(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-05
(54)【発明の名称】ジルコニア粒子、及びジルコニア粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 25/02 20060101AFI20230928BHJP
【FI】
C01G25/02
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023525005
(86)(22)【出願日】2020-12-16
(85)【翻訳文提出日】2023-04-25
(86)【国際出願番号】 CN2020136868
(87)【国際公開番号】W WO2022126435
(87)【国際公開日】2022-06-23
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100215935
【氏名又は名称】阿部 茂輝
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【氏名又は名称】宮本 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100188673
【氏名又は名称】成田 友紀
(72)【発明者】
【氏名】ヤン シャオエイ
(72)【発明者】
【氏名】田淵 穣
(72)【発明者】
【氏名】袁 建軍
(72)【発明者】
【氏名】リュウ チェン
(72)【発明者】
【氏名】リ メン
(72)【発明者】
【氏名】チョウ ウエイ
(72)【発明者】
【氏名】カク ケン
【テーマコード(参考)】
4G048
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AB01
4G048AC05
4G048AD04
4G048AE05
(57)【要約】
本発明は、モリブデンを含み、多面体形状を有するジルコニア粒子に関する。前記モリブデンが、前記ジルコニア粒子の表層に偏在していることが好ましい。また、本発明は、ジルコニウム化合物と、モリブデン化合物と、を混合して混合物とし、前記混合物を焼成することを含む、前記ジルコニア粒子の製造方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モリブデンを含み、多面体形状を有するジルコニア粒子。
【請求項2】
前記モリブデンが、前記ジルコニア粒子の表層に偏在している、請求項1に記載のジルコニア粒子。
【請求項3】
前記ジルコニア粒子の[11バー1]面の結晶子径が90nm以上である、請求項1又は2に記載のジルコニア粒子。
【請求項4】
前記ジルコニア粒子の、レーザー回折・散乱法により算出されるメディアン径D
50が0.1~1000μmである、請求項1~3のいずれか一項に記載のジルコニア粒子。
【請求項5】
前記ジルコニア粒子をXRF分析することによって求められる前記ジルコニア粒子100質量%に対するZrO
2含有率(Z
1)が90.0~99.9質量%であり、前記ジルコニア粒子をXRF分析することによって求められる前記ジルコニア粒子100質量%に対するMoO
3含有率(M
1)が0.1~5.0質量%である、請求項1~4のいずれか一項に記載のジルコニア粒子。
【請求項6】
前記ジルコニア粒子をXPS表面分析することによって求められる前記ジルコニア粒子の表層100質量%に対するZrO
2含有率(Z
2)が35.0~98.0質量%であり、前記ジルコニア粒子をXPS表面分析することによって求められる前記ジルコニア粒子の表層100質量%に対するMoO
3含有率(M
2)が2.0~40.0質量%である、請求項1~5のいずれか一項に記載のジルコニア粒子。
【請求項7】
前記ジルコニア粒子をXRF分析することによって求められる前記ジルコニア粒子100質量%に対するMoO
3含有率(M
1)に対する、前記ジルコニア粒子をXPS表面分析することによって求められる前記ジルコニア粒子の表層100質量%に対するMoO
3含有率(M
2)の表面偏在比(M
2/M
1)が2~80である、請求項1~6のいずれか一項に記載のジルコニア粒子。
【請求項8】
ゼータ電位測定により、電位が0となる等電点のpHが2.0~6.5である、請求項1~7のいずれか一項に記載のジルコニア粒子。
【請求項9】
BET法により求められる比表面積が20m
2/g以下である、請求項1~8のいずれか一項に記載のジルコニア粒子。
【請求項10】
前記ジルコニア粒子の[111]面の結晶子径が90nm以上である、請求項1~9のいずれか一項に記載のジルコニア粒子。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載のジルコニア粒子の製造方法であって、
ジルコニウム化合物と、モリブデン化合物と、を混合して混合物とし、前記混合物を焼成することを含む、ジルコニア粒子の製造方法。
【請求項12】
前記モリブデン化合物が、三酸化モリブデン、モリブデン酸リチウム、モリブデン酸カリウム又はモリブデン酸ナトリウムである、請求項11に記載のジルコニア粒子の製造方法。
【請求項13】
前記混合物を焼成する最高焼成温度が800~1600℃である、請求項11又は12に記載のジルコニア粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジルコニア粒子、及びジルコニア粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化ジルコニウム(すなわち、ジルコニア)は耐磨耗性、高靭性などの機械的強度、化学的安定性、断熱性、耐熱性、高屈折率性などに優れているため多くの用途があり、顔料、塗料、コーティング、研磨剤、電子材料、断熱材、光学材料、化粧品、装飾品、生体材料、触媒などの幅広い領域で利用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、(a)水和ジルコニウムを含む含水スラリーを湿式粉砕する工程、 (b)湿式粉砕後のスラリーに衝撃波を付与して乾燥させる工程、および、(c)乾燥物を焼成する工程を含むジルコニア系酸化物粉末の製造方法が開示されている。
【0004】
特許文献2には、水酸化ジルコニウムにイットリア微粒子粉末又はイットリウム塩類を均一分散させた複合物を作製し、上記複合物に対して1100~1400℃の温度域で熱処理を行うことによりジルコニアを得てから、上記ジルコニアを粉砕してセラミック粉末を得る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-106635号公報
【特許文献2】特開2013-075825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1~2に開示されたジルコニア粒子の製造方法では、水和ジルコニウムを含む含水スラリーにイットリア等の異種金属を加えて、粒子性状を制御することが前提となっている。
【0007】
