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特表2023-542212T細胞二重特異性抗体に関連する有害作用の予防又は緩和
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-05
(54)【発明の名称】T細胞二重特異性抗体に関連する有害作用の予防又は緩和
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20230928BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230928BHJP
   A61K 31/506 20060101ALI20230928BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230928BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230928BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20230928BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20230928BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20230928BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20230928BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20230928BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20230928BHJP
   C07K 16/30 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
A61K39/395 N
A61K45/00
A61K31/506
A61P43/00 121
A61K39/395 D
A61P35/00
A61P35/02
A61P7/00
A61P13/12
A61P37/06
C07K16/46 ZNA
C07K16/28
C07K16/30
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023518392
(86)(22)【出願日】2021-09-22
(85)【翻訳文提出日】2023-05-10
(86)【国際出願番号】 EP2021075995
(87)【国際公開番号】W WO2022063803
(87)【国際公開日】2022-03-31
(31)【優先権主張番号】20198050.5
(32)【優先日】2020-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】20201583.0
(32)【優先日】2020-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】21172627.8
(32)【優先日】2021-05-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514099673
【氏名又は名称】エフ・ホフマン-ラ・ロシュ・アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ヘーゲル, エレーヌ セシル
(72)【発明者】
【氏名】クライン, クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】ルクレア, ガブリエル
(72)【発明者】
【氏名】トーソ, アルベルト
(72)【発明者】
【氏名】ジマーマン, ティナ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084MA02
4C084MA52
4C084NA06
4C084ZA511
4C084ZA512
4C084ZA811
4C084ZA812
4C084ZB081
4C084ZB082
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZB271
4C084ZB272
4C084ZC202
4C084ZC412
4C084ZC75
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB01
4C085BB11
4C085BB41
4C085CC01
4C085DD62
4C085EE03
4C085GG02
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC82
4C086GA07
4C086GA10
4C086GA12
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA06
4C086ZA51
4C086ZA81
4C086ZB08
4C086ZB26
4C086ZB27
4C086ZC20
4C086ZC41
4C086ZC75
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA75
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、サイトカイン放出症候群などのT細胞二重特異性抗体に関連する有害作用の予防又は緩和に関する。具体的には、本発明は、ダサチニブなどのチロシンキナーゼ阻害剤を使用するそのような副作用の予防又は緩和に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体における疾患の治療に使用するためのT細胞二重特異性抗体であって、前記治療が、
(a)前記T細胞二重特異性抗体の前記個体への投与、及び
(b)前記T細胞二重特異性抗体の前記投与に関連する有害作用を予防又は緩和するためのチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)の前記個体への投与
を含む、T細胞二重特異性抗体。
【請求項2】
個体における疾患を治療するための医薬の製造におけるT細胞二重特異性抗体の使用であって、前記治療が、
(a)前記T細胞二重特異性抗体の前記個体への投与、及び
(b)前記T細胞二重特異性抗体の前記投与に関連する有害作用を予防又は緩和するためのチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)の前記個体への投与
を含む、使用。
【請求項3】
個体における疾患を治療するための方法であって、前記方法が、
(a)T細胞二重特異性抗体の前記個体への投与、及び
(b)前記T細胞二重特異性抗体の前記投与に関連する有害作用を予防又は緩和するためのチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)の前記個体への投与
を含む、方法。
【請求項4】
T細胞二重特異性抗体の個体への投与に関連する有害作用の予防又は緩和に使用するためのチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)。
【請求項5】
T細胞二重特異性抗体の個体への投与に関連する有害作用を予防又は緩和するための医薬の製造におけるチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)の使用。
【請求項6】
T細胞二重特異性抗体の個体への投与に関連する有害作用を予防又は緩和するための方法であって、チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)の前記個体への投与を含む、方法。
【請求項7】
前記TKIが、Lck及び/又はSrcキナーゼ阻害剤、特にダサチニブである、請求項1~6のいずれか一項に記載のT細胞二重特異性抗体、TKI、使用又は方法。
【請求項8】
前記TKI(の投与)が、
(i)前記T細胞二重特異性抗体の活性の阻害、
(ii)(前記T細胞二重特異性抗体によって誘導される)T細胞の活性化の阻害、
(iii)(前記T細胞二重特異性抗体によって誘導される)T細胞の増殖の阻害、
(iv)(前記T細胞二重特異性抗体によって誘導される)T細胞の細胞傷害活性の阻害、
(v)(前記T細胞二重特異性抗体によって誘導される)T細胞におけるT細胞受容体シグナル伝達の阻害、並びに/又は
(vi)(前記T細胞二重特異性抗体によって誘導される)T細胞によるサイトカイン分泌の阻害であって、特に、前記サイトカインが、IL-2、TNF-α、IFN-γ、IL-6及びIL-1βからなる群から選択される1つ若しくは複数のサイトカインである、サイトカイン分泌の阻害
を引き起こし、
任意に、前記T細胞が、CD8+T細胞又はCD4+細胞である、請求項1~7のいずれか一項に記載のT細胞二重特異性抗体、TKI、使用又は方法。
【請求項9】
前記阻害が可逆的である、請求項8に記載のT細胞二重特異性抗体、TKI、使用又は方法。
【請求項10】
前記TKI(の投与)が、前記個体における1つ又は複数のサイトカインの血清レベルの低下を引き起こし、特に、前記1つ又は複数のサイトカインが、IL-2、TNF-α、IFN-γ、IL-6及びIL-1βからなる群から選択される、請求項1~9のいずれか一項に記載のT細胞二重特異性抗体、TKI、使用又は方法。
【請求項11】
前記有害作用が、(i)サイトカイン放出症候群(CRS)、(ii)発熱、低血圧及び/若しくは低酸素症、並びに/又は(iii)1つ若しくは複数のサイトカインの上昇した血清レベルであり、特に、前記1つ若しくは複数のサイトカインが、IL-2、TNF-α、IFN-γ、IL-6及びIL-1βからなる群から選択される、請求項1~10のいずれか一項に記載のT細胞二重特異性抗体、TKI、使用又は方法。
【請求項12】
前記有害作用が、前記T細胞二重特異性抗体の標的細胞抗原を発現する非がん細胞への前記T細胞二重特異性抗体の結合に関連する有害作用(すなわち、オンターゲット/オフ腫瘍効果)、及び/又は、前記T細胞二重特異性抗体のその標的細胞抗原への結合に関連しない有害作用(すなわち、オフターゲット効果)である、請求項1~11のいずれか一項に記載のT細胞二重特異性抗体、TKI、使用又は方法。
【請求項13】
前記TKIの投与が、(前記個体における)前記有害作用の(臨床的な)発現時である、請求項1~12のいずれか一項に記載のT細胞二重特異性抗体、TKI、使用又は方法。
【請求項14】
前記TKIの投与が、(i)前記T細胞二重特異性抗体の投与の前、投与と同時、若しくは投与後、(ii)断続的若しくは連続的、及び/又は(iii)経口である、請求項1~13のいずれか一項に記載のT細胞二重特異性抗体、TKI、使用又は方法。
【請求項15】
前記TKIの投与が、
(i)前記T細胞二重特異性抗体の活性の阻害、
(ii)(前記T細胞二重特異性抗体によって誘導される)T細胞の活性化の阻害、
(iii)(前記T細胞二重特異性抗体によって誘導される)T細胞の増殖の阻害、
(iv)(前記T細胞二重特異性抗体によって誘導される)T細胞の細胞傷害活性の阻害、
(v)(前記T細胞二重特異性抗体によって誘導される)T細胞におけるT細胞受容体シグナル伝達の阻害、並びに/又は
(vi)(前記T細胞二重特異性抗体によって誘導される)T細胞によるサイトカイン分泌の阻害であって、特に、前記サイトカインが、IL-2、TNF-α、IFN-γ、IL-6及びIL-1βからなる群から選択される1つ若しくは複数のサイトカインである、サイトカイン分泌の阻害
を引き起こすのに十分な用量であり、
任意に、前記T細胞が、CD8+T細胞又はCD4+細胞である、請求項1~14のいずれか一項に記載のT細胞二重特異性抗体、TKI、使用又は方法。
【請求項16】
前記TKIの投与が、前記個体における1つ又は複数のサイトカインの前記血清レベルの低下を引き起こすのに十分な用量であり、任意に、前記T細胞二重特異性抗体の前記活性の阻害を引き起こすのに不十分である、請求項1~15のいずれか一項に記載のT細胞二重特異性抗体、TKI、使用又は方法。
【請求項17】
前記TKIの投与が、前記個体における免疫細胞による1つ又は複数のサイトカインの分泌の減少を引き起こすのに十分な用量であるが、前記T細胞二重特異性抗体によって誘導されるT細胞の活性化及び/又はT細胞の細胞傷害活性の阻害を引き起こすには不十分である、請求項1~16のいずれか一項に記載のT細胞二重特異性抗体、TKI、使用又は方法。
【請求項18】
前記TKIの投与が有効用量でのものである、請求項1~17のいずれか一項に記載のT細胞二重特異性抗体、TKI、使用又は方法。
【請求項19】
前記TKIの投与が、約10mg、20mg、30mg、40mg、50mg、60mg、70mg、80mg、90mg、100mg、110mg、120mg、130mg、140mg、150mg、160mg、170mg、180mg、190mg、又は200mgの用量、特に約100mg以下の用量である、請求項1~18のいずれか一項に記載のT細胞二重特異性抗体、TKI、使用又は方法。
【請求項20】
前記TKIの投与が、前記有害作用が持続する期間にわたるものであり、及び/又は、前記有害作用が防止若しくは緩和された後で停止される、請求項1~19のいずれか一項に記載のT細胞二重特異性抗体、TKI、使用又は方法。
【請求項21】
前記TKIの投与が、前記T細胞二重特異性抗体の第1の投与に付随し、任意に、前記T細胞二重特異性抗体の前記第1の投与の前、投与と同時、又は投与の後である、請求項1~20のいずれか一項に記載のT細胞二重特異性抗体、TKI、使用又は方法。
【請求項22】
前記T細胞二重特異性抗体の前記投与が、
(i)有効用量、
(ii)非経口、特に静脈内、及び/又は
(iii)前記T細胞二重特異性抗体の前記個体への前記第1の投与
である、請求項1~21のいずれか一項に記載のT細胞二重特異性抗体、TKI、使用又は方法。
【請求項23】
前記T細胞二重特異性抗体(の投与)が、
(i)T細胞の活性化、
(ii)T細胞の増殖、
(iii)T細胞の細胞傷害活性、
(iv)T細胞におけるT細胞受容体シグナル伝達、
(v)T細胞によるサイトカイン分泌であって、特に、前記サイトカインが、IL-2、TNF-α、IFN-γ、IL-6及びIL-1βからなる群から選択される1つ又は複数のサイトカインである、サイトカイン分泌
を誘導し、
任意に、前記T細胞が、CD8+T細胞又はCD4+細胞である、請求項1~22のいずれか一項に記載のT細胞二重特異性抗体、TKI、使用又は方法。
【請求項24】
前記T細胞二重特異性抗体が、CD3及び標的細胞抗原に結合する、請求項1~23のいずれか一項に記載のT細胞二重特異性抗体、TKI、使用又は方法。
【請求項25】
前記T細胞二重特異性抗体が、CD3に結合する抗原結合部分及び標的細胞抗原に結合する抗原結合部分を含む、請求項1~24のいずれか一項に記載のT細胞二重特異性抗体、TKI、使用又は方法。
【請求項26】
前記標的細胞抗原が癌胎児性抗原(CEA)である、請求項24又は25に記載のT細胞二重特異性抗体、TKI、使用又は方法。
【請求項27】
前記T細胞二重特異性抗体が、
(i)CD3に結合し、配列番号28の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号29のHCDR2、及び配列番号30のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号31の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号32のLCDR2、及び配列番号33のLCDR3を含む軽鎖可変領域とを含む、第1の抗原結合部分と、
(ii)CEAに結合し、配列番号36の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号37のHCDR2、及び配列番号38のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号39の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号40のLCDR2、及び配列番号41のLCDR3を含む軽鎖可変領域とを含む、第2の抗原結合部分と
を含む、請求項26に記載のT細胞二重特異性抗体、TKI、使用又は方法。
【請求項28】
前記T細胞二重特異性抗体が、CEA並びに/又は第1のサブユニット及び第2のサブユニットで構成されるFcドメインに結合する第3の抗原結合部分を含む、請求項26又は27に記載のT細胞二重特異性抗体、TKI、使用又は方法。
【請求項29】
前記T細胞二重特異性抗体が、
(i)CD3に結合し、配列番号28の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号29のHCDR2、及び配列番号30のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号31の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号32のLCDR2、及び配列番号33のLCDR3を含む軽鎖可変領域とを含む、第1の抗原結合部分であって、Fab軽鎖及びFab重鎖の可変領域又は定常領域のいずれかが交換されているクロスオーバーFab分子である、第1の抗原結合部分と、
(ii)CEAに結合し、配列番号36の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号37のHCDR2、及び配列番号38のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号39の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号40のLCDR2、及び配列番号41のLCDR3を含む軽鎖可変領域とを含む、第2の抗原結合部分及び第3の抗原結合部分であって、それぞれFab分子、特に従来のFab分子である、第2の抗原結合部分及び第3の抗原結合部分と、
(iii)第1のサブユニット及び第2のサブユニットから構成されるFcドメインと
を含み、
前記第2の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端において前記第1の抗原結合部分の前記Fab重鎖のN末端に融合しており、前記第1の抗原結合部分が、前記Fab重鎖のC末端において前記Fcドメインの前記第1のサブユニットのN末端に融合しており、前記第3の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端において前記Fcドメインの前記第2のサブユニットのN末端に融合している、請求項26~28のいずれか一項に記載のT細胞二重特異性抗体、TKI、使用又は方法。
【請求項30】
前記T細胞二重特異性抗体の前記第1の抗原結合部分が、配列番号34のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号35のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%同一である軽鎖可変領域配列とを含み、及び/又は、前記T細胞二重特異性抗体の前記第2の抗原結合部分及び(存在する場合)第3の抗原結合部分が、配列番号42のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号43のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%同一である軽鎖可変領域配列とを含む、請求項26~29のいずれか一項に記載のT細胞二重特異性抗体、TKI、使用又は方法。
【請求項31】
前記T細胞二重特異性抗体の前記Fcドメインが、前記Fcドメインの前記第1のサブユニットと前記第2のサブユニットの会合を促進する修飾を含み、並びに/又は、前記Fcドメインが、Fc受容体への結合及び/若しくはエフェクター機能を低下させる1つ若しくは複数のアミノ酸置換を含む、請求項28~30のいずれか一項に記載のT細胞二重特異性抗体、TKI、使用又は方法。
【請求項32】
前記T細胞二重特異性抗体がシビサタマブである、請求項1~31のいずれか一項に記載のT細胞二重特異性抗体、TKI、使用又は方法。
【請求項33】
前記標的細胞抗原がHLA-2/WT1である、請求項24又は25に記載のT細胞二重特異性抗体、TKI、使用又は方法。
【請求項34】
前記T細胞二重特異性抗体が、
(i)CD3に結合し、配列番号1の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号2のHCDR2、及び配列番号3のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号4の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号5のLCDR2、及び配列番号6のLCDR3を含む軽鎖可変領域とを含む、第1の抗原結合部分と、
(ii)HLA-A2/WT1に結合し、配列番号9の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号10のHCDR2、及び配列番号11のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号12の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号13のLCDR2、及び配列番号14のLCDR3を含む軽鎖可変領域とを含む、第2の抗原結合部分と
を含む、請求項33に記載のT細胞二重特異性抗体、TKI、使用又は方法。
【請求項35】
前記T細胞二重特異性抗体が、HLA-A2/WT1並びに/又は第1のサブユニット及び第2のサブユニットで構成されるFcドメインに結合する第3の抗原結合部分を含む、請求項33又は34に記載のT細胞二重特異性抗体、TKI、使用又は方法。
【請求項36】
前記T細胞二重特異性抗体が、
(i)CD3に結合し、配列番号1の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号2のHCDR2、及び配列番号3のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号4の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号5のLCDR2、及び配列番号6のLCDR3を含む軽鎖可変領域とを含む、第1の抗原結合部分であって、Fab軽鎖及びFab重鎖の可変領域又は定常領域のいずれかが交換されているクロスオーバーFab分子である、第1の抗原結合部分と、
(ii)HLA-A2/WT1に結合し、配列番号9の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号10のHCDR2、及び配列番号11のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号12の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号13のLCDR2、及び配列番号14のLCDR3を含む軽鎖可変領域とを含む、第2の抗原結合部分及び第3の抗原結合部分であって、それぞれFab分子、特に従来のFab分子である、第2の抗原結合部分及び第3の抗原結合部分と、
(iii)第1のサブユニット及び第2のサブユニットから構成されるFcドメインと
を含み、
前記第2の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端において前記第1の抗原結合部分の前記Fab重鎖のN末端に融合しており、前記第1の抗原結合部分が、前記Fab重鎖のC末端において前記Fcドメインの前記第1のサブユニットのN末端に融合しており、前記第3の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端において前記Fcドメインの前記第2のサブユニットのN末端に融合している、請求項33~35のいずれか一項に記載のT細胞二重特異性抗体、TKI、使用又は方法。
【請求項37】
前記T細胞二重特異性抗体の前記第1の抗原結合部分が、配列番号7のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%同一である軽鎖可変領域配列とを含み、及び/又は、前記T細胞二重特異性抗体の前記第2の抗原結合部分及び(存在する場合)第3の抗原結合部分が、配列番号15のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%同一である軽鎖可変領域配列とを含む、請求項33~36のいずれか一項に記載のT細胞二重特異性抗体、TKI、使用又は方法。
【請求項38】
前記T細胞二重特異性抗体の前記第1の抗原結合部分が、Fab軽鎖及びFab重鎖の可変領域が交換されているクロスオーバーFab分子であり、前記T細胞二重特異性抗体の前記第2の抗原結合部分及び(存在する場合)第3の抗原結合部分が、定常ドメインCLにおいて、124位のアミノ酸が、独立して、リジン(K)、アルギニン(R)、又はヒスチジン(H)で置換されており(Kabatによるナンバリング)、123位のアミノ酸が、独立して、リジン(K)、アルギニン(R)、又はヒスチジン(H)で置換されており(Kabatによるナンバリング)、定常ドメインCH1において、147位のアミノ酸が、独立して、グルタミン酸(E)、又はアスパラギン酸(D)で置換されており(Kabat EUインデックスによるナンバリング)、213位のアミノ酸が、独立して、グルタミン酸(E)、又はアスパラギン酸(D)で置換されている(Kabat EUインデックスによるナンバリング)従来のFab分子である、請求項33~37のいずれか一項に記載のT細胞二重特異性抗体、TKI、使用又は方法。
【請求項39】
前記T細胞二重特異性抗体の前記Fcドメインが、前記Fcドメインの前記第1のサブユニットと前記第2のサブユニットの会合を促進する修飾を含み、並びに/又は、前記Fcドメインが、Fc受容体への結合及び/若しくはエフェクター機能を低下させる1つ若しくは複数のアミノ酸置換を含む、請求項35~38のいずれか一項に記載のT細胞二重特異性抗体、TKI、使用又は方法。
【請求項40】
前記標的細胞抗原がCD20である、請求項24又は25に記載のT細胞二重特異性抗体、TKI、使用又は方法。
【請求項41】
前記T細胞二重特異性抗体が、
(i)CD3に結合し、配列番号28の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号29のHCDR2、及び配列番号30のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号31の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号32のLCDR2、及び配列番号33のLCDR3を含む軽鎖可変領域とを含む、第1の抗原結合部分と、
(ii)CD20に結合し、配列番号48の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号49のHCDR2、及び配列番号50のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号51の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号52のLCDR2、及び配列番号53のLCDR3を含む軽鎖可変領域とを含む、第2の抗原結合部分と
を含む、請求項40に記載のT細胞二重特異性抗体、TKI、使用又は方法。
