレフィンは、2~5、好ましくは2.1~4、更により好ましくは2.2~3.5の範囲の分子量分布を有する。
【0049】
一実施形態によれば、使用されるポリオレフィンは、2.16kgの荷重下で、及び温度Tmfiで、1g/10分から40g/10分の範囲、好ましくは3g/10分から30g/10分、より好ましくは5g/10分から15g/10分の範囲のメルトフローインデックスを有する。メルトフローインデックスと温度Tmfjは、ISO 1133:2011規格に従って決定される。
【0050】
ポリオレフィンは、特定の熱特性を有することが好ましい。有利には、その融解ピーク温度Tは、その結晶化温度Tcよりも少なくとも20℃高い。有利には、その融解ピーク温度Tは、そのオンセット溶融温度Tmonsetよりも、最大で10℃高い。有利には、その開始溶融温度Tmstartは、オンセット結晶化温度Tconsetよりも少なくとも高い。融解ピーク温度T、結晶化温度Tc、のオンセット溶融温度Tmonset、オンセット結晶化温度Tconset及び開始溶融温度Tmstartは、通常±10℃/minで、示差走査熱量測定(DSC)により決定することが可能である。
【0051】
特定の実施形態では、ポリオレフィンは約70℃から約250℃までの融解ピーク温度Tを有する。別の実施形態において、ポリオレフィンは、約110℃から約180℃までの融解ピーク温度Tを有する。
【0052】
有利なことには処理ウィンドウは、有利には少なくとも15℃、より有利には少なくとも20℃、更に有利には少なくとも30℃のものである。
【0053】
ポリオレフィンは、粉体又はペレットとして使用することができる。好ましくは、ポリオレフィンはペレットとして使用される。
【0054】
少なくとも1種のポリオレフィンは、ポリマーマトリックスの質量に対し、少なくとも90質量%の範囲の量で存在し、及び好ましくは92質量%~99.5質量%の範囲であり、更により好ましくは94質量%~99質量%の範囲の量で存在する。
【0055】
少なくとも1種のポリオレフィンは、3D印刷可能な粉体の質量に対して47質量%~98質量%の範囲の量で存在し、好ましくは55質量%~97質量%の範囲の量で存在する。
【0056】
第1の実施形態によれば、ポリマーマトリックスは、少なくとも1つのポリオレフィンを含み、及びいかなる追加のポリマーも含まない、即ちポリオレフィン(複数可)以外のいかなるポリマーも含まない。即ち、本実施形態に従うポリマーマトリックスは、1種以上のポリオレフィンから構成され、及び好ましくは1種のポリオレフィンのみで構成される。この実施形態によれば、ポリオレフィンは好ましくは、3D印刷可能粉体の質量に対して50質量%~98質量%の範囲の量で存在し、より好ましくは55質量%~98質量%、及び更により好ましくは60質量%~97質量%の範囲の量で存在する。
【0057】
第2の実施形態によればポリマーマトリックスは、少なくとも1つのポリオレフィン及び少なくとも1つの追加のポリマーを含む。この実施形態によれば、追加のポリマーはポリオレフィンではなく、及び例えばポリエステル、ポリアミド又はポリエーテルアミドから選択されても良い。有利なことには、この実施形態に従えば、少なくとも1つの追加のポリマーは、3D印刷可能な粉体の総質量に対して、10質量%以下の量、好ましくは0.3質量%~7質量%の範囲の量で存在する。この実施形態によれば、ポリオレフィンは好ましくは、3D印刷可能な粉体の質量に対して47質量%~97.5質量%の範囲の量で存在し、より好ましくは50質量%~95質量%、更により好ましくは53質量%~93質量%の範囲の量で存在する。有利なことには、この実施形態に従えば、ポリオレフィン(複数可)と追加のポリマーとの間の質量比は、100:0.5~100:11の範囲、好ましくは100:1~100:8の範囲である。
【0058】
本発明に従うポリマーマトリックスは、ポリマーマトリックスが1つ以上のポリオレフィン及び最終的には追加のポリマー(複数可)を含む場合でも、有利には単一の溶融温度及び単一の結晶化温度を有する。本発明において、ポリマーマトリックスの溶融温度は、上記で定義した融解ピーク温度に対応し、結晶化温度は、上記で定義した結晶化ピーク温度に対応する。単一の溶融温度及び単一の結晶化温度を有するポリマーマトリックスを有するために、ポリオレフィン及び任意の追加のポリマーならびにそれらのそれぞれの含有量が、当業者によって選択及び調整される。
【0059】
本発明において有利には、ポリマーマトリックスはポリオレフィンのみを含み、及び好ましくは1種のポリオレフィンのみを含む。
【0060】
本発明の3D印刷可能な粉体は、エチレンアセテートエラストマー、エチレンアクリレートエラストマー、エチレンプロピレンエラストマー及びエチレンα-オレフィンエラストマーから選択される少なくとも1種のオレフィン系熱可塑性エラストマーを更に含み、好ましくは上記オレフィン系熱可塑性エラストマーのうちの1種のみを含む。本発明に従う3D印刷可能な粉体中に複数のオレフィン系熱可塑性エラストマーが存在する場合、オレフィン系熱可塑性エラストマーの様々な混合物、即ち同じ又は異なる種類のオレフィン系熱可塑性エラストマーの混合物が、3D印刷可能な粉体の所望の特性に応じて選択されても良い。これらの可能な混合物に関する制限はなく、及びこの技術分野の当業者は、得られる3D印刷可能な粉体の所望の特性を調整するために混合物を最適化することが可能である。
【0061】
本発明において、「エラストマー」は弾性特性を有するポリマーである。エラストマーは、60ショアDより劣る硬度(DIN 53505、NF EN ISO 868、NF ISO 48-4及びASTM D 2240規格に従って測定されて良い)によって定義される。エラストマーは少なくとも500%の破断点伸びによってでも定義される(NF ISO 37、ISO D412、ASTM D412-16及びDIN53504-S2規格に従って測定されて良い)。エラストマーは、1MPaから16MPaの間に含まれる100%及び300%の伸びでの割線(secant)ヤング率(NF ISO 37、ISO D412、及びDIN53504-S2規格に従って測定可能)によってさらに定義される。
