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特表2023-542875延長されたオープンタイムを有する、ポンプ輸送可能で、熱発泡性の充填材組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-12
(54)【発明の名称】延長されたオープンタイムを有する、ポンプ輸送可能で、熱発泡性の充填材組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/06 20060101AFI20231004BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20231004BHJP
   C08L 33/06 20060101ALI20231004BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20231004BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20231004BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20231004BHJP
   C08J 9/06 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
C08L27/06
C08L63/00 Z
C08L33/06
C08K5/098
C08L21/00
C08K3/013
C08J9/06 CFC
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023516733
(86)(22)【出願日】2021-09-29
(85)【翻訳文提出日】2023-03-14
(86)【国際出願番号】 EP2021076771
(87)【国際公開番号】W WO2022069532
(87)【国際公開日】2022-04-07
(31)【優先権主張番号】20199280.7
(32)【優先日】2020-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506416400
【氏名又は名称】シーカ テクノロジー アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(74)【代理人】
【識別番号】100116975
【弁理士】
【氏名又は名称】礒山 朝美
(72)【発明者】
【氏名】アントーニオ ボーチ
(72)【発明者】
【氏名】ザーラ ハルティナー
(72)【発明者】
【氏名】カール フィリップ ローゼナウ
【テーマコード(参考)】
4F074
4J002
【Fターム(参考)】
4F074AA13A
4F074AA36A
4F074AA64
4F074AC21
4F074AC26
4F074AD10
4F074AD11
4F074AG02
4F074AH01
4F074BA13
4F074BB08
4F074CA25
4F074DA02
4F074DA33
4F074DA35
4J002AC03Y
4J002AC06Y
4J002AC07Y
4J002AC08Y
4J002BD04W
4J002BD05W
4J002BG05W
4J002BG06W
4J002CD04X
4J002CD05X
4J002CD06X
4J002CD07X
4J002CD13X
4J002DE239
4J002DJ019
4J002DJ039
4J002DM009
4J002EG036
4J002EG046
4J002EH097
4J002EH127
4J002EH147
4J002EQ018
4J002EQ028
4J002ET009
4J002ET019
4J002EU119
4J002EU189
4J002EV219
4J002EV268
4J002EW047
4J002FD019
4J002FD027
4J002FD149
4J002FD328
4J002GN00
(57)【要約】
本出願は、液状エポキシ樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂及び/又はアクリル樹脂粉体、並びに16個のC原子又は18個のC原子を含む脂肪酸のアルカリ金属塩であって、このアルカリ金属が、カルシウム又は亜鉛である、少なくとも1種の脂肪酸のアルカリ金属塩の組み合わせをベースとする、ポンプ輸送可能な熱発泡性充填材組成物に向けられている。これらのポンプ輸送可能な充填材物質は、湿潤暴露/貯蔵の後でも、膨張させて、高い膨張率値を有するフォームを与えることができるという利点を備えている。本発明はさらに、このポンプ輸送可能な熱発泡性充填材組成物を用いて密閉空間を充填するための方法、及びこの示された方法を用いて得られる乗物部品も記載している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む、ポンプ輸送可能な熱発泡性充填材組成物:
- 前記ポンプ輸送可能な熱発泡性充填材組成物の合計重量を基準にして、好ましくは、8~30重量%、10~25重量%、好ましくは15~20重量%の量の液状エポキシ樹脂;
- 前記ポンプ輸送可能な熱発泡性充填材組成物の合計重量を基準にして、好ましくは、5~40重量%、8~30重量%、好ましくは10~20重量%の、ポリ塩化ビニル樹脂及び/又はアクリル樹脂粉体、好ましくはポリ塩化ビニル樹脂;
- 前記ポンプ輸送可能な熱発泡性充填材組成物の合計重量を基準にして、好ましくは、1~10重量%、2~8重量%、好ましくは3~6重量%の発泡剤;並びに
- 前記ポンプ輸送可能な熱発泡性充填材組成物の合計重量を基準にして、1~5重量%の、16個のC原子又は18個のC原子を含む脂肪酸のアルカリ金属塩であって、前記アルカリ金属が、カルシウム又は亜鉛である、少なくとも1種の脂肪酸のアルカリ金属塩AMS。
【請求項2】
前記脂肪酸のアルカリ金属塩AMSの量が、前記ポンプ輸送可能な熱発泡性充填材組成物の合計重量を基準にして、1.25~4重量%、好ましくは1.5~3重量%、より好ましくは1.75~2.5重量%、最も好ましくは1.85~2.25重量%である、請求項1に記載のポンプ輸送可能な熱発泡性充填材組成物。
【請求項3】