【請求項42】
前記T細胞二重特異性抗体が、CD20並びに/又は第1のサブユニット及び第2のサブユニットで構成されるFcドメインに結合する第3の抗原結合部分を含む、請求項40又は41に記載のT細胞二重特異性抗体、TKI、使用又は方法。
【請求項43】
前記T細胞二重特異性抗体が、
(i)CD3に結合し、配列番号28の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号29のHCDR2、及び配列番号30のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号31の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号32のLCDR2、及び配列番号33のLCDR3を含む軽鎖可変領域とを含む、第1の抗原結合部分であって、Fab軽鎖及びFab重鎖の可変領域又は定常領域のいずれかが交換されているクロスオーバーFab分子である、第1の抗原結合部分と、
(ii)CD20に結合し、配列番号48の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号49のHCDR2、及び配列番号50のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号51の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号52のLCDR2、及び配列番号53のLCDR3を含む軽鎖可変領域とを含む、第2の抗原結合部分及び第3の抗原結合部分であって、それぞれFab分子、特に従来のFab分子である、第2の抗原結合部分及び第3の抗原結合部分と、
(iii)第1のサブユニット及び第2のサブユニットから構成されるFcドメインと
を含み、
前記第2の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端において前記第1の抗原結合部分の前記Fab重鎖のN末端に融合しており、前記第1の抗原結合部分が、前記Fab重鎖のC末端において前記Fcドメインの前記第1のサブユニットのN末端に融合しており、前記第3の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端において前記Fcドメインの前記第2のサブユニットのN末端に融合している、請求項40~42のいずれか一項に記載のT細胞二重特異性抗体、TKI、使用又は方法。
【請求項44】
前記T細胞二重特異性抗体の前記第1の抗原結合部分が、配列番号34のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号35のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%同一である軽鎖可変領域配列とを含み、及び/又は、前記T細胞二重特異性抗体の前記第2の抗原結合部分及び(存在する場合)第3の抗原結合部分が、配列番号54のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号55のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%同一である軽鎖可変領域配列とを含む、請求項40~43のいずれか一項に記載のT細胞二重特異性抗体、TKI、使用又は方法。
【請求項45】
前記T細胞二重特異性抗体の前記第1の抗原結合部分が、Fab軽鎖及びFab重鎖の可変領域が交換されているクロスオーバーFab分子であり、前記T細胞二重特異性抗体の前記第2の抗原結合部分及び(存在する場合)第3の抗原結合部分が、定常ドメインCLにおいて、124位のアミノ酸が、独立して、リジン(K)、アルギニン(R)、又はヒスチジン(H)で置換されており(Kabatによるナンバリング)、123位のアミノ酸が、独立して、リジン(K)、アルギニン(R)、又はヒスチジン(H)で置換されており(Kabatによるナンバリング)、定常ドメインCH1において、147位のアミノ酸が、独立して、グルタミン酸(E)、又はアスパラギン酸(D)で置換されており(Kabat EUインデックスによるナンバリング)、213位のアミノ酸が、独立して、グルタミン酸(E)、又はアスパラギン酸(D)で置換されている(Kabat EUインデックスによるナンバリング)従来のFab分子である、請求項40~44のいずれか一項に記載のT細胞二重特異性抗体、TKI、使用又は方法。
【請求項46】
前記T細胞二重特異性抗体の前記Fcドメインが、前記Fcドメインの前記第1のサブユニットと前記第2のサブユニットの会合を促進する修飾を含み、並びに/又は、前記Fcドメインが、Fc受容体への結合及び/若しくはエフェクター機能を低下させる1つ若しくは複数のアミノ酸置換を含む、請求項42~45のいずれか一項に記載のT細胞二重特異性抗体、TKI、使用又は方法。
【請求項47】
前記標的細胞抗原がCD19である、請求項24又は25に記載のT細胞二重特異性抗体、TKI、使用又は方法。
【請求項48】
前記T細胞二重特異性抗体が、
(i)CD3に結合し、配列番号61の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号29のHCDR2、及び配列番号62のHCDR3を含む重鎖可変領域、又は配列番号64のHCDR1、配列番号29のHCDR2、及び配列番号65のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号31の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号32のLCDR2、及び配列番号33のLCDR3を含む軽鎖可変領域とを含む、第1の抗原結合部分と、
(ii)CD19に結合し、配列番号67の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号68のHCDR2、及び配列番号69のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号70の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号71のLCDR2、及び配列番号72のLCDR3を含む軽鎖可変領域とを含む、第2の抗原結合部分と
を含む、請求項47に記載のT細胞二重特異性抗体、TKI、使用又は方法。
【請求項49】
前記T細胞二重特異性抗体が、CD19並びに/又は第1のサブユニット及び第2のサブユニットで構成されるFcドメインに結合する第3の抗原結合部分を含む、請求項47又は48に記載のT細胞二重特異性抗体、TKI、使用又は方法。
【請求項50】
前記T細胞二重特異性抗体が、
(i)CD3に結合し、配列番号61の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号29のHCDR2、及び配列番号62のHCDR3を含む重鎖可変領域、又は配列番号64のHCDR1、配列番号29のHCDR2、及び配列番号65のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号31の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号32のLCDR2、及び配列番号33のLCDR3を含む軽鎖可変領域とを含む、第1の抗原結合部分であって、Fab軽鎖及びFab重鎖の可変領域又は定常領域のいずれかが交換されているクロスオーバーFab分子である、第1の抗原結合部分と、
(ii)CD19に結合し、配列番号67の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号68のHCDR2、及び配列番号69のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号70の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号71のLCDR2、及び配列番号72のLCDR3を含む軽鎖可変領域とを含む、第2の抗原結合部分及び第3の抗原結合部分であって、それぞれFab分子、特に従来のFab分子である、第2の抗原結合部分及び第3の抗原結合部分と、
(iii)第1のサブユニット及び第2のサブユニットから構成されるFcドメインと
を含み、
前記第2の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端において前記第1の抗原結合部分の前記Fab重鎖のN末端に融合しており、前記第1の抗原結合部分が、前記Fab重鎖のC末端において前記Fcドメインの前記第1のサブユニットのN末端に融合しており、前記第3の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端において前記Fcドメインの前記第2のサブユニットのN末端に融合している、請求項47~49のいずれか一項に記載のT細胞二重特異性抗体、TKI、使用又は方法。
【請求項51】
前記T細胞二重特異性抗体の前記第1の抗原結合部分が、配列番号63のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%同一である重鎖可変領域配列、又は配列番号66のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号35のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%同一である軽鎖可変領域配列とを含み、及び/又は、前記T細胞二重特異性抗体の前記第2の抗原結合部分及び(存在する場合)第3の抗原結合部分が、配列番号73のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号74のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%同一である軽鎖可変領域配列とを含む、請求項47~50のいずれか一項に記載のT細胞二重特異性抗体、TKI、使用又は方法。
【請求項52】
前記T細胞二重特異性抗体の前記第1の抗原結合部分が、Fab軽鎖及びFab重鎖の可変領域が交換されているクロスオーバーFab分子であり、前記T細胞二重特異性抗体の前記第2の抗原結合部分及び(存在する場合)第3の抗原結合部分が、定常ドメインCLにおいて、124位のアミノ酸が、独立して、リジン(K)、アルギニン(R)、又はヒスチジン(H)で置換されており(Kabatによるナンバリング)、123位のアミノ酸が、独立して、リジン(K)、アルギニン(R)、又はヒスチジン(H)で置換されており(Kabatによるナンバリング)、定常ドメインCH1において、147位のアミノ酸が、独立して、グルタミン酸(E)、又はアスパラギン酸(D)で置換されており(Kabat EUインデックスによるナンバリング)、213位のアミノ酸が、独立して、グルタミン酸(E)、又はアスパラギン酸(D)で置換されている(Kabat EUインデックスによるナンバリング)従来のFab分子である、請求項47~51のいずれか一項に記載のT細胞二重特異性抗体、TKI、使用又は方法。
【請求項53】
前記T細胞二重特異性抗体の前記Fcドメインが、前記Fcドメインの前記第1のサブユニットと前記第2のサブユニットの会合を促進する修飾を含み、並びに/又は、前記Fcドメインが、Fc受容体への結合及び/若しくはエフェクター機能を低下させる1つ若しくは複数のアミノ酸置換を含む、請求項49~52のいずれか一項に記載のT細胞二重特異性抗体、TKI、使用又は方法。
【請求項54】
(前記T細胞二重特異性抗体によって治療される)前記疾患が、がん、特に前記T細胞二重特異性抗体の前記標的細胞抗原を発現するがんである、請求項1~53のいずれか一項に記載のT細胞二重特異性抗体、TKI、使用又は方法。
【請求項55】
前記がんが、
(i)癌胎児性抗原(CEA)発現がん、並びに/又は
(ii)結腸直腸がん、肺がん、膵臓がん、乳がん、及び胃がんからなる群から選択される、
請求項54に記載のT細胞二重特異性抗体、TKI、使用又は方法。
【請求項56】
前記がんが、
(i)ウィルムス腫瘍タンパク質(WT1)発現がん、及び/又は
(ii)血液がん、具体的には白血病、最も具体的には急性リンパ性白血病(ALL)若しくは急性骨髄性白血病(AML)である、
請求項54に記載のT細胞二重特異性抗体、TKI、使用又は方法。
【請求項57】
前記がんが、
(i)CD20発現がん、
(ii)B細胞がん、並びに/又は
(ii)非ホジキンリンパ腫(NHL)、急性リンパ性白血病(ALL)、慢性リンパ性白血病(CLL)、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、濾胞性リンパ腫(FL)、マントル細胞リンパ腫(MCL)及び辺縁帯リンパ腫(MZL)からなる群から選択される、
請求項54に記載のT細胞二重特異性抗体、TKI、使用又は方法。
【請求項58】
前記がんが、
(i)CD19発現がん、
(ii)B細胞がん、並びに/又は
(ii)非ホジキンリンパ腫(NHL)、急性リンパ性白血病(ALL)及び慢性リンパ性白血病(CLL)からなる群から選択される、
請求項54に記載のT細胞二重特異性抗体、TKI、使用又は方法。
【請求項59】
(前記T細胞二重特異性抗体によって治療される)前記疾患が、自己免疫疾患、具体的にはループス、より具体的には全身性エリテマトーデス(SLE)又はループス腎炎(LN)である、請求項47~53のいずれか一項に記載のT細胞二重特異性抗体、TKI、使用又は方法。
【請求項60】
先に記載されるとおりの発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、サイトカイン放出症候群などのT細胞二重特異性抗体に関連する有害作用の予防又は緩和に関する。具体的には、本発明は、ダサチニブなどのチロシンキナーゼ阻害剤を使用するそのような副作用の予防又は緩和に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
T細胞エンゲージャー又はT細胞二重特異性抗体(TCB)は、一方の結合部分で標的細胞抗原、例えば腫瘍細胞上に発現される腫瘍抗原を認識し、他方の結合部分でT細胞受容体を認識する二重特異性抗体である。TCBは、がん免疫療法として非常に有望である。CD3と標的細胞抗原との架橋は、T細胞の活性化、増殖及びサイトカイン放出を誘因し、標的細胞の死滅をもたらす(Bacac et al.,Clin Cancer Res(2016)22,3286-97;Bacac et al.,Oncoimmunology(2016)5,e1203498)。しかし、TCB治療は、オンターゲットオン腫瘍、オンターゲットオフ腫瘍の細胞傷害活性及びサイトカイン放出に起因する安全性の問題に関連することがある。TCBについて報告されている最も一般的な有害作用の1つはサイトカイン放出症候群(CRS)である。この複雑な臨床症候群は、発熱、低血圧及び呼吸不全を特徴とし、IL-6、TNF-α、IFN-γ及びIL-1βなどの炎症促進性サイトカインの放出に関連する(例えば、Shimabukuro-Vornhagen et al.,J Immunother Cancer(2018)6,56を参照のこと)。標的抗原が健康な細胞で発現される場合、オフ腫瘍の毒性が起こる可能性があり、これは潜在的に組織損傷をもたらし、患者の安全性を損なう可能性がある。これらの生命を脅かす毒性、例えばTCBによって誘導されるT細胞活性化及び増殖の薬理学的遮断を緩和するためのアプローチが大いに必要とされている。チロシンキナーゼ阻害剤ダサチニブは、CAR-T細胞の機能をオフにする強力な候補として同定された(Weber et al.,Blood Advances(2019)3,711-7;Mestermann et al.,Sci Transl Med(2019)11,eaau5907)。一方、ダサチニブとT細胞エンゲージャーであるブリナツモマブとの同時投与は、後者の活性を損なわないようであった(Chiaretti et al.,Blood(2019)134(Supplement 1),740;Foa et al.,N Engl J Med(2020)383,1613-1623)。
【発明を実施するための形態】
【0003】
発明の説明
本発明者らは、チロシンキナーゼ阻害剤、特にダサチニブが、T細胞エンゲージング療法によるオフ腫瘍毒性又はCRSを緩和するための薬理学的オン/オフスイッチとして使用され得ることを見出した。
【0004】
ヒト末梢血単核細胞による標的細胞殺傷のインビトロモデルを使用して、本発明者らは、T細胞の活性化及び増殖、標的細胞殺傷及びサイトカイン放出に対する4つの例示的なTCB(TCBを標的とする腫瘍表面の例としてのCEA-TCB、CD20-TCB及びCD19-TCB、並びにTCR様TCBの例としてのHLA-A2 WT-1-TCB)と組み合わせたダサチニブの可逆的効果を評価した。ダサチニブの用量応答を使用する殺傷アッセイを行って、TCB誘導性T細胞活性化が完全に阻害される閾値を定義した。さらに、本発明者らは、この閾値未満のダサチニブ濃度が、TCB誘導性サイトカイン放出を制御するために使用され得ることを提案する。これらの対抗効果は、臨床的に適切な用量であるダサチニブ濃度で得ることができ、CRS症候が標準的な介入で管理できない場合にTCB誘導性T細胞活性化の遮断を誘導するため、又はTNF若しくはIL-6R遮断の代替としてサイトカイン放出を減少させるためのいずれかに使用することができる。本実施例におけるデータは、ダサチニブが、CRSを含むTCB誘導性のオン及びオフ腫瘍毒性を緩和するために使用され得る、TCB媒介性T細胞活性化のための可逆的オン/オフスイッチとして作用し得ることを示す。
【0005】
したがって、第1の態様では、本発明は、個体における疾患の治療に使用するためのT細胞二重特異性抗体であって、該治療は、
(a)T細胞二重特異性抗体の個体への投与、及び
(b)T細胞二重特異性抗体の投与に関連する有害作用を予防又は緩和するためのチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)の個体への投与
を含む、T細胞二重特異性抗体を提供する。
【0006】
本発明はさらに、個体における疾患を治療するための医薬の製造におけるT細胞二重特異性抗体の使用であって、該治療は、
(a)T細胞二重特異性抗体の個体への投与、及び
(b)T細胞二重特異性抗体の投与に関連する有害作用を予防又は緩和するためのチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)の個体への投与
を含む、使用を提供する。
【0007】
本発明はまた、個体における疾患を治療するための方法であって、該方法は、
(a)T細胞二重特異性抗体の個体への投与、及び
(b)T細胞二重特異性抗体の投与に関連する有害作用を予防又は緩和するためのチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)の個体への投与
を含む、方法も提供する。
【0008】
別の態様では、本発明は、T細胞二重特異性抗体の個体への投与に関連する有害作用の予防又は緩和に使用するためのチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)を提供する。
【0009】
本発明はさらに、T細胞二重特異性抗体の個体への投与に関連する有害作用を予防又は緩和するための医薬の製造におけるチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)の使用を提供する。
【0010】
本発明はまた、T細胞二重特異性抗体の個体への投与に関連する有害作用を予防又は緩和するための方法であって、チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)の個体への投与を含む、方法も提供する。
【0011】
上記又は本明細書に記載の、使用のためのT細胞二重特異性抗体、使用のためのTKI、使用又は方法は、以下に記載する特徴のいずれかを、単独で又は組み合わせて組み込むことができる(文脈で別段の指示がない限り)。
【0012】
用語は、本明細書で特に定義されない限り、当技術分野で一般的に使用されるように本明細書で使用される。
【0013】
いくつかの態様では、TKIはLck及び/又はSrcキナーゼ阻害剤である。より具体的な態様では、TKIはダサチニブである。
【0014】
「ダサチニブ」は、チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)である。それは、慢性骨髄性白血病(CML)及び急性リンパ芽球性白血病(ALL)の特定の症例の治療のために、(とりわけ)Sprycel(登録商標)の商品名で販売されている。そのCAS番号、IUPAC名及び化学構造を以下に示す。
CAS番号:302962-49-8
IUPAC名:N-(2-クロロ-6-メチルフェニル)-2-[[6-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]-2-メチル-4-ピリミジニル]アミノ]-5-チアゾールカルボキサミド一水和物
化学構造:
【0015】
いくつかの態様では、TKI(の投与)は、T細胞二重特異性抗体の活性の阻害を引き起こす。
【0016】
T細胞二重特異性抗体の「活性」は、T細胞二重特異性抗体によって引き起こされる個体の体内の応答を指す。そのような活性には、T細胞、特にCD4+及び/又はCD8+T細胞の細胞応答(複数可)、例えば増殖、分化、サイトカイン分泌、細胞傷害性エフェクター分子放出、細胞傷害活性、及び活性化マーカーの発現、並びに/又は標的細胞、特にT細胞二重特異性抗体の標的細胞抗原を発現する標的細胞(例えば腫瘍細胞)に対する効果、例えば標的細胞の溶解が含まれ得る。
【0017】
いくつかの態様では、TKI(の投与)は、(T細胞二重特異性抗体によって誘導される)T細胞の活性化の阻害を引き起こす。
【0018】
本明細書で使用する「T細胞の活性化」又は「T細胞活性化」は、増殖、分化、サイトカイン分泌、細胞傷害性エフェクター分子の放出、細胞傷害性活性、及び活性化マーカーの発現から選択される、Tリンパ球、特にCD4+又はCD8+T細胞の1つ又は複数の細胞応答を指す。T細胞活性化を測定するために適したアッセイは、本技術分野で既知であり、本明細書に記載されている。特定の態様では、T細胞活性化は、T細胞上のCD25及び/又はCD69の発現を、例えばフローサイトメトリーによって測定することによって決定される。
【0019】
いくつかの態様では、TKI(の投与)は、(T細胞二重特異性抗体によって誘導される)T細胞の増殖の阻害を引き起こす。いくつかの態様では、TKI(の投与)は、(T細胞二重特異性抗体によって誘導される)T細胞の細胞傷害活性の阻害を引き起こす。
【0020】
T細胞の「細胞傷害活性」とは、Tリンパ球、特にCD4+又はCD8+T細胞による標的細胞の溶解(すなわち、死滅)の誘導を指す。細胞傷害活性は、典型的には、Tリンパ球からのグランザイムB及び/又はパーフォリンなどの細胞傷害性エフェクター分子の放出に関連するTリンパ球の脱顆粒を含む。
【0021】
いくつかの態様では、TKI(の投与)は、(T細胞二重特異性抗体によって誘導される)T細胞におけるT細胞受容体シグナル伝達の阻害を引き起こす。
【0022】
「T細胞受容体シグナル伝達」とは、Lckキナーゼなどのチロシンキナーゼを含むシグナル伝達分子を含む、TCRの結合(T細胞二重特異性抗体によるTCRのCD3εサブユニットの結合など)後のTリンパ球におけるT細胞受容体(TCR)の下流のシグナル伝達経路の活性を意味する。
【0023】
いくつかの態様では、TKI(の投与)は、(T細胞二重特異性抗体によって誘導される)T細胞によるサイトカイン分泌の阻害を引き起こす。いくつかの態様では、上記サイトカインは、IL-2、TNF-α、IFN-γ、IL-6及びIL-1βからなる群から選択される1つ又は複数のサイトカインである。いくつかの態様では、上記T細胞はCD8+T細胞又はCD4+細胞である。
【0024】
いくつかの態様では、上記阻害は可逆的である(すなわち、阻害されたパラメータのレベルが阻害前と同程度のレベルに戻るように、上記阻害を元に戻すことができる)。いくつかの態様では、上記阻害は、TKIが所与の期間(個体に)投与されなかった後(すなわち、TKIの投与を停止した後)、逆戻りする。いくつかの態様では、上記期間は、約1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、12時間、16時間、20時間、24時間、36時間、48時間、72時間、又は96時間である。
【0025】
上記阻害は部分的又は完全であり得る。いくつかの態様では、上記阻害は、臨床的に有意であり、かつ/又は統計学的に有意である。
【0026】
いくつかの態様では、TKI(の投与)は、個体における1つ又は複数のサイトカインの血清レベルの低下を引き起こす。いくつかの態様では、上記1つ又は複数のサイトカインは、IL-2、TNF-α、IFN-γ、IL-6及びIL-1βからなる群から選択される。いくつかの態様では、上記低下は、TKIが所与の時間量(個体に)投与されなかった後、持続される。いくつかの態様では、上記時間量は、約1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、12時間、16時間、20時間、24時間、36時間、48時間、72時間、又は96時間である。いくつかの態様では、上記低下は、T細胞二重特異性抗体のその後の投与後に持続される。特に、上記減少は、TKIの投与を停止した後/TKIのさらなる投与は行われない場合でさえ持続される。上記血清レベルの低下は、特に、TKIを投与していない個体(同じ個体を含む)の血清レベルと比較した場合である(すなわち、そのような場合、血清レベルは、TKIの投与なし/投与前の血清レベルと比較して低下する)。上記血清レベルの低下は、特に、T細胞二重特異性抗体を投与(特に第1の投与)したがTKIを投与していない個体(同じ個体を含む)の血清レベルと比較した場合である(すなわち、そのような場合、血清レベルは、T細胞二重特異性抗体の投与あり/投与後であるがTKIの投与なし/投与前の血清レベルと比較して低下する)。上記低下がなければ、血清レベル及び/又はサイトカイン分泌は特に、T細胞二重特異性抗体(の投与)との関連で上昇/増加し得る。いくつかの態様では、上記低下は、臨床的に有意であり、かつ/又は統計学的に有意である。
【0027】
いくつかの態様では、上記有害作用はサイトカイン放出症候群(CRS)である。
【0028】
「有害作用」は、(特に臨床試験では)「副作用」又は「有害事象」と呼ばれることもあり、本明細書では特にT細胞二重特異性抗体による、個体の治療における投薬から生じる有害かつ望ましくない効果である。
【0029】
「サイトカイン放出症候群」(「CRS」と略記される)は、治療剤(例えばT細胞二重特異性抗体)の投与中又は投与直後(例えば、1日以内)の対象の血液中のサイトカイン、例えば腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)、インターフェロンガンマ(IFN-γ)、インターロイキン-6(IL-6)、インターロイキン-2(IL-2)などのレベルの上昇を指し、有害な症候をもたらす。CRSは、治療剤に対する有害反応であり、治療剤の投与に適時関連する。これは、典型的には、治療剤の投与中又は投与直後、すなわち典型的には投与(典型的には注入)後24時間以内、主に最初の投与時に起こる。いくつかの例では、例えばCAR-T細胞の投与後、CRSは、CAR-T細胞の増殖時に、投与後、例えば数日後にのみ起こり得る。発生率及び重症度は、典型的には、その後の投与により低下する。症候は、症候性の不快感から致死的な事象までの範囲であり得、発熱、悪寒、めまい、高血圧、低血圧、低酸素症、呼吸困難、不穏状態、発汗、潮紅、皮膚発疹、頻脈、頻呼吸、頭痛、腫瘍疼痛、悪心、嘔吐及び/又は臓器不全を含み得る。
