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特表2023-543270波形等化器、波形等化方法および波形等化プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-13
(54)【発明の名称】波形等化器、波形等化方法および波形等化プログラム
(51)【国際特許分類】
   H04B 3/04 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
H04B3/04 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023519240
(86)(22)【出願日】2020-11-25
(85)【翻訳文提出日】2023-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2020043803
(87)【国際公開番号】W WO2022113200
(87)【国際公開日】2022-06-02
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121669
【弁理士】
【氏名又は名称】本山 泰
(72)【発明者】
【氏名】ディアマドプロス ニコラオス パデレイモン
(72)【発明者】
【氏名】松尾 慎治
【テーマコード(参考)】
5K046
【Fターム(参考)】
5K046AA01
5K046AA07
5K046BA06
5K046EE02
5K046EE16
5K046EE47
5K046EE51
(57)【要約】
本発明の波形等化器(10)は、入力信号に対して遅延処理を施す遅延タップ(11)と、遅延タップ(11)から出力される信号に対して、線形処理を施す1次のサブフィルタ(12)と、遅延タップ(11)から出力される信号に対して、2次のヴォルテラ級数に基づく第1の非線形処理を施す2次のサブフィルタ(13)と、遅延タップ(11)から出力される信号に対して、非線形多項式における3次項に基づく第2の非線形処理を施す3次のサブフィルタ(14)と、1次のサブフィルタ(12)から出力される信号と、2次のサブフィルタ(13)から出力される信号と、3次のサブフィルタ(14)から出力される信号とを合算する合算部(15)とを備える。
これにより、本発明の波形等化器は、簡素化され信号品質に向上させる非線形等化処理を提供できる。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号に対して遅延処理を施す遅延タップと、
前記遅延タップから出力される信号に対して、線形処理を施す1次のサブフィルタと、
前記遅延タップから出力される信号に対して、2次のヴォルテラ級数に基づく第1の非線形処理を施す2次のサブフィルタと、
前記遅延タップから出力される信号に対して、非線形多項式における3次項に基づく第2の非線形処理を施す3次のサブフィルタと、
前記1次のサブフィルタから出力される信号と、前記2次のサブフィルタから出力される信号と、前記3次のサブフィルタから出力される信号とを合算する合算部と
を備える波形等化器。
【請求項2】
前記線形処理が、下記式(1)を用いて施され、
前記第1の非線形処理が、下記式(2)を用いて施され、
前記第2の非線形処理が、下記式(3)を用いて施されること
を特徴とする請求項1に記載の波形等化器。
【数1】
【数2】
【数3】
ここで、xは入力信号であり、y、y、yは出力信号であり、pは相互ビート項の数であり、N,N,Nは前記遅延タップの数であり、w、w、wは重み係数である。
【請求項3】
全ての前記サブフィルタの係数を更新するトレーニング部を備えること
を特徴とする請求項1または請求項2に記載の波形等化器。
【請求項4】
順に、直接検波部と、
アナログデジタル変換部と、
時間回復部と、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の波形等化器と、
データ回復部と
を備える受信機。
【請求項5】
前記データ回復部が、高精度の時間回復アルゴリズムを実行すること
を特徴とする請求項4に記載の受信機。
【請求項6】
光送信機と、
光伝送路と、
請求項4または請求項5に記載の受信機と
を備える光通信システム。
【請求項7】
入力信号に対して遅延処理を施すステップと、
前記遅延処理が施された信号に対して、線形処理を施すステップと、
前記線形処理が施された信号に対して、2次のヴォルテラ級数に基づく第1の非線形処理を施すステップと、
前記第1の非線形処理が施された信号に対して、非線形多項式における3次項に基づく第2の非線形処理を施すステップと、
前記線形処理が施された信号と、前記第1の非線形処理が施された信号と、前記第2の非線形処理が施された信号とを合算するステップと