前記脂肪酸のアルカリ金属塩AMSが、パルミチン酸のカルシウム塩、ステアリン酸のカルシウム塩、オレイン酸のカルシウム塩、及びリノール酸のカルシウム塩からなる群より選択され、好ましくはステアリン酸のカルシウム塩である、請求項1又は2に記載のポンプ輸送可能な熱発泡性充填材組成物。
【請求項4】
前記脂肪酸のアルカリ金属塩AMSが、パルミチン酸の亜鉛塩、ステアリン酸の亜鉛塩、オレイン酸の亜鉛塩、及びリノール酸の亜鉛塩からなる群より選択され、好ましくはステアリン酸の亜鉛塩である、請求項1又は2に記載のポンプ輸送可能な熱発泡性充填材組成物。
【請求項5】
前記液状エポキシ樹脂が、式(I)のものであることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載のポンプ輸送可能な熱発泡性充填材組成物:
【化1】
式中、R’及びR”は、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基であり、sは、0~1、好ましくは0.2未満の平均値を有する。
【請求項6】
ゴム、好ましくは合成ゴム、より好ましくは部分的に架橋された合成ゴム、より好ましくはジエンゴムを、前記組成物の合計重量を基準にして、好ましくは、1~20%、好ましくは3~15重量%、より好ましくは5~10重量%の量でさらに含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のポンプ輸送可能な熱発泡性充填材組成物。
【請求項7】
少なくとも1種の可塑剤、好ましくはフタル酸エステルを、前記ポンプ輸送可能な熱発泡性充填材組成物の合計重量を基準にして、好ましくは、5~40重量%、好ましくは10~30重量%、15~25重量%、特に10~20重量%の量でさらに含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のポンプ輸送可能な熱発泡性充填材組成物。
【請求項8】
前記液状エポキシ樹脂のための硬化剤、好ましくは潜在硬化剤、より好ましくはジシアンジアミドを、前記ポンプ輸送可能な熱発泡性充填材組成物の合計重量を基準にして、好ましくは、0.05~2.0重量%、0.1~1.5重量%、0.2~1.2重量%、0.4~1.0重量%、より好ましくは0.5~0.8重量%の範囲内の量でさらに含む、請求項1~7のいずれか一項に記載のポンプ輸送可能な熱発泡性充填材組成物。
【請求項9】
1種又は複数の充填材、好ましくは無機充填材を、前記ポンプ輸送可能な熱発泡性充填材組成物の合計重量を基準にして、好ましくは、10~55重量%、好ましくは15~45重量%、より好ましくは20~35重量%の量でさらに含む、請求項1~8のいずれか一項に記載のポンプ輸送可能な熱発泡性充填材組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載のポンプ輸送可能な熱発泡性充填材組成物を、前記発泡剤の活性化温度よりも高い温度に加熱することによって得られる、発泡させた充填材。
【請求項11】
99%相対湿度、40℃で3日間の湿潤貯蔵後に、温度160℃で25分間かけて硬化させると、未発泡状態でのその体積を基準にして、400%~1000%、好ましくは450%~900%の膨張率を有し;かつ99%相対湿度、40℃で3日間の湿潤貯蔵後に、温度200℃で40分間かけて硬化させると、未発泡状態でのその体積を基準にして、300%~1000%、好ましくは320%~900%、より好ましくは340%~900%の膨張率を有する、請求項10に記載の充填材。
【請求項12】
密閉空間のための充填材としての、特に乗物部品における密閉空間のための充填材としての、請求項1~9のいずれか一項に記載のポンプ輸送可能な熱発泡性充填材組成物の使用。
【請求項13】
以下の工程を含む、密閉空間を充填するための方法:
- 請求項1~9のいずれか一項に記載のポンプ輸送可能な熱発泡性充填材組成物を、密閉空間の中に装入すること、及び
- 前記ポンプ輸送可能な熱発泡性充填材組成物を含む前記密閉空間を、前記発泡剤の活性化温度よりも高い温度に加熱して、前記充填材を発泡させること。
【請求項14】
前記密閉空間が、乗物部品における密閉空間である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
請求項13又は14に記載の方法によって得られる乗物部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプ輸送可能な熱発泡性充填材組成物に関し、特には、車体要素の閉じた部分たとえば乗物のピラーの中に装入し、次いでベーキング法の加熱により発泡させたときに、乗物の操作の際の騒音を遮断するための遮音材料を形成させるのに好適な、ポンプ輸送可能な熱発泡性充填材組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでは、自動車の騒音に対する遮音性能を改良するため、特には風切音を遮断するためには、二成分系のポンプ輸送可能なポリウレタン及びその他の材料が使用されてきたが、それらは、前もって予め決められた形状の中で発泡させ、次いで閉じた部分たとえば、フロントピラー(Aピラー)、センターピラー(Bピラー)、リアピラー(Cピラー)、ホイールアーチ(タイヤハウス)、又はサイドシルの中に装入されていた。しかしながら、この方法は、使用設備及び使用プロセスが複雑なために、自動車のOEMで実施するのは困難である。いくつかの微少面積のキャビティには、アプリケーターがアクセスできないこともあり得る。
【0003】
また別のタイプの遮音/実現材料は、部分バッフルであって、これは、未発泡の状態で自動車の部品に手作業で取付け、そしてOEMのベーキングプロセスの際に、発泡、膨張させることができる。これらの熱可塑性プラスチックのバッフルとしては、たとえばSikaBaffle 255又はSikaBaffle 450のような市販製品が挙げられるが、それらは、発泡前の約1000~2000%までそれらの体積を膨張させることができる。
【0004】
もっとさらなるタイプの隔離/実現材料は、たとえばSikaBaffle 229のようなテープバッフルであって、それは約800%の体積膨張を示す。上述の部品バッフル又はテープバッフル技術のマイナス面は、それらの材料を、手作業で取付けなければならないことである。OEMにおいては、ロボットでの取付けが、より望ましい。