【0030】
いくつかの態様では、上記有害作用は、発熱、低血圧及び/又は低酸素症である。いくつかの態様では、上記有害作用は、1つ又は複数のサイトカインの血清レベルの上昇である。上記血清レベルの上昇は、特に、健康な個体の血清レベル、及び/又はT細胞二重特異性抗体を投与していない個体(同じ個体を含む)の血清レベルと比較した場合である(すなわち、そのような場合、血清レベルは、T細胞二重特異性抗体の投与なしの血清レベルと比較して上昇する)。いくつかの態様では、上記1つ又は複数のサイトカインは、IL-2、TNF-α、IFN-γ、IL-6及びIL-1βからなる群から選択される。
【0031】
いくつかの態様では、上記有害作用は、T細胞二重特異性抗体の標的細胞抗原を発現する非がん細胞へのT細胞二重特異性抗体の結合に関連する有害作用である(すなわち、オンターゲット/オフ腫瘍効果)。非がん細胞は、正常(すなわち、がん性ではない)細胞及び/又は健康な組織中(すなわち、腫瘍の外側)の細胞であり得る。いくつかの態様では、上記有害作用は、T細胞二重特異性抗体のその標的細胞抗原への結合とは無関係の有害作用である(すなわち、オフターゲット効果)。
【0032】
いくつかの態様では、TKIの投与は、(個体における)有害作用の(臨床的)発現時である。上記投与は、例えば、有害作用(すなわち、発熱などの副作用の発生臨床症候)の発現後約1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、12時間、16時間、20時間又は24時間以内であり得る。いくつかの態様では、TKIの投与は、(個体における)有害作用の(臨床的)発現に応答したものである。
【0033】
いくつかの態様では、TKIの投与は、T細胞二重特異性抗体の投与の前である。いくつかの態様では、TKIの投与は、T細胞二重特異性抗体の投与と同時である。いくつかの態様では、TKIの投与は、T細胞二重特異性抗体の投与の後である。TKIの投与がT細胞二重特異性抗体の投与前又は投与後である場合、そのようなTKIの投与は、例えば、T細胞二重特異性抗体の投与前又は投与後それぞれ約1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、12時間、16時間、20時間又は24時間以内であり得る。TKIの投与は、断続的又は連続的であってもよい。いくつかの態様では、TKIの投与は経口である。
【0034】
いくつかの態様では、TKIの投与は、T細胞二重特異性抗体の活性の阻害を引き起こすのに十分な用量である。いくつかの態様では、TKIの投与は、(T細胞二重特異性抗体によって誘導される)T細胞の活性化の阻害を引き起こすのに十分な用量である。いくつかの態様では、TKIの投与は、(T細胞二重特異性抗体によって誘導される)T細胞の増殖の阻害を引き起こすのに十分な用量である。いくつかの態様では、TKIの投与は、(T細胞二重特異性抗体によって誘導される)T細胞の細胞傷害活性の阻害を引き起こすのに十分な用量である。いくつかの態様では、TKIの投与は、(T細胞二重特異性抗体によって誘導される)T細胞におけるT細胞受容体シグナル伝達の阻害を引き起こすのに十分な用量である。いくつかの態様では、TKIの投与は、(T細胞二重特異性抗体によって誘導される)T細胞によるサイトカイン分泌の阻害を引き起こすのに十分な用量である。いくつかの態様では、上記サイトカインは、IL-2、TNF-α、IFN-γ、IL-6及びIL-1βからなる群から選択される1つ又は複数のサイトカインである。いくつかの態様では、上記T細胞はCD8+T細胞又はCD4+細胞である。上記阻害は部分的又は完全であり得る。いくつかの態様では、上記阻害は、臨床的に有意であり、かつ/又は統計学的に有意である。
【0035】
いくつかの態様では、TKIの投与は、個体における1つ又は複数のサイトカインの血清レベルの低下を引き起こすのに十分な用量である。いくつかの態様では、TKIの投与は、個体における1つ又は複数のサイトカインの血清レベルの低下を引き起こすのに十分な用量であるが、T細胞二重特異性抗体の活性の阻害を引き起こすのに不十分である。いくつかの態様では、TKIの投与は、個体における免疫細胞による1つも若しくは複数のサイトカインの分泌の減少を引き起こすのに十分な用量であるが、T細胞二重特異性抗体によって誘導されるT細胞の活性化及び/又はT細胞の細胞傷害活性の阻害を引き起こすには不十分である。いくつかの態様では、上記1つ又は複数のサイトカインは、IL-2、TNF-α、IFN-γ、IL-6及びIL-1βからなる群から選択される。いくつかの態様では、上記T細胞はCD8+T細胞又はCD4+細胞である。免疫細胞は、T細胞、マクロファージ、NK細胞などの様々な免疫細胞型を含み得る。
【0036】
血清レベル又はサイトカイン分泌の上記減少は、特に、TKIを投与していない個体(同じ個体を含む)の血清レベル又はサイトカイン分泌と比較した場合である(すなわち、そのような場合、血清レベルは、TKIの投与なし/投与前の血清レベルと比較して低下する)。血清レベル又はサイトカイン分泌の上記減少は、特に、T細胞二重特異性抗体を投与(特に第1の投与)したがTKIを投与していない個体(同じ個体を含む)の血清レベル又はサイトカイン分泌と比較した場合である(すなわち、そのような場合、血清レベルは、T細胞二重特異性抗体の投与あり/投与後であるがTKIの投与なし/投与前の血清レベルと比較して低下する)。上記低下がなければ、血清レベル及び/又はサイトカイン分泌は特に、T細胞二重特異性抗体(の投与)との関連で上昇/増加し得る。いくつかの態様では、上記低下は、臨床的に有意であり、かつ/又は統計学的に有意である。上記阻害は部分的又は完全であり得る。いくつかの態様では、上記阻害は、臨床的に有意であり、かつ/又は統計学的に有意である。
【0037】
いくつかの態様では、TKIの投与は有効用量でのものである。
【0038】
薬剤、例えば、TKI又はT細胞二重特異性抗体の「有効量」又は「有効用量」は、所望の治療結果又は予防結果を達成するために必要な薬用量及び所要期間で有効な量を指す。
【0039】
いくつかの態様では、TKIの投与は、約10mg、20mg、30mg、40mg、50mg、60mg、70mg、80mg、90mg、100mg、110mg、120mg、130mg、140mg、150mg、160mg、170mg、180mg、190mg、又は200mgの用量である。いくつかの態様では、TKIの投与は約20mgの用量である。いくつかの態様では、TKIの投与は約70mgの用量である。いくつかの態様では、TKIの投与は約80mgの用量である。いくつかの態様では、TKIの投与は約100mgの用量である。いくつかの態様では、TKIの投与は約140mgの用量である。
【0040】
いくつかの態様では、TKIの投与は約100mg以下の用量である。いくつかの態様では、TKIの投与は約20mgの用量である。いくつかの態様では、TKIの投与は約70mgの用量である。いくつかの態様では、TKIの投与は約80mgの用量である。いくつかの態様では、TKIの投与は約100mgの用量である。そのような態様では、TKIの用量は、個体において1つ又は複数のサイトカインの血清レベルの低下を引き起こすのに十分であるが、T細胞二重特異性抗体の活性の阻害を引き起こすには不十分であり得るか、又は、個体における免疫細胞による1つ若しくは複数のサイトカインの分泌の減少を引き起こすのに十分であるが、T細胞二重特異性抗体によって誘導されるT細胞の活性化及び/又はT細胞の細胞傷害活性の阻害を引き起こすには不十分である。
【0041】
いくつかの態様では、TKIの投与は毎日である。いくつかの態様では、TKIの投与は1日1回である。いくつかの態様では、TKIの投与は、約100mgの用量で1日1回である。いくつかの態様では、TKIの投与は、有害作用が持続する期間(すなわち、TKIの投与は、有害作用の発現から有害作用の減少又は消失まで)にわたるものである。いくつかの態様では、有害作用が予防又は緩和された後に、TKIの投与を停止する。いくつかの態様では、有害作用の減少又は消失後にTKIの投与を停止する。上記減少は特に、臨床的に有意であり、かつ/又は統計学的に有意である。いくつかの態様では、TKIの投与は、1回、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回又は10回、特に、T細胞二重特異性抗体による個体の治療の過程において1回、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回又は10回である。いくつかの態様では、TKIの投与は、1日間、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、7日間、8日間、9日間又は10日間である。いくつかの態様では、TKIの投与は、1日間、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、7日間、8日間、9日間又は10日間で1日1回である。いくつかの態様では、TKIの投与は、T細胞二重特異性抗体の第1の投与に付随する。該第1の投与は、特に、T細胞二重特異性抗体による個体の治療の過程におけるT細胞二重特異性抗体の第1の投与である。いくつかの態様では、TKIの投与は、T細胞二重特異性抗体の第1の投与と同時である。いくつかの態様では、TKIの投与は、T細胞二重特異性抗体の第1の投与の前である。いくつかの態様では、TKIの投与は、T細胞二重特異性抗体の第1の投与の後である。いくつかの態様では、TKIの投与は、T細胞二重特異性抗体の第1の投与の後であり、かつ、T細胞二重特異性抗体の第2の投与の前である。TKIの投与がT細胞二重特異性抗体の(第1の)投与の前又は後である場合、そのようなTKIの投与は、例えば、T細胞二重特異性抗体の投与前又は投与後それぞれ約1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、12時間、16時間、20時間又は24時間以内であり得る。
【0042】
いくつかの態様では、T細胞二重特異性抗体の投与は、TKIの投与よりも長い期間にわたる。いくつかの態様では、T細胞二重特異性抗体の投与は、TKIの投与が停止された後も継続される。いくつかの態様では、T細胞二重特異性抗体の投与は、単回投与又は反復投与である。T細胞二重特異性抗体による個体の治療の過程において、T細胞二重特異性抗体は1回又は複数回投与され得る。例えば、T細胞二重特異性抗体による個体の治療は、それぞれがT細胞二重特異性抗体の1回又は複数回の投与を含む複数の治療サイクルを含み得る。いくつかの態様では、T細胞二重特異性抗体の投与は、第1の投与及び第2の投与を含む。
【0043】
本発明における使用のために、T細胞二重特異性抗体は、良好な医療慣行と一致する様式で製剤化され、投薬され、投与されるであろう。これに関連して考慮すべき要因としては、治療される特定の障害、治療される特定の哺乳動物、個々の患者の臨床症状、障害の原因、薬剤の送達部位、投与方法、投与スケジュール、及び医療従事者に既知である他の要因が挙げられる。
【0044】
いくつかの態様では、T細胞二重特異性抗体の投与は有効用量でのものである。全身投与の場合、有効な用量は、インビトロアッセイ、例えば細胞培養アッセイから最初に概算することができる。次いで、細胞培養物で決定されるようなIC50を含む血中濃度範囲を達成するために、用量を動物モデルで配合してもよい。かかる情報を使用し、ヒトにおける有用な用量を更に正確に決定することができる。初期投薬量も、インビボデータから、例えば、動物モデルから、当該技術分野で周知の技術を用いて概算することができる。治療効果を維持するのに十分なT細胞二重特異性抗体の血漿濃度を与えるように、投薬量及び投薬間隔は、個々に調節されてもよい。注射による投与のための通常の患者投薬量は、約0.1~50mg/kg/日、典型的には約0.5~1mg/kg/日の範囲である。治療に有効な血漿濃度は、各日に複数回用量を投与することによって達成されてもよい。血漿中のレベルは、例えばHPLCによって測定することができる。
【0045】
有効量のT細胞二重特異性抗体が、疾患の予防又は治療のために投与され得る。治療される疾患の種類、T細胞二重特異性抗体の種類、疾患の重症度及び経過、個体の臨床症状、個体の病歴及び治療への応答、並びに主治医の裁量に基づいて、T細胞二重特異性抗体の適切な投与経路及び投与量が決定され得る。投薬は、投与が短時間であるか、又は慢性的であるかに部分的に応じて、任意の好適な経路によるもの、例えば、静脈内注射又は皮下注射等の注射によるものであり得る。単回又は様々な時点にわたる複数回投与、ボーラス投与、及びパルス輸注を含むが、これらに限定されない様々な投薬スケジュールが、本明細書では企図される。
【0046】
T細胞二重特異性抗体及びTKIは、任意の適切な経路で投与されてよく、同じ投与経路によって又は異なる投与経路によって投与されてもよい。いくつかの態様では、T細胞二重特異性抗体の投与は非経口的であり、特に静脈内投与である。
【0047】
いくつかの態様では、T細胞二重特異性抗体の投与は、個体へのT細胞二重特異性抗体の第1の投与、特に、T細胞二重特異性抗体による個体の治療の過程におけるT細胞二重特異性抗体の第1の投与である。
【0048】
いくつかの態様では、T細胞二重特異性抗体(の投与)は、T細胞の活性化を誘導する(すなわち、引き起こす、又は増加させる)。いくつかの態様では、T細胞二重特異性抗体(の投与)は、T細胞の増殖を誘導する。いくつかの態様では、T細胞二重特異性抗体(の投与)は、T細胞の細胞傷害活性を誘導する。いくつかの態様では、T細胞二重特異性抗体(の投与)は、T細胞におけるT細胞受容体シグナル伝達を誘導する。いくつかの態様では、T細胞二重特異性抗体(の投与)は、T細胞によるサイトカイン分泌を誘導する。いくつかの態様では、サイトカインは、IL-2、TNF-α、IFN-γ、IL-6及びIL-1βからなる群から選択される1つ又は複数のサイトカインである。いくつかの態様では、上記T細胞はCD8+T細胞又はCD4+細胞である。
【0049】
いくつかの態様では、T細胞二重特異性抗体の投与は、特にがんの部位(例えば、固形腫瘍がん内)で、T細胞、特に細胞傷害性T細胞の活性化をもたらす。上記活性化は、T細胞の増殖、T細胞の分化、T細胞によるサイトカイン分泌、T細胞からの細胞傷害性エフェクター分子放出、T細胞の細胞傷害性活動、及びT細胞による活性化マーカーの発現を含み得る。いくつかの態様では、T細胞二重特異性抗体の投与は、がんの部位(例えば、固形腫瘍がん内)で、T細胞、特に細胞傷害性T細胞の数の増加をもたらす。
【0050】
以下、本発明において使用され得るT細胞二重特異性抗体について説明する。
【0051】
「T細胞二重特異性抗体」とは、(典型的には、T細胞上に発現される抗原決定基、例えばCD3を介して)T細胞と、(典型的には、標的細胞上に発現される抗原決定基、例えばCEA、CD19、CD20又はHLA-A2/WT1を介して)標的細胞とに同時に結合することを含めて、結合することができる抗体を意味する。
【0052】
本発明による好ましい態様では、T細胞二重特異性抗体は、T細胞上の抗原決定基(すなわち、CD3などの第1の抗原)及び標的細胞上の抗原決定基(すなわち、第2の抗原、例えばCEA、CD19、CD20又はHLA-A2/WT1)に同時に結合することができる。いくつかの態様では、T細胞二重特異性抗体は、CD3と標的細胞抗原に同時結合することにより、T細胞と標的細胞を架橋することができる。さらにより好ましい態様では、そのような同時結合は、標的細胞、特に標的細胞抗原(例えば、CEA、CD19、CD20又はHLA-A2/WT1)発現腫瘍細胞の溶解を生じる。いくつかの態様では、このような同時結合は、T細胞の活性化を引き起こす。いくつかの態様では、そのような同時結合は、増殖、分化、サイトカイン分泌、細胞傷害性エフェクター分子放出、細胞傷害活性、及び活性化マーカーの発現の群から選択されるT細胞の細胞応答をもたらす。いくつかの態様では、標的細胞抗原への同時結合を伴わないT細胞二重特異性抗体のCD3への結合は、T細胞活性化を引き起こさない。いくつかの態様では、T細胞二重特異性抗体は、T細胞の細胞傷害活性を標的細胞に向け直すことができる。好ましい態様では、上記向け直しは、標的細胞によるMHC媒介性ペプチド抗原提示及び/又はT細胞の特異性とは無関係である。
【0053】
「二重特異性」との用語は、抗体が、少なくとも2つの別個の抗原決定基に結合することができることを意味する。典型的には、二重特異性抗体は、2つの抗原結合部位を含み、それぞれが異なる抗原決定基に対して特異的である。特定の態様では、二重特異性抗体は、2つの抗原決定基、特に、2つの別個の細胞で発現した2つの抗原決定基に同時に結合することができる。
【0054】
本明細書で使用される場合、「抗原決定基」との用語は、「抗原」及び「エピトープ」と同義であり、抗原結合部分-抗原複合体を形成する、抗原結合部分が結合するポリペプチド高分子上の部位(例えば、アミノ酸の連続伸長部又は異なる領域の非連続アミノ酸から構成される配座構成)を指す。有用な抗原決定基は、例えば、腫瘍細胞の表面上に、ウイルス感染した細胞の表面上に、他の罹患した細胞の表面上に、免疫細胞の表面上に、血清中で遊離して、及び/又は細胞外マトリックス(ECM)内に認めることができる。
【0055】
本明細書で使用される場合、「抗原結合部分」との用語は、抗原決定基に結合する(特異的に結合することを含む)ポリペプチド分子を指す。いくつかの態様では、抗原結合部分は、標的部位に、例えば、抗原決定基を有する特定の種類の腫瘍細胞に結合する部分(例えば、第2の抗原結合部分)に指向することができる。さらなる態様では、抗原結合部分は、その標的抗原、例えばT細胞受容体複合抗原を通してシグナル伝達を活性化することができる。抗原結合部分は、本明細書にさらに定義される抗体及びその断片を含む。特定の抗原結合部分は、抗体重鎖可変領域と抗体軽鎖可変領域とを含む、抗体の抗原結合ドメインを含む。特定の態様では、抗原結合部分は、本明細書でさらに定義され、当該技術分野で知られているような抗体定常領域を含んでいてもよい。有用な重鎖定常領域は、α、δ、ε、γ又はμの5つのアイソタイプのいずれかを含む。有用な軽鎖定常領域は、κ及びλの2つのアイソタイプのいずれかを含む。
【0056】
「特異的に結合する」とは、その結合が抗原選択性であり、望ましくない相互作用又は非特異的な相互作用とは判別することができることを意味する。本明細書における「結合する(bind)」又は「結合する(binding)」という用語は、一般に「特異的結合」を指す。抗原結合部分が特定の抗原決定基に結合する能力は、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)又は当業者には知られている他の技術、例えば、表面プラズモン共鳴(SPR)技術(例えば、BIAcore機器で分析される)(Liljeblad et al.,Glyco J 17,323-329(2000))、及び従来の結合アッセイ(Heeley,Endocr Res 28,217-229(2002))のいずれかによって測定することができる。いくつかの態様では、無関係なタンパク質に対する抗原結合部分の結合度は、例えばSPRによって測定される抗原に対する抗原結合部分の結合の約10%未満である。特定の態様では、抗原に結合する抗原結合部分、又はこの抗原結合部分を含む抗体は、≦1μM、≦100nM、≦10nM、≦1nM、≦0.1nM、≦0.01nM、又は≦0.001nM(例えば、10-8M以下、例えば、10-8M~10-13M、例えば、10-9M~10-13M)の解離定数(K)を有する。
【0057】
「親和性」は、分子の単一の結合部位(例えば、受容体)と、その結合対(例えば、リガンド)との間の非共有結合性相互作用の合計強度を指す。特に示されない限り、本明細書で使用される場合、「結合親和性」は、結合対(例えば、抗原結合部分と抗原、又は受容体とそのリガンド)のメンバー間の1:1相互作用を反映する固有の結合親和性を指す。分子Xの結合対Yに対する分子Xの親和性は概して、解離定数(K)によって表すことができ、解離速度定数と結合速度定数(それぞれkoff及びkon)の比である。したがって、速度定数の比率が同じままである限り、等価の親和性は、異なる速度定数を含み得る。アフィニティは、本明細書に記載するものを含め、当該技術分野で公知の十分に確立された方法によって測定することができる。親和性を測定するための特定の方法は、表面プラズモン共鳴(SPR)である。
【0058】
「CD3」は、別途明記しない限り、霊長類(例えばヒト)、非ヒト霊長類(例えばカニクイザル)及び齧歯類(例えば、マウス及びラット)等の哺乳動物を含む任意の脊椎動物源由来の任意のネイティブCD3を指す。この用語は、「完全長」の、未処理CD3、及び、細胞内での処理によりもたらされる任意の形態のCD3を包含する。この用語は、CD3の天然に存在するバリアント、例えば、スプライス・バリアント又は対立遺伝子バリアントも包含する。いくつかの態様では、CD3は、ヒトCD3、特にヒトCD3のイプシロンサブユニット(CD3ε)である。ヒトCD3εのアミノ酸配列は、UniProt(www.uniprot.org)受託番号P07766(バージョン144)、又はNCBI(www.ncbi.nlm.nih.gov/)RefSeq NP_000724.1に示されている。配列番号25も参照のこと。カニクイザル[Macaca fascicularis]CD3εのアミノ酸配列は、NCBI GenBank番号BAB71849.1に示されている。配列番号26も参照のこと。
【0059】
「標的細胞抗原」は、本明細書で使用される場合、標的細胞、例えば、がん細胞又は(「腫瘍細胞抗原」の場合)腫瘍間質細胞といった腫瘍内の細胞の表面に提示された抗原決定基を意味する。好ましくは、標的細胞抗原は、CD3ではない、及び/又は異なる細胞上に発現されたCD3以外である。いくつかの態様では、標的細胞抗原はCEA、特にヒトCEAである。他の態様では、標的細胞抗原はHLA-A2/WT1、特にヒトHLA-A2/WT1である。いくつかの態様では、標的細胞抗原はCD20、特にヒトCD20である。いくつかの態様では、標的細胞抗原はCD19、特にヒトCD19である。
【0060】
本明細書で使用される場合、抗原結合部分等に関する「第1」、「第2」又は「第3」という用語は、各タイプの部分が1つより多く存在するときに区別の便宜のために使用される。これらの用語の使用は、明示的に示されていない限り、二重特異性抗体の特定の順序又は配向を与えることを意図していない。
【0061】
本明細書で使用される「価数」という用語は、抗体内の特定数の抗原結合部位の存在を示す。したがって、「抗原に対する一価の結合」という用語は、抗体内の抗原に特異的な1つの(及び1つを超えない)抗原結合部位の存在を示す。
【0062】
「抗体」という用語は、本明細書では最も広い意味で使用され、限定されるものではないが、それらが所望の抗原結合活性を呈する限り、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、及び抗体断片を含めた、様々な抗体構造を包含する。
【0063】
「完全長抗体」、「インタクト抗体」及び「全抗体」との用語は、ネイティブ抗体構造に実質的に類似した構造を有する抗体を指すために、本明細書で相互に置き換え可能に用いられる。
【0064】
「抗体断片」は、インタクト抗体が結合する抗原を結合するインタクト抗体の一部を含むインタクト抗体以外の分子を指す。抗体断片の例としては、限定されないが、Fv、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)、ダイアボディ、直鎖抗体、一本鎖抗体分子(例えば、scFv)、及びシングルドメイン抗体が挙げられる。ある特定の抗体断片の総説としては、Hudson et al.,Nat Med 9,129-134(2003)を参照されたい。scFv断片の総説としては、例えば、Plueckthun,The Pharmacology of Monoclonal Antibodies,vol.113,Rosenburg and Moore eds.,Springer-Verlag,New York,pp.269-315(1994)を参照されたい。また、国際公開第93/16185号及び米国特許第5,571,894号及び同第5,587,458号を参照されたい。サルベージ受容体結合エピトープ残基を含み、インビボ半減期が長くなったFab及びF(ab’)断片の説明については、米国特許第5,869,046号を参照のこと。ダイアボディは、二価又は二重特異性であり得る2つの抗原結合部位を有する抗体断片である。例えば、欧州特許第404,097号、国際公開第1993/01161号、Hudson et al.,Nat Med 9,129-134(2003)、及びHollinger et al.,Proc Natl Acad Sci USA 90,6444-6448(1993)を参照されたい。トリアボディ及びテトラボディも、Hudson et al.,Nat Med 9,129-134(2003)に説明されている。単一ドメイン抗体は、抗体の重鎖可変ドメインの全部若しくは一部又は軽鎖可変ドメインの全部若しくは一部を含む抗体断片である。特定の態様では、単一ドメイン抗体は、ヒト単一ドメイン抗体である(Domantis,Inc.,Waltham,MA;例えば、米国特許第6,248,516B1号を参照のこと)。抗体断片は、限定されないが、本明細書に記載されるように、インタクト抗体のタンパク質分解による消化、及び組換え宿主細胞(例えば、大腸菌又はファージ)による産生を含め、種々の技術によって作られてもよい。
【0065】
「可変領域」又は「可変ドメイン」とは、抗体と抗原との結合に関与する、抗体の重鎖又は軽鎖のドメインである。天然の抗体の重鎖及び軽鎖の可変ドメイン(それぞれVH及びVL)は、一般に、類似の構造を有しており、各ドメインは、4つの保存されたフレームワーク領域(FR)と、3つの超可変領域(HVR)とを含む。例えば、Kindt et al.,Kuby Immunology,6th ed.,W.H.Freeman and Co.、91頁(2007)を参照されたい。単一のVH又はVLドメインは、抗原結合特異性を付与するために充分であり得る。可変領域配列と組み合わせて本明細書で使用される場合、「Kabatナンバリング」は、Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991)によって記載されるナンバリングシステムを指す。
【0066】
本明細書で使用される場合、重鎖及び軽鎖のすべての定常領域及びドメインのアミノ酸位置は、Kabat,et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th ed.,Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991)に記載されるKabatナンバリングシステムに従ってナンバリングされ、本明細書では「Kabatによるナンバリング」又は「Kabatナンバリング」と呼ばれる。特定的には、Kabatナンバリングシステム(Kabat,et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest、5th ed.、Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda、MD(1991)の647~660頁を参照されたい)を、κ及びλアイソタイプの軽鎖定常ドメインCLに使用し、Kabat EUインデックスナンバリングシステム(661~723頁を参照されたい)を、重鎖定常ドメイン(CH1、ヒンジ、CH2及びCH3)に使用し、この場合には、「Kabat EUインデックスによるナンバリング」と言及することによって更に明確にしている。
