(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-12
(54)【発明の名称】ポリシラザン、およびそれを含むシリカ質膜形成組成物、ならびにそれを用いたシリカ質膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 77/62 20060101AFI20231004BHJP
H01L 21/316 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
C08G77/62
H01L21/316 G
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023515051
(86)(22)【出願日】2021-09-29
(85)【翻訳文提出日】2023-03-03
(86)【国際出願番号】 EP2021076728
(87)【国際公開番号】W WO2022069507
(87)【国際公開日】2022-04-07
(32)【優先日】2020-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591032596
【氏名又は名称】メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D-64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【氏名又は名称】前川 英明
(74)【代理人】
【識別番号】100206265
【氏名又は名称】遠藤 逸子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 勝力
(72)【発明者】
【氏名】岡村 聡也
(72)【発明者】
【氏名】岡安 哲雄
(72)【発明者】
【氏名】トーステン、フォン、スタイン
【テーマコード(参考)】
4J246
5F058
【Fターム(参考)】
4J246AA10
4J246BB080
4J246BB082
4J246BB08X
4J246CA010
4J246CA01X
4J246FA161
4J246FA171
4J246FA321
4J246FA461
4J246FB211
4J246FB213
4J246GA01
4J246GA11
4J246GC60
4J246GD08
4J246HA63
5F058BC02
5F058BF46
5F058BH03
5F058BJ02
5F058BJ06
(57)【要約】
ポリシラザンをキシレンに溶解させた17質量%溶液の1H-NMRを測定した時、キシレンの芳香族環水素の量を基準とした、SiH3の量の比が0.050を越え、NHの量の比が0.045未満であるポリシラザン。ポリシラザンを含んでなるシリカ質膜形成組成物。ポリシラザン組成物を基板に適用することを含んでなるシリカ質膜の製造方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリシラザンをキシレンに溶解させた17質量%溶液の
1H-NMRを測定した時、キシレンの芳香族環水素の量を基準とした、SiH
3の量の比が0.050を越え、NHの量の比が0.045未満であるポリシラザン。
【請求項2】
前記ポリシラザンが、ペルヒドロポリシラザンである、請求項1に記載のポリシラザン。
【請求項3】
前記ポリシラザンが、式(Ia)~(If)で表される基からなる群から選択される繰り返し単位の少なくともいずれか、および式(Ig)で表される末端基を含んでなる、請求項1または2に記載のポリシラザン。
【化1】
【請求項4】
ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定されるポリスチレン換算の質量平均分子量が、3,000~25,000である、請求項1~3のいずれか一項に記載のポリシラザン。
【請求項5】
式(1)で表される少なくとも一つのハロシラン化合物とアンモニアとの反応を比誘電率10.0以下の溶媒中、-30~50℃で行う工程を含んでなる方法で製造された請求項1に記載のポリシラザン。
【化2】
(ここで、
R
1、R
2およびR
3は、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、またはC
1-4アルキルであり、かつ
Xはそれぞれ独立に、F、Cl、Br、またはIである)
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のポリシラザンと、溶媒とを含んでなる、シリカ質膜形成組成物。
【請求項7】
式(1)で表される少なくとも一つのハロシラン化合物とアンモニアとの反応を比誘電率10.0以下の溶媒中、-30~50℃で行う工程を含んでなる請求項1に記載のポリシラザンの製造方法。
【化3】
(ここで、
R
1、R
2およびR
3は、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、またはC
1-4アルキルであり、かつ
Xは、それぞれ独立に、F、Cl、Br、またはIである)
【請求項8】
請求項6に記載のシリカ質膜形成組成物を基材に塗布し、加熱することを含んでなる、シリカ質膜の製造方法。
【請求項9】
前記加熱を水蒸気雰囲気下で行う、請求項8に記載のシリカ質膜の製造方法。
【請求項10】
請求項8または9に記載の方法で製造されたシリカ質膜。
【請求項11】