を備える波形等化方法。
【請求項8】
遅延タップと、1次のサブフィルタと、2次のサブフィルタと、3次のサブフィルタと、合算部とを備え、入力信号に対して等化処理を施す波形等化器において、
前記遅延タップに、前記入力信号に対して遅延処理を施させるステップと、
前記1次のサブフィルタに、前記遅延処理が施された信号に対して、線形処理を施させるステップと、
前記2次のサブフィルタに、前記線形処理が施された信号に対して、2次のヴォルテラ級数に基づく第1の非線形処理を施させるステップと、
前記3次のサブフィルタに、前記第1の非線形処理が施された信号に対して、非線形多項式における3次項に基づく第2の非線形処理を施させるステップと、
前記合算部に、前記線形処理が施された信号と、前記第1の非線形処理が施された信号と、前記第2の非線形処理が施された信号とを合算させるステップと
を備える処理を実行させることを特徴とする、前記波形等化器を機能させるための波形等化プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバの非線形性などによる光信号の波形歪みを解消するための波形等化装置、波形等化方法および波形等化プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
データセンタおよびアクセスネットワークのインターネットトラフィックの増大が見込まれており、波長多重技術および直接検波(DD:Direct Detection)を用いた400Gbイーサネット(登録商標)の実用化が進められている。従来、コアネットワークの大容量化においては、多値化の手段として位相変調およびコヒーレント受信が用いられてきた。一方で、短距離通信においては、低コスト化、低消費電力化の観点から、強度変調(IM:Intensity Modulation)/直接検波(DD:Direct Detection)技術が注目されている。IM/DD技術には、エネルギー効率に優れ、低コストで複雑性が低い、マルチパルス振幅変調(PAM-M:multi-level Pulse-Amplitude Modulation)が用いられる。
【0003】
これらのPAMを用いたIM/DDシステムでは、とくに、電気・光電子デバイスの制限されたバンド幅による100GBaud(ボー)変調において、線形効果と非線形効果が信号品質を劣化させ、光リンクのビットエラーレート(BER、bit-error rate)特性を低下させる。これらの歪を補償するために、デジタル非線形等化器(NLE:Nonlinear Equalizer)が、受信機のデジタル信号処理(DSP:digital signal processing)に用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-88495号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J. Tsimbinos and K. V. Lever, "Computational complexity of Volterra based nonlinear compensators", Electronics Letters, vol. 32, no. 9, pp. 852-854, 1996.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
PAM-Mスキームは変調フォーマットであり、波形強度がM個の異なる強度レベルで変調される。それぞれの変調パルスにおいて、結果として生じる波形は、log(M)個のビットを搬送する。ここで、変調パルスの幅はT=1/Rである。また、Rはシンボルまたはボーレート(Baud rate)であり、それぞれの単位はGHzまたはGBaudである。
【0007】
IM/DD伝送システムにおいて、以下の理由で、PAM波形に非線形の歪みが生じる。
・変調と復調に関わる非線形性
・直接検波による信号/信号間のビート干渉(signal-signal beat interference 、SSBI)
・光ファイバ非線形性
・ファイバ分散の影響
【0008】
これらの非線形歪みについて詳細を以下に説明する。
【0009】
初めに、変調と復調に関わる非線形性について説明する。変調と復調に関わる非線形性は、RF電気デバイス、光電子デバイス、例えば、信号発生器、電気増幅器、駆動器、光変調器、直接変調レーザ、フィルタ、受光器等によって生じる。とくに、この非線形性は、多数キャリアフォーマットや高レベルPAM信号のような、高いピーク対平均電力比(PAPR:Peak-to-Average Power Ratio)を有する信号や波形の場合に増強される。
【0010】