【0067】
本明細書で使用する場合、用語「超可変領域」又は「HVR」とは、配列内で超可変であり、抗原結合特異性を決定する、抗体可変ドメインの領域、例えば「相補性決定領域」(CDR)のそれぞれを意味する。一般的に、抗体は、6つのCDRを含み、VHに3つ(HCDR1、HCDR2、HCDR3)、VLに3つ(LCDR1、LCDR2、LCDR3)含む。本明細書における例示的なCDRとしては、
(a)アミノ酸残基26~32(L1)、50~52(L2)、91~96(L3)、26~32(H1)、53~55(H2)、及び96~101(H3)で生じる超可変ループ(Chothia and Lesk,J.Mol.Biol.196:901-917(1987))、
(b)アミノ酸残基24-34(L1)、50-56(L2)、89-97(L3)、31-35b(H1)、50-65(H2)及び95-102(H3)に生じるCDR(Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991));並びに
(c)アミノ酸残基27c-36(L1)、46-55(L2)、89-96(L3)、30-35b(H1)、47-58(H2)及び93-101(H3)で生じる抗原接触(MacCallum et al.J.Mol.Biol.262:732-745(1996))が挙げられる。
【0068】
特に指示がない限り、CDRは、上記Kabat et al.に従い決定される。当業者は、CDRの表記は、上記Chothia、上記McCallum、又は、任意の他の、科学的に認可された命名システムに従い決定することができることを理解するであろう。
【0069】
「フレームワーク」又は「FR」は、超可変領域(HVR)残基以外の可変ドメイン残基を指す。可変ドメインのFRは、一般に、4つのFRドメイン:FR1、FR2、FR3、及びFR4からなる。したがって、HVR及びFR配列は、一般的に、VH(又はVL)中において以下の順序で現れる:FR1-H1(L1)-FR2-H2(L2)-FR3-H3(L3)-FR4。
【0070】
抗体又は免疫グロブリンの「クラス」は、抗体又は免疫グロブリンの重鎖が保有する定常ドメイン又は定常領域の種類を指す。抗体には5つの主要なクラス:IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgMがあり、これらのうちのいくつかは、下位クラス(アイソタイプ)、例えば、IgG、IgG、IgG、IgG、IgA、及びIgAに更に分けることができる。免疫グロブリンの異なるクラスに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれα、δ、ε、γ、及びμと呼ばれる。
【0071】
「Fab分子」は、免疫グロブリンの重鎖(「Fab重鎖」)のVHドメイン及びCH1ドメインと、免疫グロブリンの軽鎖(「Fab軽鎖」)のVLドメイン及びCLドメインとからなるタンパク質を指す。
【0072】
「クロスオーバー」Fab分子(「Crossfab」とも呼ばれる)は、Fab重鎖と軽鎖の可変ドメイン又は定常ドメインが交換された(すなわち、互いに置き換わった)Fab分子を意味し、すなわち、クロスオーバーFab分子は、軽鎖可変ドメインVL及び重鎖定常ドメイン1 CH1(VL-CH1、N末端からC末端方向に)で構成されるペプチド鎖と、重鎖可変ドメインVH及び軽鎖定常ドメインCL(VH-CL、N末端からC末端方向に)で構成されるペプチド鎖とを含む。明確性のために、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインが交換されているクロスオーバーFab分子において、重鎖定常ドメイン1 CH1を含むペプチド鎖は、本明細書では(クロスオーバー)Fab分子の「重鎖」と呼ばれる。逆に、Fab軽鎖とFab重鎖の定常ドメインが交換されているクロスオーバーFab分子において、重鎖可変ドメインVHを含むペプチド鎖は、本明細書では(クロスオーバー)Fab分子の「重鎖」と呼ばれる。
【0073】
これとは対照的に、「従来の」Fab分子は、その天然のフォーマットのFab分子、すなわち、重鎖可変ドメイン及び定常ドメインで構成される重鎖(VH-CH1、N末端からC末端方向に)と、軽鎖可変ドメイン及び定常ドメインで構成される軽鎖(VL-CL、N末端からC末端方向に)とを含むものを意味する。
【0074】
「免疫グロブリン分子」という用語は、天然に存在する抗体の構造を有するタンパク質を指す。例えば、IgGクラスの免疫グロブリンは、約150,000ダルトンのヘテロテトラマー糖タンパク質であり、ジスルフィド結合した2つの軽鎖と2つの重鎖で構成される。N末端からC末端に向かって、それぞれの重鎖は、可変重鎖ドメイン又は重鎖可変領域とも呼ばれる可変ドメイン(VH)と、その後に重鎖定常領域とも呼ばれる3つの定常ドメイン(CH1、CH2及びCH3)と、を有する。同様に、N末端からC末端に向かって、それぞれの軽鎖は、可変軽鎖ドメイン又は軽鎖可変領域とも呼ばれる可変ドメイン(VL)と、その後に軽鎖定常領域とも呼ばれる定常軽鎖(CL)ドメインと、を有する。免疫グロブリンの重鎖は、α(IgA)、δ(IgD)、ε(IgE)、γ(IgG)又はμ(IgM)と呼ばれる5種類の1つに割り当てられてもよく、このいくつかは、例えば、γ(IgG)、γ(IgG)、γ(IgG)、γ(IgG)、α(IgA)及びα(IgA)等の更なるサブタイプに分けられてもよい。免疫グロブリンの軽鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づき、カッパ(κ)及びラムダ(λ)と呼ばれる2種類のうちの1つに割り当てられてもよい。免疫グロブリンは、免疫グロブリンヒンジ領域を介して接続する、2つのFab分子とFcドメインとから本質的になる。
【0075】
本明細書における「Fcドメイン」又は「Fc領域」という用語は、定常領域の少なくとも一部を含有する免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するために使用される。この用語は、天然配列Fc領域及びバリアントFc領域を含む。IgG重鎖のFc領域の境界は、わずかに変動してもよいが、ヒトIgG重鎖Fc領域は通常、Cys226から、又はPro230から、重鎖のカルボキシ末端まで伸長するよう規定されている。しかしながら、宿主細胞によって産生される抗体は、重鎖のC末端から1つ又は複数、特に1つ又は2つのアミノ酸の翻訳後開裂を受けてもよい。したがって、完全長重鎖をコードする特定の核酸分子の発現によって、宿主細胞によって産生する抗体は、完全長重鎖を含んでいてもよく、又は完全長重鎖の開裂したバリアントを含んでいてもよい。これは、重鎖の最終的な2つのC末端アミノ酸がグリジン(G446)及びリジン(K447、Kabat EUインデックスによるナンバリング)である場合であってもよい。したがって、Fc領域のC末端リジン(Lys447)、又はC末端グリジン(Gly446)及びリジン(K447)が存在してもよく、又は存在していなくてもよい。本明細書で特に明記されない限り、Fc領域又は定常領域におけるアミノ酸残基のナンバリングは、Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD,1991(上も参照されたい)に記載されるような、EUナンバリングシステム(EUインデックスとも呼ばれる)に従う。本明細書で使用される場合、Fcドメインの「サブユニット」とは、二量体のFcドメインを形成する2つのポリペプチドの1つ、すなわち、免疫グロブリン重鎖のC末端定常領域を含み、安定した自己会合が可能なポリペプチドを意味する。例えば、IgG Fcドメインのサブユニットは、IgG CH2及びIgG CH3定常ドメインを含む。
【0076】
「Fcドメインの第1のサブユニット及び第2のサブユニットの会合を促進する修飾」は、ホモ二量体を形成するためのFcドメインサブユニットを含むペプチドと同一のポリペプチドとの会合を減らすか又は防ぐ、ペプチド骨格の操作又はFcドメインサブユニットの翻訳後修飾である。会合を促進する修飾は、本明細書で使用される場合、特に、会合することが望ましい2つのFcドメインサブユニット(すなわち、Fcドメインの第1のサブユニット及び第2のサブユニット)それぞれに対し、別個の修飾を含み、修飾は、2つのFcドメインサブユニットの会合を促進するように、互いに相補性である。例えば、会合を促進する修飾は、それぞれ立体的又は静電的に望ましい会合を行うように、Fcドメインサブユニットの片方又は両方の構造又は電荷を変えてもよい。したがって、(ヘテロ)二量化は、第1のFcドメインサブユニットを含むポリペプチドと、第2のFcドメインサブユニットを含むポリペプチドとの間で起こり、それぞれのサブユニットに融合する更なる構成要素(例えば、抗原結合部分)が同じではないという意味で、同一ではない場合がある。いくつかの態様では、会合を促進する修飾は、Fcドメイン内のアミノ酸変異、具体的には、アミノ酸置換を含む。特定の態様では、会合を促進する修飾は、Fcドメインの2つのサブユニットのそれぞれに、別個のアミノ酸変異、具体的にはアミノ酸置換を含む。
【0077】
「エフェクター機能」という用語は、抗体のFc領域に帰属可能な生体活性を指し、抗体アイソタイプによって変わる。抗体エフェクター機能の例としては:C1q結合及び補体依存性細胞傷害(CDC)、Fc受容体結合、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)、抗体依存性細胞食作用(ADCP)、サイトカイン分泌、抗原提示細胞によるイムノコンジュゲート媒介性抗原取り込み、細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体)の下方制御、及びB細胞活性化が挙げられる。
【0078】
参照ポリペプチド配列に対する「アミノ酸配列の同一性パーセント(%)」は、配列をアラインメントし、最大の配列同一性パーセントを達成するために、必要ならばギャップを導入した後、配列同一性の一部として任意の保存的置換を考慮せずに、参照ポリペプチド配列中のアミノ酸残基と同一である、候補配列におけるアミノ酸残基の割合であると定義される。アミノ酸配列同一性パーセントを決定するためのアラインメントは、当該技術分野の技術の範囲内にある種々の様式で、例えば、公的に入手可能なコンピュータソフトウェア、例えば、BLAST、BLAST-2、Clustal W、Megalign(DNASTAR)ソフトウェア又はFASTAプログラムパッケージを用いて達成することができる。当業者であれば、比較される配列の全長にわたって最大のアラインメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、配列のアラインメントのための適切なパラメータを決定することができる。しかしながら、本発明の目的のために、アミノ酸配列同一性%の値は、FASTAパッケージバージョン36.3.8cのggsearchプログラム用い、又はその後のBLOSUM50比較マトリックスを用いて作成される。FASTAプログラムパッケージは、W.R.Pearson and D.J.Lipman(1988)、「Improved Tools for Biological Sequence Analysis」、PNAS 85:2444-2448;W.R.Pearson(1996)「Effective protein sequence comparison」Meth.Enzymol.266:227-258;及びPearson et.al.(1997)Genomics 46:24-36)によるものであり、http://fasta.bioch.virginia.edu/fasta_www2/fasta_down.shtmlから公的に入手可能である。あるいは、http://fasta.bioch.virginia.edu/fasta_www2/index.cgiでアクセス可能な公開サーバを使用して、ggsearch(グローバル・タンパク質:タンパク質)プログラム及びデフォルト・オプション(BLOSUM50;open:-10;ext:-2;Ktup=2)を使用して配列を比較し、ローカルではなくグローバルなアライメントを確実に実行することができる。アミノ酸同一性パーセントは、アウトプットアラインメントヘッダーで与えられる。
【0079】
「活性化Fc受容体」は、抗体のFcドメインによる連結の後に、エフェクター機能を発揮するために受容体を含む細胞を刺激するシグナル伝達事象を誘発するFc受容体である。ヒト活性化Fc受容体としては、FcγRIIIa(CD16a)、FcγRI(CD64)、FcγRIIa(CD32)及びFcαRI(CD89)が挙げられる。
【0080】
「結合の低減」、例えば、Fc受容体に対する結合の低減は、例えば、SPRによって測定される場合、それぞれの相互作用についての親和性の低下を指す。明確性のために、この用語は、親和性がゼロまで低下する(又は分析方法の検出限界未満になる)こと、すなわち、相互作用が完全に失われることも含む。逆に、「結合上昇」は、個々の相互作用に対する結合親和性における上昇を指す。
【0081】
「融合した」が意味するのは、構成要素(例えばFab分子及びFcドメインサブユニット)が、ペプチド結合によって直接的に又は1つ若しくは複数のペプチドリンカーを介して連結されていることである。
【0082】
特定の態様では、T細胞二重特異性抗体はCD3及び標的細胞抗原に結合する。したがって、いくつかの態様では、T細胞二重特異性抗体は、CD3に結合する抗原結合部分及び標的細胞抗原に結合する抗原結合部分を含む。
【0083】
いくつかの態様では、第1の抗原結合部分及び/又は第2の抗原結合部分は、Fab分子である。いくつかの態様では、第1の抗原結合部分は、Fab軽鎖及びFab重鎖の可変領域又は定常領域のいずれかが交換されているクロスオーバーFab分子である。そのような態様では、第2の抗原結合部分は、好ましくは、従来のFab分子である。
【0084】
T細胞二重特異性抗体の第1の抗原結合部分及び第2の抗原結合部分が両方ともFab分子であり、抗原結合部分の1つ(特に、第1の抗原結合部分)において、Fab軽鎖及びFab重鎖の可変ドメインVL及びVHが互いに置き換わっているいくつかの態様では、
i)第1の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて、位置124のアミノ酸は、正に帯電したアミノ酸によって置換されており(Kabatによるナンバリング)、第1の抗原結合部分の定常ドメインCH1において、位置147のアミノ酸又は位置213のアミノ酸は、負に帯電したアミノ酸によって置換されているか(Kabat EUインデックスによるナンバリング)、又は
ii)第2の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて、位置124のアミノ酸は、正に帯電したアミノ酸によって置換されており(Kabatによるナンバリング)、第2の抗原結合部分の定常ドメインCH1において、位置147のアミノ酸又は位置213のアミノ酸は、負に帯電したアミノ酸によって置換されている(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。
【0085】
T細胞二重特異性抗体は、i)及びii)に記述されている修飾を両方とも含むことはない。VH/VLが置き換わっている抗原結合部分の定常ドメインCL及びCH1は、互いに置き換わっていない(すなわち、交換されていないままである)。
【0086】
より具体的な態様では、
i)第1の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて、位置124のアミノ酸は、独立して、リジン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)によって置換されており(Kabatによるナンバリング)、第1の抗原結合部分の定常ドメインCH1において、位置147のアミノ酸又は位置213のアミノ酸は、独立して、グルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)によって置換されているか(Kabat EUインデックスによるナンバリング)、又は
ii)第2の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて、位置124のアミノ酸は、独立して、リジン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)によって置換されており(Kabatによるナンバリング)、第2の抗原結合部分の定常ドメインCH1において、位置147のアミノ酸又は位置213のアミノ酸は、独立して、グルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)によって置換されている(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。
【0087】
いくつかの態様では、第2の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて、位置124のアミノ酸は、独立して、リジン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)によって置換されており(Kabatによるナンバリング)、第2の抗原結合部分の定常ドメインCH1において、位置147のアミノ酸又は位置213のアミノ酸は、独立して、グルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)によって置換されている(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。
【0088】
さらなる態様では、第2の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて、位置124のアミノ酸は、独立して、リジン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)で置換されており(Kabatによるナンバリング)、第2の抗原結合部分の定常ドメインCH1において、位置147のアミノ酸は、独立して、グルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)で置換されている(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。
【0089】
好ましい態様では、第2の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて、位置124のアミノ酸は、独立して、リジン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)で置換されており(Kabatによるナンバリング)、位置123のアミノ酸は、独立して、リジン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)で置換されており(Kabatによるナンバリング)、第2の抗原結合部分の定常ドメインCH1において、位置147のアミノ酸は、独立して、グルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)で置換されており(Kabat EUインデックスによるナンバリング)、位置213のアミノ酸は、独立して、グルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)で置換されている(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。
【0090】
いくつかの態様では、第2の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて、位置124のアミノ酸は、リジン(K)で置換されており(Kabatによるナンバリング)、位置123のアミノ酸は、リジン(K)で置換されており(Kabatによるナンバリング)、第2の抗原結合部分の定常ドメインCH1において、位置147のアミノ酸は、グルタミン酸(E)で置換されており(Kabat EUインデックスによるナンバリング)、位置213のアミノ酸は、グルタミン酸(E)で置換されている(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。
【0091】
いくつかの態様では、第2の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて、位置124のアミノ酸は、リジン(K)で置換されており(Kabatによるナンバリング)、位置123のアミノ酸は、アルギニン(R)で置換されており(Kabatによるナンバリング)、第2の抗原結合部分の定常ドメインCH1において、位置147のアミノ酸は、グルタミン酸(E)で置換されており(Kabat EUインデックスによるナンバリング)、位置213のアミノ酸は、グルタミン酸(E)で置換されている(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。
【0092】
特定の態様では、上の態様に係るアミノ酸置換が、第2の抗原結合部分の定常ドメインCL及び定常ドメインCH1でなされる場合、第2の抗原結合部分の定常ドメインCLは、カッパアイソタイプである。
【0093】
いくつかの態様では、第1の抗原結合部分及び第2の抗原結合部分は、任意にペプチドリンカーを介して、互いに融合されている。
【0094】
いくつかの態様では、第1の抗原結合部分及び第2の抗原結合部分は、それぞれFab分子であり、(i)第2の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端で、第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合されているか、又は(ii)第1の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端で、第2の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合されているか、のいずれかである。
【0095】
いくつかの態様では、T細胞二重特異性抗体は、CD3に対する一価の結合を提供する。
【0096】
特定の態様では、T細胞二重特異性抗体は、CD3に結合する単一の抗原結合部分と、標的細胞抗原に結合する2つの抗原結合部分とを含む。よって、いくつかの態様では、T細胞二重特異性抗体は、標的抗原に結合する、第3の抗原結合部分、特にFab分子、より具体的には従来のFab分子を含む。第3の抗原結合部分は、第2の抗原結合部分に関して本明細書に記載される特徴のすべて(例えば、CDR配列、及び/又は可変領域配列)を、単独で又は組み合わせて組み込むことができる。いくつかの態様では、第3の抗原結合部分は、第1の抗原結合部分と同一である(例えば、従来のFab分子でもあり、同じアミノ酸配列を含む)。
【0097】
特定の態様では、T細胞二重特異性抗体は、第1のサブユニット及び第2のサブユニットから構成されるFcドメインをさらに含む。いくつかの態様では、Fcドメインは、IgG Fcドメインである。特定の態様では、FcドメインはIgG Fcドメインである。別の態様では、Fcドメインは、IgG Fcドメインである。より具体的な態様では、Fcドメインは、S228位(Kabat EUインデックスナンバリング)にアミノ酸置換、特にアミノ酸置換S228Pを含むIgG Fcドメインである。このアミノ酸置換は、インビボでのIgG抗体のFabアーム交換を低減する(Stubenrauch et al.,Drug Metabolism and Disposition 38,84-91(2010)を参照されたい)。さらに具体的な態様では、Fcドメインは、ヒトFcドメインである。特定の好ましい態様では、Fcドメインは、ヒトIgG Fcドメインである。ヒトIgG Fc領域の例示的配列は、配列番号27に提示されている。
【0098】
第1の抗原結合部分、第2の抗原結合部分、及び、存在する場合、第3の抗原結合部分が、それぞれFab分子であるいくつかの態様では、(a)(i)第2の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端で、第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合され、第1の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端で、Fcドメインの第1のサブユニットのN末端に融合されているか、又は(ii)第1の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端で、第2の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合され、第2の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端で、Fcドメインの第1のサブユニットのN末端に融合されているかのいずれか一方であり、且つ、(b)存在する場合、第3の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端で、Fcドメインの第2のサブユニットのN末端に融合されている。
【0099】
いくつかの態様では、T細胞二重特異性抗体は、第1の抗原結合部分、第2の抗原結合部分及び第3の抗原結合部分(特にFab分子)、第1のサブユニット及び第2のサブユニットで構成されるFcドメイン、並びに任意に、1つ又は複数のペプチドリンカーから本質的になる。
【0100】
T細胞二重特異性抗体の構成要素は、直接的に、又は好ましくは1つ又は複数の適切なペプチドリンカーを介して、互いに融合していてもよい。Fab分子の融合が、FcドメインのサブユニットのN末端へのものである場合、それは典型的には免疫グロブリンヒンジ領域を介するものである。
【0101】
抗原結合部分は、Fcドメインに又は互いに、直接的に又は1個又は複数個のアミノ酸、典型的には約2~20個のアミノ酸を含むペプチドリンカーを介して融合していてもよい。ペプチドリンカーは、当該技術分野に知られており、本明細書に説明されている。適切な非免疫原性ペプチドリンカーには、例えば(GS)、(SG、(GS)、G(SG又は(GS)ペプチドリンカーが含まれる。「n」は、一般的に、1~10、典型的には2~4の整数である。いくつかの態様では、上記ペプチドリンカーは、少なくとも5アミノ酸長、いくつかの態様では5~100、更なる態様では10~50アミノ酸長を有する。いくつかの態様では、上記ペプチドリンカーは、(GxS)又は(GxS)であり、G=グリジン、S=セリン、及び(x=3、n=3、4、5又は6、及びm=0、1、2又は3)又は(x=4、n=1、2、3、4又は5及びm=0、1、2、3、4又は5)であり、いくつかの態様では、x=4及びn=2又は3、さらなる態様では、x=4及びn=2、なおさらなる態様では、x=4、n=1及びm=5である。いくつかの態様では、上記ペプチドリンカーは(GS)である。他の態様では、上記ペプチドリンカーはGSGである。加えて、リンカーは、免疫グロブリンヒンジ領域(の一部)を含んでいてもよい。特に、Fab分子がFcドメインサブユニットのN末端に融合する場合、免疫グロブリンヒンジ領域又はその一部を介して、さらなるペプチドリンカーを伴い又は伴うことなく融合していてもよい。
【0102】