しかしながら、いずれも、加水分解・縮合挙動を考慮している操作となっておらず、粒子形状を安定して制御できる方法とはなっていない。
【0008】
そこで、本発明は、粒子形状を安定して制御できるジルコニア粒子、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の態様を包含するものである。
[1] モリブデンを含み、多面体形状を有するジルコニア粒子。
[2] 前記モリブデンが、前記ジルコニア粒子の表層に偏在している、前記[1]に記載のジルコニア粒子。
[3] 前記ジルコニア粒子の[11バー1]面の結晶子径が90nm以上である、前記[1]又は[2]に記載のジルコニア粒子。
[4] 前記ジルコニア粒子の、レーザー回折・散乱法により算出されるメディアン径D50が0.1~1000μmである、前記[1]~[3]のいずれか一項に記載のジルコニア粒子。
[5] 前記ジルコニア粒子をXRF分析することによって求められる前記ジルコニア粒子100質量%に対するZrO2含有率(Z1)が90.0~99.9質量%であり、前記ジルコニア粒子をXRF分析することによって求められる前記ジルコニア粒子100質量%に対するMoO3含有率(M1)が0.1~5.0質量%である、前記[1]~[4]のいずれか一項に記載のジルコニア粒子。
[6] 前記ジルコニア粒子をXPS表面分析することによって求められる前記ジルコニア粒子の表層100質量%に対するZrO2含有率(Z2)が35.0~98.0質量%であり、前記ジルコニア粒子をXPS表面分析することによって求められる前記ジルコニア粒子の表層100質量%に対するMoO3含有率(M2)が2.0~40.0質量%である、前記[1]~[5]のいずれか一項に記載のジルコニア粒子。
[7] 前記ジルコニア粒子をXRF分析することによって求められる前記ジルコニア粒子100質量%に対するMoO3含有率(M1)に対する、前記ジルコニア粒子をXPS表面分析することによって求められる前記ジルコニア粒子の表層100質量%に対するMoO3含有率(M2)の表面偏在比(M2/M1)が2~80である、前記[1]~[6]のいずれか一項に記載のジルコニア粒子。
[8] ゼータ電位測定により、電位が0となる等電点のpHが2.0~6.5である、前記[1]~[7]のいずれか一項に記載のジルコニア粒子。
[9] BET法により求められる比表面積が20m2/g以下である、前記[1]~[8]のいずれか一項に記載のジルコニア粒子。
[10] 前記ジルコニア粒子の[111]面の結晶子径が90nm以上である、前記[1]~[9]のいずれか一項に記載のジルコニア粒子。
[11] 前記[1]~[10]のいずれか一項に記載のジルコニア粒子の製造方法であって、
ジルコニウム化合物と、モリブデン化合物と、を混合して混合物とし、前記混合物を焼成することを含む、ジルコニア粒子の製造方法。
[12] 前記モリブデン化合物が、三酸化モリブデン、モリブデン酸リチウム、モリブデン酸カリウム又はモリブデン酸ナトリウムである、前記[11]に記載のジルコニア粒子の製造方法。
[13] 前記混合物を焼成する最高焼成温度が800~1600℃である、前記[11]又は[12]に記載のジルコニア粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、粒子形状を安定して制御できるジルコニア粒子、及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1のジルコニア粒子のSEM写真である。
【
図2A】実施例2のジルコニア粒子のSEM写真である。
【
図2B】実施例2のジルコニア粒子のTEM写真である。
【
図2C】実施例2のジルコニア粒子のTEM写真である。
【
図3】実施例3のジルコニア粒子のSEM写真である。
【
図4】実施例4のジルコニア粒子のSEM写真である。
【
図5】実施例5のジルコニア粒子のSEM写真である。
【
図6】実施例6のジルコニア粒子のSEM写真である。
【
図7】実施例7のジルコニア粒子のSEM写真である。
【
図8】実施例8のジルコニア粒子のSEM写真である。
【
図9】実施例9のジルコニア粒子のSEM写真である。
【
図10】比較例1のジルコニア粒子のSEM写真である。
【
図11】比較例2のジルコニア粒子のSEM写真である。
【
図12】実施例及び比較例のジルコニア粒子のXRD測定の結果を示すグラフである。
【
図13】実施例2のジルコニア粒子の洗浄前及び洗浄後のXRD測定の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<ジルコニア粒子>
本実施形態のジルコニア粒子は、モリブデンを含み、多面体形状を有する。
【0013】
本実施形態のジルコニア粒子は、モリブデンを含んでおり、後述するジルコニア粒子の製造方法において、モリブデンの配合量や存在状態を制御することにより、多面体形状に粒子形状を安定して制御でき、使用する用途に応じたジルコニア粒子の粒子径の大きさ、形状、物性や性能等を任意に調整することができる。
【0014】
本明細書において、ジルコニア粒子の粒子形状を制御することとは、製造されたジルコニア粒子が無定形状では無いことを意味する。本明細書において、粒子形状の制御されたジルコニア粒子とは、粒子形状が無定形では無いジルコニア粒子を意味する。
【0015】
実施形態の製造方法により製造された一実施形態のジルコニア粒子は、後述の実施例に示されるように、多面体形状特有の自形を有することができる。
【0016】
なお、本明細書において、「多面体形状」とは、6面体以上、好ましくは8面体以上、より好ましくは10~30面体であることを意味する。
【0017】
本実施形態のジルコニア粒子において、前記モリブデンが、前記ジルコニア粒子の表層に偏在していることが好ましい。
【0018】
ここで、「表層」とは実施形態に係るジルコニア粒子の表面から10nm以内のことをいう。この距離は、実施例において計測に用いたXPSの検出深さに対応する。
【0019】
ここで「表層に偏在」するとは、前記表層における単位体積あたりのモリブデン又はモリブデン化合物の質量が、前記表層以外における単位体積あたりのモリブデン又はモリブデン化合物の質量よりも多い状態をいう。
【0020】
本実施形態のジルコニア粒子において、モリブデンが前記ジルコニア粒子の表層に偏在していることは、後述する実施例において示すように、前記ジルコニア粒子をXPS表面分析することによって求められる前記ジルコニア粒子の表層100質量%に対するMoO3含有率(M2)が、前記ジルコニア粒子をXRF分析することによって求められる前記ジルコニア粒子100質量%に対するMoO3含有率(M1)よりも多いことで確認することができる。
【0021】
モリブデン又はモリブデン化合物を表層に偏在させることで、表層だけでなく表層以外(内層)にもモリブデン又はモリブデン化合物を存在させる場合に比べて、分散安定性に優れるジルコニア粒子にすることができる。
【0022】