このような信号や波形における最も一般的な歪みは、非線形の入出力間の変調の関係と、強度/出力(パワー)に依存する遅延である。
【0011】
前者は、静的非線形性であり、通常は光変調器とRFデバイスに存在する。一方、後者は、動的非線形性であり、直接変調レーザに存在する。とくに、PAM信号において、前者は異なる強度レベルに対して異なるアイパターンを生じさせる。一方、後者は、PAM波形全体において強度に依存するスキューを生じさせる。図10A、10Bそれぞれに、非線形歪みを有さない場合と非線形歪みを有する場合のPAM4信号のアイパターンの一例を示す。
【0012】
次に、直接検波による信号/信号間のビート干渉(SSBI)について説明する。SSBIは、通常のフォトダイオードの2乗検波から生じる2次項である。SSBIは、直接検波システムの受信構造に起因するもう1つの非線形歪みである。SSBIには多くの関心がもたれ、いくつかの緩和技術と線形化技術が、主に単側波帯(SSB:single-sideband)変調のアプローチに基づいて提案されている。
【0013】
次に、光ファイバ非線形性について説明する。光ファイバ非線形性は、ほとんど石英ファイバの非線形効果によるもので、出射パワーと伝送距離に依存する。400Gb/sイーサーネットで注目されるIM/DDシステムやその応用技術のほとんどが、数10km以内を対象としており、通常100kmまでである。ここで、非線形歪み全体の寄与は、単一チャネル伝送にとって無視できる。しかしながら、WDM信号において、4波混合と相互/自己位相変調との複合効果は重大な歪みを生じさせる。
【0014】
最後に、ファイバ分散の影響について説明する。単一モード光ファイバの色分散は、とくにCバンド通信ウィンドウにおいて、本来線形プロセスであるとしても、光変調パルスの非線形チャープと顕著に作用して、変調に関係する非線形歪みにメモリ効果を生じさせる。さらに、2乗検波と結合するとき、色分散は変調スペクトルにゼロを生じさせ、強いパワーフェージング効果をもたらす。
【0015】
上述の非線形歪みを補償するために、デジタル信号処理(DSP:Digital Signal Processing)による非線形等化処理として、ヴォルテラ級数が活用されている(非特許文献1)。
【0016】
従来型のK次のヴォルテラ級数を用いた等化処理において、波形等化装置への入力信号をxとすると、m番目の出力y(m)は、k次におけるメモリ長をLとして以下の式で表される。
【0017】
【数1】
【0018】
式(1)において、w(n,n,・・・n)は、等化処理のためのk次のタップ(TAP)の重みである。また、メモリ長Lは、k次のメモリ長であり、波形等化補正を行うために必要な入力信号データxの格納長である。
【0019】
このヴォルテラ級数による等化技術(VNLE:Volterra-based Nonlinear Equalization)は、多くの場合において有効であるが、演算処理量が増大するため、リアルタイム処理に課題がある。
【0020】
特許文献1には、ヴォルテラ級数を用いて、非線形性が存在する信号の等化処理が簡素化できる技術が開示されている。
【0021】
しかしながら、ヴォルテラ級数を用いた簡素化された等化処理技術において、BER特性をさらに向上させる必要があった。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上述したような課題を解決するために、本発明に係る波形等化器は、入力信号に対して遅延処理を施す遅延タップと、前記遅延タップから出力される信号に対して、線形処理を施す1次のサブフィルタと、前記遅延タップから出力される信号に対して、2次のヴォルテラ級数に基づく第1の非線形処理を施す2次のサブフィルタと、前記遅延タップから出力される信号に対して、非線形多項式における3次項に基づく第2の非線形処理を施す3次のサブフィルタと、前記1次のサブフィルタから出力される信号と、前記2次のサブフィルタから出力される信号と、前記3次のサブフィルタから出力される信号とを合算する合算部とを備える。
【0023】
また、本発明に係る波形等化方法は、入力信号に対して遅延処理を施すステップと、前記遅延処理が施された信号に対して、線形処理を施すステップと、前記線形処理が施された信号に対して、2次のヴォルテラ級数に基づく第1の非線形処理を施すステップと、前記第1の非線形処理が施された信号に対して、非線形多項式における3次項に基づく第2の非線形処理を施すステップと、前記線形処理が施された信号と、前記第1の非線形処理が施された信号と、前記第2の非線形処理が施された信号とを合算するステップとを備える。
【0024】