【0062】
本発明において、「熱可塑性」ポリマーは、所与の温度を超えて加熱すると柔軟又は成形可能になり、冷却すると固化するポリマーである。熱可塑性ポリマーは、500MPa(NF EN ISO 527-2及びASTM D638-08規格に従って測定されて良い)より優れた接線(tangent)ヤング率と60ショアD(DIN 53505、NF EN ISO 868、NF ISO 48-4及びASTM D 2240規格に従って測定されて良い)よりも優れた硬度によって定義される。
【0063】
本発明において、「オレフィン系熱可塑性エラストマー」とは、オレフィンモノマーを主成分とする熱可塑性エラストマーであり、好ましくはオレフィン系熱可塑性エラストマーの質量に対して少なくとも60質量%のオレフィンモノマーから作られ、及び特定の実施形態ではオレフィンモノマーのみから作られる。これらは、ブロックコポリマーであっても良いし、ランダムコポリマーであっても良い。
【0064】
本発明において、「エチレンアセテートエラストマー」は、エチレンモノマー及び少なくとも1つのアセテートモノマー、好ましくは1つのアセテートモノマーのみから作製される。エチレンモノマーとアセテートモノマーの相対量は、エラストマー特性が維持されるように変化させても良い。エチレンアセテートエラストマーは、ブロック又はランダムコポリマーであっても良く、好ましくはランダムコポリマーである。
【0065】
本発明において使用されても良いエチレンアセテートエラストマーの例は、Repsolによりブランド化されたPrimeva(登録商標)グレード又はSK Global Chemicalsによりブランド化されたEvatane(登録商標)グレード等のエチレン酢酸ビニルコポリマーである。
【0066】
本発明において、「エチレンアクリレートエラストマー」は、エチレンモノマー及び少なくとも1種のアクリレートモノマー、好ましくは1種のアクリレートモノマーのみから作製される。エチレンモノマー及びアクリレートモノマーの相対量は、エラストマー特性が維持されるように変化させても良い。エチレンアクリレート系エラストマーは、ブロックでもランダムコポリマーでも良いが、好ましくはエチレンブチルアクリレート等のランダムコポリマーである。本発明において使用されても良いエチレンブチルアクリレートエラストマーの例は、Repsolによるブランド化されたEbantix(登録商標)グレード等のエチレンブチルアクリレートコポリマーである。
【0067】
本発明において、「エチレンプロピレン」エラストマーは、エチレンモノマー及びプロピレンモノマーのみから作製される。次に、これはエチレンとプロピレンから作られたブロック又はランダム共重合体である。有利なことにはエチレンプロピレンエラストマーは、ランダムコポリマーである。
【0068】
エチレンプロピレンエラストマー中のエチレン含有量はエチレンプロピレンエラストマーの全質量に対して、好ましくは2質量%~20質量%の範囲であり、好ましくは4質量%以上16質量%以下である。
【0069】
本発明において使用されても良いエチレンプロピレンエラストマーの例は、Lyondell Basellによるブランド化されたAdflex(登録商標)グレード及びExxon Mobilによるブランド化されたVistamaxx(商標)等のエチレンプロピレンコポリマーである。
【0070】
本発明において、「エチレンα-オレフィン」エラストマーは、エチレン及び少なくとも1種のα-オレフィンモノマーのみから作られ、及び好ましくはエチレン及び1種のα-オレフィンモノマーから作られる。これは次に、エチレンとα-オレフィンのブロック又はランダム共重合体である。
【0071】
本発明において、「アルファ-オレフィン」(又はα-オレフィン)は、一次又はα位に二重結合を有するオレフィン(又はアルケン)である。上記α-オレフィンは、直鎖状であっても分岐状であっても良く、好ましくは直鎖状である。好ましくは、α-オレフィンは、C2-C12α-オレフィンであり、より好ましくはC4-C10であり、及び更により好ましくはC4-C8である。使用しても良いα-オレフィンの例は、ブト-1-エン(ene)、ペント-1-エン、ヘキシ-1-エン、ヘプト-1-エン、オクト-1-エン、ノン-1-エン、デカ-1-エンである。特に好ましいα-オレフィンは、ブト-1-エン及びオクト-1-エンである。
【0072】
エチレンα-オレフィンエラストマー中のエチレン含有量は、エチレンα-オレフィンエラストマーの質量に対して85質量%以上であることが好ましい。
【0073】
エチレンα-オレフィンエラストマー中のα-オレフィン含有量は、エチレンα-オレフィンエラストマーの質量に対して2質量%以上であることが好ましい。
【0074】
本発明において使用しても良いエチレンα-オレフィンエラストマーの例は、最大100℃の溶融温度を有する、Dow Chemicalsによって販売されるEngage(商標)グレード及びDow Chemicalsによって販売されるAffinity(商標)グレード等のエチレンオクテンコポリマー又はエチレンブテンコポリマーである。
【0075】
好ましい実施形態では、オレフィン系熱可塑性エラストマーは、エチレンプロピレンエラストマー及びエチレンα-オレフィンエラストマーから選択される。
【0076】
熱可塑性物質ブレンドの粉体(粉末)は、熱可塑性物質ブレンドの粉体の質量に対して、2質量%~25質量%、好ましくは5質量%~20質量%、更により好ましくは7質量%~15質量%のオレフィン系熱可塑性エラストマーを含む。
【0077】