本実施形態のジルコニア粒子の[11バー1]面の結晶子径は、好ましくは90nm以上であり、より好ましくは95nm以上であり、さらに好ましくは100nm以上である。本実施形態のジルコニア粒子の[11バー1]面の結晶子径は450nm以下であってもよく、400nm以下であってもよく、350nm以下であってもよい。本実施形態のジルコニア粒子の[11バー1]面の結晶子径は90nm以上450nm以下であってもよく、好ましくは95nm以上400nm以下であり、より好ましくは100nm以上350nm以下である。
【0023】
本明細書において、ジルコニア粒子の[11バー1]面の結晶子径とは、X線回折法(XRD法)を用いて測定された[11バー1]面に帰属されるピーク(すなわち、2θ=28.2°付近に出現するピーク)の半値幅からシェラー式を用いて算出された結晶子径の値を採用するものとする。
【0024】
本実施形態のジルコニア粒子は、[11バー1]面の結晶子径を90nm以上と大きくすることができ、結晶性を高く保持でき、大きな平均粒径の多面体形状に制御し易い。
【0025】
本実施形態のジルコニア粒子の[111]面の結晶子径は、好ましくは90nm以上であり、より好ましくは95nm以上であり、さらに好ましくは100nm以上である。本実施形態のジルコニア粒子の[111]面の結晶子径は450nm以下であってもよく、400nm以下であってもよく、350nm以下であってもよい。本実施形態のジルコニア粒子の[111]面の結晶子径は90nm以上450nm以下であってもよく、好ましくは95nm以上400nm以下であり、より好ましくは100nm以上350nm以下である。
【0026】
本明細書において、ジルコニア粒子の[111]面の結晶子径とは、X線回折法(XRD法)を用いて測定された[111]面に帰属されるピーク(すなわち、2θ=31.5°付近に出現するピーク)の半値幅からシェラー式を用いて算出された結晶子径の値を採用するものとする。
【0027】
本実施形態のジルコニア粒子は、[11バー1]面の結晶子径を90nm以上と大きくすることができ、[111]面の結晶子径を90nm以上と大きくすることができ、結晶性を高く保持でき、大きな平均粒径の多面体形状に制御し易い。
【0028】
本実施形態のジルコニア粒子の一次粒子の平均粒径は、0.10~400μmであってもよく、0.10~200μmであってもよく、0.10~100μmであってもよく、0.10~50μmであってもよい。
【0029】
ジルコニア粒子の一次粒子の平均粒径とは、ジルコニア粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影し、二次元画像上の凝集体を構成する最小単位の粒子(すなわち、一次粒子)について、その長径(観察される最も長い部分のフェレ径)と短径(その最も長い部分のフェレ径に対して、垂直な向きの短いフェレ径)を計測し、その平均値を一次粒子径としたとき、少なくとも50個の一次粒子の一次粒子径の平均値を云う。
【0030】
ジルコニア粒子の一次粒子の平均粒径に対する、ジルコニア粒子の[11バー1]面の結晶子径の比は、0.01~1.00であってもよく、0.05~0.90であってもよく、0.10~0.80であってもよく、0.20~0.60であってもよい。
【0031】
本実施形態のジルコニア粒子の、レーザー回折・散乱法により算出されるメディアン径D50は、0.1~1000μmであることが好ましく、0.5~600μmであることが好ましく、1.0~400μmであることがより好ましく、2.0~200μmであることがさらに好ましい。
【0032】
ジルコニア粒子の、レーザー回折・散乱法により算出されるメディアン径D50は、レーザー回折式乾式粒度分布計を用いて、乾式でジルコニア粒子試料の粒子径分布を測定し、体積積算%の分布曲線が50%の横軸と交差する点の粒子径として求めることができる。
【0033】
ジルコニア粒子の一次粒子の平均粒径に対する、ジルコニア粒子のメディアン径D50の比は、0.01~1.00であってもよく、0.01~0.80であってもよく、0.01~0.60であってもよく、0.01~0.40であってもよい。
【0034】
本実施形態のジルコニア粒子は、前記ジルコニア粒子をXRF分析することによって求められる前記ジルコニア粒子100質量%に対するZrO2含有率(Z1)が90.0~99.9質量%であることが好ましく、前記ジルコニア粒子をXRF分析することによって求められる前記ジルコニア粒子100質量%に対するMoO3含有率(M1)が0.1~5.0質量%であることが好ましい。
【0035】
ZrO2含有率(Z1)及びMoO3含有率(M1)は、例えば、株式会社リガク製蛍光X線分析装置(PrimusIV)を用いて、XRF(蛍光X線)分析することにより、測定することができる。
【0036】
本実施形態のジルコニア粒子は、前記ジルコニア粒子をXPS表面分析することによって求められる前記ジルコニア粒子の表層100質量%に対するZrO2含有率(Z2)が35.0~98.0質量%であることが好ましく、前記ジルコニア粒子をXPS表面分析することによって求められる前記ジルコニア粒子の表層100質量%に対するMoO3含有率(M2)が2.0~40.0質量%であることが好ましい。
【0037】
本実施形態のジルコニア粒子は、さらに、リチウム、カリウム、ナトリウム又は珪素を含んでいてもよい。
【0038】
本実施形態のジルコニア粒子は、前記ジルコニア粒子をXRF分析することによって求められる前記ジルコニア粒子100質量%に対するMoO3含有率(M1)に対する、前記ジルコニア粒子をXPS表面分析することによって求められる前記ジルコニア粒子の表層100質量%に対するMoO3含有率(M2)の表面偏在比(M2/M1)が2~80であることが好ましい。
【0039】
本実施形態のジルコニア粒子は、通常のジルコニア粒子に比べて、ゼータ電位測定により電位ゼロとなる等電点のpHがより酸性側にシフトしている。
【0040】
本実施形態のジルコニア粒子の等電点のpHは、例えば2.0~6.5の範囲であり、2.5~5の範囲であることが好ましく、2.9~4の範囲であることがより好ましい。等電点のpHが上記範囲内にあるジルコニア粒子は、静電反発力が高く、それ自体で分散媒体に配合した際の分散安定性を高めることができる。
【0041】
本実施形態のジルコニア粒子の、BET法により求められる比表面積は、20m2/g以下であってもよく、15m2/g以下であってもよく、10m2/g以下であってもよい。
【0042】
本実施形態のジルコニア粒子の、BET法により求められる比表面積は、0.01~20m2/gであってもよく、0.1~15m2/gであってもよく、0.2~10m2/gであってもよい。
<ジルコニア粒子の製造方法>
【0043】
本実施形態の製造方法は、前記ジルコニア粒子の製造方法であって、ジルコニウム化合物と、モリブデン化合物と、を混合して混合物とし、前記混合物を焼成することを含む。
【0044】