【0005】
予備発泡させた遮音バッフルに伴う困難さを克服するための新規なアプローチ方法は、ポンプ輸送可能なバッフル原料を使用することであって、それは、注入ノズルの手段によって適用且つ計量することが可能であり、そのため、「要請に従って」容易に使用することができる。たとえば、欧州特許第3281970号明細書には、液状エポキシ樹脂及びポリ塩化ビニル樹脂及び/又はアクリル樹脂粉体の組合せをベースとした、ポンプ輸送可能な熱発泡性充填材組成物が開示されている。それらのポンプ輸送可能な充填材原料は、必要に応じて、慣用される注入装置を使用して適用することが可能であり、そして膨張させて、良好な物理的強度、高い膨張性、及び油の付着した金属基材への良好な接着性を備えたフォームを得ることができるというメリットを備えている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、その充填材組成物を基材に適用した後で、それが湿分(水分)に暴露されると、それが最終的に硬化するより前に、その原料がその湿分を吸収する可能性がある。適用と硬化との間の時間をオープンタイムと呼んでいる。その反応物の中に吸収された水は、それらの組成物の膨張に悪影響を与える。
【0007】
本出願は、これらの問題に取り組んでいる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第一の態様においては、本出願は、以下のものを含む、ポンプ輸送可能な熱発泡性充填材組成物を目的としている:
- そのポンプ輸送可能な熱発泡性充填材組成物の合計重量を基準にして、好ましくは、8~30重量%、10~25重量%、好ましくは15~20重量%の量の液状エポキシ樹脂;
- そのポンプ輸送可能な熱発泡性充填材組成物の合計重量を基準にして、好ましくは、5~40重量%、8~30重量%、好ましくは10~20重量%の、ポリ塩化ビニル樹脂及び/又はアクリル樹脂の粉体、好ましくはポリ塩化ビニル樹脂;
- そのポンプ輸送可能な熱発泡性充填材組成物の合計重量を基準にして、好ましくは、1~10重量%、2~8重量%、好ましくは3~6重量%の発泡剤;並びに
- そのポンプ輸送可能な熱発泡性充填材組成物の合計重量を基準にして、1~5重量%の、16個のC原子又は18個のC原子を含む脂肪酸のアルカリ金属塩であって、そのアルカリ金属が、カルシウム又は亜鉛である、少なくとも1種の脂肪酸のアルカリ金属塩AMS。
【0009】
そのポンプ輸送可能な熱発泡性充填材組成物には、そのポンプ輸送可能な熱発泡性充填材組成物の合計重量を基準にして、1~5重量%の、少なくとも1種の、16個のC原子又は18個のC原子を含む脂肪酸のアルカリ金属塩AMS(ここで、そのアルカリ金属は、カルシウム又は亜鉛である)が含まれる。
【0010】
驚くべきことには、上述の前記脂肪酸のアルカリ金属塩AMSを、表示された量で使用すると、多湿での貯蔵の後でも、高い膨張値が得られるということが見いだされた。1重量%未満の量では、膨張値が不十分となる。このことは、たとえば、例1~例3対例4~例9対例10~例11、それぞれを比較すると分かる。異なった金属イオン、さらには異なった脂肪酸、それぞれステアリン酸を用いてコーティングされた炭酸カルシウムでは、たとえば、例4~例11対例12~例17を比較して見れば分かるように、多湿での貯蔵の後では、満足のいく膨張値には達しない。
【0011】
その少なくとも1種の、16個のC原子又は18個のC原子を含む脂肪酸のアルカリ金属塩AMS(ここで、そのアルカリ金属は、カルシウム又は亜鉛である)が、以下のものからなる群より選択されるのが好ましい:
- 16個のC原子を含む飽和脂肪酸のカルシウム塩、16個のC原子を含む不飽和脂肪酸のカルシウム塩、18個のC原子を含む飽和脂肪酸のカルシウム塩、18個のC原子を含む不飽和脂肪酸のカルシウム塩、
- 16個のC原子を含む飽和脂肪酸の亜鉛塩、16個のC原子を含む不飽和脂肪酸の亜鉛塩、18個のC原子を含む飽和脂肪酸の亜鉛塩、及び18個のC原子を含む不飽和脂肪酸の亜鉛塩。
【0012】
より好ましくは、その少なくとも1種の、16個のC原子又は18個のC原子を含む脂肪酸のアルカリ金属塩AMS(ここで、そのアルカリ金属は、カルシウム又は亜鉛である)が、以下のものからなる群より選択される:
- パルミチン酸のカルシウム塩、パルミトレイン酸のカルシウム塩、サピエン酸のカルシウム塩、ステアリン酸のカルシウム塩、オレイン酸のカルシウム塩、エライジン酸のカルシウム塩、バクセン酸のカルシウム塩、リノール酸のカルシウム塩、リノエライジン酸のカルシウム塩、α-リノール酸のカルシウム塩、
- パルミチン酸の亜鉛塩、パルミトレイン酸の亜鉛塩、サピエン酸の亜鉛塩、ステアリン酸の亜鉛塩、オレイン酸の亜鉛塩、エライジン酸の亜鉛塩、バクセン酸の亜鉛塩、リノール酸の亜鉛塩、リノエライジン酸の亜鉛塩、及びα-リノール酸の亜鉛塩。
【0013】
最も好ましくは、その少なくとも1種の、16個のC原子又は18個のC原子を含む脂肪酸のアルカリ金属塩AMS(ここで、そのアルカリ金属は、カルシウム又は亜鉛である)が、以下のものからなる群より選択される:パルミチン酸のカルシウム塩、ステアリン酸のカルシウム塩、オレイン酸のカルシウム塩、リノール酸のカルシウム塩、パルミチン酸の亜鉛塩、ステアリン酸の亜鉛塩、オレイン酸の亜鉛塩、及びリノール酸の亜鉛塩。
【0014】
最も好ましくは、その少なくとも1種の、16個のC原子又は18個のC原子を含む脂肪酸のアルカリ金属塩AMS(ここで、そのアルカリ金属は、カルシウム又は亜鉛である)が、以下のものからなる群より選択される:ステアリン酸のカルシウム塩及びステアリン酸の亜鉛塩、最も好ましくはステアリン酸のカルシウム塩。
【0015】
その少なくとも1種の、16個のC原子又は18個のC原子を含む脂肪酸のアルカリ金属塩AMSが、カルシウム金属塩であれば、有利となり得る。好ましくは、このカルシウム塩は、パルミチン酸のカルシウム塩、ステアリン酸のカルシウム塩、オレイン酸のカルシウム塩、及びリノール酸のカルシウム塩からなる群より選択され、最も好ましくはステアリン酸のカルシウム塩である。このことは、表3の中、たとえば例4~例9対例10~例11の比較に見られるように、多湿での貯蔵後の発泡させた充填材の座屈フリーで密閉された細孔構造の点で有利である。
【0016】