3D印刷可能な粉体は、3D印刷可能な粉体の質量に対して、1.5質量%~25質量%のオレフィン系熱可塑性エラストマー(複数可)、好ましくは3質量%~20質量%、さらにより好ましくは5質量%~15質量%のオレフィン系熱可塑性エラストマー(複数可)を含む。
【0078】
本発明で使用されるオレフィン系熱可塑性ポリマーは、固体形態であり、好ましくは粉体又はペレット状体である。特定の実施形態によれば、オレフィン系熱可塑性エラストマーは、ペレットの形態であり、及び任意の形状を有し得る。
【0079】
エチレンプロピレンエラストマーは好ましくは、230℃及び2.16kg下で0.5g/10分から45g/10分の範囲のメルトマス流量を有し、好ましくは230℃及び2.16kg下で0.6g/10分から10g/10分の範囲のメルトマス流量を有する。
【0080】
エチレンα-オレフィンエラストマーは好ましくは、190℃及び2.16kg下で0.5g/10分から45g/10分の範囲のメルトマス流量を有し、好ましくは190℃及び2.16kg下で0.6g/10分から10g/10分の範囲のメルトマス流量を有する。
【0081】
メルトマス流量は、溶融相におけるエラストマーの粘度を示す。これは、特定の径(本発明では2.09mm±0.00mm)及び特定の長さ(本発明ではmm)の毛細管を通って、指定された温度で標準質量の範囲を介して加えられる圧力によって10分当たりに流れるグラム単位のエラストマーの質量として定義される。本発明では、これは規格ISO 1133:2011に従って、2.16kg下で測定される。
【0082】
オレフィン系熱可塑性エラストマーは好ましくは、-70℃~-10℃の範囲のガラス転移温度を有し、これは好ましくは-60℃~-20℃の範囲である。ガラス転移温度Tgは、ガラス転移が生じる温度である。ガラス転移は、硬くて脆い状態からアモルファス状態への段階的(gradual)かつ可逆的な遷移である。ガラス転移温度は、DSCにより10℃/分で測定されても良い。
【0083】
オレフィン系熱可塑性エラストマーは、600%~1500%の範囲の破断点伸びを有しても良く、これは好ましくは800%~1200%の範囲である。破断点伸びは、ASTM D638規格に従って測定されて良い。
【0084】
オレフィン系熱可塑性エラストマーは好ましくは、3MPa~30MPaの範囲の引張破断強度を有し、これは好ましくは5MPa~27MPaの範囲である。引張破断強度は、ASTM D638規格に従って測定されて良い。
【0085】
第1の実施形態に従えば、3D印刷可能な粉体は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン-1、ポリメチルペンテン、ポリオクテン、ポリイソプレン、ポリブタジエン又はこれらのポリオレフィンのうちの少なくとも2種のブレンド、及び好ましくはエチレン又はプロピレンのホモポリマーを含み、及びオレフィン系熱可塑性エラストマーはプロピレンエチレンエラストマーから選択される。この実施形態によれば、ポリオレフィンは、3D印刷可能な粉体の質量に対して47質量%~98質量%の範囲の量で存在し、これは好ましくは55質量%~97質量%である。この実施形態によれば、エチレンプロピレンエラストマーは、3D印刷可能粉体の質量に対して1.5質量%~25質量%の範囲の量で存在し、これは好ましくは3質量%~20質量%の範囲、更により好ましくは5質量%~15質量%の範囲の量で存在する。
【0086】
第2の実施形態に従えば、3D印刷可能な粉体は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン-1、ポリメチルペンテン、ポリオクテン、ポリイソプレン、ポリブタジエン又はこれらのポリオレフィンのうちの少なくとも2種のブレンド、好ましくはエチレン又はプロピレンのホモポリマーを含み、オレフィン性熱可塑性エラストマーは、エチレンα-オレフィンエラストマーから選択される。この実施形態によれば、ポリオレフィンは、3D印刷可能な粉体の質量に対して47質量%~98質量%の範囲の量で存在し、これは好ましくは55質量%~97質量%の範囲である。この実施形態によれば、エチレンαオレフィンエラストマーは、3D印刷可能な粉体の質量に対して、1.5質量%~25質量%、好ましくは3質量%~20質量%、更により好ましくは5質量%~15質量%の範囲の量で存在する。
【0087】
第3の実施形態によれば、3D印刷可能な粉体は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン-1、ポリメチルペンテン、ポリオクテン、ポリイソプレン、ポリブタジエン又はこれらのポリオレフィンのうちの少なくとも2種のブレンドと、C2-C12α-アルキレン、好ましくはエチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、及び4-メチル-1-ペンテンとのコポリマー、及び好ましくはエチレン又はプロピレンとエチレン又は1-ブテンとのコポリマーを含み、及びオレフィン熱可塑性エラストマーは、プロピレンエチレンエラストマーから選択される。この実施形態によれば、ポリオレフィンは、3D印刷可能な粉体の質量に対して47質量%~98質量%の範囲の量で存在し、これは好ましくは55質量%~97質量%の範囲である。この実施形態によれば、エチレンプロピレンエラストマーは、3D印刷可能な粉体の質量に対して、1.5質量%~25質量%の範囲、好ましくは3質量%~20質量%、更により好ましくは5質量%~15質量%の範囲の量で存在する。
【0088】