また、本発明に係る波形等化プログラムは、遅延タップと、1次のサブフィルタと、2次のサブフィルタと、3次のサブフィルタと、合算部とを備え、入力信号に対して等化処理を施す波形等化器において、前記遅延タップに、前記入力信号に対して遅延処理を施させるステップと、前記1次のサブフィルタに、前記遅延処理が施された信号に対して、線形処理を施させるステップと、前記2次のサブフィルタに、前記線形処理が施された信号に対して、2次のヴォルテラ級数に基づく第1の非線形処理を施させるステップと、前記3次のサブフィルタに、前記第1の非線形処理が施された信号に対して、非線形多項式における3次項に基づく第2の非線形処理を施させるステップと、前記合算部に、前記線形処理が施された信号と、前記第1の非線形処理が施された信号と、前記第2の非線形処理が施された信号とを合算させるステップとを備える処理を実行させることを特徴とし、前記波形等化器を機能させる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、簡素化された線形処理および非線形処理を用いて、信号品質に向上させることができる波形等化器、波形等化方法および波形等化プログラムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、本発明の第1の実施の形態に係る波形等化器の構成を示す概要図である。
図2図2は、本発明の第1の実施の形態に係る波形等化器の構成を示すブロック図である。
図3図3は、本発明の第1の実施の形態に係る波形等化器の効果を説明するための図である。
図4図4は、本発明の第2の実施の形態に係る光通信システムの構成を示す概要図である。
図5図5は、本発明の第1の実施例における光通信システムの実験系を示す図である。
図6図6は、本発明の第1の実施例における光通信システムの実験系のBER特性を示す図である。
図7図7は、本発明の第1の実施例における光通信システムの実験系BER特性を示す図である。
図8図8は、本発明の第2の実施例に係る光通信システムにおける受信機の構成を示す図である。
図9図9は、本発明の実施の形態におけるコンピュータの構成例を示す図である。
図10A図10Aは、従来技術における信号特性を説明するための図である。
図10B図10Bは、従来技術における信号特性を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
<第1の実施の形態>
本発明の第1の実施の形態に係る波形等化器について図1図3を参照して説明する。
【0028】
<波形等化器の構成>
図1は、波形等化器10の構成を示す概要図である。波形処理部11に、入力信号が入力され、線形処理(LE:W1)と非線形処理(NLE:W2、NLE:W3)が施され、出力信号を出力する。
【0029】
また、トレーニング部12は、波形等化器10において用いるNLEの全てのフィルタの係数を、最小二乗法等の公知の適応アルゴリズムに基づき、繰り返し更新することができる。ここで、トレーニング部12は、本実施の形態に係る波形等化処理を施すのに必ずしも必要ではない。例えば、係数が事前に決まっている場合や、波形等化器が安定に動作する場合には必要ではない。
【0030】
図2に、波形等化器10における波形処理部11の詳細な構成を示す。波形処理部11は、遅延タップ111と1次の線形サブフィルタ112と2次の非線形サブフィルタ113と3次の非線形サブフィルタ114と合算部115とを備える。
【0031】
初めに、入力信号xは、遅延タップ111に入力する。遅延タップ111は、複数の遅延タップ111によりアレイ化されている。それぞれの遅延タップ111から出力する信号が、各サブフィルタ(後述)に入力する。
【0032】
遅延タップ111のアレイは入力信号xに遅延処理を施し、遅延処理された信号は3つの異なるサブフィルタ112、113、114に入力する。m番目の等化される出力信号yに対応する遅延入力信号xは、式(2)に示すように、ベクトルによって表される。
【0033】
【数2】
【0034】
ここで、Tは線形転置を示す。2Nmax=2max(N、N、N)であり、最大のタップ数を示す。2Nは、i={1、2、3}として、3つのサブフィルタ112、113、114それぞれに相当するタップ数を定義する。xの長さLmaxは、Lmax=2Nmax+1=max(L、L、L)であり、Li=2N+1である。
【0035】
また、Lmaxは最大のメモリ長であり、L、L、Lは、それぞれ1次項、2次項、3次項のメモリ長である。
【0036】
次に、遅延入力信号xは、1次の線形サブフィルタ112と2次の非線形サブフィルタ113と3次の非線形サブフィルタ114に入力される。次に、それぞれのサブフィルタから出力される信号は合算部115で合算され、等化処理される出力信号y(m)が得られる。
【0037】
本実施の形態のNLEのm番目の等化される出力信号y(m)は、式(3)で表される。
【0038】
【数3】
【0039】
ここで、yは、i={1、2、3}として、3つのサブフィルタ112、113、114の出力を定義する。