特定の態様では、Fcドメインは、Fcドメインの第1のサブユニット及び第2のサブユニットの会合を促進する修飾を含む。ヒトIgG Fcドメインの2つのサブユニット間の最も長いタンパク質-タンパク質相互作用の部位は、CH3ドメインの中にある。したがって、いくつかの態様では、上記修飾はFcドメインのCH3ドメイン内にある。
【0103】
具体的な態様では、Fcドメインの第1のサブユニットと第2のサブユニットとの会合を促進する上記修飾は、いわゆる「ノブ・イントゥ・ホール」修飾であり、Fcドメインの2つのサブユニットの一方に「ノブ」修飾を、Fcドメインの2つのサブユニットのもう一方に「ホール」修飾を含む。ノブ・イントゥ・ホール技術は、例えば、米国特許第5,731,168号、米国特許第7,695,936号、Ridgway et al.,Prot Eng 9,617-621(1996)及びCarter,J Immunol Meth 248,7-15(2001)に記載される。一般的に、この方法は、第1のポリペプチドの界面にある突起(「ノブ」)と、第2のポリペプチドの界面にある対応する空洞(「ホール」)とを導入することを含み、その結果、突起が、ヘテロ二量体形成を促進し、ホモ二量体形成を妨害するように空洞内に位置することができる。突起は、第1のポリペプチドの界面からの小さなアミノ酸側鎖を、より大きな側鎖(例えば、チロシン又はトリプトファン)と交換することによって構築される。突起と同一又は同様の大きさの相補性空洞が、大きなアミノ酸側鎖を、より小さなアミノ酸側鎖(例えば、アラニン又はトレオニン)と置き換えることによって、第2のポリペプチドの界面に作られる。
【0104】
したがって、いくつかの態様では、Fcドメインの第1のサブユニットのCH3ドメインにおけるアミノ酸残基を、より大きな側鎖体積を有するアミノ酸残基で置き換えることにより、第2のサブユニットのCH3ドメイン内の空洞に位置可能な第1のサブユニットのCH3ドメイン内に突起を生成し、Fcドメインの第2のサブユニットのCH3ドメインにおけるアミノ酸残基を、より小さな側鎖体積を有するアミノ酸残基で置き換えることにより、第1のサブユニットのCH3ドメイン内の突起が位置可能な第2のサブユニットのCH3ドメイン内に空洞を生成する。好ましくは、より大きな側鎖体積を有する当該アミノ酸残基は、アルギニン(R)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)及びトリプトファン(W)からなる群から選択される。好ましくは、より小さな側鎖体積を有する当該アミノ酸残基は、アラニン(A)、セリン(S)、トレオニン(T)及びバリン(V)からなる群から選択される。突起及び空洞は、ポリペプチドをコードする核酸を変えることによって、例えば、部位特異的突然変異誘発によって、又はペプチド合成によって作成することができる。
【0105】
具体的なこのような態様では、Fcドメインの第1のサブユニットにおいて、位置366のトレオニン残基がトリプトファン残基と置き換わっており(T366W)、Fcドメインの第2のサブユニットにおいて、位置407のチロシン残基がバリン残基と置き換わっており(Y407V)、任意に、位置366のトレオニン残基がセリン残基と置き換わっており(T366S)、位置368のロイシン残基がアラニン残基と置き換わっている(L368A)(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。さらなる態様では、Fcドメインの第1のサブユニットにおいて、追加的に位置354のセリン残基がシステイン残基と置き換わっており(S354C)又は位置356のグルタミン酸残基がシステイン残基と置き換わっており(E356C)(特に、位置354のセリン残基がシステイン残基と置き換わっており)、Fcドメインの第2のサブユニットにおいて、追加的に位置349のチロシン残基がシステイン残基と置き換わっている(Y349C)(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。好ましい態様では、Fcドメインの第1のサブユニットはアミノ酸置換S354C及びT366Wを含み、Fcドメインの第2のサブユニットはアミノ酸置換Y349C、T366S、L368A及びY407V(Kabat EUインデックスによるナンバリング)を含む。
【0106】
いくつかの態様では、Fcドメインは、Fc受容体への結合を低下させる、且つ/又はエフェクター機能を低下させる1つ又は複数のアミノ酸置換を含む。
【0107】
特定の態様では、Fc受容体は、Fcγ受容体である。いくつかの態様では、Fc受容体はヒトFc受容体である。いくつかの態様では、Fc受容体は、活性化Fc受容体である。具体的な態様では、Fc受容体は、活性化ヒトFcγ受容体であり、より具体的には、ヒトFcγRIIIa、FcγRI又はFcγRIIaであり、最も具体的には、ヒトFcγRIIIaである。いくつかの態様では、エフェクター機能は、補体依存性細胞傷害(CDC)、抗体依存性細胞媒介細胞障害(ADCC)、抗体依存性細胞食作用(ADCP)、及びサイトカイン分泌の群から選択される1つ又は複数である。特定の態様では、エフェクター機能はADCCである。
【0108】
典型的には、同じ1つ又は複数のアミノ酸置換が、Fcドメインの2つのサブユニットのそれぞれに存在する。いくつかの態様では、1つ又は複数のアミノ酸置換は、Fc受容体へのFcドメインの結合親和性を低減する。いくつかの態様では、1つ又は複数のアミノ酸置換は、Fc受容体へのFcドメインの結合親和性を、少なくとも2分の1、少なくとも5分の1又は少なくとも10分の1に低減する。
【0109】
いくつかの態様では、Fcドメインは、E233、L234、L235、N297、P331及びP329(Kabat EUインデックスによるナンバリング)の群から選択される位置にアミノ酸置換を含む。より具体的な態様では、Fcドメインは、L234、L235及びP329(Kabat EUインデックスによるナンバリング)の群から選択される位置にアミノ酸置換を含む。いくつかの態様では、Fcドメインは、アミノ酸置換L234A及びL235Aを含む(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。いくつかのこのような態様では、Fcドメインは、IgG Fcドメイン、特にヒトIgG Fcドメインである。いくつかの態様では、Fcドメインは、P329位にアミノ酸置換を含む。より具体的な態様では、アミノ酸置換は、P329A又はP329G、特にP329G(Kabat EUインデックスによるナンバリング)である。いくつかの態様では、Fcドメインは、P329位にアミノ酸置換を含み、E233、L234、L235、N297、及びP331(Kabat EUインデックスによるナンバリング)から選択される位置に更なるアミノ酸置換を含む。より具体的な態様では、更なるアミノ酸置換は、E233P、L234A、L235A、L235E、N297A、N297D又はP331Sである。特定の態様において、Fcドメインは、位置P329、L234及びL235にアミノ酸置換を含む(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。より具体的な態様において、Fcドメインは、アミノ酸変異L234A、L235A及びP329G(「P329G LALA」、「PGLALA」又は「LALAPG」)を含む。具体的には、好ましい態様において、Fcドメインのそれぞれのサブユニットは、アミノ酸置換L234A、L235A及びP329Gを含み(Kabat EUインデックスナンバリング)、すなわち、Fcドメインの第1のサブユニット及び第2のサブユニットのそれぞれにおいて、位置234のロイシン残基はアラニン残基と置き換わっており(L234A)、位置235のロイシン残基はアラニン残基と置き換わっており(L235A)、位置329のプロリン残基はグリジン残基と置き換わっている(P329G)(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。いくつかのこのような態様では、Fcドメインは、IgG Fcドメイン、特にヒトIgG Fcドメインである。
【0110】
いくつかの態様では、T細胞二重特異性抗体の標的細胞抗原は癌胎児性抗原(CEA)である。
【0111】
「癌胎児性抗原」又は「CEA」(癌胎児性抗原関連細胞接着分子5(CEACAM5)としても知られる)は、特に断りのない限り、霊長類(例えばヒト)、非ヒト霊長類(例えばカニクイザル)、並びに齧歯類(例えばマウス及びラット)等の哺乳動物を含む、任意の脊椎動物源に由来する、任意の天然CEAを意味する。この用語は、「完全長」の、未処理CEA、及び、細胞内での処理によりもたらされる任意の形態のCEAを包含する。この用語は、CEAの天然に存在するバリアント、例えば、スプライス・バリアント又は対立遺伝子バリアントも包含する。いくつかの態様では、CEAはヒトCEAである。ヒトCEAのアミノ酸配列は、UniProt(www.uniprot.org)受託番号P06731、又はNCBI(www.ncbi.nlm.nih.gov/)RefSeq NP_004354.2に示されている。いくつかの態様では、CEAは膜結合CEAである。いくつかの態様では、CEAは、細胞、例えばがん細胞の表面に発現したCEAである。
【0112】
CEAに結合する本発明に有用なT細胞二重特異性抗体は、例えば、PCT公開番号WO 2014/131712(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に記載されている。
【0113】
いくつかの態様では、T細胞二重特異性抗体は、CD3に結合する第1の抗原結合部分及びCEAに結合する第2の抗原結合部分を含む。
【0114】
いくつかの態様では、第1の抗原結合部分は、配列番号28の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号29のHCDR2、及び配列番号30のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号31の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号32のLCDR2、及び配列番号33のLCDR3を含む軽鎖可変領域と、を含む。
【0115】
いくつかの態様では、第2の抗原結合部分は、配列番号36の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号37のHCDR2、及び配列番号38のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号39の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号40のLCDR2、及び配列番号41のLCDR3を含む軽鎖可変領域と、を含む。
【0116】
いくつかの態様では、CEA CD3二重特異性抗体は、
(i)CD3に結合し、配列番号28の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号29のHCDR2、及び配列番号30のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号31の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号32のLCDR2、及び配列番号33のLCDR3を含む軽鎖可変領域とを含む、第1の抗原結合部分と、
(ii)CEAに結合し、配列番号36の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号37のHCDR2、及び配列番号38のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号39の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号40のLCDR2、及び配列番号41のLCDR3を含む軽鎖可変領域とを含む、第2の抗原結合部分と
を含む。
【0117】
いくつかの態様では、第1の抗原結合部分は、配列番号34のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号35のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変領域配列とを含む。いくつかの態様では、第1の抗原結合部分は、配列番号34の重鎖可変領域配列と、配列番号35の軽鎖可変領域配列とを含む。
【0118】
いくつかの態様では、第2の抗原結合部分は、配列番号42のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号43のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変領域配列とを含む。いくつかの態様では、第2の抗原結合部分は、配列番号42の重鎖可変領域配列と、配列番号43の軽鎖可変領域配列とを含む。
【0119】
いくつかの態様では、T細胞二重特異性抗体は、本明細書に記載されるように、CEA並びに/又は第1のサブユニット及び第2のサブユニットで構成されるFcドメインに結合する第3の抗原結合部分を含む。
【0120】
好ましい態様では、T細胞二重特異性抗体は、
(i)CD3に結合し、配列番号28の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号29のHCDR2、及び配列番号30のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号31の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号32のLCDR2、及び配列番号33のLCDR3を含む軽鎖可変領域と、を含む、第1の抗原結合部分であって、Fab軽鎖及びFab重鎖の可変領域又は定常領域のいずれか、特に定常領域が交換されているクロスオーバーFab分子である、第1の抗原結合部分と、
(ii)CEAに結合し、配列番号36の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号37のHCDR2、及び配列番号38のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号39の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号40のLCDR2、及び配列番号41のLCDR3を含む軽鎖可変領域と、を含む、第2の抗原結合部分及び第3の抗原結合部分であって、それぞれFab分子、特に従来のFab分子である、第2の抗原結合部分及び第3の抗原結合部分と、
(iii)第1のサブユニット及び第2のサブユニットから構成されるFcドメインと
を含み、
第2の抗原結合部分は、Fab重鎖のC末端において第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、第1の抗原結合部分は、Fab重鎖のC末端においてFcドメインの第1のサブユニットのN末端に融合しており、第3の抗原結合部分は、Fab重鎖のC末端においてFcドメインの第2のサブユニットのN末端に融合している。
【0121】
いくつかの態様では、(CEA及びCD3に結合する)T細胞二重特異性抗体の第1の抗原結合部分は、配列番号34のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号35のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変領域配列とを含む。いくつかの態様では、第1の抗原結合部分は、配列番号34の重鎖可変領域配列と、配列番号35の軽鎖可変領域配列とを含む。
【0122】
いくつかの態様では、(CEA及びCD3に結合する)T細胞二重特異性抗体の第2の抗原結合部分及び(存在する場合は)第3の抗原結合部分は、配列番号42のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号43のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変領域配列とを含む。いくつかの態様では、第2の抗原結合部分及び(存在する場合は)第3の抗原結合部分は、配列番号42の重鎖可変領域と、配列番号43の軽鎖可変領域とを含む。
【0123】
上記の態様によるFcドメインは、Fcドメインに関して上に記載される特徴のすべてを単独で又は組み合わせて組み込んでもよい。
【0124】
いくつかの態様では、(CEA及びCD3に結合する)T細胞二重特異性抗体のFcドメインは、Fcドメインの第1のサブユニットと第2のサブユニットの会合を促進する修飾を含み、並びに/又は、Fcドメインは、Fc受容体への結合及び/若しくはエフェクター機能を低下させる1つ又は複数のアミノ酸置換を含む。
【0125】
いくつかの態様では、抗原結合部分及びFc領域は、ペプチドリンカー、特に、配列番号45及び配列番号47にあるようなペプチドリンカーによって、互いに融合している。
【0126】
いくつかの態様では、(CEA及びCD3に結合する)T細胞二重特異性抗体は、配列番号44の配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一の配列を含むポリペプチド(特に2つのポリペプチド)と、配列番号45の配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一の配列を含むポリペプチドと、配列番号46の配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一の配列を含むポリペプチドと、配列番号47の配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一の配列を含むポリペプチドとを含む。いくつかの態様では、(CEA及びCD3に結合する)T細胞二重特異性抗体は、配列番号44の配列を含むポリペプチド(特に2つのポリペプチド)と、配列番号45の配列を含むポリペプチドと、配列番号46の配列を含むポリペプチドと、配列番号47の配列を含むポリペプチドとを含む。
【0127】
好ましい態様では、T細胞二重特異性抗体はシビサタマブ(WHO Drug Information(International Nonproprietary Names for Pharmaceutical Substances)、Recommended INN:List 80,2018,vol.32,no.3,p.438)である。
【0128】
いくつかの態様では、T細胞二重特異性抗体の標的細胞抗原はHLA-2/WT1である。
【0129】
「ウィルムス腫瘍1」又は「ウィルムス腫瘍タンパク質」としても知られる「WT1」は、別途明記しない限り、霊長類(例えばヒト)、非ヒト霊長類(例えばカニクイザル)及び齧歯類(例えば、マウス及びラット)等の哺乳動物を含む任意の脊椎動物源由来の任意のネイティブWT1を指す。この用語は、「完全長」の、未処理WT1、及び、細胞内での処理によりもたらされる任意の形態のWT1を包含する。この用語は、WT1の天然に存在するバリアント、例えば、スプライス・バリアント又は対立遺伝子バリアントも包含する。いくつかの態様では、WT1は、ヒトWT1、特に配列番号21のタンパク質である。ヒトWT1は、UniProt(www.uniprot.org)寄託番号P19544(入力バージョン215)に記載されており,ヒトWT1のアミノ酸配列は配列番号21にも示されている。
【0130】
「VLD」、「VLDペプチド」、又は「WT1VLD」が意味するのは、アミノ酸配列VLDFAPPGA(配列番号22;配列番号21のWT1タンパク質の位置37-45)を有するWT1由来のペプチドである。
【0131】
「RMF」、「RMFペプチド」、又は「WT1RMF」が意味するのは、アミノ酸配列RMFRNAPYL(配列番号23;配列番号21のWT1タンパク質の位置126-134)を有するWT1由来のペプチドである。
【0132】
「HLA-A2」、「HLA-A02」、「HLA-A02」、又は「HLA-A2」(互換可能に使用される)は、HLA-Aセロタイプ群のヒト白血球抗原セロタイプを指す。HLA-A2タンパク質(それぞれのHLA遺伝子によりコードされた)は、それぞれのクラスI MHC(主要組織適合複合体)タンパク質のα鎖を構成し、これはβ2ミクログロブリンサブユニットをさらに含む。特異的なHLA-A2タンパク質は、HLA-A201(HLA-A0201,HLA-A02.01,又はHLA-A02:01とも呼ばれる)である。特定の態様では、本明細書に記載のHLA-A2タンパク質はHLA-A201である。ヒトHLA-A2の例示的な配列は、配列番号24において与えられる。
【0133】
「HLA-A2/WT1」は、HLA-A2分子と、WT1由来のペプチド(本明細書では「WT1ペプチド」とも呼ぶ)、具体的には、RMF又はVLDペプチド(それぞれ「HLA-A2/WT1RMF」及び「HLA-A2/WT1VLD」)の複合体を指す。本発明で使用される二重特異性抗体は、HLA-A2/WT1RMF複合体又はHLA-A2/WT1VLD複合体のいずれかに特異的に結合し得る。
【0134】
HLA-A2/WT1に結合する本発明に有用なT細胞二重特異性抗体は、例えば、PCT公開番号WO 2019/122052(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に記載されている。
【0135】
いくつかの態様では、T細胞二重特異性抗体は、CD3に結合する第1の抗原結合部分と、HLA-A2/WT1、特にHLA-A2/WT1RMFに結合する第2の抗原結合部分とを含む。
【0136】
いくつかの態様では、第1の抗原結合部分は、配列番号1の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号2のHCDR2、及び配列番号3のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号4の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号5のLCDR2、及び配列番号6のLCDR3を含む軽鎖可変領域と、を含む。
【0137】
いくつかの態様では、第2の抗原結合部分は、配列番号9の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号10のHCDR2、及び配列番号11のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号12の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号13のLCDR2、及び配列番号14のLCDR3を含む軽鎖可変領域と、を含む。
【0138】
いくつかの態様では、T細胞二重特異性抗体は、
(i)CD3に結合し、配列番号1の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号2のHCDR2、及び配列番号3のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号4の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号5のLCDR2、及び配列番号6のLCDR3を含む軽鎖可変領域とを含む、第1の抗原結合部分と、
(ii)HLA-A2/WT1に結合し、配列番号9の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号10のHCDR2、及び配列番号11のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号12の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号13のLCDR2、及び配列番号14のLCDR3を含む軽鎖可変領域とを含む、第2の抗原結合部分と
を含む。
【0139】
いくつかの態様では、第1の抗原結合部分は、配列番号7のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変領域配列とを含む。いくつかの態様では、第1の抗原結合部分は、配列番号7の重鎖可変領域配列と、配列番号8の軽鎖可変領域配列とを含む。
【0140】
いくつかの態様では、第2の抗原結合部分は、配列番号15のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変領域配列とを含む。いくつかの態様では、第2の抗原結合部分は、配列番号15の重鎖可変領域配列と、配列番号16の軽鎖可変領域配列とを含む。
【0141】
いくつかの態様では、T細胞二重特異性抗体は、本明細書に記載されるように、HLA-A2/WT1並びに/又は第1のサブユニット及び第2のサブユニットで構成されるFcドメインに結合する第3の抗原結合部分を含む。
【0142】
好ましい態様では、T細胞二重特異性抗体は、
(i)CD3に結合し、配列番号1の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号2のHCDR2、及び配列番号3のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号4の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号5のLCDR2、及び配列番号6のLCDR3を含む軽鎖可変領域とを含む、第1の抗原結合部分であって、Fab軽鎖及びFab重鎖の可変領域又は定常領域のいずれか、特に可変領域が交換されているクロスオーバーFab分子である、第1の抗原結合部分と、
(ii)HLA-A2/WT1に結合し、配列番号9の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号10のHCDR2、及び配列番号11のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号12の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号13のLCDR2、及び配列番号14のLCDR3を含む軽鎖可変領域と、を含む、第2の抗原結合部分及び第3の抗原結合部分であって、それぞれFab分子、特に従来のFab分子である、第2の抗原結合部分及び第3の抗原結合部分と、
(iii)第1のサブユニット及び第2のサブユニットから構成されるFcドメインと
を含み、
第2の抗原結合部分は、Fab重鎖のC末端において第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、第1の抗原結合部分は、Fab重鎖のC末端においてFcドメインの第1のサブユニットのN末端に融合しており、第3の抗原結合部分は、Fab重鎖のC末端においてFcドメインの第2のサブユニットのN末端に融合している。
【0143】
いくつかの態様では、(HLA-A2/WT1及びCD3に結合する)T細胞二重特異性抗体の第1の抗原結合部分は、Fab軽鎖及びFab重鎖の可変領域が交換されているクロスオーバーFab分子であり、T細胞二重特異性抗体の第2の抗原結合部分及び(存在する場合)第3の抗原結合部分は、定常ドメインCLにおいて、124位のアミノ酸が、独立して、リジン(K)、アルギニン(R)、又はヒスチジン(H)で置換されており(Kabatによるナンバリング)、123位のアミノ酸は、独立して、リジン(K)、アルギニン(R)、又はヒスチジン(H)で置換されており(Kabatによるナンバリング)、定常ドメインCH1において、147位のアミノ酸は、独立して、グルタミン酸(E)、又はアスパラギン酸(D)で置換されており(Kabat EUインデックスによるナンバリング)、213位のアミノ酸は、独立して、グルタミン酸(E)、又はアスパラギン酸(D)で置換されている(Kabat EUインデックスによるナンバリング)従来のFab分子である。