第4の実施形態によれば、3D印刷可能な粉体は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン-1、ポリメチルペンテン、ポリオクテン、ポリイソプレン、ポリブタジエン又はこれらのポリオレフィンのうちの少なくとも2種のブレンドとC2-C12α-アルキレン、好ましくはエチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-へキセン、1-オクテン、及び4-メチル-1-ペンテンとのコポリマーを含み、及び好ましくはエチレン又はプロピレンとエチレン又は1-ブテンとのコポリマーを含み、 及び上記オレフィン系熱可塑性エラストマーは、エチレンα-オレフィンエラストマーから選択される。この実施形態によればポリオレフィンは、3D印刷可能な粉体の質量に対して47質量%~98質量%の範囲の量で存在し、これは好ましくは55質量%~97質量%の範囲である。この実施形態によれば、エチレンプロピレンエラストマーは、3D印刷可能な粉体の質量に対して、1.5質量%~25質量%、好ましくは3質量%~20質量%、更により好ましくは5質量%~15質量%の範囲の量で存在する。
【0089】
第5の実施形態によれば、3D印刷可能な粉体は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン-1、ポリメチルペンテン、ポリオクテン、ポリイソプレン、ポリブタジエン又はこれらのポリオレフィンのうちの少なくとも2種のブレンドのホモポリマー、及び好ましくはエチレン又はプロピレンのホモポリマーを含み、及びオレフィン系熱可塑性エラストマーは、エチレンアセテートエラストマー及びエチレンアクリレートエラストマーから選択される。この実施形態によれば、ポリオレフィンは、3D印刷可能な粉体の質量に対して47質量%~98質量%の範囲の量で存在し、これは好ましくは55質量%~97質量%の範囲である。この実施形態によれば、オレフィン系熱可塑性エラストマーは、3D印刷可能な粉体の質量に対して、1.5質量%~25質量%、好ましくは3質量%~20質量%、更により好ましくは5質量%~15質量%の範囲の量で存在する。
【0090】
第6の実施形態によれば、3D印刷可な粉体は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン-1、ポリメチルペンテン、ポリオクテン、ポリイソプレン、ポリブタジエン又はこれらのポリオレフィンのうちの少なくとも2種とC2-C12α-アルキレン、好ましくはエチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、及び4-メチル-1-ペンテンから選ばれるC2-C12α-アルキレンとのコポリマーを含み、及び好ましくは、エチレン又はプロピレンとエチレン又は1-ブテンとのコポリマーを含み、及び上記オレフィン系熱可塑性エラストマーは、エチレンアセテートエラストマー及びエチレンアクリレートエラストマーから選択される。この実施形態によれば、ポリオレフィンは、3D印刷可能粉末の質量に対して47質量%~98質量%の範囲の量で存在し、これは好ましくは55質量%~97質量%の範囲である。この実施形態によれば、オレフィン系熱可塑性エラストマーは、3D印刷可能な粉体の質量に対して、1.5質量%~25質量%、好ましくは3質量%~20質量%、更により好ましくは5質量%~15質量%の範囲の量で存在する。
【0091】
3D印刷可能な組成物は、少なくとも1つの流動助剤を更に含む。
【0092】
本発明において、少なくとも1つの流動助剤は、固体状態、例えば粉体(粉末)としてのものである。
【0093】
好ましくは、少なくとも1つの流動助剤は、ナノ粒子又はマイクロ粒子として存在する。
【0094】
本発明において、「ナノ粒子」は、ナノメートルの基本サイズ、すなわち少なくとも1nm及び100nm以下の基本サイズの粒子を意味する。
【0095】
「基本サイズ」は、粒子の最高寸法を意味する。
【0096】
本発明において、「マイクロ粒子」は、マイクロメートルの基本サイズ、すなわち少なくとも1μm及び100μm以下の基本サイズの粒子を示す。
【0097】
本発明において使用しても良い流動助剤の例は特に、マイクロメートルのコロイダルシリカ又はナノメートルのヒュームドシリカ等のシリカ、アルミナのマイクロ又はナノ球状粒子等のアルミナ、及び長鎖カルボン酸アミド、長鎖カルボン酸エステル、及び長鎖カチオンカルボン酸塩等のポリマーマトリックスの溶融温度から少なくとも10℃マイナスの溶融温度を示すワックスである。
【0098】
有利には、(1種以上の)流動助剤が、3D印刷可能な粉体の質量に対して、0.02質量%~1質量%、好ましくは0.1質量%~0.5質量%の範囲の量で3D印刷可能な粉体中に存在する。
【0099】
上記3D印刷可能な粉体は、1種又は2種以上の添加剤を更に含んでも良い。これらの添加剤は、充填剤、抗酸化剤、抗核剤、共結晶化剤、可塑剤、染料、熱安定剤、帯電防止剤、ワックス、及び無水マレイン酸グラフトポリマー粉体等の相溶化剤から選択されても良い。3D印刷可能粉体が1種以上の添加剤を含む場合、これらは3D印刷可能な粉体の全質量に対して、好ましくは30質量%未満の量で存在し、これは好ましくは20質量%未満、更により好ましくは10%未満である。
【0100】
本発明において使用されても良い充填剤は、天然又は合成無機充填剤、例えばガラスビーズ、ヒュームドシリカ、中空ガラスビーズ、ガラス繊維、破砕ガラス、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、カオリン(含水ケイ酸アルミニウム)、及びこれらの組み合わせ、セラミック充填剤、例えばセラミック繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、及びこれらの組み合わせ、 天然又は合成の有機充填剤(フィラー)、例えば炭素繊維、ポリアミド繊維、ポリテトラフルオロエチレン繊維、液晶(LCP)繊維、Kevlar(登録商標)繊維、及びこれらの組み合わせ;ジルコニウム、タンタル、チタン、タングステン、ホウ素、アルミニウム及びベリリウムの無機酸化物、窒化物、ホウ化物及び炭化物、シリコンカーバイド、酸化アルミニウム等の、無機酸化物、炭化物、ホウ化物、及び窒化物である。
【0101】