【0040】
(m)は、1次の線形項である。
【0041】
(m)は、2次項であり、P-VNLE(Pruned VNLE)項であり、メモリ効果を伴う。P-VNLE項は、計算複雑性を軽減された2次のヴォルテラ級数である(J. Tsimbinos and K. V. Lever, "Computational complexity of Volterra based nonlinear compensators", Electronics Letters, vol. 32, no. 9, pp. 852-854, 1996.)。また、y(m)は、自己ビート項(p=0)と4個の相互ビート項(p=1,2,3,4)より構成される。
【0042】
ここで、自己ビート項は、同時刻における入力信号の積x(m)・x(m)である。また、相互ビート項は、異なる時刻における入力信号の積x(m)・x(m+p)である。
【0043】
(m)は、非線形多項式における3次項(以下、「多項式の3次項」という。)であり、メモリ効果を伴う。また、y(m)は、自己ビート項(p=0)のみにより構成され、相互ビート項を含まない。ここで、非線形多項式は、非線形出力信号yを入力信号xの多項式で表したもので、出力信号yは入力信号xに非線形係数を乗じたものの総和で表される。
【0044】
1次の線形項y(m)、2次項のP-VNLE項y(m)、多項式の3次項y(m)は、式(4)-(6)で表される。
【0045】
【数4】
【0046】
【数5】
【0047】
このように、2次項のサブフィルタ113は、自己ビート項(p=0)と4個の相互ビート項(p=1,2,3,4)より構成される。
【0048】
【数6】
【0049】
このように、3次項のサブフィルタ114は、自己ビート項(p=0)のみにより構成され、相互ビート項を含まない。
【0050】
また、式(2)のベクトルの表記と、式(4)-(6)とを用いて、式(3)は式(7)になる。
【0051】
【数7】
【0052】
【0053】
【数8】
【0054】
【数9】
【0055】
【数10】
【0056】
ここで、式(7)の右辺の総和における第1項は線形サブフィルタ112による処理を示し、第2項はP-VNLEのサブフィルタ113による処理を示し、第3項は3次サブフィルタ114による処理を示す。このスキームを電子回路に実装するために、非零の係数のみを考慮する。
【0057】
計算複雑性は、コスト、消費電力、サイズなどの重要なパラメータを定義し、NLEにおいて重要なパラメータである。NLE全体の計算複雑性は、乗算の数の観点から、式(11)-式(14)で表される(非特許文献1)。
【0058】
【数11】
【0059】
【数12】
【0060】
【数13】
【0061】
【数14】
【0062】
ここで、hは、P-VNLEサブフィルタ113を考慮した相互ビート項の総数である。
【0063】
図3に、本実施の形態に係る波形等化器10におけるフィルタを用いた場合の計算複雑性を、単純な線形フィルタ、非線形多項式によるフィルタ、完全なヴォルテラ級数によるフィルタそれぞれを用いた場合と比較して示す。ここで、L=L=L=L<100とする。ここで、完全なヴォルテラ級数は式(1)で表される。
【0064】
図中、「LinEQ」は単純な線形フィルタ、「PolyEQ-x」はx次の非線形多項式によるフィルタ、「fullVNLE-x」はx次の完全なヴォルテラ級数によるフィルタ、「prunedVNLE-2」はP-VNLEによるフィルタそれぞれを用いた場合を示す。
【0065】
本実施の形態に係るNLEの計算複雑性は、3次項までの非線形多項式を用いた場合より5、6倍大きく、P-VNLEより若干高い程度である。一方、本実施の形態に係るNLEの計算複雑性は、2次の完全なヴォルテラ級数と3次の完全なヴォルテラ級数それぞれを用いた場合に比べて、1桁から2桁低い値を示す。これらの結果は、本実施の形態に係るNLEの計算複雑性が、実装可能な範囲内にあることを示す。
【0066】
本実施の形態では、2次項y(m)が自己ビート項(p=0)と4個の相互ビート項(p=1,2,3,4)より構成される例を示したが、相互ビート項の数はこれに限らない。しかしながら、4個より多数の相互ビート項を用いる場合、計算複雑性が増加する一方、BERの低減について大きな効果はない。
【0067】
本実施の形態では、3次項y(m)が相互ビート項を含まない例を示した。これは、3次項y(m)が相互ビート項を含む場合には、計算複雑性が著しく増加するからである。
【0068】
本実施の形態に係る波形等化器10によれば、PAM信号の非線形歪みを補償するための非線形処理の計算複雑性を抑制でき、簡素化できる。
【0069】
<第2の実施の形態>
本発明の第2の実施の形態について図4を参照して説明する。