ジルコニア粒子の好ましい製造方法は、ジルコニウム化合物と、モリブデン化合物と、を混合して混合物とする工程(混合工程)と、前記混合物を焼成する工程(焼成工程)を含む。
[混合工程]
【0045】
混合工程は、ジルコニウム化合物と、モリブデン化合物と、を混合して混合物とする工程である。以下、混合物の内容について説明する。
(ジルコニウム化合物)
【0046】
前記ジルコニウム化合物としては、焼成してジルコニアとなり得る化合物であれば限定されない。前記ジルコニウム化合物として、ジルコニアであってもよく、オキシ水酸化ジルコニウムであってもよく、水酸化ジルコニウムであってもよく、これらに限られない。
(モリブデン化合物)
【0047】
前記モリブデン化合物としては、酸化モリブデン、モリブデン酸塩化合物等が挙げられる。
【0048】
前記酸化モリブデンとしては、二酸化モリブデン、三酸化モリブデン等が挙げられ、三酸化モリブデンが好ましい。
【0049】
前記モリブデン酸塩化合物は、MoO4
2-、Mo2O7
2-、Mo3O10
2-、Mo4O13
2-、Mo5O16
2-、Mo6O19
2-、Mo7O24
6-、Mo8O26
4-等のモリブデンオキソアニオンの塩化合物であれば限定されない。モリブデンオキソアニオンのアルカリ金属塩であってもよく、アルカリ土類金属塩であってもよく、アンモニウム塩であってもよい。
【0050】
前記モリブデン酸塩化合物としては、モリブデンオキソアニオンのアルカリ金属塩が好ましく、モリブデン酸リチウム、モリブデン酸カリウム又はモリブデン酸ナトリウムであることがより好ましく、モリブデン酸カリウム又はモリブデン酸ナトリウムであることがさらに好ましい。
【0051】
モリブデンオキソアニオンのアルカリ金属塩は、焼成温度域でも気化することなく、焼成後に洗浄で、容易に回収できるため、モリブデン化合物が焼成炉外へ放出される量も低減され、生産コストとしても大幅に低減することができる。
【0052】
モリブデン化合物に珪素を含むことができる。その場合、珪素を含むモリブデン化合物がフラックス剤と形状制御剤と両方の役割を果たす。
【0053】
本実施形態のジルコニア粒子の製造方法において、前記モリブデン酸塩化合物は、水和物であってもよい。
【0054】
モリブデン化合物として、三酸化モリブデン、モリブデン酸リチウム、モリブデン酸カリウム又はモリブデン酸ナトリウムであることが好ましく、三酸化モリブデン、モリブデン酸カリウム又はモリブデン酸ナトリウムであることがより好ましい。
【0055】
本実施形態のジルコニア粒子の製造方法において、モリブデン化合物はフラックス剤として用いられる。本明細書中では、以下、フラックス剤としてモリブデン化合物を用いたこの製造方法を単に「フラックス法」ということがある。なお、かかる焼成により、モリブデン化合物がジルコニウム化合物と高温で反応し、モリブデン酸ジルコニウムを形成した後、このモリブデン酸ジルコニウムが、さらに、より高温でジルコニアと酸化モリブデンに分解する際に、モリブデン化合物がジルコニア粒子内に取り込まれるものと考えられる。酸化モリブデンは昇華して、系外に取り除かれるとともに、この過程で、モリブデン化合物とジルコニウム化合物が反応することにより、モリブデン化合物がジルコニア粒子の表層に形成されるものと考えられる。ジルコニア粒子に含まれるモリブデン化合物の生成機構について、より詳しくは、ジルコニア粒子の表層に、モリブデンとZr原子の反応によるMo-O-Zrの形成が起こり、高温焼成することでMoが脱離するとともに、ジルコニア粒子の表層に、酸化モリブデン、又はMo-O-Zr結合を有する化合物等が形成するものと考えられる。
【0056】
ジルコニア粒子に取り込まれない酸化モリブデンは、昇華させることにより回収して、再利用することもできる。こうすることで、ジルコニア粒子の表面に付着する酸化モリブデン量を低減でき、ジルコニア粒子本来の性質を最大限に付与することができる。
【0057】
なお、本発明においては、後記する製造方法において昇華しうる性質を有するものをフラックス剤、昇華し得ないものを形状制御剤と称するものとする。
(形状制御剤)
【0058】
実施形態に係るジルコニア粒子を形成するために、形状制御剤を用いることできる。
【0059】
形状制御剤はモリブデン化合物の存在下で前記混合物を焼成することによるジルコニアの結晶成長に重要な役割を果たす。
【0060】
形状制御剤としては、アルカリ金属の炭酸塩、酸化珪素等が挙げられる。具体的には、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、二酸化珪素等が挙げられる。また、モリブデン酸塩化合物は、フラックス剤及び形状制御剤の両方の役割を果たす。
【0061】
本実施形態のジルコニア粒子の製造方法において、ジルコニウム化合物、及びモリブデン化合物の配合量は、特に限定されるものではないが、好ましくは、前記混合物100質量%に対して、35質量%以上のジルコニウム化合物と、65質量%以下のモリブデン化合物と、を混合して混合物とし、前記混合物を焼成することができる。より好ましくは、前記混合物100質量%に対して、40質量%以上99質量%以下のジルコニウム化合物と、0.5質量%以上60質量%以下のモリブデン化合物と、を混合して混合物とし、前記混合物を焼成することができる。さらに好ましくは、前記混合物100質量%に対して、45質量%以上95質量%以下のジルコニウム化合物と、2質量%以上55質量%以下のモリブデン化合物とを混合して混合物とし、前記混合物を焼成することができる。
【0062】
本実施形態のジルコニア粒子の製造方法は、上記の範囲で各種化合物を使用することで、得られるジルコニア粒子が含むモリブデン化合物の量がより適当なものとすることができ、粒子形状を安定して制御することができる。本実施形態のジルコニア粒子の製造方法は、ジルコニア粒子の[11バー1]面の結晶子径及び[111]面の結晶子径を大きくすることができ、ジルコニア粒子を多面体形状にすることができる。また、本実施形態のジルコニア粒子の製造方法は、ジルコニア粒子の表層にモリブデンを偏在させることができ、ジルコニア粒子の等電点のpHを酸性側にシフトさせることができ、ジルコニア粒子を分散媒体に配合した際の分散安定性を高めることができる。
[焼成工程]
【0063】
焼成工程は、前記混合物を焼成する工程である。実施形態に係る前記ジルコニア粒子は、前記混合物を焼成することで得られる。上記した通り、この製造方法はフラックス法と呼ばれる。
【0064】
フラックス法は、溶液法に分類される。フラックス法とは、より詳細には、結晶-フラックス2成分系状態図が共晶型を示すことを利用した結晶成長の方法である。フラックス法のメカニズムとしては、以下の通りであると推測される。すなわち、溶質およびフラックスの混合物を加熱していくと、溶質およびフラックスは液相となる。この際、フラックスは融剤であるため、換言すれば、溶質-フラックス2成分系状態図が共晶型を示すため、溶質は、その融点よりも低い温度で溶融し、液相を構成することとなる。この状態で、フラックスを蒸発させると、フラックスの濃度は低下し、換言すれば、フラックスによる前記溶質の融点低下効果が低減し、フラックスの蒸発が駆動力となって溶質の結晶成長が起こる(フラックス蒸発法)。なお、溶質およびフラックスは液相を冷却することによっても溶質の結晶成長を起こすことができる(徐冷法)。