【0144】
特に、上記態様では、(ii)の第2の抗原結合部分及び第3のFab分子の定常ドメインCLにおいて、位置124のアミノ酸はリジン(K)で置換されてもよく(Kabatによるナンバリング)、位置123のアミノ酸はリジン(K)又はアルギニン(R)で、特にアルギニン(R)で置換されてもよく(Kabatによるナンバリング)、(ii)の第2のFab分子及び第3のFab分子の定常ドメインCH1において、位置147のアミノ酸はグルタミン酸(E)で置換されてもよく(Kabat EUインデックスによるナンバリング)、位置213のアミノ酸はグルタミン酸(E)で置換されてもよい(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。
【0145】
いくつかの態様では、(HLA-A2/WT1及びCD3に結合する)T細胞二重特異性抗体の第1の抗原結合部分は、配列番号7のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変領域配列とを含む。いくつかの態様では、第1の抗原結合部分は、配列番号7の重鎖可変領域配列と、配列番号8の軽鎖可変領域配列とを含む。
【0146】
いくつかの態様では、(HLA-A2/WT1及びCD3に結合する)T細胞二重特異性抗体の第2の抗原結合部分及び(存在する場合は)第3の抗原結合部分は、配列番号15のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変領域配列とを含む。いくつかの態様では、第2の抗原結合部分及び(存在する場合は)第3の抗原結合部分は、配列番号15の重鎖可変領域と、配列番号16の軽鎖可変領域とを含む。
【0147】
上記の態様によるFcドメインは、Fcドメインに関して上に記載される特徴のすべてを単独で又は組み合わせて組み込んでもよい。
【0148】
いくつかの態様では、(HLA-A2/WT1及びCD3に結合する)T細胞二重特異性抗体のFcドメインは、Fcドメインの第1のサブユニットと第2のサブユニットの会合を促進する修飾を含み、並びに/又は、Fcドメインは、Fc受容体への結合及び/若しくはエフェクター機能を低下させる1つ又は複数のアミノ酸置換を含む。
【0149】
いくつかの態様では、抗原結合部分及びFc領域は、ペプチドリンカー、特に、配列番号18及び配列番号20にあるようなペプチドリンカーによって、互いに融合している。
【0150】
いくつかの態様では、(HLA-A2/WT1及びCD3に結合する)T細胞二重特異性抗体は、配列番号17の配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一の配列を含むポリペプチド(特に2つのポリペプチド)と、配列番号18の配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一の配列を含むポリペプチドと、配列番号19の配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一の配列を含むポリペプチドと、配列番号20の配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一の配列を含むポリペプチドとを含む。いくつかの態様では、(HLA-A2/WT1及びCD3に結合する)T細胞二重特異性抗体は、配列番号17の配列を含むポリペプチド(特に2つのポリペプチド)と、配列番号18の配列を含むポリペプチドと、配列番号19の配列を含むポリペプチドと、配列番号20の配列を含むポリペプチドとを含む。
【0151】
いくつかの態様では、T細胞二重特異性抗体の標的細胞抗原はCD20である。
【0152】
「Bリンパ球抗原B1」としても知られる「CD20」は、別途明記しない限り、霊長類(例えばヒト)、非ヒト霊長類(例えばカニクイザル)及び齧歯類(例えば、マウス及びラット)等の哺乳動物を含む任意の脊椎動物源由来の任意のネイティブCD20を指す。この用語は、「完全長」の、未処理CD20、及び、細胞内での処理によりもたらされる任意の形態のCD20を包含する。この用語は、CD20の天然に存在するバリアント、例えば、スプライス・バリアント又は対立遺伝子バリアントも包含する。いくつかの態様では、CD20はヒトCD20である。ヒトCD20は、UniProt(www.uniprot.org)寄託番号P11836(入力バージョン200)に記載されており,ヒトCD20のアミノ酸配列は配列番号60にも示されている。
【0153】
CD20に結合する本発明に有用なT細胞二重特異性抗体は、例えば、PCT公開番号WO 2016/020309(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に記載されている。
【0154】
いくつかの態様では、T細胞二重特異性抗体は、CD3に結合する第1の抗原結合部分及びCD20に結合する第2の抗原結合部分を含む。
【0155】
いくつかの態様では、第1の抗原結合部分は、配列番号28の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号29のHCDR2、及び配列番号30のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号31の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号32のLCDR2、及び配列番号33のLCDR3を含む軽鎖可変領域と、を含む。
【0156】
いくつかの態様では、第2の抗原結合部分は、配列番号48の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号49のHCDR2、及び配列番号50のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号51の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号52のLCDR2、及び配列番号53のLCDR3を含む軽鎖可変領域と、を含む。
【0157】
いくつかの態様では、T細胞二重特異性抗体は、
(i)CD3に結合し、配列番号28の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号29のHCDR2、及び配列番号30のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号31の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号32のLCDR2、及び配列番号33のLCDR3を含む軽鎖可変領域とを含む、第1の抗原結合部分と、
(ii)CD20に結合し、配列番号48の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号49のHCDR2、及び配列番号50のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号51の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号52のLCDR2、及び配列番号53のLCDR3を含む軽鎖可変領域とを含む、第2の抗原結合部分と
を含む。
【0158】
いくつかの態様では、第1の抗原結合部分は、配列番号34のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号35のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変領域配列とを含む。いくつかの態様では、第1の抗原結合部分は、配列番号34の重鎖可変領域配列と、配列番号35の軽鎖可変領域配列とを含む。
【0159】
いくつかの態様では、第2の抗原結合部分は、配列番号54のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号55のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変領域配列とを含む。いくつかの態様では、第2の抗原結合部分は、配列番号54の重鎖可変領域配列と、配列番号55の軽鎖可変領域配列とを含む。
【0160】
いくつかの態様では、T細胞二重特異性抗体は、本明細書に記載されるように、CD20並びに/又は第1のサブユニット及び第2のサブユニットで構成されるFcドメインに結合する第3の抗原結合部分を含む。
【0161】
好ましい態様では、T細胞二重特異性抗体は、
(i)CD3に結合し、配列番号28の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号29のHCDR2、及び配列番号30のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号31の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号32のLCDR2、及び配列番号33のLCDR3を含む軽鎖可変領域と、を含む、第1の抗原結合部分であって、Fab軽鎖及びFab重鎖の可変領域又は定常領域のいずれか、特に可変領域が交換されているクロスオーバーFab分子である、第1の抗原結合部分と、
(ii)CD20に結合し、配列番号48の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号49のHCDR2、及び配列番号50のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号51の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号52のLCDR2、及び配列番号53のLCDR3を含む軽鎖可変領域と、を含む、第2の抗原結合部分及び第3の抗原結合部分であって、それぞれFab分子、特に従来のFab分子である、第2の抗原結合部分及び第3の抗原結合部分と、
(iii)第1のサブユニット及び第2のサブユニットから構成されるFcドメインと
を含み、
第2の抗原結合部分は、Fab重鎖のC末端において第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、第1の抗原結合部分は、Fab重鎖のC末端においてFcドメインの第1のサブユニットのN末端に融合しており、第3の抗原結合部分は、Fab重鎖のC末端においてFcドメインの第2のサブユニットのN末端に融合している。
【0162】
いくつかの態様では、(CD20及びCD3に結合する)T細胞二重特異性抗体の第1の抗原結合部分は、Fab軽鎖及びFab重鎖の可変領域が交換されているクロスオーバーFab分子であり、T細胞二重特異性抗体の第2の抗原結合部分及び(存在する場合)第3の抗原結合部分は、定常ドメインCLにおいて、124位のアミノ酸が、独立して、リジン(K)、アルギニン(R)、又はヒスチジン(H)で置換されており(Kabatによるナンバリング)、123位のアミノ酸は、独立して、リジン(K)、アルギニン(R)、又はヒスチジン(H)で置換されており(Kabatによるナンバリング)、定常ドメインCH1において、147位のアミノ酸は、独立して、グルタミン酸(E)、又はアスパラギン酸(D)で置換されており(Kabat EUインデックスによるナンバリング)、213位のアミノ酸は、独立して、グルタミン酸(E)、又はアスパラギン酸(D)で置換されている(Kabat EUインデックスによるナンバリング)従来のFab分子である。
【0163】
特に、上記態様では、(ii)の第2の抗原結合部分及び第3のFab分子の定常ドメインCLにおいて、位置124のアミノ酸はリジン(K)で置換されてもよく(Kabatによるナンバリング)、位置123のアミノ酸はリジン(K)又はアルギニン(R)で、特にアルギニン(R)で置換されてもよく(Kabatによるナンバリング)、(ii)の第2の抗原結合部分及び第3のFab分子の定常ドメインCH1において、位置147のアミノ酸はグルタミン酸(E)で置換されてもよく(Kabat EUインデックスによるナンバリング)、位置213のアミノ酸はグルタミン酸(E)で置換されてもよい(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。
【0164】
いくつかの態様では、(CD20及びCD3に結合する)T細胞二重特異性抗体の第1の抗原結合部分は、配列番号34のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号35のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変領域配列とを含む。いくつかの態様では、第1の抗原結合部分は、配列番号34の重鎖可変領域配列と、配列番号35の軽鎖可変領域配列とを含む。
【0165】
いくつかの態様では、(CD20及びCD3に結合する)T細胞二重特異性抗体の第2の抗原結合部分及び(存在する場合は)第3の抗原結合部分は、配列番号54のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号55のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変領域配列とを含む。いくつかの態様では、第2の抗原結合部分及び(存在する場合は)第3の抗原結合部分は、配列番号54の重鎖可変領域と、配列番号55の軽鎖可変領域とを含む。
【0166】
上記の態様によるFcドメインは、Fcドメインに関して上に記載される特徴のすべてを単独で又は組み合わせて組み込んでもよい。
【0167】
いくつかの態様では、(CD20及びCD3に結合する)T細胞二重特異性抗体のFcドメインは、Fcドメインの第1のサブユニットと第2のサブユニットの会合を促進する修飾を含み、並びに/又は、Fcドメインは、Fc受容体への結合及び/若しくはエフェクター機能を低下させる1つ又は複数のアミノ酸置換を含む。
【0168】
いくつかの態様では、抗原結合部分及びFc領域は、ペプチドリンカー、特に、配列番号57及び配列番号59にあるようなペプチドリンカーによって、互いに融合している。
【0169】
いくつかの態様では、(CD20及びCD3に結合する)T細胞二重特異性抗体は、配列番号56の配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一の配列を含むポリペプチド(特に2つのポリペプチド)と、配列番号57の配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一の配列を含むポリペプチドと、配列番号58の配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一の配列を含むポリペプチドと、配列番号59の配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一の配列を含むポリペプチドとを含む。いくつかの態様では、(CD20及びCD3に結合する)T細胞二重特異性抗体は、配列番号56の配列を含むポリペプチド(特に2つのポリペプチド)と、配列番号57の配列を含むポリペプチドと、配列番号58の配列を含むポリペプチドと、配列番号59の配列を含むポリペプチドとを含む。
【0170】
好ましい態様では、T細胞二重特異性抗体はグロフィタマブ(WHO Drug Information(International Nonproprietary Names for Pharmaceutical Substances)、Recommended INN:List 83,2020,vol.34,no.1,p.39)である。
【0171】
いくつかの態様では、T細胞二重特異性抗体の標的細胞抗原はCD19である。
【0172】
「CD19」は表面抗原分類19を表し(Bリンパ球抗原CD19又はBリンパ球表面抗原B4としても知られる)、特に明記しない限り、霊長類(例えばヒト)、非ヒト霊長類(例えばカニクイザル)及び齧歯類(例えばマウスやラット)などの哺乳動物を含む脊椎動物源からの天然CD19を指す。この用語は、「完全長」の、未処理CD19、及び、細胞内での処理によりもたらされる任意の形態のCD19を包含する。この用語は、CD19の天然に存在するバリアント、例えば、スプライス・バリアント又は対立遺伝子バリアントも包含する。いくつかの態様では、CD19はヒトCD19である。ヒトタンパク質UniProt(www.uniprot.org)アクセッション番号P15391(バージョン211)又はNCBI(www.ncbi.nlm.nih.gov/)RefSeq NP_001761.3を参照のこと。ヒトCD19の例示的な配列は、配列番号81において与えられる。
【0173】
CD19に結合する本発明に有用なT細胞二重特異性抗体は、例えば欧州特許出願第20181056.1号及び第20180968.8号(それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている。
【0174】
いくつかの態様では、T細胞二重特異性抗体は、CD3に結合する第1の抗原結合部分及びCD19に結合する第2の抗原結合部分を含む。
【0175】
いくつかの態様では、第1の抗原結合部分は、配列番号61の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号29のHCDR2、及び配列番号62のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号31の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号32のLCDR2、及び配列番号33のLCDR3を含む軽鎖可変領域と、を含む。
【0176】
他の態様では、第1の抗原結合部分は、配列番号64の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号29のHCDR2、及び配列番号65のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号31の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号32のLCDR2、及び配列番号33のLCDR3を含む軽鎖可変領域と、を含む。
【0177】
いくつかの態様では、第2の抗原結合部分は、配列番号67の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号68のHCDR2、及び配列番号69のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号70の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号71のLCDR2、及び配列番号72のLCDR3を含む軽鎖可変領域と、を含む。
【0178】
いくつかの態様では、T細胞二重特異性抗体は、
(i)CD3に結合し、配列番号61の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号29のHCDR2、及び配列番号62のHCDR3を含む重鎖可変領域、又は配列番号64のHCDR1、配列番号29のHCDR2、及び配列番号65のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号31の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号32のLCDR2、及び配列番号33のLCDR3を含む軽鎖可変領域とを含む、第1の抗原結合部分と、
(ii)CD19に結合し、配列番号67の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号68のHCDR2、及び配列番号69のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号70の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号71のLCDR2、及び配列番号72のLCDR3を含む軽鎖可変領域とを含む、第2の抗原結合部分と
を含む。
【0179】
いくつかの態様では、第1の抗原結合部分は、配列番号63のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%同一である重鎖可変領域配列又は配列番号66のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号35のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%同一である軽鎖可変領域配列とを含む。いくつかの態様では、第1の抗原結合部分は、配列番号63の重鎖可変領域配列又は配列番号66の重鎖可変領域配列と、配列番号35の軽鎖可変領域配列とを含む。
【0180】
いくつかの態様では、第2の抗原結合部分は、配列番号73のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号74のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変領域配列とを含む。いくつかの態様では、第2の抗原結合部分は、配列番号73の重鎖可変領域配列と、配列番号74の軽鎖可変領域配列とを含む。
【0181】
いくつかの態様では、T細胞二重特異性抗体は、本明細書に記載されるように、CD19並びに/又は第1及び第2のサブユニットで構成されるFcドメインに結合する第3の抗原結合部分を含む。
【0182】
好ましい態様では、T細胞二重特異性抗体は、
(i)CD3に結合し、配列番号61の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号29のHCDR2、及び配列番号62のHCDR3を含む重鎖可変領域、又は配列番号64のHCDR1、配列番号29のHCDR2、及び配列番号65のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号31の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号32のLCDR2、及び配列番号33のLCDR3を含む軽鎖可変領域とを含む、第1の抗原結合部分であって、Fab軽鎖及びFab重鎖の可変領域又は定常領域のいずれか、特に可変領域が交換されているクロスオーバーFab分子である、第1の抗原結合部分と、
(ii)CD19に結合し、配列番号67の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号68のHCDR2、及び配列番号69のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号70の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号71のLCDR2、及び配列番号72のLCDR3を含む軽鎖可変領域と、を含む、第2の抗原結合部分及び第3の抗原結合部分であって、それぞれFab分子、特に従来のFab分子である、第2の抗原結合部分及び第3の抗原結合部分と、
(iii)第1のサブユニット及び第2のサブユニットから構成されるFcドメインと
を含み、
第2の抗原結合部分は、Fab重鎖のC末端において第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、第1の抗原結合部分は、Fab重鎖のC末端においてFcドメインの第1のサブユニットのN末端に融合しており、第3の抗原結合部分は、Fab重鎖のC末端においてFcドメインの第2のサブユニットのN末端に融合している。
【0183】
いくつかの態様では、(CD19及びCD3に結合する)T細胞二重特異性抗体の第1の抗原結合部分は、Fab軽鎖及びFab重鎖の可変領域が交換されているクロスオーバーFab分子であり、T細胞二重特異性抗体の第2の抗原結合部分及び(存在する場合)第3の抗原結合部分は、定常ドメインCLにおいて、124位のアミノ酸が、独立して、リジン(K)、アルギニン(R)、又はヒスチジン(H)で置換されており(Kabatによるナンバリング)、123位のアミノ酸は、独立して、リジン(K)、アルギニン(R)、又はヒスチジン(H)で置換されており(Kabatによるナンバリング)、定常ドメインCH1において、147位のアミノ酸は、独立して、グルタミン酸(E)、又はアスパラギン酸(D)で置換されており(Kabat EUインデックスによるナンバリング)、213位のアミノ酸は、独立して、グルタミン酸(E)、又はアスパラギン酸(D)で置換されている(Kabat EUインデックスによるナンバリング)従来のFab分子である。
【0184】
特に、上記態様では、(ii)の第2の抗原結合部分及び第3のFab分子の定常ドメインCLにおいて、位置124のアミノ酸はリジン(K)で置換されてもよく(Kabatによるナンバリング)、位置123のアミノ酸はリジン(K)又はアルギニン(R)で、特にアルギニン(R)で置換されてもよく(Kabatによるナンバリング)、(ii)の第2の抗原結合部分及び第3のFab分子の定常ドメインCH1において、位置147のアミノ酸はグルタミン酸(E)で置換されてもよく(Kabat EUインデックスによるナンバリング)、位置213のアミノ酸はグルタミン酸(E)で置換されてもよい(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。
【0185】
いくつかの態様では、(CD19及びCD3に結合する)T細胞二重特異性抗体の第1の抗原結合部分は、配列番号63のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%同一である重鎖可変領域配列又は配列番号66のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号35のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%同一である軽鎖可変領域配列とを含む。いくつかの態様では、第1の抗原結合部分は、配列番号63の重鎖可変領域配列又は配列番号66の重鎖可変領域配列と、配列番号35の軽鎖可変領域配列とを含む。
【0186】
いくつかの態様では、(CD19及びCD3に結合する)T細胞二重特異性抗体の第2の抗原結合部分及び(存在する場合は)第3の抗原結合部分は、配列番号73のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号74のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変領域配列とを含む。いくつかの態様では、第2の抗原結合部分及び(存在する場合は)第3の抗原結合部分は、配列番号73の重鎖可変領域と、配列番号74の軽鎖可変領域とを含む。
【0187】
上記の態様によるFcドメインは、Fcドメインに関して上に記載される特徴のすべてを単独で又は組み合わせて組み込んでもよい。
【0188】
いくつかの態様では、(CD19及びCD3に結合する)T細胞二重特異性抗体のFcドメインは、Fcドメインの第1のサブユニットと第2のサブユニットの会合を促進する修飾を含み、並びに/又は、Fcドメインは、Fc受容体への結合及び/若しくはエフェクター機能を低下させる1つ又は複数のアミノ酸置換を含む。
【0189】
いくつかの態様では、抗原結合部分及びFc領域は、ペプチドリンカー、特に、配列番号75、配列番号76及び配列番号77にあるようなペプチドリンカーによって、互いに融合している。