請求項8または9に記載の方法で製造されたシリカ質膜を含んでなる電子素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリシラザンおよびそれを含むシリカ質膜形成組成物に関するものである。また、本発明は、それらを用いたシリカ質膜の製造方法、およびシリカ質膜、ならびにシリカ質膜を含んでなる電子素子にも関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子デバイス、とりわけ半導体デバイスの製造において、トランジスター素子とビットラインとの間、ビットラインとキャパシターとの間、キャパシターと金属配線との間、複数の金属配線の間などに、層間絶縁膜の形成がなされていることがある。さらに、基板表面などに設けられたアイソレーション溝に絶縁物質が埋設されることがある。さらには、基板表面に半導体素子を形成させた後、封止材料を用いて被覆層を形成させてパッケージにすることがある。このような層間絶縁膜や被覆層は、シリカ質材料から形成されていることが多い。
【0003】
電子デバイスの分野においては、徐々にデバイスルールの微細化が進んでおり、デバイスに組み込まれる各素子間を分離する絶縁構造などの大きさも微細化が要求されている。しかし、絶縁構造の微細化が進むにつれて、トレンチなどの構成するシリカ質膜における欠陥発生が増大してきており、電子デバイスの製造効率が低下する。
【0004】
シリカ質膜の形成方法としては化学気相成長法(CVD法)、ゾルゲル法、ケイ素含有ポリマーを含む組成物を塗布および焼成する方法などが用いられている。これらのうち、比較的簡便であるため、組成物を用いたシリカ質膜の形成方法が採用されることが多い。このようなシリカ質膜を形成させるためには、ポリシラザン、ポリシロキサン、ポリシロキサザン、またはポリシランなどのケイ素含有ポリマーを含む組成物を基板などの表面に塗布し、焼成をすることでポリマーに含まれるケイ素を酸化して、シリカ質膜とする。このような場合において、形成されるシリカ質膜の欠陥を低減する方法が検討されている。たとえば、特定の構造を有するペルヒドロポリシラザンを用いることにより欠陥の少ないシリカ質膜を形成させる方法が検討されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開2015/087847 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、いまだ改良が求められる以下の1以上の課題があることを見出した。
欠陥がより少ないシリカ質膜を形成できるポリシラザンの提供;シリカ質膜への転化時に膜収縮を抑制することができるポリシラザンの提供;シリカ質膜の残留応力を低下させることができるポリシラザンの提供;トレンチ内におけるクラック発生を抑制することができるポリシラザンの提供。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ポリシラザンをキシレンに溶解させた17質量%溶液の1H-NMRを測定した時、キシレンの芳香族環水素の量を基準とした、SiH3の量の比が0.050を越え、NHの量の比が0.045未満であるポリシラザンを提供する。
【0008】
本発明は、上記のポリシラザンと溶媒とを含んでなるシリカ質膜形成組成物を提供する。
【0009】
本発明は、上記のシリカ質膜形成組成物を基材に塗布し、加熱する工程を含んでなるシリカ質膜の製造方法を提供する。
【0010】
本発明は、上記の方法で製造されたシリカ質膜を提供する。
【0011】
本発明は、上記の方法で製造されたシリカ質膜を含んでなる電子素子を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリシラザンは、本明細書に記載される本発明の他の実施形態とともに、以下の1以上の以下の好ましい効果を提供する。
欠陥がより少ないシリカ質膜を形成できる;シリカ質膜への転化時に膜収縮を抑制することができる;シリカ質膜の残留応力を低下させることができる;トレンチ内におけるクラック発生を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[定義]
本明細書において、特に限定されて言及されない限り、以下に記載の定義や例に従う。
単数形は複数形を含み、「1つの」や「その」は「少なくとも1つ」を意味する。ある概念の要素は複数種によって発現されることが可能であり、その量(例えば質量%やモル%)が記載された場合、その量はそれら複数種の和を意味する。
「および/または」は、要素の全ての組み合わせを含み、また単体での使用も含む。
「~」または「-」を用いて数値範囲を示した場合、これらは両方の端点を含み、単位は共通する。例えば、5~25モル%は、5モル%以上25モル%以下を意味する。
「Cx-y」、「Cx~Cy」および「Cx」などの記載は、分子または置換基中の炭素の数を意味する。例えば、C1-6アルキルは、1以上6以下の炭素を有するアルキル鎖(メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル等)を意味する。
ポリマーが複数種類の繰り返し単位を有する場合、これらの繰り返し単位は共重合する。これら共重合は、交互共重合、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合、またはこれらの混在のいずれであってもよい。ポリマーや樹脂を構造式で示す際、括弧に併記されるnやm等は繰り返し数を示す。
温度の単位は摂氏(Celsius)を使用する。例えば、20度とは摂氏20度を意味する。
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0015】
[ポリシラザン]
ポリシラザンは、N-Si結合を繰り返し単位として含むものである。