【0065】
フラックス法は、融点よりもはるかに低い温度で結晶成長をさせることができる、結晶構造を精密に制御できる、自形をもつ多面体結晶体を形成できる等のメリットを有する。
【0066】
フラックスとしてモリブデン化合物を用いたフラックス法によるジルコニア粒子の製造では、そのメカニズムは必ずしも明らかではないが、例えば、以下のようなメカニズムによるものと推測される。すなわち、モリブデン化合物の存在下でジルコニウム化合物を焼成すると、まず、モリブデン酸ジルコニウムが形成される。この際、当該モリブデン酸ジルコニウムは、上述の説明からも理解されるように、ジルコニアの融点よりも低温でジルコニア結晶を成長させる。そして、例えば、フラックスを蒸発させることで、モリブデン酸ジルコニウムが分解し、結晶成長することでジルコニア粒子を得ることができる。すなわち、モリブデン化合物がフラックスとして機能し、モリブデン酸ジルコニウムという中間体を経由してジルコニア粒子が製造されるのである。
【0067】
さらに形状制御剤を用いた場合の、フラックス法によるジルコニア粒子の製造では、そのメカニズムは必ずしも明らかではない。例えば、形状制御剤としてカリウム化合物を用いた場合、以下のようなメカニズムによるものと推測される。まず、モリブデン化合物とジルコニウム化合物が反応してモリブデン酸ジルコニウムを形成する。そして、例えば、モリブデン酸ジルコニウムが分解して酸化モリブデンとジルコニアとなり、同時に、分解によって得られた酸化モリブデンを含むモリブデン化合物は、カリウム化合物と反応してモリブデン酸カリウムを形成する。当該モリブデン酸カリウムを含むモリブデン化合物の存在下でジルコニアが結晶成長することで、実施形態に係るジルコニア粒子を得ることができる。
【0068】
上記フラックス法により、モリブデンを含み、前記モリブデンがジルコニア粒子の表層に偏在しているジルコニア粒子を製造することができる。
【0069】
焼成の方法は、特に限定はなく、公知慣用の方法で行うことができる。焼成温度が600℃を超えると、ジルコニウム化合物と、モリブデン化合物が反応して、モリブデン酸ジルコニウムを形成する。さらに、焼成温度が800℃以上になると、モリブデン酸ジルコニウム(Zr(MoO4)2)が分解し、形状制御剤の作用でジルコニア粒子を形成する。また、ジルコニア粒子では、モリブデン酸ジルコニウムが分解することで、ジルコニアと酸化モリブデンになる際に、モリブデン化合物がジルコニア粒子内に取り込まれるものと考えられる。
【0070】
また、焼成温度が1000℃以上になると、例えば、形状制御剤としてカリウム化合物を用いた場合、モリブデン酸ジルコニウムの分解により得られるモリブデン化合物(例えば三酸化モリブデン)がカリウム化合物と反応し、モリブデン酸カリウムを形成するものと考えられる。
【0071】
また、焼成する時に、ジルコニウム化合物とモリブデン化合物の状態は特に限定されず、モリブデン化合物がジルコニウム化合物に作用できる同一の空間に存在すれば良い。具体的には、モリブデン化合物とジルコニウム化合物との粉体を混ぜ合わせる簡便な混合、粉砕機等を用いた機械的な混合、乳鉢等を用いた混合であっても良く、乾式状態、湿式状態での混合であっても良い。
【0072】
焼成温度の条件に特に限定は無く、目的とするジルコニア粒子の平均粒子径、ジルコニア粒子におけるモリブデン化合物の形成、分散性等により、適宜、決定される。通常、焼成温度については、最高焼成温度がモリブデン酸ジルコニウム(Zr(MoO4)2)の分解する800℃以上が好ましく、900℃以上がより好ましい。
【0073】
一般的に、焼成後に得られるジルコニアの形状を制御しようとすると、ジルコニアの融点に近い2400℃以上の高温焼成を行う必要があるが、焼成炉へ負担やエネルギーコストの点から、産業上利用する為には大きな課題がある。
【0074】
本発明の製造方法は、1800℃を超えるような高温であっても実施可能であるが、1600℃以下というジルコニアの融点よりかなり低い温度であっても、前駆体の形状にかかわりなく[11バー1]面の結晶子径及び[111]面の結晶子径が大きく、多面体形状のジルコニア粒子を形成することができる。また、モリブデンがジルコニア粒子の表層に偏在し、等電点のpHが従来のジルコニア粒子よりも酸性側にシフトしているので、静電反発力が高く、分散安定性に優れるジルコニア粒子を形成することができる。
【0075】
本発明の一実施形態によれば、最高焼成温度が800~1600℃の条件であっても、[111]面の結晶子径及び[11バー1]面の結晶子径が大きく、分散安定性に優れるジルコニア粒子を低コストで効率的に行うことができる。最高焼成温度が850~1500℃での焼成がより好ましく、最高焼成温度が900~1400℃の範囲の焼成が最も好ましい。
【0076】
昇温速度は、製造効率の観点、及び、仕込み容器(坩堝や匣鉢)が急速な熱膨張によってダメージを受ける懸念を避ける観点から、1~30℃/minが好ましく、2~20℃/minがより好ましく、3~10℃/minがさらに好ましい。
【0077】
焼成の時間については、所定最高焼成温度への昇温時間を15分~10時間の範囲で行い、且つ、所定最高焼成温度に到達した後、保持時間を1~30時間の範囲で行うことが好ましい。ジルコニア粒子の形成を効率的に行うには、2~15時間程度の時間の最高焼成温度の保持時間であることがより好ましい。
【0078】
最高焼成温度800~1600℃かつ2~15時間の最高焼成温度の保持時間の条件を選択することで、モリブデンを含み、前記モリブデンがジルコニア粒子の表層に偏在するジルコニア粒子を容易に得られる。
【0079】
焼成の雰囲気としては、本発明の効果が得られるのであれば特に限定されないが、例えば、空気や酸素といった含酸素雰囲気や、窒素やアルゴン、または二酸化炭素といった不活性雰囲気が好ましく、コストの面を考慮した場合は空気雰囲気がより好ましい。
【0080】
焼成するための装置としても必ずしも限定されず、いわゆる焼成炉を用いることができる。焼成炉は昇華した酸化モリブデンと反応しない材質で構成されていることが好ましく、さらに酸化モリブデンを効率的に利用するように、密閉性の高い焼成炉を用いることが好ましい。
【0081】
こうすることにより、ジルコニア粒子の表面に付着するモリブデン化合物量を低減でき、ジルコニア粒子本来の性質を最大限に付与することができる。
[モリブデン除去工程]
【0082】
本実施形態のジルコニア粒子の製造方法は、焼成工程後、必要に応じてモリブデンの少なくとも一部を除去するモリブデン除去工程をさらに含んでいてもよい。
【0083】