その少なくとも1種の、16個のC原子又は18個のC原子を含む脂肪酸のアルカリ金属塩AMSが、亜鉛金属塩であれば、これもまた有利となり得る。好ましくは、この亜鉛塩は、パルミチン酸の亜鉛塩、ステアリン酸の亜鉛塩、オレイン酸の亜鉛塩及びリノール酸の亜鉛塩からなる群より選択され、最も好ましくはステアリン酸の亜鉛塩である。
【0017】
このことは、表3の中、たとえば例10~例11対例4~例9の比較に見られるように、多湿での貯蔵後の膨張値がより高い点で、有利である。
【0018】
好ましくは、脂肪酸のアルカリ金属塩AMSの量は、そのポンプ輸送可能な熱発泡性充填材組成物の合計重量を基準にして、1.25~4重量%、好ましくは1.5~3重量%、より好ましくは1.75~2.5重量%、最も好ましくは1.85~2.25重量%である。
【0019】
このことは、表3に見られるように、多湿での貯蔵後の膨張値がより高い点で、有利である。
【0020】
その液状エポキシ樹脂は、液状であるか、又は少なくとも周囲温度(23℃)で流動性がある物質である。当業者には、「反応性希釈剤」として知られているポリエポキシドは、本明細書においては、液状エポキシ樹脂とも呼ばれる。
【0021】
本発明の組成物において使用するのに適した液状エポキシ樹脂としては、式(I)の液状樹脂が挙げられる:
【化1】
式中、R’及びR”は、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基であり、sは、0~1の平均値を有する。
添字sが、0.2未満の平均値を有する式(I)の液状樹脂が好ましい。
【0022】
式(I)の液状エポキシ樹脂は、ビスフェノールA、ビスフェノールF、及びビスフェノールA/Fのジグリシジルエーテルであるが、ここでAは、アセトンを表し、Fはホルムアルデヒドを表すが、それらは、これらのビスフェノールを調製するための反応剤として機能している。したがって、式(I)におけるR’及びR”として、ビスフェノールA液状樹脂は、メチル基を有し、ビスフェノールF液状樹脂は水素原子を有し、そしてビスフェノールA/F液状樹脂は、メチル基と水素原子の両方を有している。ビスフェノールFの場合においては、それは、特には2,4’-及び2,2’-ヒドロキシフェニルメタンから誘導される位置異性体として存在しうる。
【0023】
そのような液状エポキシ樹脂は、たとえば以下のようなものとして市販されている:Araldite(登録商標)GY204、Araldite(登録商標)GY250、Araldite(登録商標)GY260、Araldite(登録商標)GY281、Araldite(登録商標)GY282、Araldite(登録商標)GY285、Araldite(登録商標)PY304、Araldite(登録商標)PY720(Huntsman製);D.E.R.(登録商標)330、D.E.R.(登録商標)331、D.E.R.(登録商標)332、D.E.R.(登録商標)336、D.E.R.(登録商標)354、D.E.R.(登録商標)351、D.E.R.(登録商標)352、D.E.R.(登録商標)356(Dow製);Epikote(登録商標)162、Epikote(登録商標)827、Epikote(登録商標)828、Epikote(登録商標)158、Epikote(登録商標)862、Epikote(登録商標)169、Epikote(登録商標)144、Epikote(登録商標)238、Epikote(登録商標)232、Epikote(登録商標)235(Hexion製)、Epalloy(登録商標)7190、Epalloy(登録商標)8220、Epalloy(登録商標)8230、Epalloy(登録商標)7138、Epalloy(登録商標)7170、Epalloy(登録商標)9237-70(CVC製)、Chem Res(登録商標)E20、Chem Res(登録商標)E30(Cognis製)、Beckopox(登録商標)EP 1 16、Beckopox(登録商標)EP140(Cytec製)、Epiclon EXA-4850(Sun Chemical製)。
【0024】
さらなる好適な液状エポキシ樹脂は、以下のもののグリシジル化反応生成物である:ジヒドロキシベンゼン誘導体たとえば、レソルシノール、ヒドロキノン、及びカテコール;さらなるビスフェノール又はポリフェノールたとえば、ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)メタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン(ビスフェノールC)、ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)メタン、2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシ-フェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシ-フェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-tert-ブチル-フェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン(ビスフェノールB)、3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、3,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサン、4,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-ヘプタン、2,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-メチルブタン、2,4-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)-2-メチルブタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(ビスフェノールZ)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン(ビスフェノールTMC)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニル-エタン