難燃剤は、特定の充填剤として挙げても良い。難燃剤が3D印刷可能な粉体中に存在する場合、これはアルカリ又は土類アルカリスルホン酸塩、スルホンアミド塩、パーフルオロホウ酸塩、ハロゲン化化合物、ポリリン酸、五酸化リン、有機ポリホスホネート及びリン含有有機化合物、ならびにこれらの組み合わせからなる群から選択されても良い。有利には、非ハロゲン系難燃剤が好ましい。
【0102】
特定の実施形態では、3D印刷可能な粉体は、界面活性コーティング及び/又はタルクを含まない。
【0103】
本発明に従う3D印刷可能な粉体は有利には、20μm~60μmの範囲、好ましくは24μm~50μm、より好ましくは30μm~50μm、更により好ましくは30μm~45μmの範囲の平均粒子サイズd10を有する。
【0104】
有利には3D印刷可能粉末は、40μmから130μmの範囲の平均粒子サイズd50を有し、 これは好ましくは50μm~110μm、好ましくは50μm~90μm、より好ましくは50μm~80μm、更により好ましくは54μm~75μmの範囲である。
【0105】
有利には、3D印刷可能な粉体は、75μm~200μm、好ましくは85μm~160μm、好ましくは85μm~150μmの範囲の平均粒子サイズd90を有し、これはより好ましくは85μm~135μmの範囲であり、及び更により好ましくは90μm~115μmの範囲である。
【0106】
有利には、3D印刷可能な粉体は、最大でも300μmの平均粒子サイズd99を有し、これは好ましくは250μm未満である。特定の実施形態では、3D印刷可能な粉体は、90μmから250μmの範囲の平均粒子サイズd99を有する。有利には、3D印刷可能な粉体は、最大で200μmの平均粒子サイズd99、好ましくは180μm未満の粒子サイズを有する。
【0107】
平均粒子サイズdl0、d50、d90及びd99は、上記で定義したように測定される。
【0108】
本発明に従う3D印刷可能な粉体は、有利な熱的及び機械的特性を有する。
【0109】
有利には、処理窓は、少なくとも15℃、より有利には少なくとも20℃、さらに有利には少なくとも30℃のものである。
【0110】
有利には、破断点伸びは23℃で、少なくとも30%、より有利には少なくとも40%、更により有利には少なくとも50%である。破断点伸びは、上記で定義したように測定される。
【0111】
有利には、シャルピーノッチなし衝撃は、23℃で少なくとも30kJ/m、より有利には23℃で少なくとも40kJ/m、及びより有利には23℃で少なくとも50kJ/mである。 シャルピーのノッチなし衝撃は、ISO 179-1規格に従って測定されて良い。
【0112】
本発明の有利な態様によれば、エチレンアセテートエラストマー、エチレンアクリレートエラストマー、エチレンプロピレンエラストマー及びエチレンα-オレフィンエラストマーから選択されるオレフィン系熱可塑性エラストマーの存在は、3D印刷可能な粉体の処理ウィンドウを変化させない。換言すれば、融解オンセット温度(melting onset temperature)は5℃を超えて低下せず、優先的に3℃以下であり、及びオンセット結晶化温度は3℃以上上昇せず、及び優先的には2℃以上上昇しない。
【0113】
3D印刷可能な粉体の調製方法
本発明は更に、本発明に従う3D印刷可能な粉体の調製方法に関する。上記の調製方法(製造方法)は、以下の連続的工程を含む:
a)ポリマーマトリックスの質量に対して90質量%の少なくとも1種のポリオレフィンを含むポリマーマトリックスを提供する工程、
b)エチレンアセテートエラストマー、エチレンアクリレートエラストマー、エチレンプロピレンエラストマー及びエチレンアルファ-オレフィンエラストマーから選択される少なくとも1種のオレフィン系熱可塑性エラストマーを提供する工程、
c)上記ポリマーマトリックスと上記オレフィン系熱可塑性エラストマーを、上記ポリマーマトリックスの溶融温度と上記オレフィン系熱可塑性エラストマーの溶融温度との間の少なくとも最も高い温度の温度で混合する工程、
d)得られた混合物を粉体化して熱可塑性物質ブレンドの粉体を得る工程、
e)熱可塑性物質ブレンドの粉体を少なくとも1つの流動助剤と混合する工程、
f)ふるい分けして3D印刷可能な粉体を得る工程。
【0114】
ポリオレフィン及びオレフィン系熱可塑性エラストマーは、上述した通りである。
【0115】
ポリマーマトリックスの溶融温度は、ポリマーマトリックスの融解ピーク温度として定義される。この溶融温度は、ポリマーマトリックスが少なくとも90質量%のポリオレフィンで構成されているため、ポリマーマトリックスに存在するポリオレフィンの1つに近い。ポリマーマトリックス中にポリオレフィンが1つだけ存在し、追加のポリマーが存在しない場合、ポリマーマトリックスの溶融温度はポリオレフィンの溶融温度である。
【0116】
好ましくは工程c)は押出機、好ましくは二軸押出機で行われる。通常30 L / D以上の二軸押出機を使用して良い。押出機はいくつかの熱制御又は加熱ゾーン、収束ゾーン及びダイに分けられても良い。
【0117】
工程c)の間、ポリマーマトリックスが溶融され、すなわちポリマーマトリックス中に存在する全てのポリマーが溶融される。これは、ZOと名付けられた押出機の第1の熱制御ゾーンにポリマーマトリックスを導入することによって行うことが可能である。その後の熱制御ゾーンZAでは、最終的にいくつかの加熱ブロックによって構成され、ポリマーマトリックスは加熱及び混合されて良い。熱制御ゾーンZAの温度は、ポリマーマトリックスの溶融温度T以上、好ましくは高分子マトリックスの溶融温度Tより30℃以上回っている。その後、押出機への他の成分の導入を可能にする減圧が行われるのが有利である。
【0118】
オレフィン系熱可塑性エラストマーは、溶融(融解)前にポリマーマトリックスに混合するか、溶融したポリマーマトリックスに添加しても良い。
【0119】
第1の実施形態によれば、少なくとも1種のオレフィン系熱可塑性エラストマーが、予め溶融したポリマーマトリックスに添加される。換言すれば、プロセスは、工程c)の間に以下の工程を含む:
cl.l)上記ポリマーマトリックスの溶融温度と前記オレフィン系熱可塑性エラストマー(複数可)の溶融温度との間の少なくとも最も高い温度、好ましくは上記ポリマーマトリックスの溶融温度と前記オレフィン系熱可塑性エラストマー(複数可)の溶融温度との間の最も高い温度より少なくとも30℃高い温度で上記ポリマーマトリックスを混合して溶融ポリマーマトリックスを得る工程、
cl.2)上記溶融したポリマーマトリックスに少なくとも1種のオレフィン系熱可塑性エラストマーを添加する工程、 及び
cl.3)溶融したポリマーマトリックスと少なくとも1種のオレフィン系熱可塑性エラストマーとを混合する工程。
【0120】
この実施形態に従えば、少なくとも1つのオレフィン系熱可塑性エラストマーは、熱制御ゾーンZAの後、フィーダーを介して熱制御ゾーンZBに加えられる。有利には減圧が、ポリオレフィンの溶融後(工程cl.l))及びオレフィン系熱可塑性エラストマーの添加前(工程c1.2))に行われる。
【0121】
第2の実施形態によれば、少なくとも1種のオレフィン系熱可塑性エラストマーは、ポリマーマトリックスの溶融前にポリマーマトリックスと混合される。換言すれば、この方法は、工程c)の間に以下の工程を含む:
c2.1)ポリマーマトリックスと少なくとも1種のオレフィン系熱可塑性エラストマーとを混合する工程、
c2.2)得られた混合物を、ポリマーマトリックスの溶融温度とオレフィン系熱可塑性エラストマーの溶融温度との間の少なくとも最も高い温度、好ましくはポリマーマトリックスの溶融温度とオレフィン系熱可塑性エラストマーの溶融温度との間の少なくとも最も高い温度を少なくとも30℃上回る温度で加熱する工程。
【0122】
この第2の実施形態によれば、ポリマーマトリックス及びオレフィン系熱可塑性エラストマーの両方を、熱制御ゾーンZOに導入しても良い。
【0123】
両方の場合において、溶融したポリマーマトリックス及び少なくとも1つのオレフィン系熱可塑性エラストマーは、溶融したポリマーマトリックス中に少なくとも1種のオレフィン系熱可塑性ポリマーを均一に分散させるのに十分な時間の間、混合される。これは、後続の熱制御ゾーンZCで行っても良い。好ましくはその後、減圧が適用され、及び混合物がその後の熱制御ゾーンZD中で再び混合される。従って、オレフィン系熱可塑性エラストマー及びポリマーマトリックスは密接な混合物を形成する。言い換えれば、混合物は均質であり、この混合物の異なる成分は互いに自発的に分離しない。
【0124】
任意選択で、添加剤を工程c)中に添加しても良い。これらの添加剤の量及び性質は、上記で詳述した通りである。この実施形態によれば、添加剤は、任意の時点で組み込むことができる:溶融工程の前及び少なくとも1種のオレフィン性熱可塑性ポリマーの添加の前又は後のポリマーマトリックスへの添加、又は少なくとも1種のオレフィン性熱可塑性ポリマーの添加の前又は後の溶融ポリマーマトリックスへの添加。なお、3D印刷可能な粉体が1つ超の添加剤を含む場合、これらは任意の工程で同時に組み込まれるか、又は任意の工程で次々に、又は異なる工程で組み込まれても良い。
【0125】
任意に、これらの添加剤、及び特に難燃剤などの充填剤を、工程f)の間に添加しても良い。本実施形態によれば、添加剤は、任意の時点で添加して良い:篩い分けの前又は後の添加。3D印刷可能な粉体が1超の添加剤を含む場合、これらは任意の工程で同時に組み込まれるか、又は任意の工程で次々に、又は異なる工程で組み込まれても良い。
【0126】
工程d)は、押出機の外部で行っても良い。この工程の間に、得られたポリマーマトリックス、少なくとも1種のオレフィン系熱可塑性エラストマー及び任意の添加剤の混合物が粉体化され、上記で定義された熱可塑性物質ブレンドの粉体が得られる。例えば、これをクライオ粉砕(低温粉砕)により行っても良い。
【0127】
工程e)の間、得られた熱可塑性物質ブレンドの粉体は、少なくとも1つの流動助剤と混合される。流動助剤は上記のものと同義である。その目的のために、少なくとも1つの流動助剤を熱可塑性物質ブレンドの粉体に添加しても良い。
【0128】
篩い分けの最終工程(工程f))は、所望の3D印刷可能な粉体を与える。
【0129】
特定の実施形態に従えば、本発明に従う3D印刷可能な粉体の調製方法は、工程d)及び/又は工程e)及び/又は工程f)の後に実施される少なくとも1つの追加の工程g)を含む。この任意の工程g)は、3D印刷可能な粉体の特性を改善するため、例えば粉体の真球度(球形度)を改善するための後処理に存する。丸め粒子、機械的及び/又は熱処理、空気分級、酸化、表面コーティングが可能な後処理として挙げられても良い。特定の実施形態では、後処理のこの任意の工程g)は、工程d)の後に実施される。
【0130】
三次元物品及び調製方法
本発明は更に、上記で定義した3D印刷可能な粉体から、又は上述の方法から得られる3D印刷可能な粉体から作製された3D印刷物品に関する。
【0131】
本発明において、「3D印刷物品」(又は「3次元印刷物品」又は「3D物品」)は、例えばSLS又はMJF等の3D印刷システムによって形成されたオブジェクトを示す。
【0132】
最後に本発明は、3Dプリントされた物品を調製するための方法に関する。いくつかの添加剤法が使用されても良いが、その中で選択的レーザー焼結(SLS)及びマルチジェット融合(MJF)技術が特に好ましい。
【0133】
SLS技術は、次の2つの工程を繰り返すことによって互いに結合される、重ね合せた層の形成を意味する:
a)本発明で定義された3D印刷可能な粉体の連続ベッド、又はこれによって専ら構成される連続ベッドを、プラットフォーム上に、又は以前に統合された層上に堆積する工程;
b)堆積した3D印刷可能な粉体の一部を、各層について所定のパターンに従ってレーザービームを照射することによって、局所的な統合(強化)を実施し、及び同時に、これによって形成された層を、存在する場合には、その前に統合された層に、3D物品の所望の3次元構造を漸進的に形成する態様で結合させる工程。