本発明によるポリシラザンは、分子構造に特徴があり、従来一般的に知られているポリシラザンと比較すると、-SiH3構造が多く、-NH-構造が少ないという特徴がある。このような構造の特徴は、定量的NMRにより検出することができる。すなわち、本発明によるポリシラザンは、定量的NMRにより評価した場合に特定の特性値を示す。具体的には内標準物質と測定対象物質由来の信号の積分値を比較することにより分析を行う(内部標準法)。
本発明によるポリシラザンを、内標準物質としてキシレンに溶解させた17質量%溶液の1H-NMRを測定した時、ポリシラザン分子中のキシレンの芳香族環水素の量を基準とした、SiH3の量の比が、0.050を超え、好ましくは0.055以上であり、より好ましくは0.060以上であり、さらに好ましくは0.070以上であり、NHの量の比が、0.045未満であり、好ましくは0.040以下であり、より好ましくは0.035以下である。
このような構造を有するポリシラザンは、硬化させてシリカ質膜を形成した際に、膜のシュリンクを抑制することができ、また低残留応力のため、トレンチ内部におけるクラックの形成を抑制することもできる。
【0016】
本発明によるポリシラザンは、好ましくはペルヒドロポリシラザン(以下、PHPSともいう)である。PHPSとは、Si-N結合を繰り返し単位として含み、かつSi、N、およびHのみからなる。このPHPSは、Si-N結合を除き、Si、Nに結合する元素がすべてHであり、その他の元素、たとえば炭素や酸素を実質的に含まないものである。
【0017】
本発明によるポリシラザンは、好ましくは、式(Ia)~(If)で表される基からなる群から選択される繰り返し単位の少なくともいずれか、および式(Ig)で表される末端基を含んでなる。
【0018】
【0019】
本発明によるポリシラザンは、より好ましくは、実質的に、式(Ia)~(If)で表される基からなる群から選択される表される繰り返し単位の少なくともいずれか、および式(Ig)で表される末端基からなる。本発明において、実質的にとは、ポリシラザンに含まれる全ての構成単位のうちの95質量%以上が、式(Ia)~(If)で表される基および式(Ig)で表される末端基であることをいう。さらに好ましくは、ポリシラザンが、式(Ia)~(If)で表される基および式(Ig)で表される末端基以外の構成単位を含まない、つまり、式(Ia)~(If)で表される基からなる群から選択される表される繰り返し単位の少なくともいずれか、および式(Ig)で表される末端基からなる。
【0020】
このようなポリシラザンの具体的な部分構造の例は下記に示されるものである。
【化2】
【0021】
本発明によるポリシラザンの質量平均分子量は、好ましくは3,000~25,000である。シリカ質へ転化させる際に、飛散(蒸発)する低分子成分を少なくし、低分子成分の飛散に起因する体積収縮、ひいては微細な溝内部の低密度化を防ぐために、ポリシラザンの質量平均分子量は大きいことが好ましい。一方、ポリシラザンを溶媒に溶解させて組成物とした場合、その組成物の塗布性を高くすることが必要である、具体的には、組成物の粘度が過度に高くなること、および凹凸部への浸透性を確保するために組成物の硬化速度を制御することが必要である。このような観点から、本発明によるポリシラザンの質量平均分子量は、より好ましくは、4,000~22,000であり、さらに好ましくは5,000~20,000である。ここで質量平均分子量とは、ポリスチレン換算重量平均分子量であり、ポリスチレンの基準としてゲル浸透クロマトグラフィーにより測定することができる。
【0022】
[ポリシラザンの製造方法]
本発明によるポリシラザンの製造方法は、例えば、
式(1)で表される少なくとも一つのハロシラン化合物とアンモニアとの反応を、反応溶媒として比誘電率10.0以下の溶媒中、-30~50℃で行う工程を含んでなる。
【化3】
ここで、
R
1、R
2およびR
3は、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、またはC
1-4アルキルであり、好ましくは水素、Cl、Br、またはメチルであり、より好ましくは水素またはClである。
Xは、それぞれ独立に、F、Cl、Br、またはIであり、好ましくはClである。
式(1)で表されるハロシラン化合物の例としては、トリクロロシラン、ジクロロシラン、テトラクロロシラン、モノクロロシラン、ブロモジクロロシラン、ブロモクロロシラン、ジブロモジクロロシラン、トリブロモシラン、ジブロモシラン、テトラブロモシラン、モノブロモシラン、メチルトリクロロシラン、メチルトリブロモシラン、メチルジクロロシラン、メチルジブロモシラン、メチルクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、ジメチルジブロモシラン、メチルブロモシランが挙げられる。これらは、単独で、または組み合わせて使用できる。
【0023】