上述のように、焼成時においてモリブデンは昇華を伴うことから、焼成時間、焼成温度等を制御することで、ジルコニア粒子の表層に存在するモリブデン含有量を制御することができ、またジルコニア粒子の表層以外(内層)に存在するモリブデン含有量やその存在状態を制御することができる。
【0084】
モリブデンは、ジルコニア粒子の表面に付着しうる。上記昇華以外の手段として、当該モリブデンは水、アンモニア水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、酸性水溶液で洗浄することにより除去することができる。なお、モリブデンはジルコニア粒子から除去されていなくとも良いが、少なくとも表面のモリブデンは除去した方が、各種バインダーに基づく被分散媒体に分散させて用いる様な際には、ジルコニア本来の性質を充分に発揮でき、表面に存在するモリブデンによる不都合が生じないので好ましい。
【0085】
この際、使用する水、アンモニア水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、酸性水溶液の濃度、使用量、および洗浄部位、洗浄時間等を適宜変更することで、モリブデン含有量を制御することができる。
[粉砕工程]
【0086】
焼成工程を経て得られる焼成物はジルコニア粒子が凝集して、本発明に好適な平均粒径の範囲を満たさない場合がある。そのため、ジルコニア粒子は、必要に応じて、本発明に好適な平均粒径の範囲を満たすように粉砕してもよい。
【0087】
焼成物の粉砕の方法は特に限定されず、ボールミル、ジョークラッシャー、ジェットミル、ディスクミル、スペクトロミル、グラインダー、ミキサーミル等の従来公知の粉砕方法を適用できる。
[分級工程]
【0088】
ジルコニア粒子は、平均粒径を調整し、粉体の流動性を向上するため、またはマトリックスを形成するためのバインダーに配合したときの粘度上昇を抑制するために、好ましくは分級処理される。「分級処理」とは、粒子の大きさによって粒子をグループ分けする操作をいう。
【0089】
分級は湿式、乾式のいずれでも良いが、生産性の観点からは、乾式の分級が好ましい。
【0090】
乾式の分級には、篩による分級のほか、遠心力と流体抗力の差によって分級する風力分級などがあるが、分級精度の観点からは、風力分級が好ましく、コアンダ効果を利用した気流分級機、旋回気流式分級機、強制渦遠心式分級機、半自由渦遠心式分級機などの分級機を用いて行うことができる。
【0091】
上記した粉砕工程や分級工程は、必要な段階において行うことができる。これら粉砕や分級の有無やそれらの条件選定により、例えば、得られるジルコニア粒子の平均粒径を調整することができる。
【0092】
本発明のジルコニア粒子、或いは本発明の製造方法で得るジルコニア粒子は、凝集が少ないもの或いは凝集していないものが、本来の性質を発揮しやすく、それ自体の取扱性により優れており、また分散媒体に分散させて用いる場合において、より分散性に優れる観点から、好ましい。ジルコニア粒子の製造方法においては、上記した粉砕工程や分級工程は行わずに、凝集が少ないもの或いは凝集していないものが得られれば、左記工程を行う必要もなく、目的の優れた性質を有するジルコニア粒子を、生産性高く製造することができるので好ましい。
【実施例】
【0093】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[比較例1]
【0094】
市販の酸化ジルコニウム(関東化学株式会社製試薬、ZrO
2、純度99.0%以上)を、比較例1のジルコニア粒子とした。比較例1のジルコニア粒子のSEM写真を
図9に示す。比較例1のジルコニア粒子は無定形状の凝集融着粒子であった。
[比較例2]
【0095】
(ジルコニア粒子の製造)
【0096】
市販の酸化ジルコニウム(関東化学株式会社製試薬、ZrO2、純度99.0%以上)10.0gを坩堝に入れ、株式会社モトヤマ製加熱炉SC-2045D-SPを使用し、室温から1100℃まで約5℃/minで昇温させ、1100℃で10時間焼成を行った。降温後、坩堝を取り出し、10gの白色粉末を得た。
【0097】
得られた白色粉末の比較例2のジルコニア粒子のSEM写真を
図11に示す。比較例1のジルコニア粒子に比べて、比較例2のジルコニア粒子は、結晶成長して粒子径が大きくなったことが確認できる。また、分散性が悪く凝集している。比較例2のジルコニア粒子は無定形状のままであった。
[実施例1]
【0098】
(ジルコニア粒子の製造)
【0099】
市販の酸化ジルコニウム(関東化学株式会社製試薬、ZrO2、純度99.0%以上)9.5g、及び、三酸化モリブデン(MoO3、日本無機化学株式会社製)0.5gを乳鉢で混合し、混合物を得た。得られた混合物を坩堝に入れ、セラミック電気炉にて1100℃で10時間焼成を行なった。降温後、坩堝を取り出し、9.5gの白色粉末を得た。
【0100】
続いて、得られた前記白色粉末9.0gを0.5%アンモニア水300mLに懸濁させ、スラリーを室温(25~30℃)で3時間攪拌後、精密濾過により濾別し、更に、水洗浄と乾燥を行うことで、粒子表面に残存する酸化モリブデンを除去して、実施例1のジルコニア粒子の白色粉末8.7gを得た。
【0101】
得られた実施例1のジルコニア粒子のSEM(走査型電子顕微鏡)写真を
図1に示す。実施例1のジルコニア粒子は多面体形状を有し、目立った凝集が見られず、比較例1、2のジルコニア粒子に比べて分散性が良い。
[実施例2]
【0102】
(ジルコニア粒子の製造)
【0103】
実施例1において、原料の試薬量を、酸化ジルコニウム(関東化学株式会社製試薬、ZrO2、純度99.0%以上)9.0g、及び、三酸化モリブデン(MoO3、日本無機化学株式会社製)1.0gに変更したこと以外は実施例1と同様に焼成し、実施例1と同様に洗浄して、実施例2のジルコニア粒子の白色粉末を得た。
【0104】
得られた実施例2のジルコニア粒子のSEM(走査型電子顕微鏡)写真を
図2Aに示し、TEM(透過型電子顕微鏡)写真を
図2B及び
図2Cに示す。実施例2のジルコニア粒子は多面体形状を有し、目立った凝集が見られず、比較例1、2のジルコニア粒子に比べて分散性が良い。
[実施例3]
【0105】
(ジルコニア粒子の製造)
【0106】
実施例1において、原料の試薬量を、酸化ジルコニウム(関東化学株式会社製試薬、ZrO2、純度99.0%以上)8.0g、及び、三酸化モリブデン(MoO3、日本無機化学株式会社製)2.0gに変更したこと以外は実施例1と同様に焼成し、実施例1と同様に洗浄して、実施例3のジルコニア粒子の白色粉末を得た。
【0107】
得られた実施例3のジルコニア粒子のSEM写真を
図3に示す。実施例3のジルコニア粒子は多面体形状を有し、目立った凝集が見られず、比較例1、2のジルコニア粒子に比べて分散性が良い。
[実施例4]
【0108】
(ジルコニア粒子の製造)
【0109】
実施例1において、原料の試薬量を、酸化ジルコニウム(関東化学株式会社製試薬、ZrO2、純度99.0%以上)10.0g、及び、三酸化モリブデン(MoO3、日本無機化学株式会社製)10.0gに変更したこと以外は実施例1と同様に焼成し、実施例1と同様に洗浄して、実施例4のジルコニア粒子の白色粉末を得た。