【0134】
有利には工程a)の3D印刷可能な粉体の連続ベッドは一定の厚さを有し、物品の端部における精度を保証するために、層のレベルで取られた所望の3D物品のセクションの上方の表面として延びる。粉体のベッド(床)の厚さは、有利には、40μm~120μmの範囲である。
【0135】
工程b)の統合は、レーザー処理によって行われる。この目的のために、例えばSharebotのSnowWhiteタイプの3Dプリンター、3D SystemsのVanguard HSタイプ、EOSのFormiga P396タイプ、ProdwaysのPromaker P1000タイプ、又はEOSのFormiga P110タイプの3Dプリンタ等、当業者に知られている任意のSLS印刷機を使用することが可能である。
【0136】
SLS印刷機のパラメータは、粉体組成物のベッドの表面温度が焼結範囲内に存在するように、すなわちオフセット結晶化温度と開始融解温度との間に含まれるように選択される。
【0137】
MJF技術は、以下の工程を繰り返すことによって互いに結合される重ね合わせ層の形成を意味し得る:
a)本発明で定義された3D印刷可能な粉体を含む、又は専らこの粉体で構成された3D印刷可能な粉体の連続ベッドを、プラットフォーム上又は以前に統合された層上に堆積させる工程;
b)各層について、所定のパターンに従って融着剤を塗布する工程、
c)エネルギーの印加によって堆積した3D印刷可能な粉体の一部の局所的な統合(強化)を行う工程。
【0138】
MJF法はまた、詳細化剤(detailing agent)の適用を含み得る。
【0139】
本発明に従って使用されても良い融着剤及び詳細化剤は、例えばWO2019/182579号に詳述されているように、当該技術分野において一般的に使用されるものである。
【0140】
使用される添加剤プロセス(SLS又はMJF)が何であれ、3D印刷可能な粉体はリサイクルして良い。言い換えれば、3D物品の調製のための積層造形工程中に統合/焼結又は融合されていない、印刷工程中に使用された3D印刷可能な粉体は、別の3D物品の調製に再利用されても良い。典型的には、3D印刷可能な粉体の20質量%~100質量%が、リサイクルされた3D印刷可能な粉体である。SLS印刷工程から生じる統合/融合部品は、SLSを介した3D印刷に再利用するために、製粉加工又は研削、ふるい分け、及び焼きなましによって精製されても良い。
【0141】
本発明を、例示のみを目的としている以下の実施例によって更に説明する。
【実施例
【0142】
実施例1
表1に詳述された処方を有する本発明に従う2つの3D印刷可能な粉体I及びII並びに本発明の範囲外の1つの3D印刷可能な粉体IIIが調製された(百分率は、3D印刷可能な粉体の総質量に対して与えられた質量百分率である)。
【0143】
【表1】
【0144】
3D印刷可能な粉体I、II、IIIは次のように調製される。
【0145】
3D印刷可能な粉体I、II及びIIIが、実験室スケール生産用のスクリュー直径26mmの50 L/D二軸押出機で10~25 kg/hで、及びパイロット生産用の32mm(80~100kg/h)で配合される。
【0146】
両方の二軸押出機は、10の熱制御ゾーン(Z0及びZAからZJ)、収束ゾーン、及びダイに分割されている。ストランドペレット化が直径26mmの押出機で使用され、及び水中ペレット化システムが直径3mmの押出機で使用された。いずれの場合も、スクリュープロファイルは同一である。ポリプロピレンは、押出機の第1の熱制御ゾーンZ0に最初に導入される。第1の混合シーケンスが、加熱ブロックZ1及びZ2を含む第2の熱制御ゾーンZA内でポリプロピレンを溶融することによって行われる。その後、減圧が行われ、その後の熱制御ゾーンZBの加熱ブロックZ3に、サイドフィーダーを介して添加剤を導入可能にする。上記オレフィン系熱可塑性エラストマー、上記酸化防止剤及び上記共結晶化剤は、Z0又はZ3に導入されても良い。成分は、ゾーンZBの加熱ブロックZ4~Z7で長い混合シーケンスで混合され、次に減圧が適用され、続いてZBの加熱ブロックZ8及びZ9及びダイの前のポンピングゾーンで小さな混合シーケンスが適用される。温度プロファイルは次の通りである:Z0:10~40℃/Z1~Z2:230℃/Z3~Z9:180℃/ダイ:180℃。スクリュー速度は300~450RPMの範囲である。
【0147】
押出機の後、混合物をクライオ粉砕(低温粉砕)する。クライオ粉砕は、Gotic GmbH社製のピンミルGSM 250を用いて行われる。ミラー(miller)は冷却スクリューによって供給され、これは直径250mmで、潜在的に3つのリングのピン(合計250ピン)を有する。ここで、ピンの2つのリングのみが使用される。温度は粉砕ユニット内の熱電対で-45℃に調整され、及びスピードディスクは8900RPMに設定された。粉砕ユニットの後、篩い分けにより90μm未満の寸法の粉末を分離し、これは90μm超のサイズから集められるもので、90μm超のサイズは冷却スクリューに導入されて、再度粉砕される。篩い分けユニットは二重スクリーンを備えたナットレーション篩であり、及び篩は90×90 μmのメッシュを有する。篩の目詰まりを避けるために、ふるいの下に超音波システムとエラストマーボールが装備されている。
【0148】
次に、流動助剤が混合物に添加される。混合はラピッドミキサー“Caccia Turbomelangeur serie AV0600B”を使用して行われる。最後に、超音波システム及び90μmの正方形メッシュを備えた振動篩“Sodeva Tamiseur SC12”を使用して篩分けが行われる。
【0149】
これらの3D印刷可能な粉体の熱挙動を評価し、結果を表2に示した。溶融温度(融解温度)と結晶化温度の値は、± 10℃/分のDSCスキャン(DSC Q25、T.A.Instrumentsで実行)で決定した。