【0070】
<光通信システムの構成>
図4に、本実施の形態に係る受信機および光通信システムの構成を示す。光通信システム20において、光送信機21が光信号を生成し、光伝送路22に伝送する。本発明では、強度変調(intensity-modulated、IM)PAM信号と光チャネルに相当する光信号は、標準型単一モード光ファイバ(SSMF:Standard Single Mode Fiber)を10kmまでの範囲で伝送する。10kmは、短距離インターコネクトとデータセンタネットワークでの通常の距離である。伝送の末端で、信号は光受信機23によって検知される。ここで、直接検波に基づくものを想定する。
【0071】
受信機23において、第1の実施の形態に係る波形等化器10を用いる。入力光信号は、直接検波部231で電気波形に変換される。次に、信号はアナログデジタル変換部232によってサンプリングされ、時間回復部233に入力される。次に、時間回復部233からの出力信号は、波形等化器10に入力する。波形等化器10における等化過程において、信号は1サンプル/シンボルにダウンサンプリングされ、データはデータ回復部234によって回復する。データ回復部234は、PAM信号のシンボルの復調も行う。
【0072】
本実施の形態に係る受信機および光通信システムによれば、後述の第1の実施例に示すように、PAM信号の非線形歪みを補償するための非線形処理の計算複雑性を抑制でき、簡素化できるとともに、BER特性を向上させ信号品質を向上できる。
【0073】
<第1の実施例>
本発明の第1の実施例について図5図7を参照して説明する。
<第1の実施例>
本実施例は、本発明に係る波形等化器、受信機および光通信システムの効果を実証するための一例である。図5に、本実施例で用いる実験系30を示す。
【0074】
送信側では、4台のパルスパターン生成器301が、4個の独立するデータストリームを生成する。これらのデータストリームは、1/Ts=64GBaud(ギガボー)のNRZ(non-return to zero)により構成される。
【0075】
次に、PAM4-MUX(multiplexer)302が用いられ、256-Gbit/s(128-GBaud)のPAMシンボルを生成する。図5中挿入図(a)に、このPAM4信号のアイパターンを示す。22dBゲインの60GHzバンド幅の線形RF増幅器303と、バイアスティー304と、RFプローブ305とを用いて、直接変調レーザ(DML)306を27.2mA直流バイアス電流、1.6Vp-p変調電圧で駆動する。
【0076】
DML306は、SiC基板上のIII-V族化合物半導体のメンブレンレーザであり、25℃のステージ制御温度で、108GHzまでの3dBバンド幅と27mAでのファイバ結合出力で動作する(N. Kaneda, et al., "Nonlinear Equalizer for 112-Gb/s SSB-PAM4 in 80-km Dispersion Uncompensated Link", Optical Society of America, Optical Fiber Communications Conference and Exhibition, pp. 19-23, 2017.)。この動作条件でのファイバ結合出力は-2dBmであり、発振波長は1286nm程度である。信号は、レンズファイバを用いて、2km標準型単一モード光ファイバ(SSMF)307に結合される。SSMFのO帯での損失係数は0.34~0.4dB/kmであり、色分散係数は波長1286nm程度で-2.4ps/km/nmである。
【0077】
光検出には、O帯で67GHzより大きいバンド幅を有するUTC-PDモジュール310を用いる。UTC-PDモジュール310の前段での受光パワー(received optical power、ROP)は、Prドープファイバ増幅器(praseodymium-doped fiber amplifier、PDFA)308と可変光減衰器(variable optical attenuator、VOA)309により制御される。ROPは、20dBカプラを介してパワーメータ(PM)311で測定される。UTC-PDモジュール310により受光された信号は、110GHzのデジタルサンプリングオシロスコープ(digital sampling oscilloscope、DSO)312を用いてオフライン処理で256 GSa/sで記憶される。
【0078】
受信機のデジタル信号処理DSP313では、初めに、再サンプリング(314)と時間回復(315)が実行される。次に、本発明の実施の形態に係る波形等化器10によるNLE(316)が、101個の線形項と61個の2次項と3次項の非線形項の入力タップを用いて、2SpS(samples per symbol)で実行される。ここで、タップの数は、ボー速度(Baud rate)とともに増加する。本実施例の計算複雑性は式(11)-(14)により計算され、実際の乗算数として874が得られる。図5中挿入図(b)、(c)それぞれにNLE(316)前後でのPAM4信号のアイパターンを示す。