【0190】
いくつかの態様では、(CD19及びCD3に結合する)T細胞二重特異性抗体は、配列番号78の配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一の配列を含むポリペプチド(特に2つのポリペプチド)と、配列番号75の配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一の配列を含むポリペプチドと、配列番号77の配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一の配列を含むポリペプチドと、配列番号79の配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一の配列を含むポリペプチドとを含む。いくつかの態様では、(CD19及びCD3に結合する)T細胞二重特異性抗体は、配列番号78の配列を含むポリペプチド(特に2つのポリペプチド)と、配列番号75の配列を含むポリペプチドと、配列番号77の配列を含むポリペプチドと、配列番号79の配列を含むポリペプチドとを含む。
【0191】
他の態様では、(CD19及びCD3に結合する)T細胞二重特異性抗体は、配列番号78の配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一の配列を含むポリペプチド(特に2つのポリペプチド)と、配列番号76の配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一の配列を含むポリペプチドと、配列番号77の配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一の配列を含むポリペプチドと、配列番号80の配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一の配列を含むポリペプチドとを含む。いくつかの態様では、(CD19及びCD3に結合する)T細胞二重特異性抗体は、配列番号78の配列を含むポリペプチド(特に2つのポリペプチド)と、配列番号76の配列を含むポリペプチドと、配列番号77の配列を含むポリペプチドと、配列番号80の配列を含むポリペプチドとを含む。
【0192】
いくつかの態様では、(T細胞二重特異性抗体によって治療される)疾患はがんである。
【0193】
本明細書で使用される場合、「治療(treatment)」(及びその文法的な変化形、例えば、「治療(treat)する」又は「治療すること(treating)」)は、治療される個体において疾患の本来の経過を変える試行における臨床的介入を指し、予防のために、又は臨床病理の経過の間に行うことができる。治療の所望の効果としては、疾患の発症又は再発を予防すること、症候の軽減、疾患の任意の直接的又は間接的な病理学的結果の減弱、転移を予防すること、疾患進行率を低下させること、病状の寛解又は緩和、及び回復又は改良された予後が挙げられる。
【0194】
「がん」という用語は、制御されていない細胞増殖を典型的に特徴とする哺乳動物における生理学的症状を指す。がんの例には、癌腫、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫、及び白血病が含まれるが、これらに限定されない。がんの非限定的な例には、白血病などの血液がん、膀胱がん、脳がん、頭頸部がん、膵臓がん、胆管がん、甲状腺がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、子宮がん、子宮頸がん、子宮内膜がん、食道がん、結腸がん、結腸直腸がん、直腸がん、胃がん、前立腺がん、皮膚がん、扁平細胞癌腫、肉腫、骨がん、及び腎臓がんが含まれる。他の細胞増殖障害には、限定されないが、腹部、骨、乳房、消化系、肝臓、膵臓、腹膜、内分泌腺(副腎、副甲状腺、脳下垂体、睾丸、卵巣、胸腺、甲状腺)、眼、頭頸部、神経系(中枢及び末梢)、リンパ系、骨盤、皮膚、軟組織、脾臓、胸部領域、及び泌尿生殖器系に位置する新生物が含まれる。前がんの症状又は病変及びがん転移も含まれる。
【0195】
いくつかの態様では、がんは、T細胞二重特異性抗体の標的細胞抗原を発現するがんである。
【0196】
いくつかの態様では、がんは癌胎児性抗原(CEA)発現がんである(特に、T細胞二重特異性抗体の標的細胞抗原がCEAである態様において)。「CEA陽性がん」又は「CEA発現がん」とは、がん細胞でのCEAの発現又は過剰発現により特徴づけられるがんを意味する。CEAの発現は、例えば、免疫組織化学(IHC)又はフローサイトメトリー法によって決定され得る。いくつかの態様では、がんはCEAを発現する。いくつかの態様では、がんは、CEAに特異的な抗体を使用する免疫組織化学(IHC)によって決定されるように、腫瘍細胞の少なくとも20%、好ましくは少なくとも50%又は少なくとも80%でCEAを発現する。
【0197】
いくつかの態様では、がんは、結腸がん、肺がん、卵巣がん、胃がん、膀胱がん、膵臓がん、子宮内膜がん、乳がん、腎臓がん、食道がん、前立腺がん、又は本明細書に記載の他のがんである。
【0198】
特定の態様では、がんは、結腸直腸がん、肺がん、膵臓がん、乳がん、及び胃がんからなる群から選択されるがんである。好ましい態様では、がんは結腸直腸がん(CRC)である。いくつかの態様では、結腸直腸がんは転移性結腸直腸がん(mCRC)である。いくつかの態様では、結腸直腸がんは、マイクロサテライト安定性(MSS)結腸直腸がんである。いくつかの態様では、結腸直腸がんは、マイクロサテライト安定性転移性結腸直腸がん(MSS mCRC)である。
【0199】
いくつかの態様では、がんはウィルムス腫瘍タンパク質(WT1)発現がんである(特に、T細胞二重特異性抗体の標的細胞抗原がHLA-A2/WT1である態様において)。「WT1陽性がん」又は「WT1発現がん」とは、がん細胞でのWT1の発現又は過剰発現により特徴づけられるがんを意味する。WT1の発現は、例えば、定量的リアルタイムPCR(WT1 mRNAレベルを測定する)、フローサイトメトリー、免疫組織化学(IHC)、又はウエスタンブロットアッセイによって決定され得る。いくつかの態様では、がんはWT1を発現する。いくつかの態様では、がんは、WT1に特異的な抗体を使用する免疫組織化学(IHC)によって決定されるように、腫瘍細胞の少なくとも20%、好ましくは少なくとも50%又は少なくとも80%でWT1を発現する。
【0200】
いくつかの態様では、がんは血液がんである。血液がんの非限定的な例には、白血病(例えば、急性リンパ性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性リンパ性白血病(CLL)慢性骨髄性白血病(CML)、有毛細胞白血病(HCL))、リンパ腫(例えば、非ホジキンリンパ腫(NHL)、ホジキンリンパ腫)、骨髄腫(例えば、多発性骨髄腫(MM))、骨髄異形成症候群(MDS)、及び骨髄増殖性疾患が含まれる。
【0201】
特定の態様では、がんは、血液がん(白血病など)、腎臓がん、膀胱がん、皮膚がん、肺がん、結腸直腸がん、乳がん、脳がん、頭頸部がん、及び前立腺がんからなる群より選択される。
【0202】
特定の態様では、がんは血液がん、特に白血病、最も具体的には急性リンパ性白血病(ALL)又は急性骨髄性白血病(AML)である。好ましい態様では、がんは急性骨髄性白血病(AML)である。さらなる特定の態様では、がんは骨髄異形成症候群(MDS)である。
【0203】
いくつかの態様では、がんはCD20発現がんである(特に、T細胞二重特異性抗体の標的細胞抗原がCD20である態様において)。「CD20陽性がん」又は「CD20発現がん」とは、がん細胞でのCD20の発現又は過剰発現により特徴づけられるがんを意味する。CD20の発現は、例えば、定量的リアルタイムPCR(CD20 mRNAレベルを測定する)、フローサイトメトリー、免疫組織化学(IHC)、又はウエスタンブロットアッセイによって決定され得る。いくつかの態様では、がんはCD20を発現する。いくつかの態様では、がんは、CD20に特異的な抗体を使用する免疫組織化学(IHC)によって決定されるように、腫瘍細胞の少なくとも20%、好ましくは少なくとも50%又は少なくとも80%でCD20を発現する。
【0204】
いくつかの態様では、がんはB細胞がん、特にCD20陽性B細胞がんである。いくつかの態様では、がんは、非ホジキンリンパ腫(NHL)、急性リンパ性白血病(ALL)、慢性リンパ性白血病(CLL)、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、濾胞性リンパ腫(FL)、マントル細胞リンパ腫(MCL)、辺縁帯リンパ腫(MZL)、多発性骨髄腫(MM)、又はホジキンリンパ腫(HL)からなる群から選択される。特定の態様では、がんは、非ホジキンリンパ腫(NHL)、急性リンパ性白血病(ALL)、慢性リンパ性白血病(CLL)、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、濾胞性リンパ腫(FL)、マントル細胞リンパ腫(MCL)及び辺縁帯リンパ腫(MZL)からなる群から選択される。より特定の態様では、がんはNHL、特に再発性/難治性(r/r)NHLである。いくつかの態様では、がんはDLBCLである。いくつかの態様では、がんはFLである。いくつかの態様では、がんはMCLである。いくつかの態様では、がんはMZLである。
【0205】
いくつかの態様では、がんはCD19発現がんである(特に、T細胞二重特異性抗体の標的細胞抗原がCD19である態様において)。「CD19陽性がん」又は「CD19発現がん」とは、がん細胞でのCD19の発現又は過剰発現により特徴づけられるがんを意味する。CD19の発現は、例えば、定量的リアルタイムPCR(CD19 mRNAレベルを測定する)、フローサイトメトリー、免疫組織化学(IHC)、又はウエスタンブロットアッセイによって決定され得る。いくつかの態様では、がんはCD19を発現する。いくつかの態様では、がんは、CD19に特異的な抗体を使用する免疫組織化学(IHC)によって決定されるように、腫瘍細胞の少なくとも20%、好ましくは少なくとも50%又は少なくとも80%でCD19を発現する。
【0206】
いくつかの態様では、がんはB細胞がん、特にCD19陽性B細胞がんである。いくつかの態様、がんは、B細胞リンパ腫又はB細胞白血病である。いくつかの態様では、がんは、非ホジキンリンパ腫(NHL)、急性リンパ芽球性白血病(ALL)又は慢性リンパ性白血病(CLL)である。
【0207】
いくつかの態様では、がんはT細胞二重特異性抗体によって治療可能である。いくつかの態様では、T細胞二重特異性抗体は、がんの治療のために示される。
【0208】
いくつかの態様では、がんは固形腫瘍がんである。「固形腫瘍がん」とは、(例えば、一般的には固形腫瘍を形成しない白血病などの血液がんとは対照的に)肉腫又は癌腫などの患者の体の特定の位置に位置する別個の腫瘍塊(腫瘍転移も含む)を形成する悪性腫瘍を意味する。がんの非限定的な例には、膀胱がん、脳がん、頭頸部がん、膵臓がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、子宮がん、子宮頸がん、子宮内膜がん、食道がん、結腸がん、結腸直腸がん、直腸がん、胃がん、前立腺がん、皮膚がん、扁平細胞癌腫、骨がん、肝臓がん及び腎臓がんが含まれる。本発明の文脈で企図される他の固形腫瘍がんには、限定されないが、腹部、骨、乳房、消化器系、肝臓、膵臓、腹膜、内分泌腺(副腎、副甲状腺、脳下垂体、睾丸、卵巣、胸腺、甲状腺)、眼、頭頸部、神経系(中枢及び末梢)、リンパ系、骨盤、皮膚、軟組織、筋肉、脾臓、胸部領域及び泌尿生殖器系に位置する新生物が含まれる。前がんの症状又は病変及びがん転移も含まれる。
【0209】
T細胞二重特異性抗体の標的細胞抗原がCD19であるいくつかの態様では、(T細胞二重特異性抗体によって治療される)疾患は自己免疫疾患である。特定の態様では、自己免疫疾患はループス、特に全身性エリテマトーデス(SLE)又はループス腎炎(LN)である。
【0210】
本明細書における「個体」又は「対象」は哺乳動物である。哺乳動物としては、限定されないが、家畜動物(例えば、ウシ、ヒツジ、ネコ、イヌ及びウマ)、霊長類(例えば、ヒト及びサル等の非ヒト霊長類)、ウサギ、齧歯(例えば、マウス及びラット)が挙げられる。特定の態様では、個体又は対象は、ヒトである。いくつかの態様では、個体は、疾患、特にT細胞二重特異性抗体によって治療可能又は治療される疾患を有する。いくつかの態様では、個体は、がん、特にT細胞二重特異性抗体によって治療可能又は治療されるがんを有する。特に、本明細書の個体は、がんの1つ又は複数の徴候、症候、又は他の指標を経験しているか又は経験したことのある、治療に適格な任意の単一のヒト対象である。いくつかの態様では、個体は、がんを有するか、又はがん、特に本明細書において上記で記載されるがんのいずれかと診断されている。いくつかの態様では、個体は、局所進行若しくは転移性がんを有するか、又は局所進行若しくは転移性がんを有すると診断されている。個体は、T細胞二重特異性抗体又は別の薬物で以前に治療されていても、治療されていなくてもよい。特定の態様では、患者は、T細胞二重特異性抗体で以前に治療されていない。患者は、T細胞二重特異性抗体療法が開始される前に、T細胞二重特異性抗体以外の一又は複数の薬物を含む療法で治療されていてもよい。
【0211】
いくつかの態様では、個体は、1つ又は複数のサイトカインの血清レベルが上昇しているいくつかの態様では、上記血清レベルの上昇は、個体へのT細胞二重特異性抗体の投与に関連する。上記血清レベルの上昇は、特に、健康な個体の血清レベル、及び/又はT細胞二重特異性抗体を投与していない個体(同じ個体を含む)の血清レベルと比較した場合である(すなわち、そのような場合、血清レベルは、T細胞二重特異性抗体の投与なしの血清レベルと比較して上昇する)。いくつかの態様では、上記1つ又は複数のサイトカインは、IL-2、TNF-α、IFN-γ、IL-6及びIL-1βからなる群から選択される。
【0212】
本発明の態様のいずれかによるサイトカインは、好ましくは炎症促進性サイトカイン、特にIL-2、TNF-α、IFN-γ、IL-6及びIL-1βからなる群から選択される1つ又は複数のサイトカインである。いくつかの態様では、サイトカインはIL-2である。いくつかの態様では、サイトカインはTNF-αである。いくつかの態様では、サイトカインはIFN-γである。いくつかの態様では、サイトカインはIL-6である。いくつかの態様では、サイトカインはIL-1βである。
【0213】
好ましくは、本発明のいずれかの態様によるT細胞は、細胞傷害性T細胞である。いくつかの態様では、T細胞はCD4又はCD8T細胞である。いくつかの態様では、T細胞はCD4T細胞である。
【0214】
いくつかの態様では、T細胞二重特異性抗体による治療又はその投与は、個体において応答をもたらし得る。いくつかの態様では、応答は、完全奏功であり得る。いくつかの態様では、応答は、治療の中止後の持続的応答であり得る。いくつかの態様では、応答は、治療の中止後に持続される完全奏功であり得る。他の態様では、応答は、部分奏功であり得る。いくつかの態様では、応答は、治療の中止後に持続される部分奏功であり得る。いくつかの態様では、T細胞二重特異性抗体及びTKIでの治療又はそれらの投与は、T細胞二重特異性抗体単独(すなわち、TKI不使用)での治療又はそれらの投与と比較して、応答を改善し得る。いくつかの態様では、T細胞二重特異性抗体及びTKIの治療及び投与は、T細胞二重特異性抗体単独(すなわち、TKI伝達阻害剤不使用)で治療された対応する患者集団と比較して、患者集団の奏効率を増加させ得る。
【0215】
T細胞二重特異性抗体は、単独で、又は他の薬剤と組み合わせて治療に用いることができる。例えば、T細胞二重特異性抗体は、少なくとも1つの追加の治療剤と共投与されてもよい。ある態様では、追加の治療剤は、抗がん剤、例えば、化学療法剤、腫瘍細胞増殖の阻害剤、又は腫瘍細胞アポトーシスのアクチベーターである。
【図面の簡単な説明】
【0216】
図1】100nM~0nMの範囲の異なるダサチニブ濃度の存在下でのリアルタイム死滅化:10nMのHLA-A2 WT-1-TCBによる、RMFペプチドを負荷した赤色蛍光A375細胞(A)、及び、1nMのCEA-TCBによる、赤色蛍光MKN45細胞(B)。(A)A375 NucLight Red(NLR)標的細胞にRMFペプチドをパルスし(死滅化アッセイの2時間前)、HLA-A2 WT1-TCB、ダサチニブ(dasa)及びPBMCと共培養し、エフェクター対標的比(E:T)=10:1(E:T=50 000個のPBMC:5000個の標的細胞)であった。死滅化を、Incucyte(登録商標)によって追跡した(3時間ごとに1スキャン、ズーム10倍、位相及び赤400msの取得時間)。%死滅は、各時点について、全赤色領域をt=0時間の値及び標的細胞+PBMC+ダサチニブ(TCBなし)対照ウェルで正規化することによって測定した。1ドナーについて、技術的反復実験の平均+/-SEM。(B)MKN45 NLR標的細胞をCEA TCB、ダサチニブ及びPBMCと共培養した。E:T=10:1(E:T=50 000個のPBMC:5000個の標的細胞)。死滅化を、Incucyteによって追跡した(3時間ごとに1スキャン、ズーム10倍、位相及び赤400msの取得時間)。%死滅は、各時点について、全赤色領域をt=0時間の値及び標的細胞+PBMC+ダサチニブ対照ウェルで正規化することによって測定した。1ドナーについて、技術的反復実験の平均+/-SEM。
図2】サイトカイン放出。図1のアッセイの終点(96時間)で上清を回収し、サイトカイン((A)IFNγ、(B)IL-2、(C)TNF-α)をマルチプレックスサイトカイン分析(Luminex)によって測定した。1nM CEA-TCB、1ドナー。
図3】インビトロ死滅化アッセイの設定及びタイムライン。PBMCをSKM-1標的細胞(E:T=10:1)及び10nMのHLA-A2 WT-1-TCBと共培養した。ダサチニブ(100nM)を活性化の24時間後に添加した。PBMCをCellTrace(商標)Violet(CTV)で標識して、T細胞増殖評価を可能にした。
図4】T細胞活性化。CD4+及びCD8+T細胞上のCD25及びCD69の発現を、図3のアッセイに従って、ダサチニブの存在下及び非存在下での活性化の24時間後及び48時間後にFACSによって測定した。(A)CD8+T細胞上のCD25発現、(B)CD4+T細胞上のCD25発現、(C)CD8+T細胞上のCD69発現、(D)CD4+T細胞上のCD69発現。
図5】サイトカイン放出。24時間及び48時間で図3のアッセイから上清を回収し、マルチプレックスキット(Luminex)を使用してサイトカイン(IFN-γ(A)、TNF-α(B)及びIL-2(C))を測定した。3ドナーの、平均+/-SD。
図6】T細胞増殖。図3のアッセイにおいて、CD4+(A)及びCD8+(B)T細胞の増殖を、CTV色素希釈の分析によって、HLA-A2 WT-1 TCBによる刺激の144時間後にFACSによって測定した。
図7】CD4+及びCD8+T細胞のカウント。図3のアッセイでは、CD4+(A)及びCD8+(B)T細胞のカウントを、FACSによって測定した。3ドナーの平均+/-SD。対応のあるt検定、片側p値:0.1234(ns)、0.0332()、0.0021(**)、0.0002(***)、<0.0001(****)。
図8】インビトロ死滅化アッセイの設定及びタイムライン。PBMCを、カルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル(CFSE)標識SKM-1標的細胞(E:T=5:1)及び10nMのHLA-A2 WT-1-TCBと20時間共培養した。活性化PBMCを洗浄し、100nMダサチニブの存在下又は非存在下で、新鮮なCTV標識SKM-1標的細胞(E:T=5:1)上で10nMのHLA-A2 WT-1-TCBにより再刺激した。
図9】HLA-A2 WT-1 TCBで刺激した後かつ図8のアッセイに従ってダサチニブを含む又は含まないHLA-A2 WT-1-TCBで再刺激する前の20時間でのT細胞活性化。CD4+及びCD8+T細胞上のCD69及びCD25発現をFACSによって測定した。データは、3ドナーの平均+/-SEMとして示される。(A)CD8+T細胞上のCD69発現、(B)CD8+T細胞上のCD25発現、(C)CD4+T細胞上のCD69発現、(D)CD4+T細胞上のCD25発現。
図10】ダサチニブ非存在下で10nMのHLA-A2 WT-1-TCBを用いた1回目の刺激時(左)と、100nMダサチニブ存在下で10nMのHLA-A2 WT-1-TCBを用いた2回目の刺激時(右)のSKM-1標的細胞生存率。標的細胞生存率を、図8のアッセイにおいて44時間後にFACSによって測定した。死滅CFSE標識SKM-1細胞を、陽性近赤外(NIR)細胞(左側)でゲーティングした。死滅CTV標識SKM-1細胞を陽性NIR細胞でゲーティングした(右側)。
図11図8のアッセイにおけるダサチニブの存在下及び非存在下での1回目の刺激及び2回目の刺激のために使用された死んだCFSE及びCTV SKM-1細胞に対するHLA-A2 WT-1-TCB用量応答。3ドナーの平均+/-SEM、両側対応のt検定(各濃度について)、両側p値:0.1234(ns)、0.0332(*)、0.0021(**)、0.0002(***)、<0.0001(****)。
図12】ダサチニブを含む又は含まないHLA-A2 WT-1-TCBによる二次刺激後のサイトカイン放出。図8の死滅化アッセイからの上清を、二次刺激の24時間後に収集し、IFN-γ(A)、TNF-α(B)及びIL-2(C)をマルチプレックスサイトカイン(multiplex cytokine)キット(Luminex technology)を用いて測定した。n=3ドナー。
図13】T細胞脱顆粒を評価するためのインビトロ死滅化アッセイの設定及びタイムライン。PBMCを、100nMダサチニブの存在下及び非存在下において、SKM-1標的細胞(E:T=5:1)及び10nMのHLA-A2 WT-1-TCBと共培養した。Golgistop及びGolgiplug(両方ともBD)並びにCD107a抗体を、サイトカインの外在化を防止するためにTCBによる活性化の3時間後に添加した。
図14図13のアッセイにおける、ある代表的なドナーについてのダサチニブの存在下及び非存在下でのCD4+T細胞及びCD8+T細胞の中のCD107a+集団。CD4+及びCD8+T細胞上のCD107aの発現を24時間でFACSによって測定した。
図15図13のアッセイにおけるダサチニブの存在下及び非存在下でのCD4+(A)T細胞及びCD8+(B)T細胞の中のCD107a+細胞のパーセンテージ。CD4+及びCD8+T細胞上のCD107aの発現を24時間でFACSによって測定した。3ドナーの平均+/-SD。
図16】インビトロ死滅化アッセイの設定及びタイムライン。PBMCを、MKN45 NLR(E:T=10:1)標的細胞上で1nMのCEA-TCBにより96時間刺激した。活性化PBMCを洗浄し、25nMダサチニブの存在下で72時間、新しいMKN45 NLR標的細胞(E:T=10:1)上で1nMのCEA-TCBにより再刺激した。活性化PBMCを洗浄してダサチニブを除去し、1nMのCEA-TCB(「オン/オフ/オン」、表の上段参照)により新しいMKN45 NLR標的細胞(E:T=10:1)上で再刺激し、又はその逆を行なった(「オフ/オン/オフ」、表の下段参照)。死滅化をIncucyte(登録商標)によって追跡した。
図17図16のアッセイにおける、1回目の刺激時には25nMのダサチニブの存在下(0~72時間)、及び再刺激時には25nMのダサチニブの非存在下(96~170時間)でのCEA-TCBによるMKN45 NLR標的細胞のリアルタイム死滅化(「オフ/オン」)。
図18図16のアッセイにおける、25nMダサチニブの存在下での1回目の刺激後及びダサチニブの非存在下での2回目の刺激後のアッセイの上清中のサイトカインレベル(「オフ/オン」)。サイトカイン((A)IFN-γ、(B)IL-2、(C)TNF-α)は、マルチプレックスサイトカインキット(Luminex technology)を用いて測定した。1ドナー。
図19図16のアッセイにおけるCEA-TCBによるMKN45 NLR標的細胞のリアルタイム死滅化(「オン/オフ/オン」)。
図20図16のアッセイにおける、25nMダサチニブの非存在下での1回目の刺激後及び25nMダサチニブの存在下での2回目の刺激後のアッセイの上清中のサイトカインレベル(「オン/オフ」)。サイトカイン((A)IFN-γ、(B)IL-2、(C)TNF-α)は、マルチプレックスサイトカインキット(Luminex technology)を用いて測定した。1ドナー。
図21】CEA-TCB媒介性の標的細胞死滅化。(A)PBMCを、ダサチニブの存在下及び非存在下において、MKN45 NLR(E:T=10:1)標的細胞上で1nMのCEA-TCBにより96時間刺激した。(B)活性化PBMCを洗浄してダサチニブを除去し、新しいMKN45 NLR標的細胞(E:T=10:1)上で1nMのCEA-TCBにより再刺激した。死滅化をIncucyte(登録商標)によって追跡した。
図22】サイトカイン放出。図16のアッセイにおいて1回目の刺激後及び2回目の刺激後に上清を回収し、マルチプレックスサイトカインキット(Luminex)を使用してサイトカイン((A)TNF-α、(B)IFN-γ、(C)IL-2)を測定した。
図23】インビトロ死滅化アッセイの設定及びタイムライン。PBMCを、カルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル(CFSE)標識Z138標的細胞(E:T=5:1)及び10nM 1nM CD20-TCBと20時間共培養した。活性化PBMCを洗浄し、100nMダサチニブの存在下又は非存在下で、新鮮なCTV標識Z138標的細胞(E:T=5:1)上で1nMのCD20-TCBにより再刺激した。
図24】フローサイトメトリーによって測定した、図23のアッセイにおける100nMダサチニブの存在下及び非存在下での1nMのCD20-TCBによる1回目の刺激時及び2回目の刺激時の死滅化Z138細胞。1回目の刺激の20時間後及び2回目の刺激の24時間後に細胞を回収し、生死NIR色素で染色した。技術的反復実験の平均+/-SD。N=3ドナー。
図25】フローサイトメトリーによって測定した、図23のアッセイにおける100nMダサチニブの存在下及び非存在下での1nMのCD20-TCBによる二次刺激時の死滅化Z138細胞。二次刺激の24時間後に細胞を回収し、生死NIR色素で染色した。技術的反復実験の平均+/-SD。3ドナーD1~D3(A~C)。
図26】インビトロ死滅化アッセイの設定。PBMCを、100nMダサチニブの存在下及び非存在下においてCellTrace(商標)Violet(CTV)標識SUDLH-8腫瘍細胞(E:T=10:1)及び漸増濃度のCD19-TCBと共培養した。
図27】100nMダサチニブは、CD19-TCBによるCTV標識SUDLH-8細胞の死滅化を防止する。SUDLH-8腫瘍細胞の死滅を、図26に記載されるアッセイにおいて死細胞(24時間)の排除を可能にするLive Dead Near InfraRed(NIR)色素を使用するフローサイトメトリーによって測定した。n=3ドナーの平均+SD。一元配置分散分析、フリードマン検定、p値:0.1234(ns)、0.0332()、0.0021(**)、0.0001(***)、<0.0001(****)。