、1,4-ビス[2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル]ベンゼン)(ビスフェノールP)、1,3-ビス[2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル]ベンゼン)(ビスフェノールM)、4,4’-ジヒドロキシジフェニル(DOD)、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン、ビス(2-ヒドロキシナフチ-1-イル)メタン、ビス(4-ヒドロキシナフチ-1-イル)メタン、1,5-ジヒドロキシナフタレン、トリス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1,2,2-テトラキス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン;フェノールとホルムアルデヒドとの縮合物(これらは、酸性条件下で得られる)、たとえば、フェノールノボラック、又はクレゾールノボラック;芳香族アミン、たとえばアニリン、トルイジン、4-アミノフェノール、4,4’-メチレンジフェニルジアミン(MDA)、4,4’-メチレンジフェニルジ(N-メチル)アミン、4,4’-[1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン(ビスアニリンP)、4,4’-[1,3-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン(ビスアニリンM)。
【0025】
さらなる実施態様においては、その液状エポキシ樹脂が、脂肪族又は脂環族のポリエポキシド、たとえば以下のものである:ジグリシジルエーテル;飽和若しくは不飽和、分岐状若しくは非分岐状、環状若しくは開鎖のC2~C3ジオール、たとえば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ポリプロピレングリコール、ジメチロールシクロヘキサン、ネオペンチルグリコールのグリシジルエーテル;三官能若しくは四官能、飽和若しくは不飽和、分岐状若しくは非分岐状の、環状若しくは開鎖のポリオールたとえば、ヒマシ油、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタ-エリスリトール、ソルビトール、又はグリセロール、及びアルコキシル化グリセロール又はアルコキシル化トリメチロールプロパンのグリシジルエーテル;水素化ビスフェノールA、F、又はA/F液状樹脂、又は水素化ビスフェノールA、F、又はA/Fのグリシジル化反応生成物;アミド又はヘテロサイクリック窒素塩基、たとえばトリグリシジルシアヌレート及びトリグリシジルイソシアヌレートのN-グリシジル誘導体、並びにエピクロロヒドリンとヒダントインとの反応生成物。
【0026】
脂肪族又は脂環族の液状エポキシ樹脂は、たとえば、以下のものとして市販されている:Araldite(登録商標)DY-C、Araldite(登録商標)DY-F、Araldite(登録商標)DY-H、Araldite(登録商標)DY-T、Araldite(登録商標)DY0397、Araldite(登録商標)DY3601(Huntsman製)、D.E.R.(登録商標)732、D.E.R.(登録商標)736(Dow製);Heloxy(登録商標)BD、Heloxy(登録商標)HD、Heloxy(登録商標)TP、Epikote(登録商標)877(Hexion製)、Beckopox(登録商標)EP075(Cytec製)。脂肪族又は脂環族のポリエポキシドと式(I)の芳香族エポキシドとの混合物、たとえば特には、ビスフェノールA、ビスフェノールF及びビスフェノールA/Fのジグリシジルエーテルと、α,ω-アルカンジオール(ここでそのα,ω-アルカンジオールには、好ましくは2~10個の炭素原子が含まれる)のジグリシジルエーテルとの混合物もまた使用可能である。そのような混合物も、たとえばDowから、D.E.R.358として市販されている。
【0027】
さらなる実施態様においては、その液状エポキシ樹脂が、オレフィンを酸化させる、たとえば、ビニルシクロヘキセン、ジシクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、シクロドデカジエン、シクロドデカトリエン、イソプレン、1,5-ヘキサジエン、ブタジエン、ポリブタジエン、又はジビニルベンゼンを酸化させることにより調製されたポリエポキシドである。
【0028】
その液状エポキシ樹脂が、先に挙げた式(I)の液状樹脂であるのが好ましく、先に挙げたものの内で好ましいとしたものが、より好ましい。
【0029】
本出願に関連して、特に好ましい液状エポキシ樹脂は、ビスフェノールAジグリシジルエーテルをベースとするエポキシ樹脂で、156~250g/eqのエポキシ当量重量を有するもの、たとえばD.E.R.(登録商標)331(Dow製)である。
【0030】
その液状エポキシ樹脂が、組成物の中に、その組成物の合計重量を基準にして5~40重量%の量で含まれているのが好ましい。さらに好ましい実施態様においては、その液状エポキシ樹脂が、その組成物の中に、8~30重量%、10~25重量%、特には15~20重量%の量で含まれている。
【0031】
本出願の組成物の中のポリ塩化ビニル(PVC)樹脂は、ポリ塩化ビニルのホモポリマー又はコポリマー、好ましくはポリ塩化ビニルのコポリマーであってよい。そのポリ塩化ビニルがコポリマーである場合には、それには、塩化ビニルに対するコモノマーとして、ビニルエステルたとえば、酢酸ビニル又はプロピオン酸ビニルが含まれているのが好ましい。そのコモノマーの量は、そのコポリマーの合計重量を基準にして、好ましくは1~25%の範囲、より典型的には、2~20%、2~15%、2~10%、最も好ましくは3~7%の範囲である。
【0032】
本出願に関連して好ましいPVC-ホモポリマーは、Formolon KVH(Formosa製)である。本出願に関連して特に好ましいPVCコポリマーは、やはりFormosa製のFormolon F40である。
【0033】