反応溶媒は、比誘電率10.0以下であり、好ましくは9.0以下であり、ポリシラザンを分解しないものであれば任意のものが使用できる。このようなものとしては、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテートなどのプロピレングリコールアルキルエーテルアセテート類、メチルアセテート、エチルアセテート、イソプロピルアセテート、ブチルアセテート、イソペンチルアセテートなどのエステル類、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、クメン、ビニルベンゼン、テトラリン、ナフタレン、トルイジンなどの芳香族炭化水素類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、アニソール、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、イソペンタン、トリメチルペンタンなどの脂肪族炭化水素類、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、デカリン、シクロヘキセン、ジペンテン、α-ピネンなどの脂環式炭化水素類、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、トリクロロエタン、エチルブロマイド、プロピルブロマイド、イソプロピルクロライド、ブチルクロライド、ジクロロプロパン、テトラクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素類、ジエチルアミン、トリエチルアミン、アニリンなどのアミン類などが挙げられる。好ましくは、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロオクタン、トルエン、キシレンである。
これらの溶媒は、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて用いられる。溶媒の比誘電率は、液体誘電率計 Model871(日本ルフト株式会社)を用いて測定を行う。
比誘電率10.0を超える溶媒(例えば、テトラメチルエチレンジアミン、アミルアミン、メチルエチルケトン、ブチルメチルケトン、シクロヘキサノン、ジエチルケトン、ピリジン、ピコリン)を、比誘電率10.0以下の溶媒と組み合わせて混合溶媒として用いることもできる。
理論には拘束されないが、比誘電率10以下の溶媒を用いることで、主にハロシラン化合物の不均化により形成されるSiH3における脱水素縮合が抑制され、NHにおける脱水素縮合が促進される効果があると考えられる。
【0024】
上記の反応は、前記した溶媒中で-30~50℃、好ましくは-20~30℃の温度範囲で実施される。
反応雰囲気としては、大気の使用が可能であるが、好ましくは、水素雰囲気や、乾燥窒素、乾燥アルゴン等の不活性ガス雰囲気あるいはそれらの混合雰囲気が使用される。反応中に、副生物の水素によって圧力がかかるが、必ずしも加圧は必要でなく、常圧を採用することができる。なお、反応時間は、原料の種類、濃度、溶媒の種類、濃度、重縮合反応温度など諸条件により異なるが、一般的に0.5時間~40時間の範囲とすることができる。
【0025】
上記の工程によって得られるポリシラザンは、すぐれた特性を示すものであり、得られる構造は、例えば上記に例示したものが包含されるが、原料や配合比などに応じて種々の構造を取り得るため、上記の例示以外の構造も取り得ることが考えられる。
【0026】
[シリカ質膜形成組成物]
本発明によるシリカ質膜形成組成物(以下、組成物ということがある)は、本発明によるポリシラザンおよび溶媒を含んでなる。
本発明に用いられる溶媒としては、(a)芳香族化合物、たとえばベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、トリメチルベンゼン、トリエチルベンゼン等、(b)飽和炭化水素化合物、たとえばシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ジペンテン、n-ペンタン、i-ペンタン、n-ヘキサン、i-ヘキサン、n-ヘプタン、i-ヘプタン、n-オクタン、i-オクタン、n-ノナン、i-ノナン、n-デカン、エチルシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘキサン、p-メンタン等、(c)不飽和炭化水素、たとえばシクロヘキセン等、(d)エーテル、たとえばジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、アニソール等、(e)エステル、たとえば酢酸n-ブチル、酢酸i-ブチル、酢酸n-アミル、酢酸i-アミル等、(f)ケトン、たとえばメチルイソブチルケトン(MIBK)等、が挙げられるが、これらに限定はされない。また、複数種の溶媒を使用することにより、ポリシラザンの溶解度や溶媒の蒸発速度を調節することもできる。
【0027】
組成物への溶媒の配合量は、採用する塗布方法により作業性がよくなるように、また微細な溝内への溶液の浸透性や溝外部において必要とされる膜厚を考慮して、用いるポリシラザンの質量平均分子量、その分布及び構造に応じて適宜選定することができる。本発明による組成物は、組成物の総質量を基準として、好ましくは0.10~70質量%、より好ましくは1.0~30質量%のポリシラザンを含む。
【0028】
[シリカ質膜の形成方法]
本発明によるシリカ質膜の形成方法は、本発明による組成物を、基材に塗布し、加熱することを含んでなる。本発明において、「基材に」は、組成物を基材に直接塗布するケースや、組成物を1以上の中間層を介して基材に塗布するケースも含むものとする。
基材の形状は特に限定されず、目的に応じて任意に選択することができる。しかしながら、本発明による組成物は、狭い溝部などにも容易に浸透し、溝の内部においても均一なシリカ質膜を形成できるという特徴があるため、アスペクト比の高い溝部や孔を有する基材に適用することが好ましい。具体的には最深部の幅が0.02μm以下でそのアスペクト比が20以上である溝を少なくとも一つ有する基材などに適用することが好ましい。ここで溝の形状に特に限定はなく、断面が長方形、順テーパー形状、逆テーパー形状、曲面形状、等いずれの形状であってもよい。また、溝の両端部分は開放されていても閉じていてもよい。