【0110】
得られた実施例4のジルコニア粒子のSEM写真を
図4に示す。多面体形状のジルコニア粒子が観察された。実施例4のジルコニア粒子は多面体形状を有し、目立った凝集が見られず、比較例1、2のジルコニア粒子に比べて分散性が良い。
[実施例5]
【0111】
(ジルコニア粒子の製造)
【0112】
酸化ジルコニウム(関東化学株式会社製試薬、ZrO2、純度99.0%以上)10.0g、及び、モリブデン酸ナトリウム二水和物(Na2MoO4・2H2O、関東化学株式会社製試薬)12gを乳鉢で混合し、混合物を得た。得られた混合物を坩堝に入れ、セラミック電気炉にて1100℃で10時間焼成を行なった。降温後、坩堝を取り出し、20gの白色固体を得た。
【0113】
続いて、得られた前記白色固体を乳鉢で軽く崩し、水300mLに懸濁させ、スラリーを室温(25~30℃)にて3時間撹拌後、精密濾過により濾別し、更に、水洗浄と乾燥を行うことで、モリブデン酸リチウムを除去し、ジルコニア粒子の白色粉末9.4gを得た。
【0114】
得られた実施例5のジルコニア粒子のSEM写真を
図5に示す。実施例5のジルコニア粒子は多面体形状を有し、目立った凝集が見られず、比較例1、2のジルコニア粒子に比べて分散性が良い。
[実施例6]
【0115】
(ジルコニア粒子の製造)
【0116】
実施例5において、モリブデン酸ナトリウム二水和物12gを、モリブデン酸カリウム(K2MoO4、関東化学株式会社製試薬)10gに変更したこと以外実施例5と同様に焼成し、実施例5と同様に洗浄して、ジルコニア粒子の白色粉末を得た。
【0117】
得られた実施例6のジルコニア粒子のSEM写真を
図6に示す。実施例6のジルコニア粒子は多面体形状を有し、目立った凝集が見られず、比較例1、2のジルコニア粒子に比べて分散性が良い。
[実施例7]
【0118】
(ジルコニア粒子の製造)
【0119】
実施例3において、1100℃で10時間焼成を、900℃で10時間焼成に変更したこと以外実施例3と同様に焼成し、実施例3と同様に洗浄して、ジルコニア粒子の白色粉末を得た。
【0120】
得られた実施例7のジルコニア粒子のSEM写真を
図7に示す。実施例7のジルコニア粒子は多面体形状を有し、目立った凝集が見られず、比較例1、2のジルコニア粒子に比べて分散性が良い。
[実施例8]
【0121】
(ジルコニア粒子の製造)
【0122】
実施例5において、1100℃で10時間焼成を、1300℃で24時間焼成に変更したこと以外実施例5と同様に焼成し、実施例5と同様に洗浄して、ジルコニア粒子の白色粉末を得た。
【0123】
得られた実施例8のジルコニア粒子のSEM写真を
図8に示す。実施例8のジルコニア粒子は多面体形状を有し、目立った凝集が見られず、比較例1、2のジルコニア粒子に比べて分散性が良い。
[実施例9]
【0124】
(ジルコニア粒子の製造)
【0125】
実施例8において、モリブデン酸ナトリウム二水和物12gを、モリブデン酸カリウム(K2Mo2O7、関東化学株式会社製試薬)12gに変更したこと以外実施例8と同様に焼成し、実施例8と同様に洗浄して、ジルコニア粒子の白色粉末を得た。
【0126】
得られた実施例9のジルコニア粒子のSEM写真を
図9に示す。実施例9のジルコニア粒子は多面体形状を有し、目立った凝集が見られず、比較例1、2のジルコニア粒子に比べて分散性が良い。
【0127】
【表1】
[ジルコニア粒子の一次粒子の平均粒径の測定]
【0128】
ジルコニア粒子を、走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した。二次元画像上の凝集体を構成する最小単位の粒子(すなわち、一次粒子)について、その長径(観察される最も長い部分のフェレ径)及び短径(その最も長い部分のフェレ径に対して、垂直な向きの短いフェレ径)を計測し、その平均値を一次粒子径とした。長径及び短径を計測することが可能な50個の一次粒子を対象にして、同様の操作を行い、それらの一次粒子の一次粒子径の平均値から、一次粒子の平均粒径を算出した。結果を表2に示す。
[結晶子径の測定]
【0129】
検出器として高強度・高分解能結晶アナライザ(CALSA)を備えるX線回折装置(株式会社リガク製、SmartLab)を用いて、下記の測定条件で粉末X線回折(2θ/θ法)による測定を行った。株式会社リガク製、解析ソフトウエア(PDXL)のCALSA関数を用いて解析し、[11バー1]面の結晶子径について、2θ=28.2°付近に出現するピークの半値幅からシェラー式を用いて算出し、[111]面の結晶子径については、2θ=31.5°付近に出現するピークの半値幅からシェラー式を用いて算出した。結果を表2に示す。
【0130】
(粉末X線回折法の測定条件)
管電圧:45kV
管電流:200mA
スキャンスピード:0.05°/min
スキャン範囲:10~70°
ステップ:0.002°
βs:20rpm
装置標準幅:米国立標準技術研究所が作製している標準シリコン粉末(NIST、640d)を用いて算出した0.026°を使用した。
【0131】
[結晶構造解析:XRD(X線回折)法]
実施例1~2、5~7、10及び比較例1~2のジルコニア粒子の試料を0.5mm深さの測定試料用ホルダーに充填し、それを広角X線回折(XRD)装置(株式会社リガク製 UltimaIV)にセットし、Cu/Kα線、40kV/40mA、スキャンスピード2°/min、走査範囲10~70°の条件で測定を行った。実施例1~2、5~7、比較例1~2のジルコニア粒子のXRD測定の結果を
図12に示す。
【0132】
洗浄前及び洗浄後の、実施例2のジルコニア粒子のXRD測定の結果を
図13に示す。
【0133】
●で示すピークは、モリブデン酸ジルコニウム(Zr(MoO4)2)に由来するピークである。
【0134】
図13より、洗浄前に検出されたモリブデン酸ジルコニウム(Zr(MoO
4)
2)が、洗浄後に洗い流されたことが分かる。
【0135】
2θ=28.2°付近にバデライト(ZrO2)の[11バー1]面の結晶ピークが観測され、2θ=31.5°付近にバデライト(ZrO2)の[111]面の結晶ピークが観測された。すなわち、これらの結晶ピークのパターンは、ジルコニア粒子がバデライト(ZrO2)の結晶構造を有していることを示している。
[ジルコニア粒子の粒度分布測定]
【0136】
レーザー回折式乾式粒度分布計(株式会社日本レーザー製 HELOS(H3355)&RODOS)を用いて、分散圧3bar、引圧90mbarの条件で、乾式でジルコニア粒子試料の粒子径分布を測定し、体積積算%の分布曲線が50%の横軸と交差する点の粒子径をメディアン径D50として求めた。結果を表2に示す。
[ジルコニア粒子の等電点測定]
【0137】