ポリ塩化ビニル樹脂に代えるか、又はそれに加えて使用することが可能なアクリル樹脂粉体としては、特に制限はないが、ただし、それが周囲温度(23℃)では固体であるのが好ましい。そのアクリル樹脂粉体は、より好ましくは50℃~120℃の範囲内、さらにより好ましくは70℃~90℃の範囲内のガラス転移温度Tgを有している。ガラス転移温度は、DSCにより測定する。それに加えて、そのアクリル樹脂粉体が、プラスチゾルを形成することができれば、好ましい。
【0034】
そのアクリル樹脂粉体の中のアクリル樹脂は、ホモポリマーであっても、コポリマーであってもよい。好ましいアクリル樹脂は、メタクリル酸メチルをベースとした樹脂、たとえば、Dianal LP-3106又はDianal LP-3202(Dianal America Inc.製)として市販されているものである。本出願において有利に使用可能なまた別の市販のアクリル樹脂は、Kane Ace U506(カネカ製)である。
【0035】
1種又は複数のポリ塩化ビニル樹脂、及び/又は1種又は複数のアクリル樹脂粉体が、組成物の中に、5~40重量%の範囲の量で、好ましくは8~30重量%の量で、最も好ましくは10~20重量%の量で含まれているのが好適である。
【0036】
第三の必須の成分として、本発明のポンプ輸送可能な熱発泡性充填材組成物には発泡剤が含まれる。本発明で使用するための発泡剤としては、それが加熱によって分解してガスを発生する限りにおいては、いかなる物質を使用してもよい。好適な発泡剤としては、アゾ-化合物たとえばアゾ-ジカルボナミド、ニトロソ化合物たとえばN,N-ジニトロソペンタメチレンテトラアミン、及びヒドラジン誘導体たとえばジフェニルスルホン-3,3’-ジスルホヒドラジドを挙げることができる。これらの発泡剤は、1種だけで使用してもよいし、或いはそれらの2種以上の混合物として使用してもよい。本出願に関連しては、ジシアンジアミドが、少なくともその発泡剤の一部として、特に好ましいが、その理由は、それの分解反応生成物(アンモニア)が、液状エポキシ樹脂の硬化及び架橋に寄与するからである。
【0037】
本発明のポンプ輸送可能な熱発泡性充填材組成物における発泡剤の量は、典型的には、1~10重量%、2~8重量%の範囲内、好ましくは3~6重量%の範囲内である。
【0038】
本出願の熱発泡性充填材組成物での「ポンプ輸送可能な(pumpable)」という特性は、その充填材が、周囲温度(20℃)で、ポンプ輸送に適した粘度を有しており、好ましくはペースト様の粘度を有していると理解されたい。そのポンプ輸送可能な熱発泡性充填材組成物の粘度は、加熱可能なプレートを備えたレオメーター(MCR301、AntonPaar製)(ギャップ1000μm、測定プレート直径:25mm(プレート/プレート)、変形0.01~10%、5Hz、温度:20℃)の手段により測定して、通常50~500Pa・s、好ましくは100~300Pa・sの範囲内である。その粘度が、50Pa・sよりも低いと、ドリッピングが容易に起きる可能性があり、加工の際に、形状を十分に維持できない恐れがある。その一方で、粘度が500Pa・sを超えると、その材料の加工性が、極端に悪くなる。
【0039】
上に挙げた成分に続けて、そのポンプ輸送可能な熱発泡性充填材組成物には、さらなる成分が含まれていてもよい。
【0040】
したがって、好ましい実施態様においては、そのポンプ輸送可能な熱発泡性充填材組成物には、ゴム、特には合成ゴム、好ましくは部分的に架橋された合成ゴムが含まれる。本発明の充填材組成物において使用するための部分的に架橋されたゴムの例としては、好ましくは部分的に架橋されたジエンゴム、より好ましくは以下のものからなる群より選択されるゴムが挙げられる:アクリロニトリル-イソプレンコポリマーゴム(NIR)、アクリロニトリル-ブタジエンコポリマーゴム(NBR)、スチレン-ブタジエンコポリマーゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、及びイソプレンゴム(IR)。その架橋は、架橋剤、たとえばジビニルベンゼン又は硫黄を添加した結果であってよい。ゴムを添加することによって、その結果得られた充填材組成物の、改良されたレオロジー的性質、サグ抵抗性、ウォッシュオフ抵抗性、及びより高い体積膨張という利点が得られる。
【0041】
そのゴムは、本発明の充填材組成物の中に、その組成物の合計重量を基準にして、典型的には1~20%、好ましくは3~15重量%、より好ましくは5~10重量%の量で組み入れられる。
【0042】
本出願のポンプ輸送可能な熱発泡性充填材組成物において有利に使用することが可能なさらなる成分が、可塑剤である。したがって、本出願のポンプ輸送可能な熱発泡性充填材組成物には、好ましくは、少なくとも1種の可塑剤が含まれる。低粘度の可塑剤と、PVC及び/又はアクリル樹脂粉体とを組み合わせると、安定したペースト様の状態には好都合であり、そして特に多湿での貯蔵後での、良好な物理的強度及び良好な膨張率を有する硬化した材料を得るには好都合である。
【0043】
可塑剤としては、いかなる物質を使用してもよいが、ただし、ポリ塩化ビニルがその中に膨潤及び溶解するものでなければならない。可塑剤としては、たとえば、以下のものが挙げられる:フタル酸エステルたとえば、フタル酸ジ(2-エチルヘキシル)、フタル酸ブチルベンジル、フタル酸ジノニル、フタル酸ジイソノニル(DINP)、フタル酸ジイソデシル(DIDP)、フタル酸ジウンデシル、フタル酸ジトリデシル(DTDP)、フタル酸ジヘプチル、及びブチルフタリルブチルグリコレート;脂肪族二塩基酸エステルたとえば、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジデシル、及びセバシン酸ジオクチル;ポリグリコール安息香酸エステルたとえば、ポリオキシエチレングリコールジベンゾエート、及びポリオキシプロピレングリコールジベンゾエート;リン酸エステたとえば、リン酸トリブチル及びリン酸トリクレジル;炭化水素たとえば、アルキル-置換されたジフェニル、アルキル-置換されたテルフェニル、部分水素化テルフェニル、芳香族のプロセスオイル及びパイルオイル。これらの可塑剤は、単独で使用してもよいし、或いはそれらの2種以上の混合物として使用してもよい。本出願に関連して、上述の可塑剤の中でも好ましいのは、フタル酸エステル、特にはフタル酸ジイソノニル(DINP)、フタル酸ジトリデシル(DTDP)、及びフタル酸ジイソデシル(DIDP)である。
【0044】