【0029】
従来法では、最深部の幅が0.02μm以下でそのアスペクト比が20以上である溝をシリカ質材料で埋封しようとしても、シリカ質への転化時の体積収縮が大きいために溝内部が溝外部よりも低密度化し、溝の内外で材質が均質となるように溝を埋封することが困難であった。これに対して、本発明によると、溝の内外で均一なシリカ質膜を得ることができる。このような本発明の効果は、最深部の幅が0.01μm以下のような非常に微細な溝を有する基材を用いた場合により一層顕著なものとなる。
【0030】
アスペクト比の高い溝を少なくとも一つ有する基材の代表例として、トランジスター素子、ビットライン、キャパシター、等を具備した電子デバイス用基材が挙げられる。このような電子デバイスの製作には、PMDと呼ばれるトランジスター素子とビットラインとの間、トランジスター素子とキャパシターとの間、ビットラインとキャパシターとの間、またはキャパシターと金属配線との間の絶縁膜や、IMDと呼ばれる複数の金属配線間の絶縁膜の形成、或いはアイソレーション溝の埋封、といった工程に続き、微細溝の埋封材料を上下に貫通する孔を形成するスルーホール形成工程が含まれる場合がある。
【0031】
本発明は、アスペクト比の高い基材に対し、その溝の内外で均質なシリカ質材料による埋封が必要とされる他のいずれの用途にも適している。このような用途として、例えば、液晶ガラスのアンダーコート(Na等パッシベーション膜)、液晶カラーフィルターのオーバーコート(絶縁平坦化膜)、フィルム液晶のガスバリヤ、基材(金属、ガラス)のハードコーティング、耐熱・耐酸化コーティング、防汚コーティング、撥水コーティング、親水コーティング、ガラス、プラスチックの紫外線カットコーティング、着色コーティング、が挙げられる。
【0032】
このような基材への硬化用組成物の塗布方法に特に制限はなく、通常の塗布方法、例えば、スピンコート法、浸漬法、スプレー法、転写法、スリットコート法等が挙げられる。
【0033】
硬化用組成物の塗布後、塗膜の乾燥又は予備硬化の目的で、大気中、不活性ガス中又は酸素ガス中で50~400℃の温度で10秒~30分の処理条件による乾燥工程を行う。
乾燥により溶媒は除去され、微細溝は実質的にポリシラザンによって埋封されることになる。
【0034】
本発明によると、溝内外に含まれるポリシラザンを加熱することでシリカ質材料に転化させる。加熱する際に水蒸気雰囲気において加熱することが好ましい。
【0035】
水蒸気雰囲気とは、水蒸気分圧が0.50~101kPaの範囲内にある雰囲気をいい、好ましくは1.0~90kPa、より好ましくは1.5~80kPaの範囲の水蒸気分圧を有する。加熱は300~1200℃の温度範囲で行うことができる。
【0036】
なお、水蒸気を含む雰囲気において高温で、例えば600℃を超える温度で、加熱すると、同時に加熱処理に晒される電子デバイス等の他の要素が存在する場合に当該他の要素への悪影響が懸念されることがある。このような場合には、シリカ転化工程を二段階以上に分け、最初に水蒸気を含む雰囲気において比較的低温で、例えば300~600℃の温度範囲で加熱し、次いで水蒸気を含まない雰囲気においてより高温で、例えば500~1200℃の温度範囲で加熱することができる。
【0037】
水蒸気を含む雰囲気における水蒸気以外の成分(以下、希釈ガスという。)としては任意のガスを使用することができ、具体例として空気、酸素、窒素、ヘリウム、アルゴン、等が挙げられる。希釈ガスは、得られるシリカ質材料の膜質の点では酸素を使用することが好ましい。しかしながら、希釈ガスは、当該加熱処理に晒される電子デバイス等の他の要素への影響をも考慮して適宜選択される。なお、上述の二段階加熱方式における水蒸気を含まない雰囲気としては、上記希釈ガスのいずれかを含む雰囲気の他、1.0kPa未満の減圧または真空雰囲気を採用することもできる。
【0038】
加熱の際の目標温度までの昇温速度及び降温速度に特に制限はないが、一般に1℃~100℃/分の範囲とすることができる。また、目標温度到達後の加熱保持時間にも特に制限はなく、一般に1分~10時間の範囲とすることができる。
【0039】
上記の加熱工程により、ポリシラザンが水蒸気による加水分解反応を経てSi-O結合を主体とするシリカ質材料へ転化する。本発明による組成物を用いてアスペクト比の高い溝を有する基材の表面にシリカ質膜を形成させた場合には、溝の内外のいずれにおいても均質になる。また、本発明の方法によると、CVD法のようなコンフォーマル性がないため、微細溝内部に均一に埋封できる。さらに、従来法ではシリカ膜の高密度化が不十分であったが、本発明の方法によると、シリカ質転化後の膜の高密度化が促進され、クラックが生じにくい。
【0040】
上述したように、本発明によるシリカ質膜はポリシラザンの加水分解反応により得られるため、Si-O結合を主体とするが、転化の程度によって多少のSi-N結合をも含有している。すなわち、シリカ質材料にSi-N結合が含まれているということは、その材料がポリシラザンに由来することを示すものである。具体的には、本発明によるシリカ質膜は、窒素を原子百分率で0.005~5%の範囲で含有する。実際、この窒素含有量を0.005%よりも少なくすることは困難である。窒素の原子百分率は二次イオン質量分析法で測定することができる。
【0041】
なお、本発明によるシリカ質膜の形成方法において、基材表面に形成されるシリカ質膜の厚さ、溝外部の表面に形成された塗膜の厚さに特に制限はなく、一般にはシリカ質材料への転化時に膜にクラックが生じない範囲の任意の厚さとすることができる。上述したように、本発明の方法によると膜厚が0.5μm以上となる場合でも被膜にクラックが生じにくいので、たとえば幅1000nmのコンタクトホールで、2.0μm深さの溝を実質的に欠陥なく埋封することができる。