【0150】
【表2】
【0151】
全ての組成物は驚くほど類似した熱特性を有している。処理ウィンドウは31~34℃の範囲である。Tmonsetは131~135℃の範囲に在り、Tmは139~145℃の範囲に在る。Tconsetは99~102℃の範囲に在り、Tは95~97℃の範囲に在る。
【0152】
3D印刷可能な粉体I、II、及びIIIは、Prodways P1000 SLSプリンターを使用して印刷された。印刷条件は:
-パワーベッド表面温度:132~137℃、
-チャンバー温度:130~135℃、
-ピストン温度:120~125℃、
-ハッチング距離:0.2mm、
-レーザー出力10-16:W、
-レーザースキャン速度:3500mm/s。
【0153】
SLSプリンターで3D印刷可能な粉体I、II及びIIIから製造された3D印刷物品の機械的特性を評価し、以下の表3に示す。弾性率(モジュール:modulus)、引張応力及び破断点伸びは、ZWICK/Roell(登録商標) Z005tensiometer(Zwick GmbH、ドイツ)を使用して、ISO 527-1及び2規格に従って測定された。弾力性は、ZWICK / Roell(登録商標) Charpy 255振り子衝撃試験機で測定された。最大引張応力は降伏点で得られる。
【0154】
【表3】
【0155】
印刷可能な粉体IIIと比較して、本発明に従う3D印刷可能な粉体I及びIIの使用は、降伏点伸び、破断点伸び、曲げ弾性率及び印刷部品への衝撃(impact)に意義有る改善をもたらす。
【0156】
3D印刷可能な粉体I及びIIは、MDT 5210 MJFプリンターを使用してでも印刷された。
【0157】
印刷条件は:
-粉末表面温度:113℃、
-スプレッド粉体温度:80℃、
-トロリー左/右壁温度:100℃、
-ヒューズランプトレーリング(電力):5750、
であった。
【0158】
MJFプリンターを使用した3D印刷可能な粉体I及びIIIからの印刷物の機械的特性を表4に示す。上記に詳述したものと同じ手順をここで使用した。
【0159】
【表4】
【0160】
ここで再び、3D印刷可能な粉体Iを使用した場合、3D印刷可能な粉体IIIと比較して、破断点伸びの大幅な改善が観察された。
【0161】
実施例2
実施例1で報告されたものと同様の試験を、ランダムプロピレンコポリマーの代わりにポリプロピレンホモポリマーを用いて実施した。本発明に従う3D印刷可能な粉体IV及び本発明の範囲外の3D印刷可能な粉体Vは、以下の表5に詳述されるような処方を有し、実施例1に詳述したのと同じ手順に従って調製されたが、唯一の違いは、使用されるポリオレフィン及び押出機の温度プロファイル(Z0:10~40℃/Z1~Z2:230℃/Z3~Z9:200℃ / ダイ:200℃)であった。与えられた百分率は、印刷可能な組成物の質量に対する質量百分率である。
【0162】
【表5】
【0163】
3D印刷可能な粉体の熱挙動を実施例1と同様に評価し、その結果を表6に示す。
【0164】
【表6】
【0165】
両方の印刷可能な粉体は、いずれも熱特性が類似している。
【0166】
3D印刷可能な粉体IV及びVが、Prodways P1000 SLSプリンターを使用して印刷された。印刷条件は:
-パワーベッド表面温度:149℃、
-チャンバー温度:148℃、
-ピストン温度:145℃、
-ハッチング距離:0.mm、
-レーザー出力:20W、
-レーザースキャン速度:3500mm/sであった。
【0167】
SLSプリンターを使用して3D印刷可能な粉体IV及びVから作られた3D印刷物品の機械的特性を評価し、及び以下の表7に示す。実施例1で報告したのと同じ手順を、これらの機械的特性の測定に用いた。
【0168】
【表7】
【0169】
3D印刷可能粉末IVを使用した場合、3D印刷可能粉末Vと比較して、引張弾性率はわずかに低下したが、耐衝撃性と破断点伸びの重要な増加が観察された。
【0170】
実施例3
本発明に従う3D印刷可能な粉体VI及びVII、ならびに本発明の範囲外のVIII及びIXを調製し、3D印刷可能な粉体I、II及びIIIと比較した。
【0171】
以下の表8に詳述されるような処方を有する3D印刷可能な粉体VI、VII、VIII及びIXを、実施例1に詳述したものと同様の手順に従って調製した。百分率は、3D印刷可能な粉体の総質量に対する質量百分率である。
【0172】
【表8】
【0173】
これらの組成物は、Prodways P1000 SLSプリンターを使用してダンベル(dumbell)に印刷された。印刷条件は:
-パワーベッド表面温度:132~138 ℃、
-チャンバー温度:130~135 ℃、
-ピストン温度:120~125 ℃、
-ハッチング距離:0.2 mm、
-レーザー出力:16 W、
-レーザースキャン速度:3500 mm/s、
であった。
【0174】
3D印刷可能な粉体I、II、III、VI、VII、VIII及びIXからの3D印刷物の機械的及び熱的特性を、実施例1に詳述した手順に従って評価した。結果は以下の表9及び表10に記載の通りである。
【0175】
【表9】
【0176】
エチレンプロピレンエラストマーベースの3D印刷可能な粉体(I及びII)及びエチレンアルファオレフィンエラストマーベースの粉体(VI及びVII)は、エラストマーを含まない3D印刷可能な粉体(III)又はスチレン系エラストマー(VIII及びIX)と比較して、はるかに優れた機械的特性を有する。これらのオレフィン系熱可塑性エラストマーの添加により、処理ウインドウも改善された。
【0177】
オレフィン系熱可塑性エラストマーとしてのスチレン系エラストマーの添加は、破断点伸びを改善せず、しかしこれを低下させた。また、処理ウィンドウを減少させ、及び印刷工程に影響を与える核形成効果(nucleating effects)を誘発した。
【0178】
【表10】
【国際調査報告】