本出願に関連して、可塑剤の好適量は、その組成物の合計重量を基準にして、5~40重量%、好ましくは10~30重量%、15~25重量%、特には10~20重量%である。
【0045】
本出願のポンプ輸送可能な熱発泡性充填材組成物には、好ましくは、液状エポキシ樹脂のための硬化剤も含む。硬化剤としては、潜在硬化剤を使用するのが好ましく、それは、加熱することによって硬化を与え、通常は、80~250℃の間の温度で活性化させることができる。潜在硬化剤の具体例としては、以下のものが挙げられる:ジシアンジアミド、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、イミダゾール誘導体たとえば、2-N-ヘプタデシルイミダゾール、イソフタルジヒドラジド、N,N-ジアルキル尿素誘導体、N,N-ジアルキルチオ尿素誘導体、及びメラミン誘導体。これらの硬化剤は、硬化条件及びそれらの性質に応じて、独立して使用してもよいし、或いはそれらの2種以上の混合物として使用してもよい。本出願に関連して使用するのに特に好ましい硬化剤は、ジシアンジアミドである。一つの好ましい実施態様においては、ジシアンジアミドを、その組成物の中の単独のエポキシ硬化剤として使用するが、その理由は、液状エポキシ樹脂とジシアンジアミドとを組み合わせると、貯蔵安定性が極めて高い混合物が得られるということが観察されたからである。
【0046】
硬化剤の量は、その組成物の合計重量を基準にして、好ましくは0.05~2.0重量%、0.1~1.5重量%、0.2~1.2重量%、0.4~1.0重量%、より好ましくは0.5~0.8重量%の範囲内である。多量の液状エポキシ樹脂を少量の硬化剤と組み合わせると、硬化させたときに適度なレベルで架橋され、そして油の付着した金属基材の上でも良好な接着性を与える物質が得られるということが観察された。それに加えて、この系は、良好な物理的強度も与える。
【0047】
上述の成分に続けて、本出願のポンプ輸送可能な熱発泡性充填材組成物にはさらに、充填材、特には無機充填材を含むのが好ましい。好適な無機充填材は、たとえば、炭酸カルシウム、シリカ、クレー、及びフライアッシュである。これらの無機充填材は、単独で使用してもよいし、或いはそれらの2種以上の混合物として使用してもよい。2種以上の変性を加えた充填材、たとえば異なった変性を加えた炭酸カルシウムを使用することもまた可能である。
【0048】
本出願との関連における充填材、特には無機充填材の量には、特に制限はないが、ただし組成物をポンプ輸送可能に維持しながら、充填材なしの場合の組成物の粘度に依存する(すなわち、粘度が低ければ、より大量の充填材を組み入れることが可能となり、それに対して、充填材なしで、粘度が高い場合には、少量の充填材しか組み入れられない)。したがって、充填材の量は、その組成物の合計重量を基準にして、典型的には10~55重量%、好ましくは15~45重量%、より好ましくは20~35重量%の範囲である。
【0049】
本出願のポンプ輸送可能な熱発泡性充填材組成物はさらに、必要に応じて、たとえば以下のような他の添加剤を適切な量で含むことも可能である:チキソトロピー付与剤たとえば、有機ベントナイト、ヒュームドシリカ、ヒマシ油誘導体、顔料たとえばカーボンブラック、二酸化チタン、二酸化亜鉛又はその他の無機顔料、脱水剤たとえば酸化カルシウム及び粉体のシリカゲル、及び/又はPVC-安定化剤。
【0050】
これらの追加の添加剤の量には、特に制限はないが、しかしながら、含量が15重量%を超えない、より好ましくは10重量%以下、さらにより好ましくは8重量%以下であるのが好ましい。
【0051】
本出願の特別に好ましい実施態様においては、本出願のポンプ輸送可能な熱発泡性充填材組成物には以下のものが含まれる:
- そのポンプ輸送可能な熱発泡性充填材組成物の合計重量を基準にして、1~5重量%、1.25~4重量%、1.5~3重量%、1.75~2.5重量%、好ましくは1.85~2.25重量%の、少なくとも1種の、16個のC原子又は18個のC原子を含む脂肪酸のアルカリ金属塩AMS(ここで、そのアルカリ金属は、カルシウム又は亜鉛である)、好ましくはパルミチン酸のカルシウム塩、ステアリン酸のカルシウム塩、オレイン酸のカルシウム塩、リノール酸のカルシウム塩、パルミチン酸の亜鉛塩、ステアリン酸の亜鉛塩、オレイン酸の亜鉛塩、及びリノール酸の亜鉛塩からなる群より選択され、より好ましくはステアリン酸のカルシウム塩、及びステアリン酸の亜鉛塩からなる群より選択され、最も好ましくはステアリン酸のカルシウム塩;
- 8~30重量%、10~25重量%、好ましくは15~20重量%の液状エポキシ樹脂、好ましくは式(I)の液状樹脂;
- 5~40重量%、8~30重量%、好ましくは10~20重量%のポリ塩化ビニル樹脂及び/又はアクリル樹脂粉体、好ましくはポリ塩化ビニル樹脂;
- 1~20%、3~15重量%、好ましくは5~10重量%のゴム、好ましくは合成ゴム、より好ましくはジエンゴム;
- 1~10重量%、2~8重量%、好ましくは3~6重量%の発泡剤;
- 5~40重量%、10~30重量%、15~25重量%、好ましくは10~20重量%の可塑剤、好ましくはフタル酸エステル;
- 0.05~2.0重量%、0.1~1.5重量%、0.2~1.2重量%、0.4~1.0重量%、好ましくは0.5~0.8重量%の硬化剤、好ましくは潜在硬化剤;
- 10~55重量%、15~45重量%、好ましくは20~35重量%の充填材、好ましくは無機充填材。
【0052】
上述の重量%は、その組成物の合計重量を基準にしたものである。
【0053】
本発明のポンプ輸送可能な熱発泡性充填材組成物は、上述の成分をミキサーにより混合することにより、製造することができる。使用されるミキサーについては、特には制限はないが、たとえば、各種のミキサーたとえば、プラネタリーミキサー及びニーダーが挙げられる。
【0054】
第二の態様においては、本発明は、ポンプ輸送可能な熱発泡性充填材組成物を、先に述べたようにして、その発泡剤の活性化温度よりも高い温度に加熱することにより得ることが可能な、発泡させた充填材を目的としている。好ましくは、ポンプ輸送可能な熱発泡性充填材組成物を加熱する目的の温度が、210℃を超えないようにするべき、特には140~200℃、より好ましくは155~200℃の範囲内とするべきである。その組成物を、上述の温度で、10~60分間、好ましくは15~15分間、より好ましくは20~40分間加熱するのが好ましい。