【0042】
また、本発明による電子素子の製造方法は、上記の製造方法を含んでなるものである。
【実施例】
【0043】
本発明を諸例により説明すると以下の通りである。なお、本発明の態様はこれらの例のみに限定されるものではない。
【0044】
<実施例11:ポリシラザンAの合成>
冷却コンデンサー、メカニカルスターラーと温度制御装置を備えた10L反応容器内部を乾燥窒素で置換した後、乾燥ピリジン1,000mlとキシレン1,500mlの混合溶媒を反応容器に投入し、0℃まで冷却する。混合溶媒の比誘電率は6.70である。溶媒の比誘電率は、液体誘電率計 Model871(日本ルフト株式会社)を用いて測定される。次いでジクロロシラン100gを加え、攪拌しながら溶液を30℃まで昇温する。溶液の温度を30℃に保ち、撹拌しながらこれにゆっくりとアンモニア80gを吹き込む。引き続いて30分間撹拌し続けた後、乾燥窒素を液層に30分間吹き込み、過剰のアンモニアを除去する。得られたスラリー状の生成物を乾燥窒素雰囲気下でテフロン(登録商標)製0.2μmフィルターを用いて加圧濾過を行い、濾液2,000mlを得る。濾液のピリジンを溜去後、キシレンを加え濃度30.2質量%のポリシラザンのキシレン溶液を得る。得られたポリシラザンの質量平均分子量(以下、Mwという)をゲル浸透クロマトグラフィーにより測定を行い、ポリスチレン換算で2,580である。この処方にて得られたポリシラザンを以下、中間体(A)と呼ぶ。
冷却コンデンサー、メカニカルスターラーと温度制御装置を備えた10L反応容器内部を乾燥窒素で置換した後、中間体(A)200gに、ピリジン1,000gおよびキシレン8.0gを加え、ポリシラザン濃度が5.0質量%になるように調製し、窒素ガス0.5NL/minでバブリングを行いながら、均一になるように撹拌する。引き続いて120℃で8時間改質反応を行い、ポリシラザンAを得る。
【0045】
<実施例12:ポリシラザンBの合成>
冷却コンデンサー、メカニカルスターラーと温度制御装置を備えた10L反応容器内部を乾燥窒素で置換した後、乾燥ピリジン750mlとシクロオクタン1,750mlとの混合溶媒を反応容器に投入し、0℃まで冷却する。混合溶媒の比誘電率は5.32である。次いでジクロロシラン95gを加え、反応混合物が0℃以下になったことを確認し、撹拌しながらこれにゆっくりとアンモニア80gを吹き込む。引き続いて30分間撹拌し続けた後、乾燥窒素を液層に30分間吹き込み、過剰のアンモニアを除去する。得られたスラリー状の生成物を乾燥窒素雰囲気下でテフロン(登録商標)製0.2μmフィルターを用いて加圧濾過を行い、濾液1,900mlを得る。濾液の溶媒を溜去後、キシレンを加え濃度29.2質量%のポリシラザンのキシレン溶液を得る。得られたポリシラザンのMwは1,210である。この処方にて得られたポリシラザンを以下、中間体(B)と呼ぶ。
冷却コンデンサー、メカニカルスターラーと温度制御装置を備えた10L反応容器内部を乾燥窒素で置換した後、中間体(B)200gに、ピリジン950gおよびキシレン18.0gを加え、ポリシラザン濃度が5.0質量%になるように調製し、窒素ガス0.5NL/minでバブリングを行いながら、均一になるように撹拌する。引き続いて120℃で8時間改質反応を行い、ポリシラザンBを得る。
【0046】
<実施例13:ポリシラザンCの合成>
冷却コンデンサー、メカニカルスターラーと温度制御装置を備えた10L反応容器内部を乾燥窒素で置換した後、溶媒としてキシレン2,500mlを反応容器に投入し、0℃まで冷却する。溶媒の比誘電率は2.58である。次いでジクロロシラン95gを加え、反応混合物が0℃以下になったことを確認し、撹拌しながらこれにゆっくりとアンモニア80gを吹き込む。引き続いて30分間撹拌し続けた後、乾燥窒素を液層に30分間吹き込み、過剰のアンモニアを除去する。得られたスラリー状の生成物を乾燥窒素雰囲気下でテフロン(登録商標)製0.2μmフィルターを用いて加圧濾過を行い、濾液1,800mlを得る。濾液の溶媒を一部溜去し、濃度29.8質量%のポリシラザンのキシレン溶液を得る。得られたポリシラザンのMwは1,100である。この処方にて得られたポリシラザンを以下、中間体(C)と呼ぶ。
冷却コンデンサー、メカニカルスターラーと温度制御装置を備えた10L反応容器内部を乾燥窒素で置換した後、中間体(C)200gに、ピリジン980gおよびキシレン12.0gを加え、ポリシラザン濃度が5.0質量%になるように調製し、窒素ガス0.5NL/minでバブリングを行いながら、均一になるように撹拌する。引き続いて120℃で8時間改質反応を行い、ポリシラザンCを得る。
【0047】
<実施例14:ポリシラザンDの合成>
冷却コンデンサー、メカニカルスターラーと温度制御装置を備えた10L反応容器内部を乾燥窒素で置換した後、溶媒としてシクロオクタン2,500mlを反応容器に投入し、0℃まで冷却する。溶媒の比誘電率は2.15である。次いでジクロロシラン95gを加え、攪拌しながら溶液を30℃まで昇温する。溶液の温度を30℃に保ち、撹拌しながらこれにゆっくりとアンモニア80gを吹き込む。引き続いて30分間撹拌し続けた後、乾燥窒素を液層に30分間吹き込み、過剰のアンモニアを除去する。得られたスラリー状の生成物を乾燥窒素雰囲気下でテフロン(登録商標)製0.2μmフィルターを用いて加圧濾過を行い、濾液2,000mlを得る。濾液の溶媒を溜去し、キシレンを加えて濃度30.2質量%のポリシラザンのキシレン溶液を得る。得られたポリシラザンのMwは1,420である。この処方にて得られたポリシラザンを以下、中間体(D)と呼ぶ。