【0079】
NLEにおいて、信号は1SpSでダウンサンプリングされる。また、NLEは、判定指向型LMS(decision-directed LMS)アルゴリズムによりトレーニングされ適応される。最後に、ビットエラーを測定して、BERを評価する(317)。
【0080】
図6図7それぞれに、光BTB(back-to-back)伝送と2km伝送における異なる方法の等化処理によるBER結果を示す。
【0081】
BTB伝送と2km伝送において、全てのROPで、BER特性はどの非線形等化処理(NLE)を用いても、線形等化(LinEQ)の場合に比べて改善される。2次、3次の非線形多項式による等化処理(PolyEQ-2、PolyEQ-3)を用いると、BERは、7%のオーバーヘッドが付与されたHD-FEC(Hard Decision-Forward Error Correction)のしきい値以上の値を示す。
【0082】
一方、4つの2次のヴォルテラ相互ビート項を含む処理(prunVNLE-2および本実施に形態における非線形等化処理)によって、HD-FECしきい値は、BTB伝送と2km伝送ともに達成される。
【0083】
本実施例における、多項式の3次項を含むNLEは、多項式の3次項を含まないNLEに比べて、パワーマージンをBTB伝送において0.76程度、2km伝送において0.35dB程度改善する。ここで、すべての場合で、2km伝送は、ファイバの負の分散によって、BTB伝送に比べて若干良好なBERの値を示すと考えられる。
【0084】
本実施例に示すように、第2の実施の形態に係る受信機および光通信システムによれば、PAM信号の非線形歪みを補償するための非線形処理の計算複雑性を抑制でき、簡素化できるとともに、BER特性を向上させ信号品質を向上できる。
【0085】
換言すれば、本発明に係る波形等化器を受信機、光通信システムに適用すれば、非線形処理の計算複雑性を抑制でき、簡素化できるとともに、BER特性を向上させ信号品質を向上できる。
【0086】
<第2の実施例>
本発明の第2の実施例に係る光通信システムにおける受信機は、第2の実施の形態に係る光通信システムにおける受信機と略同様である。
【0087】
本実施例に係る光通信システムにおける受信機43は、第1の実施の形態に係る波形等化器10を用い、図8に示すように、直接検波部431と、アナログデジタル変換部432と、波形等化器10と、データ回復部433とを備える。受信機43において、データ回復部433が、第2の実施の形態におけるNLE後に実行される高精度の時間回復アルゴリズムを含む。
【0088】
図9に、本発明の実施の形態に係る波形等化器におけるコンピュータの構成例を示す。波形等化器10は、CPU(Central Processing Unit)53、記憶装置(記憶部)52およびインタフェース装置51を備えたコンピュータ50と、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。CPU53は、記憶装置(記憶部)52に格納された波形等化プログラムに従って本発明の実施の形態における処理を実行する。このように、波形等化プログラムは波形等化器を機能させる。
【0089】
本発明の実施の形態における記憶装置(記憶部)では、コンピュータを装置内部に備えてもよいし、コンピュータの機能の少なくとも1部を、外部コンピュータを用いて実現してもよい。また、記憶部も装置外部の記憶媒体54を用いてもよく、記憶媒体54に格納された信号生成プログラムを読み出して実行してもよい。記憶媒体54には、各種磁気記録媒体、光磁気記録媒体、CD-ROM、CD-R、各種メモリを含む。また、信号生成プログラムはインターネットなどの通信回線を介してコンピュータに供給されてもよい。
【0090】
本発明の実施の形態では、波形等化器の構成、製造方法などにおいて、各構成部の構造、寸法、材料等の一例を示したが、これに限らない。波形等化器の機能を発揮し効果を奏するものであればよい。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明は、光通信システムや、光通信システムにおける受信機、波形等化器などのデバイス等に適用することができる。
【符号の説明】
【0092】
10 波形等化器
111 遅延タップ
112 1次のサブフィルタ
113 2次のサブフィルタ
114 3次のサブフィルタ
115 合算部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
【国際調査報告】