【0055】
それに加えて、発泡させた充填材が、好ましくは実験の項で記載したようにして温度160℃で25分間のUBで硬化させた場合には、多湿での貯蔵後(3日、40℃、99%相対湿度)に、未発泡状態でのその体積を基準にして、400%~1000%、好ましくは450%~900%を有しているか、及び/又は好ましくは実験の項で記載したようにして温度200℃で40分間のOBで硬化させた場合には、多湿での貯蔵後(3日、40℃、99%相対湿度)に、未発泡状態でのその体積を基準にして、300%~1000%、好ましくは320%~900%、より好ましくは340%~900%の膨張率を有しているのが好ましい。
【0056】
そのポンプ輸送可能な熱発泡性充填材組成物は、ロボットを使用して密閉空間の中に(たとえば、押出し法によって)適用し、その中で膨張させて、騒音から隔離するフォームを与えるのに、都合良く使用することができる。したがって、一つの態様においては、本発明はさらに、先に述べたような、密閉空間のための充填材として、そして特に乗物部品の中の密閉空間のための充填材としての、ポンプ輸送可能な熱発泡性充填材組成物も目的としている。そのポンプ輸送可能な熱発泡性充填材組成物は、風切音のような騒音が車の走行中に起きるような密閉空間の中で、隔離壁を形成させるのに、好適に使用される。そのような密閉空間としては、特にはフロントピラー(Aピラー)、センターピラー(Bピラー)、リアピラー(Cピラー)、ホイールアーチ(タイヤハウス)、及びサイドシルが挙げられる。
【0057】
さらなる実施態様においては、本出願は、以下の工程を含む、密閉空間を充填するための方法も目的としている:
- (a)ポンプ輸送可能な熱発泡性充填材組成物を、先に述べたようにして、密閉空間の中に適用すること、及び
- (b)ポンプ輸送可能な熱発泡性充填材組成物を含むその密閉空間を、その発泡剤の活性化温度よりも高い温度に加熱して、その充填材を発泡させること。
【0058】
工程(b)において、ポンプ輸送可能な熱発泡性充填材組成物が、140~200℃、より好ましくは155~200℃の温度に加熱されるのが好ましい。その組成物を、上述の温度で、10~60分間、好ましくは15~15分間、より好ましくは20~40分間加熱するのが好ましい。
【0059】
工程(a)の後で、その適用されたポンプ輸送可能な熱発泡性充填材組成物を、2日より長く、10日より長く、より好ましくは30日より長く、30℃以上の温度及び80%以上の相対湿度、より好ましくは40℃以上の温度及び90%以上の相対湿度に暴露させた後で、工程(b)を実施するのが好ましい。
【0060】
この方法におけるポンプ輸送可能な熱発泡性充填材組成物及び密閉空間の好ましい実施態様では、上述の記述を、同じように適用する。
【0061】
この方法は、自動車の組み立てにおいて特に有用であるので、その密閉空間が、乗物部品における密閉空間であるような方法が好ましい。さらには、その密閉空間が、金属表面、特には油の付着した金属表面であるのが好ましい。
【0062】
さらなる実施態様においては、本出願は、上述の方法によって得ることが可能な乗物部品を目的としている。
【0063】
本出願のポンプ輸送可能な熱発泡性充填材組成物は、多湿での貯蔵後でも良好な膨張率を与え、それにより、乗物における騒音・振動の過酷さを顕著に改良する。
【実施例
【0064】
表1に示したコンパウンディング量(基本配合)に従って、それぞれの成分をコンパウンディングした。そのプレミックスには、12.9重量%のスチレン-ブタジエンゴム、26.8重量%のDIDP可塑剤、39.9重量%の炭酸カルシウム充填材、及び20.4重量%の液状エポキシ樹脂(エポキシ当量重量180~190g/eqのビスフェノールA/エピクロルヒドリンをベースとしたもの)が含まれている。表3に示した組成物の例2~例17では、示された量の金属塩又はコーティングされた炭酸カルシウムが添加され、それに相当する量の炭酸カルシウムが基本配合から除去された。たとえば、組成物の例8の場合、基本配合の合計量を基準にして、2.0重量%のCaStが基本配合に添加され、それと同時に、基本配合の合計量を基準にして、2.0重量%の炭酸カルシウムが、基本配合から除去された。したがって、組成物の例8には、いずれも組成物の例8の組成物の合計重量を基準にして、0.5重量%の炭酸カルシウム及び2.0重量%のCaStが含まれている。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
そのようにして得られたペースト様の充填材組成物について、各種のベーキング条件下での体積変化を評価した。
【0068】
膨張率(単位%)
それぞれのサンプルについて、半径約5mm、長さ50mmを有する試験材料のビーズの、膨張前後の密度を測定することによって、膨張率を定量化する。その密度は、DIN EN ISO 1183に従い、脱イオン水中での水浸漬法(アルキメデスの原理)を使用し、質量測定には精密天秤を使用して求めた。多湿での貯蔵前の膨張率(初期膨張率)を測定するために、試験材料を、それぞれ、160℃で25分間(アンダーベーク=UB)、180℃で20分間(ノーマルベーク=NB)、そして200℃で40分間(オーバーベーク=OB)膨張させた。
【0069】
それと並行して、サンプルを、99%相対湿度中40℃で3日間(3日間、40℃/99%rh)保存した。その保存したサンプルを、次いで、50%相対湿度中23℃で1時間保存して、膨張率を求めた(3日、40℃、99%rh後の膨張)。それらの試験材料を、同様に、160℃で25分間(アンダーベーク=UB)、180℃で20分間(ノーマルベーク=NB)、及び200℃で40分間(オーバーベーク=OB)、それぞれ膨張させた。
【0070】
【表3】
【0071】
表3に見られるように、本発明のポンプ輸送可能な熱発泡性充填材組成物は、多湿での貯蔵後でも良好な膨張値を示している。さらに、ZnStを含む組成物実施例10及び実施例11は、多湿での貯蔵後の膨張の後で、その硬化された組成物の表面上に、オープンな細孔構造を示すということも見いだされた。
【0072】
さらに、組成物実施例2、実施例10、及び実施例11では、多湿での貯蔵後の膨張の後で、膨張させた物質の中でわずかな捻れ及び歪み(「座屈」として知られている)が認められるということも見いだされた。
【国際調査報告】