冷却コンデンサー、メカニカルスターラーと温度制御装置を備えた10L反応容器内部を乾燥窒素で置換した後、中間体(D)180gに、ピリジン900gおよびキシレン7.2gを加え、ポリシラザン濃度が5.0質量%になるように調製し、窒素ガス0.5NL/minでバブリングを行いながら、均一になるように撹拌する。引き続いて120℃で8時間改質反応を行い、ポリシラザンDを得る。
【0048】
<実施例15:ポリシラザンEの合成>
冷却コンデンサー、メカニカルスターラーと温度制御装置を備えた10L反応容器内部を乾燥窒素で置換した後、溶媒としてメチルシクロヘキサン2,500mlを反応容器に投入し、-20℃まで冷却する。溶媒の比誘電率は1.99である。次いでジクロロシラン95gを加え、反応混合物が-20℃以下になったことを確認し、撹拌しながらこれにゆっくりとアンモニア80gを吹き込む。引き続いて30分間撹拌し続けた後、乾燥窒素を液層に30分間吹き込み、過剰のアンモニアを除去する。得られたスラリー状の生成物を乾燥窒素雰囲気下でテフロン(登録商標)製0.2μmフィルターを用いて加圧濾過を行い、濾液1,800mlを得る。濾液の溶媒を溜去し、キシレンを加えて濃度29.8質量%のポリシラザンのキシレン溶液を得る。得られたポリシラザンのMwは950である。この処方にて得られたポリシラザンを以下、中間体(E)と呼ぶ。
冷却コンデンサー、メカニカルスターラーと温度制御装置を備えた10L反応容器内部を乾燥窒素で置換した後、中間体(E)160gに、ピリジン850gを加え、ポリシラザン濃度が4.7質量%になるように調製し、窒素ガス0.5NL/minでバブリングを行いながら、均一になるように撹拌する。引き続いて120℃で8時間改質反応を行い、ポリシラザンEを得る。
【0049】
<実施例16:ポリシラザンFの合成>
冷却コンデンサー、メカニカルスターラーと温度制御装置を備えた10L反応容器内部を乾燥窒素で置換した後、溶媒としてn-オクタン2,500mlを反応容器に投入し、0℃まで冷却する。溶媒の比誘電率は1.96である。次いでジクロロシラン95gを加え、反応混合物が0℃以下になったことを確認し、撹拌しながらこれにゆっくりとアンモニア80gを吹き込む。引き続いて30分間撹拌し続けた後、乾燥窒素を液層に30分間吹き込み、過剰のアンモニアを除去する。得られたスラリー状の生成物を乾燥窒素雰囲気下でテフロン(登録商標)製0.2μmフィルターを用いて加圧濾過を行い、濾液1,800mlを得る。濾液の溶媒を溜去し、キシレンを加えて濃度30.1質量%のポリシラザンのキシレン溶液を得る。得られたポリシラザンのMwは1220である。この処方にて得られたポリシラザンを以下、中間体(F)と呼ぶ。
冷却コンデンサー、メカニカルスターラーと温度制御装置を備えた10L反応容器内部を乾燥窒素で置換した後、中間体(F)180gに、ピリジン980gを加え、ポリシラザン濃度が4.7質量%になるように調製し、窒素ガス0.5NL/minでバブリングを行いながら、均一になるように撹拌する。引き続いて120℃で8時間改質反応を行い、ポリシラザンFを得る。
【0050】
<実施例17:ポリシラザンGの合成>
冷却コンデンサー、メカニカルスターラーと温度制御装置を備えた10L反応容器内部を乾燥窒素で置換した後、テトラメチルエチレンジアミン1000mlとn-ノナン1,500mlの混合溶媒を反応容器に投入し、0℃まで冷却する。混合溶媒の比誘電率は6.26である。次いでジクロロシラン95gを加え、反応混合物が0℃以下になったことを確認し、撹拌しながらこれにゆっくりとアンモニア80gを吹き込む。引き続いて30分間撹拌し続けた後、乾燥窒素を液層に30分間吹き込み、過剰のアンモニアを除去する。得られたスラリー状の生成物を乾燥窒素雰囲気下でテフロン(登録商標)製0.2μmフィルターを用いて加圧濾過を行い、濾液1,900mlを得る。濾液の溶媒を溜去後、キシレンを加え濃度29.5質量%のポリシラザンのキシレン溶液を得る。得られたポリシラザンのMwは1280である。この処方にて得られたポリシラザンを以下、中間体(G)と呼ぶ。
冷却コンデンサー、メカニカルスターラーと温度制御装置を備えた10L反応容器内部を乾燥窒素で置換した後、中間体(G)200gに、ピリジン1000gおよびキシレン30gを加え、ポリシラザン濃度が4.8質量%になるように調製し、窒素ガス0.5NL/minでバブリングを行いながら、均一になるように撹拌する。引き続いて120℃で8時間改質反応を行い、ポリシラザンGを得る。
【0051】
<比較例1:ポリシラザンXの合成>
冷却コンデンサー、メカニカルスターラーと温度制御装置を備えた10L反応容器内部を乾燥窒素で置換した後、溶媒として、乾燥ピリジン2,500mlを反応容器に投入し、0℃まで冷却する。溶媒の比誘電率は12.5である。次いでジクロロシラン100gを加えると白色固体状のアダクト(SiH2Cl2・2C5H5N))が生成する。反応混合物が0℃以下になったことを確認し、撹拌しながらこれにゆっくりとアンモニア80gを吹き込む。引き続いて30分間撹拌し続けた後、乾燥窒素を液層に30分間吹き込み、過剰のアンモニアを除去する。得られたスラリー状の生成物を乾燥窒素雰囲気下でテフロン(登録商標)製0.2μmフィルターを用いて加圧濾過を行い、濾液2,300mlを得る。エバポレーターを用いてピリジンを留去し、キシレンを加えて濃度29.8質量%のポリシラザンのキシレン溶液を得る。得られたポリシラザンの質量平均分子量(以下、Mwという)をゲル浸透クロマトグラフィーにより測定を行い、ポリスチレン換算で1230である。この処方にて得られたポリシラザンを以下、中間体(X)と呼ぶ。