図28】100nMのダサチニブは、CD19-TCB誘導性CD4+T細胞活性化を妨げる。CD4+T細胞上のCD69(A)及びCD25(B)の発現を、図26に記載のアッセイにおいて24時間にフローサイトメトリーによって測定した。n=3ドナーの平均+SD。一元配置分散分析、フリードマン検定、p値:0.1234(ns)、0.0332()、0.0021(**)、0.0001(***)、<0.0001(****)。
図29】100nMのダサチニブは、CD19-TCB誘導性CD8+T細胞活性化を妨げる。CD8+T細胞上のCD69(A)及びCD25(B)の発現を、図26に記載のアッセイにおいて24時間にフローサイトメトリーによって測定した。n=3ドナーの平均+SD。一元配置分散分析、フリードマン検定、p値:0.1234(ns)、0.0332()、0.0021(**)、0.0001(***)、<0.0001(****)。
図30】100nMのダサチニブは、CD19-TCB誘導性サイトカイン放出を妨げる。IL-2(A)、IFN-γ(B)、TNF-α(C)、IL-6(D)、GM-CSF(E)及びIL-8(F)のレベルを、図26に記載のアッセイの上清中でLuminexによって測定した。3つのうち1つの代表的なドナー。
図31】100nMのダサチニブは、1nMのCD19-TCBによって誘導されるサイトカイン放出を妨げる。IFN-γ(A)、TNF-α(B)、IL-2(C)、IL-6(D)、GM-CSF(E)及びIL-8(F)のレベルを、図26に記載のアッセイの上清中でLuminexによって測定した。n=3のドナーの平均+/-SEM。
図32】ヒト化NSGマウスにおけるCD19-TCB誘導性サイトカイン放出及びB細胞枯渇に対するダサチニブ(50mg/kg)の効果を評価するインビボ実験のタイムライン及び投与スケジュール。ヒト化NSGマウスを、0.5mg/kgのCD19-TCB(i.v.)及び50mg/kgのダサチニブ(p.o.)で1日2回共治療した。CD19-TCBによる治療の1.5時間後、6時間後及び48時間後に、尾静脈出血によって血液を採取した。72時間後、実験終了前に、血液を後眼窩的に採取した。1群あたりN=4のマウス。
図33】ダサチニブは、図32に記載される実験からのマウスの血液におけるCD19-TCB依存性B細胞枯渇を防止する。ビヒクル(A)、0.5mg/kg CD19-TCB(B)、又は0.5mg/kg CD19-TCB及び50mg/kgダサチニブ(C)で治療した動物の血液(48時間)中のヒトCD45+細胞間でゲーティングしたCD20+B細胞の代表的なフローサイトメトリードットプロット。
図34】ダサチニブは、インビボでの治療の48時間後までCD19-TCB依存性B細胞枯渇を防止する。CD20+B細胞のカウントを、48時間後(A)及び72時間後(B)に図32に記載される実験の動物の血液においてフローサイトメトリーによって測定した。n=4マウスの平均+/-SEM。一元配置分散分析、Kruskal Wallis検定、p値:0.1234(ns)、0.0332()、0.0021(**)、0.0001(***)、<0.0001(****)。
図35】ダサチニブは、インビボでCD19-TCB誘導性サイトカイン放出を妨げる。図32に記載の実験において、CD19-TCBによる治療の1.5時間後に採取した血液試料から血清が回収された。IL-2(A)、TNF-α(B)、IFN-γ(C)及びIL-6(D)のレベルをLuminexによって測定する。n=4マウスの平均+/-SEM。一元配置分散分析、Kruskal Wallis検定、p値:0.1234(ns)、0.0332()、0.0021(**)、0.0001(***)、<0.0001(****)。
図36】ダサチニブは、インビボでCD19-TCB誘導性サイトカイン放出を妨げる。図32に記載の実験において、CD19-TCBによる治療の6時間後に採取した血液試料から血清を回収する。IL-2(A)、TNF-α(B)、IFN-γ(C)及びIL-6(D)のレベルをLuminexによって測定する。n=4マウスの平均+/-SEM。一元配置分散分析、Kruskal Wallis検定、p値:0.1234(ns)、0.0332()、0.0021(**)、0.0001(***)、<0.0001(****)。
図37】ヒト化NSGマウスにリンパ腫PDX(500万細胞、皮下)を移植した。腫瘍が200mmに達したとき、腫瘍サイズに基づいてマウスを8頭又は7頭の群にランダム化した。それらをビヒクル(i.v.)、単剤療法としての0.5mg/kg CD19-TCB(i.v.)、20mg/kgダサチニブ(p.o.)で、単独又は0.5mg/kgのCD19-TCB(i.v.)と組み合わせて治療した。ビヒクル、CD19-TCB、及びCD19-TCB+ダサチニブ群の各マウス並びにダサチニブ群のn=4マウスの血清を、CD19-TCBによる最初の治療の6時間後に尾静脈出血によって回収した。
図38図37に記載の実験からの各個々のマウスにおけるサイトカインレベル。Luminexを用いたマルチプレックスサイトカイン分析により、血清中のIFN-γ(A)、TNF-α(B)、IL-2(C)及びIL-6(D)のレベルを測定した。n=6~8マウスの平均+/-SEM(一元配置分散分析によりp≦0.05、**p≦0.01、*** p≦0.001)(Kruskal Wallis検定)。
図39図37に記載の実験からの各個々のマウスの体重減少。体重の変化[%]は、各マウスについてCD19-TCBによる最初の治療前の体重のパーセンテージとして測定される。ボックス及びウィスカは、群あたりn=6~8マウスの最小値~最大値を示す。
図40図37に記載される実験の腫瘍成長曲線。腫瘍成長曲線を、Caliperを用いて測定した腫瘍体積からプロットした(n=6~8マウスの平均+SD、一元配置分散分析により**p≦0.01(Kruskal Wallis検定))。
【実施例
【0217】
実施例
以下は、本発明の方法及び組成物の例である。上に提供された一般的な説明を考慮すると、種々の他の態様が実施されてもよいことが理解される。
【0218】
実施例1.ダサチニブは、薬理学的に適切な用量でのTCB媒介性標的細胞死滅化の強力な阻害剤である
TCB媒介性標的細胞死滅化に対するダサチニブの阻害効果を評価するために、漸増濃度のダサチニブを補充した培地中で末梢血単核細胞(PBMC)、NucLight Red(NLR)標的細胞及びそれぞれのTCBを使用して死滅化アッセイを行った。標的細胞死滅化の読み出しとして、Incucyte(登録商標)システム(Essen Bioscience)を使用して、赤色蛍光タンパク質シグナルの損失を経時的に捕捉した。100nM(48.8ng/mL)及び50nM(24.4ng/mL)の濃度のダサチニブは、1nMのCEA-TCB(配列番号28~47)について標的細胞死滅化のそれぞれ90.4%及び88.2%の阻害、並びに10nMのHLA-A2 WT1-TCB(配列番号1~20)について標的細胞死滅化のそれぞれ86.5%及び89.0%の阻害をもたらした(図1)。12.5nMの濃度のダサチニブは、1nMのCEA-TCBについて標的細胞死滅化の69%の阻害及び10nMのHLA-A2 WT-1-TCBについて標的細胞死滅化の78.2%の阻害をもたらした。12.5nM未満の濃度では、1nMのCEA-TCB及び10nMのHLA-A2 WT-1-TCBと組み合わせたダサチニブは、死滅化を部分的にのみ阻害した(図1)。さらに、1nMのCEA-TCBにおいて、12.5nMを超える濃度のダサチニブによる治療は、より低い濃度のダサチニブ及びダサチニブを添加しなかった場合の陽性対照とは対照的に、IFN-γ、IL-2及びTNF-αの放出を妨げた(図2)。全体として、このデータは、ダサチニブが、12.5nMのインビトロ濃度の閾値を超える両方のTCBで刺激されたPBMCによって引き起こされるT細胞媒介性標的細胞溶解を効率的に防止することができることを示唆している。
【0219】
次いで、標的細胞死滅化の阻害をもたらすダサチニブのインビトロ用量が、ダサチニブについて承認された用量スケジュールを使用して得られる薬理学的に活性な用量の1つに変換されるかどうかを検証した。したがって、本発明者らは、インビトロ用量を、ダサチニブの異なる標識薬理学的用量に曝露された患者におけるPKパラメータCmin、Cmax及び定常状態濃度と比較した。Wangらは、100mgダサチニブQDで治療された146人の患者に由来するPKパラメータが、2.61ng/mLのCmin値及び54.6ng/mLのCmax値に関連することを報告した(Wang et al.,Clinical Pharmacology:advances and applications(2013)5,85-97)。したがって、12.5nM(6ng/mL)のインビトロ用量は、ダサチニブが望ましくないTCB媒介性標的細胞死滅化を防ぐための薬理学的標識用量で有効であるように、患者において1日1回(QD)の100mgのダサチニブ投薬レジメンに変換可能であると思われる。
【0220】
実施例2.ダサチニブはTCB誘導性T細胞機能を急速にオフにする
ダサチニブが活性化T細胞の迅速かつ強力な阻害剤として作用し得るかどうかを評価するために、本発明者らはまず、SKM-1腫瘍細胞上のPBMCをHLA-A2 WT-1-TCBで24時間刺激した。次いで、本発明者らは、これらの活性化エフェクター細胞に100nMダサチニブを補充した(図3)。24時間でのCD8+及びCD4+T細胞上のCD69及びCD25の発現は、10nMのHLA-A2 WT-1 TCBで刺激されたT細胞について部分的に活性化された表現型を示した(図4)。IFN-γ、TNF-α及びIL-2もまた、10nMのHLA-A2 WT-1-TCBによる活性化の24時間後にこれらの死滅化アッセイの上清中に見出され、T細胞活性化を明らかにした(図5)。
【0221】
24時間で100nMのダサチニブを添加すると、48時間でのCD4+及びCD8+T細胞上の初期活性化マーカーCD69及び後期活性化マーカーCD25の発現は、ダサチニブ治療を受けていない試料において24時間で測定された発現と48時間で測定された発現との間の中間レベルで見出された(図4)。ダサチニブで処理しなかった試料と比較して48時間で測定したCD4+及びCD8+T細胞上のCD25及びCD69発現は、100nMダサチニブの添加が表現型活性化マーカーの発現を迅速にブロックしたことを強調している。
【0222】
本発明者らはまた、T細胞媒介性サイトカイン放出に対するダサチニブの影響を評価するために、48時間で死滅化アッセイの上清に見られるサイトカインレベルを調べた。興味深いことに、48時間でダサチニブを受けなかった陽性対照とは対照的に、24時間(0nMダサチニブ)及び48時間(100nMダサチニブ)で測定されたIFN-γ、TNF-α及びIL-2レベルについて差は観察されなかった(図5)。これは、24時間での100nMダサチニブの添加が、活性化T細胞からのサイトカインの放出を迅速に防止したことを示す。
【0223】
さらに、本発明者らは、フローサイトメトリーによってCellTrace(商標)バイオレット(CTV)色素の希釈ピークを測定することによって、死滅化アッセイにおいて100nMダサチニブを添加した120時間後にT細胞増殖を評価した。図6に示されるように、10nMのHLA-A2 WT-1-TCB及び100nMダサチニブによる治療は、10nMのHLA-A2 WT-1-TCBのみで治療された陽性対照と比較して、CD4+T細胞に対してより強い効果でCD4+及びCD8+の増殖ピークを遅延させた。24時間でのダサチニブの系への添加は、増殖ピークが観察されなかった陰性対照SKM-1標的細胞及びPBMC(図6の上のトレース)と比較した場合、T細胞の部分的増殖をもたらした。これらの初期増殖ピークは、100nMダサチニブの非存在下での活性化の最初の24時間にわたって誘導された。さらに、CD4+及びCD8+T細胞のカウントは、100nMダサチニブで処理しなかった陽性対照試料では、100nMダサチニブで処理した試料よりも有意に高かった(図7)。CD8+T細胞のカウントは、SKM-1細胞及びPBMC陰性対照試料よりも100nMダサチニブで処理した試料において高かった(図7B)。CD4+T細胞のカウントは、SKM-1細胞及びPBMC陰性対照試料よりも100nMダサチニブで処理した試料において高くなかった(図7A)。全体として、これは、100nMのダサチニブが、CD8+T細胞よりもCD4+T細胞に対して強い影響でTCB誘導性T細胞増殖を阻害したことを示している。
【0224】
全体として、ダサチニブ治療は、T細胞活性化、サイトカイン放出及び増殖の下方制御を迅速にもたらし、T細胞機能性の喪失を誘導することを示唆した。しかしながら、SKM-1腫瘍細胞のほとんどが24時間後及びダサチニブの添加前に死滅したので、このアッセイは、TCB媒介性標的細胞死滅化に対するダサチニブの効果の評価を可能にしなかった。
【0225】
実施例3.ダサチニブは活性化T細胞のTCB誘導性細胞傷害を防止する
ダサチニブが活性化T細胞によるTCB媒介性標的細胞死滅化を効率的に防止できるかどうかを評価するために、本発明者らは、ON/OFFスイッチを模倣した2つの刺激ステップを用いてインビトロ死滅化アッセイを設定した。1回目の刺激中、ダサチニブの非存在下で、カルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル(CFSE)標識SKM-1腫瘍細胞上のPBMCをHLA-A2 WT-1-TCBで活性化した(オン)。2回目の刺激中、活性化PBMCを死滅化CFSE標識SKM-1腫瘍細胞と共に洗浄し、100nMダサチニブの存在下で、新鮮CTV標識SKM-1腫瘍細胞上でHLA-A2 WT-1-TCBにより再刺激した(オフ)。CFSE及びCTV標識SKM-1腫瘍の使用により、1回目及の刺激び2回目の刺激に使用された腫瘍細胞をフローサイトメトリーにより区別することができた(図8)。1回目の刺激中のHLA-A2-WT-1-TCBによる処理は、CD8+及びCD4+T細胞上の初期及び後期T細胞活性化マーカーCD69及びCD25の上方制御(図9)並びにCFSE標識SKM-1標的細胞の死滅を誘導した(図10及び図11)。一貫して、T細胞は、ダサチニブを系に添加する前に活性化され、機能的であった。CTV標識SKM-1細胞の87.6%は、100nMダサチニブの存在下での10nMのHLA-A2 WT-1 TCBによる2回目の刺激時に生存していたが、CTV標識SKM-1腫瘍細胞の2.04%のみが、ダサチニブの非存在下での10nMのHLA-A2 WT-1-TCBによる再刺激時に生存していた(図10)。活性化T細胞及び死滅化CFSE標識SKM-1腫瘍細胞を新鮮なCTV標識SKM-1腫瘍細胞上でHLA-A2 WT-1-TCBにより再刺激する際に100nMダサチニブを添加すると、陽性対照(オン/オン)とは対照的に、CTV標識SKM-1細胞の死滅化が効果的に防止された(オン/オフ)(図10及び図11)。さらに、T細胞由来のIFN-γ及びIL-2並びにT細胞及び単球由来のTNF-α放出は、陽性対照(オン/オン)と比較して、100nMのダサチニブの存在下での再刺激時に完全に阻害された(図12)。この結果は、ダサチニブが、活性化されたT細胞に対する薬理学的なオン/オフスイッチとして作用し、T細胞機能性並びにT細胞媒介性の標的細胞死滅化を迅速にオフにすることを強調している。ダサチニブがT細胞の細胞傷害をどのように防止し得るかを調べるために、本発明者らは、100nMダサチニブの存在下及び非存在下において10nMのHLA-A2 WT-1-TCBで刺激した後のT細胞脱顆粒の読み出しとしての細胞内染色によって、脱顆粒マーカーCD107aの発現を測定した(図13)。培地に100nMダサチニブを補充した場合、CD4+及びCD8+T細胞のうち、細胞のそれぞれ16.6%及び7.53%がCD107aに対して陽性であり、それぞれたった1.22%及び2.08%のみがCD107aに対して陽性であった(図14)。10nMのHLA-A2 WT-1-TCBによる処理は、CD4+及びCD8+T細胞上のCD107a発現を誘導し、これは、アッセイにおいて100nMダサチニブの添加によって防止された(図15)。T細胞脱顆粒を防止することによって、ダサチニブは、腫瘍細胞の死滅化を担うパーフォリン及びグランザイムBのような細胞傷害性顆粒の放出を抑制することができる。概して、2回目の刺激時の100nMダサチニブの添加は、TCB誘導性のT細胞の細胞毒性をブロックした。
【0226】
CD20を標的とする異なるTCB(CD20-TCB(配列番号28~35、48~59)、1nM)を用いて同様の再刺激実験を行い、1回目の刺激及び2回目の刺激後のZ138標的細胞の死滅を測定した(図23)。HLA-A2 WT-1 TCBで見られるように、この実験では、活性化T細胞及び死滅化CFSE標識標的細胞を新鮮なCTV標識標的細胞上でCD20-TCBにより再刺激する際に100nMダサチニブを添加すると、陽性対照(オン/オン)とは対照的に、CTV標識標的細胞の死滅化が効果的に防止された(オン/オフ)(図24及び図25)。
【0227】
実施例4.ダサチニブはTCB誘導性T細胞活性化を可逆的に停止させる
次に、ダサチニブの効果がその除去時に可逆的であるかどうかを検証した。したがって、本発明者らは、ダサチニブの存在下及び非存在下での2回及び3回の刺激による死滅化アッセイを設定し、Incucyte(登録商標)システムを使用して死滅化動態を追跡した(図16)。各刺激後、エフェクター細胞を洗浄し、ダサチニブの存在下及び非存在下で、新鮮なMKN45 NLR標的細胞上で1nMのCEA TCBにより再刺激して、オフ/オンスイッチ及びオン/オフ/オンスイッチを模倣した。25nMのダサチニブを1回目の刺激中に添加すると死滅阻害をもたらし、その後、2回目の刺激のためのダサチニブ除去時に逆戻りした(オフ/オン)(図17)。IFN-γ、IL-2及びTNF-αは、25nMダサチニブの存在下で1nMのCEA-TCBで1回目に刺激した後の上清には見られず、ダサチニブの存在下でのT細胞由来サイトカイン放出の完全な阻害を示した。しかしながら、25nMのダサチニブの除去及び1nMのCEA-TCBによる再刺激は、IFN-γ、IL-2及びTNF-αの放出をもたらし、T細胞機能性がダサチニブ除去時に回復することを示した(図18)。
【0228】
最後に、ダサチニブの効果が活性化T細胞に対して可逆的であるかどうかを評価した。その結果、本発明者らは、活性化T細胞による死滅化を防ぐために、1nMのCEA-TCBによる2回目の刺激時に25nMのダサチニブを培地に補充し、次いで、死滅化が回復するかどうかを検証するために、1nMのCEA-TCBによる3回目の刺激時にダサチニブを除去した。1回目の刺激の後、1nMのCEA-TCBはMKN45細胞の死滅を誘因し、これはその後、2回目の刺激時に25nMの添加によって阻害され、3回目の刺激時にダサチニブの除去によって回復した(図19)。死滅化アッセイにおける25 nMダサチニブの添加はまた、IFN-γ、IL-2及びTNF-αの放出を妨げた(図20)。本発明者らは、T細胞活性化及び細胞傷害性の予防におけるダサチニブの効果は可逆的であると結論付けた。
【0229】
実施例5.低用量のダサチニブは、TCBによる1回目の刺激及び2回目の刺激時のサイトカイン放出を平衡化する
図21に示されるように、12.5nM及び6.25nMのダサチニブ濃度は、完全な死滅化阻害をもたらさなかったが、TCB誘導性サイトカイン放出を減少させた。T細胞エンゲージング抗体の場合、サイトカイン放出ピークは、1回目の治療時の方がその後の治療後よりも高い。本発明者らは、1回目の刺激時にTCB有効性に最小限の影響しか及ぼさずに低用量のダサチニブがサイトカイン放出を妨げることができるかどうか興味があった。図16に記載されるような死滅化アッセイにおいて、6.25nM及び12.5nMのダサチニブの存在下での1nMのCEA-TCBによる1回目の治療時、及びダサチニブの非存在下での1nMのCEA-TCBによる2回目の治療時のサイトカインレベルを上清において測定した。1回目の刺激中の6.25nM及び12.5nMのダサチニブの存在は、IFN-γ、IL-2及びTNF-αの放出を低下させ(図22)、一方、1nMのCEA-TCBによって誘導される死滅化を部分的にしか阻害しなかった(図21A)。ダサチニブの可逆特性と一致して、2回目の刺激中にダサチニブを除去すると死滅化が回復したが(図21B)、TNF-α、IL-2及びIFN-γのレベルは低いままであった(図22)。このデータは、低用量のダサチニブが、TCBによる1回目の治療時に引き起こされるTCB誘導性サイトカイン放出を防止し得ることを示唆している。また、2回目の刺激時に除去すると、サイトカイン放出が平衡化され、ダサチニブの可逆特性によりTCB誘導性の細胞傷害性が回復し得る。
【0230】
実施例6.ダサチニブは、CD19-TCB誘導性のT細胞の細胞傷害性、T細胞活性化及びサイトカイン放出をインビトロで防止する
ダサチニブが別のTCB、CD19-TCB(配列番号29、31~33、35、64~74、76~78、80)によって誘導されるT細胞の細胞傷害性、T細胞活性化及びサイトカイン放出を防ぐことができるかどうかを評価するために、PBMCをCellTraceViolet(登録商標)(CTV)標識SUDLH-8細胞及び漸増用量のCD19-TCBと共に、100nMのダサチニブの非存在下及び存在下で共培養した(図26)。
【0231】
CTV標識SUDLH-8細胞の死滅化を、Live/Dead Near Infra Red(NIR)色素を使用してフローサイトメトリーによって測定した。結果として、100nMダサチニブの添加は、CD19-TCBによるSUDLH-8腫瘍細胞の死滅化を防止した(図27)。CD69及びCD25の発現を、T細胞活性化の読み出しとしてフローサイトメトリーによってCD4+T細胞(図28)及びCD8+T細胞(図29)で測定した。100nMダサチニブの添加は、CD4+及びCD8+T細胞の活性化を妨げた。最後に、CD19-TCB誘導性サイトカイン放出に対するダサチニブの効果を評価するために、Luminexによるアッセイの上清中のサイトカインレベルを分析した(図30及び31)。死滅化及びT細胞活性化データと一致して、ダサチニブは、IL-2(図30A、31C)、IFN-γ(図30B、31A)、TNF-α(図30C、31B)、IL-6(図30D、31D)、GM-CSF(図30E、31E)及びIL-8(図30F、31F)の放出を妨げた。
【0232】
まとめると、これらのインビトロデータは、ダサチニブがCD19-TCB誘導性のT細胞の細胞傷害性、T細胞活性化及びサイトカイン放出を効率的に防止することを示唆している。
【0233】
実施例7.ダサチニブは、CD19-TCB誘導性のT細胞の細胞傷害性、T細胞活性化及びサイトカイン放出をインビボで防止する
ダサチニブがインビボでCD19-TCB誘導性B細胞枯渇及びサイトカイン放出を防ぐことができるかどうかを検証するために、ヒト化NSGマウスを、図32に示すように、0.5mg/kgのCD19-TCBで治療するか、又は0.5mg/kgのCD19-TCB及び50mg/kgのダサチニブで同時治療した。臨床におけるダサチニブの薬力学的プロファイルを最もよく模倣し、得られた曝露がCD19-TCB誘導性のT細胞の細胞傷害性及びサイトカイン放出を防ぐのに十分であるかどうかを検証するために、ダサチニブを1日2回経口投与した。
【0234】
48時間及び72時間において、マウスから採血し、CD20+B細胞のカウントをフローサイトメトリーによって測定した(図33)。結果として、ダサチニブは、48時間でCD19-TCBによるCD20+B細胞の死滅化を防止したが(図34)、死滅化は72時間で部分的に回復した(図34)。マウスの血液におけるダサチニブの半減期は約6時間であり、ダサチニブの曝露はおそらく、CD19-TCB誘導性のT細胞の細胞傷害性を持続的に防止するのに十分ではなく、CD19-TCBの部分的活性をもたらした。インビトロ観察と一致して、これらのデータは、インビボでのダサチニブの阻害効果が可逆的であることを示唆している。
【0235】
最後に、CD19-TCB及びダサチニブによる治療の1.5時間後及び6時間後にマウスから採血して、Luminexによるサイトカイン測定のために血清を採取した(図35及び36)。両方の時点で、ダサチニブは、CD19-TCB誘導性IL-2(図35A、36A)、TNF-α(図35B、36B)、IFN-γ(図35C、36C)及びIL-6(図35D、36D)を阻害し、ダサチニブがCD19-TCBによるT細胞由来サイトカイン放出を急速にオフにすることを示した。
【0236】
インビトロでの所見と一致して、ダサチニブの活性の迅速な開始は、ヒト化NSGマウスにおけるCD19-TCBの1回目の注入によって誘導されるB細胞枯渇及びサイトカイン放出を防ぐことを可能にする。まとめると、これらのデータは、1日に2回投与した場合に最大48時間にわたってCD19-TCB誘導性のT細胞の細胞傷害性及びサイトカイン放出を防ぐダサチニブの好ましい薬力学的プロファイル、並びにダサチニブの阻害効果の可逆性を実証している。
【0237】
実施例8.ダサチニブの予防的使用は、抗腫瘍効果を維持しながら、TCB媒介性サイトカイン放出を強く防止する。
本発明者らは、リンパ腫患者由来異種移植片(PDX)が移植されたヒト化NSGマウスにおけるCD19-TCB抗腫瘍活性に対するダサチニブを用いた一過性介入の影響を評価した。したがって、マウスをビヒクル、単剤療法としての0.5mg/kg CD19-TCB、又は20mg/kgダサチニブで、単独又は0.5mg/kgのCD19-TCBと組み合わせて治療した(図37)。ダサチニブを、CD19-TCBによる1回目の治療の1時間前及び6時間後に投与し、次いで、サイトカイン放出(主に1回目の注入時に起こる)を防止するために次の2日間にわたって1日2回投与した。さらに、ダサチニブもまた、最終的な残存サイトカイン分泌を防止するために、各後続治療の1時間前に投与された(図37)。
【0238】
図38におけるIFN-γ、TNF-α、IL-2及びIL-6のレベルによって示されるように、ダサチニブは、1回目の注入時にCD19-TCB媒介性サイトカイン放出を強く低下させた。サイトカインレベルの低下は、1回目のCD19-TCB治療の24時間後のより軽度の体重変化に関連し(図39)、ダサチニブがCRS症候を効率的に防止し得ることを示唆した。さらに、ダサチニブの一過性使用は、図40の腫瘍成長曲線によって示されるように、抗腫瘍効果を最小限に妨いだ(しかし有意ではない)。
【0239】
ダサチニブの短いPK/PD特性とCD19-TCBのより長いPK/PD特性との組み合わせにより、その可逆的阻害特性と一致して、ダサチニブは、CD19-TCB抗腫瘍効果を維持しながら、1回目の注入後のサイトカイン放出を強く減少させた。結果として、CD19-TCBはより良好に忍容され、有効性を維持したことから、臨床でのダサチニブの一時的な予防的使用が、TCBの1回目の注入時のCRSの発生を防止し得ることが示唆される。
【0240】
上述の発明を、理解を明確にする目的で、説明及び実施例によって、ある程度詳細に説明してきたが、説明及び実施例は、本発明の範囲を限定するものと解釈すべきではない。本明細書に引用されるすべての特許及び科学文献の開示は、参照によりその全体が明示的に組み込まれる。
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6
図7A
図7B
図8
図9A
図9B
図9C
図9D
図10
図11
図12A
図12B
図12C
図13
図14
図15
図16
図17
図18A
図18B
図18C
図19
図20A
図20B
図20C
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31A
図31B
図31C
図31D
図31E
図31F
図32
図33
図34A
図34B
図35A
図35B
図35C
図35D
図36A
図36B
図36C
図36D
図37
図38A
図38B
図38C
図38D
図39
図40
【配列表】
2023542212000001.app
【国際調査報告】