ジルコニア粒子のゼータ電位測定をゼータ電位測定装置(マルバーン社、ゼータサイザーナノZSP)にて行った。試料20mgと10mM KCl水溶液10mLを泡取り錬太郎(シンキー社、ARE-310)にて攪拌・脱泡モードで3分間攪拌し、5分静置した上澄みを測定用試料とした。自動滴定装置により、試料に0.1N HClを加え、pH=2までの範囲でゼータ電位測定を行い(印加電圧100V、Monomodlモード)、電位ゼロとなる等電点のpHを求めた。結果を表2に示す。
[ジルコニア粒子の比表面積測定]
【0138】
ジルコニア粒子の比表面積を、比表面積計(マイクロトラックベル製、BELSORP-mini)にて測定し、BET法による窒素ガスの吸着量から測定された試料1g当たりの表面積を、比表面積(m2/g)として算出した。結果を表2に示す。
[ジルコニア粒子の純度測定:XRF(蛍光X線)分析]
【0139】
蛍光X線分析装置PrimusIV(株式会社リガク製)を用い、ジルコニア粒子の試料約70mgをろ紙にとり、PPフィルムをかぶせて、次の条件でXRF(蛍光X線)分析を行った。
測定条件
EZスキャンモード
測定元素:F~U
測定時間:標準
測定径:10mm
残分(バランス成分):なし
【0140】
XRF分析により得られたジルコニア粒子100質量%に対するZrO2含有率(Z1)、及び、ジルコニア粒子100質量%に対するMoO3含有率(M1)の結果を表2に示す。
[XPS表面分析]
【0141】
ジルコニア粒子の表面元素分析は、アルバック・ファイ社製QUANTERA SXMを用い、X線源に単色化Al-Kαを使用し、X線光電子分光法(XPS:XrayPhotoelectron Spectroscopy)の測定を行った。1000μm四方のエリア測定で、n=3測定の平均値を各元素についてatom%で取得した。そして、XRF結果と比較し易くするため、ジルコニア粒子の表層のジルコニウム含有量及び表層のモリブデン含有量を酸化物換算することにより、ジルコニア粒子の表層100質量%に対するZrO2含有率(Z2)(質量%)及びジルコニア粒子の表層100質量%に対するMoO3含有率(M2)(質量%)を求めた。結果を表2に示す。
【0142】
ジルコニア粒子をXRF分析することによって求められる前記ジルコニア粒子100質量%に対するMoO3含有率(M1)に対する、ジルコニア粒子をXPS表面分析することによって求められるジルコニア粒子の表層100質量%に対するMoO3含有率(M2)の表面偏在比(M2/M1)を計算した。結果を表2に示す。
【0143】
【0144】
実施例1~9のジルコニア粒子では、ジルコニア粒子をXPS表面分析することによって求められる前記ジルコニア粒子の表層100質量%に対するMoO3含有率(M2)が、ジルコニア粒子をXRF分析することによって求められる前記ジルコニア粒子100質量%に対するMoO3含有率(M1)よりも多いことで、モリブデンがジルコニア粒子の表層に偏在していることを確認できた。
【0145】
実施例1~9のジルコニア粒子は、等電点のpHが従来のジルコニア粒子よりも酸性側にシフトしているので、静電反発力が高く、分散安定性に優れる。
【0146】
実施例1~9のジルコニア粒子は、従来のジルコニア粒子とは異なり、モリブデンが前記ジルコニア粒子の表層に偏在しているジルコニア粒子であって、従来のジルコニア粒子よりも、比較的結晶子径が大きい。
[液中分散性試験]
【0147】
次の要領で、液中分散性を試験した。
(1)純水10gに35%塩酸を20mg及びジルコニア粒子の試料0.1gを加えた。
(2)手で30秒間振盪した後、5時間静置した。
(3)5時間静置した後に外観を観察し、次の基準で液中分散性を評価した。
〇 透明な上澄み部がほとんど見られない。
△ 液上部に透明部ができている。
× 粒子がほぼ全て沈降して液が透明になっている。
【0148】
液中分散性の評価結果を表3に示す。
【0149】
【0150】
実施例のジルコニア粒子は、モリブデンが、ジルコニア粒子の表層に偏在しているので、比較例のジルコニア粒子に比べて、液中分散性が優れる。
【産業上の利用可能性】
【0151】
本発明のジルコニア粒子は、燃料電池用途を始めとする電解質、触媒、切削工具の部材などの各種セラミックス原料、光触媒活性を有しない白色顔料、電気炉やロケットなどの断熱材などとして期待できる。
【手続補正書】
【提出日】2023-04-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モリブデンを含み、多面体形状を有
し、[11バー1]面の結晶子径が90nm以上であるジルコニア粒子。
【請求項2】
前記モリブデンが、前記ジルコニア粒子の表層に偏在している、請求項1に記載のジルコニア粒子。
【請求項3】
前記ジルコニア粒子の、レーザー回折・散乱法により算出されるメディアン径D
50が0.1~1000μmである、請求項
1に記載のジルコニア粒子。
【請求項4】
前記ジルコニア粒子をXRF分析することによって求められる前記ジルコニア粒子100質量%に対するZrO
2含有率(Z
1)が90.0~99.9質量%であり、前記ジルコニア粒子をXRF分析することによって求められる前記ジルコニア粒子100質量%に対するMoO
3含有率(M
1)が0.1~5.0質量%である、請求項
1に記載のジルコニア粒子。
【請求項5】
前記ジルコニア粒子をXPS表面分析することによって求められる前記ジルコニア粒子の表層100質量%に対するZrO
2含有率(Z
2)が35.0~98.0質量%であり、前記ジルコニア粒子をXPS表面分析することによって求められる前記ジルコニア粒子の表層100質量%に対するMoO
3含有率(M
2)が2.0~40.0質量%である、請求項
1に記載のジルコニア粒子。
【請求項6】
前記ジルコニア粒子をXRF分析することによって求められる前記ジルコニア粒子100質量%に対するMoO
3含有率(M
1)に対する、前記ジルコニア粒子をXPS表面分析することによって求められる前記ジルコニア粒子の表層100質量%に対するMoO
3含有率(M
2)の表面偏在比(M
2/M
1)が2~80である、請求項
1に記載のジルコニア粒子。
【請求項7】
ゼータ電位測定により、電位が0となる等電点のpHが2.0~6.5である、請求項
1に記載のジルコニア粒子。
【請求項8】
BET法により求められる比表面積が20m
2/g以下である、請求項
1に記載のジルコニア粒子。
【請求項9】
前記ジルコニア粒子の[111]面の結晶子径が90nm以上である、請求項
1に記載のジルコニア粒子。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか一項に記載のジルコニア粒子の製造方法であって、
ジルコニウム化合物と、モリブデン化合物と、を混合して混合物とし、前記混合物を焼成することを含む、ジルコニア粒子の製造方法。
【請求項11】
前記モリブデン化合物が、三酸化モリブデン、モリブデン酸リチウム、モリブデン酸カリウム又はモリブデン酸ナトリウムである、請求項
10に記載のジルコニア粒子の製造方法。
【請求項12】
前記混合物を焼成する最高焼成温度が800~1600℃である、請求項
11に記載のジルコニア粒子の製造方法。
【国際調査報告】