冷却コンデンサー、メカニカルスターラーと温度制御装置を備えた10L反応容器内部を乾燥窒素で置換した後、乾燥ピリジン1,000gと上記で得られた濃度29.8質量%の中間体(X)200gを投入し、窒素ガス0.5NL/minでバブリングを行いながら、均一になるように撹拌する。引き続いて120℃で8時間改質反応を行い、ポリシラザンXを得る。
【0052】
[質量平均分子分子量]
得られたポリシラザンの質量平均分子量を、ポリスチレンを基準としてゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定する。GPCは、allianceTM e2695型高速GPCシステム(日本ウォーターズ株式会社)およびSuper Multipore HZ-N型GPCカラム(東ソー株式会社)を用いて測定を行う。測定は、単分散ポリスチレンを標準試料とし、クロロホルムを展開溶媒として、流量0.6ミリリットル/分、カラム温度40℃の測定条件で行った上で、標準試料への相対分子量として質量平均分子量を算出する。
得られた結果は表1に記載のとおりである。
【0053】
[
1H-NMR]
1H-NMRの測定は、得られたポリシラザンをキシレンに溶解させてポリシラザンの濃度が17質量%である試料溶液を用いて行われる。各試料溶液はJNM-ECS400型核磁気共鳴装置(日本電子株式会社)を用いて80回測定され、
1H-NMRスペクトルを得る。キシレンの芳香族環水素の量を基準とした、SiH
3の量、NHの量、およびSiH
1,2の量を測定する。得られた結果は、表1に記載のとおりである。
【表1】
【0054】
<実施例21>
ポリシラザンAをキシレンを用いて塗布液を調製する。スピンコーター1HDX2(ミカサ株式会社製)を用いて、塗布液を4インチ高抵抗n型Siウエハ上に塗布し、スピンドライして、表2に記載の膜厚を有する塗布膜を作製する。膜厚は分光エリプソメーターM-2000V(JA ウーラム社製)にて測定する。フーリエ変換赤外分光光度計FTIR-6600FV(日本分光社製)を用いて、透過法、積算回数:100回、測定温度:室温、測定雰囲気:真空にて測定を行い、赤外吸収スペクトルを得る。得られた赤外吸収スペクトルにおいて、3370cm-1のピーク面積をNHx領域とし、2160cm-1のピーク面積をSiHx領域として測定する。得られた結果は表2に記載のとおりである。表中のNHx/SiHxは、NHx領域/SiHx領域を算出したものである。
これに対して、膜厚を450nmとして、NHx領域、SiHx領域を換算したものを表2に記載する。
【0055】
<実施例22~25および比較例21>
ポリシラザンAを表2のポリシラザンに変更した以外は、実施例21と同様にする。得られた結果は、表2のとおりである。
【表2】
【0056】
<実施例31>
ポリシラザンCと溶媒キシレンを含むシリカ質膜形成組成物をスピンコーターを用いて、シリコンウェハに塗布し、塗膜を形成し、150℃で3分間ベーク(プリベーク)する。プリベーク後の膜厚および屈折率を測定する。
その後、水蒸気雰囲気下で400℃で30分間加熱し、次に、水蒸気雰囲気下で600℃で30分間加熱し、最後に、窒素雰囲気下で850℃で60分間加熱し、塗膜を硬化させ、シリカ質膜を形成する。硬化後のシリカ質膜の膜厚、屈折率、および残留応力を測定する。残留応力は圧縮である。
膜厚の測定方法は上記と同じであり、屈折率は、分光エリプソメーターM-2000V(JA ウーラム社)を用いて、633nmの波長の値である。残留応力は、薄膜応力測定装置FLX-3300-T(東朋テクノロジー)を用いて測定される。
【0057】
<実施例32~34および比較例31>
ポリシラザンCを表3のポリシラザンに変更した以外は、実施例31と同様にする。得られた結果は、表3のとおりである。
【表3】
【0058】
<実施例41>
ポリシラザンBと溶媒キシレンを含むシリカ質膜形成組成物をスピンコーターを用いて、シリコンウェハに塗布し、塗膜を形成し、150℃で3分間ベーク(プリベーク)する。プリベーク後の膜厚および屈折率を測定する。
その後、酸素雰囲気下で300℃で30分間加熱し、次に、水蒸気雰囲気下で300℃で30分間加熱し、次に、水蒸気雰囲気下で500℃で30分間加熱し、最後に、窒素雰囲気下で500℃で60分間加熱し、塗膜を硬化させ、シリカ質膜を形成する。硬化後のシリカ質膜の膜厚および屈折率を測定する。
膜厚および屈折率の測定方法は上記と同じである。得られた結果は表4のとおりである。
【0059】
<実施例42および比較例41>
ポリシラザンBを表4のポリシラザンに変更した以外は、実施例41と同様にする。得られた結果は、表4のとおりである。
【表4】
【0060】
[クラック評価]
ポリシラザンCと溶媒とを含むシリカ質膜形成組成物を、幅8μm深さ9μmのトレンチを有する基材に塗布して、塗膜を形成し、150℃で3分間ベークする。その後、酸素雰囲気下で300℃で30分間加熱し、次に、水蒸気雰囲気下で300℃で30分間加熱し、次に、水蒸気雰囲気下で500℃で30分間加熱し、最後に、窒素雰囲気下で500℃で60分間加熱し、塗膜を硬化させ、シリカ質膜を形成する。この基材の断面形状を走査電子顕微鏡SU8230(日立テクノロジー)を用いて、観察し、クラックの有無を観察すると、30か所観察したうちの全てのトレンチでクラックが確認されない。
一方、ポリシラザンXを用いて、同様に断面観察すると、30か所観察したトレンチのうちの12か所でクラックが確認される。
【国際調査報告】